(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】軸シール構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3236 20160101AFI20241029BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20241029BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F16J15/3236
F16J15/3204 101
F16J15/18 A
(21)【出願番号】P 2023197889
(22)【出願日】2023-11-22
(62)【分割の表示】P 2022002691の分割
【原出願日】2022-01-12
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2021048030
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102511
【氏名又は名称】SMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】村井 貴行
(72)【発明者】
【氏名】荒川 敬
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-258588(JP,A)
【文献】実開平4-49282(JP,U)
【文献】米国特許第01246089(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102014004668(DE,A1)
【文献】実開昭53-004047(JP,U)
【文献】実開昭49-022349(JP,U)
【文献】国際公開第2008/069234(WO,A1)
【文献】米国特許第04473231(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3236
F16J 15/3204
F16J 15/18
F16K 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の流体中で駆動され軸線方向に移動可能なロッドと、前記ロッドを収容するホルダとの間に配置される軸シール構造であって、
Vパッキンと、前記ホルダの内周に取り付けられる第1ガイドブッシュと、前記ホルダの端部に配置されるスクレーパとを有し、
前記Vパッキンは、厚肉の頂部と、前記頂部から斜め内方に延びる薄肉の内側スカート部と、前記頂部から斜め外方に延びる薄肉の外側スカート部とからなり、前記内側スカート部はその先端部において前記ロッドの外面に摺接し、前記外側スカート部はその先端部において前記ホルダの内面に当接し、
前記頂部は、前記第1ガイドブッシュと前記スクレーパとの間で挟持され、前記内側スカート部および前記外側スカート部は、前記第1ガイドブッシュと前記スクレーパとの間に形成される空間内で自由に変形し得る軸シール構造。
【請求項2】
請求項1記載の軸シール構造において、
前記頂部は、前記内側スカート部および前記外側スカート部とは反対側に突出する凸部を有し、前記第1ガイドブッシュは、前記Vパッキンを収容する凹部を備え、前記凹部の底面において前記Vパッキンの前記凸部に当接し、前記スクレーパの端部は、前記Vパッキンの前記頂部の背面に当接する軸シール構造。
【請求項3】
請求項2記載の軸シール構造において、
前記第1ガイドブッシュは、前記凹部の底面に開口するグリス溜りを有する軸シール構造。
【請求項4】
請求項1記載の軸シール構造において、
前記ホルダの内周に取り付けられる第2ガイドブッシュを有し、前記第1ガイドブッシュと前記第2ガイドブッシュとの間にゴムシールパッキンが装着される軸シール構造。
【請求項5】
請求項4記載の軸シール構造において、
前記ゴムシールパッキンは、環状板部と、前記環状板部の内周部から延びる内側円筒部と、前記環状板部の外周部から延びる外側円筒部とを有し、前記内側円筒部は、その内周において前記ロッドの外面に摺接し、前記外側円筒部は、その外周において前記ホルダの内面に当接する軸シール構造。
【請求項6】
請求項4記載の軸シール構造において、
