(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】X線回折測定装置、X線回折測定システム及び回折環撮像方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/205 20180101AFI20241029BHJP
【FI】
G01N23/205
(21)【出願番号】P 2020192254
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【氏名又は名称】加藤 道幸
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100214813
【氏名又は名称】中嶋 幸江
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-000718(JP,B1)
【文献】特開平11-030597(JP,A)
【文献】特開2015-040743(JP,A)
【文献】特開2015-099145(JP,A)
【文献】特開2016-176860(JP,A)
【文献】特開2017-032283(JP,A)
【文献】特開2018-063134(JP,A)
【文献】特開2018-124244(JP,A)
【文献】米国特許第04489425(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段から前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記X線出射手段及び前記回折環撮像手段を内蔵する筐体とを備えたX線回折測定装置において、
前記筐体を前記X線の光軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段と、
前記揺動手段の回転軸の位置を前記測定対象物に対して変化させる回転軸位置変化手段と、
前記測定対象物から見て前記撮像面の手前に配置された、前記撮像面に平行な面を有し、前記回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、前記通過口の中心線が前記X線の光軸を通るようになっているマスクと、
前記マスクの通過口の位置を前記測定対象物に対して変化させる通過口位置変化手段と、
前記回転軸位置変化手段により前記揺動手段の回転軸の位置を変化させ、前記通過口位置変化手段により前記マスクの通過口の位置を変化させるとき、前記測定対象物に対する前記撮像面の前記X線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、前記マスクの通過口の中心線が、常に前記X線の光軸を含み前記揺動手段の回転軸に垂直な平面内に含まれるようにする揺動回転軸-通過口関係固定手段とを備え
、
さらに、前記撮像面を前記X線の光軸周りに回転させる撮像面回転手段を備え、
前記揺動手段の揺動部分と前記マスクとは、前記筐体と一体になっており、
前記回転軸位置変化手段及び前記通過口位置変化手段は、前記筐体を前記X線の光軸周りに回転させる筐体回転手段であり、
前記揺動回転軸-通過口関係固定手段は、前記撮像面回転手段による回転と前記筐体回転手段による回転との回転量が等しく、回転方向が逆方向になるよう制御する制御手段であることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定装置において、
前記X線出射手段は、X線を出射するX線管と前記X線管から出射されたX線を通過させることで略平行光にする貫通孔群とを備え、
前記撮像面はイメージングプレートであって、中央に前記貫通孔群の1つである貫通孔が形成されたテーブルに固定されており、
前記撮像面回転手段は、回転することにより前記テーブルを前記貫通孔群の中心軸回りに回転させる出力軸を有するモータであって、前記出力軸の中心軸が前記貫通孔群の中心軸に一致するように配置され、前記貫通孔群の1つである貫通孔が前記出力軸に形成されたモータであり、
前記イメージングプレートにレーザ光を照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記イメージングプレートから出射された光の強度を検出するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記イメージングプレートに平行な方向に前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記モータにより前記テーブルが回転され、かつ前記移動手段によって前記テーブルが移動されている状態で、前記レーザ検出装置によって繰り返し検出される光の強度を、前記モータの回転角度及び前記移動手段の移動位置と同じタイミングで取込み、回折環読取りデータとするデータ読み取り手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段から前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記X線出射手段及び前記回折環撮像手段を内蔵する筐体と、
前記筐体を前記X線の光軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段であって、揺動部分が前記筐体と一体になっている揺動手段と、
前記測定対象物から見て前記撮像面の手前に前記筐体と一体になって配置された、前記撮像面に平行な面を有し、前記回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、前記通過口の中心線が前記X線の光軸を通るようになっているマスクと、
前記撮像面を前記X線の光軸周りに回転させる撮像面回転手段とを備えたX線回折測定装置、及び、
前記測定対象物を載置するステージと、
前記ステージを回転させるステージ回転手段とを備えたステージ装置
を含むX線回折測定システムにおいて、
前記X線回折測定装置の筐体に対する前記ステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整する位置姿勢調整手段と、
前記ステージ回転手段により前記ステージを回転させ、前記撮像面回転手段により前記撮像面を回転させるとき、前記ステージ回転手段による回転と前記撮像面回転手段による回転との回転量及び回転方向が等しくなるよう制御する制御手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定
システム。
【請求項4】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段から前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記X線出射手段及び前記回折環撮像手段を内蔵する筐体と、
前記測定対象物から見て前記撮像面の手前に配置された、前記撮像面に平行な面を有し、前記回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、前記通過口の中心線が前記X線の光軸を通るようになっているマスクと、
前記撮像面を前記X線の光軸周りに回転させる撮像面回転手段とを備えたX線回折測定装置、及び、
前記測定対象物を載置するステージと、
前記ステージを回転させるステージ回転手段と
、
前記ステージを前記ステージ回転手段とともに前記ステージ回転手段の回転軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段であって、前記ステージに前記測定対象物を載置したとき、前記揺動手段の回転軸が前記測定対象物の平面内に含まれるようになっている揺動手段とを備えたステージ装置
を含むX線回折測定システムにおいて、
前記X線回折測定装置の筐体に対する前記ステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整する位置姿勢調整手段と、
前記ステージ回転手段により前記ステージを回転させ、前記撮像面回転手段により前記撮像面を回転させるとき、前記ステージ回転手段による回転と前記撮像面回転手段による回転との回転量及び回転方向が等しくなるよう制御する制御手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項5】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段から前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記X線出射手段及び前記回折環撮像手段を内蔵する筐体と、
前記測定対象物から見て前記撮像面の手前に配置された、前記撮像面に平行な面を有し、前記回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、前記通過口の中心線が前記X線の光軸を通るようになっているマスクと、
前記マスクを前記X線の光軸周りに回転させるマスク回転手段とを備えたX線回折測定装置、及び、
前記測定対象物を載置するステージと、
前記ステージを回転させるステージ回転手段と、
前記ステージを前記ステージ回転手段とともに前記ステージ回転手段の回転軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段であって、前記ステージに前記測定対象物を載置したとき、前記揺動手段の回転軸が前記測定対象物の平面内に含まれるようになっている揺動手段と
、
前記揺動手段を前記ステージ回転手段と同じ回転軸で回転させる揺動回転手段とを備えたステージ装置
を含むX線回折測定システムにおいて、
前記X線回折測定装置の筐体に対する前記ステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整する位置姿勢調整手段と、
前記ステージ回転手段により前記ステージを回転させ、
前記揺動回転手段により前記揺動手段を回転させ、前記マスク回転手段により前記マスクを回転させるとき、前記撮像面回転手段による回転と前記揺動回転手段による回転との回転量が等しく、回転方向が逆方向になり、前記ステージ回転手段による回転と前記マスク回転手段による回転との回転量及び回転方向が等しくなるよう制御する制御手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項6】
X線出射手段から対象とする測定対象物に向けてX線を出射し、測定対象物にて発生した回折X線を、出射したX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像方法において、
前記回折環を撮像するとき、
前記測定対象物におけるX線の照射点を通り前記X線の光軸に垂直な軸を回転軸にして、前記X線出射手段と前記撮像面とを一体として前記測定対象物に対して相対的に揺動させるとともに、前記回転軸の位置を前記測定対象物に対して変化させ、
前記測定対象物から見て前記撮像面の手前に配置された、前記撮像面に平行な面を有し、前記回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、前記通過口の中心線が前記X線の光軸を通るようになっているマスクの通過口の位置を前記測定対象物に対して変化させ、
その際、前記測定対象物に対する前記撮像面の前記X線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、前記マスクの通過口の中心線が、常に前記X線の光軸を含み前記回転軸に垂直な平面内に含まれるようにすることを特徴とする
