(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】製造方法、シリンダ、回路遮断器及び分電盤
(51)【国際特許分類】
B21K 21/14 20060101AFI20241029BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20241029BHJP
H01H 73/36 20060101ALI20241029BHJP
H02B 1/42 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B21K21/14
B21J5/06 C
H01H73/36 D
H02B1/42
(21)【出願番号】P 2020204222
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 庸
(72)【発明者】
【氏名】松浦 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】馬場 誠司
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/038526(WO,A1)
【文献】特開2016-167390(JP,A)
【文献】特開2013-145643(JP,A)
【文献】特開2017-164755(JP,A)
【文献】特開昭63-115643(JP,A)
【文献】特開2005-124307(JP,A)
【文献】特開平4-89153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 21/00-21/14
H01H 73/36
H02B 1/42
B21J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュポットに用いられる有底筒状のシリンダの製造方法であって、
所定の長さの被鍛造材に対して第1のパンチで押し出し加工を行うことで、前記被鍛造材に第1の凹部を形成し、
前記第1の凹部の底面に対して第2のパンチで押し出し加工を行うことで、前記第1の凹部と空間的に連続する第2の凹部を形成し、
前記第1の凹部の内径は、前記第2の凹部の内径より大きく、
前記第2のパンチの先端部は、円錐台形状であり、
前記第2の凹部の形成では、前記円錐台形状である前記第2のパンチを用いて、筒状の側面部と、前記側面部の一方の開口を塞ぐ底面部及び傾斜部とを有し、前記傾斜部が前記底面部から前記側面部に向かうにつれ肉厚である前記シリンダを形成
し、
前記第1のパンチの先端部は、平面状である
製造方法。
【請求項2】
前記第2のパンチの先端部の前記円錐台形状の傾斜角度は、45度未満である
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記第2の凹部が形成された前記被鍛造材に対して前記第1のパンチより直径が小さい第3のパンチを用いて、前記第1の凹部の前記シリンダの開口側において、内側に材料を寄せることで前記第1の凹部より内径が小さい領域を形成する
請求項1
又は2のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、線材を前記所定の長さに切断することで前記被鍛造材を作製する
請求項1~
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて作製されたシリンダ。
【請求項6】
請求項
5に記載のシリンダと、
前記シリンダの開口に設けられ、前記シリンダを密閉するためのポールヘッドと、
前記シリンダに収容され、過電流が流れたときに前記ポールヘッド側へ向かう方向に移動可能なプランジャとを備え、
前記第2の凹部における前記方向の長さは、過電流が発生していないときの前記プランジャと前記ポールヘッドとの距離より長い
回路遮断器。
【請求項7】
請求項
6に記載の回路遮断器を1以上備える分電盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造方法、シリンダ、回路遮断器及び分電盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有低筒状のシリンダと、当該シリンダを巻くように設けられる電磁コイルと、シリンダ内に設けられる制動ばね及びプランジャ(可動鉄心)とシリンダの開口部に設けられるポールヘッド(固定鉄心)とを有するダッシュポットを備える回路遮断器が知られている。このような回路遮断器では、電磁コイルに過電流が流れることにより形成される磁束により、プランジャがポールヘッドに引き寄せられ、これにより磁気抵抗が減少し、シリンダ外部のアマチュア(作動鉄片)がポールヘッドに引き寄せられる。これにより、トリップ機構が動作し回路が遮断される。回路遮断器が正確に動作するためには、シリンダ内をプランジャがスムーズに動くことが重要である。
【0003】
このようなシリンダを作製する工法として、金型に板金を挟み込みプレス成形する絞り加工が知られている(特許文献1を参照)。絞り加工を用いることで、円筒度が高い、つまりプランジャがスムーズに動くことが可能なシリンダを作製可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属成形品の加工方法として、絞り加工の他に、鍛造加工が知られている。鍛造加工により加工することにより、金属成形品の機械的性質の向上、切削する材料の削減等の利点がある。
【0006】
しかしながら、鍛造加工を用いて上記のシリンダを形成する場合、シリンダの円筒度が低下する懸念がある。
【0007】
そこで、本発明は、鍛造加工を用いた場合であっても、円筒度が低下することを抑制することができるシリンダの製造方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る製造方法は、ダッシュポットに用いられる有底筒状のシリンダの製造方法であって、所定の長さの被鍛造材に対して第1のパンチで押し出し加工を行うことで、前記被鍛造材に第1の凹部を形成し、前記第1の凹部の底面に対して第2のパンチで押し出し加工を行うことで、前記第1の凹部と空間的に連続する第2の凹部を形成し、前記第1の凹部の内径は、前記第2の凹部の内径より大きい。
【0009】
本発明の一態様に係るシリンダは、上記の製造方法で作製されたシリンダである。
【0010】
