(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】正極活物質、これを含む正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241029BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241029BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2023529104
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 KR2021017916
(87)【国際公開番号】W WO2022114929
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0164820
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】デ・ジン・イ
(72)【発明者】
【氏名】サン・ミン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ミン・クァク
(72)【発明者】
【氏名】ワン・モ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ギ・ボム・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ソル・ロ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ヨプ・ド
(72)【発明者】
【氏名】カン・ジュン・パク
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111295787(CN,A)
【文献】国際公開第2020/003642(WO,A1)
【文献】特表2020-514972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記大粒径リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D
50)が小さい小粒径リチウム遷移金属酸化物を含み、
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物及び前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立に下記化学式1で表される組成を持ち、結晶粒の大きさが100nmないし150nmで、
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差は40nm未満であり、
ニッケルの無秩序度が1.5%以下であり、
[化学式1]
Li
x1[Ni
a1Co
b1Mn
c11Al
c12Zr
d1M
2
e1]O
2
前記化学式1において、
前記M
2はB、Mg、Ca、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Nb、Mo、Ta 及びWの中で選択される1種以上であり、
1.03≦x1≦1.07、0.7≦a1<1、0<b1<0.3、0<c11<0.3、0.001<c12<0.05、0.001≦d1≦0.0065、0≦e1≦0.1、a1+b1+c11+c12+d1+e1=1である、正極活物質。
【請求項2】
前記a1は0.8≦a1<1である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記d1は0.002≦d1≦0.0045である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物及び前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立に結晶粒の大きさが100nmないし140nmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は140MPaないし180MPaである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は110MPaないし150MPaである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D
50)は8μmないし15μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D
50)は3μmないし7μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の重量比は5:5ないし9:1である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項11】
請求項10に記載の正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は2020年11月30日付にて出願された韓国特許出願第10‐2020‐0164820号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、正極活物質、これを含む正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術開発と需要が増加するにつれ、エネルギー源として二次電池の需要が急増している。このような二次電池の中で高いエネルギー密度と電圧を持ち、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が常用化されて広く利用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が利用されていて、この中でも作用電圧が高くて容量特性に優れるLiCoO2のリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使われている。しかし、LiCoO2は脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため熱的特性が非常に悪く、なお高価であるため電気自動車などのような分野の動力源として大量に利用するには限界がある。
【0005】
LiCoO2を代替するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リン酸鉄リチウム化合物(LiFePO4など)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2など)などが開発された。この中でも約200mAh/gの高い可逆容量を持って大容量電池の具現が容易であるリチウムニッケル複合金属酸化物に対する研究及び開発がより活発に行われている。しかし、LiNiO2はLiCoO2と比べて熱安定性が悪く、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると正極活物質自体が分解されて電池の破裂及び発火をもたらす問題がある。
【0006】
このため、LiNiO2の優れる可逆容量は維持しながらも低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をMnとCoに置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合遷移金属酸化物、Niの一部をMnとAlに置換したニッケルコバルトアルミニウム系リチウム複合遷移金属酸化物などが開発された。
【0007】
一方、ニッケルの含量が高いリチウム複合遷移金属酸化物の場合は、正極活物質の結晶構造内のニッケルの無秩序度(ディスオーダー,disorder)の増加する問題がある。このため、正極活物質の結晶構造の変異が増加し、粒子の強度が低くなって粒子に亀裂が生じやすく、副反応によって粒子の表面に岩塩構造のNiOが形成される問題がある。
【0008】
したがって、ニッケルの含量が高いリチウム複合遷移金属酸化物を含んでいるにもかかわらず、結晶構造内のニッケルの無秩序度が低く、粒子強度が高く、優れる容量特性及び容量維持率を持つ電池を具現することができる正極活物質の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記のような問題点を解決するためのものであって、ニッケルの含量が高いリチウム複合遷移金属酸化物を含むにもかかわらず、結晶構造内のニッケルの無秩序度が低く、粒子強度が高く、容量特性及び容量維持率に優れる電池を具現することができる正極活物質及びこの製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記大粒径リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい小粒径リチウム遷移金属酸化物を含み、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物及び前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立に下記化学式1で表される組成を持ち、結晶粒の大きさが100nmないし150nmで、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差は40nm未満の正極活物質を提供する。
