(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】設計支援システム、設計支援プログラム、及び、設計支援装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20241029BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20241029BHJP
【FI】
G06F30/10 200
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2020180433
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】イーグル 亜沙
(72)【発明者】
【氏名】黒谷 達
(72)【発明者】
【氏名】中林 宏美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 人哉
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086817(JP,A)
【文献】特開2011-070503(JP,A)
【文献】特開2005-329357(JP,A)
【文献】特開2005-329356(JP,A)
【文献】特表2020-535566(JP,A)
【文献】国際公開第1998/006550(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新規の化学製品を設計するための設計支援システムであって、
既存の化学製品に関する第1パラメータを記憶するデータベースと、
前記データベースから前記第1パラメータを読み込むデータ読込部と、
前記第1パラメータの評価軸が構成する仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記第1パラメータと対応する座標に既存点をプロットする既存点設定部と、
前記仮想空間において、前記新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補となる空乏点をプロットする空乏点設定部と、
前記仮想空間において、前記既存点との距離が特定距離よりも大きい前記空乏点を抽出する空乏点抽出部と、を備える
設計支援システム。
【請求項2】
前記特定距離は、第1距離であって、
前記空乏点抽出部は、前記仮想空間において、前記既存点に対して前記第1距離よりも大きな距離を有し、かつ、前記既存点に対して前記第1距離よりも大きな距離である第2距離よりも小さな距離を有する前記空乏点を抽出する
請求項1に記載の設計支援システム。
【請求項3】
前記空乏点抽出部は、前記仮想空間における各評価軸のうち少なくとも一つの前記評価軸の軸線方向において、複数の前記既存点に囲まれる領域に位置する前記空乏点を抽出する
請求項1または2に記載の設計支援システム。
【請求項4】
前記データベースは、前記第1パラメータとして、前記既存の化学製品を構成する原材料の配合比率を特定する配合パラメータを記憶しており、
前記データ読込部は、前記データベースから前記配合パラメータを読み込み、
前記既存点設定部は、前記配合パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記配合パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットする
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の設計支援システム。
【請求項5】
前記データベースは、さらに、前記第1パラメータとして、前記原材料を分類するための分類パラメータを記憶しており、
前記データ読込部は、前記データベースから前記配合パラメータ及び前記分類パラメータを読み込み、
前記既存点設定部は、前記分類パラメータによる分類毎に集約された前記配合パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記配合パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットする
請求項4に記載の設計支援システム。
【請求項6】
前記データベースは、さらに、前記第1パラメータとして、前記既存の化学製品における製造工程パラメータを記憶しており、
前記データ読込部は、前記データベースから前記配合パラメータ及び前記製造工程パラメータを読み込み、
前記既存点設定部は、前記配合パラメータ及び前記製造工程パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記配合パラメータ及び前記製造工程パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットする
請求項4または5に記載の設計支援システム。
【請求項7】
前記データベースは、前記第1パラメータとして、前記既存の化学製品における特性パラメータを記憶しており、
前記データ読込部は、前記データベースから前記既存の化学製品における前記特性パラメータを読み込み、
前記既存点設定部は、前記特性パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記特性パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットする
請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の設計支援システム。
【請求項8】
前記空乏点抽出部が抽出した前記空乏点と対応する座標に基づいて前記新規の化学製品を設計するための前記第2パラメータを出力する
請求項1ないし7のうち何れか一項に記載の設計支援システム。
【請求項9】
新規の化学製品を設計するための設計支援プログラムであって、
コンピュータを、
既存の化学製品に関する第1パラメータを記憶するデータベースから前記第1パラメータを読み込むデータ読込部、
前記第1パラメータの評価軸が構成する仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記第1パラメータと対応する座標に既存点をプロットする既存点設定部、
前記仮想空間において、前記新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補となる空乏点をプロットする空乏点設定部、及び、
前記仮想空間において、前記既存点との距離が特定距離よりも大きい前記空乏点を抽出する空乏点抽出部、として機能させる
設計支援プログラム。
【請求項10】
新規の化学製品を設計するための設計支援装置であって、
既存の化学製品に関する第1パラメータを記憶するデータベースから前記第1パラメータを読み込むデータ読込部と、
前記第1パラメータの評価軸が構成する仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記第1パラメータと対応する座標に既存点をプロットする既存点設定部と、
前記仮想空間において、前記新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補となる空乏点をプロットする空乏点設定部と、
前記仮想空間において、前記既存点との距離が特定距離よりも大きい前記空乏点を抽出する空乏点抽出部と、を備える
設計支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化学製品についての設計開発を支援する設計支援システム、設計支援プログラム、及び、設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料、セラミックス材料、無機化学材料、及び、有機化学材料などを原材料とする化学製品は、あらゆる場面で使用されている。化学製品は、それぞれの用途に応じた種々の特性を発現させるために、原材料の配合比率や製造条件などが選択される。近年では、化学製品の開発を効率良く行うために、コンピュータを用いた化学製品の設計が提案されている。例えば、特許文献1には、コンピュータに設けられたデータベースを用いた設計支援システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された設計支援システムは、既存の化学製品における物性値などから類似の配合比率を有する化学製品の物性を予測するものであるため、その用途が既存の化学製品に対して類似の配合比率を有する化学製品を設計する場合に限定される。そのため、上記のような設計支援システムは、既存の化学製品と類似しない新規の化学製品の設計開発には適さない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する設計支援システムは、新規の化学製品を設計するための設計支援システムであって、既存の化学製品に関する第1パラメータを記憶するデータベースと、前記データベースから前記第1パラメータを読み込むデータ読込部と、前記第1パラメータの評価軸が構成する仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記第1パラメータと対応する座標に既存点をプロットする既存点設定部と、前記仮想空間において、前記新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補となる空乏点をプロットする空乏点設定部と、前記仮想空間において、前記既存点との距離が特定距離よりも大きい前記空乏点を抽出する空乏点抽出部と、を備える。
