(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】レーザ用電源装置及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/097 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
H01S3/097 A
(21)【出願番号】P 2021018988
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
(72)【発明者】
【氏名】山口 英正
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507791(JP,A)
【文献】特開平06-000666(JP,A)
【文献】特開平06-112558(JP,A)
【文献】特開昭63-224730(JP,A)
【文献】特開平02-248094(JP,A)
【文献】特開2002-237639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0069171(US,A1)
【文献】米国特許第04847854(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源と、
励振要求を受けると前記レーザ発振器を励振させ、シマー要求を受けると前記レーザ発振器をシマー放電させるように前記高周波電源を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、シマー放電を回避すべき期間に前記シマー要求を受けると、前記シマー要求を受けた時点から
当該回避すべき期間が終了した後にまで遅延させて、前記レーザ発振器
に、当該シマー要求によるシマー放電
を生じさせるレーザ用電源装置。
【請求項2】
前記シマー放電を回避すべき期間は、前記レーザ発振器を励振させる期間を含む請求項1に記載のレーザ用電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記レーザ発振器を励振させる期間に前記シマー要求を受けると、前記シマー要求を受けた時点から予め定められた時間だけ遅延させて、前記レーザ発振器をシマー放電させる請求項2に記載のレーザ用電源装置。
【請求項4】
前記レーザ発振器から出力されたレーザビームを検知する光検知器からの検知結果が前記制御装置に入力され、
前記制御装置は、
前記レーザ発振器を励振させる期間に前記シマー要求を受けると、前記光検知器からの検知結果に基づいて、前記レーザ発振器からのレーザビームの出力の終了後に前記レーザ発振器をシマー放電させる請求項2に記載のレーザ用電源装置。
【請求項5】
前記高周波電源に直流電力を供給する直流電源を、さらに備え、
前記制御装置は、
前記直流電源の出力電圧を測定してフィードバック制御を行い、
前記シマー放電を回避すべき期間は、前記直流電源の出力電圧を測定する期間を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザ用電源装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記直流電源の出力電圧を測定する期間に前記シマー要求を受けると、前記シマー要求を受けた時点から、予め定められた時間だけ遅延させて前記レーザ発振器をシマー放電させる請求項5に記載のレーザ用電源装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記直流電源の出力電圧を測定する期間に前記シマー要求を受けると、前記直流電源の出力電圧を測定する期間が終了した後に、前記レーザ発振器をシマー放電させる請求項5に記載のレーザ用電源装置。
【請求項8】
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源と、
前記高周波電源を制御する制御装置と、
加工対象物を保持し、前記レーザ発振器から出力されたレーザビームを前記加工対象物に入射させ、前記制御装置に対して励振要求及びシマー要求を与える加工機と
を備え、
前記制御装置は、
前記加工機から前記励振要求を受けると、前記高周波電源を制御して前記レーザ発振器を励振させ、
前記加工機から前記シマー要求を受けると、前記高周波電源を制御して前記レーザ発振器をシマー放電させ、
シマー放電を回避すべき期間に前記シマー要求を受けると、前記シマー要求を受けた時点から
当該回避すべき期間が終了した後にまで遅延させて、前記レーザ発振器
に、当該シマー要求によるシマー放電
を生じさせるレーザ加工装置。
