(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】布帛およびその製造方法および繊維製品
(51)【国際特許分類】
D03D 15/47 20210101AFI20241029BHJP
D03D 15/33 20210101ALI20241029BHJP
【FI】
D03D15/47
D03D15/33
(21)【出願番号】P 2020137922
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 右文
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
(72)【発明者】
【氏名】米田 泰之
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/021809(WO,A1)
【文献】特開平07-300767(JP,A)
【文献】特開平09-279418(JP,A)
【文献】特開平07-118977(JP,A)
【文献】特開平10-208437(JP,A)
【文献】特開昭64-014321(JP,A)
【文献】特開2013-185291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に位置する中心繊維と、該中心繊維を衛星状に取り囲む50~100本の極細繊維とを含む繊維群を1以上含むマルチフィラメントを含むことを特徴とする布帛。
【請求項2】
前記極細繊維の単繊維径が5000nm以下である、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記中心繊維の単繊維径が前記極細繊維の10倍以上である、請求項1または請求項2に記載の布帛。
【請求項4】
前記繊維群において、前記中心繊維が1本であり、前記極細繊維が
50~100本である、請求項1~3のいずれかに記載の布帛。
【請求項5】
前記マルチフィラメントにおいて前記繊維群が10以上含まれる、請求項1~4のいずれかに記載の布帛。
【請求項6】
前記マルチフィラメントに撚りが施されている、請求項1~5のいずれかに記載の布帛。
【請求項7】
前記マルチフィラメントが芯鞘型複合糸の鞘部として布帛に含まれる、請求項1~6のいずれかに記載の布帛。
【請求項8】
前記芯鞘型複合糸において、芯部が2成分からなる複合繊維からなる、請求項7に記載の布帛。
【請求項9】
布帛を構成するいずれかの繊維がリサイクルポリマーを含む、請求項1~8のいずれかに記載の布帛。
【請求項10】
染色性がL値で30以下である、請求項1~9のいずれかに記載の布帛。
【請求項11】
中心部に位置する中心繊維用島成分と、該中心繊維用島成分を取り囲むように配された複数の極細繊維用島成分、および海成分からなる複合繊維を用いて布帛を得た後、脱海処理を施す、請求項1~10のいずれかに記載の布帛の製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の布帛を用いてなる、婦人用ブラウス、ワンピース、パーティードレス、紳士用スーツ、ジャケット、スラックス、インナー衣料、スポーツ衣料、インテリア、生活資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊毛を有したなめらかで滑りの良い風合いと染色性に優れ、好ましくは、シルクに代表される天然繊維のようなハリコシ、ふくらみ感、ソフト感、および防透性にも優れる布帛およびその製造方法および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルに代表される合成繊維では、その優れた物理的および化学的特性によって、衣料のみならず、産業用にも広く使用されており、工業的に重要な価値を有している。しかしながら、これらの合成繊維は、その繊維を構成する単繊維繊度が均一であり、また単繊維繊度が大きいことや、その断面形状が単純であることより、絹、綿などの天然繊維に比較して風合いや光沢が単調であるという欠点を有している。
【0003】
このような欠点を改良するために、合成繊維の断面形状を異形化したり、捲縮加工、複合繊維などを使用したり種々試みられているが、いまだに十分な目的を達成しているとは言い難い。
【0004】
例えば、特許文献1では、易分解性ポリマーとポリエステルの複合繊維を形成し、その後、後加工によりドライタッチでキシミ感のある風合いや、独特の光沢を織編物に付与しすることが提案されている。また、特許文献2では、繊維の長さ方向に斑を付与させて風合いを改良することが提案されている。また、特許文献3では、絹を目標に、より高いキシミ感を呈する織編物用繊維を得るために、太細構造を有し繊維表面に溝のある繊維およびその製造方法が提案されている。これらの先行文献では、天然繊維特有のソフトなふくらみ感を得ようと創意工夫しているが、まだ満足とはいえない。一方、特許文献4では、独特な柔軟なタッチやきめ細かさを求めるため、ミクロンオーダーの極細繊維(マイクロファイバー)よりも細いナノファイバーの特性を利用して、新感覚テキスタイルのような風合いを求めているが、ナノファイバーの特徴が大きく、当初の目的である天然素材にみられるナチュラルなふくらみ、風合および外観、ハリコシの点でまだ満足とはいえない。特許文献5では、繊維径が大きい繊維と海島繊維の混繊糸で、この混繊糸を織編した後に、脱海処理を施し、力学特性を保持することが提案されている。この場合、海島繊維部分と太繊維束部分が偏在し、ナチュラルなふくらみの点で、まだ満足とはいえない。また、特許文献6では、予め海島繊維の断面において、繊維径(島径)が小さいものと大きいものとを混在するような海島繊維とし、この海島繊維を製編織した後、脱海する方法が提案されている。しかしながら、この方法においては、繊維径が大きい繊維(マイクロファイバー以上)を利用するため、繊細さの点でまだ満足とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-239010号公報
