(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】構造体、その製造方法、接合体および粉砕機用ローター
(51)【国際特許分類】
C04B 35/119 20060101AFI20241029BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20241029BHJP
C04B 35/596 20060101ALI20241029BHJP
C04B 41/80 20060101ALI20241029BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20241029BHJP
B24B 5/08 20060101ALI20241029BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20241029BHJP
B02C 17/04 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C04B35/119
C04B35/488
C04B35/596
C04B41/80 Z
C04B37/00 Z
B24B5/08
B24D3/06 B
B02C17/04 B
(21)【出願番号】P 2020218996
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北中 貴一
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051420(JP,A)
【文献】特開2020-173089(JP,A)
【文献】特開2020-173086(JP,A)
【文献】特開2005-075659(JP,A)
【文献】特開昭57-191274(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158730(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093370(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079788(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002633(WO,A1)
【文献】特開2000-263598(JP,A)
【文献】特開2000-351916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C04B 41/80-41/91
C04B 37/00-37/04
B24B 5/08
B24D 3/06
B02C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から内部に向かって伸びる、円柱状の凹部を備えてなり、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とするセラミックスからなる構造体であって、
前記凹部を形成する第1内周面の円周方向の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差(Rδ)の平均値は、前記凹部の底面側よりも開口側の方が小さい
(但し、前記第1内周面の軸方向長さを100%としたとき、前記底面側とは前記凹部の底面から25%以下の領域をいい、前記開口側とは前記凹部の開口から25%以下の領域をいう)、構造体。
【請求項2】
前記第1内周面における前記切断レベル差(Rδ)の平均値は、前記凹部の底面側から開口側に向かって指数関数的または1次関数的に減少している、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記凹部の底面側における前記切断レベル差(Rδ)の平均値は、1.5μm以下である、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
第1面と、該第1面に対向する第2面とを備え、前記第1面および前記第2面に開口する貫通孔を備えてなり、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とするセラミックスからなる構造体であって、
前記貫通孔を囲繞する第2内周面の円周方向の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差(Rδ)の平均値は、前記貫通孔の中央部よりも前記第1面の近傍および前記第2面の近傍の方が小さい
(但し、前記第1面の近傍および前記第2面の近傍とは、前記第1面および前記第2面から前記貫通孔の軸方向にそれぞれ全長の25%以下の領域をいい、前記貫通孔の中央部とは、前記第1面の近傍と前記第2面の近傍との間に挟まれる領域をいう)、構造体。
