(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20241029BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A01B69/00 302
A01B69/00 303M
A01M7/00 D
(21)【出願番号】P 2021214140
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上島 徳弘
(72)【発明者】
【氏名】黒田 恭正
(72)【発明者】
【氏名】永井 真人
(72)【発明者】
【氏名】赤松 克利
(72)【発明者】
【氏名】長尾 康史
(72)【発明者】
【氏名】米田 彩美
(72)【発明者】
【氏名】浜野 友佑
(72)【発明者】
【氏名】阪田 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 伸芳
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-010636(JP,A)
【文献】特開2013-201927(JP,A)
【文献】特開2017-195906(JP,A)
【文献】特表昭60-500856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00-69/08
B62D 49/00
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体
(1)の位置座標を取得する位置情報取得装置(140)を設け、該走行車体(1)の走行出力を変更する変速装置(30)を設け、該走行車体(1)を操舵操作する操舵部材(6)を設け、該操舵部材(6)を作動させて
走行車体(1)を直進走行させる自動直進装置(401)を設け、制御装置(200)を設けると共に、
走行車体(1)の自動直進走行のための開始基準点(A)と終了基準点(B)を取得する操作部材(402)を設けた作業車両において、
前記変速装置(30)は可変容量モータ(30a)を有し、前記制御装置(200)で可変容量モータ(30a)の容量を増減制御可能とし、
前記開始基準点(A)と終了基準点(B)を取得するための手動での直進走行時に前記操作部材(402)を操作して直進の開始基準点(A)を取得すると、前記制御装置(200)は可変容量モータ(30a)の容量を低下させ、直進の
終了基準点(B)を取得
後の手動旋回走行時には、可変容量モータ(30a)の容量を増大させることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御装置(200)は、前記操作部材(402)を第1の方向(W1)に操作することで前記開始基準点(A)と終了基準点(B)を各々取得し、前記開始基準点(A)と終了基準点(B)が取得された状態で前記操作部材(
402)を第2の方向(W2)に操作すると前記自動直進装置(401)による自動直進走行が「入」になると共に、自動直進走行が「入」であるときに前記操作部材(402)を第2の方向(W2)に操作すると前記自動直進装置(401)が「切」になる構成とし、
前記制御装置(200)は、自動直進走行が「入」になると前記可変容量モータ(30a)の容量を低下させ、
次工程の自動直進走行へ移行するための手動旋回走行時に自動直進走行が「切」になると前記可変容量モータ(30a)の容量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記変速装置(30)に第1負荷センサ(310)を設け、前記制御装置(200)は、前記位置情報取得装置(140)が取得する位置情報と該第1負荷センサ(310)の検出値に基づき負荷作業マップ(LM)を作成可能とし、
該負荷作業マップ(LM)に基づき前記走行車体(1)で作業を行う際、前記制御装置(200)は、記録された負荷よりも第1負荷センサ(310)の検出値が小さいとき、前記可変容量モータ(30a)の容量を増大させ、記録された負荷よりも第1負荷センサ(310)の検出値が大きいとき、前記可変容量モータ(30a)の容量を低下させることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記走行車体(1)
の車軸に第2負荷センサ(340)を設け、前記制御装置(200)は、該第2負荷センサ(340)の検出する負荷が所定値以上を超えると前記可変容量モータ(30a)の容量を反比例して低下させ、
該第2負荷センサ(340)の検出する負荷が所定値未満になると前記可変容量モータ(30a)の容量を反比例して増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行車体(1)に、圃場に供給する液剤を貯留する
薬液タンク(9)を設け、該
薬液タンク(9)の重量を検出する重量センサ(350)を設け、
前記制御装置(200)は、該重量センサ(350)の検出する
薬液タンクの重量に合わせて前記可変容量モータ(30a)の容量を増減させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の
作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動直進走行と手動旋回走行を繰り返しながら対地作業を行う、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車両には、走行車体に位置情報取得アンテナを設け、作業場所内で開始基準点と終了基準点の取得作業を行う操作レバーを設けると共に、取得した開始基準点と終了基準点から直進基準線を生成し、この直進基準線と現在の位置情報に基づきハンドルを自動的に操舵して、自動直進走行を行わせる直進アシスト装置が搭載されているものがある(特許文献1)。
【0003】
この作業車両で作業を行う際、作業者は作業条の一側端部で直進アシスト装置を入にして走行車体を自動直進させ、作業条の他側端部で直進アシスト装置を切り、ハンドルを手動操作させて次の条に移動し、再度直進アシスト装置を入にして走行車体を自動直進させ、という操作を繰り返す。
【0004】
これにより、直進走行時に作業者はハンドルを操作して走行車体の走行位置を直進に近付くように補正する必要がなく、労力が軽減されると共に、進路上の様子や、作業の結果判断に注力しやすく、作業精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、走行車体に搭載されている、変速レバーの操作で走行出力を増減させることにより、設定している変速伝動機構の範囲内で車速を変更する油圧式無段変速装置に搭載されているモータが固定容量(出力)式であるので、このモータの出力が高く設定されていると、旋回走行時には地面の抵抗に負けずスムーズに次の作業条まで移動できるものの、直進走行時にはトルクが余分に高く、余分に燃料が消費されてしまう問題や、軟らかい地面に走行輪が抉り込むことで、走行輪が直進方向からズレた方向を向き、直進アシスト装置で進路を戻す際に余分な距離を走行する問題が生じ得る。
【0007】
また、このモータの出力が低く設定されていると、直進アシスト装置によって自動直進しているときは軟らかい地面に走行輪が抉り込むことなく安定した走行ができ、必要な燃料消費で走行ができるものの、旋回走行時に地面の抵抗で走行が妨げられ、旋回走行に余分な時間を要したり、旋回軌跡を変更して次の作業条に適切に到達できなくなったりする問題が生じ得る。
【0008】
本発明は、従来の課題を考慮し、直進走行時、旋回走行時に各々適切な出力変更が行われることで、燃費良く安定した走行が可能な作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、走行車体(1)の位置座標を取得する位置情報取得装置(140)を設け、該走行車体(1)の走行出力を変更する変速装置(30)を設け、該走行車体(1)を操舵操作する操舵部材(6)を設け、該操舵部材(6)を作動させて走行車体(1)を直進走行させる自動直進装置(401)を設け、制御装置(200)を設けると共に、走行車体(1)の自動直進走行のための開始基準点(A)と終了基準点(B)を取得する操作部材(402)を設け、自動直進走行と手動旋回走行を繰り返しながら対地作業を行う作業車両において、
前記変速装置(30)は可変容量モータ(30a)を有し、前記制御装置(200)で可変容量モータ(30a)の容量を増減制御可能とし、
前記開始基準点(A)と終了基準点(B)を取得するための手動での直進走行時に前記操作部材(402)を操作して直進の開始基準点(A)を取得すると、前記制御装置(200)は可変容量モータ(30a)の容量を低下させ、直進の終了基準点(B)を取得後の手動旋回走行時には、可変容量モータ(30a)の容量を増大させることを特徴とする作業車両とした。
【0010】
請求項2の発明は、前記制御装置(200)は、前記操作部材(402)を第1の方向(W1)に操作することで前記開始基準点(A)と終了基準点(B)を各々取得し、前記開始基準点(A)と終了基準点(B)が取得された状態で前記操作部材(402)を第2の方向(W2)に操作すると前記自動直進装置(401)による自動直進走行が「入」になると共に、自動直進走行が「入」であるときに前記操作部材(402)を第2の方向(W2)に操作すると前記自動直進装置(401)が「切」になる構成とし、
前記制御装置(200)は、自動直進走行が「入」になると前記可変容量モータ(30a)の容量を低下させ、次工程の自動直進走行へ移行するための手動旋回走行時に自動直進走行が「切」になると前記可変容量モータ(30a)の容量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の作業車両とした。