【請求項9】
前記レーザ発振器から出力されたレーザビームを検知し、検知結果を前記制御装置に出力する光検知器を、さらに備え、
前記シマー放電を回避すべき期間は、前記レーザ発振器を励振させる期間を含み、
前記制御装置は、前記レーザ発振器を励振させる期間に前記シマー要求を受けると、前記光検知器からの検知結果に基づいて、前記レーザ発振器からのレーザビームの出力の終了後に前記レーザ発振器をシマー放電させる請求項8に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ用電源装置及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電電極を有するガスレーザ発振器において、パルスレーザビームを安定に出力させるために、放電電極に高周波短パルスを印加してシマー放電を生じさせる技術が公知である(特許文献1等参照。)。シマー放電により、レーザ媒質ガスが励振前にイオン化されることにより、パルスレーザビームの出力が安定化される。シマー放電の時間は、放電開始からレーザビームが出力されるまでの時間に比べて十分短い。このため、シマー放電によってレーザビームが出力されることはない。シマー放電は、通常、一定の周波数で繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高周波電源からレーザ発振器に、励振用の高周波電力及びシマー放電用の高周波電力が供給される。直流電源から高周波電源に直流電力が供給される。高周波電源に供給される直流電力の電圧(以下、DCリンク電圧という。)を所定の目標範囲内に維持するために、DCリンク電圧が測定される。レーザ発振器の励振期間及びシマー放電期間は、高周波電源からの高周波ノイズの影響によって、DCリンク電圧を安定して測定することが困難である。したがって、シマー放電中にDCリンク電圧の測定を行うことは好ましくない。シマー放電が終了してDCリンク電圧の測定を行うと、直流電源の制御に遅れが生じる場合がある。
【0005】
DCリンク電圧が所定の目標範囲から外れている場合は、DCリンク電圧が所定の目標範囲に収まるまで、レーザ発振器の励振を待機させる必要がある。DCリンク電圧を目標範囲に収める制御に遅れが生じると、レーザ発振器の励振開始までの待機時間が長くなる場合がある。
【0006】
また、シマー放電を生じさせるタイミングが、レーザ発振器を励振させる期間に重なると、シマー放電を生じさせる処理は実行されない。この場合、シマー放電発生の頻度が低下してしまう。シマー放電発生の頻度の増減は、レーザ発振器からの出力の安定性に影響を与えてしまう。
【0007】
本発明の目的は、適切にシマー放電を発生させて、レーザ発振器からの出力の安定化を図ることが可能なレーザ用電源装置及びレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によると、
レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源と、
励振要求を受けると前記レーザ発振器を励振させ、シマー要求を受けると前記レーザ発振器をシマー放電させるように前記高周波電源を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、シマー放電を回避すべき期間に前記シマー要求を受けると、前記シマー要求を受けた時点から当該回避すべき期間が終了した後にまで遅延させて、前記レーザ発振器に、当該シマー要求によるシマー放電を生じさせるレーザ用電源装置が提供される。
【0009】
本発明の他の観点によると、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器に高周波電力を供給する高周波電源と、
前記高周波電源を制御する制御装置と、
加工対象物を保持し、前記レーザ発振器から出力されたレーザビームを前記加工対象物に入射させ、前記制御装置に対して励振要求及びシマー要求を与える加工機と
を備え、
前記制御装置は、
前記加工機から前記励振要求を受けると、前記高周波電源を制御して前記レーザ発振器を励振させ、
前記加工機から前記シマー要求を受けると、前記高周波電源を制御して前記レーザ発振器をシマー放電させ、
シマー放電を回避すべき期間に前記シマー要求を受けると、前記シマー要求を受けた時点から当該回避すべき期間が終了した後にまで遅延させて、前記レーザ発振器に、当該シマー要求によるシマー放電を生じさせるレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