前記第1ガイドブッシュは、前記ゴムシールパッキンに向けて開口するグリス溜りを有する軸シール構造。
【請求項7】
請求項4記載の軸シール構造において、
前記第2ガイドブッシュは、前記ロッドと向き合う内周面にグリス溜りを有する軸シール構造。
【請求項8】
請求項1記載の軸シール構造において、
前記Vパッキンはフッ素樹脂製である軸シール構造。
【請求項9】
請求項1記載の軸シール構造を採用したバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッドの摺動部に配置される軸シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬品等の液体または蒸気の中で作動するロッドと、ロッドを収容するボデイとの間に、Vパッキンからなる軸シールを配置する技術が知られている。例えば、特許文献1には、バルブロッドとバルブボデイとの間をシールするバルブロッド用シールとして、フッ素ゴム製のVパッキンをフッ素樹脂製のVパッキンで挟んだ構造が記載されている。これにより、低温から高温まで幅広くシール性を確保しようとしている。これらのVパッキンは、スプリングの反力によりバルブロッドおよびバルブボデイに強く押し付けられている。
【0003】
また、特許文献2には、流体圧送装置のピストンとシリンダヘッドとの間に装着されるパッキンとして、フッ素樹脂製のVパッキンを多段に積み重ねた構造が記載されている。このVパッキンは、頂部の厚みを他の部分と比べて薄肉とし、裏側頂角を表側頂角よりも小さくしたものである。このVパッキンを多段に積み重ねて締め付けると、外側への張り出し量が大きくなり、液漏れの防止効果が安定的に得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平4-49282号公報
【文献】実開平3-96468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのVパッキンは、各パッキンのシール部が相互に圧接しながら対象部材に強く押し付けられる構造となっており、シール部における摩耗が大きい。このため、軸シールの寿命が短くなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る軸シール構造は、所定の流体中で駆動され軸線方向に移動可能なロッドと、ロッドを収容するホルダとの間に配置され、Vパッキンと、ホルダの内周に取り付けられる第1ガイドブッシュと、ホルダの端部に配置されるスクレーパとを有する。
【0008】
Vパッキンは、厚肉の頂部と、頂部から斜め内方に延びる薄肉の内側スカート部と、頂部から斜め外方に延びる薄肉の外側スカート部とからなり、内側スカート部はその先端部においてロッドの外面に摺接し、外側スカート部はその先端部においてホルダの内面に当接する。頂部は、第1ガイドブッシュとスクレーパとの間で挟持され、内側スカート部および外側スカート部は、第1ガイドブッシュとスクレーパとの間に形成される空間内で自由に変形し得る。
【0009】
上記軸シール構造によれば、Vパッキンは、頂部が第1ガイドブッシュおよびスクレーパによって支持され、内側スカート部および外側スカート部が流体の圧力を受けて十分に弾性変形できるので、良好なシール性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る軸シール構造は、厚肉の頂部と、薄肉の内側スカート部と、薄肉の外側スカート部とからなるVパッキンを有し、内側スカート部および外側スカート部は、第1ガイドブッシュとスクレーパとの間に形成される空間内で自由に変形し得る。このため、Vパッキンは、比較的長期にわたって良好なシール性を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1参考例に係る軸シール構造を採用したアングルシートバルブの外観図である。
【
図2】
図2は、
図1のアングルシートバルブのII-II線に沿う断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のアングルシートバルブにおける軸シール構造の拡大図である。
【
図4】
図4は、
図3の軸シール構造におけるVパッキンの断面図である。
【
図5】
図5は、
図1のアングルシートバルブが所定の動作状態にあるときの
図2に対応する図である。
