(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】拡張アンチコドンループを有する合成転移RNA
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2020549042
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2019056429
(87)【国際公開番号】W WO2019175316
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-28
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(31)【優先権主張番号】102018106080.7
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521425733
【氏名又は名称】アークタラス テラピュウティクス、インク
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イグナトヴァ、ゾヤ
(72)【発明者】
【氏名】トルダ、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】マティエス、マーコ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Chem. Biol.,2002年,Vol. 9,p. 237-244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
mRNA上の2つの連続する3塩基コドンに塩基対合するよう構成された2つの連続する3塩基アンチコドンを含む拡張アンチコドンループを有する合成転移RNAであって、
2つの連続する3塩基アンチコドン塩基のうちの一方が、mRNA上の3塩基終止コドンに塩基対合するよう構成され、前記2つの連続する3塩基アンチコドンのうちの他方が、前記mRNA上の3塩基終止コドンに隣接する3塩基コドン塩基に塩基対合するよう構成され、
前記合成転移RNAは、翻訳系におけるmRNAの読み取りを変化させるサプレッサーtRNAであり、
前記アンチコドンループが9ヌクレオチドからな
り、
前記アンチコドンループの3’末端の6塩基が2つの連続する3塩基アンチコドン塩基である
ことを特徴とする合成転移RNA。
【請求項2】
前記転移RNAがアミノアシル化されている
請求項1に記載の合成転移RNA。
【請求項3】
前記転移RNAがジペプチドでアミノアシル化されている
請求項2に記載の合成転移RNA。
【請求項4】
前記転移RNAに関して5’-3’方向に、第1のTステム配列、Tループ、および第2のTステム配列からなるTアームを有し、前記第2のTステム配列が前記第1のTステム配列に相補的である合成転移RNAにおいて、前記第1のTステム配列がヌクレオチド配列AGGGGを有し、かつ第2のTステム配列がヌクレオチド配列CCCCUを有する
請求項1ないし3のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項5】
前記合成転移RNAは、SEQ ID番号:31の配列GCGCAGCCUGGUAGCGCを有するDアームを含む
請求項1ないし4のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項6】
前記合成転移RNAが、
a)SEQ ID番号:
06、もしくは09~17
に従った配列のうちの1つ、またはb)SEQ ID番号:
06、もしくは09~17
に従った配列のうちの1つと少なくとも90%の配列同一性を有する配列、またはc)上記a)もしくはb)の配列であって、前記ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている配列を有する、または含む
請求項1ないし5のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項7】
前記転移RNAが、a
)ACUCAGUUAからなる配
列、またはb)上記a)の配列であって、前記ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている配列を含むアンチコドンループを有する
請求項1ないし6のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項8】
前記アンチコドンループに隣接するアンチコドンステムのヌクレオチドが、G-CまたはC-G対を形成する
請求項1ないし7のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項9】
薬剤として使用するための
請求項1ないし8のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項10】
mRNAの翻訳を早期停止させるナンセンス変異に少なくとも部分的に起因する疾患における薬剤として使用するための
請求項1ないし8のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項11】
嚢胞性線維症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、神経線維腫症1型、またはハーラー症候群を治療する薬剤として使用するための
請求項1ないし8のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項12】
嚢胞性線維症を治療する薬剤として使用するための、
請求項11に記載の合成転移RNAであって、前記拡張アンチコドンループの前記2つの連続する3塩基アンチコドンが配列CAGUUAを有する
ことを特徴とする合成転移RNA。
【請求項13】
前記転移RNAが、a
)ACUCAGUUA
からなる配列を含むアンチコドンループ、またはb)上記a)の配列のうちの1つを含むアンチコドンループであって、前記ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられているアンチコドンループを有する
請求項12に記載の合成転移RNA。
【請求項14】
前記転移RNAが、a)SEQ ID番号:6の配列、またはb)SEQ ID番号:6の配列であって、前記ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている配列を含む
請求項13に記載の合成転移RNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は拡張アンチコドンループを有する合成転移RNAに関する。
【背景技術】
【0002】
転移リボ核酸(tRNA)は生細胞のタンパク質合成機構に不可欠な部分であり、伝令RNA(mRNA)のヌクレオチド配列をタンパク質のアミノ酸配列に翻訳するのに必要な要素である。自然発生tRNAは、アミノ酸に共有結合できるアミノ酸結合ステム、および「アンチコドン」と呼ばれる塩基のトリプレットを含むアンチコドンループを有し、アンチコドンはmRNA上にある「コドン」と呼ばれる対応する塩基のトリプレットと非共有結合できる。タンパク質はmRNA上のコドン配列をテンプレートとして使用し、とりわけリボソームやいくつかの補助酵素を含む多成分系の助けを借りて、tRNAが運ぶアミノ酸をつなげることによって合成される。
【0003】
遺伝性疾患群に属する疾患の一部は、遺伝情報の変化、例えば、遺伝子をコードするDNAの変異に起因する。この場合、変異遺伝子から転写されたmRNAは、変化した遺伝情報も運び、異常な、場合によっては非機能性のタンパク質が形成される。変異により、例えばコード領域内に終止コドンが導入され、タンパク質合成の早期終了や短縮タンパク質の産生に至ることがある。一例として、嚢胞性線維症(CF)は膜タンパク質「嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子」(CFTR)をコードする遺伝子の変異に起因することがある。この場合、変異により、CFTR遺伝子の読み枠(リーディングフレーム)内に早期終結コドン(PTC)または終止コドンが導入される(非特許文献1~3)。
【0004】
PTCを有するCFでは、機能性CFTRを正常化する翻訳の読み飛ばしを促進するアミノグリコシドのような終止コドン抑制剤が、科学文献で説明されている(例えば、非特許文献4、5参照)。しかしながら、そのような抑制剤は、効果的でなく忍容性も良好でないことが少なくない。
【0005】
まだ始まったばかりながら、患者の細胞に矯正遺伝物質を導入する遺伝子治療は、遺伝性疾患の治療においてますます重要となっている。現在、遺伝子治療法では、主にmRNAの使用に基づいて、変異した「欠損」mRNAを置換し、補完している。しかしながらmRNAは短命で、mRNA配列の長さは治療への応用に問題がある。例えば特定のmRNAは、遺伝子送達や遺伝子治療に現在利用できるベクターの積載能力よりも長いことがある。
【0006】
mRNAと比べてtRNA分子は安定性が著しく高く、平均で10分の1の短さであるため、標的組織への導入における問題が軽減される。このため、早期終止コドンを持つmRNAにより短縮タンパク質が形成されるのを防ぎ、代わりに正しいアミノ酸を導入しようと、遺伝子治療でtRNAの使用が試みられている(例えば、特許文献1、2、非特許文献6参照)。
【0007】
例えば非特許文献7は、全長野生型タンパク質を修復するために、CFTR遺伝子でインフレーム終止コドンを自然発生アミノ酸に変換できるコドン編集tRNAを説明している。
【0008】
非特許文献8は、トランスフェクションにより細胞に導入されるサプレッサーtRNAを用いたPTC含有mRNAを読み飛ばす方法を説明している。ナンセンストリプレットコドンが抑制され、4塩基コドンが、ヒトtRNA(Ser)に由来する対応するサプレッサーtRNAによって解読された。
【0009】
4塩基または5塩基アンチコドンを含む拡張アンチコドンループを有するtRNAも、非天然アミノ酸のタンパク質への取り込みについて説明されている(特許文献3、4、非特許文献9、10)。非特許文献11は、そのアンチコドンループに6~10ntを含むtRNAを用いた2、3、4、5、および6塩基コドンの抑制について説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2003/0224479号明細書
【文献】米国特許第6964859号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0177900号明細書
【文献】国際公開第2005/007870号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Vallieres E,Elborn JS,Cystic fibrosis gene mutations:evaluation and assessment of disease severity.Advances in Genomics and Genetics,Volume 2014:4 Pages 161-172
【文献】Wilschanski M.Class 1 CF Mutations.Frontiers in Pharmacology.2012;3:117.doi:10.3389/fphar.2012.00117
【文献】Gambari R,Breveglieri G,Salvatori F,Finotti A,Borgatti M,2015,Therapy for Cystic Fibrosis Caused by Nonsense Mutations,Cystic Fibrosis in the Light of New Research,Wat D.(Ed.),InTech,DOI:10.5772/61053
