(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】超撥水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 7/40 20180101AFI20241029BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241029BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241029BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241029BHJP
【FI】
C09D7/40
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/62
(21)【出願番号】P 2024021412
(22)【出願日】2024-02-15
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2023144793
(32)【優先日】2023-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518266602
【氏名又は名称】株式会社アトムワーク
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮園 康之
(72)【発明者】
【氏名】西浦 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】古味 悠治
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 慎也
(72)【発明者】
【氏名】金子 大成
(72)【発明者】
【氏名】下村 真一郎
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-166123(JP,A)
【文献】国際公開第2005/063903(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0114865(US,A1)
【文献】特許第7129255(JP,B2)
【文献】特表2022-531471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に超撥水性塗膜を形成する超撥水性塗料組成物であって、
疎水性酸化物微粒子粉末及び酸化物複合微粒子粉末から選択される少なくとも一種の疎水性微粒子粉末(A)と、水(B)及び有機溶剤(C)を混合した混合溶媒(D)と、樹脂(E)とを含み、水溶性高分子を実質的に含まず、
前記疎水性微粒子粉末(A)は炭素量が1.5質量%以上であって、超撥水性塗料組成物中の含有率が0質量%を超え10質量%以下であり、
前記混合溶媒(D)のハンセン溶解度パラメータは、極性項と水素結合項の和が51.2MPa
0.5以上
57.2MPa
0.5以下である、超撥水性塗料組成物。
【請求項2】
前記混合溶媒(D)の含有率が80質量%以上である、請求項1に記載の超撥水性塗料組成物。
【請求項3】
前記樹脂(E)は、少なくとも一種の水系のエマルション樹脂である、請求項1又は2に記載の超撥水性塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超撥水性を示す水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料の技術分野においては有機溶剤を溶媒とする溶剤型塗料が多用されてきたが、近年、塗装作業者の健康被害や大気環境汚染を低減する観点から水の中に樹脂を分散させた水性塗料への転換が進んでいる。しかしながら、水性塗膜は油性塗膜に比べて塗膜の硬度が低く大気中のちりやほこり、粉塵等の汚れが付着しやすい。また、水性塗料中の樹脂には親水性の部分も存在するため、乾燥後も塗膜中に親水性部分が少なからず残存している。そのため、塗膜に雨水が付着しやすくなり、雨筋模様が現れる等景観性を損なう問題、塗膜の剥離や膨れを引き起こす塗膜の劣化があり、建物にダメージを与えてしまい取替え等の修繕も懸念される。
【0003】
そこで近年、超撥水性を示す水性塗料組成物、すなわち超撥水性塗料組成物の開発が進められており、特許文献1には、少なくとも一種の疎水性シリカ微粒子粉末と、分散剤と、溶媒とを含む超撥水性塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では疎水性シリカ微粒子粉末を塗料中に分散させるために、分散剤、すなわち水溶性高分子を使用して、水系の溶媒中に疎水性シリカ微粒子粉末を分散させている。しかし、本発明者らが特許文献1の超撥水性塗料組成物について各種試験を行ったところ、塗膜の撥水性が時間の経過とともに低下し、塗膜の耐久性に問題のあることがわかった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、超撥水性を備えた塗膜を形成でき、従来よりも塗膜の耐久性を向上させた、疎水性微粒子粉末を含有する水系の超撥水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、特許文献1の超撥水性塗料組成物が有する上記問題の原因について検討を重ねたところ、その原因は、特許文献1の超撥水性塗料組成物が水溶性高分子を含むことにあることがわかった。すなわち、水溶性高分子は水と馴染みがよいため、その影響で塗膜の耐久性が低下する。
