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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】消臭剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241029BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20241029BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20241029BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20241029BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20241029BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A61K8/9789
A23L27/00 Z
A23L27/10 C
A23L29/00
A61L9/01 H
A61Q11/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023122662
(22)【出願日】2023-07-27
【審査請求日】2023-08-09
【審判番号】
【審判請求日】2024-05-16
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594104445
【氏名又は名称】リリース科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】邊見 篤史
(72)【発明者】
【氏名】杉野 努
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】奥原 正國
(72)【発明者】
【氏名】角谷 尚子
(72)【発明者】
【氏名】赤松 実憲
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智恵子
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】柴田 昌弘
【審判官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-025232(JP,A)
【文献】特開2007-063192(JP,A)
【文献】特開2023-007208(JP,A)
【文献】特開2022-142505(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114449996(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0098075(US,A1)
【文献】特表2017-528422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61K,A23L
JSTPLUS/JST7580/JMEDPLUS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長時間体内に留まり、かつ腐敗成分と結合して体外に放出されるニンニク由来の臭気成分を不活性化するための消臭剤であって、ホップ毬花から抽出した軟質樹脂成分を主成分とする消臭剤。
【請求項2】
長時間体内に留まり、かつ腐敗成分と結合して体外に放出されるニンニク由来の臭気成分を不活性化するための消臭剤であって、ホップ毬花から抽出して加熱酸化した軟質樹脂成分を主成分とする消臭剤。
【請求項3】
長時間体内に留まり、かつ腐敗成分と結合して体外に放出されるニンニク由来の臭気成分を不活性化するための消臭剤主成分の生成方法であって、ホップ毬花から、超臨界二酸化炭素抽出、有機溶媒による抽出、有機溶媒と水との混液による抽出、のうちいずれかによって軟質樹脂成分を得る消臭剤主成分の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるニンニク臭の成分の一つであり、体内に長時間残留するアリルメチルスルフィドを不活性化して臭わなくする消臭剤に係り、その主成分をホップから得たものである。なお、本願では、以下、口腔内に由来する口臭は「口臭」と、腸など内臓に由来する口臭や汗臭は「体臭」ということとする。
【背景技術】
【0002】
ニンニク臭は、調理や食事の際にアリイン(無臭物質)を含んだ細胞が壊されることでアリナーゼと反応してアリシンになることで発生すると言われている。このアリシンは不安定物質であり、ビニルジチン類、アホエン類、そしてニンニク特有の臭い成分であるアリルスルフィド類に変化する。
【0003】
