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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241029BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20241029BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20241029BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20241029BHJP
   B60W 20/12 20160101ALI20241029BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L58/10
B60K6/442 ZHV
B60W10/26 900
B60W20/12
B60W20/13
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021136484
(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公開番号】P2023031029
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 崇志
(72)【発明者】
【氏名】森口 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】日浅 康博
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】卜部 駿介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大士
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-018699(JP,A)
【文献】特開2010-246331(JP,A)
【文献】特開2007-050888(JP,A)
【文献】特開2014-113974(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0065619(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20-6/547
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-60/00
G01C 21/00-21/36
23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両であって、
モータと、
前記モータに電力を供給するとともに、前記モータで発生した回生電力を蓄積する蓄電装置と、
周回路における前記電動車両の走行位置を取得する走行位置取得手段と、
複数の区間に区切られた前記周回路の各区間ごとに、前記モータに供給する供給電力を制限する電力制限手段であって、前記周回路の特定地点における前記蓄電装置の充電率が予め定められた目標充電率になるように前記供給電力を制限する、前記電力制限手段と、
を備え、
前記電力制限手段は、
前記複数の区間ごとに制限設定値を設定する処理と、
前記走行位置取得手段によって取得された前記走行位置に基づいて、前記制限設定値に従って前記供給電力を制限する処理と、
前記特定地点の通過時に測定される充電率である測定充電率と前記目標充電率との差分を算出する処理と、
前記測定充電率が前記目標充電率に近づくように、前記差分に基づいて前記制限設定値を補正する処理と、
を実行可能に構成されている、電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動車両では、周回路の走行時におけるエネルギマネジメント技術が開示されている。具体的には、モータに供給される電力を制限する設定値を、走行区間ごとに予め設定する。設定値に基づいてモータが制御されることで、各周回毎の充放電収支が釣り合うようにエネルギマネジメントが行われる。これにより、モータからトルクを出力させる必然性が高い箇所で、より多くの電力をモータに供給できるため、タイムの最適化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-18699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行時における実際の電力の回生量や消費量が、モータへの供給電力を制限する設定値に対してばらつく場合がある。すると、各周回毎の充放電収支が釣り合わなくなり、エネルギマネジメントが困難となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、電動車両に具現化される。電動車両は、モータを備える。電動車両は、モータに電力を供給するとともに、モータで発生した回生電力を蓄積する蓄電装置を備える。電動車両は、周回路における電動車両の走行位置を取得する走行位置取得手段を備える。電動車両は、複数の区間に区切られた周回路の各区間ごとに、モータに供給する供給電力を制限する電力制限手段を備える。電力制限手段は、周回路の特定地点における蓄電装置の充電率が予め定められた目標充電率になるように供給電力を制限する。電力制限手段は、複数の区間ごとに制限設定値を設定する処理と、走行位置取得手段によって取得された走行位置に基づいて、制限設定値に従って供給電力を制限する処理と、特定地点の通過時に測定される充電率である測定充電率と目標充電率との差分を算出する処理と、測定充電率が目標充電率に近づくように、差分に基づいて制限設定値を補正する処理と、を実行可能に構成されている。
