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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】共振器、発振器、及び量子計算機
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/10 20230101AFI20241029BHJP
   H10N 60/12 20230101ALI20241029BHJP
   G06N 10/20 20220101ALI20241029BHJP
【FI】
H10N60/10 K
H10N60/12 A
G06N10/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023077650
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2021533889の分割
【原出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2023116447
(43)【公開日】2023-08-22
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2019133817
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】山道 智博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 義仁
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/162965(WO,A1)
【文献】特表2018-533106(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0156238(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/10
H10N 60/12
G06N 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路と、
前記ループ回路に含まれるジョセフソン接合とは別に設けられた第三のジョセフソン接合と、
キャパシタと
を有し、
前記ループ回路と、前記第三のジョセフソン接合と、前記キャパシタとが環状に接続され、
前記ループ回路あるいは前記第三のジョセフソン接合の少なくとも一方が複数である、
共振器。
【請求項2】
前記ループ回路と、前記第三のジョセフソン接合とが交互に並ぶように直列に接続されている、
請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の共振器と、
前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生部と
を有する発振器。
【請求項4】
複数の請求項3に記載の発振器と、
前記複数の発振器を結合する結合回路と
を有し、
前記結合回路は、前記複数の発振器のうち、第一の発振器と第二の発振器とを含む第一組の発振器群と、第三の発振器と第四の発振器とを含む第二組の発振器群とを第四のジョセフソン接合を介して結合する、
量子計算機。
【請求項5】
前記第一の発振器は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第一のキャパシタを介して接続し、
前記第二の発振器は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第二のキャパシタを介して接続し、
前記第三の発振器は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第三のキャパシタを介して接続し、
前記第四の発振器は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第四のキャパシタを介して接続している、
請求項4に記載の量子計算機。
【請求項6】
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されている、少なくとも1つのループ回路と、前記ループ回路に含まれるジョセフソン接合とは別に設けられた、少なくとも1つの第三のジョセフソン接合と、キャパシタとを有し、前記ループ回路と、前記第三のジョセフソン接合と、前記キャパシタとが環状に接続されている共振器と、
前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生部と、
前記磁場発生部に交流電流を供給する制御部と
を備える発振器。
【請求項7】
複数の請求項6に記載の発振器と、
前記複数の発振器を結合する結合回路と
を有し、
前記結合回路は、前記複数の発振器のうち、第一の発振器と第二の発振器とを含む第一組の発振器群と、第三の発振器と第四の発振器とを含む第二組の発振器群とを第四のジョセフソン接合を介して結合する、
量子計算機。
【請求項8】
前記第一の発振器は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第一のキャパシタを介して接続し、
前記第二の発振器は前記第四のジョセフソン接合の一方の端子に、第二のキャパシタを介して接続し、
前記第三の発振器は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第三のキャパシタを介して接続し、