アリルスルフィド類には、食後数時間で検出されるタイプと、約1日経過後でも検出されるタイプがある。食後数時間で検出される場合は、ニンニク摂取後約1~2時間で呼気中の濃度が最大となり、その後2~3時間かけて初期濃度に減少する。このタイプの化合物は、ジアリルスルフィド、アリルメチルジスルフィド、ジアリルジスルフィド、ジアリルトリスルフィド、が挙げられる。この前者に由来した臭」は、個人差、摂取量によって違いはあるがおよそ3時間程度持続すると言われ、歯磨きなどを丹念に行ったりすることで抑えることができる。
【0004】
一方、約1日経過後でも検出されるタイプは、ニンニク摂取後約4~5時間で呼気中の濃度が最大となり、その後約30時間以上かけて穏やかに減少する。このタイプの化合物は、アリルメチルスルフィドが挙げられる。この後者のアリルメチルスルフィドは、「口臭」としてはもちろんのこと、胃腸内から口臭やいわゆる「げっぷ」、また、昨今の報告によれば胃腸や消化器官を経て皮膚から「体臭」として体外に放出され、不快な悪臭として認知される。
【0005】
従来、ポリフェノール、カテキン、タンニン、フルフリール基を主成分とした化合物で、アリルメチルスルフィドを不活性化する消臭剤は多数多種存在する。例えば本出願人においては、アリルメチルスルフィドを不活性化する技術として、特許第6342382号公報(特許文献1)において1,4-シネオール、又は1,8-シネオールを用いた消臭剤を、特許第6455859号公報(特許文献2)においてビワ種子、ヤマモモ種子、のいずれか又は両方からヘキサン抽出することを、特開2018-191694号公報(特許文献3)においてイソプレンを構成単位とする炭化水素で、植物由来の生体物質であるテルペンから、スルフィド系、チオール系、アルデヒド系、窒素系、脂肪酸系の悪臭成分のそれぞれに対して消臭効果の高い2種以上を採用して混合したものを主原料とする消臭剤を開示した。
【0006】
ところで、昨今では、ビールの原料となるホップ由来物質に、多種の機能を有していることが究明されてきており、例えば健胃、鎮痛作用、更年期障害の改善作用、睡眠時間延長作用、II型糖尿病患者に対するインスリン感受性の改善作用、胃液の分泌増加作用、肥満予防作用、その他、花粉症症状の軽減作用、アルツハイマー型認知症の予防効果、表皮細胞のアロマターゼを活性化させる作用、乳癌細胞のアロマターゼを抑制する作用、があるとされている。
【0007】
例えば特許文献4(特開平10-25232号公報)には、ホップ苞に含有されるポリフェノール様物質で、ゲル型合成樹脂に吸着する物質を消臭性素材とすることが開示されている。そして、特許文献4で開示される消臭性素材によれば、酪酸、メチルメルカプタン、スカトールについて、銅クロロフィリンナトリウムに較べて優れた消臭効果があることを確認している。
【0008】
しかしながら、特許文献4では、後述するとおり、アリルメチルスルフィドに対する消臭効果は低いといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6342382号公報
【文献】特許第6455859号公報
【文献】特開2018-191694号公報
【文献】特開平10-25232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、すなわち、従来、ホップ由来成分において、ゲル型合成樹脂に吸着するポリフェノール様物質の消臭性素材では、体内に残留するアリルメチルスルフィドなどを少量で効果的に不活性化できなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決策として、本発明は長時間体内に留まり、かつ腐敗成分と結合して体外に放出されるニンニク由来の臭気成分を不活性化するための消臭剤であって、ホップ毬花から抽出した軟質樹脂成分を主成分とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、少量でアリルメチルスルフィドなどを不活性化して効果的に臭わなくするという利点がある。また、本発明は、体内に摂取しても安全であり、体内摂取して口臭及び体臭の成分中のアリルメチルスルフィドなどを別の化合物にして不活性化し、そのまま口臭及び体臭として体外へ発散されることを抑制できるという利点がある。なお、本発明は、前記のとおり、別の化合物にして悪臭成分の不活性化をするものであって、他の臭いでごまかすといういわゆるマスキングによる消臭ではない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ホップ由来成分の多機能性に着目して、鋭意研究を重ねて、消臭作用、特に体内に摂取されることで、長時間体内に留まり、かつ腐敗成分と結合して体外に放出されて悪臭として認識されるアリルメチルスルフィドなどを不活性化して不快な悪臭として臭わなくする消臭剤の主成分となる成分を見出した。すなわち、本発明は、長時間体内に留まり、かつ腐敗成分と結合して体外に放出されるニンニク由来の臭気成分を不活性化するための消臭剤であって、ホップ毬花から抽出した軟質樹脂成分を主成分とする。
