(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】駆動回路および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20241029BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20241029BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H01L29/91 D
(21)【出願番号】P 2021142362
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷 和樹
(72)【発明者】
【氏名】原 賢志
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536407(JP,A)
【文献】特開2013-125806(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063681(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/194887(WO,A1)
【文献】特開2020-061429(JP,A)
【文献】特開2006-066692(JP,A)
【文献】特開2020-202674(JP,A)
【文献】特開2019-146369(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031070(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H01L 29/861
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタとコレクタとエミッタ側のゲートであるエミッタゲートとコレクタ側のゲートであるコレクタゲートとを備えたIGBTであるコレクタゲート制御IGBTを駆動する駆動回路において、
エミッタ側のゲートを駆動する第1のゲートドライバと、コレクタ側のゲートを駆動する第2のゲートドライバとを有し、
前記第1のゲートドライバと前記第2のゲートドライバには、同じ駆動指令信号が入力されるとともに、
前記第2のゲートドライバは、前記駆動指令信号に基づく信号が入力される高耐圧ダイオードを有することを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動回路において、前記第1のゲートドライバと前記第2のゲートドライバは、エミッタ側のゲートをターンオフする前に、コレクタ側のゲートをターンオンすることを特徴とする駆動回路。
【請求項3】
請求項1に記載の駆動回路において、前記第1のゲートドライバと前記第2のゲートドライバは、エミッタ側のゲートをターンオフするときにコレクタ側のゲートをターンオンすることを特徴とする駆動回路。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駆動回路において、前記第1のゲートドライバと前記第2のゲートドライバの一方は、前記駆動指令信号を反転させる反転回路を有することを特徴とする駆動回路。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駆動回路において、還流を検知して還流期間全体にわたってエミッタ側のゲートがオフの状態を維持するよう制御する還流検知回路を備えることを特徴とする駆動回路。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駆動回路において、前記コレクタゲート制御IGBTは、コレクタゲート制御逆導通IGBTであることを特徴とする駆動回路。
【請求項7】
請求項6項に記載の駆動回路において、前記コレクタゲート制御逆導通IGBTに接続された外付けの還流用ダイオードと、
還流を検知して還流期間全体にわたってコレクタ側のゲートがオフの状態を維持するよう制御する還流検知回路とを有することを特徴とする駆動回路。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動回路と、コレクタゲート制御IGBTとを備えたことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回路および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)は、例えば誘導性の負荷を有するインバータ回路に使用される。
【0003】
一般的なIGBTは、電圧を遮断、または電流を導通するコレクタ端子とエミッタ端子と、IGBTの遮断状態と導通状態を制御するゲート端子を有する。
【0004】
IGBTの導通時の抵抗を低減するためには、ドリフト層に高密度にキャリアを注入して伝導度変調を促進することが有効である。一方、高密度にキャリアを注入すると、導通状態から遮断状態に移行するターンオフ・スイッチング動作の速度が遅くなり、ターンオフ損失が増加するという欠点があり、導通損失の低減とターンオフ損失の低減はトレードオフの関係にある。
【0005】
近年、このトレードオフ関係を改善するための一つの手段としてコレクタ部にN型MOSFET(NMOS)構造を追加し、さらにコレクタ部のNMOSを制御するためのコレクタゲート端子を有するコレクタゲート制御IGBT(CG-IGBT、下記非特許文献1参照)や、コレクタゲート制御逆導通IGBT(CG-RC-IGBT、下記非特許文献2参照)が開示された。
【0006】
CG-IGBTは、非特許文献1のようにBC-IGBT(Back-Gate-Controlled IGBT)と呼ばれる場合もある。また、コレクタゲート(CG)は、非特許文献2のようにATG(Anode Trench Gate)と呼ばれる場合もある。
【0007】
RC-IGBT(逆導通IGBT)とはIGBTと逆方向に電流を導通できるダイオード構造を内蔵したIGBTであり、通常のIGBTだと還流させるために逆並列にダイオードを接続する必要があるが、RC-IGBTを用いると逆並列ダイオードが不要になるというメリットがある。下記非特許文献2や我々の実験結果によれば、従来のゲートのオフにわずかに(例えば1μs程度)先行してコレクタゲートをオンすることによって、IGBT中のキャリア密度を動的に低減してターンオフ損失を低減することが可能である。
【0008】
本明細書においては、コレクタゲート制御IGBT(CG-IGBT)は、エミッタとコレクタとエミッタ側のゲートであるエミッタゲート(従来のゲート)とコレクタ側のゲートであるコレクタゲートとを備えたIGBTを示す概念として説明する。また、コレクタゲート制御IGBT(CG-IGBT)の一種としてコレクタゲート制御逆導通IGBT(CG-RC-IGBT)が含まれるものとして説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】T. Saraya, K. Itou, T. Takakura, M. Fukui, S. Suzuki, K. Takeuchi, M. Tsukuda, K. Satoh, T. Matsudai, K. Kakushima, T. Hoshii, K. Tsutsui, H. Iwai, A. Ogura, W. Saito, S. Nishizawa, I. Omura, H. Ohashi, T. Hiramoto, “3.3 kV Back-Gate-Controlled IGBT(BC-IGBT) Using Manufacturable Double-Side Process Technology” , IEDM 2020 pp.IEDM20-87-IEDM20-90.