回折環撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で発生する回折X線により撮像面に回折環を撮像するX線回折測定装置、X線回折測定システム及び回折環撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で発生する回折X線により撮像面に回折X線による像である回折環を撮像し、該回折環の形状データを用いてcosα法による演算処理を行うことで、測定対象物の残留応力等の特性値を測定するX線回折測定装置が知られている。そのようなX線回折測定装置としては、例えば特許文献1に示されるように、回折環を撮像する機能と撮像した回折環を読み取る機能を備えたX線回折測定装置がある。特許文献1に示されている装置は、X線出射器、イメージングプレート等の回折環撮像手段、レーザ検出装置等の回折環読取手段、および移動機構と回転機構等のレーザ走査手段及びLED照射器等の回折環消去手段等を1つの筐体内に備えている。そして、測定対象物にX線を照射して発生する回折X線により、回折環をイメージングプレートに撮像する撮像工程、イメージングプレートにレーザ検出装置からのレーザ光を走査しながら照射することで回折環の形状を検出する読取工程、及び該回折環をLED光の照射により消去する消去工程を連続して行えるようになっている。このX線回折測定装置は小型で軽量のため、測定対象物がある場所まで装置を運搬して測定を行うことができ、また、短時間で測定を行うことができる。
【0003】
X線回折測定の対象となる物体には様々なものがあるが、その中には結晶粒が大きいものがあり、そのような測定対象物においては回折面があらゆる方向に一様に存在せず、X線照射点から見て回折環が撮像される方向の特定方向における回折X線の強度が小さい場合がある。そのような場合は、撮像される回折環が不連続になったり、一部が不明瞭になったりする。この問題に対応するX線回折測定装置としては、例えば特許文献2に示されるX線回折測定装置のように、装置の筐体を複数の方向に揺動させる機構を設け、X線照射点を揺動の中心にして該筐体を揺動させながらX線照射することで回折環を撮像するX線回折測定装置がある。このX線回折測定装置によれば、X線照射点から見て回折環が撮像される方向において、ほとんどの方向における回折X線の強度が大きくなり、連続かつ明瞭な回折環を撮像することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5835191号公報
【文献】特許第6195140号公報
【0005】
しかしながら、本願発明者は、特許文献2に示されるX線回折測定装置を用いて様々な測定対象物を測定した結果、残留応力がほとんど無くても撮像される回折環が真円から変形する場合がある、すなわち、撮像される回折環が残留応力とは別の要因で真円からずれる場合があることを確認した。また、本願発明者は、X線回折測定装置の筐体を1方向のみに揺動させる場合でも同様の現象があることを確認した。よって、X線回折測定装置の筐体を複数の方向に揺動させて回折環を撮像し、連続かつ明瞭な回折環を撮像したとしても、測定対象物によっては精度のよい残留応力を測定することができないという問題がある。
【0006】
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で発生する回折X線により撮像面に回折環を撮像するX線回折測定装置、X線回折測定システム及び回折環撮像方法において、X線回折測定装置の筐体を複数の方向に揺動させて回折環を撮像し、連続かつ明瞭な回折環を撮像するとともに、撮像される回折環の真円からのずれを、ほとんど残留応力によるものにすることができるX線回折測定装置、X線回折測定システム及び回折環撮像方法を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段から測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、X線出射手段及び回折環撮像手段を内蔵する筐体とを備えたX線回折測定装置において、筐体をX線の光軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段と、揺動手段の回転軸の位置を測定対象物に対して変化させる回転軸位置変化手段と、測定対象物から見て撮像面の手前に配置された、撮像面に平行な面を有し、回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、通過口の中心線がX線の光軸を通るようになっているマスクと、マスクの通過口の位置を測定対象物に対して変化させる通過口位置変化手段と、回転軸位置変化手段により揺動手段の回転軸の位置を変化させ、通過口位置変化手段によりマスクの通過口の位置を変化させるとき、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、マスクの通過口の中心線が、常にX線の光軸を含み揺動手段の回転軸に垂直な平面内に含まれるようにする揺動回転軸-通過口関係固定手段とを備えたX線回折測定装置としたことにある。
【0008】
これによれば、X線出射手段からX線を出射させ、回折環撮像手段により撮像面に回折環を撮像する際、揺動手段によりX線回折測定装置の筐体を揺動させ、回転軸位置変化手段により揺動手段の回転軸の位置を変化させ、通過口位置変化手段によりマスクの通過口の位置を変化させるようにし、さらに、揺動回転軸-通過口関係固定手段により、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、マスクの通過口の中心線が、常にX線の光軸を含み揺動手段の回転軸に垂直な平面内に含まれるようにする。本願出願人は、このようにして様々な測定対象物に対してX線回折測定を行った結果、このX線回折測定装置によれば、連続かつ明瞭な回折環を撮像するとともに、撮像される回折環の真円からのずれを、ほとんど残留応力によるものにすることができることを確認した。すなわち、X線回折測定装置の筐体を揺動させて回折環を撮像した場合、撮像される回折環が残留応力とは別の要因で真円からずれる原因は、揺動の回転軸に垂直な平面が撮像面と交差するラインの方向(以下、揺動方向という)と、撮像される回折環の半径方向とが一致していないためであることを確認した。撮像される回折環の半径方向と揺動方向とが大きく異なっている場合、揺動の特定角度において回折X線の強度が大きいと、回折環の半径方向におけるX線強度曲線がガウス分布のようなピーク位置が明確な分布でなくなり、ピーク位置を精度よく定めることができなくなるため回折環が真円から大きくずれることになる。よって、上述したX線回折測定装置により筐体を揺動させて回折環を撮像すれば、撮像される回折環の半径方向と揺動方向とがほぼ同じ方向になり、揺動の特定角度において回折X線の強度が大きくても、回折環の半径方向におけるX線強度曲線のピーク位置を精度よく定めることができるようになり、撮像される回折環の真円からのずれは、ほとんど残留応力によるものになる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、撮像面をX線の光軸周りに回転させる撮像面回転手段を備え、揺動手段の揺動部分とマスクとは、筐体と一体になっており、回転軸位置変化手段及び通過口位置変化手段は、筐体をX線の光軸周りに回転させる筐体回転手段であり、揺動回転軸-通過口関係固定手段は、撮像面回転手段による回転と筐体回転手段による回転との回転量が等しく、回転方向が逆方向になるよう制御する制御手段であるようにしたことにある。
【0010】
これによれば、筐体回転手段により筐体を回転させても、撮像面回転手段により撮像面が反対方向に同じだけ回転されるので、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置は固定される。そして、揺動手段の揺動部分とマスクとが筐体と一体になっているので、揺動手段の回転軸の位置とマスクの通過口の位置との関係は固定される。すなわち、これによれば、筐体を回転させずに揺動手段の回転軸を回転させる機構や、撮像面の手前に配置したマスクを回転させる機構を設けずとも、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定し、揺動手段の回転軸の位置とマスクの通過口の位置との関係を固定して、揺動手段の回転軸の位置と通過口の位置とを変化させることができる。よって、追加する機構が複雑にならないので、装置のコストアップを抑制することができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、X線出射手段は、X線を出射するX線管とX線管から出射されたX線を通過させることで略平行光にする貫通孔群とを備え、撮像面はイメージングプレートであって、中央に貫通孔群の1つである貫通孔が形成されたテーブルに固定されており、撮像面回転手段は、回転することによりテーブルを貫通孔群の中心軸回りに回転させる出力軸を有するモータであって、出力軸の中心軸が貫通孔群の中心軸に一致するように配置され、貫通孔群の1つである貫通孔が出力軸に形成されたモータであり、イメージングプレートにレーザ光を照射するとともに、レーザ光の照射によってイメージングプレートから出射された光の強度を検出するレーザ検出装置と、テーブルを、イメージングプレートに平行な方向にレーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、モータによりテーブルが回転され、かつ移動手段によってテーブルが移動されている状態で、レーザ検出装置によって繰り返し検出される光の強度を、モータの回転角度及び移動手段の移動位置と同じタイミングで取込み、回折環読取りデータとするデータ読み取り手段とを備えたX線回折測定装置としたことにある。
【0012】
これによれば、撮像された回折環を読み取る手段の1つとして撮像面であるイメージングプレートを回転させる手段を設けているので、本発明を実施するために新たに撮像面を回転させる手段を設ける必要がなく、さらに装置のコストアップを抑制することができる。すなわち、先行技術文献の特許文献1に示されるX線回折測定装置に本発明を適用すれば、装置のコストアップを抑制することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段から測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、X線出射手段及び回折環撮像手段を内蔵する筐体と、筐体をX線の光軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段であって、揺動部分が筐体と一体になっている揺動手段と、測定対象物から見て撮像面の手前に筐体と一体になって配置された、撮像面に平行な面を有し、回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、通過口の中心線がX線の光軸を通るようになっているマスクと、撮像面をX線の光軸周りに回転させる撮像面回転手段とを備えたX線回折測定装置、及び、測定対象物を載置するステージと、ステージを回転させるステージ回転手段とを備えたステージ装置を含むX線回折測定システムにおいて、X線回折測定装置の筐体に対するステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整する位置姿勢調整手段と、ステージ回転手段によりステージを回転させ、撮像面回転手段により撮像面を回転させるとき、ステージ回転手段による回転と撮像面回転手段による回転との回転量及び回転方向が等しくなるよう制御する制御手段とを備えたX線回折測定システムとしたことにある。
【0014】
