(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】蒸気タービン部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20241029BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20241029BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20241029BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20241029BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20241029BHJP
【FI】
F01D25/00 X
F01D25/00 Q
F01D5/28
B23K26/342
B23K26/073
B23K26/354
(21)【出願番号】P 2020060302
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593201039
【氏名又は名称】新日本溶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠也
(72)【発明者】
【氏名】千綿 司雄
(72)【発明者】
【氏名】石村 進
(72)【発明者】
【氏名】福田 優太
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009551(JP,A)
【文献】特開昭62-183983(JP,A)
【文献】特開2006-070297(JP,A)
【文献】特開2017-125483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0032577(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 13/00-15/12;23/00-25/36
F01D 1/00-11/24
B23K 26/073;26/342;26/354
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上に金属材料粉末とセラミック材料粉末とを含む粉末材料を用いてクラッド層を形成するクラッド層形成工程と、
前記クラッド層の表面から100~200μmまでを、
レーザスポット面積200mm
2
未満でのレーザ照射により加熱溶融する表面加熱工程であって、クラッド層形成工程の終了後に行う表面加熱工程と
を含む、蒸気タービン部材の製造方法。
【請求項2】
前記クラッド層形成工程が、前記母材上に前記粉末材料を噴霧しながらレーザ照射を行うレーザクラッディング工程を含み、
前記表面加熱工程が
、前記表面から前記粉末材料の粒度分布の最頻値以上の深さまで加熱溶融する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面加熱工程におけるレーザ照射の走査速度が、400~600mm/minである、請求項
1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された蒸気タービン部材。
【請求項5】
母材上に、金属材料粉末とセラミック材料粉末とを含む粉末材料が溶融されたクラッド層が形成された耐食性部位を備える蒸気タービン部材であって、前記クラッド層の表面から100~200μmまでが溶融されており、前記クラッド層の最大高さ粗さRzが6.3μm以下である、蒸気タービン部材。
【請求項6】
前記蒸気タービン部材がタービン翼である、請求項
5に記載の蒸気タービン部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン部材の製造方法、並びに蒸気タービン部材に関する。本発明は、特には、表面の平滑性に極めて優れた蒸気タービン部材の製造方法、並びに蒸気タービン部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービンでは、液滴化した蒸気が衝突することにより蒸気タービン部材、特にはタービン低圧段翼の前縁部(蒸気入口側)等にエロージョン摩耗を生じる。エロージョン摩耗対策として、例えばエロージョンによって侵食される翼前縁部に、火炎トーチや高周波誘導加熱、レーザ加熱を用いた母材の硬化処理を行い、翼前縁部の耐エロージョン性を向上させており、蒸気タービン翼前縁部には、通常、硬化層が形成されている。
【0003】
特に、地熱発電に用いられるタービンの駆動蒸気には、腐食成分の混入が多く、前記の耐摩耗性に加えて、耐食性が要求される。そこで、耐摩耗性と耐食性の両特性に優れる合金、例えばステライト(登録商標)による被覆層をろう付けによりタービン翼の母材上に形成する技術が知られている。このろう付けは、板状の耐食合金をタービン翼の複雑曲面形状に合わせて曲げ加工したものを用いる。この複雑曲面形状に追従した曲げ加工には熟練したノウハウが要求されるため、品質の維持が難しい場合があった。
【0004】