[化学式1]
Lix1[Nia1Cob1Mnc11Alc12Zrd1M1
e1]O2
前記化学式1において、
前記M1はB、Mg、Ca、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Nb、Mo、Ta及びWの中で選択される1種以上であり、
1.0<x1≦1.10、0.7≦a1<1、0<b1<0.3、0<c11<0.3、0.001<c12<0.05、0.001≦d1≦0.0065、0≦e1≦0.1、a1+b1+c11+c12+d1+e1=1である。
【0011】
そして、本発明は前記正極活物質を含む正極と前記正極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明はニッケルの含量が高い正極活物質であるにもかかわらず、結晶構造内のニッケルの無秩序度が低く、粒子強度が高い。そして、前記正極活物質を電池に適用する時の電池の容量特性及び高温での容量維持率が優秀である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に合致する意味と概念として解釈しなければならない。
【0014】
本明細書において「含む」、「備える」または「持つ」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0015】
本明細書において、「粒子」はマイクロメートル単位の粒子を指し、これを拡大して観測すれば、数十ナノメートル単位の結晶形態を持つ「グレイン」に分けることができる。これをもっと拡大して観測すれば、原子が一定方向の格子構造を成す形態の分けられた領域を確認することができ、これを「結晶粒」という。エックス線回折(XRD)で観測する粒子の大きさは結晶粒の大きさに定義される。結晶粒の大きさはXRDデータを利用してリートベルト法を通じて求めることができる。具体的に、結晶粒の大きさは一般粉末用ホルダーの中でくぼんだ溝に試料を入れて、スライドガラスを利用して試料の表面をきれいにすると同時に、高さをホルダーの端と同一にした後、X線回折分析機(Bruker社、D8 Endeavor)を利用して測定(2θ=15゜~90゜、Step size=0.02゜、total scan time:20min)したXRDデータをリートベルト法に基づくBruker社のTOPASプログラムに内蔵されているFundamental Parameter Approachを通じて分析して収得することができる。
【0016】
本明細書において、粒子強度はプレート上に粒子をおいた後、Micro Compression Testing Machine(Shimadzu社、MCT‐W500)を利用して圧縮する力を増加させて粒子が破壊される時の力を測定し、これを粒子強度値とした。
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
正極活物質
本発明者らはニッケルの含量が高い正極活物質にもかかわらず、大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記大粒径リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい小粒径リチウム遷移金属酸化物を含み、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物及び前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立に下記化学式1で表される組成を持ち、結晶粒の大きさが100nmないし150nmで、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差は40nm未満の場合、正極活物質結晶構造内のニッケルの無秩序度が低くて正極活物質の粒子の強度が高いことと、電池に適用する時に電池の容量特性及び容量維持率を改善することができることを見つけ出して本発明を完成した。
【0019】
本発明による正極活物質は、大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記大粒径リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい小粒径リチウム遷移金属酸化物を含み、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物及び前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立に下記化学式1で表される組成を持ち、結晶粒の大きさが100nmないし150nmで、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差は40nm未満のものである。
[化学式1]
Lix1[Nia1Cob1Mnc11Alc12Zrd1M1
e1]O2
前記化学式1において、
前記M1はB、Mg、Ca、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Nb、Mo、Ta及びWの中で選択される1種以上であり、
1.0<x1≦1.10、0.7≦a1<1、0<b1<0.3、0<c11<0.3、0.001<c12<0.05、0.001≦d1≦0.0065、0≦e1≦0.1、a1+b1+c11+c12+d1+e1=1である。
【0020】
前記x1は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれるリチウムを除いた金属(Ni、Co、Zr、M1)の総モル数が1である時のリチウムのモル数を意味し、1.0<x1≦1.10、または1.03≦x1≦1.07である。x1値が前記範囲内の場合はLiとNiは結晶構造のLi位置を占める反応において競争関係であり、リチウムの含量比を高めることで結晶構造内のニッケルの無秩序度を下げることができる。これによって、容量特性及び容量維持率がいずれも優れる電池を具現することができる。一方、x1値が1.0以下の場合はリチウムの含量比が低くなるにつれ、結晶構造内のニッケルの無秩序度が高くなる問題があり、x1値が1.10超の場合は反応に参加できないリチウムの量が増加することによってリチウムの副産物が増加し、初期放電容量が低くなって初期効率が減少する問題がある。一方、リチウム副産物が増加する場合は正極活物質の製造工程上制御が難しい問題がある。
【0021】
前記a1は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物内のリチウムを除いた金属元素の中でニッケルの原子分率を意味し、0.7≦a1<1、0.8≦a1<1、または0.85≦a1≦0.95である。a1値が0.7以上、具体的に0.8以上の場合、すなわち、ニッケルの含量が高い正極活物質の場合、酸化還元反応に参加することができるニッケルの含量が多くなるにつれ、容量が増加する長所がある。
【0022】
前記b1は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物内のリチウムを除いた金属元素の中でコバルトの原子分率を意味し、0<b1<0.3、0<b1<0.2または0<b1<0.15である。
【0023】
前記c11は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物内のリチウムを除いた金属元素の中でマンガン元素の原子分率を意味し、0<c11<0.3、0<c11<0.2または0<c11<0.15である。
【0024】
前記c12は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物内のリチウムを除いた金属元素の中でアルミニウム元素の原子分率を意味し、0.001<c12<0.05、0.005<c12<0.04または0.01<c12<0.03である。c12値が前記範囲内である場合は、熱安定性が改善されて高温寿命特性が改善される長所がある。特に、ジルコニウム原子とともにアルミニウムが前記含量でドーピングされる場合、高温寿命特性がさらに改善される長所がある。
【0025】