【0011】
請求項3の発明は、前記変速装置(30)に第1負荷センサ(310)を設け、前記制御装置(200)は、前記位置情報取得装置(140)が取得する位置情報と該第1負荷センサ(310)の検出値に基づき負荷作業マップ(LM)を作成可能とし、該負荷作業マップ(LM)に基づき前記走行車体(1)で作業を行う際、前記制御装置(200)は、記録された負荷よりも第1負荷センサ(310)の検出値が小さいとき、前記可変容量モータ(30a)の容量を増大させ、記録された負荷よりも第1負荷センサ(310)の検出値が大きいとき、前記可変容量モータ(30a)の容量を低下させることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両とした。
【0012】
請求項4の発明は、前記走行車体(1)の車軸に第2負荷センサ(340)を設け、前記制御装置(200)は、該第2負荷センサ(340)の検出する負荷が所定値以上を超えると前記可変容量モータ(30a)の容量を反比例して低下させ、該第2負荷センサ(340)の検出する負荷が所定値未満になると前記可変容量モータ(30a)の容量を反比例して増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両とした。
【0013】
請求項5の発明は、前記走行車体(1)に、圃場に供給する液剤を貯留する薬液タンク(9)を設け、該薬液タンク(9)の重量を検出する重量センサ(350)を設け、
前記制御装置(200)は、該重量センサ(350)の検出する薬液タンクの重量に合わせて前記可変容量モータ(30a)の容量を増減させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の作業車両とした。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明により、開始基準点(A)の取得操作を行うと可変容量モータ(30a)の容量が低下することにより、直進走行時に低トルクで走行することができ、直進走行時の燃費が向上すると共に、走行時に圃場面を荒らして進行方向をかえって乱すことが防止される。
【0015】
また、終了基準点(B)を取得すると、手動で前記操舵部材(6)を操作して旋回走行が行われることを予測して前記可変容量モータ(30a)の容量が増加することにより、圃場端での旋回走行に十分なトルクを確保でき、圃場面からの抵抗で移動が規制されることが無く、旋回走行に要する時間の軽減が図られる。圃場端での旋回走行に十分なトルクを確保でき、圃場面からの抵抗で移動が規制されることが無く、旋回走行に要する時間の軽減が図られる。
【0016】
請求項2の発明により、請求項1の発明の効果に加えて、一つの操作部材(402)を第1の方向(W1)を第2の方向(W2)に操作できるので、自動直進走行の基準点の取得や入切を片手で操作することができ、操作性が向上すると共に、他の操作部材の配置が不要であり、簡潔な構成を実現できる。
【0017】
また、自動直進走行を「入」操作すると可変容量モータ(30a)の容量が低下することにより、低いトルクで自動直進することにより燃費が向上すると共に、自動直進装置(401)が操舵部材(6)を操作する際に直進方向に向きやすく、作業精度が向上する。
【0018】
また、次工程の自動直進走行へ移行するための手動旋回走行時に自動直進走行を「切」操作すると可変容量モータ(30a)の容量が増加することにより、圃場端での旋回走行に十分なトルクを確保でき、圃場面からの抵抗で移動が規制されることが無く、旋回走行に要する時間の軽減が図られる。
【0019】
請求項3の発明により、請求項1または2の発明の効果に加えて、過去の作業で作成した負荷作業マップ(LM)と現在位置の負荷を比較し、第1負荷センサ(310)が検出する負荷の方が小さい場所では可変容量モータ(30a)の容量を増大させることにより、圃場の負荷に負けないトルクで走行することができ、移動速度が低下することが防止され、作業能率や燃費が向上する。
【0020】
また、第1負荷センサ(310)が検出する負荷の方が大きい場所では可変容量モータ(30a)の容量を低下させることにより、余分なトルクを出すことなく安定した走行ができ、燃費の向上が図られる。
【0021】
請求項4の発明により、請求項1または2の発明の効果に加えて、車軸に設けられた第2負荷センサ(340)の検出する負荷が所定値以上となる場所では、可変容量モータ(30a)の容量を検出値に反比例して低下させてトルクを下げることにより、圃場から受ける負荷に無理に抵抗せず走行できるので、作業能率や燃費が向上する。
【0022】
また、第2負荷センサ(340)の検出する負荷が所定値未満となる場所では、可変容量モータ(30a)の容量を検出値に反比例して増大させてトルクを上げることにより、圃場から受ける負荷に対抗して走行できるので、地面に足を取られることなく旋回走行や前進が可能になる。
【0023】
請求項5の発明により、請求項1から4のいずれか1項の発明の効果に加えて、薬液タンク(9)の重量の増減を重量センサ(350)で検出し、薬液タンクの重量に合わせて可変容量モータ(30a)の容量を増減させることにより、薬液タンクの重量変化にかかわらず安定した走行が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図8】ミッションケースの前側ケースを前方から見た斜視図
【
図9】ミッションケースの前側ケースを内側から見た斜視図
【
図10】ミッションケースの中央ケースを前方から見た斜視図
【
図11】ミッションケースの中央ケースを後方から見た斜視図
【
図12】ミッションケースの後側ケースを内側から見た斜視図
【
図13】ミッションケースの後側ケースを後方から見た斜視図
【
図16】(a)収縮状態のサイドブームを示す要部正面図、(b)収縮状態のサイドブームを示す要部平面図
【
図17】(a)伸長状態のサイドブームを示す要部正面図、(b)伸長状態のサイドブームを示す要部平面図
【
図19】(a)開状態の開閉ノズルを示す要部正面図、(b)切替コックに散布切替ピンが接触した開閉ノズルを示す要部正面図、(c)中間状態の開閉ノズルを示す要部正面図、(d)閉状態の開閉ノズルを示す要部正面図
【
図20】(a)開状態の開閉ノズルを示す要部平面図、(b)切替コックに散布切替ピンが接触した開閉ノズルを示す要部平面図、(c)中間状態の開閉ノズルを示す要部平面図、(d)閉状態の開閉ノズルを示す要部平面図
【
図21】(a)開状態の別構成例の開閉ノズルを示す要部正面図、(b)切替コックに散布切替ピンが接触した別構成例の開閉ノズルを示す要部正面図、(c)中間状態の別構成例の開閉ノズルを示す要部正面図、(d)閉状態の別構成例の開閉ノズルを示す要部正面図
【
図22】(a)開状態の別構成例の開閉ノズルを示す要部平面図、(b)切替コックに散布切替ピンが接触した別構成例の開閉ノズルを示す要部平面図、(c)中間状態の別構成例の開閉ノズルを示す要部平面図、(d)閉状態の別構成例の開閉ノズルを示す要部平面図
【
図23】(a)ノズル同士の薬剤散布範囲の重複を示す要部正面図、(b)ノズル同士の薬剤散布範囲の重複を示す要部平面図
【
図24】
走行車体各部の入力系、出力系を示すブロック図
【
図25】手動操作及び自動制御によるサイドブームの伸縮動作を示すフローチャート
【
図26】薬剤散布作業が行われた箇所に着色が施された状態を示す圃場作業マップを示す概略図
【
図27】隣接条の端部付近に薬剤が重複して散布されるサイドブームの伸縮制御を示すフローチャート
【
図28】サイドブーム端部が隣接条に届いていない状態を示す要部正面図
【
図29】サイドブーム端部が隣接条に一部重複する位置にある状態を示す要部正面図
【
図30】サイドブーム端部が隣接条の散布位置に重複して薬剤散布作業を行う状態を示す要部正面図
【
図31】薬剤散布作業が行われた箇所に着色が施された状態を示す圃場作業マップを示す概略図
【
図32】薬剤散布作業に対応する圃場作業マップの着色制御を示すフローチャート
【
図33】直進アシスト操作レバーを装着したステアリングハンドル周辺を示す要部背面図
【
図34】直進基準線の取得操作を示すフローチャート
【
図35】開始基準点及び終了基準点の削除操作を示すフローチャート
【
図36】直進アシストモードの制御を示すフローチャート
【
図37】開始基準点及び終了基準点の取得に連動して可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【
図38】直進アシストモードの入切に連動して可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【
図39】負荷変動マップの生成と、負荷変動マップと現在位置のトルクを比較して可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【
図40】負荷変動マップの生成と、負荷変動マップと現在位置の負荷センサを比較して可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【
図41】負荷変動マップの生成と、負荷変動マップと現在位置のエンジン回転数を比較して可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【
図42】車軸の負荷をロードセルで検出し、可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【
