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特許7578288X線回折測定装置及びX線回折像を用いた演算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】X線回折測定装置及びX線回折像を用いた演算方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20180101AFI20241029BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20241029BHJP
【FI】
G01N23/205
G01N23/2055 310
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021208412
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023093028
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 道幸
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100214813
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 幸江
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-044841(JP,A)
【文献】特開平05-107203(JP,A)
【文献】特開平10-048158(JP,A)
【文献】特開平11-030597(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0038317(US,A1)
【文献】国際公開第2014/102919(WO,A1)
【文献】Alejandro Rodriguez Navarro,User guide of XRD2DScan,ES,UNIVERSIDAD DE GRANADA,2011年08月10日,Ver. 4.1.1,https://www.ugr.es/~anava/xrd2dscan.htm, https://www.ugr.es/~anava/XRD2DScan%204.1.1%20Help%20File.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/205
G01N 23/2055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の回折像を撮像するとともに前記回折像を検出する回折像検出手段と、
前記回折像検出手段により検出された回折像から、前記測定対象物の特性値を演算する演算手段とを備えたX線回折測定装置において、
前記X線出射手段は、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含み、
前記電子を加速するための電圧である管電圧を変更する電圧変更手段と、
前記測定対象物の同一のX線照射点において、前記管電圧を異ならせた条件で、それぞれ前記回折像検出手段により回折像が得られているとき、前記得られているそれぞれの回折像の各位置における強度から、異なる前記管電圧間での強度変化の割合を算出し、前記算出した割合から多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを区別したうえで、前記演算手段による演算に必要な回折像を抽出する回折像抽出手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
ターゲットに加速した電子を当てることで発生したX線を、対象とする測定対象物に向けて照射し、前記測定対象物にて発生した回折X線を、出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光して得られた回折像を用いて前記測定対象物の特性値を演算する演算方法であって、前記測定対象物の同一のX線照射点において、前記電子を加速するための電圧である管電圧を異ならせて得られた回折像が複数ある場合の演算方法において、
前記それぞれの回折像の各位置における強度から、異なる前記管電圧間での強度変化の割合を算出し、前記算出した割合から多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを区別し、演算に必要な回折像を抽出したうえで演算を行うことを特徴とする演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折像を撮像するX線回折測定装置及び該X線回折測定装置で得られたX線回折像を用いた演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物にX線を照射して、測定対象物で回折したX線(以下、回折X線という)を受光することでX線回折像(以下、回折像という)を撮像し、撮像された回折像を用いて演算処理を行うことで測定対象物の特性を測定するX線回折測定装置が知られている。例えば特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定装置は、X線出射器、イメージングプレート等の回折像撮像手段、レーザ検出装置及びレーザ走査機構等の回折像読取手段、並びにLED照射器等の回折像消去手段等を1つの筐体内に備えている。そして、回折像撮像手段で測定対象物の回折像である回折環(デバイ環)を撮像し、回折像読取手段により検出した回折環の形状を用いてコンピュータ装置により演算処理を行うことで測定対象物の残留応力等の特性値を測定している。
【0003】
測定対象物の結晶状態を結晶方位で表現すると、結晶方位があらゆる方向に存在する結晶状態である多結晶状態、結晶方位が1方向のみに存在する結晶状態である単結晶状態、及び結晶方位が存在しない非晶質の状態であるアモルファス状態がある。特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定装置は、多結晶状態の測定対象物にX線を照射して測定対象物の特性値を測定する装置であるが、本願発明者は該装置のX線を単結晶状態の測定対象物に照射して回折像を撮像したところ、ラウエ斑点像が撮像されることを確認した。よって、特許文献1及び特許文献2のX線回折測定装置に接続されているコンピュータ装置に、ラウエ斑点像から結晶面の種類及び結晶方位を測定する演算機能を付加すれば、特許文献1及び特許文献2のX線回折測定装置は、単結晶状態の測定対象物でも特性値を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5835191号公報
【文献】特許第6924348号公報
【0005】
しかしながら、本願発明者は、上記のX線回折測定装置により多くの測定対象物で回折像を撮像した結果、測定対象物の結晶状態には多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態があり、そのような状態であるときは図9に示すように、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像、すなわち回折環(デバイ環)の像とラウエ斑点像が混在する回折像が撮像されることを確認した。このような測定対象物においては、撮像された回折像から測定対象物の特性値を計算しようとしても、精度の良い計算を行うことができないという問題がある。本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折像を撮像するX線回折測定装置において、測定対象物が多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であっても、測定対象物の特性値を計算するのに必要な回折像を抽出し、精度の良い特性値を計算することができるX線回折測定装置を提供することにある。また、測定対象物で回折したX線により回折像を撮像するX線回折測定装置で得られた回折像を用いた演算方法において、該回折像に多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像が混在していても、測定対象物の特性値を計算するのに必要な回折像を抽出し、精度の良い特性値を計算することができる演算方法を提供することでもある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の回折像を撮像するとともに回折像を検出する回折像検出手段と、回折像検出手段により検出された回折像から、測定対象物の特性値を演算する演算手段とを備えたX線回折測定装置において、X線出射手段から出射されるX線により撮像面に撮像される回折像として、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像を理論的に算出するための情報が予め記憶され、記憶された情報を用いて撮像される回折像を算出し、算出した回折像と回折像検出手段により検出された回折像とを比較して、検出された回折像から演算手段による演算に必要な回折像を抽出する回折像抽出手段を備えたことにある。
【0007】
