(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】桟橋のPC梁端接合構造およびその接合方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20241029BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241029BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
E02B3/06
E04B1/58 505P
E04B1/58 506P
E04B1/30 H
(21)【出願番号】P 2024011314
(22)【出願日】2024-01-29
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000182030
【氏名又は名称】若築建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】松坂 昇
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第209397564(CN,U)
【文献】中国実用新案第214784711(CN,U)
【文献】特許第7178050(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06- 3/08
E02D 27/00-27/52
E02D 5/22- 5/64
E04B 1/00- 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面2方向で杭頭部の間にプレキャストのPC梁がそれぞれ設けられ、その上に床版が形成される桟橋のPC梁端接合構造であって、
前記平面2方向のいずれにおいても前記PC梁の梁端に対応する位置で所定の深さまで凹み、平面視において前記PC梁の梁端を3面囲む凹状に形成された梁端取込部を備え、前記杭頭部に固定された杭頭ブロックを有し、
前記梁端の下部を除く部分が、対応する前記梁端取込部側へ突出し、前記梁端取込部に挿入され、
前記PC梁の長手方向に垂直な部材断面において、突出した前記梁端の部分は、その他の前記梁端の部分の少なくとも半分の面積を有し、
前記杭頭ブロックは前記PC梁の下側に突出したアゴを備え、
前記PC梁が前記アゴの上に設置され、
前記PC梁と前記アゴと前記杭頭ブロックとを貫通したPC鋼材が緊張定着され、前記PC梁と前記杭頭ブロックとがPC圧着接合されていることを特徴とする桟橋のPC梁端接合構造。
【請求項2】
平面2方向で杭頭部の間にプレキャストのPC梁をそれぞれ設けて、その上に床版を形成する桟橋のPC梁端接合方法であって、
前記平面2方向のいずれにおいても前記PC梁の梁端に対応する位置で所定の深さまで凹んで、平面視において前記PC梁の梁端を3面囲む凹状に形成された梁端取込部を備えた杭頭ブロックを前記杭頭部に固定し、
前記梁端の下部を除く部分が、対応する前記梁端取込部側へ突出し、前記PC梁の長手方向に垂直な部材断面において、突出した前記梁端の部分は、その他の前記梁端の部分の少なくとも半分の面積を有し、
前記梁端取込部の下側から突出したアゴを前記杭頭ブロックに形成し、
前記PC梁を前記アゴの上に設置し、
前記梁端が前記梁端取込部に挿入された状態で前記PC梁を配置した後に、前記梁端取込部及び前記アゴと前記梁端との間にそれぞれ設けられている目地に目地モルタルを充填して硬化させた後に、
前記PC梁と前記アゴと前記杭頭ブロックとを貫通したPC鋼線を緊張定着することにより、前記PC梁と前記杭頭ブロックとをPC圧着接合することを特徴とする桟橋のPC梁端接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桟橋の既設改修や新設を問わずに、プレキャストのPC梁をPC圧着接合によって梁端と杭頭ブロックとを一体化した直杭式横桟橋を構築する梁端接合構造およびその接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の桟橋において、基礎杭の上にプレキャスト製のPC梁(桁)を設置して、PC梁(桁)と杭頭部を接合して一体化する方法に関する従来技術は、複数の特許文献に開示されている。
