IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グローブライド株式会社の特許一覧

特許7578436魚釣用リール、その制動装置及び制動システム
<>
  • 特許-魚釣用リール、その制動装置及び制動システム 図1
  • 特許-魚釣用リール、その制動装置及び制動システム 図2
  • 特許-魚釣用リール、その制動装置及び制動システム 図3
  • 特許-魚釣用リール、その制動装置及び制動システム 図4
  • 特許-魚釣用リール、その制動装置及び制動システム 図5
  • 特許-魚釣用リール、その制動装置及び制動システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】魚釣用リール、その制動装置及び制動システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/0155 20060101AFI20241029BHJP
   A01K 89/017 20060101ALI20241029BHJP
   A01K 89/015 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A01K89/0155 ZAB
A01K89/017
A01K89/015 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020143234
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038629
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-10-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】安田 悠
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-208630(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0278360(US,A1)
【文献】特開2000-209989(JP,A)
【文献】特開2000-245314(JP,A)
【文献】特開2017-163886(JP,A)
【文献】特開2017-228258(JP,A)
【文献】特開2019-008696(JP,A)
【文献】登録実用新案第3190800(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/0155
A01K 89/017
A01K 89/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転自在に装着され、一端にルアーが装着される釣糸が繰出し可能に巻回されたスプールを備えた魚釣用リールのスプール制動装置であって、
前記スプールと前記リール本体とに設けられ、前記スプールを制動するスプール制動部と、
該スプール制動部に接続され、前記スプール制動部による制動力を制御可能なスプール制動力制御部と、を備え、
該スプール制動力制御部は、前記ルアーの情報から制動力の最適値を算出し、該制動力の最適値に基づき、前記スプール制動部による制動力を変更するものであり、
前記ルアーの情報は、前記ルアーの重量情報と空気抵抗情報とを含み、前記スプール制動力制御部は、該ルアーの重量情報と空気抵抗情報とに応じて算出された制動力の最適値に基づき、前記スプール制動部による制動力を変更するものであることを特徴とする魚釣用リールの制動装置。
【請求項2】
前記ルアーに取付け可能にされ、該ルアーを識別するための識別タグを読取り可能なタグ識別部を備え、前記ルアーの情報は、読取られた該識別タグの情報から決定される、請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記識別タグは、バーコード、QRコード(登録商標)又はRFIDタグのいずれかである、請求項2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記タグ識別部は、バーコード、QRコード(登録商標)又はRFIDタグの少なくともいずれかを読取り可能である、請求項3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記タグ識別部は、カメラにより前記識別タグを画像認識する、請求項2に記載の制動装置。
【請求項6】
外部の情報通信装置からの入力を受信する受信部を備え、前記ルアーの情報は、該情報通信装置より受信した情報である、請求項1に記載の制動装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の制動装置を備えた、魚釣用リール。
【請求項8】
請求項1に記載の制動装置と、ルアーの情報を識別して前記制動装置に前記ルアーの情報を送信するルアー情報識別装置と、を備えた、魚釣用リールの制動システム。
【請求項9】
