(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20241029BHJP
G06Q 50/26 20240101ALI20241029BHJP
G08G 1/01 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G06Q50/26
G08G1/00 D
G08G1/01 A
(21)【出願番号】P 2021043115
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000155469
【氏名又は名称】株式会社野村総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】新谷 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】衣松 佳孝
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0041257(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0169377(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107481511(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G06Q 50/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶するトリップ記憶部と、
前記トリップ記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出するトリップ抽出部と、
前記トリップ抽出部により抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、前記デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出する総距離導出部と、
前記利用者全体の移動距離を、前記デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、前記デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する車両台数導出部と、
を備える情報処理システム。
【請求項2】
車両識別部をさらに備え、
前記トリップデータは、車両IDをさらに含み、
前記車両識別部は、前記車両IDごとに、トリップデータの総数に対する前記トリップ抽出部により抽出されたトリップデータの割合を導出し、その割合が所定の閾値以上の車両IDを対象車両のIDとして識別し、
前記総距離導出部は、前記トリップ抽出部により抽出されたトリップデータであって、かつ、前記対象車両のIDを含むトリップデータの移動距離を合計することにより、前記利用者全体の移動距離を導出する、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
或る地域における自家用車の総数に対する当該地域においてトリップデータが収集された自家用車の台数の割合に基づいて、当該地域に居住する住民の自家用車に関するトリップデータの重みを導出する重み導出部と、
前記総距離導出部は、前記複数のトリップデータそれぞれの重みを前記利用者全体の移動距離に反映させる、
請求項1または2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記総距離導出部は、予め定められた前記デマンド交通における相乗り率と、相乗りのため生じる遠回りの距離とを前記利用者全体の移動距離に反映させる、
請求項1から3のいずれかに記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記車両台数導出部により導出された前記デマンド交通で運行すべき車両の台数に基づいて、前記デマンド交通の運行費用を導出する費用導出部をさらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記トリップデータが示す出発地が前記デマンド交通の運行範囲内にあり、かつ、前記トリップデータが示す到着地が前記デマンド交通の運行範囲外にあり、かつ、前記デマンド交通の運行範囲内にある公共交通の施設にて前記公共交通へ乗り継ぐことにより前記到着地に移動可能である場合、前記出発地から前記公共交通の施設への距離を示すデマンド移動距離と、転換フラグとを前記トリップデータに設定するトリップ転換部をさらに備え、
前記トリップ抽出部は、前記転換フラグが設定されたトリップデータをさらに抽出し、
前記総距離導出部は、前記転換フラグが設定されたトリップデータについては、前記デマンド移動距離を用いて前記利用者全体の移動距離を導出する、
請求項1から5のいずれかに記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記トリップデータは、出発地から到着地まで自家用車で移動する場合の第1の移動時間をさらに含み、
前記トリップ転換部は、前記出発地から前記デマンド交通を利用して前記公共交通の施設へ移動し、その施設から前記公共交通を利用して前記到着地へ移動する場合の第2の移動時間を導出し、前記第1の移動時間と前記第2の移動時間との差が所定の閾値内であれば、前記トリップデータに前記転換フラグを設定する、
請求項6に記載の情報処理システム。
【請求項8】
運行範囲設定部をさらに備え、
前記デマンド交通の対象となり得る地域は、複数の地区に分割されており、
前記運行範囲設定部は、前記複数の地区のそれぞれについて、前記トリップデータの出発地に該当した回数と、前記トリップデータの到着地に該当した回数との合計値を導出し、前記複数の地区のうち前記合計値が相対的に大きい地区の組を前記デマンド交通の運行範囲として設定する、
請求項1から7のいずれかに記載の情報処理システム。
【請求項9】
住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶する記憶部にアクセス可能なコンピュータが、
前記記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出するステップと、
前記抽出するステップで抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、前記デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出するステップと、
