(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電子ビーム放出構造および電界放射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 35/14 20060101AFI20241029BHJP
H01J 1/304 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01J35/14
H01J1/304
(21)【出願番号】P 2023099723
(22)【出願日】2023-06-19
【審査請求日】2024-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】林 拓実
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/063379(WO,A1)
【文献】特開2021-190406(JP,A)
【文献】特開2009-087593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/14
H01J 1/30-1/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心の一端が陽極に対向した姿勢で配置される柱状電極基体を有し、前記柱状電極基体における前記陽極側の端面に電子放出部が設けられている冷陰極と、
筒状電極基体を有し、前記冷陰極から絶縁された状態で設けられている集束電極と、
を備え、
前記筒状電極基体は、
前記軸心に対して同軸状に配置されて前記柱状電極基体の外周側を包囲する筒状部と、
前記筒状部おける前記陽極側の端部から前記軸心側に突出し、前記軸心の延在方向において前記電子放出部の周縁部と重畳している環状の基体縮径部と、
前記基体縮径部の内周側において前記延在方向に貫通している電子ビーム通過孔と、
を有し
、
前記基体縮径部における前記電子放出部側に対向している面は、
前記電子放出部との間に設けた間隙により前記電子放出部に対して絶縁されている状態で、前記電子放出部の周縁部と重畳しており、
前記間隙における前記延在方向の寸法は、前記電子ビーム通過孔における前記延在方向の寸法よりも小さい、
ことを特徴とする電子ビーム放出構造。
【請求項2】
前記冷陰極は、前記柱状電極基体と前記筒状電極基体との間において前記軸心に対して同軸状に配置されている筒状の電極カバーにより、前記柱状電極基体の外周側が包囲されており、
前記電極カバーにおける前記陽極側の端部は、前記軸心側に突出し、前記軸心の延在方向において前記電子放出部の周縁部と重畳している環状のカバー縮径部を、備えていることを特徴とする請求項1記載の電子ビーム放出構造。
【請求項3】
前記電子放出部の表面が凹状に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の電子ビーム放出構造。
【請求項4】
前記筒状電極基体は、前記筒状部と前記基体縮径部とが別体で構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の電子ビーム放出構造。
【請求項5】
前記基体縮径部における前記電子放出部側に、前記軸心に対して同軸状の環状フランジ部が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の電子ビーム放出構造。
【請求項6】
前記電子ビーム通過孔は、電子放出部側から陽極側に近づくに連れて孔径が大きくなっている形状であることを特徴とする請求項1または2記載の電子ビーム放出構造。
【請求項7】
請求項1または2記載の電子ビーム放出構造を有していることを特徴とする電界放射装置。
【請求項8】
前記陽極と前記集束電極との間に印加する電圧を変更可能な電圧制御部を、備えていることを特徴とする請求項7記載の電界放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばX線装置,電子管,照明装置等の種々の機器に適用可能な電子ビーム放出構造および電界放射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界放射は、電界集中により電子が真空雰囲気下(例えば絶縁性の真空容器中)に放出される現象であり、この現象を利用してX線装置,電子管,照明装置等の種々の電界放射装置を構成することが検討されてきた。
【0003】