前記ルアー情報識別装置は、前記ルアーの収容ケース又は衣類に設けられる、請求項8に記載の制動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用リール、魚釣用リールに用いることが可能な制動装置及び制動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両軸受リールを用いてルアーや釣糸、錘、釣針等の投擲対象物を遠方まで投擲する際、投擲時のバックラッシュ(糸がらみ)防止のためにスプールを制動する制動装置が設けられることが多い。このような制動装置では、制動力が最適化された際に最も遠方まで投擲することができるが、制動力が大きすぎると飛距離の減少を招き、他方で、制動力が小さすぎるとバックラッシュを招いてしまう。制動力の最適化は、投擲するルアー等の重量や空気抵抗、釣り糸の種類、竿の特性といった使用する釣具の種類によって変わり得る。また、ユーザの投擲方法、風等の気象条件によっても変わり得る。ユーザは使用時に試行錯誤しながら制動力を調整する必要がある。
【0003】
このような魚釣用リールとして、例えば、特許文献1では、キャスティングに用いられ、リール本体に回転自在に装着され釣り糸が装着されるスプールを制動する両軸受リールのスプール制動装置であって、スプールとリール本体とに設けられ、電気的に制御可能に前記スプールを制動するスプール制動手段と、リール本体に移動自在に設けられ複数の第1操作位置に操作可能な第1操作具と、リール本体に移動自在に設けられ複数の第2操作位置に操作可能な第2操作具と、第1操作具の第1操作位置及び第2操作具の第2操作位置に応じてスプール制動手段の制動力を電気的に制御するスプール制御手段とを備えた両軸受リールのスプール制動装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-135417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る構成では、制動力の変更は2つの操作具のいずれかを操作する必要があり、煩雑になるばかりか、ユーザにとって特性の分からないルアーを投擲する際にあっては、制動装置の設定値最適化のため複数回投擲を繰り返す必要があるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易かつ的確に制動装置の設定値最適化を行うことを可能とする魚釣用リール、制動装置及び制動システムを提供することにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置は、リール本体に回転自在に装着され、一端にルアーが装着される釣糸が繰出し可能に巻回されたスプールを備え、前記スプールと前記リール本体とに設けられ、前記スプールを制動するスプール制動部と、該スプール制動部に接続され、前記スプール制動部による制動力を制御可能なスプール制動力制御部と、を備え、該スプール制動力制御部は、前記ルアーの情報に応じた制動力の設定値に基づき、前記スプール制動部による制動力を変更するように構成される。
【0008】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置は、該ルアーに取付け可能にされ、該ルアーを識別するための識別タグを読取り可能なタグ識別部を備え、前記ルアーの情報は、読取られた該識別タグの情報から決定されるように構成される。
【0009】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置において、該識別タグは、バーコード、QRコード(登録商標)又はRFIDタグのいずれかであるように構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置において、該タグ識別部は、バーコード、QRコード(登録商標)又はRFIDタグの少なくともいずれかを読取り可能であるように構成される。
【0011】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置において、該タグ識別部は、カメラにより該識別タグを画像認識するように構成される。
【0012】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置において、外部の情報通信装置からの入力を受信する受信部を備え、該ルアーの情報は、該情報通信装置より受信した情報である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールのスプール制動装置において、該ルアーの情報は、該ルアーの重量情報と空気抵抗情報を含み、該スプール制動力制御部は、該ルアーの重量情報と空気抵抗情報に応じた制動力の設定値に基づき、該スプール制動部による制動力を変更するように構成される。
【0014】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、上述のいずれかの制動装置を備えるよう構成される。
【0015】
本発明の一実施形態に係る制動システムは、該ルアーの情報を識別するルアー情報識別装置と、上述の制動装置と、を備えるよう構成される。
【0016】
本発明の一実施形態に係る制動システムにおいて、該ルアー情報識別装置は、該ルアーの収容ケース又は衣類に設けられるよう構成される。
【発明の効果】
【0017】
上記実施形態によれば、簡易かつ的確に制動装置の設定値最適化を行うことができる魚釣用リール、制動装置及び制動システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る投擲時の投擲手順の概要を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るスプールの回転速度の影響を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る制動装置の制動力を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係る制動装置を有する魚釣用リールを説明する図である。
