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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】アルカリ性化剤による血液浄化
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/194 20060101AFI20241029BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A61K31/194
A61P13/12
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P39/02
A61P19/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022180936
(22)【出願日】2022-11-11
(62)【分割の表示】P 2017085741の分割
【原出願日】2017-04-24
(65)【公開番号】P2023001352
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2017082423
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:平成29年3月13日 ウェブサイトのアドレス:https://endai.umin.ac.jp/cgi-open-bin/hanyou/lookup/detail.cgi?cond=%27A00018-00058-20341%27&&&parm=a00018-00058
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228590
【氏名又は名称】日本ケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】阿部 倫明
(72)【発明者】
【氏名】小柴 生造
(72)【発明者】
【氏名】西岡 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 里美
(72)【発明者】
【氏名】寺中 康行
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191707(JP,A)
【文献】国際公開第2010/126146(WO,A1)
【文献】阿部倫明, 腎尿細管液の酸性化とアルブミン尿による腎障害機序の解明と新規腎臓病治療戦略の開発, 2012年度
【文献】Bicarbonate therapy for prevention of chronic kidney disease progression,Kidney International,2014年,Vol. 85, No. 3,p. 529-535
【文献】経口アルカリ性化剤により薬物的血液浄化される尿毒症物質の検討,第60回日本腎臓 学会学術総会ウェブ サイト,2017年03月13日,https://endai.umin.ac.jp/cgi-open-bin/hanyou/lookup/detail.cgi?cond=%27A00018-00058-20341%27&&&parm=a00018-00058
【文献】日本腎臓学会誌,第59巻、第3号,2017年04月19日,p. 234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/194
A61P 13/12
A61P 39/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病に伴う心血管系疾患の治療又は予防用、及び血中の尿毒症物質濃度の低下用医薬組成物であって、前記アルカリ性化剤が、クエン酸ナトリウム又はその水和物と、クエン酸カリウム又はその水和物との混合物であ、医薬組成物。
【請求項2】
アルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病に伴う心血管系疾患の治療又は予防用、及び尿中の尿毒症物質濃度の増加用医薬組成物であって、前記アルカリ性化剤が、クエン酸ナトリウム又はその水和物と、クエン酸カリウム又はその水和物との混合物である、医薬組成物。
【請求項3】
らに、動脈硬化の改善用である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病の進行抑制用、及び血中の尿毒症物質濃度の低下用医薬組成物であって、前記アルカリ性化剤が、クエン酸ナトリウム又はその水和物と、クエン酸カリウム又はその水和物との混合物であ、医薬組成物。
【請求項5】
アルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病の進行抑制用、及び尿中の尿毒症物質濃度の増加用医薬組成物であって、前記アルカリ性化剤が、クエン酸ナトリウム又はその水和物と、クエン酸カリウム又はその水和物との混合物である、医薬組成物。
【請求項6】
ルカリ性化剤を含む、急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制用、及び血中の尿毒症物質濃度の低下用医薬組成物であって、前記アルカリ性化剤が、クエン酸ナトリウム又はその水和物と、クエン酸カリウム又はその水和物との混合物であ、医薬組成物。
【請求項7】
アルカリ性化剤を含む、急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制用、及び尿中の尿毒症物質濃度の増加用医薬組成物であって、前記アルカリ性化剤が、クエン酸ナトリウム又はその水和物と、クエン酸カリウム又はその水和物との混合物である、医薬組成物。
【請求項8】
期の慢性腎臓病患者に投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
テージG3b以下の慢性腎不全患者に投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
テージG2の慢性腎不全患者に投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
記アルカリ性化剤が、痛風又は高尿酸血症における酸性尿が改善される量投与されるように設計された、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
記アルカリ性化剤の投与により、投与前に比較し、尿中の尿毒症物質濃度が増加する、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
記医薬組成物が錠剤である、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性化剤による血液浄化に関する。
【背景技術】
【0002】
透析や移植を必要とする末期腎不全(end-stage Kidney disease:ESKD)患者は世界的に増加している。日本においても増加傾向にあり、2014年末の透析患者数は32万人となっている。
このESKDの予備軍として認識されているのが慢性腎臓病(CKD)である。CKDは、原疾患を問わず、慢性に経過する腎臓病を包括する概念であり、糸球体濾過量(GFR)で表される腎機能の低下があるか、又は腎臓の障害を示唆する所見が慢性的(3ヶ月以上)に持続する病態全てを包含する概念である。CKDはESKDへの進行リスクであるばかりではなく、心血管疾患(CVD)等の強力な発症リスクであることから、CKDを早期に発見し適切な治療を行うことは非常に重要である。これまでに多くのCKD治療法が確立されているが、まだ不十分で、さらに腎保護剤の開発が求められている。
【0003】
CKDでは、腎クリアランスの低下に伴い、様々な尿毒症物質が生体内に蓄積する。なかでも、トリプトファンの終末代謝産物であるインドキシル硫酸は、CKDの進行に伴い血中濃度が増加し、高濃度(100μM~1mM)のインドキシル硫酸が血中に蓄積する。インドキシル硫酸は、腎臓の線維化による腎障害の進展や、血管石灰化によるCVD等のCKDの合併症にも深くかかわることが知られており、血清中のインドキシル硫酸濃度は透析患者の死亡率や心血管イベント発症率と相関するという報告がある(非特許文献1)。そして、CKD患者の血中インドキシル硫酸の濃度を低下させることで、ESKDへの進行が抑制でき、腎不全に関与したCVDの発症を抑制できると考えられている。実際、腸管内でインドキシル硫酸の前駆体であるインドールを吸着し、血中インドキシル硫酸濃度を低下させる球形吸着炭製剤(クレメジン(登録商標))は、CKD患者の透析導入を遅延させ、動脈硬化を改善する(非特許文献2)。
【0004】
一方、進行したCKD患者では血中の重炭酸イオン(HCO3 -)濃度が低くなり、代謝性アシドーシスを発症することから、炭酸水素ナトリウムやクエン酸製剤等のアルカリ性化剤が投与される。そして、アルカリ性化剤である炭酸水素ナトリウムの投与によりCKDの進行が抑制されることが報告されている(非特許文献3)。また、ネフローゼ動物モデルにおいて、炭酸水素ナトリウムの経口投与が、酸性尿による尿細管細胞傷害を抑制することが報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、早期のCKD患者にアルカリ性化剤を投与することによって、腎障害の進行を抑制することについては報告されておらず、尿毒症物質の血中濃度低下についても報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Barreto, F.C., et al.: Serum indoxyl sulfate is associated with vascular disease and mortality in chronic kidney disease patients. Clin. J. Am. Soc. Nephrol., 4: 1551-1558, 2009.
【文献】Nakamura T., et al.: Oral ADSORBENT AST-120 decreases carotid intima-media thickness and arterial stiffness in patients with chronic renal failure. Kidney Blood Press Res, 27: 121-6, 2004.
【文献】Brito-Ashurst, I.D., et al.: Bicarbonate supplementation slows progression of CKD and improves nutritional status. J. Am. Soc. Nephrol., 20: 2075-2084, 2009.