電界放射の一例としては、所定距離を隔てて対向配置された電子源(冷陰極等)と陽極(ターゲット)との両者に所定の電圧を印加できる構成であって、当該印加によって電子源に発生する電子により、陽極に向かって電子ビームを放出できる態様が挙げられる。このような電子ビームを陽極に照射(衝突)させることにより、所望の機能(例えばX線装置の場合はX線の外部放出による透視分解能)を発揮できることとなる。
【0004】
電子源においては、Si基板やSUS基板等の電極基体を有したものであって、当該電極基体における陽極に対向している側の端面(以下、単に陽極側対向面と適宜称する)に電子放出部が設けられた冷陰極が、挙げられる。また、電子放出部としては、例えばグラフェンシートが多層に重なって内部中空状に形成された炭素膜構造の態様が、挙げられる。
【0005】
電子ビームは、電子源と陽極との両者間方向の中心軸(以下、単に中心軸と適宜称する)に集束させて当該陽極に照射できるように、集束制御することが求められる。この集束制御は、例えば、当該電子源から陽極に近づくに連れて電子ビームのビーム径を小さくしたり、当該電子ビームが陽極に衝突する領域である焦点サイズ(電子スポット)を小さくすることが挙げられる。
【0006】
例えば特許文献1,2では、冷陰極の外周側にガード電極を設けたり、陽極側対向面の形状を凹状に成形する等により、電子ビームを集束し易くすることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4390847号
【文献】特許第5424098号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2のように単にガード電極を設けたり陽極側対向面の形状を凹状に成形する等しても、以下に示す理由により、電子ビームを所望通りに集束制御できない場合があり、電界放射装置においては所望の機能を発揮できなくなるおそれがある。
【0009】
例えば、電子源やガード電極等においては、中心軸に対して同軸状に位置するように、軸心出し調整(アライメント)することが求められる。しかしながら、電子源やガード電極等の構成要素の公差等による組立誤差が存在している場合には、所望通りに軸心出し調整することが困難となる。これにより、電子ビームのバラツキが生じて分散し易くなり、ビーム径や焦点サイズが大きくなってしまうことも考えられる。
【0010】
そこで、電子源の電子源径を小さくすることにより、当該電子源によって形成された直後の電子ビームのビーム径を、小さくすることが考えられる。しかしながら、電子源の電子源径を小さくし過ぎると、当該電子源に対して所望の物性(例えば膜質等)の電子放出部を安定的に形成(例えば、CVD法等により安定的に形成)することが、困難となるおそれがある。また、前記のような組立誤差が生じ易くなり、所望の軸心出し調整がより困難となるおそれもある。
【0011】
なお、電磁コイル等を用いて電子ビームを集束制御することも考えられるが、当該電磁コイルを具備すると、電界放射装置の大型化や高コスト化等を招くことになり、当該集束制御も複雑で困難となることが考えられる。
【0012】
本発明は、かかる技術的課題を鑑みてなされたものであって、電子ビームを集束制御し易くし、電界放射装置の所望の機能を発揮し易くすることに貢献可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る電子ビーム放出構造および電界放射装置は、前記の課題の解決に貢献できるものである。電子ビーム放出構造の一態様は、軸心の一端が陽極に対向した姿勢で配置される柱状電極基体を有し、前記柱状電極基体における前記陽極側の端面に電子放出部が設けられている冷陰極と、筒状電極基体を有し、前記冷陰極から絶縁された状態で設けられている集束電極と、を備える。
【0014】
そして、前記筒状電極基体は、前記軸心に対して同軸状に配置されて前記柱状電極基体の外周側を包囲する筒状部と、前記筒状部おける前記陽極側の端部から前記軸心側に突出し、前記軸心の延在方向において前記電子放出部の周縁部と重畳している環状の基体縮径部と、前記基体縮径部の内周側において前記延在方向に貫通している電子ビーム通過孔と、を有していることを特徴とする。
【0015】
また、前記冷陰極は、前記柱状電極基体と前記筒状電極基体との間において前記軸心に対して同軸状に配置されている筒状の電極カバーにより、前記柱状電極基体の外周側が包囲されており、前記電極カバーにおける前記陽極側の端部は、前記軸心側に突出し、前記軸心の延在方向において前記電子放出部の周縁部と重畳している環状のカバー縮径部を、備えていることを特徴としてもよい。
【0016】
また、前記電子放出部の表面が凹状に形成されていることを特徴としてもよい。
【0017】
また、前記筒状電極基体は、前記筒状部と前記基体縮径部とが別体で構成されていることを特徴としてもよい。