これによれば、測定対象物が、多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態で、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とが撮像される場合でも、回折像抽出手段が予め記憶された情報を用いて多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像を算出し、算出した回折像と検出された回折像とを比較して、演算手段による演算に必要な回折像を抽出するので、演算手段は、精度の良い特性値を計算することができる。具体的には、回折像抽出手段は、算出する特性値が残留応力、表面硬さ及び結晶の配列構造の割合等の多結晶状態に属する特性値であるときは、検出された回折像から多結晶状態による回折像を抽出し、算出する特性値が結晶面の種類及び定義した方向(測定対象物の測定面の法線方向等)に対する結晶方位等の単結晶状態に属する特性値であるときは、検出された回折像から単結晶状態による回折像を抽出する。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、X線出射手段により出射されたX線の測定対象物における照射点から撮像面までの距離を検出する距離検出手段を備え、回折像抽出手段は、記憶された情報に距離検出手段により検出された距離を加えて、撮像面に撮像される回折像を算出するようにしたことにある。
【0009】
これによれば、X線照射点から撮像面までの距離(以下、照射点-撮像面間距離という)により、撮像面に撮像される回折像は大きさが変化するが、距離検出手段が照射点-撮像面間距離を検出するので、回折像抽出手段は、撮像される回折像を大きさを含めて理論的に算出することができる。すなわち、照射点-撮像面間距離を一定にする必要がないので、様々な大きさの測定対象物を測定する際のX線回折測定装置に対する測定対象物の位置と姿勢の調整を、短時間で行うことができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の回折像を撮像するとともに回折像を検出する回折像検出手段と、回折像検出手段により検出された回折像から、測定対象物の特性値を演算する演算手段とを備えたX線回折測定装置において、X線出射手段は、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含み、電子を加速するための電圧である管電圧を変更する電圧変更手段と、測定対象物の同一のX線照射点において、管電圧を異ならせた条件で、それぞれ回折像検出手段により回折像が得られているとき、得られているそれぞれの回折像の各位置における強度から、異なる管電圧間での強度変化の割合を算出し、算出した割合から多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを区別したうえで、演算手段による演算に必要な回折像を抽出する回折像抽出手段とを備えたことにある。
【0011】
これによれば、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像が同程度の割合で撮像される場合のように、予め記憶された情報を用いて算出した回折像と検出された回折像とを比較しても、演算に必要な回折像を抽出することが困難な場合や、情報不足で理論的に撮像される回折像を精度よく算出できない場合であっても、回折像抽出手段は演算に必要な回折像を抽出することができる。詳細に説明すると、X線管から出射されるX線には特性X線と連続X線があり、多結晶状態による回折像(回折環の像)は特性X線による回折像であり、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)は連続X線による回折像である。そして、管電圧を変化させたときの特性X線の強度変化の割合は連続X線の強度変化の割合より大きい。よって、同一のX線照射点における異なる管電圧でのそれぞれの回折像を比較すると、多結晶状態による回折像の箇所は、単結晶状態による回折像の箇所よりも強度変化の割合が大きくなる。したがって、それぞれの回折像の各位置における強度から、異なる管電圧間での強度変化の割合を算出すれば、算出した割合から多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを明確に区別することができ、演算に必要な回折像を抽出することができる。
【0012】
また、本発明はX線回折測定装置としての発明のみならず、演算方法の発明としても実施し得るものである。すなわち、X線を対象とする測定対象物に向けて照射し、測定対象物にて発生した回折X線を、出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光して得られた回折像を用いて測定対象物の特性値を演算する演算方法において、予め記憶されている、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像を理論的に算出するための情報を用いて撮像される回折像を算出し、算出した回折像と得られた回折像とを比較して、得られた回折像から演算に必要な回折像を抽出したうえで演算を行う演算方法の発明としても実施し得るものである。
【0013】
また、ターゲットに加速した電子を当てることで発生したX線を、対象とする測定対象物に向けて照射し、測定対象物にて発生した回折X線を、出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光して得られた回折像を用いて測定対象物の特性値を演算する演算方法であって、測定対象物の同一のX線照射点において、電子を加速するための電圧である管電圧を異ならせて得られた回折像が複数ある場合の演算方法において、それぞれの回折像の各位置における強度から、異なる管電圧間での強度変化の割合を算出し、算出した割合から多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを区別し、演算に必要な回折像を抽出したうえで演算を行う演算方法の発明としても実施し得るものである。
【0014】
これらの演算方法の発明においても、上述したX線回折測定装置としての発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
図2図1のX線回折測定装置の拡大図である。
図3図2のX線回折測定装置におけるX線出射機構部分を拡大して示す部分断面図である。
図4】X線回折測定システムのコントローラが実行するプログラムのフロー図である。
図5】X線管の管電圧を変化させたときの出射X線のスペクトル変化を示した図である。
図6】測定対象物が多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であるとき、X線管の管電圧を変化させたとき、撮像されるそれぞれの回折像を示した図である。
図7】回折像のそれぞれの位置の強度変化の割合を統計グラフで示し、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを区別する方法を視覚的に示した図である。
図8】単結晶状態の測定対象物を測定するときの図1のX線回折測定装置の拡大図である。
図9】測定対象物が多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であるときの回折像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図3を用いて説明する。なお、本発明の特徴点は、X線回折測定システムのコンピュータ装置90にインストールされたプログラム及び記憶された情報にあり、X線回折測定システムの構造及びそれぞれの機構や回路の機能は殆どが、先行技術文献の特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。よって、特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと構造及び機能が同じ箇所は、同じであることを述べて簡略的に説明するにとどめ、異なっている箇所のみ詳細に説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、コンピュータ装置90、高電圧電源95、及び対象物セット装置6から構成される。そして、対象物セット装置6に測定対象物OBをセットし、X線回折測定装置1からX線を測定対象物OBに照射して回折像を撮像して検出し、コンピュータ装置90にて検出した回折像のデータを演算処理することで、測定対象物OBの特性値を算出する。対象物セット装置6にセットされる測定対象物OBは多結晶状態のものであり、X線回折測定システムは、回折像として回折環(デバイ環)を撮像し、特性値として残留応力を測定するものである。この大枠での構成及び作動は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じである。
【0018】
X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90のコントローラ91に接続され、コントローラ91から入力する指令により作動する。X線回折測定装置1のこの構成は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じである。
【0019】
コンピュータ装置90はキーボード等の入力装置92及び液晶画面等の表示装置93を有し、コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置である。コントローラ91は入力装置92からの入力及びインスト-ルされているプログラムの作動により、上述した各種回路に指令を出力し、また該各種回路が出力したデータを入力してメモリに記憶する。そして、入力したデータを用いて演算を行い、測定対象物OBの残留応力を算出し、その算出結果を表示装置93に表示する。また、コントローラ91は、入力装置92から入力した測定条件やX線回折測定システムの作動状況、及び回折環の強度分布図(回折環の像)等を表示装置93に表示する。コンピュータ装置90の構成及び機能は、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0020】
