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  • 特許-複合型不織布およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】複合型不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 5/03 20120101AFI20241029BHJP
【FI】
D04H5/03
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020130232
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026662
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 生弥
(72)【発明者】
【氏名】大篭 幸治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105656(JP,A)
【文献】特開2016-089277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド不織布上にパルプ繊維を積層させたパルプ繊維ウエブを一体化してなる複合型不織布の製造方法であって、
前記スパンボンド不織布上にパルプ繊維を供給して前記パルプ繊維ウエブを形成する積層工程と、
前記パルプ繊維ウエブと前記スパンボンド不織布との一体化を促進して積層体を得る水流交絡工程と、
前記水流交絡工程の後に前記積層体を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に前記積層体にカレンダー処理を施す工程と
を少なくとも含み、
前記積層工程ではエアレイド方式を採用し、前記乾燥工程ではエアスルードライヤを採用し、
前記カレンダー処理は、カレンダー装置内のロールの温度を40~100℃、ロール間ギャップを0.1mm~0.3mmとし、前記ロール間ギャップを通過する前記積層体に線圧1~30kg/cmが加わるように設定され、
前記複合型不織布は、
坪量が50.0~80.0g/mであり、吸液性の指標である点滴吸水度が0.5~2.0秒および保液性の指標である保水量(T.W.A.)が300~490g/mであり、且つ前記スパンボンド不織布の縦引張強度が9.8~29.4N/25mmおよび横引張強度が3.9~9.8N/25mmであり、
更に、前記パルプ繊維ウエブの柔らかさを示す指標であるTS7値が10.0~15.0dBVrms、滑らかさを示す指標であるTS750値が25.0~50.0dBVrmsおよび剛性の指標であるTSA(D値)が1.6~2.5mm/Nである、ことを特徴とする複合型不織布の製造方法
【請求項2】
ウエットテーバー値が5回以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の複合型不織布の製造方法
【請求項3】
前記パルプ繊維ウエブの坪量が30.0~70.0g/mであると共に、前記スパンボンド不織布と前記パルプ繊維ウエブとの重量構成比が30/70~10/90(wt%)である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合型不織布の製造方法
【請求項4】
前記スパンボンド不織布の坪量が10.0~30.0g/mであると共に、当該スパンボンド不織布が紡糸された樹脂繊維を接合する複数の融着点を含んで形成されており、前記融着点1個の面積が0.10~0.50mm、前記融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、個数が10~150個/cmである、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合型不織布の製造方法
【請求項5】
前記スパンボンド不織布は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択された1種類、又は2種類以上の混合で形成されている、ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合型不織布の製造方法
【請求項6】
前記パルプ繊維ウエブは、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルース及びダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維からなる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の複合型不織布の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とを水流交絡させることによって得られる複合型の不織布に関し、より詳細には医療現場や介護現場で使用するのに好適な複合型不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とによる複合型の不織布は、パルプ繊維に基づく吸液性能とスパンボンド不織布に基づく強度との両方を具備してなるので、従来から手ぬぐい、タオルなどの対人用のワイパーとして広く使用されているが、近年、医療現場や介護現場での需要が高くなっている。
