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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ドラムブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/22 20060101AFI20241029BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20241029BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20241029BHJP
   F16D 125/66 20120101ALN20241029BHJP
【FI】
F16D65/22
F16J15/3232 101
F16J15/18 A
F16D125:66
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020212063
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098593
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220712
【氏名又は名称】株式会社TBK
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100218095
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】唐 建華
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-035531(JP,A)
【文献】特公昭45-036694(JP,B1)
【文献】特公昭47-006814(JP,B1)
【文献】特公昭49-047945(JP,B1)
【文献】特公昭48-012513(JP,B1)
【文献】実開昭55-161936(JP,U)
【文献】実公昭47-002271(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0325595(US,A1)
【文献】米国特許第04122921(US,A)
【文献】国際公開第2016/088152(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/22
F16J 15/3232
F16J 15/18
F16D 125/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に設けられて前記回転部材と一体的に回転可能な円筒状のブレーキドラムと、
固定部材に揺動自在に設けられて、前記ブレーキドラムの内周面に沿って配設されるブレーキライニングを有するブレーキシューと、
ブレーキ操作に応じて前記ブレーキシューを拡開させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける拡開機構とを備えるドラムブレーキであって、
前記拡開機構は、当該拡開機構の軸方向に延びて前記ブレーキシュー側に開口する収容部が形成されたハウジングと、前記収容部内において前記軸方向に往復移動可能に設けられて、ブレーキ操作に応じて前記軸方向に移動することで前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける押圧部材と、前記ハウジングと前記押圧部材との間に跨設されて、前記収容部における前記ブレーキシュー側の開口を閉鎖する環状のキャップ部材とを備え、
前記キャップ部材は、前記ハウジングに固定される芯金部材と、前記芯金部材の内周側に固着されるシール部材とを備えており、
前記シール部材は、前記押圧部材の外周面に弾性的に摺接するシールリップを備えており、
前記芯金部材は、環状の鍔部を備えており、
前記鍔部は、所定の止め具を介して前記ハウジングの内面側に固定されており、
前記鍔部と前記ハウジングの内面との間にシールリングが介装されていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記ハウジングに対して前記軸方向回りに回転自在に設けられており、
前記押圧部材の外周面に刻設された螺旋溝に螺合するドライブリング部材と、ドライブリング部材の外周面を前記ハウジングの内周面に当接する方向に付勢するコイルスプリングとを備え、
前記コイルスプリングの前記軸方向の一端部は前記ドライブリング部材に支持され、前記コイルスプリングの前記軸方向の他端部は前記キャップ部材に支持されており、
前記コイルスプリングが前記ドライブリング部材と前記キャップ部材との間で前記軸方向に圧縮された状態で配設されていることを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記コイルスプリングは、前記キャップ部材内に収容されていることを特徴とする請求項2に記載のドラムブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、車軸と一体回転可能に取り付けられた円筒状のブレーキドラムと、アンカーブラケットに揺動可能に保持されてブレーキドラムの内周面に沿って配設される一対のブレーキシューとを有し、ブレーキドラムと対向してブレーキシューに設けられるブレーキライニングをブレーキドラムの内周面に押し付けることにより、両者間に生じる摩擦を利用してブレーキドラム(車軸に設けられた車輪)の回転を制動するものである。
【0003】