【請求項5】
前記切断レベル差(Rδ)の平均値は、前記中央部から前記第1面側および前記第2面側の少なくともいずれかに向かって指数関数的または1次関数的に減少している、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記中央部における前記切断レベル差(Rδ)の平均値は、1.5μm以下である、請求項4または5に記載の構造体。
【請求項7】
前記セラミックスは、Al
2O
3を65質量%~96質量%、ZrO
2を4質量%~34.4質量%、SiO
2を0.2質量%以上、TiO
2を0.22質量%以上およびMgOを0.12質量%以上含み、SiO
2、TiO
2及びMgOを合わせた含有量が0.6質量%~4.5質量%である、請求項1~6のいずれかに記載の構造体。
【請求項8】
前記セラミックスは、Si
3N
4を20質量%~60質量%、ZrO
2を25質量%~70質量%、MgO、Y
2O
3、CeO
2、CaO、HfO
2、TiO
2、Al
2O
3、SiO
2、MoO
3、CrO、CoO、ZnO、Ga
2O
3、Ta
2O
5、NiOおよびV
2O
5から選ばれる少なくとも1種を5質量%~15質量%を含む請求項1~6のいずれかに記載の構造体。
【請求項9】
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記凹部の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工して前記焼結体の凹部を形成し、ついで前記メタル砥石の一部が前記凹部の外部に位置する状態でゼロ研削して、凹部を備えた構造体を得る工程と、
を含む請求項1~3、請求項1~3を引用する請求項7および8のいずれかに記載の構造体の製造方法。
【請求項10】
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体の表面から内部に向かって第1下穴が切削加工によって形成された前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記第1下穴の内周面を、前記凹部の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工して前記焼結体の凹部を形成し、ついで前記メタル砥石の一部が前記凹部の外部に位置する状態でゼロ研削して、凹部を備えた構造体を得る工程と、
を含む請求項1~3、請求項1~3を引用する請求項7および8のいずれかに記載の構造体の製造方法。
【請求項11】
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記貫通孔の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工して前記貫通孔を形成し、ついで少なくとも前記第1面の近傍および前記第2面の近傍を前記メタル砥石の一部が前記貫通孔の外部に位置する状態でゼロ研削して、貫通孔を備えた構造体を得る工程と、
を含む請求項4~6、請求項4~6を引用する請求項7および8のいずれかに記載の構造体の製造方法。
【請求項12】
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体の表面から内部に向かって伸びる第2下穴が切削加工によって形成された前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記焼結体の貫通孔を形成する前記第2下穴に、前記貫通孔の軸方向の長さより短いメタル砥石を挿入し、研削加工にて前記第2下穴を貫通させ、ついで少なくとも前記第1面の近傍および前記第2面の近傍を前記メタル砥石の一部が前記貫通孔の外部に位置する状態でゼロ研削して、貫通孔を備えた構造体を得る工程と、
を含む請求項4~6、請求項4~6を引用する請求項7および8のいずれかに記載の構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれかに記載の構造体と、前記凹部または前記貫通孔に挿入されたピンと、該ピンの外周面と前記第1内周面または前記第2内周面との間に介在する接合層と、を備えてなる、接合体。
【請求項14】
請求項13に記載の接合体を備えてなる、粉砕機用ローター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックスからなる構造体、その製造方法、接合体および粉砕機用ローターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス同士あるいはセラミックスと金属との接合体を得るために様々な製造方法が検討されている。例えば、特許文献1では、2つの被接合体の少なくともいずれかの接合面に複数個の溝または切り欠き部を形成し、双方の接合面間に環状の接合剤ペレットを載置した後、この接合剤ペレットを加熱溶融させて接合体を得る方法が提案されている。