【0003】
例えば、特許文献1で開示するように、パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とを重ねた後に、高圧のウォータジェット(水流)を吹き付ける水流交絡処理によって一体化されている。ここでスパンボンド不織布は強度に優れるので製造された複合型不織布の裏打ち層的な機能を果たす。一方、パルプ繊維ウエブは優れた吸液性能を備えている。よって、このような複合型不織布は、水性、油性のいずれの液体に対しても吸収性が良好なパルプ繊維ウエブと、強度に優れるスパンボンド不織布との利点を併有している優れた複合型不織布として医療現場や介護現場に提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2533260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療現場や介護現場では、乾燥状態、若しくは適度な湿潤状態で患者等の身体を拭く作業の際に複合型不織布が使用される。そのため、この様な複合型不織布では、上記した吸液性能と共に、強度および拭き心地の良さを合わせて備えていることも重要な要素となる。なお、上記吸液性能は液体を速やかに吸い取る性能としての吸液性と、吸い取った液を保持する性能としての保液性とによって評価することができる。
しかし、例えば吸液性を向上させるために相対的なパルプ量を増やすと、複合型不織布としてのシート強度や厚さが増加して、触感が硬くなり拭き心地が悪化してしまう。すなわち、吸液性能を高めるためにパルプ量を単に増加すると、強度や拭き心地について悪影響が出る場合があり、吸液性能、強度および拭き心地の全ておいて優れている複合型不織布を設計することは容易でなかった。
【0006】
よって、本発明の目的は、吸液性能、強度および拭き心地の全ておいて優れ、医療現場や介護現場で使用するのが好適である複合型不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、スパンボンド不織布上にパルプ繊維ウエブを積層し一体化してある複合型の不織布であって、
坪量が50.0~80.0g/mであり、吸液性の指標である点滴吸水度が0.5~2.0秒および保液性の指標である保水量(T.W.A.)が300~490g/mであり、且つ前記スパンボンド不織布の縦引張強度が9.8~29.4N/25mmおよび横引張強度が3.9~9.8N/25mmであり、
更に、前記パルプ繊維ウエブの柔らかさを示す指標であるTS7値が10.0~15.0dBVrms、滑らかさを示す指標であるTS750値が25.0~50.0dBVrmsおよび剛性の指標であるTSA(D値)が1.6~2.5mm/Nである、ことを特徴とする複合型不織布によって達成できる。
【0008】
そして、ウエットテーバー値が5回以上であるものが好ましい。
また、前記パルプ繊維ウエブの坪量が30.0~70.0g/mであると共に、前記スパンボンド不織布と前記パルプ繊維ウエブとの重量構成比が30/70~10/90(wt%)であるのが望ましい。
【0009】
また、前記スパンボンド不織布の坪量が10.0~30.0g/mであると共に、当該スパンボンド不織布が紡糸された樹脂繊維を接合する複数の融着点を含んで形成されており、前記融着点1個の面積が0.10~0.50mm、前記融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、個数が10~150個/cmであるのが望ましい。
【0010】
前記スパンボンド不織布は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択された1種類、又は2種類以上の混合で形成されているものが好ましい。
【0011】
前記パルプ繊維ウエブは、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルース及びダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維からなるものが好ましい。
【0012】
上記目的は、上記記載のいずれかの複合型不織布の製造方法であって、
前記スパンボンド不織布上に前記パルプ繊維ウエブを供給して積層体を形成する積層工程と、前記パルプ繊維ウエブと前記スパンボンド不織布との一体化を促進して積層体を得る水流交絡工程と、前記水流交絡工程の後に前記積層体を乾燥する乾燥工程とを少なくとも含み、