【0006】
上記の構成によると、測定充電率と目標充電率との差分を算出することで、実際の充放電量が制限設定値に対して有するばらつきを算出することができる。そして、測定充電率が目標充電率に近づくように制限設定値に補正を行うことで、当該ばらつきを抑制できるため、各周回毎の充放電収支を釣り合わせることが可能となる。タイムの最適化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例のハイブリッド車10の構成の模式図である。
図2】電力制限手段により実施されるエネルギマネジメントの動作フロー図である。
図3】周回路の例を示す図である。
図4】放電電力量、充電率、上限設定値などの関係を示すグラフの第1の例である。
図5】放電電力量、充電率、上限設定値などの関係を示すグラフの第2の例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(ハイブリッド車10の構成)
図1を参照して、実施例のハイブリッド車10について説明する。本実施例のハイブリッド車10は、電動車に属するものであり、典型的には路面を走行する電動車(いわゆる自動車)である。但し、本実施例で説明する技術の一部又は全部は、例えば軌道を走行する電動車にも同様に採用することができる。ハイブリッド車10は、車体12と、車体12の前部に設けられた一対の前輪14と、車体12の後部に設けられた一対の後輪16とを備える。なお、車体12の具体的な構成や、ハイブリッド車10が備える車輪の数は特に限定されない。また、ハイブリッド車10は、ユーザによって運転操作されるものに限られず、外部装置によって遠隔操作されるものや、自律走行するものであってもよい。
【0009】
ハイブリッド車10はさらに、エンジン18と、第1モータジェネレータ(以下、「第1モータ」と称する)20と、クラッチ22と、変速機24と、第1動力伝達経路26とを備える。エンジン18は、第1動力伝達経路26を介して、一対の後輪16接続されている。エンジン18は、燃料を燃焼して動力を発生する内燃機関であり、特に限定されないが、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、水素エンジン等が挙げられる。
【0010】
第1モータ20は、第1動力伝達経路26に設けられている。第1モータ20は、エンジン18と後輪16との間に位置しており、エンジン18と共に後輪16を駆動する原動機として機能する。また、第1モータ20は、原動機としてだけでなく、発電機としても機能することができる。即ち、ハイブリッド車10は、エンジン18によって第1モータ20を駆動することで、第1モータ20による発電を行うことができる。あるいは、ハイブリッド車10は、減速する必要があるときに、第1モータ20を発電機として機能させることで、一対の後輪16の回生制動を行うことができる。
【0011】
クラッチ22は、第1動力伝達経路26に設けられている。クラッチ22は、エンジン18及び第1モータ20と、一対の後輪16との間に位置している。クラッチ22は、第1動力伝達経路26を機械的に接続及び切断することによって、エンジン18及び第1モータ20と後輪16との間の動力伝達を接続及び遮断することができる。このような構成によると、ハイブリッド車10は、エンジン18を一対の後輪16から機械的に切り離した状態で、エンジン18によって第1モータ20を駆動することにより、第1モータ20による発電を行うことができる。即ち、ハイブリッド車10は、その速度にかかわらず、第1モータ20による発電を行うことができる。
【0012】
変速機24は、第1動力伝達経路26に設けられている。変速機24は、クラッチ22と一対の後輪16との間に位置している。変速機24は、クラッチ22から入力される回転運動を、選択された変速段に応じた変速比で変速して、一対の後輪16へ出力する。変速機24の出力する回転運動(即ち、トルク)は、図示しないデファレンシャルギヤを介して、一対の後輪16へ分配される。
【0013】
ハイブリッド車10はさらに、第2モータジェネレータ(以下、「第2モータ」と称する)30を備える。第2モータ30は、第2動力伝達経路32を介して、一対の前輪14に接続されており、一対の前輪14を駆動する原動機として機能する。第2動力伝達経路32には、デファレンシャルギヤ34が設けられており、第2モータ30が出力する回転運動(即ち、トルク)は、デファレンシャルギヤ34を介して、一対の前輪14に分配される。また、第2モータ30は、原動機だけでなく、前輪14を回生制動するための発電機としても機能することができる。即ち、ハイブリッド車10は、減速する必要があるときに、第2モータ30を発電機として機能させることで、前輪14の回生制動を行うことができる。図示省略するが、第2動力伝達経路32には、必要に応じて減速機やクラッチが設けられてもよい。