【0014】
なお、本発明では、「ホップ」とは、例えばビール製造後の廃ホップも含み、むしろ、そうした本来廃棄される材料を再利用する点にも技術的意義がある。
【0015】
本発明は、下記の知見に基づいてなし得たものである。
ニンニク由来の臭気成分は、主にAMS(アリルメチルスルフィド)、DAS(ジアリルスルフィド)、AMDS(アリルメチルジスルフィド)、DADS(ジアリルジスルフィド)、DATS(ジアリルトリスルフィド)とされる。
【0016】
上記のうち、DAS、AMDS、DADS、DATSは、摂取後0.5~1.0時間ほどでピークを迎え、その後、1.5~2.0時間程度で摂取前の水準まで戻ることが報告されている。一方、AMSは、摂取後4.5時間ほどでピークを迎え、濃度はしだいに下げつつではあるが30.0時間経過しても体内に残ることが報告されている。
【0017】
さらに、AMSとDADSは、呼気(口臭)だけでなく、皮膚からも発散されることが報告されている。すなわち、DADSは首、下腹部、臀部、胸部、前腕から、AMSは首、胸部、腕部、臀部から検出されたという報告がある。
【0018】
これほど長時間に亘って体内に留まり、かつ発散するAMSを中心とした臭気成分に対して有効な消臭成分を見つけるべく、本出願人は、主としてビールの製造主成分とされるホップ毬花に着目して、以下の実験を行った。
【0019】
(ホップ毬花の消臭効果)
そもそもホップ毬花においてAMSなどについて消臭効果が存在するのかを調べた。
・自然乾燥させたホップ毬花原体をミキサーで粉砕後、すり鉢でさらに細かく微粉末化(ホップ末)した
・ホップ末を30mL、GC(ガスクロマトグラフィー)バイアルに、6.25,12.5,25.0,50.0,100.0mgを量り取った
・AMSを0.01% 2.0μL注入した
・室温で2時間静置後、HS(ヘッドスペース)ガス2.0mL採取した
・全量をGCに注入し、AMSピーク値を測定した
【0020】
【表1】
【0021】
上記の結果、100.0mgのホップ末であれば、ニンニク由来の悪臭成分のうち最も体内残留時間の長いAMSについて、外気の他の臭気成分で紛れて、その臭気成分が際立って臭うことのない臭気濃度である50%以下の臭気濃度にできる(消臭率は50%以上)ことが判った。このことから、ホップ毬花にはAMSなどに対する消臭効果があることが判った。
【0022】
(酸化ホップ末の消臭効果)
次に、上記ホップ末を酸化させた場合について調べた。なお、酸化は化合物構造において酸素原子が付加されることを言う。本発明では、AMSなどに対する消臭効果を有する主成分を見出すことを目的としているので、酸化方法に技術的意義はない。
【0023】
つまり、AMSなどに対して消臭率の高い主成分が、酸化された成分、過酸化された成分、であれば、それらを見出すことが本発明の目的であるため、以下、本発明では「酸化」という語については、もともとの意味の酸化と過酸化の両方を含むことと定義する。
【0024】
以下、加熱により酸化させた際に、各化合物個々において酸化反応が生じているのか、過酸化反応が生じているのか、ということを問わず、上記定義でいう「酸化」させた場合、AMSなどに対する消臭率がどう変動するのかを調べた。
【0025】
・自然乾燥させたホップ毬花原体をミキサーで粉砕後、すり鉢でさらに細かく微粉末化(ホップ末)した
・ホップ末をシャーレに平たくなるように入れて80℃で15時間加熱(酸化)維持した(酸化ホップ末)
・酸化ホップ末を30mL、GC(ガスクロマトグラフィー)バイアルに、6.25,12.5,25.0,50.0,100.0mgを量り取った
・AMSを0.01% 2.0μL注入した
・室温で2時間静置後、HS(ヘッドスペース)ガス2.0mL採取した
・全量をGCに注入し、AMSピーク値を測定した
【0026】
【表2】
【0027】
上記の結果、酸化ホップ末は、ホップ末と較べて1/8の量である12.5mgで消臭率を70%以上とすることができた。このことから、ホップ末を酸化させることで、ホップ末のより少量で高い消臭率を得られることが判った。
【0028】
(消臭成分抽出)
続いて、さらに少量で消臭効果の高い成分を得るべく、ホップ末の成分を抽出して調べた。
(1)ホップ末から有機溶媒として本例では例えばトルエンを用いて「抽出物A」を得て、1.0mgにおけるAMSに対する消臭率を調べた。この結果、消臭率は12.1%であった。
【0029】
(2)抽出物Aから有機溶媒として本例では例えばメタノールを用いて「抽出物B」を得て、1.0mgにおけるAMSに対する消臭率を調べた。この結果、消臭率は49.3%であった。
【0030】