前記積層工程ではエアレイド方式を採用し、前記乾燥工程ではエアスルードライヤを採用して製造する、ことを特徴とする複合型不織布の製造方法により達成することができる。
そして、前記乾燥工程後にカレンダー処理を施すことがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると吸液性能、強度および拭き心地の全ておいて優れ、医療現場や介護現場で使用するのが好適な複合型不織布を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、上記複合型不織布を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複合型不織布の製造装置について示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る複合型不織布について説明する。
本願の発明者等は、医療現場や介護現場で使用するのに好適な複合型不織布について鋭意に検討を行い、坪量(g/m)、吸液性の指標である点滴吸水度(秒)および保液性の指標である保水量(g/m)、スパンボンド不織布の縦・横の引張強度(N/25mm)そして、パルプ繊維ウエブ側の柔らかさ(TS7値(dBVrms))、滑らかさ(TS750値(dBVrms))および剛性(TSA(D値)(mm/N))について、所定範囲内にあるように設計した複合型不織布は吸液性能、強度および拭き心地の全ておいて優れる事を確認して本発明に至ったものである。このような複合型不織布は、スパンボンド不織布上にパルプ繊維ウエブを供給して積層体を形成する積層工程ではエアレイド方式を採用し、乾燥工程ではエアスルードライヤを採用して製造するのが好ましい。そして、前記乾燥工程後にカレンダー処理を施して製造することがより好ましい。
本発明に係る複合型不織布は、例えば、吸液性を高めるためにパルプ繊維ウエブの相対量を増加した場合でも、上記した各構成要素が所定範囲に収まるように設計することで、吸液性能、強度および拭き心地の全ておいて優れたものとすることができる。
【0016】
本発明に係る複合型不織布の坪量は50.0~80.0g/m、好ましくは60.0~70.0g/mに設定されている。
そして、点滴吸水度は0.5~2.0秒また保水量(T.W.A.:Total Water Absorbency)は300~490g/mに設定されている。点滴吸水度は、JIS L 1907に規定された吸水速度試験に準拠し、0.1mlの水滴が試験片の表面に達したときから、試験片の鏡面反射が消えるまでの時間(秒)を測定して得ることができる。また、上記T.W.A.は次のように求めることができる。まず、不織布を75×75mmの正方形に切断して試料片を作製し、乾燥重量を測定する。次に、この試料片を蒸留水中に2分間浸漬した後、水蒸気飽和状態の容器中で、試料片の1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態(100%RH)で吊るし、30分放置して水切り後の重量を測定する。水切りには、ペーパータオルを3×38mmにカットして使用する。そして、測定値を試料片1m2当たりの保水量(g/m2)に換算して得ることできる。
【0017】
そして、スパンボンド不織布の縦引張強度は9.8~29.4N/25mmおよび横引張強度は3.9~9.8N/25mmに設定されている。ここでは、複合型不織布の幅を25mmの短冊状に切断し、引張試験機を用いて縦方向(MD:製造時の送り方向)と横方向(CD:MDに対して直角な幅方向)での強度を測定している。
【0018】
更に、複合型不織布にとって重要なファクターであるパルプ繊維ウエブ側の柔らかさを示すTS7値が10.0~15.0であり、滑らかさを示すTS750値が25.0~50.0、そして、剛性を示すTSA(D値)が1.6~2.5に設定されている。
【0019】
上記TS7値、TS750値、TSA(D値)のそれぞれはティシューソフトネス測定装置TSA(Tissue Softness Analyzer)を用いて測定されたものである。ティシューソフトネス測定装置TSAでは、試料台上にパルプ面側を上に向け載置した複合型不織布(サンプル)の上からブレード付ローターを例えば押し込み圧100mNで押し付けて、2.0/secで回転させたとき、各種センサーで検知した振動データを振動解析してパラメータ化(TS値)することにより、不織布等のソフトネス(手触り感)を定量評価するものであり、ドイツのEmtec Electronic GmbH社(日本代理店は日本ルフト株式会社)製の商品名である。
