(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】銀付調人工皮革の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
D06N3/00
(21)【出願番号】P 2020209697
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】割田 真人
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171426(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1434918(KR,B1)
【文献】特開2015-113535(JP,A)
【文献】特開2000-248454(JP,A)
【文献】特公昭48-018803(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型紙上にポリウレタン表面樹脂層を形成する工程と、
前記ポリウレタン表面樹脂層の表面に接着層用ポリウレタン溶液を塗布する工程と、
前記ポリウレタン表面樹脂層の表面に塗布された接着層用ポリウレタン溶液を、第1の加熱条件で加熱することにより、半乾燥状態のポリウレタン接着層を形成する工程と、
繊維基材と前記ポリウレタン表面樹脂層とを前記ポリウレタン接着層を介して貼り合わせることにより、積層一体化シートを形成する工程と、
前記積層一体化シートを第2の加熱条件で加熱する工程と、
前記加熱後の前記積層一体化シートから前記離型紙を剥離することにより、銀付調皮革様シートを形成する工程と、
前記銀付調皮革様シートを第3の加熱条件で加熱する工程と、を備え、
前記接着層用ポリウレタン溶液は、ポリウレタンと、沸点70~100℃の低沸点有機溶剤20~50質量%と、沸点120~160℃の高沸点有機溶剤6~15質量%と、を含み、
その塗布量が60~160g/m
2であり、且つ前記高沸点有機溶剤の塗布量が22g/m
2以下であり、
前記第1の加熱条件は、昇温過程において前記低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い範囲の温度で20秒間以上保持する加熱を含み、
前記第2の加熱条件及び前記第3の加熱条件は、昇温過程において前記高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い範囲の温度で30秒間以上保持する加熱を含む、ことを特徴とする銀付調皮革様シートの製造方法。
【請求項2】
前記低沸点有機溶剤はメチルエチルケトンを含み、前記高沸点有機溶剤はN,N-ジメチルホルムアミドを含み、
前記第1の加熱条件の前記20秒間以上保持する温度が65~75℃の範囲であり、前記第2の加熱条件及び前記第3の加熱条件の前記30秒間以上保持する温度が115~143℃の範囲である請求項1に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の残留量を低減させるための銀付調皮革様シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鞄や衣料や靴等の表皮材として用いられている、銀付皮革に似せた銀付調の外観を有する銀付調人工皮革等の銀付調皮革様シートが知られている。
【0003】
銀付調皮革様シートの製造工程においては、ポリウレタンの溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の揮発性有機化合物(VOC)を使用することが多い。近年、大気汚染の抑制の観点から、法的規制や自主規制等によりVOCの排出量の低減が厳しく求められている。
【0004】
銀付調皮革様シートの製造においては、繊維基材に銀面調の樹脂層を接着するための接着層用ポリウレタン溶液の溶媒として、DMFが用いられていることが多い。銀付調皮革様シートの製造工程においては、工程内で発生するDMFをできる限り回収することが求められている。そのために、DMFを使用しないクリーンな工程として、繊維基材の製造工程や、繊維基材にポリウレタンを含浸させる工程を、水を主体とする溶媒を用いて水系化した製造方法も実現されている。
【0005】
水系化された銀付調皮革様シートの製造工程において、ポリウレタン接着剤を水系化すればさらにVOCの排出量を低減することはできる。このような提案もなされている。例えば、下記特許文献1は、合成皮革の製造に用いられる水系ポリウレタン接着剤として、水性ポリウレタン樹脂を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とを含み、ポリイソシアネート化合物が、ビウレット結合を有するか、または、トリメチロールプロパンにより変性されている二液硬化型水系接着剤を開示する。
【0006】