【0003】
特許文献1で提案された接合体は、2つの被接合体の軸方向に垂直な方向(言い換えると、接合面に平行な方向)からの圧力に対して接合面間で破断しやすいという問題があった。また、溝や切り欠き部があるため、接合体に気密性が求められる場合には、溝や切り欠き部が流体の通路となり、気密性が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、円柱状の凹部または貫通孔を有し、これら凹部や貫通孔にピン等の接合部材を挿入し、封止した場合に、この部分における高い気密性および接合部材に対して高い接合強度を与えることを可能とする構造体、その製造方法、上記構造体を用いた接合体および粉砕機用ローターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本開示の第1の構造体は、表面から内部に向かって伸びる、円柱状の凹部を備えてなり、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とするセラミックスからなる。凹部を形成する第1内周面の円周方向の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差(Rδ)の平均値は、凹部の底面側よりも開口側の方が小さい。
【0007】
本開示の第2の構造体は、第1面と、該第1面に対向する第2面とを備え、第1面および第2面に開口する貫通孔を備えてなり、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とするセラミックスからなる。貫通孔を囲繞する第2内周面の円周方向の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差(Rδ)の平均値は、貫通孔の中央部よりも第1面の近傍および第2面の近傍の方が小さい。
【0008】
本開示の第1の構造体の製造方法は、
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記凹部の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工して前記焼結体の凹部を形成し、ついで前記メタル砥石の一部が前記凹部の外部に位置する状態でゼロ研削して、凹部を備えた構造体を得る工程と、を含む。
本開示に係る第1の構造体の他の製造方法は、
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体の表面から内部に向かって第1下穴が切削加工によって形成された前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記第1下穴の内周面を、前記凹部の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工して前記焼結体の凹部を形成し、ついで前記メタル砥石の一部が前記凹部の外部に位置する状態でゼロ研削して、凹部を備えた構造体を得る工程と、を含む。
【0009】
本開示の第2の構造体の製造方法は、
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記貫通孔の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工して前記貫通孔を形成し、ついで少なくとも前記第1面の近傍および前記第2面の近傍を前記メタル砥石の一部が前記貫通孔の外部に位置する状態でゼロ研削して、貫通孔を備えた構造体を得る工程と、を含む。
本開示に係る第2の構造体の他の製造方法は、
酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る工程と、
前記成形体の表面から内部に向かって伸びる第2下穴が切削加工によって形成された前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体を固定して、前記焼結体の貫通孔を形成する前記第2下穴に、前記貫通孔の軸方向の長さより短いメタル砥石を挿入し、研削加工にて前記第2下穴を貫通させ、ついで少なくとも前記第1面の近傍および前記第2面の近傍を前記メタル砥石の一部が前記貫通孔の外部に位置する状態でゼロ研削して、貫通孔を備えた構造体を得る工程と、を含む。
【0010】
本開示の接合体は、上記第1または第2の構造体と、その凹部または貫通孔に挿入されたピンと、該ピンの外周面と第1内周面または第2内周面との間に介在する接合層と、を備えてなる。