上記ティシューソフトネス測定装置TSAによる測定では、例えば試料台の振動を、試料台内部に設置した振動センサーで測定し、振動周波数を解析して、パラメータ化(TS値)する。振動周波数は、クリープ加工やエンボス加工といった構造的な寸法及びブレードの回転数に依存する。ブレード自身の水平振動の誘発(共振周波数:例えば6500Hz)は、サンプルの表面を進むとき、サンプルの凸部による瞬間的な遮断とブレードの振動に起因して起こる。低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度をTS750値(dBVrms)とし、共振周波数:6500Hzを含む(6500Hzの前後の)スペクトルの極大ピークの強度をTS7値(dBVrms)とする。
さらに、上記ブレード付ローターを回転させずに、例えば押し込み圧100mNと600mNでサンプルを変形させたときの上下方向の変形量(mm/N)をTSA(D値)として計測する。
【0020】
なお、振動解析してパラメータ化(TS値)するソフトウェアは、emtec measurement systemを用いることができる。本ソフトウェアには、各種アルゴリズム(例えば、Base Tissue、Facial、TP等)が備えられ、上記TS7値、TS750値及びTSA(D値)をソフトウェア上で自動的に取得し、これらTS7値、TS750値及びTSA(D値)あるいは坪量、厚さ、プライ数等から各種アルゴリズムの種類によって、HF(ハンドフィール)値が計算される。本発明では、HF値ではなく、TS7値、TS750値及びTSA(D値)を規定しており、測定条件を満たせば、アルゴリズムは何を使用してもよく、TS7値、TS750値及びTSA(D値)は、アルゴリズムの種類によって変わることはない。
【0021】
上記のように坪量(g/m)、点滴吸水度(秒)、保水量(g/m)、スパンボンド不織布の縦・横の引張強度(N/25mm)、並びに、パルプ繊維ウエブ側の柔らかさ(TS7値(dBVrms))、滑らかさ(TS750値(dBVrms))および剛性(TSA(D値)(mm/N))について、所定の好適範囲にあるように設計してある本発明の複合型不織布は、吸液性能、強度および拭き心地の全ておいて優れ、医療現場や介護現場で使用するのに好適な複合型不織布となる。
更に、耐久性の指標であるウエットテーバー値が5回以上であるように設計してあるのが好ましい。JISで規定されたテーバ試験機を用いて、回転する水平円盤に水で湿潤させた試料を取り付けて、砥粒結合体で成形された一対の摩擦輪を規定荷重のもとに加えて、ウエットテーバー値が少なくとも5回である耐摩耗性を備えているのが好ましい。
【0022】
そして、上記パルプ繊維ウエブの坪量は30.0~70.0g/mとし、スパンボンド不織布とパルプ繊維ウエブとの重量構成比を30/70~10/90(wt%)とされているのが好ましい。この範囲にあるものは、吸水性能や手持ち感に優れ、複合型不織布の形状安定性にも寄与する。本発明の複合型不織布は、相対的にパルプ繊維ウエブの坪量が多目であるが、スパンボンド不織布の坪量を調整することで、医療、介護現場で必要とされる複合型不織布の強度を確保している。
また、前記スパンボンド不織布の坪量は10.0~30.0g/mとするのが好ましい。また、スパンボンド不織布は紡糸された樹脂繊維を接合する複数の融着点を含んで形成されており、前記融着点1個の面積が0.10~0.50mm、融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、個数が10~150個/cmであるものが好ましい。このようなスパンボンド不織布は適度の剛性を備えており、パルプ繊維ウエブと組み合わせて複合型不織布に採用するスパンボンド不織布として好適である。なお、上記融着点の形状については、特に限定はなく円形、楕円形、多角形等とすることができる。
【0023】
前記スパンボンド不織布は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択された1種類、又は2種類以上の混合で形成するのが望ましい。この中で、ポリプロピレンを用いるのが好適である。
また、上記パルプ繊維ウエブに関しては、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルース及びダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維で形成されたものを採用するのが好ましい。
【0024】
以下では、上述した本発明の複合型不織布を製造する工程について説明する。本発明の複合型不織布は積層工程ではエアレイド方式を採用し、前記乾燥工程ではエアスルードライヤを採用して製造するのが好ましく。更に、前記乾燥工程後にカレンダー加工を施すのが好ましい。以下、本発明の複合型不織布WPを製造する製造装置について詳細に説明する。
【0025】
図1に示す複合型不織布の製造装置1は、上流側にエアレイド装置2、スパンボンド不織布を供給するスパンボンド供給装置3、そしてサクション装置4が配設されている。サクション装置4はエアレイド装置2の下側に対向するように配置されている。