【0006】
上記設計支援システムによれば、仮想空間において、例えば配合比率や物性値などの既存の化学製品に関する第1パラメータと対応する座標に既存点がプロットされ、既存点に対して特定距離よりも大きな距離を有する座標に位置する空乏点が抽出される。これにより、仮想空間にプロットされた空乏点のうち、第1パラメータと同一及び類似のパラメータと対応する座標に位置する空乏点が除外される。したがって、既存点に対して特定距離よりも大きな距離を有する空乏点を抽出することで、抽出された空乏点の座標から、新規性を有する第2パラメータを得ることができる。このようにして得られた第2パラメータから着想を得ることで、既存の化学製品と同一及び類似ではない新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0007】
上記設計支援システムにおいて、前記特定距離は、第1距離であって、前記空乏点抽出部は、前記仮想空間において、前記既存点に対して前記第1距離よりも大きな距離を有し、かつ、前記既存点に対して前記第1距離よりも大きな距離である第2距離よりも小さな距離を有する前記空乏点を抽出することが好ましい。上記設計支援システムによれば、仮想空間において、既存点に対して第1距離よりも大きな距離を有するだけでなく、第2距離よりも小さな距離を有する空乏点を抽出することで、既存点から極端に離れた座標に位置する空乏点が除外される。既存点から極端に離れた座標と対応するパラメータを有する化学製品は、機能面や製造面から製品として成立しない場合も多い。したがって、第2距離よりも小さな距離を有する空乏点を抽出することで、新規性を有する第2パラメータであって、実現可能性の高い第2パラメータを得ることができる。
【0008】
上記設計支援システムにおいて、前記空乏点抽出部は、前記仮想空間における各評価軸のうち少なくとも一つの前記評価軸の軸線方向において、複数の前記既存点に囲まれる領域に位置する前記空乏点を抽出することが好ましい。上記設計支援システムによれば、仮想空間における評価軸の軸線方向において、複数の既存点に囲まれる領域に位置する空乏点を抽出することで、既存点に囲まれる領域よりも外側の領域に位置する空乏点が除外される。既存点に囲まれる領域よりも外側の領域では、機能面や製造面から化学製品として成立しない場合も多い。したがって、複数の既存点に囲まれる領域から空乏点を抽出することで、化学製品として新規性を有する第2パラメータであって、実現可能性の高い第2パラメータを得ることができる。
【0009】
上記設計支援システムにおいて、前記データベースは、前記第1パラメータとして、前記既存の化学製品を構成する原材料の配合比率を特定する配合パラメータを記憶しており、前記データ読込部は、前記データベースから前記配合パラメータを読み込み、前記既存点設定部は、前記配合パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記配合パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットすることが好ましい。上記設計支援システムによれば、仮想空間において、既存の化学製品における配合パラメータと対応する座標に既存点がプロットされる。これにより、第2パラメータとして、第1パラメータと同一及び類似ではない配合パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規性を有する配合パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0010】
上記設計支援システムにおいて、前記データベースは、さらに、前記第1パラメータとして、前記原材料を分類するための分類パラメータを記憶しており、前記データ読込部は、前記データベースから前記配合パラメータ及び前記分類パラメータを読み込み、前記既存点設定部は、前記分類パラメータによる分類毎に集約された前記配合パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記配合パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットすることが好ましい。上記設計支援システムによれば、分類パラメータに基づいて原材料の分類毎に集約した配合パラメータを用いることで、仮想空間の次元を削減でき、好適に空乏点を抽出できる。
【0011】
上記設計支援システムにおいて、前記データベースは、さらに、前記第1パラメータとして、前記既存の化学製品における製造工程パラメータを記憶しており、前記データ読込部は、前記データベースから前記配合パラメータ及び前記製造工程パラメータを読み込み、前記既存点設定部は、前記配合パラメータ及び前記製造工程パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記配合パラメータ及び前記製造工程パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットすることが好ましい。上記設計支援システムによれば、仮想空間において、既存の化学製品を構成する原材料の配合パラメータ及び製造工程パラメータと対応する座標に既存点がプロットされる。これにより、配合パラメータ及び製造工程パラメータの組合せとして、第1パラメータと同一及び類似ではない第2パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規の性を有する第2パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0012】
上記設計支援システムにおいて、前記データベースは、前記第1パラメータとして、前記既存の化学製品における特性パラメータを記憶しており、前記データ読込部は、前記データベースから前記既存の化学製品における前記特性パラメータを読み込み、前記既存点設定部は、前記特性パラメータの評価軸が構成する前記仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記特性パラメータと対応する座標に前記既存点をプロットすることが好ましい。上記設計支援システムによれば、仮想空間において、既存の化学製品における官能パラメータ、機能パラメータ、物性パラメータなどの特性パラメータと対応する座標に既存点がプロットされる。これにより、第2パラメータとして、第1パラメータと同一及び類似ではない特性パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規性を有する特性パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0013】
上記設計支援システムにおいて、前記空乏点抽出部が抽出した前記空乏点と対応する座標に基づいて前記新規の化学製品を設計するための前記第2パラメータを出力することもできる。上記設計支援システムによれば、このようにして出力された新規性を有する第2パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0014】
上記課題を解決する設計支援プログラムは、新規の化学製品を設計するための設計支援プログラムであって、コンピュータを、既存の化学製品に関する第1パラメータを記憶するデータベースから前記第1パラメータを読み込むデータ読込部、前記第1パラメータの評価軸が構成する仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記第1パラメータと対応する座標に既存点をプロットする既存点設定部、前記仮想空間において、前記新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補となる空乏点をプロットする空乏点設定部、及び、前記仮想空間において、前記既存点との距離が特定距離よりも大きい前記空乏点を抽出する空乏点抽出部、として機能させる。
【0015】
上記課題を解決する設計支援装置は、新規の化学製品を設計するための設計支援装置であって、既存の化学製品に関する第1パラメータを記憶するデータベースから前記第1パラメータを読み込むデータ読込部と、前記第1パラメータの評価軸が構成する仮想空間において、前記データ読込部が読み込んだ前記第1パラメータと対応する座標に既存点をプロットする既存点設定部と、前記仮想空間において、前記新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補となる空乏点をプロットする空乏点設定部と、前記仮想空間において、前記既存点との距離が特定距離よりも大きい前記空乏点を抽出する空乏点抽出部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
以上のような構成によれば、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図12】設計支援システムの処理手順を示すフローチャート。
【
図13】第1実施形態において、化学製品における原材料の配合比率についての評価軸が構成する仮想空間に既存点をプロットした状態を示す図。
【
