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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】検出器及び放射線モニタ
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20241029BHJP
   G01T 1/16 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G01T1/20 C
G01T1/20 B
G01T1/16 A
G01T1/20 H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021073504
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167602
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】畠山 修一
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敬介
(72)【発明者】
【氏名】小泉 湧希
【審査官】坂上 大貴
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
1/167-7/12
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する放射線の放射線量に対応するフォトンを発生する放射線発光材料により構成され、前記フォトンが出射する出射側端面を備えるセンサと、
前記センサで発生した前記フォトンを散乱させる散乱体と、
前記センサの前記出射側端面に対向するように入射口が配置され、前記散乱体で散乱した前記フォトンを、前記入射口を通じて光電変換器に伝送する光ファイバと、を備える
ことを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記センサの前記出射側端面と、前記光ファイバの前記入射口との間に空隙を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記散乱体は、前記センサの前記出射側端面に配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項4】
前記散乱体は、前記センサの前記出射側端面のうち、前記光ファイバの前記入射口を前記出射側端面に投影した部分以外の前記出射側端面に配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項5】
前記散乱体は、少なくとも前記センサの前記出射側端面を含むように、前記センサの内部に配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項6】
前記散乱体は、前記センサの内部の一部に配置される
ことを特徴とする請求項5に記載の検出器。
【請求項7】
前記散乱体は、前記フォトンの波長よりも小さい粒子により構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項8】
前記散乱体は、前記センサの全体に配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項9】
前記散乱体は、前記放射線発光材料の多結晶体により構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項10】
前記散乱体は、結晶欠陥を有する前記放射線発光材料の単結晶により構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項11】
前記散乱体は、不純物を有する前記放射線発光材料により構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項12】
前記散乱体は、等方散乱を生じさせる散乱体である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項13】
前記センサの前記出射側端面と、前記光ファイバの前記入射口とは、接触する
ことを特徴する請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項14】
前記センサのうちの前記出射側端面以外の部分を覆うように、前記フォトンを反射させる反射材を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項15】