【文献】Souma T., et al.: Luminal alkalinization attenuates proteinuria-induced oxidative damage in proximal tubular cells. J. Am. Soc. Nephrol., 22: 635-648, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題の一つは、腎臓病患者における血液浄化に有用な医薬を提供することである。本発明の他の一つの課題は、慢性腎臓病の進行(慢性腎臓病の重症化)の抑制、尿毒症症状の治療及び予防、及び透析導入の遅延に有用な医薬を提供することである。本発明の他の一つの課題は、急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制に有用な医薬を提供することである。本発明の他の一つの課題は、尿毒症物質の体外排出促進用の食品を提供することである。本発明の他の一つの課題は、慢性腎臓病の進行抑制を判定する方法、血中の尿毒症物質の濃度低下及び/又は尿中への尿毒症物質の排出促進を判定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を行ったところ、体液をアルカリ性化する薬剤が、腎臓病患者体内からの尿毒症物質排泄促進(例えば、尿毒症物質の尿中への排泄促進)に有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、尿毒症物質の体外への排泄促進用医薬組成物を提供する。
【0009】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、尿毒症物質の血中濃度低下用医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、尿毒症物質の尿中排泄促進用医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病における尿毒症症状の改善用医薬組成物を提供する。
【0012】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病における透析導入の遅延用医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、慢性腎臓病に伴う心血管系疾患の治療又は予防用医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制用医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明は、一つの側面において、アルカリ性化剤を含む、尿毒症物質の体外排泄促進用食品組成物を提供する。
【0016】
本発明は、一つの側面において、慢性腎臓病の進行抑制を判定する方法を提供する。
【0017】
本発明は、一つの側面において、ヒトの血中の尿毒素の濃度低下及び/又は尿中への尿毒素の排出促進を判定する方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明が提供する医薬組成物等により、哺乳動物において尿毒症物質が体外に排出される。本発明が提供する方法により、尿毒症物質が体外に排出されるか否か、及び/又は慢性腎臓病の進行が抑制できているか否かの予備的な判断をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.医薬組成物
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、アルカリ性化剤を含む。
アルカリ性化剤とは、哺乳動物(特にヒト)の体液、例えば、血液又は尿のHCO3 -濃度やpHを高める能力を有する薬剤である。アルカリ性化剤の例としては、クエン酸の医薬的に許容可能な塩、若しくはその水和物又はそれらの混合物、及び炭酸水素ナトリウム(重曹)が挙げられる。クエン酸の医薬的に許容可能な塩の例としては、クエン酸アルカリ金属塩が挙げられる。クエン酸アルカリ金属塩の例としては、クエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウムが挙げられ、それぞれ安定なクエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)等の水和物であってもよい。
好ましいアルカリ性化剤の例としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム若しくはその水和物又はそれらの混合物が挙げられ、例えば、クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)の混合物であってもよい。クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)の混合比は、当業者が適宜設定でき、例えば、クエン酸カリウムの一水和物とクエン酸ナトリウムの二水和物のモル比を、クエン酸カリウムの一水和物1に対してクエン酸ナトリウムの二水和物を0.01~100とすることができる。混合比をモル比で約1:1としてもよい。
また、好ましいアルカリ性化剤の他の例には、クエン酸ナトリウム又はその水和物が挙げられ、例えば、クエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)であってもよい。
また、好ましいアルカリ性化剤の他の例には、クエン酸カリウム又はその水和物が挙げられ、例えば、クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)であってもよい。
【0020】
本明細書において尿毒症物質とは、正常な腎により排泄される物質(老廃物や毒素等)であって、腎機能低下等の何らかの原因により排泄機能が低下したときに、血中に増加(蓄積)して尿毒症の症状又は疾患を引き起こす物質を意味する。尿毒症物質の例には、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及びアルギニノコハク酸が挙げられる。
このうち、インドキシル硫酸は、食物蛋白質由来のトリプトファンから腸内細菌により生成されたインドールが肝臓で酸化及び硫酸抱合されて生成される。インドキシル硫酸は血中ではそのほとんどがアルブミンと結合して存在しており、代謝を受けず、健常人では腎臓から尿中へ排泄されるが、腎臓病患者の場合は、腎臓機能低下によって、血中に高濃度で蓄積されたままとなる。
尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、腎臓病患者において尿毒症を惹起するだけでなく、尿細管細胞に蓄積し、尿細管細胞障害を惹起し、慢性腎臓病患者を透析導入に至らしめる原因となる。
よって、血中のインドキシル硫酸濃度を低下させることで、腎臓病患者の尿毒症症状が改善され、尿毒症の治療及び/又は予防が可能となる。また、血中のインドキシル硫酸濃度を低下させることで、尿細管細胞障害を抑制し、尿細管の機能(例えば、グルコース、アミノ酸等の再吸収)を維持し、慢性腎臓病患者の透析導入を遅延させることが可能となる。一つの実施態様において、慢性腎臓病患者は、進行性の慢性腎臓病である。
【0021】
また、尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、心筋の線維化、動脈硬化、血管平滑筋細胞の増殖、血管内皮細胞障害、動脈壁の肥厚、大動脈の石灰化等を惹起し、慢性腎臓病患者の合併症の一つである心血管系疾患(例えば、心不全、心筋梗塞、脳卒中等)を発症させる。
よって、血中のインドキシル硫酸濃度を低下させることで、心筋の線維化、動脈硬化、血管平滑筋細胞の増殖、血管内皮細胞障害、動脈壁の肥厚、大動脈の石灰化等を抑制し、慢性腎臓病患者の合併症の一つである心血管系疾患の治療及び/又は予防が可能となる。
【0022】
本発明が提供する医薬組成物は、血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸、好ましくはインドキシル硫酸及びフェニルアセチルLグルタミン、より好ましくはインドキシル硫酸)の濃度を低下させることが可能である。
また、本発明が提供する医薬組成物は、尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸、好ましくは、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸及び/又はフェニルアセチルLグルタミン、より好ましくはインドキシル硫酸及びフェニルアセチルLグルタミン、さらにより好ましくはインドキシル硫酸)の尿中への排泄を促進させることが可能である。
このような本発明が提供する医薬組成物の特徴により、本発明が提供する医薬組成物は、尿毒症物質の血中濃度低下用医薬組成物及び/又は尿毒症物質の尿中排泄促進用医薬組成物として使用できるだけではなく、腎臓病患者における尿毒症症状の改善用医薬組成物、腎臓病患者における尿毒症の治療及び/又は予防用医薬組成物、腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制用医薬組成物、腎臓病患者における尿細管機能(例えば近位尿細管)維持用医薬組成物、慢性腎臓病の進行抑制用医薬組成物及び慢性腎臓病患者における透析導入の遅延用医薬組成物のいずれかとしても使用できる。
また、上記のような本発明が提供する医薬組成物の特徴により、本発明が提供する医薬組成物は、腎臓病患者における心筋の線維化抑制用医薬組成物、腎臓病患者における動脈硬化抑制用医薬組成物、腎臓病患者における血管平滑筋細胞の増殖抑制用医薬組成物、腎臓病患者における血管内皮細胞障害抑制用医薬組成物、腎臓病患者における動脈壁の肥厚抑制用医薬組成物、腎臓病患者における大動脈の石灰化抑制用医薬組成物、及び慢性腎臓病に伴う心血管系疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物のいずれかとしても使用できる。
【0023】
さらに、非糖尿病性慢性腎臓病患者へインドキシル硫酸の血中濃度を低下させる薬剤を投与したところ、動脈硬化の指標である脈波伝播速度と頸動脈内膜中膜複合体肥厚度が、投与前に比較し有意に改善したことが報告されているので(Nakamura T., et al.: Oral ADSORBENT AST-120 decreases carotid intima-media thickness and arterial stiffness in patients with chronic renal failure. Kidney Blood Press Res, 27: 121-6, 2004.)、インドキシル硫酸の血中濃度を低下させる本発明が提供する医薬組成物は、腎臓病患者(好ましくは、慢性腎臓病患者、より好ましくは、非糖尿病性慢性腎臓病患者)における、動脈硬化の改善用医薬組成物、又は動脈(例えば、頸動脈)壁の肥厚改善用医薬組成物として使用できる。