【0003】
特許文献1は、基礎杭の頭部間にプレキャストコンクリート製の縦桁と横桁を掛け渡して、それぞれの桁の両端面から鉄筋を外部に露出して突設し、現場打ちの杭頭コンクリートで桁と杭とを一体化することによって、杭頭コンクリートのみが現場打ちとなり、海上作業が大幅に省略されるというものである。
【0004】
特許文献2は、梁のプレキャスト部の端面から鉄骨と鉄筋を突出させて、杭上の受台上に鉄骨と鉄筋を載置した後に、杭と梁のプレキャスト部梁の端面との間の空間には、現場打ちコンクリートを打設充填して杭と梁を接合することによって、現場での作業を最小限として、接合部の施工の手間を省くことができるというものである。
【0005】
特許文献3は、プレキャストPC主梁を杭頭部に設置した後に、主梁と杭頭部との空間を間詰めコンクリートを充填して接合して一体化し、主梁の側面から突設した受棚にプレキャストPC横梁を架設して、PC鋼線を貫通して緊張して主梁と横梁を一体化するものとしている。格子枠の構成は、プレキャスト製品であるため、現場打ちコンクリートに必要となる海上の足場、支保工が不要となり、さらに、型枠の組み立て、脱型が不要となるため、迅速な構築を行うことができるというものである。
【0006】
特許文献4は、杭頭部に接合部材を挿入し、既製梁部材が、平板状の天板部と、両側縁より垂下された側壁部と、所謂逆U字状断面に形成され、その天板部の端部を接合部材に設置された受棚部に設置し、貫通したPC部材(PC鋼材)を緊張定着して、既製梁と接合部材とをPC圧着接合して一体化し、その後に、接合部材の中央で杭頭と嵌合する開口または鞘管に場所打ちコンクリートを充填して接合部材と杭頭部とを接合している。そして、杭形成された梁部の上にプレキャストコンクリート床版又は場所打ちコンクリートによって床版部を形成し、杭支持構造物が構築されるというものである。既製梁の断面を逆U字状にすることによって、プレキャスト部材の軽量化を実現し、工場製品でも運送を容易にすると共に、大型起重機や起重機は不要となる。さらに、既製梁部材を仮設置した段階で波浪等によって杭が揺動した場合であっても、既製梁部材の脱落を防止することができる等の効果が得られるという。
【0007】
また、PC圧着接合に関する従来技術については、当出願人が既に数多くの特許文献に示しており、その代表とするものは、PC圧着関節工法である。後述する本願発明と従来技術との相違を説明するため、ここで特許文献5として取り上げる。従来のPC圧着接合の特徴は特許文献5の
図1、
図2及び
図4に示す通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-207641号公報
【文献】特開平8-120638号公報
【文献】特許第4597921号公報
【文献】特許第7178050号公報
【文献】特許第5612231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に開示された方法は、プレキャスト製の梁端から鉄筋や鉄骨を出して、杭頭コンクリートとして、又は、杭と梁のプレキャスト部の端面との間に、現場打ちコンクリートを打設して杭頭とプレキャスト梁を接合するものである。その現場打ちコンクリートは海上作業となり、支保工や型枠を組み、配筋工事を行い、コンクリートを打設して養生する工程はすべて海上で行うために、工期が長期化し、コストが高騰するばかりではなく、品質管理も一層困難となり、特に、海水飛沫による塩害を受けて鉄筋が施工段階でもすぐに腐食してしまい、構築された構造体の強度や耐久性などが著しく劣るという問題が生じる。
【0010】
上記の問題を解消し、現場打ちによる海上作業をさらに減らす方法として、特許文献3と4に記載の発明が開示されている。
【0011】