【文献】Mutyam V,Du M,Xue X,Keeling KM,White EL,Bostwick JR,Rasmussen L,Liu B,Mazur M,Hong JS,Falk Libby E,Liang F,Shang H,Mense M,Suto MJ,Bedwell DM,Rowe SM.Discovery of Clinically Approved Agents That Promote Suppression of Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator Nonsense Mutations.Am J Respir Crit Care Med.2016 Nov 1;194(9):1092-1103.doi 10.1164/rccm.201601-0154OC
【文献】Gambari R,Breveglieri G,Salvatori F,Finotti A,Borgatti M,2015,Therapy for Cystic Fibrosis Caused by Nonsense Mutations,Cystic Fibrosis in the Light of New Research,Wat D.(Ed.),InTech,DOI:10.5772/61053
【文献】Koukuntla,R 2009,Suppressor tRNA mediated gene therapy,Graduate Theses and Dissertations,10920,Iowa State University,http://lib.dr.iastate.edu/etd/10920
【文献】Lueck,J.D.,Infield,DT,Mackey,AL,Pope,RM,McCray,PB,Ahern,CA.Engineered tRNA suppression of a CFTR nonsense mutation,bioRxiv 088690; doi:10.1101/088690
【文献】Sako Y,Usuki F,Suga H.A novel therapeutic approach for genetic diseases by introduction of suppressor tRNA.Nucleic Acids Symp Ser(Oxf).2006;(50):239-40.PubMed PMID:17150906,doi:10.1093/nass/nrl119
【文献】Hohsaka T,Ashizuka Y,Murakami H,Sisido M.Five-base codons for incorporation of nonnatural amino acids into proteins.Nucleic Acids Research.2001;29(17):3646-3651
【文献】Hohsaka T,Sisido M.Incorporation of non-natural amino acids into proteins.Curr Opin Chem Biol.2002 Dec;6(6):809-15.Review.PubMed PMID:12470735
【文献】Anderson JC,Magliery TJ,Schultz PG.Exploring the limits of codon and anticodon size.Chem Biol.2002 Feb;9(2):237-44.DOI:10.1016/S1074-5521(02)00094-7
【文献】Sprinzl M,Horn C,Brown M、Ioudovitch A,Steinberg S.Compilation of tRNA sequences and sequences of tRNA genes.Nucleic Acids Res.1998;26(1):148-53
【文献】Scott HS,Litjens T,Hopwood JJ、Morris CP、1992、A common mutation for mucopolysaccharidosis type I associated with a severe Hurler syndrome phenotype,Hum Mutat.1:103-108,doi 10.1002/humu.1380010204
【文献】Keeling KM,Brooks DA,Hopwood JJ,Li P,Thompson JN,Bedwell DM,2001,Gentamicin-mediated suppression of Hurler syndrome stop mutations restores a low level of α-l-iduronidase activity and reduces lysosomal glycosaminoglycan accumulation,Human Molecular Genetics 10,291-300,doi 10.1093/hmg/10.3.291
【文献】Edgar,R.C.(2004),Muscle:multiple sequence alignment with high accuracy and high throughput,Nucleic Acids Research,32,1792-1797,doi:10.1093/nar/gkh340)
【文献】Katoh,K.and Standley,D.M.(2013)MAFFT Multiple Sequence Alignment Software Version 7、Molecular Biology and Evolution,30,772-780,doi.org/10.1093/molbev/mst010
【文献】Maini R,Dedkova LM,Paul R,Madathil MM,Chowdhury SR,Chen S、Hecht SM,2015,Ribosome-Mediated Incorporation of Dipeptides and Dipeptide Analogues into Proteins in Vitro,J.Am.Chem.Soc.,137,11206-11209,doi 10.1021/jacs.5b03135
【文献】Czech A,Wende S、Morl M,Pan T,Ignatova Z,2013,Reversible and rapid transfer-RNA deactivation as a mechanism of translational repression in stress,PLoS Genet.2013 9(8):e1003767.doi:10.1371/journal.pgen.1003767
【文献】Meinnel T,Blanquet S J,1995,Maturation of pre-tRNA(fMet) by Escherichia coli RNase P is specified by a guanosine of the 5’-flanking sequence,Biol Chem.270:15908-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ナンセンス変異の影響に対抗する、および/またはナンセンス変異を抑制することがなおも求められている。したがって本発明の目的は、そのような手段、特にナンセンス変異と関連する嚢胞性線維症のような遺伝性疾患を治療するためのナンセンス変異サプレッサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は、合成転移リボ核酸(tRNA)、つまりmRNA上の2つの連続する3塩基コドン(codon base triplet)に塩基対合するよう構成された2つの連続する3塩基アンチコドン(anticodon base triplet)を含む拡張アンチコドンループを有する合成転移RNAであって、第1の3塩基アンチコドンまたは第2の3塩基アンチコドンが、mRNA上の3塩基終止コドンに塩基対合するよう構成されている合成転移RNAを提供する。
【0014】
本発明は、例えば、翻訳の早期停止を引き起こし、短縮タンパク質を産生してしまうような変異をコード配列に有するmRNAから機能タンパク質を合成する細胞の能力を修復するために、ナンセンス変異を抑制するのに使用できる新規のサプレッサーtRNAを提供する。本発明の合成tRNAは、2つの連続する3塩基アンチコドンを含む拡張アンチコドンループを有し、このうち少なくとも1つが、mRNA上の3塩基終止コドンと塩基対合できる。したがって本発明の合成tRNAは、2つの3塩基アンチコドンと相補的であるmRNA上の隣接する2つのコドン(1つが早期終結コドン(PTC)である)と結合できる。本発明の合成tRNAは、PTCだけでなく、mRNA上の手前または次のコドンと塩基対合するため、タンパク質合成が早期終了せずに、tRNAが運ぶアミノ酸を、成長するアミノ酸鎖に取り込む。本発明の合成tRNAは、ジペプチドで(事前に)アミノアシル化されていない限り、得られたタンパク質は、野生型タンパク質、すなわちPTCを持たない野生型mRNAから合成されたタンパク質よりもアミノ酸が1つ少ないが、それにもかかわらず、機能タンパク質になる可能性が高い。有利には、本発明の合成tRNAと、mRNA上の隣接する2つのコドン(一方がPTCで、他方がPTCに隣接する特定のコドン)との塩基対合は、単一のコドン、すなわち終止コドンのみと結合するサプレッサーtRNAと比べて特異性が高い。その結果、本発明の合成tRNAは、PTCとその隣接するコドンの1つとの特定の組み合わせのみに結合するようデザインでき、非標的mRNA上のPTCまたは「通常の」終止コドンと望ましくない対合に至るリスクが大幅に低減する。
【0015】
用語「転移リボ核酸」または「tRNA」は、伝令RNAのヌクレオチド配列をタンパク質のアミノ酸配列に翻訳するのを仲介する、長さが通常73~90ヌクレオチドのRNA分子を指す。tRNAは、受容ステムの端部にある3’CCA末端で特定のアミノ酸に共有結合することができ、また、アンチコドンアームのアンチコドンループにある3ヌクレオチドのアンチコドンを介して、伝令RNAの3ヌクレオチド配列(コドン)と塩基対合できる。ゆらぎ塩基対合として知られる現象により、いくつかのアンチコドンは複数のコドンと対合することができる。tRNAの二次「クローバーリーフ」構造は、アミノ酸と結合する受容ステム、および先端がループ(Dループ、TΨCループ、アンチコドンループ)になった3つのアーム(「Dアーム」、「Tアーム」、および「アンチコドンアーム」)、すなわち、対合していないヌクレオチドを含む部分を有する。アミノアシルtRNAシンテターゼは、特定のアミノ酸でtRNAを荷電(アミノアシル化する)する。tRNAはそれぞれ、アミノ酸の1つまたは複数のコドンに塩基対合できる異なるアンチコドントリプレット配列を含む。慣例的にtRNAのヌクレオチドは、76ヌクレオチドからなる「コンセンサス」tRNA分子に基づいて、5’-P末端から始めて、tRNAにおけるヌクレオチドの実際の数にかかわらず1~76の番号が付けられることが多いが、tRNAの可変部分、例えばDループのために数が76でないことがある(
図3参照)。この慣例(以下「tRNA番号付け規則」ともいう)に従って、自然発生tRNAのヌクレオチド位置34~36はアンチコドンの3ヌクレオチドを指し、位置74~76は終わりのCCA末端を指す。「余分な」ヌクレオチドは、例えば、コンセンサスtRNAの一部であり、かつ慣例に従って番号付けされている手前のヌクレオチドの番号に英字を追加して番号付けする(例えば、20a、20bなど)、またはヌクレオチドに独立的に番号付けし、可変ループの場合にはe11、e12などのように頭文字を追加することによって番号付けできる(例えば、非特許文献12参照)。
