(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接用フラックス
(51)【国際特許分類】
B23K 35/362 20060101AFI20241029BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
B23K35/362 310B
B23K35/30 320E
(21)【出願番号】P 2020213838
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪股 大
(72)【発明者】
【氏名】高内 英亮
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-039604(JP,A)
【文献】特開2020-131221(JP,A)
【文献】特開2013-154363(JP,A)
【文献】特開2000-239816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/362
B23K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr-Mo系鋼板のサブマージアーク溶接に用いられるサブマージアーク溶接用フラックスであって、
フラックス全質量に対し、
Mn:0.01質量%以上5.00質量%以下、
Al:0.50質量%以上3.00質量%以下、
N:0質量%超0.50質量%以下、
MgO:5.0質量%以上40.0質量%以下、
F:5.0質量%以上12.0質量%以下
Ca:9.5質量%以上21.5質量%以下
Al
2O
3:11.0質量%以上23.0質量%以下、
Si及びSi化合物のSiO
2換算値:7.0質量%以上20.0質量%以下、
CO
2:3.0質量%以上10.0質量%以下、
Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を含有し、前記Na、K及びLiの含有量の合計:0.01質量%以上
1.00質量%以下、
S:0.004質量%以上0.009質量%以下、
Fe:0.10質量%以上5.00質量%以下、
を含有し、
C:1.00質量%以下、
Ni:1.00質量%以下、
であり、
前記Mn、前記Al、前記N、前記MgO、前記F、前記Ca、前記Al
2O
3、前記Si及びSi化合物のSiO
2換算値、前記CO
2、前記C、並びに前記Niを合計で85質量%以上含むことを特徴とする
、サブマージアーク溶接用フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接用フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、石油製油所内等に設置され、高温高圧下で運転される反応器(以下、「リアクタ」という。)等の分野においては、1.25%Cr-0.5%Mo鋼又は2.25%Cr-1.0%Mo等の高強度かつ高温特性に優れる材料が使用されている。また、リアクタの製造には、ソリッドワイヤとボンドフラックスとを組み合わせたサブマージアーク溶接による多層盛溶接が一般的に使用されている。このようなリアクタは、寒冷地での操業や運転休止中の脆性破壊等を考慮して、上記した高強度かつ高温特性に加えて、低温環境下における優れた靱性が要求されている。
【0003】
例えば特許文献1では、溶接金属の低温靱性及び高温強度の向上を目的として、ワイヤ又はフラックス中にAl及びN等を含有させて溶接する溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されたように、ワイヤ中にAl及びNを含有させた場合には、ワイヤを製造する際に断線が発生し、製造コストが増大するという問題点がある。
一方、ワイヤ中のAl及びN含有量を低減しつつ、特許文献1に記載された範囲でAl及びNを添加したフラックスを使用すると、溶接金属の成分のばらつきが大きくなり、要求される靱性や機械的性能が十分に得られないことがある。特に、作業能率を向上させることを目的として高電流で溶接した場合には、溶接金属の性能が安定しないという問題も発生する。したがって、高温特性及び低温靱性が優れているだけでなく、優れた溶接作業性についての要求も高くなっている。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、Cr-Mo系鋼板のサブマージアーク溶接に用いられ、溶接作業性が優れているとともに、優れた機械的性能を有する溶接金属を安定して得ることができるサブマージアーク溶接用フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、サブマージアーク溶接用フラックスに、従来よりも多量のAlを含有させるとともに酸化物等の他の成分の含有量を制御することにより、作業能率の向上を図りつつ、高電流で溶接した場合であっても優れた機械的性能を有する溶接金属を安定して得ることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の上記目的は、サブマージアーク溶接用フラックスに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] Cr-Mo系鋼板のサブマージアーク溶接に用いられるサブマージアーク溶接用フラックスであって、
フラックス全質量に対し、
Mn:0.01質量%以上5.00質量%以下、
Al:0.50質量%以上3.00質量%以下、
N:0質量%超0.50質量%以下、
MgO:5.0質量%以上40.0質量%以下、
