(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ガウン及びガウンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
A41D13/12 190
(21)【出願番号】P 2020211640
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2020157996
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517318333
【氏名又は名称】株式会社テイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100202120
【氏名又は名称】丸山 修
(72)【発明者】
【氏名】大橋嘉造
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084541(JP,A)
【文献】実開平03-006412(JP,U)
【文献】登録実用新案第3143595(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0318682(US,A1)
【文献】登録実用新案第3060709(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚のシートから形成されるガウンであって、前記ガウンは、上身頃前部と、前記上身頃前部の上端から下方に延伸する上身頃後部と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部の上端部に設けられた首挿通孔と、
前記上身頃前部及び前記上身頃後部の両側から左右に延設する筒状の袖部と、前記上身頃前部から下方に延伸する下身頃と
、を備え、
前記シートは、前記上身頃後部からなる領域、前記上身頃後部からなる領域から下方に延設する前記上身頃前部からなる領域、前記上身頃前部及び前記上身頃後部からなる領域から左右に延設する袖部からなる領域、前記上身頃前部からなる領域から下方に延設する前記下身頃からなる領域を有し、
前記ガウンは、前記シートの前記上身頃前部からなる領域と前記上身頃後部からなる領域の境界に沿って、前記袖部からなる領域及び前記上身頃後部からなる領域が折り返され、折り返された前記袖部からなる領域の上端部を前記袖部からなる領域の下端部に、折り返された前記上身頃後部からなる領域の上端部を前記上身頃前部からなる領域の下端部に、連続的に縫合又は溶着された固着部と、
前記上身頃後部の前記固着部の上方に前記上身頃後部の下端部に沿って部分切断で開口可能に形成された上半身挿通孔と、
前記下身頃の左右方向両側に、部分切断で切り離し可能に形成された腰紐部と、
を更に備えることを特徴とするガウン。
【請求項2】
前記ガウンを着用した場合の身体へ向けられる面に
包装袋を兼ねた収納袋を備えることを特徴とする
請求項1に記載のガウン。
【請求項3】
前記首挿通孔から前記上身頃後部の前記上半身挿通孔までの間を部分切断で切り離し可能に形成された破断ラインを備えることを特徴とする
請求項1又は2のいずれかに記載のガウン。
【請求項4】
前記下身頃の下端に沿って前記下身頃の下部を部分切断で切り離し可能に形成された切捨部を備えることを特徴とする請求項1に記載のガウン。
【請求項5】
前記袖部に袖先とは別個に親指用孔を備えることを特徴とする
請求項1ないし4のいずれかに記載のガウン。
【請求項6】
請求項1の1枚のシートから形成されるガウンの製造方法であって、前記上身頃後部からなる領域、前記上身頃後部からなる領域から下方に延設する前記上身頃前部からなる領域と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部からなる領域の中央の位置に設けられた前記首挿通孔と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部からなる領域から左右に延設する前記袖部からなる領域と、前記上身頃前部からなる領域から下方に延設する前記下身頃からなる領域と、を備えるシート片を裁断するステップと、
前記シート片の前記上身頃後部からなる領域の上端部に沿って、前記上半身挿通孔を部分切断で開口可能に形成するステップと、
前記下身頃の左右方向両側に、前記腰紐部を部分切断で切り離し可能に形成するステップと、
前記上身頃前部からなる領域と前記上身頃後部からなる領域の境界に沿って、前記袖部からなる領域及び前記上身頃後部からなる領域を折り返すステップと、
折り返された前記袖部からなる領域の上端部を前記袖部からなる領域の下端部に、折り返された前記上身頃後部からなる領域の上端部を前記上身頃前部からなる領域の下端部に、連続的に縫合又は溶着して固着するステップと、
