(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】脳機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/17 20160101AFI20241029BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20241029BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20241029BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A23L33/17 ZNA
C07K7/06
A61K38/08
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2020110804
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】正箱 尚久
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】大日向 耕作
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002018(JP,A)
【文献】特開2020-174615(JP,A)
【文献】特開2021-093995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-29
A61K 38/00-58
A61P 25/00-36
C07K 7/00-66
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1からなるペンタペプチドを含む
脳機能改善用組成物であって、
前記脳機能改善は、認知機能改善である脳機能改善用組成物。
【請求項2】
経口組成物である請求項
1に記載の脳機能改善用組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の脳機能改善用組成物を含む
認知機能改善用食品組成物又は
認知機能改善用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のペプチドを有効成分として含有する脳機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特定配列からなるペプチドが、経口摂取することにより様々な機能を発揮することが知られている。
例えば特許文献1に開示されるように、Val-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドに様々な生理作用を有することが知られている。特許文献1は、Val-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドを含有する組成物であり、糖代謝改善用、血糖値上昇抑制用、抗糖尿病用組成物について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、脳機能の改善作用に優れる脳機能改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、配列番号1からなるペンタペプチドが優れた脳機能の改善作用を発揮することを見出したことに基づく発明である。
上記目的を達成するために、本発明の一態様の脳機能改善用組成物は、配列番号1からなるペンタペプチドを含むことを特徴とする。
【0006】
前記脳機能改善用組成物において、前記脳機能改善は、認知機能改善であってもよい。
前記脳機能改善用組成物において、経口組成物であってもよい。
本発明の別の態様の食品組成物又は医薬組成物は、前記脳機能改善用組成物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた脳機能改善作用を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の脳機能改善用組成物(以下、組成物ともいう)を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態に包含される組成物は、特定のペンタペプチド(配列番号1:Val-Tyr-Thr-Pro-Gly)を含有する。また、本明細書において、アミノ酸配列:Val-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドを「VYTPGペプチド」と表記することがある。
【0009】
VYTPGペプチドは、公知のペプチド合成法を用いて化学合成により調製することができる。ペプチド合成法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DDC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等のペプチド合成法を挙げることができる。これらのペプチド合成法は、固相合成法又は液相合成法のいずれによっても行うことができる。
【0010】
上記したペプチド合成法では、アミノ基、カルボキシ基、及び/又は側鎖官能基(例えば、アルギニン(Arg)のグアニジノ基等)を保護基により保護しておくことが好ましい。保護基としては、特に限定されず公知の保護基を用いることができ、例えば、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)、ベンジル基(Bz)、p-トルエンスルホニル基(p-Ts)等が挙げられる。
【0011】
また、上記したペプチド合成法によりVYTPGペプチドを合成した後、必要に応じて、公知の方法により精製したものをVYTPGペプチドとして用いることができる。
またさらに、その他、VYTPGペプチドは、蛋白質をプロテアーゼ等により加水分解し、精製又は粗精製して入手してもよい。VYTPGペプチドは、例えば米糠をサーモリシン処理することによっても生成する。言い換えれば、米糠をサーモリシン処理して得られる組成物(米糠サーモリシン処理組成物)はVYTPGペプチドを含む。よって、米糠サーモリシン処理組成物を例えばHPLCで精製又は粗精製してVYTPGペプチドを得てもよい。また、米糠サーモリシン処理組成物を原料としてVYTPGペプチドの濃度を高めるように処理したものを使用してもよい。
【0012】
なお、米糠をサーモリシン処理するにあたっては、用いる米糠は、特に限定されないが、脱脂米糠であることが好ましい。また、圧搾により脱脂された脱脂米糠(圧搾脱脂米糠)であることが好ましい。特に、搗精後に得られた米糠(生米糠)を加熱することでリパーゼを失活させ、さらに圧搾処理することで得られる圧搾脱脂米糠が好ましい。また、脂質含量が5~20質量%の脱脂米糠を用いるのが好ましい。この範囲の脂質含量の脱脂米糠が、圧搾脱脂(特にリパーゼ失活処理後の圧搾脱脂)により好ましく得られる。
【0013】
リパーゼ失活処理は、18~20質量%程度の脂質を含有する米糠(生米糠)の酸化劣化を防ぐ目的で行われる。通常、生米糠を70~130℃程度で加熱焙煎することにより行われる。圧搾処理は、公知の圧搾法、例えば加熱焙煎処理され100~115℃程度になった米糠を低温連続圧搾機(例えば(株)テクノシグマ社より販売されているミラクルチャンバー)により圧搾することで行う。圧搾は、圧搾後の脱脂米糠中の脂質が5~20質量%程度となるまで行うことが好ましい。また、リパーゼ失活処理前の米糠や搾油後の脱脂米糠の水分含量を低減させる等の目的で乾燥処理を行っても良い。更に、特に圧搾処理にて得られた脱脂米糠は、さらに公知の方法により粉砕、分級し、粉末状とすることが好ましい。この際、粉末の平均粒子径は、5~200μmが好ましく、10~150μmがより好ましく、40~100μmが最も好ましい。なお、脱脂米糠中の脂質含量は、上述の通り5~20質量%が好ましく、7~15質量%がより好ましい。なお、市販されている、上記のような脱脂米糠を購入して用いることもできる。このような市販脱脂米糠としては、例えばハイブレフ(サンブラン株式会社製)を挙げることができる。
【0014】
本発明に用いるサーモリシンは公知の酵素であり、EC番号は3.4.24.27である。サーモリシンは、例えば、市販品を購入して用いることができる。例えば、株式会社ペプチド研究所(サーモリシン)、天野エンザイム株式会社(サモアーゼ)等から購入することができる。
【0015】
米糠サーモリシン処理組成物を得るためのサーモリシン処理条件については、サーモリシンの活性が得られる限り特に制限はされず、適宜設定することができる。例えば、米糠及びサーモリシンを水に混合したうえ、37℃前後で穏やかに撹拌しながら10~30時間程度反応させることで処理を行うことができる。なお、当該処理後、サーモリシンを失活させてもよい。サーモリシンの失活処理は、例えば加熱(例えば100℃、10~20分程度の処理)等により行うことが出来る。なお、処理後に例えばろ過を行って濾液を回収することで精製を行ってもよい。
【0016】
米糠サーモリシン処理組成物を原料としてVYTPGペプチドの濃度を高めたり、精製したりする方法は、公知の方法、例えばHPLC等を用いることができる。
VYTPGペプチドを含む組成物は、特に経口摂取により優れた脳機能改善作用を発揮する。本実施形態の組成物は、脳機能障害、特に記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等の認知障害改善のために適用される。具体的には、認知障害を発症する認知症の治療、改善、予防のために用いられる。
【0017】
認知症としては、具体的にアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、アルコール性認知症等が挙げられる。認知症の改善とは、上述した記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等の認知症の中核症状の改善の他、妄想、抑うつ、徘徊、不眠、幻覚、意欲の低下等の周辺症状の改善も含まれる。
【0018】