なお、抽出物A、抽出物Bを得るまでの過程における抽出有機溶媒は、上記のトルエン、メタノール以外に、例えばシクロヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、アセトン、イソプロパノール、アセトニトリル、ヘキサン、を用いてもよい。また、これら有機溶媒と水との混液を用いてもよい。
【0031】
さらに、抽出物A、抽出物Bを得るまでの過程における抽出は上記有機溶媒、上記有機溶媒と水との混液に代え、超臨界二酸化炭素抽出法を採用してもよい。本願の消臭剤は人体に摂取することを前提としているので、超臨界二酸化炭素抽出法を採用すれば有機溶媒が人体におよぼす影響を考慮する必要がなく、抽出物をより安全なものにできる。
【0032】
(3)抽出物Bからシリカゲルクロマトグラフィーの手法を用いて精製して「強活性区分1」を得て、1.0mgにおけるAMSに対する消臭率を調べた。この結果、消臭率は46.5%であった。
【0033】
(5)強活性区分1からさらに上記シリカゲルクロマトグラフィーの手法を用いて精製操作を繰り返して「強活性区分2」を得て、各々1.0mgにおけるAMSに対する消臭率を調べた。この結果、消臭率は87.1%であった。
【0034】
(6)「強活性区分2」のそれぞれについて、液体クロマトグラフを用いて分析したところ、それぞれ次の成分を含んでいることが判った。
強活性区分2 :キサントフモール(Xanthohumol) 分子量278MW
ルプロンLupulone) 分子量352MW
フムリノンHumulinone) 分子量364MW
フムロンHumulone) 分子量364MW
フルポンHulupone) 分子量434MW
【0035】
ホップの成分内訳は、ホップ樹脂が15~30%、精油が0.5~3%、タンニンやポリフェノールが3~6%、水分が8~12%、タンパク質が15%、アミノ酸が0.1%、脂質が1~5%、無機物が1~5%、単糖類が2%、ペクチンが2%、セルロースやリグニンが40~50%、含有していることが知られている。ここで、本発明では、成分内訳の最も多いホップ樹脂に着目した。
【0036】
(推定)
(1)ホップ樹脂のうち、分子量300MW以上の成分は軟質樹脂、分子量300MW未満の成分は硬質樹脂とされ、ホップ成分から抽出された「強活性区分2」の上記成分は、分子量300MW以上の軟質樹脂成分が多く含まれていることから、ホップ成分中の軟質樹脂成分がAMSを少量で不活性化できると推定した。
【0037】
ホップの軟質樹脂は、α酸β酸に分けられ、「α酸」には下記の化1(構造式1)で表されるフムロン(C 21 H 30 O 5 )を中心に、一方、「β酸」には下記の化2(構造式2)で表されるルプロン(C 26 H 38 O 4 )を中心に、それぞれCo-「コ」、n-「ノルマル」、Ad-「アド」、Post-「ポスト」、Pre-「プレ」など、他に多くの異性体が属していることが知られており、上記のフムロン、ルプロン以外のフムリノン、フルポンもまた、異性体の一つである。
【0038】
【化1】
(構造式1)
【0039】
【化2】
(構造式2)
【0040】
(2)強活性区分2で得たα酸、β酸を含む軟質樹脂成分であれば、ホップ末、酸化ホップ末のときよりさらに少量で高い消臭率となると仮説した。
【0041】
(検証)
(1)まず、軟質樹脂成分にAMSなどに対する消臭効果を有するとの仮説を裏付けるべく、強活性区分2から、キサントフモールを単離し、単離した0.1mg、1.0mgのキサントフモールにおけるAMSに対する消臭率を調べた。この結果、消臭率はそれぞれ0.5%、4.0%程度であった。
【0042】
キサントフモールは、ポリフェノール化合物であり、30.0mgと増量しても、また、酸化させても、消臭率が大きく変動することは予測できず、ホップの成分では硬質樹脂に属するから、強活性区分2からの消去法的に、軟質樹脂成分にAMSなどに対する消臭成分が存在するという推定は正しいことが検証できた。なお、特許文献4における「ホップ苞に含有されるポリフェノール様物質」とはこのキサントフモールではないかと推測する。
【0043】
したがって、キサントフモールを除けば、「強活性区分2」のルプロン、フムリノン、フムロン、フルポンはいずれも軟質樹脂成分であることから、軟質樹脂成分は、AMSの消臭に有効であるとする推定が正しいとの信ぴょう性が高くなった。
【0044】
(2)以下の実験を行った。
強活性区分2らキサントフモールを除去し、「軟質樹脂成分」を抽出した
・アセトンに溶解した
・30mL、GC(ガスクロマトグラフィー)バイアルに、0.1,0.3,1.0,3.0,10.0,30.0mgを量り取った
・静置し、アセトンを揮発させた
・悪臭成分(溶液)を5μL注入した
・室温で2時間静置後、HS(ヘッドスペース)ガス2.0mL採取した
・全量をGCに注入して測定した
【0045】
悪臭成分は、AMSの他、前掲のAMS、DAS、AMDS、DADS、DAT、さらにDMS(ジメチルスルフィド)、DMDS(ジメチルジスルフィド)、AMTS(アリルメチルトリスルフィド)、DMTS(ジメチルトリスルフィド)、に対する消臭率を調べた。なお、DMSとDMDSはニンニク由来ではないが、スルフィド系(硫黄系)の悪臭とされる成分である。