を備えることを特徴とするガウンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガウンに関する。特に、医療・介護用の使い捨てガウンに適したものである。
【背景技術】
【0002】
医療・介護従事者のみならず患者や来訪者を感染性物質から保護する防護具として、医療・介護用の個人防護具が知られる。感染症対策において、個人防護具の使用は、感染経路を遮断するための有効な手段である。医療・介護用の個人防護具は、緊急搬送された出血を伴う患者の処置、嘔吐物を伴うような患者の処置等の際に使用されるものであり、患者と医療・介護従事者間、患者相互間で生じる感染の防止を目的としたものである。個人防護具は、感染症対策のため使い捨てが前提であることから低コストで大量に生産できること、身体を十分に覆うことができる形状であること、迅速な着用と脱ぎ棄てができること、安全に廃棄できることが必要となる。
【0003】
特許文献1に記載の考案は、首挿通用孔と前掛け面を有し、且つ腰紐を前記前掛け面の中央部左右両側から延設させたエプロン本体に、前記前掛け面の上方部左右両側に筒状袖部の前側袖繰りを連接し、後側袖繰りを非連接としたものであることを特徴とする医療用使い捨てエプロンを開示する。簡便に素早く着用でき、且つ低コストの医療用エプロンを提供できるとする。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、着用者の前面を覆う前面部と、前記前面部とともに筒状の袖部を形成するために前記前面部の上端から下方に向かって前記前面部よりも短く延びている背面部と、前記前面部と前記背面部との上端部に設けられた首通し孔とを備えたエプロンにおいて、エプロンの折り畳み方を工夫した医療用のエプロンを開示する。使用に際してたたまれている状態から広げるときに要する時間を極力短縮することができるエプロンを提供できるとする。
【0005】
特許文献3に記載の発明は、1枚のシートを切断して形成したエプロンであって、身体の両肩から首回りを覆う上部シート部と、胸から腰を覆う前面シート部と、前面シート部の上端部の両側に設けられた腰紐部とを具備し、前記上部シート部には、中央部に開口又は切れ目からなる首通し部が形成され、左右両側に開口又は切れ目からなる腕通し部が形成されたエプロンを開示する。フィルムの切断だけで製造でき、たるみがなく体にフィットして着用でき、腕の動きも阻害されないエプロンを提供できるとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】登録実用新案第3061734号公報
【文献】特開第2014-008541号号公報
【文献】特開第2017-008462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
個人防護具の製造は、材料の調達、裁断型入れ工程、自動裁断工程、縫合/溶着工程、検査工程、折り畳み・包装工程とからなる流れ作業である。低コストで大量に生産するためには、工程全体の効率が低下しないよう、いずれの工程も滞りが発生しないことが求められ、個人防護具は、これらの要請に適した構造であるとともに、求められる性能を備える必要がある。
【0008】
低コストで大量に生産するためには、第1に、構成パーツの少ない製品とする必要がある。構成パーツが多ければ、材料の調達に手間がかかり、工程全体の効率が低下するからである。
【0009】
第2に、工程全体の効率が落ちないよう、どの生産工程も単位時間当たりの生産数量を等しくする必要がある。
【0010】
第3に、生産の機械化が可能なように製品の構造を単純にする必要がある。
【0011】
第4に、身体を十分に覆うことができる形状であり、迅速な着用と脱ぎ棄て、更には安全な廃棄が可能な製品である必要がある。
【0012】
生産工程の中で、機械化が困難な工程は、縫合/溶着工程と折り畳み工程である。これらの工程は、作業手順が複雑なため機械化が困難で、多くの人手を投入することで生産数量の増大に対応してきた。このため、生産数量の増大が必ずしも生産コストの低減には結びつかなかった。
【0013】
医療・介護用防護具を低コストで大量に生産するためには、医療・介護用防護具の縫合/溶着工程、折り畳み工程における作業手順を単純化できる構造にする必要がある。縫合/溶着工程における作業手順の単純化には、縫合(溶着)箇所の形状を単純にし、縫合(溶着)箇所数を減らした製品が求められる。また、折り畳み工程における作業手順の単純化には、製品の各パーツが本体から分離されることなく本体と一体に形成された製品が求められる。
【0014】
