(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】搬送システムおよび搬送方法
(51)【国際特許分類】
B65G 1/10 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
B65G1/10 G
(21)【出願番号】P 2021153836
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 建郎
【審査官】内田 茉李
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-76380(JP,U)
【文献】特開平5-186016(JP,A)
【文献】特開2019-119343(JP,A)
【文献】特開平2-182607(JP,A)
【文献】特表2018-507151(JP,A)
【文献】特開平1-075310(JP,A)
【文献】特開昭55-129014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷を載せる複数の棚を有し、前記複数の棚のうちの少なくとも1つの棚が移動可能な移動可能棚である移動棚ユニットと、
前記移動可能棚に接して前記移動可能棚を移動させる移動部と、周囲の障害物を検知する検知部と、を有し、隣合う前記棚間に進入して前記荷を搬送する搬送ロボットと、
を備え、
前記移動可能棚の底面は、隣合う前記棚間の前記障害物を前記検知部が検知することができるように、前記移動可能棚が配置される床面から離間して設けられている、搬送システム。
【請求項2】
前記複数の棚は、前記移動棚ユニットの上部に天吊り式に設けられている請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記搬送ロボットと、作業者とが、共通の領域内で作業を行う環境で用いられる請求項1または請求項2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記移動部は、前記移動可能棚に設けられた被連結部と係合可能な連結ピンを有し、
前記搬送ロボットは、前記連結ピンを前記被連結部と係合させた状態で、前記搬送ロボットの移動に伴い前記搬送ロボットに追従して前記搬送ロボットの移動方向に前記移動可能棚を移動させる、請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の搬送システム。
【請求項5】
前記複数の棚は、前記移動可能棚の移動方向に配列されている、請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の搬送システム。
【請求項6】
前記検知部は、
前記搬送ロボットが移動している間に前記障害物を非接触で検出可能であり、
前記移動可能棚の前記底面の高さ位置と、前記床面と、の間の空間に存在する前記障害物を検知可能な位置に設けられている請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の搬送システム。
【請求項7】
荷を載せる複数の棚を有し、前記複数の棚のうちの少なくとも1つの棚が移動可能な移動可能棚である移動棚ユニットと、
前記移動可能棚に接して前記移動可能棚を移動させる移動部と、周囲の障害物を検知する検知部と、を有し、隣合う前記棚間に進入して前記荷を搬送する搬送ロボットと、
を備えた搬送システムを用いた荷の搬送方法であって、
前記移動可能棚の底面は、隣合う前記棚間の前記障害物を前記検知部が検知することができるように、前記移動可能棚が配置される床面から離間して設けられており、
(a)前記検知部により、隣合う前記棚間の前記障害物を検知する工程と、
(b)前記工程(a)において前記障害物が検知されない場合には、互いに対面する2つの前記棚同士の距離が拡がるように、前記移動部により前記移動可能棚を移動させ、前記工程(a)において前記障害物が検知された場合には、前記移動可能棚を移動させない工程と、
を含む搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送システムおよび搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されるように、移動可能な複数の棚を有して構成される移動棚と、棚間に進入して荷を搬送する無人フォークリフトと、を備える無人搬送システムが知られている。
【0003】