【0024】
また、インドキシル硫酸の血中濃度を低下させる薬剤は、シスプラチンで惹起される急性腎障害を抑制することが報告されている(Morisaki T., et. Al.,: Regulation of renal organic ion transporters in cisplatin-induced acute kidney injury and uremia in rats. Pharm. Res., 25(11): 2526-33, 2008)。よって、インドキシル硫酸の血中濃度を低下させる本発明が提供する医薬組成物は、急性腎臓病の治療用医薬組成物、又は急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制用医薬組成物として使用できる。
【0025】
また、尿毒症物質であるp-クレジル硫酸は、血管内皮障害の原因物質であることが報告されている(Meijers B.K., et. Al.,: The uremic retention solute p-cresyl sulfate and markers of endothelial damage., Am. J. Kidney Dis., 54: 891-901, 2009)。
よって、p-クレジル硫酸の尿中排泄を促進させる本発明が提供する医薬組成物は、腎臓病患者(好ましくは、慢性腎臓病患者)における、血管内皮障害抑制用医薬組成物として使用できる。
また、尿毒症物質であるフェニルアセチルLグルタミンは、慢性腎臓病患者における心血管系疾患の発症リスクを増加することが報告されている。
よって、フェニルアセチルLグルタミンの尿中排泄を促進させる本発明が提供する医薬組成物は、慢性腎臓病患者における、心血管系疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物として使用できる。
本発明が提供する医薬組成物は、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、馬尿酸、アルギニノコハク酸、フェニルアセチルLグルタミン等の尿毒症物質の尿中排泄を促進するから、本発明が提供する医薬組成物は、腎臓病患者(好ましくは、慢性腎臓病患者)における、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、馬尿酸、アルギニノコハク酸及び/又はフェニルアセチルLグルタミンの尿中排泄促進用医薬組成物(例えば、インドキシル硫酸及びフェニルアセチルLグルタミンの尿中排泄促進用組成物、インドキシル硫酸の尿中排泄促進用組成物、フェニルアセチルLグルタミンの尿中排泄促進用組成物)として使用できる。
【0026】
本発明が提供する医薬組成物は、ヒトまたはその他の哺乳動物に経口または非経口で投与され、非経口投与の例には、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、関節内投与、経粘膜投与、経皮投与、経鼻投与、直腸投与、髄腔内投与、腹腔内投与、局所投与が挙げられる。
本発明が提供する医薬組成物は、アルカリ性化剤を、そのまま、又は薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、D-マンニトール、結晶セルロース、ブドウ糖)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP))、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca))、希釈剤(例えば、注射用水、生理食塩水)、及び必要な場合はその他の添加剤(例えば、pH調整剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤)と混合して調製されてもよく、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、注射剤、坐薬等の製剤であり得る。例えば、錠剤とするには、アルカリ性化剤を、賦形剤(例えば、乳糖、D-マンニトール、結晶セルロース、ブドウ糖)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca))、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP))、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク)等と混合して製剤化してもよい。
【0027】
本発明が提供する医薬組成物中のアルカリ性化剤の量は適宜設定され得る。例えば、アルカリ性化剤の投与量がヒトに投与することにより痛風又は高尿酸血症における酸性尿が改善される量となるように設定されてもよく、または、アシドーシスが改善される量となるように設定されてもよい。ヒトに投与することにより痛風又は高尿酸血症における酸性尿が改善されるアルカリ性化剤の投与量は、例えば、アルカリ性化剤を投与することによりヒトの尿(例えば、早朝尿)のpHが、pH6.2~6.8又はpH6.5~6.8となるような投与量であってもよい。
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は錠剤であり、1錠剤中に、アルカリ性化剤としてのクエン酸カリウム一水和物又はクエン酸ナトリウム二水和物を10mg~1g、好ましくは、100mg~500mg、より好ましくは、400mg~500mgを含んでもよい。
また、一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は錠剤であり、1錠剤中に、クエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物を、それぞれ10mg~300mgで、合計20mg~600mg含んでもよく、好ましくは、それぞれ150~250mgで、合計400~500mg、より好ましくは、それぞれ190~240mgで、合計400~450mg含んでもよい。
また、他の一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は錠剤であり、1錠剤中に、アルカリ性化剤としての炭酸水素ナトリウムを10mg~1g、好ましくは、100mg~500mg含んでもよい。
さらに、また、一つの実施態様として、本発明が提供する医薬組成物は錠剤であり、アルカリ性化剤として、クエン酸カリウム一水和物 231.5mg及びクエン酸ナトリウム二水和物 195.0mgを含み、添加剤として、無水クエン酸、結晶セルロース、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、マクロゴール6000、酸化チタン及びカルナウバロウを含んでもよい。
【0028】
アルカリ性化剤の投与量は、アルカリ性化剤の種類、投与方法、投与対象の年齢、体重、性別、症状、薬剤への感受性等に応じて適宜決定されるが、症状の改善の状況に応じて投与量を調節してよい。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤としてクエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物の混合物をヒトに経口投与する場合は、クエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物を、それぞれ0.1~5g/日で合計0.2~10g/日、それぞれ0.1~3g/日で合計0.2~6g/日、それぞれ0.5~3g/日で合計1~6g/日、好ましくは、それぞれ0.5~1.5g/日で合計1~3g/日、それぞれ1~1.5g/日で合計2~3g/日、又はそれぞれ0.5~1g/日で合計1~2g/日を投与してもよく、1日1~5回、好ましくは1日3回に分けて投与してもよい。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤としてクエン酸カリウム一水和物又はクエン酸ナトリウム二水和物をヒトに経口投与する場合は、1~10g/日、1~6g/日、2~5.5g/日、1~3g/日、2~3g/日又は1~1.5g/日を投与してもよく、1日1~5回、好ましくは1日3回に分けて投与してもよい。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤として炭酸水素ナトリウムをヒトに経口投与する場合は、1~6g/日、好ましくは、3~5g/日を投与してもよく、1日1~5回、好ましくは1日3回に分けて投与してもよい。
【0029】
一つの実施態様として、アルカリ性化剤は、長期に投与されてもよく、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、6週間以上、8週間以上、10週間以上、12週間以上、24週間以上、6週間以上24週間以下、12週間以上24週間以下、又は12週間以上30週間以下で投与される。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤としてクエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物の混合物をヒトに経口投与する場合は、投与開始6週から12週の間でインドキシル硫酸の血中濃度が投与前に比較し低下し始め、尿中への排泄が投与前に比較し増加し始める。また、この実施態様において、投与開始6週から12週の間でp-クレジル硫酸の尿中への排泄が投与前に比較し増加し始め、投与開始12週から24週の間で馬尿酸の血中濃度が投与前に比較し低下し始め、投与開始0週から6週の間で馬尿酸の尿中への排泄が投与前に比較し増加し始める。さらに、この実施態様において、投与開始6週から12週の間でアルギニノコハク酸の尿中への排泄が投与前に比較し増加し始め、投与開始6週から12週の間でフェニルアセチルLグルタミンの尿中への排泄が投与前に比較し増加し始める。上記の実施態様を考慮すれば、クエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物の混合物をヒトに経口投与する場合は、例えば、6週以上、好ましくは12週以上、より好ましくは24週以上投与されてもよい。