図5】本発明の一実施形態に係る制動システムを説明する図である。
図6】本発明の一実施形態に係る制動システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0020】
まず、本リールを含む一般的なリールを用いて、ルアー等の漁具を投擲し、回収する手順の一例について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0021】
まず、図1(a)に示すように、リール1により、ルアー20を釣竿10の竿先から所定の長さに調整し、リール1のクラッチ2(図示しない)をオフにし、スプールフリー状態にする。このとき、釣糸がルアー20の自重等により出ていくことの無いよう、リール1のスプール3を親指で押さえておく。
【0022】
次に、図1(b)~(d)に示すように、釣竿10を振ることで、ルアー20に初速を与える。そして、図1(e)に示すように、ルアーの速度及び放出方向が適正になったタイミングで、親指をスプール3から離すと、ルアー20を投擲することができる。
【0023】
次に、図2は、投擲開始からのスプール3の速度変化を示す図でである。図示のように、横軸に投擲開始(e)からの経過時間、縦軸にスプール3の速度を示している。投擲後、ルアー20は、図1(f)~(g)に示すように軌道を変えながら加速をしていく。
【0024】
さらに、投擲後、図1(g)以降、ルアー20は釣糸からの張力や、空気抵抗を受けることで減速を始める。他方、スプール3は、釣糸からの張力によって逆回転を始める。釣り糸の放出速度とルアー20の飛行速度が一致するとスプール3は最高回転数となり、釣り糸は張力を失う。ルアー20はその後も空気抵抗等により失速を続ける。この際、スプール3が慣性により高速回転を続けると、釣糸の放出速度がルアー20の飛行速度を上回る。これにより、釣糸は余分に放出され、リール1内で糸がらみが生じる。これを避けるために、スプール3には制動装置5により所定の制動力を掛けるようにすることができる。
【0025】
その後、ルアー20の高度が十分下がると着水することとなる。このとき、制動装置5による制動力が大きすぎると、ルアー20を投擲できる距離が短くなってしまう。他方で、制動装置5による制動力が小さすぎると、糸がらみが発生し、巻き取りや放出が正常に行えなくなってしまう。制動力の適正値は、図2に示すように、ルアー20の質量や空気抵抗によって変化し得る。さらに、竿の長さ、投擲方法や風などの自然環境等、様々な影響によって変化する。
【0026】
次に、図3(a)-(c)を参照して、飛行中のルアー20、釣糸、スプール3に関する力学的モデルについて説明する。
【0027】
図3(a)に示すように、ルアー20の質量をM、速度をvl、釣糸に引かれる張力をT1、空気抵抗をD1、重力加速度をgとした場合、その運動方程式は、
M・d(v1)/dt=D1+T1+Mg (1)
となる。
【0028】
また、釣り糸に関しては、図3(b)に示すように、飛行中の釣糸の質量をm、重心の速度をv2、釣糸がルアーに引かれる張力をT1、釣り糸が受ける空気抵抗をD2、釣糸が釣竿に設けたガイド等から受ける摺動抵抗をf、釣糸がスプールに引かれる張力をT2とした場合、その運動方程式は、
m・d(v2)/dt=T1+D2+mg+f+T2 (2)
となる。特に、釣糸が直線状態で、重心はルアーとの中点にあると仮定できる場合、釣糸の放出距離をLt、密度をρとした場合、(2)は、
ρLt・d(v1/2)/dt = T1+D2+mg+f+T2 (2’)
と書き換えられる。
【0029】
また、スプールに関しては、図3(c)に示すように、スプールのイナーシャをI、各速度をω、釣り糸に引かれる張力をT2、釣糸が巻きつけられる半径をr、制動トルクをBとすると、その運動方程式は、
I・dω/dt=rT2-B (3)
となる。
【0030】
スプールからの釣糸の放出速度が、ルアーの飛行速度を越えると、糸に弛みが生じ、やがて糸がらみが発生する。言い換えると、
rω≦v1 (4)
の状態が常に維持できていれば、糸がらみは発生しない。釣り糸の伸びが無視できる場合は、下記のようになる。
rω=v1 (4’)
【0031】
次に、ブレーキ設定値の最適化を説明するため、下記の仮定を行うことで(1)~(4)式を簡略化することができる。
a) ルアーの水平方向の移動のみを考え、張力は水平成分のみに働くとする。
b) 飛行方向を正に、投擲開始点をゼロとする座標系
c) 釣り糸の重量を無視する。
d) スプールの巻き取り半径rの時間変化は無視する。

d/dt Mv1=-D1-T1 (1’)
加速度 d/dt v1 の値が最も大きくなる時が最高飛距離となる条件である。D1もT1も減速方向にしか働かないため、張力T1の影響が最小になるときが最高飛距離となる。言い換えれば、ルアー20が釣糸に引っ張られずに、空気抵抗によってのみ減速するようなブレーキ設定値が望ましい。そのときの加速度a1は
d/dt v1=a1 -D1/M (5)
となる。
【0032】
また、仮定よりT1=T2=0とすると、上記(3)は