この無人搬送システムでは、荷の搬入や搬出が不要な棚は、互いに接近させて配置する一方、荷の積み降ろしが必要な棚については、当該棚を所定距離だけ移動させてフォークリフトが進入できる通路を形成する。そして、棚が所定位置に停止すると、次に、フォークリフトが棚の間の通路内に進入した後、指定された棚の間口に対して荷の積み降ろしを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、棚を移動させる際には、棚と棚との間に、例えば人物などの障害物が存在せず、安全に移動させることが可能か否かを事前に確認する必要がある。しかし、上記システムでは、移動の際に安全性を確認するために棚間の障害物を検知するためには、各棚にセンサを設ける必要があり、構築コストや手間が増大するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本開示の一形態によれば、搬送システムが提供される。この搬送システムは、荷を載せる複数の棚を有し、前記複数の棚のうちの少なくとも1つの棚が移動可能な移動可能棚である移動棚ユニットと、前記移動可能棚に接して前記移動可能棚を移動させる移動部と、周囲の障害物を検知する検知部と、を有し、隣合う前記棚間に進入して前記荷を搬送する搬送ロボットと、を備え、前記移動可能棚の底面は、隣合う前記棚間の障害物を前記検知部が検知することができるように、前記移動可能棚が配置される床面から離間して設けられている。
この形態によれば、移動可能棚の底面の高さ位置と、床面と、の間には、検知部が各移動可能棚間の障害物を検知可能な程度の「下部空間」が形成される。この「下部空間」は、実際に存在する移動可能棚の下部分だけではなく、棚間において、床面から移動可能棚の底面までの高さに相当する部位の空間も含む。この下部空間には、本来は何も存在しない。しかし、人物などの障害物が棚間に存在する場合には、障害物の下部分(人物であれば足)が下部空間にも存在するため、検知部による検知が可能となる。すなわち、各棚に個別のセンサ等を設けることなく、搬送ロボットの検知部によって、下部空間を利用して棚間の障害物を検知することができる。このため、システムの構築コストや、構築の手間が増大することを回避することができる。
(2)上記形態において、前記複数の棚は、前記移動棚ユニットの上部に天吊り式に設けられていてもよい。この形態によれば、複数の棚を床面から離間して設ける構成を、複数の棚を移動棚ユニットの上部に天吊り式に設けるという簡易な構成によって実現できる。
(3)上記形態において、上記搬送システムは、前記搬送ロボットと、作業者とが、共通の領域内で作業を行う環境で用いられてもよい。この形態によれば、作業者と搬送ロボットとが共通の領域内で作業するような、安全性がより重視される環境下における搬送システムにおいて、障害物としての作業者を好適に検知することができる。
(4)上記形態において、前記移動部は、前記移動可能棚に設けられた被連結部と係合可能な連結ピンを有し、前記搬送ロボットは、前記連結ピンを前記被連結部と係合させた状態で、前記搬送ロボットの移動に伴い前記搬送ロボットに追従して前記搬送ロボットの移動方向に前記移動可能棚を移動させてもよい。この形態によれば、連結ピンと被連結部との係合によって、搬送ロボットと移動可能棚とを連結できる。そして、搬送ロボットの移動に伴って移動可能棚を移動させることができるため、例えば各移動可能棚にそれぞれ電動アクチュエータを設けて移動可能棚を移動させる構成と比較して、装置構成を容易にできる。
(5)上記形態において、前記複数の棚は、前記移動可能棚の移動方向に配列されていてもよい。この形態によれば、移動可能棚の移動方向に配列される複数の棚間に存在する障害物を好適に検知することができる。
(6)上記形態において、前記検知部は、前記搬送ロボットが移動している間に前記障害物を非接触で検出可能であり、前記移動可能棚の前記底面の高さ位置と、前記床面と、の間の空間に存在する前記障害物を検知可能な位置に設けられてもよい。この形態によれば、検知部により、移動可能棚の底面の高さ位置と、床面と、の間の空間に存在する障害物を検知できるため、棚間に存在する障害物を好適に検知できる。
