(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】吸気バルブデポジット除去システム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20241029BHJP
F02D 17/02 20060101ALI20241029BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241029BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D17/02 R
F02D29/02 321B
F02D29/02 321C
F02D41/06
(21)【出願番号】P 2019141207
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康洋
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 育男
(72)【発明者】
【氏名】岸本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】村松 幸之助
【合議体】
【審判長】八木 誠
【審判官】青木 良憲
【審判官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-247425(JP,A)
【文献】特開2009-228531(JP,A)
【文献】特開2013-53598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/04
F02D 17/02
F02D 29/02
F02D 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のエンジンの吸気バルブに付着したデポジットを除去する吸気バルブデポジット除去システムにおいて、
前記吸気バルブで開閉される吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記エンジンが予め設定された所定時間以上休止状態にあることを検出又は推定するエンジン休止判定手段と、
該エンジン休止判定手段で前記エンジンが前記所定時間以上の休止状態にあることを検出又は推定した場合に、前記吸気バルブで閉じられている前記吸気ポート内に前記燃料噴射装置から燃料を噴射させる閉止吸気ポート内燃料噴射手段と、を備えたことを特徴とする吸気バルブデポジット除去システム。
【請求項2】
前記閉止吸気ポート内燃料噴射手段は、
前記エンジンが前記所定時間以上休止状態にあると検出又は推定された場合、予め設定された所定時間毎に、前記閉じられている吸気ポート内に前記燃料噴射装置から予め設定された所定量の燃料を噴射させることを特徴とする請求項1に記載の吸気バルブデポジット除去システム。
【請求項3】
前記閉止吸気ポート内燃料噴射手段は、
前記エンジンが複数の気筒を有する場合に、前記燃料噴射装置から燃料が噴射された吸気ポートの気筒を次のエンジン始動時に初爆させないことを特徴とする請求項1又は2に記載の吸気バルブデポジット除去システム。
【請求項4】
前記閉止吸気ポート内燃料噴射手段は、
前記燃料噴射装置から燃料が噴射された吸気ポートの気筒を次のエンジン始動時の最後に爆発する気筒に設定することを特徴とする請求項3に記載の吸気バルブデポジット除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気バルブデポジット除去システム、特に、車両用のエンジンの吸気バルブに付着したデポジットを除去するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン内には、燃料や潤滑油に由来するデポジット(堆積物)が付着する。こうしたエンジン内のデポジットのうち、エンジンの性能を大きく低減するデポジットは、吸気バルブに付着するものである。エンジン内のデポジットは、一般的に、デポジットクリーナーと呼ばれるデポジット除去剤を燃料タンク内に投入し、このクリーナーが入った燃料を燃料噴射装置(インジェクタ)からデポジットに吹き付けることで除去している。
【0003】
また、このデポジットクリーナーを、例えばインテークマニホールドに直接投入して、吸気バルブに付着しているデポジットを除去することも可能であり、さらには、エンジン、具体的にはシリンダヘッドを分解して吸気バルブを掃除することでデポジットを除去することも可能である。しかしながら、何れもユーザの手間を要し、特に後者の2つは、コスト的にも時間的にも負担が大きい。
【0004】