レーザクラッディングを用いてステライトのクラッド層をタービン翼上に形成し、上記の複雑形状追従に対する問題を解決する技術が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。この方法は、入熱管理が容易であり、かつ微細処理が可能で、様々な翼形状に追従可能であるという利点をもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-775号公報
【文献】特開2017-125483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のクラッディング施工では、クラッディングにより形成された層の表面は、クラッディングによるビードの重ね合わせによる凹凸や、材料粉末の残存による凹凸が発生する。この凹凸はタービン翼の最適化された流体形状を崩し、蒸気から回転力を生み出す効率、すなわち発電効率が低下する問題がある。この凹凸に対しては、研削などの機械加工によりクラッド層を削ることで、元のタービン翼形状に戻す工程が行われている。この工程のためには、クラッド層を必要量よりも厚く積層する必要があり、また、機械加工により工数を要する。よって、クラッディングが高コストとなる問題があった。
【0007】
特許文献2では、クラッド層形成後に、クラッド層表面を溶融させないパワーでレーザ照射を行うことが開示されているが、この工程は、クラッド層表面の凹凸に影響を与えるものではなく、前記の後加工を要する問題は解決されていない。
【0008】
また、タービン翼のみならず、蒸気タービンを構成するほかの部材においても同様の問題が生じうる。
【0009】
上述した問題に対し、機械加工などの煩雑な操作を行うことなく、表面が平滑なクラッド層を備える蒸気タービン部材を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一実施形態によれば、蒸気タービン部材の製造方法であって、母材上の腐食が発生しやすい部位に金属を含む粉末材料を用いてクラッド層を形成するクラッド層形成工程と、前記クラッド層の表面を加熱溶融する表面加熱工程とを含む。
【0011】
前記蒸気タービン部材の製造方法において、前記クラッド層形成工程が、前記母材上に前記粉末材料を噴霧しながらレーザ照射を行うレーザクラッディング工程を含み、前記表面加熱工程が、レーザ照射により、前記表面から前記粉末材料の粒度分布の最頻値以上の深さまで加熱溶融する工程を含むことが好ましい。
【0012】
前記蒸気タービン部材の製造方法において、前記加熱溶融の深さが、100~200μmであることが好ましい。
【0013】
前記蒸気タービン部材の製造方法において、前記表面加熱工程におけるレーザ照射が、レーザスポット面積200mm2未満で実施されることが好ましい。
【0014】
前記蒸気タービン部材の製造方法において、前記表面加熱工程におけるレーザ照射の走査速度が、400~600mm/minであることが好ましい。
【0015】
本発明は別の局面によれば、先のいずれかに記載の蒸気タービン部材の製造方法により製造された蒸気タービン部材に関する。
【0016】
本発明はまた別の局面によれば、蒸気タービン部材であって、母材上にクラッド層が形成された耐食性部位を備え、前記クラッド層の表面から100~200μmまでが溶融されている、蒸気タービン部材に関する。
【0017】
前記蒸気タービン部材において、前記クラッド層の最大高さ粗さRzが6.3μm以下であることが好ましい。前記蒸気タービン部材は、蒸気タービン翼であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、蒸気タービン部材の腐食が発生しやすい部位に形成されたクラッド層に局所加熱を行うことにより、クラッド層表面を溶融させて凹凸をなくすことができる。これにより、従来のクラッディング施工では不可能であった、機械加工を用いた後加工なくクラッド層表面の平滑化が可能となり、加工しろを考慮した余盛による材料粉末コスト増加や後加工によるコストのない、低コストなクラッド層形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン部材の製造方法を模式的に示す図である。
【
図2】蒸気タービン翼の腐食が生じやすい部位を示す図である。
【
図3】
図3は、クラッド層が形成された蒸気タービンの一部を模式的に示す図であり、
図3(a)は蒸気タービンのクラッド層が形成された面の模式的な平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のA-A線による断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例における、第1工程終了後、第2工程実施前のクラッド層の断面を撮影した写真である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例における、第1工程終了後、第2工程実施前のクラッド層の断面を撮影した走査型顕微鏡写真であって、