図43】薬液タンクの重量に基づき、可変出力モータの出力を増減させる制御を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明における実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の実施の態様では、作業車両として、農業用の薬液を散布する防除用の作業車両を例にして説明を行う。
【0026】
本願においては、作業車両の進行方向となる側を前方、その反対側を後方、進行方向の左手側を左方、進行方向の右手側を右方とする。
【0027】
図1及び
図2に示すとおり、作業車
両は、防除用の薬液を散布する車両であり、前輪2と後輪3とを備え、走行車体1の前側に設けられたボンネット4により、エンジン(図示せず)が覆われている。ボンネット4の後方には、操縦部5が設けられており、操縦部5には、ステアリングハンドル6と、座席8が設けられている。
【0028】
座席8の後方には、薬液を収容する薬液タンク9が取り外し可能に搭載されている。また、作業車両は、車両の進行方向の正逆および速度を調節可能な機構である油圧式無段変速装置(HST)と、エンジンの始動を規制するエンジン始動規制装置とを備えている。
【0029】
また、作業車両の車体前部の左右両側には、左右方向に突出した支持ブラケット12aが設けられており、左右の支持ブラケット12aには、それぞれ上下のリンク体により構成された昇降リンク12が回動可能に支持されている。昇降リンク12の上下のリンク体は、互いに連動するように構成されており、昇降リンク12のリンク体下段には、伸縮自在な昇降シリンダ13が、昇降リンク12のリンク体下段と支持ブラケット12aとを接続させるように設けられているので、昇降シリンダ13を伸縮させることで昇降リンク12を上下方向に搖動させることができる。
【0030】
また、昇降リンク12はボンネット4の前方の位置にまで延びており、昇降リンク12の前端部には、前部フレーム11が、左右の昇降リンク12を連結するように取り付けられている。したがって、左右の昇降シリンダ13を同時に伸縮させることによって、上下動する左右の昇降リンク12を介して、前部フレーム11を昇降させることができる。
【0031】
前部フレーム11の両端には、作業装置の一例としての、薬液を散布する左右一対のサイドブーム10が、上下方向を軸として回動可能に取り付けられており、左右のサイドブーム10それぞれについて、左右方向に個別に展開および折り畳みができるようにするブーム回動シリンダ109,109が設けられている。サイドブーム10には複数のノズル100が、前部フレーム11には複数の前側ノズル111を左右方向に等間隔ごとに設けられたフロントブーム110が、それぞれ取り付けられており、各サイドブーム10のノズル100およびフロントブーム110の各前側ノズル111は、薬液タンク9から薬液の供給を受け、薬液を噴霧状にして散布することができるように構成されている。なお、
図1では、右側のサイドブーム10は図から省略されている。
【0032】
サイドブーム10を走行車体1の左右方向のうち内側方向に回動させた後、走行車体1の下方に向けて回動させて車体の左右両側に沿わせた状態を収納姿勢と呼び、サイドブーム10を走行車体1の前方で且つ上方に回動させた後、走行車体1の左右方向のうち外側方向に回動させて左右に延ばした状態を薬液散布姿勢と呼ぶ。収納姿勢のときは、サイドブーム10を作業車両の左右両側に設けられたブーム受け15に載置することで、サイドブーム10が車体の後方斜め上に向かった状態を保持することができる。
【0033】
図3は、本実施の形態の作業車両に搭載されたミッションケース20の前方から後方を見た斜視図、
図4はこのミッションケース20を後方から前方を見た斜視図、
図5は
図4のミッションケース20を底面側から見た斜視図である。
【0034】
これら、
図3から
図5において、21は前側ケース、22は中央ケース、22aは中央ケース22の底面、23は後側ケースである。さらに、24はエンジンからの伝動力の入力軸であり、25,26は第1、第2の油圧ポンプである。また、27は後述するクラッチを入り切りするための軸、28は後部の昇降バルブ、29は前輪2の走行出力軸である。また、30は油圧式無段変速装置(HST)、31はクラッチ潤滑孔である。また、32はブームスプレイヤー等の作業装置用のPTO軸、33は、後述するライブPTO出力軸(増設伝動軸)、34は車速センサ、35はドレイン、36は副変速軸、37はブリーザ、38は後輪3を駆動させる駆動力を伝動する走行出力軸である。
【0035】
さらに、ミッションケース20の中は
図6、
図7に示すような構造を持っている。
図6は全体の略示断面図、
図7はクラッチ55を中心とする拡大図である。
【0036】
まず、前側ケース21を中心に説明する。
図8は前側ケース21を前側から見た斜視図であり、
図9は前側ケース21を後側から見た斜視図である。ここで、
図8、
図9においては軸受けのボールベアリングは省略されている。入力軸24は入力軸受け21aに保持されている。その入力軸24の後端にはギヤ40が連結されている。そのギヤ40にはクラッチ駆動軸42に固定されたギヤ41が噛合している。このクラッチ駆動軸42の前端は前側ケース21に形成されているクラッチ前側軸受け43に支持されている。ここに55はクラッチである。
【0037】
さらに、ギヤ41はその下方に位置するギヤ44に噛合しており、このギヤ44は第1油圧ポンプ25を駆動するギヤポンプ駆動軸45に固定され、このギヤポンプ駆動軸45の軸受けであるギヤポンプ軸受け46は前側ケース21に形成されている。
【0038】
他方、ギヤ40の上方には、軸48に取り付けられたギヤ47が噛合しており、この軸48の先端は前側ケース21に形成されている軸受け49によって支持されている。さらに、その軸48の後端は、中央ケース22側に取り付けられている軸受け板部50の一部に設けられた軸受け50aによって支持されている。その軸48の中央付近にはギヤ51が取り付けられ、そのギヤ51にギヤ52が噛合しており、そのギヤ52は上述したライブPTO出力軸33に固定されている。このライブPTO出力軸33の前端は前側ケース21に形成された軸受け54に支持されており、その後端は軸受け板部50に形成されている軸受け50bに軸支されるとともに、後方へ突出してライブPTO出力軸として利用可能となっている。
【0039】
ここで、入力軸24からエンジンの駆動力が入力されると、ギヤ40が回転する。その回転によって噛合しているギヤ47が回転し軸48が回転する。軸48の回転によってギヤ51が回転して、噛み合っているギヤ52が回転する。
【0040】
その結果、ギヤ52に固定されているライブPTO出力軸33が回転し、外部へエンジンからの駆動力が取り出される。この駆動力はクラッチ55より上流側(上手)から駆動力を取り出しているので、クラッチ55の入り切りに左右されず、エンジンが起動している間は駆動力を取り出すことが出来る。
【0041】
また、ギヤ40にはさらにギヤ41に噛み合っており、このギヤ41はクラッチ駆動軸42に固定されているので、入力軸24からエンジンの駆動力はこのクラッチ駆動軸42にも伝達されている。クラッチ駆動軸42はクラッチ55に連結されている。従って、クラッチ駆動軸42に伝えられた駆動力はクラッチ55の入り切りで左右される。
【0042】
さらに、ギヤ41にはギヤ44が噛み合っており、ギヤ44が固定されているギヤポンプ駆動軸45にも入力軸24からエンジンの駆動力が伝わる。このギヤポンプ駆動軸45の回転によって、第1油圧ポンプ25が駆動されることになる。第1油圧ポンプ25によって作業油圧系統へ油が圧送される。なお、前側ケース21に取り付けられる第2油圧ポンプ26も同様の機構で駆動される。
【0043】
次に、中央ケース22と後側ケース23について説明する。中央ケース22は
図10、
図11に示すように、周辺に前側ケース21と後側ケース23とボルト機構で取り外し可能になっている。
図6に示すように、Aは前側ケース21と中央ケース22との境界面を、Bは中央ケース22と後側ケース23との境界面を示す。また、中央ケース22は、作業車
両の走行車体
1のフレームに連結部53で固定されている(
図11参照)。なお、
図12は後側ケース23を内側からみた斜視図、
図13は後方外側から見た斜視図である。
【0044】
その中央ケース22の内部には、前側の位置に上述した軸受け板部50が、また中央位置にクラッチ軸受け板部57がそれぞれ形成されている。
【0045】
前側の軸受け板部50とクラッチ軸受け板部57の間には、クラッチ55が配置され、クラッチ駆動軸42はクラッチ55を介してクラッチ軸受け板部57の軸受け部60に軸支されている。さらに、このクラッチ駆動軸42の後方部はその軸受け部60の孔61(
図11参照)を貫通して、後側ケース23のクラッチ駆動軸軸受け62で軸支されている。
【0046】
なお、HST駆動軸については後側ケース23に支持されているので、後側ケース23で片持ちされるか、あるいはHSTそのものに固定される。
【0047】
また、ドライブシャフトは前後に長いので、前側ケース21、中央ケース22、及び後側ケース23で支持される。
【0048】
さらに、
図6に示すように、クラッチ駆動軸42には変速ギヤ70が固定されており、その変速ギヤ70は作業装置用PTO軸32のシャフトにフリーに回転可能に取り付けられたギヤ71(遊嵌ギヤ)に噛み合っている。
【0049】
このギヤ71の回転は後述するような機構によって、クラッチ駆動軸42の回転がそのPTO軸32に伝達される。従って、この作業装置用PTO軸32の回転は、クラッチ55の入り切りで左右される。なお、32aは後側ケース23に設けられたPTO軸受けである。
【0050】