【0008】
そこで本発明者らは、水溶性高分子を実質的に使用せずに、疎水性微粒子粉末を塗料中に分散させようとの技術的思想に基づき、そのための技術的手段について鋭意検討し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の超撥水性塗料組成物が提供される。
基材上に超撥水性塗膜を形成する超撥水性塗料組成物であって、
疎水性酸化物微粒子粉末及び酸化物複合微粒子粉末から選択される少なくとも一種の疎水性微粒子粉末(A)と、水(B)及び有機溶剤(C)を混合した混合溶媒(D)と、樹脂(E)とを含み、水溶性高分子を実質的に含まず、
前記疎水性微粒子粉末(A)は炭素量が1.5質量%以上であって、超撥水性塗料組成物中の含有率が0質量%を超え10質量%以下であり、
前記混合溶媒(D)のハンセン溶解度パラメータは、極性項と水素結合項の和が51.2MPa0.5以上57.2MPa0.5以下である、超撥水性塗料組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超撥水性を備えた塗膜を形成でき、従来よりも塗膜の耐久性を向上させた、疎水性微粒子粉末を含有する水系の超撥水性塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る超撥水性塗料組成物は、少なくとも一種の疎水性微粒子粉末(A)と、水(B)及び有機溶剤(C)を混合した混合溶媒(D)と、樹脂(E)とを含み、水溶性高分子を実質的に含まないものである。以下、その実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
<疎水性微粒子粉末(A)>
疎水性微粒子粉末とは、表面自由エネルギーの小さい物質でかつ微細な凹凸構造を形成させる粉末であり、疎水性酸化物微粒子粉末、酸化物複合微粒子粉末、有機微粒子粉末等が挙げられる。nmオーダーの粒径の微粒子粉末を得るためには、シリカ、アルミナ、チタニア等の疎水性酸化物微粒子粉末が好ましく、単独又は二種以上のものを使用してもよい。特に、シリカ微粒子粉末の表面を疎水化処理して形成された疎水性シリカ微粒子粉末が最も好適である。
【0013】
疎水性を示すパラメータとしては従前よりM値が知られており、M値とは水とメタノールの混合溶液に処理粉体が湿潤し始めるメタノールの容量%で表示される濃度で、一般的にM値の値が高いほど疎水性が高いことを意味しており、疎水性微粒子粉末を分散させるときのパラメータとして頻繁に使われている。しかし本発明者らの実験により微粒子粉末としての疎水性、そして塗料としての超撥水性に大きく影響するパラメータはM値よりも炭素量であることが判明し、疎水性微粒子粉末の疎水性を示すパラメータとして、炭素量を用いた。すなわち、疎水性微粒子粉末の最表面に表面自由エネルギーの低い疎水基が付与されているが、疎水基の種類や数に限りはなく、炭素量が1.5質量%以上のものであればよく、さらに好ましくは炭素量が2.0質量%以上である。なお、炭素量を分析する手法としては従来用いられている手法であればよく、一例を挙げると、1000~1500℃程度の温度において、空気中又は酸素中で酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
【0014】
疎水性微粒子粉末(A)としては上述の通り、疎水性酸化物微粒子粉末、酸化物複合微粒子粉末、及び有機微粒子粉末が挙げられるところ、以下、それぞれについて詳細に説明する。
【0015】
[疎水性酸化物微粒子粉末]
疎水性酸化物微粒子粉末とは、疎水性官能基で酸化物微粒子粉末表面を修飾した微粒子粉末であり、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の微粒子粉末が挙げられる。
酸化物微粒子粉末表面の疎水化処理方法としては、酸化物微粒子粉末表面にフッ素やアルキル基を含有させる方法であれば特に限定されることはなく、例えばシリル化剤、シランカップリング剤、アルキルアルミニウム等の有機金属化合物を一種又は二種以上を用いた方法等が挙げられる。
疎水性酸化物微粒子粉末として好ましくは、疎水性シリカ微粒子粉末であり、合成シリカ又は天然シリカが用いられる。合成シリカは、例えば燃焼法若しくはアーク法等の乾式製法、沈殿法、又はゲル法等の湿式製法によって合成される。
【0016】
[酸化物複合微粒子粉末]
酸化物複合微粒子粉末とは、コアとなる酸化物微粒子粉末とその表面に形成された被覆層を含む粉末である。コアとなる酸化物微粒子粉末は、複数の酸化物微粒子(一次粒子)が三次元的に連なる凝集体構造(凝集体多孔質構造)を形成しているもので、上記で記載したような酸化物微粒子粉末が挙げられる。一方、被覆層はその凝集体構造の内部及び外殻に形成される。このような酸化物複合微粒子粉末の調製方法は特に限定されず、例えば酸化物微粒子粉末に対して被覆材としてポリフルオロアルキルメタアクリレート樹脂を用い、公知のコーティング方法、造粒方法等に従って被覆層を形成すればよい。より具体的には、液状のポリフルオロアルキルメタアクリレート樹脂を溶媒に溶解又は分散させた塗工液を酸化物微粒子粉末にコーティングする工程(被覆工程)を含む方法によって酸化物複合微粒子粉末を好適に調製することができる。
