(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20241029BHJP
H01C 1/142 20060101ALI20241029BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20241029BHJP
H01G 4/232 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01C1/142
H01F27/29 123
H01G4/232 B
H01G4/30 201G
H01G4/30 513
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2020149924
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】乾 京介
(72)【発明者】
【氏名】森田 誠
(72)【発明者】
【氏名】工藤 孝潔
(72)【発明者】
【氏名】安保 敏之
(72)【発明者】
【氏名】殿山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】三浦 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】須貝 正則
(72)【発明者】
【氏名】阿部 栄悦
(72)【発明者】
【氏名】外海 透
(72)【発明者】
【氏名】小柳 佑市
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-006501(JP,A)
【文献】特開2013-211333(JP,A)
【文献】特開2018-182210(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/232
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
H01C 1/142
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体の外面に具備してある取出電極部と、
前記素子本体の外面の一部に形成され、前記取出電極部に接続してある樹脂電極層と、を有し、
前記取出電極部が、主成分として銅を含み、
前記樹脂電極層が、銀を含む導体粉末と樹脂とを含み、
前記樹脂電極層の前記導体粉末は、粒径がマイクロメートルオーダの第1粒子と、粒径がナノメートルオーダの第2粒子とで構成してあり、
前記樹脂電極層における前記取出電極部との界面には、酸化銅および銀を含む拡散層が形成してあ
り、
前記界面では、前記取出電極部の最表面に対して、樹脂成分が接する第1領域(R1)と、前記第1粒子が接する第2領域(R2)と、前記第2粒子が接する第3領域(R3)と、が存在し、
前記拡散層は、前記第3領域(R3)に存在し、前記界面に沿って前記拡散層が断続的に形成してある電子部品。
【請求項2】
前記拡散層は、厚みが少なくとも30nm以上である請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記拡散層では、前記取出電極部の最表面から前記樹脂電極層側に向かって、銀の濃度勾配が生じている請求項2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記第1粒子は、扁平状であり、
前記第1粒子の間では、前記第2粒子が凝集している請求項
1~3のいずれかに記載の電子部品。
【請求項5】
前記取出電極部の表面側には、酸化銅を主として含む酸化被膜が形成してあり、
前記拡散層は、前記酸化被膜と前記樹脂電極層との間に位置する請求項1~
4のいずれかに記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子電極を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、素体の外面に端子電極(外部電極と呼ばれる場合もある)が形成してある電子部品が知られている。この電子部品において、端子電極は、素体に具備してある内部電極やリードなどの取出電極と接続している。
【0003】
このような端子電極は、たとえば特許文献1に示すように、素体の外面に金属粉とガラス成分とを含む焼成型ペーストを塗布し、このペーストを塗布した箇所を700℃程度、もしくはそれ以上の温度で焼き付け処理することで形成することができる。ただし、上記のように高温で焼き付け処理して端子電極を形成する場合、熱応力の影響で素体にクラックなどの欠陥が発生することがある。
【0004】
また、特許文献2では、金属粉末と熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性ペーストを用いて端子電極を形成する方法を開示している。この場合、端子電極の形成にあたって、樹脂の硬化温度で加熱処理を施せばよく、高温での焼き付け処理を必要としない。ただし、特許文献2の端子電極では、取出電極に対する接合強度が十分に確保できず、接合部の接触抵抗が高くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-045926号公報
【文献】特開平6-267784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、端子電極の接合信頼性が高く、端子電極が低抵抗である電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る電子部品は、
素子本体の外面に具備してある取出電極部と、
前記素子本体の外面の一部に形成され、前記取出電極部に接続してある樹脂電極層と、を有し、
