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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20241029BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 50/198 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241029BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M50/198
H01M4/134
H01M4/13
H01M50/184 D
H01M50/184 A
H01M4/38 Z
H01M10/052
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023505060
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010167
(87)【国際公開番号】W WO2022190378
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 海志
(72)【発明者】
【氏名】小野 義隆
(72)【発明者】
【氏名】小川 止
(72)【発明者】
【氏名】安田 博文
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/137388(WO,A1)
【文献】特開2015-76178(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025594(WO,A1)
【文献】特開2011-258477(JP,A)
【文献】特開2007-273349(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092484(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0070723(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0157648(US,A1)
【文献】国際公開第2020/138040(WO,A1)
【文献】特開2020-115450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0585
H01M 50/184
H01M 50/198
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電箔、固体電解質層、正極層を有する全固体電池において、
前記負極集電箔には前記固体電解質層の周縁の形状に倣って周回する枠形状を有する絶縁性の第1弾性体が接続され、
前記第1弾性体が前記固体電解質層の主面に接続されることで、前記固体電解質層、前記負極集電箔、及び前記第1弾性体により囲まれた内部空間が形成され、
前記固体電解質層は、平面視でその外形が前記正極層の外形を内側に包含するように配置され、
全固体電池が完全放電状態の場合において、
前記内部空間は、電気伝導性、及び/又は、リチウムイオン伝導性を有する負極層で満たされている全固体電池。
【請求項2】
全固体電池が完全充電状態の場合において、
前記内部空間は、前記負極層と、リチウム金属層と、で満たされている請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記完全充電状態の場合において、
前記負極集電箔と前記負極層の間に前記リチウム金属層が析出され、
前記第1弾性体の高さは、前記全固体電池が前記完全放電状態のときよりも前記リチウム金属層の厚みの分だけ伸長している請求項2に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記固体電解質層は、平面視でその外形が前記負極層の外形を内側に包含するように配置され、
前記第1弾性体は、前記固体電解質層の主面に接続されることで、前記負極集電箔と前記固体電解質層との間に挟まれている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項7】
負極集電箔、固体電解質層、正極層を有する全固体電池において、
前記負極集電箔には前記固体電解質層の周縁の形状に倣って周回する枠形状を有する絶縁性の第1弾性体が接続され、
前記第1弾性体が前記固体電解質層の主面、又は前記固体電解質層の側面に接続されることで、前記固体電解質層、前記負極集電箔、及び前記第1弾性体により囲まれた内部空間が形成され、
前記固体電解質層は、平面視でその外形が前記正極層の外形を内側に包含するように配置され、
前記正極層の側面を覆うように絶縁性の第2弾性体が配置され、