【文献】J. Wei, X. Luo, G. Deng, T. Sun, C. Wang, K. Zhu, W. Cui, Z. Wang, Z. Li, and B. Zhang, “Ultrafast and Low-Turn-OFF Loss Lateral IEGT With a MOS-Controlled Shorted Anode” , IEEE Transactions on Electron Devices,VOL.66 pp.533-538 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記非特許文献1および非特許文献2では、従来のゲートに加えて新たにコレクタゲートを制御する必要があり、制御が複雑になるという課題がある。また、CG-IGBTが遮断状態では、コレクタ電位と共にコレクタゲート電位も上昇する必要があるため、従来のゲート駆動回路と絶縁を確保する必要がある。絶縁型のDCDCコンバータを使用すれば入力信号とコレクタゲートへの出力を絶縁できるが、部品点数が多くなり高コストになるという課題がある。
【0011】
そこで、一般的な相補的なPWM信号によって、従来のゲートのみならずコレクタゲートを駆動できるゲート駆動回路が必要である。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、CG-IGBTのコレクタゲートを、低コストな構成で一般的なIGBTと同様のPWM信号に基づいて駆動できる駆動回路およびそれを備えた電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、エミッタとコレクタとエミッタ側のゲートであるエミッタゲートとコレクタ側のゲートであるコレクタゲートとを備えたIGBTであるコレクタゲート制御IGBTを駆動する駆動回路において、エミッタ側のゲートを駆動する第1のゲートドライバと、コレクタ側のゲートを駆動する第2のゲートドライバとを有し、第1のゲートドライバと第2のゲートドライバには、同じ駆動指令信号に基づく信号が入力されるとともに、第2のゲートドライバは、駆動指令信号が入力される高耐圧ダイオードを有する。
【0014】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、CG-IGBTのコレクタゲートを、低コストな構成で一般的なIGBTと同様のPWM信号に基づいて駆動できる駆動回路およびそれを備えた電力変換装置を提供できる。
【0016】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1のCG-IGBTの一部を示す部分断面構造図
【
図2】(a)実施例1のCG-IGBTの等価回路図、(b)実施例1のCG-IGBTの記号
【
図3】(a)実施例1のCG-IGBT及びその駆動回路の一部を示す図、(b)実施例1のCG-IGBT及びその駆動回路のタイミングチャート、(c)実施例1のCG-IGBTのターンオフ波形
【
図6】(a)実施例1の第3の変形例を示す回路図、(b)
図6(a)のCG-IGBTのタイミングチャート
【
図7】実施例1において自アームが還流動作でのPWM信号とゲート電圧(Vg)及びコレクタゲート電圧(Vcg)のタイミングチャート
【
図8】(a)実施例2のCG-IGBT及びその駆動回路の一部を示す図、(b)実施例2のCG-IGBTのタイミングチャート
【
図9】(a)実施例3のCG-IGBT及びその駆動回路の一例を示す回路図、(b)実施例3のCG-IGBTのタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は実施例1のCG-IGBTの一部を示す部分断面構造図である。
図1に示すように、Siで構成された支持基板1上に埋め込み酸化膜2を形成し、n型半導体層3の表面層に選択的にpベース領域4を形成し、そのpベース領域4の表面層の一部にnエミッタ領域5を形成し、nエミッタ領域5に隣接してpアノード領域6が形成されている。またn型半導体層3の表面層の内、異なる領域に選択的にnバッファ領域7を形成し、そのnバッファ領域7の表面層の一部にpベース領域8を形成し、そのpベース領域の表面層の一部にnカソード領域9を形成し、そのpベース領域の表面層の別の一部にpコレクタ領域10が形成されている。