この吸気バルブに付着したデポジットを車両が自動的に除去する手法として、下記特許文献1に記載される内燃機関の制御装置がある。この内燃機関の制御装置では、予め設定された所定期間内におけるエンジンの回転状態が予め設定された所定高回転状態にならないか、又はその頻度が小さい場合に、エンジンをその所定高回転状態で強制的に運転するように構成されている。このエンジンの所定高回転状態は、吸気バルブに付着したデポジットを除去することが可能なエンジンの回転状態であり、エンジンを所定高回転状態で強制的に運転することにより、吸気流速を高めて、吸気バルブに付着したデポジットを除去することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンジンを所定高回転状態で強制的に運転することは、ユーザに違和感を生じさせる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ユーザの手間を要せず、吸気バルブに付着したデポジットを除去することが可能な吸気バルブデポジット除去システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の吸気バルブデポジット除去システムは、
車両用のエンジンの吸気バルブに付着したデポジットを除去する吸気バルブデポジット除去システムにおいて、
前記吸気バルブで開閉される吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンが予め設定された所定時間以上休止状態にあることを検出又は推定するエンジン休止判定手段と、該エンジン休止判定手段で前記エンジンが前記所定時間以上の休止状態にあることを検出又は推定した場合に、前記吸気バルブで閉じられている前記吸気ポート内に前記燃料噴射装置から燃料を噴射させる閉止吸気ポート内燃料噴射手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、エンジンが休止状態にあると検出又は推定された場合に、吸気バルブで閉じられた吸気ポート内に燃料噴射装置から燃料が噴射され、これにより吸気バルブに付着したデポジットに燃料が浸み込む。吸気バルブに付着しているデポジットは、熱による固化で強固に付着しているが、炭素量の大きいガソリンなどの燃料は、この固化したデポジットに対しても比較的容易に浸み込む。燃料が浸み込んだデポジットは軟らかくなって吸気バルブから剥がれやすくなり、次のエンジンの運転時、吸気バルブから剥がれたデポジットが燃焼室内で燃焼される。これにより、ユーザの手間を要することなく、吸気バルブに付着しているデポジットを除去することができる。
【0010】
また、本発明の他の構成は、前記閉止吸気ポート内燃料噴射手段は、前記エンジンが前記所定時間以上休止状態にあると検出又は推定された場合、予め設定された所定時間毎に、前記閉じられている吸気ポート内に前記燃料噴射装置から予め設定された所定量の燃料を噴射させることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、例えば、1回の燃料噴射で軟らかくなり切らなかったデポジットも、複数回の燃料噴射で軟らかくなるので、これを所定時間毎に繰り返すことで、デポジットが吸気バルブから確実に剥がれやすくなり、次のエンジンの運転時における吸気バルブからのデポジット剥がれ作用が向上する。
【0012】
本発明の更なる構成は、前記閉止吸気ポート内燃料噴射手段は、前記エンジンが複数の気筒を有する場合に、前記燃料噴射装置から燃料が噴射された吸気ポートの気筒を次のエンジン始動時に初爆させないことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、エンジン休止後の次のエンジン始動時にエンジンが始動しない、又は始動しにくいという不都合を回避することができる。すなわち、吸気ポート内に噴射された燃料が十分に気化していない状態で吸気バルブが開かれると、液体燃料が点火プラグにかかって爆発しないおそれがある。しかし、エンジン休止中に、吸気バルブが閉じた吸気ポート内に燃料を噴射した気筒を初爆気筒にしないことで、複数の気筒のうちの他の気筒で初爆が生じてエンジンが始動される。
【0014】