これによれば、位置姿勢調整手段によりX線回折測定装置の筐体に対するステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整することで、X線の光軸とステージ回転手段の回転軸の位置とを合致させることができる。そして、そのような状態で、ステージ回転手段によりステージを回転させ、さらに撮像面回転手段により撮像面を、ステージ回転手段による回転の回転量と回転方向に等しくなるよう回転させると、測定対象物を基準にして見れば、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定し、揺動手段の回転軸の位置とマスクの通過口の位置との関係を固定して、揺動手段の回転軸の位置と通過口の位置とを変化させることができる。よって、これによっても、上述したX線回折測定装置と同じ効果を得ることができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段から測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、X線出射手段及び回折環撮像手段を内蔵する筐体と、測定対象物から見て撮像面の手前に配置された、撮像面に平行な面を有し、回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、通過口の中心線がX線の光軸を通るようになっているマスクと、撮像面をX線の光軸周りに回転させる撮像面回転手段とを備えたX線回折測定装置、及び、測定対象物を載置するステージと、ステージを回転させるステージ回転手段と、ステージをステージ回転手段とともにステージ回転手段の回転軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段であって、ステージに測定対象物を載置したとき、揺動手段の回転軸が測定対象物の平面内に含まれるようになっている揺動手段とを備えたステージ装置を含むX線回折測定システムにおいて、X線回折測定装置の筐体に対するステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整する位置姿勢調整手段と、ステージ回転手段によりステージを回転させ、撮像面回転手段により撮像面を回転させるとき、ステージ回転手段による回転と撮像面回転手段による回転との回転量及び回転方向が等しくなるよう制御する制御手段とを備えたX線回折測定システムとしたことにある。
【0016】
これによれば、上述したX線回折測定システムにおいて、揺動手段を筐体を揺動させる手段からステージを揺動させる手段に変更したのみであり、測定対象物を基準にして見れば、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定し、揺動手段の回転軸の位置とマスクの通過口の位置との関係を固定して、揺動手段の回転軸の位置と通過口の位置とを変化させることができる。よって、これによっても、上述したX線回折測定システムと同じ効果を得ることができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段から測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、X線出射手段及び回折環撮像手段を内蔵する筐体と、測定対象物から見て撮像面の手前に配置された、撮像面に平行な面を有し、回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、通過口の中心線がX線の光軸を通るようになっているマスクと、マスクをX線の光軸周りに回転させるマスク回転手段とを備えたX線回折測定装置、及び、測定対象物を載置するステージと、ステージを回転させるステージ回転手段と、ステージをステージ回転手段とともにステージ回転手段の回転軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる揺動手段であって、ステージに測定対象物を載置したとき、揺動手段の回転軸が測定対象物の平面内に含まれるようになっている揺動手段と、揺動手段をステージ回転手段と同じ回転軸で回転させる揺動回転手段とを備えたステージ装置を含むX線回折測定システムにおいて、X線回折測定装置の筐体に対するステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整する位置姿勢調整手段と、ステージ回転手段によりステージを回転させ、揺動回転手段により揺動手段を回転させ、マスク回転手段によりマスクを回転させるとき、撮像面回転手段による回転と揺動回転手段による回転との回転量が等しく、回転方向が逆方向になり、ステージ回転手段による回転とマスク回転手段による回転との回転量及び回転方向が等しくなるよう制御する制御手段とを備えたX線回折測定システムとしたことにある。
【0018】
これによれば、位置姿勢調整手段によりX線回折測定装置の筐体に対するステージ装置のステージの位置及び姿勢を調整することで、X線の光軸とステージ回転手段の回転軸の位置とを合致させることができる。そして、そのような状態で、ステージ回転手段によりステージを回転させ、撮像面回転手段により揺動手段を、ステージ回転手段による回転の回転量に等しく、回転方向が逆方向になるよう回転させ、さらにマスク回転手段によりマスクを、ステージ回転手段による回転の回転量と回転方向に等しくなるよう回転させると、測定対象物を基準にして見れば、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定し、揺動手段の回転軸の位置とマスクの通過口の位置との関係を固定して、揺動手段の回転軸の位置と通過口の位置とを変化させることができる。よって、これによっても、上述したX線回折測定システムと同じ効果を得ることができる。
【0019】
また、本発明は、X線出射手段から対象とする測定対象物に向けてX線を出射し、測定対象物にて発生した回折X線を、出射したX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像方法の発明としても実施し得るものであり、回折環を撮像するとき、測定対象物におけるX線の照射点を通りX線の光軸に垂直な軸を回転軸にして、X線出射手段と撮像面とを一体として測定対象物に対して相対的に揺動させるとともに、回転軸の位置を測定対象物に対して変化させ、測定対象物から見て撮像面の手前に配置された、撮像面に平行な面を有し、回折X線の一部を通過させる通過口を有するマスクであって、通過口の中心線がX線の光軸を通るようになっているマスクの通過口の位置を測定対象物に対して変化させ、その際、測定対象物に対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、マスクの通過口の中心線が、常にX線の光軸を含み揺動の回転軸に垂直な平面内に含まれるようにする回折環撮像方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
【
図3】
図2のX線回折測定装置におけるX線出射機構部分を拡大して示す部分断面図である。
【
図4】
図2のX線回折測定装置におけるX線が装置外に出る箇所を出射X線の光軸方向から見た図である。
【
図5】
図3において、出射X線と同じ光軸となる可視のLED光を出射する部分を拡大して示す斜視図である。
【
図6】回折環を撮像する際のX線回折測定装置の回転位置と、撮像面に対するマスクの通過口の位置とを対比して示した図である。
【
図7】本発明の別の実施形態に係るX線回折測定装置とステージ装置の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について
図1乃至
図5を用いて説明する。なお、このX線回折測定装置が先行技術文献の特許文献1に示されているX線回折測定装置と異なっている点で本願の発明に関わる点は、X線回折測定装置の筐体50を揺動させるとともに回転させる機構を備える点、X線回折測定装置の筐体50のX線出射部分に通過口のあるマスク100を装着している点、及びX線回折測定装置の筐体50を揺動させるとともに回転させる際、イメージングプレート15をX線回折測定装置の筐体50の回転方向の逆方向に同じ回転量だけ回転させる制御機能を備える点である。また、本実施形態は、本願出願人が特許文献1に示されるX線回折測定装置を小型化するために開発したX線回折測定装置をベースにしているため、本願の発明に直接関わらない点においても特許文献1に示されているX線回折測定装置と異なっている箇所がある。以下、特許文献1に示されているX線回折測定システムと機能及び構造が同じ箇所は、同じであることを述べて簡略的に説明するにとどめ、異なっている箇所は詳細に説明するようにする。
【0022】
図1及び
図2に示すように、このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、揺動回転機構5、コンピュータ装置90、高電圧電源95及びアーム式移動装置(先端59のみ図示)から構成される。そして、このX線回折測定システムは、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の位置及び姿勢をアーム式移動装置を操作することで調整したうえで、X線回折測定装置1からX線を照射して回折環を撮像し、撮像された回折環を読み取って、その形状から測定対象物OBの残留応力等を測定する。また、このX線回折測定システムは、回折環を撮像する際、揺動回転機構5によりX線回折測定装置1を揺動させるとともに回転させるようになっている。なお、以下、
図1及び
図2の紙面垂直方向をX軸方向、横方向をY軸方向、縦方向をZ軸方向として説明する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、
図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90に接続され、コンピュータ装置90のコントローラ91から入力する指令により作動する。コンピュータ装置90は入力装置92及び表示装置93を有し、入力装置92からの入力及びインスト-ルされているプログラムの作動により、上述した各種回路に指令を出力し、また該各種回路が出力したデータを入力してメモリに記憶する。また、
図1に示すように、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。これらの構成は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0024】
図2に示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fの角部をなくすように設けた傾斜壁50gを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに対し所定の角度を成す平板と底面壁50aにほぼ平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり前面壁50bと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30~40度であり、X線回折測定装置1から出射するX線は前面壁50b及び側面壁に略平行であるため、繋ぎ壁50dが測定対象物OBの表面に平行になるようX線回折測定装置1の筐体50の姿勢を調整すると、測定対象物OBに対するX線の入射角は、この所定の角度に等しくなる。切欠き部壁50cには円形孔50c1があり、回折環撮像時にはこの円形孔50c1を通過してX線が出射され、測定対象物OBにて発生した回折X線はこの円形孔50c1を通過して撮像がされる。なお、切欠き部壁50cには円形孔50c1の一部だけ回折X線を通過させるようにするマスク100が装着されており、撮像される回折環は全体の一部である。この箇所の詳細は後述する。
【0025】