前記取出電極部が、主成分として銅を含み、
前記樹脂電極層が、銀を含む導体粉末と樹脂とを含み、
前記取出電極部と前記樹脂電極層との界面には、酸化銅および銀を含む拡散層が形成してある。
【0008】
上記の構成を有することで、本発明に係る電子部品は、取出電極部と端子電極(樹脂電極層)との接合信頼性を十分に確保することができる。また、端子電極の低抵抗化を実現することもできる。
【0009】
前記拡散層の厚みは、少なくとも30nm以上とすることができる。また、前記拡散層は、前記取出電極部の最表面から前記樹脂電極層側に向かって、銀の濃度勾配が生じている領域として認識することができる。
【0010】
好ましくは、前記樹脂電極層の前記導体粉末は、粒径がマイクロメートルオーダの第1粒子と、粒径がナノメートルオーダの第2粒子とで構成してある。樹脂電極層が上記の構成を有することで、端子電極の接合信頼性がより向上し、端子電極の抵抗値をより低くすることができる。
【0011】
好ましくは、前記第1粒子は、扁平状であり、前記第1粒子の間では、前記第2粒子が凝集している。
上記の構成を有することで、第1粒子の粒子間を第2粒子が電気的に接続することとなり、端子電極の抵抗値をより低くすることができる。
【0012】
前記拡散層は、前記取出電極部と前記樹脂電極層との界面に沿って、断続的に存在することができる。
【0013】
また、前記取出電極部の表面側には、酸化銅を主として含む酸化被膜が形成してあってもよい。この場合、前記拡散層は、前記酸化被膜と前記樹脂電極層との間に位置することとなる。本発明に係る電子部品では、取出電極部の表面側に酸化被膜が存在していたとしても、取出電極部と樹脂電極との間に拡散層が形成される。そのため、端子電極の接合強度を十分に確保することができ、なおかつ、端子電極の抵抗値を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す電子部品を実装面側からみた場合の斜視図である。
【
図4A】
図4Aは、取出電極部と端子電極との接合部分を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、従来の電子部品における取出電極部と端子電極との接合部分を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図5Bに示す取出電極部と端子電極との境界面をライン分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る電子部品としてのインダクタ2は、略直方体形状(略六面体)からなる素子本体4を有する。
【0017】
素子本体4は、上面4aと、上面4aとはZ軸方向の反対側に位置する底面4bと、4つの側面4c~4fとを有する。素子本体4の寸法は、特に限定されない。たとえば、素子本体4のX軸方向の寸法を1.2~6.5mmとすることができ、Y軸方向の寸法を0.6~6.5mmとすることができ、高さ(Z軸)方向の寸法を、0.5~5.0mmとすることができる。
【0018】
図1および
図2に示すように、素子本体4の底面4bには、一対の端子電極8が形成してある。一対の端子電極8は、X軸方向で離反して形成してあり、互いに絶縁してある。本実施形態のインダクタ2では、この端子電極8に対して、図示しない配線などを介して外部回路が接続可能となっている。また、インダクタ2は、はんだや導電性接着剤などの接合部材を用いて、回路基板などの各種基板の上に実装可能となっている。基板に実装する場合、素子本体4の底面4bが実装面となり、端子電極8と基板とが、接合部材により接合される。
【0019】
また、素子本体4は、その内部において、コイル部6αを有している。このコイル部6αは、導体としてのワイヤ6をコイル状に巻回することで構成してある。本実施形態の
図1において、コイル部6αは、一般的なノーマルワイズで巻回された空芯コイルであるが、ワイヤ6の巻回方式は、これに限定されない。たとえば、ワイヤ6をα巻きした空芯コイルや、エッジワイズ巻きした空芯コイルであってもよい。あるいは、ワイヤ6は、後述する巻芯部41b(
図3A参照)に直接に巻回してもよい。
【0020】
コイル部6αを構成するワイヤ6は、主として銅を含む導体部と、その導体部の外周を覆う絶縁層とで構成してある。より具体的に、導体部は、無酸素銅やタフピッチ銅などの純銅、リン青銅や黄銅、丹銅、ベリリウム銅、銀-銅合金などの銅を含む合金、もしくは、銅被覆鋼線で構成される。一方、絶縁層は、電気絶縁性を有していればよく、特に限定されない。たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ナイロン、ポリエステルなど、もしくは、上記のうち少なくとも2種の樹脂を混合した合成樹脂が例示される。また、本実施形態において、ワイヤ6は、
図1および
図3Aに示すように、丸線であり、導体部の断面形状が、円形となっている。
【0021】
図1および
図3Aに示すように、本実施形態における素子本体4は、第1コア部41と、第2コア部42とを有する。この第1コア部41および第2コア部42は、いずれも、磁性材料と、樹脂とを含む圧粉体で構成することができる。
【0022】
各コア部41,42に含まれる磁性材料は、たとえばフェライト粉末または金属磁性粉末で構成することができる。フェライト粉末としては、たとえば、Ni-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライトなどが例示される。また、金属磁性粉末としては、特に限定されないが、たとえば、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Feを含むアモルファス合金、Feを含むナノ結晶合金など、その他の軟磁性合金が例示される。なお、上記のフェライト粉末または金属磁性粉末には、適宜、副成分が添加してあってもよい。