【0018】
また、前記基体縮径部における前記電子放出部側に、前記軸心に対して同軸状の環状フランジ部が設けられていることを特徴としてもよい。
【0019】
前記電子ビーム通過孔は、電子放出部側から陽極側に近づくに連れて孔径が大きくなっている形状であることを特徴としてもよい。
【0020】
電界放射装置の一態様は、前記電子ビーム放出構造の一態様を有していることを特徴とする。また、前記陽極と前記集束電極との間に印加する電圧を変更可能な電圧制御部を、備えていることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上示したように本発明によれば、電子ビームを集束制御し易くし、電界放射装置の所望の機能を発揮し易くすることに貢献可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図(中心軸に沿った断面図)。
【
図2】
図1に示した電子ビーム放出構造において電界放射をシミュレーションした場合の電子ビームの集束特性図。
【
図3】実施例2による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図(中心軸に沿った断面図)。
【
図4】実施例3による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図(中心軸に沿った断面図)。
【
図5】実施例4による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図(中心軸に沿った断面図)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態における電子ビーム放出構造,電界放射装置は、例えば特許文献1,2に示すように単にガード電極を設けたり陽極側対向面の形状を凹状にした構成とは、全く異なるものである。
【0024】
すなわち、本実施形態は、陽極に対向した姿勢で配置される冷陰極の柱状電極基体の外周側を、当該柱状電極基体の軸心に対して同軸状に配置される筒状電極基体(筒状部)を有した集束電極により、包囲する構成である。そして、筒状電極基体における陽極側の端部は、柱状電極基体の軸心の延在方向において当該柱状電極基体の陽極側(電子放出部)の周縁部と重畳している環状の基体縮径部と、当該基体縮径部の内周側において前記軸心の延在方向に貫通している電子ビーム通過孔と、を有している構成である。
【0025】
このように、冷陰極の外周側を集束電極によって包囲した電子ビーム放出構造によれば、例えば、電子放出部の周縁部に発生した電子は、陽極側に放出された場合に、当該陽極側への移動が基体縮径部にて遮られてトラップされ易くなる。一方、当該電子放出部の中央部に発生した電子においては、陽極側に放出された場合に、電子ビーム通過孔を介して移動し易くなる。
【0026】
すなわち、集束電極においては、単に当該集束電極と陽極との間の電圧印加によって電子ビームを電気的に集束制御できるだけでなく、当該電子ビームを物理的に集束制御(アパーチャのような機能により集束制御)できることとなる。これにより、例えば電子ビームのビーム径や焦点サイズを所望通りに小さくすることができる。このような電子ビーム放出構造を適用した電界放射装置によれば、その電界放射装置における所望の機能を発揮し易くなる。
【0027】
本実施形態は、前記のような冷陰極と集束電極とを有した構成であればよく、種々の分野(例えば電界放射装置分野,カーボンナノチューブ分野等)の技術常識を適宜適用することが可能である。例えば、必要に応じて特許文献1,2等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として以下に示す実施例1~4が挙げられる。
【0028】
なお、以下の実施例1~4では、例えば重複する内容について同一符号を適用する等により、詳細な説明を適宜省略しているものとする。
【0029】
≪参考例≫
従来の電界放射装置の一例として、焦点サイズがμm単位のX線管の場合、単にタングステンフィラメントを用いて構成された熱電子源を適用するのではなく、電子放出する酸化物陰極を組み合わせて構成された含浸型の熱陰極を適用した態様が、知られている。このような含浸型の熱陰極によれば、比較的小さい構成とすることができ、電子流を多く発生できるものとされてきた。
【0030】
一般的な電子源として、電子源径が数μm~数十μm(例えば50μm)の熱陰極は、アンペアーオーダーの電子流を発生するものがある。また、熱陰極と陽極との間にアパーチャ(電子源径に応じたアパーチャ)を介在させた態様により、電子流を制限しながら陽極に照射して、反射型のX線管として機能させることが知られている。この反射型のX線管は、透過型のX線管と比較すると、出力を大きくできるメリットがあるとされている。