また、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。X線管10は、加速した電子をターゲットに衝突させることで、X線を出射するものであり、高電圧電源95が出力する電圧は高電圧であって、電子を加速させるための電圧である。また、高電圧電源95が出力する電流は加速させる電子の量に相当する電流である。この電圧と電流は様々な呼び方があるが、本実施形態では管電圧及び管電流という。高電圧電源95は、後述するX線制御回路71から作動と停止の信号がX線管10に入力するのに応答して、管電圧と管電流の出力と停止を行う。また、X線制御回路71は管電圧の大きさと管電流の大きさを意味する信号も出力し、高電圧電源95が出力する管電圧と管電流は、X線制御回路71が出力する信号により設定される。上述したように、X線回折測定装置1の筐体50内の各種回路はコントローラ91から入力する指令により作動するため、高電圧電源95の管電圧の出力と停止(すなわち、X線照射時間)及び管電圧と管電流の大きさの設定は、コントローラ91の指令により行われる。
【0021】
また、X線回折測定システムは対象物セット装置6を備える。対象物セット装置6の構造及び機能は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じであり、ステージSt及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。対象物セット装置6は、設置プレート62の上に高さ調整機構63、操作子63a及び第1プレート64からなるZ軸方向移動機能があり、その上に第2プレート65及び操作子65aからなるX軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第3プレート66及び操作子66aからなるY軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第4プレート67及び操作子67aからなるX軸方向移動機能があり、その上に第5プレート68、操作子68a及びステージStからなるY軸方向移動機能がある。そして、操作子63a,65a,66a,67a,68aを回転させることで、ステージSt及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。これにより、X線回折測定装置1が出射するX線の測定対象物OBにおける照射位置及び照射方向を調整することができる。なお、X,Y,Z軸の各方向は、図2に示された座標軸の方向である。
【0022】
図2に示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fの角部をなくすように設けた傾斜壁50gを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに対し所定の角度を成す平板と底面壁50aにほぼ平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり前面壁50bと所定の角度を有している。筐体50の構造は特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。
【0023】
X線回折測定装置1の筐体50は図2の奥側の側面壁で支持ロッド3に固定され、支持ロッド3は設置プレート2に固定されており、設置プレート2を作業台等に載置することで、X線回折測定装置1は位置と姿勢が固定される。支持ロッド3の筐体50の固定部分はX軸周りとY軸周りに回転角を変更することが可能な構造になっており、この回転角を変更することで、X線回折測定装置1の筐体50は姿勢を変更することができる。別の言い方をすると、X線回折測定装置1が出射するX線の測定対象物OBに対する照射方向を変更することができる。
【0024】
X線回折測定装置1の筐体50内の構造は、大部分が特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。X線管10は、その側面がテーブル駆動機構20の板状プレート26に形成された円柱側面の一部の形状になっている溝に嵌合して固定され、高電圧電源95から電圧が入力されると、側面にある出射口11からX線を図2の下方向に出射する。図3に示すように、板状プレート26において出射口11と合わさる箇所には貫通孔26aがあり、出射したX線は貫通孔26aを通過して下方向に進む。なお、X線回折測定装置1の筐体50の上面壁50f、傾斜壁50g及び側面壁の一部を取外すと、板状プレート26にあるX線管10の固定具を取り外してX線管10を別のX線管10に取り換えることができる。これにより、X線管10内にある加速した電子を衝突させることでX線を発生させるターゲットを変更することができる。
【0025】
テーブル駆動機構20は、X線管10の下方にて移動ステージ21を備え、移動ステージ21の図2の奥側には凸部があり、この凸部はテーブル駆動機構20における板状プレート26に固定されたブロック19とブロック29に固定された板状のガイド25に形成された溝に嵌合している。この溝はX線管10の中心軸方向に平行な方向、別の表現では上面壁50f及び側面壁に平行な方向に形成されているため、移動ステージ21はこの方向にのみ移動可能であり、ブロック19に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及びブロック29に固定された軸受部24が回転することにより移動する。フィードモータ22は、フィードモータ制御回路73から駆動信号を入力すると駆動するため、コントローラ91の指令により移動ステージ21はX線管10の中心軸方向に移動する。
【0026】
フィードモータ22には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が回転するとパルス列信号を図1に示す位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。このパルス列信号の単位時間当たりのパルス数は、フィードモータ22の回転速度に比例し、またパルス数の積算値は移動距離に比例するので、フィードモータ制御回路73は、入力したパルス列信号により移動速度を制御し、位置検出回路72は入力したパルス列信号により原点位置からの移動距離である移動位置を算出する。これにより、移動ステージ21をコントローラ91が指令した方向へ指令した速度で移動させ、また、コントローラ91が指令した移動位置へ移動させることができる。これは、移動ステージ21と一体になっているスピンドルモータ27、テーブル16及びイメージングプレート15等においても同様である。
【0027】
コントローラ91の指令により移動ステージ21が図2及び図3の移動位置になっていると、X線管10の出射口11から出射され貫通孔26aを通過したX線は、回転プレート45に当たるが、回転プレート45はモータ46の出力軸46aに接続されており、モータ46の回転により位置を変えるので、回転プレート45をX線の進行方向にないようにすることができる。その状態であれば、貫通孔26aを通過したX線は移動ステージ21に形成された貫通孔21aに入射し、移動ステージ21に固定されたスピンドルモータ27に形成された貫通孔27bの先端に固定されている通路部材28の貫通孔28aを通過する。スピンドルモータ27の出力軸27aには貫通孔27a1が形成されており、貫通孔27bは貫通孔27a1と中心軸が合ったうえでつながっている。このため、貫通孔28aを通過したX線は、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過する。
【0028】
テーブル16は円盤状であり、その中心軸に形成された貫通孔16aがスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1と位置が合うよう出力軸27aに固定されている。そして、テーブル16は、中心軸周りに下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面に孔15aを突出部17に嵌め込むようにイメージングプレート15を取り付け、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15はテーブル16に固定される。突出部17にも貫通孔27a1、貫通孔16aと位置が合うよう貫通孔17aが形成されており、固定具18には通路部材28の貫通孔28aと同程度の径の貫通孔18aが形成されている。よって、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過したX線は、貫通孔16a、貫通孔17a及び貫通孔18aを通過し、略平行なX線となって、筐体50の円形孔50c1に貼られた炭素繊維フィルムCFの中心孔Hから出射する。炭素繊維フィルムCFは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のようにX線透過率の高い材質でできたフィルムである。出射したX線は、測定対象物OBに照射され、発生した回折X線は炭素繊維フィルムCFを通過してイメージングプレート15で受光され、イメージングプレート15には回折像が撮像される。移動ステージ21を適切な位置にしたうえでX線管10からX線を出射させ、イメージングプレート15に回折像を撮像させる機能が、回折像撮像機能である。