他方、クラッチ駆動軸42にはさらにギヤ63が取り付けられており、そのギヤ63はHST入力用ギヤ64に噛み合っている。また、HST出力用ギヤ65は3つのギヤ機構66,67,68を介して、前輪の走行出力軸29と、後輪の走行出力軸38に連結している。
図8において29aは前輪の走行出力軸29の軸受けである。従って、HST30で変速された出力が走行出力軸29、38へ伝達されていく。ここに、30aはHST入力側部であり、30bはHST出力側部である。また、72,73はそれぞれHST入力軸受け、HST出力軸受けである。
【0051】
このように、ミッションケース20を前、中央、後の部分に分割し、中央ケース22を作業車両の走行車体1のフレームに固定した(連結部53)ことにより、ミッションケース20全体を走行車体1から降ろすことなくケース内のメンテナンス作業ができる構成となる。
【0052】
次に、本実施の形態におけるクラッチ55はいわゆる乾式ではなく湿式構造となっている。すなわち、
図6、
図7に示すように、クラッチ駆動軸42は前側ケース21と後側ケース23で両方の端部が軸支(43、62)されており、軸と支持部に油路が形成されている。潤滑油はクラッチ潤滑孔31から供給される。その潤滑油は防除機の油圧の戻り(作業油圧系統)をクラッチ駆動軸42の油路に戻す。
【0053】
クラッチ55は、クラッチケース55aに複数のクラッチプレート55bを内装すると共に、クラッチケース55aをクラッチ駆動軸42に設けて構成している。さらに、クラッチ駆動軸42は作動油の流路を有し、クラッチプレート55bの内周側に作動油を供給できる。さらに、クラッチケース55aには、クラッチケース55a内に入り込んだ作動油を油圧回路に戻す戻し孔部が形成されている。なお、
図14はクラッチプレート55bであって、矢印Cに示すように、内周から外周に向けて連通穴92を形成している。
【0054】
クラッチ55はこのような構造であるので、クラッチ駆動軸の流路からクラッチケース55a内に作動油を供給することにより、クラッチプレート55bが焼き付いて動かなくなることを防止できるので、走行伝動及び作業伝動を確実に入切できる。
【0055】
さらにまた、クラッチケース55aに戻し孔部を形成したことにより、クラッチケース55a内に入り込ませた作動油をミッションケース20内に戻すことができるので、内圧の上昇や、作動油の不足が防止される。
【0056】
また、連通穴92を形成したことにより、クラッチプレート55bとクラッチケース55aの間に入り込んだ作動油をクラッチケース55a外に移動させることができるので、流路に戻らなくなった作動油が古くなることで問題を発生させることが防止される。
【0057】
言い換えると、連通孔92をクラッチプレート55bに外周縁部に向かって一か所、または複数個所に貫通させて形成しているので、ミッションケース20内に貯まっている作動油に浸かっている場合は、その部分から連通穴92の内部に作動油が入り込んでクラッチケース55aの内部に作動油を浸透させることが出来る(特に停止時にその現象が起こる)。また、クラッチ駆動軸42の回転による遠心力により、連通孔92に入り込んでいる作動油をクラッチケース55aの外部に飛散させる場合は、ミッションケース20内に作動油を送り込むことになる。言い換えれば、作動油の内部への進入も外部への放出のいずれも可能な構成としている。
【0058】
また、
図15はブームスプレイヤー等の作業装置用のPTO軸32を中心とする
図6の一部拡大図である。
【0059】
ここで、上述したように、クラッチ駆動軸42には変速ギヤ70が固定されており、その変速ギヤ70は作業装置用PTO軸32のシャフトにフリーに回転可能に取り付けられたギヤ71(遊嵌ギヤ)に噛み合っている。このギヤ71はカウンター軸76に固定された第1カウンターギヤ75に噛合されている。このカウンター軸76にはもう一つの第2カウンターギヤ77が固定されており、この第2カウンターギヤ77は、PTO軸32の軸に固定されたギヤ78に噛合している。なお、71aは溝付き座金である。
【0060】
従って、クラッチ駆動軸42の回転によってギヤ70が回転し、その回転は遊嵌ギヤのギヤ71に伝わり、ギヤ71の回転は第1カウンターギヤ75に伝わり、その回転はカウンター軸76に伝わり、その回転は第2カウンターギヤ77へ伝わり、その回転はギヤ78に伝わり、その結果、PTO軸32に伝達され回転することになる。
【0061】
他方、90は、作業油圧系統からミッションケース20内に作動油を戻し排出する潤滑送油管である。79は、後側ケース23に設けられた潤滑送油管90の排出口79である。その潤滑送油管90の排出口79は、ミッションケース20の内部の上部側に配置される、作業駆動力の伝動機構よりも上側に配置されている、ここに伝動機構とは作業機構に駆動力を伝動するための機構であって、例えば、PTO軸32であり、本発明の作業伝動軸の一例である。
【0062】
このような構造であることによって、ミッションケース20の上部側から作動油を排出することにより、内部の潤滑油が不足しやすい上部側の伝動機構を確実に潤滑できるので、摩耗や焼き付きが軽減され、ミッションケース20の耐久性の低下が抑えられる。
【0063】
なお、この場合、ミッションケース20自体がオイルタンクを兼ねていることになる。上述した第1油圧ポンプ25がこのオイルタンクの油を作動油として再び駆動シリンダへ圧送していく。
【0064】
さらに、このPTO軸(作業伝動軸)32には、排出口79から排出される作動油を受けつつ周囲に拡散させる拡散部材が回転可能に装着されている。本発明の拡散部材の一例が上述したフリー回転するギヤ71である。
【0065】
このようなPTO軸32に設けた拡散部材のギヤ71の回転により、作動油を遠心力で広い範囲に拡散させることができるので、いっそう作動油の不足による摩耗や焼き付きが防止される。
【0066】
さらに、この拡散部材であるギヤ71には、作動油が内部に進入可能な通油孔91を形成している。これにより、回転方向以外にも広範囲に作動油を拡散させやすくなる。通油孔91は複数個設けるのが望ましい。例えば、軸周りに90度ずつ4個などである。ギヤ71の内側にも潤滑油が流れ込む効果もある。
【0067】
拡散部材であるギヤ71は一定方向に回転しているので、これだけでは回転する方向にやや偏って作動油が撒かれがちになるが、通油孔911をギヤ71に貫通させて形成しておくことによって、排出口79から内部へ入り込んだ作動油がギヤ71の羽部分(ギヤ歯部分に相当)に弾かれる位置以外において遠心力で放出される構成となり、回転方向の下手側にも作動油が拡散されやすくなる。
【0068】
なお、潤滑送油管90は、ミッションケース20の前側または後側に装着されており、潤滑送油管90の排出口79にはオリフィスが形成され、オリフィスはミッションケース20の内部に臨んでいる。これによって、より遠くへ作動油を飛散させることが出来る。
【0069】
以上のように、防除機からミッションケース20内に戻る油圧の戻り(作業油圧系統)には、クラッチ潤滑孔31からクラッチ55を介して戻る系統と、ミッションケース20の後側ケース23の潤滑送油管90の排出口79から戻る系統があるが、その他に、昇降バルブ、及びロワーリンクシリンダから排出される作動油が、ミッションケースケース20の側面に設けるメインバルブからミッションケース20内に戻る系統もある。
【0070】
左右の前記サイドブーム10,10は、防除用の薬剤等を散布する範囲を調節すべく、伸縮可能に構成されている。
図1、
図2、
図16(a)(b)、及び
図17(a)(b)に示すとおり、前側フレーム11の左右端部に基部ブーム101を上下方向及び左右方向に各々回動可能に設け、該基部ブーム101の上部にスライドフレーム102を基部ブーム101に沿って摺動可能に設けると共に、該スライドプレート102に移動ブーム103を設けることで、スライドプレート102の左右摺動により移動ブーム103の機体左右方向への出代を変更することで、伸縮量、言い換えれば薬剤の散布範囲を変更することができる。
【0071】
具体的には、前記基部ブーム101の端部側(走行車体1の後側、あるいは走行車体1の外側)に従動プーリ104を回転可能に設け、前記基部ブーム101の基部側(走行車体1の前側、あるいは走行車体1の内側)には駆動プーリ105を駆動させるブーム伸縮モータ106を設け、伸縮ワイヤ107を該駆動プーリ105及び従動プーリ104に接触させると共に、該伸縮ワイヤ107の両端部を、スライドプレート102の左右端の取付曲げ部102a,102aに各々連結する構成である。さらに言えば、駆動プーリ105の側部には、伸縮ワイヤ107と接触することによる回転から、移動ブーム103の摺動量を算出するロータリエンコーダ108を設ける。
【0072】
なお、サイドブーム10の伸縮量のセンサは、上記のロータリエンコーダ108に替えて、発振する超音波やレーザーの反射時間から移動ブーム103の摺動量を算出するセンサとしてもよい。
【0073】
上記構成により、ブーム伸縮モータ106を作動させると伸縮ワイヤ107がスライドフレーム102を左右方向に摺動し、これによりスライドフレーム102に支持される移動ブーム103の左右方向の突出量が変更され、薬剤の散布範囲を変更することができる。
【0074】
上記の基部ブーム101及び移動ブーム103には、上述したノズル100が所定間隔毎に設けられており、各ノズル100の開度と、薬液タンク9から薬剤を送り出させる薬液ポンプ9aの出力設定により、設定量の薬剤が散布される構成である。
【0075】