前記利用者全体の移動距離を、前記デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、前記デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出するステップと、
を実行する情報処理方法。
【請求項10】
住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶する記憶部にアクセス可能なコンピュータに、
前記記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出する機能と、
前記抽出するステップで抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、前記デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出する機能と、
前記利用者全体の移動距離を、前記デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、前記デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する機能と、
を実現させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理技術に関し、特に情報処理システム、情報処理方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
免許返納後の高齢者に向けた交通サービスが求められており、従来、行政は、定時定路線のコミュニティバスを運行していた。しかし、コミュニティバスは非効率という課題があり、また、住民の利便性を一層高めるため、任意の場所で昇降できるデマンド交通(オンデマンド交通、デマンド型交通とも呼ばれる。)を導入する動きが広がっている(例えば特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デマンド交通が導入された地域でも、その利用率は必ずしも高くなく、多くの地域でデマンド交通の収支は赤字である。これまで、デマンド交通の導入が検討される地域の現状を可視化する技術や、既に運用されているデマンド交通の事業性を向上(搭乗率の向上等)させるための技術は提案されているが、デマンド交通サービスそのものの設計を支援する技術は十分に提案されていなかったと本発明者は考えた。
【0005】
本開示は、本発明者の上記課題認識に基づきなされたものであり、1つの目的は、デマンド交通サービスの設計を支援する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の情報処理システムは、住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶するトリップ記憶部と、トリップ記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出するトリップ抽出部と、トリップ抽出部により抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出する総距離導出部と、利用者全体の移動距離を、デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する車両台数導出部とを備える。
【0007】
本開示の別の態様は、情報処理方法である。この方法は、住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶する記憶部にアクセス可能なコンピュータが、記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出するステップと、抽出するステップで抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出するステップと、利用者全体の移動距離を、デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出するステップとを実行する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を、装置、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、デマンド交通サービスの設計を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例のデマンド交通支援システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1の設計支援システムが備える機能ブロックを示すブロック図である。
【
図3】設計支援システムによる処理の過程を示す図である。
【
図5】
図3に続く、設計支援システムによる処理の過程を示す図である。
【
図6】
図5に続く、設計支援システムによる処理の過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示における装置または方法の主体は、コンピュータを備えている。このコンピュータがコンピュータプログラムを実行することによって、本開示における装置または方法の主体の機能が実現される。コンピュータは、コンピュータプログラムにしたがって動作するプロセッサを主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、コンピュータプログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わない。プロセッサは、半導体集積回路(IC、LSI等)を含む1つまたは複数の電子回路で構成される。コンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的な記録媒体に記録される。コンピュータプログラムは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0012】
現状、デマンド交通サービスの設計(例えば運行範囲や運用する車両台数等)は、行政担当者の経験と勘に頼ったものとなっている。そのため、デマンド交通は、地域の住民に必ずしも十分な利便性を提供できないことがあり、また、デマンド交通の利用率が低迷している地域もある。例えば、デマンド交通サービスが導入されたにも関わらず、利用されにくい背景として、対象エリア住民が継続して自家用車を保有することが一因として考えられる。住民(デマンド交通サービス利用者)の自家用車による移動実績を考慮した適切なサービス設計をしなければ、移動における自家用車の併用は避けられない。結果として、住民は自家用車を手放すことが難しく、固定資産として保有している以上は自家用車を活用した方が合理的であるため、デマンド交通サービスを利用するインセンティブが生じない。