このようなドラムブレーキには、ブレーキシューの先端にブレーキ操作に応じて外方に張出作動するエキスパンダを取り付け、エキスパンダの張出作動によりブレーキシューを揺動させてブレーキライニングをブレーキドラムの内周面に押し付ける構成のものがある(例えば、特許文献1を参照)。このドラムブレーキのエキスパンダは、ハウジングと、ハウジングに取り付けられるタペットと、タペットに同軸的に取り付けられるスリーブと、スリーブに螺合されるとともに外端部がブレーキシューに繋がるスクリュウとを有して構成されている。このエキスパンダにおいては、タペットからの押圧力をスリーブに作用させ、スリーブおよびスクリュウを外方に張り出させることで、スクリュウに繋がるブレーキシューを揺動させてブレーキライニングをブレーキドラムの内周面に押し付けるようになっている。また、ブレーキライニングはブレーキドラムとの摩擦により摩耗するが、この摩耗によりブレーキライニングとブレーキドラムとの間隙(以下、シュークリアランスとも称する)が大きくなると、ブレーキの効きを悪化させる原因ともなる。そのため、ドラムブレーキには、ブレーキライニングの摩耗に応じてシュークリアランスを詰めて、ブレーキライニングとブレーキドラムとの間隙を常に一定に保持するよう自動的に調整する間隙調整機構が備えられている。この間隙調整機構は、スリーブをスクリュウに対して単独で相対回転させて、スリーブに螺合するスクリュウを外方に向けて張り出させることによりブレーキライニングを揺動させてシュークリアランスを詰めるように構成されている。
【0004】
このような構成のドラムブレーキには、ハウジングの内周面とスクリュウの外周面との間にゴムや合成樹脂等の可撓性を有する蛇腹状のブーツが設けられ、外部からハウジング内へ異物が侵入することや、ハウジング内の潤滑剤(グリース)が外部に漏出することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-242238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のドラムブレーキでは、ブレーキの作動時やシュークリアランスの調整時などにおいて、スクリュウの張出動作に応じて蛇腹状のブーツが伸縮変形してブレーキドラムに接近していくため、この発熱部品であるブレーキドラムからの輻射熱の影響を受けてブーツが熱硬化により破損することで、ハウジング内に異物が侵入したり、ハウジング内の潤滑剤が外部に漏出したりするおそれがあるという課題があった。
【0007】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ブレーキドラムからの輻射熱
の影響を受け難いシール構造を備えたドラムブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るドラムブレーキは、回転部材に設けられて前記回転部材と一体的に回転可能な円筒状のブレーキドラムと、固定部材に揺動自在に設けられて、前記ブレーキドラムの内周面に沿って配設されるブレーキライニングを有するブレーキシューと、ブレーキ操作に応じて前記ブレーキシューを拡開させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける拡開機構とを備えるドラムブレーキであって、前記拡開機構は、当該拡開機構の軸方向に延びて前記ブレーキシュー側に開口する収容部が形成されたハウジングと、前記収容部内において前記軸方向に往復移動可能に設けられて、ブレーキ操作に応じて前記軸方向に移動することで前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける押圧部材と、前記ハウジングと前記押圧部材との間に跨設されて、前記収容部における前記ブレーキシュー側の開口を閉鎖する環状のキャップ部材とを備え、前記キャップ部材は、前記ハウジングに固定される芯金部材と、前記芯金部材の内周側に固着されるシール部材とを備えており、前記シール部材は、前記押圧部材の外周面に弾性的に摺接するシールリップを備えており、前記芯金部材は、環状の鍔部を備えており、前記鍔部は、所定の止め具を介して前記ハウジングの内面側に固定されており、前記鍔部と前記ハウジングの内面との間にシールリングが介装されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るドラムブレーキにおいて、前記押圧部材は、前記ハウジングに対して前記軸方向回りに回転自在に設けられており、前記押圧部材の外周面に刻設された螺旋溝に螺合するドライブリング部材と、ドライブリング部材の外周面を前記ハウジングの内周面に当接する方向に付勢するコイルスプリングとを備え、前記コイルスプリングの前記軸方向の一端部は前記ドライブリング部材に支持され、前記コイルスプリングの前記軸方向の他端部は前記キャップ部材に支持されており、前記コイルスプリングが前記ドライブリング部材と前記キャップ部材との間で前記軸方向に圧縮された状態で配設されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るドラムブレーキにおいて、前記コイルスプリングは、前記キャップ部材内に収容されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るドラムブレーキによれば、キャップ部材を芯金部材とシール部材とにより構成して、芯金部材をハウジングに固定するとともにシール部材(シールリップ)を押圧部材に対して摺接可能に密着させることで、ブレーキの作動に応じて押圧部材が往復運動を行ったとしても、キャップ部材の位置が軸線方向及び周方向にずれることがなく、キャップ部材とブレーキドラムとの距離を一定に維持することができるため(キャップ部材が発熱部品であるブレーキドラムに接近することを防止できるため)、ブレーキドラムからの輻射熱の影響を低減してキャップ部材の破損を防止することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るドラムブレーキでは、キャップ部材がハウジング内を外部からの異物に対してシールする機能と、コイルスプリングを保持する機能とを兼用することで、部品点数の削減、および製造工数の削減により、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るドラムブレーキでは、ハウジングとキャップ部材との間にシールリングが配設されることで、外部からの異物の侵入および外部への潤滑剤の漏出を一層効果的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のドラムブレーキを示す正面図である。
図2図1における矢印A-Aに沿って示す断面図であり、上記ドラムブレーキの非作動時を示す。
図3図1における矢印A-Aに沿って示す断面図であり、上記ドラムブレーキの作動時を示す。
図4】上記ドラムブレーキのスリーブアッシーの分解状態を示す断面図である。
図5図3の要部を示す拡大図である。
図6】上記ドラムブレーキのキャップを正面側から見た斜視図である。
図7】上記ドラムブレーキのキャップを背面側から見た斜視図である。
図8】上記キャップの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、本発明の一実施形態に係るドラムブレーキの全体構成について図1図7を参照して説明する。なお、図2図3等では、図を見易くするために、一部の断面部のハッチングを省略している。
【0017】
ドラムブレーキBは、図1に示すように、ダストカバー29とともに車体に固定されるアンカーブラケット2と、車軸1に設けられて該車軸1と一体的に回転するブレーキドラム31を設けてなるドラムユニット3と、アンカーブラケット2に揺動自在に設けられてブレーキドラム31の内周面に沿って配設される一対のブレーキシュー40,40を備えたブレーキシューユニット4と、ブレーキ操作に応じてブレーキシュー40,40を揺動させてブレーキドラム31の内周面に押し付けるエキスパンダ5とを主体に構成される。なお、図1においてはドラムユニット3(ブレーキドラム31)を二点鎖線で示し、詳細な図示を省略している。
【0018】
アンカーブラケット2は、中央に円孔状の開口21を有し、この開口21の周囲に設けたボルト孔22に挿入されるボルト(図示せず)を介して車体のアクスルハウジング(図示せず)に固定される。また、アンカーブラケット2の下部には、その厚さ方向(図1紙面直交方向)に二股に分かれるブレーキシュー支持部25が形成されており、このブレーキシュー支持部25に一対のピン挿入口24が正面視左右に並んで開設されている。
【0019】
ドラムユニット3は、アンカーブラケット2の開口21から外方へ突出する車軸1上にベアリングを介して回転可能に取り付けられたホイールハブ(図示せず)に、ホイールリム(図示せず)が取り付けられるとともに、ブレーキドラム31が結合されて構成されている。なお、ホイールリムには車輪が取り付けられ、ブレーキドラム31と車輪とがホイールハブを介して一体回転するようになっている。
【0020】
ブレーキシューユニット4は、アンカーブラケット2を挟んで正面視左右に配設された二つのブレーキシュー40,40を有して構成される。各ブレーキシュー40は、弧状に延びるウェブ部41と、ウェブ部41の外周端に取り付けられるリム部42と、リム部42にリベット等により固着されるブレーキライニング(以下、「ライニング」と呼称する)43とを有して構成される。ブレーキシュー40は、ブレーキドラム31の内周面に沿って配設されており、ライニング43をブレーキドラム31の内周面に対向させている。
【0021】
ブレーキシュー40は、基端部がブレーキシュー支持部25のピン挿入口24に挿入されたアンカーピン44を介してアンカーブラケット2に枢結されており、このアンカーピン44を揺動中心として図1における左右方向に揺動可能とされる。一対のブレーキシュー40,40の先端部同士の間には、これらを相互に接続するリターンスプリング45が
跨設されている。そして、ブレーキ操作がなされていないとき(ブレーキの非作動時)には、各ブレーキシュー40はリターンスプリング45の付勢力を受けて内方に揺動した位置(すなわち、ブレーキドラム31と離間した位置)に保持される。
【0022】
また、一対のブレーキシュー40,40の先端部同士の間には、アンカーブラケット2に固定されたエキスパンダ5が配設されている。後に詳述するが、エキスパンダ5は、ブレーキ操作がなされたとき(ブレーキの作動時)に、各スクリュウ57の張出作動(繰出作動)により各ブレーキシュー40の先端部をリターンスプリング45の付勢力に抗して外方へ押圧する。各ブレーキシュー40は、各アンカーピン44を中心にそれぞれ外方へ揺動し、各ライニング43がブレーキドラム31の内周面に押し付けられ、両者の間の摩擦力によりブレーキドラム31の回転が制動される。それにより、ブレーキドラム31と一体回転する車輪に対して所定のブレーキ作用が得られることになる。
【0023】
エキスパンダ5は、図2および図3に示すように、中央にウェッジ収容部51aを空間形成するとともに両側部からウェッジ収容部51aに連通した一対のシリンダ部51b,51bを形成してなるハウジング51と、ウェッジ収容部51aに挿抜可能に取り付けられるウェッジ52と、各シリンダ部51b内に嵌挿されて軸線Xの方向(以下「軸線方向」とも呼称する)に摺動可能に配設されるスリーブアッシー53と、スリーブアッシー53と軸線方向に螺合してハウジング51の側部外方へ向けて延出するスクリュウ57とを備えて構成される。