F:5.0質量%以上12.0質量%以下
Ca:9.5質量%以上21.5質量%以下
Al2O3:11.0質量%以上23.0質量%以下、
Si及びSi化合物のSiO2換算値:7.0質量%以上20.0質量%以下、
CO2:3.0質量%以上10.0質量%以下、を含有し、
C:1.00質量%以下、
Ni:1.00質量%以下、
であることを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
【0010】
また、サブマージアーク溶接用フラックスに係る本発明の好ましい実施形態は、下記[2]又は[3]に関する。
【0011】
[2] さらに、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を含有し、
フラックス全質量に対し、
前記Na、K及びLiの含有量の合計:0.01質量%以上1.00質量%以下、
であることを特徴とする[1]に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【0012】
[3] さらに、フラックス全質量に対し、
Fe:0.10質量%以上5.00質量%以下を含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るサブマージアーク溶接用フラックスによれば、溶接作業性が優れているとともに、優れた機械的性能を有する溶接金属を安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[1.サブマージアーク溶接用フラックス]
本実施形態に係るサブマージアーク溶接用フラックス(以下、単に「フラックス」と称することがある。)は、Cr-Mo系鋼板のサブマージアーク溶接に用いられるサブマージアーク溶接用フラックスであって、Mn又はMn化合物、Al、N、MgO、F、Ca、Al2O3、Si又はSi化合物、CO2、C及Niを、それぞれ所定量で含有する。
【0016】
以下に、本実施形態に係るフラックスの成分限定理由について説明する。
【0017】
<Mn:0.01質量%以上5.00質量%以下>
Mnは、溶接金属の室温強度を確保し、特に靱性を向上させるために含有される成分である。また、Mnは溶接金属を脱酸する効果も有する。フラックス中のMn含有量が0.01質量%未満であると、上記効果を得ることができず、溶接金属の組織が粗大化して、靱性が低下する。したがって、フラックス中のMn含有量は、フラックス全質量に対して0.01質量%以上とし、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のMn含有量が5.00質量%を超えると、溶接金属のクリープ破断強度の劣化が生じ、更には焼戻脆化特性も劣化する。したがって、フラックス中のMn含有量は、フラックス全質量に対して5.00質量%以下とし、4.00質量%以下であることが好ましく、3.00質量%以下であることがより好ましい。
なお、Mnは、Mn単体、Mn合金又はMn化合物等の形でフラックス中に含有される。
【0018】
<Al:0.50質量%以上3.00質量%以下>
Alは、溶接金属の焼き入れ性を向上し、組織を微細化することにより、溶接金属の靱性を高めることができる成分である。フラックス中のAl含有量が0.50質量%未満であると、上記効果を得ることができない。したがって、フラックス中のAl含有量は、フラックス全質量に対して0.50質量%以上とし、0.6質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましく、1.2質量%以上であることが最も好ましい。
一方、フラックス中のAl含有量が3.00質量%を超えると、組織が粗大化して溶接金属の靱性が低下する。したがって、フラックス中のAl含有量は、フラックス全質量に対して3.00質量%以下とし、2.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.8質量%以下であることが更に好ましく、1.6質量%以下であることが最も好ましい。
なお、Alは、Al単体又はFe-AlなどのAl合金の形でフラックス中に含有される酸可溶性のAlの総量である。また、Al含有量は、以下に示すAl2O3等の化合物を含まない。
【0019】
<N:0質量%超0.50質量%以下>
Nは、固溶強化元素であり、溶接金属の強度を高めることができる成分である。特に、本実施形態においては、フラックス中にAlとNが適切な量で含有されていることにより、溶接金属中にAlNが析出して、溶接金属の引張強度が向上する。フラックス中のN含有量は微量であっても上記効果を得ることができる。したがって、フラックス中のN含有量は、フラックス全質量に対して0質量%超とし、0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.12質量%以上であることが更に好ましく、0.15質量%以上であることが最も好ましい。
一方、フラックス中のN含有量が0.50質量%を超えると、固溶強化によって溶接金属の耐力及び引張強さが著しく上昇し、その結果、溶接金属の靱性が低下する。したがって、フラックス中のN含有量は、フラックス全質量に対して0.50質量%以下とし、0.30質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましく、0.22質量%以下であることが更に好ましく、0.20質量%以下であることが最も好ましい。
なお、Nは、MnN、AlN及びCrN等の窒素化合物としてフラックス中に含有される。本実施形態において、Nは、これら窒素化合物をNに換算した総量で規定する。