【0013】
実施例では、地域住民の移動実績に基づいて、デマンド交通に関する合理的な設計や意思決定を支援する技術を提案する。実施例の情報処理システムは、地域住民の自家用車による移動実績に基づいて、デマンド交通が達成するべき利用者全体の総移動距離を導出し、その動移動距離に基づいて、デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する。これにより、デマンド交通における合理的な車両台数を得る。
【0014】
図1は、実施例のデマンド交通支援システム10の構成を示す。デマンド交通支援システム10は、デマンド交通の導入が検討される地域に居住する複数の住民により運転される複数の自家用車12(例えば自家用車12a、自家用車12b)と、設計支援システム16とを備える。
図1の各装置は、LAN・WAN・インターネット等を含む通信網18を介してデータを送受信する。
【0015】
複数の自家用車12のそれぞれには、GPSロガー14が搭載される。GPSロガー14は、GPS(Global Positioning System)により自家用車12の現在位置(緯度および経度)を検出する。また、GPSロガー14は、自家用車12の通電状態を検出する。GPSロガー14は、自家用車12の現在位置と通電状態を含む、自家用車12に関する移動履歴データを定期的に設計支援システム16へ送信する。例えば、GPSロガー14は、5分間隔で、直近の5分間に蓄積された1つ以上の移動履歴データをGPSロガー14へ送信してもよい。
【0016】
設計支援システム16は、自家用車12のGPSロガー14から送信された自家用車12の移動履歴データに基づいて、デマンド交通に関する設計や意思決定を支援するための情報を生成する情報処理システムである。
【0017】
図2は、
図1の設計支援システム16が備える機能ブロックを示すブロック図である。本明細書のブロック図で示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
図2に示す複数のブロックの機能は、1台のコンピュータに実装されてもよく、複数台のコンピュータに分散して実装されてもよい。
【0018】
設計支援システム16は、制御部20、記憶部22、通信部24を備える。制御部20は、各種データ処理を実行する。記憶部22は、制御部20により参照または更新されるデータを記憶する。通信部24は、所定の通信プロトコルにしたがって外部装置と通信する。制御部20は、通信部24を介して、自家用車12のGPSロガー14等の外部装置とデータを送受信する。
【0019】
記憶部22は、地図記憶部26、トリップ記憶部28、調査結果記憶部30、運行範囲記憶部32、公共交通背後圏記憶部34、費用収入記憶部36を含む。
【0020】
地図記憶部26は、デマンド交通の導入が検討される地域(以下「対象地域」とも呼ぶ。)に関する地図データを記憶する。地図データは、緯度情報、経度情報、グリッド情報を含む。実施例では、対象地域を数百メートル四方の複数の地区(以下「グリッド」とも呼ぶ。)に予め分割する。グリッド情報は、複数のグリッドそれぞれのIDと、各グリッドの範囲(地理的範囲、地図上の範囲とも言える)を示す情報と、各グリッドを本拠地(例えば自家用車の所有者の住所)とする自家用車12のID(車両ID)を含む。
【0021】
トリップ記憶部28は、複数の自家用車12の移動に関する複数のトリップデータを記憶する。トリップデータは、自家用車12のID(車両ID)、出発日時、出発地、到着地(目的地とも言える)、移動距離、移動時間、出発地が属するグリッド(出発グリッド)、到着地が属するグリッド(到着グリッド)を含む。
【0022】
調査結果記憶部30は、対象地域に関する各種調査(統計調査やアンケート調査等)の結果を記憶する。実施例の調査結果記憶部30は、(1)対象地域の各グリッドにおける自家用車の保有台数、(2)対象地域の各グリッドにおいて移動履歴(トリップデータとも言える)が収集された自家用車の台数、言い換えれば、対象地域の各グリッドにおいてGPSロガー14が搭載された自家用車の台数、(3)過去の事例や他所の事例に基づくデマンド交通での相乗り率、(4)相乗りに伴う遠回り許容時間、(5)デマンド交通で用いられる車両(小型のバス等)の平均速度を記憶する。
【0023】
(3)デマンド交通での相乗り率は、多くの事例において30%~40%程度である。(4)相乗りに伴う遠回り許容時間は、デマンド交通利用者へのアンケートの結果として得られた、遠回りにより生じる遅延を許容する時間であってもよく、例えば15分等であってもよい。(5)デマンド交通で用いられる車両の平均速度は、停車時間を含んだ旅行速度であり、タクシーの平均旅行速度(例えば17.5km/時)が用いられてもよい。
【0024】
運行範囲記憶部32は、後述の運行範囲設定部46により設定されたデマンド交通の運行範囲(実施範囲、サービス提供範囲とも言える)を示すデータを記憶する。デマンド交通の運行範囲を示すデータは、当該運行範囲に含まれる複数のグリッドのIDを含む。
【0025】
公共交通背後圏記憶部34は、公共交通の背後圏の範囲(地理的範囲、地図上の範囲とも言える)を示す情報を記憶する。実施例での公共交通は、定時定路線の鉄道や路線バス等であり、デマンド交通とは異なる。公共交通の背後圏は、公共交通の各拠点(駅やバス停等)の商圏、公共交通の各拠点からの徒歩圏とも言え、公共交通の各拠点から利用者が徒歩等によって訪れる範囲である。
【0026】
費用収入記憶部36は、後述の車両台数導出部56により導出された、デマンド交通に用いられる車両の台数を記憶する。また、費用収入記憶部36は、後述の費用収入導出部58により導出された、デマンド交通の運行費用の推定値、および、デマンド交通の運行収入の推定値を記憶する。
【0027】
制御部20は、移動履歴取得部40、トリップ生成部42、拡大推計部44、運行範囲設定部46、トリップ転換部48、トリップ抽出部50、利用者車両識別部52、総距離導出部54、車両台数導出部56、費用収入導出部58、情報提供部60を含む。これら複数の機能ブロックの機能が実装されたコンピュータプログラムが記録媒体に格納され、その記録媒体を介して設計支援システム16のストレージにインストールされてもよい。または、上記コンピュータプログラムが、通信網を介してダウンロードされ、設計支援システム16のストレージにインストールされてもよい。設計支援システム16のCPUは、上記コンピュータプログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、上記複数のブロックの機能を発揮してもよい。
【0028】
以上の構成による設計支援システム16の動作を説明する。