【0016】
用語「合成転移リボ核酸」または「合成tRNA」は、非自然発生tRNAを指す。この用語は、自然発生tRNAのアナログ、すなわち自然発生tRNAに構造的に似ているが、tRNAを構成する1つまたは複数のヌクレオチドの塩基部分、糖部分、および/またはリン酸部分が修飾されているtRNAも含む。修飾されたtRNAは、例えば、ホスホジエステル結合がホスホロチオエート、ホスホロアミダート、またはメチルホスホネート結合に置き換えられて修飾されたホスホジエステル主鎖を有する。糖部分は、例えばデヒドロキシル化してデオキシリボヌクレオチドにすることによって、または、メトキシ基、メトキシエトキシ基、もしくはアミノエトキシ基に置き換えることによって、例えば2’-OH基で修飾し得る。合成転移リボ核酸は、例えば化学的および/または酵素的にin vitroで、または細胞ベース系で、例えば細菌細胞のin vivoで合成できる。
【0017】
用語「コドン」は、特定のアミノ酸、またはタンパク質合成時の終止シグナルに対応するヌクレオチドトリプレットの配列、すなわちDNAまたはRNAの3ヌクレオチドを指す。(mRNAレベルの)コドンおよびコード化アミノ酸の一覧を以下に示す。
【0018】
アミノ酸 1文字コード コドン
Ala A GCU、GCC、GCA、GCG
Arg R CGU、CGC、CGA、CGG、AGA、AGG
Asn N AAU、AAC
Asp D GAU、GAC
Cys C UGU、UGC
Gln Q CAA、CAG
Glu E GAA、GAG
Gly G GGU、GGC、GGA、GGG
His H CAU、CAC
Ile I AUU、AUC、AUA
Leu L UUA、UUG、CUU、CUC、CUA、CUG
Lys K AAA、AAG
Met M AUG
Phe F UUU、UUC
Pro P CCU、CCC、CCA、CCG
Ser S UCU、UCC、UCA、UCG、AGU、AGC
Thr T ACU、ACC、ACA、ACG
Trp W UGG
Tyr Y UAU、UAC
Val V GUU、GUC、GUA、GUG
開始:AUG
終止:UAA、UGA、UAG、「X」と略す
【0019】
本明細書で使用する用語「センスコドン」は、アミノ酸をコードするコドンを指す。用語「終止コドン」または「ナンセンスコドン」は、通常タンパク質に存在する20種類のアミノ酸の1つをコードせず、伝令RNAの翻訳停止を指令する遺伝暗号のコドン、すなわちヌクレオチドトリプレットを指す。(mRNAレベルの)終止コドンは、UAA(「オーカー」)、UAG(「アンバー」)、またはUGA(「オパール」)である。タンパク質の配列を記述する際、終止コドンは「X」(1文字コード)または「Ter」(3文字コード)を用いて表記する。タンパク質のナンセンス変異は、多くの場合、野生型アミノ酸、続いてタンパク質におけるアミノ酸の位置、それから「X」で表される。一例として、「R553X」は、タンパク質の位置553におけるアルギニン(1文字コードR)をコードするコドンの終止コドン(X)への変異を表す(CFTR)。オープンリーディングフレーム内でmRNAに終止コドンがあると、ほとんどの場合、非活性の短縮タンパク質断片が産生される。
【0020】
用語「アンチコドン」は、mRNA上のコドンの3個の塩基に相補的である(すなわち、結合または塩基対合する)3個のヌクレオチドの配列を指す。本明細書で使用する場合、用語「対応するアンチコドン」または「対応するコドン」は、それぞれ相補的なコドンまたはアンチコドンと塩基対合するアンチコドンまたはコドンに関する。アンチコドンは、修飾塩基を有するヌクレオチドも含み得る。
【0021】
用語「アンチコドンループ」は、アンチコドンを含むアンチコドンアームの不対ヌクレオチドを指す。自然発生tRNAにおいて、アンチコドンループは、通常、7個のヌクレオチドからなり、そのうちの3個がmRNAのコドンに対合する。
【0022】
用語「拡張アンチコドンループ」は、自然発生tRNAよりもループにおけるヌクレオチドの数が多いアンチコドンループを指す。拡張アンチコドンループは、例えば、7ヌクレオチドよりも多い、例えば8、9、10、または11ヌクレオチドを含み得る。
【0023】
用語「3塩基コドン(codon base triplet)」または「3塩基アンチコドン(anticodon base triplet)」は、コドンまたはアンチコドンを表す連続する3個のヌクレオチドの配列を指す。この用語は、本発明に関連して本明細書で使用する用語「コドン」または「アンチコドン」が、例えば、ヌクレオチドクアドルプレット(「4塩基コドン」)などの4個以上のヌクレオチドの配列ではなく、ヌクレオチドトリプレットを指すことを明確にするために使用する。しかしながら、本発明の合成tRNAのアンチコドンループにおける2つの連続する3塩基アンチコドンは「アンチコドンペア」、「アンチコドンダブル」、「アンチコドンデュプレックス」、「2×3ntアンチコドン」、または「アンチコドンタンデム」と呼ぶこともあり、同様に、mRNAにおける2つの連続する3塩基コドンは「コドンペア」、「コドンダブル」、「コドンデュプレックス」、「2×3ntコドン」、または「コドンタンデム」と呼ぶこともある。
【0024】
用語「塩基対」は、水素結合によってつながった塩基の対を指す。塩基対の塩基の1つは通常プリンであり、もう1つの塩基は通常ピリミジンである。RNAでは、塩基のアデニンとウラシルが塩基対を形成し、塩基のグアニンとシトシンが塩基対を形成することができる。しかしながら、他の塩基対(「ゆらぎ塩基対」)、例えば、グアニン-ウラシル(G-U)、ヒポキサンチン-ウラシル(I-U)、ヒポキサンチン-アデニン(I-A)、およびヒポキサンチン-シトシン(I-C)の塩基対の形成も可能である。用語「塩基対合できる」は、ヌクレオチドまたはヌクレオチドの配列が、相補的なヌクレオチドまたはヌクレオチド配列と水素結合安定化構造を形成できることを指す。
【0025】
用語「PTC」は早期終結コドン、すなわち、ナンセンス変異(すなわち、標準的な遺伝暗号によって指定される20種類のタンパク質性アミノ酸の1つをコードするセンスコドンが鎖終結コドンに変わる変異)によって、コードする核酸配列に導入された終止コドンを指す。したがってこの用語は、mRNAに含まれる遺伝暗号の翻訳における早期終止シグナルを指す。PTCは、さまざまな遺伝性疾患、例えば嚢胞性線維症(DF)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、神経線維腫症1型(NF1)、またはハーラー症候群(MPS I)に関与している。用語「早期終止コドン」(「PSC」)が、早期終結コドン(PTC)と同義に用いられることもある。
【0026】
用語「嚢胞性線維症」は、常染色体潜性(劣性)様式で遺伝する遺伝性疾患を指す。これは、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)タンパク質の遺伝子の両方のコピーにおける変異に起因する。用語「ナンセンス変異嚢胞性線維症」(nmCF)は、ナンセンス変異に起因するCFに使用されることがある。CFTRにおけるナンセンス変異の例に、W1282X(X=終止コドン)、G542X、R553X、またはR1162Xがある。
【0027】
用語「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」(DMD)(「ベッカー型筋ジストロフィー」、BMDともいう)は、機能性ジストロフィンタンパク質の欠如に起因する進行性の筋肉変性および筋力低下を特徴とするX連鎖潜性遺伝性疾患を指す。ジストロフィンの欠如は、ジストロフィン遺伝子におけるナンセンス変異によって生じ得る。
【0028】
用語「神経線維腫症1型」(NF1またはNF-1)(「レックリングハウゼン病」ともいう)は、ニューロフィブロミンをコードする17番染色体にあるNF1遺伝子の変異によって生じる常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。NF1は神経系に沿って腫瘍を形成する。
【0029】
用語「ハーラー症候群」(「ムコ多糖症I型」、MPS Iともいう)は、α-L-イズロニダーゼの欠損により、ムコ多糖類(グリコサミノグリカン、GAG)の蓄積を生じる遺伝性疾患に関する。ハーラー症候群でもっともよく見られるPTC変異は、W402XおよびQ70X(非特許文献13、14)である。
【0030】
用語「ナンセンス抑制」または「ナンセンス変異抑制」は、ナンセンス変異の影響をマスクし、野生型表現型を少なくとも部分的に修復する機序を指す。
【0031】
用語「サプレッサーtRNA」は、所定の翻訳系における伝令RNAの読み取りを変化させるtRNAに関する。サプレッサーtRNAの一例が、アミノ酸を運び、終止コドンに塩基対合できるtRNAであり、それにより翻訳系は終止コドンを読み飛ばすことができる。終止コドンを認識できるtRNAは、ナンセンスサプレッサーtRNAまたはNSTとして知られる。
【0032】
核酸に関連する用語「相同性」は、核酸のヌクレオチド配列と別の核酸のヌクレオチド配列との類似性または同一性の程度を指す。相同性は、第1の配列における位置と、第2の配列で対応する位置を比較し、同一のヌクレオチドがその位置に存在するかを確認することによって判定する。最良のアラインメントになるよう、配列のギャップを考慮することが必要な場合がある。2つの核酸間での類似性または同一性の程度を判定するには、好ましくは、比較する核酸の最小長、例えば、各配列におけるヌクレオチドの少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.2%、または99.5%を考慮に入れる。好ましくは、各核酸の全長を比較に用いる。2つの配列の類似性または同一性の程度は、muscle(非特許文献15)またはmafft(非特許文献16)などのコンピュータープログラムを用いて判定できる。「~とx%相同」または「x%の相同性」といった用語を用いる場合、2つの核酸配列がx%、例えば50%の配列同一性または類似性を有することを意味する。
【0033】
用語「アミノアシル化」は、アミノ酸でtRNAを荷電する酵素反応に関する。アミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)は、特定の同族アミノ酸またはその前駆体を、適合性のある同族tRNAにエステル結合させて、アミノアシルtRNAを形成するのを触媒する。したがって、用語「アミノアシルtRNA」はアミノ酸が付着したtRNAに関する。各アミノアシルtRNAシンテターゼは、所定のアミノ酸に極めて特異的であり、同じアミノ酸に対し複数のtRNAが存在したとしても、20種類のタンパク質性アミノ酸のそれぞれに対し、アミノアシルtRNAシンテターゼは1種類しか存在しない。用語「荷電する」または「負荷する」が、「アミノアシル化する」と同義に用いられることもある。本発明の合成tRNAに関連した用語「アミノアシル化された」は、tRNAが標的細胞に入るときにはすでにアシル化されているように、アミノ酸またはジペプチドですでに荷電(事前荷電)された合成tRNAに関する。用語「事前にアミノアシル化された」が、この文脈で同義に用いられることがある。
【0034】
