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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】磁器組成物および巻線型コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20241029BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20241029BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20241029BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/29 G
H01F17/04 A
H01F27/255
H01F1/34 140
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022118829
(22)【出願日】2022-07-26
(65)【公開番号】P2024016589
(43)【公開日】2024-02-07
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】島村 篤
(72)【発明者】
【氏名】喜多代 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇規
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-323283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 27/29
H01F 27/255
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、NbおよびVを含有する磁器組成物であって、
Fe、Cu、ZnおよびNiをそれぞれFe、CuO、ZnOおよびNiOに換算し、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量を100mol%としたときに、FeをFeに換算して46.70mol%以上、49.70mol%以下、CuをCuOに換算して4.00mol%以上、7.50mol%以下、ZnをZnOに換算して7.00mol%以上、33.50mol%以下、Niを残部として含有し、
Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、MnをMnに換算して300ppm以上、10000ppm以下、NbをNbに換算して2ppm以上、30ppm以下、VをVに換算して10ppm以上、60ppm以下含有する、磁器組成物。
【請求項2】
焼結状態での平均グレイン径が2.2μm以上、9.0μm以下である、請求項1に記載の磁器組成物。
【請求項3】
さらに、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、CoをCoOに換算して500ppm以上、6000ppm以下含有する、請求項1に記載の磁器組成物。
【請求項4】
長さ方向に延びる巻芯部と、前記巻芯部の前記長さ方向に相対する両端部に設けられた一対の鍔部とを含み、前記鍔部の各々は、前記長さ方向において前記巻芯部側に向く内側端面と、前記長さ方向において前記内側端面とは反対側の外側端面と、幅方向において相対する一対の側面と、高さ方向において相対する天面および底面とを有するセラミックコアと、
前記セラミックコアの前記鍔部の少なくとも前記底面に設けられた端子電極と、
前記セラミックコアの前記巻芯部に巻回され、端部が前記端子電極に電気的に接続されたワイヤと、を備え、
前記セラミックコアが、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁器組成物から構成されている、巻線型コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁器組成物および巻線型コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、巻芯部および鍔部を有するドラムコアを用いた巻線型のコイル装置が開示されている。特許文献1に記載のコイル装置によれば、巻芯部の一端の鍔部に形成された実装用第1凸部と巻芯部の他端の鍔部に形成された実装用第2凸部とが位置ズレして配置してあるため、耐熱衝撃特性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-125397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ドラムコアは、例えばNi-Zn系フェライトまたはMn-Zn系フェライトなどのフェライト材料を成形および焼結することにより作製されることが記載されている。