【0031】
しかし、前記のような熱陰極は、真空雰囲気下(例えば真空容器内)に設置して適用されるが、当該真空雰囲気下の真空度によってはタングステンフィラメントが消耗し易くなることから、長寿命化を図ることが困難とされてきた。また、含浸型の熱陰極は高価になり易く、製作することも困難であった。
【0032】
そこで、近年においては、カーボンナノチューブに代表される炭素膜を使用した電界放射型の冷陰極を適用した構成が、注目されている。その一例としては、冷陰極(電極基体)における陽極側対向面に、炭素膜等を成膜して炭素膜構造の電子放出部を形成した態様が挙げられる。
【0033】
しかしながら、冷陰極に成膜された炭素膜構造の電子放出部は、当該成膜時に起こり得る電界集中やプラズマの流れ等の影響(以下、単に成膜時影響と適宜称する)を受けると、所望の物性(膜質等)が得られない場合があった。例えば、電子放出部の中央部は、成膜時影響を回避して所望の物性が得られ易いものの、当該電子放出部の周縁部においては、成膜時影響を受け易いため所望の物性を得ることができず、電子の発生が不安定になる傾向があった。
【0034】
したがって、単に冷陰極の電子源径を小さくした構成(以下、単に従来構成と適宜称する)の場合には、電子放出部における成膜時影響を回避し易い部分(すなわち、電子放出部の中央部)も小さくなるため、所望の物性を得ることが困難となり、電子の発生が不安定になってしまう。また、前記のような組立誤差が生じ易くなり、所望の軸心出し調整がより困難となっていた。この結果、電子ビームを所望通りに集束制御できず、当該電子ビームのバラツキが生じて分散し、ビーム径や焦点サイズが大きくなってしまうおそれがあった。
【0035】
一方、例えば後述の実施例1~4のような電子ビーム放出構造によれば、単に当該集束電極と陽極との間の電圧印加によって電子ビームを電気的に集束制御できるだけでなく、当該電子ビームを物理的に集束制御できる。これにより、従来構成のように軸心出し調整が困難となり得るような電子源径の小さい冷陰極を適用する必要性が低くなり、ある程度の大きさの構成要素(例えば、ある程度の電子源径を持った冷陰極)を適用し易くなる。
【0036】
この場合、たとえ組立誤差が存在していても、当該組立誤差による影響を十分抑制して許容範囲内にすることが可能である。また、電子放出部においては、成膜時影響を回避し易い部分(すなわち、電子放出部の中央部)を確保し易くなるため、所望の物性が得られ易くなる。そして、電子を安定して発生させ、電子ビーム通過孔を通過させることができる。
【0037】
この結果、電子ビームを所望通りに集束制御し易くなり、バラツキや分散を抑制でき、例えばビーム径や焦点サイズを所望通りに小さくすることが可能となる。また、電界放射装置における所望の機能を発揮し易くなる。
【0038】
≪実施例1≫
<実施例1の概略構成>
図1は、実施例1による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図である。
図1に示す電子ビーム放出構造においては、互いに対向して配置されている冷陰極1および陽極2と、当該冷陰極1の外周側を覆うように配置されている集束電極3と、を主な要素として備えている。また、
図1の場合、冷陰極1と陽極2との間において電圧(管電圧)を印加するための電源E1と、当該陽極2と集束電極3との間において電圧を印加するための電源E2と、が設けられている。
【0039】
冷陰極1は、軸心の一端が陽極2に対向した姿勢で配置(すなわち、中心軸に対して同軸状に配置)された柱状電極基体11を有しており、その柱状電極基体11における陽極2側の端面である陽極側対向面12に、電子放出部4が設けられた構成となっている。
【0040】
集束電極3は、柱状電極基体11の軸心(以下、単に冷陰極軸心と適宜称する)に対して同軸状に配置されて当該柱状電極基体11の外周側を包囲する筒状電極基体31を有しており、冷陰極1から絶縁された状態で設けられた構成となっている。
図1に示す集束電極3の場合、冷陰極1との間に間隙が設けられており、これにより冷陰極1に対して絶縁状態となっているが、これに限定されるものではない。例えば、冷陰極1と集束電極3との間に図外の絶縁体を介在させる等により、所望の絶縁状態を構成することが挙げられる。
【0041】
