(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】油脂含有固型食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/115 20160101AFI20241029BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
A23L33/115
A23L5/00 L
A23L5/00 M
(21)【出願番号】P 2023575663
(86)(22)【出願日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2023028384
(87)【国際公開番号】W WO2024038767
(87)【国際公開日】2024-02-22
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022129851
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上山 知樹
(72)【発明者】
【氏名】狩野 弘志
(72)【発明者】
【氏名】井上 量太
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-106269(JP,A)
【文献】特開2001-161274(JP,A)
【文献】国際公開第2001/058272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦横高さ方向の何れもが3mm以上の大きさである油脂含有固型食品。該固型食品は、25℃での固体脂含量が50%以下である油脂を60~95質量%、および下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材を0.5~10質量%含み、水分が5質量%以下である。
(A)粗蛋白質量20質量%の水溶液を80℃,30分加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が30%~95%。
【請求項2】
油脂含有固型食品が60℃で保形性を示すものである、請求項
1に記載の油脂含有固型食品。
【請求項3】
固型食品の油脂中に、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは多価不飽和脂肪酸含有油脂が含まれる、請求項
1または請求項
2に記載の油脂含有固型食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂を含有する固型食品に関する。
【背景技術】
【0002】
DHA,EPA等のn-3系脂肪酸、およびMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)といった、栄養生理機能を有する油脂が市場に多く出回っている。これらの油脂を摂取するには、ソフトカプセル等の補助食品、乳製品等の飲料、もしくはソーセージ等の加工食品等々に調製した飲食品を摂ることが一般的である。
油脂を大量に摂る手段として、菓子類が挙げられる。小麦粉などの澱粉を多く含む食材を、水和後にフライ処理し、または膨化処理後に油脂を付与して調製した多孔性のスナック類は、大量の油脂を包含する上に、クリスピーで軽快な食感を有している。
チョコレート類も大量の油脂を有する食品であり、融解状態のチョコレートをホイップする等により多孔質構造とした含気チョコも知られている。また、高温環境でも保形性を有した、焼きチョコといわれる形態の含気チョコレートも存在する(特許文献1)。
一方、油脂を大量に含む食品素材としては、粉末油脂、いわゆるクリーミングパウダーが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-207196号公報
【文献】特開昭55-37103号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】食品成分データベース(文部科学省)https://fooddb.mext.go.jp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大量の油脂摂取を考えた場合、前述した様な補助食品、飲料および加工食品の形態での油脂摂取には制限があるし、直接調理に使用する場合でも大量の摂取は困難である。
油分が高い食品として知られているチョコレート類の中でも、特許文献1に記載のチョコレートは、含気により食感を軽くしているが、ココアバターやその代替脂を用いるために、液体油ほどの口溶けが良い軽快な食感は得られ難い上に、油分も3割程度しか含まない。澱粉を主体とした多孔性のスナック類は、液体油を用いることで口溶けが良い軽快な食感を有しているものの、澱粉ボディに由来する「ざらついた食感」も併せ持つ上に、含有する油分に制限がある。比較的油分の高いポテトチップスの場合でも、その油分は35%程度である(非特許文献1)。
【0006】
一方、特許文献2のクリーミングパウダーは52.5%の固形分中油分を有しているが、粉末であるため、食品として主体的に摂取するものではない。粉末油脂を調製する際の、噴霧乾燥処理を行う水中油型乳化物は水の配合が多く、この乳化物から数mm~数cmまたはそれ以上の大きさを有した固形物を得ることは困難である。
本発明では、液体油を主体とした口溶けが良い軽快な食感を維持しつつ、固型食品中50質量%以上の大量の油脂と、それに起因する滑らかな舌触りを併せ持った、固型食品の調製を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、特定の性質を有したたん白素材に油脂を配合した高濃度の水中油型乳化物を乾燥させることにより、大量の油脂を含有し且つ口どけの良い軽快な食感を維持した、新規な油脂含有固型食品が調製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は