本開示の粉砕機用ローターは、上記接合体を備えてなる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の第1の構造体は、凹部の底面側よりも開口側の方が第1内周面の凹凸が小さくなるので、凹部にピン等の接合部材を挿入し、凹部が開口する側を接着剤で封止する場合、気密性が向上する。また、凹部の底面側の内周面の凹凸が大きくなるので、接着剤のアンカー効果が高くなるため、高い接合強度が得られる。
本開示の第2の構造体は、貫通孔の中央部よりも第1面の近傍および第2面の近傍の方が第2内周面の凹凸が小さくなるので、貫通孔にピン等の接合部材を挿入し、貫通孔の両側(すなわち、第1面の近傍および第2面の近傍のいずれか一方または両方)を接着剤で封止する場合、気密性が向上する。また、第2内周面の中央部の凹凸が大きくなるので、接着剤のアンカー効果が高くなるため、高い接合強度が得られる。
さらに、本開示の第1の構造体の製造方法によれば、凹部が開口する表面に対する凹部の直角度を向上させることができる。
本開示の第2の製造方法によれば、第1面および第2面に対する貫通孔の直角度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る、円柱状の凹部を備えた第1の構造体を示す断面図である。
【
図2】得られた第1の構造体を使用した接合体の一例を示す断面図である。
【
図3】(a)および(b)は本開示の一実施形態に係る第1の構造体の製造工程の一部を示す説明図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る、貫通孔を備えた第1の構造体を示す断面図である。
【
図5】(a) および(b)は本開示の一実施形態に係る第2の構造体の製造工程の一部を示す説明図である。
【
図6】第2の構造体の内径仕上げの一例を示す説明図である。
【
図7】(a) および(b)はそれぞれ本開示の一実施形態に係るローターを示す断面図および平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一実施形態に係る構造体を説明する。
(第1の構造体)
図1は、本実施形態に係る第1の構造体1を示す断面図であり、この第1の構造体1は、表面から内部に向かって伸びる円柱状の凹部2を備える。
【0014】
第1の構造体1は、酸化アルミニウムAl2O3、酸化ジルコニウムZrO2および窒化ケイ素Si3N4の少なくともいずれか1種を主成分とし、副成分として、主成分以外の上記成分のうちいずれか一方または両方を含有するセラミックスからなる。このセラミックスは、通常、難削材に分類されるものである。ここで、主成分とは、総量のうち50質量%以上を含む成分をいい、副成分とは50質量%未満を含む成分をいう。
【0015】
具体的には、例えば、セラミックスは、Al2O3を65質量%~96質量%、ZrO2を4質量%~34.4質量%、SiO2を0.2質量%以上、TiO2を0.22質量%以上およびMgOを0.12質量%以上含み、SiO2、TiO2及びMgOを合わせた含有量が0.6質量%~4.5質量%である。このセラミックスにおいて、主成分はAl2O3である。
また、Si3N4を20質量%~60質量%、ZrO2を25質量%~70質量%、MgO、Y2O3、CeO2、CaO、HfO2、TiO2、Al2O3、SiO2、MoO3、CrO、CoO、ZnO、Ga2O3、Ta2O5、NiOおよびV2O5から選ばれる少なくとも1種を5質量%~15質量%を含むセラミックスであってもよい。このセラミックスにおいて、主成分は、配合量に応じてSi3N4およびZrO2のいずれかである。
セラミックスを構成している成分は、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定することができる。各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めることができる。
【0016】
第1の構造体1に形成される円柱状の凹部2は、第1内周面9の円周方向の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差(Rδ)の平均値が、凹部2の底面側(矢印Aで示す)よりも開口側(矢印Bで示す)の方が小さくなるように形成される。
ここで、凹部2の底面側とは、第1内周面9の軸方向長さを100%としたとき、凹部2の底面から25%以下の領域をいう。また、開口側とは、第1内周面9の軸方向長さを100%としたとき、凹部2の開口端から25%以下の領域をいう。
【0017】
図2に示すように、第1の構造体1の凹部2にピン3を挿入し、該ピン3の外周面と凹部2の内周面との間に接合層4(接着剤等)を介在させて接合体5を作製する。このとき、開口側の切断レベル差(Rδ)の平均値が小さいので、接合剤で封止された凹部2の開口側の気密性が向上する。また、閉塞される凹部2の底面側の内周面は、相対的に凹凸が大きいので、接合剤のアンカー効果が高くなるため、高い接合強度が得られる。