【0029】
スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、パルス列信号を図1に示すスピンドルモータ制御回路74と回転角度検出回路75へ出力し、スピンドルモータ27が1回転するごとにインデックス信号を、回転角度検出回路75及びコントローラ91に出力する。パルス列信号の単位時間当たりのパルス数は、スピンドルモータ27の回転速度に比例し、またパルス数の積算値はインデックス信号が入力してからの回転角度に比例するので、スピンドルモータ制御回路74は、入力したパルス列信号により回転速度を制御し、回転角度検出回路75は、入力したパルス列信号により回転角度を算出する。これにより、スピンドルモータ27をコントローラ91が指令した速度で回転させ、また、コントローラ91が指令した回転角度への回転させることができる。これは、スピンドルモータ27と一体になっているテーブル16及びイメージングプレート15等においても同様である。なお、回折像撮像時は、スピンドルモータ27の回転角度は0に調整されている。
【0030】
レーザ検出装置30はレーザ検出制御回路77により制御され、回折像を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15で発光した光の強度から、レーザ光照射位置における回折X線の強度を検出する。コントローラ91の指令により移動ステージ21を適切な位置にし、設定した速度で移動させるとともにスピンドルモータ27を設定した速度で回転させたとき、レーザ検出制御回路77にはコントローラ91から指令が入力し、レーザ検出制御回路77はレーザ検出装置30に対し、レーザ光出射、出射レーザ光の強度制御、レーザ光照射点のイメージングプレート15への合焦制御、及びイメージングプレート15での発光強度のコントローラ91への出力といった制御を行う。レーザ検出制御回路77の機能は、特許文献1と同じであるが、特許文献1では、レーザ検出制御回路77を、上述した制御ごとにいくつかの回路に分割して示してある。コントローラ91はレーザ検出制御回路77に指令を出力した後、レーザ検出制御回路77から入力する発光強度データを、位置検出回路72と回転角度検出回路75が出力する移動位置データ及び回転角度データと同じタイミングで取り込み、メモリに記憶していく。移動位置データは、移動位置の原点でのレーザ光照射位置から出射X線の光軸がイメージングプレート15と交差する点までの距離を予め求めてコントローラ91に記憶させておけば、該交差する点を原点にしたレーザ光照射位置である半径データにすることができる。これが回折像読取機能であり、回折像を読取る又は検出するとは、上述した3つのデータを同じタイミングで取り込んで記憶していくことである。
【0031】
また、図2に示すように、レーザ検出装置30にはLED光源43が設けられており、LED光源43は図1に示すLED駆動回路84から駆動信号が入力すると、可視光を発してイメージングプレート15に撮像された回折像を消去する。回折像読取りがされた後、コントローラ91の指令によりスピンドルモータ27が回転を継続したまま移動ステージ21が所定位置に戻り移動を再開したとき、LED駆動回路84にコントローラ91から指令が入力し、LED駆動回路84はLED光源43が所定の強度の可視光を出射する駆動信号を出力する。これが回折像消去機能である。
【0032】
図3に示すように、移動ステージ21は、板状プレート26と対向する面にモータ46を取り付けており、モータ46は出力軸46aに楕円状の平板である回転プレート45を取り付けている。回転プレート45は、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47aに当たるまで回転すると、貫通孔26a、21aの中心軸と回転プレート45が交差する箇所が中心となるようにLED光源44を取り付けている。LED光源44は、図1に示すLED駆動回路85から駆動信号が入力すると可視光を出射し、その可視光は前述した出射X線の光路と同様の光路で出射して測定対象物OBに照射される。これにより、X線の照射点を可視光の照射点として把握することができる。また、回転プレート45がストッパ47bに当たるまで回転すると、貫通孔26aと貫通孔21aの間には何もなくなり、貫通孔26aを通過したX線は貫通孔21aに入射する。
【0033】
モータ46は、図1に示すモータ制御回路86からの駆動信号により右方向又は左方向に回転するようになっており、モータ制御回路86は、コントローラ91からの回転方向の指令が入力すると、モータ46のエンコーダ46bからのパルス列信号が入力しなくなるまで、入力した回転方向に回転するための駆動信号を出力する。モータ制御回路86及びLED駆動回路85は、コントローラ91からの指令により作動するので、回転プレート45の回転位置及びLED光源44からの可視光照射は、コントローラ91の指令より行われる。
【0034】
図1及び図2に示すように、筐体50の切欠き部壁50cにはカメラCAが取り付けられている。カメラCAは結像レンズ48を取り付けた鏡筒と撮像器49とから構成されたデジタルカメラであり、撮像器49は、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路88に出力し、センサ信号取出回路88は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度に相当するデジタルデータをコントローラ91に出力する。コントローラ91は入力したデータを用いて、表示装置93に撮影画像を表示するが、可視光の照射点(X線の照射点)からイメージングプレート15までの距離(以下、照射点-撮像面間距離という)が基準距離であるとき、可視光の照射点が表示される箇所をクロス点とする十字マークを撮影画像とは独立して表示する。
【0035】
図2から分かるように、照射点-撮像面間距離が変化すると、可視光の照射点と結像レンズ48の中心を結んだラインが撮像器49と交差する点の位置は変化するため、照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点の位置は変化する。よって、撮影画像における可視光の照射点の位置が十字マークのクロス点に合致するよう、X線回折測定装置1の筐体50に対する測定対象物OBの位置を調整すれば、照射点-撮像面間距離を基準距離にすることができる。また、コントローラ91のメモリには照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点位置との関係が記憶されているので、コントローラ91は、撮影画像における可視光の照射点位置から照射点-撮像面間距離を算出して表示装置93に表示させることができる。
【0036】
また、照射点-撮像面間距離が基準距離に調整されているとき、可視光の照射点での可視光の反射光を結像レンズ48に入射させれば、撮影画像に可視光の反射光が結像レンズ48により集光した点である受光点を生じさせることができる。そして、この受光点を可視光の照射点と同様に十字マークのクロス点に合致させれば、測定対象物OBに対するX線の入射角を基準値にでき、測定対象物OBのX線照射点における法線が、出射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0のラインとを含む平面(以下,基準平面という)に含まれるようにすることができる。これは、特許文献1に詳細に説明されている。なお、イメージングプレート15の回転角度0のラインとは、回転角度検出回路75が0を出力したときにレーザ検出装置30からのレーザ光が照射されている位置であり、これは半径位置ごとにあるためラインである。
【0037】
X線回折測定装置1の筐体50の上面壁50fは傾斜角センサ51を取り付けており、傾斜角センサ51は筐体50の上面壁50f内の2軸方向における傾斜角、すなわち90°からこれらの方向が重力方向と成す角度を減算した角度に相当する信号を出力する。傾斜角センサ51は傾斜角検出回路52を内蔵しており、傾斜角検出回路52は2軸方向の傾きのデジタルデータをコントローラ91に出力する。出射X線の光軸は上面壁50fに垂直にされており、上面壁50f内の2軸方向が出射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0のラインとを含む平面である基準平面に、平行及び垂直な方向であれば、傾斜角センサ51が検出する傾斜角は、出射X線の光軸と重力方向とが成す角度及び基準平面と重力方向とが成す角度である。以下、この傾斜角をX軸周り傾斜角及びY軸周り傾斜角という。そして、測定対象物OBの表面が傾斜角0になるよう(重力方向に垂直になるよう)調整されていれば、傾斜角センサ51が検出する傾斜角は、出射X線の測定対象物OBに対する入射角及びX線照射点における測定対象物OBの法線が基準平面と成す角度である。
【0038】
コントローラ91のメモリには、X線回折測定装置1内の各回路に指令を出力して、回折像撮像、回折像読取及び回折像消去を行うプログラム、X線回折測定装置1内の各回路に指令を出力して出射X線と同じ光軸の可視光を出射し、可視光の照射点付近をカメラCAにより撮像し撮影画像と照射点-撮像面間距離を表示装置93に表示するプログラム、メモリに記憶された回折像データを用いて演算処理することで測定対象物OBの残留応力を算出するプログラム、及び後述する撮像される回折像を理論的に算出し、回折像読取により得られた回折像と比較して演算に必要な回折像を抽出するプログラム等、いくつかのプログラムがインストールされている。また、コントローラ91のメモリには、測定対象物OBの残留応力を算出する際に使用するパラメータ値、X線管10のターゲットの材質と測定対象物OBの材質に対応させた特性X線による回折角、カメラCAの可視光照射点の位置と照射点-撮像面間距離の関係、X線入射角の基準値等が記憶されている。