全固体電池が完全放電状態の場合において、
前記内部空間は、電気伝導性、及び/又は、リチウムイオン伝導性を有する負極層で満たされている全固体電池。
【請求項8】
前記正極層及び前記第2弾性体は、前記固体電解質層と正極集電箔との間に挟まれ、
前記第2弾性体の高さは、前記正極層の厚みと一致する請求項6又は請求項7に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記第2弾性体は、平面視で、前記正極集電箔の少なくとも一辺よりも外側に露出するように配置されている請求項8に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2018/168550A1は、負極集電箔、固体電解質層、正極層、及び正極集電箔を有する電池要素部材を備え、当該電池要素部材の側面が絶縁材により被覆された全固体電池を開示している。これにより、負極側面からのリチウム金属の成長を抑制し放電容量の低下を抑制している。
【発明の概要】
【0003】
しかし、WO2018/168550A1では、固体電解質層と絶縁材は互いに異なる材料であるため、固体電解質層と絶縁材との間には界面が存在し、全固体電池を充電した場合に析出されるリチウム金属(リチウムデンドライト)が当該界面を伝って正極層に到達して全固体電池が短絡する虞がある。また、電池要素部材の側面を絶縁材により固縛することで、充電時の負極集電箔におけるリチウム金属の析出を阻害し、これにより放電容量が低下する虞がある。
【0004】
そこで、本発明は、充電時の負極集電箔におけるリチウム金属の析出を容易にすることで放電容量の低下を抑制し、且つ短絡を低減する全固体電池を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、負極集電箔、固体電解質層、正極層を有する全固体電池において、負極集電箔には固体電解質層の周縁の形状に倣って周回する枠形状を有する絶縁性の第1弾性体が接続され、第1弾性体が固体電解質層の主面、又は固体電解質層の側面に接続されることで、固体電解質層、負極集電箔、及び第1弾性体により囲まれた内部空間が形成され、固体電解質層は、平面視でその外形が正極層の外形を内側に包含するように配置され、全固体電池が完全放電状態の場合において、内部空間は、電気伝導性、及び/又は、リチウムイオン伝導性を有する負極層で満たされている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態の全固体電池の断面図である。
図2図2は、第1実施形態の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
図3図3は、第1実施形態の変形例の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
図4図4は、第2実施形態の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
図5図5は、第3実施形態の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
図6図6は、第4実施形態の全固体電池の断面図である。
図7図7は、比較例の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本実施形態の概要]
本実施形態に係る全固体電池100について説明する。
【0008】
図1は、第1実施形態の全固体電池100の断面図である。第1実施形態の全固体電池100は、複数回充放電が可能な二次電池である。全固体電池100は、その内部に、以下に説明する負極集電箔3、発電要素部1、正極集電箔2をそれぞれ複数積層したものを電池外装材であるラミネート層(不図示)で封止した状態で収容するいわゆる積層型の全固体電池100である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。
【0009】
全固体電池100は、負極集電箔3、正極集電箔2が交互に積層され、積層方向で互いに隣接する負極集電箔3と正極集電箔2の間に、発電要素部1が介装され、積層方向から押圧されて形成される。発電要素部1は、負極層13、固体電解質層12、正極層11による積層構造を有する。
【0010】
図1に示す発電要素部1において、その下部が正極集電箔2に接続しその上部が負極集電箔3に接続する発電要素部1は、下から正極層11、固体電解質層12、負極層13の順に積層されている。また、図1に示す発電要素部1において、その下部が負極集電箔3に接続しその上部が正極集電箔2に接続する発電要素部1は、下から負極層13、固体電解質層12、正極層11の順に積層されている。
【0011】
また、詳細は後述するが、発電要素部1の側面を覆うように第1弾性体41、第2弾性体42が配置されている。
【0012】