【0023】
また、第1コア部41および第2コア部42は、たとえば同種の磁性材料で構成して、第1コア部41の比透磁率μ1と、第2コア部42の比透磁率μ2とを等しくしてもよい。また、第1コア部41と第2コア部42とを、それぞれ材質が異なる磁性材料で構成してもよい。
【0024】
また、第1コア部41または第2コア部42を構成する磁性材料(すなわちフェライト粉末または金属磁性粉末)については、そのメディアン径(D50)を5μm~50μmとすることができる。さらに、上記の磁性材料は、D50が異なる複数の粒子群を混ぜ合わせて構成してもよい。たとえば、D50が8μm~15μmの大径粉と、D50が1μm~5μmの中径粉と、D50が0.3μm~0.9μmの小径粉とを混ぜ合わせてもよい。
【0025】
上記のように複数の粒子群を混ぜ合わせる場合、大径粉と中径粉と小径粉との割合は、特に制限されない。また、大径粉と中径粉と小径粉とは、全て同種の材質で構成することができ、異なる材質で構成することもできる。このように、第1コア部41または第2コア部42に含まれる磁性材料を、複数の粒子群で構成することで、素子本体4に含まれる磁性材料の充填率を高めることができる。その結果、インダクタ2の透磁率や渦電流損失、直流重畳特性などの諸特性が向上する。
【0026】
なお、磁性材料の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などで素子本体4の断面を観察し、得られた断面写真をソフトウェアにより画像解析することで測定できる。その際、磁性材料の粒径は、円相当径換算で計測することが好ましい。
【0027】
また、第1コア部41または第2コア部を金属磁性粉末で構成する場合、当該粉末を構成する粒子は、当該粒子間が互いに絶縁されていることが好ましい。絶縁する方法としては、たとえば、粒子表面に絶縁被膜を形成する方法が挙げられる。絶縁被膜としては、樹脂または無機材料で形成する被膜、および、熱処理により粒子表面を酸化して形成する酸化被膜が挙げられる。樹脂または無機材料で絶縁被膜を形成する場合、樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。無機材料としては、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなどのリン酸塩、ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩(水ガラス)、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、硫酸塩ガラスなどが挙げられる。絶縁被膜を形成することで、粒子間の絶縁性を高めることができ、インダクタ2の耐電圧を向上させることができる。
【0028】
また、第1コア部41および第2コア部42に含まれる樹脂としては、特に制限されないが、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂、または、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0029】
図1に示すように、第1コア部41は、鍔部41aと、巻芯部41bと、切り欠き部41cとを有する。鍔部41aは、素子本体4の各側面4c~4fに向かって突出しており、各側面4c~4fに対応して4つ形成してある。この鍔部41aの上面には、コイル部6αが搭載されており、鍔部41aがコイル部6αを支持している。ここで、X軸方向に沿って突出する2つの鍔部41aを、それぞれ、第1鍔部41axとし、Y軸方向に沿って突出する2つの鍔部41aを、それぞれ第2鍔部41ayとする。第1鍔部41axの厚みは、第2鍔部41ayの厚みよりも、薄くなっており、第1鍔部41axの下方には、リード部6aの一部を収容するスペースが存在する。
【0030】
巻芯部41bは、鍔部41aよりもZ軸方向の上方に位置し、鍔部41aと一体的に形成してある。また、巻芯部41bは、Z軸の上方に向かって突出する略楕円柱からなり、コイル部6αの内側に挿入されている。巻芯部41bの形状は、
図1および
図3Aに示す様態に限定されず、コイル部6αの巻回形状に合わせた形状とすればよい。たとえば、円柱状、角柱状とすることができる。
【0031】
切り欠き部41cは、各鍔部41aの間に位置し、X-Y平面の四隅に4つ形成してある。すなわち、切り欠き部41cは、素子本体4の各側面4c~4fが互いに交差する箇所の付近に形成してある。この切り欠き部41cは、コイル部6αから引き出されたリード部6aが通過するための通路として利用される。また、切り欠き部41cは、製造過程において、第2コア部42を構成する成形材料が、第1コア部41の表面側から裏面側に流動する際の通路としても機能する。
図1において、切り欠き部41cは、略正方形状に切り欠かれているが、その形状は、リード部6aおよび上述した成形材料が通過する形状であればよく、特に制限されない。たとえば、切り欠き部41cは、鍔部41aの表裏面を貫通する貫通孔であってもよい。
【0032】
第2コア部42は、
図3Aに示すように、第1コア部41を覆っている。より具体的に、第2コア部は、鍔部41aの上方においてコイル部6αと巻芯部41bとを覆うとともに、切り欠き部41cおよび第1鍔部41axの下方に存在するスペースに充填してある。なお、
図2に示すように、第2鍔部41ayの下面は、素子本体4の底面4bの一部を構成しており、この第2鍔部41ayの下方には、第2コア部42が充填されていない。