ウエブの搬送方向TDで、これらの装置2、3、4よりも下流には、上流側から順に、水流交絡処理を行うためのウォータジェットを噴射する水流交絡装置5、サクション装置6、乾燥装置7が配置されている。上記乾燥装置7の下流には連続して製造される複合型不織布WPを巻き取るための巻取装置8が更に設けてある。
【0026】
上記エアレイド装置2は、繊維同士が密集しシート状となっている原料パルプRPをパルプ繊維に解繊する解繊機21や、図示しない送風機を備えて解繊されたパルプ繊維PFをエアレイドホッパ23へと搬送するダクト22を有している。
【0027】
また、上記ダクト22よりも下流側にはエアレイドホッパ23が配置されている。このエアレイドホッパ23の内部では、解繊状態にあるパルプ繊維が分散しながら降下し、下面に設定した積層位置24に徐々に積み上りパルプ繊維ウエブPFWが形成されるように設計してある。本発明に係る複合型不織布の製造では上記のようにエアレイド方式でパルプ繊維ウエブを供給するのが好ましい。このように製造すると吸液性や保液性に寄与する嵩を確保することができる。
上記積層位置24の下側にはサクション装置4が対向配備してある。より詳細には、サクション装置4は装置本体41の上面にサクション部42を有しており、サクション部42が上記パルプ繊維ウエブPFWに吸引力(負圧)を作用させるべく積層位置24に対して設定してある。
なお、図1では、エアレイドホッパ23とサクション装置本体41とを1つずつ一段での配置として、パルプ繊維ウエブPFWを形成する場合を例示している。しかし、これに限らず、上記パルプ繊維ウエブPFWの目付(坪量)や製造速度に応じて、上記エアレイドホッパ23とサクション装置本体41を2つ以上の多段とする配置に変更してもよい。
【0028】
また、サクション装置4の周囲にはウエブ搬送用の搬送ワイヤ43が配設してある。搬送ワイヤ43は、積層位置24においてパルプ繊維PFが堆積したパルプ繊維ウエブPFWが載置可能で、これを下流側に搬送するように配置されている。ただし、パルプ繊維ウエブPFWは直接、搬送ワイヤ43上に載置されない。これについては、後述の説明で明らかとなる。
搬送ワイヤ43はサクション部42の吸引力が、反対側(上側)に及ぶような目開き形態(メッシュ)で形成されている。
【0029】
上記エアレイド装置2の下側で、サクション装置4よりも上流側に、スパンボンド供給装置3が配置してある。このスパンボンド供給装置3には、予め準備されたスパンボンド不織布SWがロール状とされてセットされている。スパンボンド供給装置3からスパンボンド不織布SWが引出され、上述した搬送ワイヤ43に乗って上記積層位置24へと搬送されるようになっている。スパンボンド不織布SWとしては、スパンボンド法により形成された合成樹脂の連続フィラメントのウエブを用いるのが好ましい。
【0030】
積層位置24に位置した、スパンボンド不織布SWの上に、前述したパルプ繊維ウエブPFWが載置される(積層工程)。その際に、積層位置24ではサクション装置4のサクション部42による吸引力が搬送ワイヤ43を通過し、その上のスパンボンド不織布SWおよびパルプ繊維ウエブPFWに作用する。よって、スパンボンド不織布SWとパルプ繊維ウエブPFWとが積層された状態となっている予備的積層体PWebが下流側へと搬送される。
【0031】
上記した予備的積層体PWebは、サクション装置4の吸引力によって、吸引圧縮されたことにより積層状態が維持されている。このとき上側のパルプ繊維ウエブPFWの繊維が密にされた状態ではある。しかし、このまま予備的積層体PWebを下流側の水流交絡装置5内に搬送投入すると、ウォータジェット(高圧の水流)によってパルプ繊維PFの一部が舞い上がるおそれがある。
そこで、本製造装置1では、予備的積層体PWebを上下から挟んでスパンボンド不織布SW上でのパルプ繊維ウエブPFWの載置状態を安定化させる為の挟持ローラ28、そして水流交絡装置5の上流側に繊維飛散防止用に水分を付与するプレウエット装置30が配備してある。プレウエット装置30は、好適には、予備的積層体PWebの上方からウォータミストを吹き付ける噴霧ノズル31と予備的積層体PWebの下側(すなわち、パルプ繊維ウエブPFWの下面)から吸引力を印加するサクション装置32とを含んで構成されている。
なお、図1では、上記のように水流交絡装置5前にプレウエット装置30を新たな装置として設ける場合を例示しているが、これに限らない。水流交絡装置5に含まれる後述するウォータジェットヘッド51とサクション装置52とからなるセットの複数について、先頭に位置するセットを上記プレウエット装置30として流用するような設計変更をしてもよい。この場合には先頭のウォータジェットヘッド51から低圧のウォータミストが噴霧されるように調整すればよい。
水流交絡処理を行うのに十分な、ウォータジェットヘッド51とサクション装置52とのセット数が確保されている水流交絡装置5の場合、上記のように先頭のウォータジェットヘッド51とサクション装置52をプレウエット装置として活用することは、装置設備コストの抑制に効果的である。