コンピュータ装置90のコントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、入力装置92からの指令の入力により、大容量記憶装置に記憶されたプログラムを実行してX線回折測定装置1の作動を制御するとともに、入力したデジタルデータを用いて演算を行い、残留応力等の特性値の算出及び回折X線強度の分布図の作成等を行う。また、コントローラ91は、入力装置92から入力した測定条件やX線回折測定システムの作動状況、及び演算の結果得られた特性値や分布図を表示装置93に表示する。コンピュータ装置90の構成及び機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0026】
図1及び
図2に示すように、X線管10は筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて固定されている。この固定は、X線管10の側面が、後述するテーブル駆動機構20の板状プレート26に形成された円柱側面の一部の形状になっている溝に嵌合することで、位置決めがされたうえで行われている。そして、X線管10は、高電圧電源95からの高電圧の供給を受けると、その側面に形成された円状の出射口11からX線を図示下方向に出射する。
図3に示すように、板状プレート26において出射口11と合わさる箇所には貫通孔26aが形成されており、出射口11から出射したX線は貫通孔26aを通過して下方向に進む。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線管10から一定強度のX線が出射するように、高電圧電源95からX線管10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線管10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
【0027】
図2に示すように、テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線管10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21の紙面反対側には凸部があり、この凸部はテーブル駆動機構20における板状プレート26に固定されたブロック19とブロック29に固定された板状のガイド25にある溝に嵌合している。これにより移動ステージ21は板状のガイド25にある溝の方向にのみ移動可能になっており、ブロック19に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及びブロック29に固定された軸受部24が回転することにより移動する。この移動方向は、X線管10の中心軸方向であり、別の表現をすると出射X線の光軸に垂直で筺体50の側面壁に平行な方向である。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が回転するとパルス列信号を、
図1に示す位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
【0028】
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動し、位置検出回路72はエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントすることで、移動限界位置を原点とした移動距離である移動位置をフィードモータ制御回路73とコントローラ91に出力する。また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から入力した移動位置が位置検出回路72から入力する移動位置に等しくなるまで、フィードモータ22に駆動信号を出力する。さらに、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動方向と移動速度が入力すると、エンコーダ22aからのパルス列信号から計算される移動速度が入力した移動速度になるよう駆動信号の強度を制御する。位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73のこれらの機能により、コントローラ91が指令を出力することで、移動ステージ21及び移動ステージ21と一体になっているスピンドルモータ27、テーブル16及びイメージングプレート15等は、回折環撮像位置、回折環読取位置及び回折環消去位置に移動し、コントローラ91が指定する移動方向に指定した移動速度で移動する。これらの機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0029】
コントローラ91の指令により移動ステージ21が回折環撮像位置になっていると、
図3に示すように、X線管10の出射口11から出射され板状プレート26の貫通孔26aを通過したX線は、回転プレート45の方向に進む。後述するように、回転プレート45はモータ46の出力軸46aに接続されており、モータ46の回転により位置を変えるので、回転プレート45を貫通孔26aから出射したX線の進行方向にないようにすることができる。その状態であれば、貫通孔26aを通過したX線は移動ステージ21に形成された貫通孔21aに入射する。貫通孔21aに入射したX線は、移動ステージ21に固定されたスピンドルモータ27に形成された貫通孔27bの先端に固定されている通路部材28の貫通孔28aを通過する。スピンドルモータ27の出力軸27aには貫通孔27a1が形成されており、貫通孔27bは貫通孔27a1と中心軸が合ったうえでつながっている。このため、貫通孔28aを通過したX線は、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過する。
【0030】
テーブル16は円盤状であり、その中心軸に形成された貫通孔16aがスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1と位置が合うよう出力軸27aに固定されている。そして、テーブル16は、中心軸周りに下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面に貫通孔15aを突出部17に嵌め込むようにイメージングプレート15を取り付け、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15はテーブル16に固定される。突出部17にも貫通孔27a1、貫通孔16aと位置が合うよう貫通孔17aが形成されており、固定具18には通路部材28の貫通孔28aと同程度の径の貫通孔18aが形成されている。よって、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過したX線は、貫通孔16a、貫通孔17a及び貫通孔18aを通過し、略平行なX線となって、筐体50の円形孔50c1から出射する。上述したように、X線管10から出射されたX線が貫通孔群を通過して出射する構造は、特許文献1に示されているX線回折測定装置と同じである。
【0031】
図4は、筐体50の円形孔50c1部分にマスク100が装着された状態を、出射X線の光軸方向から見た図である。
図4に示すように、マスク100には通過口100a、100b、100cが形成されており、貫通孔18aから出射したX線は、通過口100cを通過することで円形孔50c1から出射するが、測定対象物OBで発生した回折X線は、通過口100a、100bを通過したもののみが、イメージングプレート15で受光される。よって、イメージングプレート15で撮像される回折環は通過口100a、100bに対応する箇所のみである。通過口100a,100bの中心線は、X線の光軸を通るようになっており、イメージングプレート15の回転角度0のラインと平行である。よって、X線回折測定装置1が
図2の状態(X線の光軸とX線照射点部分の法線がYZ平面にある状態)でイメージングプレート15が回転角度0の状態にあると、回折環は0°付近と180°付近のみに撮像される。通過口100a,100bの周方向の幅は適宜定めることができるが、
図4では1つの例として30°の幅にされている。また、後述する揺動回転機構5の揺動の回転軸は出射X線の光軸に垂直に交差するとともに、マスク100の通過口100a,100bの中心線の方向に垂直である。よって、マスク100の通過口100a,100bの中心線は揺動手段の回転軸に垂直な平面と平行であり、言い換えると、マスク100の通過口100a,100bの中心線の方向は、揺動回転機構5の揺動方向と一致している。
【0032】
図4に示すように、切欠き部壁50cにはマスク100を装着させるための断面形状がL字状の嵌込部101,102が設けられている。嵌込部101,102は
図4の左端がストッパになっており、マスク100を円形孔50c1に装着するときは、嵌込部101,102の溝にマスク100の2つの縁を挿入してストッパにより動かなくなるまでスライドさせればよい。最後までスライドさせると、マスク100の通過口100a,100b及び100cは適切な位置になる。また、マスク100は装着することも取り外すことも可能であり、本実施形態のX線回折測定システムは、本願発明による測定の他、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同様の測定も可能である。
【0033】
スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、パルス列信号を、
図1に示すスピンドルモータ制御回路74と回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとにインデックス信号を、回転角度検出回路75及びコントローラ91に出力する。スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号から計算される回転速度が入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力したタイミングで回転角度を0にし、その後に入力するパルス列信号のパルス数から回転角度を計算してコントローラ91に出力する。これにより、コントローラ91の指令でテーブル16は指定された回転速度で回転し、回転角度データがコントローラ91に入力する。これらの機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置は、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に撮像された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置であり、この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。そして、移動ステージ21の移動においてイメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°のラインとが成す平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。以下、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°のラインとが成す平面を基準平面という。基準平面は
図1及び
図2においてはYZ平面である。
【0034】