【0024】
エキスパンダ5は、図2および図3において左右対称に構成されており、以下では、図2および図3に示すエキスパンダ5の配設姿勢を基準として、軸線方向におけるハウジング51の内方側(ウェッジ収容部51a側)を「一端側」、軸線方向におけるハウジング51の外方側(ブレーキシュー40側)を「他端側」と呼称して説明する。なお、図2はブレーキの非作動時におけるエキスパンダ5の状態を示し、図3はブレーキの作動時におけるエキスパンダ5の状態を示している。
【0025】
ハウジング51は、軸線方向と直交する方向(以下「軸線直交方向」とも呼称する)に延びて上側に開口するウェッジ収容部51aと、このウェッジ収容部51aに連通するとともに軸線方向に延びて他端側(ブレーキシュー40側)に開口する一対のシリンダ部51b,51bとを有している。各シリンダ部51bには、スリーブアッシー53が軸線方向に沿って摺動自在に嵌挿されている。各シリンダ部51bの内周面側には、軸線方向の一端側に向かって縮径する円錐内面51cが同軸的に形成されている。この円錐内面51cは、後述のドライブリング62の外周面(円錐外面62a)と当接可能に形成されている。また、各シリンダ部51bの軸線方向の他端側には、ブレーキシュー40側に向かって開放された開口端部51dが同軸的に形成されている。この開口端部51dには、該シリンダ部51bの内部に水、泥、ダスト等の異物が侵入するのを防止するとともに、該シリンダ部51bの内部に充填された潤滑剤(グリース)が外部へ漏出するのを防止する略円筒状のキャップ70が着脱自在に取り付けられる。また、この開口端部51dの内周面側には、キャップ70を固定する止め具としてのスナップリング81が装着される円環状の内溝51eが形成されている。また、この開口端部51dの端面側には、シールリングとしてのOリング82が収容される円環状のシール溝51fが形成されている。
【0026】
ウェッジ52は、シャフト状に形成されて、チャンバ9内のダイヤフラムの作動によりハウジング51のウェッジ収容部51aに対して軸線直交方向に挿抜可能に取り付けられている。このウェッジ52は、ブレーキの非作動時(ブレーキの解除時)には、図2に示すように、ウェッジスプリング52aの付勢力によりウェッジ収容部51aに対して外方へ抜出された状態とされる。一方、ウェッジ52は、ブレーキの作動時には、図3に示すように、ウェッジスプリング52aの付勢力に抗して、ウェッジ収容部51a内を軸線直
交方向(図3では下方向)に移動して、ウェッジ収容部51aに対して挿入された状態とされる。ウェッジ収容部51a内に挿入される側の端部である挿入端部52bは、先端に向かって尖る楔形に形成されており、軸線方向の両側に傾斜面52cを有している。また、ウェッジ52の先端側(挿入端部52b側)には、一対のローラ52fを支持するローラ保持体52eが設けられている。一対のローラ52fは、ローラ保持体52eに対して回転自在且つ互いに近接および離間する方向(軸線方向)に移動可能に設けられている。また、ローラ保持体52eは、軸線直交方向に沿って往復動自在に設けられており、常にはウェッジスプリング52aによってウェッジ52とともにハウジング51の外方側(図3では上方向)に付勢されている。このローラ保持体52eは、ウェッジ52と協働して、ウェッジ52の軸線直交方向の直線運動を、スリーブアッシー53の軸線方向の直線運動に変換する。
【0027】
スリーブアッシー53は、図2図4に示すように、軸線方向の一端側に外径がシリンダ部51bの内径よりも僅かに小さく形成された本体部54aを有して軸線方向の他端側に本体部54aよりも外径の小さい円筒部54bを有するタペット54と、タペット54の本体部54aと外径の等しい円筒状に形成されて軸線方向の一端側でタペット54の円筒部54bに対して外側に嵌合されるスリーブ55と、タペット54およびスリーブ55の嵌合面に設けられて両者を接続し、互いの軸線方向への相対移動を規制するC字形のサークリップ56と、タペット54およびスリーブ55の間に跨って支持されたラップスプリング61とを有して構成される。
【0028】
タペット54は、互いに外径の異なる本体部54aおよび円筒部54bを有して段付き円筒状に形成されている。本体部54aの一端側には、ウェッジ52の傾斜面52と略平行となる傾斜面54cが形成されている。円筒部54bには、ラップスプリング61の一端側を支持するスプリング取付孔54sが形成されている。また、円筒部54bには、外周面の全周に亘りリング取付溝54rが形成されている。タペット54は、シリンダ部51bの最内方に嵌挿されて、ウェッジ収容部51a側に臨む傾斜面54cをローラ52fの周面に当接させており、ウェッジ52の軸線直交方向の挿抜作動によりローラ52fを介してシリンダ部51b内を軸線方向に摺動可能になっている。
【0029】
スリーブ55は、軸線方向に沿って延びる貫通孔55aを有した中空の略円筒状に形成されている。貫通孔55aは、軸線方向の一端側から順に、タペット54の円筒部54bが嵌合される円筒孔55bと、ラップスプリング61の他端側を支持するスプリング取付孔55sと、スクリュウ57が螺合される雌ネジ部55cとが同軸的に連通されて構成されている。このスリーブ55の円筒孔55bには、内周面の全周に亘りリング取付溝55rが形成されている。また、スリーブ55の軸線方向の他端側の外周面上には、キャップ70の内周端部(後述のシールリップ77,78)が摺接するシール受面55eが形成されている。なお、このシール受面55eは、キャップ70の内周端部(後述のシールリップ77,78)が摺接する部分であるため、当該摺接による摩擦力を低減する表面粗さに形成されていることが好適である。