筒状電極基体31においては、前記柱状電極基体11の外周側を包囲することが可能な形状の筒状部30を有して成り、この筒状部30が前記軸心に対して同軸状に位置することとなる。筒状部30における陽極2側の端部32には、当該端部32から冷陰極軸心側に突出して縮径された形状である環状の基体縮径部33が、設けられている。基体縮径部33の内周側には、冷陰極軸心の延在方向に貫通(冷陰極軸心と同軸状となるように貫通)している電子ビーム通過孔34が、設けられている。
【0042】
基体縮径部33は、前記のように端部32から冷陰極軸心側に突出した形状により、冷陰極軸心の延在方向において電子放出部4の周縁部41と重畳した構成となっている。これにより、電子ビーム通過孔34における電子放出部4側の開口形状は、当該電子放出部4の表面形状よりも小さい構成となっている。
【0043】
<冷陰極1の構成例>
冷陰極1の柱状電極基体11は、電子放出部4を設けることが可能なものであって、電源E1による所望の大きさの電圧の印加により当該電子放出部4に電子を発生させ、その電子を陽極2に向かって放出させて電子ビーム(図示省略)を構成できればよく、種々の態様を適用することが可能である。
【0044】
その一例としては、例えばステンレス(SUS材等)や銅等のように導電性の金属材料を用い、当該金属材料を柱状(例えば円柱状)に成形してなるものが挙げられる。その他、Si基板等の基板を柱状に成形してなるものであっても、電子放出部4に電子を発生できる態様であればよい。
【0045】
<陽極2の構成例>
陽極2は、電子放出部4から放出された電子ビームが衝突し、その衝突した電子ビームによってX線等(図示省略)を放出できるものであれよく、種々の態様を適用することが可能である。
図1中の陽極2においては、当該陽極2における電子放出部4に対向し電子ビームが照射される面(以下、単に被照射面と適宜称する)21を有しており、当該被照射面21に対して電子ビームが衝突する構成となっている。この被照射面21においては、電子ビームの放出方向に対して所定角度で傾斜するように構成してもよい。この場合、当該被照射面21に衝突した電子ビームによって生じるX線等は、当該電子ビームの放出方向から折曲した方向(例えば図示左右方向のうち一方側)に、照射されることになる。
【0046】
<集束電極3の構成例>
集束電極3の筒状電極基体31は、基体縮径部33,電子ビーム通過孔34を有しているものであって、柱状電極基体11の外周側を包囲できる構成できればよく、種々の態様を適用することが可能である。
【0047】
その一例としては、柱状電極基体11と同様に導電性の金属材料を用いてなるものであって、当該金属材料により筒状(例えば円筒状の筒状部30を有した形状)に成形してなるものが挙げられる。その他、Si基板等の基板を筒状に成形してなるものであっても、電源E2による所望の大きさの電圧の印加により電子ビームを集束できる態様であればよい。
図1に示す筒状電極基体31の場合、端部32における陽極2側の先端面32aが、当該陽極2側に凸の曲面形状となっている。
【0048】
基体縮径部33は、端部32から冷陰極軸心側に突出した形状により、冷陰極軸心の延在方向において電子放出部4の周縁部41と重畳した構成であればよく、種々の態様を適用することが可能である。
【0049】
図1に示す基体縮径部33の場合、電子放出部4側に対向する面(以下、単に被放出側面と適宜称する)33aが、集束電極3の径方向に延在した平坦な面形状となっている。この被放出側面33aにより、電子放出部4の周縁部41から放出された電子は、陽極2側への移動が遮られてトラップされ易くなる。
【0050】
また、基体縮径部33と筒状部30との両者は、
図1では一体構成されているように描写されているが、これに限定されるものではなく、それぞれ別体構成であってもよい。例えば、基体縮径部33と筒状部30との両者が一体構成である筒状電極基体31を加工することが困難である場合には、当該両者を別体構成で作成することが挙げられる。また、当該両者は、圧入やロウ付け等により適宜接合してから、
図1に示すように配置することが挙げられる。
【0051】
電子ビーム通過孔34は、基体縮径部33の内周側において冷陰極軸心の延在方向に貫通し、電子放出部4の中央部42から放出された電子による電子ビームが通過できる構成であればよく、種々の態様を適用することが可能である。
【0052】
例えば、目的とする電界放射装置の用途等に応じた電子ビームを想定して、電子ビーム通過孔34の孔径や形状等を適宜設定することが挙げられる。
【0053】
図1に示す電子ビーム通過孔34の場合、被放出側面33a側から先端面32a側(陽極2側)に近づくに連れて孔径が大きくなっている漏斗形状であり、孔内壁面34aが冷陰極軸心側(または陽極2側)に凸の曲面形状となっている。
【0054】