前記d1は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物内のリチウムを除いた金属元素の中でジルコニウム元素の原子分率を意味し、0.001≦d1≦0.0065または0.002≦d1≦0.0045である。d1値が前記範囲内である場合はメタルサイトにジルコニウムが置換されて酸素との結合力を高めることで結晶構造の安定性を高め、粒子の強度を強化させて高温寿命を高める長所がある。一方、d1値が0.001未満の場合、すなわち、リチウム遷移金属酸化物内のジルコニウムの含量が940ppm未満の場合は、含量が少なくて構造安定性及び粒子強度の強化効果を奏することができない。そして、d1値が0.0065超の場合、すなわち、リチウム遷移金属酸化物内のジルコニウムの含量が6,000ppm超の場合はメタルサイトで非活性化領域が多くなって容量が低くなる問題がある。
【0026】
前記e1は大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物内のリチウムを除いた金属元素の中でM1元素の原子分率を意味し、0≦e1≦0.1または0≦e1≦0.05である。
【0027】
前記大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさは100nmないし150nm、具体的には100nmないし140nm、より具体的には110nmないし130nmである。前記大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさが前記範囲内である場合、充放電時に結晶構造の収縮膨脹が少なくて構造的安定性を高める長所がある。一方、前記結晶粒の大きさが100nm未満の場合、結晶構造が充分発達することができず、ニッケルの無秩序度が大きくて粒子強度が低くなる問題があり、150nm超の場合、充放電時に活物質粒子(特に、1次粒子)の収縮膨脹が大きくなって粒子の割れが増加し、構造的安定性を悪化させる問題がある。
【0028】
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差は40nm未満、具体的には30nm未満である。すなわち、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差が小さい。より具体的には前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさが同一である。この場合、圧延時に小粒径リチウム遷移金属酸化物または大粒径リチウム遷移金属酸化物粒子が過剰に割れる現象を防ぐことができるので、正極活物質を電池に適用する時、電池の寿命特性が優秀である。
【0029】
一方、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差が40nm以上で、小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさが大粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさより小さければ、圧延時に小粒径リチウム遷移金属酸化物粒子が過剰に割れて大きさの小さい微分発生量の増加する問題があり、大粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさが小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさより小さければ、圧延時に大粒径リチウム遷移金属酸化物粒子が過剰に割れて導電性が低下する問題がある。
【0030】
特に、本発明による正極活物質はニッケルの含量が高い正極活物質にもかかわらず、正極活物質がZrを特定含量で含み、正極活物質に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比が1.0超1.10以下で、正極活物質の結晶粒の大きさが100nmないし150nmを満たして正極活物質の結晶構造内のニッケルの無秩序度が低く、正極活物質の粒子強度が高いだけでなく、高温充放電時に示される活物質1次粒子の収縮膨脹の大きさを減らして、前記正極活物質を電池に適用する時、電池の容量維持率を改善することができる。
【0031】
本発明によると、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D50)は8μmないし15μm、具体的に8μmないし13μmである。そして、前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D50)は3μmないし7μm、具体的に、4μmないし6μmである。前記リチウム遷移金属酸化物は、平均粒径(D50)が8μmないし15μmである大粒径リチウム遷移金属酸化物と平均粒径(D50)が3μmないし7μmである小粒径リチウム遷移金属酸化物からなるものである。前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物の重量比は5:5ないし9:1、具体的には6:2ないし9:1、より具体的には7:3ないし9:1である。この場合、圧延密度が高くなるにつれ、高ローディング(20mg/cm2以上)電極の製作が容易で、ロール圧延時に粒子の割れを緩和することができる。
【0032】
一方、前記リチウム遷移金属酸化物の表面上にB、Zr、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Sr、Ba、Ce、F、P、S及びYなどを含むコーティング層を形成することができる。具体的には、前記リチウム遷移金属酸化物の表面上にホウ素を含むホウ素コーティング層を形成することができる。
【0033】
本発明によると、前記正極活物質はニッケルの無秩序度(Niディスオーダー)が1.5%以下、具体的には1.4%以下、好ましくは0ないし1.3%である。この場合、本発明による正極活物質はニッケルの含量が高いにもかかわらず、優れる容量特性及び容量維持率を持つ電池を具現することができる。一方、本明細書において、ニッケルの無秩序度の値は、X線回折分析機(Bruker社、D8 Endeavor)を利用してXRDデータを得た後、リートベルト法で原子構造解析を行ってリチウムサイトを占めるNi2+イオンの相対量及び酸素サイトの酸素による相対占有率をそれぞれ分析することによって得られる、リチウムサイトにディスオーダーされたNi2+イオンの量(%)を意味する。
【0034】
本発明によると、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物は粒子強度が140MPaないし180MPa、具体的には145MPaないし180MPa、より具体的には145MPaないし165MPaである。そして、前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は粒子強度が110MPaないし150MPa、具体的には115MPaないし145MPa、より具体的には120MPaないし145MPaである。この場合、充放電時に1次粒子の割れが減少して構造的安定性が改善され、特に、高温での容量維持率が改善された電池を具現することができる。
【0035】
本発明による正極活物質は次のような方法で製造することができる。具体的に、本発明による正極活物質は大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記大粒径リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい小粒径リチウム遷移金属酸化物をそれぞれ製造した後、混合して製造することができる。
【0036】
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ(A)遷移金属の総モル数に対して70モル%以上のニッケルを含む大粒径または小粒径遷移金属前駆体、アルミニウム含有原料物質、ジルコニウム含有原料物質及びリチウム含有原料物質を混合して混合物を製造する段階;及び(B)前記混合物を720℃ないし780℃の温度で焼成して大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物を製造する段階;を含む方法で製造することができる。この時、前記リチウム含有原料物質は、製造される大粒径または小粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1.0超1.10以下となるようにする含量で混合されるものであり、前記ジルコニウム含有原料物質は前記遷移金属前駆体に対して940ppmないし6,000ppmの含量で混合されるもので、前記アルミニウム含有原料物質は前記遷移金属前駆体に対して300ppmないし13,700ppmの含量で混合されるものである。
