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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】高圧タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20241029BHJP
   F17C 1/16 20060101ALI20241029BHJP
   F17C 1/14 20060101ALI20241029BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20241029BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
F17C1/06
F17C1/16
F17C1/14
F16J12/00 A
H01M8/04 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021084197
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177745
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 学
【審査官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-152017(JP,A)
【文献】特開2020-169655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0230422(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108167649(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F17C 1/16
F17C 1/14
F16J 12/00
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと該ライナの外表面に形成された補強層とを有する高圧タンクであって、
前記ライナは、円筒状で且つ軸方向に沿って移行するにしたがって漸次拡径する胴体部と、該胴体部の小径側端部を閉塞する半球状の第1ドーム部と、前記胴体部の大径側端部を閉塞する半球状の第2ドーム部とを有し、
前記補強層は、強化繊維をフープ巻きにして形成されたフープ層と、前記強化繊維をヘリカル巻きにして形成されたヘリカル層と、を有し、前記フープ層は、前記第1ドーム部側よりも前記第2ドーム部側の方が厚いことを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
前記フープ層の厚みは、前記胴体部の外径に比例して大きくなることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記高圧タンクの内部と外部との間を連通する口金が前記第1ドーム部に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項4】
前記口金は、前記補強層を貫通する軸部と、該軸部から拡径されて前記第1ドーム部の外壁面に当接するフランジ部と、を有することを特徴とする請求項3に記載の高圧タンク。
【請求項5】
前記口金の軸部よりも小さい直径を有するエンドボスが前記第2ドーム部に取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載の高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライナとライナの外表面に形成された補強層とを有する高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の高圧タンクとして、一定の外径で形成された円筒状の胴体部と胴体部の軸方向の両端に設けられたドーム部とを有するライナと、強化繊維をフープ巻きにして形成されたフープ層と、強化繊維をヘリカル巻きにして形成されたヘリカル層とを備えたものが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-169656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関およびトランスミッションを搭載した後輪駆動の車両構造を、そのまま燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の車両構造に採用した場合、トランスミッションが設置されていたフロアトンネル内に特許文献1に記載の高圧タンクを設置すると、高圧タンクの直径を比較的に大きくすることができるため合理的である。