図4のD部分を拡大した走査型顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例における、第1工程終了後、第2工程実施前のクラッド層の表面状態の測定結果を示すグラフであって、
図6(a)は、ろ波うねり曲線を示し、縦軸の単位はμmであり、縦倍率は100倍、横倍率は20倍であり、
図6(b)は、粗さ曲線を示し、縦軸の単位はμmであり、縦倍率は500倍、横倍率は20倍である。
【
図7】
図7は、本発明の方法により製造されたクラッド層の断面を撮影した写真であって、
図3(b)のB部分に対応する箇所を示す写真である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例による蒸気タービン翼の表面状態の測定結果を示すグラフであって、
図8(a)は、ろ波うねり曲線を示し、縦軸の単位はμmであり、縦倍率は100倍、横倍率は20倍であり、
図8(b)は、粗さ曲線を示し、縦軸の単位はμmであり、縦倍率は500倍、横倍率は20倍である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例により製造されたクラッド層の断面を撮影した写真であり。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。また、図面は、本発明を説明するための例示的な概略図であって、図中の各部材の寸法や相対的な位置関係は、本発明を限定するものではない。
【0021】
[第1実施形態:蒸気タービン部材の製造方法]
本発明は、第1実施形態によれば、蒸気タービン部材の製造方法であって、母材上の腐食が発生しやすい部位に金属を含む粉末材料を用いてクラッド層を形成するクラッド層形成工程(以下、第1工程ともいう)と、前記クラッド層の表面を加熱溶融する表面加熱工程(以下、第2工程ともいう)とを含む。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態による、蒸気タービン部材の製造方法を模式的に示すものである。
図1においては、蒸気タービン部材の一例として、蒸気タービン翼の製造を例示して本発明を説明するが、本発明は、蒸気タービン翼の製造方法に限定されるものではない。製造される蒸気タービン翼2は、母材21と、その一部に形成されたクラッド層22から構成されている。そして、第1及び第2工程において用いることが可能なレーザクラッディング装置1が、被加工物である蒸気タービン翼2に対向して配置されている。
【0023】
第1工程について説明する。蒸気タービン翼2の母材21としては、耐食性、耐エロージョン摩耗性に優れたステンレス鋼を用いることができ、特には、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレスから選択されるステンレス鋼を用いることが好ましい。また、特に、地熱発電用の蒸気タービン翼の母材21としては、耐食性の観点から、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いることがさらに好ましい。当該所定の材料を、所定の翼形状に成形し、本実施形態における母材21とすることができる。翼形状に加工したものにそのままクラッド層22を形成してもよく、母材21の一部を切り取って、切り取った形状のクラッド層22を形成してもよい。母材21は、第1工程前に、必要に応じて、研磨紙で磨くなどの物理的表面処理や、母材強度等の特性に影響を与えないそのほかの表面処理を行ってもよい。
【0024】
母材21におけるクラッド層22形成部位は、蒸気タービン翼として用いる場合に、腐食が発生しやすい部位であってよく、例えば、翼先端近傍の周速が大きくなる部位や、周縁部位などの厚さが薄い部位であってよく、典型的には翼前縁部であるが、これらには限定されない。
図2は、一般的な蒸気タービン翼の腐食が発生しやすい部位を模式的に示す図である。
図2(a)は、蒸気タービン翼2の正面図を示し、(b)は、翼先端の断面図を示す。いずれの図においても、翼前縁部が、腐食が発生しやすい部位Eとなっている。このEで示す部位に、クラッド層22を形成することができる。
【0025】
クラッド層22の形成は、レーザや、高密度エネルギー線によるクラッディングにより実施することができ、装置の汎用性の観点から、レーザクラッディングにより実施することが好ましい。
図1は、第1工程を実施する装置の一例として、レーザクラッディング装置1を示す。
【0026】
クラッド層22を形成する材料は、金属を含む粉末材料である。したがって、金属材料粉末、好ましくは耐食合金粉末を単独で用いることができる。あるいは、金属材料粉末、好ましくは耐食合金粉末と、セラミック粉末との両者を用いることもできる。
【0027】
