(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/265 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
H01L21/265 601A
(21)【出願番号】P 2021056017
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 峰司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健太
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-290160(JP,A)
【文献】特開2017-228703(JP,A)
【文献】特開2018-056257(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015973(WO,A1)
【文献】特開2012-190864(JP,A)
【文献】特開平04-212457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体装置の製造方法であって、
窒化ガリウム系半導体層(10)の少なくとも一方の主面(10a)の少なくとも一部の領域に向けて不純物をイオン注入するイオン注入工程(S1)と、
前記窒化ガリウム系半導体層の少なくとも一部の表面の表面粗さを増加させた粗面領域(12)を形成する粗面領域形成工程(S2)と、
前記粗面領域を露出させた状態で前記窒化ガリウム系半導体層の少なくとも前記一方の主面上にキャップ層(30)を成膜するキャップ層成膜工程(S4)と、
アンモニア雰囲気下で前記窒化ガリウム系半導体層をアニール処理するアニール工程(S5)と、を備えており、
前記キャップ層は、アルミニウムを含む窒化物又は酸化物である、製造方法。
【請求項2】
前記キャップ層は、窒化アルミニウム(AlN)又は酸化アルミニウム(Al
2O
3)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記窒化ガリウム系半導体層は、素子領域(10A)と非素子領域(10B)に区画されており、
前記イオン注入工程で前記不純物がイオン注入される領域は、前記素子領域に位置しており、
前記粗面領域形成工程で形成される前記粗面領域は、前記非素子領域に位置している、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非素子領域は、前記窒化ガリウム系半導体層のスクライブラインに対応した領域である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記粗面領域形成工程では、ドライエッチング技術を利用して前記粗面領域を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、窒化ガリウム系半導体層を備えた窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系半導体層を備えた窒化物半導体装置の開発が進められている。この種の窒化物半導体装置を製造するためには、窒化ガリウム系半導体層内に不純物をイオン注入し、イオン注入した不純物を活性化してn型又はp型の拡散領域を形成する技術が必要である。
【0003】
窒化ガリウム系半導体層内にイオン注入された不純物を活性化させるためには、高温のアニール処理が必要とされている。例えばp型不純物のマグネシウムは、約1400℃以上のアニール処理が必要とされている。しかしながら、このような高温のアニール処理を実施すると、窒化ガリウム系半導体層が分解して窒化ガリウム系半導体層の表面から窒素抜けが発生し、窒化ガリウム系半導体層にピットが形成されることが知られている。
【0004】
特許文献1は、窒化ガリウム系半導体層の飽和蒸気圧以上の気圧下で高温のアニール処理を実施し、ピットの形成を抑える技術を提案する。
【0005】
特許文献2は、窒化ガリウム系半導体層の表面上にキャップ層を成膜する技術を開示する。このようなキャップ層が成膜されていると、窒化ガリウム系半導体層の表面からの窒素抜けが抑えられ、ピットの形成が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-155469号公報
【文献】特開2018-010970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キャップ層を成膜するときに、キャップ層に空隙が形成されることがある。このような空隙が形成されると、その空隙を介して窒化ガリウム系半導体層の表面からの窒素抜けが促進されてしまう。本明細書は、キャップ層の空隙からの窒素抜けを抑えながら窒化ガリウム系半導体層内にイオン注入された不純物を活性化させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する窒化物半導体装置の製造方法は、窒化ガリウム系半導体層(10)の少なくとも一方の主面(10a)の少なくとも一部の領域に向けて不純物をイオン注入するイオン注入工程(S1)と、前記窒化ガリウム系半導体層の少なくとも一部の表面の表面粗さを増加させた粗面領域(12)を形成する粗面領域形成工程(S2)と、前記粗面領域を露出させた状態で前記窒化ガリウム系半導体層の少なくとも前記一方の主面上にキャップ層(30)を成膜するキャップ層成膜工程(S4)と、アンモニア雰囲気下で前記窒化ガリウム系半導体層をアニール処理するアニール工程(S5)と、を備えることができる。前記キャップ層は、アルミニウムを含む窒化物又は酸化物である。