なお、接合剤としては、例えばエポキシ系接着剤、封止用ガラス等が使用可能である。また、ピン3としては、例えば、S45C快削鋼、SUS303快削鋼等が使用可能である。
【0018】
凹部2の第1内周面9における切断レベル差(Rδ)の平均値は、凹部2の底面側から開口側に向かって指数関数的または1次関数的に減少しているのがよい。これにより、第1内周面9の切断レベル差(Rδ)が制御されていない状態に比べ、凹部2内の気密性がより高くなる。
【0019】
閉塞される凹部2の底面側における切断レベル差(Rδ)の平均値は、1.5μm以下であるのが好ましく、これにより閉塞される底面側の表面性状がよくなり、接合作業で脱離するセラミックス粒子が発生しにくくなるので、高い接合強度を維持することができる。
【0020】
切断レベル差(Rδc)は、JIS B 0601:2001に準拠し、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、VK-X1100またはその後継機種)を用いて測定することができる。測定条件としては、まず、照明方式を同軸落射方式、倍率を480倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有り、とする。測定箇所は、凹部2の第1内周面9の底面側および開口側である。測定方法は、それらの円周方向に沿って、測定対象とする線を略等間隔に4本引いて、各線ごと表面粗さ計測であり、各線ごとの測定値をもとに平均値を求めればよい。1か所当たりの測定範囲は710μm×533μmとし、計測の対象とする線1本当たりの長さは、560μmである。
切断レベル差(Rδ)の平均値の漸減を示す近似関数(指数関数、1次関数等)を設定する場合、凹部2の底面から凹部2の開口端に向かって、軸方向長さが10%~90%の範囲で10%毎に切断レベル差(Rδ)を測定し、その平均値を算出する。
切断レベル差(Rδ)の平均値の漸減を示す近似関数(指数関数、1次関数等)は、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられているグラフツールを用いて設定した後、相関係数Rを算出する。そして、r表(相関係数検定表)を用いて、有意水準5%(両側確率)で相関係数Rを検定し、有意であれば、切断レベル差(Rδ)の平均値の漸減を示す近似関数(指数関数、1次関数等)が決定される。
【0021】
次に、第1の構造体1の製造方法を説明する。まず、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を得る。すなわち、上記各成分を秤量後、溶媒(イオン交換水)と共に粉砕用ミルに投入し、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤を添加し、混合してスラリーを得る。有機結合剤としては、例えば、アクリルエマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
スラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、1軸プレス成形装置あるいは冷間静水圧プレス成形装置を用いて、成形圧を78Mpa以上128MPa以下として加圧して成形体を得る。
【0022】
次に、得られた成形体の表面から内部に向かって第1下穴を切削加工によって形成し、前駆体を得る。下穴の開口径は、凹部2の開口径の70%以上95%以下であるのがよい。
成形体の厚みが、例えば、1mm以上30mm以下と薄い場合には、前駆体の時点で第1下穴は形成しなくてもよく、後述の焼成体を得た後に、メタル砥石で凹部の形成とゼロ研削とを行なってもよい。
あるいは、凹部2が小さい場合、例えば、凹部2の開口径が1mm以上10mm以下であって、凹部2の深さが1mm以上30mm以下である場合にも、前駆体の時点で第1下穴は形成しなくてもよく、後述の焼成体を得た後に、メタル砥石で凹部の形成とゼロ研削とを行なってもよい。
【0023】
次に、得られた前駆体を焼成して焼結体を得る。焼成は、酸化アルミニウムあるいは酸化ジルコニウムが主成分である成形体の場合、この成形体を大気雰囲気中、1400℃以上1700℃以下および1時間以上6時間以下の条件で行うのが適切である。窒化ケイ素が主成分である成形体の場合、この成形体を室温から300~1000℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素分圧を10~100kPaに維持する。そして、昇温を続け、微細な結晶組織を得るべく、1750℃で1~2時間保持する。その後、さらに昇温を続け、1800℃以上1860℃以下で1時間以上6時間以下保持する。
【0024】
次に、得られた焼結体6を固定して、
図3(a)に示すように、第1下穴7の内周面を、下穴の軸方向の長さより短いメタル砥石8で研削加工し、ついで