金属材料粉末としては、例えば、Co、Ni、Fe、Cr、Mo、V、Ti、Nb等の耐食合金が挙げられるが、これらには限定されない。中でも、例えば、コバルト系合金やニッケル系合金を好ましく使用することができる。コバルト系合金としては、コバルトを主成分とし、クロムとタングステンをさらに含む合金であるステライト(登録商標)、あるいはステライトを含む複合材を用いることができる。他に、コバルトを主成分とし、クロムとモリブデンをさらに含む合金であるトリバロイ(登録商標)、あるいはトリバロイを含む複合材を用いることができる。ニッケル系合金としては、ニッケルを主成分とし、モリブデンやクロム等をさらに含む合金であるハステロイ(登録商標)、あるいはハステロイを含む複合材を用いることができる。ハステロイとしては、例えば、ハステロイC4、C2000、C22、C276、BC-1、G3、N、Xが挙げられるが、これらには限定されない。他に、ニッケルを主成分とし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデンをさらに含むインコネル(登録商標)、あるいはインコネルを含む複合材を用いることができるが、これらには限定されない。このような耐食性の金属材料粉末は、クラッド層22に耐食性を与え、錆を防止することができる。金属材料粉末は、一種類のみであってもよく、二種以上を混合して用いることもできる。
【0028】
セラミック材料粉末としては、タングステンカーバイド(WC、W2C)、NbC、VC、CrC、MoC等が挙げられるが、これらには限定されない。また、セラミックと金属が複合されたサーメットもセラミック材料粉末に含まれるものとし、WC/Niサーメット、WC/Coサーメット、WC/Co/Crサーメット等が挙げられるが、これらには限定されない。セラミック材料粉末は、一種類のみであってもよく、二種以上を混合して用いることもできる。
【0029】
セラミック材料及び金属材料粉末の平均粒子径や、粒度分布、並びにこれらの粉末の配合比は、当業者が目的に適合するように適宜選択することができる。
【0030】
クラッド層22’の形成厚みは、必要とされる蒸気タービン翼2の仕様等により当業者が適宜決定することができ、特には限定されない。クラッド層22’が薄すぎると耐食性・耐摩耗性が不十分となる場合があり、厚すぎると歪により割れやすくなる場合がある。また、クラッド層22’は、同一材料からなる一層構成であってもよく、組成の異なる二層以上のクラッド層から構成される多層盛りに形成することもできる。
【0031】
レーザクラッディング装置1を用いてレーザクラッディングを行う場合、クラッディングレーザ11からレーザ光Lを照射するとともに、粉体供給ノズル12から、図示しないキャリアガスにより金属を含む材料粉末Pを供給する。これにより、母材21上で材料粉末Pを溶融し、接合してクラッド層22’を形成することができる。なお、金属材料粉末に加え、セラミック材料粉末を用いる場合や、それぞれ二種類以上の粉末を用いる場合には、粉体供給ノズル12に、キャリアガスによって粉末材料を圧送可能な供給ライン13を2本以上、例えば、4本接続することにより、これらの供給ライン13から任意の材料粉末Pを供給し、粉体供給ノズル12を通して均一に混合し、クラッディングを実施することができる。
【0032】
クラッディングレーザ11としては、半導体レーザを用いることが好ましい。レーザ照射条件は、母材や粉体組成、母材の曲率などにより、決定することができ、当業者であれば、レーザクラッディングにおける各種条件を、適宜設定することができる。
【0033】
第1工程終了後のクラッド層表面の形状を、
図3に示す。
図3(a)は、クラッド層22’が形成された面の模式的な平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のA-A線による模式的な断面図である。クラッド層22’表面には、レーザの走査に伴うクラッドビード間の段差と供給粉末の残存がみられる。ビード間の段差は、平均凹凸で表すことができる。本発明における平均凹凸とは、うねり曲線において得られる山型形状において、各山型形状の頂部と谷部の高低差を測定し、平均値を算出した値をいうものとする。また、第1工程終了後のクラッド層22’の最大高さ粗さRzは、200μm以上となる場合がある。本発明における最大高さ粗さRzは、触針式表面粗さ測定装置を用いて測定した値をいうものとする。なお、第1工程終了後のクラッド層22’表面の平均凹凸及び最大高さ粗さRzの値は一例であり、本発明を限定するものではない。
【0034】
第1工程後に、第2工程であるクラッド層22’の表面を加熱溶融する表面加熱工程を行う。第1工程終了後、連続して第2工程を実施することが好ましく、第1工程の実施に伴いクラッド層22’の温度が400℃~1200℃程度となっている被加工物に対して、第2工程を実施することが好ましい。
【0035】
第2工程では、クラッド層22’にレーザ照射することにより、クラッド層22’の表面を加熱溶融する。レーザ照射は、クラッド層の表面のみが加熱溶融し、クラッド層の全体が溶融しない条件とする。クラッド層が「加熱溶融」した状態とは、加熱溶融したクラッド層を形成する粒子の粒子径が、クラッド層形成前の粉末の粒子径と比較して、7%以上減少している状態をいうものとする。粒子径の比較は、クラッド層断面の電子顕微鏡による断面組織観察に基づいて実施することができる。具体的には、50個程度の粒子が見えるように断面組織観察を行い、すべての粒子径の平均値を算出する。このときの観察視野数は3視野とする。
【0036】