【0030】
一つの実施態様として、本発明が提供する医薬組成物は、腎臓病を罹患しているヒトに投与される。腎臓病は、特に言及のない限り、急性腎臓病及び慢性腎臓病を含む。
急性腎臓病の例には、薬剤(例えば、非ステロイド性抗炎症薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アミノグリコシド系抗生物質、ニューキノロン系抗菌薬、ヨード造影剤、シスプラチン等の白金製剤)に起因する急性腎臓病、及び腎虚血に起因する急性腎臓病が挙げられる。
慢性腎臓病(CKD)は、原疾患を問わず、慢性に経過する腎臓病を包括する概念であり、糸球体濾過量(GFR)で表される腎機能の低下があるか、又は腎臓の障害を示唆する所見が慢性的(3ヶ月以上)に持続する病態全てを包含する概念である。
【0031】
CKD診療ガイド2012(日腎会誌2012)によれば、慢性腎臓病の重症度は原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)、蛋白尿(アルブミン尿:A)による分類で評価される。
GFRの区分は、以下のようである。
G1:GFRが正常又は高値(≧90 mL/分/1.73 m2
G2:GFRが正常又は軽度低下(60~89 mL/分/1.73 m2
G3a:GFRが軽度~中程度低下(45~59 mL/分/1.73 m2
G3b:GFRが中等度~高度低下(30~44 mL/分/1.73 m2
G4:GFRが高度低下(15~29 mL/分/1.73 m2
G5:末期腎不全(ESKD)(<15 mL/分/1.73 m2
蛋白尿(アルブミン尿:A)による区分は、原疾患が糖尿病である場合、尿アルブミン/クレアチニン(Cr)比を用いて以下のように分類される。
A1:正常(30 mg/gCr未満)
A2:微量アルブミン尿(30~299 mg/gCr)
A3:顕性アルブミン尿(300 mg/gCr以上)
また、蛋白尿(アルブミン尿:A)による区分は、原疾患が糖尿病以外の高血圧、腎炎、多発性嚢胞腎、移植腎、その他である場合、尿蛋白/クレアチニン(Cr)比を用いて以下のように分類される。
A1:正常(0.15 g/gCr未満)
A2:軽度蛋白尿(0.15~0.49 g/gCr)
A3:高度蛋白尿(0.50 g/gCr以上)
CKD診療ガイド2012(日腎会誌2012)によれば、慢性腎臓病(CKD)の重症度分類は、上記C、G及びAを用いて、例えば、糖尿病G2A3、慢性腎炎G3bA1等と表記される。
しかしながら、従来、慢性腎臓病の重症度は、GFRで区分されるステージのみで表記されていたことが考慮され、慢性腎臓病の重症度を従来のように、G1、G2、G3a、G3b、G4及びG5というステージで表記することも可能としている。
【0032】
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、重症度の低い、早期の慢性腎臓病患者に投与される。
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、ステージG3b以下、好ましくは、ステージG2又はそれ以下の慢性腎臓病患者に投与される。
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、ステージG3b以下であって、尿中蛋白排泄量3.5g/gCr未満である慢性腎臓病患者、好ましくは、ステージG2であって、尿中蛋白排泄量3.5g/gCr未満である慢性腎臓病患者に投与される。
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、進行性の慢性腎臓病患者にに投与される。
【0033】
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、CKD診療ガイドに従った治療を施す患者に投与される。例えば、CKD診療ガイドに従った血圧管理(ARBやACE阻害薬などのRA系抑制薬、利尿薬、Ca拮抗薬の投与等)、蛋白尿対策(RA系抑制薬の投与等)、血糖値管理(αグルコシダーゼ阻害剤の投与等)、脂質管理(スタチン、フィブラートの投与等)、貧血管理(エリスロポエチンの投与等)及び/又は骨・ミネラル対策(ビスホスホネートの投与等)を施す患者に投与される。
【0034】
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、重症度の低い、早期の慢性腎臓病患者(例えば、ステージG3b以下、好ましくは、ステージG2の慢性腎臓病患者)に投与され、その患者の血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸及び/又はフェニルアセチルLグルタミン)の濃度を低下させ、尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、馬尿酸、アルギニノコハク酸及び/又はフェニルアセチルLグルタミン)の体外への(例えば、尿中への)排泄を促進する。この実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、尿毒症症状の改善用医薬組成物、尿毒症の治療又は予防用医薬組成物、尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制用医薬組成物、尿細管(例えば近位尿細管)細胞の機能維持用医薬組成物、慢性腎臓病の進行抑制用医薬組成物、透析導入の遅延用医薬組成物、心筋の線維化抑制用医薬組成物、動脈硬化抑制用医薬組成物、動脈硬化改善用医薬組成物、血管平滑筋細胞の増殖抑制用医薬組成物、血管内皮細胞障害抑制用医薬組成物、動脈壁肥厚抑制用医薬組成物、動脈壁肥厚改善用医薬組成物、大動脈の石灰化抑制用医薬組成物又は合併症である心血管系疾患(例えば、心不全、心筋梗塞、脳卒中等)の治療又は予防用医薬組成物であり得る。
一つの実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、重症度が中等度以上の慢性腎臓病患者(例えば、ステージG3b以上、好ましくは、ステージG4又はそれ以上の慢性腎臓病患者)に投与され、その患者の血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、及び/又はフェニルアセチルLグルタミン)の濃度を低下させ、尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、馬尿酸、アルギニノコハク酸及び/又はフェニルアセチルLグルタミン)の体外への(例えば、尿中への)排泄を促進する。この実施態様において、本発明が提供する医薬組成物は、尿毒症症状の改善用医薬組成物、尿毒症の治療又は予防用医薬組成物、尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制用医薬組成物、尿細管(例えば近位尿細管)細胞機能維持用医薬組成物、慢性腎臓病の進行抑制用医薬組成物、透析導入の遅延用医薬組成物、心筋の線維化抑制用医薬組成物、動脈硬化抑制用医薬組成物、動脈硬化改善用医薬組成物、血管平滑筋細胞の増殖抑制用医薬組成物、血管内皮細胞障害抑制用医薬組成物、動脈壁肥厚抑制用医薬組成物、動脈壁肥厚改善用医薬組成物、大動脈の石灰化抑制用医薬組成物又は合併症である心血管系疾患(例えば、心不全、心筋梗塞、脳卒中等)の治療又は予防用医薬組成物であり得る。
【0035】
本発明の実施の他の形態の例としては以下が挙げられる。
a)哺乳類対象(例えば、ヒト)における尿毒症物質の血中濃度を低下させる方法であって、尿毒症物質の血中濃度を低下させることが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含む方法;
b)哺乳類対象(例えば、ヒト)における尿毒症物質の体外への(例えば、尿中への)排泄を促進させる方法であって、尿毒症物質の体外への(例えば、尿中への)排泄を促進することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含む方法;
c)哺乳類対象(例えば、ヒト)における尿毒症症状の改善方法であって、尿毒症症状を改善することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
d)哺乳類対象(例えば、ヒト)における尿毒症の治療又は予防方法であって、尿毒症の治療又は予防が必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
e)哺乳類対象(例えば、ヒト)における尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制方法であって、尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
f)哺乳類対象(例えば、ヒト)における尿細管(例えば近位尿細管)細胞機能維持方法であって、尿細管(例えば近位尿細管)細胞の機能を維持することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
g)哺乳類対象(例えば、ヒト)における慢性腎臓病の進行抑制方法であって、慢性腎臓病の進行を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含む方法;
h)哺乳類対象(例えば、ヒト)における透析導入の遅延方法であって、透析導入の遅延が必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が慢性腎臓病に罹患している、方法;
i)哺乳類対象(例えば、ヒト)における心筋の線維化抑制方法であって、心筋の線維化を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
j)哺乳類対象(例えば、ヒト)における動脈硬化抑制方法であって、動脈硬化を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
k)哺乳類対象(例えば、ヒト)における血管平滑筋細胞の増殖を抑制する方法であって、血管平滑筋細胞の増殖を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
l)哺乳類対象(例えば、ヒト)における血管内皮細胞障害抑制方法であって、血管内皮細胞障害を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与すること含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
