(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】検出システム、歩行訓練システム、検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20241029BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20241029BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20241029BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61H1/02 R
A61H3/00 Z
G01L5/00 101Z
(21)【出願番号】P 2021188343
(22)【出願日】2021-11-19
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196231(JP,A)
【文献】特開2017-153720(JP,A)
【文献】特開2016-200400(JP,A)
【文献】特開2021-051577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
A61H 1/02
A61H 3/00
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサから計測情報を取得する取得部と、
前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の、総荷重値を算出する算出部と、
前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定する判定部と、
前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値
以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始する補正部と
を備える検出システム。
【請求項2】
前記判定部は、オフセットされた前記総荷重値が減少傾向にあり、かつ前記判定値未満となった場合、前記動作状態が第2動作状態であると判定する
請求項1に記載の検出システム。
【請求項3】
前記補正部は、入力荷重に対する前記荷重分布センサの出力特性と、前記被験者の属性とに基づいて、前記オフセットフィルタを生成する
請求項1又は2に記載の検出システム。
【請求項4】
前記補正部は、前記入力荷重に対する前記荷重分布センサの前記出力特性と、前記被験者の体重とに基づいて、前記オフセットフィルタを生成する
請求項3に記載の検出システム。
【請求項5】
前記補正部は、前記動作状態が前記第1動作状態であると判定された場合、前記被験者の前記足裏の接地初期の状態に基づいて、前記オフセットフィルタを生成する
請求項1から4のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項6】
前記判定部は、前記足裏領域の面積が所定面積閾値以上となった場合、前記動作状態が前記第1動作状態であると判定する
請求項1から5のいずれか一項に記載の検出システム。
【請求項7】
被験者の脚の動作状態に基づいて、前記被験者の少なくとも一方の脚に装着された脚ロボットの伸展を制御する制御装置と、
前記被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサと、
検出装置と
を備え、
前記検出装置は、
前記荷重分布センサから計測情報を取得する取得部と、
前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出する算出部と、
前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定する判定部と、
前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値
以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始する補正部と
を有する、歩行訓練システム。
【請求項8】
前記判定部は、オフセットされた前記総荷重値が減少傾向にあり、かつ前記判定値未満となった場合、前記動作状態が第2動作状態であると判定する
請求項7に記載の歩行訓練システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第2動作状態が検出されたことに応じて、前記脚ロボットの伸展を制御する
請求項8に記載の歩行訓練システム。
【請求項10】
コンピュータによって実行される検出方法であって、
被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサから計測情報を取得するステップと、
前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出するステップと、
前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定するステップと、
前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値
以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始するステップと
を備える検出方法。
【請求項11】
被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサから計測情報を取得するステップと、
前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出するステップと、
前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定するステップと、
前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値
以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始するステップと
を備える検出方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出システム、歩行訓練システム、検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
