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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】基板搬送方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20241029BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01L21/68 A
H01L21/68 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022101389
(22)【出願日】2022-06-23
(65)【公開番号】P2024002287
(43)【公開日】2024-01-11
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】糸井 駿
(72)【発明者】
【氏名】王 建
(72)【発明者】
【氏名】村山 喬之
(72)【発明者】
【氏名】大村 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 真輔
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182290(JP,A)
【文献】特開2009-246325(JP,A)
【文献】国際公開第2005/055314(WO,A1)
【文献】特開2002-305225(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2011-0031595(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板支持面に滞留するガスを外部に排出するガス排出路を有する静電チャックと、
前記静電チャックに支持された基板に処理を施す単一の処理室と、
内部の雰囲気を大気から真空に変更することで、前記基板の前記処理室への搬送を可能にする真空予備室と、を備える基板処理装置で、
少なくとも前記処理室での基板処理時間に応じて、前記真空予備室から前記静電チャックまでの基板搬送時間を変更する、基板搬送方法。
【請求項2】
前記基板搬送時間の変更は、前記基板の保護膜の膜情報と前記処理室での基板処理時間に応じて行われる、請求項1記載の基板搬送方法。
【請求項3】
前記基板搬送時間の変更は、前記真空予備室内の真空度と前記処理室での基板処理時間に応じて行われる、請求項1記載の基板搬送方法。
【請求項4】
前記静電チャックへの基板搬送前に、前記真空予備室または前記処理室で、基板搬送を所定時間停止する、請求項1乃至3記載の基板搬送方法。
【請求項5】
前記ガス排出路は、前記基板支持面に形成された溝と、前記基板支持面と交差する方向で、前記静電チャックの対向する二面を貫く貫通孔で構成されている、請求項1乃至3記載の基板搬送方法。
【請求項6】
基板支持面に滞留するガスを外部に排出するガス排出路を有する静電チャックと、
前記静電チャックに支持された基板に処理を施す単一の処理室と、
内部の雰囲気を大気から真空に変更することで、前記基板の前記処理室への搬送を可能にする真空予備室と、を備える基板処理装置で、
少なくとも前記処理室での基板処理時間に応じて、前記真空予備室から前記静電チャックまでの基板搬送時間を変更する制御装置を具備する、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
保護膜付き基板の基板搬送方法と当該基板搬送方法を実現する基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に代表される基板処理装置では、静電チャック上に支持された基板に対して、所定の処理が施されている。処理対象とする基板の材質や剛性に応じて、基板保護の観点から、基板の処理面とは反対側の主面にポリイミドなどの絶縁材料からなる保護膜が設けられている。
【0003】
保護膜は、材質による程度差はあるが、大気中の水分を吸収し、膜表面や膜内部に水分を蓄える。基板処理が施されることで基板温度が上昇すると、保護膜の水分が気化し、保護膜からガスが放出される。
【0004】
基板処理中、基板は静電チャックに強固に固定されていることから、このガスを外部に排出することができず、静電チャックと保護膜との間には、保護膜から放出されたガスが滞留する。