しかしながら、水系ポリウレタン接着剤は、未だ、有機溶剤を含むポリウレタン接着剤に比べて充分に高い接着力が得られにくい、充分な耐久性を得られにくい等の課題を有する。そのために、例えば、車両用のシート用途等の高耐久性が求められる用途に用いられる銀付調皮革様シートの製造においては、未だ、ポリウレタン接着剤として、溶剤系ポリウレタンとDMF等の有機溶媒とを含むポリウレタン溶液が用いられている。そのため、溶剤系ポリウレタンを使用した銀付調人工皮革に残留する有機溶剤を削減する技術が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繊維基材と銀面調の表面樹脂層とを接着するために、有機溶剤を含むポリウレタン溶液を用いる場合において、銀付調人工皮革に残留するVOCを低減させることができる銀付調皮革様シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、離型紙上にポリウレタン表面樹脂層を形成する工程と、ポリウレタン表面樹脂層の表面に接着層用ポリウレタン溶液を塗布する工程と、ポリウレタン表面樹脂層の表面に塗布された接着層用ポリウレタン溶液を、第1の加熱条件で加熱することにより、半乾燥状態のポリウレタン接着層を形成する工程と、繊維基材とポリウレタン表面樹脂層とをポリウレタン接着層を介して貼り合わせることにより、積層一体化シートを形成する工程と、積層一体化シートを第2の加熱条件で加熱する工程と、加熱後の積層一体化シートから離型紙を剥離することにより、銀付調皮革様シートを形成する工程と、銀付調皮革様シートを第3の加熱条件で加熱する工程と、を備え、接着層用ポリウレタン溶液は、ポリウレタンと、沸点70~100℃の低沸点有機溶剤20~50質量%と、沸点120~160℃の高沸点有機溶剤6~15質量%と、を含み、その塗布量が60~160g/m2であり、且つ高沸点有機溶剤の塗布量が22g/m2以下であり、第1の加熱条件は昇温過程において、低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度の範囲で20秒間以上保持する加熱を含み、昇温過程において、第2の加熱条件及び第3の加熱条件は、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含む、銀付調皮革様シートの製造方法である。低沸点有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、高沸点有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維基材に銀面調の表面樹脂層を接着するために有機溶剤を含むポリウレタン溶液を用いる場合において、VOCの残留量を低減させることができる銀付調皮革様シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の銀付調皮革様シートの製造方法で製造される銀付調皮革様シート10の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本実施形態の銀付調皮革様シートの製造方法で製造される銀付調皮革様シート10の模式断面図である。
【0013】
図1を参照すれば、銀付調皮革様シート10は、繊維基材1と、繊維基材1の一面にポリウレタン接着層2を介して接着されたポリウレタン樹脂層3とを備える。ポリウレタン接着層2とポリウレタン樹脂層3とを含む樹脂層は銀面調樹脂層を形成する。銀面調樹脂層は、銀付調皮革様シート10に天然皮革の銀面に似た外観及び触感を付与する層である。ポリウレタン樹脂層3は、単層であっても、中間層とトップ層とからなるような複層構造を有するものであってもよい。そして、銀付調皮革様シート10は、以下に説明する製造方法によって製造される、VOCの残留量が低い銀付調皮革様シートである。
【0014】
以下、本発明の銀付調皮革様シートの製造方法の一実施形態を詳しく説明する。本実施形態の銀付調皮革様シートの製造方法は、離型紙上にポリウレタン表面樹脂層(以下、単に表面樹脂層とも称する)を形成する工程と、ポリウレタン表面樹脂層の表面に接着層用ポリウレタン溶液を塗布する工程と、ポリウレタン表面樹脂層の表面に塗布された接着層用ポリウレタン溶液を、第1の加熱条件で加熱することにより、半乾燥状態のポリウレタン接着層(以下、単に接着層とも称する)を形成する工程と、繊維基材とポリウレタン表面樹脂層とをポリウレタン接着層を介して貼り合わせることにより、積層一体化シートを形成する工程と、積層一体化シートを第2の加熱条件で加熱する工程と、加熱後の積層一体化シートから離型紙を剥離することにより、銀付調皮革様シートを形成する工程と、銀付調皮革様シートを第3の加熱条件で加熱する工程と、を備える。そして、このような製造方法において、接着層用ポリウレタン溶液は、ポリウレタンと、沸点70~100℃の低沸点有機溶剤20~50質量%と、沸点120~160℃の高沸点有機溶剤6~15質量%と、を含み、その塗布量が60~160g/m2であり、且つ高沸点有機溶剤の塗布量が22g/m2以下であり、第1の加熱条件が、昇温過程において、低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度の範囲で20秒間以上保持する加熱を含み、第2の加熱条件及び第3の加熱条件が、昇温過程において、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含む。以下、各工程について詳しく説明する。