リハビリテーション(以下、リハビリと呼ぶ)の患者が歩行動作を訓練するための歩行訓練システムが開発されている。歩行訓練システムでは、トレッドミルに設置された荷重分布センサにより、訓練者の荷重分布を計測する。例えば、特許文献1には、2種類のループ電極群と、その上の弾性体と、その上の導電性物質からなる圧力分布検出装置が開示されている。そして歩行訓練システムは、計測結果から得られる荷重値に基づいて訓練者の歩行状態を測定し、訓練者の関節の動きを補助する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、歩行訓練システムは、荷重値が制御判定値を超えてから再び制御判定値を下回る場合、訓練者が踏み込む力を抜き始めた状態を検出して、訓練者の関節の伸展を補助する。しかし、上述の特許文献1に記載の圧力分布検出装置を歩行訓練システムに用いた場合、弾性部材中で応力が徐々に伝達されるため、荷重分布センサの出力が実際にかけた荷重から乖離する。これにより、踏み込む力を抜き始めた状態を誤検出することがあるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、脚の動作状態の検出精度を向上させる検出システム、歩行訓練システム、検出方法およびプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる検出システムは、取得部と、算出部と、判定部と、補正部とを備える。前記取得部は、被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサから計測情報を取得する。前記算出部は、前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出する。前記判定部は、前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定する。前記補正部は、前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始する。これにより、検出システムは、脚の動作状態の検出精度を向上させることができる。また前記判定部は、オフセットされた前記総荷重値が減少傾向にあり、かつ前記判定値未満となった場合、前記動作状態が第2動作状態であると判定してよい。これにより、踏み込む力を抜き始めた状態の誤検出を回避できる。
【0007】
ここで、前記補正部は、入力荷重に対する前記荷重分布センサの出力特性と、前記被験者の属性とに基づいて、前記オフセットフィルタを生成してよい。これにより、被験者の属性から推定される入力荷重のパターンに応じた荷重分布センサの出力特性を、オフセット量に反映させることが可能となる。
【0008】
特に、前記補正部は、前記入力荷重に対する前記荷重分布センサの前記出力特性と、前記被験者の体重とに基づいて、前記オフセットフィルタを生成してよい。入力荷重を体重値から推定することで、容易かつ精度よくオフセットフィルタを生成できる。
【0009】
また、前記補正部は、前記動作状態が前記第1動作状態であると判定された場合、前記被験者の前記足裏の接地初期の状態に基づいて、前記オフセットフィルタを生成してよい。これにより、前記補正部は、訓練者900の歩行状態に適したオフセット補正を実行することができる。
【0010】
尚、前記判定部は、前記足裏領域の面積が所定面積閾値以上となった場合、前記動作状態が前記第1動作状態であると判定してもよい。
【0011】
本発明の一態様にかかる歩行訓練システムは、被験者の脚の動作状態に基づいて、前記被験者の少なくとも一方の脚に装着された脚ロボットの伸展を制御する制御装置と、前記被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサと、検出装置とを備える。前記検出装置は、取得部と、算出部と、判定部と、補正部とを備える。前記取得部は、前記荷重分布センサから計測情報を取得する。前記算出部は、前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出する。前記判定部は、前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定する。前記補正部は、前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始する。これにより、歩行訓練システムは、脚の動作状態の検出精度を向上させることができる。また前記判定部は、オフセットされた前記総荷重値が減少傾向にあり、かつ前記判定値未満となった場合、前記動作状態が第2動作状態であると判定してよい。これにより、踏み込む力を抜き始めた状態の誤検出を回避できる。
【0012】
尚、前記制御装置は、前記第2動作状態が検出されたことに応じて、前記脚ロボットの伸展を制御してよい。
【0013】
本発明の一態様にかかる検出方法は、被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサから計測情報を取得するステップと、前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出するステップと、前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定するステップと、前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始するステップとを備える。これにより、脚の動作状態の検出精度を向上させることができる。
【0014】
本発明の一態様にかかるプログラムは、検出方法をコンピュータに実行させる。前記検出方法は、被験者の足裏から受ける荷重の分布を検出する荷重分布センサから計測情報を取得するステップと、前記計測情報に基づいて、前記被験者のいずれか一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域の総荷重値を算出するステップと、前記総荷重値に基づいて、前記いずれか一方の脚の動作状態を判定するステップと、前記動作状態が、前記総荷重値が増加傾向にあり、かつ予め定められた判定値以上である第1動作状態であると判定されたことに応じて、経過時間とともにオフセット量が減少するオフセットフィルタを用いて前記総荷重値をオフセットすることを開始するステップとを備える。これにより、脚の動作状態の検出精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、脚の動作状態の検出精度を向上させる検出システム、歩行訓練システム、検出方法およびプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態にかかる歩行訓練システムの概略斜視図である。
【
図2】歩行補助装置の一構成例を示す概略斜視図である。
【
図3】本実施形態にかかるトレッドミルの側面図および上面図である。
【
図4】入力荷重に対する荷重分布センサの出力特性の一例を示す図である。
【
図5】歩行中の訓練者の片脚の足裏から荷重を受けた場合の荷重分布センサの出力特性の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態にかかるオフセット量の一例を説明するための図である。
【
図7】本実施形態にかかる検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図8】本実施形態にかかる検出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態にかかるオフセットフィルタの一例を示す図である。
【
図10】本実施形態にかかるオフセットフィルタの他の例を示す図である。
【