このような漏斗形状の電子ビーム通過孔34によれば、例えば当該電子ビーム通過孔34を通過する電子ビームにおいて、孔内壁面34aに衝突したりトラップされないように、抑制することができる。
【0055】
<電子放出部4の構成例>
電子放出部4においては、電源E1による所望の大きさの電圧の印加により当該電子放出部4の表面に電子を発生させ、その発生した電子を陽極2側に放出できるもの(放射体)であれば、種々の態様を適用することが可能である。具体例としては、例えば炭素等(カーボンナノチューブ等)の材料を用いてなる炭素膜構造であって、図示するように柱状電極基体11の陽極側対向面12に対して薄膜状に形成(例えばCVD法等により成膜して形成)されたものが挙げられる。
【0056】
<電界放射装置の構成例>
図1に示した電子ビーム放出構造によれば、種々の態様の電界放射装置を構成することが可能であり、その一例としては、筒状の絶縁体の両端が封止されて当該絶縁体の内周側に真空室が形成されている真空容器(図示省略)を適用したものが、挙げられる。具体的には、当該真空容器における真空室の一方側に陽極2を配置し、当該真空室の他方側に冷陰極1,集束電極3を配置して、電源E1,E2それぞれの電圧を所望通り印加できるように適宜配線した構成が挙げられる。
【0057】
<その他>
電源E1,E2による電圧の印加構成は、種々の態様を適用することが可能であり、例えば当該電圧を適宜変更可能な電圧制御部(図示省略)を備えることが挙げられる。
【0058】
電圧制御部の設定例としては、マイクロフォーカスX線等のように焦点サイズを小さくする必要がある場合に、電子ビームの集束力が大きくなるように設定することが挙げられる。また、大きい出力(電力)の電子ビームを陽極2に照射すると共に当該陽極2に対するダメージを抑えたい場合には、電子ビームの集束力が小さくなるように設定することが挙げられる。
【0059】
電源E2により印加する電圧は、集束電極3によって電子ビームを集束できる程度の大きさでよく、電源E1により印加する電圧(管電圧)と比較すると、十分小さく設定でき、電子量を抑制することが可能である。このため、電子ビーム放出構造が設置される真空雰囲気下においては、当該真空雰囲気下の真空度(以下、単に設置雰囲気下真空度と適宜称する)が劣化しないように抑制されることとなる。
【0060】
<検証例>
図1に示した電子ビーム放出構造において、電界放射をシミュレーションして電子ビームの集束特性を調べたところ、
図2に示すような結果が得られた。
【0061】
なお、
図2において、図示下方側で左右方向に延在する横軸は、電子ビーム放出構造の中心軸を示すものであり、当該横軸における図示左側縦軸の位置に電子放出部4が存在し、当該横軸における図示右側縦軸の位置に陽極2が存在しているものとする。また、図示左側縦軸,図示右側縦軸において、横軸から図示上方側の距離は、それぞれ電子ビーム放出構造の中心軸からの距離(すなわちビーム径の半分に相当する距離)を示すものである。複数描写されている曲線は、それぞれ電子放出部4から放出される電子の移動経路を示すものである。また、矢印Aは、被放出側面33aの位置を示すものであり、矢印Bは、先端面32aの位置を示すものである。すなわち、矢印A,Bで示す各位置の両者間に、電子ビーム通過孔34が存在しているものとする。
【0062】
図2によると、電子放出部4のうち周縁部41(
図2中では符号Cで示す領域)に発生する電子は、当該周縁部41から放出された直後に、移動が遮られる結果となった。
【0063】
一方、電子放出部4のうち中央部42(
図2中では符号Dで示す領域)に発生する電子は、当該中央部42から放出されて電子ビーム通過孔34を通過した後、陽極2に到達する結果となった。この陽極2に到達した電子の移動経路に着目すると、電子ビーム通過孔34内を移動する電子は、孔内壁面34aに沿ってビーム径の拡径方向に偏倚し易い傾向があるものの、当該孔内壁面34aに対するトラップは抑制されており、当該電子ビーム通過孔34を通過した後は、中心軸に近接する方向に偏倚していることが読み取れる。
【0064】
ゆえに、以上示した実施例1によれば、電子放出部4のうち周縁部41(すなわち、比較的に成膜時影響を受け易い周縁部41)から放出される電子においては、陽極2側への移動を遮ってトラップし易くなる。一方、当該電子放出部4のうち中央部42(すなわち、比較的に成膜時影響を回避し易く所望の物性が得られ易い中央部42)から放出される電子においては、電子ビーム通過孔34を介して陽極2に到達させ易くなる。
【0065】
これにより、電子ビームのバラツキや分散を抑制し、ビーム径や焦点サイズを所望通りに小さくして、電界放射装置における所望の機能を発揮することが可能となる。また、電圧制御部を備えている場合には、目的とする電界放射装置の用途や利用状況等に応じて、電子ビームの集束力を適宜設定することが可能となる。
