(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】原子炉受動型反応度制御システム
(51)【国際特許分類】
G21C 7/22 20060101AFI20241029BHJP
G21C 3/54 20060101ALI20241029BHJP
G21C 5/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G21C7/22
G21C3/54
G21C5/00 A
(21)【出願番号】P 2023515587
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 EP2021074175
(87)【国際公開番号】W WO2022053374
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2024-08-30
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515230165
【氏名又は名称】スコット,イアン リチャード
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】スコット,イアン リチャード
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-500993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0177120(US,A1)
【文献】特開平9-61574(JP,A)
【文献】特開平8-327767(JP,A)
【文献】特開2017-181445(JP,A)
【文献】国際公開第2016/059364(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 7/22
G21C 3/54
G21C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動型原子炉制御装置であって、
密閉容器であって、
リザーバと、
前記リザーバと流体連通しているチューブとを有する密閉容器と、
前記密閉容器内の溶融塩であって、前記溶融塩は
1価の金属ハロゲン化物、および
1つ以上のランタニドおよび/またはハフニウムのフッ化物または塩化物の共晶混合物である、溶融塩と、
前記密閉容器内の、前記溶融塩と反応しない気体と
を有する受動型原子炉制御装置。
【請求項2】
前記密閉容器の内面は前記溶融塩によって濡れない、
請求項1に記載の受動型原子炉制御装置。
【請求項3】
前記密閉容器の内面は熱分解炭素でコーティングされている、
請求項2に記載の受動型原子炉制御装置。
【請求項4】
前記溶融塩は、ガドリニウム、ユーロピウム、サマリウム、またはハフニウムのいずれか1つ以上のフッ化物または塩化物を含む、
請求項1に記載の受動型原子炉制御装置。
【請求項5】
炉心と、請求項1に記載の受動型原子炉制御装置とを含む原子炉であって、少なくとも前記密閉容器のチューブが前記炉心に伸びている、原子炉。
【請求項6】
前記密閉容器のリザーバは、冷却材が前記炉心から前記密閉容器の前記リザーバに流れるように配置されている、請求項5に記載の原子炉。
【請求項7】
前記炉心は、1つ以上の黒鉛ブロックと、前記1つ以上の黒鉛ブロック内の複数のチャネルとを有し、各チャネルは、核分裂性物質を含む燃料チューブと、少なくとも、請求項1に記載の前記受動型原子炉制御装置のチューブを含むチャネルのサブセットとを含む、請求項5に記載の原子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核分裂炉は、通常運転時の核反応度(有効k)が正確に1であることに依存している。反応度が1をわずかに上回るだけでも核分裂によるエネルギー生成量が指数関数的に増加し、反応度が1を下回るとエネルギー生成量が指数関数的に減少し0になる。
【0003】
この非常に正確な反応度の制御は、通常、人的制御や自動制御を必要としない受動的なシステムと、能動的なシステムとの組み合わせによって達成される。最も重要な受動的なシステムは、原子炉の反応度の温度係数が負であり、出力が増加すると、温度が上昇し反応度が低下するようになっていなければならないことである。もう一つの受動的なシステムは、炉心に「可燃性」中性子吸収材(ポイズン)を組み込むことであり、これは最初は反応度を抑制するが、中性子吸収によって破壊されると、反応度を徐々に抑制する。
【0004】
能動的なシステムは、一般的には、炉心に中性子吸収材を挿入または引き抜く機械的制御棒である。
【0005】
どのような機械的システムも故障したり不適切に使用されたりする可能性があるため、これらの能動的なシステムへの依存は安全上の危険の主要な原因である。チェルノブイリの災害は、結局は、人為的ミスによる制御棒システムの誤った使用により引き起こされたものである。
【0006】
それゆえ、制御棒を交換したり補充したりするための受動的な作動システムが、何十年にもわたって原子力産業の目標とされてきた。このような受動的なシステムの現状についての優れた要約は、IAEA文書NR-T-1.16「高速中性子炉のための受動的停止システム」に記載されている。
【0007】
説明されている機械的に最も単純なシステムは、溶融したリチウム金属が加熱によって膨張し、強制的にチューブを原子炉の炉心に押し下げられる(forced down a tube into the reactor core)ものである。これは非常に信頼性の高いエレガントなシステムであり、出力冷却材温度を定められた範囲内に維持するために原子炉の出力を継続的に制御するために使用できるように可逆的である。
【0008】
残念ながら、このようなリチウムベースのデバイスは、Li-6が中性子を吸収するとトリチウムとヘリウム原子を放出するという欠点に悩まされている。これは非常に急速にシステムを圧迫するが、さらに重要なことに、トリチウムは放射性が非常に高く、移動性も非常に高いガスであるため、その生成は安全上でさらなる危険をもたらす。
【0009】