図11】本実施形態にかかる足裏領域の推定処理を説明するための図である。
【
図12】本実施形態にかかる検出装置及びシステム制御部として用いられるコンピュータの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲にかかる発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載および図面は、適宜、省略、および簡略化がなされている。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる歩行訓練システム1の概略斜視図である。歩行訓練システム1は、本実施形態にかかる検出装置(検出システムとも呼ばれる)が適用されることができるシステムの一例である。歩行訓練システム1は、一方の脚に麻痺を患う片麻痺患者である訓練者900が、歩行訓練を行うためのシステムである。訓練者900は、被験者とも呼ばれる。なお、以下の説明における上下方向、左右方向、前後方向は、訓練者900の向きを基準とする方向である。
【0019】
歩行訓練システム1は、主に、全体の骨格を成すフレーム130に取り付けられた制御盤133と、訓練者900が歩行するトレッドミル131と、訓練者900の少なくとも一方の脚に装着された歩行補助装置120とを備える。本実施形態では、少なくとも一方の脚は、訓練者900の麻痺側の脚部である患脚である。
【0020】
フレーム130は、床面に設置されるトレッドミル131上に立設されている。トレッドミル131は、不図示のモータによりリング状のベルト132を回転させる。これにより、ベルト132は、周回軌道に沿って走行する。トレッドミル131は、訓練者900の歩行を促す装置である。歩行訓練を行う訓練者900は、ベルト132に乗り、ベルト132上に形成された歩行面に対して、歩行動作を試みる。
【0021】
フレーム130は、制御盤133、訓練用モニタ138および音声出力部139を支持している。
制御盤133は、検出装置100とシステム制御部200とを収容する。検出装置100は、センサの計測結果から歩行面を歩行する訓練者900の脚の動作状態を検出するコンピュータ装置である。システム制御部200は、制御装置とも呼ばれ、センサやモータの制御を行うコンピュータ装置である。例えばシステム制御部200は、検出装置100が検出した訓練者900の脚の動作状態に基づいて歩行補助装置120の伸展を制御する。
【0022】
訓練用モニタ138は、訓練や測定に関する情報を訓練者900へ呈示する表示装置である。訓練用モニタ138は、例えば液晶パネルである。訓練用モニタ138は、訓練者900がトレッドミル131のベルト132上を歩行しながら視認できるように設置されている。
【0023】
音声出力部139は、訓練や測定に関する情報を音声で出力し、訓練者900に対して報知する。音声出力部139は、例えばスピーカである。音声出力部139は、訓練者900がトレッドミル131のベルト132上を歩行しながら聞こえる位置に設置されている。
【0024】
また、フレーム130は、訓練者900の頭上部前方付近で前側引張部135を、頭上部付近でハーネス引張部112を、頭上部後方付近で後側引張部137を支持している。また、フレーム130は、訓練者900が掴むための手摺り130aを含んでよい。
【0025】
カメラ140は、正面から訓練者900の歩容が認識できる画角で訓練者900を撮像する正面カメラユニットである。カメラ140は、側面から訓練者900の歩容が認識できる画角で訓練者900を撮像する側面カメラユニットを含んでもよい。本実施形態におけるカメラ140は、ベルト132上に立つ訓練者900の頭部を含む全身を捉えられる画角となるようなレンズと撮像素子とのセットを含む。撮像素子は、例えばCMOSイメージセンサであり、結像面に結像した光学像を画像信号に変換する。カメラ140は、訓練用モニタ138の近傍に、訓練者900と相対するように設置される。なおカメラ140が側面カメラユニットを含む場合は、側面カメラユニットは、手摺り130aに、訓練者900を側方から捉えるように設置されてよい。
【0026】
前側ワイヤ134は、一端が前側引張部135の巻取機構に連結されており、他端が歩行補助装置120に連結されている。前側引張部135の巻取機構は、システム制御部200の指示に従って不図示のモータをオン/オフさせることにより、患脚の動きに応じて前側ワイヤ134を巻き取ったり繰り出したりする。同様に、後側ワイヤ136は、一端が後側引張部137の巻取機構に連結されており、他端が歩行補助装置120に連結されている。後側引張部137の巻取機構は、システム制御部200の指示に従って不図示のモータをオン/オフさせることにより、患脚の動きに応じて後側ワイヤ136を巻き取ったり繰り出したりする。このような前側引張部135と後側引張部137の連携した動作により、歩行補助装置120の荷重が患脚の負担とならないように当該荷重を相殺し、更には、設定の程度に応じて患脚の振り出し動作をアシストする。
【0027】
訓練補助者であるオペレータ910は、重度の麻痺を抱える訓練者に対しては、アシストするレベルを大きく設定する。オペレータ910は、歩行訓練システム1の設定項目を選択したり、修正したり、追加したりする権限を有する理学療法士や医師である。アシストするレベルが大きく設定されると、前側引張部135は、患脚の振り出しタイミングに合わせて、比較的大きな力で前側ワイヤ134を巻き取る。訓練が進み、アシストが必要でなくなったら、オペレータは、アシストするレベルを最小に設定する。アシストするレベルが最小に設定されると、前側引張部135は、患脚の振り出しタイミングに合わせて、歩行補助装置120の自重をキャンセルするだけの力で前側ワイヤ134を巻き取る。
【0028】
歩行訓練システム1は、安全装具110、ハーネスワイヤ111、ハーネス引張部112を主な構成要素とする安全装置を備える。安全装具110は、訓練者900の腹部に巻き付けられるベルトであり、例えば面ファスナによって腰部に固定される。ハーネスワイヤ111は、一端が安全装具110に連結されており、他端がハーネス引張部112の巻取機構に連結されているワイヤである。ハーネス引張部112の巻取機構は、不図示のモータをオン/オフさせることにより、ハーネスワイヤ111を巻き取ったり繰り出したりする。このような構成により、安全装置は、訓練者900が体勢を大きく崩した場合に、その動きを検知したシステム制御部200の指示に従ってハーネスワイヤ111を巻き取り、安全装具110により訓練者900の上体を支える。
【0029】
管理用モニタ141は、フレーム130に取り付けられており、オペレータ910が監視および操作するための表示装置である。管理用モニタ141は、例えば液晶パネルであり、その表面には入力部142の一例としてタッチパネルが重畳されている。管理用モニタ141は、訓練・測定の設定に関する各種メニュー項目や、訓練・測定時における各種パラメータ値、訓練時の測定結果などを呈示する。入力部142は、タッチパネルに代えて、キーボード等であってもよい。また、オペレータ910は、入力部142を介して設定項目を選択したり、修正したり、追加したりする。また、管理用モニタ141は、トレッドミル131上の訓練試行位置から、訓練者900がその表示を視認できない位置に設置されている。なお、管理用モニタ141を支持する支持部は、オペレータ910が表示画面を訓練者900に意図的に見せようとする場合に対応すべく、表示面を反転させる回転機構を有していても良い。