サイドブーム10を最大限伸長させた状態、即ち移動ブーム103の走行車体1の外側への突出量が最大になるときは、全てのノズル100から薬剤を散布することで、設定した範囲に薬剤を供給することが可能になる。しかしながら、サイドブーム10の左右長さが最大でないときは、一部のノズル100の薬剤の散布範囲が同じになる、あるいは大部分が重複することがあり、全てのノズル100を開放していると薬剤が余分に使用されてしまう問題がある。さらには、薬剤の過剰供給によって作物が生育不良を起こしたり、収穫物に薬剤が残留して商品価値が低下したりする問題がある。
【0076】
上記の問題の発生を防止しつつ、薬剤の不足や散布ムラによる病害虫等の問題の発生も防止すべく、基部ブーム101に設けるノズル100を次のとおり構成する。
図18から
図20に示すとおり、開閉ノズル体121の内部に薬剤が通過する薬剤流路122を形成し、切替流路123aを形成した切替回動軸123を該薬剤流路122に回動可能に差し込んで、開状態と閉状態の切り替えを可能とする。そして、該切替回動軸123にL字(あるいはV字、ヘの字)形状の切替コック124の屈曲部分(角部)を差し込み、切替コック124の回動操作により薬剤流路122の開状態と閉状態が切り替わる、開閉ノズル120を構成する。
【0077】
図19(a)~(d)及び
図20(a)~(d)に示すとおり、該切替コック124は約180度の範囲で回動する構成とし、開状態から閉状態に切り替えられる際に散布切替ピン112と接触する第1接触部OCと、閉状態から開状態に切り替えられる際に散布切替ピン112と接触する第2接触部COを有し、第1接触部OCと第2接触部COのどちらか一方が、散布切替ピン112の移動経路上に臨む構成とする。なお、
図19(a)~(d)に示すとおり、切替コック124が90度回動したとき、切替流路123aは45度回転させられ、180度回動したときに90度回動させられる構成とする。
【0078】
また、
図21及び
図22に示すとおり、回動し過ぎて薬剤流路122と切替流路123aにズレが生じることを防止すべく、開閉ノズル台121にリミットピン125を少なくとも2カ所、設けてもよい。
【0079】
そして、前記スライドフレーム102の下部に、基部ブーム101側に向いて突出する散布切替ピン112を設け、該散布切替ピン112が切替コック124の下方に突出した部分に接触することで、各開閉ノズル120の入状態と切状態を切り替える構成とする。
【0080】
なお、
図16(a)(b)及び
図17(a)(b)に示すとおり、移動ブーム103には上記の開閉ノズル120は設けず、開度調節のみ可能な常時散布ノズル130を設け、サイドブーム10の散布範囲の変更にかかわらず、サイドブーム10を散布作動させている間は、常時薬剤を散布する構成とする。
【0081】
上記のとおり、ノズル100は、開閉ノズル120と常時散布ノズル130を含む部材名称である。また、開閉ノズル120、常時散布ノズル130ならびに前側ノズル110の散布範囲は、平面視である
図23(b)においては、各ノズルの中心点から円錐形状(コーン状)に広がるものであり、作業時の正面(背面)視である
図23(a)においては、各ノズルの下端部から三角形状に広がるものである。
【0082】
上記のブーム伸縮モータ106は、
図24及び
図25に示すとおり、作業者の手動操作や、あるいは制御プログラムによる伸縮信号を受けて作動し、移動ブーム103を移動させてサイドブーム10を伸縮させるものである。手動操作により長さを調節する手動調節スイッチ(図示省略)は、操作中だけ制御装置200からブーム伸縮モータ106に信号を発信して作動させ、操作を止めたときは、後述するとおり所定のノズルピッチPに相当する位置でブーム伸縮モータ106が停止し、移動ブーム103の散布範囲が変更される。
【0083】
これにより、作業者が作物の状態を目視しながら、最適な範囲に薬剤の散布を行うことができる。一方、作業者は走行車体1を運転しながら左右どちらか一方、あるいは両方のサイドブーム10,10の伸縮操作を行う必要があり、作業者に多大な負担を強いる問題がある。
【0084】
制御プログラムによるサイドブーム10の伸縮は、信号一回につき複数の開閉ノズル120、または常時散布ノズル130同士の左右間隔、すなわちノズルピッチP(例:300mm)単位で移動させるものとする。
【0085】
これにより、サイドブーム10の散布作業幅を自動的に切り替えることができるので、作業者は作業車両の操作に専念することができ、進行方向のズレが生じにくくなる。
【0086】
また、薬剤の散布範囲が広くなり過ぎ、重複した範囲に薬剤が供給され、薬剤により作物に生育不良が生じることを防止できると共に、薬剤が散布されない位置の発生を防止し、病害虫により作物が枯れて収穫できなくなることが防止される。
【0087】
なお、ブーム伸縮モータ106は、制御装置200に接続されており、制御信号を受けて作動したり停止したりするものであるが、制御装置200から停止信号が出されたとき、ブーム伸縮モータ106は少なくともノズルピッチP一つ分伸長または伸縮する間に亘って作動できるものとする。
【0088】
そして、移動ブーム103が伸長方向に移動するときは、伸長範囲内で最も
走行車体1の外側に位置する開閉ノズル120を閉状態から開状態に切り替える途中で停止すると共に、移動ブーム103が収縮方向に移動するときは、収縮範囲内で最も
走行車体1の外側に位置する開閉ノズル120を開状態から閉状態に切り替える途中で停止する制御構成とする。言い換えれば、中間状態とは、
図19(c)及び
図20(c)に示す、散布切替ピン112が第1接触部OCと第2接触部COの左右間に位置する状態である。
【0089】
ブーム伸縮モータ106は、手動の停止操作、または停止条件を満たすことにより制御装置200から信号を受けて停止する際、ロータリエンコーダ108が所定の回転角度を検出した段階で急停止する構成とする。このロータリエンコーダ108の回転角度の検出は、別途角度を検出するセンサ(図示省略)を設けるか、あるいはロータリエンコーダ108の読み取り対象である回転体の回転角度から算出するものとする。
【0090】
あるいは、停止信号を受信して停止した後、慣性で所定角度まで回転する構成としてもよい。
【0091】
この停止制御構成は、移動ブーム103を移動させる操作が停止した際、散布切替ピン112は切替コック124を約45度回動させ、開状態と閉状態の間にある中間状態に移動させた位置で停止する。
【0092】
上記の中間状態は、走行車体1の上下方向の薬剤流路122に切替流路123aが斜向して接触する状態、即ち、流路は狭いながらも連通状態であり、薬剤の流量やポンプの圧力が十分あれば、内圧により設定量よりも少ない量の薬剤が当該開閉ノズル120から散布される状態である。このとき、開状態の開閉ノズル120よりも薬剤の散布量は少なく、散布範囲は頂角が小さい二等辺三角形状、あるいは円筒形状になる。
【0093】
上記のとおり、ブーム伸縮モータ106が停止した際、変更した散布作業範囲で最も走行車体1の外側に位置する開閉ノズル120の切替コック124が中間状態となることにより、この開閉ノズル120から設定量よりも少なく、且つ狭い範囲に薬剤を散布することができる。
【0094】
これにより、サイドブーム10の散布作業範囲を変更した際、散布作業範囲の外側端部付近にも薬剤を十分に供給できるので、薬剤不足により作物が病害虫等の影響を受け、商品価値や収量が低下することが防止される。
【0095】
また、外側端部付近には他の箇所よりも少ない量の薬剤が供給されるので、余分な薬剤の消費が抑えられると共に、薬剤の過剰供給により作物の生育に悪影響をおよぼすことが防止される。
【0096】
なお、
図16及び
図17に示すとおり、基部ブーム101のうち、基部側には少なくとも一つ以上は常時散布ノズル130を設け、移動ブーム103を最大限収縮させた際、移動ブーム103とスライドフレーム102の前端部は、基部フレーム101の最も端部側に設ける常時散布ノズル130よりも、端部側寄りの位置で停止するものとする。このとき、
図16及び
図17に示すとおり、移動ブーム103に所定間隔毎に設ける常時散布ノズル130と、基部フレーム101に所定間隔毎に設ける開閉ノズル120は、散布作業時であれば
走行車体1の前後方向に、収納時であれば
走行車体1の左右方向で重複する配置構成とする。
【0097】
なお、移動ブーム103に設けられる常時散布ノズル130のうち、端部側から少なくとも一つ、本願では二つは、基部ブーム101の端部から離間すると共に、開閉ノズル120と重複しないものとする。
【0098】
上記構成により、移動ブーム103を最大限収縮させた際、一定のノズルピッチPで配置されている常時散布ノズル130のみで薬剤を散布するので、過剰に薬剤が消費されることが防止される。これにより、作物の生育不良の発生の防止や、作業コストの抑制が図られる。
【0099】
また、基部ブーム101の基部側と、移動ブーム103の端部側に、他のノズルと重なり合わない常時散布ノズル130を設けたことにより、サイドブーム10の伸縮量にかかわらず、走行車体1の左右側部、及びサイドブーム10の外側端部に設定量の薬剤を安定的に供給できる。
【0100】
上記のサイドブーム10を、制御装置200を用いて自動的に伸縮制御する状況として、
図26に示すとおり、薬剤の散布作業を終えた隣接条の端部と、現在の作業条の端部を所定距離に亘ってオーバーラップさせる作業が考えられる。作業条の端部は、移動ブーム103の外側端部付近に設けられる常時開放ノズル130から薬剤を散布されるが、最外側に設けられる常時開放ノズル130の散布範囲は、他の常時開放ノズル130や開閉ノズル120と重複しないので、風向き等の影響で薬剤の散布量が少なくなる可能性がある。
【0101】
もっとも、薬剤の散布量を抑えるのであれば、薬剤を散布した隣接条の端部を境界線とし、サイドブーム10の外側端部が常にこの境界線を基準として隣接条にできる限り入り込まない伸縮制御が行われることが望ましい。この散布制御であれば、薬剤の散布位置の重複が極力抑えられ、薬剤の使用量削減が図られる。