特許文献3は、具体的には、長手(法線)方向において、プレキャストPC主梁と従来の杭頭部のコンクリート(フーチング)に相当する部分を一体化し、複数のスパンを跨いで連続した一本ものとしている。短手(法線直角)方向においては、プレキャストPC横梁をPC主梁の側面に突出した受棚に架設し、両方の梁を貫通したPC鋼線を緊張定着してPC圧着接合によって一体化する方法である。
【0012】
しかしながら、以下の問題点を有する。
1、梁本体は、複数のスパンを跨いで連続した一本ものとすることによって、かなりの重量と長さになり、通常のプレキャスト工場製品としては、運搬、取付作業が困難であり、現場ヤードで製造するしかなく、現場製造や取付用重機容量等の制約が大きいため、様々なスパン割りや平面計画に適応することは困難である。
2、プレキャストPC横梁をPC主梁の側面に突出された受棚に架設し、貫通したPC鋼線を緊張定着して一体化することで、従来のPC圧着接合と同様に横梁の長手方向(梁軸方向)には強固に接合されるものの、横方向(梁軸直角方向)の接合は、長手方向に比べ弱い。巨大地震に伴う大規模な津波が横方向から襲来した時に、横梁が落下して流される危険性がある。
3、プレキャストPC主梁は、実質的に、従来の杭頭コンクリート(フーチング)とPC梁本体とを一体化したものであるために、梁の幅を杭頭コンクリート(フーチング)の所要の大きさに合せざるを得ず、部材に無駄な部分が生じる。
【0013】
特許文献4においては、既製梁の断面を逆U字状にすることで、軽量化を実現し、特許文献3における超大型プレキャスト部材による重量と長さの問題を解消している。しかしながら、既製梁と接合部材とを貫通したPC部材(PC鋼材)を緊張定着してPC圧着接合されたものであり、従来のPC圧着接合と同じように、長手方向(梁軸方向)に強固に接合されるものの、横方向(梁軸直角方向)の接合は、依然として弱い。そして、既製梁の梁端と接合部材とのPC圧着接合面において、両側縁より垂下された側壁部のみにPC部材(PC鋼材)を通しているため、実質的に既製梁の側壁部のみが接合部材とPC圧着接合され、天板部は受棚部に載っているだけで接合部材に直には接合されていない。また、「既成梁部材を接合部材に載荷させた際、既成梁部材の側壁部内側面と接合部材の受棚部の側面間には間隙が生じた状態となっている。当該間隙をグラウトで充填することが望ましい。また、グラウトによる当該間隙の充填に代え、事前に受棚部の側面に当該間隙に合致する寸法でゴムを貼り付けておいてから既設梁部材を受棚部に載荷するようにしても良い。また、グラウトによる充填、ゴムの貼り付けに代えて、撥水性塗料を塗布してもよい。」としている。しかし、側壁部内側面と接合部の受棚部の側面間の隙間にグラウトで充填されたとしても、PC部材(PC鋼材)を直接貫通してPC圧着接合していないために、桟橋の上部工に走行する大型クレーンによる常時振動でグラウトが落下し隙間が生じる可能性が高い。また、グラウトの代わりにゴムを貼り付けして、撥水性塗料を塗布しても、実質的に完成した後に隙間が生じことを許容している。よって、横方向(梁軸直角方向)の接合は従来のPC圧着接合と同じにように弱く、受棚部が既製梁との隙間があるため、巨大地震に伴う大規模な津波が既製梁の横方向から襲来したときに、既製梁の落下を阻止する役割を果たさず、既成梁が落下する危険性が依然としてある。そもそも、特許文献4には、「架設した後、接合部材と既製梁部材とが一体化される前段階において、波浪等によって杭柱状体が揺動した場合であっても既製梁部材の脱落を防止することができる」と記載されているが、その際に、隙間が埋まっているとして小さい波浪による横揺れに対して既製梁(自重のみ時)の脱落を防止することができるとしても、接合された後の構造物の供用時に、巨大地震に伴う大規模な津波が横方向から襲来した時に、耐えられるものではなく、従来の技術と変わりがない。なぜなら、特許文献4では、上部床版で上部工が一体化されたから、特に考慮する必要がないとして、「受棚部は、軽量化のため支持面の突出方向端縁より下向きに傾斜した傾斜面を有する形状を例に示すが、上面に既製梁部材の天板部端部を支持する支持面を備えていればよく」としており、PC部材(PC鋼材)が受棚部を貫通せず、既製梁部材と受棚部がPC圧着接合されないためである。
【0014】