tRNAに関連する用語「修飾ヌクレオチド」(または「異常ヌクレオチド」)は、修飾または異常ヌクレオチド塩基(すなわち通常の塩基アデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、およびシトシン(C)以外)を有するヌクレオチドに関する。修飾ヌクレオチドの例に、4-アセチルシチジン(ac4c)、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン(chm5u)、2’-O-メチルシチジン(cm)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン(cmnm5s2u)、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン(cmnm5u)、ジヒドロウリジン(d)、2’-O-メチルプソイドウリジン(fm)、β、D-ガラクトシルキューオシン(gal q)、2’-O-メチルグアノシン(gm)、イノシン(i)、N6-イソペンテニルアデノシン(i6a)、1-メチルアデノシン(m1a)、1-メチルプソイドウリジン(m1f)、1-メチルグアノシン(m1g)、1-メチルイノシン(m1i)、2,2-ジメチルグアノシン(m22g)、2’-O-メチルアデノシン(am)、2-メチルアデノシン(m2a)、2-メチルグアノシン(m2g)、3-メチルシチジン(m3c)、5-メチルシチジン(m5c)、N6-メチルアデノシン(m6a)、7-メチルグアノシン(m7g)、5-メチルアミノメチルウリジン(mam5u)、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン(mam5s2u)、β、D-マンノシルキューオシン(man q)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン(mcm5s2u)、5-メトキシカルボニルメチルウリジン(mcm5u)、5-カルバモイルメチルウリジン(ncm5U)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン(ncm5Um)、5-メトキシウリジン(mo5u)、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン(ms2i6a)、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルチオプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン(ms2t6a)、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)トレオニン(mt6a)、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル(mv)、ウリジン-5-オキシ酢酸(o5u)、ワイブトキソシン(osyw)、プソイドウリジン(p、Ψ)、キューオシン(q)、2-チオシチジン(s2c)、5-メチル-2-チオウリジン(s2t)、2-チオウリジン(s2u)、4-チオウリジン(s4u)、5-メチルウリジン(t)、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)-カルバモイル)トレオニン(t6a)、2’-O-メチル-5-メチルウリジン(tm)、2’-O-メチルウリジン(um)、ワイブトシン(yw)、3-(3-アミノ-3-カルボキシ-プロピル)ウリジン、(acp3)u(x)などがある。
【0035】
用語「対応する修飾ヌクレオチド」は、配列の所定の位置にある修飾ヌクレオチドに関し、その塩基が、修飾ヌクレオチドを含む配列と比較される元の配列の同じ位置にあるヌクレオチドの通常の、すなわち未修飾の塩基に基づいて修飾されている。したがって、対応する修飾ヌクレオチドは、細胞内で、大抵は通常のヌクレオチドを修飾することによって通常のヌクレオチドから生成される任意のヌクレオチドである。したがって、例えばウリジンに対応する修飾ヌクレオチドは、ウリジンの修飾によって得られる任意のヌクレオチドである。一例として、配列の特定の位置にある5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン(chm5u)は、元の配列の同じ位置にあるウリジンに対応する修飾ヌクレオチドであり得る。ウリジンに対応する修飾ヌクレオチドには、この他に、例えば5-メチルウリジン(t)、2’-O-メチル-5-メチルウリジン(tm)、2’-O-メチルウリジン(um)、または5-メトキシウリジン(mo5u)がある。別の例として、イノシンはアデノシンから生成されることから、アデノシンに対応する修飾ヌクレオチドである。
【0036】
本発明の合成転移RNAは、自然発生tRNAに基づいて合成し得る。ただし、本発明のtRNAは、好ましくはコンピューターで(「in silico」)設計し、化学的および/または酵素的に合成する。本発明による合成tRNAをコンピューターで設計することにより、細胞に存在する他のtRNAと干渉しないtRNAの設計および合成が可能となる。本発明の合成tRNAは、生細胞、好ましくは哺乳類細胞、例えばヒト細胞で自然に発生するアミノアシルtRNAシンテターゼが、特定のアミノ酸でtRNAを荷電できるように選択または設計する。好ましくは、tRNAは細胞内の条件下で、標的mRNAにおいて早期終止コドンの隣にあるコドンによって、または早期終止コドンに変異した野生型コドンによってコードされるアミノ酸がtRNAに酵素的に付着するよう選択または設計する。
【0037】
当業者は、tRNAが、特定のアミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)によって特定のアミノ酸でアミノアシル化され、aaRSが、tRNAの受容ステムおよび/またはアンチコドンループにある独自の同一性要素を介して、その同族tRNAを認識できるという事実を承知している。当業者は、in vivoでその同族アミノ酸で負荷されるtRNAを提供するために、好適な独自の同一性要素を有する本発明の合成tRNAを設計するであろう。
【0038】
本発明のtRNAは、好ましくは、任意の自然発生tRNAに対する配列同一性が低く、好ましくは、配列同一性が50%未満であり、特に好ましくは、49%、48%、47%、46%、45%、44%、または43%未満である。
【0039】
本発明による合成転移RNAでは、アンチコドンループは、アンチコドンペアを収容し、かつmRNAとの塩基対合を可能にするのに十分な数のヌクレオチドによって拡張されている。本発明の合成転移RNAのアンチコドンループは、例えば、8~12、好ましくは9~11、さらに好ましくは、9または10ヌクレオチドからなり得る。9ヌクレオチドからなるアンチコドンループが特に好ましい。
【0040】
本発明の合成tRNAの拡張アンチコドンループは、mRNA上の2つの連続する3塩基コドンに塩基対合するよう構成された2つの連続する3塩基アンチコドンを含み、このmRNAは、好ましくは、早期終結コドン(PTC)を運ぶ標的mRNAである。3塩基アンチコドンのうちの1つは、mRNA上の3塩基終止コドンに塩基対合するよう構成されているのに対し、隣接する3塩基アンチコドンは、好ましくは、mRNA上の3塩基終止コドンに対して手前または次の、すなわち5’または3’側のセンスコドンに塩基対合するよう構成されている。用語「手前の」または「次の」は、mRNAの翻訳の方向、すなわち5’-3’方向に関する。
【0041】
本発明の合成tRNAの拡張アンチコドンループにおけるアンチコドンペアの一例がUGCUCA(5’-3’方向;3’-5’方向ならACUCGU)で、mRNAのUGAGCA(5’-3’)と一致しており、このときUCAは終止コドンUGAと塩基対合でき、UGCは、アラニンをコードするコドンGCAと塩基対合できる。
【0042】
2つの連続する3塩基アンチコドンが、転移RNAの拡張アンチコドンループに非対称に配置されていると好ましい。本文脈における「非対称に配置されている」とは、2つの連続する3塩基アンチコドン(「アンチコドンタンデム」)からなる6nt配列が、アンチコドンアームの二次元的表現において、アンチコドンアームのステムを長手方向に走り、かつアンチコドンループの方向に延びた仮想対称軸からずれて配置されていることを意味する(
図2も参照)。例えばアンチコドンタンデムは、アンチコドンタンデムを形成する6個のヌクレオチドのうち4個が軸の片側にあり、残りの2個のヌクレオチドが軸の反対側にあるようにアンチコドンループ内に配置され得る。つまり、アンチコドンループ内で、tRNAの3’末端側と5’末端側でアンチコドンタンデムに隣接するヌクレオチドの数は同じではない。3’末端側でアンチコドンタンデムに隣接するアンチコドンループ内のヌクレオチドの数が、5’末端側で隣接する数よりも多いことも、逆のこともあり得る。この文脈で注意すべきは、アンチコドンループにおけるアンチコドンタンデムの非対称配置では、アンチコドンタンデムの半分以上が軸の片側にあることのみが求められており、必ずしもヌクレオチド全体である必要はない。対称配置では、アンチコドンタンデムは軸の片側に3個のヌクレオチドが、軸の反対側にもう3個がくるように配置される。
【0043】
本発明の合成転移RNAの好ましい実施形態では、2つの連続する3塩基アンチコドンは合成転移RNAの3’末端側にずれている。すなわちアンチコドンループ内では、5’末端側でアンチコドンタンデムに隣接するヌクレオチドの方が多い。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、合成転移RNAは、翻訳の読み飛ばしを促進するようさらに最適化、すなわち構造的に修飾されている。したがって本発明のtRNAは、構造的に、つまりそのヌクレオチド配列に関して、tRNA本体が、in vivoで最大限に読み飛ばすために用いる特定のアンチコドンタンデムおよび/またはアンチコドンループに合うよう設計されていると好ましい。例えばtRNAは、アンチコドンアーム以外の部分、例えばTアーム、Dアーム、または可変ループのヌクレオチド組成に関してさらに修飾され得る。用語「翻訳の読み飛ばし」は、その配列内に早期終止コドン(PTC)を有するmRNAから完全タンパク質を合成することに関する。すなわち、野生型タンパク質と比べてアミノ酸が不足していても、完全な機能タンパク質が得られるように、PTCを有するmRNAを、PTCを越えて翻訳することに関する。「翻訳の読み飛ばしを促進する」という表現は、さらに修飾されたtRNAの存在下では、さらに修飾されていないtRNAが関与する翻訳と比べて、PTCを有するmRNAから完全タンパク質が合成される割合が高いことに関する。
【0045】
好ましい実施形態では、Tステムは、第1の5ヌクレオチドであるTステム配列AGGGG、および第2の5ヌクレオチドであるTステム配列CCCCUからなるよう修飾され、第2のTステム配列は、第1のTステム配列に相補的であり、かつTループの後ろにtRNAに関して5’-3’方向に配列されている。したがってTアームは、5’-AGGGG-(Tループ)-CCCCU-3’の構造を有する。典型的なtRNA(
図3参照)では、配列AGGGGはtRNAの標準的なコンセンサス番号付けによる位置49~53を、対応する(5’-3’方向の)ヌクレオチド配列CCCCUは位置61~65を占める。
【0046】
さらに本発明のtRNAは、追加的または代替的に、Dアームの配列が修飾され得る。例えば本発明のtRNAは、配列GCGCAGCCUGGUAGCGC(SEQ ID番号:31)を含むDアームを有するよう修飾され得る。好ましい実施形態では、本発明のtRNAは、前述のTステム配列およびSEQ ID番号:31のDアーム配列を有する。
【0047】
また本発明のtRNAの可変ループは、翻訳の読み飛ばしを促進するために修飾され得る。可変ループは単独で、またはTステムおよび/またはDアームとともに修飾され得る。例えば、SEQ ID番号:54(UUGGGGCCGCGCGGUCCCGG)で示される天然tRNASec(セレノシステインtRNA)の可変ループ、またはその修飾された変異体を組み入れ得る。tRNASecVループの修飾された変異体は、短縮または拡張された配列、または1つもしくは複数のヌクレオチドが他のヌクレオチドに置き換えられた配列を含み得る。