(7)本開示の一形態によれば、搬送方法が提供される。この搬送方法は、荷を載せる複数の棚を有し、前記複数の棚のうちの少なくとも1つの棚が移動可能な移動可能棚である移動棚ユニットと、前記移動可能棚に接して前記移動可能棚を移動させる移動部と、周囲の前記障害物を検知する検知部と、を有し、隣合う前記棚間に進入して前記荷を搬送する搬送ロボットと、を備えた搬送システムを用いた荷の搬送方法であって、前記移動可能棚の底面は、隣合う前記棚間の障害物を前記検知部が検知することができるように、前記移動可能棚が配置される床面から離間して設けられており、(a)前記検知部により、隣合う前記棚間の前記障害物を検知する工程と、(b)前記工程(a)において前記障害物が検知されない場合には、互いに対面する2つの前記棚同士の距離が拡がるように、前記移動部により前記移動可能棚を移動させ、前記工程(a)において前記障害物が検知された場合には、前記移動可能棚を移動させない工程と、を含む。
この形態によれば、各棚に個別のセンサ等を設けることなく、搬送ロボットの検知部によって、棚間の障害物を検知することができるため、搬送システムの構築コストや、システム構築の手間が増大することを回避することができる。さらに、工程(a)において、搬送ロボットに設けられた検知部により、周囲に障害物が存在しているか否かを検知でき、障害物が検知されない場合には、工程(b)において、互いに対面する2つの棚同士の距離が拡がるように、搬送ロボットが有する移動部によって移動可能棚を移動させることができる。さらに、障害物が検知された場合には、工程(b)において、移動可能棚を移動させないため、移動可能棚の移動を安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態における搬送システムの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】第2棚と搬送ロボットとの連結前における状態を模式的に示す側面図である。
【
図3】第2棚と搬送ロボットとの連結前における状態を模式的に示す平面図である。
【
図4】第2棚と搬送ロボットとの連結時における状態を模式的に示す側面図である。
【
図5】第2棚と搬送ロボットとの連結時における状態を模式的に示す平面図である。
【
図6】搬送システムにおいて搬送ロボットが実行する搬送手順を示すフローチャートである。
【
図7】搬送システムにおいて搬送ロボットが実行する検知手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.搬送システムの全体構成:
本開示の第1実施形態の搬送システム1および搬送方法について、
図1~
図7を参照しつつ説明する。
図1は、本開示の第1実施形態における搬送システム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。搬送システム1は、例えば物流業界における大規模な保管用倉庫などに適用される。
図1に示すように、本実施形態の搬送システム1は、移動棚ユニット10と、搬送ロボット20と、備える。移動棚ユニット10は、床面2に固定されたフレーム11と、フレーム11に囲まれた空間内に並設される複数の棚12と、を備える。
【0010】
図1~
図5において、XYZ座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。XYZは互いに直交する。X軸およびY軸は水平面に沿った軸であり、すなわちXY平面が水平面(床面2)である。Z軸は、鉛直線に沿った軸である。+Z方向が鉛直方向の上向きであり、-Z方向が鉛直方向の下向きである。以下、+Z方向を「上」ともいい、-Z方向を「下」ともいう。
【0011】
フレーム11は、その内部空間に複数の棚12を収容可能であり、4本の脚部13と、天井部14と、2本のレール15と、を有している。天井部14は、棚12の並設方向(X方向)に長く、平面視において矩形状をなす板状部材である。4本の脚部13は、床面2から鉛直方向に立設されており、その上端が天井部14の4つの隅部にそれぞれ接続している。2本のレール15は、天井部14にX方向に亘って延びて形成されており、天井部14の幅方向(Y方向)において互いに所定間隔を空けて天井部14に固定されている。
【0012】
各棚12は、各棚12の移動方向と一致するX方向に並設して配列されている。各棚12は、上下方向に複数に区分けされた段部18を有しており、複数の荷3を収容可能である。各棚12は、レール15に設けられた図示しないキャスターに引っ掛けられており、すなわち、移動棚ユニット10の上部である天井部14に天吊り式に設けられている。すなわち、各棚12の底面19と床面2とは離間しており、底面19と床面2との間には、高さHの下部空間5が形成されている。なお、ここでいう「下部空間5」とは、実際に棚12が存在する下部分だけではなく、棚12と棚12との間において、床面2から棚12の底面19までの高さHに相当する部位の空間も含む。