(1)以下の1~3の全ての工程を有する、縦横高さ方向の何れもが3mm以上の大きさを有した、油脂含有固型食品の製造方法。
1:油脂、たん白素材、及び水を含む水中油型乳化物を調製する工程。
ここで、水中油型乳化物の油脂、たん白素材および水の合計を100質量%とした際に、25℃での固体脂含量が50%以下である油脂が50~90質量%、下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材が0.5~10質量%、および水が8~30質量%である。
2:1の水中油型乳化物を成形する工程。
3:2で成形された水中油型乳化物を乾燥する工程。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が30%~95%。
(2)乾燥方法がフライである、(1)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(3)乾燥方法が減圧フライである、(2)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(4)油脂含有固型食品が、60℃で保形性を示すものである、(1)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(5)乾燥方法がフライである、(4)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(6)乾燥方法が減圧フライである、(5)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(7)油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは、多価不飽和脂肪酸含有油脂である、(1)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(8)乾燥方法がフライである、(7)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(9)乾燥方法が減圧フライである、(8)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(10)油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは、多価不飽和脂肪酸含有油脂である、(4)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(11)乾燥方法がフライである、(10)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(12)乾燥方法が減圧フライである、(11)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(13)縦横高さ方向の何れもが3mm以上の大きさである油脂含有固型食品。該固型食品は、25℃での固体脂含量が50%以下である油脂を50~95質量%、および下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材を0.5~10質量%含み、水分が5質量%以下である。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が30%~95%。
(14)固型食品の油脂中に、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは多価不飽和脂肪酸含有油脂が含まれる、(13)に記載の油脂含有固型食品。
(15)油脂含有固型食品が60℃で保形性を示すものである、(13)に記載の油脂含有固型食品。
(16)固型食品の油脂中に、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは多価不飽和脂肪酸含有油脂が含まれる、(15)に記載の油脂含有固型食品。
に関するものである。または、本発明は、
(1)25℃での固体脂含量が50%以下である油脂、たん白素材および水の合計を100質量%とした際に、油脂が50~90質量%、下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材が0.5~10質量%、および水が8~30質量%である水中油型乳化物を、乾燥して調製する、縦横高さ方向の何れもが3mm以上の大きさを有した、油脂含有固型食品の製造方法。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が30%~95%。
(2)油脂含有固型食品が、60℃で保形性を示すものである、(1)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(3)乾燥方法がフライである、(1)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(4)乾燥方法が減圧フライである、(3)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(5)油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは、多価不飽和脂肪酸含有油脂である、(1)に記載の油脂含有固型食品の製造方法。
(6)25℃での固体脂含量が50%以下である油脂を50~95質量%、および下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材を0.5~10質量%含み、水分が5質量%以下、縦横高さ方向の何れもが3mm以上の大きさを有した、油脂含有固型食品。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が30%~95%。