前記第四の発振器は前記第四のジョセフソン接合の他方の端子に、第四のキャパシタを介して接続している、
請求項7に記載の量子計算機。
【請求項9】
複数の請求項6に記載の発振器と、
前記複数の発振器を結合する結合回路と
を有し、
前記複数の発振器は、第一の発振器、第二の発振器、第三の発振器、および第四の発振器からなり、
前記第一の発振器は前記結合回路に、第一のキャパシタを介して接続し、
前記第二の発振器は前記結合回路に、第二のキャパシタを介して接続し、
前記第三の発振器は前記結合回路に、第三のキャパシタを介して接続し、
前記第四の発振器は前記結合回路に、第四のキャパシタを介して接続している、
量子計算機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共振器、発振器、及び量子計算機に関し、特に超伝導回路を用いた共振器、発振器、及び量子計算機に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導素子を用いた回路についての研究が行なわれている。例えば、特許文献1は、超伝導素子を用いた高周波発振器について開示している。また、近年、超伝導素子を用いた量子計算機について研究が行なわれている。例えば特許文献2、特許文献3及び非特許文献1は、非線形発振器のネットワークを利用した量子計算機について提案している。これらの量子計算機に用いる非線形発振器には、適度な非線形性と可能な限り低い損失が要求される。ここで非線形発振器の非線形性は、非線形係数で定量づけられるものである。非線形係数とは、後述するように、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数により定義される係数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09―139528号公報
【文献】特開2017―73106号公報
【文献】特開2018-11022号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】S. Puri, et al., “Quantum annealing with all-to-all connected nonlinear oscillators,” Nature Comm., 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献2、特許文献3、及び非特許文献1には、非線形発振器として分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器を用いた量子計算機の構成が記載されている。分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、分布定数型の共振器とジョセフソン接合とから構成される。この分布定数型の共振器は、パラメトリック発振器の発振周波数に対応する電磁波の、回路基板上での波長と同程度の長さを有する。なお、ここで言う回路基板とは、ジョセフソンパラメトリック発振器がその上に形成されている基板のことを指す。一般にこの発振周波数は例えば10GHz程度であるため、この周波数に対応する分布定数型共振器の長さのオーダーはミリ程度である。このため、分布定数型共振器の長さは、非常に長くなる。
【0006】
一方、実用的な量子計算機を実現するためには、例えば数千個程度の非線形発振器を数ミリ角程度のチップに集積する必要がある。しかし、分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、共振器の占有面積が大きすぎるため、このような集積化には不向きであるという問題があった。
【0007】
本開示の目的は、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制することができる共振器、発振器、及び量子計算機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態にかかる共振器は、
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されている、少なくとも1つのループ回路と、
前記ループ回路に含まれるジョセフソン接合とは別に設けられた、少なくとも1つの第三のジョセフソン接合と、
キャパシタと、
を有し、
前記ループ回路と、前記第三のジョセフソン接合と、前記キャパシタとが環状に接続されている。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成によれば、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制することができる共振器、発振器、及び量子計算機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一の実施形態にかかる集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器の一例を示す模式図である。
図2】第一の実施形態にかかる発振器の制御および読み出しを行うための構成を示した模式図である。
図3】第一の実施形態の変形例にかかるジョセフソンパラメトリック発振器の構成を示す模式図である。
図4】第二の実施形態にかかるジョセフソンパラメトリック発振器の構成を示す模式図である。
図5】第二の実施形態の変形例にかかるジョセフソンパラメトリック発振器の構成を示す模式図である。