図1に示すように、レーザ検出装置30はレーザ検出制御回路77により制御され、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15で発光した光の強度から、レーザ光照射位置における回折X線の強度を検出する。コントローラ91の指令で移動ステージ21が回折環読取位置になり、スピンドルモータ27とフィードモータ22が回転を開始したとき、レーザ検出制御回路77にはコントローラ91から指令が入力し、レーザ検出制御回路77はレーザ検出装置30に対し、レーザ光出射、出射レーザ光の強度制御、レーザ光照射点のイメージングプレート15への合焦制御、及びイメージングプレート15での発光強度のコントローラ91への出力といった制御を行う。レーザ検出装置30の構造は、先行技術文献の特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じであり、レーザ検出制御回路77の機能は、特許文献1と同じである。なお、特許文献1に示されているX線回折測定システムでは、レーザ検出制御回路77は、上述した制御ごとにいくつかの回路に分割されて示されている。コントローラ91は、レーザ検出制御回路77、スピンドルモータ制御回路74及びフィードモータ制御回路73に指令を出力した後、レーザ検出制御回路77から入力する発光強度のデータを、位置検出回路72と回転角度検出回路75が出力するデジタルデータと同じタイミングで取り込む。これにより、コントローラ91には撮像した回折環における回折X線の強度データが、移動距離データ及び回転角度データとともに蓄積される。これが回折環読取機能であり、この機能は特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0035】
また、
図2に示すように、レーザ検出装置30にはLED光源43が設けられており、LED光源43は
図1に示すLED駆動回路84によって制御されて、可視光を発してイメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。回折環読取りがされた後、コントローラ91の指令によりテーブル16が回転を継続したまま移動ステージ21が所定位置に戻り移動を再開したとき、LED駆動回路84にコントローラ91から指令が入力し、LED駆動回路84はLED光源43が所定の強度の可視光を出射する駆動信号を出力する。これが回折環消去機能であり、この機能も特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0036】
図3に示すように、移動ステージ21は、板状プレート26と対向する面にモータ46を取り付けており、モータ46は出力軸46aに回転プレート45を取り付けている。
図5は、このモータ46と回転プレート45の拡大斜視図である。回転プレート45は、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47aに当たるまで回転すると、貫通孔26a、21aの中心軸と回転プレート45が交差する箇所が中心となるようにLED光源44を取り付けている。LED光源44は、
図1に示すLED駆動回路85から駆動信号が入力すると可視光を出射し、その可視光は前述した出射X線の光路と同様の光路で出射して測定対象物OBに照射される。これにより、出射X線の光軸及びX線の照射点を可視光の光軸および照射点として把握することができる。また、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47bに当たるまで回転すると、貫通孔26aと貫通孔21aの間には何もなくなり、前述したように貫通孔26aから出射されたX線は貫通孔21aに入射する。モータ46は
図1に示すモータ制御回路86からの駆動信号により
図5に示すD1方向及びD2方向に回転するようになっており、モータ制御回路86は、コントローラ91からの回転方向の指令が入力すると、モータ46のエンコーダ46bからのパルス列信号が入力しなくなるまで、入力した回転方向に回転するための駆動信号を出力する。また、LED駆動回路85は、コントローラ91からの指令が入力すると駆動信号をLED光源44に出力する。これにより、回転プレート45の回転位置及びLED光源44からの可視光照射は、コントローラ91により制御される。この出射X線の光軸と同じ光軸で可視光を照射する構造及び制御の方法は、モータ46の取り付け箇所を除いて特許文献1に示されるX線回折測定システムと同じである。
【0037】
図2及び
図4に示すように、筐体50の切欠き部壁50cにはカメラCAが取り付けられている。カメラCAは結像レンズ48を取り付けた鏡筒と撮像器49とから構成され、撮像器49は結像レンズ48により画像が形成される箇所に設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路88に出力する。カメラCAは、イメージングプレート15に対して基準位置にある測定対象物OBにおける可視光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して基準位置とは、可視光の照射点からイメージングプレート15までの距離が、設定値となる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路88は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共に、又は各撮像素子の位置の順にコントローラ91に出力する。コントローラ91は入力した信号強度データを用いて、表示装置93に撮影画像を表示する。このカメラ機能は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0038】
コントローラ91は、入力装置92から位置及び姿勢調整の指令を入力すると、モータ制御回路86にモータ46をD1方向に回転させる指令を出し、LED駆動回路85に可視光出射の指令を出力し、さらにセンサ信号取出回路88に作動開始の指令を出力する。これにより、出射X線と光軸が等しい可視光が測定対象物OBに照射され、測定対象物OBの可視光照射点付近の撮影画像データがコントローラ91に入力し、表示装置93には入力した撮影画像データから作成された撮影画像が表示される。作業者はこの撮影画像を見ながら、撮影画像上の可視光照射点と可視光の受光点が後述する基準位置になるよう、アーム式移動装置を用いてX線回折測定装置1の位置と姿勢の調整を行う。この調整方法は、測定対象物OBの位置と姿勢を調整する替わりにX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整する点を除き、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0039】
図2に示すように揺動回転機構5は、駆動ステージ51と固定ステージ52からなるゴニオステージの固定ステージ52の面を回転テーブル54に固定させ、回転テーブル54をモータ55の出力軸に連結させた構造をしている。そして、ゴニオステージの駆動ステージ51は連結部58にねじ止めで固定されており、連結部58はX線回折測定装置1の筐体50にねじ止めで固定されている。また、モータ55は、連結部57にねじ止めで固定されており、連結部57は固定台56にねじ止めで固定されており、固定台56はアーム式移動装置の先端59に
図2の紙面垂直周り(X軸周り)に回転可能に連結されている。これにより、X線回折測定装置1の筐体50は揺動回転機構5と共に、アーム式移動装置を操作することにより、位置及び姿勢を変化させることができるようになっている。
【0040】
また、ゴニオステージの駆動ステージ51の回転軸は、出射X線の光軸と垂直に交差し、基準平面に垂直になっている。別の表現をすると、出射X線の光軸と垂直に交差し、X線管10の中心軸方向、移動ステージ21の移動方向及び筐体50の側面壁に垂直になっている。そして、その交差する点を、X線(LED光)の照射点にしたとき、該交差する点からイメージングプレート15までの距離は、設定値となるようになっている。また、回転テーブル54(モータ55)の回転軸は、出射X線(LED光)の光軸と一致している。よって、アーム式移動装置によりX線回折測定装置1の筐体50の位置及び姿勢を調整し、X線(LED光)の照射点からイメージングプレート15までの距離を設定値にして、ゴニオステージの駆動ステージ51を駆動させ、モータ55を回転させると、X線回折測定装置1の筐体50はX線(LED光)の照射点を中心に揺動するとともに、揺動の回転軸位置が変化する。別の表現をするとX線(LED光)の照射点を中心に揺動するとともに、揺動方向が変化する。
【0041】
図1に示すように、駆動ステージ51を駆動させるモータ53は、モータ制御回路80から入力する駆動信号により回転駆動する。モータ制御回路80は、コントローラ91から回転角度の上限値と下限値及び回転速度が入力すると、入力した回転角度の上限値と下限値及び回転速度を記憶する。そして、コントローラ91から揺動開始の指令が入力すると、記憶されている回転角度の上限値と下限値の間を記憶されている回転速度でモータ53が正回転と逆回転を繰り返し行うよう、駆動信号を出力する。モータ制御回路80がモータ53に出力する駆動信号を正回転から逆回転又はこの反対に切り替えるのは、回転角度検出回路81から設定された短い時間間隔で回転角度のデジタルデータを入力し続け、入力した回転角度が記憶された回転角度の上限値または下限値に達したタイミングで行う。また、モータ53が記憶されている回転速度で回転するようにする制御は、モータ53内に組み込まれたエンコーダ53aが出力するパルス列信号の所定時間当たりのパルス数が記憶されている回転速度に相当するパルス数になるよう駆動信号の強度を制御することで行う。エンコーダ53aが出力するパルス列信号は、位相がπ/2ずれた2つの信号があり、どちらの信号の位相が進んでいるかにより回転方向を判別することができる。
【0042】
回転角度検出回路81は、エンコーダ53aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、モータ53の回転方向に応じてカウントアップまたはカウントダウンさせて積算カウント値とし、積算カウント値を回転角度としてモータ制御回路80に出力する。回転角度が0となる位置は、駆動ステージ51の左右の側面が固定ステージ52の左右の側面と共に1つの平面内に含まれる位置であり、言い換えると駆動ステージ51が正側と負側の駆動限界位置の中間にある位置である。回転角度検出回路81が回転角度0の位置で積算カウント値を0に設定するのは、X線回折測定装置1に電源を投入したときコントローラ91からの指令により次の作動がされることにより行われる。電源の投入時において、コントローラ91はモータ制御回路80と回転角度検出回路81に回転角度0の設定を指令する信号を出力し、この指令が入力すると、モータ制御回路80は駆動ステージ51が
図2において左周りに回転する駆動信号を出力し、回転角度検出回路81は、エンコーダ53aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントする。そして、回転角度検出回路81は、パルス列信号のパルス数がカウントされなくなると、積算カウント値をリセットして0にし、駆動限界位置を意味する信号をモータ制御回路80に出力する。モータ制御回路80は駆動限界位置を意味する信号が入力すると、モータ53の回転方向を逆にする駆動信号を出力し、回転角度検出回路81から入力する回転角度が予め記憶されている回転角度になったとき駆動信号の出力を停止する。そして、回転角度検出回路81はパルス列信号のパルス数がカウントされなくなると、再び積算カウント値をリセットして0にする。
【0043】
図1に示すように、回転テーブル54を駆動させるモータ55は、モータ制御回路82から入力する駆動信号により回転駆動する。モータ制御回路82は、コントローラ91から回転角度が入力すると、回転角度検出回路83から入力する回転角度が入力した回転角度になるまで駆動信号を出力する。これにより、回転テーブル54及びそれに連結しているゴニオステージとX線回折測定装置1の筐体50はコントローラ91が指令した回転角度になる。回転角度検出回路83は、エンコーダ55aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、モータ55の回転方向に応じてカウントアップまたはカウントダウンさせて積算カウント値とし、積算カウント値を回転角度としてモータ制御回路82に出力する。そして、エンコーダ55aからインデックス信号を入力したタイミングで積算カウント値を0にする。コントローラ91は様々な回転角度を出力するが、回転角度の基準値は、X線回折測定装置1の筐体50が