(7)油脂含有固型食品が60℃で保形性を示すものである、(6)に記載の油脂含有固型食品。
(8)固型食品の油脂中に、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは多価不飽和脂肪酸含有油脂が含まれる、(6)に記載の油脂含有固型食品。
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油脂を固型食品中50質量%以上の高濃度で含有しているにもかかわらず、軽快な食感を有した固型食品の調製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の水中油型乳化物を脱泡成形後に、100℃にて,5kPa,15分間フライした調製品の割断面の電子顕微鏡写真(左図)と、180℃にて,常圧,2分間フライした調製品の割断面の電子顕微鏡写真(右図)である。
【
図2】実施例1の
図1左図の割断面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(油脂)
本発明の油脂とは、水に不溶性または難溶性でかつ中性脂質に溶解しやすい物質を指す。すなわち、ダイズ油、ナタネ油、トウモロコシ油、サフラワー油、コメ油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、落花生油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、豚脂、牛脂、魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリドといったトリグリセリド類およびこれらをエステル交換や水素添加処理等で改質したもの、並びにこれらを分解した脂肪酸類が挙げられる。トリグリセリド類を構成する脂肪酸には多価不飽和脂肪酸(例えば、エイコサペンタエン酸/EPA、ドコサヘキサエン酸/DHA、アラキドン酸ならびにγ-リノレン酸および/またはエチルエステル)等も含まれる。
軽快な食感を付与するには、融点が低い油脂や粘度が低い油脂が好ましい。具体的には、25℃での固体脂含量が50%以下の油脂であり、25%以下が好ましく、10%以下が更に好ましい。粘度の低い油脂が好ましく、基準油脂分析試験法(2.2.10.1-1996)による40℃動粘度(cSt)が100以下が更に好ましく、30以下が最も好ましい。具体的には、多価不飽和脂肪酸(PUFA)含有油脂または中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)がより好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリドが最も好ましい。
ここで多価不飽和脂肪酸含有油脂とは、DHA,EPA,アラキドン酸,リノール酸の合計が、油脂構成脂肪酸中に50質量%以上含まれるものをいう。好ましくはこの条件に加えて更に、DHA,EPAの合計が10質量%以上含まれるものであり、より好ましくはDHAが10質量%以上含まれるものである。中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、油脂構成脂肪酸の90質量%以上がカプロン酸および/またはカプリル酸であるトリグリセリドである。
【0012】
また本油脂には、生理機能の付与の目的で以下に挙げる油溶性物質を加えることもできる。すなわち、カロテノイドおよびカロテノイド誘導体(例えば、α-カロテンまたはβ-カロテン、8’-アポ-β-カロテナール、8’-アポ-β-カロテン酸エステル)、フラボノイド、ウコン、アナトー、アントシアニン、タール色素といった色素類、ビタミンA、D、E、K、コエンザイムQ10ならびにそれらの誘導体(ビタミンAエステルやビタミンEエステル。例えば、ビタミンA酢酸エステルおよびビタミンAパルミチン酸エステルならびに酢酸トコフェロール)といった脂溶性ビタミン類、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、カンゾウ油抽出物、ゴマ油不けん化物、γ-オリザノール、ナタネ油抽出物、L-アスコルビン酸エステルといった抗酸化剤が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
(たん白素材)
本発明に用いるたん白素材は、加熱後の粘度が低いものが必要である。すなわち、たん白素材を粗蛋白質量が20質量%となる水溶液を調製し、80℃,30分の加熱の後、25℃にて粘度測定する事により測定できる。加熱後粘度は10,000mPa・s以下であり、好ましくは5,000mPa・s以下、1,000mPa・s以下、500mPa・s以下であり、更に好ましくは200mPa・s以下、100 mPa・s以下である。
また、本たん白素材は一定サイズの分子量が必要となる。分子量は、TCA可溶化率で定義される。本発明においてTCA可溶化率は、総粗蛋白質量に対する0.22M TCA中で溶解する粗蛋白質量の比率で定義される。TCA可溶化率は30~95%であり、好ましくは35~90%、更に好ましくは40~85%、50~80%である。TCA可溶化率が低すぎると加熱後粘度が増加する傾向となり適切ではない、また、透過率が低下する。一方、TCA可溶化率が高すぎると、乳化性に寄与する蛋白質量が低下し、たん白素材を多く配合する必要が生じるため、配合の自由度が低下し、好ましくない。
【0014】
本たん白素材は、蛋白質の溶解性の指標として用いられているNSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)が80以上のものであることが好ましい。より好ましくはNSIが85以上、90以上、95以上、又は97以上のものを用いることができる。たん白素材のNSIが高いことは、水への分散性が高いことを示し、本発明である水中油型乳化物の分散安定性に寄与し得る。NSIが低すぎると沈殿が生じやすくなり、好ましくない。また、たん白素材中の粗蛋白質含量についても、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が最も好ましい。粗蛋白質含量が多いたん白素材の方が、より少量で機能を出すことが可能となる。