しかしながら、フロアトンネル内の空間は、運転席に着座した運転者から見て前方のスペースが大きく、後方に移行するにしたがいスペースが漸次小さくなるテーパ形状で形成されている。この空間内に特許文献1に記載の高圧タンクを設置するとフロアトンネルの前方に空きスペースが発生し、活用できない空間ができてしまうという問題がある。一方、フロアトンネル内の空間を有効に活用するために高圧タンクを軸方向に沿って移行するにしたがって漸次拡径するテーパ形状にした場合には、高圧タンクの機械的強度を確保する必要がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、車両のフロアトンネルなどの搭載スペースが小径から大径に漸次拡径するスペースの全体を有効に活用することができるとともに、機械的強度を確保することができる高圧タンクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る高圧タンクは、ライナと該ライナの外表面に形成された補強層とを有する高圧タンクであって、前記ライナは、円筒状で且つ軸方向に沿って移行するにしたがって漸次拡径する胴体部と、該胴体部の小径側端部を閉塞する半球状の第1ドーム部と、前記胴体部の大径側端部を閉塞する半球状の第2ドーム部とを有し、前記補強層は、強化繊維をフープ巻きにして形成されたフープ層と、前記強化繊維をヘリカル巻きにして形成されたヘリカル層と、を有し、前記フープ層は、前記第1ドーム部側よりも前記第2ドーム部側の方が厚いことを特徴とする。この構成により、高圧タンクは、胴体部が漸次拡径されているので、内燃機関およびトランスミッションを搭載した後輪駆動の車両構造で構成されている燃料電池自動車のフロアトンネル内のスペースに合わせて設置することができ、スペースの全体が有効活用される。また、フープ層は、第1ドーム部側よりも第2ドーム部側の方が厚く形成されているので、胴体部の大径側の機械的強度が確保される。
【0007】
(2)本発明に係る高圧タンクにおいて、前記フープ層の厚みは、前記胴体部の外径に比例して大きくなることを特徴とする。この構成により、胴体部の小径側端部から大径側端部まで均一な機械的強度が確保される。
【0008】
(3)本発明に係る高圧タンクにおいて、前記高圧タンクの内部と外部との間を連通する口金が前記第1ドーム部に取り付けられていることを特徴とする。この構成により、ヘリカル巻きにより形成された第1ドーム部の機械的強度が確保される。即ち、ヘリカル巻きの巻きターン数は大径側の機械的強度を確保するように決定されるので、大面積を有する第2ドーム部のヘリカル層の厚みよりも小面積の第1ドーム部のヘリカル層の厚みが厚く形成される。その結果、第1ドーム部は、第2ドーム部の機械的強度よりも高い機械的強度を有する。口金の装着部分は高い機械的強度が求められるが、口金は、より高い機械的強度を有する第1ドーム部に取り付けられる。
【0009】
(4)本発明に係る高圧タンクにおいて、前記口金は、前記補強層を貫通する軸部と、該軸部から拡径されて前記第1ドーム部の外壁面に当接するフランジ部と、を有することを特徴とする。この構成により、口金は、フランジ部を介して密着して第1ドーム部に装着される。
【0010】
(5)本発明に係る高圧タンクにおいて、前記口金の軸部よりも小さい直径を有するエンドボスが前記第2ドーム部に取り付けられていることを特徴とする。この構成により、結果的に第2ドーム部の機械的強度が確保される。即ち、エンドボスは、フィラメントワインディング装置にライナをセットする際に、ライナの一端をチャックする機能を有するだけであり、口金と比較して、高い機械的強度は要求されない。また、エンドボスの軸部は、ガスを流通させる機能は必要がなく、ライナを貫通して第2ドーム部に取り付ける必要がないので、軸部の直径が比較的に小さくても良い。エンドボスの軸部を口金の軸部よりも小さい直径にすることで、エンドボスによる第2ドーム部の補強層への負荷が小さくなり、第1ドーム部よりも低い機械的強度を有する第2ドーム部にエンドボスを取り付けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両のフロアトンネルなどの搭載スペースが小径から大径に漸次拡径するスペースの全体を有効に活用することができるとともに、機械的強度を確保することができる高圧タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの図であり、図1(a)は、フロアトンネルに設置された高圧タンクの側面図を示し、図1(b)は、中心軸線に直交する方向で切断した高圧タンクの断面図を示す。
図2】本発明の実施形態に係る高圧タンクの図であり、図1(b)のA-Aで切断した断面図を示す。