図3は、設計支援システム16による処理の過程を示す。同図のS1~S5の処理は、デマンド交通の運行範囲を設定する処理である。
【0029】
移動履歴取得部40は、複数の自家用車12の複数のGPSロガー14から定期的に送信された移動履歴データを受け付ける(S1)。出力データ欄に示すように、移動履歴データは、車両を単位とするデータであり、送信元の自家用車12のID(車両ID)、自家用車12の現在位置(緯度および経度)、現在位置の検出日時、および自家用車12の通電状態を含む。
【0030】
トリップ生成部42は、移動履歴取得部40により取得された移動履歴データに基づいて、自家用車12の1単位の移動(以下「トリップ」とも呼ぶ。)ごとのトリップデータを生成する(S2)。トリップは、或る出発地から或る到着地への時間的に連続した移動である。
【0031】
具体的には、トリップ生成部42は、同じ車両IDを含む複数の移動履歴データに基づいて、時系列の移動軌跡(停車時間、通電状態の情報を含む)を生成する。トリップ生成部42は、車両IDごとに、停車時間や通電状態に基づいて、時系列の移動軌跡を複数のトリップに分割する。例えば、所定の閾値以上の停車時間または通電状態オフをトリップの区切りとしてもよい。トリップ生成部42は、各トリップの出発日時、出発地、到着地、移動距離、移動時間を識別する。出発地と到着地の値は、緯度および経度で表されてもよく、または、緯度および経度に対応する、地図記憶部26の地図データが示す地名や位置情報でもよい。
【0032】
また、トリップ生成部42は、地図記憶部26に記憶されたグリッド情報を参照して、出発地が含まれる出発グリッドと、到着地が含まれる到着グリッドを識別する。トリップ生成部42は、車両ID、出発日時、出発地、到着地、移動距離、移動時間、出発グリッド、到着グリッドを含むトリップデータを生成し、生成したトリップデータをトリップ記憶部28に格納する。
【0033】
拡大推計部44は、重み導出部として、公知の拡大推計の手法により、或る地域における自家用車の総数に対する当該地域においてトリップデータが収集された自家用車の台数の割合に基づいて、当該地域に居住する住民の自家用車に関するトリップデータの重みを導出する(S3)。拡大推計部44は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータそれぞれの重みを導出する。この重みは、トリップデータが示す1つのトリップを自家用車何台分の発着数としてカウントするかを示す値である。実施例では、この重みを「拡大発着数」と呼ぶ。
【0034】
具体的には、拡大推計部44は、地図記憶部26のグリッド情報を参照して、トリップデータごとに、当該トリップデータの車両IDが対応付けられたグリッドを識別する。ここでは、処理対象のトリップデータを「対象トリップデータ」と呼ぶ。拡大推計部44は、調査結果記憶部30のデータを参照して、対象トリップデータの車両IDが対応付けられたグリッドについて、当該グリッドにおける自家用車の保有台数Aに対する、当該グリッドにおいてトリップデータが収集された自家用車の台数Bの割合を求める。拡大推計部44は、Aに対するBの割合をもとに、対象トリップデータの拡大発着数を導出する。例えば、A/B=100/5の場合、対象トリップデータの拡大発着数を「20」とする。拡大推計部44は、トリップ記憶部28に記憶された対象トリップデータに、拡大発着数の値を追加する。
【0035】
運行範囲設定部46は、対象地域において予め定められた複数のグリッドのそれぞれについて、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータの出発地(出発グリッド)に該当した回数と、複数のトリップデータの到着地(到着グリッド)に該当した回数とを合計し、その合計値を合計発着数として導出する(S4)。出発地に該当した回数と、到着地に該当した回数には、トリップデータの拡大発着数が加算される。
【0036】
運行範囲設定部46は、対象地域において予め定められた複数のグリッドのうち合計発着数が相対的に大きいグリッドの組をデマンド交通の運行範囲として設定する(S5)。具体的には、運行範囲設定部46は、合計発着数が最多のグリッドの合計発着数を100とした場合の、各グリッドの比率(0~100の値)を導出する。実施例では、運行範囲設定部46は、3つの運行範囲モデルを設定する。3つの運行範囲モデルは、最小運行範囲α1、中間運行範囲α2、広域運行範囲α3を含む。
【0037】
運行範囲設定部46は、比率が90以上のグリッドを最小運行範囲α1のグリッドとして抽出する。運行範囲設定部46は、比率が70以上のグリッドを中間運行範囲α2のグリッドとして抽出する。運行範囲設定部46は、比率が50以上のグリッドを広域運行範囲α3のグリッドとして抽出する。運行範囲設定部46は、最小運行範囲α1に含まれるグリッド群の情報(例えば各グリッドのID)と、中間運行範囲α2に含まれるグリッド群の情報と、広域運行範囲α3に含まれるグリッド群の情報とを運行範囲記憶部32に格納する。各運行範囲に含まれるグリッドの個数は、最小運行範囲α1<中間運行範囲α2<広域運行範囲α3となる。
【0038】
図4は、グリッドの例を示す。既述したように、対象地域は、複数のグリッドに分割される。
図4では、1A、1B、・・・10J、10Kで示される110個のグリッドに分割されている。
図4では、運行範囲70を網掛けにて示しており、
図4に示す運行範囲70は、3D~6Hの20個のグリッドを含む。
図4に示す運行範囲70は、例えば、最小運行範囲α1である。
【0039】
図5は、
図3に続く、設計支援システム16による処理の過程を示す。同図のS6~S9の処理は、デマンド交通の運行範囲から外れるトリップを、公共交通への乗り換えを考慮して、デマンド交通の運行範囲内のトリップに転換する処理である。また、同図のS6~S9の処理は、S5で設定された運行範囲ごとに実行される。
【0040】
図5に示す処理の概要を説明する。トリップ転換部48は、或るトリップデータが示す出発地がデマンド交通の運行範囲内にあり、かつ、当該トリップデータが示す到着地がデマンド交通の運行範囲外にあり、かつ、デマンド交通の運行範囲内にある公共交通の施設にてデマンド交通から公共交通へ乗り継ぐことにより到着地に移動可能である場合、出発地から公共交通の施設への距離をデマンド交通での移動距離として示すデマンド移動情報と、転換フラグとを当該トリップデータに設定する。
【0041】
図5に示す処理の詳細を説明する。実施例では、地図を用いて、デマンド交通の運行範囲から、乗り継ぎ1回で移動可能な公共交通の施設(例えば駅やバス停)が予め抽出される。そして、その公共施設の施設から所定の範囲内(例えば半径数百メートルの範囲)が公共交通の背後圏として設定され、その背後圏の範囲を示す情報が予め公共交通背後圏記憶部34に格納される。