【0017】
[有機微粒子粉末]
有機微粒子粉末としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリイミド(PI)、塩化ビニル(PVC)、セルロース等の有機微粒子粉末が挙げられ、単独で使用されてもあるいは二種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0018】
以上、疎水性微粒子粉末(A)について例示したが、疎水性微粒子粉末(A)としては例示のものには限定されず、要するに、炭素量が1.5質量%以上のものであればよい。なお、炭素量の上限は特に限定されないが、工業的に入手可能なものとしては例えば8.5質量%のものが上限である。
【0019】
<混合溶媒(D)>
混合溶媒(D)は水(B)と有機溶剤(C)を混ぜ合わせたもので、本発明では、そのハンセン溶解度パラメータが、極性項と水素結合項の和として51.2MPa0.5以上57.7MPa0.5以下、好ましくは51.7MPa0.5以上57.2MPa0.5以下の範囲で調整されたものとする。
【0020】
ここで、ハンセン溶解度パラメータ(以下「HSP値」ともいう。)とは、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標である。 また、HSP値は、溶解性の判断だけではなく、ある物質が他のある物質中にどの程度存在しやすいか、すなわち分散性がどの程度良いかなどの溶媒中の微粒子の凝集・分解性評価、高分子材料の耐溶剤性評価、医薬品の溶解性評価などで注目されており、判断指標ともなり得る。一般に、溶質-溶媒間、高分子-溶媒間、高分子―高分子間などの分子間には、ロンドン分散力、水素結合力、双極子間力、誘起効果、配位結合力、障碍斥力などのさまざまな相互作用力が働いていると考えられる。ハンセン(Hansen)は、物質の凝集エネルギーを構成しているこれらの相互作用力のうち、(1)ロンドン分散力、(2)双極子間力、(3)水素結合力の3つが主な相互作用力であると考え、ヒルデブラント(Hildebrand)の溶解度パラメータ(δ)の凝集エネルギー項を3つの相互作用項に分割して溶解度パラメータを提案した。
ここで、分散項δDは分散力による効果、極性項δPは双極子間力による効果、水素結合項δHは水素結合力による効果を示し、
dD(分散項)=δD:分子間の分散力に由来するエネルギー
dP(極性項)=δP:分子間の極性力に由来するエネルギー
dH(水素結合項)=δH:分子間の水素結合力に由来するエネルギー
と、表記される(ここで、それぞれの単位はMPa0.5である。)。
すなわち、前記分散項はファンデルワールス力、前記極性項はダイポール・モーメント、前記水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。
【0021】
本発明においてHSP値の極性項と水素結合項に着目し、「極性項+水素結合項」とした理由は、以下の通りである。
すなわち、疎水性微粒子粉末を水を主とした混合溶媒に分散させるには、コロイド化学を用いることができる。しかし、疎水性微粒子粉末を水を主とした混合溶媒に分散させるには、親水性の極性基の種類や数、分子状態などを考慮する必要があり、コロイド化学で定量的に説明するには煩雑であった。そこで、簡便で多くの場合に妥当な結果を示すことができるといわれている、上記の極性基の種類や数、分子状態を考慮したHSP値という概念を用いた。ここで、表面自由エネルギーの成分分けの概念としては、水素結合成分と極性成分はまとめて極性成分(もしくは水素結合成分)として考え、つまり成分としては、分散成分と極性成分との2成分に分けることができるという理論が大半を占める。なお、疎水性微粒子粉末を混合溶媒中に分散させるためには、HSP値の「分散項」も必要となるが、分散項を主として着目した場合、疎水性微粒子粉末は混合溶媒中に分散するものの、得られた塗膜は超撥水性を示さないことがあり、水系において「疎水性微粒子粉末の分散」と「得られる塗膜の超撥水性」の両者を両立させる主のパラメータは「極性項+水素結合項」であると実験から判明し、「極性項+水素結合項」を用いることとした。
【0022】
本実施形態において混合溶媒(D)のHSP値は、体積比で重みづけした平均である。例えば、混合溶媒(D)のハンセン溶解度パラメータの水素結合項(δH)は、下記式により求めることができる。
水素結合項(δH)=[{(水(B)のδH)×(混合溶媒(D)中の水の体積%)}/100]+[{(溶剤(C)のδH)×(混合溶媒(D)中の溶剤(C)の体積%)}/100]
より具体的には、例えば、水(B)(δD(B),δP(B),δH(B))と溶剤(C)(δD(C),δP(C),δH(C))とを体積比1:1で混合した混合溶媒(D)のHSP値は、(0.5・δD(B)+0.5・δD(C),0.5・δP(B)+0.5・δP(C),0.5・δH(B)+0.5・δH(C))と計算できる。