シマー放電を回避すべき期間にシマー要求を受けると、シマー放電を遅延させるため、シマー放電を回避すべき期間にシマー放電が生じてしまうことによる種々の不都合が回避される。また、シマー放電を回避すべき期間に受けたシマー要求に対してシマー放電を行わないのではなく、遅延させてシマー放電を行うため、シマー放電の回数の減少が回避される。このため、一定時間におけるシマー放電の回数を所定の回数に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ加工装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、励振シマー要求RQ、高周波電力RF、レーザビームLB、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ、入力電流IL、コンデンサCの充電電流IC、電圧測定期間PV、DCリンク電圧VCのタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、励振シマー要求RQ、高周波電力RF、レーザビームLB、入力電流IL、電圧測定期間PV、及びDCリンク電圧VCのタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、他の実施例によるレーザ加工装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図4を参照して、本発明の一実施例によるレーザ用電源装置及びレーザ加工装置について説明する。
【0013】
図1は、本実施例によるレーザ加工装置のブロック図である。本実施例によるレーザ加工装置は、レーザ用電源装置10、レーザ発振器40、及び加工機50を含む。レーザ用電源装置10からレーザ発振器40に高周波電力RFが供給される。
【0014】
レーザ発振器40は、ガスレーザ発振器、例えば炭酸ガスレーザ発振器であり、一対の放電電極41を含む。レーザ発振器40に高周波電力RFが供給されると、一対の放電電極41の間で放電が生じ、レーザビームLBが出力される。レーザ発振器40から出力されたレーザビームLBは、加工機50に入力される。
【0015】
加工機50は、折り返しミラー51、ビーム走査器52、集光レンズ53、可動ステージ54、及び加工機制御回路55を含む。可動ステージ54に加工対象物60が保持される。加工機50に入力されたレーザビームLBは、折り返しミラー51で下方に向けて反射され、ビーム走査器52及び集光レンズ53を経由して加工対象物60に入射する。加工対象物60は、例えばプリント基板であり、レーザビームLBが入射することにより穴明け加工が行われる。なお、必要に応じて、レーザビームLBの経路にアッテネータ、ビームエキスパンダ、アパーチャ等を配置してもよい。
【0016】
ビーム走査器52はレーザビームLBを走査することにより、加工対象物60の表面においてレーザビームLBの入射位置を移動させる。ビーム走査器52として、例えば一対の揺動ミラーを含むガルバノスキャナが用いられる。集光レンズ53として、例えばfθレンズが用いられる。集光レンズ53は、レーザビームLBを加工対象物60の表面に集光させる。
【0017】
ビーム走査器52によってレーザビームLBの入射位置を移動させることにより、走査可能範囲内の加工が行われる。可動ステージ54を動作させて、加工対象物60の表面の加工すべき領域を、ビーム走査器52の走査可能範囲内に順次配置することにより、加工対象物60の表面の全域の加工が行われる。加工機制御回路55が、ビーム走査器52及び可動ステージ54を制御する。さらに、加工機制御回路55は、レーザ用電源装置10に対して、励振シマー要求RQを送る。励振シマー要求RQは、レーザ発振器40を励振させてレーザビームLBを出力させる要求、及びレーザ発振器40をシマー放電させる要求を含む。
【0018】
次に、レーザ用電源装置10について説明する。レーザ用電源装置10は、整流器30、直流電源20、高周波電源31、制御電源32、及び制御装置33を含む。
【0019】
外部の交流電源70から整流器30に三相交流電流が供給される。整流器30で整流された直流電流が直流電源20に供給される。直流電源20は、入力された直流電圧を所定の直流電圧に変換して、高周波電源31に直流電力を供給する。直流電源20の出力電圧を、DCリンク電圧VCということとする。高周波電源31は、直流電源20から供給された直流電力を高周波電力RFに変換し、レーザ発振器40に供給する。高周波電源31には、例えばインバータが用いられる。
【0020】