【0102】
一方、薬剤の使用量が増加するとはいえ、他のノズル100(開閉ノズル120、常時散布ノズル130)同士の薬剤散布位置と同様の薬剤散布を作業条の端部にも行うには、隣接条の端部付近に最外側の常時散布ノズル130を臨ませ、薬剤の散布位置を重複させることが望ましい。
【0103】
上記のサイドブーム10の伸縮制御を行うべく、
図1、
図2及び
図24に示すとおり、走行車体1には、衛星と通信して位置情報を取得する受信アンテナ140を設け、制御装置200には、この受信アンテナ140が受信する座標と、受信時にロータリエンコーダ108が検出する移動ブーム103の移動量を関連付けて記録する処理を行うと共に、仮想の圃場作業マップFMに、薬剤の散布作業を行った作業条と、この作業条の端部を、着色や線形の違い等で表示する、散布記録アプリケーション201をインストールするか、あるいはクラウドサーバ経由で利用可能にしておく。
【0104】
上記制御装置200について、様々な制御の演算処理を同時に行う必要があるので、単一のもので行うには高性能なものが必要となるが、処理による負荷が大きいと、短期間で交換を要するおそれがある。
【0105】
したがって、制御装置200は、サイドブーム10,10の伸縮制御や展開収納制御等を制御処理する第1CPU202、受信アンテナ140から得た信号情報を処理する第2CPU203、ならびにサイドブーム10,10が散布状態か非散布状態かを判定して散布記録アプリケーション201の着色を制御処理する第3CPU204を組み合わせて構成するものとする。
【0106】
上記のとおり、複数のCPUに異なる制御を振り分けることにより、CPU各々の制御処理の負荷のみを受けると共に、複数の制御が並列的に実行されるので、制御に伴う走行車体1側の動作が正確に行われる。
【0107】
但し、上記の各CPU202~204は、各々シングルタスクのみ行うのではなく、状況に応じて並列して処理を行うものとしてもよい。
【0108】
また、左右のサイドブーム10,10のうち、どちらか一方を伸長させた状態で、且つ散布を止めて作業を行うとき、第1CPU202はサイドブーム10の姿勢を把握しつつ、第3CPU204で散布作業を行っているかを判定できるので、散布記録アプリケーション201が散布作業を行っていない箇所まで着色して記録することを防止できる。これにより、散布記録の信頼性が高まる。
【0109】
上記では、サイドブーム10が非散布状態と判定されるときは、散布記録アプリケーション201に該当範囲を着色させない制御としたが、非散布状態であることを示す別の色で着色させてもよい。
【0110】
なお、受信アンテナ140が通信する衛星は、GNSS、GLONAS、みちびき等、作業場所で安定的に衛星信号の受信が可能なものとし、受信アンテナ140の付近、あるいは走行車体1の他の場所には、IMU等を設けて薬剤散布作業以外の制御を行えるものとしてもよい。
【0111】
また、受信アンテナ140は、受信精度を高めるべく、なるべく走行車体1の上部に設けることが望ましいので、座席8の周囲を覆うキャビンを設ける場合はこのキャビンの屋根上で且つ走行車体1の左右方向の中央部付近に設け、座席8の後部にロプスを設ける場合はこのロプスの上部で且つ走行車体1の左右方向の中央部付近に設けるとよい。このとき、受信アンテナ140とサイドブーム10は前後方向にある程度距離が空いているので、より精度を高めるのであれば、受信アンテナ140とサイドブーム10の前後間距離の補正を、制御装置200に行わせるとよい。
【0112】
サイドブーム10と受信アンテナ140の前後距離を抑えるのであれば、ボンネット4から上方に突出させてアンテナポールを立てるか、あるいはボンネット4を跨がせてアンテナフレームを設けてもよい。
【0113】
あるいは、
図1及び
図2に示すとおり、ボンネット4の表面に、低位置でも受信精度の高い受信アンテナ140を取り付ける構成としてもよい。いずれの場合も、受信アンテナ140は
走行車体1の左右の中央位置付近に設けると、左右のサイドブーム10,10のどちらに対しても、ほぼ均等な離間距離とすることができ、位置検出精度の偏りが防止される。
【0114】
そして、走行車体1のステアリングハンドル6の操作量を検出するハンドルポテンショメータ141を設け、ステアリングハンドル6の操作により走行車体1が旋回操作されているとみなし得る操作量が検出されたとき、制御装置200は、左右どちら側が旋回方向外側であるかを判定するものとする。
【0115】
また、ハンドルポテンショメータ141が旋回操作とみなし得る操作量を検出すると、制御装置200は、旋回方向外側に対応するサイドブーム10のブーム回動シリンダ109を収縮させ、サイドブーム10を旋回方向外側に向かう上方傾斜姿勢に切り替える。これにより、旋回外側のサイドブーム10が、畝端の坂や壁に接触して破損することを防止できる。
【0116】
なお、圃場端の旋回位置付近の作物の植え方に合わせて、旋回時自動切ボタンを操作しておくことで、旋回走行中は左右のサイドブーム10,10及びフロントブーム110への薬剤の供給が停止する構成や、左右のサイドブーム10,10及びフロントブーム110からの薬剤散布を任意に切状態にできる構成としてもよい。
【0117】
上記構成により、旋回中に薬剤を散布する必要がある作業条件では、旋回位置付近の作物にも十分に薬剤を供給でき、薬剤不足により病害虫の影響を受けることが防止される。
【0118】
一方、旋回位置付近に作物が無ければ薬剤の供給を停止させることができるので、薬剤の消費量が抑えられ、農作業コストの低減が図られる。
【0119】
なお、制御装置200には、走行車体1の左右幅、走行車体1の側方に展開状態にした際の基部ブーム101の長さが記録されており、受信アンテナ140を装着する走行車体1の左右中央位置から基部ブーム101の外側端部までの距離は一定の数値が出力されるものとする。受信アンテナ140の装着位置と展開状態の基部ブーム101の外側端部が走行車体1の前後方向にずれる構成であれば、三角関数を用いた補正値を適用するものとする。
【0120】
また、移動ブーム103の左右位置はその伸縮量で変動するが、常時散布ノズル130同士の装着間隔、所謂ノズルピッチPを30cmとし、この30cmをロータリエンコーダ108の検知する一単位とすることで、現在の伸縮量を制御装置200に算出させることができる。
【0121】
上記の旋回走行制御を経て、
図27に示すとおり、次の作業条に到達したとみなすとき、即ちハンドルポテンショメータ141の検出値が非旋回操作とみなし得るものとなったとき、制御装置200は、現在受信アンテナ140を介して受信している位置座標と、旋回走行中に旋回内側に位置した側のロータリエンコーダ108の検出値から算出される旋回内側のサイドブーム10の外側端部、即ち移動ブーム103の伸縮量を算出する。
【0122】
そして、取得された現在の位置座標に対応する、先に薬剤の散布作業を行った隣接条の端部位置と、現在の移動ブーム103の最外側に設ける常時散布ノズル130の平面視の中心位置の左右方向差を算出し、算出された差に基づいてブーム伸縮モータ106を作動させ、ロータリエンコーダ108の検出に合わせてブーム伸縮モータ106の作動を停止させる。
【0123】
図28に示すとおり、移動ブーム103の外側端部に設ける常時散布ノズル130が、現在の作業条の幅内に位置し、隣接条には入り込んでいないとき、制御装置200は、一定時間毎にノズルピッチP分、即ち300mmずつ移動ブーム103を隣接条に向けて伸長させる。
【0124】
そして、
図30に示すとおり、常時散布ノズル130が、隣接条の端部EXを超えて隣接条の上方に位置したとみなし得る検出値になる、即ち、常時散布ノズル130の散布範囲が隣接条の端部EXに150mm以上で入り込んでいることが算出されると、常時散布ノズル130の中央部と、記録されている隣接条の端部位置の離間距離Xを算出する。この離間距離Xが150mm以上であれば、隣接条に常時散布ノズル130一つ分の重複する散布位置を適切に確保できているので、制御装置200はブーム伸縮モータ106を停止させる。
【0125】
なお、ブーム伸縮モータ106を停止させても慣性で動作が続く場合は、到達する20~30mm程度(この数値はモータの性能やブーム伸縮機構の構造等の要因で変動し得る)手前でブーム伸縮モータ106の停止信号を発信する構成としてもよい。
【0126】
一方、
図29に示すとおり、離間距離Xが150mm未満であるときは、常時散布ノズル130一つ分である約300mmの散布範囲が隣接条に入りきっていないので、確実に入り込ませるべく、ノズルピッチP一つ分、即ち300mm移動させるべく、ブーム伸縮モータ106を作動させる。
【0127】
隣接条で取得した位置座標と一致する位置座標ごとに、上記のブーム位置の算出を行い、隣接条に常時散布ノズル130一つ分である約300mmの散布範囲が入っている間はブーム伸縮モータ106を作動させないが、最外側の常時散布ノズル130の散布範囲が隣接条の端部から現在の作業場側に入り込んでいることが検出されると、300mm+離間距離X分移動ブーム103を隣接条側に移動させるべく、ブーム伸縮モータ106が作動する構成となる。
【0128】
なお、位置座標の取得は短時間に複数回行われるものが多く、毎回ブーム散布範囲の計算を行っていると制御装置200にかかる負荷が大きくなると共に、伸縮信号が連続で発信されるとサイドブーム10の移動ブーム103が伸縮動作を短時間で繰り返すことで、常時散布ノズル130が適切な散布位置に留まれなくなる可能性がある。したがって、隣接条と現在の作業条の位置情報の比較は、所定時間または所定の点の数の通過ごとに行うものとすると、制御装置200の計算頻度が抑えられて負荷が軽減されると共に、移動ブーム103を最外側の常時散布ノズル130が適切な位置に薬剤を散布可能に留めることができ、重複散布位置に十分な量の薬剤供給が可能になる。