特許文献1の医療用エプロンは、筒状袖部の前側袖繰りを連接し、後側袖繰りを非連接としたものであるため、縫製(溶着)工程において左右の袖部をエプロン本体に連接する必要があり、縫合又は溶着箇所が2か所ある。また、腰紐が前掛け面から分離しているため、製品を折り畳む際に、腰紐をエプロン本体と一体として扱えないため、折り畳み工程の生産効率を高くすることが困難であった。
【0015】
特許文献2の医療用エプロンは、1枚のシートを裁断してシート片を折り返すことにより、身頃部と筒状の袖部を形成することができるが、袖部を筒状に形成するために左右の袖部の下端を別々に2か所縫合又は溶着する必要がある。また、腰紐が前掛け面から分離しているため、腰紐をエプロン本体と一体として扱えないため、折り畳み工程で生産効率を高くすることが困難であった。
【0016】
特許文献3の医療用エプロンは、1枚のシートを裁断して形成したエプロンであるため、縫合又は溶着する必要はないが、腰紐が前掛け面から分離しているため、折り畳みの際に、腰紐をエプロン本体と一体として扱えず、折り畳み工程で生産効率を高く維持することが困難であった。また、エプロンは袖部がないため、袖部を有するガウンと比べると飛散リスクが広範囲に及ぶ場合には、汚染から医療・介護従事者や患者を守るには不十分なものであった。
【0017】
そこで、本発明は、低コストで大量に生産が可能であり、身体を十分に覆うことができ、迅速な着脱と、安全な廃棄が可能な医療・介護に適した使い捨てガウンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、1枚のシートから形成されるガウンであって、前記ガウンは、上身頃前部と、前記上身頃前部の上端から下方に延伸する上身頃後部と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部の上端部に設けられた首挿通孔と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部の両側から左右に延設する筒状の袖部と、前記上身頃前部から下方に延伸する下身頃と、を備え、前記シートは、前記上身頃後部からなる領域、前記上身頃後部からなる領域から下方に延設する前記上身頃前部からなる領域、前記上身頃前部及び前記上身頃後部からなる領域から左右に延設する袖部からなる領域、前記上身頃前部からなる領域から下方に延設する前記下身頃からなる領域を有し、前記ガウンは、前記シートの前記上身頃前部からなる領域と前記上身頃後部からなる領域の境界に沿って、前記袖部からなる領域及び前記上身頃後部からなる領域が折り返され、折り返された前記袖部からなる領域の上端部を前記袖部からなる領域の下端部に、折り返された前記上身頃後部からなる領域の上端部を前記上身頃前部からなる領域の下端部に、連続的に縫合又は溶着された固着部と、前記上身頃後部の前記固着部の上方に前記上身頃後部の下端部に沿って部分切断で開口可能に形成された上半身挿通孔と、前記下身頃の左右方向両側に、部分切断で切り離し可能に形成された腰紐部と、を更に備えることを特徴とする。
【0019】
「上身頃前部」は、身体の上半身正面を覆うガウンの部分である。
【0020】
「上身頃後部」は、身体の上半身背面を覆うガウンの部分である。
【0021】
「部分切断」は、切残し部がある切断部の構造である。
【0022】
削除
【0023】
請求項2に記載の発明は、前記ガウンを着用した場合の身体へ向けられる面に包装袋を兼ねた収納袋を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の発明は、前記首挿通孔から前記上身頃後部の前記上半身挿通孔までの間を部分切断で切り離し可能に形成された破断ラインを備えることを特徴とする。
【0025】
請求項4に記載の発明は、前記下身頃の下端に沿って前記下身頃の下部を部分切断で切り離し可能に形成された切捨部を備えることを特徴とする。
【0026】
請求項5に記載の発明は、前記袖部に袖先とは別個に親指用孔を備えることを特徴とする。
【0027】
請求項6に記載の発明は、請求項1の1枚のシートから形成されるガウンの製造方法であって、前記上身頃後部からなる領域、前記上身頃後部からなる領域から下方に延設する前記上身頃前部からなる領域と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部からなる領域の中央の位置に設けられた前記首挿通孔と、前記上身頃前部及び前記上身頃後部からなる領域から左右に延設する前記袖部からなる領域と、前記上身頃前部からなる領域から下方に延設する前記下身頃からなる領域と、を備えるシート片を裁断するステップと、前記シート片の前記上身頃後部からなる領域の上端部に沿って、前記上半身挿通孔を部分切断で開口可能に形成するステップと、前記