【0033】
図1に示すように、一対のリード部6aは、それぞれ、第1鍔部41axの上方において、コイル部6αからY軸に沿って引き出されている。また、一対のリード部6aは、それぞれ、素子本体4の側面4cの近傍で折り返されて、第1鍔部41axの下方において、側面4c側から側面4d側に向かって延びている。
【0034】
ここで、素子本体4の底面4bから第1鍔部41axまでのZ軸方向の高さhは、リード部6aの外径よりも小さい。そのため、第1鍔部41axの下方において、リード部6aの大半は、素子本体4(とりわけ第2コア部42)の内部に収容してあるが、リード部6aの外周縁の一部は、素子本体4の底面4bに露出している。リード部6aは、いずれもワイヤ6で構成してあるが、底面4bに露出した箇所では、ワイヤ6の外周側に存在する絶縁層が除去されて、ワイヤ6の導体部が露出している。本実施形態では、
図2に示すように、底面4bにおいて、ワイヤ6の導体部が露出した箇所を、特に、取出電極部61と称する。
【0035】
本実施形態では、
図2に示すように、一対の取出電極部61を、それぞれ覆うように一対の端子電極8が形成してあり、取出電極部61と端子電極8とが電気的に接続されている。
【0036】
端子電極8は、少なくとも樹脂電極層81を有する。また、端子電極8は、樹脂電極層81とその他の電極層とを有する積層構造であってもよい。端子電極8を積層構造とする場合、樹脂電極層81は、取出電極部61と接触する部分に位置し、その他の電極層は、樹脂電極層81の外側、すなわち、取出電極部61の反対側に積層される。その他の電極層は、単層でも複数層でもよく、その材質は特に限定されない。たとえば、その他の電極層は、Sn、Au、Ni、Pt、Ag、Pdなどの金属、または、これらの金属元素のうち少なくとも1種を含む合金で構成することができ、メッキやスパッタリングにより形成することができる。また、端子電極8a,8bの全体の平均厚みは、10μm~60μmとすることが好ましく、樹脂電極層81の平均厚みは、10μm~20μmとすることが好ましい。
【0037】
図4A~
図4Cは、取出電極部61と、端子電極8の樹脂電極層81との接合境界を拡大した断面図である。
図4Aに示すように、樹脂電極層81には、樹脂成分82と導体粉末83とが含まれる。樹脂電極層81における樹脂成分82は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂で構成される。導体粉末83には、主としてAgが含まれ、その他、Cu、Ni、Sn、Au、Pdなどが含まれてもよい。
【0038】
また、本実施形態において、樹脂電極層81の導体粉末83は、粒度分布が異なる2つの粒子群、第1粒子83aと、第2粒子83bとで構成してある。第1粒子83aは、粒径がマイクロメートルオーダの粒子群である。本実施形態において「マイクロメートルオーダの粒子」とは、平均粒径が、0.05μm以上、数十μm以下である粒子を意味する。本実施形態の第1粒子83aは、
図4Aに示す断面において、平均粒径が1μm~10μmであることが好ましく、3μm~5μmであることがより好ましい。
【0039】
また第1粒子83aの形状は、球に近い形状、長球状、不規則なブロック状、針状、扁平状とすることができ、特に、針状もしくは扁平状であることが好ましい。本実施形態において、扁平状の粒子とは、
図4Aに示すような断面において、アスペクト比(短手方向の長さに対する長手方向の長さの比)が2~30である粒子を意味する。なお、第1粒子83aの平均粒径は、
図4A~
図4Cに示すような断面をSEMやSTEMで観察し、得られる断面写真を画像解析することで測定できる。その測定に際して、第1粒子83aの平均粒径は、最大長さ換算で算出する。
【0040】
一方、第2粒子83bは、第1粒子83aよりも平均粒径が小さいナノメートルオーダの粒子群である。この第2粒子83bは、
図4Bおよび
図4Cに示すように、第1粒子83aの外周近傍や、第1粒子83aの粒子間隙において、凝集して存在している。
図4Cに示すような拡大した断面をSTEMにより観察すると、第2粒子83bは、粒径が少なくとも100nm以下である微小粒の集合体として認識される。なお、第2粒子83bは、樹脂電極層81の原材料であるペーストの製造過程において、形状が略球状で、平均粒径(円相当径換算)が5nm~30nmであるナノ粒子として添加される。
【0041】
また、上記の第1粒子83aおよび第2粒子83bは、いずれも、Agを主成分とする。導体粉末83に、Ag以外の金属元素も含まれる場合、その金属元素の存在形態は特に限定されない。たとえば、Ag以外の金属元素は、第1粒子83aおよび第2粒子83b以外の粒子として存在していてもよいし、第1粒子83aに固溶していてもよい。
【0042】
また、
図4Aに示すような樹脂電極層81の断面において、樹脂成分82および導体粉末83を含む観測視野の面積を100%とすると、導体粉末83が占める面積は、60%以上であることが好ましい。また、樹脂電極層81の断面において、第1粒子83aが占める面積をA1とし、第2粒子83bが占める面積をA2とすると、A2に対するA1の比(A1/A2)は、1.5~6.0であることが好ましい。
【0043】
なお、上記において各要素が占める面積は、
図4Aに示すような樹脂電極層81の断面をSEMもしくはSTEMで観察し、得られる断面画像を画像解析することで測定できる。SEMを用いる場合は、反射電子像で観測することが好ましく、STEMを用いる場合は、HAADF像で観測することが好ましい。上記の観察像では、コントラストが暗い部分が樹脂成分82であり、コントラストが明るい部分が導体粉末83である。また、第2粒子83bは、前述したように微小粒の集合体として観測され、第2粒子83bが占める面積A2は、その集合体の面積とする。上記の観測において、1視野当たりの観察視野は、0.04μm