【0013】
各棚12のX方向幅の合計長さはフレーム11のX方向幅より短く、各棚12は、フレーム11の内部空間においてX方向幅に余裕をもって配置されている。各棚12は、キャスターがレール15内を移動することでX方向に移動可能である。本実施形態では、全ての棚12が、「移動可能棚」に相当する。すなわち、各棚12は、棚12の並設方向に互いに接近離間可能に独立して移動可能である。また、任意の棚12のX方向への移動に伴い、任意の棚12に対して移動方向側にある複数の棚12についても併せて移動することが可能である。移動棚ユニット10において、-X方向の最端に位置する棚を第1棚12aとし、その隣の棚を第2棚12bとする。なお、各棚12を特に区別しないときには、単に「棚12」という。
【0014】
図2は、第2棚12bと搬送ロボット20との連結前における状態を模式的に示す側面図(-X方向から見た図)である。
図3は、第2棚12bと搬送ロボット20との連結前における状態を模式的に示す平面図(+Z方向から見た図)である。
図4は、第2棚12bと搬送ロボット20との連結時における状態を模式的に示す側面図(-X方向から見た図)である。
図5は、第2棚12bと搬送ロボット20との連結時における状態を模式的に示す平面図(+Z方向から見た図)である。
【0015】
図2~
図5に示すように、各棚12において、-Y方向の側面16には、搬送ロボット20の後述する連結ピン31と係合する被連結部17が設けられている。被連結部17は、側面16から突出した、側面視コ字形状をなす取っ手状の部材である。なお、連結ピン31と係合可能であれば、被連結部17はプレート状でもブロック状でもよい。
【0016】
図1、
図2に示すように、搬送ロボット20は、棚12をX方向に移動させ、隣合う棚12間に進入して荷3を搬送する。搬送ロボット20は、車体部21と、アームロボット部22と、で構成されている。アームロボット部22は、車体部21の上に配置されている。アームロボット部22は、1本のロボットアーム23と、1つのロボットハンド24と、を有する多軸式の産業用アームロボットであり、棚12に対して荷3の積み降ろしが可能である。ロボットアーム23は、荷3の積み降ろしの指示に従ってロボットハンド24を移動させる。
【0017】
車体部21は、例えばAGV(Automatic Guided Vehicle)などの無人搬送車である。車体部21は、底部の車輪25を回転させることによって、床面2上を移動する。車体部21は、検知部27と、移動部28(
図1参照)と、を備えている。検知部27は、車体部21の外形を構成する筐体の側面であって、床面2から30~40cm程度の高さ位置に、筐体の平面視において対角線上に対向する2つの位置に設けられている。検知部27は、棚12の底面19の高さ位置と、床面2と、の間の下部空間5に存在する障害物100を検知可能な位置に設けられている。2つの検知部27は、底面19と床面2との間の下部空間5を利用して、隣合う棚12間を含む搬送ロボット20の周囲の障害物100を検知する。
【0018】
検知部27は、例えば、スキャナエリアSA内に存在する人物や物体を非接触で検出するレーザスキャナである。検知部27は、レーザを扇状に角度を少しずつ変えながら、設置された高さ位置における水平方向に送信し、例えば270度程度の広い角度の範囲で、障害物100により反射されたレーザを受信することで障害物100を検知可能である。
【0019】
移動部28は、搬送ロボット20と棚12とを連結する連結ピン31を有し、搬送ロボット20と棚12とが連結した状態で搬送ロボット20がX方向に走行することで棚12を移動させる。
図2~
図5に示すように、連結ピン31は、シリンダ32に接続されており、このシリンダ32の駆動により、筐体からの押し出しおよび引き戻しが可能である。移動部28は、上記連結ピン31、シリンダ32、および、車輪25や図示しない駆動モータを有する走行機構を含んで構成される。
【0020】
なお、車体部21の筐体の内部には、図示しない無線通信装置、車体制御部、およびアームロボット制御部が設けられている。無線通信装置は、搬送システム1の全体を統括管理する図示しない統括制御部と無線で通信を行う。車体制御部は、例えば車輪25の回転状態、検知部27や連結ピン31の動作、および外部との入出力などを制御する。アームロボット制御部は、搬送ロボット20が目的地に到着した時にアームロボット部22を用いて搭載した荷3の積み降ろしなどの動作制御を行う。
【0021】