図14】第1実施形態における
図13の続きであって、仮想空間に空乏点をプロットした状態を示す図。
【
図15】第1実施形態における
図14の続きであって、既存点に対して第1距離よりも大きな距離を有する空乏点を抽出した状態を示す図。
【
図16】第1実施形態における
図15の続きであって、既存点に対して第2距離よりも小さな距離を有する空乏点を抽出した状態を示す図。
【
図17】第1実施形態における
図16の続きであって、各座標軸の軸線方向において、既存点に囲まれる空乏点を抽出した状態を示す図。
【
図18】第2実施形態において、化学製品の原材料における分類毎の配合比率についての評価軸が構成する仮想空間に既存点をプロットした状態を示す図。
【
図19】第2実施形態において、
図18に示す既存点が存在し得る平面を正面から見た図であって、仮想空間に空乏点をプロットした状態を示す図。
【
図20】第2実施形態における
図19の続きであって、既存点に対して第1距離よりも大きな距離を有する空乏点を抽出した状態を示す図。
【
図21】第2実施形態における
図20の続きであって、既存点に対して第2距離よりも小さな距離を有する空乏点を抽出した状態を示す図。
【
図22】第2実施形態における
図21の続きであって、各座標軸の軸線方向において、既存点に囲まれる空乏点を抽出した状態を示す図。
【
図23】第3実施形態において、化学製品の原材料における物性値の評価軸が構成する仮想空間に特性点をプロットした状態を示す図。
【
図24】第3実施形態において、化学製品の原材料における分類毎の配合比率についての評価軸が構成する仮想空間に既存点をプロットした状態を示す図。
【
図25】第4実施形態において、化学製品における物性値の評価軸が構成する仮想空間に既存点をプロットした状態を示す図。
【
図26】第4実施形態における
図25の続きであって、仮想空間に空乏点をプロットした状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、本発明を適用した設計支援システムについて図面を参照して説明する。
設計支援システムは、新規の化学製品の開発において、化学製品に付与したい特性、及び、その特性を達成するための原材料の配合比率、製造工程などの設計開発を支援するためのシステムである。化学製品は、単一の成分から構成される純物質でもよいし、2以上の成分から構成される組成物でもよい。化学製品としては、金属材料、セラミックス材料、無機化学材料、及び、有機化学材料などを原材料とする製品及び半製品があり、例えば、樹脂製品、ガラス製品、化粧品などである。なお、第1~第4実施形態では、化学製品として化粧品の設計開発を行う場合について例示する。化粧品とは、洗顔料、化粧水、乳液、美容液などのスキンケア商品、ファンデーション、フェイスパウダー、コンシーラー、化粧下地などのベースメイク商品の他、シャンプー、コンディショナー、ヘアカラー、口紅、ネイル、香水、日焼け止めなどである。
【0019】
[全体構成]
図1に示すように、設計支援システム1は、情報処理端末10と、管理サーバ20とを備える。情報処理端末10は、ラップトップパソコン、デスクトップパソコン、タブレット端末などの情報処理装置であり、CPU、ROM、RAM、SSD、HDD、表示パネル、タッチパネル、ネットワークIFなどを備える。管理サーバ20は、設計支援システム1における設計支援の各種処理を実行するための設計支援装置としてのサーバコンピュータであり、CPU、ROM、RAM、SSD、HDD、表示パネル、タッチパネル、ネットワークIFなどを備える。
【0020】
具体的には、管理サーバ20は、情報処理端末10などと通信するための通信部21と、本システムの各種処理を実行する制御部30と、既存の化学製品に関する各種パラメータを記憶するデータベースとしての製品管理部40と、既存の化学製品における原材料に関する各種パラメータを記憶するデータベースとしての原材料管理部50とを備える。製品管理部40及び原材料管理部50が管理するパラメータは、その何れもが既存の化学製品に関するパラメータとしての第1パラメータである。
【0021】
化学製品に関するパラメータは、化学製品における原材料の配合比率、官能、機能、物性、製造条件などを特定する変数である。また、化学製品に関するパラメータは、化学製品の原材料における成分、成分の構造、物性、配合目的などを特定する変数である。また、化学製品に関するパラメータは、化学製品の使用や適用に関する用途、対象、属性、環境などを特定する変数であってもよい。一例として、ここでの原材料は、市場に流通する製品を単位とする。また、一例として、ここでの成分は、化粧品表示名称、INCI、化学物質名(IUPAC)によって特定される物質を単位とする。
【0022】
情報処理端末10及び管理サーバ20は、通信回線を介して接続されている。情報処理端末10は、管理サーバ20に対して、設計支援のための各種処理を実行することを要求し、管理サーバ20は、情報処理端末10からの要求に応じた各種処理を実行する。
【0023】
制御部30は、データ読込部31、既存点設定部32、空乏点設定部33、空乏点抽出部34、特性点設定部35、及び、特性点分類部36として機能することで、製品管理部40及び原材料管理部50で管理されるパラメータを用いて本システムの各種処理を実行する。制御部30は、さらに、記憶媒体としてのメモリ部37を備えており、メモリ部37には、データ読込部31、既存点設定部32、空乏点設定部33、空乏点抽出部34、特性点設定部35、及び、特性点分類部36における処理を実行するためのプログラムが記憶されている。
【0024】
製品管理部40は、既存の化学製品についての各種パラメータを記憶するデータベースとして、配合比率管理部41と、官能管理部42と、機能管理部43と、第1物性管理部44と、第2物性管理部45と、製造工程管理部46とを備える。
【0025】
配合比率管理部41は、既存の化学製品を構成する原材料の配合比率を特定する配合比率パラメータを記憶する。ここでの原材料は、単一の成分で構成されるものだけでなく、複数の成分によって構成されるものも含む。官能管理部42は、既存の化学製品における官能評価の評価値を特定する官能パラメータを記憶する。機能管理部43は、既存の化学製品における機能評価の結果を特定する機能パラメータを記憶する。第1物性管理部44は、既存の化学製品における物理的、化学的、電気的な物性値の理論値を特定する第1物性パラメータを記憶する。第2物性管理部45は、既存の化学製品における測定機器を用いた物理的、化学的、電気的な物性評価の実測値を特定する第2物性パラメータを記憶する。製造工程管理部46は、既存の化学製品における製造工程及び製造条件を特定する製造工程パラメータを記憶する。
【0026】
原材料管理部50は、既存の化学製品を構成する原材料についての各種パラメータを記憶するデータベースとして、成分管理部51と、第3物性管理部52と、第4物性管理部53と、配合目的管理部54とを備える。成分管理部51は、化学製品の原材料を構成する成分を特定する成分パラメータを記憶する。第3物性管理部52は、化学製品の原材料における理論値としての物性値を特定する第3物性パラメータを記憶する。第4物性管理部53は、化学製品の原材料における物性評価の実測値を特定する第4物性パラメータを記憶する。配合目的管理部54は、化学製品の原材料における配合目的を特定する配合目的パラメータを記憶する。
【0027】
[製品管理部おける各部の説明]
図2に示すように、配合比率管理部41は、既存の化学製品を識別するための製品IDと、既存の化学製品における原材料の配合比率を特定するための配合パラメータとを記憶している。配合パラメータは、各製品IDに対して一つまたは複数設定される。配合比率管理部41は、各配合パラメータを識別するための配合番号を記憶している。すなわち、配合比率管理部41は、既存の化学製品を構成する原材料の配合パラメータを配合番号に関連づけて記憶している。
【0028】
図3に示すように、官能管理部42は、既存の化学製品における官能評価の評価値を特定する官能パラメータを配合番号毎に記憶している。具体例として、官能管理部42は、化学製品である化粧品の使用過程を4つのタイミングに分け、各タイミングにおける官能評価の評価値を記憶している。化粧品の使用過程は、化粧品を手に取った時の「使用前」、手に取った化粧品を肌や髪に塗布する時の「使用中」、化粧品の塗布が完了した時の「使用後」、及び、塗布してから一晩が経った時の「翌朝」の4つタイミングに大別される。そして、各タイミングにおける評価項目としては、例えば、クリーム状の化粧品であれば、使用前の粘度の高さ、使用中の伸びの良さ、使用後のべたつき、翌朝のふっくら感などが挙げられる。他にも、例えば、「かさかさ」、「さらさら」などのように、擬音語や擬態語として表現される所謂オノマトペを各タイミングにおける評価項目としてもよい。このような評価項目に対して、75点を最良として、0点から150点のうち何れかの点数を評価値として付与する。75点よりも低い値の場合は、使用者が評価項目に対して不十分と感じていることになり、反対に75点よりも高い値の場合は、使用者が評価項目に対して過剰と感じていることになる。
【0029】
