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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】保護衣料品及び保護衣料品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/015 20060101AFI20241029BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20241029BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20241029BHJP
   A41D 27/06 20060101ALI20241029BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20241029BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20241029BHJP
【FI】
A41D19/015 110A
A41D19/015 130Z
A41D19/04 Z
A41D19/00 N
A41D27/06 A
A41D31/00 502C
A41D31/00 503P
A41D31/04 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023141014
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507359454
【氏名又は名称】赤城工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須永 照重
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-131871(JP,A)
【文献】特表2019-501309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D19/00-19/04
A41D27/06
A41D31/00-31/32
A41D13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層と内層とで、中間層を挟んで構成される保護衣料品であって、
前記中間層は、金属の芯線及び伸縮繊維を含む複合糸によって、所定の形状に一体に編んで形成され、前記外層と前記内層との隙間において、少なくとも2層挟んで設けられ
前記中間層は、開口部を有する袋状、若しくは開口端部を有する筒状の何れかに形成され、前記複合糸の端部は、前記開口部、若しくは片側の前記開口端部に設けられる、保護衣料品。
【請求項2】
前記内層は、袋状に形成され、その外面において2つの前記中間層に挟まれる、
請求項1に記載の保護衣料品。
【請求項3】
外層と内層とで、中間層を挟んで構成される保護衣料品の製造方法であって、
前記中間層を、金属の芯線及び伸縮繊維を含む複合糸によって、開口部を有する袋状、若しくは開口端部を有する筒状の何れかに一体に編んで形成する編上げ工程と、
前記外層と、前記内層との隙間に、前記中間層を挟んで取付ける挟み込み工程と、を有し、
前記挟み込み工程において、前記中間層が前記隙間に少なくとも2層挟んで取付けられ
前記編上げ工程において、前記複合糸の端部は、前記開口部、若しくは片側の前記開口端部に設けられる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃物による負傷を防止する保護衣料品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
警察官など、暴漢制圧が想定される職種においては、刃物による攻撃で負傷しないように、防刃手袋や防刃衣などを着用することが望ましい。このような防刃性を有する保護衣料品においては、内部に金属繊維や、鎖状の金属部材を縫着したものなどが作られてきた。ここで、金属繊維を含む布材は、防刃性能を持たせるという特性上、刃物で裁断することが困難なため、所定の形状に編上げて製造するのが好ましく、そのようにして製造された保護衣料品が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-131871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、3層構造の手袋をなし、中間層となる部分に金属繊維を含み、その中間層が手袋の形状に編んで形成される防刃手袋が開示されている。しかしながら、このような手袋は袋状の中間層の内側に内層を入れて縫合するという製造方法となり、作業が難しいという課題があった。
【0005】
また、金属繊維を含む手袋を一体に編む際に、金属繊維の配置によっては、手袋の着用時に金属繊維の先端が内層に刺さって飛び出し、使用者の手に当たって使用感の低下を招くほか、場合によっては出血を伴う怪我を引き起こす可能性もあった。
【0006】