【0030】
タペット54の円筒部54bとスリーブ55の円筒孔55bとを嵌合させると、円筒部54bの外周面に沿って刻設されるリング取付溝54rと、円筒孔55bの内周面に沿って刻設されるリング取付溝55rとが整合して、タペット54とスリーブ55との嵌合面間に、サークリップ56を装着するための一体の空隙が形成される。また、タペット54の円筒部54bとスリーブ55の円筒孔55bとを嵌合させると、円筒部54bの他端側に開口されるスプリング取付孔54sと、スリーブ55の一端側に開口されるスプリング取付孔55sとが整合して、タペット54とスリーブ55との内部に、ラップスプリング61を配設するための一体の空隙が形成される。
【0031】
サークリップ56は、例えば焼入れ・焼戻しあるいはオーステンパ等の熱処理を施した鋼線材で形成されて、円環の一部を切り欠いたC形状(正面リング状)をなして縮径方向に弾性変形可能に形成される。このサークリップ56は、タペット54とスリーブ55との嵌合面間において互いに整合して一体となったリング取付溝54r,55r内に配設されることで、タペット54とスリーブ55とを軸線方向に離脱不能に連結する。
【0032】
ラップスプリング61は、例えば円断面の素線を巻回してコイル状に加工されたばね素材を所定長さに切断して得られた圧縮コイルスプリングである。このラップスプリング61は、一端側の外周面がタペット54のスプリング取付孔54sの内周面に係合され、他端側の外周面がスリーブ55のスプリング取付孔55sの内周面に係合されて、軸線方向に弾性的に圧縮変形された状態で取り付けられている。このラップスプリング61は、ワンウェイクラッチ機能を有し、コイルの外径が縮小する縮径方向(例えばコイルの巻回方向が右巻きの場合には右回転)にはスリーブ55のタペット54に対する軸線回りの相対回転を許容し、コイルの外径が拡大する拡径方向(例えばコイルの巻回方向が右巻きの場合には左回転)には、外周面がタペット54およびスリーブ55に喰い付いてこれらを一体化し、この相対回転を阻止する。
【0033】
スクリュウ57は、軸線方向に延びるロッド状に形成されて外周面に雄ネジ部57を有し、その雄ネジ部57aをスリーブ55の雌ネジ部55cに螺合させてハウジング51の側部外方へ延出するように設けられている。スクリュウ57の軸線方向の他端側には、調整ダイヤル部57bが設けられている。この調整ダイヤル部57bには、スクリュウ57の螺合軸回りに回動可能にクリップ58が係止されている。クリップ58は、ブレーキシュー40のウェブ部41と係合している。スクリュウ57は、調整ダイヤル部57bを挟持して設けられるクリップ58を介してブレーキシュー40に接続される。
【0034】
スリーブ55の外周面には、軸線Xを中心とする螺旋状の溝であるヘリカルスプライン55dが刻設されており、このヘリカルスプライン55dに対して軸線方向に所定のガタ(例えば3mm)を有してドライブリング62が噛合している。ドライブリング62は、シリンダ部51bの円錐内面51cと相補的な形状に形成されて該円錐内面51cと当接する円錐外面62aを有し、このドライブリング62を軸線方向の一端側へ向けて付勢するドライブスプリング(コイルスプリング)63により円錐内面51cおよび円錐外面62aの間に所定の摩擦抵抗を付与するように構成されている。ドライブスプリング63は、軸線方向の一端側がドライブリング62に支持され、軸線方向の他端側がキャップ70に支持されて、ドライブリング62とキャップ70との間において軸線方向に弾性的に圧縮変形された状態で取り付けられている。
【0035】
キャップ70は、図2図3図5等に示すように、ハウジング51の開口端部51dに装着される金属製の金属環71と、この金属環71に固着されるゴム製のシール部材75とから構成されている。
【0036】
金属環71は、例えばステンレス製の金属板に対してプレス加工(打ち抜き加工および折り曲げ加工)を施すことにより軸線Xを中心とする環状に形成された芯金部材である。この金属環71は、キャップ70の形状を維持するための定型性を有する。
【0037】
金属環71は、ドライブスプリング63よりも大径に形成されて断面L字状の円筒形をなす金属環本体72と、金属環本体72の軸線方向の一端側の端部から径方向外側へ向けて延びる鍔部73と、金属環本体72の軸線方向の他端側の端部から略L字状に屈曲して径方向内側へ向けて延びるシール支持部74とを有して構成されている。この金属環71は、外周側の鍔部73がシリンダ部51bの内溝51eに嵌め込まれたスナップリング81により係止されることで、ハウジング51に対する軸線方向への相対移動が規制されて
いる(ハウジング51に対して抜け止めされている)。また、鍔部73とハウジング51との間には、シリンダ部51bのシール溝51fに設けられたOリング82が介在しており、このOリング82によってキャップ70の外周部とハウジング51の内周部との間がシールされている。また、金属環本体72には、ドライブスプリング63の軸線方向の他端側の端部が係止されており、ドライブリング62との間でドライブスプリング63を弾性変形可能に保持している。また、シール支持部74の内周側には、スリーブ55の外周面(シール受面55e)に密着するシール部材75が一体的に固着されている。
【0038】
シール部材75は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)などのゴム材料を用いて形成されている。このシール部材75は、金属環71のシール支持部74に固着される基部76と、基部76の径方向内側部から分岐した二つのシールリップ77,78とを有して構成されている。このシール部材75は、金属環71のシール支持部74に加硫により接着されている。