基板処理時間の経過に伴い、保護膜から放出されたガスの総量は増加し、滞留ガスの圧力が上昇する。基板処理後、静電チャックによる基板支持を停止し、基板を静電チャックから取り外す際に、圧力の高まった滞留ガスが一挙に排出される。排出された滞留ガスは、静電チャックから基板を跳ね上げ、静電チャック上での基板の位置ずれや脱落を引き起こし、その後の基板搬送に支障を来す。
そこで、基板の跳ね上げ対策として、特許文献1に開示の静電チャックが提案されている。
【0005】
特許文献1では、静電チャックの基板支持面にガス排出路を形成し、基板処理中に、ガス排出路を介して、上述した滞留ガスを静電チャックと保護膜との間から排出することで、静電チャックから基板を離脱する時の基板の跳ね上げを軽減し、安定した基板搬送を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-182290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のガス排出路が形成された静電チャックであっても、ガス排出路の構成や保護膜からのガスの放出量等によっては、保護膜から放出されたガスの影響を完全に排除することは難しく、依然として基板の跳ね上げの影響を受け、静電チャックからの基板離脱後の基板搬送に支障を来す恐れがある。
【0008】
本発明では、基板保護膜から放出されるガスの基板搬送に対する影響を効果的に軽減し、より安定した基板搬送を実現することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
基板搬送方法は、
基板支持面に滞留するガスを外部に排出するガス排出路を有する静電チャックと、
前記静電チャックに支持された基板に処理を施す処理室と、
内部の雰囲気を大気から真空に変更することで、前記基板の前記処理室への搬送を可能にする真空予備室と、を備える基板処理装置で、
少なくとも前記処理室での基板処理時間に応じて、前記真空予備室から前記静電チャックまでの基板搬送時間を変更する。
【0010】
保護膜が含有する水分量には限りがある。基板処理時間が十分に長ければ、保護膜が含有する水分は枯渇し、保護膜から放出されたガスは、ガス排出路を介して十分に排出することができるので、静電チャックから基板を離脱する時の基板の跳ね上げは生じない。
一方、基板処理時間が比較的短い場合には、保護膜からガスが継続して放出されており、静電チャックからの基板離脱時に基板が大きく跳ねる傾向にある。
【0011】
基板が大気から真空に搬入されることで、保護膜に付着している水分の沸点が下がり、基板処理によらず、いくらかの水分は蒸発する。この点を鑑み、基板処理時間に応じて、真空予備室から静電チャックまでの基板搬送時間を変更することで、保護膜に含有されている水の残量を基板処理前に調整することが可能となり、保護膜から放出されるガスの基板搬送に対する影響を効果的に軽減し、ひいては、より安定した基板搬送が実現できる。
【0012】
実際に取り扱う基板に即した最適処理を実現するために、
前記基板搬送時間の変更は、前記保護膜の膜情報と前記処理室での基板処理時間に応じて行われる、ことが望ましい。
【0013】
膜情報が得られない場合や未知の保護膜が付いた基板を取り扱う場合等には、
前記基板搬送時間の変更は、前記真空予備室内の真空度と前記処理室での基板処理時間に応じて行われる、ことが望ましい。
【0014】
装置構成によっては、基板搬送路が短く、基板搬送時間の調整が困難となることから、
前記静電チャックへの基板搬送前に、前記真空予備室または前記処理室で、基板搬送を所定時間停止する、ことが望ましい。
【0015】
上記構成であれば、基板搬送時間の調整が簡便となる。
【0016】
基板処理時に発生するガスの排出を効率的に行うには、
前記ガス排出路は、前記基板支持面に形成された溝と、前記基板支持面と交差する方向で、前記静電チャックの対向する二面を貫く貫通孔で構成されている、ことが望ましい。
【0017】
上記構成のガス排出路であれば、保護膜から放出されるガスを効率的に排出することが可能となる。
【0018】
基板処理装置は、
基板支持面に滞留するガスを外部に排出するガス排出路を有する静電チャックと、
前記静電チャックに支持された基板に処理を施す処理室と、