図4の例では、運行範囲70に鉄道路線72と駅74が含まれる。デマンド交通により駅74まで移動し、駅74から鉄道路線72を利用して駅76へ移動可能である。そのため、公共交通背後圏記憶部34には、駅76の背後圏の情報が格納される。
【0042】
トリップ転換部48は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータの中から転換候補トリップデータを抽出する(S6)。転換候補トリップデータは、出発地が運行範囲記憶部32に記憶されたデマンド交通の運行範囲内にあり、かつ、到着地が公共交通背後圏記憶部34に記憶された公共交通の背後圏内にあるトリップデータである。
【0043】
トリップ転換部48は、地図記憶部26の地図データを参照して、デマンド交通の運行範囲内に存在する公共交通への乗り継ぎ地点の位置(例えば緯度および経度)を識別する(S7)。公共交通への乗り継ぎ地点は、公共交通の施設であり、例えば駅やバス停である。
図4の例では、トリップ転換部48は、乗り継ぎ地点として、運行範囲70の中にある駅74を識別する。
【0044】
トリップ転換部48は、デマンド交通と公共交通を乗り継ぐ場合の到着地までの移動時間(以下「乗り継ぎ移動時間」とも呼ぶ。)と、デマンド交通での移動距離(以下「デマンド移動距離」とも呼ぶ。)を推定する(S8)。乗り継ぎ移動時間は、転換候補トリップデータが示す出発地からデマンド交通を利用して公共交通の施設へ移動し、その施設から公共交通を利用して、転換候補トリップデータが示す到着地へ移動する場合の移動時間である。
【0045】
具体的には、トリップ転換部48は、転換候補トリップデータが示す出発地から、デマンド交通を利用して、S7で識別した乗り継ぎ地点まで移動する場合の移動距離Aと移動時間Bとを、既存の検索エンジン等のウェブサービス(ウェブAPIとも言える)を利用して計測する。ここで求めた移動距離Aがデマンド移動距離となる。
【0046】
また、トリップ転換部48は、公共交通機関のダイヤ情報(言い換えれば運行スケジュール情報)に基づいて、S7で識別した乗り継ぎ地点から、到着地を含む公共交通の背後圏における公共交通の施設までの移動時間Cを計測する。公共交通機関のダイヤ情報は、記憶部22に記憶されてもよく、ダイヤ情報を公開するウェブサイト(公共交通機関のウェブサイト等)から取得されてもよい。トリップ転換部48は、移動時間Bと、移動時間Cと、予め定められた平均待ち時間(例えば10分等)の合計を乗り継ぎ移動時間として推定する。トリップ転換部48は、転換候補トリップデータに、乗り継ぎ移動時間、乗り継ぎ地点、デマンド移動距離を追加する。
【0047】
トリップ転換部48は、S7にて、デマンド交通の運行範囲内に存在する公共交通への乗り継ぎ地点を複数識別した場合、乗り継ぎ地点ごとに、転換候補トリップデータに関する乗り継ぎ移動時間とデマンド移動距離を推定する。トリップ転換部48は、乗り継ぎ地点ごとの乗り継ぎ移動時間を比較し、最短の乗り継ぎ移動時間を識別する。トリップ転換部48は、最短の乗り継ぎ移動時間と、最短の乗り継ぎ移動時間に対応する乗り継ぎ地点とデマンド移動距離とを転換候補トリップデータに追加する。
【0048】
既述したように、転換候補トリップデータには、出発地から到着地まで自家用車で移動する場合の移動時間が記録されている。トリップ転換部48は、転換候補トリップデータに記録された自家用車での移動時間と乗り継ぎ移動時間とを比較し、両者の差が予め定められた閾値以内(例えば30分以内)であれば、その転換候補トリップデータに転換フラグを追加する(S9)。この閾値は、開発者の知見や、アンケート結果等により決定されてもよい。転換フラグが追加された転換候補トリップデータを以下「転換トリップデータ」とも呼ぶ。転換トリップデータは、出発地から到着地までの移動経路の一部が、デマンド交通を利用した移動に転換されるトリップを示すものである。
【0049】
図6は、
図5に続く、設計支援システム16による処理の過程を示す。同図のS10~S13の処理は、S5で設定された運行範囲ごとに実行される。ここでは1つの運行範囲に関する処理を説明する。
【0050】
図6に示す処理の概要を説明する。トリップ抽出部50は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出する。総距離導出部54は、トリップ抽出部50により抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出する。車両台数導出部56は、導出された利用者全体の移動距離を、デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する。
【0051】
図6に示す処理の詳細を説明する。トリップ抽出部50、利用者車両識別部52、総距離導出部54は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータ(転換トリップデータを含む)を集計する(S10)。総距離導出部54は、S10の集計結果と、デマンド交通で生じる相乗り率と、相乗りのため生じる遠回り距離とに基づいて、デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離(以下「デマンド総距離」とも呼ぶ。)を導出する(S11)。
【0052】
具体的には、トリップ抽出部50は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出する。また、トリップ抽出部50は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータの中から、転換フラグが設定されたトリップデータ(すなわち転換トリップデータ)をさらに抽出する。
【0053】
利用者車両識別部52は、車両IDごとに、トリップ記憶部28に記憶されたトリップデータの総数を導出する。また、利用者車両識別部52は、車両IDごとに、トリップ抽出部50により抽出されたトリップデータ(転換トリップデータを含む)の個数を導出する。利用者車両識別部52は、車両IDごとに、トリップデータ総数に対する、トリップ抽出部50により抽出されたトリップデータ数の割合を導出する。利用者車両識別部52は、上記割合が所定の閾値以上の車両IDを、デマンド交通の利用者(潜在利用者とも言える)が保持する自家用車のID(以下「利用者車両ID」とも呼ぶ。)として識別する。この閾値は、設計支援システム16の開発者の知見や、設計支援システム16を用いた実験等により適切な値が決定されてもよい。例えば、この閾値は70%~80%の値であってもよい。
【0054】