【0020】
そして、pベース領域4の表面層のチャネル領域11の表面上にゲート酸化膜12を介してゲート端子(G)に接続されるゲート電極13が設けられている。そして、pベース領域8の表面層のチャネル領域14の表面上にゲート酸化膜15を介してコレクタゲート端子(CG)に接続されるコレクタゲート電極16が設けられている。また、nエミッタ領域5とpアノード領域6の表面に共通に接触するエミッタ電極17が設けられ、pコレクタ領域10と、nカソード領域9の表面に共通に接触するコレクタ電極18が設けられ、それぞれエミッタ端子(E)およびコレクタ端子(C)に接続される。
【0021】
ここではCG-IGBTの一例としてCG-RC-IGBTを用いて説明しているが、これに限られず、逆導通IGBTではないCG-IGBTを用いてもよい。
【0022】
図2(a)は実施例1のCG-IGBTの等価回路図であり、
図2(b)は本発明の実施例1のCG-IGBTを示す記号である。
図2(a)に示すように、本発明のCG-IGBTは、一般的なIGBTと比較して、NMOS101と内蔵ダイオード102が含まれる点が特徴である。NMOS101はノーマリオフ型であり、コレクタゲートCGによってオン・オフが制御される。
【0023】
コレクタゲートCGがオフ(NMOS101がオフ)の状態では、一般的なIGBTと同様の動作になる。コレクタゲートCGがオフで、ゲートG(エミッタ側のゲートであるエミッタゲートとも呼ばれるが、従来のゲートに相当するので、単に「ゲート」と称することとする)がオフ状態だとコレクタ-エミッタ間は順方向に遮断状態となる。コレクタゲートCGがオフで、ゲートGがオン状態だと一般的なIGBTと同様にバイポーラ動作で導通する。
【0024】
ゲートGがオンしていて、かつコレクタゲートCGがオン(NMOS101がオン)の状態では、pnpトランジスタ103のベース-エミッタ間がショートして、pnpトランジスタ103がオフするため、CG-IGBTはチャネル領域11、n型半導体層3、チャネル領域14を介して電子電流のみが流れるユニポーラ素子として動作する。導通電流が大きくなりNMOS101のドレイン-ソース間での電圧降下が大きくなると、pnpトラジスタ103のベース-エミッタ間に電圧が発生してpnpトランジスタ103がオンするため、バイポーラ動作が可能となる。なお、ユニポーラ素子として動作する場合はバイポーラ動作をする場合に比べて損失が大きくなる。
【0025】
また、CG-RC-IGBTの場合は、コレクタゲートCGがオンで、ゲートGがオフしていてNMOS103がオンの状態では内蔵ダイオード102とNMOS101を介して逆導通電流を流すことができる。コレクタゲートCGがオンで、逆導通電流を流す際にゲートGがオン状態だと内蔵ダイオード102のアノード-カソード間がショートして内蔵ダイオード102には電流が流れず、チャネル領域11、n型半導体層3、チャネル領域14を介して電子電流のみが流れるユニポーラ動作をする。
【0026】
本実施例では以下、CG-IGBTを
図2(b)に示す記号で表記する。
【0027】
図3(a)は実施例1のCG-IGBT及びその駆動回路の一部を示す図である。駆動指令信号入力部(sig)にPWMに基づく駆動指令信号が入力される。本実施例では、例えばオフで0V、オンで15Vが入力される。Vddはゲート駆動回路の電源である。符号201~204の構成を含む部分がエミッタ側のゲート(G)を駆動する第1のゲートドライバであり、符号205~209の構成を含む部分がコレクタ側のゲート(CG)を駆動する第2のゲートドライバである。
【0028】
本実施例では、第1のゲートドライバと第2のゲートドライバには、同じ駆動指令信号が入力されるとともに、第2のゲートドライバは、駆動指令信号に基づく信号が入力される高耐圧ダイオード206を有する。