このようなたん白素材は、従来は一般的に市販されていないものだったが、後述する変性および分子量調整処理等により得ることができるし、近年は市販品である、不二製油社製「MIRA-MAP2.0」として入手することもできる。また、市販の大豆たん白素材、例えばフジプロR、フジプロ748、フジプロCL、ハイニュートAM(以上、不二製油社製)等は、本要件に該当しない。
【0015】
上記の調製を行う対象のたん白素材の由来は特に限定されないが、植物性、動物性または微生物由来の蛋白質が使用できる。植物性蛋白質としては、大豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類、藻類、微細藻類などに由来する蛋白質が挙げられる。一例として大豆由来のたん白素材の場合、脱脂大豆や丸大豆等の大豆原料からさらに蛋白質を濃縮加工して調製されるものであり、一般には分離大豆たん白質、濃縮大豆たん白質や粉末豆乳、あるいはそれらを種々加工したものなどが概念的に包含される。
また、動物性の蛋白質としては、卵白アルブミンを含む卵蛋白質、カゼイン、乳清、ラクトアルブミン、ラクトグロブリンなどの乳蛋白質、血漿、血清アルブミン、脱色ヘモグロビンなどの血液に由来する蛋白質、畜肉に由来する蛋白質、魚介類に由来する蛋白質等が挙げられる。更に、酵母、カビ、細菌類等の微生物由来の蛋白質が利用できる。水への溶解性に劣る蛋白質であっても、後述する処理により、本発明に使用できるたん白素材を調製することができる。
【0016】
(変性および分子量調整処理)
本発明の水中油型乳化物に用いられるたん白素材は、蛋白質を分解及び/又は変性させる「分解/変性処理」と、蛋白質の分子量分布の調整する「分子量分布調整処理」を組み合わせて適用することにより得られる。上記「分解/変性処理」の例として、酵素処理、pH調整処理(例えば、酸処理、アルカリ処理)、変性剤処理、加熱処理、冷却処理、高圧処理、有機溶媒処理、ミネラル添加処理、超臨界処理、超音波処理、電気分解処理及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。上記「分子量分布調整処理」の例として、ろ過、ゲルろ過、クロマトグラフィー、遠心分離、電気泳動、透析及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。「分解/変性処理」と「分子量分布調整処理」の順序及び回数は特に限定されず、「分解/変性処理」を行ってから「分子量分布調整処理」を行ってもよいし、「分子量分布調整処理」を行ってから「分解/変性処理」を行ってもよいし、両処理を同時に行ってもよい。また、例えば2回以上の「分子量分布調整処理」の間に「分解/変性処理」を行う、2回以上の「分解/変性処理」の間に「分子量分布調整処理」を行う、各々複数回の処理を任意の順に行う、等も可能である。なお、「分解/変性処理」によって所望の分子量分布が得られる場合は、「分子量分布調整処理」を行わなくてもよい。これらの処理を組み合わせて、複数回行う際、原料から全ての処理を連続で行ってもよいし、時間をおいてから行ってもよい。例えば、ある処理を経た市販品を原料として他の処理を行ってもよい。なお、上記特性を満たす限り、分子量分布調整処理を経たたん白素材と、分子量分布調整処理を経ていないたん白素材を混合して、特定のたん白素材としてもよい。この場合、両者の比率(処理を経たたん白素材:処理を経ていないたん白素材)は上記特性を満たす範囲で適宜調整可能であるが、質量比で例えば1:99~99:1、例えば50:50~95:5、75:25~90:10等が挙げられる。ある実施形態では、本態様の水中油型乳化物に用いられるたん白素材は、「分解/変性・分子量分布調整処理」を経たたん白素材からなる。
【0017】
蛋白質を分解又は変性させる処理の条件、例えば酵素、pH、有機溶媒、ミネラル等の種類や濃度、温度、圧力、出力強度、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。酵素の場合、使用される酵素の例として、「金属プロテアーゼ」、「酸性プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼが挙げられる。反応温度は20~80℃、好ましくは40~60℃で反応を行うことができる。pH調整処理の場合、例えばpH2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12の任意の値を上限、下限とするpH範囲、例えばpH2~12の範囲で処理し得る。酸処理の場合、酸を添加する方法であっても、また、乳酸発酵などの発酵処理を行う方法であってもよい。添加する酸の例として、塩酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。また、レモンなどの果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト、醸造酢などの酸を含有する飲食品を用いて酸を添加してもよい。アルカリ処理の場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加し得る。変性剤処理の場合、塩酸グアニジン、尿素、アルギニン、PEG等の変性剤を添加し得る。加熱又は冷却処理の場合、加熱温度の例として、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃の任意の温度を上限、下限とする範囲、例えば60℃~150℃が挙げられる。