上記の例のほかに、刃物による負傷を防ぐ保護衣料品として、防刃ベストなど使用者の胴体を保護するものがある。これにおいては、身頃に合わせた平面状の防刃層が組み込まれている構成が想定されるが、前述のように金属繊維を含む布材は、防刃層の周縁部で金属繊維の先端が突き出た場合に、前述の防刃手袋と同様に使用感の低下や怪我のリスクがあった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、より容易に製造でき、かつ金属繊維による使用感の低下を抑えた保護衣料品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本願発明は、外層と内層とで、中間層を挟んで構成される保護衣料品であって、該中間層は、金属の芯線及び伸縮繊維を含む複合糸によって、所定の形状に一体に編んで形成され、該外層と該内層との隙間において、少なくとも2層挟んで設けられる。
このような構成によって、より容易に製造でき、かつ金属繊維による使用感の低下を抑えることができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、該中間層は、開口部を有する袋状に形成され、該複合糸の端部は、該開口部に設けられる。
このような構成によって、使用者の身体に触れにくい場所に複合糸の端部を配置しやすくなり、衣料品の使用感を向上することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、該内層は、袋状に形成され、その外面において2つの該中間層に挟まれる。
このような構成によって、袋状の衣料品であっても、容易に各部品を固定することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、該中間層は、筒状に形成され、その片側の開口端部に、該複合糸の端部が設けられる。
このような構成によって、衣服の身頃部分など、袋状でない部分に中間層を組み込む場合でも、衣料品の使用感を向上することができる。
【0012】
上記課題を解決する本願発明は、外層と内層とで、中間層を挟んで構成される保護衣料品の製造方法であって、該中間層を、金属の芯線及び伸縮繊維を含む複合糸によって、所定の形状に一体に編んで形成する編上げ工程と、該外層と、該内層との隙間に、該中間層を挟んで取付ける挟み込み工程と、を有し、該挟み込み工程において、該中間層が該隙間に少なくとも2層挟んで取付けられる方法である。
このような製造方法によって、より容易に製造でき、かつ金属繊維による使用感の低下を抑えた保護衣料品を提供することができる。
【0013】
本発明の好ましい方法では、該編上げ工程において、該中間層は、開口部を有する袋状に編上げられ、該複合糸の端部は、該開口部に設けられる。
このような製造方法によって、着用者の身体を傷つけず、さらに意匠性を高めた保護衣料品を提供することができる。
【0014】
本発明の好ましい製造方法では、該編上げ工程において、該中間層は、筒状に形成され、該複合糸の端部は、その片側の開口端部に設けられる。
このような製造方法によって、衣服の身頃部分など、袋状でない部分に中間層を組み込む場合でも、衣料品の使用感を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
上記課題を解決する本発明は、金属による使用感の低下を抑えた保護衣料品をより容易に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一の実施形態に係る、保護衣料品、特に防刃手袋の全体構成を示す模式図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る、保護衣料品に含まれる複合糸の構成を示す模式図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る、保護衣料品、特に防刃手袋の中間層における複合糸の配置を示す模式図である。
図4】本発明の第二の実施形態に係る、保護衣料品、特に防刃衣の全体構成を示す斜視図及び正面図である。
図5】本発明の第二の実施形態に係る、保護衣料品、特に防刃衣の使用例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明の各実施形態に係る保護衣料品について説明する。説明は、実施形態の構成、実施の方法、実施形態の製造方法、他の実施例の順に詳述する。
なお、以下に示す各実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の各実施形態に限定するものではない。
【0018】
本発明において保護衣料品とは、以下に示す防刃手袋X、防刃衣Yを指す。また、それらの構成及び製造方法は、防刃性を有する他の衣料品にも適用できるものとする。以下、第一の実施形態を防刃手袋X、第二の実施形態を防刃衣Yとする。
【0019】
≪第一の実施形態≫
本実施形態に係る防刃手袋Xは、図1に示すように、内層1と、中間層2と、外層3と、を備え、各部品を重ね合わせて貼り合わせる、若しくは縫着することによって形成される。