第1実施形態の全固体電池100では、負極集電箔3同士を並列に接続し、正極集電箔2同士を並列に接続することで、全ての発電要素部1を電気的に並列に接続することができる。なお、本実施形態において、負極集電箔3、発電要素部1、正極集電箔2は複数積層する必要はなく単層であってもよい。
【0013】
なお、第1実施形態の全固体電池100は、電池外装材に収容される前の状態において例えば円形又は矩形のシート状に構成される。また、本実施形態の全固体電池100の外観、及び内部における電気的な接続状態(電極構造)は特に限定されない。
【0014】
全固体電池100の外観は、平面視で、円、楕円、矩形形状が適用できる。或いは、単層、又は複数層の発電要素部1を巻き回して収容する円筒形状型であってもよい。また、全固体電池100の電極構造は、いわゆる非双極型(内部並列接続タイプ)、及び双極型(内部直列接続タイプ)のいずれが採用されてもよい。すなわち、以下に説明する構成以外に関しての全固体電池100の態様は、公知あるいは非公知に関わらず、特に制限されない。
【0015】
図2は、第1実施形態の全固体電池100の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。ここで、完全放電状態とは全固体電池100の開放電圧が所定の下限電圧以下の状態をいい、完全充電状態とは全固体電池100の開放電圧が前記の下限電圧よりも高い電圧である所定の基準電圧以上の状態をいう。
【0016】
正極集電箔2は、アルミニウム(Al)等の金属で形成された薄板である。負極集電箔3は、ステンレス(SUS)や、銅(Cu)等の金属で形成された薄板である。
【0017】
前記のように、発電要素部1は、負極集電箔3と正極集電箔2の間に介装され、正極層11と、固体電解質層12と、負極層13との積層構造を有する。また、発電要素部1は、平面視で正極集電箔2及び負極集電箔3よりも面積が小さく、且つ正極集電箔2の外形及び負極集電箔3の外形よりも内側となるように配置されている。
【0018】
正極層11は、正極集電箔2の両主面(単層の場合は正極集電箔2の負極集電箔3に対向する主面)に形成されている。正極層11は、例えばNMC811(ニッケルコバルトマンガン酸リチウム)を主原料として形成されたものが好適である。また、正極層11は、硫黄を含む正極活物質を含むことも好ましい。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物又は無機硫黄化合物の粒子又は薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。
【0019】
固体電解質層12は、固体電解質を主成分として含有し、負極層13と正極層11との間に介在する層である。固体電解質としては、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。硫化物固体電解質としては、例えばLPS系(例えばアルジロダイト(LiPSCl))、LGPS系(例えばLi10GeP12)の材料が挙げられる。
【0020】
負極層13は、負極集電箔3両主面(単層の場合は負極集電箔3の正極集電箔2に対向する主面)に配置されている。また、負極層13は、後述のように内部空間5に満たされるものである。負極層13は、電気伝導性、及び/又は、リチウムイオン伝導性を有する材料で形成され、例えばリチウム合金、又はリチウム金属を包含する負極活物質により構成される。また、負極層13はステンレス(SUS)、銅(Cu)、カーボンブラック(炭素の微粒子)を適用することも可能である。
【0021】
固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形及び負極層13の外形を内側に包含するように配置されている。
【0022】
図2(及び図1)に示すように、発電要素部1の側面を覆うように絶縁性の第1弾性体41及び第2弾性体42が配置されている。
【0023】
第1弾性体41は、負極集電箔3の主面と固体電解質層12の負極集電箔3側の主面の間に挟まれるように配置されている。また第1弾性体41は、固体電解質層12の周縁の外形に倣って周回する枠形状を有している。すなわち、固体電解質層12が平面視で円形であれば円形のリング形状を有し、固体電解質層12が平面視で矩形であれば矩形の枠形状を有する。
【0024】
よって、第1実施形態の全固体電池100では、平面視で、第1弾性体41よりも内側であって負極集電箔3、固体電解質層12、及び第1弾性体41により囲まれた内部空間5が形成され、当該内部空間5に負極層13及び後述のリチウム金属層14で満たされることになる。
【0025】