【0037】
前記大粒径または小粒径遷移金属前駆体はそれぞれ独立に下記化学式2または化学式3で表される組成を持つものである。
[化学式2]
[Nia2Cob2Mnc21Alc22M1
d2](OH)2
[化学式3]
[Nia2Cob2Mnc21Alc22M1
d2]OOH
前記化学式2及び化学式3において、
前記M1は、B、Mg、Ca、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Y、Nb、Mo、Ta及びWの中で選択される1種以上であり、
0.7≦a2<1、0<b2<0.3、0<c21<0.3、0.001<c22<0.05、0≦d2≦0.1、a2+b2+c21+c22+d2=1である。
【0038】
前記a2は大粒径または小粒径遷移金属前駆体内の金属元素の中でニッケルの原子分率を意味し、0.7≦a2<1、0.8≦a2<1、または0.85≦a2≦0.95である。
【0039】
前記b2は大粒径または小粒径遷移金属前駆体内の金属元素の中でコバルトの原子分率を意味し、0<b2<0.3、0<b2<0.2または0<b2<0.15である。
【0040】
前記c21は大粒径または小粒径遷移金属前駆体内の金属元素の中でマンガン元素の原子分率を意味し、0<c21<0.3、0<c21<0.2または0<c21<0.15である。
【0041】
前記c22は大粒径または小粒径遷移金属前駆体内の金属元素の中でアルミニウム元素の原子分率を意味し、0.001<c22<0.05、0.005<c22<0.04または0.01<c22<0.03である。
【0042】
前記d2は大粒径または小粒径遷移金属前駆体内の金属元素の中でM1元素の原子分率を意味し、0≦d2≦0.1または0≦d2≦0.05である。
【0043】
前記リチウム含有原料物質は、水酸化リチウム水和物、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの中で選択された1種以上を含むものである。前記リチウム含有原料物質は、具体的に、水酸化リチウム水和物、より具体的に、LiOH・H2Oである。この場合、前駆体内の金属元素の中でニッケルの原子分率が高い前駆体とリチウム含有原料物質の反応性を改善することができる。
【0044】
前記リチウム含有原料物質は、製造されるリチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1.0超1.10以下となるようにする含量で、具体的には1.03ないし1.07になるようにする含量で混合され得る。リチウム含有原料物質が製造されるリチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1.0以下になるようにする含量で混合される場合は、リチウムの含量比が低くなるにつれ、結晶構造内のニッケルの無秩序度が高くなる問題があり、1.10超になるようにする含量で混合する場合は、反応に参加できないリチウムの量が増加するにつれ、リチウム副産物が増加し、製造される正極活物質の初期放電容量が低くなって初期効率が減少する問題がある。
【0045】
前記ジルコニウム含有原料物質は、ジルコニウムを含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などである。例えば、ジルコニウム含有原料物質がジルコニウムを含む酸化物の場合、ZrO2である。
【0046】
前記ジルコニウム含有原料物質は、前記遷移金属前駆体に対して940ppmないし6,000ppmの含量で、具体的には1,000ppmないし6,000ppmの含量で、より具体的には2,000ppmないし4,000ppmの含量で混合されるものである。前記ジルコニウム含有原料物質が前記遷移金属前駆体に対して940ppm未満の含量で混合される場合は、ジルコニウムの含量が少なくて構造安定性及び粒子強度の強化効果を奏することができない問題があり、6,000ppm超の含量で混合される場合は、メタルサイトで非活性化領域が多くなって容量が低くなる問題がある。
【0047】
前記アルミニウム含有原料物質は、アルミニウムを含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などである。例えば、アルミニウム含有原料物質がアルミニウムを含む酸化物の場合、Al2O3である。
【0048】
前記アルミニウム含有原料物質は、前記遷移金属前駆体に対して300ppmないし13,700ppmの含量で、具体的には1,400ppmないし11,000ppmの含量で、より具体的には2,800ppmないし8,300ppmの含量で混合されるものである。前記アルミニウム含有原料物質が前記遷移金属前駆体に対して300ppm未満の含量で混合される場合は、アルミニウムの含量が少なくて熱安定性及び構造安定性強化効果を奏することができない問題があり、13,700ppm超の含量で混合される場合は、メタルサイトで非活性化領域が多くなって容量が低くなる問題がある。
【0049】
前記(B)段階は必要に応じて前記混合物を720℃ないし780℃の温度に焼成して製造された焼成品を水洗溶液に水洗した後、乾燥する工程をさらに含むことができ、乾燥された焼成品にコーティング元素含有原料物質を混合し、熱処理してコーティング層を形成する工程をさらに含むことができる。
【0050】
前記焼成は720℃ないし780℃で遂行するものである。前記焼成温度は、具体的には730℃ないし770℃、より具体的には740℃ないし760℃である。焼成温度が前記範囲内である場合、結晶を適切な大きさで形成することができ、工程費用がさほどかからないこともある。特に、結晶粒の大きさが100nmないし150nmであるリチウム遷移金属酸化物を製造することができる。
【0051】
一方、大粒径リチウム遷移金属酸化物を製造する時の焼成温度は、小粒径リチウム遷移金属酸化物を製造する時の焼成温度より高いことがあり、これによって結晶粒の大きさの差が40nm未満、具体的には30nm未満、より具体的には0nmの正極活物質を製造することができる。具体的には、大粒径リチウム遷移金属酸化物を製造する時の焼成温度が小粒径リチウム遷移金属酸化物を製造する時の焼成温度より10℃ないし50℃ぐらい高いことがある。
【0052】
前記焼成は酸素雰囲気で遂行するものである。この場合、構造的に安定した相を持つ焼成品を形成することができる。
【0053】
前記水洗は、脱イオン水、蒸溜水などの水洗溶液で不純物の残留リチウムなどを取り除く工程であり、前記乾燥は水洗を経て水分を含む正極活物質から水分を取り除く工程であり、当業界で公知の方法で遂行可能である。
【0054】
そして、前記コーティング層を形成する工程は、リチウム遷移金属酸化物表面上にコーティング層を形成させるための工程であり、これも当業界で公知の方法で遂行可能である。
【0055】
正極
また、本発明は上述した方法によって製造された正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供することができる。
【0056】
具体的に、前記正極は、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、前記正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0057】
前記正極集電体は電池に化学的変化を引き起こさずに導電性を持つものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどを使うことができる。また、前記正極集電体は、通常3μmないし500μmの厚さを持つことができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使うことができる。
【0058】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材及びバインダーを含むことができる。
【0059】
前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80重量%ないし99重量%、より具体的には85重量%ないし98重量%の含量で含まれ得る。前記含量範囲で含まれる時、優れる容量特性を示すことができる。
【0060】
前記導電材は、電極に導電性を与えるために使われるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさずに電子伝導性を持つものであれば特に制限せずに使用可能である。具体的な例では、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などを挙げることができ、これらの中で1種単独または2種以上の混合物が使われ得る。前記導電材は正極活物質層の総重量に対して1重量%ないし30重量%で含まれ得る。