放射線を検出し、検出した放射線量に対応するフォトンを発生させる検出器と、
前記検出器で発生した前記フォトンを電気信号に変換する光電変換器と、
前記光電変換器が変換する前記電気信号を計数し、前記電気信号の計数値を出力する計数装置と、
前記電気信号の計数値に基づいて、放射線量又は線量率の少なくとも何れか一方の演算結果を演算する演算装置と、
前記演算結果を表示する表示装置と、を備え、
前記検出器は、
入射する放射線の放射線量に対応するフォトンを発生する放射線発光材料により構成され、前記フォトンが出射する出射側端面を備えるセンサと、
前記センサで発生した前記フォトンを散乱させる散乱体と、
前記センサの前記出射側端面に対向するように入射口が配置され、前記散乱体で散乱した前記フォトンを、前記入射口を通じて光電変換器に伝送する光ファイバと、を備える
ことを特徴とする放射線モニタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は検出器及び放射線モニタに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線モニタは、原子力発電プラント、医療用の放射線検査、放射線治療等の各用途に使用される放射線計測装置である。放射線モニタとして、安定性及び再現性が良好な電離箱が広く使用されている。特に、原子力発電プラントの過酷環境下で放射線量を計測する場合には、計測場所の制限等により、小さく、電圧印加不要であるとともに、耐環境性にも優れることが好ましい。また、放射線治療時の患者体内の放射線量を計測する場合にも、低侵襲性であることが好ましく、小さく、電圧印加不要なセンサが好ましい。
【0003】
近年、電離箱に代わり、放射線量の計測に、小型化が比較的容易な半導体検出器が使用されている。しかし、半導体検出器であっても、信号処理系までを含めると、小型化には限界がある。また、半導体検出器は、電圧印加が行われるとともに、耐環境性という観点からは使用条件の制限が大きい。
【0004】
そこで、センサとしてシンチレータ素子を使用し、シンチレータ素子から発生するフォトンを光ファイバにより伝送し、遠隔にて放射線量を計測する光ファイバ型の放射線モニタが開発されている。光ファイバ型の放射線モニタは、センサが小型で、電圧の印加も不要であるとともに、耐放射線性、耐熱性等の耐環境性にも優れている。従って、光ファイバ型の放射線モニタは、原子力発電プラントの過酷環境下で放射線量を計測する場合、放射線治療時の患者体内の放射線量を計測する場合にも好適である。
【0005】
特許文献1の請求項1には、「放射線の入射によって発光する放射線検出素子と、前記放射線検出素子を収容するハウジングと、を有する放射線検出部を複数備えるとともに、複数の前記放射線検出素子で生じた光を伝送して合流させる光伝送路と、前記光伝送路を介して、自身に導かれる合流後の光を電気パルスに変換する光検出部と、前記電気パルスの計数率に基づいて、放射線の線量率を算出する解析部と、を備え、複数の前記ハウジングには、第1の材料で構成される少なくとも一つの前記ハウジングが含まれるとともに、第2の材料で構成される別の前記ハウジングが含まれることを特徴とする放射線モニタ。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-90622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、放射線検出素子の光ファイバ側の端面には、光学研磨が施されている(段落0023)。これにより、光が端面を透過し易い。一方で、端面を透過したものの光ファイバの入射口に到達しないフォトンは検出されず、検出感度が低下する。このような課題は、例えば、原子力発電プラント、その他の放射線施設のエリアモニタとして使用する場合等の、環境が低線量率の場合に大きくなる。
本開示が解決しようとする課題は、優れた検出感度を有する検出器及び放射線モニタの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の検出器は、入射する放射線の放射線量に対応するフォトンを発生する放射線発光材料により構成され、前記フォトンが出射する出射側端面を備えるセンサと、前記センサで発生した前記フォトンを散乱させる散乱体と、前記センサの前記出射側端面に対向するように入射口が配置され、前記散乱体で散乱した前記フォトンを、前記入射口を通じて光電変換器に伝送する光ファイバと、を備える。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、優れた検出感度を有する検出器及び放射線モニタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の放射線モニタのブロック図である。