【0039】
各シールリップ77,78は、全周に亘り径方向内向きに形成されて、スリーブ55のシール受面55eに向かって延び出している。二つのシールリップ77,78のうち、軸線方向の端側(図5側)の第1シールリップ77は金属環71の外側に突出する位置に配設され、軸線方向の端側(図5側)の第2シールリップ78は金属環71の内側に収まる位置に配設されている。各シールリップ77,78は、その先端部がスリーブ55のシール受面55eに対して弾性変形を伴い接触(圧接)するように形成されている。つまり、各シールリップ77,78は、所定の締め代が加わった状態でスリーブ55のシール受面55eの全周に亘り弾性的に接触する。それにより、各シールリップ77,78は、スリーブ55の軸線方向の往復動位置に関係なくシール受面55eに常時接触(摺接)するようになっている。
【0040】
次に、上記構成のドラムブレーキBのブレーキ作動時、非作動時における作用について説明する。
【0041】
まず、ブレーキ操作がなされると、そのブレーキ操作に応じてチャンバ9内に圧縮空気が供給され、チャンバ9内のダイヤフラムの作動により、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力に抗してウェッジ収容部51aへの挿入方向(図2および図3の下方向)に押圧される。この押圧力は、互いに平行に延びるウェッジ52の傾斜面52cとタペット54の傾斜面54cとの楔作用によりローラ52fを介して軸線方向の押圧力に変換され、スリーブアッシー53に伝達される。この押圧力を受けて、タペット54およびスリーブ55は一体化された状態でシリンダ部51b内を軸線方向の一端側から他端側へ向けて移動する。
【0042】
スリーブ55のヘリカルスプライン55dおよびドライブリング62は、軸線方向に所定のガタを有して噛合されている。ブレーキ作動によるスリーブ55の移動量がガタの範囲内であれば、スリーブ55はドライブリング62を回転させることなくシリンダ部51b内を軸線方向の端側から端側へ向かって直動する。このとき、ドライブリング62は、ドライブスプリング63の付勢力によって、円錐外面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させた状態で保持される。
【0043】
スリーブ55と螺合されたスクリュウ57は、クリップ58によりブレーキシュー40に係止されており、クリップ58の摩擦抵抗およびネジ面での摩擦抵抗によりスリーブ55に対して相対回転することなくスリーブ55と協働して軸線方向に直動する。そして、スクリュウ57の軸線方向への張り出し(繰り出し)により、ブレーキシュー40はアンカーピン44を中心に外方へ揺動し、ライニング43がブレーキドラム31の内周面に押圧され、これら両者間の摩擦によりブレーキドラム31の回転が制動される。
【0044】
ブレーキ操作が解除されると、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力によりウェッジ収容部51aからの抜脱方向(図2および図3の上方向)へ移動する。スクリュウ57およびスリーブアッシー53は、両ブレーキシュー40,40の間に跨設されたリターンスプリング45の作用により、シリンダ部51b内を軸線方向の他端側から一端側へ向けて移動し、軸線方向内方へ退避される。スリーブ55の移動量がガタの範囲内であれば、スリーブ55は張り出し時(繰り出し時)と同様に回転することなくシリンダ部51b内を軸線方向の他端側から一端側へ向けて直動する。
【0045】
一方、ライニング43が摩耗してくると、ブレーキ作動時に同一の制動効果を得るため、スクリュウ57およびスリーブアッシー53の軸線方向の移動量が大きくなってくる。このとき、ブレーキ作動時のスリーブ55の移動量がガタ分相当量を越えると、ヘリカルスプライン55dの噛合面がドライブリング62の噛合面に当接し、ドライブリング62が軸線方向の他端側へ向けて押圧力を受ける。この押圧力によりハウジング51の円錐内面51cおよびドライブリング62の円錐外面62aの間の摩擦力が低減し、ドライブリング62がヘリカルスプライン55dの噛合面に沿って回転する。なお、スリーブ55は、ラップスプリング61のワンウェイクラッチ機能によりタペット54に対する相対回転が阻止され、シリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。
【0046】
また、ブレーキ操作が解除されると、スクリュウ57およびスリーブアッシー53がリターンスプリング45の付勢力により軸線方向の一端側へ戻されることで、ドライブリング62の噛合面とヘリカルスプライン55dの噛合面との当接が解かれる。すると、ドライブリング62がドライブスプリング63の付勢力により軸線方向の一端側へ押圧され、ドライブリング62の円錐外面62aをハウジング51の円錐内面51cに当接させる。それにより、ドライブリング62は、当接面での摩擦抵抗により回転が規制される。これに対して、スリーブ55は、ヘリカルスプライン55dとドライブリング62との間のガタ分相当量については、抵抗を受けることなくシリンダ部51b内を軸線方向の一端側へ向けて移動する。一方、スリーブ55の移動量がガタ分相当量を越えると、ヘリカルスプライン55dがドライブリング62の他端側の噛合面と当接して軸線方向の移動が規制される。
【0047】