図3】本発明の実施形態に係る高圧タンクの口金の図であり、図3(a)は、側面図を示し、図3(b)は、Bから見た正面図を示し、図3(c)は、図3(b)のC-Cで切断した断面図を示す。
図4】本発明の実施形態に係る高圧タンクのエンドボスの図であり、図4(a)は、側面図を示し、図4(b)は、Dから見た正面図を示し、図4(c)は、図4(b)のE-Eで切断した断面図を示す。
図5】本発明の実施形態に係る高圧タンクの強化繊維の巻き方を説明する図であり、図5(a)は、フープ巻きの模式図を示し、図5(b)は、ヘリカル巻きの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る高圧タンクを適用した実施形態に係る高圧タンク10について図面を参照して説明する。
実施形態に係る高圧タンク10は、図1(a)および図1(b)に示すように、ライナ11と、口金12と、エンドボス13と、補強層14とを有している。高圧タンク10は、気体を透過させ難い性質、いわゆるガスバリア性を有しており、内部には水素などの高圧のガスが供給されるように構成されている。
【0014】
高圧タンク10は、燃料電池自動車の運転席の左右方向の中央部に形成されているフロアトンネル内に設置される。この燃料自動車は、内燃機関およびトランスミッションを搭載した後輪駆動の車両構造、つまり、内燃機関を有する車両の車両構造を、そのまま燃料自動車用として用いたものである。フロアトンネルは、内燃機関を有する車両ではトランスミッションが設置されるスペースであり、一点鎖線で示すフロアトンネル上面ラインの下部に形成されている。このスペースは、前方が大径であり、後方に行くに従い小径となるテーパ形状を有している。
【0015】
ライナ11は、図1(b)および図2に示すように、円筒状の中空容器からなり、軸方向に沿って移行するにしたがって小径から大径に漸次拡径する胴体部21と、第1ドーム部22と、第2ドーム部23とを有している。ライナ11は、例えば、ポリエチレン、ポリアミド樹脂(PA)、ナイロン等の高い機械的強度を有するエンジニアリングプラスチックからなり、回転成形法やブロー成形法によって一体的に形成されている。
【0016】
なお、ライナ11は、エンジニアリングプラスチックに代えてアルミニウム等の軽金属によって形成されても良い。また、ライナ11は、回転成形法やブロー成形法のような一体成形の製造方法に代えて、ライナ11を2分割し、別々に射出成形、押出成形等により成形したものを、例えば、赤外線溶着、レーザ溶着、熱板溶着、振動溶着、あるいは超音波溶着等の接合方法で接合することにより形成されても良い。
【0017】
第1ドーム部22は、図1(a)および図2に示すように、半球状に形成され、胴体部21の小径側端部を閉塞している。第1ドーム部22は、口金装着部31を有しており、後述するように、第2ドーム部23よりも高い機械的強度を有する。高い機械的強度を有する口金装着部31に口金12が装着される。口金装着部31にはガスを流通させる貫通孔32が形成されている。第2ドーム部23は、第1ドーム部22と同様、半球状に形成され、胴体部21の大径側端部を閉塞している。第2ドーム部23は、エンドボス装着部33を有しており、エンドボス装着部33にはエンドボス13が装着される。
【0018】
口金12は、図2図3(a)、図3(b)および図3(c)に示すように、軸部41と、フランジ部42とを有しており、軸部41およびフランジ部42は金属材料で一体的に形成されている。軸部41およびフランジ部42には、軸方向に貫通する貫通孔43が形成されている。貫通孔43は口金装着部31の貫通孔32に連続しており、口金装着部31の貫通孔32を介して、高圧タンク10の内部と外部との間でガスが流通する。
【0019】
口金12には、シャットバルブなどの図示しない弁が装着され、弁により貫通孔43および貫通孔32が連通状態または非連通状態となる。弁は、高圧タンク10内部に高圧のガスを供給する際に開状態となり、ガスの供給が終了すると閉状態となる。また、弁は、必要に応じて、開状態となり、内部に充填されている高圧のガスが弁を介して外部に供給される。
【0020】
軸部41は、直径D1で円筒状に形成され、補強層14を貫通し第1ドーム部22の軸方向の外側に突出している。フランジ部42は、軸部41から径方向に突出して円盤状に形成されており、第1ドーム部22の口金装着部31の外壁面に当接して第1ドーム部22に装着されている。
【0021】
エンドボス13は、図2図4(a)、図4(b)および図4(c)に示すように、軸部51と、フランジ部52とを有しており、軸部51およびフランジ部52は金属材料で一体的に形成されている。
【0022】