m)哺乳類対象(例えば、ヒト)における動脈壁の肥厚抑制方法であって、動脈壁の肥厚を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
n)哺乳類対象(例えば、ヒト)における大動脈の石灰化抑制方法であって、大動脈の石灰化を抑制することが必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
o)哺乳類対象(例えば、ヒト)における心血管系疾患の治療又は予防方法であって、心血管系疾患の治療又は予防が必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
p)哺乳類対象(例えば、ヒト)における動脈硬化の改善方法であって、動脈硬化の改善が必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
q)哺乳類対象(例えば、ヒト)における動脈壁の肥厚の改善方法であって、動脈壁の肥厚を改善する必要がある対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含み、該対象が腎臓病に罹患している、方法;
r)哺乳類対象(例えば、ヒト)における急性腎臓病の治療方法であって、急性腎臓病の治療が必要な対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含む、方法;
s)哺乳類対象(例えば、ヒト)における急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制方法であって、急性腎臓病から慢性腎臓病への進展を抑制する必要がある対象に有効量のアルカリ性化剤を投与することを含む、方法;
aa)尿毒症物質の血中濃度低下剤として使用するための、アルカリ性化剤;
bb)尿毒症物質の体外への(例えば、尿中への)排泄促進剤として使用するための、アルカリ性化剤;
cc)腎臓病患者における尿毒症症状の改善剤として使用するための、アルカリ性化剤;
dd)腎臓病患者における尿毒症の治療又は予防剤として使用するための、アルカリ性化剤;
ee)腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
ff)腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞機能維持剤として使用するための、アルカリ性化剤;
gg)慢性腎臓病の進行抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
hh)慢性腎臓病患者における透析導入の遅延剤として使用するための、アルカリ性化剤;
ii)腎臓病患者における心筋の線維化抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
jj)腎臓病患者における動脈硬化抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
kk)腎臓病患者における血管平滑筋細胞の増殖抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
ll)腎臓病患者における血管内皮細胞障害抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
mm)腎臓病患者における動脈壁の肥厚抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
nn)腎臓病患者における大動脈の石灰化抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
oo)腎臓病患者における心血管系疾患の治療又は予防剤として使用するための、アルカリ性化剤;
pp)腎臓病患者における動脈硬化の改善剤として使用するための、アルカリ性化剤;
qq)腎臓病患者における動脈壁の肥厚の改善剤として使用するための、アルカリ性化剤;
rr)急性腎臓病の治療剤として使用するための、アルカリ性化剤;
ss)急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制剤として使用するための、アルカリ性化剤;
aaa)尿毒症物質の血中濃度低下における使用のための、アルカリ性化剤;
bbb)尿毒症物質の尿中への排泄促進における使用のための、アルカリ性化剤;
ccc)腎臓病患者における尿毒症症状の改善における使用のための、アルカリ性化剤;
ddd)腎臓病患者における尿毒症の治療又は予防における使用のための、アルカリ性化剤;
eee)腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
fff)腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞機能維持における使用のための、アルカリ性化剤;
ggg)慢性腎臓病の進行抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
hhh)慢性腎臓病患者における透析導入の遅延における使用のための、アルカリ性化剤;
iii)腎臓病患者における心筋の線維化抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
jjj)腎臓病患者における動脈硬化抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
kkk)腎臓病患者における血管平滑筋細胞の増殖抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
lll)腎臓病患者における血管内皮細胞障害抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
mmm)腎臓病患者における動脈壁の肥厚抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
nnn)腎臓病患者における大動脈の石灰化抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
ooo)腎臓病患者における心血管系疾患の治療又は予防における使用のための、アルカリ性化剤;
ppp)腎臓病患者における動脈硬化の改善における使用のための、アルカリ性化剤;
qqq)腎臓病患者における動脈壁の肥厚の改善における使用のための、アルカリ性化剤;
rrr)急性腎臓病の治療における使用のための、アルカリ性化剤;
sss)急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制における使用のための、アルカリ性化剤;
aaaa)尿毒症物質の血中濃度低下用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
bbbb)尿毒症物質の体外への(例えば、尿中への)排泄促進用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
cccc)腎臓病患者における尿毒症症状の改善用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
dddd)腎臓病患者における尿毒症の治療又は予防用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
eeee)腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞障害抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
ffff)腎臓病患者における尿細管(例えば近位尿細管)細胞機能維持用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
gggg)慢性腎臓病の進行抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
hhhh)慢性腎臓病患者における透析導入の遅延用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
iiii)腎臓病患者における心筋の線維化抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
jjjj)腎臓病患者における動脈硬化抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
kkkk)腎臓病患者における血管平滑筋細胞の増殖抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
llll)腎臓病患者における血管内皮細胞障害抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
mmmm)腎臓病患者における動脈壁の肥厚抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
nnnn)腎臓病患者における大動脈の石灰化抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
oooo)腎臓病患者における心血管系疾患の治療又は予防用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
pppp)腎臓病患者における動脈硬化の改善用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
qqqq)腎臓病患者における動脈壁の肥厚の改善用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;
rrrr)急性腎臓病の治療用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用;及び
ssss)急性腎臓病から慢性腎臓病への進展抑制用医薬組成物を製造するための、アルカリ性化剤の使用。
上記a)~ssss)の実施態様において、アルカリ性化剤としては、クエン酸の医薬的に許容可能な塩、若しくはその水和物又はそれらの混合物、又は炭酸水素ナトリウムを使用してもよい。クエン酸の医薬的に許容可能な塩の例には、クエン酸アルカリ金属塩が挙げられ、クエン酸アルカリ金属塩の例としては、クエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウムが挙げられ、それぞれ安定なクエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)等の水和物であってもよい。