制御装置33が、加工機制御回路55から励振シマー要求RQを受ける。制御装置33は、励振シマー要求RQに基づいて直流電源20を制御するとともに、高周波電源31に動作指令OCを与えることにより高周波電源31を制御する。制御電源32が、交流電源70から供給される交流電力を直流電力に変換して制御装置33に供給する。
【0021】
図2は、直流電源20の等価回路図である。直流電源20は、スイッチングコンバータ21及びコンバータコントローラ22を含む。スイッチングコンバータ21は、ローサイドスイッチング素子Q1、ハイサイドスイッチング素子Q2、フリーホイールダイオードD1、D2、及びインダクタLを含む。これらの素子により、昇圧コンバータが構成される。
【0022】
整流器30、インダクタL、及びローサイドスイッチング素子Q1によって、1つの閉回路が構成される。ローサイドスイッチング素子Q1にフリーホイールダイオードD1が接続されている。さらに、整流器30、インダクタL、ハイサイドスイッチング素子Q2、及びコンデンサCによって、他の1つの閉回路が構成される。ハイサイドスイッチング素子Q2にフリーホイールダイオードD2が接続されている。
【0023】
スイッチングコンバータ21は、整流器30(
図1)から印加される電圧Vinを昇圧してコンデンサCを充電する。コンデンサCの端子間電圧が、高周波電源31に印加されるDCリンク電圧VCに等しい。コンデンサCは、高周波電源31に供給する電力を蓄える蓄電デバイスとして機能する。このようなコンデンサは、バンクコンデンサと呼ばれる場合がある。
【0024】
高周波電源31は、制御装置33からの動作指令OCに基づいて間欠動作する。高周波電源31の間欠動作に応じて、コンデンサCが放電され、レーザ発振器40の放電電極41に高周波電力RFが供給される。コンデンサCは、高周波電源31の1回の動作サイクルの放電過程において十分な電力を供給できる程度の大きな静電容量を持つ。
【0025】
コンバータコントローラ22は、制御装置33からの指令により、ローサイドスイッチング素子Q1及びハイサイドスイッチング素子Q2のオンオフを制御する。ローサイドスイッチング素子Q1のスイッチングを行うと、電圧Vinが昇圧されてコンデンサCの充電が行われ、DCリンク電圧VCが上昇する。ハイサイドスイッチング素子Q2のスイッチングを行うと、コンデンサCから整流器30に電力が戻され、DCリンク電圧VCが低下する。
【0026】
電流センサ23が、インダクタLを流れる入力電流ILを測定する。入力電流ILの測定値が制御装置33に入力される。電圧センサ24が、コンデンサCの端子間電圧であるDCリンク電圧VCを測定する。DCリンク電圧VCの測定値が制御装置33に入力される。
【0027】
図3は、励振シマー要求RQ、高周波電力RF、レーザビームLB、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ、入力電流IL、コンデンサCの充電電流IC、電圧センサ24による電圧測定期間PV、及びDCリンク電圧VCのタイミングチャートである。なお、
図3に示したレーザビームLB、電流、電圧等の波形は、増加減少の傾向を概略的に示しており、厳密な波形の形状を示しているわけではない。
【0028】
励振シマー要求RQの波形の立ち上がりが、高周波電力RFの供給開始の要求に相当し、波形の立ち下がりが、高周波電力RFの供給停止の要求に相当する。励振シマー要求RQは、立ち上がりから立ち下がりまでのパルス幅が相対的に長い励振要求RQeと、パルス幅が相対的に短いシマー要求RQsとに分類される。励振要求RQeは、レーザ発振器40を励振させてレーザビームLBを出力させることを要求する信号である。シマー要求RQsは、レーザ発振器40をシマー放電させることを要求する信号である。
【0029】
加工機制御回路55(
図1)は、励振要求RQeを、例えば1kHz~5kHz程度の周波数で繰り返し発生させ、シマー要求RQsを、例えば10kHz程度の一定の周波数で発生させる。
【0030】
励振要求RQeが立ち上がると(時刻t0)、制御装置33は高周波電源31を制御してレーザ発振器40の励振を開始させる。具体的には、高周波電源31からレーザ発振器40に、励振用の高周波電力RFeが供給されるように、高周波電源31に動作指令OCを与える。レーザ発振器40に励振用の高周波電力RFeが供給されると、レーザビームLBの出力が開始される。励振要求RQeが立ち下がると(時刻t1)、制御装置33は、レーザ発振器40の励振を停止させる。具体的には、高周波電源31を制御して、励振用の高周波電力RFeの供給を停止させる。これにより、レーザビームLBの出力が停止される。
【0031】