【0039】
このように構成されたX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBの残留応力を測定する際の作業者の操作及びコントローラ91にインストールされたプログラムの作動について説明する。まず作業者は、入力装置92から測定対象物OBの材質、X線管10のターゲット、X線管10の管電圧、管電流及びX線照射時間を入力する。これらは、表示装置93に現在の設定が表示されているので、変更したい設定のみを入力すればよく、変更の必要がなければ入力は不要である。
【0040】
次に作業者は、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行である場合(測定対象物OBの表面が平面で厚さが均一の場合)は、水準器を用いてステージStの表面が水平になるよう対象物セット装置6の操作子65a及び66aにより姿勢を調整する。これは、以前に同じ調整がされ、操作子65a及び66aが動かされていなければスキップしてもよい。なお、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行でない場合は、測定対象物OBの表面を水準器を用いて水平にするか、それが不可能なときは後述する調整を行う。
【0041】
次に作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整」の指令を入力する。これにより、コントローラ91からの指令がX線回折測定装置1内の各回路に出力され、回転プレート45は、図2及び図3の状態になって、LED光源44から可視光が出射され、測定対象物OBには可視光の照射点が生じる。また、カメラCAによる撮影が開始され、表示装置93には撮影画像が表示される。作業者は、X線回折測定装置1の姿勢及び対象物セット装置6のステージStの位置と高さを調整し、撮影画像における可視光の照射点が十字マークのクロス点付近になるようにし、傾斜角センサ51が検出するX軸周り傾斜角をX線入射角としたい値にし、Y軸周り傾斜角を0にする。
【0042】
なお、傾斜角センサ51が検出する傾きを用いずに位置と姿勢の調整を行う場合は、先の水準器を用いたステージStの調整は行わず、対象物セット装置6によるステージStの位置と姿勢の調整により、撮影画像における可視光の照射点と受光点がそれぞれ十字マークのクロス点に合致するようにすればよい。これにより照射点-撮像面間距離及びX線入射角を基準値にし、基準平面傾き角を0にすることができる。これは、特許文献1に調整方法が詳細に説明されている。
【0043】
位置と姿勢の調整が終了すると、作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整終了」の指令を入力する。これにより、コントローラ91からの指令がX線回折測定装置1内の各回路に出力され、LED光照射は停止し、回転プレート45は出射X線の光軸上にはなくなり、カメラCAの撮影が停止して表示装置93から撮影画像はなくなる。そして、指令を入力したタイミングで、コントローラ91は、撮影画像における可視光の照射点から算出した照射点-撮像面間距離と、傾斜角センサ51が検出したX軸周りの傾斜角をX線入射角としてメモリに記憶する。なお、撮影画像における可視光の照射点位置及び受光点位置が十字マークのクロス点に合致するよう調整した場合は、作業者は入力装置92からX線入射角が基準値であることを入力する。
【0044】
次に作業者は、入力装置92から「測定開始」の指令を入力する。これにより、コントローラ91は図4に示すフローのプログラムをステップS1でスタートさせる。以下、図4に示すフローに沿って説明する。ステップS2及びステップS3は、特許文献1及び特許文献2で説明されているX線回折測定装置1の作動と同じであり、X線を出射してイメージングプレート15に回折像を撮像し、撮像した回折像を読取り、読取ったデータをコントローラ91のメモリに保存する処理である。次のステップS4も特許文献1及び特許文献2で説明されているX線回折測定装置1の作動と同じであり、LED光をイメージングプレート15に照射して撮像されている回折像を消去する処理であるが、回折像消去のための指令を出力した後、すぐにステップS5以降の処理を行うので、ステップ5以降の処理は、回折像の消去と並行して行われる。
【0045】
ステップS5にて、コントローラ91は、メモリに記憶された回折像のデータと理論的に算出される回折像とを比較して、多結晶状態による回折像データである回折環のデータとそれ以外の回折像データとにデータを分け、それぞれのデータの数又は割合を算出する。以下、この演算を段階的に説明する。
1)設定された強度以上の箇所を抽出し、近傍位置にあるデータをグループ化する
回折像の読取データは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータ群である。このデータ群の中から、強度が設定以上のデータを抽出し、回転角度データが等しく(差が設定内で)、半径データが近傍のデータでグループ化してデータ組にし、そのデータ組における半径方向に強度がピークであるデータを抽出する。次に抽出したデータの中から1つのデータを抽出し、回転角度データが近傍のデータがあれば、そのデータをグループに入れ、グループに入れたデータに回転角度データが近傍のデータがあれば、そのデータをグループに入れ、ということを近傍のデータがなくなるまで繰り返してデータ組にする。次に、データ組のデータ数が所定数以下で、回転角度方向に強度が所定の割合以上で変化している場合は、強度がピークであるデータを抽出する。これにより、正常な回折環が撮像されているときは円の形状となるデータ組が抽出され、それ以外の回折像は強度がピークとなるデータ及びピークが存在しないデータ組が抽出される。
【0046】
2)回折環のデータ組を抽出する
コントローラ91のメモリには、X線管10のターゲットの材質と測定対象物OBの材質に対応させた特性X線による回折角が記憶されており、測定前にX線管10のターゲット及び測定対象物OBの材質が入力されているので、測定対象物OBに照射されたX線における回折角を求めることができる。そして、上述したように測定前の位置と姿勢の調整において、カメラCAによる撮影画像における可視光の照射点位置から照射点-撮像面間距離が検出されるので、これらの値から理論的に撮像される回折環の半径を算出することができる。この値は、測定対象物OBが無応力のときの回折環の半径であるが、この半径と1)で抽出したデータ組の半径とが予め設定された許容内で一致すれば、それらのデータ組を回折環のデータ組とし、それ以外のデータ及びデータ組は回折環以外の回折像のデータとする。
【0047】
3)回折環のデータ組の中から回折環以外の回折像データを除去する
回折環のデータ組の各強度データを回転角度に順に並べた時、近傍の強度データと予め設定した許容値以上に差があるデータを異常データと見なして除去する。次に回折環のデータ組の各半径データを回転角度に順に並べた時、近傍の半径データと予め設定した許容値以上に差があるデータを異常データと見なして除去する。除去されたデータは、多結晶による回折像(回折環の像)に重なるように撮像された単結晶による回折像と見なす。
【0048】
4)回折環の発生割合と回折環以外の回折像データの数を算出する
回折環のデータ組にあるデータ数を算出された回折環の半径位置に漏れなく回折環が撮像された場合のデータ数で除算した値を「回折環発生割合」として算出する。また、回折環以外の回折像のデータと3)で除去したデータを合わせたデータの数を「回折環外の回折像データ数」として算出する。
【0049】
次にステップS6にて、ステップS5にて算出した「回折環発生割合」と、「回折環外の回折像データ数」から残留応力の計算が可能か判定する。判定は、「回折環発生割合」が予め設定した下限値より大きく、「回折環外の回折像データ数」が予め設定した上限値より小さい場合、Yes(演算可能)と判定し、それ以外はNo(演算不可能)と判定する。Yes(演算可能)となる場合は、測定対象物OBが殆ど多結晶状態で、欠けのない回折環が撮像され、回折環以外の回折像が殆ど発生していない場合である。Yes(演算可能)と判定した場合はステップS7へ行き、ステップS7にて回折環のデータ組のデータを用いて残留応力を計算し、その結果を測定条件及び回折環の像と共に表示装置93に表示し、次のステップS18にてプログラムの作動を終了する。残留応力の計算方法は公知技術であり、詳細は例えば特許第4276106号公報等に記載されている。そして、Yes(演算可能)と判定した場合は、X線回折測定システムは測定開始から測定終了まで、見た目上は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じ作動をする。
【0050】
ステップS6にてNo(演算不可能)と判定された場合はステップS8へ行き、ステップS8にて回折像の読取データを用いて回折像を表示装置93に表示すると共に、回折像が正常な回折環になっていないことを表示する。次にステップS9にて、次の2つの演算方法を示して、いずれの演算方法を選択するか入力するよう指示し、次のステップS10にて、入力がされるまでNoの判定を繰り返して待つ。
1)回折像データの中から回折環のデータとして抽出したデータを用いて演算する。