第1弾性体41に用いる材料としては、400Gpa以下の絶縁性の材料が望ましく、より望ましくは10Gpa以下の材料である。第1弾性体41の材料としては、例えば、酸化アルミニウム(バルク)(370Gpa)、ジルコニア(200Gpa)、ポリエチレンテレフタラート(PET)(4Gpa)、カプトン(登録商標)(3.3Gpa)、エポキシ樹脂(2.4Gpa)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(0.5Gpa)、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)(0.1Gpa)等が適用できる。
【0026】
第2弾性体42は、正極集電箔2の主面と固体電解質層12の正極集電箔2側の主面の間に挟まれるように配置されている。また第2弾性体42は、第1弾性体41と同様に固体電解質層12の周縁の外形に倣って周回する枠形状を有している。第2弾性体42の材料は、第1弾性体41と同様に400Gpa以下の絶縁性の材料が望ましく、上記に列挙したいずれかの材料等を適用できる。
【0027】
第1実施形態の全固体電池100を充電(完全充電)すると、正極層11内のリチウムイオンが固体電解質層12及び負極層13を通過し、負極集電箔3と負極層13との間にリチウム金属層14として析出される。リチウム金属層14は負極層13及び負極集電箔3に接触している。また充電後の全固体電池100において放電を開始すると、リチウム金属層14(及び負極層13)からリチウムイオンが固体電解質層12を通過して正極層11内に吸蔵され、完全放電することでリチウム金属層14は消失する。なお、完全放電状態において、負極層13は負極集電箔3に接触することで負極集電箔3と電気的に接続されている。また、完全充電状態、又は完全充電状態に満たない一定の充電状態において、負極層13は、リチウム金属層14を介して負極集電箔3と電気的に接続されている。
【0028】
このとき、第1弾性体41は、リチウム金属層14の厚みの変化に追従してその高さが伸縮する。特に、リチウム金属の弾性率は5Gpaであるので、第1弾性体41の材料として、弾性率を5Gpa以下の材料を適用することで、第1弾性体41がリチウム金属層14よりも柔らかなくなり、第1弾性体41の高さ方向(全固体電池100の厚み方向)の追従性が向上する。
【0029】
[比較例と第1実施形態]
図7は、比較例の全固体電池100Aの断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
【0030】
比較例の全固体電池100Aの構造は、第1実施形態の全固体電池100と類似するが、負極層13の側面、固体電解質層12の曲面、正極層11の側面が略同一曲面を形成している。そして、発電要素部1の側面を弾性体43が覆っている。
【0031】
比較例の全固体電池100Aにおいても、充電を行うと負極集電箔3と負極層13の間にリチウム金属層14が形成される。また弾性体43の材料を例えば前記の第1弾性体41の同様のものを適用することにより、弾性体43の高さをリチウム金属層14の厚みの変化に追従して変化させることができる。
【0032】
しかし、比較例の全固体電池100Aでは、前記のように、負極層13の側面、固体電解質層12の側面、正極層11の側面が略同一曲面を形成しているので、発電要素部1と弾性体43との間の界面に段差はない。
【0033】
このため、全固体電池100において充放電を繰り返すとリチウム金属層14として析出したリチウム金属(リチウムデンドライト)が当該界面を通じて正極層11にまで成長し、負極層13と正極層11が短絡する虞がある。
【0034】
一方、図2に示すように、第1実施形態の全固体電池100では、第1弾性体41が負極集電箔3の主面と固体電解質層12の主面の間に挟まれる態様で配置され、負極層13の側面を内壁とする内部空間5が形成されている。
【0035】
これにより、負極集電箔3と負極層13との間にリチウム金属が析出可能な空間(内部空間5)を全固体電池100の充電量に応じて形成することができるので、全固体電池100の放電容量の低下を抑制できる。
【0036】
また、負極集電箔3と負極層13の間にリチウム金属層14として析出されるリチウム金属(リチウムデンドライト)が内部空間5に閉じ込められるので、リチウム金属(リチウムデンドライト)が平面視で負極層13の外形よりも外側に成長することを低減できる。すなわち、図2の拡大図の矢印(A)が示すようにリチウム金属の移動を低減することで、全固体電池100の放電容量の減少を抑制できる。
【0037】
そして、リチウム金属の析出量(リチウム金属層14の厚み)に対応して第1弾性体41が伸長してリチウム金属が析出可能な内部空間5を作ることになり、その分、リチウム金属の析出の阻害を低減することで、全固体電池100の放電容量の低下を抑制できる。
【0038】