【文献】特開昭58-70711号公報
【文献】特開昭59-192709号公報
【文献】国際公開第2013/021809号パンフレット
【文献】特開2007-262610号公報
【文献】特開平5-331711公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、繊毛を有したなめらかで
滑りの良い風合いと染色性に優れ、好ましくは、シルクに代表される天然繊維のようなハリコシ、ふくらみ感、ソフト感、および防透性にも優れる布帛およびその製造方法および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、布帛を構成するマルチフィラメントの構造を巧みに工夫することにより、所望の布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「中心部に位置する中心繊維と、該中心繊維を衛星状に取り囲む50~100本の極細繊維とを含む繊維群を1以上含むマルチフィラメントを含むことを特徴とする布帛。」が提供される。
【0009】
その際、前記極細繊維の単繊維径が5000nm以下であることが好ましい。また、前記中心繊維の単繊維径が前記極細繊維の10倍以上であることが好ましい。また、前記繊維群において、前記中心繊維が1本であり、前記極細繊維が50~100本であることが好ましい。また、前記マルチフィラメントにおいて前記繊維群が10以上含まれることが好ましい。また、前記マルチフィラメントに撚りが施されていることが好ましい。また、前記マルチフィラメントが芯鞘型複合糸の鞘部として布帛に含まれることが好ましい。また、前記芯鞘型複合糸において、芯部が2成分からなる複合繊維からなることが好ましい。また、布帛を構成するいずれかの繊維がリサイクルポリマーを含むことが好ましい。また、染色性がL値で30以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、中心部に位置する中心繊維用島成分と、該中心繊維用島成分を取り囲むように配された複数の極細繊維用島成分、および海成分からなる複合繊維を用いて布帛を得た後、脱海処理を施す前記の布帛の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなる、婦人用ブラウス、ワンピース、パーティードレス、紳士用スーツ、ジャケット、スラックス、インナー衣料、スポーツ衣料、インテリア、生活資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、染色性に優れ、シルクに代表される天然繊維のようなハリコシ、繊毛を有したなめらかで滑りの良い風合い、ふくらみ感、ソフト感、および防透性に優れる布帛およびその製造方法および繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明において、繊維群の一例を模式的に示す図である。
【
図2】実施例1で得られた布帛を構成するマルチフィラメントの断面の図面代用写真である。
【
図3】比較例1で得られた布帛を構成するマルチフィラメントの断面の図面代用写真である。
【
図4】比較例2で得られた布帛を構成するマルチフィラメントの断面の図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明において、繊維群は、中心部に位置する中心繊維と、該中心繊維を取り囲む複数の極細繊維とを含む。
ここで、中心繊維の本数は1本であることが好ましい。また、該中心繊維を衛星状に取り囲む極細繊維の本数として10本以上(より好ましくは30~100本)であることが
好ましい。
【0015】
また、前記極細繊維(星部)の単繊維径(rs)としては、優れたソフト感を得る上で5000nm以下(より好ましくは10~1000nm、特に好ましくは100~800nm)であることが好ましい。一方、前記中心繊維(核部)の単繊維径(rc)が前記極細繊維の10倍以上(より好ましくは10~50倍)であることが、ハリコシや染色性を向上させる上で好ましい。前記中心繊維および/または極細繊維において、単繊維の断面形状は限定されず、丸、中空(例えば、丸中空、三角中空、四角中空など)、異型(例えば、三角、四角、扁平、十字など)いずれでもよい。単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0016】
前記極細繊維および中心繊維を形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、繊維強度や染色堅牢性などの点でポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち植物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒やチタン系触媒などの軽金属からなる触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0017】
本発明において、マルチフィラメントは前記繊維群を1以上(好ましくは10~100群)含む。