【0048】
本発明による合成転移RNAは、アミノアシル化され得る。すなわち、その受容ステムの末端でアミノ酸またはジペプチドを運ぶ。好ましくは、tRNAは、アンチコドンペアの1つと塩基対合するセンスコドンによってコード化されているアミノ酸、または早期終結コドンに変異し、かつもう1つのアンチコドンペアと塩基対合するコドンによってコード化されているアミノ酸でアミノアシル化されている。本発明の合成tRNAは、単一のアミノ酸またはジペプチドで、化学的および/または酵素的にアミノアシル化できる。ジペプチドでのtRNAの負荷は、当業者に既知の方法(例えば、非特許文献17参照)で実現できる。例えば、遺伝子組み換え細菌のtRNAシンテターゼまたはRNAベースの触媒を、ジペプチドでtRNAをアミノアシル化するのに使用し得る。ジペプチドは、好ましくは、合成tRNAに存在するアンチコドンペアに対応するコドンペアによってコード化されたアミノ酸からなる。そのようなジペプチドでアミノアシル化された合成tRNAを使用することで、PTCを意図的に抑制し、非短縮タンパク質を産生できるだけでなく、野生型タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質を産生できる。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明の合成転移RNAは、a)SEQ ID番号:03~07、09~17、19~23、25~30、46~50、もしくは55~57に従った配列のうちの1つ、またはb)SEQ ID番号:03~07、09~17、19~23、25~30、46~50、もしくは55~57に従った配列のうちの1つと少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列、またはc)上記a)もしくはb)の配列であって、ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている配列を有する、または含む。用語「対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている」は、配列、例えばSEQ ID番号:03の所定の位置にある非修飾ヌクレオチド、例えばシチジンヌクレオチド(C)が、対応する修飾ヌクレオチド、例えば2’-O-メチルシチジン(cm)、3-メチルシチジン(m3c)、または5-メチルシチジン(m5c)で置き換えられていることを意味する。本発明の合成転移RNAは、例えば、10、20、または30個より多い修飾ヌクレオチドを含む配列を有し得る、または含み得る。
【0050】
好ましい実施形態では、合成転移RNAは、a)CUCAGUUAGA(SEQ ID番号:51)、CUCAGUUAAA(SEQ ID番号:52)、ACUCAGUUAG(SEQ ID番号:53)、CUCAGUUAG、CUCAGUUAA、CUCAGUUAU、AUCAGUUAG、およびACUCAGUUAからなる配列の群から選択される配列を含むアンチコドンループ、またはb)CUCAGUUAGA(SEQ ID番号:51)、CUCAGUUAAA(SEQ ID番号:52)、ACUCAGUUAG(SEQ ID番号:53)、CUCAGUUAG、CUCAGUUAA、CUCAGUUAU、AUCAGUUAG、およびACUCAGUUAからなる配列の群から選択される配列を含むアンチコドンループであって、ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられているアンチコドンループを有する。配列CUCAGUUAGA(SEQ ID番号:51)、CUCAGUUAAA(SEQ ID番号:52)、ACUCAGUUAG(SEQ ID番号:53)、CUCAGUUAG、CUCAGUUAA、CUCAGUUAU、AUCAGUUAG、およびACUCAGUUAはそれぞれ、10(SEQ ID番号:51~53)または9ヌクレオチドを含む拡張アンチコドンループの配列(以下の表3参照)を含む。各アンチコドンループはアンチコドンタンデムCAGUUAを含み、これらの実施形態に従った転移RNAは、嚢胞性線維症で使用するための、例えばCFTRにおけるY1092X変異を修正するための薬剤として特に有用である。
【0051】
特に好ましくは、G-CまたはC-G対が、アンチコドンループの方向でアンチコドンステムの末端に配置されている、すなわち、アンチコドンループに隣接するアンチコドンステムのヌクレオチドが、G-CまたはC-G対を形成する。
【0052】
明確にするために、本発明の合成転移RNAは、任意の修飾ヌクレオチドを含むよう合成されていてもいなくてもよいことに注意する必要がある。したがって、本発明の合成転移RNAは任意の修飾ヌクレオチドを含んでいなくてもよい。とはいえ、細胞に入った後、その合成tRNAの1つまたは複数のヌクレオチドは、細胞酵素機構により細胞内で修飾され得る。その結果、修飾ヌクレオチドなしに設計、合成、および投与された本発明の合成tRNAは、生細胞で、細胞が行った修飾により、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含み得る。つまり、本発明の合成tRNAが、何らかの修飾ヌクレオチドを含まずに合成および投与され、修飾を細胞に委ねると好ましい。
【0053】
本発明の合成tRNAは、投与前にすでに修飾ヌクレオチドを含んでいるように修飾ヌクレオチドで合成される場合、好ましくは、以下の修飾ヌクレオチド(表1)の1つまたは複数を含む。
【0054】
【0055】
m1g、1-メチルグアノシン;am、2’-O-メチルアデノシン;cm、2’-O-メチルシチジン;gm、2’-O-メチルグアノシン;Ψ、プソイドウリジン;m2g、N2-メチルグアノシン;ac4c、N4-アセチルシチジン;d、ジヒドロウリジン;m22g、N2、N2-ジメチルグアノシン;m2g、N2-メチルグアノシン;I、イノシン;m5c、5-メチルシチジン;mcm5u、5-メトキシカルボニルメチルウリジン;mcm5s2u、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン;ncm5u、5-カルバモイルメチルウリジン;ncm5um、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン;q、キューオシン;m5c、5-メチルシチジン。
【0056】
さらなる態様では、本発明は、薬剤として使用するための、本発明の第1の態様に従った合成転移RNAに関する。本発明の転移RNAは、タンパク質の欠如または機能障害を引き起こすPTCと関連する疾患、特に、mRNAの翻訳を早期停止させるナンセンス変異に少なくとも部分的に起因する疾患を有する患者の治療にとりわけ有用である。本発明のtRNAを有利に適用し得る疾患の例に、嚢胞性線維症、神経線維腫症1型、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、またはハーラー症候群がある。tRNAを細胞に送達するのに好適な組成または手段は既知であり、アデノ随伴ウイルス(AAV)をベースとするウイルスベクターなどのウイルスベクター、ナノ粒子への封入、またはナノ粒子への結合などがある。
【0057】
好ましい実施形態では、本発明による合成転移RNAは、嚢胞性線維症を治療する薬剤として使用するよう設計されており、拡張アンチコドンループの2つの連続する3塩基アンチコドンが配列CAGUUAを含む。合成転移RNAは、例えば、a)CUCAGUUAGA(SEQ ID番号:51)、CUCAGUUAAA(SEQ ID番号:52)、ACUCAGUUAG(SEQ ID番号:53)、CUCAGUUAG、CUCAGUUAA、CUCAGUUAU、AUCAGUUAG、およびACUCAGUUAからなる配列の群から選択される配列、またはb)CUCAGUUAGA(SEQ ID番号:51)、CUCAGUUAAA(SEQ ID番号:52)、ACUCAGUUAG(SEQ ID番号:53)、CUCAGUUAG、CUCAGUUAA、CUCAGUUAU、AUCAGUUAG、およびACUCAGUUAからなる配列の群から選択される配列であって、ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている配列を含むアンチコドンループを有し得る。特に好ましくは、合成転移RNAは、9ヌクレオチドからなる拡張アンチコドンループを有する。アンチコドンタンデムCAGUUAを含む拡張9ntヌクレオチドアンチコドンを有する好適なtRNAの一例は、SEQ ID番号:6の配列を含む転移RNA、またはSEQ ID番号:6の配列で、ヌクレオチドの少なくとも1つが、対応する修飾ヌクレオチドに置き換えられている。
【0058】
以下に、例示のみを目的とした実施例および添付の図面によって本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】本発明の合成tRNAおよび標的mRNAの概略図である。
【
図2】本発明の合成Ala-tRNAの一部の実施形態である。Nは任意のヌクレオチドである。
【
図3】一般化した「コンセンサス」tRNA構造の概略図、およびtRNA番号付け規則に従った番号。
【
図4】TGA終止コドンと対合する3ntアンチコドンを有するtRNA
Ala変異体を用いた、TGA終止コドンを含むGFPコード配列を有するプラスミドによるGFP発現を示すウェスタンブロット(図の上部)。対照(図の下部):ハウスキーピングGAPDH遺伝子の発現。WT=野生型GFP;陰性対照:84=GFP遺伝子を含まないプラスミドを発現する細胞;TGA=終止コドンを有するGFP、サプレッサーtRNAなし;NAV=空pBST NAV2ベクター。
【
図5A】拡張アンチコドンループを有するtRNAを用いて、終止コドンを持たないCFPとmCherryの間に挟まれたナンセンス変異Y1029Xに隣接するCFTR遺伝子からの11nt挿入を含むプラスミドpECFP-C1からmCherry蛍光タンパク質の発現を調べる実験をHeLa細胞で行った結果。mCherry蛍光を検出するFACSでmCherry発現を観察した。C=HeLa細胞のみ;CP=レポーターを持つ形質転換したpECFP1、サプレッサーtRNAなし;T1、T2=レポーター、および拡張アンチコドンループを有する対応するサプレッサーtRNAを持つ同時形質転換したpECFP1を有する(T1、T2=tRNA-L1、2)。
【
図5B】拡張アンチコドンループを有するtRNAを用いて、終止コドンを持たないCFPとmCherryの間に挟まれたナンセンス変異Y1029Xに隣接するCFTR遺伝子からの11nt挿入を含むプラスミドpECFP-C1からmCherry蛍光タンパク質の発現を調べる実験をHeLa細胞で行った結果。mCherry蛍光を検出するFACSでmCherry発現を観察した。C=HeLa細胞のみ;CP=レポーターを持つ形質転換したpECFP1、サプレッサーtRNAなし;T3、T4=レポーター、および拡張アンチコドンループを有する対応するサプレッサーtRNAを持つ同時形質転換したpECFP1を有する(T3、T4=tRNA-L3、4)。
【
図5C】拡張アンチコドンループを有するtRNAを用いて、終止コドンを持たないCFPとmCherryの間に挟まれたナンセンス変異Y1029Xに隣接するCFTR遺伝子からの11nt挿入を含むプラスミドpECFP-C1からmCherry蛍光タンパク質の発現を調べる実験をHeLa細胞で行った結果。mCherry蛍光を検出するFACSでmCherry発現を観察した。C=HeLa細胞のみ;CP=レポーターを持つ形質転換したpECFP1、サプレッサーtRNAなし;T5、T6=レポーター、および拡張アンチコドンループを有する対応するサプレッサーtRNAを持つ同時形質転換したpECFP1を有する(T5、T6=tRNA-L5、6)。