本発明の一態様に係る回路遮断器は、上記のシリンダと、前記シリンダの開口に設けられ、前記シリンダを密閉するためのポールヘッドと、前記シリンダに収容され、過電流が流れたときに前記ポールヘッド側へ向かう方向に移動可能なプランジャとを備え、前記第2の凹部における前記方向の長さは、過電流が発生していないときの前記プランジャと前記ポールヘッドとの距離より長い。
【0011】
本発明の一態様に係る分電盤は、上記の回路遮断器を1以上備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る製造方法等によれば、鍛造加工を用いた場合であっても、シリンダの円筒度が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るシリンダを備える回路遮断器の断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係るシリンダを有するダッシュポットの構成図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るシリンダの断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係るシリンダを作製するための鍛造装置の構成を示す概略図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係るシリンダを作製するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施の形態に係るシリンダの工程ごとの形状を示す模式断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る分電盤の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0015】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0016】
また、本明細書において、一致、直交などの要素間の関係性を示す用語、及び、円筒、矩形、台形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値、及び、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0017】
また、本明細書及び図面において、X軸、Y軸及びZ軸は、三次元直交座標系の三軸を示している。実施の形態では、Z軸方向をシリンダの長手方向している。また、X軸方向及びY軸方向は、Z軸方向に垂直な平面上において、互いに直交する方向である。また、以下の実施の形態において、「平面視」とは、Z軸方向から見ることを意味し、「断面視」とは、X軸及びY軸を含む平面で切断した切断面を当該平面と直交する方向から見ることを意味する。
【0018】
(実施の形態)
[1.回路遮断器の構成]
図1は、本実施の形態に係るシリンダ10を有する電磁引き外し装置100を備える回路遮断器1の断面模式図である。
図2は、本実施の形態に係るシリンダ10を有するダッシュポット100aの構成図である。
図2は、過電流が流れていないときのダッシュポット100aの構成を示す。また、
図2は、シリンダ10及びポールヘッド40をXZ平面で切断した状態を示すが、プランジャ20の突出部22と制動ばね30とが重なる部分においては、制動ばね30の図示を省略している。
【0019】
図1に示すように、回路遮断器1は、電磁引き外し装置100と、ラッチ110と、メカ120と、人からの操作を受け付けるハンドル130と、接点140とを備える。また、電磁引き外し装置100は、ダッシュポット100aと、シリンダ10を巻くように設けられた電磁コイル50と、ヨーク60と、ポールヘッド40側へ回転運動可能なアマチュア70とを有する。電磁引き外し装置100は、例えば、完全電磁式の引き外し装置である。
【0020】
回路遮断器1は、ハンドル130が操作されることで、接点140が閉じた閉路状態と、接点140が開放した開路状態とを切り替え可能に構成される。また、回路遮断器1は、電磁コイル50に過電流が流れるとアマチュア70が移動して(例えば、回転運動して)ラッチ110を押すことで、メカ120が動作し、接点140を開極する。つまり、回路遮断器1は、トリップする。これにより、回路遮断器1は、過電流が発生したときに、負荷側への電力供給を遮断する。ラッチ110、メカ120及び接点140は、トリップ機構の一例である。
【0021】
図2に示すように、ダッシュポット100aは、シリンダ10と、シリンダ10の内部に収容されたプランジャ20と、プランジャ20をシリンダ10の底部側(Z軸マイナス側)に向けて押す制動ばね30と、シリンダ10を密閉するためのポールヘッド40とを有する。本実施の形態では、ダッシュポット100aは、オイル(例えば、シリコンオイル等の制動油)等の液体が充填されたシリンダ10内にプランジャ20と制動ばね30とが封入され、ポールヘッド40で密閉された構造を有する。オイルの粘性により、プランジャ20の移動に自延特性を与えることができる。なお、ダッシュポット100aは、シリンダ10内にオイル等の液体が充填されたオイルダッシュポットである例について説明するが、オイル等の液体が充填されていることは必須ではない。
【0022】
シリンダ10は、有底円筒状であり、プランジャ20、オイル及び制動ばね30を収容する。シリンダ10の底部と反対側(Z軸プラス側であり、シリンダ10の開口部側)には、ポールヘッド40が設けられ、プランジャ20及び制動ばね30は、シリンダ10とポールヘッド40とが囲む空間に収容される。
【0023】
本実施の形態に係るシリンダ10は、鍛造加工により形成されるので、鍛造加工により(たたくことにより)変形しやすい非磁性材料から構成されるとよい。シリンダ10は、例えば、加工しやすく、かつ、抵抗溶接が可能な黄銅から構成されるとよい。なお、シリンダ10は、黄銅から構成されることに限定されず、鍛造加工での加工を行うことができ、かつ、抵抗溶接が可能な材料から構成されていればよい。
【0024】
プランジャ20は、電磁コイル50に過電流が流れたときに、制動ばね30に打ち勝ってポールヘッド40側に移動する可動鉄心である。プランジャ20は、断面が円形である軸対称形状であり、制動ばね30の一端が接触する径が太い太径部21と、制動ばね30の内径より径が細い突出部22とを有する。突出部22は、制動ばね30の内側に入り込む構成になっている。プランジャ20は、磁性体により構成される。
【0025】
太径部21及び突出部22はそれぞれ、円柱状であり、一体形成されている。平面視において、太径部21の中心と突出部22の中心とは、一致する。