内部の雰囲気を大気から真空に変更することで、前記基板の前記処理室への搬送を可能にする真空予備室と、を備える基板処理装置で、
少なくとも前記処理室での基板処理時間に応じて、前記真空予備室から前記静電チャックまでの基板搬送時間を変更する制御装置を具備している。
【0019】
上記構成であれば、上述した基板搬送方法と同等の効果を奏することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
基板処理時間に応じて、真空予備室から静電チャックまでの基板搬送時間を変更することで、保護膜に含有されている水の残量を基板処理前に調整することが可能となる。これより、保護膜から放出されるガスの基板搬送に対する影響を効果的に軽減し、ひいては、より安定した基板搬送が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】基板処理装置の構成例を示す平面図。
図2】静電チャックの平面図。(A)は静電チャックの側面図。(B)は静電チャックの上面図。
図3】リブ付き基板の平面図。(A)はリブ付き基板の側面図。(B)はリブ付き基板の上面図。
図4】基板搬送方法の一実施形態を示すフローチャート。
図5】基板搬送方法の他の実施形態を示すフローチャート。
図6】基板処理時間に応じた基板搬送時間の変更例を示す説明図。(A)は、段階的に基板搬送時間を変更する例。(B)は、複数段階に基板搬送時間を変更する例。(C)は、特定の基板処理時間を下回る場合に、線形的に基板搬送時間を変更する例。(D)は、全体を通して線形的に基板搬送時間を変更する例。(E)は全体を通して非線形的に基板搬送時間を変更する例。
図7】基板の搬送例を示す説明図。(A)は真空予備室で基板搬送を停止する例。(B)は搬送室で基板搬送を停止する例。(C)は処理室で基板搬送を停止する例。
図8】基板搬送方法の他の実施形態を示すフローチャート。
図9】基板搬送方法の他の実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、基板処理装置Aの構成例である。基板処理装置Aは、イオン注入装置に代表される半導体製造装置のように真空中で基板W(例えば、保護膜付きシリコンウェーハ)への処理を施す装置である。
【0023】
典型的には、基板処理装置Aは、内部の雰囲気を大気から真空に変更することで、基板Wを装置内部に導入する真空予備室2と基板Wが処理される処理室1と真空予備室2と処理室1との間で基板搬送を行う搬送ロボットが配置される搬送室3とを備えており、図示される矢印の方向へ基板Wを順に搬送することで、基板Wの処理と搬送が行われる。
なお、基板処理装置Aの構成により、処理室1や真空予備室2の一部が搬送室3を兼ねていてもよい。つまり、基板処理装置Aにおいて、搬送室3を設けることは必須ではない。
【0024】
制御装置Cは、上述した基板搬送において、各部屋での基板位置や基板搬送時の速度等を制御する装置である。内部に演算処理装置Xや記憶装置Rを備えている。
制御装置Cは、後述するプロセスレシピや膜情報等のデータDの入力を受けて、記憶装置Rからの所定データの読み出しやデータ演算等を実施した後、制御信号Iを送信して、基板位置や基板搬送時の速度等を制御する。
また、必要に応じて、真空予備室2に設けられた真空計4での計測結果をもとに、基板位置や基板搬送時の速度等の制御を実施する機能も有している。
【0025】
制御装置Cは、基板処理装置Aの構成に応じて、上述した対象以外を制御してもよい。例えば、イオンビームにより基板処理を実施する場合、イオンビームを生成するイオン源の運転制御に使用してもよい。
一方、制御装置Cに代えて、基板処理装置Aのオペレーターが基板搬送操作を行えるように、基板処理装置Aに操作用のパネルや物理的なスイッチを設けてもよい。
【0026】
図2は、静電チャックEの構成例である。静電チャックEは、図1の処理室1での基板処理時に、基板Wを支持する部材である。図2(A)は静電チャックEの側面図で、図2(B)は図2(A)を矢印U方向から視た静電チャックEの上面図である。
【0027】
静電チャックEの外形は、略円柱形であり、基板Wを支持する基板支持面Sには、ガス排出路Gが形成されている。ガス排出路Gは、静電チャックEの基板支持面Sに形成された溝G1と基板支持面Sと交差する方向で、静電チャックEの対向する二面(図2(A)の上下面)を貫く貫通孔G2から構成されている。