2)X線管10の管電圧を変更して再測定する。
上記の1)は、回折環に欠けがあるが回折環以外の回折像が殆どない場合、又は回折環以外の回折像はあるが回折環は正常である場合に選択される。また、上記の2)は、回折環の像と回折環以外の回折像が混在し、ステップS5にて行った回折環データの抽出では精度のよい演算ができないと思われる場合に選択される。
【0051】
作業者が入力装置92から入力すると、ステップS10にてYesと判定してステップS11へ行き、ステップS11にて再測定することが選択されたか否かが判定される。上記の1)を選択した場合はNoと判定されてステップS12へ行き、ステップS12にて、ステップS5にて抽出した回折環のデータ組を用いて残留応力の計算を行い、ステップS7での表示装置93への表示と同様の表示を行い、次のステップS18にてプログラムの作動を終了する。この場合、残留応力の計算方法はステップS7と同様の方法でもよいが、回折環のデータ数が少ない(回折環に欠けがある)場合の残留応力の計算方法として、特許第5408234号公報に示されている計算方法を用いてもよい。
【0052】
作業者が上記の2)を選択した場合は、ステップS11にてYesと判定されて、ステップS13へ行き、ステップS13にてステップS4で開始したイメージングプレート15に撮像された回折像の消去が完了するのをNoの判定を繰り返すことで待つ。回折像の消去が完了すると、Yesと判定してステップS14へ行き、ステップS14及びステップS15にて、ステップS2及びステップS3と同様に回折像の撮像と撮像した回折像の読取りを行う。なお、ステップS14にてX線制御回路71へX線照射の指令を出力する前に、X線管10の管電圧の設定値がX線制御回路71へ出力され、管電圧は大きくされている。また、管電流も変更されている可能性がある。
【0053】
コントローラ91のメモリには、再測定において管電圧を大きくするときの現在の管電圧と変更後の管電圧との関係が記憶されており、管電圧は記憶されているこの関係に従って大きくされる。
X線管10には特性上の管電圧の上限値があるため、変更後の管電圧は、この上限値よりも低い電圧で適切な電圧が記憶されている。また、コントローラ91のメモリには、変更後の管電圧ごとに{(変更後の回折像強度)/(変更前の回折像強度)}の値、及び回折像強度の上限値(管電圧を上げていったとき、回折像強度が飽和し始める強度)が記憶されている。そして、変更後の管電圧に対応する{(変更後の回折像強度)/(変更前の回折像強度)}を回折環の強度データの最大値に乗算した値(以下、乗算値Rという)が、回折像強度の上限値を超えるときは、管電流を、先の測定時の設定値に(上限値/乗算値R)を乗算した値に設定する。なお、管電流は変化させず、X線照射時間を先の測定時の設定値に(上限値/乗算値R)を乗算した値に設定してもよい。
【0054】
次にステップS16にてステップS4と同様に撮像された回折像の消去を開始し、ステップS17にて得られている2つの回折像から、残留応力を算出するための演算を行う。この演算は、まず、回折像の読取データから強度が設定値以上のデータを抽出し、抽出したデータと先の回折像の読取データで既に抽出されている強度が設定値以上のデータとを、半径データと回転角度データが同じ値(差が許容内)である同士ごとに、〔{(2回目の強度)-(1回目の強度)}/(2回目の強度)〕 の値(以下、強度変化の割合という)を計算する。この強度変化の割合は、多結晶状態による回折像(回折環の像)の方が、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)よりも大きくなる。その理由を以下の通りである。
【0055】
図5は、X線管10の管電圧を変化させたときの出射X線のスペクトル変化を示した図である。図の実線は管電圧が大きいときのX線スペクトルであり、点線は管電圧が小さいときのX線スペクトルであるが、管電圧を大きくすると特性X線も連続X線も大きくなっていることが分かる。しかし、特性X線の大きくなる割合は連続X線の大きくなる割合よりも大きい。これは、図5の縦軸が対数目盛であるため、実線と点線における同じ波長の箇所の間隔がこの割合に相当することから分かる。そして、多結晶状態による回折像(回折環の像)は特性X線による回折像であり、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)は連続X線による回折像であるため、回折像の強度が大きくなる割合も、多結晶状態による回折像(回折環の像)の方が大きくなる。
【0056】
図6は、測定対象物OBが多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態であるとき、X線管10の管電圧を変化させる前と後で撮像されるそれぞれの回折像を示した図である。管電圧が低い方は回折像の強度が小さいため、画像の濃さをあげることで、多結晶状態による回折像(回折環の像)の濃さを管電圧が大きい方の回折像の濃さと同程度になるようにしている。図を見ると分かるように、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)は管電圧が大きい方が薄くなっており、管電圧を大きくすると、多結晶状態による回折像(回折環の像)の方が、単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)よりも強度がより大きくなることがわかる。
【0057】
よって、回折像の各位置の強度変化の割合を統計グラフのように度数分布にすると、図7に示すように2つの箇所にピークが現れる分布になり、強度変化の割合が大きい方が多結晶状態による回折像(回折環の像)であり、強度変化の割合が小さい方が単結晶状態による回折像(ラウエ斑点像)である。そこで、2つのピーク値の中間値を算出し、中間値より強度の変化割合が大きい方のデータを回折環のデータとし、小さい方を回折環以外のデータとし、回折環のデータのみを抽出する。なお、印加電圧以外に管電流又はX線の照射時間を変更すると、それによっても回折像の強度は変化するが、〔{(2回目の強度)-(1回目の強度)}/(2回目の強度)〕で計算される値に、プラスマイナスの符号を残せば、図7に示される度数分布は変化せず、強度変化の割合が大きい方が回折環のデータであるとすることができる。
【0058】
回折環のデータを抽出した後は、回転角度データが等しく(差が許容内で)、半径データが近傍のデータでグループ化してデータ組でまとめ、そのデータ組における半径方向に強度がピークであるデータを抽出する。そのデータは回折環の形状を示すデータであるので、そのデータを用いてステップS7及びステップS12と同様の演算で残留応力の計算を行い、ステップS7及びステップS12での表示装置93への表示と同様の表示を行い、次のステップS18にてプログラムの作動を終了する。なお、表示装置93に表示する回折像は、回折環の像がより強くなる2回目の測定のものを表示してもよいし、1回目と2回目の回折像2つを表示してもよい。また、残留応力の計算方法は、回折環のデータ数が少ない(回折環に欠けがある)場合の残留応力の計算方法として、特許第5408234号公報に示されている計算方法を用いてもよい。表示装置93に測定結果が表示された後、作業者はステージStから測定対象物OBを取り除き、次の測定対象物OBをセットして、上述した操作を行って次の測定を行う。このようにして、測定対象物OBごとに残留応力の測定が行われる。
【0059】
(変形形態)
上記実施形態は、多結晶状態の測定対象物OBを測定するX線回折測定システムの形態であるが、上記実施形態のコントローラ91に単結晶状態の測定対象物OBの特性値である結晶面の種類と結晶方位を算出するソフトをインストールすれば、単結晶状態の測定対象物OBを測定するX線回折測定システムとすることもできる。以下、単結晶状態の測定対象物OBを測定するX線回折測定システムとした場合の実施形態を説明する。
【0060】
本形態におけるX線回折測定システムの構成はコントローラ91に上記実施形態とは異なるソフトがインストールされ、異なる情報がメモリに記憶されている点以外は、上記実施形態と同じである。従って、X線回折測定システムを用いて、単結晶状態の測定対象物OBの結晶面の種類及び結晶方位を測定する際の作業者の操作及びコントローラ91にインストールされたプログラムの作動から説明する。
【0061】
まず作業者は、入力装置92からの入力を行うが、入力項目は上記実施形態と同じである。なお、測定対象物OB表面の結晶面の種類が分かっている場合は、結晶面の種類も入力する。次に、作業者は、水準器を用いてステージStの表面が水平になるように調整するが、これも上記実施形態と同じである。次に作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整」の指令を入力し、X線回折測定装置1の姿勢を調整するが、X線回折測定装置1の作動は上記実施形態と同様である。ただし、本形態においては、図8に示すように可視のLED光が測定対象物OBの表面に垂直に照射されるよう、X線回折測定装置1の姿勢を調整する。このためには、傾斜角センサ51が検出するX軸周りの傾斜角及びY軸周りの傾斜角を共に0になるようX線回折測定装置1の姿勢を調整する。
【0062】
なお、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行でなく、測定対象物OBの表面に水準器を置くことができない場合は、傾斜角センサ51が検出する値は使用せず、別の方法により測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の姿勢を調整する。この方法は、可視のLED光の反射光が円形孔50c1に貼られた炭素繊維フィルムCFの中心孔H付近で受光するよう、X線回折測定装置1の姿勢を調整する方法である。この方法においては、作業者が直に炭素繊維フィルムCFを見ることは困難であるため、X線回折測定装置1のカメラCAと同様のカメラを用意し、測定対象物OB側から炭素繊維フィルムCFに向けて撮影を行うことができるようにすればよい。