下身頃の左右方向両側に、前記腰紐部を部分切断で切り離し可能に形成するステップと、前記上身頃前部からなる領域と前記上身頃後部からなる領域の境界に沿って、前記袖部からなる領域及び前記上身頃後部からなる領域を折り返すステップと、折り返された前記袖部からなる領域の上端部を前記袖部からなる領域の下端部に、折り返された前記上身頃後部からなる領域の上端部を前記上身頃前部からなる領域の下端部に、連続的に縫合又は溶着して固着するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、シート片を折り返して前記袖部及び前記上身頃を形成する際に、前記袖部と、前記上身頃前部と、前記上身頃後部とを、前記袖部の下端部と前記上身頃後部の下端部において連続して1か所のみで縫合又は溶着(以下、「縫合/溶着」ともいう。)して固着することで形成できる。また、腰紐部を本体と一体に部分切断で切り離し可能に形成できる。
【0029】
削除
【0030】
請求項2の発明によれば、汚染したガウンを収納して安全に廃棄できる。
【0031】
請求項3の発明によれば、前記上身頃後部に部分切断で形成された破断ラインにより、医療・介護用ガウンを脱ぐ際に、ガウンの前記上身頃前部を下方に引っ張ることにより、破断ラインからガウンが容易に破れ、迅速に脱ぐことができる。
【0032】
請求項4の発明によれば、着用者の身長に合わせてガウンの丈を調整することができる。
【0033】
請求項5の発明によれば、ガウンを裏返すことが容易になり、汚染されたガウンの表面に触れることなくガウンを脱ぐことができ、また、作業時には袖部がたくし上がることを防ぎ、更にはガウン着用後の手袋の着脱にも便利である。
【0034】
請求項6の発明によれば、生産性の高いガウンを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態1のガウンを着用した後方から見た斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1のガウンの展開図である。
【
図3】本発明の実施形態1のガウンの正面図である。
【
図4】本発明の実施形態1のガウンの背面図である。
【
図5】本発明の実施形態1のガウンの左側面図である。
【
図6】本発明の実施形態1のガウンの平面図である。
【
図7】本発明の実施形態1のガウンの底面図である。
【
図8】本発明の実施形態2のガウンを着用した後方から見た斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態2のガウンの展開図である。
【
図10】本発明の実施形態2のガウンの正面図である。
【
図11】本発明の実施形態2のガウンの背面図である。
【
図12】本発明の実施形態3のガウンの背面図である。
【
図13】本発明の実施形態3のガウンを脱衣後、収納袋に収納した様子を示す参考写真である。
【
図14】本発明の実施形態3のガウンが包装が開封されて展開された参考写真である。
【
図15】本発明の実施形態3のガウンが包装された様子を示す参考写真である。
【
図16】本発明の実施形態3のガウンが折り畳まれた状態から包装される様子を示す参考写真である。
【
図17】本発明の実施形態4のガウンの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0037】
(実施形態1)
図1に示すとおり、実施形態1のガウン1は、患者などから曝露される湿性生体物質による飛散リスクが広範囲に及ぶ汚染から医療・介護従事者や患者を守るための袖を有する医療・介護用防護具である。
【0038】
図1~
図4に示すとおり、ガウン1は、上身頃前部2と、上身頃前部2の上端から下方に延伸する上身頃後部3と、上身頃前部2及び上身頃後部3の上端部に設けられた首挿通孔4と、上身頃前部2及び上身頃後部3から左右に延設する筒状の袖部5と、上身頃前部2から下方に延伸する下身頃6とを備えたガウン1において、袖部5と、上身頃前部2と、上身頃後部3とが、袖部5の下端部7a、7bと上身頃後部の下端部8において連続して一体に縫合/溶着された固着部9と、上身頃後部3の固着部9の上方に上身頃後部3の下端部8に沿って部分切断で形成された上半身挿通孔10と、下身頃6の左右方向両側に、下身頃6の上側に紐幅分の長さを残して部分切断111で切り離し可能に形成された腰紐部11と、を更に備える。
【0039】
図2に示すとおり、ガウン1を構成するすべてのパーツは、1枚のシート片101からなる。シート片101の上半分には、中央に、上から順に上身頃後部3、上身頃前部2が配置され、上身頃後部3及び上身頃前部2の左右に袖部5が配置され、シート片101の上身頃後部3側の辺に沿って部分切断で上半身挿通孔10が形成され、上身頃後部3及び上身頃前部2の中央に首挿通孔4が形成される。首挿通孔4は、開口でも、切れ目でもよい(図示せず)。