冷却温度の例として、-10℃、-15℃、-20℃、-25℃、-30℃、-35℃、-40℃、-45℃、-50℃、-55℃、-60℃、-65℃、-70℃、-75℃の任意の温度を上限、下限とする範囲、例えば-10℃~-75℃が挙げられる。加熱又は冷却時間の例として、5秒、10秒、30秒、1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、120分、150分、180分、200分の任意の時間を上限、下限とする範囲、例えば5秒間~200分間が挙げられる。高圧処理の場合、圧力の条件の例として、100MPa、200MPa、300MPa、400MPa、500MPa、600MPa、700MPa、800MPa、900MPa、1,000MPaの任意の圧力を上限、下限とする範囲、例えば100MPa~1,000MPaが挙げられる。有機溶媒処理の場合、用いられる溶媒の例として、アルコールやケトン、例えばエタノールやアセトンが挙げられる。ミネラル添加処理の場合、用いられるミネラルの例として、カルシウム、マグネシウムなどの2価金属イオンが挙げられる。超臨界処理の場合、例えば、温度約30℃以上で約7MPa以上の超臨界状態の二酸化炭素を使用して処理できる。超音波処理の場合、例えば100KHz~2MHzの周波数で100~1,000Wの出力で照射して処理し得る。電気分解処理の場合、例えば蛋白質水溶液を100mV~1,000mVの電圧を印加することにより処理し得る。具体的な実施形態において、蛋白質を分解及び/又は変性させる処理は、変性剤処理、加熱処理、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0018】
蛋白質の分子量分布を調整する処理の条件、例えばろ材の種類、ゲルろ過の担体、遠心分離回転数、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。ろ材の例として、ろ紙、ろ布、ケイ藻土、セラミック、ガラス、メンブラン等が挙げられる。ゲルろ過の担体の例として、デキストラン、アガロース等が挙げられる。遠心分離の条件の例として、1,000~3,000×g、5~20分間等が挙げられる。
前述した油性素材と任意の割合で混合したものを、流通し使用することができる。
【0019】
(乳化剤)
本発明にて、前述したたん白素材以外にも、乳化剤を配合することができる。ここで乳化剤と称するものは、合成乳化剤や天然乳化剤を含む。具体的には、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリオキシエチレン誘導体、脂肪酸塩、加工デンプンといった合成乳化剤の他、レシチン、酵素分解レシチン、水素添加酵素分解レシチン、ヒドロキシレシチン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、アセチル化レシチンといった天然由来のレシチン類およびこれらを化学的あるいは酵素処理することで得られたレシチンの誘導体、ダイズサポニンやキラヤサポニン等の天然由来のサポニン類等が挙げられる。また、前述したたん白素材の要件に合致しない蛋白質類、例えば、本発明の処理を行っていない乳カゼインやラクトアルブミン等も、乳化性を有するものは乳化剤に含まれるものとする。例えば、水相および油相に、それぞれに溶解する各種の乳化剤を添加することも可能である。
【0020】
(水中油型乳化物の配合比率)
ここから水中油型乳化物について説明する。油脂とたん白素材と水の合計を100質量%とした際に、油脂の含量は50~90質量%、好ましくは60~85質量%、更に好ましくは70~80質量%である。少なすぎると本発明の意義を満たさず、多すぎると生地の成型及び乾燥により形状が崩壊する。
たん白素材は0.5~10質量%であり、好ましくは1~7質量%、更に好ましくは1.5~5質量%、最も好ましくは2~4質量%である。少なすぎると油脂が生地中に留まらず、生地成型が不良となる。多すぎると、相対的に油脂配合量が減じ、また、たん白素材特有の風味の影響が大きい。
水は8~30質量%、好ましくは10~25質量%、更に好ましくは15~20質量%である。少なすぎると生地が硬くなり、成型が困難となる。多すぎると、生地が柔らかすぎ、成型が困難となるばかりか、乾燥工程で散佚してしまう。
【0021】
油脂、たん白素材以外にも、本発明に影響の出ない範囲で種々の物質を加えることが可能であり、以下に例示する。
糖類、栄養成分(アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル等)、塩類、呈味成分(塩味、うま味等を含む)、果汁(濃縮物を含む)、果肉、野菜、野菜汁(濃縮物を含む)、ピューレ、エキス、甘味料、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、ネオテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ソーマチン、ステビア、グリチルリチン、モネリン、アリテーム、グリチルリチン酸二ナトリウム等)、苦味料(イソ-α酸、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ等)、酸味料、着色料(ベニバナ黄色素、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素等)、食品添加物(食物繊維、賦形剤、pH調整剤、保存料、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンE、抽出トコフェロール等)、増粘剤、安定化剤、糊料等)、医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤、等が挙げられる。
特に糖類として、各種の少糖類や多糖類を添加することができる。具体的には、各種のオリゴ糖やデキストリン等の、小~中分子量の糖類、澱粉等の多糖類、およびアラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖理等をあげることができるが、自身に乳化性を有するアラビアガムが特に好ましい。