【0015】
[離型紙上に表面樹脂層を形成する工程]
本実施形態の製造方法においては、離型紙上に、繊維基材の表面に接着される表面樹脂層のフィルムを形成する。表面樹脂層のフィルムは、例えば、以下のように形成される。
【0016】
離型紙上に、表面樹脂層を形成するためのポリウレタン溶液または溶融樹脂を塗布し、固化させることにより表面樹脂層のフィルムが形成される。
【0017】
表面樹脂層を形成するためのポリウレタンとしては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、または、ポリカーボネート-ポリエーテル共重合ポリウレタンやポリカーボネート-ポリエステル共重合ポリウレタンのような共重合ポリウレタン等が挙げられる。
【0018】
離型紙上にポリウレタン溶液を塗布して表面樹脂層を形成する方法としては、離型紙上にポリウレタン溶液を塗布した後、乾燥させる方法が挙げられる。また、表面樹脂層は同じポリウレタンから形成された単層構造を有するものでも、異なる種類のポリウレタンを積層して得られる中間層とトップ層とからなるような複層構造を有する積層体であってもよい。また、表面樹脂層は、発泡構造を有するものであっても、有しないものであってもよい。
【0019】
また、表面樹脂層は、必要に応じて、着色材やその他の添加剤等を含有してもよい。また、離型紙はとくに限定されないが、平滑な離型紙や、表面にシボ模様を付与するために凹凸を有するような離型紙が好ましく用いられる。
【0020】
表面樹脂層の厚さは、特に限定されないが、10~200μm、さらには、20~100μmであることが好ましい。
【0021】
[表面樹脂層の表面に塗布された接着層用ポリウレタン溶液を、第1の加熱条件で加熱することにより、半乾燥状態の接着層を形成する工程]
次に、本工程においては、上述したような離型紙上に形成された表面樹脂層の表面に、接着層用ポリウレタン溶液を塗布した後、第1の加熱条件で加熱を行うことにより半乾燥状態の接着層を形成する。
【0022】
接着層用ポリウレタン溶液は、ポリウレタンと、ポリウレタンを溶解するための後述するような特定の溶剤とを含む。また、必要に応じて、架橋剤や架橋促進剤を含んでもよい。また、接着層用ポリウレタン溶液は、顔料等の着色剤の他、酸化防止剤、耐光剤、抗菌剤等の添加剤を含んでもよい。
【0023】
接着層用ポリウレタン溶液に含まれるポリウレタンとしては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、または、ポリカーボネート-ポリエーテル共重合ポリウレタンやポリカーボネート-ポリエステル共重合ポリウレタンのような共重合ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、ポリカーボネート系ポリウレタンおよびポリエーテル系ポリウレタンが耐加水分解性に優れることにより耐久性を確保しやすい点からとくに好ましい。
【0024】
本実施形態の接着層用ポリウレタン溶液に含まれるポリウレタンを含む固形分の濃度としては、10~70質量%、さらには、20~60質量%であることが好ましい。ポリウレタンを含む固形分の濃度が高すぎる場合には、粘度が高くなりすぎて塗工性が低下する傾向があり、ポリウレタンを含む固形分の濃度が低すぎる場合には、塗膜の膜厚の調整が難しくなる傾向がある。
【0025】
そして、接着層用ポリウレタン溶液は、ポリウレタンと、沸点70~100℃の低沸点有機溶剤20~50質量%と、沸点が120~160℃の高沸点有機溶剤6~15質量%とを含む。
【0026】
沸点が70~100℃の低沸点有機溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK、沸点79.64℃)、酢酸エチル(AcOEt、沸点77.1℃)、イソプロピルアルコール(IPA、沸点82.4℃)、エタノール(EtOH、沸点78.4℃)、アセトニトリル(AcCN、沸点82℃)等が挙げられる。これらの中では、メチルエチルケトンが、臭気が少なく取り扱いが容易である点からとくに好ましい。
【0027】
また、沸点が120~160℃の高沸点有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、沸点153℃)、シクロヘキサノン(CH、沸点155.65℃)、酢酸ブチル(沸点126℃)、等が挙げられる。これらの中では、N,N-ジメチルホルムアミドが接着層用ポリウレタン樹脂の溶解性が高い点からとくに好ましい。
【0028】
また、接着層用ポリウレタン溶液は、低沸点有機溶剤及び高沸点有機溶剤以外の溶剤も必要に応じて含有してもよい。このような低沸点有機溶剤及び高沸点有機溶剤以外の溶剤の具体例としては、沸点が70℃未満の超低沸点有機溶剤、沸点100~120℃の中沸点有機溶剤が挙げられる。沸点が160℃超の超高沸点有機溶剤は揮発しにくく残留しやすいため、含有しないことが好ましい。
【0029】