図6】実施形態又は変形例で示した発振器を用いた量子計算機の構成を示す模式図である。
図7】発振器を集積した量子計算機の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の詳細について説明する。なお、実施形態にかかる共振器は、例えば、シリコン基板上に超伝導体により形成した線路(配線)により実現される。例えば、この線路の材料として、例えばNb(ニオブ)又はAl(アルミニウム)が用いられるが、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)など、極低温に冷却すると超伝導状態となる他の任意の金属が用いられてもよい。また、超伝導状態を実現するため、冷凍機により実現される例えば10mK(ミリケルビン)程度の温度環境において、共振器の回路は利用される。
また、以下の説明において、ジョセフソン接合とは、第1の超伝導体と第2の超伝導体で薄い絶縁膜を挟んだ構造を有する素子をいう。
また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0012】
<第一の実施形態>
上述した通り、分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、共振器の占有面積が大きすぎるため、集積化には不向きである。この問題を解決して実用的な量子計算機を実現するためには、集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器を実現する必要がある。図1は、第一の実施形態にかかる集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器10の一例を示す模式図である。なお、以下の説明では、ジョセフソンパラメトリック発振器(非線形発振器)を単に発振器と称すことがある。
【0013】
図1に示すように、発振器10は、共振器100と、磁場発生部200とを有する。共振器100は、ループ回路110と、ジョセフソン接合130と、キャパシタ120とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器100は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110を備えている。図1に示すように、第一の超伝導線路101と第一のジョセフソン接合103と第二の超伝導線路102と第二のジョセフソン接合104とが環状に接続されることによりループ回路110が構成されている。換言すると、ループ回路110において、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されることによりループを構成している。すなわち、ループ回路110は、DC-SQUID(superconducting quantum interference device)と言うこともできる。本実施形態では、共振器100はループ回路110を1つ備える。ただし、後述する変形例で示すように、共振器100は複数のループ回路110を備え得る。
【0014】
ジョセフソン接合130は、ループ回路110に含まれるジョセフソン接合103、104とは別に設けられたジョセフソン接合である。共振器100は、少なくとも1つのジョセフソン接合130を有する。すなわち、共振器100は、複数のジョセフソン接合130を有してもよい。ジョセフソン接合130と、ループ回路110とは、直列に接続されている。なお、図1では、複数のジョセフソン接合130がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合130とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0015】
ループ回路110において、第一の超伝導線路101における第一の部分105及び第二の超伝導線路102における第二の部分106が、この直列接続に用いられる。つまり、第一の部分105及び第二の部分106が直列接続における接続点となる。ここで、第一の部分105は第一の超伝導線路101の任意の部分である。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105の位置は特に制限されない。同様に、第二の部分106は第二の超伝導線路102の任意の部分である。すなわち、第二の超伝導線路102における第二の部分106の位置は特に位置は制限されない。なお、第一の部分105及び第二の部分106は、DC-SQUIDの入出力端部ともいえる。
また、ジョセフソン接合130において、ジョセフソン接合130の両端子が直列接続における接続点となる。
【0016】
ループ回路110とジョセフソン接合130とが直列に接続された回路は、キャパシタ120によりシャントされている。つまり、ループ回路110と、ジョセフソン接合130と、キャパシタ120とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、図1に示されるように、ループ回路110と、ジョセフソン接合130と、キャパシタ120とを環状に接続したループ回路は、接地されていてもよい。
【0017】