本発明の更なる構成は、前記閉止吸気ポート内燃料噴射手段は、前記燃料噴射装置から燃料が噴射された吸気ポートの気筒を次のエンジン始動時の最後に爆発する気筒に設定することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、エンジン休止後の次のエンジン始動時にエンジンが始動しにくいという不都合を回避することができる。すなわち、エンジン休止中に、吸気バルブが閉じた吸気ポート内に燃料を噴射した気筒を最後に爆発する気筒に設定することで、複数の気筒のうちの他の気筒で次々と爆発が生じ、これによりエンジンが確実に始動される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、ユーザの手間を要することなく、吸気バルブに付着しているデポジットを除去することができ、その結果、エンジンの性能を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の吸気バルブデポジット除去システムが適用された車両用エンジンの一実施の形態を示す主要部の概略構成図である。
【
図2】
図1のエンジンコントロールユニットで実行される演算処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の吸気ポートデポジット除去システムの一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態の吸気ポートデポジット除去システムが適用された車両用エンジン10の気筒主要部の概略構成図である。接合面11を挟んだ図の上側がシリンダヘッド12、下側がシリンダブロック13であり、シリンダヘッド12の接合面11を窪ませて燃焼室14が形成されている。シリンダブロック13には、燃焼室14に対向する部分にシリンダ15が形成され、シリンダ15の内部には、シリンダ15の軸方向に往復動するピストン16が収納され、そのピストン16は、図示しないクランクシャフトとコネクティングロッド(コンロッド)17で接続されている。図には、1気筒しか示していないが、この実施の形態の車両用エンジン10は、例えば4気筒の水平対向エンジンである。
【0019】
燃焼室14は、例えばペントルーフ型の一般的な燃焼室であり、燃焼室14の上部に点火プラグ18が取付けられている。また、燃焼室14の図示上部左方に吸気ポート19が、上部右方に排気ポート20がそれぞれ連通され、吸気ポート19の燃焼室開口部に吸気バルブ21が、排気ポート20の燃焼室開口部に排気バルブ22が配設されており、図の状態では、吸気ポート19の燃焼室開口部が吸気バルブ21の傘部21aで閉止され、排気ポート20の燃焼室開口部が排気バルブ22の傘部22aで閉止されている。吸気バルブ21及び排気バルブ22のそれぞれのバルブステム21b、22bの上部には、図示しない吸気カム及び排気カムが配設されており、吸気バルブ21及び排気バルブ22のそれぞれは、吸気カム及び排気カムのカムプロファイルに追従して燃焼室開口部を開閉する。したがって、吸気ポート19及び排気ポート20のそれぞれは、燃焼室14に対して、吸気カム及び排気カムのカムプロファイルに従って開閉される。
【0020】
各気筒の吸気ポート19には、吸気ポート19内に燃料を噴射することが可能なインジェクタ(燃料噴射装置)23がそれぞれ取付けられている。インジェクタ23は、該当する気筒の吸気行程で、燃焼室14内に混合気を送り込むために、吸気ポート19内に燃料を噴射するものであり、燃料の噴射量や噴射タイミングは、後述するエンジンコントロールユニット24で制御される。インジェクタ23から噴射される燃料は、吸気ポート19の燃焼室開口部側、すなわち吸気バルブ21側に向けて噴射される。なお、この実施の形態では、インジェクタ23は、燃焼時、すなわちエンジン10の運転時以外にも燃料を噴射するのに使用される。また、一般に、吸気ポート内噴射用のインジェクタ23では、筒内噴射(直噴)用のインジェクタよりも燃料の噴射圧力が小さい。
【0021】
この実施の形態では、エンジン10の運転状態はエンジンコントロールユニット24で制御される。エンジン10の運転状態は、周知のように、インジェクタ23から噴射される燃料の噴射量や噴射タイミング、点火プラグ18による点火タイミングなどで制御することができる。エンジン10の運転状態を制御する制御入力には、クランクシャフトの回転状態を検出するクランク角センサ25やカムシャフトの回転状態を検出するカム角センサ26、図示しないアクセルペダルの踏込量(スロットル開度)などが用いられる。このエンジンコントロールユニット24は、マイクロコンピュータのようなコンピュータシステムを搭載して構成される。このコンピュータシステムは、周知のコンピュータシステムと同様に、高度な演算処理機能を有する演算処理装置に加え、例えばプログラムを記憶する記憶装置や、センサ信号を読込んだり、他のコントロールユニットと相互通信を行ったりするための入出力装置を備えて構成される。
【0022】