【0022】
(混合・均質化)
以下、調製方法について説明する。水相部については、上記特定のたん白素材の水溶液を作成することで調製できる。必要に応じて水溶液に他の原料を添加してもよいし、しなくてもよい。水溶液中のたん白素材の濃度は特に限定されず、例えば1~40%、2~35%、3~30%、4~20%、5~15%、6~10%が挙げられる。また、上記たん白素材を用いずに水相部を調製してもよい。水相部のpHは特に限定されず、pH調整を行わなくてもよいし、酸又はアルカリの添加により調整を行ってもよい。水相部のpHの例として、3~10、4~6.5、7~9が挙げられる。水相部の調製温度は特に限定されず、例えば室温でもよい。より具体的な実施形態では、加熱により溶解性が向上する親水性乳化剤や炭水化物などを含む場合は、例えば20~70℃、好ましくは55~65℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製できる。水相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、塩類や水溶性の香料等を加える場合には、水相部に添加する。
【0023】
油相部については、油脂のみで調製してもよいし、油脂に油溶性の材料を混合して、例えば50~80℃、好ましくは55~70℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製してもよい。さらに、油相部にたん白素材を分散させてもよい。油相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、親油性乳化剤や親油性の香料等を用いる場合には、原料油脂の一部又は全部に添加してもよい。
【0024】
得られた油相部と水相部は、例えば40~80℃、好ましくは55~70℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化はホモミキサー等の回転式攪拌機を用いて行うことができる。予備乳化後、均質化装置にて均質化する。又は、予備乳化なしで全ての原料を混合して均質化装置にて均質化しても良い。より具体的な実施形態では、予備乳化及び/又は均質化を複数回行ってもよい。さらに具体的な実施形態では、水相の全部又は一部と油相の一部を混合して予備乳化し、残りの原料を加えて均質化してもよく、水相の一部と油相の全部又は一部を混合して予備乳化し、残りの原料を加えて均質化してもよく、またこれらの工程を繰り返してもよい。
均質化装置の例として、ホモミキサー;高圧ホモジナイザー;コロイドミル;超音波乳化機;アジテーターとホモミキサーの両機能を備えたアジホモミキサー;サイレントカッターやステファンクッカーなどのカッター刃ミキサー;エクストルーダーやエマルダーなどのローター・ステーター型インラインミキサーが挙げられるが、本発明で調製する乳化物は、高粘性の生地となるため、カッター刃ミキサーが好適に用いる事ができる。
得られた生地に気泡が多く含まれる場合は、フライ工程で散佚してしまうため、必要に応じ、減圧或いは遠心法により、脱泡を行う。
【0025】
以上の操作により、水中油型乳化物を得ることができる。連続相は水相であるが、水相より多量の油相が分散相として存在する、保形性を有した乳化物である。以下の乾燥操作により、本発明の油脂含有固型食品が得られる。
【0026】
(乾燥)
上記で得られた水中油型乳化物は、その後に乾燥を行う。乾燥方法は公知の方法でよく、例えば加熱乾燥、通風乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。乾燥温度は特に限定されないが、150℃以下が好ましく、120℃以下が更に好ましく、100℃以下が最も好ましい。例えば40~90℃、45~80℃、50~70℃、55~65℃が挙げられる。乾燥時間は特に限定されないが、1時間~72時間、5時間~48時間、10時間~24時間が挙げられる。具体的な乾燥装置として、連続式の熱風乾燥装置やマイクロ波乾燥装置等が例示できる。
また、本発明はフライによる乾燥も有効である。フライには常圧環境で行う場合と、減圧環境で行う場合があるが、前者の場合は110℃~220℃が好ましく、120℃~200℃が更に好ましく、130℃~190℃が最も好ましい。後者の場合は、60℃~140℃が好ましく、80℃~120℃が更に好ましい。
加熱時間は、前者が数秒間~数分間、後者が数分間~数十分間が例示できる。温度,圧力等から適宜選択する。減圧環境で行うフライ(減圧フライ)は、極端な膨化が抑制され、強度を有した固型食品が得られることから、本発明に最適である。
減圧フライは、急激な蒸発を抑えながら脱水が起こるために、減圧フライを行った本発明品の内部構造には、気泡由来の数mm~数十mmの穴や層状構造等が少ない一方、微細な油滴由来の5μm以下の、好ましくは0.5~3μmの細孔を多く有するものとなる。
【0027】
フライに使用する油脂は、融点が25℃以上の所謂固形脂が好ましく、25℃のSFCが40%以上の物が更に好ましい。固形脂は一般的に、ヨウ素価が低く、酸化安定性が高い。食品の外層に位置する油脂は酸化安定性が高い方が、風味の維持の観点で好適である。また、常温で喫食する際に、外層に位置する油脂の融点が高い方が、容器や手への付着が少なく、好ましい。ただし、食品全ての油脂が固形脂である場合は、口融けを始めとし、食感が著しく劣り、栄養機能も期待できない。融点は55℃以下が好ましく、50℃以下が更に好ましく、45℃以下が最も好ましい。
【0028】