【
図6】
図6は、第2参考例に係る軸シール構造を示す
図3に相当する図である。
【
図7】
図7は、
図6の軸シール構造におけるUパッキンの断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る軸シール構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明において、上下の方向に関する言葉を用いたときは、図面上での向きをいうものであり、「斜め上」の意味を含めて単に「上」といい、「斜め下」の意味を含めて単に「下」という。
【0013】
(第1参考例)
第1参考例に係る軸シール構造12について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
図1および
図2には、軸シール構造12を採用したアングルシートバルブ10が示されている。アングルシートバルブ10は、例えば、飲料容器を洗浄するための薬液、医療機器等に蒸気滅菌するための蒸気等の流体(以下、単に「流体」という)の流れを制御するために用いられる。アングルシートバルブ10は、特に大流量の制御に適したものである。アングルシートバルブ10は、バルブ機構部と駆動機構部とからなる。バルブ機構部は、バルブボデイ38およびバルブロッド(ロッド)32を備える。駆動機構部は、シリンダチューブ56およびピストン58を備える。
【0014】
バルブボデイ38は、内部に流体通路40aを有する直管状の主管部40と、主管部40に斜めに交差する傾斜管部42とを有する。傾斜管部42は、主管部40と一体に成形される。傾斜管部42の軸線CL2は、主管部40の軸線CL1に対して所定の角度(例えば45度)で交差する。主管部40の一端部は、入口ポート40bを備え、主管部40の他端部は、出口ポート40cを備える。傾斜管部42の内部は、主管部40の流体通路40aと繋がっている。
【0015】
主管部40の底壁は、傾斜管部42に向かって突出する隆起部40dを備える。バルブボデイ38は、主管部40と傾斜管部42が鈍角をなして交差する部分のバルブボデイ38の内壁から隆起部40dにわたって、環状の弁座40eを備える。弁座40eは、傾斜管部42の軸線CL2に垂直な環状のシール面を構成している。
【0016】
傾斜管部42の上部には、有底円筒状のホルダ34が取り付けられている。詳細に述べると、傾斜管部42の上部内周には、段部42aを経て雌ねじを有する大径孔部42bが形成されている。ホルダ34の下部外周には、第1段部34aを経て大径部34bが形成されている(
図3参照)。ホルダ34の大径部34bが傾斜管部42の段部42aに当接する位置までホルダ34が傾斜管部42の大径孔部42bに嵌合される。その後、雄ねじを有する固定用筒体54が傾斜管部42の上側からホルダ34と傾斜管部42との間に挿入される。そして、固定用筒体54が傾斜管部42に螺合され、固定用筒体54の先端がホルダ34の第1段部34aに当接することで、ホルダ34が傾斜管部42に固定される。ホルダ34の大径部34bには、傾斜管部42の大径孔部42bの壁面に当接するシール材36aが装着されている。
【0017】
ホルダ34の上部は、傾斜管部42から上方に延び、その端部に後述するロッドカバー66が取り付けられている。ホルダ34の内周には、第1ガイドブッシュ24および第2ガイドブッシュ26が取り付けられている。第1ガイドブッシュ24および第2ガイドブッシュ26は、バルブロッド32を軸方向に移動可能に案内する。ホルダ34の下端には、押え板28が取り付けられる。押え板28と第1ガイドブッシュ24との間にスクレーパ30および複数のVパッキン14a~14cが装着される。第1ガイドブッシュ24と第2ガイドブッシュ26との間に補助パッキン22が装着される。これら軸シール構造12の詳細については後述する。
【0018】
バルブロッド32の下端部には、弁座40eに当接可能な弁体44が連結されている。詳細に述べると、弁体44は、上方に開口する有底状の孔部44aおよび一対のピン孔44bを有する。孔部44aは、弁体44の軸線CL2(傾斜管部42の軸線と共通)に沿って延びる。各ピン孔44bは、弁体44の軸線CL2と直交する方向に延び、孔部44aの壁面および弁体44の側面に開口する。一方、バルブロッド32の下端部は、ピン孔32aを有する。ピン孔32aは、バルブロッド32の軸線CL2と直交する向きに延び、バルブロッド32を横方向に貫通する。バルブロッド32の下端部が弁体44の孔部44aに挿入され、弁体44の一対のピン孔44bおよびバルブロッド32のピン孔32aに連結ピン48が圧入されることで、弁体44がバルブロッド32に固定される。