このとき、ドライブリング62は、前述のようにハウジング51の円錐内面51cとの当接により回転が規制されており、自由に回転することができない。これに対して、スリーブアッシー53に内蔵されたラップスプリング61は、スリーブ55がドライブリング62の一端側の噛合面に沿って回転される方向(例えば左回転)に対しては回転を規制させ、スリーブ55がドライブリング62の他端側の噛合面に沿って回転される方向(例えば右回転)に対しては回転を許容させるように形成されている。そのため、今度はスリーブ55がドライブリング62の他端側の噛合面に沿って回転される。このとき、タペット54に対するスリーブ55の相対回転に対してサークリップ56によって摩擦抵抗が付与されるが、リターンスプリング45はこの摩擦力に抗してスリーブ55を回転させるだけの付勢力を発揮する。
【0048】
ここで、スクリュウ57は、ブレーキシュー40に係止されて回転規制されたクリップ58からの摩擦抵抗を受けている。この摩擦抵抗は、スクリュウ57とスリーブ55とのネジ面の摩擦抵抗よりも大きいため、スクリュウ57はスリーブ55とともに一体回転しない。そのため、スリーブ55は、タペット54およびスクリュウ57に対して単独で回転する。そして、このスリーブ55の回転により、スクリュウ57がスリーブ55の回転量(回転角度)に応じた操出量だけ軸線方向の外方へ向けて繰り出される。
【0049】
このように間隙調整機構6では、ライニング43が摩耗すると、ブレーキ作動時には、
スリーブ55が所定量(ガタ分相当量)を超過して移動する一方で、ブレーキ解除時には、スリーブ55が当該超過量に応じた回転量(回転角度)だけ回転してスクリュウ57を軸線方向に繰り出させることにより、ライニング43とブレーキドラム31との間隙(シュークリアランス)が常に一定となるように自動調整する。
【0050】
なお、スクリュウ57の操出量は、ライニング43の摩耗量と比例関係にある。本実施形態では、ライニング43の摩耗量とスクリュウ57の操出量とが1:2の関係にあり、スクリュウ57の操出量がライニング43の摩耗量の2倍となるように設定されている。よって、例えばライニング43の使用限界までの摩耗量が10mmであるとした場合には、この摩耗量(使用限界)に対応して繰り出されるスクリュウ57の操出量は20mmとなる。また、スクリュウ57の操出量は、スリーブ55の回転数(累積回転数)と両ネジ55c,57aのネジピッチとを積算することにより得られる。本実施形態では、ネジピッチが1mmに設定されており、スリーブ55が1回転する毎に、スクリュウ57がネジピッチ分(1mm)だけ繰り出されるようになっている。従って、スリーブ55が20回転したときに、スクリュウ57の操出量が20mmとなり、ライニング43の摩耗量が10mm(使用限界)に達したことになる。
【0051】
このようにドラムブレーキBでは、ブレーキ作動時およびブレーキ解除時においてスリーブ55が軸線方向に往復移動したり軸線回りに回転移動したりするが、外部からハウジング51の内部に異物が侵入すると、スリーブ55の円滑な移動が阻害され、ドラムブレーキBの動作が不安定になるおそれがある。そのため、本実施形態では、前述したように、シリンダ部51bの開口端部51d側において、ハウジング51とスリーブ55との間にキャップ70が装着されており、このキャップ70のシールリップ77,78は所定の締め代が加わった状態でスリーブ55のシール受面55eに弾性的に接触することで、外部からハウジング51内への異物の侵入を防止するとともに、ハウジング51内に充填された潤滑剤(グリース)が外部に漏出することを防止している。
【0052】
ここで、本実施形態では、キャップ70を構成する金属環71が芯金部材として定型性を有しており、シールリップ77,78はスリーブ55のシール受面55eに摺接可能に密着しているため、スリーブ55が軸線方向に往復移動してもキャップ70の軸線方向の位置が変わることはなく、また、スリーブ55が周方向(軸線回り)に回転してもキャップ70が連れ周りすることもない。そのため、スリーブ55が往復運動および回転運動を行ったとしても、キャップ70とブレーキドラム31との相対的な位置関係(軸線方向の距離)は変わることがなく、キャップ70はハウジング51に対してほぼ定位置に保持されるため、キャップ70が発熱部品であるブレーキドラム31に接近することが防止されている。
【0053】
以上、本実施形態のドラムブレーキBによれば、キャップ70を金属環71とシール部材75とにより構成して、金属環71をハウジング51に固定するとともにシール部材75(シールリップ77,78)をスリーブ55に対して摺接可能に密着させることで、ブレーキの作動に応じてスリーブ55が往復運動や回転運動を行ったとしても、キャップ70の位置が軸線方向及び周方向にずれることがなく、キャップ70とブレーキドラム31との距離を一定に維持することができるため(キャップ70が発熱部品であるブレーキドラム31に接近することを防止できるため)、ブレーキドラム31からの輻射熱の影響を低減してキャップ70の破損を防止することが可能となる。また、このようにライニング43とブレーキドラム31との間隙(シュークリアランス)の変動により生じる輻射熱の影響をキャップ70が受け難くなることで、ロバスト性を向上させることが可能となる。
【0054】
また、従来の技術では、伸縮式のブーツがスクリュウ57に接続されており、ブーツとスクリュウ57の調整ダイヤル部57bとが近接した位置関係となっていたため、調整ダ