従来のプレキャスト部材同士、例えば、梁と柱とをPC圧着接合によって一体化する従来の技術としては、特許文献5の
図1、
図2及び
図4に示すように、柱面からアゴを出して、梁端をアゴに載せ、PC鋼線がアゴを貫通して柱と梁をPC圧着接合して一体化するものがあり、これは当出願人が開発したPC圧着関節工法の基本構成とするものである。また、従来のPC圧着接合には、アゴを設けずに接合するものもある。いずれにしても、建築構造物として、陸上に構築されるものであり、横荷重としては、強風や地震等があるが、構造全体に作用するものであり、梁部材が局部的に強い衝撃荷重を受ける恐れが殆どないため、個々の梁横方向の落下は特に配慮する必要がない。しかし、桟橋の場合、特定の使用環境によって、巨大地震に伴う大規模な津波が横方向から襲来した時に、梁が落下して流される危険性がある。この点については、従来の技術において考慮されていない。
【0015】
そこで、本発明では、プレキャストPC梁を用いて桟橋上部工の骨組を形成する際の現場打ちコンクリートによる海上作業を極力減らすと共に、巨大地震による大規模な津波に対して従来技術より大幅に強くした梁端接合構造およびその接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の桟橋のPC梁端接合構造は、
平面2方向で杭頭部の間にプレキャストのPC梁がそれぞれ設けられ、その上に床版が形成される桟橋のPC梁端接合構造であって、
前記平面2方向のいずれにおいても前記PC梁の梁端に対応する位置で所定の深さまで凹み、平面視において前記PC梁の梁端を3面囲む凹状に形成された梁端取込部を備え、前記杭頭部に固定された杭頭ブロックを有し、
前記梁端の下部を除く部分が、対応する前記梁端取込部側へ突出し、前記梁端取込部に挿入され、
前記PC梁の長手方向に垂直な部材断面において、突出した前記梁端の部分は、
その他の前記梁端の部分の少なくとも半分の面積を有し、
前記杭頭ブロックは前記PC梁の下側に突出したアゴを備え、
前記PC梁が前記アゴの上に設置され、
前記PC梁と前記アゴと前記杭頭ブロックとを貫通したPC鋼材が緊張定着され、前記PC梁と前記杭頭ブロックとがPC圧着接合されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の桟橋のPC梁端接合方法は、
平面2方向で杭頭部の間にプレキャストのPC梁をそれぞれ設けて、その上に床版を形成する桟橋のPC梁端接合方法であって、
前記平面2方向のいずれにおいても前記PC梁の梁端に対応する位置で所定の深さまで凹んで、平面視において前記PC梁の梁端を3面囲む凹状に形成された梁端取込部を備えた杭頭ブロックを前記杭頭部に固定し、
前記梁端の下部を除く部分が、対応する前記梁端取込部側へ突出し、前記PC梁の長手方向に垂直な部材断面において、突出した前記梁端の部分は、その他の前記梁端の部分の少なくとも半分の面積を有し、
前記梁端取込部の下側から突出したアゴを前記杭頭ブロックに形成し、
前記PC梁を前記アゴの上に設置し、
前記梁端が前記梁端取込部に挿入された状態で前記PC梁を配置した後に、前記梁端取込部及び前記アゴと前記梁端との間にそれぞれ設けられている目地に目地モルタルを充填して硬化させた後に、
前記PC梁と前記アゴと前記杭頭ブロックとを貫通したPC鋼線を緊張定着することにより、前記PC梁と前記杭頭ブロックとをPC圧着接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下に記載の効果が得られる。
(1)形成されるPC梁端接合構造は、長手方向(梁軸方向)だけでなく、横方向(梁軸直角方向)も強固なものであり、巨大地震に伴う大規模な津波に横方向から襲われても、梁が落下して流されることなく、耐震性と共に耐津波性能が大幅に向上する。
(2)杭頭ブロックと梁部材とを別々に構築して形成することによって、様々なスパン割りや平面計画に無理なく適応することが可能である。
(3)梁部材と杭頭ブロックをプレキャスト製とすることによって、現場打ちコンクリートによる海上作業を大幅に減らすと共に工期短縮ができ、特に既存桟橋の老朽化に関する改修工事に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本願の実施例1に係る桟橋のPC梁端接合構造を示す平面図である。