沸点が70℃未満の超低沸点有機溶剤としては、アセトン(AC、沸点56.5℃)、酢酸メチル(AcOMe、沸点57℃)、等が挙げられる。また、沸点が100~120℃の中沸点有機溶剤としては、1,4-ジオキサン(DO、沸点101.3℃)、トルエン(PhMe、沸点110.63℃)等が挙げられる。また、沸点が160℃超の超高沸点有機溶剤としては、ジメチルアセトアミド(DMAc、沸点165℃)、ジエチルホルムアミド(DEF、沸点177℃)、ジエチルアセトアミド(DEAc、沸点182-186℃)、N-メチルピロリドン(NMP、沸点202℃)等が挙げられる。
【0030】
接着層用ポリウレタン溶液は、70~100℃の低沸点有機溶剤を20~50質量%含み、好ましくは25~40質量%含む。低沸点有機溶剤の含有割合が20質量%未満である場合には、高沸点有機溶剤の含有割合が相対的に高くなることにより、VOCが残留しやすくなる。また、低沸点有機溶剤の含有割合が50質量%を超える場合には接着層用ポリウレタン溶液の揮発性が高くなり、接着層用ポリウレタン溶液の経時的な濃度や粘度の安定性が低くなりやすい。
【0031】
また、接着層用ポリウレタン溶液は、沸点が120~160℃の高沸点有機溶剤を6~15質量%含み、好ましくは7~14質量%含む。高沸点有機溶剤の含有割合が6質量%未満の場合には低沸点有機溶剤の含有割合が相対的に高くなることにより、溶媒の揮発性が高くなり、接着層用ポリウレタン溶液の安定性が低くなって接着加工性が低下する。さらに接着層用ポリウレタン溶液の溶解度パラメータの調整範囲が狭くなるため、接着層用ポリウレタン溶液によって表面樹脂層が膨潤し、繊維基材に貼り合わせる前に表面樹脂層が離型紙から浮き上がるなどの問題が発生しやすくなる。また、高沸点有機溶剤の含有割合が15質量%を超える場合には、VOCが残留しやすくなる。
【0032】
また、接着層用ポリウレタン溶液は、沸点が70℃未満の超低沸点有機溶剤を30質量%以下、さらには15質量%以下、の範囲で含んでもよい。超低沸点有機溶剤を30質量%以上含む場合には、溶媒の揮発性が高くなりすぎて、溶液の経時的安定性が低くなりやすい。また、中沸点有機溶剤を30質量%以下、さらには20質量%以下、超高沸点有機溶剤を1質量%以下、さらには0.1質量%以下、の範囲で含んでもよい。中沸点有機溶剤を30質量%以上あるいは超高沸点有機溶剤を1質量%以上含む場合には、銀付調人工皮革中のVOCの残留量が多くなりやすくなる。
【0033】
上述したような接着層用ポリウレタン溶液の好ましい組み合わせとしては、MEKとDMFとを含む混合溶剤、具体的には、MEK20~70質量%、さらには25~60質量%と、DMF5~15質量%、さらには6~14質量%、と、残分としてその他の溶剤を含んでもよい混合溶剤が、VOCを銀付調皮革様シートに残留させにくくできる点から好ましい。
【0034】
ポリウレタン表面樹脂層の表面に接着層用ポリウレタン溶液を塗布する方法は特に限定されず、コンマコーター、コンマリバースコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等を用いることができる。中でも、塗工量を制御しやすい点からコンマコーター用いて塗布することが好ましい。
【0035】
接着層用ポリウレタン溶液の塗布量は60~160g/m2であり、70~150g/m2、さらには80~140g/m2、であることが好ましい。接着層用ポリウレタン溶液を離型紙上に形成された表面樹脂層にこのような塗布量で塗布することにより、銀付調皮革様シート中にVOCが残留しにくくなる。接着層用ポリウレタン溶液の塗布量が、160g/m2を超える場合には、乾燥工程において塗膜全体に熱が伝わりにくくなり、その表層部分のみが優先的に乾燥して皮膜化し、その内部の有機溶剤が揮発しにくくなる。その結果、VOCが残留しやすくなる。また、接着層用ポリウレタン溶液の塗布量が、60g/m2未満である場合には充分な厚さの接着層が形成されにくくなる。
【0036】
そして、接着層用ポリウレタン溶液の塗布量は高沸点有機溶剤の塗布量が22g/m2以下、好ましくは20g/m2以下、になるように塗布される。接着層用ポリウレタン溶液を高沸点有機溶剤の塗布量が22g/m2以下になるような塗布量で塗布することにより、後述する各加熱工程を経ることにより、銀付調皮革様シートに高沸点有機溶剤が残留しにくくなる。高沸点有機溶剤の塗布量が22g/m2を超える場合には銀付調皮革様シートに高沸点有機溶剤が残留しやすくなる。
【0037】
そして、離型紙上に形成された表面樹脂層に塗布された接着層用ポリウレタン溶液に第1の加熱条件で加熱を行って有機溶剤の一部を揮発させることにより、粘性が適度に調整された半乾燥状態のポリウレタン接着層を形成させる。
【0038】
第1の加熱は、昇温過程において、接着層用ポリウレタン溶液に含まれる低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含む第1の加熱条件で行う。なお、低沸点有機溶剤が2種類以上含まれる場合には、最も沸点が低い低沸点有機溶剤の沸点を基準とする。また、昇温過程とは、低温側から高温側に昇温する過程であり、高温側から低温側へ降温する過程ではないことを意味する。