図1及び
図2の状態のときの回転角度であり、より詳細には、アーム式移動装置の先端59の中心軸方向が基準平面や筐体50の側面壁に平行になるときの回転角度である。そして、回転角度の上限値は、基準値より90°プラスさせた回転角度であり、回転角度の下限値は、基準値より90°マイナスさせた回転角度である。よって、コントローラ91が回転角度の上限値から下限値まで回転角度を出力すると、X線回折測定装置1の筐体50は前面壁50bが
図2の紙面手前を向いた状態から、
図2の状態を経由して後面壁50eが
図2の紙面手前を向いた状態まで回転する。別の表現をすると前面壁50bの法線ベクトルが
図2の正側のX軸方向から負側のX軸方向まで回転する。
【0044】
以下、X線回折測定システムを作動させてX線回折測定を行う際の、コンピュータ装置90及びX線回折測定装置1内の各種回路の作動に従って説明する。まず、上述したように、入力装置92から位置及び姿勢調整の指令を入力して、出射X線と同じ光軸の可視光を出射させ、表示装置93に表示されるカメラCAの撮影画像における可視光の照射点と受光点が基準位置になるようX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整する。これにより、X線照射点からイメージングプレート15までの距離は設定値になり、測定対象物OBに対するX線の入射角は設定値になり、X線照射点における測定対象物OBの法線は基準平面に含まれるようになる。また、上述したように、X線回折測定装置1の筐体50における揺動の回転軸が出射X線の光軸と交差する点は、X線照射点に合致する。次に、入力装置92から測定開始の指令を入力すると、コントローラ91はモータ制御回路82に回転角度の上限値を出力し、モータ55が回転角度検出回路83が出力する回転角度が上限値になるまで回転する。この時、コントローラ91はスピンドルモータ制御回路74にも90°の回転角度を出力し、回転角度検出回路75が出力する回転角度が、90°になるまでスピンドルモータ27を微速回転させる。なお、90°の最初に付くプラス又はマイナスの符号は、回転角度が0から90°に変化したとき、筐体50の回転の反対方向になるよう定められる。この状態は、イメージングプレート15だけを見ると、
図2の状態でイメージングプレート15を回転角度0にした状態である。
【0045】
次にコントローラ91はモータ制御回路80と回転角度検出回路81に指令を出力して、X線回折測定装置1の筐体50を揺動させ、X線制御回路71に指令を出力してX線管10からX線を出射させる。これにより、測定対象物OBで発生し、マスク100の通過口100a及び100bを通過した回折X線により、イメージングプレート15には回折環の一部が撮像されていく。コントローラ91には時間計測機能があり、X線制御回路71に指令を出力してから経過した時間を計測する。そして経過した時間が予め設定されている時間に到達すると、X線制御回路71に指令を出力してX線管10からのX線出射を停止させる。次にコントローラ91はモータ制御回路82に回転角度の上限値から30°小さい値を出力し、モータ55は回転角度検出回路83が出力する回転角度がその回転角度になるまで回転する。30°は
図4に示した通過口100a及び100bの周方向の幅の回転角度に等しい回転角度であり、通過口100a及び100bの周方向の幅の回転角度により定められる値である。この時、コントローラ91はスピンドルモータ制御回路74にも、筐体50の回転の反対方向に30°回転する回転角度を出力する。この状態も、イメージングプレート15だけを見ると、
図2の状態でイメージングプレート15を回転角度0にした状態であり、測定対象物OBに対しては回転していない。そして、コントローラ91はこの状態でX線制御回路71に指令を出力してX線を出射させ、先と同様イメージングプレート15に回折環の一部が撮像させる。イメージングプレート15は測定対象物OBに対しては回転していないが、X線回折測定装置1の筐体50が30°回転しているので、マスク100の通過口100a及び100bも30°回転しており、イメージングプレート15に撮像される回折環の一部は、先の撮像位置より30°回転した位置になる。また、ゴニオステージの駆動ステージ51もX線回折測定装置1の筐体50と一体になっているので、揺動方向も30°回転している。すなわち、イメージングプレート15に撮像される一部の回折環の中央における半径方向と揺動方向とは一致している。
【0046】
この後、同様に、X線回折測定装置1の筐体50を30°回転させ、イメージングプレート15を反対方向に30°回転させるごとに、X線を出射させて、イメージングプレート15に回折環の一部を撮像させていく。そして、最後の回折環の撮像は、X線回折測定装置1の筐体50を回転角度の上限値から150°回転させた状態であり、この撮像が終了すると、イメージングプレート15に回折環が全周撮像される。いずれの撮像においても、X線回折測定装置1の筐体50が回転した分、イメージングプレート15が反対方向に回転しており、イメージングプレート15は測定対象物OBに対しては回転していない。そして、マスク100の通過口100a及び100bと揺動方向、別の表現をすると揺動の回転軸は、回折環の一部を撮像するごとに同じ回転角度だけ回転し、回折環の撮像時においては、撮像される一部の回折環の中央における半径方向と揺動方向とは常に一致している。
【0047】
図6は、上方から見たX線回折測定装置1の回転状態と、イメージングプレート15に対するマスク100の通過口100a及び100bの位置とを対比させた図である。
図6においては図を見やすくするため、回転テーブル54、モータ55、固定台56、及びアーム式移動装置の先端59は除かれている。回折環撮像において、X線回折測定装置1は
図6の(a)から(c)に向けて30°間隔で回転し、これに伴ってマスク100の通過口100a及び100bも30°間隔で回転する。また、駆動ステージ51もX線回折測定装置1の筐体50と一体になっているので、揺動方向も30°間隔で回転し、揺動方向と通過口100a及び100bの中心線方向とは常に一致している。このときイメージングプレート15は、X線回折測定装置1の回転方向の反対方向に同じ回転角度だけ回転するので、測定対象物OBから見ると動いていないと見なすことができ、マスク100の通過口100a及び100bが
図6の(a)から(c)になったとき回折環は全周が撮像されることになる。ただし、
図6の(a)と(c)は通過口100aと100bが互いに替わったのみで同じ状態であり、
図6の(c)の状態まで回折環を撮像すると、重複して回折環が撮像されることになるので、実際は、
図6の(c)の状態から右回りに30°回転した状態が最後の回折環撮像状態である。
図2を見ると分かるように、X線回折測定装置1の筐体50を
図2の状態から360°回転させると、測定対象物OBの表面に平行な面よりX線回折測定装置1の筐体50が下になるときがある。しかし、
図6の(a)から(c)までの回転であれば、すなわち、
図2の状態からプラス側に90°の状態からマイナス側に90°の状態の間での回転であれば、X線回折測定装置1の筐体50は測定対象物OBの表面に平行な面より下にはならず、上述したように回折環を撮像することができる。
【0048】
上述したように、X線回折測定装置1の筐体50が回転しても、イメージングプレート15は常に、
図2の状態で回転角度0にした状態であるので、イメージングプレート15に撮像した回折環は、特許文献1に示されているX線回折測定装置1で撮像した回折環と同じと見なすことができる。よって、イメージングプレート15に撮像した回折環を読み取る方法は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じである。すなわち、テーブル16を回転させるとともに移動ステージ21を移動させ、レーザ検出装置30からレーザ照射して、イメージングプレート15のそれぞれの箇所における回折X線強度のデータを、回転角度データ及び移動位置データと共にコントローラ91に出力して、これらのデータをコントローラ91のメモリに記憶する。また、この後の回折環を消去する方法も、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じであり、テーブル16を回転させるとともに移動ステージ21を移動させて、レーザ検出装置30のLED光源43からLED光を照射することで回折環を消去する。また、コントローラ91のメモリに記憶されたデータを用いて、残留応力等の特性値を計算する方法も特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じであり、コントローラ91は計算の結果得られた残留応力等の特性値を、測定条件及び回折X線強度に基づくマップ等と共に表示装置93に表示する。
【0049】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10及び貫通孔26a,21a,28a,27b,27a1,16a,17a,18aからなるX線出射機構と、X線出射機構から測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射機構から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の像である回折環を撮像するテーブル16、イメージングプレート15及び固定具18等からなる回折環撮像機構と、X線出射機構及び回折環撮像機構を内蔵する筐体50とを備えたX線回折測定装置1において、筐体50をX線の光軸に対して垂直な回転軸周りに揺動させる駆動ステージ51,固定ステージ52及びモータ53等からなる揺動機構と、揺動機構の回転軸の位置を、測定対象物OBに対して変化させるモータ55等からなる回転軸位置変化機構と、測定対象物OBから見てイメージングプレート15の手前に配置された、イメージングプレート15に平行な面を有し、回折X線の一部を通過させる通過口100a,100bを有するマスク100であって、通過口100a,100bの中心線がX線の光軸を通るようになっているマスク100と、マスク100の通過口100a,100bの位置を、測定対象物OBに対して変化させるモータ55等からなる通過口位置変化機構と、回転軸位置変化機構により揺動機構の回転軸の位置を変化させ、通過口位置変化機構によりマスク100の通過口100a,100bの位置を変化させるとき、測定対象物OBに対するイメージングプレート15のX線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、マスク100の通過口100a,100bの中心線が、常にX線の光軸を含み揺動機構の回転軸に垂直な平面内に含まれるようにする手段とを備えたX線回折測定システムとしている。
【0050】
これによれば、X線管10からX線を出射させ、イメージングプレート15に回折環を撮像する際、揺動機構によりX線回折測定装置1の筐体50を揺動させ、回転軸位置変化機構により揺動機構の回転軸の位置を変化させ、通過口位置変化機構によりマスク100の通過口100a,100bの位置を変化させるようにし、さらに、測定対象物OBに対するイメージングプレート15のX線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、マスク100の通過口100a,100bの中心線が、常にX線の光軸を含み揺動機構の回転軸に垂直な平面内に含まれるようにすることができる。本願出願人は、このようにして回折環を撮像すれば、連続かつ明瞭な回折環を撮像できるとともに、撮像される回折環の真円からのずれを、ほとんど残留応力によるものにすることができることを確認した。すなわち、従来のようにX線回折測定装置1の筐体50を揺動させて回折環を撮像した場合、撮像される回折環が残留応力とは別の要因で真円からずれる原因は、揺動方向(揺動の回転軸に垂直な平面が撮像面と交差するラインの方向)と、撮像される回折環の半径方向とが一致していないためである。しかし、上記実施形態によるX線回折測定システムによれば、撮像される回折環の半径方向と揺動方向とがほぼ同じ方向になるので、撮像される回折環の真円からのずれは、ほとんど残留応力によるものになる。