総距離導出部54は、S10において、トリップ抽出部50により抽出されたトリップデータであって、かつ、利用者車両IDを含むトリップデータ(以下「集計対象トリップデータ」とも呼ぶ。)が示す拡大発着数と移動距離とを時間帯別に集計する。集計単位となる時間帯は、1時間区切りであってもよい。また、総距離導出部54は、集計対象トリップデータが示す出発日時に基づいて当該集計対象トリップデータが属する時間帯を判別する。
【0055】
ここでは移動距離の集計結果を「総移動距離」と呼ぶ。総距離導出部54は、複数の集計対象トリップデータそれぞれの拡大発着数と移動距離との積を総移動距離に加算する。例えば、拡大発着数がA、移動距離がXの第1の集計対象トリップデータと、拡大発着数がB、移動距離がYの第2の集計対象トリップデータとを集計する場合、総距離導出部54は、拡大発着数を(A+B)、総移動距離を(A×X+B×Y)とする集計結果を生成する。このように、総距離導出部54は、複数の集計対象トリップデータそれぞれの重み(すなわち拡大発着数)を利用者全体の移動距離(すなわち総移動距離)に反映させる。
【0056】
総距離導出部54は、S10において、集計対象トリップデータが転換フラグを含む場合、すなわち、集計対象トリップデータが転換トリップデータである場合、当該トリップデータに含まれるデマンド移動距離を集計対象とする。具体的には、拡大発着数とデマンド移動距離との積を総移動距離に加算する。既述したように、デマンド移動距離は、出発地から到着地までの間でデマンド交通が利用される距離を示す。総距離導出部54は、S10の結果として、時間帯ごとのデータであり、拡大発着数と総移動距離を含むデータを得る。
【0057】
デマンド交通は、複数人の相乗り移動になる場合があり、遠回り(すなわち出発地から到着地までの経路が最短経路とは異なる経路になること)が発生する。そのため、過去の事例や他地域の事例に基づいて相乗り率を設定する。また、相乗り時は、途中で他の人を迎えに行く場合があり、また、先に他の人を降ろす場合があり、自家用車移動よりも遠回りになる。そのため、遠回りを考慮した総移動距離をデマンド総距離として導出する。なお、遠回りに要する時間そのものを求めることは困難であるため、実施例では、遠回りに要する時間の指標値として、デマンド交通利用者の遠回り許容時間(言い換えれば遅延許容時間)を用いる。
【0058】
具体的には、総距離導出部54は、S11において、時間帯ごとに、(1)調査結果記憶部30に記憶された相乗り率と、(2)遠回り許容時間と、(3)デマンド交通で用いられる車両の平均速度と、(4)S10で集計された拡大発着数について、(1)から(4)の積を遠回り総距離として導出する。なお、(2)と(3)の積は、相乗りのため生じる遠回りの距離と言える。総距離導出部54は、時間帯ごとに、総移動距離と遠回り総距離とを合計し、合計の結果をデマンド総距離として導出する。総距離導出部54は、S11の結果として、時間帯ごとのデータに各時間帯のデマンド総距離を追加する。
【0059】
車両台数導出部56は、時間帯ごとのデマンド総距離を、調査結果記憶部30に記憶されたデマンド交通で用いられる車両の平均速度(例えば17.5km/時)で除算する。車両台数導出部56は、除算の結果を切り上げることで、デマンド交通において運行すべき時間帯ごとの車両台数を導出する。車両台数導出部56は、予め定められたデマンド交通の運行時間帯(例えば7時~20時)の中の各時間帯の車両台数のうち、最大の車両台数をデマンド交通において運行すべき車両の台数として決定する(S12)。ピーク時の需要に対応するためである。総距離導出部54は、S12の結果として、デマンド交通の車両台数を含むデータを出力する。
【0060】
費用収入導出部58は、デマンド交通の運行費用と運行収入を導出する(S13)。具体的には、費用収入導出部58は、費用導出部として、運行範囲ごとの車両台数に比例する車両運行費(変動費)と、車両台数に比例しない固定管理費との合計を求め、その合計値を運行費用として導出する。車両運行費は、予め定められた車両1台あたりの運行費用額に、車両台数を掛けることで導出してもよい。固定管理費は、対象地域の人件費や物価等に応じて予め定められてもよい。
【0061】
また、費用収入導出部58は、収入導出部として、運行時間帯の中の各時間帯の拡大発着数(発着であるため利用者数の2倍に相当)を合計し、合計結果を2で割ることで、運行時間帯の利用者数を導出する。車両台数導出部56は、運行時間帯の利用者数と、予め定められた運賃(例えば300円/人)との積を運行収入として導出する。費用収入導出部58は、S13の結果として、デマンド交通の車両台数、運行費用の金額、運行収入の金額を含むデータを費用収入記憶部36に格納する。
【0062】
既述したように、以上の処理は運行範囲ごとに実行される。すなわち、費用収入記憶部36には、運行範囲ごとのデータとして、デマンド交通の車両台数、運行費用の金額、運行収入の金額を含むデータが格納される。
【0063】
情報提供部60は、外部装置からの要求に応じて、設計支援システム16による処理結果のデータに基づく設計支援情報を外部システムへ送信する。設計支援情報は、運行範囲記憶部32に記憶されたデマンド交通の運行範囲データを含む。運行範囲データは、例えば、
図4に示したように、複数のグリッドに区画された地図上で運行範囲70を示す画像であってもよい。また、設計支援情報は、費用収入記憶部36に記憶された、運行範囲ごとの、デマンド交通の車両台数、運行費用、運行収入を示すデータを含む。
【0064】
図7は、設計支援情報の例を示す。同図の設計支援情報の横軸は、デマンド交通の運行範囲(最小運行範囲α1、中間運行範囲α2、広域運行範囲α3)である。また、縦軸は、運行費用および運行収入の金額である。
図7の設計支援情報は、破線で示す運行費用と実線で示す運行収入との乖離を示すことを目的とする。
図7の設計支援情報を見た行政担当者は、(1)最小運行範囲α1では狭すぎて十分な交通サービスを提供できず、利用者が少ないこと、(2)広域運行範囲α3では広すぎて効率が悪いこと、(3)中間運行範囲α2は、運行費用と運行収入のバランスが良いこと、等を容易に把握できる。
【0065】
実施例の設計支援システム16によると、デマンド交通の導入が検討される地域の住民の自家用車での移動実績に基づいて、デマンド交通の合理的な運行範囲および車両台数を推定でき、また、運行費用と運行収入を精度よく推定できる。これにより、行政担当者等によるデマンド交通の規模の決定や事業性の判断を効果的に支援できる。
【0066】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。実施例に記載の内容は例示であり、実施例の構成要素や処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0067】