【0020】
<MgO:5.0質量%以上40.0質量%以下>
MgOは、融点が高く、スラグの凝固を促進し、ビード形状を整える効果がある。また、溶接金属の酸素量をコントロールする役割もある。フラックス中のMgO含有量が5質量%未満であると、溶接中の脱酸効果が薄れて溶接金属中に酸化物が増えるため、靱性が低下する。したがって、フラックス中のMgO含有量は、フラックス全質量に対して5.0質量%以上とし、10.0質量%以上であることが好ましく、20.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のMgO含有量が40.0質量%を超えると、ビード形状が悪くなるため、スラグ剥離性が低下する。したがって、フラックス中のMgO含有量は、フラックス全質量に対して40.0質量%以下とし、38.0質量%以下であることが好ましく、35.0質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
<F:5.0質量%以上12.0質量%以下>
Fは、フラックス中にCaF化合物などの化合物の形態で含有されており、溶融スラグの電気伝導性や流動性を高める効果があり、溶融スラグの高温粘性に影響を与える成分の1つである。フラックス中のF含有量が5.0質量%未満であると、スラグがすぐに凝固して、ガスの排出を阻害したり、スラグ焼付きが発生したりする。したがって、フラックス中のF含有量は、フラックス全質量に対して5.0質量%以上とし、6.0質量%以上であることが好ましく、7.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のF含有量が12.0質量%を超えると、ビードの波目が粗くなって、ビード外観が劣化する。したがって、フラックス中のF含有量は、フラックス全質量に対して12.0質量%以下とし、11.5質量%以下であることが好ましく、11.0質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
<Ca:9.5質量%以上21.5質量%以下>
Caは、CaOやフッ化物として含まれるものであり、スラグの塩基度を高めて溶接金属の清浄度を高めるとともに、溶融スラグの流動性に影響を与える成分である。フラックス中のCa含有量が9.5質量%未満であると、溶接金属の清浄度が低くなり、靱性が低下する。したがって、フラックス中のCa含有量は、フラックス全質量に対して9.5質量%以上とし、11.0質量%以上であることが好ましく、15.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のCa含有量が21.5質量%を超えると、溶融スラグの流動性が大きくなりすぎて、ビードの外観及びビード形状が悪くなる。したがって、フラックス中のCa含有量は、フラックス全質量に対して21.5質量%以下とし、21.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
<Al2O3:11.0質量%以上23.0質量%以下>
Al2O3は、スラグの流動性を向上させる効果を有するとともに、溶接金属の酸素量をコントロールする役割を有する成分である。フラックス中のAl2O3含有量が11.0質量%未満であると、溶接ビードと母材とのなじみが悪くなりスラグ巻込みが生じ易くなる。したがって、フラックス中のAl2O3含有量は、フラックス全質量に対して11.0質量%以上とし、13.0質量%以上であることが好ましく、15.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のAl2O3含有量が23.0質量%を超えると、ビードの波目が粗くなって、ビード外観が劣化する。したがって、フラックス中のAl2O3含有量は、フラックス全質量に対して23.0質量%以下とし、22.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、Al2O3含有量は、Al合金を除くAl化合物に含まれるAlのAl2O3換算値である。
【0024】
<Si及びSi化合物のSiO2換算値:7.0質量%以上20.0質量%以下>
Si及びSi化合物は、溶融スラグの流動性を向上させる効果を有する成分である。フラックス中のSi及びSi化合物のSiO2換算値が7.0質量%未満であると、溶接ビードと母材とのなじみが悪くなり、スラグ巻込みが生じ易くなる。したがって、フラックス中のSiO2換算値は、フラックス全質量に対して7.0質量%以上とし、8.0質量%以上であることが好ましく、9.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のSiO2換算値が20.0質量%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加し、溶接金属中に酸化物が増えるため靱性が低下する。したがって、フラックス中のSiO2換算値は、フラックス全質量に対して20.0質量%以下とし、18.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、SiはSi単体、Si合金又はSi化合物等の形でフラックス中に含有される。本実施形態において、SiO2換算値は、全てのSi及びSi化合物に含まれるSiの合計をSiO2に換算した値で規定する。
【0025】
<CO2:3.0質量%以上10.0質量%以下>