【
図2】(a)は
図1の部分拡大平面図である。(b)は(a)に示すA-A断面図である。
【
図3】(a)は本願の実施例2に係る桟橋のPC梁端接合構造の部分拡大平面図である。(b)は(a)に示すB-B断面図である。
【
図4】(a)は本願の実施例3に係る杭頭ブロックの平面図である。(b)は(a)に示すC-C断面図である。(c)は本願の実施例3に係る桟橋のPC梁端接合構造を示す平面図である。(d)は(c)に示すD-D断面図である。
【
図5】本願の実施例3に係る桟橋のPC梁端接合構造を示す斜視図である。
【
図6】(a)は特定施設の耐震性能照査の基準を示す図である。(b)は標準施設の耐震性能照査の基準を示す図である。
【
図8】梁端と杭頭ブロックとのPC圧着接合部(面)における目地離間を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を図示の実施の形態に基づいて詳しく説明する。なお、本願においては、主に直杭式横桟橋を実施例として示す。
図1と
図2に本願発明の実施例1を示す。
図1は、桟橋の平面配置の一部である。ここで、法線方向をX方向、法線直角方向をY方向とする。X方向に平行に配置する梁をX梁1、Y方向に平行配置する梁をY梁2とする。
【0021】
複数の鋼管杭7が、基礎杭として、X、Yの二方向に所定の間隔(スパン)で、立設される。各杭頭には、所要の大きさで、杭頭ブロック3が予め形成される。各杭頭ブロック3の間にプレキャストPC梁とするX梁1とY梁2が設置される。X梁1とY梁2に囲まれる中央部分はコンクリート床版4である。
【0022】
本願の課題とは直接関係しないため、図示は省略するが、杭配置間隔(スパン)によっては、PC梁(大梁)間に掛け渡した小梁を設ける場合がある。従来同様に、プレキャストPC梁の天端から所定の高さまで予めスターラップ筋を配置して、トップコンクリートと一体化するが、スターラップ筋の図示は省略する。
【0023】
本願発明でいうプレキャストのPC梁(X梁1、Y梁2)とは、プレキャスト製品であって、プレストレスが導入される梁部材である。なお、梁部材と杭頭ブロック3にPC鋼線挿入用のシースが予め埋設して配置されているが図示は省略する。
【0024】
杭頭ブロック3には、PC梁(X梁1、Y梁2)に対応する位置に所定の深さまで凹んで、平面視において梁端5aを3面囲む梁端取込部5が形成されている。PC梁は、その梁端5aを梁端取込部5に挿入して設置され、梁部材と杭頭ブロック3に予め配置されているシース(図示せず)にPC鋼線6を挿入し、緊張定着することでPC梁と杭頭ブロック3とがPC圧着接合により一体化される。
【0025】
その一つの詳細拡大図として、
図1において破線の円で示す部分の平面とA-A側面を
図2に示す。杭頭ブロック3は、プレキャスト部材であり、梁の設置よりも前に杭7の杭頭部に設置して一体化される。平面形状としては、図示の八角形に限られず、構造性能及びPC鋼線の配置を満たすものであれば、形状を変更してもよい。
【0026】
梁端取込部5は、平面視において、PC梁(X梁1、Y梁2)の梁端5aの周面(3面)より所定の隙間を開けて目地14を形成し、施工誤差を吸収する。側面(梁成方向)においても同様に梁端5aの下側に目地14を設ける。PC梁を梁端取込部5に嵌め込んで架設した後、目地14に目地モルタル(図示せず)を充填して硬化させ、硬化した後に予め埋設されているシース(図示せず)にPC鋼線6を挿入し、緊張定着することにより梁端接合構造を形成する。その後、梁の上端にコンクリート床版4を形成してPC桟橋とする。
【0027】