【0063】
位置と姿勢の調整が終了すると、作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整終了」の指令を入力し、次いで「測定開始」の指令を入力する。これによるX線回折測定システムの作動は上記実施形態と同様であり、コントローラ91は可視のLED光照射を停止し、X線回折測定装置1をX線出射と回折像が撮像される状態にして図4に示すフローのプログラムをスタートさせる。このプログラムは一部が上記実施形態と異なっているため、異なっている箇所のみを説明する。
【0064】
本形態では、ステップS5は、単結晶状態による回折像データであるラウエ斑点像のデータとそれ以外の回折像データとにデータを分け、それぞれのデータの数又は割合を算出する。以下に、この演算を段階的に説明する。
1)設定された強度以上の箇所を抽出し、近傍位置にあるデータをデータ組にする
この演算は上記実施形態と同様の演算であり、これによりラウエ斑点像の各点において強度がピークとなるデータ、それ以外の回折像で強度がピークとなるデータ及び強度が回転角度方向に同程度であるデータ組が抽出される。
【0065】
2)ラウエ斑点像のデータを抽出する
コントローラ91のメモリには、測定対象物OBの材質と結晶面の種類に対応させた照射点-撮像面間距離が基準値であるときのラウエ斑点像の各点の位置データ(半径データと回転角度データ)が記憶されている。照射点-撮像面間距離が変化すれば、ラウエ斑点像は形状が変わらず、各点の中心からの距離が変化するのみであるので、測定対象物OBの材質、結晶面の種類が入力されており、照射点-撮像面間距離が検出されていれば、理論上のラウエ斑点像の各点の位置データは算出される。なお、結晶面の種類が入力されていなければ、想定される結晶面ごとに理論上のラウエ斑点像の各点の位置データを算出する。このラウエ斑点像の各点の位置データ(半径データと回転角度データ)と、1)で検出した強度がピークとなるデータの位置データ(半径データと回転角度データ)とを比較し、差が許容内であれば、1)で検出した強度がピークとなるデータはラウエ斑点像のデータとし、差が許容外である場合及び強度が回転角度方向に同程度であるデータ組はラウエ斑点像以外の回折像のデータとする。なお、結晶面の種類が入力されていなければ、想定される結晶面ごとに上記の処理を行い、差が許容内であるデータ数が最も大きいものを採用する。
【0066】
3)ラウエ斑点像の発生割合とラウエ斑点像以外の回折像データの数を算出する
2)でラウエ斑点像のデータを理論的に算出されたラウエ斑点像の各点のデータの数で除算した値を「ラウエ斑点像発生割合」として算出する。また、ラウエ斑点像以外の回折像のデータの数を「ラウエ斑点像外の回折像データ数」として算出する。
【0067】
本形態では、ステップS6は上記実施形態における「回折環発生割合」を「ラウエ斑点像発生割合」と読み替え、「回折環外の回折像データ数」を「ラウエ斑点像外の回折像データ数」と読み替えるのみで、上記実施形態と同じである。また、本実施形態では、ステップS7はラウエ斑点像の各点の位置データを用いて、測定対象物OBの法線方向に対する結晶方位を算出し、表示装置93に結晶方位をラウエ斑点像及び測定条件と共に表示する。なお、結晶面の種類が入力されていない場合は、ステップS5の2)で採用した、差が許容内であるデータ数が最も大きい場合の結晶面の種類を検出した結晶面の種類として表示する。ラウエ斑点像の各点の位置から結晶方位を算出する計算方法は、既存技術であり、多くの文献に計算方法が示されている。
【0068】
本形態ではステップS9は、上記実施形態において回折環をラウエ斑点像と読み替えるのみで行うことは同じである。得られたデータのみで演算する場合は、ラウエ斑点像の各点の個数が正常より少ないが、ラウエ斑点像以外の回折像が殆どない場合、又はラウエ斑点像以外の回折像はあるが、ラウエ斑点像の各点の個数は正常である場合に選択される。また、再測定する場合は、ラウエ斑点像とラウエ斑点像以外の回折像が混在し、ステップS5にて行ったラウエ斑点像の抽出では精度のよい演算ができないと思われる場合に選択される。また、本形態では、ステップS12はステップS7と同様、ラウエ斑点像の各点の位置データを用いて、測定対象物OBの法線方向に対する結晶方位を算出し、表示装置93に結晶方位をラウエ斑点像及び測定条件と共に表示する。
【0069】
本形態においてもステップS14にてX線制御回路71へX線照射の指令を出力する前に、X線管10の新たな管電圧の設定値がX線制御回路71へ出力されるが、本形態では管電圧は小さくされ、管電流は大きくされる。また、X線照射時間も大きくされる可能性がある。コントローラ91のメモリには、管電圧を小さくするときの現在の管電圧と変更後の管電圧との関係が記憶されており、管電圧は記憶されているこの関係に従って小さくされる。図5に示すように、管電圧が小さくされると、X線スペクトルは立ち上がる波長が長い側(X線エネルギーが低い側)に移動するため、管電圧を小さくしていくとラウエ斑点像が発生しなくなる管電圧が、測定対象物OBの材質ごとにある。よって、変更後の管電圧は、測定対象物OBの材質ごとに、ラウエ斑点像が発生しなくなる管電圧よりも高い電圧で適切な電圧が記憶されている。また、コントローラ91のメモリには、変更後の管電圧ごとに{(変更前の回折像強度)/(変更後の回折像強度)}の値、及び管電流の上限値が記憶されている。そして、管電流は、変更後の管電圧に対応する{(変更前の回折像強度)/(変更後の回折像強度)}を先の測定時の管電流に乗算した値に設定される。ただし、乗算した値が管電流の上限値を超えるときは、管電流は上限値に設定し、X線照射時間を先の測定時の設定値に〔{(変更前の回折像強度)/(変更後の回折像強度)}×{(先の管電流)/(管電流の上限値)}〕を乗算した値に設定する。
【0070】
本形態では、ステップS17にて上記実施形態と同様に強度変化の割合で、回折像データを図7に示すように多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像の2つに分け、強度変化の割合の小さい単結晶状態による回折像をラウエ斑点像として抽出する。そして、ステップS5の1)と同じ処理を行ってラウエ斑点像の各点の位置データを算出し、ステップS7と同様、ラウエ斑点像の各点の位置データを用いて、測定対象物OBの法線方向に対する結晶方位を算出し、表示装置93に結晶方位をラウエ斑点像及び測定条件と共に表示する。また、結晶面の種類が入力されていない場合は、結晶方位を算出する前に、結晶面種類ごとに理論上と実際のラウエ斑点像の各点の位置データの差が許容内であるデータ数を求め、データ数が最も大きい場合の結晶面の種類を、検出した結晶面の種類として表示する。これ以外のステップは上記実施形態と同様である。
【0071】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態及び変形形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10,貫通孔26a,28a,27b,27a1,17a,18a、X線制御回路71及び高電圧電源95等からなるX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の回折像を撮像するとともに回折像を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20、各種回路、及びコントローラ91にインストールされたプログラム等からなる回折像検出手段と、回折像検出手段により検出された回折像から、測定対象物OBの特性値を演算するコントローラ91にインストールされた演算プログラムとを備えたX線回折測定システムにおいて、X線出射手段から出射されるX線によりイメージングプレート15に撮像される回折像として、多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像を理論的に算出するための情報が予め記憶され、記憶された情報を用いて撮像される回折像を算出し、算出した回折像と回折像検出手段により検出された回折像とを比較して、検出された回折像から演算プログラムによる演算に必要な回折像を抽出するコントローラ91にインストールされた回折像抽出プログラムを備えている。
【0072】
これによれば、測定対象物OBが、多結晶状態と単結晶状態が混在する結晶状態で、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とが撮像される場合でも、回折像抽出プログラムが予め記憶された情報を用いて多結晶状態による回折像又は単結晶状態による回折像を算出し、算出した回折像と検出された回折像とを比較して、演算プログラムによる演算に必要な回折像を抽出するので、演算プログラムは、精度の良い特性値を計算することができる。
【0073】
また、上記実施形態及び変形形態においては、X線出射手段により出射されたX線の測定対象物OBにおける照射点からイメージングプレート15までの距離を検出するLED光源44、カメラCA、これらを作動させる各種回路、及びコントローラ91にインストールされたプログラム等からなる距離検出手段を備え、回折像抽出プログラムは、記憶された情報に距離検出手段により検出された距離を加えて、イメージングプレート15に撮像される回折像を算出するようにしている。