好ましくは、第2工程後のクラッド層22の表面の加熱溶融は、クラッド層22の最表面、すなわち大気と接触している面から、粉末材料の粒度分布の最頻値以上の深さが、加熱溶融した状態になっていることが好ましい。粉末材料が、例えば、金属材料粉末と、セラミック材料粉末の二種類以上を含む場合であっても、粒度分布の最頻値がより大きい方の値以上の深さが加熱溶融した状態になっていることが好ましい。典型的には、溶融深さは、クラッド層の最表面から100~200μm程度であってよく、100~150μm程度であることがより好ましいが、特定の値には限定されない。特定の溶融深さとすることで、クラッド層の耐腐食性を確保するためである。
【0037】
第2工程のレーザ照射には、半導体レーザを用いることが好ましい。本工程においては、第1工程のクラッディング装置1が備えるクラッディングレーザ11を使用することができる。この点で、第2工程の実施のために別仕様のレーザ発振器を別途準備する必要が無いため、有利である。したがって、レーザの波長はクラッディングレーザ11と同様とすることができる。レーザの出力は、特定の値に拘束されるものではなく、照射対象となる材料や、母材材料、レーザ照射の他の条件に基づき、前述の溶融深さ条件を充足するように、当業者が適宜決定することができる。レーザスポット面積は、200mm2未満であり、100mm2未満とすることが好ましく、50mm2未満とすることが好ましく、10mm2以上とすることができるが、これらの値には限定されない。レーザの照射は、第1工程で形成したクラッド層22’全体に対してスポットがもれなく当たるように何ラインもレーザ走査する。走査速度は、400~600mm/minとすることが好ましい。
【0038】
第2工程により、表面が溶融加熱されたクラッド層22は、第1工程終了後のクラッド層22’に存在したクラッドビード間の段差や供給粉末の残存が実質的にみられない状態となっている。例えば、第2工程後のクラッド層表面の平均凹凸は、例えば70μm以下とすることができる。最大高さ粗さRzは例えば6.3μm以下、好ましく、3μm以下とすることができる。
【0039】
本実施形態に係る蒸気タービン部材の製造方法においては、表面が平滑で、発電効率に極めて優れた蒸気タービン部材を製造することができる。また、本実施形態に係る蒸気タービン部材の製造方法においては、蒸気タービン部材を高信頼性や長寿命化することができる。特には、蒸気タービン部材がタービン翼である場合、任意の蒸気タービン翼を製造することができ、例えば、火力発電用の蒸気タービン翼、地熱発電用の蒸気タービン翼が挙げられる。中でも、硫黄や塩素成分を多く含むガスが接触する地熱発電用の蒸気タービン翼においては、大きな耐腐食性が要求されるが、本実施形態に係る製造方法によれば、表面が平滑で、発電効率に極めて優れたクラッド層を備える蒸気タービン翼を製造することができるため、大変有利である。特には、セラミック複合クラッド層で耐食性を確保しつつ、平滑で流体設計的に有利な形状とできることで発電効率の低下を防止することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る蒸気タービン部材の製造方法には、蒸気タービン部材を新たに製造する際の製造に加えて、蒸気タービン部材を修復する方法も含むものとする。この場合、必要に応じて、母材の一部に研磨処理等を行った上で、本実施形態の製造方法同様に、必要な個所に対して、第1工程、第2工程を実施し、蒸気タービン部材を修復し、製造することができる。
【0041】
本実施形態による製造方法によれば、蒸気タービン部材においてクラッディングを施した部位にて、レーザにて表面平滑化の処理を行うことで、煩雑な研削工程などを必要とすることなく、表面の平滑性に優れたクラッド層を有するタービン部材を得ることができる。
【0042】
上記において説明した製造方法は、蒸気タービン翼以外の蒸気タービン部材、例えば、蒸気タービンのロータ、静翼ホルダ、弁棒、弁体、弁座、ブッシュ、気密リングを含むが、それらには限定されない部材の製造方法においても同様に適用することができる。これらの部材についても、所定の母材の、腐食が発生しやすい部位にクラッド層を形成する工程と、クラッド層の表面を加熱溶融する表面加熱工程とを実施し、表面の平滑性に優れたクラッド層を有するタービン部材を得ることができる。腐食もしくは摩耗が発生しやすい部位は、部材によっても異なり、例えば、タービンロータについては、軸受との摺動面が、腐食が発生しやすい部位であり、当該部位にクラッド層を形成することができる。各部材の腐食もしくは摩耗が発生しやすい部位は、通常、当業者は理解することができ、クラッド層を形成する部位は適宜設定することができる。これらの部材においても、表面が平滑で、発電効率の向上に寄与することができるという効果を得ることができる。
【0043】
[第2実施形態:蒸気タービン部材]