【0039】
第1の加熱は、接着層用ポリウレタン溶液に含まれる低沸点有機溶剤の一部を優先的に揮発させ、繊維基材と接着させる際の接着層用ポリウレタン溶液の粘性を調整する工程である。この第1の加熱により、半乾燥状態のポリウレタン接着層を形成する。
【0040】
ここで半乾燥状態のポリウレタン接着層とは、接着層用ポリウレタン溶液に含まれる低沸点溶媒の一部が優先的に揮発した状態を意味する。具体的には、接着層用ポリウレタン溶液に含まれる低沸点溶剤の総量の20~80%程度を揮発させた状態である。
【0041】
第1の加熱は、例えば、熱風乾燥機、とくには、ゾーンごとに温度を設定できるコンベア式の熱風乾燥機で行われることが好ましい。第1の加熱条件は、低沸点有機溶剤の種類に応じて設定される、昇温過程において、低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含むように設定される。このように加熱することにより、低温側から高温側に加熱するときに、接着層用ポリウレタン溶液の低沸点有機溶剤が急激に揮発することによる発泡を抑制することができ、それにより、形成される接着層による高い接着力を維持させることができる。なお、各加熱条件における温度及び時間は、熱風乾燥機内に温度計を配して実測される温度プロファイルから特定される。なお、測定誤差や乾燥機の特性上、温度プロファイルに瞬間的な変動がみられる場合は、変動の中心値を温度の実測値とする。
【0042】
第1の加熱条件は、昇温過程において、低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含む限り特に限定されず、低沸点有機溶剤の沸点よりも15℃低い温度に至るまでの温度プロフェイルは、接着層用ポリウレタン溶液の繊維基材への浸透性を考慮しながら適宜調整される。具体的には、例えば、繊維基材が高比重であったり、撥油的であったりすることにより接着層用ポリウレタン溶液が繊維基材に浸透しにくい場合には、その浸透を促進させるために、低沸点有機溶剤の沸点よりも15℃低い温度に至るまでの昇温速度を低くして付与される総熱量を多くする方向に調整することが好ましい。また、繊維基材が低比重であったり、親油的であったりすることにより接着層用ポリウレタン溶液が繊維基材に浸透しすぎる場合には、接着層用ポリウレタン溶液が繊維基材に過度に浸透することを抑制するために、低沸点有機溶剤の沸点よりも15℃低い温度に至るまでの昇温速度を高くして付与される総熱量を低くする方向に調整することが好ましい。このように、繊維基材の接着層用ポリウレタン溶液の浸透性を考慮して、第1の加熱条件の低沸点有機溶剤の沸点よりも15℃低い温度に至るまでの温度プロフェイルを調整することが好ましい。また、低沸点有機溶剤の沸点よりも5~15℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱の直後は、常温に至る降温過程であることが、調整された粘度を変動させにくい点から好ましい。
【0043】
なお、第1の加熱は、低沸点溶媒の一部を揮発させて増粘させるために設けられる加熱であり、最終的なVOCの残留量に大きな影響を与えない。
【0044】
接着層の厚さとしては、5~150μm、さらには20~100μmであることが好ましい。接着層が厚すぎる場合には耐屈曲性が低下して接着強度が低下する傾向がある。
【0045】
また、表面樹脂層と接着層の合計厚さとしては、10~300μm、さらには30~200μm、とくには50~150μm程度であることが、機械的特性と風合いとのバランスを維持することができる点から好ましい。
【0046】
[繊維絡合体を含む繊維基材]
次に、表面樹脂層が接着される繊維絡合体を含む繊維基材の準備について説明する。繊維基材としては、従来から銀付調皮革様シートの製造に用いられている、不織布、織物、編物、またはそれらを組み合わせた繊維絡合体を主体とし、必要に応じて、さらに高分子弾性体を含浸付与させた繊維基材が特に限定なく用いられる。これらの中では、不織布、とくには、高分子弾性体を含浸付与された繊度0.5dtex以下の極細繊維を含む不織布を含む繊維基材が、緻密で機械的強度の高い銀付調皮革様シートが得られやすい点から好ましい。
【0047】
繊維の繊度や形態は特に限定されない。例えば、繊度は1dtex超のようなレギュラー繊維であっても、1dtex未満の極細繊維であってもよい。また、繊維の形態は、中実繊維であっても、中空繊維やレンコン状繊維のような空隙を有する繊維であってもよい。とくには、繊維は、繊度0.5dtex以下、さらには0.0001~0.2dtexのような極細繊維を含むことが、繊維の粗密ムラが低く均質性の高い銀付調皮革様シートが得られやすい点から好ましい。
【0048】