【0061】
前記バインダーは、正極活物質粒子の間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役目をする。具体的な例では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化‐EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などを挙げることができ、これらの中で1種単独または2種以上の混合物を使うことができる。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して1重量%ないし30重量%で含まれ得る。
【0062】
前記正極は、前記正極活物質を利用することを除いては、通常の正極製造方法によって製造可能である。具体的には、前記正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造することができる。この時、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類及び含量は前述したとおりである。
【0063】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般的に使われる溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などを挙げることができ、これらの中で1種単独または2種以上の混合物を使うことができる。前記溶媒の使容量はスラリーの塗布の厚さ、製造収率を考慮して前記正極活物質、導電材及びバインダーを溶解または分散させ、以後正極製造のための塗布時、優れる厚さ均一度を示すことができる粘度を持つようにする程度であれば十分である。
【0064】
また、他の方法として、前記正極は前記正極活物質層形成用組成物を別途支持体上にキャスチングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることで製造されてもよい。
【0065】
リチウム二次電池
また、本発明は前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は具体的に電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的にはリチウム二次電池である。
【0066】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、及び前記正極と負極の間に介在される分離膜及び電解質を含み、前記正極は前述したとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、他の構成に対してのみ具体的に説明する。
【0067】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、分離膜の電極組立体を収納する電池容器、及び前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0068】
前記リチウム二次電池において、前記負極は負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含む。
【0069】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などを使うことができる。また、前記負極集電体は通常3μmないし500μmの厚さを持つことができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使うことができる。
【0070】
前記負極活物質層負極活物質とともに選択的にバインダー及び導電材を含む。
【0071】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物が使われ得る。具体的な例では、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などリチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などを挙げることができ、これらの中でいずれか一つまたは2つ以上の混合物を使うことができる。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜を使うこともできる。また、炭素材料は低結晶炭素及び高結晶性炭素などが全て使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的で、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球形または繊維型の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso‐carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0072】
前記負極活物質は、負極活物質層の総重量に対して80重量%ないし99重量%で含まれ得る。
【0073】
前記バインダーは、導電材、活物質及び集電体の間の結合に助力する成分であって、通常負極活物質層の総重量に対して0.1重量%ないし10重量%で添加され得る。このようなバインダーの例では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化‐EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、ニトリル‐ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などを挙げることができる。
【0074】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の総重量に対して10重量%以下、具体的には5重量%以下で添加され得る。このような導電材は、当該電池に化学的変化を引き起こさずに導電性を持つものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの伝導性素材などを使うことができる。
【0075】
例えば、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布して乾燥することで製造されたり、または前記負極合材を別途支持体上にキャスチングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることで製造可能である。
【0076】
前記負極活物質層は、一例として負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布して乾燥したり、または前記負極合材を別途支持体上にキャスチングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることで製造されてもよい。
【0077】
一方、前記リチウム二次電池において、分離膜は負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するもので、通常、リチウム二次電池で分離膜として使われるものであれば特に制限せずに使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体を使うことができる。また、通常的な多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を使うこともできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のためにセラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされた分離膜を使うこともでき、選択的に単層または多層構造で使うことができる。
【0078】
また、本発明で使われる電解質としては、リチウム二次電池の製造の時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル形高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などを挙げることができ、これらに限定されるものではない。
【0079】
具体的には、前記電解質は有機溶媒及びリチウム塩を含むことができる。