図2は、エンジン10の休止時に、上記エンジンコントロールユニット24で実行される演算処理のフローチャートである。この演算処理は、予め設定された所定時間(例えば5時間)以上の長時間にわたってエンジン10が休止する状態にあると検出或いは推定される場合に実行される。この長時間エンジン休止条件としては、例えば、時刻とエンジン10の運転を関係づけて記憶し、通常、どの時刻からどの時刻までの間は、エンジン10が休止していると学習して推定する。また、一般的に吸気系に設けられている温度センサ(外気温センサ)の検出値から昼夜を判定し、例えば、夜間の何時から何時までは凡そエンジン10が休止していると学習して推定する。或いは、例えばキーレスアクセスと呼ばれる車内エントリーシステムを搭載している場合には、何時から何時までの間、携帯機が車両に接近することがないから、その間はエンジン10が休止していると学習して推定する。そして、演算処理が開始された後は、例えば30分毎にタイマ割込み処理で実行される。
【0023】
この演算処理では、まずステップS1で、車両がシステムとしてスタンバイ(運転開始後を含む)状態であるか否かを判定し、車両システムスタンバイである場合にはステップS7に移行し、そうでない場合にはステップS2に移行する。なお、車両システムスタンバイとは、エンジン始動可能状態又はエンジン運転状態を示す。
【0024】
上記ステップS2では、制御フラグFが0のリセット状態であるか否かを判定し、制御フラグFがリセット状態である場合にはステップS3に移行し、そうでない場合にはステップS4に移行する。
【0025】
上記ステップS3では、図示しない個別の演算処理に従って、吸気バルブ21が閉じ且つこれから圧縮行程に入る気筒をデポジット除去の制御対象気筒に指定してからステップS5に移行する。吸気バルブ21が閉じ且つこれから圧縮行程に入る気筒は、例えば上記クランク角センサ25で検出されるクランク角及びカム角センサ26で検出されるカム角から求めることができる。また、燃料噴射量及び噴射タイミングや点火タイミングが制御されるエンジン10では、エンジン停止時の各気筒の行程を検出して、例えば、どのクランク角でエンジン10が停止したかを検出又は推定することができるので、そのときの情報を読込んで、吸気バルブ21の開閉状態及び各気筒の行程を判定してもよい。
【0026】
一方、ステップS4では、先の吸気ポート内燃料噴射(後述のステップS5で実行)から、予め設定された所定時間(例えば2時間)が経過したか否かを判定し、所定時間が経過した場合にはステップS5に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0027】
上記ステップS5では、上記ステップS3で指定された制御対象気筒の吸気ポート19内に、予め設定された所定量の燃料を上記インジェクタ23から噴射してからステップS6に移行する。
【0028】
上記ステップS6では、制御フラグFを1のセット状態としてから復帰する。
【0029】
また、上記ステップS7では、制御フラグを0のリセット状態としてからステップS8に移行する。
【0030】
上記ステップS8では、上記ステップS3で指定された制御対象気筒を次のエンジン始動時の初爆気筒にしない指示を出力してから復帰する。上記ステップS3で制御対象気筒に指定された気筒は、これから圧縮行程に入る気筒、すなわち先のエンジン停止時に吸気行程であった気筒であり、通常、エンジン10が停止する際の吸気行程では燃料を噴射しないので、この気筒は、次のエンジン始動時に最後に爆発する気筒になる。
【0031】
この演算処理によれば、例えば夜間など、長時間、エンジン10が休止しているとき、吸気バルブ21が閉じ且つこれから圧縮行程に入る気筒がデポジット除去の制御対象気筒に指定され、その制御対象気筒の吸気ポート19内にインジェクタ23から所定量の燃料が噴射される。また、この最初の吸気ポート内燃料噴射から所定時間経過する毎に、同じ制御対象気筒の吸気ポート19内にインジェクタ23から所定量の燃料が噴射される。
図3(A)は、制御対象気筒の吸気ポート19内にインジェクタ23から燃料が噴射された状態を模式的に表した図であり、図中の符号Dが吸気ポート19に付着したデポジットを示している。前述のように、吸気バルブ21が閉じられている気筒の吸気ポート19内にインジェクタ23から燃料を噴射すると、液状の燃料が吸気バルブ21に付着すると共に吸気バルブ21の近傍で吸気ポート19内に溜まる。これにより、例えば吸気バルブ21の傘部21aが液体燃料中に浸漬され、デポジットDに液体燃料が浸み込む。
【0032】
ガソリンなどの燃料は、アルコールなどと比較して、炭素量が大きい。吸気バルブ21に付着しているデポジットDは、熱による固化で強固に付着しているが、炭素量の大きい液体燃料は、そのデポジットDに比較的容易に浸み込む。燃料が浸み込むことにより、デポジットDが軟らかくなり(ふやけ)、例えば