図4に示すように、機能管理部43は、既存の化学製品における機能評価の評価値を特定する機能パラメータを配合番号毎に記憶している。具体例として、機能管理部43は、化粧品における美白有効性グレード、UV防御指数、及び、安全性評価などについての評価値を配合番号毎に記憶している。さらに、機能管理部43は、評価値による定量的な評価項目だけでなく、定性的な評価項目についてのデータを記憶している。例えば、機能管理部43は、化粧品における標ぼう可能な56項目の効能効果について、各配合番号に対して各項目の効能効果を有するか否かについて記憶している。
【0030】
図5に示すように、第1物性管理部44は、既存の化学製品における物理的、化学的、電気的な物性値の理論値を特定する第1物性パラメータを配合番号毎に記憶している。具体例として、第1物性管理部44は、化粧品における密度、比熱、沸点BPt、融点MPt、水素イオン指数pH、表面張力、接触角、粘度などの物性値についての理論値を第1物性パラメータとして記憶している。また、第1物性管理部44は、既存の化学製品を構成する各原材料の物性値についての代表値を第1物性パラメータとして記憶している。具体例として、第1物性管理部44は、化粧品を構成する各原材料における分子量の平均値、けん化価の平均値などを第1物性パラメータとして記憶している。
【0031】
図6に示すように、第2物性管理部45は、既存の化学製品における測定機器を用いた物理的、化学的、電気的な物性評価の実測値を特定する第2物性パラメータを配合番号毎に記憶している。具体例として、第2物性管理部45は、化粧品における比重、粘度、引火点、表面張力、接触角、針入度、摩擦抵抗値、色差、ゼータ電位、平均粒子径、稠度などの物性値について、測定機器を用いた実測値を第2物性パラメータとして記憶している。
【0032】
図7に示すように、製造工程管理部46は、化学製品の製造工程及びその製造条件を特定する製造工程パラメータを配合番号毎に記憶している。具体例として、製造工程管理部46は、製造工程パラメータとして、化粧品の製造工程の分類、使用機器、及び、製造工程条件を記憶している。また、一つの配合番号に対して複数の製造工程が登録される場合には、各工程を行う順序についての情報を製造工程パラメータとして記憶する。
【0033】
[原材料管理部における各部の説明]
図8に示すように、成分管理部51は、化学製品に用いられる原材料の名称と、原材料を識別するための原材料IDと、原材料の大分類と、原材料を構成する成分及びその組成を特定する成分パラメータである成分番号とを記憶している。ここでの大分類とは、原材料を構成する成分、形態、用途などに応じて原材料を分類するための分類パラメータである。例えば、化粧品の場合、全ての原材料は、大分類として、水系溶媒、油、界面活性剤、粉体、機能性成分、水溶性塩、水溶性高分子、及び、医薬部外品主剤の8つに大別することができる。
【0034】
さらに、成分管理部51は、原材料の成分の化学構造を特定するため構造パラメータを記憶している。具体的には、成分管理部51は、成分の化学式や、SMILES、SMARTS、InChIなどの文字列による表記法の他、MOLファイル形式、SDFファイル形式、XYZファイル形式、CIFファイル形式などの2次元データ形式や3次元データ形式によって、成分の化学構造を記憶している。そして、成分管理部51は、商品名、一般的な化学物質としての名称、化粧品としての表示名称、CAS登録番号なども記憶している。構造パラメータも、成分を特定するための成分パラメータである。
【0035】
図9に示すように、第3物性管理部52は、化学製品の原材料における物理的、化学的、電気的な物性値の理論値を特定する第3物性パラメータを原材料ID毎に記憶している。具体例として、第3物性管理部52は、化粧品の原材料における分子量、モル体積、沸点BPt、融点MPt、けん化価、臨界定数Tc、ヨウ素価、クラフト点、電荷、価数、等電点、曇点、分配係数、トポロジカル極性表面積、ハンセン溶解度パラメータ、有機性値、無機性値などの物性値についての理論値を第3物性パラメータとして記憶している。
【0036】
原材料が複数の成分で構成される場合は、例えば、各成分の第3物性パラメータを記憶してもよいし、平均値などを原材料における第3物性パラメータの代表値として記憶してもよい。第3物性パラメータは、他の物性値や成分管理部51に記憶された構造パラメータなど、他のパラメータから算出される値であってもよい。また、既存の化学物質データベースから取得してもよい。
【0037】
図10に示すように、第4物性管理部53は、化学製品の原材料における測定機器を用いた物理的、化学的、電気的な物性評価の実測値を特定する第4物性パラメータを原材料ID毎に記憶している。具体例として、第4物性管理部53は、化粧品における比重、粘度、引火点、表面張力、接触角、摩擦抵抗値などの物性値について、測定機器を用いた実測値を第4物性パラメータとして記憶している。
【0038】
図11に示すように、配合目的管理部54は、既存の化学製品における各原材料の配合目的パラメータを原材料ID毎に記憶している。ここでの配合目的パラメータとは、任意に設定可能な項目であって、例えば、エモリエント剤、閉塞剤、乳化剤、溶媒、pH調整剤など、化学製品において原材料を配合する際の目的及び用途を特定するパラメータである。各原材料には、少なくとも一つの配合目的が設定されており、一つの原材料に対して複数の配合目的が設定されてもよい。このような配合目的パラメータも原材料を分類するための分類パラメータである。
【0039】
[設計支援処理]
次に、
図12を参照して、設計支援システム1の作用について説明する。以下では、具体例として、原材料a及び原材料bで構成される化学製品において、既存の化学製品と同一及び類似ではない新規の配合比率を見出すための処理を行う場合について説明する。
【0040】
ステップS1において、情報処理端末10は、新規性を検討する化学製品のパラメータを選択する処理を実行する。これにより、通信回線を介して、新規性を検討する対象となるパラメータが情報処理端末10から管理サーバ20に通知される。このとき選択されたパラメータの数をNとする。Nは、2以上の自然数である。ステップS1で選択されるパラメータは、製品管理部40及び原材料管理部50の各部が記憶するパラメータ、もしくは、製品管理部40及び原材料管理部50の各部が記憶するパラメータから計算処理などで導き出されるパラメータである。
【0041】
本実施形態では、ステップS1において、情報処理端末10は、新規性を検討するパラメータとして、原材料aの配合比率についてのパラメータと、原材料bの配合比率についてのパラメータとを選択する処理を実行する。すなわち、検討対象となるのは、原材料a及び原材料bで構成される化学製品の配合パラメータである。このとき、選択されたパラメータの数であるNは、2となる。
【0042】
ステップS2において、データ読込部31は、製品管理部40または原材料管理部50の各部が記憶する第1パラメータのうち、ステップS1で選択されたパラメータを読み込む処理を実行する。本実施形態では、データ読込部31は、配合比率管理部41から、原材料a及び原材料bによって構成される既存の化学製品における配合パラメータを読み込む処理を実行する。
【0043】
ステップS3において、既存点設定部32は、ステップS1で選択された各パラメータの評価軸を座標軸とする仮想空間において、データ読込部31が読み込んだ第1パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする処理を実行する。既存点P1は、既存の化学製品が有する第1パラメータと対応する座標を示す点である。パラメータの大きさを特定する座標軸は、パラメータを評価し得る評価軸の一例である。仮想空間は、パラメータの評価軸が構成する空間である。ここでの仮想空間の次元数Nは、ステップS1で選択されたパラメータの数Nと一致する。また、ここでの仮想空間は、仮想空間の次元数Nが2の場合の仮想平面を含む。なお、仮想空間における各座標軸の原点は、任意に設定可能である。例えば、パラメータとして取り得る値の最小値、最大値、または、中央値の何れかを各座標軸の原点としてもよい。ここでは、パラメータとして取り得る値の最小値を各座標軸の原点とする。
【0044】
図13に示すように、本実施形態では、既存点設定部32は、原材料aの配合比率についての評価軸を縦軸とし、原材料bの配合比率についての評価軸を横軸とする2次元の仮想空間60において、データ読込部31が読み込んだ配合パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする。このように、ステップS1で選択されるパラメータの評価軸が仮想空間の座標軸となるため、ステップS1で選択されるパラメータは、仮想空間の座標軸同士が直交するような独立変数であることが好ましい。
【0045】
なお、以下では、原材料aの配合比率をa(%)、原材料bの配合比率をb(%)としたとき、仮想空間における座標を(a,b)のように記載する。例えば、既存の化学製品における原材料aの配合比率が80%、原材料bの配合比率が20%の場合、仮想空間60における既存点P1の座標を(80,20)のように記載する。
【0046】
化学製品における各原材料の配合比率の総和が100%であることから、a(%)+b(%)=100(%)を常に満たす。したがって、既存点P1は、2次元の仮想空間60における(100,0)及び(0,100)の2点を繋いだ直線61上に位置する。
【0047】