【0029】
駆動指令信号は第1のゲートドライバのCMOSインバータ回路201に入力され、信号が反転した後、遅延生成部202によって信号の位相を変化させる。遅延生成部は抵抗などによって構成される。さらにCMOSインバータ回路203によって信号を反転させた後ゲート抵抗(Rge)204を介してゲート(G)に入力される。
【0030】
また、同じ駆動指令信号が、第2のゲートドライバのCMOSインバータ回路205を介して高耐圧ダイオード206のアノードに入力される。高耐圧ダイオード206のカソードは抵抗207を介してコレクタ端子(C)に接続され、また高耐圧ダイオードのカソードはコレクタゲート抵抗(Rcg)208を介してコレクタゲート端子(CG)に接続されている。またコレクタゲート端子とコレクタ端子はツェナーダイオード209で接続され、コレクタゲート端子に過電圧が印加されないように対策されている。また本実施例では還流動作のために外付けの還流用ダイオード210をCG-IGBTに逆並列に接続している。したがって、
図1に示すCG-RC-IGBTを用いずに逆導通IGBTではないCG-IGBTを用いてもよい。
【0031】
次に動作について説明する。
図3(b)は実施例1のCG-IGBT及びその駆動回路の一例を示すタイミングチャートである。
図3(b)にターンオン動作からターンオフ動作までのPWM信号(対アーム(RA)と自アーム(OA))とゲート電圧(Vg)とコレクタゲート電圧(Vcg)を示す。ゲート電圧はエミッタ電位を基準として表すが、コレクタゲート電圧はコレクタ電圧を基準として表す。
【0032】
自アームの駆動指令信号としてオフが入力されているときは、自アームのゲート電圧(Vg)が0Vまたは負の電圧でゲートがオフの状態となっている。このとき、コレクタ(C)やコレクタゲート(CG)の電位は高電圧になっており、高耐圧ダイオード206のカソードの電位はアノードの電位(最大でもVdd)より高いので、駆動指令信号に基づく信号はCGに伝達されず、CGとCは抵抗207、Rcg208を介して接続されているためCGとCの電位は等しく、コレクタゲートCGはオフの状態である。次に自アームの駆動指令信号としてオンが入力されたときは、第1のゲートドライバを介してゲート電圧Vgが上昇し、自アームのゲートがオン状態となる。CG-IGBTのゲートがオンするとC及びCGの電位は低下するので駆動指令信号によるコレクタゲートの制御が可能になり、第2のゲートドライバを介して駆動指令信号(この時点ではオン)をCMOSインバータ回路205で反転した信号(オフ)がコレクタゲートCGに印加されるので、コレクタゲートCGはオフ状態を継続する。するとCG-IGBTは一般的なIGBTと同様に電流を流すことができる。バイポーラ動作による伝導度変調によってオン電圧を低下できるため導通損失を低減することができる。
【0033】
次に、自アームの駆動指令信号がオンからオフに切り替わったときは、第2のゲートドライバを介して駆動指令信号(この時点ではオフ)をCMOSインバータ回路205で反転した信号(オン)がコレクタゲートCGに印加されるので、Vcgが上昇してコレクターゲートCGがオンする。一方、第1のゲートドライバでは、遅延生成部202を介して遅延された駆動指令信号がゲートGに入寮されるため、例えば1μs後にゲートGがオフしてCG-IGBTがターンオフする。Vcgの上昇からVgの低下までの期間は遅延生成部202によって任意に調整できる。Vcgが上昇することによって
図2記載の内蔵NMOS101がオンして内蔵pnpトランジスタ103の伝導度変調が抑制され、CG-IGBT中のキャリア密度が低下する。CG-IGBTのターンオフに先行してコレクタゲートCGをオン(エミッタ側のゲートをターンオフする前にコレクタ側のゲートをターンオン)してキャリア密度を低減することによってその後Vgが低下してCG-IGBTがターンオフする際のターンオフ損失を低減することができる。
【0034】