このように形成される梁端接合構造は、長手方向(梁軸方向)だけでなく、横方向(梁軸直角方向)も強固なものとなり、巨大地震に伴う大規模な津波に横方向から襲われても、梁が落下される恐れが解消される。また、PC梁(X梁1、Y梁2)の梁端5aと杭頭ブロック3との間にプレストレス力が導入されPC圧着接合されているため、常時振動荷重を受けてもPC梁の梁端5aと杭頭ブロック3の間の目地モルタルが落ちることはない。杭頭ブロック3が目地モルタルの底を支持しているため、梁端5aの両側面の目地モルタルが常時振動荷重を受けて落ちることもない。特許文献4に記載の構造では、側壁部内側面と受棚部の側面の隙間にグラウト(目地モルタル)が充填されているが、PC部材(PC鋼材)が貫通していないため、常時振動荷重を受けると当該グラウト(目地モルタル)が落下し隙間が生じるおそれがあるが、上記の本願構成によれば、そのような問題が解消される。
【0028】
次に、
図3に示す実施例2について説明する。なお、
図1、
図2に示す実施例1と同様の構成についての説明は省略する。
図3においても、梁部材と杭頭ブロック3に設けられるPC鋼線挿入用のシースの図示は省略している。また、目地14に充填された目地モルタルの図示も省略している。
【0029】
杭頭ブロック3の高さ(厚さともいう)が、PC梁(X梁1、Y梁2)の梁成と略同一場合、または僅かに大きい場合、梁端5aの部材断面の全てを杭頭ブロック3に挿入することができなくなる。つまり、梁端5aの下に残される杭頭ブロック3の高さ方向のコンクリート部材断面が小さい場合、せん断耐力が不足することとなる。このような場合には、梁端5aの部材断面の高さ方向の一部のみを梁端取込部5に挿入することとする。その一部は、梁端5aの部材断面の半分以上の断面積を有するとすることが望ましい。
また、その一部は、隣接する部分から杭頭ブロック3側へ突出し、杭頭ブロック3の側面から梁端5a側へ突出したアゴ8によって、目地14に充填された目地モルタルを介して支持されることが好ましい。この場合、上記の「その一部」は、杭頭ブロック3に挿入される部分と、杭頭ブロック3に挿入されずにアゴ8の上に配置される部分とを含むこととなり、梁部材の安定性が増すこととなる。杭頭ブロック3と梁部材は、梁端5aの上部を通したPC鋼線6と、梁端5aの下部とアゴ8を通したPC鋼線6とを緊張定着することにより、PC圧着接合される。実施例2の構成によっても、横方向からの大規模な津波に対して実施例1と同様の効果が得られる。
【0030】
次に、実施例3として、桟橋のPC梁端接合方法を
図4に示して説明する。なお、梁部材と杭頭ブロック3においてPC鋼線挿入用のシースの図示は省略している。また、梁端5aの目地14に充填された目地モルタルの図示も省略している。
【0031】
まず、
図4(a)、(b)に示すように、
1、予め製作された杭頭ブロック3を鋼管杭7の杭頭部に設置する。杭頭ブロック3の中央には、上部孔3aと下部孔3bが形成されている。下部孔3bの内径は杭頭の施工ずれを考慮して杭径より大きく形成する。杭頭ブロック3を直接杭頭に据え置きができるように、上部孔3aの内径は杭径より小さくすることが好ましい。これにより、支保工やサポート材を設けずに杭頭ブロック3を杭頭部に自立させて仮設することができるようになる。
2、杭頭ブロック3の上部には、予め梁端取込部5と鉄筋9を設けると共に、下部に杭頭横締めケーブル10挿入用のシースと定着具10a取付用の欠き込み10bを設ける。なお、杭頭の横締めケーブル10は鋼管杭7に断面欠損をさせないように杭頭部に貫通せずに両脇に配置する。
3、杭頭ブロック3を杭頭に設置した後に、下部孔3bと杭頭との間に設けられている目地14に目地モルタル11を充填する。
4、杭頭横締めケーブル10を挿入し、端部に定着具10aを取り付け緊張定着することによって、杭頭ブロック3が杭頭部に強固に一体化される。
5、杭頭部の中央孔内に鉄筋9と、梁から貫通する予定のPC鋼線6の位置にシース(図示せず)及び、その他必要な補強筋(図示せず)を配置する。
6、杭頭中央孔内に所定の深さまで中詰めコンクリート12を打設し、養生する。その深さは杭径の2倍とすることが好ましい。
【0032】
ただし、施工手順は上記のものに限定されず、例えば、手順4を手順6の後にして、先に中詰めコンクリート12を打接し、その後に、杭頭横締めケーブル10を緊張定着してもよい。
【0033】
次に、
図4(c)、(d)に示すように、