ステップS4において、空乏点設定部33は、N次元の仮想空間において、既存点P1が存在しない座標であって、所定の間隔を有する複数の座標に空乏点P2をプロットする処理を実行する。空乏点P2は、新規の化学製品を設計するための第2パラメータの候補としてプロットされる点である。
【0048】
図14に示すように、本実施形態の具体例として、空乏点設定部33は、仮想空間60の横軸と垂直な補助線62を、横軸方向における0%から100%までの間に5%毎に設ける。さらに、空乏点設定部33は、仮想空間60の縦軸と垂直な補助線63を、縦軸方向における0%から100%までの間に5%毎に設ける。そして、空乏点設定部33は、直線61上の(100,0)から(0,100)までの間において、補助線62及び補助線63の各交点に空乏点P2をプロットする。このとき、既存点P1が存在する座標である(80,20)、及び、(70,30)などには、空乏点P2はプロットされない。
【0049】
ステップS5において、
図15に示すように、空乏点抽出部34は、既存点P1に対して特定距離としての第1距離D1よりも大きい距離を有する空乏点P2を抽出する処理を実行する。すなわち、ステップS5で空乏点抽出部34によって抽出された空乏点P2は、仮想空間60にプロットされた全ての既存点P1に対して第1距離D1よりも大きい距離を有する。第1距離D1は、任意に設定可能な距離であって、既存点P1のパラメータと類似しないパラメータを有する空乏点P2を抽出するための閾値である。換言すると、第1距離D1は、各空乏点P2が位置する座標と対応するパラメータが新規性を有しているか否かを判定するための閾値である。
【0050】
例えば、既存点P1に対して第1距離D1以下の距離を有する空乏点P2のパラメータは、既存の化学製品と類似のパラメータであるとみなすことができる。反対に、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きい距離を有する空乏点P2のパラメータは、既存の化学製品と類似しない、すなわち、新規性を有するパラメータであるとみなすことができる。したがって、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きな距離を有する空乏点P2を抽出することで、抽出された空乏点P2の座標に基づき、化学製品として新規性を有する第2パラメータを得ることができる。
【0051】
ステップS6において、
図16に示すように、空乏点抽出部34は、ステップS5で抽出された空乏点P2のうち、少なくとも何れか一つの既存点P1に対して第2距離D2よりも小さい距離を有する空乏点P2を抽出する処理を実行する。第2距離D2の値は、第1距離D1よりも大きな値である。すなわち、ステップS6で空乏点抽出部34によって抽出された空乏点P2は、少なくとも何れか一つの既存点P1に対して第1距離D1から第2距離D2までの領域である空乏領域64に位置している。
【0052】
ここでの第2距離D2は、任意に設定可能な距離であって、既存点P1に対して極端に離れた座標に位置する空乏点P2を除外するために設定される距離である。既存点P1から極端に離れた座標と対応するパラメータを有する化学製品は、機能面や製造面から製品として成立しない場合も多い。具体的には、原材料における配合比率の例では、既存の化学製品の配合比率と極端に異なる配合比率を実現しようとしても、従来の製造方法では製造が困難であったり、化学製品として必要とされる機能、官能が失われたりすることで、製品化が困難である場合が多い。したがって、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きく、かつ、第2距離D2よりも小さい距離となる座標に位置する空乏点P2を抽出することで、化学製品として新規性を有し、かつ、実現可能性の高いパラメータと対応する座標に位置する空乏点P2を抽出できる。
【0053】
ステップS7において、空乏点抽出部34は、ステップS6で抽出された空乏点P2のうち、各座標軸の軸線方向において、複数の既存点P1に囲まれる領域の空乏点P2を抽出する処理を実行する。具体的には、
図17に示すように、空乏点抽出部34は、仮想空間60の縦軸方向及び横軸方向のそれぞれにおいて、複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出する。ここで、既存点P1は、仮想空間60の縦軸方向において、20%から80%までの間の領域に位置しており、仮想空間60の横軸方向においても20%から80%までの間の領域に位置している。したがって、空乏点設定部33は、ステップS6で抽出された空乏点P2のうち、縦軸方向において、20%から80%までの間の領域に位置しており、かつ、横軸方向において、20%から80%までの間の領域に位置する空乏点P2を抽出する。
【0054】
仮想空間60の各座標軸の軸線方向において、複数の既存点P1に囲まれる領域は、少なくともその領域の両端部において、既存の化学製品におけるパラメータとして成立している領域である。これに対して、複数の既存点P1に囲まれる領域よりも外側の領域では、新規性は高いものの、機能面や製造面から化学製品として成立しないため、既存の化学製品として開発されていない場合も多い。したがって、各座標軸の軸線方向において、複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出することで、化学製品として新規性を有し、かつ、実現可能性の高いパラメータと対応する座標に位置する空乏点P2を抽出できる。また、このような処理を行う観点から、ステップS1で選択されるパラメータは、既存点P1が各座標軸の軸線方向に分散するようなパラメータであることが好ましい。
【0055】
ステップS8において、空乏点抽出部34は、ステップS7で抽出された空乏点P2の座標を情報処理端末10に出力する処理を実行する。これにより、空乏点P2の座標に基づき、第2パラメータとして、化学製品として新規性を有し、かつ、実現可能性の高いパラメータが得られる。本実施形態の場合では、新規性を有し、かつ、実現可能性の高い配合パラメータが得られる。このようにして得られた新規性を有する配合パラメータに基づいて、従来の化学製品からでは得られにくいような配合比率の着想を得ることができる。したがって、新規の化学製品の設計開発が可能となる。なお、情報処理端末10に出力される空乏点P2の座標は、あくまで新規の化学製品を設計する際に着想を得るための第2パラメータであるから、実際に設計される化学製品が必ずしも出力される空乏点P2の座標と同一のパラメータを有する必要は無く、適宜アレンジしてよい。
【0056】
以上のように構成された第1実施形態における設計支援システムによれば以下に列挙する効果を得ることができる。
(1-1)既存点P1に対して特定距離としての第1距離D1よりも大きな距離を有する空乏点P2を抽出することで、抽出された空乏点P2の座標に基づき、化学製品として新規性を有する第2パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規性を有する第2パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0057】
(1-2)既存点P1に対して第2距離D2よりも小さな距離を有する空乏点P2を抽出することで、既存点P1から極端に離れた座標に位置する空乏点P2が除外される。既存点P1から極端に離れた座標と対応するパラメータを有する化学製品は、機能面や製造面から製品として成立しない場合も多い。したがって、既存点P1に対して第2距離D2よりも小さな距離を有する空乏点P2を抽出することで、化学製品として新規性を有する第2パラメータであって、実現可能性の高い第2パラメータを得ることができる。
【0058】
(1-3)仮想空間60の各座標軸の軸線方向において、複数の既存点P1に囲まれる領域は、少なくともその領域の両端部において、既存の化学製品におけるパラメータとして成立している領域である。これに対して、既存点P1に囲まれる領域よりも外側の領域では、機能面や製造面から化学製品として成立しない場合も多い。したがって、複数の既存点P1に囲まれる領域に位置する空乏点P2を抽出することで、化学製品として新規性を有する第2パラメータであって、実現可能性の高い第2パラメータを得ることができる。
【0059】
[第2実施形態]
以下、本発明が適用された第2実施形態について図面を参照して説明する。
第2実施形態では、設計支援システム1の作用として、原材料を分類するための分類パラメータを用いて仮想空間の次元を削減する場合の例について、
図12を参照して説明する。本実施形態の具体例として、成分管理部51が記憶する原材料の大分類である「水系溶媒」、「油」、「界面活性剤」の何れかに分類される原材料によって構成される化学製品の配合比率について検討する場合について説明する。
【0060】
ステップS1において、情報処理端末10は、新規性を検討する化学製品のパラメータを選択する処理を実行する。本実施形態では、情報処理端末10は、新規性を検討するパラメータとして、「水系溶媒」に分類される原材料の配合比率、「油」に分類される原材料の配合比率、及び、「界面活性剤」に分類される原材料の配合比率についてのパラメータを選択する処理を実行する。すなわち、検討対象となるのは、「水系溶媒」、「油」、「界面活性剤」の何れかに分類される原材料によって構成される既存の化学製品についての配合パラメータである。このとき、選択されたパラメータの数であるNは、3となる。
【0061】