【
図5D】拡張アンチコドンループを有するtRNAを用いて、終止コドンを持たないCFPとmCherryの間に挟まれたナンセンス変異Y1029Xに隣接するCFTR遺伝子からの11nt挿入を含むプラスミドpECFP-C1からmCherry蛍光タンパク質の発現を調べる実験をHeLa細胞で行った結果。mCherry蛍光を検出するFACSでmCherry発現を観察した。C=HeLa細胞のみ;CP=レポーターを持つ形質転換したpECFP1、サプレッサーtRNAなし;T8、T9=レポーター、および拡張アンチコドンループを有する対応するサプレッサーtRNAを持つ同時形質転換したpECFP1を有する(T8、T9=tRNA-L8、9)。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1は、本発明の合成tRNAおよび標的mRNAの概略図を示す。本発明の合成tRNA 1はtRNAヌクレオチド11からなり、CCA末端10を有する受容ステム2、TΨCループ6を有するTアーム3、Dループ7を有するDアーム4、ならびに5ヌクレオチドのステム部分8およびアンチコドンループ9を有するアンチコドンアーム5を備える天然tRNAの一般的なクローバーリーフ構造を有する。アミノ酸14は、受容ステム2のCCA末端10に結合している。9ヌクレオチド11からなる拡張アンチコドンループ9は、2つの連続する3塩基アンチコドン12、13を含む。第1の3塩基アンチコドン12(斜線入りの円)は、mRNAヌクレオチド16からなる標的mRNA15上の第1の3塩基コドン17(同様に斜線入り)に塩基対合することができる。第2の3塩基アンチコドン13(黒塗りの円)は、mRNA15上の第2の3塩基コドン18(同様に黒塗り)に塩基対合することができる。第1の3塩基コドン17は早期終結コドン(PTC)であり得、第2の3塩基コドン18はアミノ酸、例えば、アラニンをコードし得、またはその逆もあり得る。自然発生tRNAにおいてTアームとアンチコドンアームの間に存在することの多い可変ループは、ここでは省略している。
【実施例】
【0061】
本発明の合成tRNAのin silico設計。
別段の指示がない限り、配列はすべて5’-3’方向に記述する。すべての配列において、マイナス記号(ハイフン「-」)を使用する場合は明確性のみを目的としており、物理的なヌクレオチドを指してはいない。ページ上で配列を整える印刷の体裁上の慣例にすぎない。また、明示的に別段の定めをしない限り、塩基には、前述のtRNA規則に従わず、単に連続的に番号を付けている。
【0062】
まず、自然発生ヒトLeu tRNAをそのアンチコドンループのみ修飾した。
元のヒトtRNA-Leu(M2GAA)(GenBank受託番号:X04700.1;下線はアンチコドン)、SEQ ID番号:01:
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUNAAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0063】
上記の自然発生tRNAは、細胞から単離すると、その配列に修飾塩基を含み、これは上記配列においてNまたは対応する非修飾塩基で表される。一例として、位置35(前述の特定のtRNA番号付け規則では位置34に相当)のNはm22g(2,2-ジメチルグアノシン)を表す。
【0064】
ロイシン(leu、L)をコードするコドンの隣が終止コドン(X)となるCFTRにおける変異を修正するために、以下のようにtRNAを設計した。
5’-CAGUUA-3’ 次のコドンに相補的な6ntアンチコドンペア:
3’-GUCAAU-5’ mRNA配列(5’-終止-leu-3’)が認識されることになる。
【0065】
通常のアンチコドンの1塩基のみが修飾された天然tRNAに基づくtRNAに加えて、拡張アンチコドンループを有する5個のtRNAを設計した(設計1.1~1.5)。上述のように、修飾ヌクレオチドは、修飾された配列に存在してもしなくてもよい。すなわち、設計したtRNAについて以下に示した配列は、非修飾塩基の代わりに1つまたは複数の対応する修飾ヌクレオチドを含み得る。修飾ヌクレオチドの数と種類は、天然tRNAテンプレートと同じでも異なっていてもよい。したがって、本発明の合成tRNAの配列における任意の非修飾ヌクレオチドは、対応する修飾ヌクレオチドと置き換え得る。ゆえに、設計したtRNAの以下の配列における記号A、C、G、またはUは、非修飾塩基または任意の対応する修飾塩基を表す。配列におけるAは、例えば、アデニンヌクレオチド(A)または対応する修飾ヌクレオチド、例えば、1-メチルアデノシン(m1a)を表し得る。in vitroで合成すると、tRNAは好ましくは修飾されないが、その後にin vitroで化学的および/または酵素的に修飾され得る。細胞に導入または組み入れられると、tRNAは、in vitroで非修飾ヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドのいずれで合成されたかにかかわらず、細胞によって修飾され得る。
【0066】
塩基Uが位置35(tRNA番号付け規則では34)で置換されたtRNA-Leu(UAA)、SEQ ID番号:02
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUUAAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0067】
設計1.1:tRNA-Leu CAGUUAアンチコドンペア(下線)、10ntアンチコドンループ、SEQ ID番号:03
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUCAGUUAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0068】
設計1.2:tRNA-Leu-CAGUUAアンチコドン、9ntアンチコドンループ(設計1.1と比べてC33を削除)、SEQ ID番号:04
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGAUCAGUUAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0069】
設計1.3:tRNA-Leu-CAGUUAアンチコドン、9ntアンチコドンループ(設計1.1と比べてU34を削除)、SEQ ID番号:05
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACCAGUUAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0070】
設計1.4:tRNA-Leu-CAGUUAアンチコドン、9ntアンチコドンループ(設計1.1と比べてG41を削除)、SEQ ID番号:06
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUCAGUUAUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0071】
設計1.5:tRNA-Leu-CAGUUAアンチコドン、9ntアンチコドンループ(設計1.1と比べてU42を削除)、SEQ ID番号:07
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUCAGUUAGUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0072】
最適なアンチコドンループの長さは9ntであった。
【0073】
設計1.4(CAGUUAアンチコドン、9ntアンチコドンループ(G41を削除))から開始し、サーマス・サーモフィルスのtRNA-Leuの結晶構造に基づいて、自然発生tRNAとの類似性が少ないさらなるLeu tRNA(6ntアンチコドンペアを有する)を設計した。
【0074】
サーマス・サーモフィルスのtRNA-Leu-CAG(3ntアンチコドン、配列はRCSBタンパク質構造データバンク識別名2bte.bによる;配列に存在する任意の修飾ヌクレオチドは、それぞれの非修飾ヌクレオチドによって表される).
【0075】
SEQ ID番号:08
GCCGGGGUGGCGGAAUGGGUAGACGCGCAUGACUCAGGAUCAUGUGCGCAAGCGUGCGGGUUCAAGUCCCGCCCCCGGCACCA
【0076】
これにより、上記の設計1.4(9ntアンチコドンループ)に基づく6ntアンチコドンペアを有する以下のtRNA-Leu-CAGUUA(Leu-終止)の設計に至った。
【0077】
設計2.1(SEQ ID番号:09):
GGCAGGCUGAGGGAGAUGGUCAACCUAGCCAGCUCAGUUAGCUGGCUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGCCUGCCACCA
【0078】
設計2.2(SEQ ID番号:10):
GACAGGCUGAGGGAGAUGGUCAACCUAGCAGCCUCAGUUAGGCUGCUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGCCUGUCACCA
【0079】
設計2.3(SEQ ID番号:11):
GCCAGCCUGAGGGAGAUGGUCAACCUAGCCAGCUCAGUUAGCUGGCUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGGCUGGCACCA
【0080】
設計2.4(SEQ ID番号:12):
GGCAGCCUGAGGGAGAUGGUCAACCUAGCAGCCUCAGUUAGGCUGCUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGGCUGCCACCA
【0081】
設計2.5(SEQ ID番号:13):
GCCAGCCUGAGGGAGAUGGUCAACCUAGGUGCCUCAGUUAGGCACCUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGGCUGGCACCA
【0082】
設計2.6(SEQ ID番号:14):
GCCAGCCUGAGGGAGAUGGUCAACCUACUGGACUCAGUUAGUCCAGUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGGCUGGCACCA
【0083】
設計2.7(SEQ ID番号:15):
GCCAGCCUGAGGGAGAUGGUCAACCUACCGGACUCAGUUAGUCCGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGGCUGGCACCA
【0084】
設計2.8(SEQ ID番号:16):
GCCAGCCUGAGGGAGAUGGUCAACCUACCUGCCUCAGUUAGGCAGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGGCUGGCACCA
【0085】
設計2.9(SEQ ID番号:17):
GCCAGGCUGAGGGAGAUGGUCAACCUAGCUCACUCAGUUAGUGAGCUCUCCGGAUGGAGCGUGGCUUCGAAUGCCACGCCUGGCACCA
【0086】