【0051】
また、上記実施形態においては、イメージングプレート15をX線の光軸周りに回転させるスピンドルモータ27等の撮像面回転機構を備え、揺動機構の揺動部分とマスク100とは、筐体50と一体になっており、回転軸位置変化機構及び通過口位置変化機構は、筐体50をX線の光軸周りに回転させるモータ55等の筐体回転機構であり、測定対象物OBに対するイメージングプレート15のX線の光軸周りの回転位置を固定する手段を、撮像面回転手段による回転と筐体回転手段による回転との回転量が等しく、回転方向が逆方向になるよう制御する手段であるようにしている。
【0052】
これによれば、筐体回転機構により筐体50を回転させても、撮像面回転機構によりイメージングプレート15が反対方向に同じだけ回転されるので、測定対象物OBに対するイメージングプレート15のX線の光軸周りの回転位置は固定される。そして、揺動機構の揺動部分とマスク100とが筐体50と一体になっているので、揺動機構の回転軸の位置とマスク100の通過口100a,100bの位置との関係は固定される。すなわち、これによれば、筐体50を回転させずに揺動機構の回転軸を回転させる機構や、イメージングプレート15の手前に配置したマスク100を回転させる機構を設けずとも、測定対象物OBに対するイメージングプレート15のX線の光軸周りの回転位置を固定し、揺動機構の回転軸の位置とマスク100の通過口100a,100bの位置との関係を固定して、揺動機構の回転軸の位置と通過口100a,100bの位置とを変化させることができる。よって、追加する機構が複雑にならないので、X線回折測定装置1のコストアップを抑制することができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、X線出射機構は、X線を出射するX線管10とX線管10から出射されたX線を通過させることで略平行光にする貫通孔26a,21a,28a,27b,27a1,16a,17a,18aとを備え、イメージングプレート15は、中央に貫通孔16aが形成されたテーブル16に固定されており、撮像面回転機構は、回転することによりテーブル16を貫通孔26a,21a,28a,27b,27a1,16a,17a,18aの中心軸回りに回転させる出力軸27aを有するスピンドルモータ27であって、出力軸27aの中心軸が貫通孔26a,21a,28a,27b,27a1,16a,17a,18aの中心軸に一致するように配置され、貫通孔27a1が出力軸27aに形成されたスピンドルモータ27であり、イメージングプレート15にレーザ光を照射するとともに、レーザ光の照射によってイメージングプレート15から出射された光の強度を検出するレーザ検出装置30と、テーブル16を、イメージングプレート15に平行な方向にレーザ検出装置30に対して相対的に移動させるテーブル駆動機構20と、スピンドルモータ27によりテーブル16が回転され、かつテーブル駆動機構20によってテーブル16が移動されている状態で、レーザ検出装置30によって繰り返し検出される光の強度を、スピンドルモータ27の回転角度及びテーブル駆動機構20の移動位置と同じタイミングで取込み、回折環読取りデータとするデータ読み取り機能とを備えたX線回折測定システムとしている。
【0054】
これによれば、撮像された回折環を読み取る機能の1つとしてイメージングプレート15を回転させるスピンドルモータ27を設けているので、本発明を実現するために新たにイメージングプレート15を回転させる機構を設ける必要がなく、さらにX線回折測定装置1のコストアップを抑制することができる。すなわち、先行技術文献の特許文献1に示されるX線回折測定装置に本発明を適用すれば、装置のコストアップを抑制することができる。
【0055】
(第2実施形態)
上記第1実施形態においては、揺動回転機構5をX線回折測定装置1の上面壁50fに接続させ、X線回折測定装置1の筐体50を揺動させるとともに、揺動を行う機構と共に回転させるようにした。しかし、これに替えて揺動回転機構5から回転機構を除いて揺動のみを行う機構にし、測定対象物OBを載置するステージに回転機構を設け、該回転機構の回転軸と出射X線の光軸とを合致させたうえで、X線回折測定装置1の筐体50を揺動させ、測定対象物OBを回転させても、本発明は実施することができる。なお、この場合は、ステージに測定対象物OBを載置し、回転機構の回転軸と出射X線の光軸とを合致させる必要があるので測定対象物OBは直方体状の小片である必要がある。
図7は、このような実施形態のX線回折測定装置1を含むX線回折測定システムの構成を示した図であり、上記第1実施形態の
図2に相当する図である。なお、第2実施形態のX線回折測定システムは、上記第1実施形態のX線回折測定システムと機能及び構造が同じ箇所があるので、そのような箇所は
図7に同じ番号を付すとともに以下の説明では同じであることを述べるにとどめ、異なる箇所のみを説明する。
【0056】
第2実施形態のX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、揺動機構5’、アーム式移動装置、高電圧電源95、コンピュータ装置90、及びステージ装置60から構成され、上記第1実施形態と構成上異なっている点は、揺動回転機構5が揺動機構5’になり、ステージ装置60が追加された点である。このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1を出射するX線の光軸が重力方向にほぼ平行になるような姿勢にし、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の位置及び姿勢をアーム式移動装置とステージ装置60の双方を操作することで調整する。位置及び姿勢の調整を、出射X線の光軸と光軸が同じ可視のLED光を照射し、カメラCAで撮影した照射点付近の撮影画像を見ながら行う方法は第1実施形態と同じである。また、X線回折測定においては、回折環を撮像するとき上記第1実施形態がモータ55によりX線回折測定装置1の筐体50を回転させるのに対し、第2実施形態はステージ装置60のモータ69を回転させる点のみが異なり、それ以外は第1実施形態と同じである。
【0057】
揺動機構5’は、第1実施形態の揺動回転機構5から回転テーブル54、モータ55、回転台56、及び連結部57を取り除き、ゴニオステージの固定ステージ52に連結プレート110を固定して、連結プレート110を
図7の紙面垂直周りに(X軸周りに)回転可能になるようアーム式移動装置の先端59に連結したものである。揺動機構5’の作動態様は第1実施形態の揺動回転機構5の揺動部分と同じである。
【0058】
ステージ装置60は傾斜ブロックBLに測定対象物OBが載置され、傾斜ブロックBLの位置及び姿勢を調整する機構と傾斜ブロックBLを回転する機構を備える。位置及び姿勢が調整する機構は、特許文献1に示されているX線回折測定システムのステージ装置と同じであり、X,Y,Z軸方向の移動とX,Y軸周りの傾斜角変更を行う機構を有し、傾斜ブロックBL及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整することができる。ステージ装置60は、設置プレート62の上に高さ調整機構63、操作子63a及び第1プレート64からなるZ軸方向移動機構があり、その上に第2プレート65及び操作子65aからなるX軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第3プレート66及び操作子66aからなるY軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第4プレート67及び操作子67aからなるX軸方向移動機能があり、その上に第5プレート68、操作子68a及び移動プレート61からなるY軸方向移動機能がある。移動プレート61には円柱状の穴が開けられ、その穴に嵌め込むようにモータ69がセットされており、モータ69の出力軸は回転テーブル70に連結され、傾斜ブロックBLは回転テーブル70に固定されている。これにより、操作子63a,65a,66a,67a,68aを回転させることで、連結傾斜ブロックBL及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を変化させることができる。
【0059】
傾斜ブロックBLの傾斜面にはモータ69の回転軸と交差する点が十字状マークの交差点として示されており、測定対象物OBは測定点がこの十字状マークの交差点に略一致するように、傾斜ブロックBLの傾斜面にセットされる。また、傾斜ブロックBLの傾斜面とモータ69の回転軸とが成す角度は、90°からX線入射角の設定値を減算した角度であり、傾斜ブロックBLの傾斜面に対してX線入射角を基準値にし、該傾斜面の法線が基準平面内に含まれるようにすると、モータ69の回転軸と出射X線の光軸とは平行になる。
【0060】
測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の位置及び姿勢の調整は、第1実施形態ではX線照射点からイメージングプレート15までの距離を設定値にし、測定対象物OBに対するX線の入射角を設定値にし、X線照射点における測定対象物OBの法線が基準平面に含まれるようにすることであるが、第2実施形態ではこれに加え、出射X線の光軸とモータ69の回転軸とを一致させる目的がある。第1実施形態のときと同様に測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の位置及び姿勢を調整した後、傾斜ブロックBLの傾斜面に示された十字状マークの交差点にLED光照射点を合致させれば出射X線の光軸とモータ69の回転軸とは一致するが、十字状マークの交差点は測定対象物OBを載置すると見えなくなるので、これのみではおおよそでの調整になる。よって、モータ69により傾斜ブロックBLを1回転させ、その時のLED光照射点のカメラCAの撮影画像における位置が変動しないようにする。出射X線の光軸とモータ69の回転軸とが一致すれば、LED光の照射点は高さ方向に変動しないため、撮影画像における変動がなくなる。
【0061】
第1実施形態の
図1に示されたモータ制御回路82と回転角度検出回路83は、第2実施形態ではステージ装置60に設けられ、モータ制御回路82はモータ69に駆動信号を出力し、モータ69内にあるエンコーダ69aからのパルス列信号は、モータ制御回路82と回転角度検出回路83に入力する。モータ制御回路82と回転角度検出回路83の作動態様は、第1実施形態と同じであり、傾斜ブロックBL(測定対象物OB)の回転角度をコントローラ91から指令された回転角度にする。回折環撮像における、傾斜ブロックBL(測定対象物OB)の回転は、第1実施形態においてX線回折測定装置1の筐体50が回転する替わりにされるものであり、第1実施形態と同様に30°ごとに150°の回転がされる。ただし、第2実施形態においてはX線回折測定装置1の筐体50が測定対象物OBと接触する可能性はないので、回転角度の範囲は限定されない。また、傾斜ブロックBL(測定対象物OB)が回転しても、測定対象物OBから見てイメージングプレート15の回転位置は固定されている必要があるため、第1実施形態と同様、コントローラ91からスピンドルモータ制御回路74に指令が出力し、イメージングプレート15も傾斜ブロックBLと同じ回転角度だけ回転する。ただし、この回転方向は、第1実施形態とは異なり傾斜ブロックBL(測定対象物OB)の回転方向と同じである。より詳細に説明すると、