以上説明した搬送システム1では、荷3の搬入や搬出が不要な棚12は、互いに接近させて配置する。そして、荷3の積み降ろしが必要な棚12については、当該棚12を搬送ロボット20により所定距離だけ移動させて、搬送ロボット20が進入できる通路4を棚12間に形成する。そして、搬送ロボット20が棚12間の通路4内に進入した後、指定された棚12の間口(Y方向に延びる面)に対して荷3の積み降ろしを行うものである。
【0022】
この搬送システム1は、システム内に搬送ロボット20と作業者とが出入りし、また、システム内に搬送ロボット20と作業者とが共に存在する環境で用いられる。このため,安全監視はとくに重要であり、人や物などの障害物100を検知した場合には、搬送ロボット20を緊急停止させることができるようになっている。
【0023】
各棚12の底面19と床面2との間に形成される下部空間5は、本来は何も存在しないエリアである。しかし、人物などの障害物100が棚12間に存在する場合には、障害物100の下部分(人物であれば足)が下部空間5にも存在するため、検知部27による検知が可能である。
【0024】
搬送ロボット20が移動している間に、検知部27がスキャナエリアSA内に障害物100を検知したときには、車体制御部から、統括制御部へ無線により検出信号が出力される。そして、車体制御部により、車体の移動が停止される。具体的には、車体の駆動モータの動作が停止される。すなわち、障害物100が検知部27のスキャナエリアSAに存在するときには、搬送ロボット20自体が障害物100へ衝突したり、移動させた棚12が障害物100に衝突したりといった危険を回避するために、搬送ロボット20自体の動きを止める所謂「保護停止」と呼ばれる緊急停止が実行される。なお、検知および停止についての詳細は、以下、搬送方法の説明と併せて後述する。
【0025】
A2.搬送方法:
次に、上記搬送システム1において、荷3の積み降ろしを行う搬送方法について説明する。統括制御部は、例えば、所定のプラグラムに従って搬送ロボット20(車体部21およびアームロボット部22)の動作制御を実行する。搬送指令が出されていない通常時、搬送ロボット20は、移動棚ユニット10に対して-Y方向の倉庫エリア内を往来している。統括制御部は、無線通信により荷役作業に関する荷役情報を搬送ロボット20に送信する。荷役情報には、積み降ろしの対象となる棚12の現在の位置情報や、棚12を移動させる方向や移動距離の情報、棚12における積み降ろしの対象となる段部18の情報などが含まれる。
【0026】
図6は、統括制御部からの指令に基づき、搬送システム1において搬送ロボット20が実行する搬送手順を示すフローチャートである。本指令は、第2棚12bを+X方向に移動させて、第1棚12aと第2棚12bとの間に搬送ロボット20が進入可能な通路4を形成した後、搬送ロボット20を通路4内に+Y方向へ前進させ、第2棚12bの所定の段部18に対して、荷3の積み(または、降ろし)を実行するものである。
【0027】
搬送ロボット20は、統括制御部から荷役情報を受信すると、ステップ10(以下、ステップを「S」と省略する)において、車体制御部を制御して、移動対象の棚である第2棚12bの位置まで移動する。このとき、搬送ロボット20は、第2棚12bに対して-Y方向の位置であって、第2棚12bの被連結部17の位置と、搬送ロボット20の連結ピン31の位置とが対応する位置にきている。
【0028】
なお、搬送ロボット20の走行については、例えば、上記検知部27とは別に搬送ロボット20に自己位置推定用のレーザスキャナを設けて、レーザを水平に360度回転しながら送信し、倉庫内の予め定められた場所に配置された反射板で反射されたレーザを受信することで、反射板までの距離と反射板の角度(方位)とを算出し、現在位置を推定し、予め設定された経路を走行するようにしてもよい。
【0029】
または、車体部21に磁気検出用のガイドセンサを設け、このガイドセンサにより、床面2に敷設された磁気テープなどの誘導線路を検出しながら誘導線路に沿って走行するようにしてもよい。
【0030】
S10の後は、S20において、搬送ロボット20は、シリンダ32を駆動して、連結ピン31を押し出して、搬送ロボット20と第2棚12bとを連結する。次に、S30において、搬送ロボット20は、第2棚12bを所定量移動させる。ここで、搬送ロボット20と第2棚12bとの連結時には、
図4、
図5に示すように、+Y方向に押し出された連結ピン31が、被連結部17に-X方向側から接する。そして、搬送ロボット20と第2棚12bとが連結された連結状態において、搬送ロボット20が+X方向へ移動することで、搬送ロボット20は、第2棚12bを牽引するようにして、第2棚12bを+X方向(