ここでも、合成tRNAの設計用テンプレートとして用いられた天然配列に存在する任意の修飾ヌクレオチドは、設計した配列に存在してもしなくてもよい。したがって、上記で設計したtRNAは、非修飾塩基の代わりに1つまたは複数の対応する修飾ヌクレオチドを含んでも含まなくてもよい。
【0087】
CFTR遺伝子(R553X)でさらなる終止変異(位置553)を修正するために、グルタミン(Q)およびアラニン(A)をコードするコドンが両側にあり、アルギニン(R)をコードする野生型コドンCGAを終止コドン(遺伝子レベルでTGA)に変異させる。
CAA CGA GCA (野生型ヌクレオチド配列)
Q R A (野生型アミノ酸配列)
CAA TGA GCA (変異ヌクレオチド配列)
Q X A (変異ヌクレオチド配列)
tRNAは、6ntアンチコドンペア(UGCUCA)を有し、アラニン(Ala、A)でアミノアシル化されるよう、すなわち、Ala-tRNAと同一性を持つよう設計した(mRNAの3’方向)。
【0088】
終止コドンを読み飛ばし、翻訳するタンパク質にAlaを送達できるtRNAを設計することを目的とした(短縮タンパク質の産生に至る変異によって生じた早期終止コドンを読み飛ばす)。
5’-UGCUCA-3’ 以下の2つのコドンに相補的な6ntアンチコドンペア
3’-ACGAGU-5’ mRNA配列(5-終止-Ala-3’;XA)が認識される。
【0089】
Leu-tRNAと同様に、まず天然ヒトAla-tRNAを最小限に、すなわちアンチコドンループのみ変化させた。ここでも、配列における任意の修飾ヌクレオチドはその非修飾同等物で表され、天然tRNAに基づいて設計した合成tRNAは、天然配列の修飾ヌクレオチドの全部または一部を含んでも含まなくてもよい。また設計したtRNAは、天然配列および/または別の位置に存在するものよりも多い、またはそれ以外の修飾ヌクレオチドを含み得る。
【0090】
tRNA-Ala-AGC(SEQ ID番号:18)、自由3’末端ACCAを持たない:
GGGGAAUUAGCUCAAAUGGUAGAGCGCUCGCUUAGCAUGCGAGAGGUAGCGGGAUCGAUGCCCGCAUUCUCC
【0091】
設計3.1(10ntアンチコドンループ)(SEQ ID番号:19)
GGGGAAUUAGCUCAAAUGGUAGAGCGCUCGCUUUGCUCAAUGCGAGAGGUAGCGGGAUCGAUGCCCGCAUUCUCCACCA
【0092】
設計3.2(9ntアンチコドンループ)(SEQ ID番号:20)
GGGGAAUUAGCUCAAAUGGUAGAGCGCUCGCUUGCUCAAUGCGAGAGGUAGCGGGAUCGAUGCCCGCAUUCUCCACCA
【0093】
設計3.3(9ntアンチコドンループ)(SEQ ID番号:21)
GGGGAAUUAGCUCAAAUGGUAGAGCGCUCGCUUUGCUCAUGCGAGAGGUAGCGGGAUCGAUGCCCGCAUUCUCCACCA
【0094】
設計3.4(9ntアンチコドンループ)(SEQ ID番号:22)
GGGGAAUUAGCUCAAAUGGUAGAGCGCUCGCUUUGCUCAAGCGAGAGGUAGCGGGAUCGAUGCCCGCAUUCUCCACCA
【0095】
実験から、10ntおよび9ntアンチコドンループを有するtRNAのいずれも、自然発生tRNAに対応する二次構造を形成し、一本鎖のCCA末端は無傷だった。tRNAはすべてアミノアシル化できた。
【0096】
Ala-tRNAの設計1.4から開始し、tRNA本体が天然ヒトtRNAに対応しないように、さらなるAla-tRNAを設計した。
【0097】
tRNA-Ala-UGCUCA-設計3.4(SEQ ID番号:22)
GGGGAAUUAGCUCAAAUGGUAGAGCGCUCGCUUUGCUCAAGCGAGAGGUAGCGGGAUCGAUGCCCGCAUUCUCCACCA
【0098】
設計したtRNAの一般化した二次構造を
図2に表す(図に示す配列はSEQ ID番号:24で示される)。参照番号は、
図1に使用する番号に対応する。CCA末端部分を含む自由3’末端は示されていない。
図2でも、拡張アンチコドンループ9における2つの連続する3塩基アンチコドン(「アンチコドンタンデム」)13が、アンチコドンアーム5のステム8を長手方向に走り、かつアンチコドンループ9の方向に延びた仮想対称軸19に対して非対称配置であることが示されている。アンチコドンタンデム13はtRNAの3’末端に対してずれて配置されている。
【0099】
Ala-tRNAに基づき、2×3ntアンチコドンを含む9ntアンチコドンループを有し(
図2)、3’末端部分を含むtRNAの配列は以下のとおりである(SEQ ID番号:23)。
GGGGNNNUAGCUCAGNNGGUAGAGCGNNNNNCU
UGCUCAANNNNNANGNCNNNNGUUCGAUCCNNNNNNNCUCCACCA
【0100】
本発明の他の合成tRNAに関連して既に述べたように、記号G、C、A、またはUは、非修飾塩基または任意の対応する修飾塩基を表し得る。したがって、上記で設計したtRNAは1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含み得る。
【0101】
塩基が、
図2に示す塩基対合に反しないとすると、Nは塩基A、C、G、もしくはU、または任意の修飾塩基を表す。許容される塩基対は、G-C、C-G、A-U、U-A、ならびにG-U、U-G、I-U、U-I、I-A、A-I、およびI-C、C-Iのようなゆらぎ塩基対である。
【0102】
図3は、5’末端の1で始まり、3’末端の76で終わる一般化された「コンセンサス」tRNAに適用される慣例的な番号付けに従って番号付けされたtRNAの一例を表す。そのような「コンセンサス」tRNAにおいて、天然アンチコドントリプレットのヌクレオチドは、手前のヌクレオチドの実際の番号にかかわらず、常に位置34、35、および36にある。ここに示すtRNA以外に、tRNAは、例えば、Dループの位置1と34の間に追加的なヌクレオチドも含み得る。追加的なヌクレオチドは、英字を追加して、例えば20a、20bなどのように番号付けし得る。例えば上記の表1に示す修飾ヌクレオチドが、配列に存在し得る。
【0103】
効率的に読み飛ばすためにtRNA本体配列を最適化する。
天然ヒトtRNAAlaに基づく異なるtRNA(n1~n6、SEQ ID番号:33~38)をin vitroで合成した。すべてのtRNAが、アンチ終止コドン(すなわち、終止コドンに相補的なアンチコドン)を含む同じ非拡張アンチコドンループを有していた。このために、tRNA配列を有するオリゴヌクレオチドをT7プロモーター配列(SEQ ID番号:32)とライゲーションさせ、T7をベースとするin vitro転写系でtRNAを生成させた。次いで、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を用いてtRNAを精製した。
【0104】
設計したtRNAのT7プロモーター促進転写用テンプレートを、T7プロモーター配列(5’-TAATACGACTCACTATA-3’、SEQ ID番号:32)を含む各tRNAの全長をカバーする2つの重複するDNAオリゴヌクレオチド(市販品)でアニーリングおよびプライマー伸長を行って作成した。いずれのオリゴヌクレオチドも95℃で2分間変性させ、その部分的な重複領域を、0.2M Tris-HCl(pH7.5)中で、室温で3分間インキュベートしてアニーリングした。DNAテンプレートを満たすために、すなわちヌクレオチド鎖を延長させ、完全に二本鎖のDNA(dsDNA)を生成するために、0.4mM dNTP、4U/μL RevertAid Reverse Transcriptase(RT、Thermo Fisher)、および1×RT緩衝液を、アニーリングしたオリゴヌクレオチドに添加し、反応物を37℃で40分間インキュベートした。DNAテンプレートはフェノール/クロロホルムで精製した。
【0105】
追跡実験に合わせて、tRNAのin vitro T7促進転写を2種類の規模で実施した。tRNA完全性のin vitro解析のために、37℃で一晩、40mM Tris-HCl(pH7.0、6mM MgCl2、10mM DTT、10mM NaCl、2mMスペルミジン、2mM NTP、1.25~5mM GMPを含有)中の1μgテンプレートDNAおよび30 U T7 RNAポリメラーゼ(Thermo Fisher)を用いた。tRNAはエタノールで沈殿させ、10%変性ポリアクリルアミドゲルで分離し、50mM酢酸カリウム(KOAc)、200mM KCl pH7.0を用い、一定の振とう(1000rpm)下で、4℃で一晩溶出した。tRNAはエタノール沈殿で回収し、DEPC-H2O(DEPC=ピロ炭酸ジエチル)中で再懸濁した。
【0106】
真核細胞へのトランスフェクションでは多めの量が必要となるため、20μgテンプレートを、1×転写緩衝液中で、100mMの各NTP、100mM GMP、1.2 U T7 RNAポリメラーゼ(Thermo Fisher)と混合し、37℃で一晩インキュベートした。tRNAは前述のように精製し、DEPC-H2O中で再懸濁したのち、その後の使用のために-80℃で保管した。
【0107】
CCA末端の折り畳みと完全性を確認するために、tRNAは、フルオロフォア標識オリゴヌクレオチドを1:1の割合で用いて、25℃で1時間インキュベートし、次いでPAGEで分離した。蛍光標識は、Cy3標識RNA/DNAステムループオリゴヌクレオチドを、前述したtRNA(非特許文献18)の一般的な3’-NCCA末端にライゲーションさせて行った。蛍光オリゴヌクレオチドで標識したtRNAは蛍光撮像装置で可視化し、非標識tRNAよりもゆっくりと移動させることができた。設計したtRNA n1~n5を対照と比較した:天然tRNAAla(GGC)(SEQ ID番号:41)、天然tRNAAla(UGC)(SEQ ID番号:42)、アンチコドンをアンチ終止コドンtRNAAla(UCA)と置き換えただけの天然tRNAAla、SEQ ID番号:41、およびn6(設計における三次相互作用なし)、SEQ ID番号:38。標識(ライゲーションされた)tRNAと非標識(ライゲーションされていない)tRNAの比はライゲーション効率を示す(表2)。
【0108】
【0109】
設計したtRNAを、折り畳みとアミノアシル化の正確さについて試験した。tRNAの折り畳み反応およびアミノアシル化反応を、1mMアラニンおよび1μMの大腸菌アラニルtRNAシンテターゼを用いて行った。アミノアシル化したtRNAをエタノールで沈殿させ、2×酸性RNAローディングダイ(0.1M NaOAc pH4.8、8M尿素、5%グリセロール、0.025%ブロモフェノールブルー、0.025%キシレンシアノールFF含有)に直接溶解した。荷電および非荷電tRNA断片を、変性酸性PAGE(6.5%、8M尿素、0.1M NaOAc pH5.0)で4℃で分離した。tRNAはSYBR(登録商標)ゴールド(Invitrogen)染色で可視化した。
【0110】
アシル化させなかったn2を除いて、in vitroで設計したtRNAはすべて、天然tRNAAlaと同程度までアミノアシル化させた。
【0111】
GFPリードスルー(読み飛ばし)アッセイを用いて、非拡張アンチコドンループに終止コドンを含む設計したtRNAが、翻訳的に活性であるかどうかを試験した。このために、緑色蛍光タンパク質(GFP)のコード配列を含む翻訳系を用いた。GFPで28番目のアミノ酸をコードするコドンを終止コドンに置き換えた。終止コドンがあると、GFPは通常は発現しない。ただし、終止コドンに相補的なアンチコドンを有する設計したサプレッサーtRNAがこのコドンに対合する場合、GFPは発現する。この発現は、蛍光活性化細胞選別(FACS)装置またはウェスタンブロットで検出できる。
【0112】