かかるマルチフィラメントは例えば以下の方法により製造することができる。まず、島成分ポリマー(極細繊維および中心繊維を形成するポリマー)として、前記のポリマーを用意する。その際、酸化チタン、シリカ、酸化バリウム等の無機質、カーボンブラック、顔料や染料等の着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤等の各種添加剤を上記ポリマー中に含んでいてもよい。
【0018】
また、海成分ポリマーとしては、例えば、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニルアルコール等の溶融成形が可能で、紡糸後、溶解抽出が可能なポリマーが挙げられる。
その際、複合繊維を形成する両構成成分の重量比率としては、80:20~20:80の範囲内であることが好ましい。
【0019】
次いで、中心繊維用島成分(好ましくは1~3個、特に好ましくは1個)、その周囲に放射状(衛星状)に配列した極細繊維用島成分(好ましくは10個以上、より好ましくは30~100個)および海成分を吐出する吐出孔を有する口金から、各成分を吐出させる。
【0020】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400~6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法
のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維において、単繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単繊維繊度0.5~10.0dtex、フィラメント数5~75本、総繊度30~170dtex(好ましくは30~100dtex)の範囲内であることが好ましい。
本発明において、マルチフィラメントは前記海島型複合繊維の海成分を脱海処理することにより得られる。
【0021】
本発明の布帛はかかるマルチフィラメントを用いてなる布帛である。その際、前記マルチフィラメントのみで布帛を構成することが最も好ましいが、布帛重量に対して前記マルチフィラメントが30重量%以上(より好ましくは40重量%以上)含まれることが好ましい。
【0022】
また、布帛(織物または編物)の総カバーファクターCFは1000以上(より好ましくは1000~3000)であることが好ましい。ただし、下記式によりカバーファクターCFを算出する。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0023】
その際、前記海島型複合繊維をそのまま無撚で用いて布帛を織編成してもよいが、500~3400T/mの撚りが施されていると、海成分の溶解処理による脱海で、複合繊維がスプリング形状となり、極細繊維が繊毛となり中心繊維を被覆することにより、なめらかで滑りの良い風合いや、ソフト感、軽量感、およびハリコシが向上し好ましい。その際、撚係数としては7000~30000の範囲内であることが好ましい。ただし、撚係数は撚数(T/m)と(D/1.1)1/2との積である。ただし、Dは複合糸の総繊度(dtex)である。
【0024】
また、前記海島型複合繊維(マルチフィラメント)が芯鞘型複合糸の鞘部として布帛に含まれていてもよい。また、かかる芯鞘型複合糸において、芯部が2成分からなる複合繊維で構成されていてもよい。
【0025】
また、かかる布帛の織編組織は特に限定されず、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。また、編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0026】
なお、布帛が織物の場合、最終的に得られた織物の密度としては、経密度130本/2.54cm以上(好ましくは130~200本/2.54cm)かつ緯密度90本/2.54cm以上(100~150本/2.54cm)であると、防透性が向上し好ましい。
【0027】
次いで、該布帛に染色加工を施した後、アルカリ減量工程による脱海処理によって、前
記海島型複合繊維を、中心部に位置する中心繊維と、該中心繊維を取り囲む複数の極細繊維とを含む繊維群を1以上含むマルチフィラメントとすることにより、極細繊維の繊毛が中心繊維を被覆したソフト感と軽量感をもった布帛が得られる。また同時に、防透性にも優れ、かつ十分な染色堅牢度をもった布帛となる。この場合、繊維径の大きな中心繊維が濃色に染まるため、優れた染色性および染色堅牢性が得られる。特に、中心部に位置する中心繊維と該中心繊維を取り囲む複数の極細繊維とを含む繊維群を1以上含むマルチフィラメントに撚りが施されている場合は、シルクに代表される天然繊維のようなハリコシ、ふくらみ感、ソフト感、および防透性がさらに向上する。
【0028】
ここで、染色性としてはL値で30以下(より好ましくは10~25)であることが好ましい。染色堅牢度は、JISL-0844およびJISL-0849によって洗濯堅牢度および感湿摩擦堅牢度で評価する。いずれの堅牢性も4級以上が好ましい。また、防透性としては、65%以上(より好ましくは70%以上、特に好ましくは72~98%)であることが好ましい。
【0029】
次に、本発明の繊維製品は、前記の布帛を用いてなる、婦人用ブラウス、ワンピース、パーティードレス、紳士用スーツ、ジャケット、スラックス、インナー衣料、スポーツ衣料、インテリア、生活資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の布帛を用いているので、染色性に優れ、天然繊維のようなハリコシ、繊毛を有したドライな風合い、ふくらみ感、ソフト感、および防透性に優れる。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0031】
<染色性L値>