混合溶媒(D)のHSP値は上記の通りに計算でき、本発明で着目した「極性項+水素結合項」は、上記で計算した混合溶媒(D)のHSP値のうち、極性項δPと水素結合項δHを足した数値である。
【0023】
ここで、HSP値の計算にあたり使用するデータについて説明すると、HSP値については、様々な樹脂及び溶媒について公知の値があり、これらをそのまま用いてもよいが、本発明では、コンピューターソフトであるHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)を用いて算出した値を用いて計算したものとする。なお、このHSPiPは樹脂及び溶媒のデータベースも備え、本発明では、下記のデータベースから参照したものである。
HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice) ver4. 1.07
今回使用したHSPデータ(δD,δP,δH)の具体的な数値は下記の通りである。
・水 :(15.5,16,42.3)
・イソプロピルアルコール :(15.8,6.1,16.4)
・アセトン :(15.5,10.4,7.0)
・酢酸エチル :(15.8,5.3,7.2)
・2-メトキシエタノール :(16,8.2,15)
・エチレングリコール :(17,11,26)
【0024】
<水(B)>
本発明において水(B)は、主に塗料の粘性を調整させるためのものである。
【0025】
<有機溶剤(C)>
有機溶剤(C)を使用することで疎水性微粒子粉末が水に分散しやすくなる。
有機溶剤(C)は、水溶性有機溶剤であっても非水溶性有機溶剤であってもよい。具体的に例示すると、下記の通りである。
・炭化水素系溶剤
トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、n-デカン、ヘプタン、エチルベンゼン等
・アルコール系溶剤
メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、sec-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール等
・ケトン系溶剤
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等
・エステル系溶剤
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等
・エーテル系溶剤
ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル等
・グリコール系溶剤
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等
・グリコールエステル系溶剤
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等
・グリコールエーテル系溶剤
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等
・グライム系溶剤
エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシテトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等
・ハロゲン系溶剤
ジクロロメタン、クロロベンゼン、臭化メチル、トリクロロエチレン、1-ブロモプロパン等
・窒素含有溶剤
アセトニトリル、ベンゾニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等
・硫黄含有溶剤
ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等
【0026】
これらの有機溶剤のうち、好ましくは少なくとも水に部分的に溶解しうる有機溶剤、さらに好ましくは水に混和しうる有機溶剤で、これらを一種単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0027】
<樹脂(E)>
塗料組成物が樹脂(E)を含むことにより、塗膜として成立しやすくなる。本発明において樹脂(E)の含有率は、疎水性微粒子粉末(A)及び樹脂(E)の合量100質量%中に占める割合で、0質量%を超え58質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上58質量%以下の範囲である。
本発明において樹脂(E)としては、水系エマルション樹脂等を用いることができる。水系エマルション樹脂としては、酢酸ビニル樹脂系、エチレン酢酸ビニル樹脂系、フェノール系、エポキシ樹脂系、フッ素樹脂系、ポリエステル樹脂系、シリコーン樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂、アクリル樹脂系、アクリル・スチレン系、有機・無機ポリマーハイブリッド樹脂系などが挙げられる。
【0028】
<水溶性高分子>