2~0.36μm
2とすることが好ましく、各要素が占める面積は、少なくとも10視野以上観測した平均値として算出することが好ましい。
【0044】
図4Aに示すように、取出電極部61と樹脂電極層81との界面では、取出電極部61の最表面に対して、樹脂成分82が接する領域R1と、導体粉末83の第1粒子83aが接する領域R2と、導体粉末83の第2粒子83bが接する領域R3と、が存在する。
図4Aに示すような断面において、取出電極部61と樹脂電極層81との境界線の長さを100%とすると、第2粒子83bが接する領域R3の割合は、20%~100%程度であることが好ましい。
【0045】
本実施形態において、取出電極部61と樹脂電極層81との界面には、拡散層68が形成してあるが、この拡散層68は、
図4Cに示すように、取出電極部61の最表面に対して第2粒子83bが接する領域R3に存在する。そのため、拡散層68は、取出電極部61と樹脂電極層81との界面に沿って、断続的に存在する。そして、取出電極部61と樹脂電極層81との界面において、拡散層68の面方向での存在比率は、第2粒子83bが接する領域R3の割合に相当し、樹脂電極層81に含まれる第2粒子83bの含有割合が増えるほど、拡散層68の面方向での存在比率が高くなる。
【0046】
この拡散層68は、少なくとも酸化銅およびAgを含み、その他、空隙や樹脂成分82が含まれていてもよい。また、拡散層68の厚みT1は、少なくとも30nm以上であり、30nm~500nmであることが好ましく、50nm~250nmであることがより好ましい。
【0047】
なお、
図4Dに示すように、取出電極部61の表面側には、酸化銅を主成分とする酸化被膜61aが形成してある領域が存在していてもよい。この酸化被膜61aは、インダクタ2の製造過程において、底面4bに取出電極部61を露出させた際に形成され得る。もしくは、底面4bに樹脂電極用ペーストを塗布した後に所定の加熱処理を行うことで形成され得る。なお、酸化被膜61aは、取出電極部61の表面の全域に亘って形成してあってもよく、取出電極部61の表面の一部にのみ形成してあってもよい。
【0048】
本実施形態では、取出電極部61の露出や樹脂電極層81の形成を後述する所定の条件で実施することで、酸化被膜61aが形成されたとしても、取出電極部61と樹脂電極層81との界面に拡散層68が形成され得る。この場合、拡散層68は、取出電極部61の酸化被膜61aと樹脂電極層81との間に位置することとなる。また、酸化被膜61aの厚みT2は、5nm~100nm程度とすることができ、5nm~30nmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
なお、
図5Aおよび
図5Bは、従来通り、粒径がマイクロメートルオーダの粒子833のみで樹脂電極層811を形成した場合の断面図である。
図5Aおよび
図5Bに示す従来技術の場合、取出電極部61と樹脂電極層811との界面では、粒子833が取出電極部61に対して物理的に接触することで、取出電極部61と端子電極8との電気的接触が確保されている。すなわち、樹脂電極層811に含まれる導体粉末をマイクロメートルオーダの粒子833のみで構成した場合、拡散層68は形成されない。
【0050】
本実施形態では、取出電極部61と端子電極8との界面において、拡散層68が形成してあることで、樹脂電極層81の取出電極部61に対する密着強度を向上させることができる。その結果、素子本体4に対する端子電極8の接合信頼性を向上させることができ、かつ、端子電極8の抵抗値を低くすることができる。
【0051】
前述したように拡散層68は、酸化銅およびAgを含むが、拡散層68の存在有無は、STEM-EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いたライン分析またはマッピング分析などによって認識することができる。
【0052】
たとえば、STEM-EPMAによるライン分析では、取出電極部61と樹脂電極層81との界面に対して略垂直な方向に測定線を引き、その測定線上において一定の間隔で定量分析を行う。なお、上記の分析に際して、STEM観察用の試料は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam: FIB)を用いたマイクロサンプリング法により作製することができる。また、ライン分析では、各測定点のサイズ(スポットサイズ)を直径1.5nm以下に設定することが好ましく、測定点の間隔を1.0nm以下に設定することが好ましい。
【0053】
図6Aは、測定線VIAに沿ってEPMAによるライン分析を行った結果を示す模式図である。
図6Aに示すように、取出電極部61の最表面から樹脂電極層81に向かって厚みT1の範囲では、Agの濃度勾配が発生している。ここで、取出電極部61の最表面は、STEMの観察像から特定することができるが、Cuの含有率によっても特定することができる。具体的には、Cuの含有率が減退し始める位置を、取出電極部61の最表面とする。そして、本実施形態では、取出電極部61の最表面から樹脂電極層81側に向かって、Agの濃度勾配が発生している領域を、拡散層68として特定する。より具体的には、取出電極部61の最表面から樹脂電極層81側に向かって、Agの含有率が変動しながら増加する傾向にある領域を、拡散層68とする。
【0054】
また、取出電極部61の最表面側を、測定線VIA上における拡散層68の始点とすると、拡散層68の終点は、Agの含有率が安定した位置とする。
【0055】