【0019】
弁体44は、傾斜管部42の内部に配置される。弁体44がバルブロッド32とともに最下端まで移動すると、弁体44に装着されたシール部材46が弁座40eに当接し、入口ポート40bと出口ポート40cとの連通が遮断される。弁体44の移動方向は、流体が入口ポート40bから出口ポート40cに向かって流れる方向に対して所定角度傾斜している。なお、参照符号50および52で示される部材は、シール部材46を弁体44に固定するためのナットおよび座金である。
【0020】
バルブロッド32は、第1ガイドブッシュ24および第2ガイドブッシュ26に挿通され、ホルダ34から上方に延びている。バルブロッド32の上端部は、縮径されて、先端に雄ねじが形成された小径部32bとなっている。バルブロッド32の小径部32bに補強プレート74、ピストン58および座金76が挿通され、その外側から接続ロッド78が小径部32bに螺合されることで、ピストン58がバルブロッド32の上端部に取り付けられる。
【0021】
円筒状のシリンダチューブ56の内部にはピストン58が配置されている。シリンダチューブ56の上端側は、ヘッドカバー62およびキャップ64により閉塞される。シリンダチューブ56の下端側は、ロッドカバー66により閉塞される。ピストン58とロッドカバー66との間には、エア圧を導入可能な圧力室70が存在する。圧力室70に対するエアの給排は、ロッドカバー66の給排ポート66aを介して行われる。なお、参照符号67aで示されるのは、ピストン58とヘッドカバー62との間に存在する室67内のエア等を排出するためのポートである。
【0022】
ピストン58とヘッドカバー62との間には、ピストン58を下方に付勢する一組のスプリング72a、72bが配置されている。ピストン58の外周には、シリンダチューブ56に摺接するピストンパッキン60が装着されている。また、ホルダ34には、ロッドカバー66に当接するシール材36bおよびバルブロッド32に摺接するシール材36cが装着されている。これらのシール材により、圧力室70が外部から気密に保持されるとともに、圧力室70がホルダ34の内部空間から気密に保持される。
【0023】
圧力室70にエアが導入されると、ピストン58は、スプリング72a、72bの付勢力に抗して上方に駆動され、バルブロッド32および弁体44が上方に移動する。一方、圧力室70のエアが排出されると、ピストン58は、スプリング72a、72bの付勢力により下方に駆動され、バルブロッド32および弁体44が下方に移動する。圧力室70に導入するエアの圧力を調整することにより、ピストン58の位置を変更することができ、それにより弁体44の開度を調整することができる。
【0024】
(軸シール構造12の詳細)
Vパッキン14a~14cは、フッ素樹脂製であり、耐薬品性および耐蒸気性に優れている。
図4に示されるように、V字状の断面を有するVパッキン14a~14cは、厚肉の頂部16と、頂部16から斜め内方に延びる薄肉の内側スカート部18と、頂部16から斜め外方に延びる薄肉の外側スカート部20とを有する。頂部16は、内側スカート部18および外側スカート部20とは反対側に突出する環状の凸部16aを有する。複数のVパッキン14a~14cは、それぞれの頂部16が弁体44から離れた側に位置するようにして、かつ、バルブロッド32の軸線CL2(傾斜管部42の軸線と共通)方向に積み重なるようにして配置される。
【0025】
隣り合うVパッキン14a~14cの頂部16は、一方の凸部16aが他方の頂部16の背面16bに当接することで、相互に当接している。一方、隣り合うVパッキン14a~14cの内側スカート部18および外側スカート部20は、隙間を隔てて対峙しており、相互に干渉しない。Vパッキン14a~14cの内側スカート部18は、その先端内周部18aにおいてバルブロッド32の外面に摺接する。また、Vパッキン14a~14cの外側スカート部20は、その先端外周部20aにおいてホルダ34の内面に当接する。
【0026】