【0030】
歩行補助装置120は、訓練者900の患脚に装着され、患脚の膝関節における伸展および屈曲の負荷を軽減することにより訓練者900の歩行を補助する。歩行補助装置120は、歩行訓練によって得られる運脚に関するデータをシステム制御部200に送信したり、システム制御部200からの指示に従って関節部分を駆動させたりする。歩行補助装置120は、転送防止ハーネス装置の一部である安全装具110に取り付けられたヒップジョイント(回転部を有する接続部材)と、ワイヤなどを介して接続しておくこともできる。
【0031】
図2は、歩行補助装置120の一構成例を示す概略斜視図である。歩行補助装置120は、主に、制御ユニット121と、患脚の各部を支える複数のフレームと、を備える。なお、歩行補助装置120は、脚ロボットとも称す。
【0032】
制御ユニット121は、歩行補助装置120の制御を行う補助制御部220を含み、また、膝関節の伸展運動及び屈曲運動を補助するための駆動力を発生させる不図示のモータを含む。患脚の各部を支えるフレームは、上腿フレーム122と、上腿フレーム122に回動自在に連結された下腿フレーム123と、を含む。また、このフレームは、下腿フレーム123に回動自在に連結された足平フレーム124と、前側ワイヤ134を連結するための前側連結フレーム127と、後側ワイヤ136を連結するための後側連結フレーム128と、を含む。
【0033】
上腿フレーム122と下腿フレーム123は、図示するヒンジ軸Ha周りに相対的に回動する。制御ユニット121のモータは、補助制御部220の指示に従って回転して、上腿フレーム122と下腿フレーム123がヒンジ軸Ha周りに相対的に開くように加勢したり、閉じるように加勢したりする。制御ユニット121に収められた角度センサ223は、例えばロータリエンコーダであり、ヒンジ軸Ha周りの上腿フレーム122と下腿フレーム123の成す角を検出する。下腿フレーム123と足平フレーム124は、図示するヒンジ軸Hb周りに相対的に回動する。相対的に回動する角度範囲は、調整機構126によって事前に調整される。
【0034】
前側連結フレーム127は、上腿の前側を左右方向に伸延し、両端で上腿フレーム122に接続するように設けられている。また、前側連結フレーム127には、前側ワイヤ134を連結するための連結フック127aが、左右方向の中央付近に設けられている。後側連結フレーム128は、下腿の後側を左右方向に伸延し、両端でそれぞれ上下に伸延する下腿フレーム123に接続するように設けられている。また、後側連結フレーム128には、後側ワイヤ136を連結するための連結フック128aが、左右方向の中央付近に設けられている。
【0035】
上腿フレーム122は、上腿ベルト129を備える。上腿ベルト129は、上腿フレームに一体的に設けられたベルトであり、患脚の上腿部に巻き付けて上腿フレーム122を上腿部に固定する。これにより、歩行補助装置120の全体が訓練者900の脚部に対してずれることを防止している。
【0036】
図3は、本実施形態にかかるトレッドミルの側面図および上面図である。トレッドミル131は、リング状のベルト132と、プーリ151と、図示しないモータを少なくとも備える。
【0037】
また、ベルト132の内側、すなわちベルト132の、訓練者900が搭乗する面と反対側には、荷重分布センサ150が配置されている。荷重分布センサ150は、トレッドミル131本体に、ベルト132の移動に伴わないで固定されている。
【0038】
荷重分布センサ150は、複数の圧力検出点を有する荷重分布センサシートである。複数の圧力検出点は、立位状態の訓練者900の足裏を支持する歩行面W(載置面)に平行に、マトリックス状に配置されている。また荷重分布センサ150は、歩行前後方向に直交する左右方向において、歩行面Wの中央側に配置される。尚、歩行前後方向とは、ベルト132の走行方向に平行な方向である。荷重分布センサ150は、複数の圧力検出点の出力値を用いることにより、訓練者900の足裏から受ける垂直荷重の大きさと分布とを検出することができる。これにより、荷重分布センサ150は、ベルト132を介して、立位状態の訓練者900の足裏の接地領域(足裏領域)SLの位置や、訓練者900の足裏から受ける荷重の分布を検出する。足裏領域SLの位置は、訓練者900の立ち位置又は踏み込み位置とも呼ばれる。
【0039】
荷重分布センサ150は、検出装置100に接続される。検出装置100は、荷重分布センサ150から計測情報として荷重分布情報を取得し、荷重分布情報に基づいて訓練者900の脚の動作状態を測定する。脚の動作状態は、例えば、踏み込み始めの状態、踏み込みが最大となる状態、又は力の抜き始めの状態等である。検出装置100は、有線又は無線で、システム制御部200に接続されており、測定した動作状態を、システム制御部200に出力する。
【0040】
システム制御部200は、検出装置100から取得した脚の動作状態に基づいて、各種駆動部を制御する。例えば、システム制御部200は、トレッドミル駆動部211と、引張駆動部214と、ハーネス駆動部215と、歩行補助装置120の補助制御部220に、有線又は無線で接続される。そしてシステム制御部200は、トレッドミル駆動部211、引張駆動部214、及びハーネス駆動部215に駆動信号を送信し、補助制御部220に制御信号を送信する。
【0041】
トレッドミル駆動部211は、トレッドミル131のベルト132を回転させる、上述したモータ及びその駆動回路を含む。システム制御部200は、トレッドミル駆動部211へ駆動信号を送ることにより、ベルト132の回転制御を実行する。システム制御部200は、例えば、オペレータ910によって設定された歩行速度に応じて、ベルト132の回転速度を調整する。或いは、システム制御部200は、検出装置100から出力される訓練者900の脚の動作状態に応じて、ベルト132の回転速度を調整する。
【0042】
引張駆動部214は、前側引張部135に設けられた、前側ワイヤ134を引張するためのモータ及びその駆動回路と、後側引張部137に設けられた、後側ワイヤ136を引張するためのモータ及びその駆動回路と、を含む。システム制御部200は、引張駆動部214へ駆動信号を送ることにより、前側ワイヤ134の巻き取り及び後側ワイヤ136の巻き取りをそれぞれ制御する。また、システム制御部200は、巻き取り動作に限らず、モータの駆動トルクを制御することにより、各ワイヤの引張力を制御する。さらに、システム制御部200は、例えば、検出装置100から出力される訓練者900の脚の動作状態に基づいて、患脚が立脚状態から遊脚状態に切り替わるタイミングを同定し、そのタイミングに同期して各ワイヤの引張力を増減させることにより、患脚の動作をアシストする。
【0043】