図5に示す矢印A方向)へ移動させる。換言すると、搬送ロボット20は、互いに対面する2つの棚12a、12b同士の距離が拡がるように、第2棚12bを移動させる。
【0031】
第2棚12bの移動により、第1棚12aと第2棚12bとの間には、搬送ロボット20が進入可能な通路4(
図1、
図5参照)が形成される。次に、S40において、搬送ロボット20は通路4に進入し、S50において、指示された段部18に対して荷3を積む(または、降ろす)。そして、S60において、搬送ロボット20は、指示された搬送先等の所定位置まで移動する。以上で、搬送処理を終了する。
【0032】
上記搬送方法における各工程前および各工程中において、搬送ロボット20は、常に検知部27により周囲の障害物100を検知しつつ移動している。障害物100の検知手順について、
図7を参照して説明する。
図7は、搬送システム1において搬送ロボット20が実行する検知手順を示すフローチャートである。
図7に示すように、搬送ロボット20は、S70において、障害物100を検知したか否かを判断する。S70において、障害物100が検知されない場合(S70:NO)には、S80に進み通常動作を実行する。通常動作とは、
図6に示す搬送動作全般であって、障害物100が検知されない限り、受信した搬送指令に基づく搬送動作を継続する。
【0033】
一方、S70において、障害物100が検知された場合(S70:YES)には、S90に進み、搬送ロボット20の動作を停止する。このS90での停止は、上記説明した「保護停止」に相当する。S80またはS90の処理の後は、本ルーチン処理を終了する。なお、
図7に示す検知処理は、
図6と同時並行して所定時間ごとに実行されている。特に、S30において第2棚12bを移動させるときに、仮に第2棚12bの移動方向に人物が存在する場合には、人物を検知して安全のために停止する必要があるため、S30の前にも検知部27による検知が実行されている。
【0034】
すなわち、上記搬送方法は、第2棚12bを移動させる前に、底面19と床面2との間の下部空間5を利用して、隣合う棚12間に障害物100が存在しているか否かを検知する工程(S70)を含んでいる。また、上記搬送方法は、障害物100が検知されない場合には、移動可能棚を移動させ(S80、S30)、障害物100が検知された場合には、移動可能棚を移動させない工程(S90)を含んでいる。
【0035】
(1)上記第1実施形態の搬送システム1では、各棚12の底面19と床面2とは離間している。すなわち、各棚12の底面19の高さ位置と、床面2と、の間には、検知部27が各棚12間の障害物100を検知可能な程度の「下部空間5」が形成される。各棚12の底面19が、床面2から離間せずに接している場合は、検知部27の設置位置より下方に棚12の下部が存在する。このため、各棚12の下部エリアについては、この下部エリアをスキャナして検知された物体が棚12の下部であるのか障害物100であるのか、の区別がつかないため、レーザスキャナによる走査ができない不検知エリアとなっていた。
【0036】
しかし、第1実施形態の搬送システム1では、下部空間5には棚12の下部は存在しておらず、検知部27により検知されたものは、障害物100であると特定できる。すなわち、搬送ロボット20に設けた検知部27により、棚12間に存在する障害物100を検知できる。したがって、棚12間の障害物100を検知するために、各棚12に個別のセンサ等を設ける必要がなく、搬送ロボット20の検知部27によって棚12間の障害物100を検知することができる。このため、搬送システム1の構築コストや、システム構築の手間が増大することを回避することができる。
【0037】
また、搬送ロボット20は棚12を移動させる移動部28を備えており、搬送ロボット20が棚12を牽引して走行することで棚12を移動させる構成のため、各棚12にそれぞれ電動アクチュエータを取り付け移動させる構成と比較して、さらに装置構成を容易に、かつ低コストで実現できる。
【0038】
(2)上記第1実施形態の搬送システム1では、各棚12は移動棚ユニット10の天井部14に天吊り式に設けられている。このため、各棚12を床面2から離間して浮かせて配置する構成を、安定してかつ容易に実現できる。
【0039】