イヤル部57bを回転操作して、ライニング43とブレーキドラム31との間の間隙(シュークリアランス)をマニュアル調整する場合に、その調整工具をブーツに接触させて破損させてしまう事態が見受けられた。それに対して、本実施形態では、キャップ70がスリーブ55に接続されており、キャップ70と調整ダイヤル部57bとが一定の距離をあけて離間されているため、調整ダイヤル部57bを回転操作して、ライニング43とブレーキドラム31との間の間隙(シュークリアランス)をマニュアル調整する場合に、その調整工具をキャップ70に接触させてしまう可能性が低くなり、当該マニュアル調整時におけるキャップ70の破損を防止することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態によれば、キャップ70がシリンダ部51b内を外部からの異物に対してシールする機能と、ドライブスプリング63を保持する機能とを兼用するため、部品点数の削減、および製造工数の削減により、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態によれば、ハウジング51とキャップ70との間にOリング82が配設されることで、外部からの異物の侵入および外部への潤滑剤の漏出を一層効果的に防止することが可能となる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜改良可能である。
【0058】
上記実施形態では、キャップ70を金属製の金属環71とゴム製のシール部材75とにより形成しているが、この構成に限定されるものではなく、キャップ70を例えばフッ素樹脂(PTFE)などの合成樹脂材を用いて一体的に形成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、金属環71の鍔部73をスナップリング81を用いてハウジング51に固定しているが、この構成に限定されるものではなく、金属環71の外周部をハウジング51の内周部(開口端部51dの内周部)に圧入固定したり、金属環71の係止部をハウジング51の被係止部に係合したりしてもよい。ここで、図8は、上記実施形態の変形例に係るキャップ170を示す図である。なお、以下の説明では、上記実施形態と同一の構成要素(又は同一の機能を有する構成要素)には同一の符号を付して重複説明を省略し、主として上記実施形態と相違する部分を中心に説明する。この変形例に係るキャップ170は、圧入固定式のキャップ部材として構成されている。このキャップ170は、ハウジング51の開口端部51dに装着される金属製の金属環171と、この金属環171に固着されるゴム製のシール部材75とから構成されている。金属環171は、ドライブスプリング63よりも大径に形成されて断面L字状の円筒形をなす金属環本体172と、金属環本体172の軸線方向の一端側の端部から略L字状に屈曲して延びる固定部173とを有して構成されている。金属環本体172には、ドライブスプリング63の軸線方向の他端側の端部が係止されており、ドライブリング62との間でドライブスプリング63を弾性変形可能に保持している。また、金属環本体172の内周側には、スリーブ55の外周面(シール受面55e)に密着するシール部材75が一体的に固着されている。なお、シール部材75は、上記実施形態と同じものであるため、重複説明を省略する。固定部173は、金属環本体172の軸線方向の一端側の端部から径方向外側へ向けて延びる第1固定部173aと、この第1固定部173aの径方向外側の端部から軸線方向の一端側に向けて延びる第2固定部173bとを有している。この金属環171は、第2固定部173bがハウジング51の開口端部51dの内周部に圧入されることで固定される。また、金属環171は、第1固定部173aがシリンダ部51bの内溝51eに嵌め込まれたスナップリング81により係止されることで、ハウジング51に対する軸線方向への相対移動が規制されている(ハウジング51に対して抜け止めされている)。このような変形例によれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができ、さらに、キャップ170の確実な抜け止めを図りつつ、一層簡便なシール構造を実現することが可能となる。
【0060】
上記実施形態では、キャップ70のシール部材75が2つのシールリップ77,78を有した構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、キャップ70のシール部材75が1つのシールリップまたは3つ以上の複数のシールリップを有する構成であってもよい。
【0061】
上記実施形態では、ドラムブレーキBとして、リーディングトレーリング式のドラムブレーキを例示して説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、ユニサーボ式、デュオサーボ式、あるいは2リーディング式のドラムブレーキを適用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
B ドラムブレーキ
1 車軸(回転部材)
2 アンカーブラケット(固定部材)
3 ドラムユニット
4 ブレーキシューユニット
5 エキスパンダ(拡開機構)
6 間隙調整機構
31 ブレーキドラム
40 ブレーキシュー
43 ライニング(ブレーキライニング)
51 ハウジング
51b シリンダ部(収容部)
51d 開口端部
51e 内溝
51f シール溝
53 スリーブアッシー(押圧部材)
54 タペット
55 スリーブ(押圧部材)
55e シール受面
57 スクリュウ
62 ドライブリング(ドライブリング部材)
63 ドライブスプリング(コイルスプリング)
70 キャップ(キャップ部材)
71 金属環(芯金部材)
73 鍔部
75 シール部材
77 第1シールリップ(シールリップ)
78 第2シールリップ(シールリップ)
81 スナップリング(止め具)
82 Oリング(シールリング)
170 キャップ(キャップ部材)
171 金属環(芯金部材)
173 固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8