【0040】
シート片101の下半分には、上身頃前部2から下方に延伸する下身頃6が配置され、下身頃6の左右方向両側に、下身頃6の上側に紐幅分の長さを残して部分切断111で切り離し可能に腰紐部11が形成される。
【0041】
図2に示される左右の袖部5の下端部7aが下端部7bに重なるようにシート片101を上下に折り返すことにより、
図3、
図4に示すとおり、袖部5、上身頃前部2及び上身頃後部3が筒状に形成され、折り返された上身頃前部2及び上身頃後部3の上端の中央に首挿通孔4が配置される。
【0042】
図3、
図4に示すとおり、固着部9は、折り返された左右の袖部5の下端部7a、7b、上身頃前部2及び上身頃後部3を一体に連続して縫合/溶着して固定する。
【0043】
上述のとおり、ガウン1は、縫合/溶着工程で、左右の袖部5の下端部7aが下端部7bに重なるようにシート片101が上下に折り返され、左右の袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2及び上身頃後部3の下端部8を1か所のみで、連続して縫合/溶着される構造である(
図3、
図4)。このため、従来のように、左右の袖部5を別々に縫合/溶着する必要がないため、作業工数を減らすことができ、コスト低減が図られる。また、折り返した箇所を1か所のみで連続して縫合/溶着すればよいため、作業を単純化でき機械化が容易な構造である。
【0044】
ガウン1の素材は、ナイロン不織布を例示できるが、これに限定されない。通気性、防水性などの機能を考慮して各種素材を選択できる。
【0045】
(従来問題の解決)
医療・介護用防護具の製造は、材料の調達、裁断型入れ工程、自動裁断工程、縫合/溶着工程、検査工程、折り畳み・包装工程とからなる。生産の各工程の一部に遅延があると全体の遅延が発生することになる。生産の効率化のためには、生産工程の機械化が望ましいが、CADなどを使用した機械化が進んでいるのは、裁断型入れ工程や、自動裁断工程で、縫合/溶着工程や折り畳み・包装工程は、手作業が主になっている。
【0046】
縫合/溶着工程は、縫合/溶着箇所数が少ないほど生産効率が高くなるとともに、縫合/溶着箇所の形状が単純であるほど機械化が容易となり、生産効率が高くなる。
【0047】
図2、
図3、
図4に示すように、ガウン1の製造工程のうち縫合/溶着工程は、左右の袖部5の下端部7aが下端部7bに重なるようにシート片101を上下に折り返し、袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2と上身頃後部3の下端部8とを1か所のみで連続して縫合/溶着する構造であるため(
図3、
図4)、従来のように、左右の袖部5を別々に縫合/溶着する必要がなく、作業工数を減らすことができ、コスト低減が図られる。さらには、縫合/溶着する形状が略直線で単純であるため、機械化が容易である。
【0048】
折り畳み工程は、特に機械化が困難な工程である。折り畳み作業を容易化するために、ガウンを構成するパーツが本体と一体となるように形成することが好ましい。
図2~
図7に示すように、本実施形態のガウン1の各パーツは、すべて本体と一体に形成される。また、
図5~
図7に示すように、縫合/溶着されたガウン1は、各パーツが分離することなくシート状に形成されていることから、折り畳み工程では、ガウン1をあたかも一枚の紙を折るように容易に折り畳むことができる。
【0049】
従来の医療用のエプロンの腰紐は、本体から分離しており、折り畳みの際に分離した腰紐を本体と一体となるように整える作業が必要であった。本実施形態のガウン1は、
図2、
図3、
図4に示すとおり、折り畳みの際に腰紐部11が、下身頃6の左右方向両側に分離することなく一体に形成される。このため、腰紐部11を整えるなどの余分な作業が必要なく、折り畳み工程の作業工数を減らすことができる。また、作業を単純化できるため、機械化が容易になる。
【0050】
縫合/溶着工程及び折り畳み工程における作業工数の削減は、1枚当たりの削減数は僅かであっても、大量に生産する場合には大きな差となる。また、作業内容の単純化は、機械化を容易にし、更なる大量生産を可能にする。
【0051】
以下、本実施形態1のガウン1の使用方法と作用効果の一例について図面を参照し具体的に説明する。
【0052】