なお、各図面において、図1(a)は防刃手袋Xの各層を重ね合わせる順番を示す図、図1(b)は防刃手袋Xの斜視図、図1(c)は防刃手袋Xの断面模式図(積層方向を拡大)である。また、図2は中間層2に含まれる複合糸21の構成とその先端部付近の拡大図、図3(a)は複合糸21の編み目の構成を示す模式図、図3(b)は中間層2の全体における複合糸21の配置の概略図である。
【0020】
内層1は、着用時に使用者の手を直接被さって覆う手袋型の部材であって、皮革、コットン、メッシュ生地など、裁断や縫合による加工、成形がしやすい材料で構成される。また、内層1の外面は、手の平側と手の甲側の2面に分けられ、それぞれに中間層2が貼り付けられる。このような構成によって、後述する中間層2に含まれる金属の芯線211が使用者の手に直接当たることを防ぎ、使用感を向上することができるほか、積層による製造が容易になる。
【0021】
中間層2は、図1(a)、(c)において波型線で示される、内層1と略同じ大きさ及び形状の手袋型に形成される部材であり、複合糸21で構成される。複合糸21は、図2に示すように、金属繊維(金属の細線)を芯線211とし、その周りに複数本の伸縮繊維212を螺旋状に巻き付けて構成される混合材である。
【0022】
複合糸21において、芯線211の材料はタングステンが好ましい。そのほかの金属としては、スチールやチタンなども想定されるが、タングステンはスチールなどの金属材料に比べてモース硬度が高く、また融点も高いため、防刃性能を期待する材料として有用であり、本発明の芯線211に用いられる材料として第一に想定される。また、伸縮繊維212は、アラミドなどの切断し難い化学繊維が好ましい。
【0023】
中間層2は、複合糸21によって、継ぎ目が生じないように全体を一体に編んで形成される。ここで、「全体を一体に編む」とは、複合糸21の先端部が手首部分の開口部(特にその周縁部)にのみ位置し、他の部分に複合糸21の端部が配されないように、全体が一続きに編上げられる構成を指す。また、1本の長大な複合糸21だけで中間層2を編上げてもよい。
【0024】
中間層2の編上げにおいて、複合糸21は、図3(a)に示すように、上下の糸と波型に引っ掛かり編まれる構成であるが、説明の便宜上、図3(b)に示すように、編上げられた複合糸21の長さ方向を、凡そ使用者の手首の周方向とする。このとき、複合糸21は一端を手首部分の開口部(特にその周縁部)に設け、そこから指先に向かって螺旋状に編上げられ、さらに手首方向に戻るように螺旋状に編上げられて、他端も手首部分の開口部に配される。このような構成によって、芯線211の先端を使用者の手や指に当たらない位置に設けることができ、着用時の使用感の低下を抑えることができる。
【0025】
中間層2を編上げた複合糸21の先端は、袋状に形成された内部に向けられる構成が好ましい。このような構成によって、芯線211の先端が外部に飛び出しにくい状態となるため、製造時及び着用時において、芯線211が手に当たることによる怪我を防ぐことができる。
【0026】
中間層2の手首部分の開口部は、化学繊維のみの撚り糸によって、複合糸21の端部を覆い隠すように補強される構成が好ましい。このような構成によって、芯線211の先端が飛び出しにくくなり、使用者の手に当たる可能性を低減することができるほか、製造時及び着用時に、開口部から中間層2が解れることを防ぐ。
【0027】
中間層2は、図1に示すように、内層1を手の平側と手の甲側の両面から挟み込んで、内層1と貼り合わされ、若しくは縫着されて接続される。すなわち、内層1が2つの中間層2に挟まれ、3つの手袋がぴったりと重なり合う構成となる。このような構成によって、内層1を覆う防刃の層を二重にすることができ、防刃性が向上する。このほか、前述の通り、中間層2に含まれる芯線211の先端を手首付近のみに設けることができ、芯線211の先端が使用者の手に当たることによる使用感の低下や負傷のリスクを抑えることができる。
【0028】
外層3は、手形に形成される部材であり、皮革などの裁断、縫合による加工がしやすい材料で形成される。本実施形態においては、2枚の外層3が、前述した内層1及び2つの中間層2を重ね合わせた構造体をさらに挟み込み、一体の防刃手袋Xを形成する。すなわち、防刃手袋Xは、図1に示すように、外層3、中間層2、内層1、中間層2、外層3の順に重る構成である。このような構成によって、手袋の強度を向上できるほか、金属の芯線211を含む中間層2が外から見えなくなることで、手袋としての意匠性を保つことができる。
【0029】
図1(c)には、防刃手袋Xの断面模式図を示している。2つの中間層2は、手袋状に編上げられたものを平らにして内層1と外層3の間に入って挟まれる構成であり、さらに着用時に手首を通す開口部において、内層1と外層3とが縫合されて直接接続され、中間層2が入っている空間を閉じることで、芯線211の端部が、防刃手袋Xの表面に飛出ることを最大限防ぐ。さらに、内層1、中間層2、外層3の各部材は、手首部分を長くとることで、芯線211が使用者の手首の血管に向かって飛び出すことを防ぎ、重症或いは致命傷のリスクを避けることができる。