図7のように、測定対象物OBの法線が基準平面に含まれる状態でイメージングプレート15(テーブル16)の回転角度を0にし、この状態からの傾斜ブロックBL(測定対象物OB)の回転と同じ方向に同じ回転角度だけイメージングプレート15を回転させる。そのようにすると、測定対象物OBを基準にすれば、イメージングプレート15は
図7の状態で回転角度を0にした状態のまま固定され、傾斜ブロックBL(測定対象物OB)が回転した分、マスク100の通過口100a,100bと揺動機構5’の揺動の回転軸(揺動方向)とが回転したと見ることができる。すなわち、これは測定対象物OBを基準にすれば第1実施形態のときと同じ動きであり、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0062】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0063】
上記第2実施形態のX線回折測定システムでは、X線回折測定装置1の筐体50を揺動させる揺動機構5’を設け、ステージ装置60に傾斜ブロックBL(測定対象物OB)を回転する回転機構を設けた。しかし、X線回折測定装置1の筐体50を揺動させる替わりに、ステージ装置60の傾斜ブロックBL(測定対象物OB)を回転機構と共に揺動させるようにし、該回転機構が回転した分だけ、イメージングプレート15(テーブル16)を回転させても、本発明は実施することができる。この場合は、
図7に示されるステージ装置60の操作子65aをモータにし、該モータを正回転と逆回転させればよい。これによっても、測定対象物OBを基準にすればイメージングプレート15は
図7の状態で回転角度を0にした状態のまま固定され、マスク100の通過口100a,100bと揺動の回転軸(揺動方向)とが同じ位置関係を保ったまま回転したと見ることができ、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。ただし、この場合は、揺動の回転軸とステージ装置60の回転機構の回転軸(出射X線の光軸)とが交差する点は固定されるので、測定対象物OBは直方体状の小片である上に厚さが定められたものに限定される。
【0064】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態のX線回折測定装置1は、測定対象物OBで発生した回折X線により、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からレーザ光照射しながら走査して照射位置と光の強度を検出することで回折環を読取る装置にした。しかし、回折環を撮像し、読み取ることができるならば、イメージングプレート15とは別の撮像手段を用いた装置であっても、本発明は適用することができる。例えば、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線固体撮像素子を備え、X線固体撮像素子の各画素が出力する電気信号により回折X線の強度分布を検出する装置でも適用可能である。また、微小サイズのX線検出センサを位置を検出しながら走査し、X線検出センサが出力する電気信号とX線検出センサの走査位置から、回折X線の強度分布を検出する装置でも適用可能である。なお、請求項における、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する、なる記載は、微小領域ごとの回折X線強度を電気信号で検出する場合も含むものとする。ただし、回折X線強度を電気信号で検出する場合は、上記第1実施形態及び第2実施形態のように撮像面を回転させる機構を設けることは困難であるため、別の回転機構を設ける必要がある。
【0065】
第1実施形態において、回転させることが困難な撮像手段を用いるときは、揺動回転機構5とX線回折測定装置1の筐体50との間に、揺動回転機構5の回転軸と同じ回転軸を有する別の回転機構を設ける。さらに、X線回折測定装置1の円形孔50c1の周囲に円形状の凹部を設け、この凹部に円形状の凸部を設けたマスク100が嵌合するようにし、マスク100の外周部分を円形でギアの歯があるようにし、このギアの歯にモータの先端をギア状にして嵌合させ、モータを回転させることでマスク100を回転させる機構を設ける。そして、揺動回転機構5が回転した分、該別の回転機構を逆方向に回転させ、マスク100を同じ方向に回転させればよい。
【0066】
また、第2実施形態において、回転させることが困難な撮像手段を用いるときは、揺動機構5’とX線回折測定装置1の筐体50との間に、出射X線の光軸と同じ回転軸を有する筐体50の回転機構を設け、上述したようにマスク100を回転させる機構を設ける。そして、回転テーブル70(傾斜ブロックBL,測定対象物OB)が回転した分、筐体50の回転機構を同じ方向に回転させ、マスク100を逆方向に回転させればよい。
【0067】
また、上述した第2実施形態の変形例のように、ステージ装置60に回転機構と揺動機構を設けた形態に回転させることが困難な撮像手段を用いるときは、ステージ装置60の揺動機構の下に回転テーブル70の回転軸と同じ回転軸を有する別の回転機構を設け、上述したようにマスク100を回転させる機構を設ける。そして、該別の回転軸が回転した分、回転テーブル70(傾斜ブロックBL,測定対象物OB)を逆方向に回転させ、マスク100を逆方向に回転させればよい。
【0068】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態は本発明を実施可能なX線回折測定システムとしての実施形態であるが、本発明は、先行技術文献の特許文献1に示されるX線回折測定システム、揺動機構、回転機構、測定対象物OBを載置するステージ、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様のマスク100を別々に用意して適切に組み合わせれば実施することができる。より詳細には、X線を測定対象物OBに照射して回折環を撮像するとき、X線回折測定装置1を測定対象物OBに対して相対的に揺動させるとともに、揺動の回転軸の位置を測定対象物OBに対して回転させ、測定対象物OBから見て回折環の撮像面の手前にマスク100を配置して測定対象物OBに対して回転させ、その際、測定対象物OBに対する撮像面のX線の光軸周りの回転位置を固定した状態にしたうえで、マスク100の通過口100a,100bの中心線が、常にX線の光軸を含み揺動の回転軸に垂直な平面内に含まれるように構成すれば、実施することができる。
【0069】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態のX線回折測定装置1は、イメージングプレート15に撮像された回折環を読み取る機能を備えた装置にしたが、X線回折測定装置1はイメージングプレート15に回折環を撮像するのみの装置であっても、本発明は適用することができる。この場合は、回折環が撮像されたイメージングプレート15を装置から取り外して別の装置で読み取るようにすればよい。また、回折環のデータ(回折X線の強度分布のデータ)から残留応力等の特性値を計算する装置をさらに別の装置にしてもよい。この場合は、データを別の装置に移す必要があるが、その方法はネット回線を用いてデータを転送する方法、USBメモリ等の記憶媒体を介する方法等、様々な方法がある。
【0070】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態においては、マスク100の通過口100a,100bの円周方向の幅は30°の回転角度の幅にしたが、この幅は適宜設定できる幅である。ただし、幅を小さくすると測定精度が上がる半面、測定時間が長くなり、幅を大きくすると測定時間が短くなる半面、測定精度は落ちる。よって、測定精度と測定時間の兼ね合いで通過口100a,100bの円周方向の幅を決めればよい。また、上記実施形態のようにマスク100のX線回折測定装置1への装着と取り外しが可能であれば、通過口100a,100bは様々な円周方向の幅のものを用意しておいてもよい。
【0071】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態においては、モータ55及びモータ69による回転を、それぞれの回折環撮像の間に、通過口100a,100bの円周方向の回転角度分行うようにした。しかし、これに替えて、モータ55及びモータ69の回転を低速で連続して行い、回折環撮像をモータ55及びモータ69による回転が継続している間。行うようにしてもよい。この場合、回折環の周方向におけるそれぞれの点での撮像時間(回折X線の受光時間)を同一にする必要があるため、
図6に示すように、回転を180°行う必要がある。
【0072】
また、上記第1実施形態においてはアーム式移動装置により、上記第2実施形態においては、アーム式移動装置とステージ装置60により、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の筐体50の位置と姿勢を調整できる構造にしたが、X線回折測定装置1の筐体50の位置と姿勢を調整できるならば、その機構はどのような機構であってもよい。例えば、X線回折測定装置1を、ステージが3方向に移動可能で、ステージに2軸周りに回転可能なゴニオステージを取り付けた装置に取り付けたものでもよい。また、測定対象物OBが一定形状のものに限定され、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の筐体50の位置と姿勢が固定されていれば、位置と姿勢を調整する機構をなくしてもよい。
【0073】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態においては、マスク100をX線回折測定装置1の筐体50の外側に装着する構造にした。しかし、X線回折測定の測定方法が本発明による方法に限定され、通過口100a,100bの円周方向の幅を固定してもよければ、マスク100をX線回折測定装置1の筐体50の内部で、測定対象物OBから見てイメージングプレート15の手前に、平面がイメージングプレート15と平行になるように固定してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…X線回折測定装置、5…揺動回転機構、5’…揺動機構、10…X線管、11…出射口、15…イメージングプレート、15a,16a,17a,18a,21a,27a1,27b、28a…貫通孔、16…テーブル、17…突出部、18…固定具、19…ブロック、20…テーブル駆動機構、21…移動ステージ、22…フィードモータ、23…スクリューロッド、24…軸受部、25…ガイド、26…板状プレート、27…スピンドルモータ、28…通路部材、29…ブロック、30…レーザ検出装置、43…LED光源,44…LED光源、45…回転プレート、46…モータ、47a,47b…ストッパ、48…結像レンズ、49…撮像器、50…筐体、50a…底面壁、50c…切欠き部壁、50c1…円形孔、50d…繋ぎ壁、51…駆動ステージ、52…固定ステージ、53…モータ、54…回転テーブル、55…モータ、56…固定台、57…連結部、58…連結部、59…アーム式移動装置の先端、60…ステージ装置、61…移動プレート、63a,65a,66a,67a,68a…操作子、69…モータ、70…回転テーブル、90…コンピュータ装置、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、95…高電圧電源、100…マスク、100a,100b,100c…通過口、101,102…嵌込部、110…連結プレート、OB…測定対象物、CA…カメラ、BL…傾斜ブロック