【0028】
ガスの効率的な排出という点では、ガス排出路Gの構成は、図示される溝G1と貫通孔G2の両方を備える構成が望ましい。ただし、ガスを排出するだけであれば、ガス排出路Gは、溝G1と貫通孔G2のいずれか一方を備えていればいい。
【0029】
溝G1、貫通孔G2の構成は、図示の構成に限定されるものではない。溝G1、貫通孔G2は、基板支持面Sの下方に設けられる不図示の電極や冷媒流路との干渉を避ける構成であれば、様々な構成を採用できる。例えば、溝G1は、図示のような十字状の溝に代えて、格子状の溝にしてもよい。また、特許文献1のように、3つの溝G1が1点で交わる構成を採用してもよい。貫通孔G2については、静電チャックEの対向する二面(図2(A)の上下面)を垂直に貫くものではなく、斜めに貫くものでもよい。
また、溝G1と貫通孔G2を重ねて形成し、ガスの排出方向を複数化しておけば、ガスの排出効率は向上する。
【0030】
図3は、基板Wの構成例である。図3(A)は、基板Wの側面図である。図3(B)は、図3(A)を矢印V方向から視た基板Wの上面図である。
図示される基板Wは、薄型基板の剛性を高めるためのリブLが周囲に形成されたリブ付き基板である。この種の基板には、基板搬送や基板処理時の基板Wの傷つきや熱変形を防止するための保護膜Pが取り付けられている。保護膜Pは、ポリイミドなどの絶縁材料からなる膜である。基板Wが大気に曝されることで、大気中の水分が保護膜Pに付着し、膜内に吸収される。また、保護膜Pによっては、保護膜Pの製造工程や他の基板処理時に付着、吸収された水分が膜の表面や膜の内部に残留している。
【0031】
半導体製造装置では、プラズマやイオンビームを基板に照射して、基板処理が行われることから、基板処理中に基板温度が上昇する。基板温度の上昇に伴い、保護膜Pの表面に付着した水分や膜内の水分が気化し、保護膜Pから放出される。
基板処理中、基板Wは、保護膜P側の面が静電チャックEの基板支持面Sに支持されている。保護膜Pから放出されたガス(水分が気化したもの)は、静電チャックEと保護膜Pとの間に放出されて、部材間に滞留することになるが、図2のガス排出路Gを有する静電チャックEであれば、こうした滞留ガスを外部に排出することが可能になる。
【0032】
しかしながら、ガス排出路Gを有する静電チャックEであっても、ガスの排出が十分に行えず、静電チャックEからの基板離脱時に基板Wの跳ね上げにより、基板離脱後の基板搬送に支障を来すことがある。
【0033】
一般に、基板処理時間が長いほど、ガス排出路Gを介して保護膜Pから放出されたガスを十分に排出することができる。主な理由は、保護膜Pの水分が枯渇するためである。
一方、基板処理時間が比較的短い場合には、保護膜P内の水分の残留量が多く、ガスの排出効果は十分に得られず、静電チャックEからの基板離脱時に基板Wが大きく跳ねる傾向にある。
こうした理由により、ガス排出路Gを有する静電チャックEであっても、基板離脱後の基板搬送に支障を来すことがある。
【0034】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、基板が大気から真空に搬入されることで、保護膜Pに付着している水分の沸点が下がり、基板処理によらず、いくらかの水分が蒸発することに着目し、保護膜Pから放出されるガスの基板搬送に対する影響を効果的に軽減し、ひいては、より安定した基板搬送が実現できる画期的な基板搬送方法と当該基板搬送を実施する基板搬送装置を考案した。
図4乃至図9は、本発明に係る様々な実施形態である。各図を用いて、以下に説明する。
【0035】
図4のフローチャートは、本発明の典型的な実施形態である。まず、基板処理にあたり、基板処理装置Aにプロセスレシピが入力される(処理S1)。プロセスレシピは、基板処理情報を含んでおり、この情報を基に基板処理に要する時間(基板処理時間)を算出する。この算出は、図1に示す制御装置Cにより実施するか、基板処理装置Aが有する他の制御装置により実施される。
【0036】
算出された基板処理時間を基準値と比較する(処理S2)。この基準値は、静電チャックEと保護膜Pとの間の滞留ガスが所定量以下となるのに必要な時間である。
基準値の設定にあたっては、基板処理中、滞留ガス量(ガス圧)の変動を計測し、最適な基準値を導き出す。一方、基板処理時間に応じた基板の跳ね量を予備実験により求め、許容できる基板の跳ね量に基づき、最適な基準値を導き出してもよい。