【0026】
制動ばね30は、プランジャ20の動きを規制する弾性部材である。制動ばね30は、プランジャ20をシリンダ10の底部側に押すことで固定し、プランジャ20とポールヘッド40とを離隔させる。つまり、過電流が流れていない通常時において、プランジャ20の突出部22とポールヘッド40との間にはギャップ(本実施の形態では、オイルが充填された空間)が形成されている。
【0027】
ポールヘッド40は、シリンダ10の開口部に設けられ、シリンダ10を密閉する。ポールヘッド40は、シリンダ10の開口部に圧入された後、抵抗溶接等によりシリンダ10に固定される。
【0028】
ヨーク60は、電磁コイル50に電流が流れたときに形成される磁束の磁路を形成する。ヨーク60は、L字型の磁性体により構成され、シリンダ10の軸(Z軸)に対して平行に配置された平行片とシリンダ10の軸に対して直角方向に延びる直角片とを有する。また、直角片は、プランジャ20に延びており、シリンダ10に接続されている。なお、ヨーク60とプランジャ20とにより磁路を形成可能であれば、ヨーク60は、シリンダ10に固定されていなくてもよい。
【0029】
電磁コイル50は、プランジャ20とヨーク60とに挟まれる形で、シリンダ10を巻くように設けられている。また、電磁コイル50は、主電路に接続されている。本実施の形態では、電磁コイル50と主電路とは同一部材で一体形成されている。なお、電磁コイル50と主電路とが別部材であり、電気的に接続される構成であってもよい。
【0030】
アマチュア70は、磁性体により構成され、ポールヘッド40側へ回転運動できるような形で、ヨーク60の平行片に接続されている。
【0031】
このような電磁引き外し装置100において、電磁コイル50に過電流が流れると磁束が形成される。磁束は、ポールヘッド40とアマチュア70とヨーク60とプランジャ20とによって形成される磁路を通過する。ポールヘッド40とプランジャ20の突出部22との間には通常時にギャップが形成されているので、ポールヘッド40とプランジャ20との間には磁気吸引力が働く。つまり、電磁コイル50に過電流が流れると、プランジャ20には、ポールヘッド40側に移動する方向の力が働く。
【0032】
プランジャ20に働く磁気吸引力が、制動ばね30がプランジャ20を押す力より大きくなると、プランジャ20はポールヘッド40側に移動し始める。プランジャ20の移動に伴い、ポールヘッド40とプランジャ20(の突出部22)との間のギャップは小さくなる。ギャップが小さくなると、ポールヘッド40、アマチュア70、ヨーク60及びプランジャ20によって形成される磁気回路の抵抗が小さくなるので、磁束は大きくなる。
【0033】
磁束が大きくなることで、更にプランジャ20に働く磁気吸引力が大きくなり、ポールヘッド40とプランジャ20との間のギャップが更に小さくなる。以上の繰り返しによりギャップは徐々に小さくなっていくとともに、磁束は徐々に大きくなっていく。低過電流領域の場合、プランジャ20の突出部22がポールヘッド40と接触又は近接する位置にまで達すると、アマチュア70にもポールヘッド40側に向かう大きな吸引力が働き、アマチュア70は回転運動する。そして、アマチュア70はポールヘッド40側に吸着される。回路遮断器1のトリップ機構のラッチ110がアマチュア70によって押されると、回路遮断器1は動作する。つまり、回路遮断器1は、過電流を遮断する。
【0034】
[2.シリンダの構成]
上記のような回路遮断器1のダッシュポット100aに用いられるシリンダ10の構成について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施の形態に係るシリンダ10の断面図である。本実施の形態に係るシリンダ10は、鍛造加工により形成されるので、鍛造加工特有の形状を有する。
【0035】
図3に示すように、シリンダ10は、有底筒状(本実施の形態では、有底円筒状)を有する長尺状の部材である。シリンダ10の長手方向は、Z軸方向と平行な方向である。シリンダ10は、第1の筒部11と、第2の筒部12と、第3の筒部13とを有する。第1の筒部11、第2の筒部12及び第3の筒部13は、例えば、一体形成されている。
【0036】
第1の筒部11は、シリンダ10の底部を含み、内径D1の部分である。内径D1は、例えば、プランジャ20の太径部21に対応した大きさであり、当該太径部21を収容可能であり、かつ、過電流発生時にプランジャ20がポールヘッド40側に移動可能な大きさである。第1の筒部11は、第2の凹部(
図6の第2の凹部310e1を参照)を含んで構成される部分である。
【0037】
第1の筒部11は、側面部11aと底面部11bと傾斜部11cとを有する。側面部11aは、第1の筒部11の筒状の部分を構成し、底面部11b及び傾斜部11cは、第1の筒部11の筒状の部分の一方の開口を塞ぐ底部を構成する。
【0038】
側面部11aは、厚み(X軸方向の長さ)が一定であり、Z軸方向に延在する。
【0039】
底面部11bは、側面部11aの開口の中央付近に設けられ、開口の一部を塞ぐ。底面部11bの断面視形状は、例えば、矩形状であり、平面視形状は、例えば、円状である。例えば、底面部11bは、円柱状である。底面部11bのシリンダ10の内側の面(内面11b1)は、例えば、断面視において、側面部11aのシリンダ10の内側の面(内面11a1)と直交する関係を有する。
【0040】
傾斜部11cは、断面視において、底面部11bと側面部11aとの間に設けられ、開口の残りの部分を塞ぐ。傾斜部11cの断面視形状は、例えば、台形状であり、平面視形状は、環状(例えば、円環状)である。傾斜部11cのシリンダ10の内側の面(傾斜面11c1)は、例えば、断面視において、側面部11aの内面11a1及び底面部11bの内面11b1の双方と交差する関係を有する。傾斜面11c1は、断面視において、底面部11b側(Z軸マイナス側)に向かうにつれ、シリンダ10の開口(Z軸プラス側の開口)からの距離が遠くなるように形成される。言い換えると、傾斜部11cは、底面部11bから側面部11aに向かうにつれ肉厚になっている。底面部11bの内面11b1と、傾斜部11cの傾斜面11c1とのなす角度aは、例えば、鍛造装置(
図4参照)における成形のしやすさから、45度以下であるとよく、さらに40度以下であるとよく、例えば、30度であってもよい。なお、本明細書における角度は、鋭角を意味する。
【0041】