ステップS2において、データ読込部31は、製品管理部40または原材料管理部50の各部から、ステップS1で選択されたパラメータを読み込む処理を実行する。具体的には、データ読込部31は、配合比率管理部41および成分管理部51を参照して、大分類が「水系溶媒」、「油」、「界面活性剤」の何れかに分類される原材料によって構成される既存の化学製品についての配合パラメータを読み込む処理を実行する。
【0062】
ステップS3において、
図18に示すように、既存点設定部32は、大分類毎に集約された原材料の配合比率についての評価軸を座標軸とする3次元の仮想空間70において、データ読込部31が読み込んだ配合パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする。なお、以下では、「水系溶媒」に分類される原材料の配合比率についての座標軸をx軸、「油」に分類される原材料の配合比率についての座標軸をy軸、「界面活性剤」に分類される原材料の配合比率についての座標軸をz軸とする。そして、「水系溶媒」に分類される原材料の配合比率をx(%)、「油」に分類される原材料の配合比率をy(%)、「界面活性剤」に分類される原材料の配合比率をz(%)としたとき、仮想空間70における座標を(x,y,z)のように記載する。
【0063】
例えば、原材料c及び原材料dが「水系溶媒」に分類され、原材料e及び原材料fが「油」に分類され、原材料g及び原材料hが「界面活性剤」に分類されるとき、本実施形態のように、大分類毎の配合比率についての評価軸を仮想空間の座標軸とした場合、仮想空間の次元数Nは3となる。これに対して、原材料c~hの各原材料の配合比率についての評価軸を仮想空間の座標軸とした場合、仮想空間の次元数Nは6となる。このように、各原材料の配合比率に代えて原材料の分類毎の配合比率を用いることで、仮想空間の次元を削減できる。
【0064】
また、化学製品における各原材料の配合比率の総和が100%であることから、x(%)+y(%)+z(%)=100(%)を常に満たす。したがって、既存点P1は、3次元の仮想空間70における(100,0,0)、(0,100,0)、及び、(0,0,100)の3点を繋いだ平面71上に位置する。
【0065】
ステップS4において、空乏点設定部33は、N次元の仮想空間において、既存点P1が存在しない座標であって、所定の間隔を有する複数の座標に空乏点P2をプロットする処理を実行する。
【0066】
具体的には、
図19に示すように、空乏点設定部33は、3次元の仮想空間70において、x(%)+y(%)+z(%)=100(%)の条件を満たす平面71上に、x軸方向、y軸方向、及び、z軸方向の各座標軸について10%刻みで複数の空乏点P2を設定する。このとき、既存点P1が存在する座標である(60,20,20)、及び、(30,50,20)などには、空乏点P2はプロットされない。
【0067】
ステップS5において、
図20に示すように、空乏点抽出部34は、既存点P1に対して特定距離としての第1距離D1よりも大きい距離を有する空乏点P2を抽出する処理を実行する。すなわち、ステップS5で空乏点抽出部34によって抽出された空乏点P2は、仮想空間70にプロットされた全ての既存点P1に対して第1距離D1よりも大きい距離を有する。第1距離D1は、任意に設定可能な距離であって、既存点P1のパラメータと類似しないパラメータを有する空乏点P2を抽出するための閾値である。すなわち、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きい距離を有する空乏点P2の座標と対応するパラメータは、既存の化学製品と類似しないを有するパラメータである。
【0068】
ステップS6において、
図21に示すように、空乏点抽出部34は、ステップS5において抽出された空乏点P2のうち、少なくとも何れか一つの既存点P1に対して第2距離D2よりも小さい距離を有する空乏点P2を抽出する処理を実行する。第2距離D2の値は、第1距離D1よりも大きな値である。すなわち、ステップS6で抽出された空乏点P2は、少なくとも何れか一つの既存点P1に対して第1距離D1から第2距離D2までの領域である空乏領域72に位置している。
【0069】
ステップS7において、空乏点抽出部34は、ステップS6において抽出された空乏点P2のうち、各座標軸の軸線方向において複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出する処理を実行する。
【0070】
具体的には、
図22に示すように、空乏点抽出部34は、ステップS6において抽出された空乏点P2のうち、仮想空間60のx軸方向、y軸方向、及び、z軸方向のそれぞれにおいて、複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出する。ここで、既存点P1は、仮想空間70のx軸方向において、10%から60%までの間の領域に位置しており、y軸方向において、20%から50%までの間の領域に位置しており、z軸方向において、20%から70%までの間の領域に位置している。したがって、空乏点抽出部34は、ステップS6において抽出された空乏点P2のうち、x軸方向において、10%から60%までの間の領域に位置し、かつ、y軸方向において、20%から50%までの間の領域に位置し、かつ、z軸方向において、20%から70%までの間の領域に位置する空乏点P2を抽出する。
【0071】
ステップS8において、空乏点抽出部34は、ステップS7で抽出された空乏点P2の座標を情報処理端末10に出力する処理を実行する。これにより、空乏点P2の座標に基づき、新規性を有し、かつ、実現可能性の高い第2パラメータが得られる。本実施形態の場合では、化学製品における原材料の大分類毎に集約された配合パラメータとして、新規性を有し、かつ、実現可能性の高い配合パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規性を有する第2パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0072】
このように、分類パラメータに基づき、類似の原材料を集約して一群の原材料として扱うことで、仮想空間の座標軸として、各原材料の配合比率に代えて原材料の分類毎の配合比率を用いることができる。例えば、第1実施形態のように、配合比率の新規性を検討する原材料の数が仮想空間の次元数Nと一致するとき、配合比率の新規性を検討する原材料の数が増加すると仮想空間の次元数Nも増加するため、原材料の数によっては管理サーバ20において膨大な計算処理が必要となる場合がある。このような場合に、原材料の分類毎に集約された配合比率の評価軸を仮想空間の座標軸とすることで、仮想空間の次元を削減することができる。したがって、効率的に空乏点P2を抽出できる。
【0073】
以上のように構成された第2実施形態における設計支援システムによれば以下の効果を得ることができる。
(2-1)原材料の配合パラメータ及び分類パラメータに基づき、分類毎の配合比率についての評価軸を仮想空間の座標軸として化学製品の配合比率の新規性を検討することで、仮想空間の座標軸として原材料毎の配合比率についての評価軸を用いるよりも次元を削減でき、効率的に空乏点P2を抽出できる。
【0074】
なお、上記第2実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
・分類パラメータとして、成分管理部51に記憶された大分類に基づいて原材料を分類する構成を例示したが、これに限定されず、原材料管理部50の各部に記憶された任意の分類パラメータに基づき原材料を分類してもよい。例えば、配合目的管理部54が記憶する原材料の配合目的パラメータに基づいて原材料を分類し、原材料における配合目的毎の配合比率を仮想空間の座標軸としてもよい。このような場合であっても、仮想空間の次元を削減することができる。また、分類パラメータとしては、原材料の大分類や配合目的パラメータに限定されず、大分類をさらに細分化して分類してもよいし、別の新たな分類パラメータを原材料管理部50の各部に記憶させてもよい。
【0075】
[第3実施形態]
以下、本発明が適用された第3実施形態について図面を参照して説明する。
上記第2実施形態では、設計支援システム1の作用として、予め成分管理部51などに記憶された大分類や配合目的管理部54に記憶された配合目的パラメータなどの分類パラメータに基づいて原材料を分類し、原材料の分類毎の配合比率を仮想空間の座標軸とする例について説明した。第3実施形態では、原材料管理部50の各部が記憶する第3物性パラメータなどの原材料に関するパラメータを分類パラメータとして用いることで原材料を新たに分類し、その分類に基づいて配合比率の新規性を検討する場合における設計支援システム1の作用について説明する。なお、原材料を新たに分類する処理は、
図12に示すステップS1の前に行われる。
【0076】
まず、情報処理端末10は、分類パラメータとして用いる原材料に関するパラメータを選択する処理を実行する。本実施形態の具体例として、情報処理端末10は、分類パラメータとして用いる原材料に関するパラメータとして、第3物性管理部52が記憶する「分子量」及び「けん化価」についてのパラメータを選択する処理を実行する。
【0077】