さらに、取出電極部61の表面側に酸化被膜61aが存在する場合は、
図6Bに示すようなライン分析結果が得られる。
図6Bのグラフでは、取出電極部61の表面側において、Cuの含有率が減少し、かつ、酸素が検出される領域が存在する。本実施形態では、取出電極部61の表面側において、酸素の含有率が3wt%以上の領域を酸化被膜61aと判断する。また、酸化被膜61aが存在する場合、「取出電極部61の最表面」とは、Cuの含有率が減退するとともに、酸素の含有率が減退し始める位置とする。
【0056】
なお、EPMAによるライン分析では、測定点の深さ方向に存在する元素や、測定点の外周縁近傍に存在する元素が、成分分析結果に影響を与える。そのため、
図5Bのように拡散層68が存在しない場合であっても、取出電極部61と樹脂電極層811との界面では、わずかながらAgの濃度勾配が生じているように見える領域が存在し得る。実際に、
図7は、拡散層68が存在していない場合のライン分析結果である。本実施形態では、
図7に示すように、Agの濃度勾配が存在するように見える領域Bの厚みが、30nm未満の場合、拡散層68が存在していないと判断する。
【0057】
また、Agの濃度勾配のみでは拡散層68の特定が困難な場合には、Cuの濃度勾配も加味して拡散層68を特定する。
図6Aに示すように、取出電極部61の最表面から樹脂電極層81に向かって厚みT1の範囲では、Cuの濃度勾配も生じている。つまり、Cuの含有率は、取出電極部61の最表面から樹脂電極層81側に向かって、変動しながら減少する傾向にある。拡散層68は、取出電極部61の最表面から樹脂電極層81側に向かって、Agの濃度勾配と、Cuの濃度勾配とが重複して生じている領域とする。このような方法で、拡散層68を特定する場合であっても、その厚みT1は、少なくとも30nm以上であり、30nm未満の場合は、拡散層68が存在していないと判断する。
【0058】
さらに、拡散層68は、上記の方法以外に、以下に示す定義に基づいて特定してもよい。すなわち、拡散層68は、取出電極部61の最表面よりも樹脂電極層81側において、Agの含有率とCuの含有率とがいずれも5wt%以上の領域である。もしくは、拡散層68は、Agの含有率が5wt%~100wt%の範囲内で変動し、かつ、Cuの含有率が5wt%~100wt%の範囲内で変動する領域である。
【0059】
一方、STEM-EPMAを用いたマッピング分析により拡散層68を測定した場合、
図8A~
図8Cに示すようなマッピング画像が得られる。
図8Aは、Agのマッピング画像であり、
図8Bが、Cuのマッピング画像、
図8CがOのマッピング画像である。また、
図8A~
図8Cにおいて、図中の中央が拡散層68であり、図中の右側が取出電極部61、図中の右側が樹脂電極層81である。
【0060】
各元素(Ag,Cu,O)のマッピング画像を見比べると、拡散層68では、CuとOが重複している領域が存在することがわかる。また、CuおよびOは、Agの検出量が少ない箇所に存在しており、CuとOが重複している領域がAg粒子の粒界に存在していることがわかる。つまり、拡散層68に含まれるCu成分は、純銅やAg-Cu合金として存在しているわけではなく、酸化銅として存在している。そして、拡散層68の酸化銅は、Ag粒子の粒界に存在している。
【0061】
以上のとおり、取出電極部61と樹脂電極層81との界面をマッピング分析した場合、拡散層68は、Ag粒子と酸化銅とが混在している箇所として認識することができる。
【0062】
次に、本実施形態のインダクタ2の製造方法について、説明する。
【0063】
まず、第1コア部41を、加熱加圧成形などのプレス法や、射出成形法によって作製する。第1コア部41の作製においては、磁性材料の原料粉と、バインダ、溶媒などを混練して顆粒とし、その顆粒を成形用の原料として用いる。磁性材料を複数の粒子群で構成する場合には、粒度分布が異なる磁性粉末を準備して、所定の比率で混合すればよい。
【0064】
次に、得られた第1コア部41に、コイル部6αを搭載する。コイル部6αは、予めワイヤ6を所定の形状に巻回した空芯コイルであって、この空芯コイルを、第1コア部41の巻芯部41bに挿入する。もしくは、第1コア部41の巻芯部41bにワイヤ6を直接巻回して、コイル部6αを形成してもよい。第1コア部41とコイル部6αを組み合わせた後、
図1に示すように、コイル部6αから一対のリード部6aを引き出して、第1鍔部41axの下方に配置する。
【0065】
次に、第2コア部42を、インサート射出成形により作製する。第2コア部42の作製においては、まず、コイル部6αを搭載した第1コア部41を、成形用金型の内部に設置する。この成形用金型の内面には、予め離型用フィルムを敷き詰めておくことが好ましい。離型用フィルムとしては、PETフィルムなど、可撓性のあるシート状の部材を用いることができる。離型用フィルムを用いることで、第1コア部41を成形用金型に設置した際に、第1鍔部41axの下方に位置するリード部6が、離型用フィルムに密着する。その結果、リード部6aの外周縁の一部が離型用フィルムで覆われることとなり、第2コア部42の作成後、素子本体4の底面4bから、リード部6aの外周縁の一部が露出する。
【0066】
第2コア部42を構成する原料としては、成形時に流動性がある材料が用いられる。具体的には、磁性材料の原料粉と、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダとを混錬した複合材料を用いる。この複合材料には、適宜、溶媒、分散剤などが添加してあってもよい。インサート射出成形においては、上記の複合材料をスラリー化した状態で、成形用金型内に導入する。その際、導入されたスラリーは、第1コア部41の切り欠き部41cを通過して、第1鍔部41axの下方にも充填される。また、射出成形時においては、使用するバインダの材質に応じて、適宜熱が加えられる。こうして、第1コア部41と、第2コア部42と、コイル部6αとが一体化された素子本体4が得られる。