このような基準値を制御装置Cの記憶装置Rに記録し、処理S2での比較処理にあたり、記憶装置Rから記録されている基準値を読み出す。
【0037】
基板処理時間と基準値との比較により、基板処理時間が基準値よりも長い場合には、静電チャックEに基板Wを搬送し、静電チャックEで基板Wを吸着支持する(処理S3)。その後、静電チャックEに支持された基板Wに対して所定の基板処理を施す(処理S4)。
【0038】
一方、基板処理時間が基準値と同じか、これよりも短い場合には、基板搬送時間を変更する(処理S5)。
ここで言う基板搬送時間とは、例えば、真空予備室2での真空引きの終了から、基板Wが静電チャックE上に搬送されて、静電チャックEに吸着支持される直前までの時間である。処理S5では、通常の基板搬送を行う場合での基板搬送時間(標準搬送時間)に比べて、基板搬送時間を長くしている。
【0039】
処理S5における基板搬送時間の定義は、上述したものに限らず、基板Wが真空内に配置されてから、静電チャックEに吸着される直前までの間に行われる基板搬送の一部分を切り取り、これを搬送時間としてもよい。例えば、真空予備室2での真空排気終了から、真空予備室2から基板を搬出するまでの時間を処理S5で対象にする基板搬送時間にしてもよい。
【0040】
また、基板処理の前段階で保護膜Pの水分が十分に気化する程度、上述した標準搬送時間を予め長めの時間に設定しておいてもよい。この場合、処理S2での条件を充足した後に、処理S5を実施し、基板搬送時間を標準搬送時間よりも短くする。基板搬送時間を標準搬送時間よりも短くする理由は、基板処理装置Aの生産性の低下を防止するためである。基板処理時間が長い場合には、基板処理時に保護膜Pの水分が枯渇することから、基板処理前に保護膜Pの水分を十分に蒸発させておく必要がない。それにも関わらず、不必要に基板搬送時間を長いままにしておくと、基板処理装置Aの生産性が低下しまう。
【0041】
処理S5で基板搬送時間を標準搬送時間よりも短くした後、処理S3、処理S4を順に実施し、基板処理を終了する。
一方、処理S2での条件を充足しない場合には、処理S2の後、処理S3、処理S4を順に実施し、基板処理を終了する。
【0042】
上述したように、基準となる基板搬送時間の設定に応じて、処理S5での処理内容が変更される。
概して言えば、本発明では、処理室1での基板処理時間に応じて、真空予備室2から静電チャックEまでの基板搬送時間を変更することになる。
【0043】
上記実施形態のように、処理室1での基板処理時間に応じて、真空予備室2から静電チャックEまでの基板搬送時間を変更することで、保護膜Pに含有されている水の残量を基板処理前に調整することが可能となる。これより、保護膜Pから放出されるガスの基板搬送に対する影響を効果的に軽減し、ひいては、より安定した基板搬送が実現できる。
【0044】
上記実施形態において、処理S2では、基板処理時間を1つの基準値と比較しているが、比較対象にする基準値は複数でもよい。例えば、第1の基準値、第2の基準値を設けておき、これらの基準値を基板処理時間と比較する。その後、比較結果に応じて、基板搬送時間を適宜変更してもよい。
【0045】
基板搬送時間の変更は、段階的、線形的あるいは非線形的に変更するようにしてもよい。段階的に基板搬送時間を変更する場合は、基板処理時間に対応した複数の基板搬送時間を記憶装置Rに記録しておき、制御装置Cが、算出された基板処理時間に応じて、最適な基板搬送時間を記憶装置Rから読み出して基板位置や基板搬送を制御する。
【0046】
線形的あるいは非線形的に基板搬送時間を変更する場合は、基板処理時間を代入することで、基板搬送時間を導き出す演算式を記憶装置Rに記録しておき、制御装置Cの演算処理装置Xによる演算を経て、最適な基板搬送時間を導き出し、基板位置や基板搬送の制御が行われる。基板処理時間の長短に関わらず、常に線形的あるいは非線形的に基板搬送時間を変更する場合、図4のフローチャートに示す基準値と基板処理時間とを比較する処理S2は不要となり、具体的には、図5に示すフローチャートの処理となる。
【0047】
図5のフローチャートと図4のフローチャートで共通する処理には、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。後述する他のフローチャートについても同様に、重複する各処理の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