次いで、データ読込部31は、原材料管理部50の各部から選択されたパラメータを読み込む処理を実行する。本実施形態の具体例として、データ読込部31は、第3物性管理部52から各原材料の「分子量」及び「けん化価」についてのパラメータを読み込む処理を実行する。
【0078】
次いで、特性点設定部35は、選択されたパラメータの評価軸を座標軸とする仮想空間において、データ読込部31が読み込んだパラメータと対応する座標に特性点P3をプロットする処理を実行する。具体的には、
図23に示すように、特性点設定部35は、データ読込部31が読み込んだ各原材料の「分子量」の評価軸及び「けん化価」の評価軸を座標軸とする仮想空間80において、データ読込部31が読み込んだ各パラメータと対応する座標に特性点P3をプロットする。特性点P3は、データ読込部31によってパラメータが読み込まれた原材料の数に応じて複数プロットされる。
【0079】
次いで、特性点分類部36は、仮想空間80にプロットされた複数の特性点P3を分類する処理を実行する。分類方法の一例として、特性点分類部36は、仮想空間80における特性点P3同士の距離が所定の距離以内にあるものを一群の原材料として分類する処理を実行する。具体的には、特性点分類部36は、仮想空間80にプロットされた複数の特性点P3のうち、分子量が小さく、けん化価も小さい一群の特性点P3を分類C1として分類し、分子量が中程度であり、けん化価が一群の大きい特性点P3を分類C2として分類し、分子量が小さく、けん化価が大きい一群の特性点P3を分類C3として分類する。そして、特性点分類部36は、特性点P3を分類した結果に応じて、各原材料を分類C1、分類C2、分類C3の何れかに分類する。特性点分類部36による特性点P3の分類方法は、上記のような特性点P3同士の距離による分類方法の他、例えば、分子量に対するけん化価の割合について任意の閾値を設け、閾値に対するパラメータの大きさに応じて特性点P3を分類する方法であってもよい。
【0080】
上記の手順で原材料を分類した後、
図12に示すステップS1からステップS8の処理によって、原材料の配合比率を検討する。具体的には、ステップS1において、情報処理端末10は、新規性を検討するパラメータとして、「分類C1」に分類される原材料の配合比率、「分類C2」に分類される原材料の配合比率、及び、「分類C3」に分類される原材料の配合比率についてのパラメータを選択する処理を実行する。すなわち、検討対象となるのは、「分類C1」、「分類C2」、「分類C3」の何れかに分類される原材料によって構成される既存の化学製品についての配合パラメータである。このとき、選択されたパラメータの数であるNは、3となる。
【0081】
ステップS2において、データ読込部31は、製品管理部40または原材料管理部50の各部から、ステップS1で選択されたパラメータを読み込む処理を実行する。具体的には、データ読込部31は、「分類C1」、「分類C2」、「分類C3」の何れかに分類される原材料によって構成される既存の化学製品についての配合パラメータを読み込む処理を実行する。
【0082】
ステップS3において、
図24に示すように、既存点設定部32は、「分類C1」、「分類C2」、及び、「分類C3」に分類される原材料の配合比率についての評価軸を座標軸とする3次元の仮想空間90において、データ読込部31が読み込んだ各配合パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする。ステップS4以降の処理については、上記第1実施形態及び第2実施形態における処理と同様のため、説明を省略する。
【0083】
以上のように構成された第3実施形態における設計支援システムによれば以下の効果を得ることができる。
(3-1)原材料に関するパラメータを分類パラメータとして用いることで、設計者の目的に応じて原材料を好適に分類することができる。したがって、仮想空間における次元の増加を抑制できる。
【0084】
なお、上記第3実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
・原材料に関するパラメータとして、第3物性管理部52が記憶する第3物性パラメータを分類パラメータとして用いることで原材料を新たに分類する構成を例示したが、これに限定されず、原材料管理部50の各部に記憶された原材料に関する任意のパラメータに基づき原材料を分類してもよい。例えば、成分管理部51が記憶する構造パラメータも、官能基、ユニット、原子の結合状態などによって原材料を分類することができるため、分類パラメータとして用いることができる。
【0085】
なお、上記第1~第3実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記第1~第3実施形態では、原材料毎の配合比率を仮想空間の座標軸とする場合と、原材料の分類毎の配合比率を仮想空間の座標軸とする場合について例示した。しかし、これに限定されず、例えば、仮想空間の座標軸として、原材料の配合比率と、原材料の分類毎の配合比率とを組み合わせてもよい。具体的には、原材料aの配合比率を縦軸として、大分類が「油」に分類される原材料の配合比率を横軸とする仮想空間によって、化学製品の原材料における配合比率の新規性を検討することもできる。この場合でも、化学製品の設計者の目的に応じて、原材料の配合比率を好適に検討できるとともに、仮想空間における次元の増加を抑制できる。
【0086】
・上記第1~第3実施形態では、原材料の配合比率についての新規性を検討する構成について例示したが、これに限定されず、例えば、原材料の配合比率に対する製造条件を検討することもできる。具体的には、例えば、配合比率管理部41が記憶する配合パラメータに加えて、製造工程管理部46が記憶する製造工程パラメータを抽出し、化学製品における配合パラメータ及び製造工程パラメータを各座標軸とする仮想空間において、抽出した配合パラメータ及び製造工程パラメータを対応する座標に既存点P1としてプロットする。製造工程パラメータとしては、例えば、化粧品の乳化工程であれば、温度、回転数、圧力、時間、回数などの製造条件を特定するための変数である。そして、上記第1~第3実施形態と同様の処理を行うことで、原材料の配合比率及び製造条件の組合せとして新規性を有する第2パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規性を有する第2パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。また、新規の配合比率を有する化学製品における製造工程の検討が可能ともなる。
【0087】
[第4実施形態]
以下、本発明が適用された第4実施形態について図面を参照して説明する。
上記第1~第3実施形態では、化学製品における原材料の配合比率を検討する場合の設計支援システム1の作用について説明した。以下では、化学製品に付与したい官能、機能、物性などの特性についての新規性を検討する場合における設計支援システム1の作用について、
図12を参照して説明する。
【0088】
ステップS1において、第1~第3実施形態では原材料毎、または、原材料の分類毎の配合パラメータを選択したのに対して、第4実施形態では、情報処理端末10は、化学製品についての特性パラメータを選択する処理を実行する。特性パラメータは、化学製品の特性を特定するための変数であり、官能パラメータ、機能パラメータ、第1物性パラメータ、第2物性パラメータなどを含む。具体例として、化学製品における「平均粒子径」に対する「粘度」の新規性について検討する場合、情報処理端末10は、化学製品における特性パラメータとして第2物性管理部45が記憶する「平均粒子径」及び「粘度」を選択する。このとき、選択されたパラメータの数であるNは、2となる。
【0089】
ステップS2において、データ読込部31は、製品管理部40の各部から、ステップS1で選択されたパラメータを読み込む処理を実行する。具体的には、データ読込部31は、化学製品の特性パラメータとして、第2物性管理部45から「平均粒子径」及び「粘度」についてのパラメータを読み込む処理を実行する。
【0090】
ステップS3において、既存点設定部32は、N次元の仮想空間において、ステップS2で読み込んだパラメータと対応する座標に既存点P1としてプロットする処理を実行する。具体的には、
図25に示すように、データ読込部31は、化学製品における「平均粒子径」の評価軸を横軸とし、化学製品における「粘度」の評価軸を縦軸とする2次元の仮想空間100において、ステップS2で読み込んだ各パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする。
【0091】
ステップS4において、空乏点設定部33は、N次元の仮想空間において、既存点P1が存在しない座標であって、所定の間隔を有する複数の座標に空乏点P2をプロットする処理を実行する。具体的には、
図26に示すように、空乏点設定部33は、横軸方向において、仮想空間100の横軸と垂直な補助線101を任意の間隔となるように設ける。さらに、空乏点設定部33は、縦軸方向において、仮想空間100の縦軸と垂直な補助線102を任意の間隔となるように設ける。そして、空乏点設定部33は、補助線101及び補助線102の交点に空乏点P2をプロットする。ステップS5以降の処理については、上記第1~第3実施形態における処理と同様のため、説明を省略する。
【0092】
以上のように構成された第4実施形態における設計支援システムによれば以下の効果を得ることができる。