(3)上記第1実施形態の搬送システム1は、搬送ロボット20の検知部27により常に周囲の障害物100を監視することで、作業者と搬送ロボット20とが共通の領域内で作業を行う協働環境において安全にシステムを稼働することができる。また、搬送ロボット20の検知部27により常に周囲の障害物100を監視することで、仮想の防護柵を立てているとみなすことができる。このため、例えば、搬送ロボット20の走行領域内には作業者が立ち入らないような倉庫環境下において、作業者と倉庫とを隔離する防護柵を設ける必要がなく、大がかりなシステム構成を構築する必要がない。
【0040】
(4)上記第1実施形態の搬送システム1では、搬送ロボット20の連結ピン31と、棚12の被連結部17とが係合することで、搬送ロボット20と棚12とが連結状態となる。そして、搬送ロボット20の移動に追従して搬送ロボット20の移動方向に棚12が移動する。このように、容易な構成で、搬送ロボット20により棚12を移動させる構成を実現できる。
【0041】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態の搬送システム1では、搬送ロボット20が1台である例を示したが、複数の搬送ロボット20が同時に倉庫内を往来するシステムであってもよい。なお、この場合、複数の搬送ロボット20が衝突しないように、統括制御部により制御される。
【0042】
(B2)上記第1実施形態の搬送システム1では、搬送ロボット20が備える検知部27をレーザスキャナにより構成したが、非接触で周囲の障害物100を検知できれば、超音波を利用したものやその他の検出装置であってもよい。例えば、検出可能領域として高さ方向に幅を有する検出装置を用いてもよい。また、上記搬送ロボット20は、移動しながら障害物100を監視するものとしたが、適宜停止した状態で障害物100を監視するものとしてもよい。
【0043】
(B3)上記第1実施形態の搬送システム1では、搬送ロボット20と棚12との連結構造は、連結ピン31と取っ手状の被連結部17とが係合するものとしたが、搬送ロボット20が棚12と接して棚12を移動させることができればよく、上記形態に限られない。例えば、棚12には、被連結部17として、連結ピン31が挿入可能な係合孔を設けてもよい。また、搬送ロボット20側の連結構成についても、連結ピン31のようにピン形状でなくてもよく、その形状は適宜変更可能である。
【0044】
(B4)上記第1実施形態の搬送システム1では、全ての棚12が移動可能であるとしたが、少なくとも並設方向の一方の端の棚は固定されており移動可能棚ではない構成であってもよい。例えば、移動棚ユニット10は、3つの棚12で構成され、並設方向の両端の棚が固定され、真ん中の1つの棚のみが移動可能であってもよい。
【0045】
(B5)上記第1実施形態の搬送システム1では、各棚12は、移動棚ユニット10の天井部14に天吊り式に設けられているものとしたが、天吊り式ではなく、例えば、フレーム11に側壁を設けて、この側壁に各棚12を移動可能に支持するようにしてもよい。
【0046】
(B6)上記第1実施形態の搬送システム1における搬送ロボット20は、アームロボット部22を備えるものとしたが、荷3の積み降ろしが可能であれば、アームロボットの構成に限られない。例えば、吸盤で荷3を保持可能であり、鉛直方向に伸縮可能なフォークリフトなどで構成してもよい。
【0047】
(B7)上記第1実施形態の搬送システム1は、搬送ロボット20と、作業者とが、共通の領域内で作業を行う環境で用いられるものとしたが、領域内に作業者は出入りせずに搬送ロボット20のみが単独で作業を行う環境で用いられてもよい。
【0048】
(B8)上記第1実施形態の搬送方法では、一例として、第2棚12bを+X方向に移動させる例を示したが、各棚12は-X方向に移動させてもよい。また、棚12はX方向に移動可能に並設されているものとしたが、例えば、フレーム11のY方向幅を棚12のY方向幅より大きく設定し、棚12はX方向に加えてY方向にも移動可能として構成してもよい。
【0049】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…搬送システム、2…床面、3…荷、4…通路、5…下部空間、10…移動棚ユニット、11…フレーム、12…棚(移動可能棚)、12a…第1棚、12b…第2棚、13…脚部、14…天井部、15…レール、16…側面、17…被連結部、18…段部、19…底面、20…搬送ロボット、21…車体部、22…アームロボット部、23…ロボットアーム、24…ロボットハンド、25…車輪、27…検知部、28…移動部、31…連結ピン、32…シリンダ、100…障害物、SA…スキャナエリア