d/dt ω= I/r a1= -B
B=ID1/Mr (6)
となる。すなわち、スプールへの制動力Bを、空気抵抗D1に比例させて変化させることで、スプールから放出される釣り糸の速度とルアーの速度が同期し、張力T1の値が最小となる。
【0033】
空気抵抗D1について、進行方向に対する投影面積をA、ルアー周囲の風速をVとして、乱流が支配的だと仮定すると、
D1=k A(V-v1)^2 (7)
となる。なお、kは空気抵抗係数である。これを上記(6)に代入すると、
B=I (V-v1)^2 /r kA/M (8)
となる。すなわち、ルアーの空気抵抗係数k、投影面積Aと質量Mの比に応じて、最適なブレーキ設定値は変化する。したがって、ルアーを交換した際は、そのルアーのk、A、Mの値が分かれば、ブレーキの設定値を最適化することができる。
【0034】
次に、図4を参照して、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1の構成について説明する。図示のように、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、釣糸を巻取るスプール3と、該スプール3を回転操作する操作部4と、該操作部4と該スプール3との動力伝達可否を切り替えるクラッチ2と、該スプール3に制動力を発生する制動部(スプール制動部)15と、制動力を調整する制動力制御部(スプール制動力制御部)16と、を有する。
【0035】
また、図示のように、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、スプール3の回転を検出する回転検出部8とを有する。回転検出部8は、フォトインタラプタ等の検出手段と、スプール3に設けた遮光板等の被検出手段との組み合わせによって構成することができる。これにより、スプール3の回転を電気信号に変換することができる。なお、検出手段と被検出手段の組み合わせは上記の例に限らず、磁石と磁気センサ等、公知の手段が利用できる。
【0036】
また、魚釣用リール1は、各種信号を処理するマイコン9を有する。マイコン9は、図示しない電池等の電源より給電され、例えば、制動力制御部に目標制動力を指示する目標設定部91、スプール回転センサの出力より、投擲結果を演算する演算部92、ルアー20の情報を取得するルアー情報取得部93を備える。
【0037】
次に、魚釣用リール1を構成する各要素について説明する。スプール3は、魚釣用リール1に対して回転可能に軸支され、正回転により釣り糸を巻き取り、逆回転により巻き取った釣り糸を放出することができる。操作部4は、例えばハンドルとして構成され、ユーザの回転操作をギヤ等の伝達機構によってスプール3に伝え、該スプール3を正回転することができる。なお、操作部4は、レバー等の操作部材と、モータ等の動力源との組み合わせでもよい。
【0038】
クラッチ2は、スプール3に動力伝達可能なオン状態と、動力伝達を行わないオフ状態を切り替えることができる。オン状態では、操作部材3によってスプール3を正回転に操作することができ、オフ状態では、操作部材3の状態にかかわらず、正逆方向に回転可能となる(スプールフリー状態)。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係る制動装置5について詳述する。
本発明の一実施形態に係る制動装置5のスプール制動部15は、スプール3に取り付く導体からなる回転体状の渦電流発生板と、渦電流発生板と対向して配置される固定磁石と、固定磁石の反対側から渦電流発生板を挟み込む回転磁石と、回転磁石を回転移動させるモータと、モータの駆動を減速して第2の永久磁石に伝達するギヤ列と、永久磁石の位置を検出する磁石位置センサとによって構成される。
【0040】
固定磁石は、外周部が6等分されN極S極交互に着磁される。また、回転磁石は、内周部が6等分されN極S極交互に着磁される。固定磁石と回転磁石によって作られた磁場は、その間に位置する渦電流発生板を貫通する。したがって、スプール3の回転時には、渦電流発生板に渦電流が発生し、回転速度に応じた制動力が働く。
【0041】
当該モータおよびギヤ列によって回転磁石を回転させることで、渦電流発生板に働く磁場を変化させることができる。これにより、制動力を所定の量に設定することができる。すなわち、回転磁石と固定磁石を同極同士で対抗させると、渦電流発生板にかかる磁場は弱くなり、制動力は弱くなる。回転磁石と固定磁石を異極同士で対抗させると、渦電流発生板51にかかる磁場は強くなり、制動力は強くなる。
【0042】
磁石位置センサは、回転磁石の位置を検出するセンサであり、磁気センサや電気抵抗式等の公知の位置センサで構成される。
【0043】
制動力制御部16は、磁石位置センサの値を見ながらモータに必要な電流を流すことで、モータをフィードバック制御する。これにより、スプール3に所定の制動力を与えることができる。このように、制動部15及び制動力制御部16によって、スプール3に与える制動力を経時的に変更することができる。
【0044】
なお、渦電流発生板は、スプール3の一部で構成するようにすることができる。また、渦電流発生板は、スプール3の回転スピードに応じて遠心力の作用によりスプール3に対して相対移動させることにより、所定の制動力特性を持たせるようにしてもよい。
【0045】
また、上述した制動装置5は、上述のような渦電流を利用する方式に限らず、マイコンで制動力を経時的に調整可能なものであれば、同様の効果を実現できる。