軸部51は、口金12の軸部41の直径D1よりも小さい直径D2で円柱状に形成され、補強層14を貫通し第2ドーム部23の軸方向の外側に突出している。フランジ部52は、軸部51から径方向に突出して円盤状に形成されており、第2ドーム部23のエンドボス装着部33に当接して、例えば接着により第2ドーム部23に装着されている。
【0023】
エンドボス13は、フィラメントワインディング装置にライナ11をセットする際に、ライナ11の一端をチャックする機能を有しており、口金12と比較して、高い機械的強度は要求されない。したがって、軸部51は、口金12の軸部41の直径D1よりも小さい直径D2で形成されている。また、軸部51は、ガスを流通させる必要がないので、軸部51を貫通する貫通孔を必要とされない。エンドボス13は、フランジ部52が、第2ドーム部23のエンドボス装着部33の外壁面に密着して装着されている。
【0024】
口金12は、燃料の充填放出口としての穴が中心に設けられ、その穴に弁が装着されるボスを有している。ライナ11において、口金12とは反対側の箇所には、エンドボス13が配置されている。エンドボス13は、その中心部に、フィラメントワインディング(Filament Winding)時の軸支持の為のボスを有している。口金12の首部周囲における補強層14の穴径は、通常、エンドボス13の周囲における補強層14の穴径より大きい。したがって、口金12のフランジ部42と補強層14との接触面に発生する面圧は、エンドボス13のフランジ部52と補強層14との接触面に発生する面圧よりも大きい。穴面積比に応じたフランジ接触面積を確保することによって口金12側の面圧を小さくすることは可能であるが、口金12のフランジ径が大きくなり、コストの増大等の問題がある為、実用的ではない。上記が前提となって、補強層14の肉厚の大きい第1ドーム部22に口金12を設置するのが合理的である。
【0025】
補強層14は、図1(b)、図2図5(a)および図5(b)に示すように、強化繊維Fをフープ巻きにしてライナ11の外表面に形成されたフープ層61と、強化繊維Fをヘリカル巻きにしてライナ11の外表面に形成されたヘリカル層62とを有している。フープ層61およびヘリカル層62は、例えば、フィラメントワインディング法(Filament Winding Process)による図示しないフィラメントワインディング装置により形成される。
【0026】
強化繊維Fは、例えば直径が数μm程度の単繊維を束ねて構成された繊維束に、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させることにより形成されている。強化繊維Fとして、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)が挙げられる。
【0027】
単繊維として、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維(poly p- phenylene benzobisoxazole繊維)、天然繊維、または高強度ポリエチレン繊維、などの繊維を挙げることができる。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂に代表される変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などの樹脂を挙げることができる。
【0028】
フープ巻きは、図5(a)に示すように、ライナ11の中心軸線Lと略垂直な巻き角度で、胴体部21の周方向に巻き付ける巻き方である。フープ巻きによりフープ層61が胴体部に形成される。ここで、「略垂直」とは、90°と、強化繊維F同士が重ならないように強化繊維Fの巻き付け位置をずらすことによって生じ得る90°前後の角度との両方を含む。
【0029】
フープ巻きは、径方向強度を得るための強化繊維Fの巻き付け方であり、図2に示すように、高圧タンク10の胴体部21に作用する内圧P(MPa)によって周方向に生ずる応力σθ(MPa)に対する機械的強度を得る巻き方である。胴体部21の一端T1におけるフープ層61の厚みをta1とし、胴体部21の他端T2におけるフープ層61の厚みをta2とし、一端T1から他端T2までの任意の距離をx(mm)とし、距離xにおける胴体部21の外径をDx(mm)とすると、外径Dxにおけるフープ層61の厚みtaxは、外径Dxと1次比例の関係にある。
【0030】
即ち、外径Dxにおけるフープ層61の厚みtaxおよび外径Dxは、tax=kDxの関係にあり、外径Dxが大きくなる程、厚みtaxは大きくなっている。なお、定数kは、正の値であり、実施形態に係る高圧タンク10の大きさ、材質、形状などの設定諸元や実験値などのデータに基づいて適宜選択される。
【0031】