図5のフローチャートでは、上述したように、図4のフローチャートに記載の基板処理時間と基準値とを比較する処理S2がない。処理S8で、プロセスレシピより算出した基板処理時間を基に、記憶装置Rに記録されている演算式を用いて、制御装置Cが最適な基板搬送時間を算出する。
【0048】
算出された基板搬送時間に基づき、処理S5で、予め設定されている基板搬送時間を、算出により得た基板搬送時間に変更する。予め設定されている搬送時間とは、基板搬送時間の算出時に設定されている搬送時間であり、例えば、任意の標準搬送時間や先の基板処理時に設定された基板搬送時間である。
【0049】
図6には、基板処理時間に応じた基板搬送時間の変更例が描かれている。
図6(A)は、1つの基準値の前後で、基板搬送時間を段階的に変更する例である。図6(B)は、2つの基準値を用いて、基板搬送時間を段階的に変更する例である。図6(C)は、基準値を境にして、基板搬送時間を線形的に変更する例である。これらの例は、図4のフローチャートに対応している。
図6(D)は、基準値によらず、基板処理時間の増加に反比例して、基板搬送時間が線形的に減少する例である。図6(E)は、基準値によらず、基板処理時間の増加に反比例して、基板搬送時間が非線形的に減少する例である。これらの例は、図5のフローチャートに対応している。
【0050】
基板搬送時間の変更は、基板搬送時の搬送速度を変更することで実現できる。しかしながら、基板処理装置Aの構成によっては、基板搬送路の長さは様々であり、基板搬送路が短い場合、基板搬送速度を遅くするにも限界がある。
この点を考慮すると、真空予備室2から静電チャックEまでの基板搬送路で、基板Wの搬送を一時的に停止することが望まれる。より具体的には、静電チャックEへの基板搬送前に、真空予備室2、搬送室3、処理室1のいずれかの場所で、基板搬送を一時的に停止する。
【0051】
基板搬送の停止は、装置内での並行処理の実施を考慮すると、処理室1よりも真空予備室2で実施される方が望ましい。
処理室1で基板処理を実施している横で、別の基板の保護膜Pから水分を蒸発させる場合、保護膜Pから水分を蒸発させる目的で配置されている基板が、基板処理の影響を受けないように工夫することが必要になることから、処理室1の構造が複雑になる。
【0052】
真空予備室2で保護膜Pの水分を気化する場合、真空予備室2は、処理室1と別の部屋であるため、上述した処理室1での基板処理の影響を考慮する必要がなく、真空予備室2で基板Wの保護膜Pから水分を気化することと処理室1で基板処理することを、何ら問題なく、並列して実施することができる。
【0053】
基板処理装置Aが搬送室3を具備する場合には、搬送室3で基板搬送を一時停止してもよい。
ただし、真空予備室2と搬送室3とを比べた場合、真空予備室2で基板搬送を停止する方が望ましい。真空予備室2の真空排気は、基板搬送が停止されている状態で行われる。このことから、真空排気に引き続き、基板搬送の停止状態を維持しておくだけで、真空予備室2で保護膜Pの水分を気化することが可能となるので、基板搬送制御が容易となる。
なお、特定の部屋で基板搬送を停止するのではなく、各々の部屋で基板搬送を停止するようにしてもよい。
【0054】
図7には、複数枚の基板(基板W1、W2)を、基板処理装置Aに搬入したときの基板搬送例が描かれている。基板処理装置Aは、図1同様に、制御装置C等を備えているが、基板位置の説明とは無関係であるため、その記載を省略している。
図7(A)乃至(C)において、基板W1には基板処理が施されている。基板W2は、基板W1の後で基板処理が施される基板である。図7(A)では、基板W2の基板搬送は、真空予備室2で停止される。図7(B)では、基板W2の基板搬送は、搬送室3で停止される。図7(C)では、基板W2の基板搬送は、処理室1で停止される。
各図に描かれているように、一方の基板への基板処理と並行して、他方の基板の搬送を停止し、搬送停止した基板Wの保護膜Pから水分を蒸発させることで、基板処理装置Aの生産性を向上させてもよい。
【0055】
上述した実施形態のいずれの手法を用いても、従来技術に比べ、基板Wの保護膜Pから放出されるガスの基板搬送に対する影響を効果的に軽減し、ひいては、より安定した基板搬送が実現できる。
【0056】