【0009】
上記製造方法によると、前記アニール工程において、前記粗面領域からガリウムが離脱する。前記キャップ層に空隙が形成されている場合、離脱したガリウムとアンモニアに含まれる窒素とキャップ層に含まれるアルミニウムが反応し、空隙内に窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)が充填される。このように、前記キャップ層に空隙が形成されていたとしても、前記粗面領域からガリウムが優先的に離脱することにより、前記空隙を介して前記窒化ガリウム系半導体層の前記第1主面から窒素が抜けることが抑えられる。この結果、上記製造方法によると、前記キャップ層の前記空隙からの窒素抜けを抑えながら前記窒化ガリウム系半導体層内にイオン注入された不純物を活性化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】窒化物半導体装置の製造方法のうちの一部のフローチャートを示す。
【
図2】窒化物半導体装置の製造方法の一製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【
図3】窒化物半導体装置の製造方法の一製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【
図4】窒化物半導体装置の製造方法の一製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【
図5】窒化物半導体装置の製造方法の一製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【
図6】窒化物半導体装置の製造方法の一製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【
図7】窒化物半導体装置の製造方法の一製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、窒化ガリウム系半導体層を備えた窒化物半導体装置の製造方法を説明する。以下では、窒化物半導体装置を製造する工程のうちのイオン注入工程から注入された不純物を拡散させるアニール工程までを説明する。窒化物半導体装置を製造する工程のうちのこれら以外の工程については、既知の製造方法を利用することができる。
【0012】
図1に、窒化物半導体装置の製造方法の一部のフローチャートを示す。
図2~7に、
図1のフローチャートに対応した製造過程における窒化ガリウム系半導体層の要部断面図を模式的に示す。
【0013】
図2に示されるように、窒化ガリウム系半導体層10は、素子領域10Aと非素子領域10Bに区画されている。素子領域10Aは、電気的機能を発揮するための機能構造が形成される領域である。素子領域10Aには、例えばスイッチング機能を発揮するための機能構造が形成される。このような機能構造としては、MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)又はMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と称される種類の機能構造が例示される。非素子領域10Bは、電気的機能を発揮するための機能構造が形成されない領域である。非素子領域10Bは、特に限定されるものではないが、例えばダイシングによって削られるスクライブラインに対応した領域であってもよい。
【0014】
窒化ガリウム系半導体層10は、窒素とガリウムを含むIII-V族化合物半導体を材料とする半導体層である。窒化ガリウム系半導体層10は、特に限定されるものではないが、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)又は窒化インジウムガリウム(InGaN)であってもよい。
【0015】
窒化ガリウム系半導体層10は、第1主面10aと第2主面10bを有している。窒化ガリウム系半導体層10の素子領域10AにMISFET又はMOSFETの機能構造が形成される場合、窒化ガリウム系半導体層10の第1主面10aに絶縁ゲート構造が形成される。なお、本願明細書において、窒化ガリウム系半導体層10の表面とは、第1主面10aと第2主面10b、さらに、第1主面10aと第2主面10bの間の側面を含む意味で用いられる。
【0016】
図3に示されるように、フォトリソグラフィー技術を利用して、窒化ガリウム系半導体層10の第1主面10aの一部を被覆するマスク20を成膜する。マスク20には、素子領域10Aの第1主面10aの少なくとも一部が露出する開口が形成されている。次に、イオン注入技術を利用して、マスク20の開口越しに窒化ガリウム系半導体層10の第1主面10aに向けて不純物をイオン注入するイオン注入工程を実施する(
図1のS1)。これにより、窒化ガリウム系半導体層10内にイオン注入領域22が形成される。イオン注入される不純物は、特に限定されるものではないが、例えばマグネシウムであってもよい。イオン注入工程を実施した後に、マスク20は除去される。
【0017】
次に、
図4に示されるように、非素子領域10Bの第1主面10aの少なくとも一部の領域の表面粗さを増加させた粗面領域12を形成する粗面領域形成工程を実施する(
図1のS2)。粗面領域12は、特に限定されるものではないが、例えばドライエッチング技術を利用して形成されてもよい。このような粗面領域12が形成されても、粗面領域12が非素子領域10Bに位置しているので、素子領域10Aに形成される機能構造の電気的特性に悪影響を与えることが防止される。
【0018】
次に、