また、第1実施形態の全固体電池100では、固体電解質層12が平面視で負極層13よりも外側に突出するように配置され、第1弾性体41が負極集電箔3の主面と固体電解質層12の主面であって平面視で負極層13よりも外側に突出した位置に挟まれる態様で配置されている。これにより、リチウム金属(リチウムデンドライト)が第1弾性体41と負極層13との界面に進入しても、固体電解質層12でその成長がせき止められる。すなわち、図2の拡大図の矢印(B)が示すように、リチウム金属が負極層13から正極層11に直線的に移動することを制限できる。
【0039】
また、第1弾性体41は、第1弾性体41とリチウム金属層14との界面、第1弾性体41と負極層13との界面、第1弾性体41と固体電解質層12との界面を形成する。ここで、固体電解質層12の平面視で負極層13よりも外側となる部分の電流密度は、固体電解質層12の平面視で負極層13よりも内側となる部分の電流密度よりも著しく小さくなる。よって、第1弾性体41と固体電解質層12との界面の面方向の電位勾配は、第1弾性体41とリチウム金属層14との界面の高さ方向の電位勾配、及び第1弾性体41と負極層13との界面の高さ方向の電位勾配よりも著しく小さくなる。これにより、リチウム金属(リチウムデンドライト)が第1弾性体41と負極層13との界面と第1弾性体41と固体電解質層12との界面との合流位置まで成長しても、リチウム金属(リチウムデンドライト)の第1弾性体41と固体電解質層12との界面への進入を低減できる。以上より、負極層13と正極層11との短絡を低減でき、全固体電池100の充放電のサイクル耐久性を向上できる。
【0040】
さらに、第1実施形態の全固体電池100では、第2弾性体42が、正極層11の側面を覆うように配置されている。これにより、放電時における正極層11の側面へのリチウム金属の析出、及びこれによる放電能力の低下を抑制できる。
【0041】
正極層11は、充電時に正極層11内に吸蔵されたリチウムイオンを負極層13に向けて放出することで厚みが低下し、放電時に負極層13側から移動してきたリチウムイオンを取り込んで吸蔵することで厚みが増加する場合があるが、第2弾性体42は、正極層11の厚みの変化に追従してその高さを伸縮させることができる。
【0042】
また、固体電解質層12が平面視で負極層13のみならず、正極層11よりも外側に突出するように配置されている。これにより、第1弾性体41と固体電解質層12との界面の電位勾配をさらに小さくすることができ、リチウム金属(リチウムデンドライト)の第1弾性体41と固体電解質層12との界面への進入をさらに低減できる。
【0043】
ここで、図2に示すように、固体電解質層12の平面視で正極層11及び負極層13よりも外側となる部分の厚みをX、正極層11の厚みをYとすると、第2弾性体42の高さZは、Y≦Z<X+Yとなるように設定される。すなわち、第2弾性体42は固体電解質層12に接触しており、固体電解質層12の平面視で正極層11及び負極層13よりも外側となる部分は第1弾性体41と第2弾性体42に挟まれている。これにより、固体電解質層12の平面視で正極層11及び負極層13よりも外側となる部分と内側となる部分との境界に対する剪断応力を低減できる。具体的には、図2の拡大図に示すように、固体電解質層12の図中の円形の破線(C)で囲まれた部分に対する剪断応力(引張応力)、円形の破線(D)で囲まれた部分に対する剪断応力(圧縮応力)を低減し、固体電解質層12の破断を抑制できる。特に、第2弾性体42の高さZが正極層11の厚みYと一致する場合、固体電解質層12の主面に段差はなく、上記の剪断応力をさらに低減できる。
【0044】
なお、第1実施形態において、正極層11の側面におけるリチウム金属の析出量が小さく、放電容量に影響を与えない場合、又はリチウム金属(リチウムデンドライト)による正極層11と負極層13との短絡の虞が小さい場合は、第2弾性体42を省略できる。
【0045】
[第1実施形態の変形例]
図3は、第1実施形態の変形例の全固体電池100の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
【0046】
変形例の全固体電池100では、負極層13(及びリチウム金属層14)の側面と固体電解質層12の側面が略同一曲面を形成している。また、固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形を内側に包含するように配置されている。
【0047】
また、第1弾性体41は、放電時において負極層13の側面及び固体電解質層12の側面を覆うように配置されている。よって、第1弾性体41は充電時において、リチウム金属層14の側面、負極層13の側面、及び固体電解質層12の側面を覆うように配置される。
【0048】
第2弾性体42は、正極層11の側面を覆うように配置され、その側面が例えば第1弾性体41の側面と略同一曲面を形成するように配置されている。また第2弾性体42は第1弾性体41と接合している。
【0049】