本参考例は、下段のVパッキン14a、中段のVパッキン14bおよび上段のVパッキン14cの合計3つのVパッキン14a~14cを備えているが、Vパッキンの数はこれに限られるものではない。
【0027】
補助パッキン22は、FKM等のゴムからなり、シール性に優れている。U字状の断面を有する補助パッキン22は、環状板部22aと、環状板部22aの内周部から延びる内側円筒部22bと、環状板部22aの外周部から延びる外側円筒部22cとを有する。補助パッキン22の内側円筒部22bは、その内周においてバルブロッド32の外面に摺接する。補助パッキン22の外側円筒部22cは、その外周においてホルダ34の内面に当接する。
【0028】
PPS等の樹脂からなる第1ガイドブッシュ24は、ホルダ34の内周に備えられた第2段部34cに係止され、位置決めされる。第1ガイドブッシュ24は、上段のVパッキン14cを収容する凹部24aを備え、該凹部24aの底面において上段のVパッキン14cの凸部16aに当接する。また、第1ガイドブッシュ24は、補助パッキン22の内側円筒部22bと外側円筒部22cとの間に入り込む突出部24bを備える。
【0029】
PPS等の樹脂からなる第2ガイドブッシュ26は、ホルダ34の内周に備えられた第3段部34dに係止され、位置決めされる。第2ガイドブッシュ26の下端面は、補助パッキン22の環状板部22aに当接する。異物を除去するためのスクレーパ30は、PEEK等の樹脂からなり、押え板28によって位置決めされる。スクレーパ30の頂部は、下段のVパッキン14aの頂部16の背面16bに当接する。複数のVパッキン14a~14cは、スクレーパ30と第1ガイドブッシュ24との間で挟持され、隣り合う頂部16が相互に圧接する。
【0030】
複数のVパッキン14a~14cおよび補助パッキン22を含む軸シール構造12を含むアングルシートバルブ10の構成は、以上のとおりである。次に、その作用について説明する。
【0031】
図2に示されるように、弁体44のシール部材46が弁座40eに当接している状態を初期状態とする。初期状態において、圧力室70にエアは導入されておらず、ピストン58は、スプリング72a、72bの付勢力により最下端に位置している。ここで、バルブボデイ38の入口ポート40bに流体が供給されると、弁体44の下端面に流体圧が作用する。しかしながら、該流体圧が弁体44を押し上げる力よりもスプリング72a、72bの付勢力の方が大きいため、弁体44は移動しない。
【0032】
この状態で、図示しない切換弁が操作され、給排ポート66aから圧力室70にエアが供給される。すると、ピストン58に作用するエア圧によってピストン58を押し上げる力がスプリング72a、72bの付勢力を上回り、ピストン58が上方に移動する。そして、圧力室70に蓄積されるエア圧によってピストン58が押し上げられる力と、縮小するスプリング72a、72bの反力によってピストン58が押し下げられる力とが釣り合う位置まで、ピストン58が移動する(
図5参照)。なお、厳密には、ピストン58が押し上げられる力として、弁体44に作用する流体の圧力にバルブロッド32の断面積を掛け合わせた力が含まれる。
【0033】
こうして、弁体44は弁座40eから離間し、入口ポート40bから供給される流体は、弁体44と弁座40eとが離間する距離に応じた流量で、出口ポート40cから吐出される。その後、切換弁が操作され、圧力室70のエアが給排ポート66aから外部に排出される。すると、ピストン58は、スプリング72a、72bの付勢力によって最下端まで移動し、弁体44のシール部材46が弁座40eに当接する。これにより、入口ポート40bと出口ポート40cの連通が遮断され、出口ポート40cからの流体の吐出が止まる。
【0034】
入口ポート40bから供給される流体は、弁体44が弁座40eから離間する度に傾斜管部42内に充満する。複数のVパッキン14a~14cと補助パッキン22を含む軸シール構造12により、傾斜管部42内の流体が外部に漏出することが阻止される。
【0035】
具体的には、下段のVパッキン14aが傾斜管部42内の流体の圧力を受け、薄肉の内側スカート部18が弾性変形し、その先端内周部18aがバルブロッド32の外面に当接する圧力が高まる。また、薄肉の外側スカート部20が弾性変形し、その先端外周部20aがホルダ34の内面に当接する圧力が高まる。これにより、下段のVパッキン14aが高いシール性を発揮し、傾斜管部42内の流体が下段のVパッキン14aを通過することが効果的に抑制される。わずかな流体が下段のVパッキン14aを通過した場合は、補助パッキン22により外部に漏出することが阻止される。