図3(c)は実施例1のCG-IGBTのターンオフ波形である。横軸は時間であり、ターンオフに1μs先行してCGをオンした場合の電流Ic1、電圧Vc1と、CGを同期制御せずCGを常にオフした状態でターンオフした場合の電流Ic2、電圧Vc2のターンオフ波形を示した。電流と電圧の積の積分が損失となるが、ターンオフに先行してCGをオンすることでキャリア密度を低減させているので、電流Ic1の方が電流Ic2よりも早く0になっており、ターンオフ損失を低減できることが判る。ターンオフ後はC及びCGの電位は高電圧になり、高耐圧ダイオード206によってコレクタゲートCGに駆動指令信号に基づく信号が入力されなくなるため、Rcg208と抵抗207を介した放電によってCGはCと同電位になる。
【0035】
ここではターンオフに先行してCGをオンする例を示したが、遅延生成部202で遅延させずにエミッタ側のゲートをターンオフするときにコレクタ側のゲートをターンオンするようにしてもよい。この場合は、ターンオフに先行してCGをオンする場合よりは効果は小さくなるが、CGを同期制御せずCGを常にオフした状態でターンオフした場合に比べればターンオフ損失を低減できる。
【0036】
以上説明したように、本実施例では、第2のゲートドライバは、駆動指令信号に基づく信号が入力される高耐圧ダイオード206を有するようにしたので、コレクタ(C)やコレクタゲート(CG)の電位が高電圧のときは駆動指令信号に基づく信号はコレクタゲートCGに伝達されないようにできる。そのため、第1のゲートドライバと第2のゲートドライバに同じ駆動指令信号を入力して制御する構成とすることができる。
【0037】
図4は実施例1の第1の変形例である。
図3(a)において高耐圧ダイオード206の容量が大きい場合はCG-IGBTがターンオフする際に高耐圧ダイオード206に流れるリカバリ電流によってCGに蓄積した電荷が放電され、ターンオフ中にCGがオフする懸念がある。ターンオフ損失を低減するには、ターンオフが完了するまではCGがオン状態である方が好ましい。そこでCG-IGBTがターンオフ中にCGがオフしにくい構成を
図4に示す。
図3との違いは、Cと高耐圧ダイオード206のカソード間にダイオード301を接続した点である。CG-IGBTがターンオフする際にCからダイオード301を介して高耐圧ダイオード206にリカバリ電流を流すことができるため、CGに蓄積した電荷の放電を抑制することができ、ターンオフ期間中にCGをオン状態に保持することができる。すなわち、エミッタ側のゲートをターンオフする際にコレクタ側のゲートのオン状態を維持することができる。
【0038】
図5は実施例1の第2の変形例である。
図4と比較してさらにCGに蓄積された電荷の放電を抑制できることが特徴である。
図4との違いは高耐圧ダイオード206のカソードとRcg208の間にダイオード302が接続されている点である。CG-IGBTがターンオフする際、
図4の構成では高耐圧ダイオード206のカソードの電位はCの電位に対してダイオード301の電圧降下分だけ低い電位になる。CGと高耐圧ダイオード206のカソードはRcg208を介して接続されているためCGの容量とRcg208のCR時定数に応じてCGの電荷が放電される。
図5では高耐圧ダイオード206のカソードとRcg208の間にダイオード302を設けているため、ダイオード302によってCGに蓄積された電荷の放電を抑制することができる。
【0039】
図6(a)は実施例1の第3の変形例である。これもCG-IGBTのターンオフ期間中にCGがオン状態を維持するための実施形態である。
図3(a)と比較すると、Vddが高耐圧ダイオード401とコンデンサ402を介してCと接続されていることと、高耐圧ダイオード206のカソードからCMOSインバータ回路403、404とRcg208を介してCGに駆動指令信号が入力され、また高耐圧ダイオード206のカソードとCが抵抗405で接続されている点である。
【0040】