【0005】
しかしながら、フェライト材料からなるコアにおいては、バレル研磨時に欠けが発生したり、ワイヤと端子電極との熱圧着時にクラックが発生したりするおそれがある。また、コアの底面に設けられる端子電極がめっきにより形成される場合には、めっき層が狙いの位置からはみ出す「めっき伸び」と呼ばれる不具合が発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、バレル研磨時の欠け、熱圧着時のクラックおよびめっき伸びが抑制され、かつ、比抵抗が高い磁器組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記磁器組成物をセラミックコアとして備える巻線型コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁器組成物は、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、NbおよびVを含有する磁器組成物であって、Fe、Cu、ZnおよびNiをそれぞれFe、CuO、ZnOおよびNiOに換算し、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量を100mol%としたときに、FeをFeに換算して46.70mol%以上、49.70mol%以下、CuをCuOに換算して4.00mol%以上、7.50mol%以下、ZnをZnOに換算して7.00mol%以上、33.50mol%以下、Niを残部として含有し、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、MnをMnに換算して300ppm以上、10000ppm以下、NbをNbに換算して2ppm以上、30ppm以下、VをVに換算して10ppm以上、60ppm以下含有する。
【0008】
本発明の巻線型コイル部品は、長さ方向に延びる巻芯部と、上記巻芯部の上記長さ方向に相対する両端部に設けられた一対の鍔部とを含み、上記鍔部の各々は、上記長さ方向において上記巻芯部側に向く内側端面と、上記長さ方向において上記内側端面とは反対側の外側端面と、幅方向において相対する一対の側面と、高さ方向において相対する天面および底面とを有するセラミックコアと、上記セラミックコアの上記鍔部の少なくとも上記底面に設けられた端子電極と、上記セラミックコアの上記巻芯部に巻回され、端部が上記端子電極に電気的に接続されたワイヤと、を備え、上記セラミックコアが、本発明の磁器組成物から構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バレル研磨時の欠け、熱圧着時のクラックおよびめっき伸びが抑制され、かつ、比抵抗が高い磁器組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記磁器組成物をセラミックコアとして備える巻線型コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の磁器組成物の表面の一例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の磁器組成物の研磨面の一例を模式的に示す模式図である。
図3図3は、本発明の巻線型コイル部品の一例を模式的に示す正面図である。
図4図4は、図3に示す巻線型コイル部品を構成するセラミックコアの一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の磁器組成物および巻線型コイル部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0012】
[磁器組成物]
本発明の磁器組成物は、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、NbおよびVを含有する。本発明の磁器組成物は、例えば、フェライト、好ましくは、スピネル型のフェライトを主成分として含む。
【0013】
本明細書において、磁器組成物とは、焼結体を意味し、好ましくは、コア状の焼結体を意味する。したがって、本発明の磁器組成物は、上記の原子が原子レベルで混ざったものである。すなわち、本発明の磁器組成物は、フェライト焼結体と同義である。
【0014】
本発明の磁器組成物は、Fe、Cu、ZnおよびNiをそれぞれFe、CuO、ZnOおよびNiOに換算し、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量を100mol%としたときに、FeをFeに換算して46.70mol%以上、49.70mol%以下、CuをCuOに換算して4.00mol%以上、7.50mol%以下、ZnをZnOに換算して7.00mol%以上、33.50mol%以下、Niを残部として含有する。