繊維を形成する樹脂の種類は特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6-12等のポリアミド系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、などのポリオレフィン系樹脂;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等から形成される変性ポリビニルアルコール系樹脂;及び、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの結晶性エラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリアミド系樹脂や芳香族ポリエステル系樹脂が各種特性のバランスに優れる点から好ましい。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
繊維の製造方法としては、樹脂を融点以上の温度で溶融させてエクストルーダーから押し出して溶融紡糸する方法や、ポリマー溶液を細孔より押し出し溶媒を蒸発させる乾式溶液紡糸する方法や、高分子溶液を非溶剤中に紡出する湿式溶液紡糸する方法等、とくに限定なく用いられる。また、極細繊維の不織布は、例えば、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理して繊維絡合体を形成し、極細繊維化処理することにより得られる。
【0050】
繊維基材は繊維絡合体に含浸付与された高分子弾性体を含んでもよい。繊維絡合体に含浸付与される高分子弾性体の種類は特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリウレタン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体やアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの共重合体等のアクリル系弾性体、ポリアミド系弾性体、シリコーンゴム等の各種高分子弾性体が挙げられる。これらの中では、良好な風合が得られる点からポリウレタンがとくに好ましい。なお、ポリウレタンのソフトセグメントはポリエステル単位、ポリエーテル単位、ポリカーボネート単位の中からそれらの1種を含んでも、組み合わせて用いてもよい。また、高分子弾性体は単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
繊維基材が高分子弾性体を含有する場合、その含有割合は、繊維絡合体と高分子弾性体との質量比(繊維絡合体/高分子弾性体)が、99/1~30/70の範囲であることが好ましい。高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には、得られる銀付調皮革様シートがゴムライクな硬い風合いになる傾向がある。
【0052】
繊維基材の厚さは特に限定されないが、例えば、0.3~3mm、さらには0.5~1.5mm程度であることが好ましい。
【0053】
[繊維基材と表面樹脂層とを接着層を介して貼り合わせることにより、積層一体化シートを形成する工程]
剥離紙上に形成された表面樹脂層に積層され、第1の加熱により有機溶剤の一部が揮発して粘性が調整された接着層を繊維基材の表面に圧着して貼り合わせることにより、それらが一体化された積層一体化シートを製造する。これらの一体化は、例えば、剥離紙上に形成された接着層と繊維基材と重ね合せて形成した積重体を所定の間隔のクリアランスを形成したプレスロールに通過させることにより行われる。
【0054】
プレスロールに形成されるクリアランスの間隔としては、例えば、繊維基材の厚さに対して、20~90%、さらには、30~80%であることが、繊維基材と表面樹脂層とが接着層を介して充分に接着される点から好ましい。このようにして、離型紙上の表面樹脂層と繊維基材と接着層を介して貼り合わされて一体化された積層一体化シートが得られる。
【0055】
[積層一体化シートに対して第2の加熱を行う工程]
第2の加熱も、第1の加熱と同様に、例えば、熱風乾燥機、とくには、ゾーンごとに温度を設定できるコンベア式の熱風乾燥機で行われることが好ましい。第2の加熱を行う工程では、昇温過程において、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含む第2の加熱条件で加熱を行う。高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱の直後は、常温に至る降温過程であることが、過剰な加熱によるポリウレタンの熱劣化を抑制する点から好ましい。
【0056】
第2の加熱では、積層一体化シートに残留している有機溶剤の大部分を揮発させる。第2の加熱条件は、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度を含む範囲で、30秒間以上、好ましくは60秒間以上、さらに好ましくは120秒間以上保持する加熱を含む。
【0057】