水溶性高分子は増粘作用、ゲル化作用、乳化作用、保護コロイド作用、分散作用、皮膜形成作用、粘結作用、泡安定化作用、再汚染防止作用、表面張力低下作用、保湿作用、金属イオン封鎖作用、帯電防止作用、接着作用、吸水作用などを目的として使用され、具体的には洗剤、化粧品、食品、医薬品、塗料、土木などの広範囲な産業分野の製品へ応用されている。
水溶性高分子の特徴としては、分子量が概ね1万以上のもので、水に溶ける性質をもつ分子であり、水に溶解すると分子のまわりに多くの水を包含したヒドロゲルを形成する。塗料中に水溶性高分子を使用することで、塗膜乾燥後にも水溶性高分子は膜中へ残存し、また水と馴染みがよいため、その影響で塗膜の耐久性が低下する特徴があるため、本発明においては、水溶性高分子は実質的に使用してはならない成分である。
具体的に示すと、水溶性高分子は天然高分子、半合成高分子、合成高分子に分類されており、水溶性の天然高分子の物質名としては、グアガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ、キサンタンガム、コンドロイチ硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等、水溶性の半合成高分子の物質名としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアガム等、水溶性の合成高分子の物質名としては、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0029】
本発明に係る超撥水性塗料組成物は、必要に応じて水溶性高分子以外の他の成分を含み得る。水溶性高分子以外の他の成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料、増粘剤、硬化剤あるいは硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤や流れ止め剤等の表面調整剤、顔料分散剤、造膜助剤、凍結抑止剤、湿潤剤、浸透助剤、防腐剤、艶消剤、遮熱剤、pH調整剤、界面活性剤、可塑剤、皮張り防止剤、繊維材料等が挙げられる。
なお、本発明に係る超撥水性塗料組成物は上述の通り、水溶性高分子を実質的に含まないが、不純物レベルで水溶性高分子が含まれることがあるため「実質的に含まない」としている。
【0030】
次に、本発明に係る超撥水性塗料組成物の調製方法について説明する。
本発明に係る超撥水性塗料組成物の調製方法としては、材料を混合する順番又は工程に制限は特にないが、撹拌のしやすさの点から水(B)と有機溶剤(C)を合わせた混合溶媒(D)に、疎水性微粒子粉末(A)と樹脂(E)を加え、さらに必要に応じて添加剤を加え、撹拌機で撹拌することにより調製することができる。撹拌方法として、特別の方法を必要とせず、当業者において通常用いられる方法を使用することができる。例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー等の高速撹拌機、混練機、超音波分散機、ボールミル、ハンドミキサーを使用することができる。
【0031】
本発明に係る塗料組成物は、例えば、エアースプレー、エアレススプレー等での吹付け塗り、刷毛塗り、へら付け、ローラ塗り、アプリケーター、バーコーダー等の公知の塗布方法で塗布することができる。
本発明に係る塗料組成物は、基材の粗さに左右されなく塗装することが可能である。具体的に本発明に係る塗料組成物を適用する基材としては、例えば、不定形耐火物、レンガ、陶器、溶射被膜、フレキシブルホース、鋼板、ぶりき板、亜鉛めっき鋼板および亜鉛鋼板、アルミニウム等の金属板、ガラス板、硬質ボード、せっこうボード、繊維強化セメント板、フレキシブル板、セメントモルタル板、パーライト板、木材、アスファルトブロック、石材、プラスチック板、合成樹脂等の素材、あるいは素材上に形成された塗膜等が挙げられる。なかでも、本発明に係る塗料組成物は、特に不定形耐火物、レンガ、陶器、溶射被膜、木材、石材など、被塗物の表面に凹凸形成されたものに適用すると接着強度が増す。超撥水膜の得られる効果としては汚染物質、例えば水を含んだ鉄粉、粉塵などの水溶液が付着し難くなる。さらに、仮に汚染物質が付着しても雨水などによる水滴が超撥水塗膜面を転がり落ちる際に汚染物質が取り込まれることで水滴と一緒に汚れも流れ落ち、従来塗膜よりもクリーニング効果が向上する。また、アンモニア水や硫酸、塩酸等の水溶液など設備を腐食させる薬品に対しても上記と同様な効果を発揮し、設備腐食の抑制効果が見込まれる。さらに、水を含んだ粘土鉱物やセメント、耐火物についても離型性が発現する。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例の詳細な配合比は、評価結果とともに表1に後述する。
【0033】
<比較例1>
疎水性微粒子粉末(A)としてアモルファスシリカ レオロシール(登録商標)HM-30S(BET比表面積m2/g:205±20、炭素量質量%:3.5、M値vol%:64、株式会社トクヤマ製)、溶媒として水のみを使用し、高速攪拌機で10,000rpmにて30分間撹拌することにより、塗料組成物を調製した。この塗料組成物は、塗料組成物100質量%中の(A)の含有率が4.7質量%となるように調製した。