マクベスカラーアイ(Macbeth color-Eye)モデルM-2020(米国、コルモーゲン社製)を使用して、光源D65、10度視野で被試験布のL値を測定した。なおn数は5としその平均値を求めた。
【0032】
<染色堅牢度>
JIS L-0844、L-0849により、洗濯堅牢度および感湿摩擦堅牢度の、変退色および汚染について測定した。4級以上を合格とした。
【0033】
<防透性>
JIS L-1923によって防透性を測定した。織物の総カバーファクターが1200以上のマルチフィラメントからなる織物において、70%以上を優れると判断した。
【0034】
<ハリコシ(張り腰)>
5名の試験者の官能評価により、「優れている」、「やや劣る」、「劣る」の3段階に評価して、最も多い評価を結論とした。
【0035】
[実施例1]
島成分としてペットボトル由来のリサイクル原料からなるポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:0重量%)、海成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い2種の繊維径をもった島1、島2(島1と島2の繊維径が10倍以上)が、1個の島1(中心繊維用)を核となるように50個の島2(極細繊維用)が衛星状に取り囲む配置にて、(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=50:50、島数=51の海島型複合未延伸繊維(フィラメント数27本)を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合繊維(延伸糸)は総繊度73dtex/27filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島1の径は10000nm、島2の径は700nmであった。この場合、2つの島の単繊維径の比は14となる。次いで、該複合繊維に3100T/m(撚係数25180)の撚糸を施し90℃で撚り止めセットを行った後、経糸と緯糸に配して、経糸密度105本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmで平組織に製織した後、60℃で予備リラックス、120℃で液流リラックス、170℃でプレセット、アルカリ減量(減量率43%)を行い、黒の分散染料を用いて130℃で染色後、170℃でファイナルセットし仕上げた。仕上がった生地は、経密度139本/2.54cm、緯密度101本/2.54cmとなった。加工後の経緯糸の繊度を測定したところ、減量加工による海部分の溶解消失により、約40dtexとなった。さらに電子顕微鏡にて得られた織物構造を確認したところ、構成するマルチフィラメントにおいて、中心部に位置する1本の中心繊維と、該中心繊維を取り囲む50本の極細繊維とを含む繊維群を27群有するものであった。また、マルチフィラメント内における単繊維間に空隙(
図2、写真1)を確認した。また染色性をL値によって測定したところ、L値は21であった。洗濯堅牢度および感湿摩擦堅牢度を確認したところ、諸堅牢度は変退色、汚染とも4級以上と堅牢度に優れていた。また、この織物の総カバーファクターは1447であり、生地の防透性を確認したところ75.8%であり、優れた結果となった。さらには、ハリコシの評価結果は「優れている」となり、なめらかで滑りの良い風合いを持ち嵩性にも優れた織物であった。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同じく製糸し、それを無撚で用い経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度99本/2.54cmで平組織に製織した後、60℃で予備リラックス、120℃で液流リラックス、170℃でプレセット、アルカリ減量(減量率48%)を行い、黒の分散染料を用いて130℃で染色後、170℃でファイナルセットし仕上げた。仕上がった生地は、経密度136本/2.54cm、緯密度108本/2.54cmとなった。加工後の経緯糸の繊度を測定したところ、減量加工による海部分の溶解消失により、38dtexとなった。また、2つの島の単繊維径の比は14であった。染色性は、L値22となり、生地物性を確認したところ諸堅牢度は変退色、汚染とも4級以上と堅牢度に優れてはいるが、ハリコシの評価は「やや劣る」ものであった。この織物の総カバーファクターは1471であり、防透性を確認したところ70%となったが、実施例1の生地カバーファクターを基準とすると、68.8%となり。やや劣った結果となった。
【0037】
[比較例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:0重量%)、海成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い、(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=8360の島部の繊維径が同一である海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合繊維マルチフィラメント(延伸糸)は総繊度56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ径は700nmであった。次いで、該複合繊維糸に3100T/m(撚係数21920)の撚糸を施し90℃で撚り止めセットを行った後、経糸と緯糸に配して、経糸密度130本/2.54cm、緯糸密度99本/2.54cmで平組織に製織した後、60℃で予備リラックス、120℃で液