尚、フライ操作により、油脂含有固型食品中の油脂は、フライ油に一部置換され、またフライ油が固型食品に付加される。特に前者の置換の場合は、乳化物調製時の油脂が減少してしまうので、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは多価不飽和脂肪酸含有油脂等の機能性の油脂場合、フライ作業時には置換が行われ過ぎない様に考慮することが望ましい。フライ後でも油脂含有固型食品中の油脂中に70質量%以上が維持されることが好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。後者の付加の場合も、固型食品中の油脂の物性が変化する可能性があり、フライ作業時に考慮することが望ましい。
具体的には、原料に中鎖脂肪酸トリグリセリドを使用した場合、固形食品の油脂中の中鎖トリグリセリドは30質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であること更に好ましく、80質量%以上あることが最も好ましい。多価不飽和脂肪酸含有油脂を使用した場合は、固型食品の油脂中の構成脂肪酸のうち、多価不飽和脂肪酸であるDHA,EPA,アラキドン酸およびリノール酸の各脂肪酸の合計が10質量%以上であることが好ましく、DHAおよびEPAの各脂肪酸の合計が10質量%以上であることがより好ましく、DHA脂肪酸が10質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上あることが最も好ましい。
【0029】
(固型食品)
以上の操作で得られた固形食品は、水分を5質量%以下含むものが好ましく、3質量%以下含むものが更に好ましい。また、25℃での固体脂含量が50%以下の油脂を50~98質量%、好ましくは60~95質量%、更に好ましくは70~93質量%含む固型食品である。その形状は縦横高さ方向の何れもが3mm以上の大きさを有したものである。好ましくは4mm以上であり、更に好ましくは5mm以上である。小さいと、これ自体を主たる食品として摂取することが難しくなる。大きいほど食品として利用できる範囲が広がる一方で、乾燥工程に影響を及ぼすこともある。好ましくは縦横高さ方向の何れもが50mm以下であり、更に好ましくは20mm以下である。乾燥方法によって最適な大きさを設定することができる。
【0030】
(応用)
本発明の固型食品は、そのまま摂取しても良いが、種々の着味を行うことで、前述した油脂や油脂に溶解した機能成分をより積極的に摂取することが可能となる。着味の例としては、一般的な食塩やグルタミン酸、酵母エキス等に加え、チーズ、カツオ等の動物性のものや、ナッツ類、胡麻やきな粉等の豆類、香辛料・ハーブ類等の植物性のものを挙げることができる。
着味に用いる物質は、予め水中油型乳化物の調製時に配合しておくことが好ましいが、乾燥後にスプレー等により着味を行うこともできる。
【0031】
本発明の食品およびその原料については、以下の手順にてその評価を行う。
<固体脂含量(SFC値)>
サンプルより、ヘキサンを用い、油脂を抽出し、ヘキサンを除き抽出油を得る。抽出油を用いSFCを測定する。SFCは、IUPAC.2 150(a) SOLID CONTENT DETERMINATION IN FATS BY NMRに準じて測定する。
<水分>
常圧加熱減量法(105℃,12時間)にて、乾燥減量を求め、水分とする。
<脂質>
エーテル抽出法により、乾燥重量あたりの脂質含量を測定する。乾燥重量あたりの脂質含量を固形分含量(1から乾燥減量を差し引いたもの)を乗じて、サンプルの脂質含量とする。なお、本測定はソックスレー(フォス・ジャパン株式社製)を用いて実施する。
<MCT含量及びDHA含量>
脂肪酸メチルエステルとしてガスクロマトグラフ法により測定する。
【0032】
<粗蛋白質含量>
ケルダール法により測定する。具体的には、たん白素材重量に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中の粗蛋白質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0033】
<NSI>
試料3gに60mlの水を加え、37℃で1時間プロペラ攪拌した後、1,400×gにて10分間遠心分離し、上澄み液(I)を採取する。次に、残った沈殿に再度水100mlを加え、再度37℃で1時間プロペラ撹拌した後、遠心分離し、上澄み液(II)を採取する。(I)液及び(II)液を合わせ、その混合液に水を加えて250mlとする。これをろ紙(No.5)にてろ過した後、ろ液中の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素量(水溶性窒素)の試料中の全窒素量に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0034】
<TCA可溶率>
たん白素材の2質量%水溶液に、0.44M トリクロロ酢酸(TCA)を等量加え、0.22M TCA溶液とし、可溶性窒素の割合をケルダール法により測定した値とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0035】
<粘度(加熱後粘度)>
たん白素材の粘度は、B型粘度計(東機産業社製、タイプBM)を用い測定する。粗蛋白質量が20質量%となるようにたん白素材水溶液を調製し、測定容器に充填、ロータをセットし、密閉の後、湯浴中にて80℃,30分間の加熱を行う。次いで、25℃にて、任意の回転数で測定し、指針値を読み取り、ロータNo.と回転数に対応した換算乗数を掛けて、粘度を算出する。(単位:Pa・s)1分後の測定値とする。基本的に回転数は60rpmとする。高粘度のサンプルはロータNo.を1→4とし、6rpmまで回転数を低下させる。尚、本測定の測定上限粘度は100,000mPa・sとなる。ロータNo.4と回転数6rpmで測定レンジを超過する場合は、即時に加熱後粘度は100,000mPa・s以上と判定する。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。以下に記載の部または%は、特に記載のない場合は、それぞれ質量部または質量%とする。
【0037】