【0015】
本発明の磁器組成物は、さらに、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、MnをMnに換算して300ppm以上、10000ppm以下、NbをNbに換算して2ppm以上、30ppm以下、VをVに換算して10ppm以上、60ppm以下含有する。
【0016】
本発明の磁器組成物では、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、NbおよびVの含有量を上記の範囲とすることで、バレル研磨時の欠け、熱圧着時のクラックおよびめっき伸びを抑制できるとともに、比抵抗を高くできる。例えば、後述の実施例で説明するバレル研磨時のコア欠け率が0.15%以下、熱圧着時のクラック発生率が0.20%以下、めっき伸びが70μm以下、比抵抗(logρ)が1.0×10Ωm以上の磁器組成物を得ることができる。
【0017】
本発明の磁器組成物は、Coをさらに含有してもよい。その場合、本発明の磁器組成物は、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、CoをCoOに換算して500ppm以上、6000ppm以下含有することが好ましい。本発明の磁器組成物にCoが上記の範囲で含有されていると、めっき伸びをさらに抑制できる。
【0018】
各元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)を用いて、磁器組成物の組成を分析することにより求めることができる。
【0019】
本発明の磁器組成物は、他の元素をさらに含有してもよい。また、本発明の磁器組成物は、不可避不純物をさらに含有してもよい。
【0020】
本発明の磁器組成物では、焼結状態での平均グレイン径が2.2μm以上、9.0μm以下であることが好ましい。平均グレイン径が上記の範囲であると、バレル研磨時の欠けをさらに抑制できる。
【0021】
図1は、本発明の磁器組成物の表面の一例を示す模式図である。
【0022】
図1に示す磁器組成物1は、複数のグレイン2と、グレイン2の間の粒界層3とを含む。粒界層3にはCu成分が多く析出しており、粒界層3を伝ってめっきが延びると考えられている。
【0023】
図2は、本発明の磁器組成物の研磨面の一例を模式的に示す模式図である。
【0024】
後述の実施例で説明するとおり、磁器組成物の平均グレイン径は、図2に示すような磁器組成物1の研磨面から算出されるグレイン径の平均値として求められる。
【0025】
なお、磁器組成物のグレイン径は、焼成温度、組成等により調整することが可能である。例えば、焼成温度を高くすることでグレイン径を大きくすることができる。また、磁器組成物中のCuの含有量を多くすることでグレイン径を大きくすることができる。
【0026】
本発明の磁器組成物は、好ましくは、以下のように製造される。
【0027】
まず、焼成後の組成が所定の組成となるようにFe、CuO、ZnO、NiO、Mn、Nb、Vおよび必要に応じてCoOを所定の組成となるように秤量し、この配合原料を純水およびPSZ(部分安定化ジルコニア)ボールと共にボールミルに入れ、湿式で所定の時間(例えば、4時間以上、8時間以下)混合粉砕する。これを蒸発乾燥させた後、所定の温度(例えば、700℃以上、800℃以下)で所定の時間(例えば、2時間以上、5時間以下)仮焼することにより、仮焼物(仮焼粉)を作製する。
【0028】
得られた仮焼物(仮焼粉)を、純水、バインダーとしてポリビニルアルコール、分散剤、可塑剤およびPSZボールと共にボールミルに入れ、湿式で混合粉砕する。この混合粉砕したスラリーをスプレー乾燥機で乾燥、造粒して、顆粒粉末を作製する。
【0029】
金型を準備し、作製した顆粒粉末を加圧成形して成形体を形成する。
【0030】
次に、成形体を焼成炉で所定の温度(例えば、1000℃以上、1200℃以下)で所定の時間(例えば、2時間以上、5時間以下)保持して焼成する。以上の工程により、磁器組成物が得られる。
【0031】
本発明の磁器組成物は、例えば、巻線型コイル部品のセラミックコアに使用される。なお、本発明の磁器組成物の用途は特に限定されず、例えば、積層インダクタ等の素体に使用されてもよい。
【0032】
[巻線型コイル部品]
本発明の巻線型コイル部品は、本発明の磁器組成物をセラミックコアとして備える。
【0033】
図3は、本発明の巻線型コイル部品の一例を模式的に示す正面図である。図4は、図3に示す巻線型コイル部品を構成するセラミックコアの一例を模式的に示す斜視図である。
【0034】
図3および図4は模式的なものであり、その寸法や縦横比の縮尺などは実際の製品とは異なる場合がある。
【0035】