図3(b)に示すように、メタル砥石8の一部が第1下穴7の外部に位置する状態でゼロ研削して、凹部2を備えた第1の構造体1を得る。
メタル砥石は、砥粒と金属結合材とからなる砥石であって、例えば、旭ダイヤモンド工業社製の商品名「ソロテル」等が使用可能である。研削加工およびゼロ研削のいずれにも同一のメタル砥石を使用してもよく、相異なるメタル砥石を使用してもよい。特に、メタル砥石の中でも、電着砥石であるとよい。
上記したように、焼結体6は難削材であるので、これを切削加工すると、加工抵抗が大きいため、ツールが曲がった状態で加工され、テーパー状となり、凹部2が逆円錐台形となりやすい。これに対して、前記したメタル砥石は剛性が高いので、下穴の軸方向の長さより短いメタル砥石で研削加工すると、凹部2の底面側Aと開口側Bの穴径差を0.025mm以下にすることができる。これにより、凹部2が開口する表面に対する第1内周面9の直角度を向上させることができる。
【0025】
研削加工後に行うゼロ研削は、いわば凹部2の開口側Bの内径仕上げである。ここで、ゼロ研削とは、研削加工の最後に切込みをしないで、送りだけをかけることをいい、スパークアウトまたはゼロカットともいう。従って、ゼロ研削では、メタル砥石の一部が凹部2に挿入されない状態で研削を行う。
このとき、難削材である焼結体6は加工抵抗が大きいので、メタル砥石の一部が凹部2の外部に位置する状態でゼロ研削することにより、凹部2の底面側Aよりも開口側Bの方が第1内周面9の凹凸を小さくすることができる。
なお、第1の構造体1の形状は特に制限されるものではなく、後述するローターのような形状の他に、平板、筒状体、平板、筐体、多面体等の形状が可能である。
【0026】
(第2の構造体)
次に、本開示に係る第2の構造体を説明する。
図4は第2の構造体10を示す断面図である。同図に示すように、第2の構造体10は、第1面10aと、該第1面10aに対向する第2面10bとを備え、第1面10aおよび第2面10bに開口する貫通孔11を有する。
第2の構造体10は、第1の構造体1と同様に、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化ケイ素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とするセラミックスからなる。このセラミックスは難削材である。
【0027】
貫通孔11を囲繞する第2内周面12の円周方向の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差(Rδ)の平均値は、貫通孔11の中央部よりも第1面10aの近傍および第2面10bの近傍の方が小さくなるように構成されている。
【0028】
これにより、貫通孔11の中央部よりも第1面10aの近傍および第2面10bの近傍の方が第2内周面12の凹凸が小さくなるので、
図2に示した第1の構造体1と同様に、貫通孔11にピン等の接合部材を挿入し、貫通孔11の両側を接着剤で封止する場合、気密性が向上する。また、中央部の第2内周面12の凹凸が大きくなるので、接着剤のアンカー効果が高くなるため、高い接合強度が得られる。
ここで、第1面10aの近傍および第2面10bの近傍とは、第1面10aおよび第2面10bから貫通孔11の軸方向にそれぞれ全長の25%以下の領域をいう。貫通孔11の中央部とは、第1面10aの近傍と第2面10bの近傍との間に挟まれる領域をいう。
なお、貫通孔11の全長は10mm以上30mm以下であるのがよい。
【0029】
切断レベル差(Rδ)の平均値は、貫通孔11の中央部から第1面10a側および前記第2面10b側の少なくともいずれかに向かって指数関数的または1次関数的に減少しているのがよい。また、貫通孔11の中央部における切断レベル差(Rδ)の平均値は、1.5μm以下であるのがよい。その他は、第1の構造体1と同様である。
第2内周面12の切断レベル差(Rδc)の測定に用いる測定機、測定条件および測定方法は、第1内周面9の測定で用いたものと同じである。測定箇所は、第2内周面12の第1面10aの近傍、第2面10bおよび中央部である。
【0030】
以下、第2の構造体10の製造方法を説明する。なお、製造条件等、以下に記載のない事項については、第1の構造体1の製造方法と同様であるので、これに準ずるものとする。
まず、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび窒化珪素の少なくともいずれかを主成分とし、これらの成分のうち、主成分以外の成分のいずれか一方または両方を副成分とする成形体を作製する。
【0031】
次に、
図5(a)に示すように、得られた成形体13の表面から内部に向かって伸びる第2下穴14をツール20で切削加工し、前駆体15を得る。第2下穴14は、一方の表面から他方の表面まで貫通しているのがよい。