制動装置の他の方式には、スプールに取り付けた永久磁石とリール本体に設けたコイルとの間に回生ブレーキを発生させる方式や、スプールに取り付けた摩擦板への接触力を電磁アクチュエータ等で変化させる接触ブレーキを用いる方式等、があり、特定の方式に限定されるものではない。
【0046】
次に、本発明の一実施形態に係る魚釣リール1の制動装置5、若しくは制動システム6のルアー情報取得部93の詳細について、図5を参照して説明する。ルアー20には、各ルアーを識別するためのID識別タグ(識別タグ)12が取付けられる。当該ルアー情報取得部93は、ルアー20に取り付けるID識別タグ12を判別(識別)する識別装置(識別部)11、識別装置(識別部)11からの情報を受信する受信部13から構成される。図示の例では、後述するルアーボックス14に識別装置(識別部)11が設けられているが、その他の釣道具や衣服等に取付けることもできる。また、識別装置(識別部)11は、本発明の一実施形態に係る魚釣リール1の制動装置5に設けることもできる。詳細は後述する。
【0047】
ID識別タグ12には、各ルアー20を識別するためのID情報が付与されており、識別装置(識別部)11により、ID情報を取得できる。本発明の一実施形態に係る魚釣リール1の制動装置5、若しくは制動システム6では、ID識別タグとしてパッシブ式のRFタグ、識別装置(識別部)11としてRFID用読み取り装置を用いることができる。これにより、ID識別タグ12への給電が不要で、非接触のID識別が可能となる。識別装置(識別部)11は、アンテナ、電源、制御回路より構成され、本実施例においてはルアーボックス14内に適切な防水処理を施して内蔵される。
【0048】
ユーザがルアーを変更した際は、そのルアーのID識別タグ12をアンテナに近付ける。識別装置(識別部)11はそのルアーのID情報を取得し、リール1内の受信部13に当該情報を伝える。制動力制御装置6内では、取得したルアーのID情報から、ブレーキ設定の最適値を算出し、その値に従って制動装置の制動力を設定する。最適値の算出方法は、ルアーIDとルアー重量M、空気抵抗係数k、断面積Aの値の参照表をあらかじめ入力しておいても良いし、上記係数をルアーIDと共にID識別タグ12内に書き込んでおいても良い。
【0049】
これにより、ルアーを変更した際に、そのルアーに最適なブレーキ設定値をすぐに設定することができる。また、ルアーボックス14内に識別装置11を内蔵させることで、ルアー変更後にルアーを認識させる作業を効率的に行うことができる。また、ユーザが持ち運ぶ機器を増やすことなく、ルアー認識の機能を実現することができる。
【0050】
なお、識別装置11は、ルアーボックスに内蔵させる以外にも、リール1内に内蔵させる、携帯電話に内蔵させる、釣りをしている際に身に装着可能な時計、ライフジャケット等の衣類に内蔵させる、クーラーボックスに内蔵させる、スタンドアロンの機器とする、などの実施形態がある。
【0051】
ここで、識別部11がリール1内に内蔵される場合についても説明する。本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15は、リール本体に回転自在に装着され、一端にルアー20が装着される釣糸が繰出し可能に巻回されたスプール3を備え、前記スプール3と前記リール本体とに設けられ、前記スプール3を制動するスプール制動部15と、該スプール制動部15に接続され、前記スプール制動部15による制動力を制御可能なスプール制動力制御部16と、を備え、該スプール制動力制御部16は、ルアー20の情報に応じた制動力の設定値に基づき、スプール制動部15による制動力を変更するように構成される。
【0052】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15によれば、簡易かつ的確に制動装置の設定値最適化を行うことが可能となる。
【0053】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15は、該ルアー20に取付け可能にされ、該ルアー20を識別するための識別タグ12を読取り可能な識別部(タグ識別部)11を備え、該ルアー20の情報は、読取られた該識別タグ12の情報から決定されるように構成される。
【0054】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15によれば、ルアー等の投擲対象物の識別結果に応じて投擲条件を変更できるため、容易に設定変更の最適化を行うことが可能となる。
【0055】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15において、該識別タグ12は、バーコード、QRコード(登録商標)又はRFIDタグのいずれかであるように構成される。
【0056】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15において、該タグ識別部11は、バーコード、QRコード(登録商標)又はRFIDタグの少なくともいずれかを読取り可能であるように構成される。
【0057】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15において、該タグ識別部11は、カメラにより該識別タグを画像認識するように構成される。