【0030】
外層3のうち、手の平側に設けられる方は、ゴムシートなどで補強される構成が好ましい。このような構成によって、滑り止めで使用者の作業性を向上できるほか、暴漢制圧時において、突きつけられた刃物を掴んで止めることも可能になる。
【0031】
以下、図面を用いて、本実施形態の製造方法について詳述する。また、以下に示す製造方法は一例であり、実施の方法はこれに限られず、順番は前後してもよい。
【0032】
≪本実施形態の製造方法≫
本実施形態に係る防刃手袋Xの製造方法は、内層1と外層3を形成する裁断工程91及び縫合工程92、中間層2を手袋型に一体に編上げる編上げ工程93、中間層2を内層1と外層3の間に挟んで貼り合わせ若しくは縫着する挟み込み工程94、を有する。
【0033】
裁断工程91は、内層1及び外層3を構成する生地(前述の通り皮革、コットン、メッシュ等)を手形に裁断する工程であり、ここで決定された形状が、中間層2を編上げる形状の基準となる。また、縫合工程92は、内層1における手の平側と手の甲側の布地を縫合して手袋状にする工程、及び外層3において、前述のゴムシートなどの補強材を縫着する工程である。
【0034】
編上げ工程93は、中間層2を手袋の形状に一体に編んで形成する工程であり、編上げには複合糸21を用いる。これにおいて、中間層2の全体に継ぎ目を作らず、複合糸21のすべての端部が手首を通す開口部の周縁に位置するように、かつ全体が一続きになるように編上げる。これにより、着用時において金属の芯線211が使用者の手に向かって飛び出すことを防ぎ、使用感の低下や負傷を防ぐ。
【0035】
編上げ工程93においては、図3(a)、(b)に示すように、1本の長大な複合糸21によって、中間層2全体を螺旋状に編み上げる方法が好ましい。これにより、複合糸21の先端の数を最小限に抑えることができる。
【0036】
挟み込み工程94は、中間層2を、内層1と外層3の間に挟むように配置して貼り合わせ、若しくは縫合する工程である。このとき、図1(a)、(c)に示すように、2つの中間層2で、内層1の手の平側と手の甲側の両面から挟む。すなわち、中間層2を、内層1と外層3との隙間に2層挟まれる構成とする。これにより、袋状の中間層2を内層1に被せる必要がなくなり製造が容易になるほか、防刃の層を二重にすることができ、防刃性が向上する。
【0037】
挟み込み工程94は、さらに内層1と外層3とを縫合し、中間層2が設けられた空間を閉じる。これにより、中間層2に含まれる芯線211が防刃手袋Xの外部に飛び出ることを可能な限り防ぐ。
【0038】
以下、図面を用いて、本発明の第二の実施形態に係る保護衣料品について説明する。なお、第一の実施形態と同様の構成については、同じ符号を用いて説明を省略する。
【0039】
≪第二の実施形態≫
本実施形態に係る防刃衣Yは、内層1と、中間層2と、外層3と、肩掛け5と、腰帯6と、を備え、各部品を縫着することで形成される。また、本実施形態の説明において、内層1と、中間層2と、外層3と、が縫着されて一体になったものをまとめて本体部Qと称す。
なお、図4(a)は本体部Qにおける各層を重ね合わせる順番を示す図、図4(b)は防刃衣Yの正面図である。
【0040】
図4(a)に示すように、本体部Qは、内層1と外層3との間に、中間層2を挟み込んで構成される部材であり、使用者の着用時においては後身頃となる。各層は縫着により接続され、さらに各層が重なった外縁部を覆う閉じ布4が設けられると好ましい。
【0041】
図4(a)、(b)に示すように、内層1及び外層3は、身頃を構成する略長方形又は略台形の部材であり、それぞれが帯状の肩掛け5まで一体に形成されている構成が好ましい。また、防刃衣Yは、他の衣服と重ねて着用することが想定されるため、内層1及び外層3は通気性や着用感を良くするためにメッシュ生地で構成されるのが好ましい。このほか、使用者の首後に位置する辺については、直線ではなく、各部材の中央に向かって凹むように湾曲する構成が好ましい。
【0042】
図4(a)に波型線で示すように、中間層2は、図2に示す複合糸21によって筒状に編上げられた部材であり、それを平面状につぶして内層1と外層3との間に挟み込まれる。また、中間層2をつぶした形状が略長方形又は台形になるように編上げられていても、肩掛け5の形状まで一体に編上げられていてもよい。
【0043】
筒状に編上げられた中間層2においては、2か所の開口端部が存在する。この2か所のうち、片側の開口端部に複合糸21の先端が全て設けられる構成とすることが好ましい。詳しくは、図3に示す形態に倣い、複合糸21が片側の開口端部(特にその周縁部)から、もう一方の開口端部に向かって螺旋状に編上げられ、そこから最初の開口端部に向かって螺旋状に戻るように編上げられる構成である。このような構成によって、複合糸21の端部を1か所に集中させることができ、芯線211の先端により使用感が低下する箇所を減らすことができる。
【0044】