【0067】
次に、素子本体4の底面4bの一部、すなわち、
図2において一対の端子電極8を形成する箇所に、レーザを照射して電極予定部を形成する。このレーザ照射によって、底面4bに露出しているリード部6aの絶縁層が除去され、取出電極部61が形成される。また、レーザ照射によって、底面4bの最表面では、コア部41,42に含まれる樹脂が除去される。つまり、電極予定部では、コア部41,42に含まれる磁性材料が露出するとともに、取出電極部61が露出する。これにより、素子本体4の底面4bに、端子電極8が密着されやすくなる。
【0068】
上記で使用するレーザは、波長が400nm以下の短波長なUVレーザであることが好ましい。レーザ加工では、グリーンレーザ(波長532nm)を使用することが一般的であるが、グリーンレーザとUVレーザとでは、対象物(リード部6aの絶縁層やコア部の樹脂など)を除去する原理が異なる。グリーンレーザの場合、レーザの照射により対象物の表面温度が急激に上昇し、対象物が融解もしくは蒸発する(熱分解)ことで、対象物が除去される。そのため、グリーンレーザを使用すると、露出した取出電極部61の表面に、100nmを超過する厚みの酸化被膜が形成されやすくなり、拡散層68の生成を抑制する。一方、UVレーザの場合、UVレーザが、対象物を構成する有機化合物の分子結合を分解することで、対象物が除去される。UVレーザを使用する場合でも、多少の温度上昇が生じ、熱分解も発生するが、グリーンレーザを使用する場合に比べて、遥かに酸化被膜が形成され難い。そのため、UVレーザを使用することで、拡散層68が形成されやすくなる。
【0069】
なお、電極予定部の形成方法として、機械研磨、ブラスト処理、化学的な腐食処理なども考えられるが、これらの方法でも100nmを超過する厚みの被膜(酸化被膜や腐食層)が形成されやすい。そのため、電極予定部は、前述のとおり、UVレーザの照射により形成することが好ましい。
【0070】
次に、樹脂電極用ペーストを、印刷法などの手法によって電極予定部に塗布する。この際に使用する樹脂電極用ペーストには、樹脂成分82となるバインダと、導体粉末83となる金属原料粉末が含まれている。より具体的に、金属原料粉末は、粒径がマイクロメートルオーダのマイクロ粒子と、粒径がナノメートルオーダのナノ粒子とで構成してある。マイクロ粒子は、ペーストの硬化処理後に第1粒子83aとなる粒子であって、平均粒径が1μm~10μmであることが好ましく、3μm~5μmであることがより好ましい。一方、ナノ粒子は、ペーストの硬化処理後に第2粒子83bとなる粒子であって、平均粒径が、好ましくは5nm~30nm、より好ましくは5nm~15nmである。
【0071】
なお、樹脂電極用ペーストの印刷においては、加熱処理後の樹脂電極層81の平均厚みが10μm~20μmとなるように、塗布量などの条件を制御する。樹脂電極層81の厚みを上記の範囲に調整することで、拡散層68が形成されやすくなる。
【0072】
電極予定部に樹脂電極用ペーストを塗布した後、素子本体4を所定の条件で加熱処理し、ペースト中のバインダ(樹脂成分82)を硬化させる。加熱処理の条件は、処理温度(保持温度)を170℃~230℃とし、保持時間を60min~90minとすることが好ましい。このような条件で加熱処理することで、素子本体4の電極予定部に樹脂電極層81が形成される。
【0073】
ここで、拡散層68の形成方法について説明しておく。本実施形態において、拡散層68は、1)UVレーザの照射により電極予定部を形成した後に、2)当該電極予定部にナノ粒子を含む樹脂電極用ペーストを所定の厚み(加熱処理後の樹脂電極層81の厚みが10~20μmとなる厚み)で塗布し、3)所定の条件で加熱処理する、ことで形成されると考えられる。また、拡散層68の厚みT1は、加熱処理時の条件により制御できる。たとえば、加熱処理の際に、投入する熱エネルギーを多くするほど(保持温度を高くする、または、保持時間を長くする)、拡散層68の厚みT1が厚くなる傾向となる。なお、上述した拡散層68の形成条件は、あくまでも例示であり、上記以外の条件でも拡散層68を形成できる場合もある。
【0074】
樹脂電極層81の形成後、樹脂電極層81の外面には、適宜、メッキ膜やスパッタ膜を形成してもよい。例えば、樹脂電極層81の外面に、Ni、Cu、Snなどのメッキ膜を形成しておくことで、半田に対する濡れ性が向上する。
【0075】
以上のような製造方法によって、素子本体4に一対の端子電極8が形成されたインダクタ2が得られる。
【0076】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態のインダクタ2では、端子電極8が樹脂電極層81を有している。この樹脂電極層81は、樹脂成分82を硬化処理することで形成され、製造過程で、高温での焼き付け処理を必要としない。そのうえ、本実施形態のインダクタ2では、取出電極部61と樹脂電極層81との界面に、Agと酸化銅とを含む拡散層68が形成してある。この拡散層68を形成することにより、樹脂電極層81の取出電極部61に対する密着強度を向上させることができる。その結果、端子電極8の接合信頼性が向上するとともに、端子電極8の抵抗値を低減することができる。
【0077】