フープ巻きは、フィラメントワインディング装置により強化繊維Fを巻回する際に、ライナ11の回転速度(rpm)を一定とすると、以下の方法によりtax=kDxを満たすようにフープ層61を形成することができる。即ち、炭素繊維強化プラスチックなどの強化繊維Fを供給するアイクチAKにおける図5(a)に示す送り出し端OTの軸方向の位置移動速度(mm/s)を小径側では速く、大径側では遅くすることにより、tax=kDxを満たすように大径側のフープ層61を厚く形成することができる
【0032】
ヘリカル巻きは、軸方向強度を得るための強化繊維Fの巻き付け方であり、胴体部21に形成されたフープ層61と、第1ドーム部22および第2ドーム部23の外表面を包むように、ライナ11を全体的に覆う巻き方である。ヘリカル巻きによって形成されたヘリカル層62により、高圧タンク10の胴体部21に作用する内圧P(MPa)でライナ11の軸方向に生ずる応力σz(MPa)に対する機械的強度が得られる。
【0033】
ヘリカル巻きにより、図5(b)に示すように、ライナ11の中心軸線Lと0°より大きく90°未満の巻き角度で、強化繊維Fがフープ層61および第1ドーム部22および第2ドーム部23の外表面に巻き付けられてヘリカル層62が形成される。ライナ11の胴体部21がテーパ形状を有しており、第1ドーム部22よりも第2ドーム部23の方が大径となる形状を有しているので、ヘリカル層62の厚みは、軸方向に沿って小径側に移行するにしたがって漸次厚くなるように形成される。つまり、ヘリカル層62は、図2に示すように、胴体部21の一端T1で厚みtb1、胴体部21の他端T2で厚みtb1よりも厚い厚みtb2で形成される。なお、ヘリカル層62を形成する強化繊維Fは、フープ層61と異なった繊維や含浸樹脂を用いても良い。
【0034】
ヘリカル巻きは、ライナ11の全周に亘り順に巻回される巻き方、いわゆる一筆書きが行われるように順を追って強化繊維Fが巻回される巻き方であり、大径側と小径側とではその巻きターン数は同一となる。ヘリカル巻は、巻きターン数が多い程、機械的強度が高まるが、小径の第1ドーム部22と大径の第2ドーム部23を有するライナ11の場合、その巻きターン数は、ライナ11の大径側を基準に決定され、つまり、ライナ11の大径側の機械的強度を確保するように決定される。したがって、小径側では必要強度以上の肉厚となり、図2に示すように、大面積を有する第2ドーム部23のヘリカル層62の厚みよりも小面積の第1ドーム部22のヘリカル層62の厚みが厚くなる。その結果、第1ドーム部22は、第2ドーム部23の機械的強度よりも高い余剰強度を有する。この余剰強度を利用すべく、本実施形態では口金12を小径の第1ドーム部22に設置している。
【0035】
口金12の軸部41が貫通するヘリカル層62の貫通孔の内壁周辺、いわゆるフランジドーナツエリアに作用する内圧Pの分力は、貫通孔の内壁からヘリカル層62に伝達される。この内圧Pの分力は、内圧Pがヘリカル層62に作用する力に加えて付加的に作用するので、フランジドーナツエリアに当接するヘリカル層62は、フランジドーナツエリア以外の他のエリアに比べて高い機械的強度が求められる。即ち、フランジドーナツエリアのヘリカル層62は、変形し易く応力の集中が発生するので口金12の軸部41の周囲のヘリカル層62は、より高い機械的強度が必要となる。口金12は、第2ドーム部よりもヘリカル層62の機械的強度がより高く、余剰強度を有している第1ドーム部22に設置されている。
【0036】
口金12のフランジドーナツエリアに対して、エンドボス13の軸部51が貫通するヘリカル層62の貫通孔の内壁周辺のフランジドーナツエリアに作用する内圧Pの分力は、口金12のフランジドーナツエリアと同様、貫通孔の内壁からヘリカル層62に伝達される。この内圧Pの分力は、口金12のフランジドーナツエリアと同様、内圧Pが補強層14に作用する力に加えて付加的に作用するが、ヘリカル層62を貫通する貫通孔の径が小さい程、小さくなる。
【0037】
したがって、第2ドーム部23の機械的強度が、第1ドーム部22の機械的強度よりも小さく形成されていても、エンドボス13の軸部51の直径D2は、口金12の軸部41の直径D1よりも小さく形成されているので、エンドボス13のフランジドーナツエリアに作用する内圧Pの分力も小さくなる。その結果、第2ドーム部23に必要とされる機械的強度は確保されることになる。なお、図2の破線で示す領域は、強度上必要なヘリカル層の厚みを示しているが、第1ドーム部22のヘリカル層62の厚みは、強度上必要なヘリカル層の厚みよりも厚く形成されている。
【0038】
なお、ヘリカル巻きの巻き角度、厚みta1、ta2、tb1、tb2、D1、D2は、実施形態に係る高圧タンク10の大きさ、材質、形状などの設定諸元や実験値などのデータに基づいて適宜選択される。
【0039】
実施形態に係る高圧タンク10の効果について説明する。