磁場発生部200と共振器100は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器100は誘導的に結合している。磁場発生部200は、交流磁場を発生させ、ループ回路110に交流磁場を印加する回路である。磁場発生部200は、交流電流が流れる回路であり、当該交流電流により交流磁場を発生させる。より詳細には、磁場発生部200は、直流電流と交流電流が重畳された電流が流れる。発生する交流磁場の周波数は、この交流電流の周波数に等しい。直流電流の大きさにより、磁束及び発振周波数(共振周波数)の大きさが制御される。共振器100の共振周波数、すなわち発振器10の発振周波数は、ループ回路110の等価インダクタンスに依存している。そして、この等価インダクタンスは、ループ回路110のループを貫く磁束の大きさに依存している。ループを貫く磁束の大きさは、磁場発生部200に流れる直流電流の大きさに依存する。このため、上述の通り、発振周波数(共振周波数)の大きさは、直流電流の大きさにより制御される。磁場発生部200は、図1では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0018】
磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器100の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器10は発振する。このような発振はパラメトリック発振と呼ばれる。
【0019】
ここで、図1に示した発振器10の非線形係数について検討する。図1に示した発振器10のハミルトニアンH(共振器100のハミルトニアンH)の近似式は、以下の(1)式で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
式(1)において、hはプランク定数である。また、fは発振器10の発振周波数である。aは生成演算子である。aは消滅演算子である。Eは1つのジョセフソン接合130のジョセフソンエネルギーである。Nはジョセフソン接合130の個数である。すなわち、Nは1以上の整数である。αは、ループ回路110の臨界電流値の、ジョセフソン接合130の臨界電流値に対する比である。なお、ジョセフソン接合103及びジョセフソン接合104の臨界電流値は同じであり、その値をIc1とする。また、ジョセフソン接合130の臨界電流値は、それぞれIc2とする。つまり、α=Ic1/Ic2となる。ループ回路110の臨界電流値Ic1は、ジョセフソン接合130の臨界電流値Ic2のα倍である、ということもできる。
【0022】
非線形発振器の非線形係数は、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数により定義され、その値は非線形項の係数に比例する。(1)式のハミルトニアンにおいては、第2項、すなわち、(a+a)の項が非線形項である。したがって、発振器10の非線形係数の値は、(a+a)の項の係数に比例する。(1)式から分かるように、ジョセフソン接合130の個数Nが増えるほど、非線形項の係数が小さくなる。なぜならば、非線形項の係数の分子はNの1乗で変化するのに対し、分母はNの3乗で変化するためである。このことから、発振器10の非線形性は、ジョセフソン接合130の個数Nにより自由に設計することができる。つまり、ジョセフソン接合130の個数Nに応じて、非線形係数を低下させることができる。
【0023】
このように本実施の形態では、ループ回路110とキャパシタ120のみからなる環状の回路により共振器を構成するのではなく、ループ回路110とジョセフソン接合130とキャパシタ120とを環状に接続した回路により共振器を構成している。これにより、上述した通り、発振器10の非線形性をジョセフソン接合130の個数Nにより自由に設計することができる。つまり、量子計算機に要求される適度な値まで、非線形係数を低下させることができる。これに対し、例えば、ループ回路110とキャパシタ120のみからなる環状の回路により共振器を構成した場合、当該共振器を用いた発振器の非線形性は、キャパシタ120のキャパシタンスの大きさに依存することとなる。この場合、キャパシタ120のキャパシタンスを大きくするほど発振器の非線形係数を低下することができるが、損失が増大してしまう。これは、大きなキャパシタンスを集積回路に適した十分小さな面積で作製するには積層構造のキャパシタにする必要があるが、積層構造のキャパシタの場合、損失の小さな誘電層を作製することが現状の技術では困難だからである。ここで誘電層とは、キャパシタの2つの電極の間に形成される誘電体の層のことである。一方、本実施の形態では、上述の通り、キャパシタ120のキャパシタンスではなく、ジョセフソン接合130により非線形係数を低下させることができる。このため、発振器の損失を増大させることなく、非線形係数を量子計算機に要求される適度な値まで低下させることができる。そして、本実施の形態では、集中定数型の発振器が構成されている。集中定数型の発振器であれば、発振周波数に対応する電磁波の波長と同程度の長さの共振器を用いる必要が無いため、回路の占有面積を抑制することができる。つまり、本実施の形態によれば、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制することができる。
【0024】
図2は、本実施形態の発振器10の制御および読み出しを行うための構成を示した模式図である。図2に示した構成は、後述するように、例えば、量子計算機用の量子ビット回路として利用される。
【0025】