ハーネス駆動部215は、ハーネス引張部112に設けられた、ハーネスワイヤ111を引張するためのモータ及びその駆動回路を含む。システム制御部200は、ハーネス駆動部215へ駆動信号を送ることにより、ハーネスワイヤ111の巻き取り、及び、ハーネスワイヤ111の引張力を制御する。システム制御部200は、例えば、訓練者900の転倒を予測した場合に、ハーネスワイヤ111を一定量巻き取って、訓練者の転倒を防止する。
【0044】
補助制御部220は、例えばMPU(micro processor unit)であり、システム制御部200から与えられた制御プログラムを実行することにより、歩行補助装置120の制御を実行する。また、補助制御部220は、歩行補助装置120の状態を、システム制御部200へ通知する。また、補助制御部220は、システム制御部200からの指令を受けて、歩行補助装置120の起動や停止等の制御を実行する。
【0045】
補助制御部220は、制御ユニット121のモータ及びその駆動回路を含む関節駆動部へ駆動信号を送ることにより、上腿フレーム122と下腿フレーム123がヒンジ軸Ha周りに相対的に開くように加勢したり、閉じるように加勢したりする。このような動作により、膝の伸展動作及び屈曲動作をアシストしたり、膝折れを防止したりする。補助制御部220は、ヒンジ軸Ha周りの上腿フレーム122と下腿フレーム123の成す角を検出する角度センサ(不図示)から、検出信号を受け取って膝関節の開き角を演算する。
【0046】
ここで、荷重分布センサ150は、互いに対向する2枚の電極シート150a,150bの間に、弾性体シート150cが挿入される構成をとる。弾性体シート150cは、シリコンスポンジシートやウレタンフォーム等の弾性部材である。弾性体シート150cは、粘性の影響で、外力が与えられた場合の応力の伝達速度が遅く、徐々に変形するという性質がある。
【0047】
図4は、入力荷重に対する荷重分布センサ150の出力特性の一例を示す図である。本図は、荷重分布センサ150に一定の荷重値p
1(kPa)の外力(入力荷重)を継続的に加えている場合の、荷重分布センサ150の出力値の経時変化を示している。本図に示すように、荷重分布センサ150の出力値は、外力を加え始めの初期の時点では、実際に加えられている外力の荷重値よりも低い値となる。これは、荷重分布センサ150に含まれる弾性体シート150cの存在により、荷重分布センサ150内を応力が遅れて伝達され、その結果、荷重分布センサ150の出力に遅延が生じるからである。しかし荷重分布センサ150の出力値は、時間経過とともに、加えている外力の荷重値p
1に漸近していく。つまり、時間経過とともに、荷重分布センサ150の出力値と、外力の荷重値p
1との間の差分が小さくなっていく。そして外力が加えられ始めてから所定時間経過後に、荷重分布センサ150の出力値は、実際に加えている荷重値p
1と同程度の値に安定する。
【0048】
図5は、歩行中の訓練者900の片脚の足裏から荷重を受けた場合の荷重分布センサ150の出力特性の一例を示す図である。本実施形態では、片脚は患脚である。本図の縦軸は、立脚期の脚の足裏から受ける荷重値(kPa)であり、横軸は、時間(s)を示している。
【0049】
破線は、訓練者900の、着地から離地までの立脚期の脚の足裏から、荷重分布センサ150に実際に加えられる荷重値を示している(「実際の荷重」)。「実際の荷重」では、踏み込み始めてから徐々に荷重値が増加し、ある時点で荷重値が最大となる。この時点で全ての体重を立脚期の脚で支えるため、荷重値の最大値は、訓練者900の体重と略等しくなる。その後、立脚後期において、訓練者900は徐々に力を抜き始めるため、荷重値は徐々に減少する。そして訓練者900は、脚を地面から離地して遊脚期に移行させる。
【0050】
実線は、荷重分布センサ150の出力に基づいて算出された、訓練者900の立脚期の脚の足裏から受ける荷重値を示す(「センサ出力」)。「センサ出力」は、荷重分布センサ150の出力のうち、立脚期の脚の足裏から受ける荷重値を抽出することにより得られる。具体的には、「センサ出力」は、立脚期の脚の足裏領域SL内に位置する各圧力検出点から出力された荷重値の和を算出することにより得られる。
【0051】
ここで、立脚初期において「センサ出力」が増加し、そして第1判定値を超えた場合(点P1)、検出装置100は、第1動作状態を検出する。第1動作状態は、踏み込み始めの状態である。そして「センサ出力」が最大となった場合(点PM)、検出装置100は、最大状態を検出する。最大状態は、踏み込みが最大となる状態である。また第2判定値は、第1判定値より大きく、訓練者900の体重値よりも小さい値である。そして「センサ出力」が点PM以降、徐々に減少し、第2判定値を下回った場合(点P2)、検出装置100は、第2動作状態を検出する。第2動作状態は、力の抜き始めの状態である。そしてシステム制御部200は、第2動作状態が検出されたことに応じて、補助制御部220に制御信号を送信して、歩行補助装置120の伸展を制御する。或いは、システム制御部200は、第2動作状態が検出されたことに応じて、引張駆動部214に駆動信号を送信して、患脚の動作をアシストする。
【0052】
ここで、「センサ出力」は、上述した荷重分布センサ150の出力特性の影響で、出力が安定するまで実際に加えられる荷重値よりも低い値を示す。したがって、「センサ出力」と「実際の荷重」との間には乖離が生じる。このことは、第2動作状態の誤検出の原因となる。これを解決するために、本実施形態では、検出装置100は、第1動作状態が検出されてから、「センサ出力」を所定量オフセットする。以下では、「オフセットする」ことを、「補正する」又は「オフセット補正をする」と呼ぶことがある。
【0053】
図6は、本実施形態にかかるオフセット量の一例を説明するための図である。たとえば、検出装置100は、「センサ出力」(細い実線)に、時間経過とともに単調に減少するオフセット量(破線)を加えることで、「センサ出力」をオフセットする。本図では、「オフセット後のセンサ出力」を、太い実線で示している。オフセット量の決定方法については、後述する。具体的には、検出装置100は、第1動作状態が検出されたことに応じて「センサ出力」のオフセットを開始する(点P
1’)。これにより、「オフセット後のセンサ出力」が、「(オフセット前の)センサ出力」と比較して、「実際の荷重」に近づく。したがって、「オフセット後のセンサ出力」の第2動作状態(点P
2’)の検出タイミングは、「(オフセット前の)センサ出力」の第2動作状態(点P
2)の検出タイミングよりも、誤差が小さくなる。したがって、第2動作状態の誤検出を回避し、検出精度を向上させることができる。
【0054】
本例では、オフセット量が所定時間経過後に0となるため、検出装置100は、オフセットを開始した後、オフセットを解除(終了)しなくてよい。しかし、検出装置100は、オフセット量が所定値以下になった場合、オフセットを解除するようにしてもよい。所定値は0であってもよいし、0より大きい値であってもよい。
【0055】
図7は、本実施形態にかかる検出装置100の概略構成を示すブロック図である。検出装置100は、取得部101と、算出部102と、判定部103と、補正部104と、出力部105と、記憶部106とを備える。検出装置100の各構成要素は、互いに接続されている。