【0066】
≪実施例2≫
<実施例2の概略構成>
図3は、実施例2による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図である。
図3に示す電子ビーム放出構造においては、柱状電極基体11の外周側を筒状の電極カバー5で包囲した構成となっている。
【0067】
電極カバー5は、柱状電極基体11と筒状電極基体31との間に介在し、冷陰極軸心に対して同軸状に位置するように設けられている。また、電極カバー5における陽極2側の端部51には、当該端部51から冷陰極軸心側に突出して縮径された形状である環状のカバー縮径部52が、設けられている。このカバー縮径部52の内周側においては、冷陰極軸心の延在方向に貫通(冷陰極軸心と同軸状となるように貫通)している貫通孔53が設けられており、これにより電子放出部4の中央部42を露出した構成となっている。
【0068】
<電極カバー5の構成例>
電極カバー5は、端部51においてカバー縮径部52が設けられており、柱状電極基体11の外周側を包囲できる筒状であればよく、種々の態様を適用することが可能である。
【0069】
その一例としては、絶縁破壊しないような材料、例えばモリブデン,タングステン,ステンレス等の高融点材料を用い、当該材料を筒状(例えば円筒状)に成形してなるものが挙げられる。
【0070】
図3に示す電極カバー5の場合、集束電極3との間に間隙が設けられており、これにより集束電極3に対して絶縁状態となっているが、これに限定されるものではない。例えば、電極カバー5と集束電極3との間に図外の絶縁体を介在させる等により、所望の絶縁状態を構成してもよい。また、柱状電極基体11に対して接触した状態や同電位の状態であってもよいが、電子放出部4とカバー縮径部52との両者が互いに干渉し過ぎないように、当該両者間を適宜設定(例えば、電子放出部4がカバー縮径部52に押圧されて損傷しないように設定)することが好ましい。
【0071】
また、カバー縮径部52は、当該カバー縮径部52の周囲に起こり得る電界集中を抑制できる形状とすることが好ましい。
図3に示すカバー縮径部52の場合、陽極2側に対向する一端面52aが、電極カバー5の径方向に延在した平坦な面形状となっている。
【0072】
以上示した実施例2によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、柱状電極基体11の外周側(例えば電子放出部4の周縁部41側)においては、電気的に不安定な要素(例えば電界集中や異常放電が起こり得る要素)を含んでいる場合があるが、当該外周側を電極カバー5で包囲した構成によれば、当該不安定な要素を抑制することが可能となる。具体的に、電子放出部4の周縁部41においては、電界が緩和し易くなる可能性がある。
【0073】
また、電子放出部4の特に周縁部41から放出される電子が集束電極3に衝突することを、抑制できる。これにより、設置雰囲気下真空度は、劣化しないように抑制されることとなる。
【0074】
≪実施例3≫
<実施例3の概略構成>
図4は、実施例3による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図である。
図4に示す電子ビーム放出構造においては、柱状電極基体11の陽極側対向面12の中央部に凹部12aが設けられており、当該凹部12aを覆うように電子放出部4が形成されている。これにより、電子放出部4の中央部42の表面が凹状に形成されている。
【0075】
凹部12aにおいては、陽極側対向面12を適宜成形して形成することが可能であり、種々の態様を適用することが可能である。例えば、特許文献1,2に示すように、一定の曲率半径を有する形状の凹部12aを形成し、当該凹部12aの周囲に起こり得る電界集中を抑制することが好ましい。
図4の場合には、電子放出部4の中央部42の表面とカバー縮径部52の内周側の面との両者が、当該両者間にて連続するように延在した態様となっている。
【0076】
以上示した実施例3によれば、実施例1,2と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、電子放出部4のうち特に凹状に形成されている表面に発生する電子は、中心軸側に偏倚した方向で陽極2側に放出され、電子ビーム通過孔34を通過し易くなる。
【0077】
これにより、集束電極3に衝突する電子をより抑制でき、所望の設置雰囲気下真空度を保持し易くなる。また、電子ビームにおいて高い電流密度が得られ易くなり、管電流の増加に貢献可能となる。