(4-1)化学製品の官能パラメータ、機能パラメータ、第1物性パラメータ、第2物性パラメータなどの特性パラメータを既存点P1仮想空間にプロットして空乏点P2を抽出することで、空乏点P2の座標に基づき、第2パラメータとして、新規性を有する特性パラメータを得ることができる。このようにして得られた新規性を有する特性パラメータから着想を得ることで、新規の化学製品の設計開発が可能となる。
【0093】
なお、上記第1~第4実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
・仮想空間60,70,90,100の各座標軸の軸線方向において、複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、一部の座標軸の軸線方向においてのみ、複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出する処理を実行してもよい。また、複数の既存点P1に囲まれる空乏点P2を抽出する処理を省略してもよい。このような場合であっても、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きな距離を有する空乏点P2を抽出する処理を実行することで、空乏点P2の座標に基づき、新規性を有する第2パラメータを得ることができる。
【0094】
・既存点P1に対して第2距離D2よりも小さな距離を有する空乏点P2を抽出する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、既存点P1に対して第2距離D2よりも小さな距離を有する空乏点P2を抽出する処理を省略してもよい。このような場合であっても、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きな距離を有する空乏点P2を抽出する処理を実行することで、空乏点P2の座標に基づき、新規性を有する第2パラメータを得ることができる。
【0095】
・第2距離D2は、第1距離D1よりも大きい値であれば、その距離は限定されず、例えば、化粧品や医薬品など対象とする化学製品毎に異なる値が設定されてもよいし、同じ化粧品であってもそれぞれの製品毎に異なる値が設定されてもよく、選択されたパラメータ毎に適宜設定されてもよい。また、第2距離D2は、座標軸の軸線方向における既存点P1の分散の度合いによって適宜設定されてもよい。
【0096】
・第1距離D1は、既存点P1のパラメータに対して、空乏点P2のパラメータの新規性を確保できる距離であれば、その距離は限定されない。例えば、化粧品や医薬品など対象とする化学製品毎に異なる値が設定されてもよいし、同じ化粧品であってもそれぞれの製品毎に異なる値が設定されてもよく、選択されたパラメータ毎に適宜設定されてもよい。また、第1距離D1は、座標軸の軸線方向における既存点P1の分散の度合いによって適宜設定されてもよい。
【0097】
・空乏点P2は、既存点P1が存在しない座標にのみプロットされる構成について例示したが、既存点P1が存在する座標にもプロットしてもよい。この場合であっても、後の処理で既存点P1に対して第1距離D1よりも大きな距離を有する空乏点P2のみが抽出されるため、既存点P1が存在する座標にプロットされた空乏点P2は除外される。
【0098】
・空乏点抽出部34は、既存点P1に対して第1距離D1よりも大きい距離を有する空乏点P2を抽出する処理と、既存点P1に対して第2距離D2よりも小さい距離を有する空乏点P2を抽出する処理と、複数の既存点P1に囲まれる領域の空乏点P2を抽出する処理とを実行するが、これら3つの処理の順序は限定されない。また、各空乏点P2のそれぞれにおいて、各既存点P1に対して第1距離D1よりも大きい距離を有するか否か、各既存点P1に対して第2距離D2よりも小さい距離を有するか否か、及び、複数の既存点P1に囲まれるか否かを判定してもよい。この場合、各空乏点P2において、全ての既存点P1に対する位置を判定するのでなく、例えば、各空乏点P2の近傍に位置する所定の数の既存点P1に対して上記の判定を行うことで、計算処理を簡略化できる。
【0099】
・製品管理部40及び原材料管理部50の各部が記憶するパラメータは、上記の例に限定されず、設計対象の化学製品に応じて適宜決定されればよい。例えば、官能管理部42が記憶する官能パラメータとして、化粧品における官能評価の評価値を記憶する場合について例示したが、これに限定されず、食品であれば、味や、食感などの官能評価についての評価値を記憶してもよい。また、設計対象の化学製品が官能評価を不要とする化学製品であれば、製品管理部40に官能管理部42を設けなくてもよい。別の例では、第2物性管理部45が記憶する第2物性パラメータとして、化粧品における各種物性評価についての実測値を記憶する場合について例示したが、これに限定されず、例えば、金属材料であれば、密度、引張強度、導電率などの物性評価の実測値を記憶してもよい。また、製品管理部40及び原材料管理部50の各部が記憶するパラメータは、必要に応じて追加、削除が可能であり、予め全ての管理項目についてのパラメータが記憶されていなくてもよい。
【0100】
・仮想空間60,70,90,100において、空乏点P2が等間隔に設けられる構成を例示したが、これに限定されず、空乏点P2を設ける間隔をパラメータの種類や用途に応じて変えてもよく、空乏点P2を等間隔に設けず、局所的に密集させたり分散させたりしてもよい。空乏点P2を設ける間隔を細かくした場合、より多くの空乏点P2がプロットされるため、新規性を有し、実現可能性の高い第2パラメータと対応する座標に位置する空乏点P2を抽出できる可能性が高まるが、管理サーバ20において、多くの計算処理が必要となる。これに対して、空乏点P2を設ける間隔を大きくした場合、空乏点P2の候補となる空乏点P2の数が減少するため、新規性を有し、実現可能性の高い第2パラメータと対応する座標に位置する空乏点P2を抽出できる可能性が下がるものの、管理サーバ20における計算処理を簡略化できる。
【0101】
・次元数Nが2または3である仮想空間で各種処理を行う構成を例示したが、制御部30によって処理可能な次元数であれば、仮想空間の次元数Nは限定されず、例えば、4次元以上であってもよい。
【0102】
・仮想空間にプロットするパラメータとして、数値として表現される定量的な評価項目に関するパラメータを用いる構成について例示したが、これに限定されず、定性的な評価項目に関する情報をパラメータとして用いてもよい。例えば、機能管理部43が記憶する化粧品における標ぼう可能な56項目の効能効果を有するか否かの情報について、効能効果を有する場合を「1」、効能効果を有していない場合を「0」のように数値化することで、定性的な評価項目に関する情報をパラメータとして変換し、仮想空間にプロットできる。
【0103】
・仮想空間を構成する評価軸が原材料の配合比率である場合、各評価軸における配合比率の和が必ずしも100%とならなくてもよい。例えば、上記第1実施形態では、仮想空間60において原材料a及び原材料bによって構成される化学製品の配合パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする例を示したが、これに限定されず、原材料a及び原材料bの他に別の原材料を含む化学製品の配合パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットしてもよい。原材料a及び原材料bの他に別の原材料を含む化学製品の配合パラメータと対応する座標に既存点P1をプロットする場合、原材料aの配合比率と原材料bの配合比率との和が100%とはならないため、既存点P1が直線61よりも原点に近い座標にプロットされる。この場合でも、ステップS4~S8までの処理を実行可能である。
【0104】
・管理サーバ20が制御部30と、製品管理部40と、原材料管理部50とを備える構成を例示したが、これに限定されず、例えば、制御部30を備えるサーバと、製品管理部40及び原材料管理部50を備えるサーバとの2つのサーバで構成されてもよい。他にも、制御部30を備えるサーバと、製品管理部40を備えるサーバと、原材料管理部50を備えるサーバとの3つのサーバで構成されてもよい。また、管理サーバ20が情報処理端末10からの要求に応じて各種処理を実行する構成を例示したが、これに限定されず、例えば、管理サーバ20に表示部や操作部を設けて、情報処理端末10を介さずに管理サーバ20に直接各種処理の要求を入力する構成であってもよい。
【0105】
・化学製品としては、化粧品以外に、例えば、食料品、医薬品、ゴム製品、樹脂製品、ガラス製品、石油製品、金属製品などであってもよく、本設計支援システムは、何れの化学製品においても適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1…設計支援システム
10…情報処理端末
20…管理サーバ
30…制御部
31…データ読込部
32…既存点設定部
33…空乏点設定部
34…空乏点抽出部
35…特性点設定部
36…特性点分類部
37…メモリ部
40…製品管理部
41…配合比率管理部
42…官能管理部
43…機能管理部
44…第1物性管理部
45…第2物性管理部
46…製造工程管理部
50…原材料管理部
51…成分管理部
52…第3物性管理部
53…第4物性管理部
54…配合目的管理部
60,70,80,90,100…仮想空間
64,72…空乏領域