【0056】
取得部101は、荷重分布センサ150から、計測情報として荷重分布情報を取得する。例えば取得部101は、荷重分布センサ150に接続され、荷重分布センサ150から荷重分布情報を取得する。そして取得部101は、荷重分布センサ150の荷重分布情報を算出部102に供給する。
【0057】
また取得部101は、入力部142に接続され、入力部142から入力された、オフセットフィルタを生成するための基礎情報を取得する。オフセットフィルタは、所定時点で適用させるオフセット量を決定するためのフィルタである。本実施形態では、オフセットフィルタは、オフセット量が時間経過とともに減少する特性を有する。オフセットフィルタを生成するための基礎情報は、入力荷重に対する荷重分布センサ150の出力特性を示す情報を少なくとも含む。例えば、出力特性を示す情報は、入力荷重に対する出力値の時間関数を含んでよい。また出力特性を示す情報は、荷重分布センサ150に含まれる弾性体シート150cの弾性率、弾性体シート150cの粘性係数、及び弾性体シート150cの厚みを含んでもよい。またオフセットフィルタを生成するための基礎情報は、訓練者900の属性情報、例えば訓練者900の体重値の情報を含む。基礎情報は、これに加えて又は代えて訓練者900の性別、年齢、足長情報、及びリハビリステージレベル等の、その他の属性情報を含んでよい。また取得部101は、入力部142から受け付けた基礎情報を、補正部104に供給する。
【0058】
算出部102は、荷重分布情報に基づいて、訓練者900の一方の脚の足裏の位置に対応する足裏領域SLの総荷重値を算出する。具体的には、まず算出部102は、荷重分布情報から、訓練者900の一方の脚の足裏領域SL内に位置する圧力検出点の荷重値を抽出する。そして算出部102は、抽出した荷重値に基づいて、当該足裏領域SLの荷重の和である総荷重値を算出する。尚、一方の脚は、動作状態の測定対象となる脚であり、対象脚と呼ばれることがある。対象脚は、患脚であってよい。算出部102は、算出した総荷重値の情報を、判定部103に供給する。
【0059】
判定部103は、算出部102が算出した総荷重値、及び後述する補正部104によるオフセット後の総荷重値の少なくとも1つに基づいて、訓練者900の対象脚の各種動作状態を検出する。例えば、判定部103は、算出部102が算出した総荷重値が増加傾向にあり、かつ第1判定値以上となった場合、対象脚の動作状態が第1動作状態であると判定する。総荷重値が増加傾向にあるとは、隣接する計測タイミング間の荷重分布センサ150の出力に基づく総荷重値の変化量が正であることであってもよいし、所定時間内の荷重分布センサ150の出力に基づく総荷重値が正の相関を有することであってもよい。尚、判定部103は、これに代えて、対象脚の足裏領域SLの面積が所定面積閾値以上となった場合、対象脚の動作状態が第1動作状態であると判定してもよい。つまり、判定部103は、足裏領域の面積が増加傾向であり、かつ所定面積閾値以上である場合に、対象脚の動作状態が第1動作状態であると判定してよい。足裏領域SLの面積が増加傾向にあるとは、隣接する計測タイミング間の対象脚の足裏領域SLの面積の変化量が正であることであってもよいし、所定時間内の対象脚の足裏領域SLの面積が正の相関を有することであってもよい。尚、第1動作状態では、算出部102が算出した総荷重値が第2判定値未満であることは言うまでもない。
【0060】
そして判定部103は、算出部102が算出した総荷重値が最大となった場合、対象脚の動作状態が最大状態であると判定する。例えば、判定部103は、算出部102が算出した総荷重値が増加傾向から減少傾向に変化した場合、算出部102が算出した総荷重値が最大となったと判定してよい。
【0061】
また例えば、判定部103は、補正部104によるオフセット補正後の総荷重値が減少傾向にあり、かつ第2判定値未満となった場合、対象脚の動作状態が第2動作状態であると判定する。補正部104によるオフセット補正後の総荷重値は、補正部104によるオフセット補正がなされている場合はオフセットされた総荷重値に等しく、補正部104によるオフセット補正が解除されている場合は、算出部102によって算出された総荷重値に等しい。減少傾向とは、隣接する計測タイミング間の荷重分布センサ150の出力に基づく総荷重値の変化量が負であることであってもよいし、所定時間内の荷重分布センサ150の出力に基づく総荷重値が負の相関を有することであってもよい。判定部103は、出力部105に判定結果(検出結果)を供給する。
【0062】
補正部104は、オフセットフィルタを生成するための基礎情報に基づいて、オフセットフィルタを生成する。例えば、補正部104は、入力荷重に対する荷重分布センサ150の出力特性を示す情報と、訓練者900の属性情報とに基づいて、オフセットフィルタを生成する。荷重分布センサ150の出力特性は、入力荷重のパターンに応じて変化する。したがってこのような構成をとることにより、訓練者900の属性から推定される入力荷重のパターンに応じた荷重分布センサ150の出力特性を、オフセット量に反映させることが可能となる。本実施形態では、補正部104は、入力荷重に対する荷重分布センサ150の出力特性を示す情報と、訓練者900の体重値とに基づいて、オフセットフィルタを生成する。補正部104は、入力荷重を体重値から推定することで、容易かつ精度よくオフセットフィルタを生成できる。
【0063】
そして補正部104は、生成したオフセットフィルタで、総荷重値をオフセットする。具体的には、補正部104は、対象脚の動作状態が第1動作状態であると判定されたことに応じて、算出部102によって算出された総荷重値に対する、オフセットフィルタを用いたオフセットを開始する。これにより、総荷重値を実際の荷重に近づけることができるため、力の抜き始めである第2動作状態の誤検出を回避する等、動作状態の検出精度を向上させることができる。
【0064】
出力部105は、判定部103から供給された検出結果に基づく制御信号を、システム制御部200に出力する。本実施形態では、出力部105は、第2動作状態が検出された場合に、第2動作状態が検出されたことを示す制御信号をシステム制御部200に出力する。しかしこれに限らず、出力部105は、第1動作状態又は最大状態が検出された場合にも、動作状態に応じた制御信号をシステム制御部200に出力してよい。
【0065】
記憶部106は、検出装置100の処理に必要な情報や、生成した情報を格納する記憶媒体である。
【0066】
図8は、本実施形態にかかる検出方法の手順を示すフローチャートである。まず取得部101は、入力部142を介して、訓練者900又はオペレータ910から、基礎情報を取得する(ステップS10)。そして補正部104は、基礎情報に基づいてオフセットフィルタを生成する(ステップS11)。
【0067】
図9は、本実施形態にかかるオフセットフィルタの一例を示す図である。
図9に示すオフセットフィルタf(t)は、オフセット量についての時間tの関数である。オフセットフィルタf(t)は、オフセット量の初期値がo
1(>0kPa)であり、時間経過とともにオフセット量が減少し、予め定められた時間t