好ましいアルカリ性化剤の例としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム若しくはその水和物又はそれらの混合物が挙げられ、例えば、クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)の混合物であってもよい。クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)の混合比は、当業者が適宜設定でき、例えば、クエン酸カリウムの一水和物とクエン酸ナトリウムの二水和物のモル比を、クエン酸カリウムの一水和物1に対してクエン酸ナトリウムの二水和物を0.01~100とすることができる。混合比をモル比で約1:1としてもよい。
また、好ましいアルカリ性化剤の他の例には、クエン酸ナトリウム又はその水和物が挙げられ、例えば、クエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)であってもよい。
また、好ましいアルカリ性化剤の他の例には、クエン酸カリウム又はその水和物が挙げられ、例えば、クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)であってもよい。
アルカリ性化剤の量は適宜設定され得、例えば、クエン酸カリウム一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、クエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物の混合物、及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択されるアルカリ性化剤である場合は、10mg~1g、好ましくは100mg~500mg、より好ましくは400mg~500mgであってもよい。
アルカリ性化剤の投与量は、ヒトに投与することにより痛風又は高尿酸血症における酸性尿が改善される量であってもよく、または、アシドーシスが改善される量であってもよい。例えば、本発明が提供する医薬組成物中のアルカリ性化剤の量は、アルカリ性化剤を投与することによりヒトの尿(例えば、早朝尿)のpHが、pH6.2~6.8又はpH6.5~6.8となるように設定されてもよい。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤としてクエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物の混合物をヒトに経口投与する場合は、クエン酸カリウム一水和物及びクエン酸ナトリウム二水和物を、それぞれ0.1~5g/日で合計0.2~10g/日、それぞれ0.1~3g/日で合計0.2~6g/日、それぞれ0.5~3g/日で合計1~6g/日、好ましくは、それぞれ0.5~1.5g/日で合計1~3g/日、それぞれ1~1.5g/日で合計2~3g/日、又はそれぞれ0.5~1g/日で合計1~2g/日を投与してもよく、1日1~5回、好ましくは1日3回に分けて投与してもよい。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤としてクエン酸カリウム一水和物又はクエン酸ナトリウム二水和物をヒトに経口投与する場合は、1~10g/日、1~6g/日、2~5.5g/日、1~3g/日、2~3g/日又は1~1.5g/日を投与してもよく、1日1~5回、好ましくは1日3回に分けて投与してもよい。
一つの実施態様において、アルカリ性化剤として炭酸水素ナトリウムをヒトに経口投与する場合は、1~6g/日、好ましくは、3~5g/日を投与してもよく、1日1~5回、好ましくは1日3回に分けて投与してもよい。
一つの実施態様として、アルカリ性化剤は、長期に投与されてもよく、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、6週間以上、8週間以上、10週間以上、12週間以上、24週間以上、6週間以上24週間以下、12週間以上24週間以下、又は12週間以上30週間以下で投与される。
上記a)~ssss)の実施態様において、腎臓病の例としては、急性腎臓病及び慢性腎臓病が挙げられ、慢性腎臓病の例としては、ステージ3b以下(例えばステージ2)の慢性腎臓病、ステージ3b以下(例えばステージ2)の慢性腎臓病であって、患者の尿中蛋白排泄量が3.5g/gCr未満である慢性腎臓病及びステージ3b以上(例えばステージ4以上)の慢性腎臓病が挙げられる。一つの実施態様において、腎臓病患者はCKD診療ガイドに従った治療を施す患者であり得る。例えば、CKD診療ガイドに従った血圧管理(ARBやACE阻害薬などのRA系抑制薬、利尿薬、Ca拮抗薬の投与等)、蛋白尿対策(RA系抑制薬の投与等)、血糖値管理(αグルコシダーゼ阻害剤の投与等)、脂質管理(スタチン、フィブラートの投与等)、貧血管理(エリスロポエチンの投与等)及び/又は骨・ミネラル対策(ビスホスホネートの投与等)を施す患者であり得る。
【0036】
2.食品組成物
一つの実施態様において、本発明が提供する食品組成物は、アルカリ性化剤を含み、尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸))の体外排泄促進効果を奏する。
アルカリ性化剤については、上記「1.医薬組成物」で記載したとおりである。アルカリ性化剤の例としては、クエン酸の医薬的に許容可能な塩(例えば、クエン酸アルカリ金属塩若しくはその水和物又はそれらの混合物)、炭酸水素ナトリウムが挙げられ、好ましくは、クエン酸カリウムの一水和物(C6H5K3O7・H2O)及びクエン酸ナトリウムの二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)の混合物、又はクエン酸ナトリウムの二水和物である。
尿毒症物質についても上記「1.医薬組成物」で記載したとおりである。尿毒症物質の例には、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及びアルギニノコハク酸が挙げられる。
本発明が提供する食品組成物中のアルカリ性化剤の含量は、食品の種類により、適宜決定され得る。食品組成物の例には、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病院患者用食品、サプリメントが挙げられる。
本発明が提供する食品組成物は、食品の種類により、当業者が適宜製造でき、例えば、食品素材にアルカリ性化剤(例えば、クエン酸カリウム及び/又はクエン酸ナトリウム)を配合することにより製造され得る。
【0037】
3.血中の尿毒症物質の濃度低下を判定する方法等
一つの実施態様において、本発明は、慢性腎臓病患者の血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の濃度低下を判定する方法であって、尿のpHを測定することを含む方法を提供する。
また、一つの実施態様において、本発明は、慢性腎臓病患者の尿中への尿毒症物質(インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸の排出促進を判定する方法であって、尿のpHを測定することを含む方法を提供する。
体液中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸)の含量の測定は、HPLC法や酵素法により測定することができる。しかしながら、これら測定法は、専門的で高価な試薬を必要とする。
本明細書で記載したように、アルカリ性化剤を投与することにより、血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸濃度、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)が低下し、尿中へのそれら尿毒症物質の排泄が促進されることから、慢性腎臓病患者が自分の尿のpHを測定することにより、非常に簡便且つ安価に、血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸濃度、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の低下及び/又は尿中への尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の排泄促進を判定することができる。pHの測定は、周知技術を使用すればよく、例えば、pH試験紙、pH試験液、簡易なpH測定器を使用することができる。
一つの実施態様において、慢性腎臓病患者は、アルカリ性化剤(例えば、クエン酸カリウムの一水和物及びクエン酸ナトリウムの二水和物の混合物、又はクエン酸ナトリウムの二水和物)の服用開始時から経時的に早朝尿(起床して最初の尿)のpHを測定し、尿のpHが高くなれば、血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の濃度の低下及び/又は尿中への尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の排泄の促進が達成されていることを簡易的に判断できる。
また、一つの実施態様において、慢性腎臓病患者は、アルカリ性化剤(例えば、クエン酸カリウムの一水和物及びクエン酸ナトリウムの二水和物の混合物、又はクエン酸ナトリウムの二水和物)の服用後に早朝尿(起床して最初の尿)のpHを測定し、尿のpHが6.2~6.8の範囲(例えば、尿のpHが6.5~6.8の範囲)にあれば、血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の濃度の低下及び/又は尿中への尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の排泄の促進が達成されていることを簡易的に判断できる。
このようにして得られた、血中の尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の濃度の低下及び/又は尿中への尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及び/又はアルギニノコハク酸)の排泄の促進が達成されているか否かの判断は、慢性腎臓病の進行が抑制されているか否かの診断の補助となり得る。