このアッセイでは、緑色蛍光タンパク質が折り畳まれないように、GFPコード配列において1つのコドン(トリプレット)のみ終止コドンと置き換えられていること注意する必要がある。とはいえ、この方法は迅速であり、tRNA本体への修飾の効果を判定するのに使用できる(以下参照)。その後の実験のために、tRNAのアンチコドンループは変化させなかった。Ala-tRNAの天然アンチコドンのみ、アンチ終止コドンに変化させた。
【0113】
a)in vitro翻訳系、およびb)大腸菌発現系の2つの系を使用した。in vitro翻訳系の場合、発現はウェスタンブロットで、大腸菌を使用した場合はウェスタンブロット、および時にはFACSを用いて測定した。設計したtRNAは、翻訳と負荷に関して同じアーキテクチャを共有し、その翻訳能力は系とは無関係で、in vitro発現、および原核生物または真核生物におけるin vivo発現で使用できる。
【0114】
in vitro翻訳では、市販の系を使用した(Promega)。in vitro翻訳系では、まずtRNAをin vitroで転写し、1:10でプラスミドDNA(PTC、すなわち終止コドンを有するGFP)に添加した。30℃で1時間経過した後、反応混合物をPAGEで分離し、アリコートをGFP抗体で検出した。
【0115】
in vivo発現系では、設計したtRNAを、lppプロモーター下でpBST NAV2ベクターにクローン化した(非特許文献19)。XL1-青色細胞を、野生型GFPまたはPTC GFP変異体およびtRNA発現pBST NAV2ベクターを有するpBAD33プラスミドで同時形質転換し、LB培地で37℃で増殖させた。増殖曲線をOD600nmで記録した。OD600nm=0.4で0.05%L-アラビノースを用いてGFP変異体の発現を誘導した。OD600nm=1.0で細胞を収集し、GFP発現を、抗GFP抗体を用いて免疫ブロットで観察した。発現はハウスキーピングGAPDH遺伝子と比較した。並行して、細胞を収集、洗浄し、PBS緩衝液で再懸濁したのち、マイクロタイタープレートリーダー(Tecan GENios)を用いて、485nm励起および535nm放出フィルターでまとめて蛍光測定を行うか、またはFACS Calibur(Becton Dickinson)でフローサイトメトリーを行った。
【0116】
リードスルーアッセイには、TGA終止コドンに対合するために、その非拡張アンチコドンループにアンチ終止コドンを有するn1 tRNAAla変異体の設計した変異体を用い、翻訳の読み飛ばしを促進するTステムおよびDアームへの修飾の影響を判定するために、さらにそのTステムのみ、またはTステムとDアームの両方を修飾した。このために、前述したin vivo翻訳系を使用した。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)および野生型GFP(PTCを持たない)の翻訳を対照として使用した。
【0117】
Tステムを修飾したtRNAをTS1(SEQ ID番号:42)およびTS2(SEQ ID番号:43)と名付け、Tステムに加えてDアームも修飾したtRNAをDTS1(SEQ ID番号:44)およびDTS2(SEQ ID番号:45)と名付けた。
【0118】
TS1(SEQ ID番号:42);下線:アンチコドン;太字:Tステム
GGGGCGGUAGCUCAGAAGGGAGAGCAGCGGCCUUCAGAGCCGCGAGACUGCCCUUCGAUUGGGCACCGCUCCACCA
【0119】
TS2(SEQ ID番号:43);下線:アンチコドン;太字:Tステム
GGGGCGGUAGCUCAGAAGGGAGAGCAGCGGCCUUCAGAGCCGCGAGACAGGGGUUCGAUUCCCCUCCGCUCCACCA
【0120】
DTS1(SEQ ID番号:44);下線:アンチコドン;太字:Tステム;イタリック:Dアーム
GGGGCGGUAGCGCAGCCUGGUAGCGCAGCGGCCUUCAGAGCCGCGAGACUGCCCUUCGAUUGGGCACCGCUCCACCA
【0121】
DTS2(SEQ ID番号:45);下線:アンチコドン;太字:Tステム;イタリック:Dアーム
GGGGCGGUAGCGCAGCCUGGUAGCGCAGCGGCCUUCAGAGCCGCGAGACAGGGGUUCGAUUCCCCUCCGCUCCACCA
【0122】
TステムがAGGGG(位置49~53、tRNA規則に従って番号付け)およびCCCCU(位置61~65、tRNA規則に従って番号付け)のヌクレオチド配列、すなわち以下のTステム構造
3’-UCCCC-5’
5’-AGGGG-3’
を持つよう修飾したtRNA TS2(SEQ ID番号:43)は、読み飛ばしを示した(
図4のTS2参照)。AGGGG配列の3’末端にあるGとUCCCC配列の5’末端にあるCとの間にTループが存在することになる点に注意する必要がある。したがって、対応するTアームは、構造5’-AGGGG-(Tループ)-CCCCU-3’を有することになる。
【0123】
tRNA本体の他の構造を修飾した場合の、翻訳の読み飛ばしに対する影響を試験するために、Tステムを修飾した前述のtRNA(TS1およびTS2)をさらに修飾し、Dアームを大腸菌tRNA
ProのD領域と置き換えた。修飾したtRNAは、DTS1(SEQ ID番号:44)およびDTS2(SEQ ID番号:45)と名付けた。TステムとDアームを修飾したtRNA DTS2(SEQ ID番号:45)は、Tステムのみを修飾したtRNAよりも高い読み飛ばしを促進した(
図4のDTS2参照)。
【0124】
CFTRにおけるY1092X変異を修正するためにtRNALeuを使用。
CFTR遺伝子の位置3276にあるCをAまたはGに変化させて得た、修飾したtRNALeuを使用して、CFTRにおけるY1092X変異を修正した。
天然CFTR配列:TTGTACCTG
変異配列(C3276A):TTGTAACTG
【0125】
アンチコドンループに配列CAGUUAのアンチコドンタンデムを有する修飾したtRNAを設計するために、天然tRNALeu(SEQ ID番号:1参照)をテンプレートとして使用した。設計したtRNAは、in vivoでロイシン(Leu)でアミノアシル化できた。ロイシル-tRNAシンテターゼの同一性要素は変化しなかった。
【0126】
設計したtRNAが翻訳系で機能するかを試験するために、2つの蛍光タンパク質、すなわち黄色蛍光タンパク質(CFP)とmCherryで挟んだ変異CFTR配列(UUGUAACUG)を含む短配列を有するサンドイッチ構造を使用した。終止コドンを含まないCFPを、修復する遺伝子の一部(ここでは変異Y1029X近くのCFTR)であり、かつ終止コドンを含む11ヌクレオチド長を挿入して拡張した。tRNAアンチコドンループは、6個の連続するヌクレオチドに対合するために、相応に拡張した。終止コドンを含む挿入の後、(アミノ酸Metをコードする)最初のコドンなしにmCherryをクローン化し、それにより、mCherryの非依存的翻訳が起こり得ないようにした。バイシストロニックレポーター系では、CFPは常に変異の終止コドンまで発現されるのに対し、mCherryは読み飛ばしが行われたときのみ発現される。この発現は、蛍光活性化細胞選別(FACS)装置またはウェスタンブロットで検出できる。挿入のないプラスミドを対照として使用した。
【0127】
HeLa細胞におけるtRNA抑制を調べるために、10%FBS(ウシ胎児血清)および1%グルタミン(GIBCO)を補充したDMEM培地で、37℃、5%CO2でHeLa細胞を維持した。コトランスフェクションの前日に、6ウェルプレートに約200,000個の細胞を播種した。トランスフェクション混合物は、pECGFP-C1主鎖でクローン化したCFP-PTC-mCherryをコード化する600ngレポータープラスミド、150ngサプレッサーtRNA、200μL OptiMEM培地(Gibco)の5μL Lipofectamine2000(ThermoFisher 679 Scientific、米国)を含んでいた。細胞はトランスフェクション混合物を用いて6時間インキュベートした。その後、培地を新鮮培地と交換した。24時間後、細胞を1×PBSで洗浄し、FACS Calibur(Becton Dickinson)で解析した。解析は、50000イベントをカウントし、FSC Voltage E00および1.60 Amp Gainで、CFPの検出には波長400nm、mCherryの検出には520nmを用いて実施した。
【0128】
以下のtRNA変異体(下線はアンチコドンタンデム)を試験した(表3も参照)。
【0129】
tR-L1(SEQ ID番号:46)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCACCUCAGUUAGAGUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0130】
tR-L2(SEQ ID番号:47)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCACCUCAGUUAAAGUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0131】
tR-L3=tRNA Leu 設計1.1(SEQ ID番号:3)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUCAGUUAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0132】
tR-L4(SEQ ID番号:48)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCACCUCAGUUAGGUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0133】
tR-L5(SEQ ID番号:49)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCACCUCAGUUAAGUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0134】
tR-L6(SEQ ID番号:50)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCACCUCAGUUAUGUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0135】
tR-L8=tRNA Leu 設計1.2(SEQ ID番号:4)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGAUCAGUUAGUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0136】
tR-L9=tRNA Leu 設計1.4(SEQ ID番号:6)
GUCAGGAUGGCCGAGUGGUCUAAGGCGCCAGACUCAGUUAUUCUGGUCUCCGGAUGGAGCGUGGGUUCGAAUCCCACUUCUGACACCA
【0137】
【0138】
tRNA変異体の配列はSEQ ID番号:3、4、6、46~50で示され、表3の10ntアンチコドンループの配列はSEQ ID番号:51~53で表される。
【0139】
修飾したtRNAはすべて、読み飛ばしについて試験した(
図5参照)。もっとも有望なtRNAは、大幅に読み飛ばし、mCherryを検出するtRL9(T9、
図5D、下のグラフ、SEQ ID番号:6)であった。さらに、アンチコドンループの全長が9ntで、アンチコドンタンデムの位置が非対称のとき、もっとも効果的であった。
【配列表】