第2の筒部12は、第1の筒部11及び第3の筒部13の間に設けられ、内径D2の筒状の部分である。内径D2は、平面視において、プランジャ20の太径部21より大きい。また、内径D2は、平面視において、内径D1より大きい。そのため、シリンダ10の内側において、第1の筒部11と第2の筒部12との境界には、段差14が形成される。第2の筒部12は、シリンダ10において、凹部(穴)の大きさが大きい幅広部であるとも言える。
【0042】
なお、段差14は、傾斜していてもよい。例えば、段差14は、断面視において、第2の筒部12から第1の筒部11に向かうにつれて厚み(X軸方向の長さ)が厚くなるように形成されてもよい。
【0043】
第3の筒部13は、シリンダ10のフランジ部13a及び内径D3の筒状の部分を有する。フランジ部13aは、平面視において、シリンダ10の開口部から外方(X軸方向)に向けて広がるように設けられる。フランジ部13aは、ポールヘッド40と当接する部分である。また、内径D3は、ポールヘッド40を圧入できる大きさであり、例えば、内径D2より小さい。そのため、シリンダ10の内側において、第2の筒部12と第3の筒部13との境界には、段差15が形成される。なお、ポールヘッド40は、例えば、内径D1のときに圧入可能な大きさ、つまりプランジャ20の太径部21の大きさに対応した大きさを有している。以下では、ポールヘッド40が内径D1のときに圧入可能な大きさである場合を例に説明するが、これに限定されない。
【0044】
第1の筒部11、第2の筒部12及び第3の筒部13の筒状部の外周面は、面一に形成されている。言い換えると、第1の筒部11、第2の筒部12及び第3の筒部13の筒状部の外周面には段差が形成されていない。また、断面視において、第1の筒部11及び第2の筒部12は厚みが異なっており、かつ、第2の筒部12及び第3の筒部13は厚みが異なっているとも言える。なお、本実施の形態では、第1の筒部11及び第3の筒部13の厚みは等しい。つまり、内径D1及びD3は、等しい。また、底面部11bの厚み(Z軸方向の厚み)及び傾斜部11cの厚み(Z軸方向の厚み)はそれぞれ、例えば、側面部11aの厚み(X軸方向の厚み)より厚い。
【0045】
第1の筒部11の底面から第1の筒部11及び第2の筒部12の境界まで(段差14の位置まで)の長さL1(Z軸方向の長さ)は、例えば、プランジャ20の摺動範囲(例えば、太径部21の摺動範囲)に基づいて決定される。長さL1は、プランジャ20の摺動範囲より長い。例えば、長さL1は、プランジャ20の突出部22とポールヘッド40との間の距離L3より長くてもよい。なお、長さL1は、例えば、シリンダ10の凹部(穴)の長さ(
図3に示す長さL1+L2)の半分以上であってもよいが、半分以上であることに限定されない。
【0046】
また、側面部11aの外表面と、底部(底面部11b及び傾斜部11c)の外底面とは、断面視において、直交関係を有する。
【0047】
[3.シリンダの製造方法]
次に、上記のシリンダ10の製造方法について、
図4~
図6を参照しながら説明する。まずは、シリンダ10を作製するための鍛造装置について
図4を参照しながら説明する。
図4は、本実施の形態に係るシリンダ10を作製するための鍛造装置200の構成を示す概略図である。なお、鍛造装置200が備える鍛造用の各金型の形状(直径、長さ等)は、模式的に同じ又は類似であるとして図示しているが、これに限定されない。各金型の形状は、互いに異なっていてもよく、
図4に示す形状に限定されない。なお、
図4に示す鍛造装置(パーツフォーマとも呼ばれる)においては、Y軸方向から見る場合を平面視と呼ぶことが一般的ではあるが、本明細書では、Z軸方向から見ることを平面視と呼ぶこととする。
【0048】
図4に示すように、鍛造装置200は、切断機210と、ラム220と、複数のパンチ側金型(第1のパンチ側金型231~第6のパンチ側金型236)と、ダイブロック240と、複数のダイ側金型(第1のダイ側金型251~第6のダイ側金型256)とを備える。
【0049】
切断機210は、金属材料から構成される線材300を所定の長さに切断する切断装置である。切断機210により所定の長さに切断された被鍛造材310は、例えば、円柱状である。線材300は、例えば、黄銅から構成されてもよいし、鋼材から構成されてもよい。なお、
図4では、被鍛造材310が搬送機により把持されている状態を示す。
【0050】
ラム220は、複数のパンチ側金型を保持し、ダイブロック240側に往復移動(紙面上の上下方向の移動)することにより、被鍛造材310を打撃する。ラム220は、モータなどの駆動部(図示しない)と接続されており、Z軸方向に往復移動を行う。ラム220が当該駆動部により図中の矢印の方向(Z軸マイナス方向)に移動することで、成形(鍛造加工)が行われる。なお、被鍛造材310に荷重を加えるためにラム220が移動する方向、つまりZ軸マイナス方向は、押圧方向の一例である。また、成形が終了すると、ラム220は、駆動部により押圧方向とは逆方向(Z軸マイナス側の方向)に移動する。
【0051】
複数のパンチ側金型のそれぞれは、被鍛造材310をダイ側金型に押し付けて鍛造加工するための金型である。複数のパンチ側金型は、第1のパンチ側金型231~第6のパンチ側金型236の6つのパンチ側金型を含むが、パンチ側金型の数はこれに限定されない。また、第1のパンチ側金型231~第6のパンチ側金型236のそれぞれは、ダイブロック240側に突出した第1の突出部231a~第6の突出部236aのそれぞれを有する。第1の突出部231a~第6の突出部236aはそれぞれ、柱状(例えば、円柱状)の突起である。第1の突出部231a~第6の突出部236aのそれぞれは、被鍛造材310に直接接触することで、被鍛造材310を加工する。
【0052】
ダイブロック240は、複数のダイ側金型を保持する。ダイブロック240は、モータなどの駆動部(図示しない)が接続されておらず、移動しない。つまり、ダイ側金型は、静止側の金型である。
【0053】
複数のダイ側金型のそれぞれは、被鍛造材310が配置され、パンチ側金型が押圧方向に移動することで荷重を受ける金型である。複数のダイ側金型は、第1のダイ側金型251~第6のダイ側金型256の6つのダイ側金型を含むが、ダイ側金型の数はこれに限定されない。また、第1のダイ側金型251~第6のダイ側金型256のそれぞれは、第1の凹型部251a~第6の凹型部256aのそれぞれを有する。第1の凹型部251a~第6の凹型部256aのそれぞれは、被鍛造材310を所定の形状に成形するための凹みである。なお、ダイ側金型に被鍛造材310が配置されるとは、被鍛造材310の少なくとも一部が凹部に収容されること、及び、当該凹部より被鍛造材310の方が大きく、凹部を覆うように被鍛造材310がダイ側金型上に配置されることを含む。例えば、押圧方向から見たときに、被鍛造材310は、少なくとも一部が凹部と重なるように配置される。