組成物の適用形態としては、特に限定されず、例えば食品組成物、医薬組成物として適用される。VYTPGペプチドは、そのまま食品組成物又は医薬組成物の素材として用いてもよいし、薬学上又は食品衛生学上許容される担体、添加物等を適宜配合したうえで、製品としてもよい。
【0019】
食品組成物として用いる場合、上述したようにVYTPGペプチドに加え、必要に応じて他の成分を含むことができる。当該他の成分としては特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料等が例示できる。
【0020】
食品組成物として用いる場合、その摂取形態は経口摂取である。この場合、本実施形態の組成物の形態は特に制限されず、一般食品や保健機能食品、特別用途食品に使用することができる。例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病者用食品、嚥下困難者用食品、健康補助食品、栄養補助食品、病院食、介護食、加工食品、飲料等が挙げられる。これらは常法により調製することができる。食品組成物において用途の表示を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。用途の表示には、包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。
【0021】
本実施形態の組成物の用途の表示内容としては、脳機能改善又は予防の表示の他、上述した中核症状及び周辺症状の改善又は予防の表示が挙げられる。また、これらの改善又は予防を示唆する表示も含まれる。例えば、認知機能の一部である記憶力、注意力、判断力、空間認識力を維持、サポート、又は向上等の表示が挙げられる。さらに具体的には、言葉、数、図形、色、位置情報、顔等の見聞きした物事の情報の記憶し、思い出す力(記憶力)を維持又はサポート、情報の記憶を助ける又は精度の向上、短期記憶(短時間で情報を保持し、同時に処理する能力)を維持又はサポート、注意力(事務作業の速度と正確さ)の維持、計算作業の効率維持等の表現が挙げられる。
【0022】
また、食品組成物の剤形形態としては、例えばハードカプセル、ソフトカプセル、サプリメント、チュアブル錠、飲料、粉末飲料、顆粒、フィルム等の形態のほか、飲食品として使用する場合、例えば、茶系飲料、スポーツ飲料、美容飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、水や湯、炭酸水等で希釈する濃縮タイプの飲料等の飲料、水や湯等に溶解または懸濁させて飲用する粉末や顆粒、タブレット等の乾燥固形物、タブレット菓子、ゼリー類、スナック類、焼き菓子、揚げ菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、グミ等の菓子類、スープ類、めん類、米飯類、シリアル等の食品形態にすることもできる。このうち通常の生活においては、サプリメントタイプ、チュアブル錠、ワンショットドリンクタイプ等の形態が好ましく、運動効果を高める目的で摂取する場合には、スポーツ飲料等の飲料の形態も好ましい。特に、保健機能食品、健康補助食品や栄養補助食品等とする場合には、継続的に摂取し易くするようにするため、例えば、粉末状、顆粒、ペースト状、カプセル、タブレットや錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(飲料パウダー、ドリンク剤等)、ゼリー剤等の形態とすることが好ましい。
【0023】
また、組成物を食品添加用組成物や食品用材料組成物として用いる場合には、その形態としては特に制限されず、例えば、液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられる。より具体的には、調味料(甘味料、食塩代替組成物、醤油、酢、味噌、ソース、ケチャップ、ドレッシング、スパイス、ハーブ等、フレーク(ふりかけ、炊飯添加剤等)、焼き肉のたれ、ルーペースト(カレールーペースト等))、食材プレミックス品等が挙げられる。
【0024】
組成物を食品組成物として用いる場合、当該食品組成物におけるVYTPGペプチドの配合量は、VYTPGペプチドの有する上記作用が発揮される量であれば特に限定的ではなく、適宜設定することができる。
【0025】
また、本発明の組成物を食品組成物として用いる場合、摂取量、摂取間隔、摂取対象等は特に限定的ではなく、適宜設定することができる。例えば、摂取量は、摂取対象の年齢、性別、体重、対象の健康状態、その他の条件に応じて適宜設定することができる。例えば、摂取間隔については、上記した量を摂取する場合、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)としてもよいし、数日~数週間に1回又は複数回としてもよい。また、摂取対象はヒトの他、ペット又は家畜等の飼養動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、リャマ、ラット、マウス等であってもよい。
【0026】
特に投与対象がヒトである場合、VYTPGペプチド投与(摂取)量は、例えば、成人(60kg)一日あたり、10~5000μg程度が好ましく、100~4000μg程度がより好ましい。また、投与(摂取)期間は、特に制限はされないが、例えば3日~12週間が挙げられるが、それ以上であってもよい。