図2】放射線によるフォトンの発生過程を説明する概念図である。
図3】線量率とフォトン計数率との関係を説明する図である。
図4】第1実施形態の検出器の構造を説明する図である。
図5】従来の検出器を説明する図である。
図6】フォトン計数率と電気パルス計数率の関係を説明する図である。
図7A】第2実施形態の検出器の構造を説明する図である。
図7B】センサの出射側端面への光ファイバの投影部分を説明する図である。
図8】第3実施形態の検出器の構造を説明する図である。
図9】第4実施形態の検出器の構造を説明する図である。
図10】第5実施形態の検出器の構造を説明する図である。
図11】第6実施形態の検出器の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0012】
図1は、第1実施形態の放射線モニタ1(光ファイバ型放射線モニタ)のブロック図である。放射線モニタ1は、検出器70と、光電変換器30と、計数装置40と、演算装置50と、表示装置60とを備える。
【0013】
検出器70は、放射線Rを検出し、検出した放射線量に対応するフォトンPを発生させるものである。検出器70は、センサ10と散乱体100と光ファイバ20とを備える。センサ10は、入射する放射線R(例えばガンマ線、X線等)の放射線量に対応するフォトンP(シングルフォトン)を発生する放射線発光材料により構成されたものである。センサ10は、例えば放射線発光材料により構成された放射線発光素子(不図示)を備え、放射線Rは、例えば放射線発光素子に入射し、放射線発光素子においてフォトンPが発生する。フォトンPの発生により、発光(蛍光も含む)が生じる。
【0014】
図2は、放射線RによるフォトンPの発生過程を説明する概念図である。センサ10(図1)に放射線Rが入射すると、放射線Rのエネルギにより、放射線発光材料における基底状態(エネルギ準位L1)の電子は、エネルギ準位の高い励起状態(エネルギ準位L3)に遷移する(矢印a1)。そして、エネルギ準位の高い励起状態(エネルギ準位L3)にある電子は、エネルギ準位の低い励起状態(エネルギ準位L2)に遷移する(矢印b1)。センサ10は、エネルギ準位L3とエネルギ準位L2とのエネルギ差に相当するエネルギを有するフォトンPを発生する。
【0015】
図1に戻って、放射線発光材料は、例えば、母材として透明イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)等の材料を有し、この材料に、添加物として、イッテルビウム、ネオジム、セリウム、プラセオジウム等の1種類以上の希土類元素を有する。1種類以上の希土類元素を有することにより、センサ10に入射する放射線Rの線量率とフォトン計数率との線形性を更に向上できる。線形性については図3を参照しながら後記する。そして、高線量率の放射線Rがセンサ10に入射する場合であっても、線量率とフォトン計数率との線形性を維持し、線量率の計測精度を向上できる。
【0016】
放射線発光材料は、例えば下記式(1)に示される材料でもよい。
ATaO:B ・・・式(1)
式(1)において、A及びBは、4f-4f電子遷移を有する希土類元素であり、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Tbの少なくとも1種類以上の希土類元素である。添加物を示すBの質量は、放射線発光材料の総質量に対して、1×10-3質量%~30質量%であることが好ましい。これにより、センサ10の発光強度を向上できる。
【0017】
式(1)で示される放射線発光材料は、高密度の母材ATaO及び添加物Bにより、4f-4f電子遷移を有する希土類元素を含む。これにより、放射線Rの入射により母材ATaOに付与するエネルギを、高効率で添加物Bの励起エネルギに使用できる。この結果、センサ10の感度を向上できる。
【0018】
センサ10に入射する放射線Rの放射線量と、センサ10で発生するフォトンPの数(フォトン数)とは、線形性を有する。つまり、センサ10に入射する放射線Rの線量率と、センサ10が発生する単位時間当たりのフォトン数(以下「フォトン計数率」という)とは、線形性を有する。
【0019】