図2に示された構成では、図1に示した構成に加え、制御部50と読み出し部51とが追加されている。制御部50は、発振器10の磁場発生部200に接続された回路であり、発振器10の発振周波数を制御するための直流電流と、発振器10を発振させるための交流電流を磁場発生部200に供給する。読み出し部51は、共振器100にキャパシタ52を介して接続された回路であり、発振器10の内部状態、すなわち発振状態を読み出す。なお、図2に示した構成では、読み出し部51は、キャパシタ52を介して、ループ回路110、ジョセフソン接合130、及びキャパシタ120からなるループ回路に接続されている。
【0026】
<第一の実施形態の変形例>
上述した第一の実施形態では、共振器100はループ回路110を1つ備えたが、図3に示すように、共振器100は、複数のループ回路110を備えてもよい。図3に示した共振器100は、複数のループ回路110と、1以上のジョセフソン接合130と、キャパシタ120とを備えている。
【0027】
変形例においても、ジョセフソン接合130と、ループ回路110とは、直列に接続されている。なお、図3では、複数のジョセフソン接合130がまとまって直列に接続され、複数のループ回路110がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合130とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0028】
また、変形例においても、ループ回路110において、第一の部分105及び第二の部分106が直列接続における接続点となり、ジョセフソン接合130において、ジョセフソン接合130の両端子が直列接続における接続点となる。
【0029】
変形例では、複数のループ回路110と1以上のジョセフソン接合130とが直列に接続された回路が、キャパシタ120によりシャントされている。つまり、複数のループ回路110と1以上のジョセフソン接合130とキャパシタ120とを環状に接続することにより、複数のループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、図3に示されるように、ループ回路110と、ジョセフソン接合130と、キャパシタ120とを環状に接続したループ回路は、接地されていてもよい。
【0030】
変形例においても、磁場発生部200は、交流磁場を発生させ、ループ回路110に交流磁場を印加する。ただし、第一の実施形態では、磁場発生部200は、1つのループ回路110に対し、交流磁場を印加したが、変形例では、磁場発生部200は、複数のループ回路110に対し、交流磁場を印加する。このため、磁場発生部200の配線は、ループ回路110の数に応じた長さとなっている。変形例においても、磁場発生部200は、図3では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0031】
磁場発生部200に交流電流を流すことによってそれぞれのループ回路110に共振器100の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器10は発振する。
【0032】
ここで、図3に示した発振器10の非線形係数について検討する。上述の通り、ループ回路110は、ジョセフソン接合103、104を備えた回路である。このため、ループ回路110を、ジョセフソン接合と等価的な回路と見なすと、本変形例のようにループ回路110の個数を複数に増やすということは、ジョセフソン接合の個数を増やすことと同じように考えることができる。上記式(1)から理解されるように、ジョセフソン接合の個数に応じて非線形係数は低下するため、ループ回路110の数を増やすほど、発振器10の非線形係数は低下する。よって、発振器10が備えるループ回路110の数は1つでなくてもよい。しかしながら、ループ回路110の数が1つである方が次のような理由により好ましい。
ループ回路110、すなわちDC-SQUIDは、磁場ノイズの影響を受ける回路であるため、その個数が多ければ多いほど、磁場ノイズに敏感な回路になってしまい、回路の誤動作確率を高めてしまう恐れがある。また、複数のループ回路110に均一に磁場を印加するための磁場発生部200の配線は、ループ回路110の個数に応じて長くなってしまう。このため、ループ回路110の個数は1つであることが好ましい。
【0033】
<第二の実施形態>
次に、第二の実施形態について説明する。図4は、第二の実施形態にかかる集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器20の一例を示す模式図である。本実施形態は、発振器が電流印加部300をさらに有する点で、第一の実施形態と異なっている。電流印加部300は、ジョセフソン接合130に所定の電流値の直流電流を印加する回路である。図4に示した例では、電流印加部300は、直列に接続された全てのジョセフソン接合130からなる回路の一端301と他端302に電流印加部300の入出力端子が接続されている。これにより、電流印加部300とジョセフソン接合130とを含む閉回路が構成される。よって、電流印加部300から出力した直流電流は、すべてのジョセフソン接合130を流れて、また電流印加部300に戻る。
【0034】
ここで、ジョセフソン接合130の等価インダクタンスLは下記の式で表される。
【0035】
【数2】
【0036】
式(2)において、Φは磁束量子(約2.07×10-15 Wb)、Iはジョセフソン接合130の臨界電流値、Iはジョセフソン接合130を流れる電流である。上式から、ジョセフソン接合130に流す電流Iを変えることによって、ジョセフソン接合130の等価インダクタンスLを変えることができることがわかる。つまり、電流印加部300からジョセフソン接合130に流す電流を制御することにより、ジョセフソン接合130の等価インダクタンスLを制御することができる。