制御装置33は、レーザ発振器40の励振を開始させると同時に、ローサイドスイッチング素子Q1をオン状態にする。これにより、インダクタL及びローサイドスイッチング素子Q1を通って入力電流ILが流れる。入力電流ILは、時間の経過とともに増加する。
【0032】
制御装置33は、レーザ発振器40の励振を停止させた後、一定時間が経過した時刻t2において、ローサイドスイッチング素子Q1をオフ状態にする。これにより、入力電流ILは、インダクタL、フリーホイールダイオードD2、及びコンデンサCを通って流れる。入力電流ILは、時間の経過とともに減少し、時刻t3でほぼゼロになる。時刻t2からt3までの期間、コンデンサCに充電電流ICが流れる。
【0033】
高周波電源31がレーザ発振器40に励振用の高周波電力RFeを供給している期間(時刻t0~t1)は、DCリンク電圧VCが時間の経過とともに低下する。励振用の高周波電力RFeの供給が停止されると(時刻t1)、DCリンク電圧VCは一定値を保つ。コンデンサCに充電電流ICが流れる期間(時刻t2~t3)、DCリンク電圧VCが時間の経過とともに徐々に上昇に、ほぼ元の電圧値まで回復する。
【0034】
制御装置33は、所定のタイミングでDCリンク電圧VCを測定してフィードバック制御を行う。例えば、DCリンク電圧VCの測定値が目標範囲の下限値未満になったら、ローサイドスイッチング素子Q1をオンオフすることにより、コンデンサCを充電する。なお、時刻t0からt3までの期間は、DCリンク電圧VCが変動しているため、DCリンク電圧VCの測定は行わない。充電電流ICがゼロになり、DCリンク電圧VCが安定した時刻t3から、一定の期間(時刻t3~t4)、DCリンク電圧VCを測定する。制御装置33は、この期間内に電圧値を複数回測定し、得られた測定値の平均値を、DCリンク電圧VCの測定値として採用する。
【0035】
図3は、電圧測定期間PV(時刻t3~t4)に、制御装置33がシマー要求RQsを受けた例を示している。電圧測定期間PVにレーザ発振器40をシマー放電させると、高周波電源31の動作によってDCリンク電圧VCに高周波ノイズが重畳される。このため、正確なDCリンク電圧VCを測定することができない。
【0036】
制御装置33は、電圧測定期間PVには、レーザ発振器40をシマー放電させず、電圧測定期間PVが終了した後に、シマー放電させる。すなわち、矢印Dで示すように、シマー要求RQsを受けた時点から遅延させてシマー放電を開始させる。具体的には、制御装置33は、電圧測定期間PVの終了(時刻t4)を確認した後に、高周波電源31からレーザ発振器40にシマー用の高周波電力RFsが供給されるように(時刻t5)、高周波電源31に動作指令OCを与える。
【0037】
レーザ発振器40がシマー放電している期間は短いため、一対の放電電極41(
図2)の間のレーザ媒質ガスがイオン化されるが、レーザ発振は生じない。高周波電源31がレーザ発振器40にシマー用の高周波電力RFsを供給している期間、DCリンク電圧VCが徐々に低下する。
【0038】
制御装置33は、シマー放電期間中においても、励振期間中と同様にスイッチングコンバータ21を制御する。これにより、充電電流ICが流れ、DCリンク電圧VCがほぼ元の電圧値まで回復する。なお、シマー放電期間中においては、スイッチングコンバータ21を制御しなくてもよい。シマー放電で消費されるエネルギは、励振で消費されるエネルギに比べて極めて少なく、シマー放電による電圧降下は励振による電圧降下より極めて小さい。このため、DCリンク電圧VCがシマー放電によって低下しても、低下後のDCリンク電圧VCは許容範囲に収まる。シマー放電によって消費されたエネルギ相当分の電力は、次の励振期間中にスイッチングコンバータ21が動作することにより回復する。
【0039】
図4は、励振シマー要求RQ、高周波電力RF、レーザビームLB、入力電流IL、電圧測定期間PV、及びDCリンク電圧VCのタイミングチャートである。
【0040】
制御装置33(
図1)に、シマー要求RQsが一定の周期Psで入力される。制御装置33は、シマー要求RQsを受けるとレーザ発振器40をシマー放電させる。具体的には、制御装置33は高周波電源31を制御して、高周波電源31からシマー放電用の高周波電力RFsを出力させる。このとき、レーザ発振器40でレーザ発振は生じないため、レーザビームLBは出力されない。
【0041】
高周波電源31がレーザ発振器40にシマー放電用の高周波電力RFsを供給してる期間、DCリンク電圧VCが低下する。DCリンク電圧VCの低下に対応して、
図3を参照して説明したように、制御装置33がスイッチングコンバータ21を動作させてDCリンク電圧VCを回復させる。なお、