以下の説明において、要素間の関係性を示す用語(例えば「垂直」、「平行」、「直交」等)および要素の形状を示す用語は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0036】
図3に示す巻線型コイル部品10は、セラミックコア20と、端子電極50と、ワイヤ(コイル)55と、を備える。セラミックコア20は、本発明の磁器組成物から構成されている。
【0037】
図3および図4に示すように、セラミックコア20は、長さ方向Lに延びる巻芯部30と、巻芯部30の長さ方向Lに相対する両端部に設けられた一対の鍔部40とを含む。巻芯部30と鍔部40とは一体に形成されている。
【0038】
本明細書では、図3および図4に示すように、一対の鍔部40が並ぶ方向を長さ方向Lと定義し、長さ方向Lに直交する方向のうち図3および図4の上下方向を高さ方向(厚み方向)Tと定義し、長さ方向Lおよび高さ方向Tのいずれにも直交する方向を幅方向Wと定義する。
【0039】
巻芯部30は、例えば、長さ方向Lに延在した直方体状に形成されている。巻芯部30の中心軸は、長さ方向Lに平行に延在している。巻芯部30は、高さ方向Tにおいて相対する一対の主面31および32と、幅方向Wにおいて相対する一対の側面33および34とを有している。
【0040】
本明細書において、直方体状には、角部および稜線部が面取りされた直方体、角部および稜線部が丸められた直方体などが含まれるものとする。また、主面および側面の一部または全部に凹凸などが形成されていてもよい。
【0041】
一対の鍔部40は、巻芯部30の長さ方向Lの両端部に設けられている。各鍔部40は、長さ方向Lに薄い直方体状に形成されている。各鍔部40は、高さ方向Tおよび幅方向Wに向かって巻芯部30の周囲に張り出すように形成されている。具体的には、長さ方向Lから見たときの各鍔部40の平面形状は、巻芯部30に対して高さ方向Tおよび幅方向Wに張り出すように形成されている。
【0042】
各鍔部40は、長さ方向Lにおいて巻芯部30側に向く内側端面41と、長さ方向Lにおいて内側端面41とは反対側の外側端面42と、幅方向Wにおいて相対する一対の側面43および44と、高さ方向Tにおいて相対する天面45および底面46とを有している。一方の鍔部40の内側端面41は、他方の鍔部40の内側端面41と対向して配置されている。
【0043】
各鍔部40の内側端面41は、例えば、その全面が、巻芯部30の中心軸が延びる方向(ここでは長さ方向L)に対して垂直に延びるように形成されている。すなわち、各鍔部40の内側端面41の全面は、高さ方向Tに平行に延びるように形成されている。ただし、各鍔部40の内側端面41には、傾斜面が形成されていてもよい。
【0044】
図3に示すように、端子電極50は、各鍔部40の少なくとも底面46に設けられている。端子電極50は、例えば、巻線型コイル部品10が回路基板に実装される際に、回路基板の電極と電気的に接続される。端子電極50は、例えば、ニッケル(Ni)-クロム(Cr)、Ni-銅(Cu)等のNi系合金、銀(Ag)、Cu、錫(Sn)等により構成される。
【0045】
ワイヤ55は、巻芯部30に巻回されている。ワイヤ55は、例えば、Cu等の導電性材料を主成分とする芯線がポリウレタン、ポリエステル等の絶縁材料により被覆された構造を有している。ワイヤ55の両端部は、端子電極50にそれぞれ電気的に接続されている。
【0046】
図3には示されていないが、各鍔部40の底面46に複数の端子電極50が設けられていてもよい。また、巻芯部30に複数のワイヤ55が巻回されていてもよい。
【0047】
本発明の巻線型コイル部品は、例えば、以下のように製造される。
【0048】
上述の[磁器組成物]で説明したように、顆粒粉末を加圧成形して成形体を形成する。次に、成形体を焼成炉で所定の温度(例えば、1000℃以上、1200℃以下)で所定の時間(例えば、2時間以上、5時間以下)保持して焼成する。得られた焼結体をバレル内に投入して研磨材により研磨する。このバレル研磨により、焼結体からバリが除去され、焼結体の外表面(特に角部および稜線部)に曲線状の丸みがもたらされる。以上の工程により、図4に示したようなセラミックコアが得られる。
【0049】
続いて、セラミックコアの鍔部の少なくとも底面に端子電極を形成する。例えば、鍔部の底面にAgおよびガラスフリット等を含む導電性ペーストを塗布し、所定の温度(例えば、800℃以上、820℃以下)で焼付け処理を行って下地金属層を形成した後に、電解めっきにより、下地金属層の上にNiめっき膜とSnめっき膜とを順次形成することによりめっき層を形成する。あるいは、鍔部の底面に金属端子を取り付けることにより、端子電極として使用してもよい。
【0050】
次いで、セラミックコアの巻芯部にワイヤを巻回した後、ワイヤの端部と端子電極とを熱圧着等の公知の手法によって接合する。以上の工程により、図3に示したような巻線型コイル部品を製造することができる。