【0054】
パンチ側金型とダイ側金型とは、一対一に設けられる。例えば、第1のパンチ側金型231と第1のダイ側金型251とが対応しており、第2のパンチ側金型232と第2のダイ側金型252とが対応している。第3のパンチ側金型233以降も同様である。被鍛造材310は、パンチの形状(具体的には、パンチの押圧方向側の端部の形状)と、ダイ側金型の凹部の形状とにより、所定の形状に成形される。
【0055】
ここで、第4の突出部234a及び第5の突出部235aの先端部(Z軸マイナス側の端部)の形状について説明する。第4の突出部234a及び第5の突出部235aのそれぞれは、先端部が円錐台形状であってもよい。つまり、第4の突出部234a及び第5の突出部235aのそれぞれは、テーパ形状を有していてもよい。
【0056】
第5の突出部235aの先端面235a1と傾斜面235a2とのなす傾斜角度b2は、第4の突出部234aの先端面234a1と傾斜面234a2とのなす傾斜角度b1より大きい。また、傾斜角度b2は、例えば、45度未満であり、より好ましくは40度未満であるとよく、一例として30度である。傾斜角度b2が45度以上となると、第5のパンチ側金型235の圧力がシリンダ10の端(例えば、傾斜部11c付近)に加わらず、きれいな形状を形成することができなくなり得る。また、傾斜角度b2が45度以上となると、鍛造装置200における加工時(パンチ時)に材料がシリンダ10の端(例えば、傾斜部11c付近)入っていかず成形不良になる懸念もある。よって、傾斜角度b2を45度未満とする。
【0057】
なお、先端部は、加工部の一例である。また、第4の突出部234aは、第1のパンチの一例であり、第5の突出部235aは、第2のパンチの一例である。第1のパンチと第2のパンチとは、互いに異なる金型である。
【0058】
また、第4の突出部234aの直径D4は、第5の突出部235aの直径D5より大きい。また、第6の突出部236aの直径D6は、第5の突出部235aの直径D5より小さい。また、第6の突出部236aの直径D6は、第4の突出部234aの直径D4と同じであってもよいし、第4の突出部234aの直径D4より小さくてもよい。本実施の形態では、第6の突出部236aの直径D6は、第4の突出部234aの直径D4と同じである。第6の突出部236aは、第3のパンチの一例である。
【0059】
なお、第4の突出部234a及び第5の突出部235aの一方の先端部は、円錐台形状であることに限定されない。つまり、第4の突出部234a及び第5の突出部235aの一方の先端部は、テーパ形状を有していなくてもよく、平面状(傾斜角度b1=0度及び傾斜角度b2=0度の少なくとも一方)であってもよい。
【0060】
続いて、上記の鍛造装置200を用いてシリンダ10を作製する製造方法について説明する。
図5は、本実施の形態に係るシリンダ10を作製するためのフローチャートである。
図5は、ダッシュポット100aに用いられる有底筒状のシリンダ10の製造方法を示す。また、
図6は、本実施の形態に係るシリンダ10の工程ごとの形状を示す模式断面図である。
図6の(a)~(f)のそれぞれにおいて、外底面310a1(Z軸マイナス側の面)がダイ側金型に支持されている状態で成形されているとする。なお、
図6は、あくまで工程ごとのシリンダ10の形状示す概念図であり、正確な形状、厚み等を開示するものではない。また、
図6では、段差14及び15、並びに、底面部等の形状を強調して図示している。
【0061】
図5に示すように、まずは、切断機210により線材300を所定の長さにカットした被鍛造材310を作製するカット工程が行われる(S10)。ステップS10では、線材300が作製される製品に応じた長さにカットされる。被鍛造材310は、搬送機(図示しない)により切断機210から第1のダイ側金型251に搬送される。
【0062】
次に、所定の長さの被鍛造材310に対して、第1のパンチ側金型231及び第1のダイ側金型251により第1の加工工程が行われる(S20)。第1の加工工程は、被鍛造材310の切断面の形状を整えるための工程である。第1の加工工程により、切断面は平滑化される。
【0063】
図6の(a)は、第1の加工工程により切断面(上下の面であり、外底面310a1及び外底面310a1に背向する面)が平滑化された被鍛造材310aを示す。被鍛造材310aは、例えば、円柱状である。被鍛造材310aは、搬送機(図示しない)により第1のダイ側金型251から第2のダイ側金型252に搬送される。
【0064】
次に、形状が整えられた被鍛造材310aに対して、第2のパンチ側金型232及び第2のダイ側金型252により第2の加工工程が行われる(S30)。第2の加工工程は、円柱状の被鍛造材310aの一方の先端部に、フランジ部を形成するための工程である。
【0065】
図6の(b)は、第2の加工工程により先端部にフランジ部310b1が形成された被鍛造材310bを示す。フランジ部310b1は、円周上にわたって形成される。被鍛造材310bは、搬送機(図示しない)により第2のダイ側金型252から第3のダイ側金型253に搬送される。
【0066】
次に、フランジ部310b1が形成された被鍛造材310bに対して、第3のパンチ側金型233及び第3のダイ側金型253により第3の加工工程が行われる(S40)。第3の加工工程は、フランジ部310b1に浅い穴を形成するための工程である。
【0067】
図6の(c)は、第3の加工工程によりフランジ部310b1に穴310c1が形成された被鍛造材310cを示す。穴310c1の内径は、例えば、
図6の(d)に示す内径D2以上である。穴310c1は、次の工程において、第4の突出部234aを入りやすくするために設けられる。穴310c1が形成されることで、第4の加工工程における第4の突出部234aの加工位置(パンチ位置)の精度を向上させる効果が期待できる。つまり、穴310c1が形成されることで、成形後のシリンダ10の円筒度の向上が期待できる。被鍛造材310cは、搬送機(図示しない)により第3のダイ側金型253から第4のダイ側金型254に搬送される。
【0068】
次に、穴310c1が形成された被鍛造材310cに対して、第4のパンチ側金型234及び第4のダイ側金型254により第4の加工工程が行われる(S50)。第4の加工工程は、穴310c1が形成された被鍛造材310cに対して第4の突出部234a(第1のパンチの一例)で押し出し加工を行う第1の押し出し加工工程であるとも言える。第4の加工工程は、第2の筒部12を形成するための工程である。つまり、第4の加工工程は、内部に内径D2の空間を形成するための工程である。