第2の加熱では、昇温過程において、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を行う限り温度プロファイルは特に限定されないが、その保持する加熱の直後は、常温に至る降温過程であることが、過剰な加熱によるポリウレタンの熱劣化を抑制する点から好ましい。また、例えば、第1の加熱において、粘度を調整することを優先することにより、低沸点溶剤の揮発が不充分になる場合もある。このような場合、高沸点有機溶剤の沸点よりも40℃低い温度に至るまでの昇温を急速に行うと、接着層に残存する低沸点溶剤が急激に膨張して発泡することがある。このような場合は、高沸点有機溶剤の沸点よりも40℃低い温度までは緩やかに昇温するような温度プロファイルが好ましい。また、例えば高沸点有機溶剤の沸点よりも40~50℃低い温度の範囲で30秒間保持した後に、高沸点有機溶剤の沸点よりも40℃低い温度にまで昇温させるような温度プロファイルであってもよい。
【0058】
[第2の乾燥の後に積層一体化シートから離型紙を剥離することにより、銀付調皮革様シートを形成する工程]
積層一体化シートはロール状に巻き取られたのち、接着用ポリウレタン層を完全に硬化させるために、通常、40℃~90℃の温度にて数時間から数日間の熟成期間が設けられる。そして熟成終了後に、離型紙を剥離することにより、銀付調皮革様シートが得られる。
【0059】
[銀付調皮革様シートに対して第3の加熱を行う工程]
離型紙を剥離後の銀付調皮革様シートを、昇温過程において、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱を含む第3の加熱を行う。第3の加熱では、離型紙と一体化した状態で行った第2の加熱よりも効率的に有機溶剤を除去することが可能である。第3の加熱を行うことにより、銀付調皮革様シートに残留している有機溶剤のほとんどを除去することが可能となる。
【0060】
第3の加熱も、第1の加熱及び第2の加熱と同様に、例えば、熱風乾燥機、とくには、ゾーンごとに温度を設定できるコンベア式の熱風乾燥機で行われることが好ましい。第3の加熱も、昇温過程において、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上、好ましくは60秒間以上、さらに好ましくは120秒間以上保持する加熱を含む。また、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲で30秒間以上保持する加熱の直後は、常温に至る降温過程であることが、過剰な加熱によるポリウレタンの熱劣化を抑制する点から好ましい。
【0061】
また、第3の加熱も、必要に応じて、高沸点有機溶剤の沸点よりも40℃低い温度よりも低い温度で加熱する段階を含んでもよい。例えば、高沸点有機溶剤の沸点よりも50℃低い温度で30秒間加熱した後に、高沸点有機溶剤の沸点よりも10~40℃低い温度の範囲内のピーク温度よりも30℃低い温度で30秒間加熱した後、ピーク温度で30秒間以上保持するような条件であってもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
離型紙上に、下記に示す組成の表面樹脂層用ポリウレタン溶液を均一に170g/m2塗布した後、90℃で1分間乾燥し、さらに120℃で1分間乾燥することにより、厚み30μmのポリウレタン表面樹脂層を形成した。
【0064】
(表面樹脂層用ポリウレタン溶液)
・ポリエーテル系ポリウレタン溶液(大日精化工業(株)製 レザミンME-8115LP、固形分30%、MEK21%、DMF49%):100質量部
・MEK:30質量部
・DMF:40質量部
・白顔料:10質量部
【0065】
次に、下記に示す組成の接着層用ポリウレタン溶液を調整した。
【0066】
(接着層用ポリウレタン溶液)
・ポリエーテル系ポリウレタン溶液(大日精化工業(株)製 レザミンUD-8310NTT、固形分60%、MEK30%、DMF10%):100質量部
・MEK(低沸点有機溶剤、沸点79.6℃):30質量部
・DMF(高沸点有機溶剤、沸点153℃):10質量部
・イソシアネート系架橋剤(大日精化工業(株)製 NE架橋剤):10質量部
・架橋反応促進剤(大日精化工業(株)製 UD-103促進剤架橋剤):1質量部
【0067】
なお、接着層用ポリウレタン溶液中の低沸点有機溶剤の割合は39.7質量%であり、高沸点有機溶剤の割合は13.2質量%であった。
【0068】
そして、表面樹脂層の表面に接着層用ポリウレタン溶液を、150g/m2の塗布量で塗布した。このときの高沸点有機溶剤の塗布量は、19.9g/m2であった。
【0069】
そして、第1の加熱工程として、塗布された接着層用ポリウレタン溶液を熱風乾燥機内で、常温から70℃まで5秒間で昇温し、70℃で30秒間保持する加熱を行い、その後、加熱を停止することにより半乾燥状態にまで乾燥された接着層を形成した。
【0070】
そして、このようにして形成された、離型紙上の表面樹脂層に積層された半乾燥状態の接着層を繊維基材の表面に接触させて載置し、繊維基材の厚みに対して約70%のクリアランスを有するロールで圧着した。このようにして積層一体化シートを製造した。なお、繊維基材としては、0.1dtexのポリエステル繊維の不織布にポリウレタンを含浸付与させた、ポリエステル繊維/ポリウレタン=70/30(質量比)で、目付430g/m2、厚さ1.0mmの人工皮革基材を用いた。