図3を参照して説明したシマー放電時の動作と同様に、シマー放電期間中においては、スイッチングコンバータ21を制御しなくてもよい。シマー放電によって消費されたエネルギ相当分の電力は、次の励振期間中にスイッチングコンバータ21が動作することにより回復する。
【0042】
図4に示した例では、1つのシマー要求RQsが励振要求RQeと重なっている。励振要求RQeに重なったシマー要求RQsを破線で表している。励振要求RQeと重なったシマー要求RQsについては、レーザ発振器40にシマー放電を生じさせることができない。
【0043】
制御装置33は、励振要求RQeを受けると、レーザ発振器40を励振させる。具体的には、高周波電源31を制御して、高周波電源31から励振用の高周波電力RFeを出力させる。これにより、レーザビームLBが出力される。このとき、
図3を参照して説明したように、入力電流ILが流れ、DCリンク電圧VCが変動する。
【0044】
制御装置33は、シマー要求RQsが励振要求RQeに重なっていることを検出する機能を持つ。例えば、励振要求RQeの直前のシマー要求RQsからの経過時間と、シマー要求RQsの周期Psとから、シマー要求RQsが励振要求RQeに重なっているか否かを判定することができる。
【0045】
制御装置33は、レーザ発振器40を励振させる期間にシマー要求RQsを受けると、矢印Dで示すようにシマー要求RQsを受けた時点から一定時間だけ遅延させてレーザ発振器40をシマー放電させる。例えば、DCリンク電圧VCを回復させるための入力電流ILが流れている期間に、制御装置33が高周波電源31からシマー放電用の高周波電力RFsを供給させる。レーザ発振器40がシマー放電することにより、DCリンク電圧VCが一時的に低下する。
【0046】
入力電流ILがゼロになった後の電圧測定期間PVに、
図3を参照して説明したように、制御装置33がDCリンク電圧VCを測定する。
【0047】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、
図3を参照して説明したように、制御装置33が、電圧測定期間PVにシマー要求RQsを受けると、電圧測定期間PVの終了までシマー放電を生じさせず、電圧測定期間PVの終了後に、シマー放電を生じさせる。電圧測定期間PVがシマー放電の期間と重ならなくなるため、シマー放電に起因するノイズの影響を受けることなく、DCリンク電圧VCを測定することが可能である。このため、DCリンク電圧VCの測定精度を高めることができる。
【0048】
シマー放電の開始を遅延させる代わりに、電圧測定期間PVを遅らせても、ノイズの影響を受けることなくDCリンク電圧VCを測定することが可能である。ただし、この場合には、DCリンク電圧VCの測定値を得るタイミングが遅れる。その結果、DCリンク電圧VCに基づくスイッチングコンバータ21の制御にも遅れが生じる。スイッチングコンバータ21の制御の遅れにより、DCリンク電圧VCが回復するまでの経過時間が長くなってしまう。
【0049】
レーザ発振の安定性を高めるために、DCリンク電圧VCが回復するまではレーザ発振器40を励振させることができない。上記実施例では、DCリンク電圧VCの回復に遅れが生じないため、短い周期での励振要求RQeに対応して、レーザ発振器40を励振させることができる。
【0050】
さらに上記実施例では、
図4に示したように、一つの周期のシマー要求RQsが励振要求RQeに重なった場合でも、制御装置33は、タイミングを遅らせてレーザ発振器40をシマー放電させる。このため、単位時間あたりのシマー放電の回数がほぼ一定に維持される。これにより、レーザ発振器40の励振時におけるレーザ媒質ガスのイオン化の程度が均一化され、レーザビームLBのパルスエネルギの安定化を図ることができる。
【0051】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、
図3を参照して説明したように、制御装置33が、電圧測定期間PVにシマー要求RQsを受けると、電圧測定期間PVが終了してからシマー放電を開始させる。変形例として、シマー要求RQsが与えられた時点から一定の遅延時間だけ遅らせて、シマー放電を開始させてもよい。この遅延時間は、電圧測定期間PVが終了した後にシマー放電が開始するように十分な長さにしておけばよい。
【0052】
また、上記実施例では、制御装置33が、電圧測定期間PVにシマー要求RQsを受けた場合、及びレーザ発振器40の励振期間中にシマー要求RQsを受けた場合に、シマー放電の開始を遅らせている。すなわち、電圧測定期間PV及びレーザ発振器40の励振期間を、シマー放電を回避すべき期間として取り扱っている。その他に、シマー放電と並行して実行することが好ましくない処理を行っていき期間を、シマー放電を回避すべき期間に含めてもよい。制御装置は、このようなシマー放電を回避すべき期間にシマー要求RQsを受けると、シマー放電の開始を遅らせるようにするとよい。