図3(B)に示すように、次のエンジン運転(始動)時に吸気バルブ21が開かれると、デポジットDが吸気バルブ21から剥がれて燃焼室14内に入る。エンジン10内で付着するデポジットDは、凡そ炭化水素であるから、燃焼室14内に入れば、燃焼時の熱で燃焼してしまう。また、上記演算処理では、所定時間毎に、吸気バルブ21で閉じられた吸気ポート19内に燃料が噴射される。仮に、1回の吸気ポート内燃料噴射で、吸気バルブ21に付着しているデポジットDが軟らかくならなくても、その後、何度か液体燃料内に浸漬されることでデポジットDは次第に軟らかくなり、結果的に、次のエンジン運転(始動)時に吸気バルブ21から剥がれて燃焼室14内に入る。したがって、
図2の演算処理によって、吸気バルブ21に付着しているデポジットDが除去される。
【0033】
また、上記
図2の演算処理では、吸気バルブ21で閉じられた吸気ポート19内に燃料が噴射された制御対象気筒は初爆気筒から外され、例えば4気筒エンジンの場合、最後に爆発する気筒に設定される。吸気バルブ21で閉じられた吸気ポート19内に噴射される燃料は、燃料そのものの揮発性が高いので、比較的短時間に気化するものと考えられるが、気化しきれない液体燃料が吸気ポート19内に残り、それが点火プラグ18に付着すると、いわゆるプラグが濡れて火花が飛ばず、爆発しない。しかしながら、この制御対象気筒が初爆から外されれば、他の気筒で初爆が生じてエンジン10が始動する。また、制御対象気筒が最後に爆発する気筒であれば、クランキング時に、他の気筒で次々と爆発が生じ、エンジン10が確実に始動される。
【0034】
このように、この実施の形態の吸気バルブ21デポジット除去システムでは、エンジン10の長時間休止中、吸気バルブ21で閉じられた吸気ポート19内にインジェクタ23から燃料が噴射されると、吸気バルブ21に付着したデポジットDに燃料が浸み込む。吸気バルブ21に付着しているデポジットDは、熱による固化で強固に付着しているが、炭素量の大きいガソリンなどの燃料は、この固化したデポジットDでも比較的容易に浸み込む。燃料が浸み込んだデポジットDは軟らかくなって吸気バルブ21から剥がれやすくなり、次のエンジン10の運転時、吸気バルブ21から剥がれたデポジットDが燃焼室14内で燃焼される。これにより、ユーザの手間を要することなく、吸気バルブ21に付着しているデポジットDを除去することができる。
【0035】
また、エンジン10の長期間休止中、予め設定された所定時間毎に、閉じられている吸気ポート19内にインジェクタ23から予め設定された所定量の燃料を噴射することにより、例えば、1回の燃料噴射で軟らかくなり切らなかったデポジットDも、複数回の燃料噴射で軟らかくなるので、デポジットDが吸気バルブ21から確実にはがれやすくなり、次のエンジン10の運転時、吸気バルブ21から剥がれたデポジットDが燃焼室14内で確実に燃焼される。
【0036】
また、エンジン10の休止中にインジェクタ23から燃料が噴射された吸気ポート19の気筒を次のエンジン始動時に初爆させないことにより、エンジン休止後の次のエンジン始動時に確実にエンジン10を始動することができる。すなわち、吸気ポート19内に噴射された燃料が十分に気化していない状態で吸気バルブ21が開かれると、液体燃料が点火プラグ18にかかって爆発しないおそれがある。しかし、エンジン休止中に、吸気バルブ21が閉じた吸気ポート19内に燃料を噴射した気筒を初爆気筒にしないことで、複数の気筒のうちの他の気筒で初爆が生じてエンジン10が始動される。
【0037】
また、エンジン10の休止中にインジェクタ23から燃料が噴射された吸気ポート19の気筒を次のエンジン始動時の最後に爆発する気筒に設定することにより、エンジン休止後の次のエンジン始動時に確実にエンジン10を始動することができる。すなわち、エンジン休止中に、吸気バルブ21が閉じた吸気ポート19内に燃料を噴射した気筒を最後に爆発する気筒に設定することで、複数の気筒のうちの他の気筒で次々と爆発が生じ、これによりエンジン10が確実に始動される。
【0038】
以上、実施の形態に係る吸気バルブデポジット除去システムについて説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、燃焼室への燃料供給のためにポート内インジェクタを備えた車両用エンジンについて説明したが、筒内(直噴)インジェクタを備えた車両用エンジンであっても、さらにポート内インジェクタを配設することで、同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 エンジン
14 燃焼室
19 吸気ポート
21 吸気バルブ
23 インジェクタ(燃料噴射装置)
24 エンジンコントロールユニット
D デポジット