【0051】
本発明の巻線型コイル部品は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変更を加えることが可能である。その他の形状として例えば、長さ方向Lに延びて鍔部と鍔部の間を連結する天板を備えていてもよい。また、ワイヤの周りが樹脂によって被覆されていてもよい。コアの形状はドラムコアに限られず、環状コアでもよい。
【0052】
本発明の巻線型コイル部品において、セラミックコアの巻芯部の形状およびサイズ、セラミックコアの鍔部の形状およびサイズ、ワイヤの太さ(線径)、巻数(ターン数)、ワイヤの断面形状およびワイヤの本数は特に限定されず、所望の特性、実装場所に合わせて適宜変更することができる。また、端子電極の位置および数についても、ワイヤの本数および用途に応じて適宜設定することができる。
【0053】
本明細書には、以下の内容が開示されている。
【0054】
<1>
Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、NbおよびVを含有する磁器組成物であって、
Fe、Cu、ZnおよびNiをそれぞれFe、CuO、ZnOおよびNiOに換算し、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量を100mol%としたときに、FeをFeに換算して46.70mol%以上、49.70mol%以下、CuをCuOに換算して4.00mol%以上、7.50mol%以下、ZnをZnOに換算して7.00mol%以上、33.50mol%以下、Niを残部として含有し、
Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、MnをMnに換算して300ppm以上、10000ppm以下、NbをNbに換算して2ppm以上、30ppm以下、VをVに換算して10ppm以上、60ppm以下含有する、磁器組成物。
【0055】
<2>
焼結状態での平均グレイン径が2.2μm以上、9.0μm以下である、<1>に記載の磁器組成物。
【0056】
<3>
さらに、Fe、CuO、ZnOおよびNiOの合計量100重量部に対して、CoをCoOに換算して500ppm以上、6000ppm以下含有する、<1>または<2>に記載の磁器組成物。
【0057】
<4>
長さ方向に延びる巻芯部と、上記巻芯部の上記長さ方向に相対する両端部に設けられた一対の鍔部とを含み、上記鍔部の各々は、上記長さ方向に置いて上記巻芯部側に向く内側端面と、上記長さ方向において上記内側端面とは反対側の外側端面と、幅方向において相対する一対の側面と、高さ方向において相対する天面および底面とを有するセラミックコアと、
上記セラミックコアの上記鍔部の少なくとも上記底面に設けられた端子電極と、
上記セラミックコアの上記巻芯部に巻回され、端部が上記端子電極に電気的に接続されたワイヤと、を備え、
上記セラミックコアが、<1>~<3>のいずれか1つに記載の磁器組成物から構成されている、巻線型コイル部品。
【実施例
【0058】
以下、本発明の磁器組成物をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
焼成後の組成が表1に示す組成となるようにFe、CuO、ZnO、NiO、Mn、NbおよびVを秤量し、この配合原料を純水およびPSZボールと共にボールミルに入れ、湿式で4時間混合粉砕した。これを蒸発乾燥させた後、800℃で2時間仮焼することにより、仮焼物を作製した。
【0060】
作製した仮焼物を、純水、バインダーとしてポリビニルアルコール、分散剤、可塑剤およびPSZボールと共にボールミルに入れ、混合粉砕した。この混合粉砕したスラリーをスプレー乾燥機で乾燥、造粒して、顆粒粉末を作製した。
【0061】
作製した顆粒粉末をプレス成形し、成形後の寸法が、
・長さ方向Lの寸法が3.9mm、幅方向Wの寸法が2.8mm、高さ方向Tの寸法が2.2mmのH型形状のコア試料、または、
・外径が20mm、内径が12mm、厚みが1.5mmのリング状試料
となるような成形体を作製した。
【0062】
作製した成形体を1100℃で2時間焼成した。以上により、試料1~25を作製した。
【0063】
各試料について、ICP-AES/MSを用いて、焼結体の組成を分析することにより、各元素の含有量を測定した。結果を表1に示す。表1には、各元素の酸化物に換算した含有量を示している。
【0064】
試料1~25のリング状試料について、ハイレジスタンスメータ(アジレント・テクノロジー社製、4339A)を使用して表面抵抗値を測定した。表面抵抗値と試料寸法とから比抵抗(logρ)を算出した。各試料について、n=5個として平均値を算出した。結果を表1に示す。比抵抗が1.0×10Ωm以上である場合を○(良好)、1.0×10Ωm未満である場合を×(不良)と判断した。