7、平面2方向のプレキャストPC梁を、それぞれの梁端5aを梁端取込部5に挿入して配置し、梁端5aと周囲の目地14に目地モルタルを充填して硬化させる。
8、PC鋼線6を予め埋設されたシース(図示せず)に挿入し、杭頭部に貫通して配置し、緊張定着して、梁端5aと杭頭ブロック3とをPC圧着接合して一体化する。
9、最後に、PC梁の天端から予め突出して配置されたスターラップと杭頭ブロックの上面に予め配置された鉄筋9にトップコン主筋を挿通して配置し、トップコンクリートを打設して一体化する。ただし、トップコンクリートの打設は、コンクリート床版4の打設と同時に行うことが効率的である。
【0034】
図示は省略するが、コンクリート床版4は、リブ付きのプレキャストPC床版をプレキャストPC梁間に掛け渡し、その上に配筋してトップコンクリートを打設して一体化することにより構成する。それによって、プレキャストPC床版が型枠に兼用され、現場作業の省力化が図れる。上記1~8の実施例の作業手順の理解を容易にするため、まとめて
図5(斜視図)にて示す。ただし、一部の手順と詳細は、図示せず省略している。
【0035】
鋼管杭7の頭部に、予め製作して用意されている杭頭ブロック3を設置する。杭頭ブロック3に梁端取込部5と共に、PC鋼線6を挿入するシース13及び杭頭横締めケーブル10の定着具用の欠き込み10bを設けてある。
【0036】
杭頭ブロック3の上部開口部を鋼管杭7の上面に据え置く。なお、理解を容易にするために、1つの杭頭ブロック3を約半分に切断した断面を図示している。下部開口部と鋼管杭頭との間(隙間)に目地モルタル(図示せず)を充填し、杭頭横締めケーブル10をシース13に挿入して、平面2方向に配置し、端部の欠き込み10bに定着具10a(
図5では不図示)を取りつけて緊張定着して、杭頭に平面2方向にプレストレスを導入して締め付けることによって杭頭ブロック3が鋼管杭7の頭部に強固に接合される。
【0037】
予めPC鋼線挿入用のシース13を設けたプレキャストのPC梁を、その梁端梁端5aが鋼管杭7の上に設置された杭頭ブロック3の梁端取込部5に挿入された状態で、杭頭ブロック3の間に架け渡す。
【0038】
杭頭ブロック3の中央孔内に、PC鋼線用のシースと鉄筋(図示せず)を配置し、PC鋼線6を梁のシースに挿入して杭頭ブロック3に貫通して配置する。
【0039】
杭頭ブロック3の中央孔内に、中詰めコンクリート12を充填して硬化した後に、PC鋼線6を緊張定着(定着具は図示せず)してPC梁と杭頭ブロック3とをPC圧着接合して一体化する。
【0040】
上記の施工手順は、大まかに説明するものであるが、これに限るものではない。例えば、杭頭ブロック3の中央孔内に鉄筋を配置して、中詰めコンクリート12を打設することによって、杭頭ブロック3と確実に一体化することができる場合、図示の杭頭横締めケーブル10を配置、緊張しなくてよい場合もある。その時の構成は、
図1~
図3に示すものになり、杭頭ブロック3は、上部と下部も平面八角形とすることができ、本願発明にも適用できるものになる。
【0041】
直杭式横桟橋の耐震性能照査においては、現行の技術では港湾の施設の技術上の基準に基づいて行われ、地震時に構造物全体の崩壊に至らないものの局部的な損傷を許容し、桟橋の変形性能を照査する方法が採られている。具体的に、
図6に示すように、耐震強化施設のレベル2地震動に関する偶発状態の照査について、
特定施設の場合、
(1)上部工に生じる設計断面力が設計断面耐力を超えないこと、
(2)杭1本について2箇所以上で限界曲率に達している杭が存在しないこと、
(3)杭に作用する軸方向力の設計用値が地盤の破壊に基づく抵抗力の設計用値を超えないこと、
標準施設の場合、
上記(2)について、杭1本につき限界曲率に達した箇所が2箇所未満である杭が存在すること、が要求される。
【0042】
つまり、巨大地震(レベル2地震荷重)時に、いずれの施設でも、上部工が壊されず全ての杭頭部に曲げ降伏して全塑性モーメントに至って塑性ヒンジを生じてもよい。特性施設では、杭1本について2箇所(杭頭部と土中部)以上で塑性ヒンジを生じなければよいとし、標準施設では、複数の杭の中で、杭1本につき2箇所(杭頭部と土中部)以上で塑性ヒンジを生じていないものがあればよいとしている。したがって、RC造またはPC造とする上部工と杭頭との固定度(杭頭部の回転拘束度)を重視し、杭頭が全塑性モーメントに至って塑性ヒンジが生じるまで落とさないように構造的余裕を大きくしているのが構造設計の現状である。