上記構成において、固体電解質層12は、平面視で正極層11よりも外側に突出するように配置される。これにより、固体電解質層12の平面視で正極層11よりも外側となる部分の電流密度は、固体電解質層12の平面視で正極層11よりも内側となる部分の電流密度よりも著しく小さくなり、電位勾配も小さくなる。特に固体電解質層12の正極層11側の主面であって平面視で正極層11よりも外側となる部分の電流密度及び電位勾配は著しく小さくなる。
【0050】
また、変形例のように、固体電解質層12の側面と負極層13の側面が略同一曲面を形成している場合(図3参照)、負極層13と第1弾性体41の間にリチウム金属(リチウムデンドライト)が進入し、固体電解質層12の正極層11側の主面(固体電解質層12と第2弾性体42との界面)に到達しても、固体電解質層12の主面を伝って正極層11に到達することを低減できる。以上より、変形例においても負極層13と正極層11との短絡を低減でき、全固体電池100の充放電のサイクル耐久性を向上できる。
【0051】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態の全固体電池100によれば、負極集電箔3、固体電解質層12、正極層11を有する全固体電池100において、負極集電箔3には固体電解質層12の周縁の形状に倣って周回する枠形状を有する絶縁性の第1弾性体41が接続され、第1弾性体41が固体電解質層12の主面、又は固体電解質層12の側面に接続されることで、固体電解質層12、負極集電箔3、及び第1弾性体41により囲まれた内部空間5が形成され、固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形を内側に包含するように配置され、全固体電池100が完全放電状態の場合において、内部空間5は、電気伝導性、及び/又は、リチウムイオン伝導性を有する負極層13で満たされている。
【0052】
上記構成により、負極集電箔3と負極層13との間にリチウム金属が析出可能な内部空間5を全固体電池100の充電量に応じて形成することができるので、全固体電池100の放電容量の低下を抑制できる。
【0053】
また、負極集電箔3と負極層13の間にリチウム金属層14として析出されるリチウム金属(リチウムデンドライト)が内部空間5に閉じ込められるので、リチウム金属(リチウムデンドライト)平面視で負極層13の外形よりも外側に成長することを低減でき、全固体電池100の放電容量の減少を抑制できる。
【0054】
さらに、固体電解質層12が平面視で正極層11よりも外側に突出するように配置される。これにより、固体電解質層12の平面視で正極層11よりも外側となる部分の電流密度は、固体電解質層12の平面視で正極層11よりも内側となる部分の電流密度よりも著しく小さくなり、電位勾配も小さくなる。よって、固体電解質層12の側面と負極層13の側面が略同一曲面を形成している場合(図3参照)において、負極層13と第1弾性体41の間にリチウム金属(リチウムデンドライト)が進入し、固体電解質層12の正極層11側の主面に到達しても、固体電解質層12の主面を伝って正極層11に到達することを低減できる。以上より、負極層13と正極層11の短絡を低減できる。
【0055】
第1実施形態において、全固体電池100が完全充電状態の場合において、内部空間5は、負極層13と、リチウム金属層14と、で満たされている。また、完全充電状態の場合(完全充電状態に満たない一定の充電状態の場合含む)において、負極集電箔3と負極層13の間にリチウム金属層14が析出され、第1弾性体41の高さは、全固体電池100が完全放電状態のときよりもリチウム金属層14の厚みの分だけ伸長している。
【0056】
上記構成により、リチウム金属層14の厚み(リチウム金属の析出量)に対応して第1弾性体41が伸長してリチウム金属が析出可能な内部空間5を作ることになり、その分、リチウム金属の析出を容易にし、全固体電池100の放電容量の低下を抑制できる。
【0057】
第1実施形態において、固体電解質層12は、平面視でその外形が負極層13の外形を内側に包含するように配置され、第1弾性体41は、固体電解質層12の主面に接続されることで、負極集電箔3と固体電解質層12との間に挟まれている。
【0058】
上記構成により、固体電解質層12が平面視で負極層13よりも外側に突出するように配置され、第1弾性体41が負極集電箔3の主面と固体電解質層12の主面であって平面視で負極層13よりも外側に突出した位置に挟まれる態様で配置される。これにより、リチウム金属(リチウムデンドライト)が第1弾性体41と負極層13との界面に進入しても、固体電解質層12でその成長をせき止めることができる。
【0059】