中間層2における2か所の開口端部は、本体部Qを構成するに際し、図4(a)、(b)に示すように防刃衣Yの上下辺沿い、すなわち首後と裾にそれぞれ配される。このとき、複合糸21の端部が設けられる方の開口端部は、裾側に設けられる構成が好ましい。このような構成によって、使用者の身体に当たりにくい位置に複合糸21の端部を設けることができ、防刃衣Yの使用感を向上できるほか、複合糸21に含まれる芯線211の先端が防刃衣Yの外部に向かって飛び出した場合でも、使用感の低下や負傷のリスクを抑えることができる。
【0045】
肩掛け5は、内層1、中間層2、外層3における、使用者の首後側の辺の両端から平行、若しくは逆八の字に伸びる帯状の部材であり、本体部Qと一体に形成される構成が好ましい。また、中間層2は、肩掛け5の部分まで編上げられ、防刃性能を持たせる構成が好ましい。このほか、使用者の身体側の面においては、面ファスナーを有する構成が好ましい。このような構成によって、使用者の肩に掛けて防刃衣Yを装着できるほか、他の保護衣料品と接続して防刃衣Yを使用することができる。
【0046】
腰帯6は、本体部Qの裾側の辺方向に沿って、互いに遠ざかるように伸びる帯状の部材であり、片面又は両面に面ファスナーを有する。このような構成によって、使用者の腰回りに巻き付けるなどして装着することができるほか、他の保護衣料品と接続して防刃衣Yを使用することができる。
【0047】
以下、図面を用いて、本実施形態の使用方法について詳述する。但し、以下の使用方法は一例であり、他の方法で使用してもよい。また、図5において、波型線で示される部分は、中間層2が入っている領域、かつ使用者から中間層2を視認できる領域である。
【0048】
≪本実施形態の使用方法≫
図5には、防刃衣Yと、金属板を有する防弾衣Zとを組み合わせて、使用者が着用する状態を示している。防弾衣Zは、使用者の身体の前側を覆う保護衣料品であり、肩と腰回りに面ファスナー(図中斜線部)を有する。この面ファスナーと、防刃衣Yの肩掛け5、及び腰帯6に設けられた面ファスナーとで両者が接続され、使用者の上半身を前後から覆う着用状態となる。
【0049】
以下、図面を用いて、本実施形態の製造方法について詳述する。また、以下に示す製造方法は一例であり、実施の方法はこれに限られず、順番は前後してもよい。
【0050】
≪本実施形態の製造方法≫
本実施形態に係る防刃衣Yの製造方法は、内層1と外層3を形成する裁断工程91、中間層2を筒状に一体に編上げる編上げ工程93、中間層2を内層1と外層3の間に挟んで貼り合わせ若しくは縫着する挟み込み工程94、を有する。
【0051】
裁断工程91は、内層1及び外層3を構成する生地(前述の通りメッシュ等)を長方形、台形など、後身頃の形状に裁断する工程であり、ここで決定された形状が、中間層2を編上げる形状の基準となる。
【0052】
編上げ工程93は、中間層2を筒状に一体に編んで形成する工程であり、編上げには複合糸21を用いる。これにおいて、中間層2の全体に継ぎ目を作らず、複合糸21のすべての端部が筒状の片側の開口端部に位置するように編上げる。これにより、着用時において金属の芯線211が使用者の手に向かって飛び出すことを可能な限り防ぎ、使用感の低下や負傷を防ぐ。
【0053】
編上げ工程93においては、図3に示すように、1本の長大な複合糸21によって、中間層2全体を螺旋状に編み上げる方法が好ましい。これにより、複合糸21の先端の数を最小限に抑えることができる。
【0054】
挟み込み工程94は、中間層2を、内層1と外層3の間に挟むように配置して貼り合わせ、若しくは縫合する工程であり、さらにここで内層1と外層3とを縫合し、中間層2が設けられた空間を閉じる。これにより形成された本体部Qの外周を、閉じ布4で覆って各層が重なった縁の部分を閉じることで、防刃衣Yの意匠性が高まるほか、芯線211の先端が外に飛び出すことも防ぐことができる。
【0055】
≪その他の実施例≫
前述の実施形態のように、内層1と外層3との間に、複合糸21で編上げられた中間層2を挟む構成の保護衣料品は、帽子、フェイスガード、アームカバー、レッグカバー(膝当て等も含む)など、人体の各部位に合わせた形態に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
X 防刃手袋
Y 防刃衣
Z 防弾衣
1 内層
2 中間層
21 複合糸
211 芯線
212 伸縮繊維
3 外層
4 閉じ布
5 肩掛け
6 腰帯
Q 本体部


【要約】
【課題】より容易に防刃布材を製造でき、かつ金属繊維による使用感の低下を抑えた保護衣料品を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決する本願発明は、外層3と内層1とで、中間層2を挟んで構成される保護衣料品であって、中間層2は、金属の芯線211及び伸縮繊維212を含む複合糸21によって、所定の形状に一体に編んで形成され、外層3と内層1との隙間において、少なくとも2層挟んで設けられる、保護衣料品及びその製造方法である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5