よって、一つの実施態様において、本発明は、慢性腎臓病の進行抑制を判定する方法であって、アルカリ性化剤(例えば、クエン酸カリウムの一水和物及びクエン酸ナトリウムの二水和物の混合物、又はクエン酸ナトリウムの二水和物)が投与された患者の尿(例えば、早朝尿)のpHを測定することを含む方法を提供する。経時的な尿のpHの上昇、又は尿のpHが6.2~6.8の範囲(例えば、尿のpHが6.5~6.8の範囲)にあることが認められれば、慢性腎臓病の病期の進行が抑制されているという診断の補助となり得る。
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0039】
経口アルカリ性化剤であるクエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤及び重曹製剤の経口投与により尿毒症物質の尿中排泄が促進されるか否かを検討する為に、ヒト臨床試験を実施した。
【0040】
1.方法
ステージG2~G3bの慢性腎臓病患者(eGFR:30~89 ml/min/1.73m2、尿中蛋白排泄量3.5g/gCr未満)47名をクエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群(A群:16名)、重曹(炭酸水素ナトリウム)製剤投与群(B群:16名)及びコントロール群(C群:15名)に無作為に分けた。各群には、「CKD診療ガイド-治療のまとめ」に基づく治療(以下、標準治療と称す)を行った。
コントロール群にはアルカリ性化剤を投与しなかった。A群には、クエン酸カリウム(C6H5K3O7・H2O)231.5 mg及びクエン酸ナトリウム水和物(C6H5Na3O7・2H2O)195.0 mgを含有する錠剤を1日3錠、1日3回(朝、昼、夕)、24週間経口投与した。なお、早朝尿がpH6.5未満の症例には、医師の判断で1日6錠、1日3回(朝、昼、夕)まで増量した。B群には、炭酸水素ナトリウム500 mgを含む錠剤を1日3錠、1日3回(朝、昼、夕)、24週間経口投与した。なお、早朝尿がpH6.5未満の症例には、医師の判断で1日6錠、1日3回(朝、昼、夕)まで増量した。
投与開始時、投与開始後6週、12週、24週の早朝尿及び血液を採取し、各検体は-80℃で保存した。尿中及び血漿中のインドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、フェニルアセチルLグルタミン、馬尿酸及びアルギニノコハク酸について、本分野で使用されている方法(Sato, E., et. al., Metabolic alteration by indoxyl sulfate in skeletal muscle induce uremic sarcopenia in chronic kidney disease., Sci Rep. 2016 Nov 10;6:36618. doi: 10.1038/srep36618.等)を参照し、以下の液体クロマトグラフィー三連四重極型質量分析装置(LC-MS/MS)を用い定量分析を行った。
LCは、NANOSPACE SI-2 (資生堂製)を用い、分析カラムにCAPCELLPAK MGIIIを選択した。
MSは、TSQ Quantiva(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、5種の化合物をネガティブインモードにてイオン化し、Selected Reaction Monitoring法を用いて検出した。定量値は、各化合物の標準溶液によって作成された検量線を用い算出した。
統計解析はMann-Whitney検定を使用した。
【0041】
2.結果
LC-MS/MSを用いた測定結果から、A群(クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)、B群(炭酸水素ナトリウム製剤投与群)及びC群(コントロール群)の各患者について、以下を算出した:
(i)投与開始時の血漿中の各尿毒症物質の濃度
(ii)投与開始時の早朝尿中の各尿毒症物質の濃度
(iii)投与開始時における早朝尿中の尿毒症物質濃度と血漿中の尿毒症物質濃度の比(尿中の尿毒症物質量/血漿中の尿毒症物質量)
(iv)投与開始後6週、12週、24週の血漿中の各尿毒症物質の濃度
(v)投与開始後6週、12週、24週の早朝尿中の各尿毒症物質の濃度
(vi)投与開始後6週、12週、24週における早朝尿中の尿毒症物質濃度と血漿中の尿毒症物質濃度の比(尿中の尿毒症物質量/血漿中の尿毒症物質量)
(vii)投与開始後6週、12週、24週の血漿中の各尿毒症物質の濃度の投与開始時からの変化量
(viii)投与開始後6週、12週、24週の早朝尿中の各尿毒症物質の濃度の投与開始時からの変化量
(ix)投与開始後6週、12週、24週の早朝尿中の尿毒症物質濃度と血漿中の尿毒症物質濃度の比(尿中の尿毒症物質量/血漿中の尿毒症物質量)の投与開始時からの変化量
そして、上記(i)~(ix)につき、各群の平均値とSDを算出した。なお、上記(iv)~(ix)のそれぞれについては、各群における投与開始後6週、12週、24週のデータ全てを対象にして各群の平均値とSDを算出した。
結果を以下の表に示した。なお、表中では、A群:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群を“Citrate”、B群:炭酸水素ナトリウム製剤投与群を“Bicarbonate”と記載した。また、表中の括弧内の数値は、症例数を示した。
表1-1-1:血漿中のインドキシル硫酸量(μg/mL)、
表1-1-2:血漿中のインドキシル硫酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表1-2-1:早朝尿中のインドキシル硫酸量(μg/mL)、
表1-2-2:早朝尿中のインドキシル硫酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表1-3-1:尿中のインドキシル硫酸量と血漿中のインドキシル硫酸量の比、
表1-3-2:尿中のインドキシル硫酸量と血漿中のインドキシル硫酸量の比の投与開始時からの変化量、
表2-1-1:血漿中のp-クレシル硫酸量(μg/mL)、
表2-1-2:血漿中のp-クレシル硫酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表2-2-1:早朝尿中のp-クレシル硫酸量(μg/mL)、
表2-2-2:早朝尿中のp-クレシル硫酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表2-3-1:尿中のp-クレシル硫酸量と血漿中のp-クレシル硫酸量の比、
表2-3-2:尿中のp-クレシル硫酸量と血漿中のp-クレシル硫酸量の比の投与開始時からの変化量、
表3-1-1:血漿中の馬尿酸量(μg/mL)、
表3-1-2:血漿中の馬尿酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表3-2-1:早朝尿中の馬尿酸量(μg/mL)、
表3-2-2:早朝尿中の馬尿酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表3-3-1:尿中の馬尿酸量と血漿中の馬尿酸量の比、
表3-3-2:尿中の馬尿酸量と血漿中の馬尿酸量の比の投与開始時からの変化量、
表4-1-1:血漿中のアルギノコハク酸量(μg/mL)、
表4-1-2:血漿中のアルギノコハク酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表4-2-1:早朝尿中のアルギノコハク酸量(μg/mL)、
表4-2-2:早朝尿中のアルギノコハク酸の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表4-3-1:尿中のアルギノコハク酸量と血漿中のアルギノコハク酸量の比、
表4-3-2:尿中のアルギノコハク酸量と血漿中のアルギノコハク酸量の比の投与開始時からの変化量、
表5-1-1:血漿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)量(μg/mL)、
表5-1-2:血漿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表5-2-1:早朝尿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)量(μg/mL)、
表5-2-2:早朝尿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)の投与開始時からの変化量(μg/mL)、
表5-3-1:尿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)量と血漿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)量の比、
表5-3-2:尿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)量と血漿中のフェニルアセチルLグルタミン(PAG)量の比の投与開始時からの変化量。
【0042】
A群(Citrate:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)ではB群(Bicarbonate:炭酸水素ナトリウム製剤投与群)とC群(Control:コントロール群)に比較し、早朝尿中でインドキシル硫酸(IS)濃度が増加し(表1-2-1、1-2-2参照)。また、A群ではB群及びC群に比較し血漿中のインドキシル硫酸濃度が低下した(表1-1-1、1-1-2参照)。6~24週における血漿インドキシル硫酸濃度は、A群ではB群及びC群に比較して有意に低値であり、6~24週における早朝尿中のインドキシル硫酸濃度の増加は、A群ではB群及びC群に比較して有意に大きかった。
また、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、尿毒症物質であるインドキシル硫酸の尿中濃度が投与前に比較して増加し、インドキシル硫酸の血中濃度が投与前に比較し低下した。同じアルカリ性化剤であっても、炭酸水素ナトリウム製剤に比較し、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤の方がより高い血中インドキシル硫酸濃度低下効果及び尿中インドキシル硫酸濃度増加効果を発揮した。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤による血中インドキシル硫酸濃度低下効果及び尿中インドキシル硫酸濃度増加効果は、投与12週後から認められた。