1でオフセット量が0(kPa)となるフィルタであってよい。補正部104は、基礎情報に基づいて、初期値o
1、時間t
1及び傾きを決定し、オフセットフィルタf(t)を生成してよい。尚、オフセットフィルタがオフセット量についての時間tの関数である場合、補正部104は、総荷重値に、現在時点におけるオフセットフィルタの値を加算することで、オフセット補正を実行してよい。
【0068】
図10は、本実施形態にかかるオフセットフィルタの他の例を示す図である。
図10に示すオフセットフィルタg(t)は、オフセット係数についての時間tの関数である。オフセットフィルタg(t)は、オフセット係数の初期値がo
2(>1)であり、時間経過とともにオフセット係数が減少し、予め定められた時間t
2でオフセット量が1となるフィルタであってよい。補正部104は、基礎情報に基づいて、初期値o
2、時間t
2及び傾きを決定し、オフセットフィルタg(t)を生成してよい。尚、オフセットフィルタがオフセット係数についての時間tの関数である場合、補正部104は、総荷重値に、オフセットフィルタの値を乗算することで、オフセット補正を実行してよい。
【0069】
図8に戻り、説明を続ける。検出装置100は、計測を開始するか否かを判定する(ステップS12)。計測を開始するとは、歩行訓練システム1による訓練が開始される場合や、オペレータ910の操作により検出装置100の検出処理が開始する場合等が挙げられる。検出装置100は、計測を開始すると判定するまでステップS12に示す処理を繰り返し、計測を開始すると判定した場合(ステップS12でYES)、処理をステップS13に進める。
【0070】
取得部101は、荷重分布センサ150から計測情報として荷重分布情報を取得する(ステップS13)。荷重分布情報には、互いに位置が異なる圧力検出点の各々に対応する荷重値の情報が含まれる。そして取得部101は、荷重分布情報を算出部102に供給する。次に、算出部102は、荷重分布情報に基づいて、対象脚の足裏領域SLを推定し(ステップS14)、対象脚の足裏領域SLの荷重値を抽出する。そして算出部102は、抽出した対象脚の足裏領域SLの荷重値の和である総荷重値を算出する(ステップS15)。
【0071】
ここで、
図11は、本実施形態にかかる足裏領域SLの推定処理を説明するための図である。例えば、算出部102は、各圧力検出点の位置情報及びその圧力検出点から検出された荷重値に基づいて、
図11のような荷重分布マップを生成する。算出部102は、圧力検出点から検出された荷重値から検出閾値以上の荷重値の位置情報を抽出し、荷重分布マップを生成してよい。そして、算出部102は、荷重分布マップに基づいて、足裏領域SLを検出する。ここで、対象脚が右脚であるとする。算出部102は、荷重分布センサ150の左右方向の中心軸D1に対する足裏領域SLの位置により、足裏領域SLが対象脚であるか否かを判定する。例えば、算出部102は、足裏領域SLの重心の位置を算出し、重心の位置が中心軸D1よりも右である場合、足裏領域SLが対象脚の足裏領域SLであると判定する。そして足裏領域SLは、足裏領域SLに含まれる荷重値の和を、総荷重値として算出する。尚、荷重値が抽出される領域は、足裏領域SLに限らず、足裏領域SLを取り囲む所定の領域A1であってもよい。
【0072】
また、算出部102は、正面カメラユニットであるカメラ140及び側面カメラユニットが訓練者900の歩容を撮影することで生成した撮影画像に基づいて、検出された足裏領域SLが対象脚の足裏領域SLであるか否かを判定してもよい。例えば、撮影画像に右脚を前に出している訓練者900が含まれる場合、又は撮影画像に右脚を接地させている訓練者900が含まれる場合、算出部102は、検出された足裏領域SLが対象脚の足裏領域SLであると判定する。
【0073】
尚、上述の説明では、算出部102が1つの足裏領域SLを検出した場合、つまり片脚の足裏が接地している場合について説明した。しかし、算出部102が2つの足裏領域SLを検出した場合、すなわち両脚の足裏が接地している場合は、2つの足裏領域SLの相対位置に基づいて、対象脚の足裏領域SLを推定してよい。例えば、算出部102は、2つの足裏領域SLのうち、右側に位置する足裏領域SLを、対象脚の足裏領域SLとしてよい。またこの場合も、算出部102は、撮影画像に基づいて対象脚の足裏領域SLを推定してよい。
【0074】
また訓練者900は右脚の足裏及び左脚の足裏を交互に接地させて歩行するため、算出部102は、歩行サイクルに応じて、対象脚の足裏領域SLを推定してもよい。
【0075】
図8に戻り、説明を続ける。ステップS16において、判定部103は、総荷重値が増加傾向であるか否かを判定する。ここで、総荷重値は、補正部104がオフセット補正中でない場合、つまりオフセット量が0である場合、算出部102が算出した総荷重値である。また総荷重値は、補正部104がオフセット補正中である場合、つまりオフセット量が0でない場合、オフセット後の総荷重値である。判定部103は、総荷重値が増加傾向であると判定した場合(ステップS16でYES)、総荷重値が第1対象期間で初めて第1判定値以上になったか否かを判定する(ステップS17)。第1対象期間とは、現歩行サイクルのうち、総荷重値が増加傾向である期間を示す。判定部103は、総荷重値が第1対象期間で未だ第1判定値以上になっていない、あるいは第1対象期間で過去に総荷重値が第1判定値以上になったことがあると判定した場合(ステップS17でNO)、処理をステップS23に進める。一方、判定部103は、第1対象期間で初めて総荷重値が第1判定値以上になったと判定した場合(ステップS17でYES)、対象脚の動作状態が第1動作状態であると判定する(ステップS18)。そして補正部104は、総荷重値に対して、オフセットフィルタを用いたオフセット補正を開始し(ステップS19)、処理をステップS23に進める。
【0076】
判定部103は、総荷重値が増加傾向でないと判定した場合(ステップS16でNO)、総荷重値が第2対象期間で初めて第2判定値未満になったか否かを判定する(ステップS20)。第2対象期間は、現歩行サイクルのうち、総荷重値が減少傾向である期間を示す。判定部103は、総荷重値が第2対象期間で未だ第2判定値未満になっていない、あるいは第2対象期間で過去に総荷重値が第2判定値未満になったことがあると判定した場合(ステップS20でNO)、処理をステップS23に進める。一方、判定部103は、総荷重値が第2対象期間で初めて第2判定値未満になったと判定した場合(ステップS20でYES)、対象脚の動作状態が第2動作状態であると判定する(ステップS21)。そして出力部105は、第2動作状態が検出されたことを示す制御信号をシステム制御部200に出力し(ステップS22)、処理をステップS23に進める。
【0077】
ステップS23において、検出装置100は、計測を終了するか否かを判定する。計測を終了するとは、歩行訓練システム1による訓練が終了する場合や、オペレータ910の操作により検出装置100の検出処理が終了する場合等が挙げられる。検出装置100は、計測を終了すると判定するまでステップS13~S23に示す処理を繰り返す。
【0078】
尚、