<比較例2>
比較例1の配合に有機溶剤(C)としてイソプロピルアルコールを追加し、(B)と(C)の質量比が90:10になるように調整した。
<実施例1>
樹脂(E)としてアクリルシリコンエマルションを、疎水性微粒子粉末(A)と樹脂(E)の質量比が98:2になるように調整して加えた以外は比較例2と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0034】
以下は、実施例1の製造方法と同様にして、(A)と(E)の質量比を変動させた例である。
<実施例2>
実施例1の比率をベースに(A)と(E)の質量比は80:20とし、塗料組成物を調製した。
<実施例3>
実施例1の比率をベースに(A)と(E)の質量比を60:40とし、塗料組成物を調製した。
<実施例4>
実施例1の比率をベースに(A)と(E)の質量比を42:58とし、塗料組成物を調製した。
<比較例3>
実施例1の比率をベースに(B)と(C)の質量比を70:30とし、塗料組成物を調製した。
<比較例4>
比較例3の比率をベースに(A)と(E)の質量比を80:20とし、塗料組成物を調製した。
<比較例5>
比較例3の比率をベースに(A)と(E)の質量比を60:40とし、塗料組成物を調製した。
<比較例6>
比較例3の比率をベースに(A)と(E)の質量比を42:58とし、塗料組成物を調製した。
【0035】
以下は、実施例1の製造方法と同様にして、塗料組成物における混合溶媒(D)のHSP値において極性項と水素結合項を足し合わせた数値を変動させた例である。
<比較例7>
塗料組成物100質量%中に占める割合で(A)が4.7質量%、(E)が3.3質量%と固定し、極性項と水素結合項を足し合わせた数値を58.3MPa0.5とし、塗料組成物を調製した。
<実施例5>
比較例7の比率をベースに極性項と水素結合項を足し合わせた数値を57.2MPa0.5とし、塗料組成物を調製した。
<実施例6>
比較例7の比率をベースに極性項と水素結合項を足し合わせた数値を56.1MPa0.5とし、塗料組成物を調製した。
<実施例7>
比較例7の比率をベースに極性項と水素結合項を足し合わせた数値を53.9MPa0.5とし、塗料組成物を調製した。
<実施例8>
比較例7の比率をベースに極性項と水素結合項を足し合わせた数値を51.7MPa0.5とし、塗料組成物を調製した。
<比較例8>
比較例7の比率をベースに極性項と水素結合項を足し合わせた数値を49.6MPa0.5とし、塗料組成物を調製した。
【0036】
以下は実施例1の製造方法と同様にして、塗料組成物における(A)と(E)を59:41、(B)と(C)を85:15に質量比を固定し、(A)の含有率を変動させた例である。
<実施例9>
(A)と(E)の質量比を59:41に固定し、(A)の含有率を0.5質量%とし、塗料組成物を調製した。
<実施例10>
実施例9の比率をベースに(A)の含有率を4.0質量%とし、塗料組成物を調製した。
<実施例11>
実施例9の比率をベースに(A)の含有率を8.2質量%とし、塗料組成物を調製した。
<比較例9>
実施例9の比率をベースに(A)の含有率を10.9質量%とし、塗料組成物を調製した。
【0037】
次に示すのは、実施例1の製造方法と同様にして、(A)の種類を変更した例である。
<実施例12>
実施例7の比率をベースに(A)としてAEROSIL(登録商標)RY300(BET比表面積m2/g:125±15、炭素量質量%:6.0~8.5、M値vol%:69、日本アエロジル株式会社製)を用い、塗料組成物を調製した。
<実施例13>
実施例7の比率をベースに(A)としてAEROXIDE(登録商標)Alu C 805(BET比表面積m2/g:90±15、炭素量質量%:3.5~4.5、M値vol%:70、日本アエロジル株式会社製)を用い、塗料組成物を調製した。
<実施例14>
実施例7の比率をベースに(A)としてAEROXIDE(登録商標)TiO2 NKT90(BET比表面積m2/g:62.5±12.5、炭素量質量%:2.5~4.5、M値vol%:25、日本アエロジル株式会社製)を用い、塗料組成物を調製した。
<実施例15>
実施例7の比率をベースに(A)としてレオロシール(登録商標)DM-30S(BET比表面積m2/g:230±20、炭素量質量%:2.2、M値vol%:52、株式会社トクヤマ製)を用い、塗料組成物を調製した。
<実施例16>
実施例7の比率をベースに(A)としてレオロシール(登録商標)KS-20SC(BET比表面積m2/g:160±20、炭素量質量%:2.0、M値vol%:55、株式会社トクヤマ製)を用い、超撥水性塗料組成物を調製した。
<比較例10>
実施例7の比率をベースに(A)としてレオロシール(登録商標)DM-10(BET比表面積m2/g:120±20、炭素量質量%:0.9、M値vol%:48、株式会社トクヤマ製)を用い、塗料組成物を調製した。
<比較例11>
実施例7の比率をベースに(A)としてレオロシール(登録商標)MT-10(BET比表面積m2/g:120±20、炭素量質量%:0.9、M値vol%:47、株式会社トクヤマ製)を用い、塗料組成物を調製した。