【0037】
共振器100は、単純なLC共振回路と同様、共振周波数が、共振器100のインダクタンス及びキャパシタンスに依存する。つまり、共振器100のインダクタンスを代えることで、共振周波数を変えることができる。本実施形態では、電流印加部300がジョセフソン接合130に直流電流を流すことにより、ジョセフソン接合130の等価インダクタンスLを制御することができる。これにより、共振器100全体の等価的なインダクタンスも制御でき、結果として共振器の共振周波数(つまり、発振器20の発振周波数)を制御することができる。このように、本実施形態では、第一の実施形態の効果に加え、さらに、磁場発生部200の直流電流による共振周波数の制御以外の周波数制御を実現することができるという効果を有する。
【0038】
なお、図4に示した例では、全てのジョセフソン接合130に対し直流電流を流すように電流印加部300が接続されているが、一部のジョセフソン接合130に対し直流電流を流すように電流印加部300が接続されてもよい。
また、図4では、複数のジョセフソン接合130がまとまって直列に接続され、複数のループ回路110がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合130とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0039】
本実施形態の発振器20についても、第一の実施形態と同様、制御部50と読み出し部51とを追加した図2に示したような回路が構成されてもよい。なお、この場合、読み出し部51は、キャパシタ52を介して、複数のループ回路110、1以上のジョセフソン接合130、及びキャパシタ120からなるループ回路に接続される。
【0040】
<第二の実施形態の変形例>
第二の実施形態についても、第一の実施形態と同様の変形例を考えることができる。すなわち、図5に示すように、発振器20の共振器100は、複数のループ回路110を備えていてもよい。第二の実施形態の変形例は、電流印加部300が追加されている点を除き、第一の実施形態の変形例と構成が同様であるため、構成の詳細については説明を省略する。
【0041】
本変形例においても、一部のジョセフソン接合130に対し直流電流を流すように電流印加部300が接続されてもよい。
また、図5では、複数のジョセフソン接合130がまとまって直列に接続され、複数のループ回路110がまとまって直列に接続されているが、これらの順序は任意である。したがって、例えば、ループ回路110とジョセフソン接合130とが交互に並ぶように直列に接続されてもよい。
【0042】
<第三の実施形態>
次に、上述した発振器10、発振器20を量子計算機用の量子ビット回路として用いる実施形態について説明する。なお、ここでいう量子計算機は、イジングモデルにマッピング可能な任意の問題の解を計算する量子アニーリング型の計算機である。上述したように、発振器10、発振器20は、共振周波数の2倍の周波数の交流磁場をループ回路110に与えるとパラメトリック発振する。このとき、発振状態は、互いに位相がπだけ異なる第一の発振状態と第二の発振状態のいずれかの状態をとり得る。この第一の発振状態と第二の発振状態が量子ビットの0、1に対応する。
【0043】
図6は、発振器10又は発振器20を用いた量子計算機の構成を示す模式図である。図6に示した構成は、非特許文献1に記載されている分布定数型の超伝導パラメトリック発振器を用いた量子計算機の構成において、分布定数型の超伝導パラメトリック発振器ではなく上述した発振器10又は発振器20を適用したものである。より詳細には、図6に示した構成は、例えば、非特許文献1の図4に記載されている構成において、分布定数型の超伝導パラメトリック発振器の代わりに上述した発振器10又は発振器20を適用したものである。図6において、発振器40は、発振器10又は発振器20を表す。
【0044】
図6に示した量子計算機60では、4個の発振器40を1個の結合回路41で接続している。より詳細には、結合回路41は、発振器40における、ループ回路110、ジョセフソン接合130、及びキャパシタ120が環状に接続されたループ回路に接続されている。各発振器40には、図2で示したように、制御部50及び読み出し部51が接続されている。つまり、発振器40の磁場発生部200には、制御部50が接続されている。また、発振器40における、ループ回路110、ジョセフソン接合130、及びキャパシタ120が環状に接続されたループ回路に、読み出し部51が、キャパシタ52を介して接続されている。結合回路41は、4個の発振器40を結合する回路であり、1個のジョセフソン接合410と4個のキャパシタ411で構成される。より詳細には、結合回路41は、各発振器40における、キャパシタ120とループ回路110とジョセフソン接合130を有する環状の回路を結合する。結合回路41は、4個の発振器40のうち、2個の発振器40からなる第一組の発振器群と、他の2個の発振器40からなる第二組の発振器群とをジョセフソン接合410を介して結合している。ここで、第一組の発振器群はそれぞれ、超伝導体412_1に、キャパシタ411を介して接続している。また、第二組の発振器群はそれぞれ、超伝導体412_2に、キャパシタ411を介して接続している。ここで、超伝導体412_1は、ジョセフソン接合410の一方の端子に接続される配線であり、超伝導体412_2は、ジョセフソン接合410の他方の端子に接続される配線である。つまり、超伝導体412_1及び超伝導体412_2は、ジョセフソン接合410により接合されているとも言える。