【0065】
試料1~25について、各20000個のコア試料を80rpm、60minの条件にてバレル研磨を行った。8000個を選別し、バレル研磨後のコア試料に欠けが発生しているか否かを基板外観検査装置(東京ウエルズ社製、TWA-4101)を使用して確認することにより、コア欠け率を算出した。バレル研磨時のコア欠け率が0.15%以下である場合を○(良好)、0.15%を超える場合を×(不良)と判断した。結果を表1に示す。
【0066】
試料1~25のコア試料の底面に端子電極を形成した。具体的には、コア試料の底面にAgペーストを塗布して焼付け処理を行うことによって下地金属層を形成した後、Cu層、Ni層およびSn層を含むめっき層をめっきにより形成した。めっき条件は、Cu層/Ni層/Sn層の厚みがそれぞれ5μm/4μm/15μmとなる加工条件とした。めっき層が狙い位置からはみ出した寸法をめっき伸びとして測定した。各試料について、n=10個として平均値を算出した。めっき伸びが70μm以下である場合を○(良好)、70μmを超える場合を×(不良)と判断した。結果を表1に示す。
【0067】
試料1~25のコア試料について、ワイヤと端子電極とを熱圧着により接合した。具体的には、450℃に加熱したヒータチップを使用して0.8Nで加圧した。熱圧着後のコア試料にクラックが発生しているか否かを基板外観検査装置(東京ウエルズ社製、TWA-4101)を使用して確認することにより、クラック発生率を算出した。各試料について、n=8000個として平均値を算出した。熱圧着時のクラック発生率が0.20%以下である場合を○(良好)、0.20%を超える場合を×(不良)と判断した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1において、*印を付した試料は、本発明の範囲外となる比較例である。
【0070】
表1より、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、NbおよびVを所定の範囲で含有する試料2~4、7、8、11、12、15、16、19、20、23および24では、バレル研磨時のコア欠け率が0.15%以下、熱圧着時のクラック発生率が0.20%以下、めっき伸びが70μm以下、比抵抗(logρ)が1.0×10Ωm以上の磁器組成物が得られている。
【0071】
[実施例2]
表1の試料3の組成において、焼成温度によってグレイン径を変更した試料26~29を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0072】
以下に示す方法により算出されるグレイン径から、焼結状態での平均グレイン径を算出した。
【0073】
試料3および26~29のH型形状のコア試料について、自動研磨装置(株式会社ストルアス製、テグラミン-25)を使用して研磨および面出しを行った後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて研磨面の観察を行った。研磨面のSEM観察像から、画像解析ソフトWinROOFにてグレイン径の算出を行った。各試料について、n=50以上のグレイン径の平均値を平均グレイン径とした。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2より、焼結状態での平均グレイン径が2.2μm以上、9.0μm以下である試料3、27および28では、バレル研磨時のコア欠け率が0.10%以下に抑制されている。
【0076】
[実施例3]
表1の試料3の組成において、Coの含有量を変更した試料30~33を作製し、実施例1と同様の評価を行った。Coの含有量を測定する方法は実施例1と同様である。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3より、CoをCoOに換算して500ppm以上、6000ppm以下含有する試料3、31および32では、めっき伸びが60μm以下に抑制されている。これは、粒界に押し出されるCuがCoによって減少して比抵抗が高くなるため、めっき伸びが抑えられるためと考えられる。
【0079】
なお、実施例1の表1および実施例2の表2には示されていないが、試料1、2および4~29には、試料3と同程度のCoが含有されている。
【符号の説明】
【0080】
1 磁器組成物
2 グレイン
3 粒界層
10 巻線型コイル部品
20 セラミックコア
30 巻芯部
31、32 巻芯部の主面
33、34 巻芯部の側面
40 鍔部
41 鍔部の内側端面
42 鍔部の外側端面
43、44 鍔部の側面
45 鍔部の天面
46 鍔部の底面
50 端子電極
55 ワイヤ
L 長さ方向
T 高さ方向
W 幅方向
図1
図2
図3
図4