保護膜Pの種類により、水分の吸収量や蒸発速度等に違いがあり、これが基板離脱時の基板の跳ね量に影響する。
より実用的に、基板離脱時に生じる基板Wの跳ねを軽減するには、基板処理時間以外に、保護膜Pの膜情報を考慮することが望ましい。
【0057】
図8は、保護膜Pの膜情報を考慮した実施形態のフローチャートである。図4のフローチャートとの違いは、処理S6にある。以下、図4との相違点について、説明する。
処理S6で、保護膜Pの膜情報が基板処理装置Aに入力される。処理S6と処理S1の順番は、フローチャートに記載の順番と逆であってもいいし、各処理が同時に実施されてもよい。
保護膜Pの膜情報は、膜厚や膜の材質、基板処理装置Aでの基板処理に先だって基板Wに対して実施された基板処理の情報等である。
これらの膜情報がプロセスレシピとともに、基板処理装置Aに入力されると、同情報に基づいて、制御装置Cが最適な基準値を算出する。
【0058】
一方、制御装置Cの記憶装置Rに、これまでに処理した保護膜Pの膜情報とそのときの基準値とを記録しておき、入力された膜情報をキーにして、記憶装置Rに記録されているデータを参照し、最適な基準値の読み出しが行われてもよい。
【0059】
図8のフローチャートでは、保護膜Pの膜情報を考慮して、基準値を設定するものであったが、膜情報がない未知の保護膜Pが付いた基板Wに対して基板処理を実施する場合もある。
そこで、未知の保護膜Pに対応するため、図9のフローチャートに記載の実施形態を採用してもよい。
【0060】
図8のフローチャートとの違いは、処理S7にある。以下、図8との相違点について、説明する。
処理S7では、真空予備室2の真空度を計測している。より具体的には、この真空度は、真空予備室2の真空排気完了後の真空度である。真空度の計測は、真空排気完了した時点でもいいし、真空排気完了時点から所定時間経過後に実施されてもよい。
【0061】
真空排気の完了は、時間の経過により判断する。具体的には、保護膜Pがない基板を真空予備室2に入れて、真空排気の開始から室内の真空度が所定の真空度となり真空排気が完了するまでに要する時間を計測する。計測した時間を基準時間として、保護膜P付き基板Wを真空予備室2に導入し、真空排気開始後、基準時間を経過した時点で真空排気完了とみなす。
【0062】
真空排気された真空予備室2に保護膜P付き基板Wが配置されると、保護膜Pに付着、含有されている水分が蒸発する。水分の蒸発量に応じて、真空予備室2で計測された真空度は、基準真空度から変化する。
ここで言う基準真空度は、保護膜無しの基板を真空予備室2に入れ、真空排気が完了したときの真空度であり、基準真空度と保護膜付き基板Wで計測した真空度との差分でもって、保護膜P内に付着、含有されている水分量を推定し、処理S2における最適な基準値を導き出す。
【0063】
膜情報の実施形態と同じく、制御装置Cの記憶装置Rに、これまでに処理した真空度とそのときの基準値とを記録しておき、計測された真空度をキーにして、記憶装置R内のデータを参照し、最適な基準値の読み出しが行われてもよい。
【0064】
図8図9のフローチャートで説明した実施形態においても、図4図5の実施形態と同様に、図6図7を用いて説明した実施形態を組み合わせてもよい。
また、図8図9のフローチャートは、図4のフローチャートを変形したものであるが、図5のフローチャートを変形し、各図で説明した実施形態を適用してもいい。この場合、図5の処理S8と処理S3の間に、図8の処理S6(膜情報)や図9の処理S7(真空度測定)が挿入されることになる。
図4図5図8図9のフローチャートに記載の基板搬送方法は、図1に記載の制御装置Cにより実現されることを基本としているが、各処理の全てもしくは一部における操作や判断を、基板処理装置Aのオペレーターが実施してもよい。
【0065】
基板Wは、図3に図示されたリブ付き基板である必要はなく、リブがないフラットな構造であってもよく、水分を含む保護膜Pが基板Wの支持面に付いているものであれば、どのようなものであってもよい。
【0066】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0067】
W 基板
P 保護膜
E 静電チャック
S 基板支持面
G ガス排出路
A 基板処理装置
C 制御装置
1 処理室
2 真空予備室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9