【0014】
ハイブリッド車10は、さらに、バッテリ40と、第1パワーコントロールユニット(以下、「第1PCU」と称する)36と、第2パワーコントロールユニット(以下、「第2PCU」と称する)38とを備える。バッテリ40は、第1モータ20及び第2モータ30のための電源装置である。バッテリ40は、複数の二次電池セルを有しており、繰り返し充放電可能に構成されている。ここでいう二次電池セルは、特に限定されないが、例えばリチウムイオン電池セル又はニッケル水素電池セルであってよい。
【0015】
第1PCU36は、電力変換装置であって、バッテリ40と第1モータ20との間に介在する。即ち、バッテリ40は、第1PCU36を介して、第1モータ20に接続されている。第1モータ20が原動機として機能する場合、第1PCU36は、バッテリ40から出力される直流電力を三相交流電力に変換して、第1モータ20へ供給する。一方、第1モータ20が発電機として機能する場合、第1PCU36は、第1モータ20から出力される三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ40へ供給する。これにより、バッテリ40は、第1モータ20で発電された電力によって充電される。
【0016】
第1PCU36の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における第1PCU36は、バッテリ40に接続された電圧コンバータと、その電圧コンバータと第1モータ20との間に位置するインバータと、それらの動作を制御するパワーコントローラとを備える。電圧コンバータは、直流電力を昇圧及び降圧可能に構成されており、インバータは、直流電力と交流電力との間で電力変換可能に構成されている。
【0017】
第2PCU38は、同じく電力変換装置であって、バッテリ40と第2モータ30との間に介在する。即ち、バッテリ40は、第2PCU38を介して、第2モータ30に接続されている。第2モータ30が原動機として機能する場合、第2PCU38は、バッテリ40から出力される直流電力を三相交流電力に変換して、第2モータ30へ供給する。一方、第2モータ30が発電機として機能する場合、第2PCU38は、第2モータ30から出力される三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ40へ供給する。これにより、バッテリ40は、第2モータ30で発電された電力によって充電される。第2PCU38の具体的な構成についても特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における第2PCU38は、第1PCU36と同様に、電圧コンバータとインバータとパワーコントローラとを備える。
【0018】
(制御装置50の構成および機能)
ハイブリッド車10はさらに、制御装置50を備える。制御装置50は、コンピュータ装置を用いて構成されており、各種の制御プログラムを記憶するメモリ51、それらの制御プログラムを実行するプロセッサ52、ハイブリッド車10の走行位置を取得する走行位置取得部53、等を有する。制御装置50は、エンジン18、第1PCU36、第2PCU38、クラッチ22、及び、変速機24と電気的に接続されており、これらの動作を制御可能に構成されている。制御装置50には、例えば、ユーザによる操作情報や、ハイブリッド車10の状態を示す車両情報が入力される。操作情報とは、例えば、ユーザによるアクセルペダルの操作量を示すアクセル開度情報や、ユーザによるブレーキペダルの操作量を示すブレーキ踏力情報である。車両情報とは、例えば、ハイブリッド車10の速度を示す車速情報や、バッテリ40の充電率(SOC:State of Charge)を示すバッテリ情報である。制御装置50は、入力された操作情報や車両情報に応じて、上述したハイブリッド車10の各部の動作を制御する。換言すると、バッテリ40、第1モータ20、第2モータ30を含んだ動力システムにおける、放出可能エネルギ残量、放出エネルギ、回収エネルギなどの入出力を精度よく管理可能なシステムが、制御装置50によって実現されている。
【0019】
メモリ51は、例えばEEPROMを備えている。メモリ51は、各種のプログラム(例:エネルギマネジメントプログラム)や、各種のデータ(例:周回路CCのコース図、区間、上限設定値US、目標充電率Tsoc、など)を記憶する。
【0020】
走行位置取得部53は、ハイブリッド車10の現在の車両位置を特定可能な装置である。走行位置取得部53は、例えばGPSを備えていてもよい。または、特定地点SPからの走行距離や不図示の加速度センサで測定される加速度によって、周回路上の車両位置を特定するものであってもよい。
【0021】