図3は、線量率とフォトン計数率との関係を説明する図である。図示のように、放射線Rの線量率とフォトン計数率とは線形性(比例関係)を有する。この関係は、センサ10の発光寿命、蛍光寿命等の寿命が比較的長いことによる。具体的には、センサ10の寿命は例えば1μ秒以上が好ましく、放射線発光材料が例えばYAG:Ndである場合には、寿命は例えば230μ秒である。
【0020】
図4は、第1実施形態の検出器70の構造を説明する図である。Z軸は光ファイバ20の中心軸方向であり、R軸はZ軸に垂直な方向に延在する軸である。センサ10は、フォトンPが出射する出射側端面102を備える。光ファイバ20は、センサ10の出射側端面102に入射口201が対向するように配置され、フォトンPを入射口201を通じて光電変換器30(図1)に伝送するものである。光ファイバ20は、例えば石英、プラスチック等により構成される。
【0021】
検出器70は、センサ10で発生したフォトンPを散乱させる散乱体100を備える。図示の例では、センサ10が散乱体100を備え、散乱体100は、出射側端面102に配置される。センサ10の内部の点Sで発生したフォトンPは、出射側端面102に向かって進行し、出射側端面102に至る。出射側端面102に至ったフォトンPは、散乱体100で散乱した後に出射側端面102から出射し、入射口201を通じて光ファイバ20に入射する。従って、光ファイバ20は散乱体100で散乱したフォトンPを伝送する。散乱により、出射側端面102から光ファイバ20の入射口201に至るフォトンPを増やし、検出感度を向上できる。
【0022】
検出器70は、センサ10の出射側端面102と、光ファイバ20の入射口201との間に空隙200を備える。空隙200は、例えば、センサ10と光ファイバ20とをハウジング(不図示)の内部に離間して配置することで、前記ハウジング内に備えられる。空気等が存在する空隙200の屈折率は小さいため、出射側端面102から屈折率が小さくなる空隙200にいったん出射させることで、詳細は後記する伝送可能な角度θ1を大きくできる。空隙200の内部は真空でもよいし、内圧は大気圧未満又は大気圧以上でもよい。
【0023】
出射側端面102と入射口201とは通常は平行に配置され、これらの間に空隙200が備えられる。空隙200の大きさ、即ち、出射側端面102と入射口201との間の距離は、フォトンPの減衰を抑制可能な程度の距離であれば特に制限されないが、例えば1mm以下にすることができる。
【0024】
図5は、従来の検出器80を説明する図である。図5に示す検出器80と、本開示の検出器70(図4)とは、散乱体100の有無、及び空隙200の有無以外は同様である。
【0025】
従来技術では、フォトンPが光ファイバ20内を伝送可能となる入射方向には制限がある。具体的には、入射口201に対する入射角が所定の角度θ以下でないと伝送できない。センサ10の屈折率をn、光ファイバ20の開口数をNAとすると角度θは式(2)で与えられる。
角度θ=arcsin(NA/n) ・・・式(2)
【0026】
センサ10の屈折率nを2.0、光ファイバ20の開口数NAを0.37とすると式(2)より、角度θは10.7°である。即ち、10.7°を超える角度θで入射口201に入射したフォトンPは、光ファイバ20の内部を適切に伝送されない。そこで、光ファイバ20の伝送効率を高めるためには、式(2)により、光ファイバ20の開口数NAを大きく、又は、センサ10の屈折率nを小さくすることが好ましい。更に、光ファイバ20のコア径自体を大きくすることも好ましい。
【0027】
この入射可能な角度θと光ファイバ20のコア径とに基づき、センサ10の任意の点において、伝送可能な角度θを算出できる。また、センサ10の任意の点において、フォトンPの放出確率が等しく、放出方向が例えば等方的であると考えられるので、任意の位置で求めた伝送可能な角度θから伝送可能な確率を算出できる。更に、センサ10内の各点での伝送可能な確率を全て足し合わせること(体積積分)により、フォトンPの伝送確率を算出できる。具体的には、センサ10の形状を直径3mm長さ3mmの円筒形、屈折率nを2.0とし、光ファイバ20のコア径を400μm、開口数NAを0.37とすると、伝送確率は1.5×10-4となり、非常に小さな値である。従って、従来技術では、伝送確率が非常に小さい主原因は、センサ10の屈折率で決まる狭い角度θである。
【0028】
そこで、図4に戻って、本開示の検出器70は散乱体100を備える。これにより、フォトンPを散乱させ、入射口201へのフォトンPの到達確率を向上できる。これにより、角度θ以下で入射するフォトンPを増やせるため、検出器70の検出感度を向上できる。