【0074】
これによれば、X線照射点からイメージングプレート15までの距離である照射点-撮像面間距離により、イメージングプレート15に撮像される回折像は大きさが変化するが、距離検出手段が照射点-撮像面間距離を検出するので、回折像抽出プログラムは、撮像される回折像を大きさを含めて理論的に算出することができる。すなわち、照射点-撮像面間距離を一定にする必要がないので、様々な大きさの測定対象物OBを測定する際のX線回折測定装置1に対する測定対象物OBの位置と姿勢の調整を、短時間で行うことができる。
【0075】
また、上記実施形態及び変形形態においては、X線出射手段は、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管10を含み、電子を加速するための電圧である管電圧を変更するX線制御回路71及びコントローラ91等からなる電圧変更手段と、測定対象物OBの同一のX線照射点において、管電圧を異ならせた条件で、それぞれ回折像検出手段により回折像が得られているとき、得られているそれぞれの回折像の各位置における強度から、異なる管電圧間での強度変化の割合を算出し、算出した割合から多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像とを区別したうえで、演算プログラムによる演算に必要な回折像を抽出する回折像抽出プログラムとを備えている。
【0076】
これによれば、多結晶状態による回折像と単結晶状態による回折像が同程度の割合で撮像される場合のように、算出した回折像と検出した回折像とを比較しても、演算に必要な回折像を抽出することが困難な場合や、情報不足で理論的に撮像される回折像を精度よく算出できない場合であっても、回折像抽出プログラムは演算に必要な回折像を抽出することができる。
【0077】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0078】
上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、X線回折測定装置1からコントローラ91に出力されコントローラ91のメモリに記憶された回折像データを、コントローラ91にインストールされているプログラムにより処理することで、残留応力や結晶方位といった測定対象物OBの特性値を算出するようにした。しかし、コントローラ91のメモリに記憶された回折像データを、別のコンピュータ装置に転送し、別のコンピュータ装置により処理して測定対象物OBの特性値を算出するようにしてもよい。この場合、転送する方法は、作業者が持ち運び可能な記憶媒体をコントローラ91と別のコンピュータ装置にそれぞれセットしてデータを移す方法や、ネット回線を用いる方法等、様々な方法がある。すなわち、本発明は装置の発明のみならず、コンピュータ装置がインストールされたプログラムを用いて行う演算方法の発明としても実施し得るものである。
【0079】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、回折像の読取データは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータ群であり、半径及び回転角度は位置検出回路72及び回転角度検出回路75が出力するデータであるとした。しかし、演算に必要な回折像の抽出及び特性値の算出をより精度よく行うため、半径及び回転角度に得られたデータを補正したデータを用いるようにしてもよい。詳細に説明すると、位置データである半径及び回転角度データの座標原点は、出射X線の光軸がイメージングプレート15の表面と交差する点である。しかし、レーザ検出装置30のレーザ光の照射点の移動ラインが完全に該交差する点を含んでおり、さらにスピンドルモータ27の回転軸が出射X線の光軸と完全に一致していることはないので、得られたデータの座標原点は正式な座標原点(該交差する点)からややずれがある。また、イメージングプレート15の表面は出射X線の光軸に完全に垂直になっていないので、半径及び回転角度データにはこの傾きによるずれもある。よって、半径及び回転角度データは、得られたデータからこのずれ分を補正したデータを用いればより精度のよい測定をすることができる。この補正方法については特許第5522411号公報に詳細に説明されている。
【0080】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定装置1は、イメージングプレート15に回折像を撮像し、レーザ走査により撮像した回折像を読取る装置としたが、回折像を検出することができるならば、どのようなX線回折測定装置であっても、本発明は適用することができる。例えば、撮像面にX線CCDのような固体撮像素子を並べたX線回折測定装置であっても適用することができるし、微小な固体撮像素子を移動位置検出とともに撮像面内で走査するX線回折測定装置であっても適用することができる。
【0081】
また、上記実施形態におけるX線回折測定システムは、測定対象物OBの特性値として残留応力を測定するシステムとしたが、多結晶状態による特性値であれば他の特性値を測定するシステムにしてもよい。例えば表面硬さを測定するシステムにしてもよいし、結晶の配列構造の割合を測定するシステムにしてもよい。多結晶状態による回折像である回折環からこれらの特性値を測定する技術は公知技術であり、例えば特許第6066970号公報及び特許第5299474号公報に詳細に説明されている。
【0082】
また、上記実施形態においては、コントローラ91には多結晶状態による回折像である回折環を理論的に算出する情報が記憶され、上記変形形態には単結晶状態による回折像であるラウエ斑点像を理論的に算出する情報が記憶されているとしたが、これらの情報2つが記憶されているようにしてもよい。そして、特性値の演算に必要な回折像を抽出する際、演算に不要な回折像を理論的に算出される回折像を用いて先に除去するようにしてもよい。これによれば、特性値の演算に必要な回折像をより精度よく抽出することができる。
【0083】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、図4に示すフローのプログラムにより測定が行われるとした。しかし、X線回折測定システムは、検出された回折像を表示装置93に表示するまでを自動的に実施するシステムにし、作業者が得られた回折像を見てその後のX線回折測定システムの作動(特性値演算又は条件変更による再測定)を決め、入力装置92からの入力で作動させるようにしてもよい。また、X線回折測定システムは、最初から管電圧を変えて2回測定を行い、上記実施形態及び変形形態と同様に、演算に必要な回折像を抽出して特性値の演算を行うようにしてもよい。また、それぞれの測定の際の印加電圧、管電流等の測定条件を入力装置92からの入力で設定するようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、対象物セット装置6のステージStに測定対象物OBを載置し、対象物セット装置6の操作子63a,65a,66a,67a,68aを操作して、X線回折測定装置1に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整するシステムとしたが、X線回折測定装置1に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整できるならば、どのようなシステムであっても本発明は適用することができる。例えば、測定対象物OBを固定した台に載置し、X線回折測定装置1をアーム式移動装置の先端に取り付けて、位置と姿勢を調整できる装置であっても適用することができる。
【0085】
また、上記実施形態及び変形形態におけるX線回折測定システムは、出射X線と同じ光軸の可視光を照射し、カメラCAで撮影した撮影画像の可視光の照射点位置から照射点―撮像面間距離を検出するようにしたが、照射点―撮像面間距離を精度よく検出できるならば、測定手段はどのような原理及び方式のものであってもよい。例えば、出射X線と同じ光軸のレーザ光を照射して反射光を受光し、タイムオブフライトの測定原理を用いて照射点―撮像面間距離を検出してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…X線回折測定装置、2…設置プレート、3…支持ロッド、6…対象物セット装置、10…X線管、11…出射口、15…イメージングプレート、15a…孔、16a,17a,18a,21a,27a1,27b、28a…貫通孔、16…テーブル、17…突出部、18…固定具、19…ブロック、20…テーブル駆動機構、21…移動ステージ、22…フィードモータ、23…スクリューロッド、24…軸受部、25…ガイド、26…板状プレート、27…スピンドルモータ、28…通路部材、29…ブロック、30…レーザ検出装置、43…LED光源,44…LED光源、45…回転プレート、46…モータ、47a,47b…ストッパ、48…結像レンズ、49…撮像器、50…筐体、50a…底面壁、50b…前面壁、50c…切欠き部壁、50c1…円形孔、50d…繋ぎ壁、50e…後面壁、50f…上面壁、50g…傾斜壁、51…傾斜角センサ、90…コンピュータ装置、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、OB…測定対象物、CA…カメラ、St…ステージ、CF…炭素繊維フィルム、H…中心孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9