【0036】
アングルシートバルブ10が一定期間使用されると、下段のVパッキン14aは、摩耗が進み、シール性を十分発揮することができなくなって、その役割を終える。すると、下段のVパッキン14aに代わって、傾斜管部42内の流体の圧力を受ける中段のVパッキン14bがシール性を発揮するようになる。さらに、アングルシートバルブ10が一定期間使用されると、中段のVパッキン14bの摩耗が進み、中段のVパッキン14bに代わって、上段のVパッキン14cがシール性を発揮するようになる。このように、下方に位置するVパッキンから上方に位置するVパッキンへとシール作用が順次引き継がれていく。なお、Vパッキン14a~14cの摩耗は、特に、往復動するバルブロッド32と繰り返し摺接する内側スカート部18の先端内周部18aにおいて進行する。
【0037】
Vパッキン14a~14cの内側スカート部18および外側スカート部20は、薄肉に形成されているので、傾斜管部42内の流体の圧力を受けたときに容易に弾性変形して、良好なシール性を発揮することができる。また、隣り合うVパッキン14a~14cは、厚肉に形成され剛性の高い頂部16において相互に当接するので、隣り合うVパッキン14a~14cの内側スカート部18および外側スカート部20との間の隙間が確実に保持される。そして、隣り合うVパッキン14a~14cの内側スカート部18および外側スカート部20は、相互に干渉しないので、複数のVパッキン14a~14cの摩耗が同時に進行することがなく、長期間にわたって良好なシール性を持続させることができる。
【0038】
本参考例に係る軸シール構造12によれば、厚肉の頂部16と、薄肉の内側スカート部18と、薄肉の外側スカート部20とからなる複数のVパッキン14a~14cを有する。そして、隣り合う内側スカート部18および外側スカート部20は相互に干渉しないので、長期にわたって良好なシール性を持続させることができる。
【0039】
本参考例では、Vパッキン14a~14cをフッ素樹脂製としたが、所定の弾性を有する材料であれば、フッ素樹脂以外の樹脂、ゴム、エラストマー等からVパッキンを構成してもよい。また、ゴム製の補助パッキン22は、Vパッキン14a~14cをフッ素樹脂製とした場合、シール性を高めるために有用なものである。例えばVパッキン14a~14cをゴムから構成する場合は、補助パッキン22を備えなくてもよい。本参考例に係る軸シール構造12を説明するにあたって、薬液や蒸気等の流体を取り扱うアングルシートバルブに適用した例を用いたが、圧縮空気等の流体を取り扱う種々の装置(バルブ)に適用できる。
【0040】
(第2参考例)
次に、第2参考例に係る軸シール構造80について、
図6および
図7を参照しながら説明する。なお、軸シール構造80は、第1参考例と同様のアングルシートバルブ10に適用されるものとして説明する。また、第1参考例の軸シール構造12と同一または同等の構成には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0041】
軸シール構造80は、複数のフッ素樹脂製のUパッキン82a~82cを備える。
図7に示されるように、U字状の断面を有するUパッキン82a~82cは、厚肉の頂部84と、頂部84から内方および軸方向に延びる薄肉の内側スカート部86と、頂部84から外方および軸方向に延びる薄肉の外側スカート部88とを有する。なお、ここでいう「軸方向」とは、バルブロッド32の軸線CL2と一致するUパッキン82a~82cの中心軸線と平行な向きである。
【0042】
複数のUパッキン82a~82cは、それぞれの頂部84が弁体44から離れた側に位置するようにして、かつ、バルブロッド32の軸線CL2方向に積み重なるようにして配置される。本参考例では、
図6に示されるように、下段のUパッキン82a、中段のUパッキン82bおよび上段のUパッキン82cの合計3つのUパッキン82a~82cを備えているが、Uパッキンの数はこれに限られるものではない。
【0043】