流リラックス、170℃でプレセット、アルカリ減量(減量率40%)を行い、黒の分散染料を用いて130℃で染色後、170℃でファイナルセットし仕上げた。仕上がった生地は、経密度195本/2.54cm、緯密度110本/2.54cmとなった。加工後の経緯糸の繊度を測定したところ、減量加工による海部分の溶解消失により、33dtexとなった。さらに電子顕微鏡にて得られた織物構造を確認したところ、構成するマルチフィラメント間には空隙が存在しないことを確認した(
図3、写真2)。染色性はL値35となり発色性が乏しく、諸堅牢度は変退色、汚染とも2級となった。この織物の総カバーファクターは1671であり、防透性を確認したところ79%となったが、実施例1の生地カバーファクターを基準とすると、68.4%となり、やや劣った結果となった。ハリコシは「劣る」、極細繊維特有のヌメリのある風合いとなり、また嵩性もない腰砕けの風合いの織物となった。
【0038】
[比較例2]
ポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:1.8重量%)丸断面の未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた丸断面マルチフィラメント(延伸糸)は総繊度44dtex/36filである。次いで、該延伸糸に3100T/m(撚係数19606)の撚糸を施し90℃で撚り止めセットを行った後、経糸と緯糸に配して、経糸密度105本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmで平組織、製織した後、60℃で予備リラックス、120℃で液流リラックス、170℃でプレセット、アルカリ減量(減量率10%)を行い、黒の分散染料を用いて130℃で染色後、170℃でファイナルセットし仕上げた。仕上がった生地は、経密度167本/2.54cm、緯密度115本/2.54cmとなった((
図4、写真3)。染色性をL値によって測定したところ、L値は16となり、諸堅牢度は変退色、汚染とも実施例1と同等となった。この織物の総カバーファクターは1784であり、防透性を確認したところ73%となったが、実施例1の生地カバーファクターを基準とすると、59%となり、より透けた生地となり、ハリコシは「優れている」が、風合いもソフトさがなく嵩性がない織物となった。
【0039】
[比較例3]
ポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:1.8重量%)丸断面の未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた丸断面マルチフィラメント(延伸糸)は総繊度33dtex/24filである。次いで、該延伸糸に3100T/m(撚係数16979)の撚糸を施し90℃で撚り止めセットを行った後、経糸と緯糸に配して、経糸密度130本/2.54cm、緯糸密度99本/2.54cmで平組織、製織した後、60℃で予備リラックス、120℃で液流リラックス、170℃でプレセットを行い、黒の分散染料を用いて130℃で染色後、170℃でファイナルセットし仕上げた。仕上がった生地は、経密度134本/2.54cm、緯密度197本/2.54cmとなった。染色性をL値によって測定したところ、L値は18となり、諸堅牢度は4級となった。この織物の総カバーファクターは1320であり、防透性を確認したところ63%となったが、実施例1の生地カバーファクターを基準とすると、69.1%となりやや劣った結果となった。ハリコシは「優れていた」が繊毛はまったくなく、ソフトな風合いも嵩性もない合繊特有の風合いの織物となった。
【0040】
[比較例4]
ポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:1.8重量%)を用いて通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2800
m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、半延伸されたポリエステル糸条56dtex/36fil(単繊維の断面形状:丸断面)を得た。次いで、該ポリエステル糸条を用いて、延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行った。得られた丸断面マルチフィラメント(仮撚糸)は総繊度33dtex/36filである。次いで、該仮撚糸に300T/m(撚係数1643)の撚糸を施し、それを経糸と緯糸に配して、経糸密度135本/2.54cm、緯糸密度130本/2.54cmで平組織、製織した後、60℃で予備リラックス、120℃で液流リラックス、170℃でプレセットを行い、黒の分散染料を用いて130℃で染色後、170℃でファイナルセットし仕上げた。仕上がった生地は、経密度160本/2.54cm、緯密度140本/2.54cmとなった。この織物の総カバーファクターは1720であった。染色性をL値によって測定したところ、L値は17となり、諸堅牢度は4級となった。ただし、防透率は仮撚嵩高のため82%と高い結果となったが、実施例1の生地カバーファクターを基準とすると、69%となり布充填度に対して、やや劣る結果となった。生地のハリコシは「やや劣る」であり、仮撚糸特有の嵩高感がありドライなタッチとなった。生地には繊毛が全くないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、染色性に優れ、シルクに代表される天然繊維のようなハリコシ、繊毛を有したなめらかで滑りの良い風合い、ふくらみ感、ソフト感、および防透性に優れる布帛およびその製造方法および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。