【0038】
次に示すのは、実施例1の製造方法と同様にして、(C)の種類を変更した例である。
<実施例17>
実施例7の比率をベースに(C)としてアセトンを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例18>
実施例7の比率をベースに(C)として酢酸エチルを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例19>
実施例7の比率をベースに(C)として2-メトキシエタノールを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例20>
実施例7の比率をベースに(C)としてエチレングリコールを用い、塗料組成物を調製した。
【0039】
次に示すのは、実施例1の製造方法と同様にして、(E)の種類を変更した例である。
<実施例21>
実施例7の比率をベースに(E)としてアクリルエマルションを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例22>
実施例7の比率をベースに(E)としてアクリルウレタンエマルションを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例23>
実施例7の比率をベースに(E)としてウレタンエマルションを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例24>
実施例7の比率をベースに(E)としてエポキシエマルションを用い、塗料組成物を調製した。
<実施例25>
実施例7の比率をベースに(E)としてフッ素エマルションを用い、塗料組成物を調製した。
【0040】
<比較例12>
特許文献1の実施例20に倣い、水と水溶性高分子であるヒドロキシエチルセルロース(HEC)とを合わせた溶液に、(A)としてレオロシール(登録商標)HM-30Sと(C)としてイソプロピルアルコールを合わせたものを加え、高速攪拌機で10,000rpmにて20分間分散した後、(E)としてアクリルシリコンエマルションと混合し、高速撹拌機で1500rpmにて10分撹拌することにより、塗料組成物を調製した。なお、この塗料組成物は、(A)とHECの質量比が9:1、かつ、(A)の含有率が2質量%となるように調製した。
【0041】
以下は比較例12の製造方法と同様にして(A)の添加量を変動させた例である。
<比較例13>
(A)とHECの質量比、(A)と(E)の質量比は比較例12と同様であるが、(A)、HEC、及び(E)の添加量を2倍にし、水とイソプロピルアルコールの質量比は比較例12と同様であるが、(B)と(C)の添加量を減らし、塗料組成物を調整した。
【0042】
以下は比較例12の製造方法と同様にして(E)とHECの接着力を高める成分の添加量を変動させた例である。
<比較例14>
実施例7に倣い、(A)(B)(C)を実施例7の組成と同じにし、比較例12の(A)とHECの質量比は同様にし、かつHECと(E)を合わせた量を実施例7の(E)の組成と同様にして、塗料組成物を調整した。
【0043】
以上の各例の塗料組成物について、疎水性微粒子粉末の水への分散性、塗膜の撥水性及び耐久性の観点から、以下の評価を行った。
<分散性>
疎水性微粒子粉末の水への分散性について評価するため、ホモミキサーを使用し、回転数10,000rpm、撹拌時間30分間で分散した。得られた塗料組成物を目視により確認し、下記の3段階の評価基準に従って分散状態を評価した。評点A及びBを合格(良好)とした。
評点A:容易に分散かつ静置した後の沈降なし又は浮遊なし。
評点B:容易に分散するが一定時間の静置後に一部粉末が沈降する又は浮遊する。
評点C:全く分散できない、あるいは静置後に粉末が全て沈降する又は浮遊する。
【0044】
<撥水性>
塗膜の撥水性について評価するため各例の塗料組成物を、基材SUS430(表面処理♯400仕上げ)の50×50×0.5mm上(下塗り塗装なし)に刷毛で塗装し、室温で24時間乾燥させて塗膜を得た。得られた塗膜に対しイオン交換水を着滴させて撥水性を確認し、下記の4段階の評価基準に従って評価した。評点A及びBを合格(良好)とした。
評点A:水平部分に板を設置し自然に水滴が転がる。
評点B:15°板を傾けると水滴が転がり落ちる。
評点C:15°板を傾けると水滴が転がるが水跡が残る。
評点D:15°板を傾けても水滴が転がらない。
なお、表1中「-」は分散性の評価が評点Cのため評価できなかったものである。
【0045】
<耐久性>
塗膜の耐久性について評価するため各例の塗料組成物を、撥水性の評価で使用したものと同じ基材上に刷毛で塗装し、室温で24時間乾燥させて塗膜を得た。これを、縦100×横100×高さ40mmのポリプロピレン容器にイオン交換水150mLを入れたものに水平に浸漬させた。10日毎(90日まで)に評価(〇:水平部分に板を設置し、自然に水滴が転がるあるいは15°板を傾けると水滴が転がり落ちる,×:15°板を傾けると水滴が転がるが水跡が残るあるいは転がらない、あるいは塗膜が脱落し水面に浮いたため評価できず)を実施し、評点×になったときの日数について下記評価基準に従って評価した。評点A及びBを合格とした。