【0027】
摂取対象となるヒトは、特に制限はされないが、脳機能改善又は予防等の希望又は必要性を有するヒトが好ましい。
摂取対象が飼養動物の場合の形態、摂取量、摂取間隔等は、ヒトが摂取対象である場合を参考として適宜設定することができる。
【0028】
医薬組成物は、医薬品及び医薬部外品を包含する。本実施形態の組成物を医薬組成物として使用する場合は、投与方法は特に限定されず、服用(経口摂取)、経腸投与、経血管投与(特に静脈内注射)等を採用することが可能である。医薬組成物として適用する場合は、上述したようにVYTPGペプチドに加え、必要に応じて他の成分を含むことができる。当該他の成分としては特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が挙げられる。当該他の成分の配合量は目的に応じて適宜設定することができる。
【0029】
医薬組成物の剤型は、特に限定的ではなく、例えば、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠等の錠剤;トローチ剤;散剤;懸濁剤;乳剤;エリキシル剤;リモナーデ剤;シロップ剤;ローション剤;顆粒剤;硬カプセル剤や軟カプセル剤等のカプセル剤;クリーム剤;軟膏剤;坐剤;パップ剤、テープ剤、マイクロニードル、イオントフォレシスやエレクトロポレーション等の経皮/粘膜投与剤;エアゾール剤等が挙げられる。これらの形態は、VYTPGペプチドと、必要に応じて上記した他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0030】
医薬組成物中におけるVYTPGペプチドの配合量は、VYTPGペプチドの有する上記作用が発揮される量であれば特に限定的ではなく、適宜設定することができる。
医薬組成物として用いる場合、投与量、投与間隔、投与対象等は、特に限定的ではなく、適宜設定することができる。例えば、投与量は、投与対象の年齢、性別、体重、対象の健康状態、その他の条件に応じて適宜設定することができる。また、例えば、投与間隔については、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)としてもよいし、数日~数週間に1回又は複数回としてもよい。また、投与対象はヒトの他、及びペット又は家畜等の飼養動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、リャマ、ラット、マウス等であってもよい。
【0031】
特に投与対象がヒトである場合、VYTPGペプチド投与(摂取)量は、例えば、成人(60kg)一日あたり、10~5000μg程度が好ましく、100~4000μg程度がより好ましい。また、投与(摂取)期間は、特に制限はされないが、例えば3日~12週間が挙げられるが、それ以上であってもよい。
【0032】
投与対象が飼養動物の場合の投与形態、剤型、投与量、投与間隔等は、ヒトを投与対象とする場合を参考として適宜設定することができる。
本実施形態の脳機能改善用組成物の効果について説明する。
【0033】
(1)本実施形態では、VYTPGペプチドを含むよう構成した。したがって、優れた脳機能の改善作用を発揮できる。特に認知機能の改善に優れた効果を発揮する。さらには、高脂肪食等の生活習慣由来の認知機能の低下においては、短期間の摂取で認知機能の回復に寄与できる。
【0034】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の組成物は、脳機能に関する症状の改善を目的として患者への適用のみならず、症状の悪化の防止、症状の低下の遅延、健常者が脳機能の低下の予防を目的とした摂取も含むものとする。
【0035】
・上記実施形態の組成物において、食品組成物又は医薬組成物に含まれるVYTPGペプチドの量は、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、固形分中において例えば0.1~100質量%、好ましくは1~90質量%含むよう構成できる。
【0036】
・なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0037】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例】
【0038】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(VYTPGペプチドの合成)
製造例1:Fmoc法によるペンタペプチドの合成
Fmoc法によりVal-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドを固相合成した。得られた当該VYTPGペプチドをHPLCにより精製した後、プロテインシーケンサーにより配列を解析した結果、Val-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドであることが確認された。
【0039】