CG-IGBTがオン状態の時や還流動作中でCの電位が低い時にVddからコンデンサ402に電荷を充電できる。自アームの駆動指令信号がオンからオフに切り替わったとき、第2のゲートドライバを介して反転した駆動指令信号がコレクターゲートに印加され、Vcgが上昇してコレクタゲートCGがオンする。その際CGにはコンデンサ402からCMOSインバータ回路404とRcg208を介して電圧が供給される。その後(例えば1μs後)に遅延生成部202によって遅延されてゲートGがオフしてCG-IGBTがターンオフする。ターンオフ期間中もコンデンサ402からCGに電荷を供給することができるため、ターンオフ期間中もCGがオン状態を維持することができる。CG-IGBTがターンオフしてCの電位が上昇すると駆動指令信号は高耐圧ダイオード206で遮断されるため、抵抗405を介した放電によって高耐圧ダイオード206のカソードはCと等電位になり、CMOSインバータ404の出力がLowになり、CGがオフする。
【0041】
図6(b)は
図6(a)のタイミングチャートである。
図6(a)のターンオン動作からターンオフ動作までのPWM信号とゲート電圧(Vg)とコレクタゲート電圧(Vcg)を示す図である。
図3(b)と比較するとターンオフ後に一定期間コレクタゲートCGがオン状態を維持した後、オフする点が違いである。
【実施例2】
【0042】
図7は実施例1において自アームが還流動作でのPWM信号とゲート電圧(Vg)及びコレクタゲート電圧(Vcg)のタイミングチャートである。実施例2では、さらに還流期間中に最適なゲート及びコレクタゲート制御を提供できる構成を開示する。
図7に示すよう、還流期間(RP)の最後のデッドタイム(Td)中はVgがオフでVcgがオンになり、CG-RC-IGBTの内蔵ダイオード102(
図2(a))が導通するため、還流状態からオフ状態へ遷移する際に還流用ダイオード210のみならず内蔵ダイオード102のリカバリ電流が流れるため総リカバリ電流が大きくなる懸念がある。
【0043】
そこで、順方向導通(IGBTオン)時と逆方向導通(還流)時にそれぞれ最適なゲート及びコレクタゲート制御を自律的に提供できる回路構成を開示する。そのために、還流を検知して還流期間全体にわたってエミッタ側のゲートがオフの状態を維持するよう制御する還流検知回路を設ける。
図8(a)は実施例2の駆動回路の一部を示したものである。
図5との違いはエミッタがダイオード501と高耐圧ダイオード502を介してコレクタに接続されており、コンパレータ503の非反転入力端子にエミッタ(E)が、反転入力端子にダイオード501のカソードが、正電源にVddが、負電源に駆動指令信号入力部(sig)が接続され、コンパレータ503の出力(O)はCGを駆動するためのCMOSインバータ回路205の入力部に接続されている点が特徴である。なお、ここでは
図5に適用した例で説明しているが、これに限られず、
図3や
図4で説明した構成に適用してもよい。コレクタ-エミッタ間電圧Vceが0V以上、即ち還流状態でない場合はコンパレータ503の出力Oはsigに入力された駆動指令信号と同電位になるため、実施例1と同様の動作となる。Vceが負電圧の場合、即ち還流動作中はダイオード501と高耐圧ダイオード502の電圧分担によってダイオード501のカソード電位はEよりも低くなり、コンパレータ503の出力OはVddになる。するとCGはオフ状態に固定される。
【0044】
図8(b)は実施例2のCG-IGBTのタイミングチャートである。自アームが還流動作でのPWM信号とゲート電圧(Vg)及びコレクタゲート電圧(Vcg)のタイミングチャートを
図8(b)に示す。還流期間FW全体にわたってVcgがオフ状態を維持している点が特徴である。従って還流期間FW全体を通してCG-IGBTは逆導通しないため、還流状態からオフ状態に遷移する際にCG-IGBT起因のリカバリ電流が発生しない。従って、総リカバリ電流量を低減することができる。
【0045】
このように、実施例2では、CG-RC-IGBTにおいて還流期間に逆導通させないように制御することで逆導通でないCG-IGBTとして動作させることができる。
【実施例3】
【0046】