ガウン1の着用は、部分切断で形成された上半身挿通孔10及び部分切断111で切り離し可能に形成された腰紐部11を本体から切り離す。上半身挿通孔10及び腰紐部11は、本体から数秒で分離可能であり、直ちに着衣できる。上半身挿通孔10に指挿通孔16を設けることが好ましく、指挿通孔16に指を引っ掛けて上身頃後部3と上半身挿通孔10を分離すれば、上半身挿通孔10を容易に開口できる。上半身挿通孔10を開口して、上半身をガウン1に挿通し、さらに腕を袖部5に挿通して着衣する。下身頃6を下半身に巻いて、左右の腰紐部11を締結すれば、下身頃6を身体に安定して固定できる(
図1)。
【0053】
実施形態1のガウン1は、袖部5を有するため、医療用エプロンとは異なり、患者などから曝露される湿性生体物質による飛散リスクが広範囲に及ぶ汚染であっても医療・介護従事者を守ることができる。
【0054】
(製造方法)
図2に示すとおり、本実施形態のガウン1は、1枚のシートから裁断されたシート片101からなる。シートからの裁断は、上身頃前部2及び上身頃後部3からなる領域と、上身頃前部2及び上身頃後部3からなる領域の中央の位置に設けられた首挿通孔4と、上身頃前部2及び上身頃後部3からなる領域から左右に延設する袖部5と、上身頃前部2からから上身頃前部2とは反対方向に延伸する下身頃6と、を備えるシート片101を裁断するステップと、上身頃前部2及び上身頃後部3からなる領域の下身頃6とは反対方向の端部に沿って、上半身挿通孔10を部分切断で開口可能に形成するステップと、下身頃6の左右方向両側に、下身頃6の上側に紐幅分の長さを残して部分切断111で切り離し可能に腰紐部11を形成するステップと、折り返された袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2と、上身頃後部3の下端部とを、連続して縫合/溶着して固着するステップとからなる。
【0055】
次に、裁断されたシート片101の袖部5の下端部7a、7bが重なるようにシート片101の上半分を上下に折り返すステップと、袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2と、上身頃後部3の下端部8とを、連続して1か所のみで縫合/溶着して固着するステップと、を経てガウン1が完成する。
【0056】
図2に示すとおり、ガウン1を構成するすべてのパーツ、すなわち、上身頃前部2、上身頃後部3、首挿通孔4、袖部5、下身頃6、上半身挿通孔10及び腰紐部11は、1枚のシート片101からなる。裁断のみによって、すべてのパーツが完成するため、事前に準備する部材はシートのみでよく、材料の調達に手間がかからない。
【0057】
1枚のシートからの裁断は、CADを使用して裁断データを作成し、自動裁断機によって1枚のシートからシート片101が裁断される。部分切断による上半身挿通孔10と腰紐部11の形成は、シート片101の裁断と同時に行ってもよいし、シート片101の裁断後に行ってもよい。
【0058】
袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2と、上身頃後部3の下端部8との連続的一体的な固着は、縫合によってもよく、溶着によってもよい。縫合する場合は、工業用ミシンを用いて固着し、溶着する場合は、高周波ウェルダーを用いて固着する。高周波ウェルダーを用いて固着する場合は、シート片101の素材は熱可塑性樹脂の中から選択される。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステルなどのポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンなどのポリオレフィンや、スチレン系樹脂や、フッ素系樹脂や、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂がある。縫合による場合は、シート片101は上記熱可塑性樹脂のほか天然繊維によるものであってもよい。
【0059】
(実施形態2)
本発明の実施形態2について
図8~
図11を示して説明する。首挿通孔4から上身頃後部3の上半身挿通孔10に向かって部分切断で形成された破断ライン12を備え、下身頃6の下部に下身頃6の下端に沿って部分切断113で切り離し可能に形成された切捨部13を備え、及び袖部5に袖先14とは別個に親指用孔15を備える以外は、実施形態1に係るガウン1と同様の基本構成を有している。そのため、実施形態1と同じ構成には同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。以降の実施形態でも同様である。なお、破断ライン12又は部分切断113は、例えば、円形又は多角形の穴を所定の間隔でライン状に並べて配置してもよい(図示せず)。
【0060】
医療・介護用防護具は、血液、体液、排泄物が着衣に飛び散ったり、付着したりする可能性がある時は着なければならず、不必要となった時点で脱ぐ必要がある。必要がなくなったら、着たままにしないことが感染防止のために重要である。このため、医療・介護用のガウンは、着脱が容易にできることが求められる。