【0029】
また、空隙200を備えることで、光ファイバ20を伝搬可能な入射口201への入射角である角度θ1を増大できる。これにより、光ファイバ20に伝送できない角度以上で出射したフォトンPであっても、角度θ1以下であれば伝送できるため、光ファイバ20の伝送確率を向上できる。例えば、光ファイバ20を伝搬可能な角度θ1は、光ファイバ20の開口数NAを0.37とすると空気の屈折率は1.0なので、式(2)によれば、角度θ1は21.7°であり、従来技術に対して倍増する。
【0030】
従って、光ファイバ20により伝送されるフォトンPの数を増やせるため、検出器70の検出感度を向上できる。例えば、空隙200の屈折率を1.0として、散乱体100で例えば等方的に散乱とすると仮定すると、伝送確率は2.3×10-4となり、従来技術の伝送確率である上記1.5×10-4の1.5倍となる。
【0031】
散乱体100は、上記のように、例えば、センサ10の出射側端面102に配置される。この位置に配置することで、例えば出射側端面102の表面加工等によって散乱体100を配置できるため、散乱体100を容易に配置できる。また、散乱体100による効果を向上できるとともに、散乱体100の特性を制御し易くできる。これらにより、検出器70及び放射線モニタ1を安価に製造できる。表面加工は、例えば後記のレイリー散乱を発生可能な程度の幅を有した傷付け等が挙げられ、形成される形状は例えば溝、凹凸等である。
【0032】
別の実施形態では、散乱体100は、例えば、等方散乱を生じさせる散乱体である。等方散乱させることで、入射口201への到達確率及び光ファイバ20でのフォトンPの伝送確率を向上でき、放射線モニタ1の検出感度をより向上できる。
【0033】
上記のように、散乱体100での散乱は等方的であることが好ましい。従って、等方的に散乱するレイリー散乱可能な散乱体100が好ましい。レイリー散乱は、光の波長よりも十分小さい粒子による散乱である。従って、別の実施形態では、散乱体100は、例えば、センサ10で発生するフォトンPの波長よりも小さい粒子により構成される。散乱体100は例えば多結晶体により構成される。粒子は、表面加工によって形成してもよい。これにより、レイリー散乱を生じさせることでき、フォトンPを等方的に散乱できる
【0034】
例えば緑色のフォトンPの場合、その波長は550nm程度なので、散乱体100の粒子は、550nmよりも十分小さいものが良い。従って、散乱体100を構成する粒子は、サブμm以下の粒径が好ましい。なお、粒径はX線回折により測定でき、必ずしも全ての粒子が光の波長よりも小さい必要はない。従って、緑色のフォトンPの場合には、例えば550nm以下に砕いた粒子を散乱体100に含有させてもよい。また、等方的に散乱しているかを確認することで、フォトンPの波長よりも小さい粒子であるか否かを判断できる。
【0035】
なお、散乱体100は、例えば、フォトンPの波長よりも小さい粒子により構成されることが好ましいものの、そうでなくてもよい。即ち、フォトンPの波長よりも大きな粒子であっても、ある程度散乱による効果が奏される。
【0036】
図1に戻って、光電変換器30は、検出器70で発生したフォトンPを電気信号(以下電気パルスという)に変換するものである、光電変換器30には光ファイバ20が接続され、センサ10で発生したフォトンPは、光ファイバ20を通じて、光電変換器30に伝送される。光電変換器30は、光ファイバ20が伝送する各フォトンPを各電気パルスに変換する。従って、光電変換器30は、1個のフォトンPに対して、対応する1個の電気パルスを発信する。
【0037】
図6は、フォトン計数率と電気パルス計数率の関係を説明する図である。センサ10が発生するフォトン数と、光電変換器30が発信する電気パルス数とは、線形性(比例関係)を有する。そして、フォトン計数率と、光電変換器30が発信する単位時間当たりの電気パルス数(電気パルス計数率)とは、図6に示すように線形性を有する。このため、フォトン係数率に基づき、電気パルス係数率を一義的に算出できる。
【0038】
上記図3に示したように、線量率とフォトン計数率との間には、一対一対の対応関係がある。また、図6に示すように、フォトン計数率と電気パルス計数率との間にも、一対一対の対応関係がある。従って、線量率と電気パルス計数率との間にも、一対一対の対応関係がある。これにより、電気パルス計数率を線量率に換算できる。
【0039】
図1に戻って、光電変換器30としては、例えば光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード等を使用できる。これらを使用することにより、フォトンPを増幅した電気パルスに変換できる。