【0080】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動できる媒質の役目ができるものであれば特に制限せずに使うことができる。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは炭素数2ないし20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などを使うことができる。この中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を持つ環形カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線形カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環形カーボネートと鎖型カーボネートは、約1:1ないし約1:9の体積比で混合して使用することが電解液の性能が優秀に表れる。
【0081】
前記リチウム塩はリチウム二次電池で使われるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限せずに使われ得る。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAl04、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2.LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などを使うことができる。前記リチウム塩の濃度は0.1Mないし2.0M範囲内で使用した方がよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度及び粘度を持つので、優れる電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0082】
前記電解質には前記電解質の構成成分の他にも電池の寿命特性向上、電池容量減少抑制、電池の放電容量向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。この時、前記添加剤は電解質の総重量に対して0.1重量%ないし5重量%で含まれ得る。
【0083】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れる放電容量、出力特性及び寿命特性を安定的に示すので、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0084】
これによって、本発明は前記リチウム二次電池を単位セルで含む電池モジュール及びこれを含む電池パックを提供することができる。
【0085】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグ‐インハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムの中でいずれか一つ以上の中大型デバイス電源として利用可能である。
【0086】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限しないが、カンを使った円筒状、角形、ポーチ(pouch)型またはコイン(coin)型などであってもよい。
【0087】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使われる電池セルに使用できるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用できる。
【0088】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施例について詳しく説明する。しかし、本発明は幾つか異なる形態で具現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0089】
製造例
製造例1
ニッケルスルフェート、コバルトスルフェート及びマンガンスルフェートを脱イオン水の中で87:6:7のモル比で混合し、2M濃度の金属塩水溶液を準備した。また、4M NaOH水溶液と7%濃度のNH4OH水溶液を準備した。
【0090】
60℃に設定された回分式バッチ(batch)型反応器(容量:5L)に前記金属塩水溶液、NaOH水溶液及びNH4OH水溶液がそれぞれ入っている容器を繋いだ。前記反応器に脱イオン水3Lを入れた後、窒素気体を2L/分の速度でパージングして脱イオン水内の溶存酸素を取り除いて反応器内を非酸化雰囲気で造成した。以後、前記NaOH水溶液を投入し、60℃温度でpH 12.0になるように維持させた。以後、前記金属塩水溶液を180ml/hr、NaOH水溶液を180ml/hr、NH4OH水溶液を10ml/hrの速度でそれぞれ投入しながら10時間共沈反応させて、平均粒径10μmで、Ni0.87Co0.06Mn0.07(OH)2で表される組成を持つ大粒径遷移金属前駆体を製造した。
【0091】
製造例2
共沈反応時間を3時間に減らしたこと以外には製造例1と同様の方法で平均粒径5μmで、Ni0.87Co0.06Mn0.07(OH)2で表される組成を持つ小粒径遷移金属前駆体を製造した。
【0092】
実施例及び比較例
実施例1
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
製造例1で製造した大粒径遷移金属前駆体、リチウム含有原料物質としてLiOH・H2O及びドーピング元素含有原料物質としてZrO2、Al2O3を均一に混合して混合物を製造した。前記LiOH・H2Oは製造される大粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.05になるようにする含量で、前記ZrO2は前記大粒径遷移金属前駆体に対して3,000ppmの含量で、前記Al2O3は前記大粒径遷移金属前駆体に対して4,700ppmの含量で投入された。
【0093】
酸素雰囲気下で前記混合物を760℃で16時間焼成して焼成品を製造した。前記焼成品を脱イオン水で水洗した後、真空パンプを利用して水分を取り除いて乾燥した。乾燥された焼成品にホウ酸(H3BO3)を0.1重量%混合し、大気雰囲気下で400℃で5時間熱処理し、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0094】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
製造例1で製造した大粒径遷移金属前駆体の代わりに製造例2で製造した小粒径遷移金属前駆体を使用し、焼成温度を740℃に調節したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0095】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0096】
実施例2
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される大粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.07になるようにする含量で投入したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.07(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:130nm)を製造した。
【0097】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される小粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.07になるようにする含量で投入したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.07(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:130nm)を製造した。
【0098】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0099】
実施例3
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される大粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.03になるようにする含量で投入したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.03(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:110nm)を製造した。