メモリ51に格納されたエネルギマネジメントプログラムをプロセッサ52が実行するとき、制御装置50は、第1モータ20および第2モータ30に供給する供給電力を制限する電力制限手段として機能する。電力制限手段は、より速く安定したタイムで周回路を走行するために、各周回毎のバッテリ40の充放電収支が釣り合うようにエネルギマネジメントを行う手段である。放電の原資となるエネルギは走行中のブレーキ回生やエンジン余力の発電によって賄われるが、高負荷走行割合の高いサーキット走行においては、ドライバ要求分の駆動力要求をすべて満たすだけの放電原資を確保することは困難である。従って、電力制限手段により放電を適切に制限することで、充放電収支を釣り合わせることができる。
【0022】
本実施例では、電力制限手段は、周回路の特定地点SPにおけるバッテリ40の充電率が、予め定められた目標充電率Tsocになるように供給電力を制限する。これにより、充放電収支を釣り合わせることができる。電力制限手段のさらなる具体的な動作については、後述する。
【0023】
(電力制限手段の動作内容)
図2を用いて、電力制限手段により実施されるエネルギマネジメントの動作フローについて説明する。図2のフローは、例えば、ハイブリッド車10の電源が投入されることに応じて開始される。
【0024】
ステップS10において制御装置50は、周回路を所定の区間に区切る。この処理は、制御装置50の内部で行われてもよいし、ハイブリッド車10の外部のコンピュータ等で行われてもよい。区間の区切り方は様々であって良い。例えば、コーナごとに区切ってもよいし、所定の距離ごとに区切ってもよい。また、区切られた区間をメモリ51に記憶してもよい。これにより、次回以降において、ステップS10の処理を省略することが可能となる。
【0025】
図3の周回路CCの例を用いて、区間について説明する。周回路CCは、5つのコーナC1~C5を備えている。このコーナの各頂点を境界として、区間SE1~SE5に区切られている。
【0026】
ステップS20において制御装置50は、特定地点SPを設定する。特定地点SPは、周回路上の任意の位置に定めることができる。図3の例では、特定地点SPは、区間SE1の開始地点に設定されている。
【0027】
ステップS30において制御装置50は、放電量の上限設定値USの初期値を設定する。上限設定値USは、第1モータ20および第2モータ30で放電される電力量の上限値を、複数の区間ごとに定めるものである。すなわち上限設定値USは、複数の区間の各々に応じて最適なエネルギ放出量を設定するものである。なお、周回路を過去に走行したときに設定された上限設定値USをメモリ51に保存しておき、ステップS30で読み出してもよい。これにより、ステップS30の処理を簡略化することができる。
【0028】
図4の例を用いて、上限設定値USの設定内容について説明する。図4は、周回路CCの1周目および2周目におけるグラフである。図4(A)は、第1モータ20および第2モータ30での放電電力量を示すグラフである。横軸は、周回路CCの特定地点SPから出発して特定地点SPへ戻ってくるまでの走行距離である。実線は、今周回の上限設定値US_Cを示している。一点鎖線は、前周回の上限設定値US_Pを示している。点線は、走行時における実際の放電量を測定した値である、実放電量ADを示している。
【0029】
図4(B)は、バッテリ40の充電率を示すグラフである。充電率Msocは、走行時における実際の充電率の測定値を示している。また測定充電率Msoc_SPは、特定地点SPの通過時における充電率の測定値である。また目標充電率Tsocは、測定充電率Msoc_SPの目標値である。
【0030】
図4(C)は、前周回の上限設定値US_P、補正量CA、今周回の上限設定値US_C、タイム感度TS、を示す表である。前周回の上限設定値US_Pは、前周回の周回時に用いられた上限設定値である。今周回の上限設定値US_Cは、前周回の上限設定値US_Pを補正量CAを用いて補正した値であり、今周回の周回時に用いられる上限設定値である。なお、1周目の場合には、前周回の上限設定値US_Pおよび補正量CAは存在しない。
【0031】
タイム感度TSは、投入エネルギ当たりの走行タイムの向上割合である。タイム感度が大きいほど、同一放電量においても走行タイムの短縮量が大きくなる。本実施例では、区間SE1やSE5のように長いストレートを有する区間のタイム感度TSが大きい。また区間SE4のように、きついコーナに挟まれた区間のタイム感度TSが小さい。また区間SE2およびSE3のタイム感度TSは、中程度である。
【0032】
前述のように、ステップS30において、今周回の上限設定値US_Cの初期値が設定される(図4(C)、領域R1参照)。このとき、タイム感度TSが大きい区間ほど、上限設定値US_Cが高く設定される。図4(A)および(C)の例では、最長ストレート区間を有するとともに、タイム感度TSが「大」である区間SE1の上限設定値US_Cが、最も高い1.4[MJ]に設定される。また、次に長いストレートを有するとともに、タイム感度TSが「大」である区間SE5の上限設定値US_Cが、2番目に高い1.0[MJ]に設定される。一方、タイム感度TSが「中」である区間SE2およびSE3の各々の上限設定値US_Cが、0.6[MJ]および0.3[MJ]に設定される。またタイム感度TSが「小」である区間SE4の上限設定値US_Cは、0[MJ]に設定されるため、区間SE4ではモータのアシストが発生しない。