【0071】
そして、第2の加熱工程として、積層一体化シートを熱風乾燥機内で、常温から120℃まで90秒間で昇温し、120℃で60秒間保持する加熱を行い、その後、加熱を停止する加熱を行った。
【0072】
そして、70℃で2日間放置することにより、ポリウレタンの架橋を完了させるために熟成した。
【0073】
そして、積層一体化シートから離型紙を剥離して銀付調皮革様シートを得た。
【0074】
そして、第3の加熱工程として、銀付調皮革様シートを熱風乾燥機内で、常温から120℃まで5秒間で昇温し、120℃で60秒間保持する加熱を行い、その後、加熱を停止する加熱を行った。
【0075】
このようにして、銀付調皮革様シートを製造した。そして、得られた銀付調皮革様シートの有機溶剤の残留率及び加工安定性を次のようにして評価した。
【0076】
(DMF及びDEFの定量)
DMFおよびDEFの残留量をISO/TS 16189:2013に準じて、以下のようにして測定した。ジッパー付きポリ袋にVOC測定用に適切にサンプリングおよび密閉保存された銀付調皮革様シートを3mm角に細断に細断した後、試験片として1gを秤量した。そして、容量20mlのバイアル瓶に入れてテフロン(登録商標)加工されたシリコンセプタムで密栓した。そして、内部指標として濃度既知のDMF-d7を含むメタノール溶液10mlをバイアル瓶に添加し、70℃で1時間放置することにより、残留する有機溶剤を抽出した。そして、得られた抽出液をGS/MSを用いて分析し、ピーク位置およびその面積からDMF及びDEFの定量を行い、残留率を算出した。
【0077】
(MEK、酢酸エチル、トルエン、アノンの定量)
ヘッドスペースGC/MSにより、有機溶剤の残留量を測定した。まず、ジッパー付きポリ袋にVOC測定用に適切にサンプリングおよび密閉保存された銀付調皮革様シートを3mm角に細断した後、試験片として1gを秤量した。そして、試験片を容量10mlのバイアル瓶に入れてテフロン加工されたシリコンセプタムで密栓した。そして、内部指標としてトルエン-d810μgをマイクロシリンジで注入したのち、ヘッドスペースサンプラーにセットして120℃で45分間加熱した。平衡状態に達したヘッドスペース部分をヘッドスペースサンプラーからGC/MSに導入し、ピーク位置および面積からMEK、酢酸エチル、トルエン、アノンの各溶剤の定量を行い、残留率を算出した。
【0078】
(接着加工安定性)
接着加工安定性を以下の基準で判定した。
A:問題なく接着加工することが可能であった。
B:形成された接着層が有機溶剤で膨潤したが、接着することは可能であった。
C:接着層の乾燥不良、大きな膨潤、発泡、または外観不良がみられ、実用的な接着ができなかった。
【0079】
結果を下記表1に示す。
【0080】
【0081】
[実施例2~7、及び比較例1~9]
接着層用ポリウレタン溶液の塗布量、接着層用ポリウレタン溶液の配合組成、第1の加熱工程、第2の加熱工程、及び第3の加熱工程の加熱条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして銀付調皮革様シートを作成した。
なお、比較例4においては、接着層用ポリウレタン溶液として、以下のものを使用した。
【0082】
(接着層用ポリウレタン溶液)
・ポリエーテル系ポリウレタン(固形分60%、MEK30%、DEF10%):100質量部
・MEK(低沸点有機溶剤、沸点79.6℃):30質量部
・DEF(超高沸点有機溶剤、沸点176-177℃):10質量部
・イソシアネート系架橋剤(大日精化工業(株)製 NE架橋剤):10質量部
・架橋反応促進剤(大日精化工業(株)製 UD-103促進剤架橋剤):1質量部
そして、実施例1と同様にして、銀付調皮革様シートの評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
表1を参照すれば、本発明に係る銀付調皮革様シートの製造方法を採用した実施例1~6で得られた銀付調人工皮革は、何れも溶剤残留量が顕著に少なかった。一方、第3の加熱を行わなかった比較例1で得られた銀付調人工皮革は、溶剤残留量が多かった。また、高沸点有機溶剤の割合が高すぎる接着層用ポリウレタン溶液を用いた比較例2で得られた銀付調人工皮革は、第3の加熱を行なっても溶剤残留量が多かった。また、接着層用ポリウレタン溶液の塗布量が多い比較例3で得られた銀付調人工皮革も、第3の加熱を行なっても溶剤残留量が多かった。また、第3の加熱の温度が低い比較例5で得られた銀付調人工皮革も溶剤残留量が多かった。また、低沸点有機溶剤の割合が高すぎる比較例7で得られた銀付調人工皮革は、接着層用ポリウレタン溶液の粘度が低すぎて、接着加工性が不安定であった。また、第1の加熱の温度が高すぎる比較例8で得られた銀付調人工皮革は、接着層用ポリウレタン溶液の粘度が急速に高くなりすぎて、接着加工性が不安定であった。また、第2の加熱の温度が高すぎる比較例9で得られた銀付調人工皮革は、接着層が発泡して外観不良が発生した。
【符号の説明】
【0084】
1 繊維基材
2 ポリウレタン接着層
3 ポリウレタン樹脂層
10 銀付調皮革様シート