尿中のインドキシル硫酸濃度と血漿中のインドキシル硫酸濃度の比の値から、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与により、インドキシル硫酸の血中から尿への排泄が促進され、体外への排泄が促進されると示唆される。そしてインドキシル硫酸の血中から尿への排泄効果は、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与の方が、炭酸水素ナトリウム製剤投与に比較し強いことが示唆された(表1-3-1、1-3-2参照)。
【0043】
【表1-1-1】
【0044】
【表1-1-2】
【0045】
【表1-2-1】
【0046】
【表1-2-2】
【0047】
【表1-3-1】
【0048】
【表1-3-2】
【0049】
p-クレジル硫酸(PCS)については、A群(Citrate:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)はC群(Control:コントロール群)に比較し、早朝尿中のp-クレジル硫酸濃度が増加し、B群(Bicarbonate:炭酸水素ナトリウム製剤投与群)に比較しても、A群(クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)は、早朝尿中のp-クレジル硫酸濃度が増加した(表2-2-1、2-2-2参照)。6~24週における早朝尿中のp-クレジル硫酸濃度の増加は、A群ではB群及びC群に比較して有意に大きかった。
また、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、尿毒症物質であるp-クレジル硫酸の尿中濃度が投与前に比較して増加した(表2-2-1、2-2-2参照)。同じアルカリ性化剤であっても、炭酸水素ナトリウム製剤に比較し、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤の方がより高い尿中p-クレジル硫酸濃度増加効果を発揮した。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤による尿中p-クレジル硫酸濃度増加効果は、投与12週後から認められた。
尿中のp-クレジル硫酸濃度と血漿中のp-クレジル硫酸濃度の比の値から、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与により、p-クレジル硫酸の血中から尿への排泄が促進され、体外への排泄が促進されると示唆される。そしてp-クレジル硫酸の血中から尿への排泄効果は、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与の方が、炭酸水素ナトリウム製剤投与に比較し強いことが示唆された(表2-3-1、2-3-2参照)。
【0050】
【表2-1-1】
【0051】
【表2-1-2】
【0052】
【表2-2-1】
【0053】
【表2-2-2】
【0054】
【表2-3-1】
【0055】
【表2-3-2】
【0056】
馬尿酸(HA)については、A群(Citrate:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)はC群(Control:コントロール群)に比較し、早朝尿中の馬尿酸濃度が増加した(表3-2-1、3-2-2参照)。
また、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、尿毒症物質である馬尿酸の尿中濃度が投与前に比較して増加した(表3-2-1、3-2-2参照)。同じアルカリ性化剤であっても、炭酸水素ナトリウム製剤に比較し、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤の方がより高い尿中馬尿酸濃度増加効果を発揮した。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤による尿中馬尿酸濃度増加効果は、投与6週後から認められた。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、投与24週以降において、投与前に比較し、血漿中の馬尿酸濃度が低下した。このような効果は、炭酸水素ナトリウム製剤の投与では見られなかった。
【0057】
【表3-1-1】
【0058】
【表3-1-2】
【0059】
【表3-2-1】
【0060】
【表3-2-2】
【0061】
【表3-3-1】
【0062】
【表3-3-2】
【0063】
アルギニノコハク酸(ASA)については、A群(Citrate:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)はC群(Control:コントロール群)に比較し、早朝尿中のアルギニノコハク酸濃度が増加した(表4-2-1、4-2-2参照)。
また、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、尿毒症物質であるアルギニノコハク酸の尿中濃度が投与前に比較して増加した(表4-2-1、4-2-2参照)。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤による尿中アルギニノコハク酸濃度増加効果は、投与12週後から認められた。
【0064】
【表4-1-1】
【0065】
【表4-1-2】
【0066】
【表4-2-1】
【0067】
【表4-2-2】
【0068】
【表4-3-1】
【0069】
【表4-3-2】
【0070】
フェニルアセチルLグルタミン(PAG)については、A群(Citrate:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)はC群(Control:コントロール群)に比較し、血漿中のフェニルアセチルLグルタミン濃度が低下し、早朝尿中のフェニルアセチルLグルタミン濃度が増加し、B群(Bicarbonate:炭酸水素ナトリウム製剤投与群)に比較しても、A群(クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与群)は、早朝尿中のフェニルアセチルLグルタミン濃度が増加した(表5-1-1及び5-2-2参照)。
また、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、尿毒症物質であるフェニルアセチルLグルタミンの尿中濃度が投与前に比較して増加した(表5-2-1、5-2-2参照)。同じアルカリ性化剤であっても、炭酸水素ナトリウム製剤に比較し、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤の方がより高い尿中フェニルアセチルLグルタミン濃度増加効果を発揮した。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤による尿中フェニルアセチルLグルタミン濃度増加効果は、投与12週後から認められた。クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤を慢性腎臓病患者に投与することにより、尿毒症物質であるフェニルアセチルLグルタミンの血漿濃度が投与前に比較して低下した(表5-1-1、5-2-2参照)。
尿中のフェニルアセチルLグルタミン濃度と血漿中のフェニルアセチルLグルタミン濃度の比の値から、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与により、フェニルアセチルLグルタミンの血中から尿への排泄が促進され、体外への排泄が促進されることが示唆される。そしてフェニルアセチルLグルタミンの血中から尿への排泄効果は、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤投与の方が、炭酸水素ナトリウム製剤投与に比較し強いことが示唆された(表5-3-1、5-3-2参照)。
【0071】
【表5-1-1】
【0072】
【表5-1-2】
【0073】
【表5-2-1】
【0074】
【表5-2-2】
【0075】
【表5-3-1】
【0076】
【表5-3-2】
【0077】
各尿毒症物質の血漿濃度、早朝尿中濃度、早朝尿中の濃度と血漿中の濃度の比について、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤(Citrate)及び炭酸水素ナトリウム製剤(Bicarbonate)の効果を纏めると下表のようになる。下表中、対照薬とは、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤(Citrate)の場合は炭酸水素ナトリウム製剤(Bicarbonate)であり、炭酸水素ナトリウム製剤(Bicarbonate)の場合はクエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤(Citrate)である。コントロール群又は対照薬群に比較して有意に効果が優るときは○が記載され、コントロール群又は対照薬群に対して有意に効果が劣るときは×が記載され、有意差がないときは、-が記載されている。なお、早朝尿中のインドキシル硫酸濃度についてのコントロール群に対する炭酸水素ナトリウム製剤(Bicarbonate)投与群の効果については、下表において(○)と記載している。これは、炭酸水素ナトリウム製剤(Bicarbonate)投与群はコントロール群に比較し、有意に早朝尿中のインドキシル硫酸濃度を増加するが、投与開始時に比較し炭酸水素ナトリウム製剤(Bicarbonate)投与後の早朝尿中インドキシル硫酸濃度が低下していることから、インドキシル硫酸の尿中への排泄の促進効果があるか否か判断できないからである。
【0078】
【表6】
【0079】
上記表より、概して、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤が、炭酸水素ナトリウム製剤に比較して、高い尿毒症物質の体外排泄効果を発揮することが理解できる。また、ステージG3bのみならずステージG2の慢性腎臓病患者にアルカリ性化剤を投与することで、慢性腎臓病の進行を抑制できること、そして、炭酸水素ナトリウム製剤に比較し、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合製剤の方が、より慢性腎臓病の進行を抑制することが示唆された。