【0033】
なお、本制御において設定した区間ごとの上限設定値US_Cは、当該車両においてある一定技量を持ったドライバーが運転した場合に最適なエネルギマネジメントとなるように設定されてもよい。
【0034】
ステップS40において制御装置50は、周回路CCの走行が開始されたか否かを判断する。この判断は、走行位置取得部53によって取得された走行位置に基づいて行われてもよい。否定判断される場合にはステップS40へ戻り待機し、肯定判断される場合にはステップS50へ進む。
【0035】
ステップS50において制御装置50は、第1モータ20および第2モータ30への放電量を、今周回の上限設定値US_Cに従って制限する。この処理は、走行位置取得部53によって取得された走行位置に基づいて行われる。具体的には、区間SE1~SE5のうちの何れの区間を走行中であるかを走行位置に基づいて判定する。そして、走行中の区間に応じた上限設定値US_Cを超過しないように、モータでの放電量を制限する。
【0036】
図4(A)の例を用いて説明する。区間SE1において、ストレートでの加速に応じて実放電量ADが増加する(領域R2)。そして上限設定値US_Cに到達すると、実放電量ADは1.4[MJ]の一定値に制限され、それ以上増加しなくなる(領域R3)。以下同様にして、区間SE2~SE5の各々における実放電量ADの上限値は、上限設定値US_Cに応じた値とされる。すなわち、ドライバの駆動力要求に対して、放電量が上限設定値US_Cを超えないようにエネルギマネジメントが行われる。
【0037】
ステップS60において制御装置50は、周回路CCを1周して特定地点SPに戻ったか否かを判断する。否定判断される場合には、ステップS70へ進み、走行を終了するか否かを判断する。走行を続行する場合(S70:NO)にはS60へ戻り、走行を終了する場合(S70:YES)にはフローを終了する。
【0038】
また、周回路CCを1周したことが判断された場合(S60:YES)には、ステップS80へ進む。ステップS80において制御装置50は、特定地点SPの通過時に測定される測定充電率Msoc_SPを取得する。そして、測定充電率Msoc_SPと予め定められた目標充電率Tsocとの差分DFを算出する。図4(B)の例では、1周目の走行終了時点において、測定充電率Msoc_SP(1)が取得され、差分DF1が算出される。
【0039】
ステップS90において制御装置50は、差分DFに基づいて前周回の上限設定値US_Pを補正することで、今周回の上限設定値US_Cを算出する。当該補正は、測定充電率Msoc_SPが目標充電率Tsocに近づくように行われる。
【0040】
補正の具体的内容の第1の例について、図4を用いて説明する。第1の例は、1周目の終了時点において、測定充電率Msoc_SP(1)が、差分DF1だけ目標充電率Tsocよりも小さい場合の例である。すなわち、差分DF1だけ充電率が不足しているため、次周回では上限設定値US_Cを低下させる必要がある(すなわち放電量をさらに減少させる必要がある)と判断される場合である。
【0041】
まず、補正率CRが、差分DF1に基づいて算出される。補正率CRは、上限設定値US_Cで供給可能な最大電力量(図4(A)において、上限設定値US_Cで囲まれた面積)の増減割合である。補正率CRの算出方法は様々であって良い。例えば、差分DFと補正率CRの関係を示すテーブルを用いて求めてもよいし、予め用意された数式に差分DFを代入して算出してもよい。図4の例では、差分DF1に基づいて算出された補正率CRが「0.7」である場合を説明する。
【0042】
次に、算出された補正率CRに基づいて、上限設定値US_Cを低下させる補正が実行される。具体的には、補正後の最大電力量(今周回の上限設定値US_Cで囲まれた面積)が、補正前の最大電力量(前周回の上限設定値US_Pで囲まれた面積)の0.7倍になるように補正が行われる。また上限設定値US_Cを低下させる補正は、タイム感度TSが小さい区間に対して優先的に実行される。そして、タイム感度TSが小さい区間の補正だけでは最大電力量の低下量が不足する場合には、タイム感度TSが大きい区間に対しても補正が行われる。
【0043】
図4の例では、タイム感度TSが「小」である区間SE4は、すでに上限設定値US_Cが0であるため、補正が行われない。そして、タイム感度TSが「中」である区間SE2およびSE3の上限設定値US_Cが、0に補正される(矢印Y1)。そしてこの補正だけでは、最大電力量を0.7倍まで低下させることができないため、タイム感度TSが「大」である区間SE1およびSE5の上限設定値US_Cが補正される(矢印Y2)。
【0044】
また、補正の具体的内容の第2の例について、図5を用いて説明する。第2の例は、1周目の終了時点において、測定充電率Msoc_SP(1)が、差分DF1だけ目標充電率Tsocよりも大きい場合の例である。すなわち、差分DF1だけ充電率が超過しているため、次周回では上限設定値US_Cを上昇させる必要がある(すなわち放電量をさらに増加させる必要がある)と判断される場合である。
【0045】