また、固体電解質層12の平面視で負極層13よりも外側となる部分の電流密度は、固体電解質層12の平面視で負極層13よりも内側となる部分の電流密度よりも著しく小さくなる。よって、第1弾性体41と固体電解質層12との界面の面方向の電位勾配は、第1弾性体41とリチウム金属層14との界面の厚み方向の電位勾配、及び第1弾性体41と負極層13との界面の厚み方向の電位勾配よりも著しく小さくなる。これにより、リチウム金属(リチウムデンドライト)が第1弾性体41と負極層13との界面と第1弾性体41と固体電解質層12との界面との合流位置まで成長しても、リチウム金属(リチウムデンドライト)の第1弾性体41と固体電解質層12との界面への進入を低減できる。以上より、負極層13と正極層11との短絡を低減でき、全固体電池100の充放電のサイクル耐久性を向上できる。
【0060】
第1実施形態において、正極層11の側面を覆うように絶縁性の第2弾性体42が配置されている。
【0061】
これにより、放電時における正極層11の側面へのリチウム金属の析出を抑制し、放電容量の低下を抑制することができる。
【0062】
第1実施形態において、正極層11及び第2弾性体42は、固体電解質層12と正極集電箔2との間に挟まれており、第2弾性体42の高さは、正極層11の厚みと一致する。
【0063】
これにより、固体電解質層12の平面視で正極層11及び負極層13よりも外側となる部分と内側となる部分との境界に対する剪断応力を低減できる。特に、第2弾性体42の高さZが正極層11の厚みYと一致する場合、固体電解質層12の主面に段差はなく、上記の剪断応力をさらに低減できる。
【0064】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態の全固体電池100の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。第2実施形態の全固体電池100において、固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形及び負極層13の外形を内側に包含するように配置される点については第1実施形態と同様である。
【0065】
しかし、第2実施形態では、負極層13(及びリチウム金属層14)は、平面視でその外形が正極層11の外形の内側に包含されるように配置されている。よって、第1弾性体41の面方向の厚みは、負極層13の面方向の大きさを小さくした分だけ第2弾性体42の面方向の厚みよりも厚くなるように設定できる。
【0066】
これにより、リチウム金属層14の面方向の拡大をさらに抑制できるので、放電容量の低下を第1実施形態よりもさらに抑制することができる。また、第1弾性体41の面方向の厚みを第1実施形態よりも厚くすることができるので、その分、負極層13と正極層11との短絡をさらに低減することができる。
【0067】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態の全固体電池100の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。第3実施形態の全固体電池100において、固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形及び負極層13の外形を内側に包含するように配置される点については第1実施形態と同様である。
【0068】
しかし、第3実施形態では、負極層13(及びリチウム金属層14)は、平面視でその外形が正極層11の外形を内側に包含するように配置されている。
【0069】
これにより、負極層13(及びリチウム金属層14)の平面視した面積を正極層11の面積よりも大きくした分だけ、リチウム金属層14の厚みを低減でき、その分、第1弾性体41の伸縮量を低減することができる。したがって、第1弾性体41の耐久性を高め、経年劣化による短絡を低減できる。
【0070】
[第4実施形態]
図6は、第4実施形態の全固体電池100の断面図である。第4実施形態の全固体電池100の構造は第1実施形態と同様であるが、第1弾性体41が、平面視で少なくとも負極集電箔3の一辺(全ての辺でもよい)よりも外側に露出するように配置されている。或いは、負極集電箔3を挟み込む一対の第1弾性体41が平面視で、当該負極集電箔3の一辺(全ての辺でもよい)よりも外側に露出するように配置されている。これにより、負極集電箔3及び正極集電箔2が変形したとしても、負極集電箔3であって第1弾性体41に覆われた部分と正極集電箔2が接触することはなく、両者の短絡を低減できる。
【0071】
また、第4実施形態では、第2弾性体42が、平面視で少なくとも正極集電箔2の一辺(全ての辺でもよい)よりも外側に露出するように配置されている。或いは、正極集電箔2を挟み込む一対の第2弾性体42が平面視で、当該正極集電箔2の一辺(全ての辺でもよい)よりも外側に露出するように配置されている。これにより、負極集電箔3及び正極集電箔2が変形したとしても、正極集電箔2であって第2弾性体42に覆われた部分と負極集電箔3が接触することはなく、両者の短絡を低減できる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7