【0032】
そして、水流交絡装置5では、前処理部となる挟持ローラ28およびプレウエット装置30の処理を受けた予備的積層体PWebに高圧のウォータジェットを吹き付けることによりパルプ繊維同士の交絡を促進する。これにより上側に位置するパルプ繊維ウエブPFW層と下側に位置するスパンボンド不織布SW層との一体化が促進される。
図1で例示的に示している水流交絡装置5は、搬送方向TDに沿って多段(図1では例示しているのは4段)にウォータジェットヘッド51が配置されている。
なお、図1では、搬送方向TDに対して直角な方向(ウエブの幅方向)において延在しているウォータジェットヘッド51に設けたノズルの様子は図示していないが、幅方向において複数のウォータジェットノズルが適宜の位置に配置してある。このウォータジェットノズルの穴直径φは、好ましくは0.06~0.15mmである。また、ウォータジェットノズルの間隔は0.4~1.0mmとするのが好ましい。
【0033】
上記水流交絡処理をする際の水圧は、パルプ繊維ウエブPFWとスパンボンドウエブSWとの坪量を勘案して設定するのが望ましい。例えば、1~30MPaの範囲において選択するのが好ましい。
【0034】
そして、上記ウォータジェットヘッド51と対向するように、サクション装置52が配設してある。ウォータジェットヘッド51から出る高圧のウォータジェットを上側に位置しているパルプ繊維ウエブPFWに吹き付けつつ、下側に位置しているスパンボンド不織布SWの下側にサクション装置52の吸引力を作用させる。ウォータジェットヘッド51とサクション装置52との協働作用によって、パルプ繊維ウエブPFW側のパルプ繊維が下側のスパンボンド不織布SWに入り込んだ状態や、スパンボンド不織布SWを貫通して反対側にまで至った状態などが形成されると推定される。その作用により2つの層の一体化が促進される。
【0035】
水流交絡装置5にも、搬送ワイヤ55が配設してある。搬送ワイヤ55は前処理部28、30の下流で予備的積層体PWebを受けて、水流交絡装置5内へと搬送する。搬送ワイヤ55は水流交絡装置5のウォータジェットヘッド51とサクション装置52との間を、上流側から下流に向かって通過するように配設されている。
よって、搬送ワイヤ55上を搬送される予備的積層体PWebは、搬送方向TDで下流に向かう程に、より多くの水流交絡処理を受けることになり、水流交絡装置5を出るときには上側のパルプ繊維ウエブPFW層と下側のスパンボンド不織布SW層との十分な交絡処理が実現される。
水流交絡装置5を出た直後の不織布にあっては、ウエット状態にあり、パルプ繊維同士などの結合は十分に確立されてはいない。
【0036】
そこで、図1で示すように、水流交絡装置5の下流側にはウエブに残留する水分を吸引除去し、その後に乾燥を行って、複合型不織布WPの製造を完了するためのサクション装置6および乾燥装置7が配備してある。このように複合型不織布WPの製造の後段で、サクション装置6および乾燥装置7による脱水、乾燥を行うと効率よく不織布を製造でき、また、製造される水流交絡後の不織布に大きな外圧を掛けることなく乾燥した不織布を製造できるので、嵩高感のある製品に仕上げることができる。
サクション装置6は、例えばバキューム式で水流交絡後の不織布を脱水する。乾燥装置7は非圧縮型のドライヤ、好適にエアスルードライヤを採用することが好ましい。図1で、エアスルードライヤの回転可能なドライヤ本体71は筒状体であり、その周表面には多数の貫通孔が設けてあり、図示しない熱源で加熱された熱風がドライヤ本体の外周から中心部側に向かって吸い込む構成とするのがよい。
本発明に係る複合型不織布の製造では上記のように乾燥装置7でエアスルードライヤを採用するのが好ましい。このようにして製造すると吸液性や保液性に寄与する嵩をより確保することができる。
【0037】
以上のようにして、連続的に製造される複合型不織布WPは乾燥後に巻取装置8のロール81に巻取られるのが一般的であるが、図1に示す製造装置では、乾燥装置7と巻取装置8との間にカレンダー装置CAが後処理装置として配置されている。
カレンダー装置CA内には、図示しないプレーンカレンダーロールの一対が配置されており、複合型不織布WPがその間を所定範囲の線圧(挟持圧)をもって挟持搬送される。
ここで採用可能なプレーンカレンダーロールについては、外周表面が平坦に形成してあるロールであり、複合化処理後の不織布WPへ安定的で均一な線圧を加えることができるロールであれば、その材質は特に限定されない。例えば、一方を金属製プレーンロールとし、他方を金属製の芯材の外側にゴム材が設けてある金属-ゴムのプレーンロールにしてある、カレンダーロールの対を好適に採用することができる。金属製ロールや金属製の芯材については例えばスチールロールとし、ゴム材は例えば特殊硬質ゴムを用いることができる。
【0038】