【0069】
なお、第4の加工工程では、
図3に示す段差14に相当するZ軸方向の位置まで、第4の突出部234aが押し込まれる。つまり、第4の加工工程では、第4の突出部234aは、
図3に示す内面11b1に対応するZ軸方向の位置から長さL1だけZ軸プラス側の位置までしか押し込まれない。
【0070】
図6の(d)は、第4の加工工程により第1の凹部310d1が形成された被鍛造材310dを示す。第1の凹部310d1の内径は、内径D2である。第4の加工工程により形成される内底面310d2は、例えば、外底面310a1と背向する面である。被鍛造材310dは、搬送機(図示しない)により第4のダイ側金型254から第5のダイ側金型255に搬送される。
【0071】
次に、第1の凹部310d1が形成された被鍛造材310dの内底面310d2(底面の一例)に対して、第5のパンチ側金型235及び第5のダイ側金型255により第5の加工工程が行われる(S60)。第5の加工工程は、第1の凹部310d1が形成された被鍛造材310dに対して第5の突出部235a(第2のパンチの一例)で押し出し加工を行う第2の押し出し加工工程であるとも言える。第5の加工工程は、第1の筒部11を形成するための工程である。つまり、第5の加工工程は、内部に内径D1の空間を形成するための工程である。
【0072】
図6の(e)は、第5の加工工程により第1の凹部310d1に空間的に連続する第2の凹部310e1が形成された被鍛造材310eを示す。第2の凹部310e1の内径は、内径D1である。第5の加工工程により、円環状に段差14が形成される。また、第1の凹部310d1及び第2の凹部310e1が連続する方向は、Z軸方向であり、シリンダ10の長手方向でもある。
【0073】
凹みの加工を行う場合、残りの板厚(底部側の板厚)が薄くなると、材料が第5のダイ側金型255の端に行き届く前に、第5のパンチ側金型235及び第5のダイ側金型255の接触等により金型が壊れる、又は、端の材料が千切れる現象(いわゆるデッドメタル)が発生する可能性がある。本実施の形態では、第5の突出部235aの先端部が円錐台形状であるので、端の板厚(傾斜部11c(
図3を参照)に対応する部分の厚み)を厚くすることができるので、金型が壊れる、又は、材料が千切れることを抑制することができる。つまり、シリンダ10を安定して生産することができる。また、第5の突出部235aの先端部の傾斜角度b2が45度未満であることで、第5のパンチ側金型235の圧力を端の材料に加えることができるので、シリンダ10をよりきれいな形状に仕上げることができる。
【0074】
被鍛造材310eは、搬送機(図示しない)により第5のダイ側金型255から第6のダイ側金型256に搬送される。
【0075】
なお、第5の加工工程では、第5の突出部235aが第4の加工工程で形成された第1の凹部310d1を通過した後、内底面310d2に当接することで押し出し加工が行われる。第5の加工工程では、
図6の(d)に示す内底面310d2を第5の突出部235aで押し込むことで内径D1の空間を形成するとも言える。また、第5の加工工程では、
図3に示す内面11b1に対応するZ軸方向の位置まで、第5の突出部235aが押し込まれる。
【0076】
第1の凹部310d1の内径D2は、第5の突出部235aの直径D5より大きいので、第5の突出部235aは、スムーズに第1の凹部310d1を通過することができる。つまり、本実施の形態に係る製造方法であれば、第5の突出部235aが第1の凹部310d1を通過する際、意図しない部分に触れる等することにより、シリンダ10の形状が変形してしまうことを抑制することができる。これは、シリンダ10の円筒度の向上につながる。
【0077】
なお、平面視において、内径D1の中心と、内径D2の中心とは、一致するとよい。つまり、平面視において、内径D1の円と、内径D2の円とは、同心円であるとよい。
【0078】
ここで、第4の突出部234aの直径D4が第5の突出部235aの直径D5より大きいので、第1の凹部310d1の内径D1は、第2の凹部310e1の内径D2より大きい。内径D1及びD2の差は、例えば、第2の筒部12の強度等を考慮すると、小さい方がよい。また、内径D1及びD2の差は、内径D1及びD2の大きさに関わらず一定であるとよい。例えば、内径D1が直径をDmmである場合、内径D2は、D+0.03mmであってもよい。言い換えると、内径D1及びD2の差は、0.03mm以下であるとよい。なお、内径D1及びD2の差は、0.03mm以下に限定されず、例えば、内径D1の大きさに応じて決定されてもよい(例えば、内径D1の1%以下等)し、内径D1の寸法公差に応じて決定されてもよい。また、内径D1及びD2の差は、ダッシュポット100aの動作に影響がない程度の大きさに決定されてもよい。
【0079】
次に、第2の凹部310e1が形成された被鍛造材310eに対して、第6のパンチ側金型236及び第6のダイ側金型256により第6の加工工程が行われる(S70)。第6の加工工程は、シリンダ10の開口部を、ポールヘッド40を圧入可能な形状に加工するための工程であり、具体的にはシリンダ10の開口部周辺の内径を、ポールヘッド40を圧入可能な内径とするための工程である。本実施の形態では、第6の加工工程において、シリンダ10の開口部周辺の内径を、内径D2から当該内径D2より小さい内径D3(例えば、内径D1と同じ大きさ)とする。シリンダ10の開口部周辺は、第1の凹部310d1のシリンダ10の開口側の一例である。シリンダ10の開口部周辺は、シリンダ10の開口を含む、第1の凹部310d1のシリンダ10の開口側の領域(第3の筒部13に対応する領域)である。
【0080】
第6の加工工程では、第6の突出部236aを、ポールヘッド40の圧入に必要な位置(例えば、段差15に対応する位置)まで入れて、フランジ部13aをたたくことを実現される。これにより、シリンダ10の開口部周辺において、内側(平面視における第1の凹部310d1の中心側)に材料を寄せることができるので、第1の凹部310d1より内径が小さい領域を形成することができる。当該領域は、ポールヘッド40が圧入される部分である。
【0081】