また、本実施形態では、樹脂電極層81の導体粉末83が、ナノ粒子を原料とする第2粒子83bと、形状が扁平状で粒径がマイクロメートルオーダの第1粒子83aとで構成してある。このような構成とすることで、取出電極部61に対する樹脂電極層81の密着強度がより向上し、端子電極8の接合信頼性がさらに向上する。また、上記の構成を有することで、第2粒子83bが、第1粒子83aの粒子間隙で凝集して、第1粒子83aの間を電気的に接続する役割を果たす。その結果、端子電極8の抵抗値をさらに低くすることができる。
【0078】
また、本実施形態では、取出電極部61の少なくとも一部の表面に酸化被膜61aが形成してあってもよい。酸化被膜61aが存在していたとしても、前述した条件で樹脂電極層81を形成することで、拡散層68が形成され得る。そのため、酸化被膜61aが存在する場合であっても、端子電極8の接合信頼性が向上するとともに、端子電極8の抵抗値を低減することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、
図1~
図3Aにおいて、コイル部6αは、丸線のワイヤ6で構成してあるが、ワイヤ6の種類は、これに限定されず、
図3Bに示すような、導体部の断面形状が略長方形である平角線であってもよい。もしくは、四角線や、細線を撚り合わせたリッツ線であってもよい。さらに、コイル部6αは、導電性の板材を積層して構成してもよい。
【0080】
また、上述した実施形態では、端子電極8が素子本体4の底面4bに形成してあったが、端子電極8の形成箇所は、これに限定されず、上面4aや側面4c~4fに形成してあってもよく、複数の面に跨って形成してあってもよい。
【0081】
また、樹脂電極層81の導体粉末83は、ナノ粒子を原料とする第2粒子83bのみで構成してもよい。もしくは、第2粒子83bに代えて、マイクロ粒子(第1粒子83a)よりも比表面積が大きい粒子を使用してもよい。
【0082】
また、素子本体4を構成する第1コア部41は、フェライト粉末または金属磁性粉末の焼結体とすることもできる。また、素子本体4自体を、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、ポット型、カップ型の圧粉体コアもしくは焼結体コアとし、そのコアにコイルを巻回してインダクタ素子を構成してもよい。この場合、リード部は、素子本体の内部に埋設してある必要はなく、コアの外周に沿って引き出され、端子電極8の外面に接続してあってもよい。
【0083】
また、本発明に係る電子部品は、インダクタに限定されず、コンデンサ、トランス、チョークコイル、コモンモードフィルタなどの電子部品であってもよい。たとえば、電子部品が積層セラミックコンデンサの場合、積層体に含まれる内部電極層において、積層体の端面に露出している部分が取出電極部61となる。また、積層セラミックコンデンサにおいて、端子電極8は、内部電極層の露出部分に合わせて積層体の端面に形成される。
【実施例】
【0084】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0085】
実施例
実施例では、
図1に示すインダクタ試料を作製した。具体的に、実施形態で述べた方法により電極予定部を有する素子本体を作成し、当該電極予定部に厚みが10~20μmの樹脂電極層を形成した。樹脂電極層の形成時には、扁平状の第1粒子(Agマイクロ粒子)と第2粒子(Agナノ粒子)とを含む樹脂電極用ペーストを用い、実施形態で述べた条件で加熱処理を施した。そして、得られたインダクタ試料について、取出電極部と端子電極との界面を、STEM-EPMAにより分析(ライン分析)した。その結果、実施例では、
図6Aのグラフと同様に、取出電極部と樹脂電極層との界面(特に第2粒子の凝集体が接する部分)に、拡散層が形成されていることが確認でき、その厚みT1は、120nmであった。
【0086】
比較例
比較例では、導体粉末としてAgマイクロ粒子のみを含む樹脂電極用ペーストを用いて、インダクタ試料を作製した。そして、比較例についても、STEM-EPMAにより、取出電極部と端子電極との界面を、ライン分析した。その結果、比較例では、
図7と同様の分析結果が得られ、拡散層が形成されていないことが確認できた。
【0087】
評価
上記で得られたインダクタ試料の直流抵抗と、端子電極の接触抵抗とを測定した。直流抵抗および接触抵抗は、実施例および比較例について、それぞれ10個測定し、その平均値およびCV値(変動係数)を算出した。その結果、拡散層を有する実施例では、接触抵抗が比較例よりも4%低減したことが確認できた。また、実施例と比較例とで、直流抵抗のCV値を比較したところ、実施例では、CV値が比較例の1/3程度であった。この結果から、取出電極部と端子電極との界面に拡散層を形成することで、端子電極の抵抗値を低減することができ、かつ、抵抗値のばらつきも低減できることがわかった。
【0088】
また、端子電極の接合信頼性を確認するために、高温負荷試験(加速試験)を実施した。高温負荷試験では、インダクタ試料に電圧を印加した状態で、100℃以上の高温環境下に長時間暴露させ、暴露後の直流抵抗の上昇率を測定した。その結果、実施例では、試験後の直流抵抗の上昇率が、比較例の1/2以下に抑えられていた。この結果から、拡散層を形成することで端子電極の接合信頼性が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0089】
2 … インダクタ
4 … 素子本体
4a … 上面
4b … 底面
4c~4f … 側面
41 … 第1コア部
41a … 鍔部
41b … 巻芯部
41c … 切り欠き部
42 … 第2コア部
6α … コイル部
6 … ワイヤ
6a … リード部
61 … 取出電極部
61a … 酸化被膜
8 … 端子電極
81 … 樹脂電極層
82 … 樹脂成分
83 … 導体粉末
83a … 第1粒子
83b … 第2粒子
68 … 拡散層