本発明は、第2実施形態によれば蒸気タービン部材であって、母材上にクラッド層が形成された耐食性部位を備え、前記クラッド層の表面から100~200μmまでが溶融されている。本実施形態による蒸気タービン部材は、第1実施形態の製造方法により製造された蒸気タービン部材である。表面から100~200μmまでが溶融されている状態についての定義は、第1実施形態に記載したとおりである。このような溶融状態は、走査型顕微鏡等により、クラッド層の断面を観察することにより確認することができる。本実施形態においても、蒸気タービン部材としては、第1実施形態において記載した各部材が挙げられるが、これらには限定されない。
【0044】
第2実施形態による蒸気タービン部材はまた、クラッド層の最大高さ粗さRzが6.3μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。最大高さ粗さRzは、触針式表面粗さ測定装置を用いて測定した値をいうものとする。
【0045】
本実施形態による蒸気タービン部材は、平滑性を備え、かつ、表面の溶融を最小限に抑えているため、発電効率と耐腐食性とを両立することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例]
本発明の第1実施形態による第1工程及び第2工程を含む方法により、蒸気タービン部材の一例である蒸気タービン翼を製造した。タービン翼の母材として、13クロム合金鋼(マルテンサイト系ステンレス鋼)によって構成されており、所定の形状に加工されているものを用いた。13クロム合金鋼は、レーザ吸収率のばらつきを抑制するため、あらかじめ#80の研磨紙で磨いておいた。クラッディング用レーザには波長940、980±10nmを発振する半導体レーザ(laserline社製)を用いた。レーザ焦点位置がタービン翼母材の表面となるようにレーザヘッド高さを調整した。金属材料粉末としては、粒度分布が44~105μmのハステロイC276を用い、セラミック粉末としては、粒度分布が45~90μmのWC/Niサーメットを用い、金属材料粉末及びセラミック粉末はレーザヘッドに取り付けられたノズルを通じて、キャリアガス(アルゴンガス)により定量的に供給した。金属材料粉末の粉体供給速度は、10g/min、セラミック材料粉末の粉体供給速度は、10g/minとした。また、クラッディングは、母材を固定し、レーザクラッディング装置を可動として行い、送り速度は、500mm/minとした。この条件で、タービン翼の摩耗が発生する部位(
図2のEで示した部位)に沿って、金属材料粉末及びセラミック粉末を供給しながらレーザ光を照射することによってクラッド層22’を形成した。
【0048】
図4は第1工程完了後、第2工程実施前のクラッド層22’の断面写真である。クラッド層22’の表面には、レーザ走査に
よるビード間の段差を視認することができる。
図5は、
図4のD部分を拡大した走査型顕微鏡写真である。クラッド層22’の表面に供給粉末Pの残存がみられた。クラッド層22’表面のうねり曲線を先に定義した方法により、最大高さ粗さRzを、触針式表面粗さ測定装置を用いて測定した。結果のグラフを
図6に示す。
図6(a)に示すうねり曲線に基づく平均凹凸は246μmであり、
図6(b)に示す粗さ曲線に基づく最大高さ粗さRzは、20.352μmであった。
【0049】
次いで、第1工程によるクラッド層22’の形成後、連続してクラッド層22’表面にレーザ照射することによる表面加熱工程(第2工程)を実施した。表面加熱工程におけるレーザ照射は、上記レーザクラッディングと同一の半導体レーザ発振器を用いた。レーザスポットサイズは、□5mm、レーザ出力850W、速度500mm/minで行った。
【0050】
図7は、第2工程終了後のクラッド層22の断面写真である。レーザ照射により、表面が平滑化され、段差は見られなくなっている。クラッド層22表面のうねり曲線を先に定義した方法により、最大高さ粗さRzを、触針式表面粗さ測定装置を用いて測定した。結果のグラフを
図8に示す。
図8(a)に示すうねり曲線に基づく平均凹凸は61μmであり、
図8(b)に示す粗さ曲線に基づく最大高さ粗さRzは、2.404μmであった。この表面粗さは後加工(機械加工)による仕上げ粗さRz6.3μm以下であり、十分に平滑な表面が得られたことがわかる。
【0051】
図9は、得られたクラッド層の断面写真であり、
図10は、
図9の部分Cの走査型顕微鏡による観察写真を示す。
図10より、第2工程終了後のクラッド層22において、レーザ照射により溶融した部分221の深さは120μm程度であることが確認された。本実施例のクラッド層22は耐食性と耐摩耗性を両立するためにセラミック粉末は実質的に溶融させず、金属材料粉末のみを溶融させた。第1工程によるクラッド層22’形成後、第2工程によるレーザ照射によりセラミック粉末が過度に溶融してしまうと耐食性の低下を招く問題があるが、本実施例ではセラミック粉末の溶融部分221は極表層(110μm)のみであり、セラミック粉末が溶融していない部分222の厚さは1900μmであった。このことから、クラッド層に必要な機能である耐食性を確保しつつ表面の平滑なクラッド層が得られた。
【符号の説明】
【0052】
1 レーザクラッディング装置
11 クラッディングレーザ
12 粉体供給ノズル
13 粉体供給ライン
2 蒸気タービン翼
21 母材
22 クラッド層
P 粉末材料粒子
L レーザ
E 腐食が発生しやすい部位