このように、第6の加工工程では、第2の凹部310e1が形成された被鍛造材310eに対して第4の突出部234aより直径が小さい第6の突出部236aを用いて、第1の凹部310d1のシリンダ10の開口側において、内側に材料を寄せることで第1の凹部310d1より内径が小さい領域が形成される。なお、第6のパンチ側金型236において、第6の突出部236aと、フランジ部13aをたたく部分とは、例えば、一体形成されていてもよい。
【0082】
図6の(f)は、第6の加工工程により第1の凹部310d1のうち開口部側の部分を内径D3とした被鍛造材310fを示す。第2の凹部310e1の内径は、例えば、内径D1である。第6の加工工程により、円環状に段差15が形成される。
【0083】
なお、平面視において、内径D1の中心と、内径D2の中心と、内径D3の中心とは、一致するとよい。つまり、平面視において、内径D1の円と、内径D2の円と、内径D3の円とは、同心円であるとよい。また、平面視において、段差14の円と、段差15の円とは、同心円であるとよい。
【0084】
このように、本実施の形態では、鍛造加工によりシリンダ10を形成するために、2回の押し出し加工(第4の加工工程及び第5の加工工程)を行う。これにより、1回の押し出し加工によりシリンダを形成する場合に比べて円筒度が向上する。例えば、シリンダ10の円筒度は、絞り加工により形成されたシリンダと同程度となり得る。
【0085】
[4.分電盤の構成]
次に、本実施の形態に係るシリンダ10を有する回路遮断器1を備える分電盤について、
図7を参照しながら説明する。
図7は、本実施の形態に係る分電盤400の外観図である。
【0086】
図7に示すように、分電盤400は、筐体410と、主幹ブレーカ420と、分電盤400に接続される各電力線(分岐回路)に設けられた複数の分岐ブレーカ430とを備える。分電盤400には、電力事業者等の設備である電力系統からの電力(系統電力)が供給され、分電盤400は、系統電力を複数の分岐回路毎に分岐させる。分電盤400は、例えば、住宅、病院、工場、ビル等の電力を使用する施設の内部に設置される。
【0087】
筐体410は、主幹ブレーカ420と複数の分岐ブレーカ430とを収容する本体部411と、本体部411に開閉可能に取り付けられる扉412とを有する。本体部411及び扉412は、電気絶縁性を有する。本体部411及び扉412は、例えば、電気絶縁性を有する樹脂材料製である。また、筐体410は、各電力線を通す孔及び開口(図示しない)を有している。
【0088】
主幹ブレーカ420は、所定の電流(例えば、電力会社との契約で定められる電力に基づく電流)を超える電流が電力系統から流れた時に、電力系統からの電力の供給を停止するブレーカである。
【0089】
分岐ブレーカ430は、当該分岐ブレーカに接続された電力線に過電流が流れた場合に、当該電力線への電力の供給を停止するブレーカである。
【0090】
本実施の形態に係る回路遮断器1は、分電盤400の主幹ブレーカ420及び分岐ブレーカ430のいずれに用いられてもよい。つまり、分電盤400は、回路遮断器1を1以上備えていてもよい。
【0091】
[5.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る製造方法は、ダッシュポット100aに用いられる有底筒状のシリンダ10の製造方法であって、所定の長さの被鍛造材310に対して第4の突出部234a(第1のパンチの一例)で押し出し加工を行うことで、被鍛造材310に第1の凹部310d1を形成し(S40)、第1の凹部310d1の内底面310d2(底面の一例)に対して第5の突出部235a(第2のパンチの一例)で押し出し加工を行うことで、第1の凹部310d1と空間的に連続する第2の凹部310e1を形成する(S50)。そして、第1の凹部310d1の内径D2は、第2の凹部310e1の内径D1より大きい。
【0092】
これにより、鍛造加工によりシリンダ10を形成するために、2回の押し出し加工(S40及びS50)が行われるので、1回ごとの押し出し加工における加工長さ(パンチによりたたく長さ)を、1回の押し出し加工により第1の凹部310d1及び第2の凹部310e1を形成する場合に比べて、短くすることができる。押し出し加工における加工長さを短くすることで、形成される凹部の形状の歪みを低減することができる。つまり、シリンダ10の形状を安定させることができる。よって、本実施の形態に係る製造方法は、鍛造加工を用いた場合であっても、シリンダ10の円筒度が低下することを抑制することができる。
【0093】
また、第5の突出部235aの先端部は、円錐台形状である。
【0094】
これにより、シリンダ10の端の板厚(傾斜部11c(
図3を参照)に対応する部分の厚み)を厚くすることができるので、当該端の板厚が薄くなることによるシリンダ10の形状への影響を抑制することができる。つまり、シリンダ10の円筒度が低下することをより抑制することができる。また、金型が壊れる、又は、材料が千切れることを抑制することができるので、生産を安定して行うことが可能となる。
【0095】
また、第5の突出部235aの先端部の円錐台形状の傾斜角度b2は、45度未満である。
【0096】
これにより、第5のパンチ側金型235の圧力をシリンダ10の端(傾斜部11c(
図3を参照)付近)に加えることができるので、シリンダ10をよりきれいな形状に仕上げることができる。よって、シリンダ10の円筒度が低下することをさらに抑制することができる。
【0097】
また、第4の突出部234aの先端部は、円錐台形状であり、第5の突出部235aの先端部の円錐台形状の傾斜角度b2は、第4の突出部234aの先端部の円錐台形状の傾斜角度b1より大きい。
【0098】
これにより、金型が壊れる、又は、材料が千切れることが発生しやすい第5の突出部235aでの押し出し加工時に、金型が壊れる、又は、材料が千切れることを効果的に抑制することができる。
【0099】
また、さらに、第2の凹部310e1が形成された被鍛造材310eに対して第4の突出部234aより直径が小さい第6の突出部236a(第3のパンチの一例)を用いて、第1の凹部310d1のシリンダ10の開口側において、内側に材料を寄せることで第1の凹部310d1より内径が小さい領域を形成する。この工程は、ステップS70に相当する。
【0100】
これにより、例えば、第2の凹部310e1の大きさに対応した大きさのポールヘッド40をシリンダ10に取り付ける場合、当該ポールヘッド40をシリンダ10に圧入することができる。よって、シリンダ10にポールヘッド40を取り付けてから、ポールヘッド40を抵抗溶接等によりシリンダ10に接合するまでの搬送等により、ポールヘッド40がシリンダ10から外れてしまうことを抑制することができる。よって、鍛造加工により形成されたシリンダ10を用いてダッシュポット100aを作製するときの生産性の低下を抑制することができる。