上記実施例では、出発地がデマンド交通の運行範囲内にあり、到着地がデマンド交通の運行範囲外の公共交通背後圏にあるトリップデータの中から、転換トリップデータを設定することを説明した。変形例として、出発地がデマンド交通の運行範囲外の公共交通背後圏にあり、到着地がデマンド交通の運行範囲内にあるトリップデータの中から、転換トリップデータをさらに設定してもよい。
【0068】
本変形例のトリップ転換部48は、或るトリップデータが示す出発地がデマンド交通の運行範囲外にあり、かつ、当該トリップデータが示す到着地がデマンド交通の運行範囲内にあり、かつ、デマンド交通の運行範囲内にある公共交通の施設にて公共交通からデマンド交通へ乗り継ぐことにより到着地に移動可能である場合、公共交通の施設から到着地への距離を示すデマンド移動距離と、転換フラグとを当該トリップデータに設定する。
【0069】
具体的には、トリップ転換部48は、トリップ記憶部28に記憶された複数のトリップデータの中から転換候補トリップデータを抽出する。ここでの転換候補トリップデータは、出発地が公共交通背後圏記憶部34に記憶された公共交通の背後圏内にあり、かつ、到着地が運行範囲記憶部32に記憶されたデマンド交通の運行範囲内にあるトリップデータである。
【0070】
トリップ転換部48は、地図記憶部26の地図データを参照して、デマンド交通の運行範囲内に存在する公共交通からの乗り継ぎ地点の位置(例えば緯度および経度)を識別する。トリップ転換部48は、公共交通からデマンド交通へ乗り継ぐ場合の到着地までの移動時間(乗り継ぎ移動時間)と、デマンド交通での移動距離(デマンド移動距離)とを推定する。乗り継ぎ移動時間は、転換候補トリップデータが示す出発地から公共交通を利用して乗り継ぎ地点としての公共交通の施設へ移動し、その施設からデマンド交通を利用して、転換候補トリップデータが示す到着地へ移動する場合の移動時間である。
【0071】
具体的には、トリップ転換部48は、公共交通機関のダイヤ情報(言い換えれば運行スケジュール情報)に基づいて、転換候補トリップデータが示す出発地を含む公共交通の背後圏における公共交通の施設から、先に識別した乗り継ぎ地点までの移動時間Aを計測する。また、トリップ転換部48は、デマンド交通を利用して、乗り継ぎ地点から到着地へ移動する場合の移動時間Bと移動距離Cとを、既存の検索エンジン等のウェブサービスを利用して計測する。ここで求めた移動距離Cがデマンド移動距離となる。
【0072】
トリップ転換部48は、移動時間Aと、移動時間Bと、予め定められた平均待ち時間(例えば10分等)の合計を乗り継ぎ移動時間として推定する。トリップ転換部48は、転換候補トリップデータに、乗り継ぎ移動時間、乗り継ぎ地点、デマンド移動距離を追加する。
【0073】
トリップ転換部48は、デマンド交通の運行範囲内に存在する公共交通への乗り継ぎ地点を複数識別した場合、乗り継ぎ地点ごとに、転換候補トリップデータに関する乗り継ぎ移動時間とデマンド移動距離を推定する。トリップ転換部48は、乗り継ぎ地点ごとの乗り継ぎ移動時間を比較し、最短の乗り継ぎ移動時間を識別する。トリップ転換部48は、最短の乗り継ぎ移動時間と、最短の乗り継ぎ移動時間に対応する乗り継ぎ地点とデマンド移動距離とを転換候補トリップデータに追加する。
【0074】
既述したように、転換候補トリップデータには、出発地から到着地まで自家用車で移動する場合の移動時間が記録されている。トリップ転換部48は、転換候補トリップデータに記録された自家用車での移動時間と乗り継ぎ移動時間とを比較し、両者の差が予め定められた閾値以内(例えば30分以内)であれば、その転換候補トリップデータに転換フラグを追加する。本変形例で転換フラグが追加された転換候補トリップデータは、実施例の
図6のS10以降の処理において、実施例の転換トリップデータと同様に取り扱われる。
【0075】
本変形例の構成によると、自家用車による移動から、デマンド交通と公共交通による移動への転換有無を加味して、デマンド交通が実現するべき利用者全体の移動距離として一層妥当な値を得ることができる。
【0076】
上述した実施例および変形例の任意の組み合わせもまた本開示の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【0077】
実施例および変形例に記載の技術は、以下の項目によって特定されてもよい。
[項目1]
住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶するトリップ記憶部と、
前記トリップ記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出するトリップ抽出部と、
前記トリップ抽出部により抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、前記デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出する総距離導出部と、
前記利用者全体の移動距離を、前記デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、前記デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する車両台数導出部と、
を備える情報処理システム。
この情報処理システムによると、住民の自家用車の移動実績に基づいてデマンド交通が達成するべき利用者全体の総移動距離を導出し、その総移動距離に基づいて、デマンド交通において運行すべき車両台数を導出する。これにより、デマンド交通における妥当な車両台数を導出でき、デマンド交通に関する合理的な設計や意思決定を支援することができる。
[項目2]
車両識別部をさらに備え、
前記トリップデータは、車両IDをさらに含み、
前記車両識別部は、前記車両IDごとに、トリップデータの総数に対する前記トリップ抽出部により抽出されたトリップデータの割合を導出し、その割合が所定の閾値以上の車両IDを対象車両のIDとして識別し、
前記総距離導出部は、前記トリップ抽出部により抽出されたトリップデータであって、かつ、前記対象車両のIDを含むトリップデータの移動距離を合計することにより、前記利用者全体の移動距離を導出する、
項目1に記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、デマンド交通の利用者の車両を対象車両として識別し、その対象車両のトリップデータをもとに、利用者全体の移動距離を導出する。これにより、デマンド交通が実現するべき利用者全体の移動距離として一層妥当な値を得ることができる。
[項目3]