【0129】
あるいは、走行車体1の横ずれにより生じる、少なくとも二点間の左右方向の座標の差を計算し、所定時間内、あるいは所定値以内の点の数であっても、座標の差が許容範囲を超えるときには、制御装置200はブーム伸縮モータ106に作動信号を発信する構成としてもよい。
【0130】
上記構成により、自動的に隣接条の端部付近に重複して薬剤を散布できるので、他の開閉ノズル120同士、常時散布ノズル130同士、あるいは開閉ノズル120と常時散布ノズル130が隣接し合う場所と同様に薬剤が供給されるので、薬剤不足により病害虫の影響を受け、商品価値や収量が低下することが防止される。
【0131】
散布記録アプリケーション201について、さらに詳細に説明する。
【0132】
図24に示すとおり、前記左右のサイドブーム10の基部ブーム101、及びフロントブーム110には、薬剤の散布を行う状態としているかどうかを判定する左右のサイド噴霧スイッチ301L,301R、及びセンター噴霧スイッチ302を設ける。
【0133】
図32に示すとおり、これらサイド噴霧スイッチ301L,301R及びセンター噴霧スイッチ302の散布入切判定は、第3CPU204への信号の発信の有無により判定され、この第3CPU204は、散布記録アプリケーション201に記録されている仮想の地
図FM上で、
図31に示すとおり、散布入判定されている箇所に相当する範囲を、指定の色や線形に置き換える。
【0134】
この置き換えは走行車体1の前進に伴いリアルタイムで行うので、作業者がディスプレイを目視していると、画面が塗り替えられていくように見えるので、置き換え、は、着色、とも言える。このとき、リアルタイムでの着色を走行車体1の前進走行に伴わせるべく、受信アンテナ140から取得される信号情報を第2CPU203で処理し、取得時ごとの左右サイド噴霧スイッチ301L,301R及びセンター噴霧スイッチ302の入切に関連付けて、着色する範囲を変更する。
【0135】
なお、サイドブーム10,10を構成する移動ブーム103は、設定や伸縮制御により走行車体1の左右方向への突出量が異なるので、第1CPU202に入力される移動ブーム103の現在の伸縮量を第3CPU204に伝達し、走行車体1の左右方向の散布作業を示す着色範囲を増減させる。
【0136】
前記ロータリエンコーダ108を移動ブーム103の伸縮量検出に用いるとき、第1CPU202は、ロータリエンコーダ108が検出した回転数に基づき現在の突出量を判定する。例えば、隣接し合う開閉ノズル120同士の左右間隔をノズルピッチP(例:300mm)とし、ロータリエンコーダ108が検出する1回転をノズルピッチPと同距離とすると、回転数から突出量を割り出すことができる。
【0137】
そして、第3CPU204は、ロータリエンコーダ108の検出する回転数に合わせて、着色範囲を拡縮する。なお、移動ブーム103を全く突出させていない、言い換えれば最大限収縮させているときのロータリエンコーダ108の検出回転数を0とし、ここに回転数を加えることで、移動ブーム103の突出量、ならびに対応する着色範囲を決定することができる。
【0138】
なお、レーザーや超音波を検出に用いるときは、反射に要する時間から距離を算出し、第1CPU202は最も近似する突出量を判定するものとする。
【0139】
上記構成により、圃場作業マップFMを薬剤の実散布作業に合わせて着色することができるので、圃場内の薬剤散布作業がどのように行われたかを視覚的に判定しやすくなる。例えば、未着色の箇所が多いと、サイドブーム10,10の伸縮制御設定や走行車体1の操縦に何らかの問題があると共に、どの位置で薬剤不足による影響が生じる可能性が高いかを判断しやすくなり、以降の作業計画や対策が立てやすくなる。
【0140】
一方、サイドブーム10,10を伸縮制御させて隣接条との重複散布位置を敢えて発生させる際、重複散布位置の幅が適切であるかどうかを視覚的に判断しやすくなるので、薬剤散布作業の改善点を割り出しやすくなる。
【0141】
なお、重複位置については、
図26や
図31に示すとおり、着色する色の濃度を変更(例:濃くする)したり、網掛け線等を付す等して、重複していることをわかりやすくすると、より作業内容を把握しやすくなる。
【0142】
薬剤の散布作業を行う乗用管理機の走行経路は、基本的に所定範囲の作業条を直進走行をし、圃場端付近で旋回走行して次の作業条に移動し、再び直進走行を行うことが一般的である。
【0143】
しかしながら、圃場面には多少の凹凸があり、前輪2を覆い隠すほどに作物が生育している状態では、作業者は直進走行をしているつもりでも、実際には左右方向にずれながら走行しており、薬剤の散布作業を行えていない箇所が発生したり、過度に散布範囲が重複し、余分に薬剤を散布する走行になっていることが多い。
【0144】
作物が植生する圃場内でも能率的に薬剤の散布作業が可能な直進走行をさせるべく、
図1及び
図2の受信アンテナ140を装着させた走行車体1に、ステアリングハンドル6を自動的に操舵操作する直進アシストモータ401を設ける。そして、制御装置200にインストールしたアプリケーションが直進走行の基準となる走行基準線を算出するために必要な、任意の開始基準点Aと終了基準点Bの取得及び消去操作、ならびに直進アシストモータ401を作動させて走行車体1を自動直進させる直進アシストモードの入切操作を行う、直進アシスト操作レバー402を、
図2及び
図33に示すとおり、ステアリングハンドル6のハンドルポストから
走行車体1の左右一側方向に突出させて設ける。
【0145】
直進アシストモードを使用するときは
図34に示すとおり、まず、走行車体1を圃場内の作業走行開始点に移動させ、直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1、例えば
走行車体1の上側に操作する。すると、制御装置200は受信アンテナ140が取得している位置座標を、開始基準点Aとして記録する。そして、走行車体1を前進させ、任意の位置、一般的には作業条の作業終端位置であり旋回開始位置に到達させ、直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1に操作する。すると、制御装置200は受信アンテナ140が取得している位置座標を、終了基準点Bとする。
【0146】
このとき、制御装置200は、開始基準点A、終了基準点B、ならびに開始基準点Aから終了基準点Bまで移動する間に受信アンテナ140により所定間隔ごとに取得された複数の位置情報の点を結び各々結び、特に直進方向であるY座標が極端にズレた位置座標を除外した後、各座標を用いて平均を計算し、開始基準点Aと終了基準点Bを結ぶ直進基準線を生成する。
【0147】
なお、終了基準点Bは、上記の一例の位置よりも手前であっても、開始基準点Aが記録された状態で直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1に操作すれば取得できるが、開始基準点Aと終了基準点Bの距離が近過ぎると、2点間を移動する間に取得される各位置座標が少なく、生成される直進基準線の精度が低いものとなる。したがって、
図34に示すとおり、終了基準点Bの取得操作を行った位置座標が、開始基準点Aから所定距離以上離間していないと判断したとき、制御装置200は終了基準点Bを記録せず、音声やランプ表示、あるいは液晶画面への文字表示等で終了基準点Bが記録されていないことを作業者に報知する。
【0148】
上記の開始基準点A及び終了基準点Bは、作業者が直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1に操作したタイミングで取得されるので、作業者が不適切であると判断したときには、やり直すべく記録を消去する必要がある。
【0149】
図35に示すとおり、開始基準点A及び終了基準点B、あるいは両方を記録から削除するときは、直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1に操作し、そのまま一定時間(例:3~5秒)操作し続けると、制御装置200が記録している開始基準点A及び終了基準点B、あるいは両方を記録から削除することができる。
【0150】
これにより、不適当な直進基準線が生成されることを防止でき、安定した直進アシスト走行が可能になる。
【0151】
上記の操作により直進基準線を取得した後、直進アシスト操作レバー402を第2の方向W2、例えば
走行車体1の下側に操作すると、
図36に示す、制御装置200は受信アンテナ140から取得される位置情報を元に、特に位置情報のX座標を比較して、許容値以上の座標の相違が生じると直進アシストモータ401を作動させ、ステアリングハンドル6を適量回転させて走行車体1の進行方向を直進方向に切り替える、直進アシストモードに移行する。そして、直視アシストモードの作動中に直進アシスト操作レバー402を第2の方向W2に操作すると、その時点で直進アシストモードが解除される。
【0152】
これにより、直進作業時は作業者が細かいハンドル操作を行う必要が無くなるので、作業者の労力が軽減される。これに加えて、作業者は進路上の確認やサイドブーム10,10の薬剤散布状況の確認に注力できるので、薬剤の散布作業をより高精度に行える。
【0153】