【0078】
≪実施例4≫
<実施例4の概略構成>
図5は、実施例4による電子ビーム放出構造を説明するための概略構成図である。
図5に示す電子ビーム放出構造においては、基体縮径部33における電子放出部4側に、冷陰極軸心に対して同軸状の環状フランジ部6が設けられている。
図5に示す環状フランジ部6の場合、当該環状フランジ部6の一端面6aが基体縮径部33の被放出側面33aに面接合して、設けられている。環状フランジ部6の内周側には、冷陰極軸心の延在方向に貫通(冷陰極軸心と同軸状となるように貫通)している貫通孔61が設けられている。
【0079】
このような環状フランジ部6を備えている場合、電子放出部4の周縁部41から放出された電子は、当該環状フランジ部6の他端面6bにより、陽極2側への移動が遮られてトラップされ易くなる。また、電子放出部4の中央部42から放出された電子による電子ビームは、貫通孔61を介して電子ビーム通過孔34を通過することとなる。
【0080】
<環状フランジ部6の構成例>
環状フランジ部6は、電子放出部4の中央部42から放出された電子による電子ビームが通過できる構成であればよく、種々の態様を適用することが可能である。
【0081】
例えば、目的とする電界放射装置の用途等に応じた電子ビームを想定して、貫通孔61の孔径や形状等を適宜設定することが挙げられる。
図5に示す環状フランジ部6の場合、貫通孔61における電子ビーム通過孔34側の開口形状(孔径)が、当該電子ビーム通過孔34における当該貫通孔61側の開口形状(孔径)よりも、小さくなっている。
【0082】
環状フランジ部6と基体縮径部33との両者は、
図5では別体構成されているように描写されているが、これに限定されるものではなく、当該両者は予め一体構成にしてもよい。また、環状フランジ部6と基体縮径部33との両者は、圧入やロウ付け等により適宜接合することが挙げられるが、着脱自在に接合してもよい。これにより、例えば環状フランジ部6において損傷や劣化が生じた場合には、当該環状フランジ部6を適宜交換することが挙げられる。
【0083】
以上示した実施例4によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、環状フランジ部6において小さい開口形状の貫通孔61を形成することは、例えば筒状電極基体31の基体縮径部33の内周側に小さい開口形状の電子ビーム通過孔34を形成することと比較すると、十分容易であり加工性も良好である。
【0084】
従って、例えば電子ビームの目的とするビーム径が比較的小さく、その目的のビーム径に対応して電子ビーム通過孔34の開口形状を小さく加工することが困難である場合には、当該目的のビーム径に応じた貫通孔61を有している環状フランジ部6を適用すればよい。このような環状フランジ部6を備えた筒状電極基体31は、比較的容易で良好な加工性で構成することができ、当該目的のビーム径を容易に達成することが可能である。
【0085】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0086】
例えば、実施例1~4においては適宜組み合わせてもよい。具体例としては、
図1,
図3,
図5に示す電子ビーム放出構造に凹部12aを適用したり、
図3,
図4に示す電子ビーム放出構造に環状フランジ部6を適用したり、
図5の電子ビーム放出構造に電極カバー5を適用することが挙げられる。その他、特許文献1,2に開示されている内容を適宜適用して設計変形することもでき、実施例1~4と同様の作用効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…冷陰極、11…柱状電極基体、12a…凹部
2…陽極
3…集束電極、30…筒状部、31…筒状電極基体、33…基体縮径部、34…電子ビーム通過孔
4…電子放出部
5…電極カバー
6…環状フランジ部、61…貫通孔
【要約】
【課題】電子ビームを集束制御し易くし、電界放射装置の所望の機能を発揮し易くすることに貢献可能な技術を提供する。
【解決手段】陽極2に対向した姿勢で配置される冷陰極1の柱状電極基体11の外周側を、当該柱状電極基体11の軸心に対して同軸状に配置される筒状電極基体31(筒状部30)を有した集束電極3により、包囲する。筒状電極基体31は、冷陰極軸心に対して同軸状に配置されて柱状電極基体11の外周側を包囲する筒状部30と、筒状部30おける陽極2側の端部32から冷陰極軸心側に突出し、当該冷陰極軸心の延在方向において電子放出部4の周縁部41と重畳している環状の基体縮径部33と、基体縮径部33の内周側において前記延在方向に貫通している電子ビーム通過孔34と、を有したものとする。
【選択図】
図1