【0101】
また、さらに、線材300を所定の長さに切断することで被鍛造材310を作製する(S10)。
【0102】
これにより、線材300からシリンダ10を形成するまでを一体的に行うことができる。つまり、本実施の形態に係る製造方法によれば、線材300を準備するだけで、シリンダ10を作製することができる。
【0103】
また、以上のように、本実施の形態に係るシリンダ10は、上記の製造方法を用いて作製されたシリンダ10である。
【0104】
これにより、上記の製造方法と同様の効果を奏する。具体的には、円筒度の低下が抑制されたシリンダ10を、鍛造加工を用いて実現することができる。
【0105】
また、以上のように、本実施の形態に係る回路遮断器1は、上記のシリンダ10と、シリンダ10の開口に設けられ、シリンダ10を密閉するためのポールヘッド40と、シリンダ10に収容され、過電流が流れたときにポールヘッド40側へ向かう方向(Z軸方向)に移動可能なプランジャ20とを備える。そして、第2の凹部310e1におけるシリンダ10の長手方向の長さL1は、過電流が発生していないときのプランジャ20とポールヘッド40との距離L3より長い。
【0106】
これにより、回路遮断器1は、シリンダ10の円筒度が高く、シリンダ10内をプランジャ20がスムーズに動くことができるので、遮断動作を正確に行うことが可能である。また、長さL1が距離L3より長いので、過電流によりプランジャ20がポールヘッド40まで移動した後、過電流が解消されてプランジャ20が通常時の位置(
図2に示す位置)に戻るときにスムーズに戻ることが可能となる。例えば、プランジャ20の太径部21)が段差14に引っかかることを抑制することができる。
【0107】
また、以上のように、本実施の形態に係る分電盤400は、上記の回路遮断器1を1以上備える。
【0108】
これにより、分電盤400は、鍛造加工により形成されたシリンダ10を有する回路遮断器1を備える場合であっても、遮断動作を正確に行うことができる。
【0109】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0110】
例えば、上記実施の形態では、ダッシュポット100aに用いられるシリンダ10の製造方法について説明したが、上記の製造方法で作製されるシリンダ10は、ダッシュポット100aに用いられるシリンダ10に限定されない。上記のシリンダ10の製造方法は、ダッシュポット100a以外のいなかる用途に用いられるシリンダ10の製造方法として適用されてもよい。特に高い円筒度が必要とされるシリンダの作製に有効である。
【0111】
また、上記実施の形態において、カット工程(S10)、第3の加工工程(S40)及び第6の加工工程(S70)は、必須の工程ではない。カット工程、第3の加工工程及び第6の加工工程の少なくとも1つは、行われなくてもよい。例えば、予め準備された所定の長さの被鍛造材310を予め準備している場合、カット工程は行われなくてもよい。また、例えば、ポールヘッド40を内径D2の開口に配置し、すぐに抵抗溶接で接合可能である、又は、内径D2のときに圧入可能な大きさのポールヘッド40を準備する場合、第6の加工工程は行われなくてもよい。なお、第6の加工工程が行われない場合、段差15は形成されない。
【0112】
また、上記実施の形態では、2回の押し出し加工(第4の加工工程(S50)及び第5の加工工程(S60))を行う例について説明したが、3回以上の押し出し加工を行ってもおよい。つまり、押し出し加工は、2回以上行われればよい。
【0113】
また、上記実施の形態では、第4の加工工程(S50)の後に続いて第5の加工工程(S60)が行われる例について説明したが、第4の加工工程と第5の加工工程との間に、他の加工工程が行われてもよい。
【0114】
また、上記実施の形態では、段差14及び15は、円環状に形成される例について説明したが、ここでの円環状には周方向の少なくとも一部において段差が途切れていることも含まれる。つまり、段差14及び15は、完全な円環であることに限定されない。
【0115】
また、上記実施の形態では、第4の突出部234a及び第5の突出部235aの先端部が円錐台形状である例について説明したが、これに限定されない。第4の突出部234a及び第5の突出部235aの少なくとも一方の先端部は、円錐台形状でなくてもよい。例えば、先端部は、平面状であってもよい。また、さらに、第1の突出部231a、第2の突出部232a、第3の突出部233a及び第6の突出部236aの少なくとも1つの先端部が円錐台形状であってもよい。この場合でも、第5の突出部235aの傾斜角度b2が最も大きくなる。
【0116】
また、上記実施の形態では、鍛造装置200は、切断機210を備える例について説明したが、これに限定されず、切断機210を備えていなくてもよい。鍛造装置200は、例えば、予め準備された所定の長さの被鍛造材310を、金型を用いて成形することが可能であればよい。
【0117】
また、上記実施の形態のフローチャートで説明された処理の順序は、一例である。複数の処理の順序は変更されてもよいし、複数の処理は並行して実行されてもよい。
【0118】
また、上記実施の形態で説明した製造方法における各工程は、1つの工程で実施されてもよいし、別々の工程で実施されてもよい。なお、1つの工程で実施されるとは、各工程が1つの装置を用いて実施される、各工程が連続して実施される、又は、各工程が同じ場所で実施されることを含む。また、別々の工程とは、各工程が別々の装置を用いて実施される、各工程が異なる時間(例えば、異なる日)に実施される、又は、各工程が異なる場所で実施されることを含む。
【0119】
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、又は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0120】
1 回路遮断器
10 シリンダ
20 プランジャ
40 ポールヘッド
100a ダッシュポット
234a 第4の突出部(第1のパンチ)
235a 第5の突出部(第2のパンチ)
236a 第6の突出部(第3のパンチ)
300 線材
310、310a、310b、310c、310d、310e、310f 被鍛造材
310d1 第1の凹部
310d2 内底面
310e1 第2の凹部
400 分電盤
b1、b2 傾斜角度
D1、D2 内径
L1 長さ
L3 距離