【0100】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される小粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.03になるようにする含量で投入したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.03(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:110nm)を製造した。
【0101】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0102】
比較例1
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
ZrO2を前記大粒径遷移金属前駆体に対して500ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.9825Zr0.00053Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0103】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
ZrO2を前記小粒径遷移金属前駆体に対して500ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.9825Zr0.00053Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0104】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0105】
比較例2
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
ZrO2を前記大粒径遷移金属前駆体に対して7,500ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.975Zr0.0081Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0106】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
ZrO2を前記小粒径遷移金属前駆体に対して7,500ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.975Zr0.0081Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0107】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0108】
比較例3
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される大粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.0になるようにする含量で投入したことと、焼成温度を770℃に調節したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.0(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0109】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される小粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.0になるようにする含量で投入したことと、焼成温度を750℃に調節したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.0(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0110】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0111】
比較例4
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される大粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.11になるようにする含量で投入したことと、焼成温度を740℃に調節したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.11(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0112】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
LiOH・H2Oを製造される小粒径リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の総モル数に対するリチウムのモル比(Li/遷移金属)が1:1.11になるようにする含量で投入したことと、焼成温度を720℃に調節したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.11(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0113】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0114】
比較例5
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
焼成温度を730℃に調節したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:90nm)を製造した。
【0115】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
焼成温度を710℃に調節したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:90nm)を製造した。
【0116】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0117】
比較例6
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
焼成温度を790℃に調節したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:160nm)を製造した。
【0118】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
焼成温度を760℃に調節したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:160nm)を製造した。
【0119】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0120】
比較例7
実施例2の(1)で製造した大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.07(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:130nm)と比較例5の(2)で製造した小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.003Al0.017O2、結晶粒の大きさ:90nm)を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0121】
比較例8
比較例5の(1)で製造した大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.003Al0.017O2、結晶粒の大きさ:90nm)と実施例2の(2)で製造した小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.07(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:130nm)を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0122】
比較例9
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
Al2O3を前記大粒径遷移金属前駆体に対して280ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.9958Zr0.0032Al0.001O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0123】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