【0053】
次に、
図5、
図6A、及び
図6Bを参照して他の実施例によるレーザ加工装置及びレーザ用電源装置について説明する。以下、
図1~
図4に示した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0054】
図5は、他の実施例によるレーザ加工装置のブロック図である。
図5に示した実施例によるレーザ加工装置は、部分反射ミラー45及び光検知器46を含む。レーザ発振器40から出力されたレーザビームLBの一部が、部分反射ミラー45で反射されて光検知器46に入射する。光検知器46は、レーザビームLBの入射を検知すると、検知結果SLを出力する。この検知結果SLは制御装置33の検出部33Aに入力される。検出部33Aは、検知結果SLから、レーザビームLBの出力開始及び出力停止の時期を検知することができる。
【0055】
図6Aは、検出部33Aの一構成例を示すブロック図である。検出部33Aは、オペアンプを用いたフィルタ回路35及びコンパレータ36を含む。光検知器46(
図5)から出力された電気信号が、フィルタ回路35のオペアンプの反転入力端子または非反転入力端子に入力される。オペアンプの他方の入力端子には基準電圧が与えられる。または、オペアンプの2つの入力端子に差動信号が入力される。フィルタ回路35の出力がコンパレータ36の非反転入力端子に入力される。反転入力端子には、所定の閾値電圧が印加される。フィルタ回路35の出力と閾定電圧とを比較することにより、パルスレーザビームの出力開始及び出力停止を検出することができる。このように、検出機能をアナログ回路で構成することにより、検出タイミングの遅延を少なくすることができる。
【0056】
図6Bは、検出部33Aの他の構成例を示すブロック図である。光検知器46(
図5)から出力された電気信号がA/D変換器37に入力され、デジタル信号に変換される。このデジタル信号がデジタルフィルタ処理部38Aでフィルタ処理される。フィルタ処理されたデジタル信号が、判定処理部38Bに入力される。判定処理部38Bは、デジタル信号の値と判定閾値とを比較することにより、パルスレーザビームの出力開始及び出力停止を検出する。デジタルフィルタ処理部38A及び判定処理部38Bの機能は、CPUまたはFPGA38によって実現される。このように、光検知器46の出力信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号に基づいて判定を行うことにより、判定閾値を高精度に設定することができる。また、レーザ発振器の状態によって、判定閾値を適切に調整することが可能である。
【0057】
図4に示した実施例では、矢印Dで示すようにシマー放電の開始を遅らせる遅延時間が予め定められている。これに対して
図5、
図6A、及び
図6Bに示した実施例では、レーザ発振器40の励振期間中に、制御装置33がシマー要求RQsを受けると、レーザビームLBの出力が停止されるまで、シマー放電の開始を遅延させる。
【0058】
次に、
図5、
図6A、及び
図6Bに示した実施例の優れた効果について説明する。
レーザ発振器40への励振用の高周波電力RFeの供給を停止すると、レーザ出力が急激に低下するが、高周波電力RFeの供給の停止時点から極短い時間はレーザビームLBの出力が継続される。
図4に示した実施例では、レーザビームLBの出力の継続期間を考慮して、シマー放電開始の遅延時間にある程度の余裕を持たせておく必要がある。これに対して
図5に示した実施例では、レーザビームLBの出力の停止を検知してシマー放電を開始させるため、レーザビームLBの出力停止後、直ちにシマー放電を開始させることができる。
【0059】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0060】
10 レーザ用電源装置
20 直流電源
21 スイッチングコンバータ
22 コンバータコントローラ
23 電流センサ
24 電圧センサ
30 整流器
31 高周波電源
32 制御電源
33 制御装置
33A 検出部
35 増幅フィルタ回路
36 コンパレータ
37 A/D変換器
38A デジタルフィルタ処理部
38B 判定処理部
38 CPU/FPGA
40 レーザ発振器
41 放電電極
45 部分反射ミラー
46 光検知器
50 加工機
51 折り返しミラー
52 ビーム走査器
53 集光レンズ
54 可動ステージ
55 加工機制御回路
60 加工対象物
70 交流電源