Uパッキン82a~82cの内側スカート部86は、内方に突出する複数の環状のリブ86aを備える。Uパッキン82a~82cの外側スカート部88は、外方に突出する複数の環状のリブ88aを備える。薄肉に形成された内側スカート部86および外側スカート部88は、傾斜管部42内の流体の圧力を受けたときに弾性変形する。そして、内側スカート部86は、複数のリブ86aの先端においてバルブロッド32の外面に摺接する。また、外側スカート部88は、複数のリブ88aの先端においてホルダ34の内面に当接する。これにより、接触部において所定以上の面圧と接触面積を確保することができ、良好なシール性を発揮することができる。
【0044】
また、Uパッキン82a~82cの頂部84の端面84aおよび背面84bは、いずれも平坦面となっている。隣り合うUパッキン82a~82cの頂部84は、一方の頂部84の端面84aが他方の頂部84の背面84bに平坦面同士で当接する形態で、相互に当接している。これにより、積層される複数のUパッキン82a~82cの中心軸線が安定して一致した状態に保たれる。
【0045】
また、Uパッキン82a~82cの頂部84の軸方向長さは、頂部84の背面84bから内側スカート部86の先端または外側スカート部88の先端までの距離よりも長い。換言すれば、頂部84の厚さTは、内側スカート部86および外側スカート部88によって形成される凹部の深さDよりも大きい。これにより、隣り合うUパッキン82a~82cの内側スカート部86および外側スカート部88は、相互に干渉しない。
【0046】
アングルシートバルブ10が一定期間使用されると、下段のUパッキン82aは、摩耗が進み、シール性を十分発揮することができなくなって、その役割を終える。すると、傾斜管部42内の流体の圧力を受ける中段のUパッキン82bがシール性を発揮するようになる。さらに、アングルシートバルブ10が一定期間使用されると、中段のUパッキン82bの摩耗が進み、上段のUパッキン82cがシール性を発揮するようになる。このように、下方に位置するUパッキンから上方に位置するUパッキンへとシール作用が順次引き継がれ、複数のUパッキン82a~82cの摩耗が同時に進行することがない。
【0047】
本参考例に係る軸シール構造80によれば、厚肉の頂部84と、薄肉の内側スカート部86と、薄肉の外側スカート部88とからなる複数のUパッキン82a~82cを有する。そして、隣り合う内側スカート部86および外側スカート部88は相互に干渉しないので、長期にわたって良好なシール性を持続させることができる。
【0048】
本参考例では、Uパッキン82a~82cをフッ素樹脂製としたが、所定の弾性を有する材料であれば、フッ素樹脂以外の樹脂、ゴム、エラストマー等からUパッキンを構成してもよい。
【0049】
(実施形態)
本発明の実施形態に係る軸シール構造90が
図8に示されている。この軸シール構造90は、Vパッキンを一つしか備えていない点で、第1参考例に係る軸シール構造12と異なる。なお、第1参考例の軸シール構造12と同一または同等の構成には同一の参照符号を付してある。以下、この軸シール構造90について説明する。
【0050】
ホルダ34の内周には、第1ガイドブッシュ24および第2ガイドブッシュ26が取り付けられている。第1ガイドブッシュ24および第2ガイドブッシュ26は、バルブロッド32を軸方向に移動可能に案内する。ホルダ34の下端には、押え板28が取り付けられる。押え板28と第1ガイドブッシュ24との間にスクレーパ30および単一のVパッキン14が装着される。第1ガイドブッシュ24と第2ガイドブッシュ26との間にゴムシールパッキン22が装着される。
【0051】
Vパッキン14は、PTFEまたはPFA等のフッ素樹脂から構成され、耐薬品性、耐熱性および耐蒸気性に優れている。V字状の断面を有するVパッキン14は、頂部16と、頂部16から斜め内方に延びる薄肉の内側スカート部18と、頂部16から斜め外方に延びる薄肉の外側スカート部20とを有する。頂部16は、内側スカート部18および外側スカート部20とは反対側に突出する環状の凸部16aを有する。Vパッキン14の内側スカート部18は、その先端内周部18aにおいてバルブロッド32の外面に摺接する。Vパッキン14の外側スカート部20は、その先端外周部20aにおいてホルダ34の内面に当接する。
【0052】