CO2は、溶接金属中の拡散性水素量をコントロールする効果を有する成分である。フラックス中のCO2含有量が3.0質量%未満であると、溶接金属中の拡散性水素量が増加し、低温割れが発生しやすくなる。したがって、フラックス中のCO2含有量は、フラックス全質量に対して3.0質量%以上とし、4.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のCO2含有量が10.0質量%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加し、靱性が低下する。したがって、フラックス中のCO2含有量は、フラックス全質量に対して10.0質量%以下とし、9.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、CO2は、CaCO3などの金属炭酸塩の形でフラックス中に含有される。本実施形態において、CO2は、全ての金属炭酸塩をCO2に換算した値で規定する。
【0026】
<C:1.00質量%以下(0質量%を含む)>
Cは、溶接金属の室温強度、クリープ破断強度及び靱性を確保するために、フラックス中に含有される成分である。Cはフラックス中に必ずしも含有させる必要はなく、他の成分で、溶接金属の室温強度、クリープ破断強度及び靱性の向上を図ることができるが、フラックス中のC含有量は、フラックス全質量に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のC含有量が1.00質量%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、フラックス中のC含有量は、フラックス全質量に対して1.00質量%以下とし、0.80質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましい。
なお、Cは、C単体又は合金、C化合物等の形でフラックス中に含有させることができる。
【0027】
<Ni:1.00質量%以下(0質量%を含む)>
Niは、溶接金属の靱性の向上に有効な元素であるが、クリープ破断強度を著しく低下させる成分でもある。Niはフラックス中に必ずしも含有させる必要はなく、他の成分で靱性の向上を図ることができるが、フラックス中のNi含有量は、フラックス全質量に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが更に好ましい。
一方、フラックス中のNi含有量がフラックス全質量に対して1.00質量%を超えると、溶接金属のクリープ破断強度が低下する。したがって、フラックス中のNi含有量は、フラックス全質量に対して1.00質量%以下とし、0.80質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましい。
なお、Niは、Ni単体又はFe-NiなどのNi合金の形でフラックス中に含有させることができる。
【0028】
<Na、K及びLiの含有量の合計:0.01質量%以上1.00質量%以下>
Na、K及びLiなどのアルカリ金属は、アーク安定性を向上させる効果を有する成分であるため、これらアルカリ金属はフラックス中に必ずしも添加されている必要はないが、本実施形態においては、フラックス中に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種が含有されていることが好ましい。
フラックス中のNa、K及びLiの含有量が合計で0.01質量%以上であると、上記効果を得ることができる。したがって、フラックス中に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種が含有されている場合には、フラックス中のNa、K及びLiの含有量の合計は、フラックス全質量に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のNa、K及びLiの含有量が合計で1.00質量%以下であると、スラグ融点の低下を防止することができ、優れたビード形状を得ることができる。したがって、フラックス中に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種が含有されている場合には、フラックス中のNa、K及びLiの含有量の合計は、フラックス全質量に対して1.00質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
なお、Na、K及びLiはフッ化物や複合酸化物として、フラックス中に添加することができ、本実施形態においては、Na、K及びLiを含む化合物を、それぞれ、Na、K及びLiに換算した値で規定する。
【0029】
<Fe:0.10質量%以上5.00質量%以下>
Feは、スラグの焼き付きを防止する効果を有する成分である。Feはフラックス中に必ずしも含有されている必要はないが、含有する場合には、フラックス中のFe含有量が0.10質量%以上であると、上記効果を得ることができる。したがって、フラックス中のFe含有量は、フラックス全質量に対して0.10質量%以上であることが好ましく、0.30質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックス中のFe含有量が5.00質量%以下であると、スラグの凝固温度を調整することができ、ビード外観、ビード形状及びスラグ剥離の劣化を防止することができる。したがって、フラックス中のFe含有量は5.00質量%以下であることが好ましく、3.00質量%以下であることがより好ましい。
なお、Feは、Fe単体、Fe合金、Fe酸化物などに含まれるすべてのFeの合計量で規定する。