(1)実施形態に係る高圧タンク10は、ライナ11と補強層14とを有し、ライナ11は、円筒状で且つ軸方向に沿って移行するにしたがって漸次拡径する胴体部21と、胴体部21の小径側端部を閉塞する半球状の第1ドーム部22と、胴体部21の大径側端部を閉塞する半球状の第2ドーム部23とを有し、補強層14は、強化繊維Fをフープ巻きにして形成されたフープ層61と、強化繊維Fをヘリカル巻きにして形成されたヘリカル層62とを有し、フープ層61は、第1ドーム部22側よりも第2ドーム部23側の方が厚く形成されている。
【0040】
この構成により、高圧タンク10は、胴体部21が漸次拡径されているので、内燃機関およびトランスミッションを搭載した後輪駆動の車両構造で構成されている燃料電池自動車のフロアトンネル内のスペースに合わせて設置することができ、スペースの全体を有効に活用することができるという効果が得られる。従来の真っ直ぐな円筒状の胴体部で形成された、いわゆるオーバルタンクをフロアトンネル内に設置するとオーバルタンクの前方の上部のスペースが空き空間になる。これに対して高圧タンク10は、前方が拡径されているので、前方の上部のスペースが空き空間がなくなり、オーバルタンクと比較して、より多くのガスを貯留することができる。その結果、燃料電池自動車の航続距離を延伸させることができる。また、フープ層61は、第1ドーム部22側よりも第2ドーム部23側の方が厚く形成されているので、胴体部21の大径側の機械的強度を確保することができるという効果が得られる。
【0041】
(2)また、実施形態に係る高圧タンク10は、フープ層61の厚みが、胴体部21の外径に比例して大きく形成されている。この構成により、胴体部21の小径側端部から大径側端部まで均一な機械的強度を確保することができるという効果が得られる。
【0042】
(3)また、高圧タンク10は、高圧タンク10の内部と外部との間を連通する口金12が第1ドーム部22に取り付けられている。この構成により、ヘリカル巻きにより形成された第1ドーム部22の口金装着部31の機械的強度が確保される。即ち、ヘリカル巻きは、いわゆる一筆書きが行われるように順を追って強化繊維Fが巻回される巻き方であり、巻きターン数は大径側の機械的強度を確保するように決定されるので、大面積を有する第2ドーム部23のヘリカル層62の厚みよりも小面積の第1ドーム部22のヘリカル層62の厚みを厚く形成することができる。その結果、第1ドーム部22は、第2ドーム部23の機械的強度よりも高い機械的強度を得ることができる。口金12は補強層14により補強された高い機械的強度を有する第1ドーム部22に取り付けられるので、弁が装着されガスの供給路を開状態または閉状態にするという口金12の機能を有効に果たすことができる。
【0043】
(4)実施形態に係る高圧タンク10において、口金12は、補強層14を貫通する軸部41と、軸部41から拡径されて第1ドーム部22の外壁面に当接するフランジ部42とを有する。この構成により、口金12は、フランジ部42を介して第1ドーム部22の外壁面に密着して装着することができ、軸部41にガスの流路を開状態または閉状態にする弁を装着することができる。
【0044】
(5)実施形態に係る高圧タンク10において、口金12の軸部41よりも小さい直径D2を有するエンドボス13が第2ドーム部23に取り付けられている。この構成により、結果的に第2ドーム部23の機械的強度が確保される。即ち、エンドボス13は、フィラメントワインディング装置にライナ11をセットする際に、ライナ11の一端をチャックする機能を有するだけであり、弁が装着される口金12と比較して、エンドボス13には、高い機械的強度は要求されない。また、軸部51は、ガスを流通させる機能は必要がなく、ライナ11を貫通して第2ドーム部23にエンドボス13を取り付ける必要もないので、軸部51の直径D1が比較的に小さくても良い。エンドボス13の軸部51を口金12の軸部41の直径D1よりも小さい直径D2にすることで、エンドボス13による第2ドーム部23の補強層14への負荷が小さくなり、第1ドーム部22よりも低い機械的強度を有する第2ドーム部23にエンドボス13を取り付けることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0046】
10・・・高圧タンク、11・・・ライナ、12・・・口金、13・・・エンドボス、14・・・補強層、21・・・胴体部、22・・・第1ドーム部、23・・・第2ドーム部、31・・・口金装着部、32,43・・・貫通孔、33・・・エンドボス装着部、41,51・・・軸部、42,52・・・フランジ部、61・・・フープ層、62・・・ヘリカル層、D1・・・口金の軸部の直径、D2・・・エンドボスの軸部の直径、F・・・強化繊維
図1
図2
図3
図4
図5