図8、
図9、
図11に示すとおり、本実施形態のガウン1Aは、首挿通孔4から上身頃後部3の上半身挿通孔10に向かって部分切断で形成された破断ライン12を備えており、ガウン1Aを脱ぐ際に、上身頃前部2を下に引っ張ることにより、上身頃後部3が破断ライン12から簡単に左右に破れ、ガウン1Aを迅速に脱ぐことができる。
【0061】
また、
図8~
図11に示すとおり、下身頃6の下部に下身頃6の下端に沿って部分切断113で切り離し可能に切捨部13が形成される。
【0062】
医療・介護用のガウンは、着衣して医療現場で迅速に活動できる必要がある。このため、着衣者の体型差に対応できることが好ましい。
図8~
図11に示すとおり、本実施形態のガウン1Aは、下身頃6の下部に下身頃6の下端に沿って部分切断113で切り離し可能に形成された切捨部13を備えるため、身長が低い着衣者であっても身長に合わせてガウン1Aの丈の調整が可能であり、現場で丈を短くすることで体にフィットさせることができる。また、複数のサイズのガウンを生産する必要がないため生産コストの低減に結び付く。
【0063】
医療現場では、患者の検査、治療などにより、自然とガウン1Aの袖部5がたくし上げられることがある。そこで、
図8~
図11に示すとおり、ガウン1Aは、袖部5の袖先14とは別個に親指用孔15を備え、着衣者が親指用孔15に親指を挿通させることで、袖先14のたくし上がりを防ぎ、また、ガウン1Aを脱ぐときには、親指用孔15を親指で握持してガウン1Aを袖先から脱げば、袖部5と、袖部5に繋がる上身頃前部2及び上身頃後部3と下身頃6とが自然と裏返しになり、汚染されたガウン1Aの表面に触れずに、かつ包み込むようにして脱ぐことが可能であり、着衣者は他者への感染を防止できる。更に、ガウン1Aの着衣後に感染防止のための手袋を着脱することが頻繁に行われるが、その際も親指用孔15を親指で握持して袖先14を固定できるため、手袋の着脱が容易である。
【0064】
(実施形態3)
図12に示すとおり、実施形態3のガウン1Bは、ガウン1Bを収納する収納袋17を備える。収納袋17は、袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2と、上身頃後部3とが、連続して縫合/溶着される際に、収納袋17の開口部のある端部を下にして、収納袋17の他方の端部を上身頃前部2と上身頃後部3との間に挟持して縫合/溶着して固定することを例示できるが、これに限定されない。挟持せずに上身頃前部2の裏側又は上身頃後部3の固着部9に戴置して両面テープで接着してもよい。「上身頃前部2の裏側」は、上身頃前部2の身体に接する面である。
【0065】
新たな感染を防ぐため、汚染された医療・介護用ガウンを放置することは避けなければならない。直ちに廃棄できないときは、一旦、密閉できる缶や袋などに入れて安全に管理する必要である。しかし、脱衣する場所に常に汚染物を密閉できる設備が備えられているとは限らない。往診や訪問介護の場合には、近くに汚染物を密閉できる設備がないことがある。
【0066】
このような場合に、ガウン1Bは、使用したガウン1Bを裏返して、汚染された表側を包み込むように脱衣したものを、ガウン1Bに固着された収納袋17に収納し、収納袋17の開口部を閉じることで、使用後のガウン1Bによる感染を防止できる。収納袋17の開口部は、収納後に縛って閉じてもよく(
図13)、チャックや面ファスナーを設けて閉止してもよい(図示せず)。収納袋17は、防水性を備えることが好ましい。
【0067】
ガウン1Bに固着された収納袋17は、ガウン1Bの着衣時には、上身頃前部2の裏側の着衣者の腹部辺りに位置し(
図14)、ガウン1Bの表側には現れないため、着衣者が医療や介護を行う際の動作を阻害することはない。着衣者が使用したガウン1Bを脱ぐ際には、ガウン1Bを裏返して汚染された表側を包み込むように脱衣するが、ガウン1Bを裏返すと収納袋17が現れるため、着衣者はガウン1Bの汚染されていない裏側から汚染された表側を包み込んで、安全にガウン1Bを収納袋17に収納できる(
図13)。
【0068】
収納袋17は、ガウン1Bの包装袋と兼ねることができる(
図15)。ガウン1Bを折り畳み、折り畳んだガウン1Bをガウン1Bに固定された収納袋17を裏返しながら、収納袋17で包み込むことでガウン1Bを収納することができ(
図16)、収納袋17はそのまま包装袋としても使用できることから(
図15)、更にコストダウンが可能になる。
【0069】
(実施形態4)
図17に示すとおり、実施形態4のガウンは、本実施形態のガウン1Cは、固着部9の固着箇所を袖部5の下端部7a、7bに限定し、下身頃6の下部に下身頃6の下端に切捨部13の形成を省いた(