【0030】
本実施形態に係るフラックスは、Mn、Al、N、MgO、F、Ca、Al
2
O
3
、Si及びSi化合物のSiO2換算値、CO2、C、並びにNiを合計で85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、93質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
上記成分以外に不可避的不純物が含まれる。また、要求される溶接金属の特性に応じて、例えば、Sr化合物、Ba化合物の種々の成分を含有させることができる。
【0031】
[2.サブマージアーク溶接用フラックスの製造方法]
本実施形態のフラックスを製造する場合は、例えば、前述した組成となるように原料粉を配合し、結合剤と共に混練した後、造粒し、焼成する。その際、結合剤(バインダ)としては、例えば、ケイ酸ナトリウムなどを使用することができる。また、造粒法は、特に限定されるものではないが、転動式造粒機や押し出し式造粒機などを用いる方法が好ましい。
【0032】
造粒後の焼成は、ロータリーキルン、定置式バッチ炉及びベルト式焼成炉などで行うことができる。その際の焼成温度は、前述したように結合剤を非水溶性に変化させる観点から、350℃以上とすることが好ましく、450℃以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、通常1200℃以下である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
[1.溶接ワイヤの化学成分]
まず、実施例で用いた溶接ワイヤの化学組成を表1に示し、フラックスの化学組成を表2に示す。なお、表1に示すワイヤ記号W1は、2.25%Cr-1.0%Mo鋼用の溶接用ワイヤであり、また、ワイヤ記号W2は、1.25%Cr-0.5%Mo鋼用の溶接用ワイヤである。
【0035】
【0036】
【0037】
[2.サブマージアーク溶接]
上記表1に示す組成を有するとともに直径が4.0mmである溶接ワイヤ、及び表2に示すフラックスを用いて、ASTM規格にて規定されるA387-Gr22の溶接母材の開先に対して、サブマージアーク溶接を実施し、溶接作業性を評価した。溶接母材の厚さは25mm、幅は120mm、長さは600mmとした。その他の溶接条件及び溶接後熱処理条件を以下に示す。
【0038】
(a)溶接条件
(溶接条件A)
溶接電流:525A
溶接電圧:28V
溶接速度:40cm/分程度
極性:DCEP(直流棒プラス:Direct Current Electrode Positive)
溶接姿勢:下向姿勢
ワイヤ突出し長さ:30mm
予熱パス間温度:190-220℃
【0039】
(溶接条件B:タンデム溶接)
先行極の溶接電流:580A
先行極の溶接電圧:30V
先行極の溶接速度:60cm/分
先行極の極性:DCEP
後行極の溶接電流:600A
後行極の溶接電圧:32V
後行極の溶接速度:60cm/分
後行極の極性:AC(交流電流:Alternative Current)
【0040】
(b)溶接後熱処理(PWHT:Post Weld Heat Treatment)条件
PWHT条件A:690℃で1時間
PWHT条件B:685℃で8時間
PWHT条件C:670℃で6時間
【0041】
なお、溶接作業性は、アーク安定性、耐ポックマーク性、ビード形状、スラグ剥離性、ビードなじみ及びビード揃いを評価し、全ての項目の評価結果が良好であったものを○(良好)とし、いずれか1つでも劣る評価結果があったものを×(不良)とした。
【0042】
その後、得られた溶接金属に対し、JIS Z2241:2011に準拠して、金属材料引張試験を実施することにより、0.2%耐力及び引張強さを測定した。なお、0.2%耐力の測定値は、310MPa以上であったものを良好であると判断し、引張強さの測定値は、515MPa以上であったものを良好であると判断した。
【0043】
また、JIS Z2242:2018に準拠して、金属材料のシャルピー衝撃試験を実施することにより、低温靱性を評価した。低温靱性の評価は、-30℃におけるシャルピー衝撃試験を2回実施し、得られたシャルピー衝撃値の2回の平均値が80J/cm2以上であり、各測定の最低値が60J/cm2以上であったものを◎(優良)とし、2回の平均値が54J/cm2以上であり、各測定の最低値が47J/cm2以上60J/cm2未満であったものを○(良好)とし、2回の平均値が54J/cm2未満であるか、又は各測定の最低値が47J/cm2未満であったものを×(不良)とした。
なお、比較例No.27~30については、引張試験及びシャルピー衝撃試験を実施していない。
【0044】
使用した溶接ワイヤ、フラックス、溶接条件及び溶接後熱処理条件、並びに各試験の評価結果を下記表3に示す。
【0045】
【0046】
上記表2の発明例であるF1~F12のフラックスを用いた場合、表3の発明例No.1~22に示すように、高電流での溶接であっても優れた溶接作業性を維持することができるとともに、機械的性能が優れた溶接金属を得ることができた。
【0047】
一方、比較例であるF13~F16のフラックスを用いた場合、Al含有量が本発明範囲から外れているため、比較例No.23~26、31~34に示すように、本発明例に対して機械的性能が低下した。
【0048】
また、比較例であるF17~F20のフラックスを用いた場合、フラックス中の各成分の含有量のうち、大部分が本発明範囲外であるため、比較例No.27~30に示すように、溶接作業性が悪いものとなった。したがって、溶接後熱処理を実施しなかった。