つまり、第一組の発振器群のうちの第一の発振器40はジョセフソン接合410の一方の端子に、第一のキャパシタ411を介して接続している。また、第一組の発振器群のうちの第二の発振器40はジョセフソン接合410の一方の端子に、第二のキャパシタ411を介して接続している。同様に、第二組の発振器群のうちの第三の発振器40はジョセフソン接合410の他方の端子に、第三のキャパシタ411を介して接続している。また、第二組の発振器群のうちの第四の発振器40はジョセフソン接合410の他方の端子に、第四のキャパシタ411を介して接続している。
【0045】
制御部50は、4個の発振器40に対し互いに異なる周波数の交流電流を用いる。磁場発生部200を2本の配線で構成して一方の配線には直流電流を流し他方の配線には交流電流を流す場合、交流電流用の配線は、複数の発振器40において共有される配線であってもよい。すなわち、交流電流用の配線は、複数の発振器40を巡るように設けられてもよい。この場合、共有される交流電流用の配線には、複数の発振器40を制御するために複数の制御部50が接続され、これらの制御部50により異なる周波数の交流電流が重畳される。
なお、図6に示した構成において、制御部50は、各発振器40を制御するために分散的に配置されて設けられてもよいし、複数の制御部50がまとめて1箇所に集約されて設けられてもよい。発振器40が上述した電流印加部300を有する場合、電流印加部300は、発振器40毎に分散的に配置されて設けられてもよいし、まとめて1箇所に集約されて設けられてもよい。また、図6に示した構成では読み出し部51が4個用いられているが、1個の読み出し部51が4個の発振器40の読み出しを行ってもよい。この場合、複数の発振器40に対して共通に設けられた読み出し部51は、各発振器40で用いられる周波数の違いにより、各発振器40を区別して読み出しを行なう。
【0046】
なお、図6に示した構成では、発振器40が4個の場合の量子計算機の構成を示しているが、図6に示した構成を単位構造として、複数の単位構造を並べて接続することにより、任意の個数の発振器40を集積した量子計算機を実現することができる。その構成例を図7に示す。図7は、発振器40を集積した量子計算機61の構成を示す模式図である。図7に示した構成では、各結合回路41は、図6に示したように、それぞれ4個の発振器40と接続している。そして、各発振器40が1乃至4個の結合回路41と接続され、発振器40を複数の単位構造で共有して並べられることにより、図6に示した単位構造が並べられた状態としている。量子計算機61において、少なくとも一個の発振器40は、複数の結合回路41に接続されている。特に図7に示した例では、少なくとも1個の発振器40は、4個の結合回路41に接続されている。また、量子計算機61について、次のように説明することもできる。量子計算機61は、複数の発振器40を有し、各発振器40は、1乃至4個の結合回路41に接続されている。各発振器40が接続する結合回路41の個数は、当該発振器40がいくつの単位構造において共有されているかに対応している。このように、図7で示した例では、量子計算機61は、単位構造を複数有し、発振器40が、複数の単位構造で共有されている。図7に示した例では13個の超伝導非線形発振器を集積しているが、任意の個数の発振器40を同様の方法で集積できる。
【0047】
なお、図7では、制御部50と読み出し部51は図面の理解を容易にするために、図示を省略しているが、実際には、制御部50と読み出し部51を用いて発振器40の制御と読み出しが行われる。また、量子計算機の動作原理と制御方法は非特許文献1に記載されており、図6及び図7に示した量子計算機においても、非特許文献1に記載されている動作原理及び制御方法が適用される。
本実施形態によれば、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制した量子計算機を実現することができる。
なお、本開示にかかる超伝導非線形発振器は、量子アニーリング回路だけではなく、ゲート型の量子コンピューティング回路にも適用できる。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0049】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0050】
この出願は、2019年7月19日に出願された日本出願特願2019-133817を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0051】
10 発振器
20 発振器
40 発振器
41 結合回路
50 制御部
51 読み出し部
52 キャパシタ
60 量子計算機
61 量子計算機
100 共振器
101 第一の超伝導線路
102 第二の超伝導線路
103 第一のジョセフソン接合
104 第二のジョセフソン接合
105 第一の部分
106 第二の部分
110 ループ回路
120 キャパシタ
130 ジョセフソン接合
200 磁場発生部
300 電流印加部
410 ジョセフソン接合
411 キャパシタ
412_1 超伝導体
412_2 超伝導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7