一般的な圃場作業における直進アシストを用いた作業は、各作業条の開始位置で直進アシスト操作レバー402を第2の方向W2に操作して直進アシストモードを起動し、作業条の作業終了位置乃至その手前で直進走行したところで再度第2の方向W2に操作して直進アシストモードを終了し、手動にて圃場端を旋回走行する、を繰り返して行う。
【0154】
従来の乗用管理機に搭載されている無段変速装置であるHST30は、固定容量式、即ち出力(=トルク)が一定であるモータを装着している。このモータの出力が大きいと、圃場から受ける抵抗が小さい直進走行時にトルク過剰により馬力ロスを生じやすく、燃料が余分に消費される問題がある。一方、モータの出力が小さいと、圃場から受ける抵抗の大きい旋回走行時にトルク不足になり、スリップ率が高くなり旋回走行に余分な時間を要したり、旋回軌跡を変更する必要が生じ、余分な労力が必要となったりする問題がある。
【0155】
この問題を解消すべく、
図24に示すとおり、HST30に可変出力モータ30aを設け、油圧回路により出し入れされる作動油により出力を増減可能な構成とする。そして、
図37に示すとおり、開始基準点Aを取得すべく直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1に操作したとき、手動ではあるものの直進作業走行が行われることが予測されるので、制御装置200は、可変出力モータ30aへの作動油の流量を低下させ、出力を低下させる。
【0156】
これにより、前輪2及び後輪3を低トルクで駆動回転させることができるので、直進走行時の燃費が向上すると共に、過度なトルクにより前輪2及び後輪3が圃場面を荒らして進行方向を乱すことが防止される。
【0157】
一方、終了基準点Bを取得すべく直進アシスト操作レバー402を第1の方向W1に操作したときは、旋回走行が行われることが予測されるので、制御装置200は、可変出力モータ30aへの作動油の流量を増加させ、出力を増大させる。
【0158】
これにより、前輪2及び後輪3を高トルクで駆動回転させることができるので、圃場の抵抗を受けても旋回に時間を要することが無く、また、旋回軌跡を乱すことなく次の作業条に到達でき、作業能率が向上する。
【0159】
直進基準線の取得後は、
図38に示すとおり、直進アシストモードが「入」になると、制御装置200は可変出力モータ30aへの作動油の流量を低下させ、出力を低下させる。そして、直進アシストモードが「切」になると、制御装置200は可変出力モータ30aへの作動油の流量を増加させ、出力を増大させる。
【0160】
これにより、直進アシスト走行時と旋回走行時にそれぞれ適切なトルクで走行することが可能になるので、圃場内の作業走行が能率的に行えると共に、燃費が向上する。
【0161】
しかしながら、圃場内は凹凸が多く、また、圃場全体が傾斜していることもあり、直進走行中でも比較的トルクを要する部分があると共に、圃場の土質によっては低トルクであっても旋回走行に支障がでないこともある。
【0162】
乗用管理機を用いて同一の圃場で長期的に作業を行う際、最初の作業時に圃場の場所ごとの負荷を検出して記録し、以降の作業時に場所ごとにトルク変動を行うことで、より効率的な作業や燃費の向上を目指すことが考えられる。
【0163】
可変出力モータ30aを有する
走行車体1において、
図24及び
図39に示すとおり、作業中の圃場の負荷変動を検出すべく、受信アンテナ140を走行車体1に設けると共に、HST30の出力軸下流側にトルクセンサ310を設け、位置座標ごとのトルクセンサ310の検出値をまとめて、制御装置200にインストールされたアプリケーションを用いて負荷変動作業マップLMを生成する。
【0164】
そして、次回以降の作業時において、作業者は圃場に対応する負荷変動作業マップLMを読み込ませておき、位置毎に記録されたトルクとトルクセンサ310の検出値を比較する。記録されたトルクよりもトルクセンサ310の検出値が低いときは、トルクが不足して走行速度の低下を招くことがあるので、制御装置200は作動油の送油量を増やして可変出力モータ30aの出力を増大させる。
【0165】
一方、記録されたトルクよりもトルクセンサ310の検出値が高いときは、トルクが過剰であり余分な燃料消費に繋がるので、制御装置200は作動油の送油量を減らして可変出力モータ30aの出力を低下させる。
【0166】
なお、頻繁に可変出力モータ30aの出力を増減させると、かえって駆動力の伝動が不安定になり、走行に支障を来すおそれがあるので、記録されたトルクとトルクセンサ310の検出値の差が所定値未満であるときは、制御装置200は許容範囲内とみなして可変出力モータ30aの出力変動を行わないものとしてもよい。
【0167】
記録されたトルクとトルクセンサ310の検出値の差が所定値以上であれば可変出力モータ30aの出力変動を行うが、その際は、「記録されたトルク」/「トルクセンサ310の検出値」で出力の過不足率を算出し、過不足率に合わせて可変出力モータ30aへの作動油の送油量を変更するものとする。しかしながら、あまりに細かい出力制御は制御装置200への負荷の増大、あるいは高性能な制御装置200を導入することによるコストの増大を招くことになるので、±10%、±15%など、過不足率に近似する数値で増減制御することが望ましい。
【0168】
なお、上記ではトルクセンサ310をHST30の出力軸下流に設ける構成としたが、例えば、
図24及び
図40に示すとおり、HST30に圧力センサ320を設け、位置毎の記録された圧力と、現在の圧力センサ320の検出する圧力を比較して、可変出力モータ30aの出力を変更してもよい。
【0169】
このとき、基本的には圧力の高い箇所で可変出力モータ30aの出力を下げ、圧力の低い箇所で可変出力モータ30aの出力を上げるものとする。
【0170】
あるいは、
図24及び
図41に示すとおり、走行車体1に搭載するエンジンの入力軸24にエンジン回転センサ830を設け、位置毎の記録された圧力と、現在のエンジン回転センサ830の検出する回転数を比較して、可変出力モータ30aの出力を変更してもよい。
【0171】
このとき、エンジン回転数が下がる場所では高トルクを要するので可変出力モータ30aの出力を増加させ、エンジン回転数が上がる場所ではトルクが高過ぎるので可変出力モータ30aの出力を低下させるものとする。
【0172】
上記の構成では、HST30やエンジンの入力軸24を介して負荷の大小を検出しているが、前輪2や後輪3に駆動力を伝動する車軸(図示省略)にロードセル340を各々設け、よりダイレクトに圃場の負荷変動を検出する構成も考えられる。
【0173】
図24及び
図42に示すとおり、ロードセル340が車軸に所定値より高い負荷がかかったことを検出すると、制御装置200は、可変出力モータ30aの出力を反比例方向に低下させ、低トルクで走行車体1を走行させることができる。また、過負荷の蓄積により作動油のオイルリークが発生し、HST30の出力が低下することが防止される。
【0174】
一方、車軸に所定値より低い負荷がかかったことを検出すると、制御装置200は、可変出力モータ30aの出力を反比例方向に増加させ、高トルクで走行車体1を走行させることができ、走行しにくい箇所を高速で通過することができる。
【0175】
走行車体1には薬液タンク9を搭載しているが、薬液タンク9に貯留する薬液が多いほど重量が増し、走行時の負荷は大きくなる。逆に、薬液を使用するほど薬液タンク9から受ける負荷は小さくなるので、薬液タンク9から受ける負荷変動に対して、可変出力モータ30aの出力を増減させることが考えられる。
【0176】
図24及び
図43に示すとおり、走行車体1が薬液タンク9を受ける部分にタンク重量センサ350を設け、該タンク重量センサ350の検出値が一定値以上であれば、かかる負荷が大きくなると判断し、制御装置200は可変出力モータ30aの出力が所定値未満であれば、必要な出力まで増加させる制御を行う。一方、タンク重量センサ350の検出値が一定値未満になると、薬液タンク9から受ける負荷は走行にほぼ影響しないものと考えられるので、制御装置200は可変出力モータ30aの出力が所定値以上であれば、必要な出力まで低下させる制御を行う。
【0177】
薬液タンク9の容量は走行車体1に合わせて決められているので、上記の出力制御は、検出値が一定以上であれば出力80%、一定未満であれば出力50%、と定めてもよい。
【0178】
あるいは、タンク重量センサ350の検出値が最大重量から一定値以上の範囲では、検出値の低下に連動して出力が設定値、例えば100%から漸減し、検出値が一定値未満になると設定した出力、例えば40%に変更される構成としてもよい。
【0179】
また、別の制御例としては、タンク重量センサ350に閾値を設けず、検出値が大きいほど可変出力モータ30aの出力を増加させ、検出値が小さいほど出力を低下させる構成も考えられる。
【0180】
上記構成によれば、常時薬液タンク9の重量による負荷を加味して可変出力モータ30aの出力を制御できるので、走行車体1の走行に薬液タンク9が影響することが防止され、作業能率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明は、薬剤を圃場に散布する伸縮自在なサイドブームを備える、薬剤等の散布作業機に最適である。
【符号の説明】
【0182】
1 走行車体
9 薬液タンク(液剤タンク)
10 サイドブーム(液剤散布装置)
30 HST(変速装置)
30a 可変出力モータ(可変容量モータ)
140 受信アンテナ(位置情報取得部材)
200 制御装置
310 トルクセンサ(第1負荷センサ)
340 ロードセル(第2負荷センサ)
350 タンク重量センサ(重量センサ)
401 直進アシストモータ(自動直進装置)
402 直視アシスト操作レバー(操作部材)
A 開始基準点
B 終了基準点
LM 負荷作業マップ
W1 第1の方向
W2 第2の方向