前述した方法によって、補正率CRが差分DF1に基づいて算出される。図5の例では、差分DF1に基づいて算出された補正率CRが「1.2」である場合を説明する。そして、補正後の最大電力量が、補正前の最大電力量の1.2倍になるように補正が行われる。上限設定値US_Cを上昇させる補正は、タイム感度TSが大きい区間に対して優先的に実行される。図5の例では、タイム感度TSが「大」である区間SE1およびSE5の上限設定値US_Cが補正される(矢印Y3)。
【0046】
ステップS90において今周回の上限設定値US_Cが算出されると、ステップS50へ戻る。そして、今周回の上限設定値US_Cに基づいて、今周回の放電量が制限される。図4および図5の例では、2周目の放電量が制限される。そして2周目の走行終了時点において、測定充電率Msoc_SP(2)が取得され、差分DF2が算出される(ステップS80)。差分DF2に基づいて、3周目の上限設定値US_Cが算出される(ステップS90)。以後、周回ごとにステップS60~S90の処理が繰り返される。
【0047】
(効果)
周回路の走行時には、各種のばらつき要因(例:タイヤなどの車両状態、ドライ・ウェットといった路面状況、コースの他車両などの状況、ドライバ自体の技量差)が存在する。従って、バッテリ40の充電率が目標充電率Tsocに収束するように予め制限値を設定し、この制限値に基づいてモータへの供給電力を制限する場合においても、充電率が目標充電率Tsocからずれてしまう場合がある。周回ごとの充放電収支が釣り合わなくなり、エネルギマネジメントが困難となってしまう。そこで本明細書の技術では、周回ごとに、測定充電率Msoc_SPと目標充電率Tsocとの差分DFを算出する(ステップS80)ことで、実際の充放電量が上限設定値USに対して有するばらつきを算出することができる。そして、測定充電率Msoc_SPが目標充電率Tsocに近づくように上限設定値USに補正を行う(ステップS90)ことで、当該ばらつきを抑制できるため、各周回毎の充放電収支を釣り合わせることが可能となる。タイムの最適化が可能となる。
【0048】
本明細書の技術では、上限設定値US_Cを低下させる補正は、タイム感度TSが小さい区間に対して優先的に実行される。また上限設定値US_Cを上昇させる補正は、タイム感度TSが大きい区間に対して優先的に実行される(ステップS90)。これにより、タイム感度TSが大きい区間ほど上限設定値US_Cが高くなるように補正することができるため、さらなるタイム向上が可能となる。
【0049】
バッテリの充電率と車速とに基づいて、モータへの供給電力を制限することが考えられる。これは、限られた放電量をより低速域に集中させて放電するほうが、エネルギ当たりのタイム感度が良いため、タイム向上が期待できるためである。しかし上記の手法では、立ち上がり車速で放電量が決まってしまう。従って、同一周回路において、タイム感度が大きい長いストレートとタイム感度が小さい短いストレートとの間で放電量を変えることが出来ない。そこで本明細書の技術では、周回路を複数の区間に区切っている(ステップS10)。そしてタイム感度TSが大きい区間ほど、上限設定値USを高く設定している(ステップS30)。これにより、供給電力の制限量をタイム感度TSに応じて最適化することができる。さらなるタイム向上が可能となる。
【0050】
以上、本技術の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0051】
ステップS90の上限設定値US_Pの補正は、タイム感度TSに基づいて優先度を定める形態に限られず、様々な形態で行うことができる。例えば、タイム感度TSに基づいて重みづけを割り当てる形態であってもよい。また、タイム感度TSに限らず、他の指標をもとに補正を行う形態であってもよい。また、全ての区間を同一割合で補正してもよい。
【0052】
本実施例では、1ラップごとに差分DFを算出し、次ラップの上限設定値US_Cを補正する形態を説明したが、この形態に限られない。長いコースで区間数が多い場合など、数区間ごとにセクションを区切り、セクションの終了タイミングで差分DFを算出してもよい。そして次セクションの上限設定値US_Cを補正する形態であってもよい。
【0053】
本明細書の技術が適用可能な電動車両は、ハイブリッド車(HEV)に限られない。例えば、電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)などにも適用可能である。例えば電気自動車に本明細書の技術を適用すれば、満充電から枯渇するまでに所定の周回数をラップしつつ、タイムを向上させることができる。
【0054】
本実施例では、蓄電装置がバッテリ40である場合を説明したが、この形態に限られない。例えば、蓄電装置がキャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10:ハイブリッド車 20:第1モータ 30:第2モータ 40:バッテリ 50:制御装置 51 メモリ 52 プロセッサ 53 走行位置取得部 CC:周回路 DF:差分 Msoc:充電率 Msoc_SP:測定充電率 Tsoc:目標充電率 TS:タイム感度 SE1~SE5:区間 US_P:前周回の上限設定値 US_C:今周回の上限設定値

図1
図2
図3
図4
図5