図5に示されるように、粗面領域12を露出させた状態で窒化ガリウム系半導体層10の表面を被覆するようにキャップ層30を成膜するキャップ層成膜工程を実施する(
図1のS3)。この例では、キャップ層30は、第1主面10aと第2主面10b、さらに、第1主面10aと第2主面10bの間の側面にも成膜され、粗面領域12のみがキャップ層30の開口から露出している。この例に代えて、キャップ層30は、イオン注入領域22が形成された側の第1主面10aのみを成膜してもよい。
図5に示されるように、キャップ層30には、意図しない空隙30aが形成されている。
【0019】
キャップ層30は、アルミニウムを含む窒化物又は酸化物である。キャップ層30は、窒化ガリウム系半導体層10よりも融点が高い材料であり、後述するアニール工程において、窒化ガリウム系半導体層10からの窒素抜けを抑えるために用いられる。キャップ層30は、特に限定されるものではないが、例えば窒化アルミニウム(AlN)又は酸化アルミニウム(Al2O3)であってもよい。キャップ層30は、蒸着技術を利用して窒化ガリウム系半導体層10の表面に成膜される。蒸着技術としては、特に限定されるものではないが、例えば原子堆積法(Atomic Layer Deposition)が例示される。
【0020】
なお、
図4に示す粗面領域形成工程と
図5に示すキャップ層成膜工程は、その実施順序が上記で説明した例と逆であってもよい。例えば、非素子領域10Bの第1主面10aの少なくとも一部の領域を露出させた状態でキャップ層30を成膜した後に、その露出した領域の表面粗さを増加させて粗面領域12を形成してもよい。
【0021】
次に、
図6に示されるように、アンモニア雰囲気下で窒化ガリウム系半導体層10をアニール処理するアニール工程を実施する(
図1のS4)。これにより、窒化ガリウム系半導体層10内に拡散領域14を形成することができる。
【0022】
このアニール工程は、アンモニア雰囲気下で実施される。このため、アニール工程は、窒素分圧が高い状態で実施されるので、窒化ガリウム系半導体層10の表面からの窒素抜けが抑えられる。さらに、本明細書が開示する製造方法では、窒化ガリウム系半導体層10の表面の一部に粗面領域12が形成されており、その粗面領域12がキャップ層30で被覆されずに露出している。このため、アニール工程において、粗面領域12からガリウムが離脱する。離脱したガリウムとアンモニアに含まれる窒素とキャップ層30に含まれるアルミニウムが反応し、キャップ層30の空隙30a内に窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)が充填される。このように、本明細書が開示する製造方法では、キャップ層30に空隙30aが形成されていたとしても、粗面領域12からガリウムが優先的に離脱することにより、空隙30aが窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)で充填されるので、空隙30aを介して窒化ガリウム系半導体層10の表面から窒素が抜けることが抑えられる。この結果、本明細書が開示する製造方法によると、キャップ層30の空隙30aからの窒素抜けを抑えながら窒化ガリウム系半導体層10内にイオン注入された不純物を活性化させることができる。
【0023】
上記で説明した製造方法では、粗面領域12が非素子領域10aの第1主面10aの一部の領域に形成されていた。
図7に示されるように、粗面領域12は、非素子領域10aの第2主面10aの一部の領域に形成されてもよい。あるいは、粗面領域12は、窒化ガリウム系半導体層10の側面に形成されてもよい。
【0024】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0025】
本明細書が開示する窒化物半導体装置の製造方法は、窒化ガリウム系半導体層の少なくとも一方の主面の少なくとも一部の領域に向けて不純物をイオン注入するイオン注入工程と、前記窒化ガリウム系半導体層の少なくとも一部の表面の表面粗さを増加させた粗面領域を形成する粗面領域形成工程と、前記粗面領域を露出させた状態で前記窒化ガリウム系半導体層の少なくとも前記一方の主面上にキャップ層を成膜するキャップ層成膜工程と、アンモニア雰囲気下で前記窒化ガリウム系半導体層をアニール処理するアニール工程と、を備えることができる。前記キャップ層は、アルミニウムを含む窒化物又は酸化物である。前記粗面領域形成工程と前記キャップ層成膜工程は、どちらを先に実施してもよい。前記キャップ層は、窒化アルミニウム(AlN)又は酸化アルミニウム(Al2O3)であってもよい。
【0026】
前記窒化ガリウム系半導体層は、素子領域と非素子領域に区画されていてもよい。この場合、前記イオン注入工程で前記不純物がイオン注入される領域は、前記素子領域に位置していてもよい。さらに、前記粗面領域形成工程で形成される前記粗面領域は、前記非素子領域に位置していてもよい。前記粗面領域が前記非素子領域に形成されるので、前記素子領域に形成される機能構造の電気的特性に悪影響を与えることが防止される。
【0027】
前記非素子領域は、前記窒化ガリウム系半導体層のスクライブラインに対応した領域であってもよい。
【0028】
前記粗面領域形成工程では、ドライエッチング技術を利用して前記粗面領域を形成してもよい。
【0029】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0030】
10:窒化ガリウム系半導体層、 10A:素子領域、 10B:非素子領域、 12:粗面領域、 14:拡散領域、 20:マスク、 22:イオン注入領域、 30:キャップ層、 30a:空隙