【0046】
【表3】
【0047】
以上のことから、軟質樹脂成分であれば、AMS、DADSにおいては3.0mgで50%以上の消臭率となることが判明した。特筆すべきは、AMSについては酸化ホップ末の、約1/4の量で50%以上の消臭率、約1/2の量で80%以上の消臭率となることが判明した。また、DMSを除くその他の悪臭成分についても30.0mg程度で少なくとも80%以上、DMSについては30.0mg程度で50%以上の消臭率となることが判明した。
【0048】
よって、ホップ樹脂のうち、軟質樹脂成分であれば、AMSなどの悪臭成分に対して、ホップ末、酸化ホップ末に較べて、さらに少量で高い消臭率が得られるということが検証できた。
【0049】
(酸化軟質樹脂成分)
そうであれば、酸化した軟質樹脂成分(酸化軟質樹脂成分)であれば、上記軟質樹脂成分と比べてさらに、少量で高い消臭率が得られるはずであるため、これも検証した。悪臭成分に対する酸化した軟質樹脂成分の消臭測定条件は、軟質樹脂成分の消臭測定の場合条件は同じである。その結果を表4に示す。
【0050】
・強活性区分2から上記キサントフモールを除去し、「軟質樹脂成分」を抽出した
・軟質樹脂成分をシャーレに平たくなるように入れて80℃で15時間加熱(酸化)維持した(酸化軟質樹脂成分)
・アセトンに溶解した
・30mL、GC(ガスクロマトグラフィー)バイアルに、0.1,0.3,1.0,3.0,10.0,30.0mgを量り取った
・静置し、アセトンを揮発させた
・悪臭成分(溶液)を5μL注入し
・室温で2時間静置後、HS(ヘッドスペース)ガス2.0mL採取した
・全量をGCに注入して測定した
【0051】
【表4】
【0052】
上記の結果、酸化軟質樹脂成分は、AMSについて、軟質樹脂成分の約1/3の量である1.0mgで60%程度の消臭率となり、10.0mg以上ではほぼ100%の消臭率となることが判明した。DMSに関しては軟質樹脂成分のとき3.0mgで11.3%の消臭率であったが、酸化軟質樹脂成分では74.4%の消臭率となった。
【0053】
また、DASについては軟質樹脂成分では1.0mgで8.6%の消臭率となったが、酸化軟質樹脂成分であれば65.7%で50%以上の消臭率となることが判った。その他は、概ね、軟質樹脂成分のときと同等以上の消臭率となった。このことから、軟質樹脂成分を酸化することでAMSなどに対する消臭率が向上することが判った。
【0054】
ここで、AMS消臭原理について説明する。AMSは酸化されると不安定なAMSOに。そしてAMSOは不安定であるがゆえに安定したAMSO に自動酸化することとなる。ちなみにAMSOとAMSO は無臭である。
【0055】
つまり、ホップ毬花の抽出物、軟質樹脂成分、さらにはα酸、β酸における酸素がAMSに吸着してAMSOに、上記酸化物でAMSO に変化することから、少量で確実かつ高い消臭率を示すこととなり、AMSを無臭化できると考えられる。
【0056】
なお、軟質樹脂成分はα酸とβ酸があるが、α酸、β酸、個々のどれが、どの組み合わせが、より消臭率が高いかとかという点は、本願発明、つまりホップ毬花、軟質樹脂成分に包含されていることであって、既に必要十分な効果が得られることが検証されているので、それ以上の検証結果は記さない。
【0057】
上記のとおりα酸、β酸の同族体は多く存在し、また、α酸のフムロンは酸化によりフムリノン(humulinone)に、β酸のルプロンは酸化によりフルポン(hulupone)に変化することも知られているから、ホップ毬花から得ていない、例えば合成した、α酸、β酸、また、酸化工程を得ていない、例えば合成した、フムリノン(α酸の酸化化合物)、フルポン(β酸の酸化化合物)、を主成分としても上記と同様の効果が得られる。
【0058】
ちなみに、ホップ毬花については、ビールの原料として使用する前であっても使用後であってもAMSなどの上記した消臭率に大きな影響がないことも検証している。このことから、例えばビールの原料として使用後の本来廃棄されるホップ毬花を、全く別の製品であるAMSなどの消臭を可能とする消臭剤の主成分とするべく再利用すれば、昨今のSDGsの観点からも、産業廃棄物質を減らすことに貢献することができる。また、本発明の消臭剤は、そもそもはビールの主原料であるので体内摂取に関しては安全で、そのうえ体内で生成されて対外に放出されるAMSを体内において不活性化できる。
【要約】
【課題】体内摂取しても安全で、しかも体内で生成されるアリルメチルスルフィドを体内において不活性化する天然由来の新規成分を見出すことを課題とする。
【解決手段】本発明の消臭剤は、ホップ毬花を主成分としたものである。
【効果】少量を摂取して体内に残留するアリルメチルスルフィドを不活性化できる。
【選択図】なし