これまでの研究のほとんどは、軽水炉または溶融金属冷却高速炉の受動型反応度制御装置に関するものである。近年、燃料または冷却材のいずれかが溶融塩である溶融塩炉への関心が大きく高まっている。これらの原子炉は他の原子炉よりもはるかに優れているが、その理由の一つは、溶融塩燃料の膨張が異常に強い負の反応度係数を生み出し、反応度を強く自己安定化させるためである。しかし、溶融塩はリチウムベースの受動型反応度制御システムの使用に問題をもたらすが、その理由は、生成されるトリチウムは溶融塩中で非常に移動性が高く、実際に金属壁を通って拡散するため、その封じ込めが非常に困難だからである。
【0010】
そのため、トリチウム管理の問題を生じさせない、単純で効果的で信頼性の高い溶融塩ベースの原子炉の受動型反応度制御システムが依然として必要である。
【発明の概要】
【0011】
第1の側面によれば、受動型原子炉制御装置が提供される。受動型原子炉制御装置は密閉容器を有し、密閉容器はリザーバと、リザーバと流体連通しているチューブとを有する。密閉容器内に溶融塩があり、溶融塩は1価の金属ハロゲン化物、および1つ以上のランタニドおよび/またはハフニウムのフッ化物または塩化物のものの共晶混合物である。気体が密閉容器内にあり、その気体は溶融塩と反応しない。
【0012】
第2の側面によると、炉心と、第1の側面による受動型原子炉制御装置とを含む原子炉であって、少なくとも密閉容器のチューブが炉心内に延在しているものが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】3つの異なる温度における受動型原子炉制御装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
受動型反応度制御装置は、ランタニド族またはハフニウムからの強力な中性子吸収体を含む、1価の塩と混合されたフッ化物塩または塩化物塩の形で、低融点の共晶混合物を形成する溶融塩のリザーバを組み込んでいる。
【0015】
ランタニドは、照射によって顕著なトリチウムまたはヘリウムを生成しない。しかし、これらは高融点金属であるため、反応度制御デバイスでよく知られているリチウムを単純に置き換えることはできない。フッ化物または塩化物塩に変換し、1価の金属ハロゲン化物と共晶塩の混合物を形成すると、融点が使用可能なレベルに低下する。
【0016】
この装置は水銀温度計に似ている。リザーバ、すなわち温度計バルブは高温出口冷却材(または燃料と組み合わせた冷却材)塩の中にあり、細いチューブ、すなわち温度計のステム(stem)は原子炉の炉心に伸びている(runs into the reactor core)。ステムには不活性ガス(すなわち溶融塩とあまり反応しないガス)が含まれており、このガスは中性子吸収塩がステムの下に膨張し、そのガスの圧力がリザーバの冷却時に中性子吸収塩をバルブに戻す際に圧縮される。熱スペクトル炉で使用するために特に有用なランタニドは、ガドリニウム、ユーロピウム、サマリウムであり、それぞれ数1000バーン(barn)の中性子吸収断面積を持つ。しかし、ジスプロシウム、エルビウムまたはハフニウムのような他のあまり強く吸収しないランタニドも使用することができ、複数のランタニドの混合物を使用することもでき、これは、塩の中性子吸収を減らして中性子に対して「黒」ではなく「灰色」にしたい場合に有利である。
【0017】
高速炉の場合、最も効果的なランタニドはユーロピウムとハフニウムであるが、やはり、あまり強く吸収されないランタニドの混合物は有用性を持つことができる。
【0018】
膨張と収縮の間に溶融塩流体カラムの破損を避けるための2つの方法が考えられる。第1の方法では、リザーバーはチューブの下に配置され、チューブは概ね上向きにされる(すなわち、重力によってカラムが維持され、溶融塩が上方に膨張するように)。第2の方法では、チューブは溶融塩流体のカラムが反転してもそのまま維持されるように十分に狭い。必要な半径は、溶融塩流体とチューブの内面との接触角に依存する。第1のケースでは、チューブの幅は任意である。第2のケースでは、チューブは任意の方向でよい。
【0019】
いずれの場合も、膨張と収縮の間に溶融塩流体カラムが元のままであるためには、それを含むステムの表面が溶融塩流体と大きな接触角を持ち、特に表面が流体によって濡れないことが望ましい。金属表面の濡れが問題となる場合は、溶融塩が高い接触角を持つ材料の濡れた表面にコーティングをデポジションすることで改善できる。熱分解炭素(Pyrolytic carbon)はそのような適切なコーティングの1つである。
【0020】
実施例1
原子炉の炉心は、フッ化ウランとフッ化ナトリウムの混合物を含む一連のモリブデンチューブから形成される。ウランはU235同位体で濃縮される。チューブはグラファイトブロック内のチャネルに配置され、冷却液がグラファイトとチューブの間のチャネルを上に向かって通過する。
【0021】
図1は、黒鉛減速液体溶融塩燃料炉心内の受動型反応度装置100のアレイを示す。
【0022】
受動型反応度装置のリザーバ101は、
図1に示すように、チューブ内の燃料塩110のレベルの上に位置する。装置のステム102は、黒鉛120とチューブの間の環状部を通して下に突き出し、燃料チューブの底で終端する。
図2は、異なる冷媒出力温度T1<T2<T3におけるバルブ101とステム102内の中性子吸収流体103の位置を示している。各受動型反応装置の残りの部分には、中性子吸収流体と反応しないガス104が含まれている。左側は通常の原子炉動作温度以下の温度における装置で、中央は通常の動作温度における装置で、右側は通常の動作温度以上である。
【0023】
実施例2
原子炉の炉心は、フッ化ウランとフッ化ナトリウムの混合物を含む一連のモリブデンチューブから形成される。ウランはU235同位体で濃縮される。チューブはグラファイトブロック内のチャネルに配置され、冷却液がグラファイトとチューブの間のチャネルを下向きに通過する。
【0024】
図3は、受動型原子炉制御装置のバルブ301が燃料チューブの下、すなわち燃料塩310の下に配置され、ステム302が黒鉛減速材320と燃料塩310の間に上に延在する配置を示している。