【0043】
ところが、
図7に示すように、大規模地震(レベル2地震荷重)時に、鋼管杭が曲げ降伏モーメント(My)に至った後に、鋼管杭頭部に局部座屈が起きて全塑性モーメント(Mu)まで至らず耐力が失ってしまうことがあると報告されている。
【0044】
そこで、この問題を解消するために、本願発明では、上部工(梁)が杭頭部を過剰に拘束する現行の設計法と反対にし、特許文献5に示すPC圧着関節工法による耐震設計法に基づいて、プレキャストPC部材同士のPC圧着接合部(面)において、所定の設計荷重まで目地を開かず剛結のままにしておき、所定の設計荷重を超えると、目地を離間(目地開く)させて、接合部の周りの構造部材を損傷から守ることとする。そのイメージを
図8に示す。
【0045】
具体的には、PC梁(X梁1、Y梁2)の梁端5aと杭頭ブロック3とPC圧着接合部(面)において、次の式に示す関係が成り立つようにPC鋼線6の緊張定着力によるプレストレスを導入しておく。
Me≦My 目地離間せず剛結にまま
Me>My 目地離間させる
Me:梁端に作用する地震荷重による曲げモーメント
My:鋼管杭頭部の降伏曲げモーメント
【0046】
上記のように、鋼管杭頭部が降伏曲げモーメントに達した後に、目地離間させることによって、PC梁が鋼管杭頭の拘束が軽減され、鋼管杭頭に局部座屈の発生を防ぐことができ、大規模地震時でも、設計通りに杭頭の耐力が全塑性モーメント(Mu)まで至ることが確保される。また、巨大地震(レベル2地震荷重)時に、PC梁端のPC鋼線が降伏しないようにPC鋼線6の種類と本数を設計しておけば、地震後には、PC鋼線6が弾性範囲であるため、離間された目地が閉じてもと通りになり、上部工とともに、鋼管杭7が健在な状態に保つことができる。
【0047】
以上をまとめていうと、本願発明では、梁端5aのPC圧着接合部において、長手方向(梁軸方向)では、鋼管杭7の杭頭の降伏曲げモーメントの後に局部座屈の発生をさせず目地離間が可能になるようにPC鋼線6の緊張定着力によるプレストレスを導入してあり、かつ、横方向(梁軸直角方向)では、大規模な津波による梁の落下を防止できるようにしてある桟橋のPC梁端接合構造である。
【0048】
従って、従来のPC圧着関節工法をさらに進化させ、PC桟橋という特定の使用環境に安全に供用され、耐震性と耐久性を大幅に向上させた桟橋構造物となる。
【0049】
以上、実施形態を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明したが、実施形態は単なる例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0050】
1 X梁
2 Y梁
3 杭頭ブロック
3a 上部孔
3b 下部孔
4 コンクリート床版
5 梁端取込部
5a 梁端
6 PC鋼線
7 杭(鋼管杭)
8 アゴ
9 鉄筋
10 杭頭横締めケーブル
10a 定着具
10b 欠き込み
11 目地モルタル
12 中詰めコンクリート
13 シース
14 目地
【要約】
【課題】 プレキャストのPC梁を用いて桟橋上部工の骨組を形成する際の現場打ちコンクリートによる海上作業を極力減らすと共に、巨大地震による大規模な津波に対して従来技術より大幅に強くした梁端接合構造およびその接合方法を提供する。
【解決手段】 平面2方向で杭頭部の間にプレキャストのPC梁(X梁1、Y梁2)がそれぞれ設けられ、その上に床版が形成される桟橋のPC梁端接合構造であって、PC梁の梁端5aに対応する位置で所定の深さまで凹み、平面視においてPC梁の梁端5aを3面囲む凹状に形成された梁端取込部5を備え、杭頭部に固定された杭頭ブロック3を有し、梁端5aが梁端取込部5に挿入され、PC梁と杭頭ブロック3を貫通したPC鋼材6が緊張定着され、PC梁と杭頭ブロック3とがPC圧着接合されていることを特徴とする。
【選択図】
図2