カレンダー装置CA内でカレンダー処理は、例えばロールの温度を40~100℃、ロール間ギャップを0~0.3mm好ましくは0.1mm~0.3mmとし、ロール間を通過する複合型不織布WPに線圧1~30kg/cmが加わるように設定する。このような条件でカレンダー処理すると、相対的にパルプ繊維ウエブの比率が高くても、表面が平滑で、使用感や摩耗性においても満足できる複合型不織布を得ることができる。
そして、必要に応じて、上記カレンダー処理を多段で実施できるように、カレンダー装置CA内にプレーンカレンダーロール対を多段に配置してもよい。
【0039】
なお、図1はカレンダー装置CAをオンラインで付加する場合を好適として例示しており、このように不織布ワイパー製造装置に一体的にカレンダー装置CAを設けるのが好ましいが、いったん不織布ワイパーWPをローラ81に巻き取り、別に設けたカレンダー装置CAでオフラインによりカレンダー処理をするようにすることも可能である。
【0040】
(実施例)
以下、上記製造装置でエンボス処理をして製造した実施例の複合型不織布について説明する。
坪量、点滴吸水度、保水量(TWA)、スパンボンド不織布(SB)の縦方向(DMD)および横方向(DCD)の引張強度、柔らかさを示すTS7値、滑らかさを示すTS750値および剛性を示すTSA(D値)が表1に示す通りになるように製造された、実施例1~7の複合型不織布、並びにその比較例1~4について、下記に示す基準により身体を清拭する作業に複合型不織布を使用したときの拭き心地を判断する指標として、柔らかさ及びさらさら感について下記の基準で官能評価をした。
1)柔らかさ:身体を清拭したときの柔軟性を評価
柔軟性、コシともに適度な柔らかさで拭きやすい(優◎)、問題ない拭きやすさ(良〇)、柔らかすぎてコシがなく拭きにくい(不可×1)、硬すぎて柔軟性がなく拭きにくい(不可×2)
2)さらさら感:身体を清拭したときの皮膚表面のさらさら感を評価
拭いた後の皮膚表面が特にさらさらで優れている(優◎)、拭いた後の皮膚表面がさらさらに維持されている(良〇)、拭いた後の皮膚表面がベタベタしている(不可×)
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
上記表1に示すように実施例1~7は製品として提供できるものであるが、上記表2に示すように比較例1~4では、坪量、点滴吸水度、保水量(TWA)、スパンボンド不織布(SB)の縦方向(DMD)および横方向(DCD)の引張強度、柔らかさを示すTS7値、滑らかさを示すTS750値および剛性を示すTSA(D値)いずれかで、所定範囲からはずれている。
【0044】
上記実施例1~7は、坪量が50.0~80.0g/m、点滴吸水度が0.5~2.0秒および保水量(T.W.A.)が300~490g/m、スパンボンド不織布の縦引張強度が9.8~29.4N/25mmおよび横引張強度が3.9~9.8N/25mm、柔らかさを示すTS7値が12.0~20.0dBVrms、滑らかさを示すTS750値が33.0~71.0dBVrms及びTSA(D値)が1.6~2.5mm/Nの好適範囲内にある。
【0045】
比較例1は柔らかさの評価は〇であるが、さらさら感の評価が×であり、拭き心地が劣っている。この複合型不織布の坪量は40g/mであり、50.0g/mよりも小さく、点滴吸水度が5.6秒および保水量(T.W.A.)が262g/mであり吸液性能が低い。この複合型不織布は相対的に軽く、吸液性能が低いので医療現場や介護現場で使用する複合型不織布としては不向きとなる。
また、比較例2はTS7値が好適範囲を超えており、硬めであり柔軟性に欠けており、拭き取り作業がし難い。比較例4はTS7値が好適範囲を超えており硬めであり柔軟性に欠けていると共に、点滴吸水度も低いので、拭き取り作業がし難く、液体の拭き取りの性能も低い。よって、医療現場や介護現場で使用する複合型不織布としては不向きとなる。
また、比較例3は、使用したスパンボンド不織布(SB)の強度が弱く、柔らか過ぎてコシの無い複合型不織布になっている。このような複合型不織布は柔らか過ぎで拭き取り作業が困難な複合型不織布となる。よって、医療現場や介護現場で使用する複合型不織布としては不向きとなる。
【0046】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 複合型不織布の製造装置
2 エアレイド装置
3 スパンボンド不織布供給装置
4 サクション装置
5 水流交絡装置
6 サクション装置
7 乾燥装置
8 巻取装置
21 解繊機
22 ダクト
23 エアレイドホッパ
24 積層位置
28 挟持ローラ
30 プレウエット装置
31 噴霧ノズル
32 サクション装置
41 サクション装置本体
42 サクション部
43 搬送ワイヤ
51 ウォータジェットヘッド
52 サクション装置
55 搬送ワイヤ
SW スパンボンド不織布
PF パルプ繊維
PFW パルプ繊維ウエブ
PWeb 予備的積層体(積層ウエブ)
WP 複合型不織布
TD 搬送方向
CA カレンダー装置
図1