成形体の厚みが、例えば、1mm以上30mm以下と薄い場合には、前駆体の時点で第2下穴14は形成しなくてもよく、後述の焼成体を得た後に、メタル砥石で貫通孔の形成とゼロ研削とを行なってもよい。
あるいは、貫通孔2が小さい場合、例えば、開口径が1mm以上10mm以下である場合にも、前駆体の時点で第2下穴14は形成しなくてもよく、後述の焼成体を得た後に、メタル砥石で貫通孔の形成とゼロ研削とを行なってもよい。
【0032】
次に、前駆体15を焼成して焼結体を得る。得られた焼結体16を固定して、
図5(b)に示すように、第2下穴14に、貫通孔の軸方向の長さより短いメタル砥石17を挿入し、研削加工を行う。このとき、加工抵抗を考慮して、メタル砥石17の径は第2下穴14の径と略同じであるのが好ましい。
【0033】
次に、
図6に示すようにして内径仕上げを行う。すなわち、少なくとも第1面の近傍および第2面の近傍をメタル砥石17´の一部が前記貫通孔の外部に位置する状態でゼロ研削して、貫通孔を備えた構造体を得る。このとき、内径の研削量は2~0.05mm程度であるのがよい。
内径仕上げにおいては、貫通孔の第1面から第2面に向かって軸方向へ段階的に加工するのが好ましい。例えば全長が22mmである貫通孔を構造体に形成する場合、第1段階で深さ0~2.5mmまで内径仕上げを行い、第2段階で2.5~5.0mmまで内径仕上げを行い、順に5mmごとに研削を行う。これによりメタル砥石17´の側面のより小さい面積に応力が集中するので、内径の精度が向上する。
また、必要に応じて、第1面の近傍および第2面の近傍のみをメタル砥石17´でゼロ研削するだけでもよい。
【0034】
このようにして得られた第2の構造体10は、切断レベル差(Rδ)の平均値は、貫通孔11の中央部よりも第1面10aの近傍および第2面10bの近傍の方が小さくなっている。
【0035】
次に、上記のようにして製造された第2の構造体10について、前記した切断レベル差(Rδ)の平均値の測定結果を説明する。
測定箇所は、貫通孔11の第2内周面12における第1面10aの近傍、中央部、第2面10bの近傍の3箇所で、それぞれ円周方向に沿って切断レベル差(Rδ)を測定し、その平均値を求めた。測定機、測定条件および測定方法は、上述したものと同じである。
結果を表1に示す。表1では、本開示に係る第2の構造体10(貫通孔11の全長22mm、仕上り内径8.1mm)を実施例とした。また、比較例として、内径仕上げを貫通孔11の全長(22mm)よりも長いメタル砥石を用いて得た同寸法の構造体についても同様にして評価した。
【0036】
【0037】
表1から、実施例である第2の構造体10は、比較例とは異なり、切断レベル差(Rδ)の平均値が、貫通孔11の中央部よりも第1面10aの近傍および第2面10bの近傍の方が小さくなっていることがわかる。
【0038】
本開示に係る第2の構造体10を用いた接合体は、第1の構造体1と同様に、貫通孔11内に挿入されたピンを、該ピンの外周面と第2内周面12との間に介在した接合層で接合した構造を有する。
【0039】
(ローター)
次に、本開示の粉砕機用ローターを説明する。粉砕機としては、例えば、処理槽内に分散媒体(ビーズ)を収納し、処理槽に供給された処理材料を分散媒体と共にローターにより攪拌し、該分散媒体間に生じるずり力によって処理材料を微粒子化し、液体中に分散させるようにした湿式媒体分散機が挙げられる。
【0040】
図7(a)、(b)はローターを示す断面図および平面図である。このローター18は、筒型で構成され、外周面に多数の小突起からなる突起プレート19が一体に形成されている。ローター18は、前記したセラミックスから形成されており、両端部には、円周方向に複数の貫通孔11が形成されている。従って、ローター18は、前記した第2の構造体10である。
【0041】
これらの貫通孔11に前記したピンを接合して、本開示に係る粉砕機用ローター18が得られる。上記ピンは、ローター18を回転軸(不図示)等に取り付けるためのものである。
貫通孔11に代えて凹部2を設けた場合は、ローター18は、前記した第1の構造体1である。
【0042】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の構造体は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本開示の構造体は、粉砕機用ローターのみではなく、その他の用途にも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 第1の構造体
2 凹部
3 ピン
4 接合層
5 接合体
6 焼結体
7 第1下穴
8 メタル砥石
9 第1内周面
10 第2の構造体
10a 第1面
10b 第2面
11 貫通孔
12 第2内周面
13 成形体
14 第2下穴
15 前駆体
16 焼結体
17、17´ メタル砥石
18 ローター
19 突起プレート
20 ツール