或る地域における自家用車の総数に対する当該地域においてトリップデータが収集された自家用車の台数の割合に基づいて、当該地域に居住する住民の自家用車に関するトリップデータの重みを導出する重み導出部と、
前記総距離導出部は、前記複数のトリップデータそれぞれの重みを前記利用者全体の移動距離に反映させる、
項目1または2に記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、拡大推計の手法により、デマンド交通が実現するべき利用者全体の移動距離として一層妥当な値を得ることができる。
[項目4]
前記総距離導出部は、予め定められた前記デマンド交通における相乗り率と、相乗りのため生じる遠回りの距離とを前記デマンド総距離に反映させる、
項目1から3のいずれかに記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、デマンド交通において生じる相乗りを加味して、デマンド交通が実現するべき利用者全体の移動距離として一層妥当な値を得ることができる。
[項目5]
前記車両台数導出部により導出された前記デマンド交通で運行すべき車両の台数に基づいて、前記デマンド交通の運行費用を導出する費用導出部をさらに備える、
項目1から4のいずれかに記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、デマンド交通での車両台数に基づいて、合理的な運行費用を導出することができる。
[項目6]
前記トリップデータが示す出発地が前記デマンド交通の運行範囲内にあり、かつ、前記トリップデータが示す到着地が前記デマンド交通の運行範囲外にあり、かつ、前記デマンド交通の運行範囲内にある公共交通の施設にて前記公共交通へ乗り継ぐことにより前記到着地に移動可能である場合、前記出発地から前記公共交通の施設への距離を示すデマンド移動距離と、転換フラグとを前記トリップデータに設定するトリップ転換部をさらに備え、
前記トリップ抽出部は、前記転換フラグが設定されたトリップデータをさらに抽出し、
前記総距離導出部は、前記転換フラグが設定されたトリップデータについては、前記デマンド移動距離を用いて前記利用者全体の移動距離を導出する、
項目1から5のいずれかに記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、デマンド交通から公共交通に乗り換えて移動する場合のデマンド交通での移動距離を加味して、デマンド交通が実現するべき利用者全体の移動距離として一層妥当な値を得ることができる。
[項目7]
前記トリップデータは、出発地から到着地まで自家用車で移動する場合の第1の移動時間をさらに含み、
前記トリップ転換部は、前記出発地から前記デマンド交通を利用して前記公共交通の施設へ移動し、その施設から前記公共交通を利用して前記到着地へ移動する場合の第2の移動時間を導出し、前記第1の移動時間と前記第2の移動時間との差が所定の閾値内であれば、前記トリップデータに前記転換フラグを設定する、
項目6に記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、自家用車による移動から、デマンド交通と公共交通による移動への転換有無を加味して、デマンド交通が実現するべき利用者全体の移動距離として一層妥当な値を得ることができる。
[項目8]
運行範囲設定部をさらに備え、
前記デマンド交通の対象となり得る地域は、複数の地区に分割されており、
前記運行範囲設定部は、前記複数の地区のそれぞれについて、前記トリップデータの出発地に該当した回数と、前記トリップデータの到着地に該当した回数との合計値を導出し、前記複数の地区のうち前記合計値が相対的に大きい地区の組を前記デマンド交通の運行範囲として設定する、
項目1から7のいずれかに記載の情報処理システム。
この情報処理システムによると、デマンド交通の運行範囲を妥当な範囲に設定することができる。
[項目9]
住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶する記憶部にアクセス可能なコンピュータが、
前記記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出するステップと、
前記抽出するステップで抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、前記デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出するステップと、
前記利用者全体の移動距離を、前記デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、前記デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出するステップと、
を実行する情報処理方法。
この情報処理方法によると、住民の自家用車の移動実績に基づいてデマンド交通が達成するべき利用者全体の総移動距離を導出し、その総移動距離に基づいて、デマンド交通において運行すべき車両台数を導出する。これにより、デマンド交通における妥当な車両台数を導出でき、デマンド交通に関する合理的な設計や意思決定を支援することができる。
[項目10]
住民の自家用車の移動に関する出発地、到着地、および移動距離を含むトリップデータであって、複数の自家用車の移動に関する複数のトリップデータを記憶する記憶部にアクセス可能なコンピュータに、
前記記憶部に記憶された複数のトリップデータの中から、出発地と到着地の両方がデマンド交通の運行範囲内に含まれる複数のトリップデータを抽出する機能と、
前記抽出するステップで抽出された複数のトリップデータの移動距離をもとに、前記デマンド交通が達成するべき利用者全体の移動距離を導出する機能と、
前記利用者全体の移動距離を、前記デマンド交通において運行される車両の移動速度で除算することにより、前記デマンド交通において運行すべき車両の台数を導出する機能と、
を実現させるためのコンピュータプログラム。
このコンピュータプログラムによると、住民の自家用車の移動実績に基づいてデマンド交通が達成するべき利用者全体の総移動距離を導出し、その総移動距離に基づいて、デマンド交通において運行すべき車両台数を導出する。これにより、デマンド交通における妥当な車両台数を導出でき、デマンド交通に関する合理的な設計や意思決定を支援することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 デマンド交通支援システム、 12 自家用車、 28 トリップ記憶部、 44 拡大推計部、 46 運行範囲設定部、 48 トリップ転換部、 50 トリップ抽出部、 52 利用者車両識別部、 54 総距離導出部、 56 車両台数導出部。