製造例2:Boc法によるペンタペプチドの合成
Boc法によるVal-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドの合成を株式会社ペプチド研究所に依頼した。なお、納品された当該VYTPGペプチドは、RP-HPLC、質量分析及びアミノ酸分析により、Val-Tyr-Thr-Pro-Glyからなるペンタペプチドであることが確認されたものであった。
【0040】
製造例3:米糠酵素処理物からのペンタペプチドの精製
まず、以下のようにして、米糠を酵素処理して酵素処理組成物を得た。
酵素としては、サーモリシン(株式会社ペプチド研究所;Code3504)を用いた。
【0041】
また、米糠としては、ハイブレフ(サンブラン株式会社製)を用いた。ハイブレフは、米糠を圧搾することより脱脂を行った圧搾脱脂米糠である。
まず、超純水に米糠を30g/Lとなるように混合し、これにサーモリシンを0.4g/Lとなるように加えた。そして、当該混合物を37℃インキュベータ内でスターラーを用いて250r.p.m.で攪拌しながら20時間インキュベートした。さらに、沸騰水浴に浸漬して15分間処理し、酵素を失活させた。15℃、7150r.p.m.(8000×g)15分で遠心分離処理を行い、得られた上清のpHをNaOHを用いて7.0に調整し、フィルターペーパーNo.2(アドバンテック社製)を用いて濾過して、得られた濾液を凍結乾燥した。当該凍結乾燥物を、米糠酵素処理組成物とした。なお、当該米糠酵素処理組成物を、以下「HB-T」と記載することがある。
【0042】
次に、以下のようにしてHB-TからVYTPGペプチドを精製した。
超純水で50mg/mLとなるように調整したHB-T水溶液をPreparativeHPLC装置(1525バイナリポンプ、2487分光器)で分画した。カラムはC18(Cosmosil 5C18-AR-II 4.6×250mm)カラムを用いた。HPLC条件は下記表1の通りとした。
【0043】
【表1】
得られたHPLCチャートのうちピーク53を分画後濃縮遠心し、400μLの超純水に溶解した。このうち100μLを下記表2記載のanalyticalHPLCの条件で分画した。カラムはPEカラム(Cosmosil 5PE-MS 4.6×250mm)を用いた。
【0044】
【表2】
得られたチャートのピーク53-13を分取後濃縮遠心し、100μLの超純水に溶解した。当該サンプルを再度analyticalHPLで分画した。注入量は50μLとし、カラムはCNカラム(Cosmosil 5CN-MS 4.6×250mm)を用いた。得られたチャートのピーク533を精製した。得られた精製サンプルを質量分析装置およびプロテインシーケンサで解析したところ、VYTPGペプチドであった。
【0045】
(認知機能の測定)
試験方法は、マウスの物体認識試験法(Marianne. leger et al., Nature Protocols 8 (12), 2531-2537, 2013)に基づいて行った。
【0046】
試験に用いたマウスは、11週齢の雄ddYマウスを使用し、1週間高脂肪食を与えて馴化させた後、2つの個体群に分けた。両群共に1週間高脂肪食で飼育した(自由摂食・自由飲水)。1つの群(VYTPGペプチド群)には生理食塩水で調製したVYTPGペプチドを1mg/kgとなるようにテフロンゾンデで経口投与し、もう1つのControl群には同量の生理食塩水を1週間のうち、5,6,7日目に経口投与した。
【0047】
尚、高脂肪食としては表3に示される成分からなるHFD-60(オリエンタルバイオ社製)を使用した。
【0048】
【表3】
飼育6日目に、各個体群中のマウス1匹を所定の大きさの箱の中に入れ、5分間環境に順応させた(馴化1)。24時間後、2個の物質が左右1箇所ずつ設置された箱の中にマウスを入れ、両方の物質探索時間の合計が20秒になるまで行動させた後にその箱から取り出し、ケージに戻した(馴化2)。この際、箱に入っている物質は2個とも同じもので積み木又はフラスコである。さらに1時間後に2個の物質のうち片方を別の形の物質で置き換えた箱の中にマウスを入れ、両方の探索時間の合計が20秒になるまでマウスを行動させ、そのうち置き換えた新規物質の方の探索時間の割合(%)を求めた。
【0049】
尚、新規物質が右側にあるか左側にあるかは完全にランダムになるように試験した。試験の箱は、パーテーションで区切られた区画に設置し、試験者は箱の上空に設置したビデオカメラを通じてパーテーション外から行動を観察し、マウスからは見え無いようにした。本試験は、全て12時間の明期及び12時間の暗期周期となるように設定された23℃に設定された施設で行っている。
【0050】
各試験グループの個体群において平均値±標準偏差を求めた。各個体群の結果を表4に示す。なお、試験期間中、各個体群間における体重の有意差はなかった。*は、v.s Control:p<0.05(tukey’s多重検定)を示す。
【0051】
【表4】
表4に示されるように、VYTPGペプチドを高脂肪食に添加した個体群においては、Control群に対して有意に新規物質の探索時間の割合の上昇が認められた。
【配列表】