評点A:61日以上
評点B:31~60日
評点C:20~30日
評点D:20日未満
なお、表中「-」は分散性の評価が評点Cあるいは撥水性の評価が評点Dのため評価できなかったものである。なお、比較例2は塗膜として十分に成立しなかったため、耐久性の評価を行わなかった。そのため、同じく「-」と表記した。
【0046】
【0047】
表1中、実施例1~25は本発明の範囲内にある塗料組成物であり、分散性、撥水性及び耐久性の評価がいずれも良好であった。これに対して、比較例1~14は本発明の範囲外の塗料組成物であり、分散性、撥水性及び耐久性の評価の少なくとも一つが不良であった。
以下、評価結果を具体的に説明する。
まず比較例1より、溶媒が水のみであると、疎水性微粒子粉末は分散しないことが確認された。
また比較例2より、樹脂(E)を含有しないと塗膜として十分に成立しないことが確認された。
【0048】
次に実施例1~4より、疎水性微粒子粉末(A)と樹脂(E)の質量比は、98:2~42:58の範囲が好ましいことが確認された。すなわち、疎水性微粒子粉末(A)及び樹脂(E)の合量中の樹脂(E)の含有率は、2質量%以上58質量%以下の範囲が好ましいことが確認された。なお、この結果より、樹脂(E)の含有率の下限は0質量%を超えていればよいと判断された。
更に比較例3~6より、樹脂(E)の含有率が好ましい範囲内にあったとしても、極性項と水素結合項の和が本発明の範囲外であると、撥水しなくなることが確認された。このことについて考察すると以下の通りである。
[考察1]
疎水性微粒子粉末は粉末周りに多数の疎水基があるため撥水性を示す。しかし、塗料組成物中に有機溶剤が増えると疎水性微粒子の疎水基周りに有機溶剤が相互作用し、疎水性微粒子粉末が湿潤する。湿潤することで水分子が相互作用しやすくなり、さらに湿潤する。湿潤が進むとロータス効果が発現しにくくなるため、撥水性が低下すると考えられる。また、疎水性微粒子粉末に付着した水分子は室温条件下では揮発しにくいと知られており、膜形成後も膜中に存在することになる。したがって、膜の撥水性が低下したと考えられる。
[考察2]
塗料組成物中で有機溶剤が増えると、親水性である水性エマルション樹脂が凝集し樹脂の比表面積が小さくなる。これを膜にし乾燥させると、塗膜上に固着する疎水性微粒子粉末量が減少することになり、撥水性が低下したと考えられる。
【0049】
次に実施例5~8では比較例7、8と比較して良好な結果が得られた。すなわち、極性項と水素結合項の和は51.7MPa0.5以上57.2MPa0.5以下の範囲が好ましことが確認された。またこの結果より、極性項と水素結合項の和は51.2MPa0.5以上57.7MPa0.5以下の範囲であればよいと判断された。
【0050】
次に実施例9~11では比較例9と比較して良好な結果が得られた。この結果より、疎水性微粒子粉末(A)の含有率は0質量%を超え10質量%以下であればよく、また混合溶媒(D)の含有率は80質量%以上であることが好ましいと判断された。
【0051】
次に実施例12~16では比較例10、11と比較して良好な結果が得られた。この結果より、疎水性微粒子粉末の種類や、疎水性官能基の種類・数に限らず、炭素量が1.5質量%以上の疎水性微粒子粉末を用いて塗料組成物を作製すれば超撥水性が発現すると判断された。また、炭素量が6.0~8.5質量%の疎水性微粒子粉末を用いた実施例12でも良好な分散性が得られたことから、炭素量が高い疎水性微粒子粉末でも分散は可能であると判断された。
【0052】
次に実施例17~20では有機溶剤(C)の種類を変更しても良好な結果が得られた。この結果より、混合溶媒(D)のHSP値において極性項と水素結合項の和が51.2MPa0.5以上57.7MPa0.5以下であれば、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、グリコール系等、多様な有機溶剤を用いることができると判断された。
【0053】
次に実施例21~25では樹脂(E)の種類を変更しても良好な結果が得られた。この結果より、少なくとも水系のエマルション樹脂であれば、アクリルシリコン系、アクリル系、アクリルウレタン系、ウレタン系、エポキシ系、フッ素系等、多様な樹脂を用いることができると判断された。
【0054】
比較例12、13、14は水溶性高分子を含有する塗料組成物であり、水溶性高分子を含有すると塗膜の耐久性が低下することが確認された。
【要約】
【課題】超撥水性を備えた塗膜を形成でき、従来よりも塗膜の耐久性を向上させた、疎水性微粒子粉末を含有する水系の超撥水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも一種の疎水性微粒子粉末(A)と、水(B)及び有機溶剤(C)を混合した混合溶媒(D)と、樹脂(E)とを含み、水溶性高分子を実質的に含まず、前記疎水性微粒子粉末(A)は炭素量が1.5質量%以上であって、超撥水性塗料組成物中の含有率が0質量%を超え10質量%以下であり、前記混合溶媒(D)のハンセン溶解度パラメータは、極性項と水素結合項の和が51.2MPa0.5以上57.7MPa0.5以下である、超撥水性塗料組成物。
【選択図】なし