【0058】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1のスプール制動装置15において、該ルア20ーの情報は、該ルアー20の重量情報と空気抵抗情報を含み、該スプール制動力制御部16は、該ルアーの重量情報と空気抵抗情報に応じた制動力の設定値に基づき、該スプール制動部による制動力を変更するように構成される。
【0059】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、上述の制動装置15を備えるよう構成される。なお、上述したが、識別部11が、魚釣用リール1外にある場合、本発明の一実施形態に係る制動システム16は、該ルアーの情報を識別するルアー情報識別装置(識別装置)11と、上述の制動装置15と、を備えるよう構成される。
【0060】
本発明の一実施形態に係る制動システム16によれば、ルアー等の投擲対象物の識別結果に応じて投擲条件を変更できるため、容易に設定変更の最適化を行うことが可能となる。
【0061】
次に、ブレーキ設定方法、すなわち、制動力制御部16で行われる制動力の設定について説明する。空気抵抗係数kと断面積Aについて、実際のルアーでは、投擲時の姿勢は一意には定まらず、ユーザーの投擲技術などによって変化する。また、形状によって空気抵抗係数kは変化する。しかしながら、複数回の投擲を繰り返すことでkAの平均値が得られ、その値はルアー固有の値となる。この値を、空気抵抗水準Cとする。
【0062】
Cの値は、ルアーのタイプ、形状、重量が決まれば概ね定まる。代表的なルアー複数に対してあらかじめ測定しておけば、類似のルアーの値を推測することができる。ルアーID、空気抵抗水準C、質量Mの一覧表をあらかじめ入力しておくことができる。または、インターネットを通じて、ルアーIDから空気抵抗水準C、質量Mを参照するようにしてもよい。
【0063】
ここで、複数回の投擲を通して、質量M1、空気抵抗水準C1であるルアーAでの最適ブレーキ設定B1が決まった場合を考える。この後で、質量M2、空気抵抗水準C2であるルアーBに変更すると、上述のa)~d)の仮定が成立していた場合、新しいブレーキ設定値B2は、(8)式より、
B2=B1×M1/M2×C2/C1
とすればよい。このように、ルアーを変更した際に、ルアー固有のM/Cの値を伝えることで、ルアーを変更した際のブレーキ設定値の最適化が容易に行える。なお、上記M、Cの値を独立して伝えると、a)~d)の仮定が成立しない際でも、より正確な補正式を算出する際に役立つこととなる。
【0064】
次に、図5を参照して、ルアー認識方法が、QRコード(登録商標)の読取りである場合について説明する。既述の例では、ルアー情報取得部93の実施例としてRFIDを用いたが、この態様に限られない。ID識別タグ12として、バーコードやQRコード(登録商標)等の二次元コードを用い、識別装置(識別部)11としてバーコード読取り装置や、カメラ等の画像認識手段を用いることができる。防水や小型化等の理由により、ルアー自体にID識別タグ12を付けるのが困難な場合は、別途ルアーの写真とバーコードを印刷したリストを作成しておくようにしても構わない。これにより、ルアー本体を認識する代わりに、そのリストから対象ルアーと識別タグの組み合わせを選び、識別装置11によってIDを取得することができる。この方法でも、上述の実施形態の例と同様の効果を得ることができる。
【0065】
次に、ルアー認識方法のその他の態様について説明する。上述したルアー情報取得部93に代わり、選択したルアー20の識別をユーザーが行うようにしてもよい。図6に、ルアー20の識別結果を、スマートフォン等の外部情報通信端末(外部デバイス)を使って入力する場合を示す。スマートフォン内に、使用するルアーのIDおよび特性値をあらかじめ入力したリストを作成しておく。ルアーを変更した際は、そのルアーのIDを選択し、情報を制動力制御装置6へ送信する。これにより、上述の態様と同様の効果を得ることができる。
【0066】
このとき、ユーザがルアーを識別しやすいように、ルアーの形状や色などの情報、撮影した画像などを入力しておくようにしてもよい。また、リスト内に登録された画像と、選択したルアーをカメラ等で撮影した画像とを比較し、画像認識することで、選択肢を抽出するようにしてもよい。リスト上に同タイプで重量違いのルアーが複数あるとき等、画像認識で精度よくID識別を行うことが困難な状況はあり得るものの、ルアーが多数登録されている状況では、選択肢を絞ることができるだけでも使い勝手向上に資することとなる。
【0067】
また、ルアー20のID入力方法は、携帯電話等の外部機器を指で操作する以外に、音声入力等を用いてもよい。これにより、釣りをしている際中に携帯電話等の外部機器を取り出す必要がなく、ルアー交換の入力操作を行うことができる。
【0068】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0069】
1 魚釣用リール
2 クラッチ
3 スプール
4 操作部
5 スプール制動部
6 スプール制動力制御部
8 回転検出部
9 マイコン
10 釣竿
11 識別装置(識別部)
12 識別タグ
13 受信部
14 ルアーボックス
15 制動装置
16 制動システム
20 ルアー
91 目標設定部
92 演算部
93 ルアー情報取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6