実施例3では還流動作時に内蔵ダイオード102を還流ダイオードとして使い、CG-RC-IGBTとして使用する構成を開示する。実施例1において自アームが還流動作でのPWM信号とゲート電圧(Vg)及びコレクタゲート電圧(Vcg)のタイミングチャートを
図7に示した。還流期間中にPWM信号によってゲートがオンする。一方還流期間中にコレクタゲートがオフである期間が長い。還流期間中に内蔵ダイオード102を導通させ、CG-RC-IGBTとして使用するには還流期間中はゲートはオフでコレクタゲートはオンであることが望ましい。
【0047】
そこで、実施例3では、還流を検知して還流期間全体にわたってエミッタ側のゲートがオフの状態を維持するよう制御する還流検知回路を設けた。
【0048】
図9(a)は実施例3のCG-IGBT及びその駆動回路の一例を示す回路図である。
図8(a)との違いは、還流用ダイオード210を削除し、コンパレータ503の反転入力端子にエミッタを、非反転入力端子にダイオード501のカソードを、正電源に駆動指令信号入力部(sig)を、負電源にエミッタ端子を接続しており、コンパレータ503の出力(O)をゲート駆動用のCMOSインバータ回路201の入力部とコレクタゲート駆動用のCMOSインバータ回路205の入力部に接続している点である。なお、ここでは還流用ダイオード210を削除した例で説明しているが、還流用ダイオード210を設けるようにしてもよい。
【0049】
Vceが0V以上、即ち還流状態でない場合はコンパレータの出力はsigと同電位になるため、実施例1と同様の動作となる。Vceが負電圧の場合、即ち還流動作中はダイオード501と高耐圧ダイオード502の電圧分担によってダイオード501のカソード電位はEよりも低くなり、コンパレータの出力はE電位になる。するとGはオフ状態に固定される一方、CGはオン状態に固定される。
図9(b)は実施例3のCG-IGBTのタイミングチャートである。自アームが還流動作でのPWM信号とゲート電圧(Vg)及びコレクタゲート電圧(Vcg)のタイミングチャートを
図9(b)に示す。還流期間FW全体にわたってVgがオフ状態を維持する一方Vcgはオン状態を維持している点が特徴である。対アームがオンして自アームが還流動作からオフ状態に遷移するとC及びCGの電位が上昇し、コンパレータ出力部Oからの信号が遮断され、抵抗207を介した放電によってCGはCと同電位になる。以上から本実施例によると還流期間中はゲートがオフ、コレクタゲートがオンの状態を維持できるため還流動作時に逆導通IGBTとしても動作するCG-RC-IGBTとして使用することができる。
【0050】
以上、説明したように、本発明によれば、CG-IGBTのコレクタゲートを、低コストな構成で一般的なIGBTと同様のPWM信号に基づいて駆動できる駆動回路を提供できることが示された。
【0051】
上述した本発明のCG-IGBTの駆動回路は、CG-IGBTを有する電力変換装置(インバータ等)に適用することができる。本発明のCG-IGBTの駆動回路は低オン電圧および低スイッチング損失を両立できるため、高い効率を有する電力変換装置を実現できる。
【0052】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…Siで構成された支持基板、2…埋め込み酸化膜、3…n型半導体層、4…pベース領域、5…nエミッタ領域、6…pアノード領域、7…nバッファ領域、8…pベース領域、9…nカソード領域、10…pコレクタ領域、11…チャネル領域、12…ゲート酸化膜、13…ゲート電極14…チャネル領域、15…ゲート酸化膜、16…コレクタゲート電極、17…エミッタ電極、18…コレクタ電極、101…NMOS、102…内蔵ダイオード、103…pnpトランジスタ、201…CMOSインバータ回路、202…遅延生成部、203…CMOSインバータ回路、204…ゲート抵抗、205…CMOSインバータ回路、206…高耐圧ダイオード、207…抵抗、208…コレクタゲート抵抗、209…ツェナーダイオード、210…還流用ダイオード、301…ダイオード、302…ダイオード、401…高耐圧ダイオード、402…コンデンサ、403…CMOSインバータ回路、404