図12と比較)。このことにより、工程数を減らすことができるため、生産コストの低減に結び付く。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
図3に示すとおり、ガウン1の身幅W1は、1800mm、裾幅W2は、1200mm、胴幅W3は、600mm、首挿通孔4の幅W4は、240mm、着丈H1は、1140mm、腰紐部11の長さLは、650mm、腰紐部11の紐幅W5は、30mmを例示できる。裾幅W2が1200mmあることにより、着衣者の下半身を十分に覆うことができ(
図1)、飛散リスクが広範囲に及ぶ汚染から医療・介護従事者を守るのに十分である。前記各寸法は、これに限定されず、着衣者の体型、使用用途により適宜変更できる。
【0071】
ガウン1の素材は、ナイロン不織布を例示できるが、これに限定されない。ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステルなどのポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンなどのポリオレフィンや、スチレン系樹脂や、フッ素系樹脂などの熱可塑性樹脂や、防水性を備えた天然繊維からなる布帛や紙などであってもよい。
【0072】
シート片101の裁断は、CADを使用して裁断データを作成し、NC裁断機によって裁断する。部分切断による上半身挿通孔10と腰紐部11の形成は、シート片101の裁断と同時に行う。部分切断の切残し部の幅は5mmを例示できる。また、部分切断の切残し部の数は、上半身挿通孔10で4か所、腰紐部11の片側で4か所を例示できる。切残し部の幅及び切残し部の数は、限定されず、適宜変更できる。
【0073】
袖部5の下端部7a、7bと、上身頃前部2と、上身頃後部3の下端部8の縫合は、工業用ミシンを用いて、1か所のみで連続して縫合して固着する。
【0074】
(実施例2)
図8、
図9、
図11に示すとおり、首挿通孔4の端部から上身頃後部3の上半身挿通孔10に直交する部分切断で形成される破断ライン12は、長さは80mm、切残し部の幅は5mm、切残し部の数は4か所を例示できるが、破断ライン12は1本に限定されず、また、上半身挿通孔10と直交しなくてもよい。また、
図10に示すとおり、ガウン1Aの着丈(短)H2は、1020mmを例示でき、切捨部13の幅は120mmを例示できるが、これに限定されず、適宜の寸法を選択できる。また、切捨部13は1段に限らず、複数の切捨部が多段階に備えられてもよい(図示せず)。なお、破断ライン12又は部分切断113は、例えば、円形又は多角形の穴を所定の間隔でライン状に並べて配置してもよい。穴の直径は25mmを例示できる(図示せず)。
【0075】
(実施例3)
図12に示すとおり、収納袋17は、幅30mm、高さ40mmを例示できるが、これに限定されず、適宜の形状、寸法を選択できる。収納袋17の開口部はチャックや面ファスナーなどの閉止手段を備えても良い(図示せず)。収納袋17の素材は、ポリエステルを例示できるがこれに限定されない。収納袋17は防水性を備えることが好ましい。
【0076】
(実施例4)
図17に示すとおり、実施形態4のガウンは、固着部9の固着箇所を袖部5の下端部7a、7bに限定するとともに、下身頃6の下部に下身頃6の下端に切捨部13の形成を省いた(
図12と比較)。
【0077】
以上、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得るものである。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、改変等を加えることができるものであり、それらの改変、均等物等も本発明の技術的範囲に含まれることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、低コストで大量に生産が可能であり、身体を十分に覆うことができ、迅速な着脱と安全な廃棄が可能な医療・介護に適した使い捨てガウンを提供するもので、その工業的利用価値は大である。
【符号の説明】
【0079】
1、1A、1B、1C・・・ガウン
2・・・上身頃前部
3・・・上身頃後部
4・・・首挿通孔
5・・・袖部
6・・・下身頃
7a、7b・・・袖部下端部
8・・・上身頃後部下端部
9・・・固着部
10・・・上半身挿通孔
11・・・腰紐部
12・・・破断ライン
13・・・切捨部
14・・・袖先
15・・・親指用孔
16・・・指挿通孔
17・・・収納袋
101・・・シート片
111・・・腰紐部部分切断
113・・・切捨部部分切断
W1・・・身丈
W2・・・裾幅
W3・・・胴幅
W4・・・首挿通孔の幅
W5・・・紐幅
H1・・・着丈
H2・・・着丈(短)
L・・・腰紐部の長さ