ゴムシールパッキン22は、NBR、HNBR、EPDM、FKMまたはシリコーン等のゴムから構成され、シール性に優れている。U字状の断面を有するゴムシールパッキン22は、環状板部22aと、環状板部22aの内周部から延びる内側円筒部22bと、環状板部22aの外周部から延びる外側円筒部22cとを有する。ゴムシールパッキン22の内側円筒部22bは、その内周においてバルブロッド32の外面に摺接する。ゴムシールパッキン22の外側円筒部22cは、その外周においてホルダ34の内面に当接する。
【0053】
第1ガイドブッシュ24は、高機械強度、高摺動性、耐熱性および低摩耗性を有するスーパーエンジニアリングプラスチック材から構成される。スーパーエンジニアリングプラスチック材の具体例としては、PPS、PVDF、PA、PC、PE、POM、PEI、PPO、PET、PTFE、PEEK、PAI、PIおよびPBIが挙げられる。第1ガイドブッシュ24は、ホルダ34の内周に備えられた第2段部34cに係止される。第1ガイドブッシュ24は、Vパッキン14を収容する凹部24aを備え、該凹部24aの底面においてVパッキン14の凸部16aに当接する。第1ガイドブッシュ24は、ゴムシールパッキン22の内側円筒部22bと外側円筒部22cとの間に入り込む突出部24bを備える。
【0054】
第1ガイドブッシュ24は、凹部24aの底面に開口する複数の第1グリス溜り24cと、ゴムシールパッキン22に向けて開口する環状の第2グリス溜り24dとを有する。複数の第1グリス溜り24cは、周方向に均等に配置される。複数の第1グリス溜り24cに貯留されるグリスは、Vパッキン14に供給される。第2グリス溜り24dに貯留されるグリスは、ゴムシールパッキン22に供給される。第1ガイドブッシュ24は、Vパッキン14の上方に配置されるので、Vパッキン14によって流体から保護され、耐久性が向上する。
【0055】
第2ガイドブッシュ26は、高機械強度、高摺動性、耐熱性および低摩耗性を有するスーパーエンジニアリングプラスチック材から構成される。第2ガイドブッシュ26は、ホルダ34の内周に備えられた第3段部34dに係止される。第2ガイドブッシュ26の下端面は、ゴムシールパッキン22の環状板部22aに当接する。第2ガイドブッシュ26は、バルブロッド32と向き合う内周面にグリス溜り26aを有する。バルブロッド32は、第1ガイドブッシュ24および第2ガイドブッシュ26によって十分な長さに亘って支持されるので、支持安定性が向上する。
【0056】
スクレーパ30は、耐熱性、耐蒸気性、耐薬品性、高機械強度、高摺動性および低摩耗性を有するスーパーエンジニアリングプラスチック材から構成される。スクレーパ30は、バルブロッド32に付着した流体中のスラッジ等の異物が軸シール構造90の内部に侵入するのを防止する。スクレーパ30は、押え板28によって位置決めされる。スクレーパ30の上端部は、Vパッキン14の頂部16の背面16bに当接する。
【0057】
Vパッキン14は、第1ガイドブッシュ24とスクレーパ30の間に配置される。Vパッキン14の頂部16は、第1ガイドブッシュ24の凹部24aの底面と、スクレーパ30の上端部との間で挟持される。Vパッキン14の内側スカート部18および外側スカート部20は、第1ガイドブッシュ24とスクレーパ30との間に形成される空間内で自由に変形することができる。Vパッキン14の内側スカート部18および外側スカート部20は、薄肉に形成されているので、流体の圧力を受けたときに容易に弾性変形して、良好なシール性を発揮する。
【0058】
軸シール構造90は、Vパッキン14を一つしか備えていないので、複数のVパッキン14a~14cを備える前述の軸シール構造12と比較すると、シールの持続性においてやや劣る。しかしながら、第1ガイドブッシュ24とスクレーパ30を含む構成は、前述の軸シール構造12と同様に有用であり、費用対効果も加味すると実用的である。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0060】
14…Vパッキン 16…頂部
16a…凸部 18…内側スカート部
20…外側スカート部 22…ゴムシールパッキン
22a…環状板部 22b…内側円筒部
22c…外側円筒部 24…第1ガイドブッシュ
24a…凹部 24c…第1グリス溜り(グリス溜り)
24d…第2グリス溜り(グリス溜り)
26…第2ガイドブッシュ 26a…グリス溜り
28…押え板 30…スクレーパ
32…バルブロッド(ロッド) 34…ホルダ
90…軸シール構造