(たん白素材)
蛋白素材として以下を用いた。
○大豆たん白素材A:
分離大豆タンパク質の分解/変性・分子量分布調整処理品。(不二製油株式会社テスト製造品、水分 1.2%、粗蛋白含量 79.3%、TCA可溶化率 61.8%、加熱後粘度 28mPa・s、NSI 98.1)原料 分離大豆タンパク質:フジプロR(不二製油社製、粗蛋白質含量 87.2%、TCA可溶化率 3.2%)
○エンドウたん白素材A:
エンドウタンパク質の分解/変性・分子量分布調整処理品。(不二製油株式会社テスト製造品、水分 1.1%、粗蛋白含量 72.4%、TCA可溶化率 45.9%、加熱後粘度 43mPa・s、NSI 98.9)原料 エンドウタンパク質:PP-CS(オルガノフードテック(株)社製、粗蛋白質含量 79.1%)
○乳清たん白素材A:
乳清タンパク質の分解/変性処理品(不二製油株式会社テスト製造品、水分 1.1%、粗蛋白含量 56.8%、TCA可溶化率 58.2%、加熱後粘度 145mPa・s、NSI 99.6)原料 乳清たん白:WPC80(Warrnambool Cheese & Butter Pty Lftd.社製、粗蛋白質含量 78.9%)
○大豆たん白素材B:
フジプロR(不二製油社製)を用いた。
【0038】
(配合検討)
表1の配合にて、水中油型乳化物を調製した。尚、油脂は油脂A:MCT64(不二製油製 SFC(25℃)=0%、40℃動粘度(Cst)14.9)、および油脂B:Algal oil(BASF製,DHA含量 38.5%・SFC(25℃)=2.1%、40℃動粘度(Cst)56.3)を用いた。油脂以外には、アラビアガム(スパスタブAA・Nexira製)、コンソメパウダー(コンソメ・味の素製)、鰹出汁パウダー(ほんだし・味の素製)、チーズパウダー(クラフトパルメザンチーズ・森永乳業製)、野菜ブイヨン(野菜ブイヨン・創健社製)を用いた。フライ油として、ニューメラリン38(不二製油製・SFC(25℃)=62.9%)を用いた。
各たん白素材、アラビアガム、調味材および水、必要により塩を、表1の配合にて65℃の温度を有する水中に溶解させ、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ)に添加して、撹拌しながら油脂を徐々に添加し、硬いペースト状の生地である、水中油型乳化物を調製した。5kPa,2分にて減圧脱泡を行った。
得られた生地状の水中油型乳化物を絞り袋からφ20mmの口金を用い押し出し、5mm毎にカットする事で、直径20mm×5mmのコイン状に成形した。この成形物を100℃にて,5kPa,15分間フライ処理を行い、乾燥物を得た。更に、得られた乾燥物を60℃のオーブンに1時間静置して、試料高を確認した。
【0039】
【0040】
(評価項目)
<乳化性>
規定量の油脂を添加しても乳化が維持され、その後に成型および乾燥の操作が行えたものを乳化性「あり」とし、乳化が維持できなかったものを「離油」とした。離油した試料については、その後の操作を行わなかった。
<保形性>
最短辺が3mm以上、最長辺が20mm以下となる様に加工し乾燥した試料を、60℃に調温したオーブンに1時間静置した。静置の前後で試料高の変化が認められなかったものを、保形性ありと評価した。
<食感>
乾燥後の試料の食感について、○軽快感強く、噛み出しの硬さが適切、△軽快感あり、やや柔らかい、×非常に硬く不適切、と評価した。
【0041】
(評価)
大豆たん白素材Aを用いた試料(実施例1~4)は何れもゾル状の生地である乳化物が調製され、これを減圧フライすることで、油脂含有固型食品が得られた。これらは何れも60℃で保形性を有するもので、軽快感強く、噛み出し時に適度な硬さを有し、口溶けが良く、舌触りが滑らかなものであった。比較例1および比較例2は、油が分離し規定量の油脂を有した乳化物が調製できなかった為に、その後の成型やフライ処理が行えなかった。比較例3は乳化物が調製可能で、フライ処理も行えたが、得られたフライは非常に硬く、食品として不適切だった。
【0042】
(他原料の検討)
表2の配合にて、実施例1と同様な操作にて水中油型乳化物を調製し、減圧下でフライを調製した。たん白素材Aと同様な特徴を有したたん白素材である、エンドウたん白素材A、または乳清たん白素材Aでも、大豆たん白素材A(実施例1)の場合と同様に、60℃の保形性と、軽快感を持った良好な食感を有した食品が得られた。
【0043】
【0044】
(常圧フライの例)
実施例1と同様の配合にて、水中油型乳化物を調製した。この物を常圧下180℃で2分間フライ処理を行い、乾燥物を得た。更に、得られた乾燥物を60℃のオーブンに1時間静置して、試料高を確認した。得られた食品は60℃での保形性を有し、実施例1の減圧フライに近い性状を示したが、やや多孔質で柔らかい、軽快感を持った食感を有していた。
【0045】
(SEM観察)
減圧フライと常圧フライのSEM観察を比較すると(
図1)、5kPa(左図)では、目立った気泡が認められず、割断面は滑らかな構造であった。一方、常圧(右図)では、気泡由来の数mmの孔を多数有する多孔質構造を有していた。多くの気泡に由来する構造変化により、割断面は凹凸の多い構造であった。
減圧フライの割断面を拡大すると(
図2)、乳化物の油相が1~3μm前後の粒径にて存在していることが判った。何れの観察も、試料を裂き、割断面の内部構造をSEM「TM-1000」Miniscope(日立ハイテク製)で観察した。
【0046】
(各種調味材の検討)
表3の配合にて、実施例1と同様な操作にて水中油型乳化物を調製し、減圧下でフライを調製した。それぞれの調味材について、良好な物性及び食感を確認できた。
【0047】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって新規な油脂含有固型食品を提供することで、DHAやMCT等の健康に有益な油脂類を、容易に大量に摂取することができる様になり、これらの産業に貢献できる。