図8は、検出装置100がオフセット補正を解除しない場合のフローを示している。しかし、検出装置100がオフセット補正を解除する場合は、検出装置100は、例えばステップS23の直前(つまり、ステップS19、S22及びS17でNOの場合の次)で、以下のような処理を実行してもよい。検出装置100の補正部104は、オフセット量が所定値以下である場合、オフセット補正を解除し、処理をステップS23に進めてよい。一方、補正部104は、オフセット量が所定値より大きい場合、オフセット補正を引き続き実行し、処理をステップS23に進めてよい。
【0079】
このように本実施形態によれば、検出装置100は、計測対象となる脚の動作状態の検出精度、特に力の抜き始めのタイミングの検出精度を向上させることができる。
【0080】
尚、上述の説明では、計測開始前の
図8のステップS11において、補正部104はが基礎情報に基づいてオフセットフィルタを生成するとした。しかしこれに代えて又は加えて、補正部104は、計測中にオフセットフィルタを生成してもよい。例えば補正部104は、対象脚の動作状態が第1動作状態であると判定された後のステップS15とS16の間で、訓練者900の足裏の接地初期の状態に基づいてオフセットフィルタを生成してよい。そして補正部104は、生成したオフセットフィルタを用いてオフセット補正を実行してよい。足裏の接地初期の状態は、かかとから接地した場合の「かかと接地状態」、又はつま先から接地した場合の「つま先接地状態」であってよい。足裏の接地初期の状態がいずれの状態であるかは、算出部102により判定され、算出部102から補正部104に足裏の接地初期の状態の情報が供給されてよい。例えば算出部102は、足裏領域SLの面積の経時変化及びトレッドミル131の走行速度に基づいて、足裏領域SLが、検出から時間とともに歩行後方に広がっていると判定した場合は、足裏の接地初期の状態を「つま先接地状態」と判定してよい。一方で、算出部102は、足裏領域SLが、検出されてから時間とともに歩行前方に広がっている場合は、足裏の接地初期の状態を「かかと接地状態」と判定してよい。尚、「つま先接地状態」及び「かかと接地状態」に対応するオフセットフィルタは、互いに、初期値、傾き、及び時間のうち少なくとも1つが異なっていてよい。これにより、補正部104は、訓練者900の歩行状態に適したオフセット補正を実行することができる。
【0081】
図12は、本実施形態にかかる検出装置及びシステム制御部200として用いられるコンピュータの概略構成図である。
コンピュータ1900は、主要なハードウェア構成として、プロセッサ1000と、ROM1010(Read Only Memory)と、RAM1020(Random Access Memory)と、インターフェース部1030(IF;Interface)とを有する。プロセッサ1000、ROM1010、RAM1020およびインターフェース部1030は、データバスなどを介して相互に接続されている。
【0082】
プロセッサ1000は、制御処理および演算処理等を行う演算装置としての機能を有する。プロセッサ1000は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(field-programmable gate array)、DSP(digital signal processor)またはASIC(application specific integrated circuit)並びにこれらの組み合わせであってよい。ROM1010は、プロセッサ1000によって実行される制御プログラムおよび演算プログラム等を記憶するための機能を有する。RAM1020は、処理データ等を一時的に記憶するための機能を有する。インターフェース部1030は、有線または無線を介して外部と信号の入出力を行う。また、インターフェース部1030は、ユーザによるデータの入力の操作を受け付け、ユーザに対して情報を表示する。例えば、インターフェース部1030は、荷重分布センサ150、入力部142およびシステム制御部200と通信を行う。
【0083】
上述の例において、プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、ROM1010の一例として様々な非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0084】
上述の実施形態ではコンピュータ1900は、パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等を含むコンピュータシステムで構成される。しかしこれに限らず、コンピュータ1900は、LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)のサーバ、コンピュータ(パソコン)通信のホスト、インターネット上に接続されたコンピュータシステム等によって構成されることも可能である。また、ネットワーク上の各機器に機能分散させ、ネットワーク全体でコンピュータ1900を構成することも可能である。したがって、検出装置の構成要素がそれぞれ異なる機器に分散されていてもよい。
【0085】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施形態では、検出装置100は、対象脚として患脚の動作状態を検出したが、健脚の動作状態を検出してもよい。
また、検出装置100は、左右各々の脚の動作状態を検出してもよい。この場合、各脚について、
図8のステップS13~ステップS23に示す処理が実行される。
【0086】
また、上述の実施形態では、第2判定値は、第1判定値より大きいとしたが、第1判定値と等しくてもよい。
【0087】
また、訓練者900は、両脚に歩行補助装置120を装着して訓練を実施してもよい。或いは、訓練者900は、何れの脚にも歩行補助装置120を装着していなくてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 歩行訓練システム
100 検出システム(検出装置)
101 取得部
102 算出部
103 判定部
104 補正部
105 出力部
106 記憶部
110 安全装具
111 ハーネスワイヤ
112 ハーネス引張部
120 歩行補助装置
121 制御ユニット
122 上腿フレーム
123 下腿フレーム
124 足平フレーム
126 調整機構
127 前側連結フレーム
127a 連結フック
128 後側連結フレーム
128a 連結フック
129 上腿ベルト
130 フレーム
130a 手摺り
131 トレッドミル
132 ベルト
133 制御盤
134 前側ワイヤ
135 前側引張部
136 後側ワイヤ
137 後側引張部
138 訓練用モニタ
139 音声出力部
140 カメラ
141 管理用モニタ
142 入力部
150 荷重分布センサ
150a 電極シート
150b 電極シート
150c 弾性体シート
151 プーリ
200 システム制御部
220 補助制御部
900 訓練者(被験者)
910 オペレータ
1000 プロセッサ
1010 ROM
1020 RAM
1030 インターフェース部(IF)
1900 コンピュータ
SL 足裏領域
W 歩行面