Al2O3を前記小粒径遷移金属前駆体に対して280ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.9958Zr0.0032Al0.001O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0124】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0125】
比較例10
(1)大粒径リチウム遷移金属酸化物製造
Al2O3を前記大粒径遷移金属前駆体に対して13700ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(1)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された大粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:10.0μm、組成:Li1.05(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.9469Zr0.0032Al0.05O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0126】
(2)小粒径リチウム遷移金属酸化物製造
Al2O3を前記小粒径遷移金属前駆体に対して13700ppmの含量で投入したことを除いて前記実施例1の(2)と同様の方法で、表面上にホウ素コーティング層が形成された小粒径リチウム遷移金属酸化物(平均粒径:5.0μm、組成:Li1.0(Ni0.87Co0.06Mn0.07)0.98Zr0.0032Al0.017O2、結晶粒の大きさ:120nm)を製造した。
【0127】
(3)正極活物質製造
前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と前記小粒径リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して、正極活物質を製造した。
【0128】
実験例
実験例1:ニッケルの無秩序度(Niディスオーダー)評価
前記実施例1ないし3及び比較例1ないし10で製造された正極活物質のそれぞれをX線回折分析機(Bruker社、D8 Endeavor)を利用してXRDデータを得た後、リートベルト法で原子構造解析を遂行し、リチウムサイトを占めるNi2+イオンの相対量及び酸素サイトの酸素による相対的占有度をそれぞれ分析することによって得られた、リチウムサイトにディスオーダーされたNi2+イオン量(%)をニッケル無秩序度の値とし、これを下記表1に示す。
【0129】
実験例2:粒子強度評価
前記実施例1ないし3及び比較例1ないし10で製造した大粒径リチウム遷移金属酸化物及び小粒径リチウム遷移金属酸化物それぞれの粒子をMicro Compression Testing Machine(Shimadzu社、MCT‐W500)を利用して圧縮力を増加させて粒子が破壊される時の力を測定し、これを粒子強度値にして下記表1に示す。
【0130】
【0131】
実験例3:半電池特性評価
前記実施例1ないし3及び比較例1ないし10で製造された正極活物質を利用してコイン型半電池を製造し、電池のそれぞれに対して初期充電容量、初期放電容量及び容量維持率を評価した。
【0132】
具体的には、前記実施例1ないし3及び比較例1ないし10で製造された正極活物質のそれぞれと、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーを97.5:1.0:1.5の重量比でNMP溶媒の中で混合して正極スラリーを製造した。前記正極スラリーをアルミニウム集電体の一面に塗布し、130℃で乾燥した後、圧延して正極を製造した。一方、負極活物質としてLi金属ディスクを使用した。前記で製造した正極とLi金属ディスク負極の間に分離膜を介在して電極組立体を製造した後、これを電池ケース内部に位置させた後で、前記ケース内部に電解液を注入してコイン型半電池を製造した。この時、電解液としては、EC/EMC/DEC(3/3/4、vol%)有機溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液を使用した。
【0133】
前記のように製造された電池を25℃で0.1C定電流で電圧が4.25Vになるまで充電し、この後、定電圧(CV)で充電して充電電流が0.05mAhになるまで充電した。その後、電圧が3.0Vに至るまで0.1C定電流で放電した。初期充電容量及び初期放電容量値を表2に示す。
【0134】
また、45℃、3.0~4.25V範囲で1C定電流で充放電サイクルを50回反復実施してリチウム二次電池の放電容量を測定し、特に、1回目のサイクル放電容量に対する50回目のサイクル放電容量の割合を容量維持率にして、これを下記表2に示す。
【0135】
【0136】
前記表1及び表2を参照すれば、本発明による正極活物質は結晶構造内のニッケルの無秩序度が低く、粒子強度が高いだけでなく、前記正極活物質を電池に適用する時、電池の容量特性及び高温での容量維持率に優れることを確認することができる。
【0137】
これに対し、Zrの原子分率が小さい比較例1の正極活物質は、ドーピング含量が低くて粒子強度が低く、Zr原子分率が大きい比較例2の正極活物質はメタルサイトの非活性化領域が増加して初期充放電容量が低い問題があることを確認することができる。そして、Li/Meの割合が1.0である比較例3の正極活物質の場合、Ni無秩序度が大きい問題があり、Li/Meの割合が1.11である比較例4の正極活物質の場合、リチウム副産物が増加して工程制御が難しく、初期放電容量が低い問題があることを確認することができる。また、結晶粒の大きさが90nmである比較例5の正極活物質の場合、結晶の成長が十分ではなく、Ni無秩序度が大きく、粒子強度が低くて、結晶粒の大きさが160nmである比較例6の正極活物質の場合、充放電時に1次粒子の収縮膨脹が過剰に起きて粒子の割れが増加する問題があることを確認することができる。そして、大粒径リチウム遷移金属酸化物と小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差が40nm以上であって、小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさが大粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさより小さい比較例7の正極活物質の場合、大きさが小さい微分発生量が増加して容量維持率が低いことを確認することができる。また、大粒径リチウム遷移金属酸化物と小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさの差が40nm以上で、大粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさが小粒径リチウム遷移金属酸化物の結晶粒の大きさより小さい比較例8の正極活物質の場合、大粒径リチウム遷移金属酸化物粒子が過度に割れて導電性が低下され、容量維持率が低いことを確認することができる。アルミニウムドーピング量が低い比較例9の場合、駆動安定性が低下されるため、容量維持率が低いと考えられる。アルミニウムドーピング量が高い比較例10の場合、メタルサイトの非活性化領域が増加するため、初期充放電容量が落ちると考えられる。
【0138】
実験例4:示差走査熱量計(DSC)評価
前記実験例3で製造したコイン型半電池の中で実施例1及び比較例9の正極活物質を利用して製造されたコイン型半電池に対して示差走査熱量計(DSC)評価を行った。
【0139】
具体的には、Setaram社のHP‐DSC機器を利用して、コイン半電池(CHC)を4.25Vまで(SOC 100%)充電した。具体的に、コイン半電池を25℃で0.1C定電流で4.25Vまで充電し、定電圧で充電して充電電流が0.05nAhになるまで充電した。その後、電圧が3.0Vに至るまで0.1C定電流で放電した。また、0.1C定電流で電圧が4.25Vになるまで充電し、定電圧で充電して充電電流が0.05nAhになるまで充電した。この後、電極を分解させ、ジメチルカーボネート(DMC)で電極洗浄した後、電極を直径5mmに打ち抜いて高圧PANに電解液20μlを注入し、常温から400℃まで10℃/min速度で昇温して発熱が始まる温度を測定した。
【0140】
【0141】
前記表2及び表3の結果から分かるように、Alの原子分率が小さい比較例9の場合、容量は増加するが容量維持率とDSC熱安全性が低下する問題があって、Al原子分率が大きい比較例10の場合、容量維持率とDSC熱安全性が改善されるが、容量が大きく減少する問題があることを確認することができる。