【0040】
計数装置40は、光電変換器30が変換する電気パルス(電気信号)を計数し、電気パルスの計数値を出力するものである。計数装置40は、光電変換器30に対し、電気信号線(不図示)により接続される。計数装置40は、光電変換器30で発信される電気パルスを計数し、計数装置40が計数する電気パルスの計数値(電気パルス数)を出力する。
【0041】
演算装置50は、計数装置40での電気パルス(電気信号)の計数値に基づいて、放射線量又は線量率の少なくとも何れか一方の演算結果を演算するものである。演算装置50は、計数装置40に対し、電気信号線(不図示)により接続される。演算装置50は、一対一に対応する電気パルスの計数値(電気パルス計数率でもよい)と、放射線量又は線量率と、の関係(例えば関係式等)を保持する。この関係は、事前に設定される。
【0042】
演算装置50は、何れも図示はしないが、例えばCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えて構成される。演算装置50は、ROMに格納されている所定の制御プログラムがRAMに展開され、CPUによって実行されることにより具現化される。
【0043】
表示装置60は、放射量又は線量率の少なくとも何れか一方の演算結果を表示するものである。表示装置60は、演算装置50に対し、電気信号線(不図示)により接続される。表示装置60は、更に、センサ10の異常等も表示する。
【0044】
検出器70及び放射線モニタ1によれば、光ファイバ20の入射口201へのフォトンPの到達確率、及び、光ファイバ20での伝送確率を向上でき、放射線モニタ1の検出感度を向上できる。これにより、例えば低線量率の環境においても優れた検出感度を有する検出器及び放射線モニタを提供できる。具体的には、例えばSN比の向上、計測の短時間化等が挙げられる。中でも、計測の短時間化により、放射線モニタ1が複数の検出器70を備えるようにし、使用する検出器70を切り替えることで、多チャンネルの計測を実行できる。
【0045】
図7Aは、第2実施形態の検出器71の構造を説明する図である。検出器71は、出射側端面102のうち散乱体100を備えない部分を有すること以外は、検出器70(図4)と同様である。
【0046】
図7Bは、センサ10の出射側端面102への光ファイバ20の投影部分を説明する図である。検出器71では、散乱体100は、センサ10の出射側端面102のうち、光ファイバ20の入射口201を、図7Bにおいて破線で示すように出射側端面102に投影した部分以外の出射側端面102に配置される。このようにすることで、入射口201の投影部分からは散乱させずにそのまま光ファイバ20の入射口201に入射できるとともに、それ以外の部分からは散乱により光ファイバ20の入射口201の入射確率を向上できる。
【0047】
図8は、第3実施形態の検出器72の構造を説明する図である。検出器72は、散乱体100の設置場所が検出器70(図4)と異なること以外は、検出器70と同様である。
【0048】
検出器72では、散乱体100は、少なくともセンサ10の出射側端面102を含むように、センサ10の内部に配置される。これにより、センサ10内で発生したフォトンPを散乱できるとともに、散乱体100の厚さを制御できる。
【0049】
図示の例では、散乱体100は、センサ10の全体に配置される。これにより、センサ10の全体の任意の位置で発生したフォトンPを速やかに散乱できる。
【0050】
散乱体100は、例えば、放射線発光材料の多結晶体により構成される。従って、センサ10は、放射性発光材料により構成された散乱体100により構成される。これにより、結晶の成長条件を変えることでセンサ10及び散乱体100を容易に形成できるため、製造コストを低減できる。
【0051】
別の実施形態では、散乱体100は、結晶欠陥を有する放射線発光材料の単結晶により構成される。結晶欠陥を有する単結晶は容易に製造できるため、センサ10及び散乱体100を容易に形成でき、製造コストを低減できる。
【0052】
別の実施形態では、散乱体100は、不純物を有する放射線発光材料の単結晶により構成される。不純物の物性によって散乱体100の物性を制御できるため、センサ10を兼ねる散乱体100の物性を制御し易くできる。
【0053】
図9は、第4実施形態の検出器73の構造を説明する図である。検出器73は、センサ10の全体に対する散乱体100の配置割合が検出器72(図8)と異なること以外は、検出器72と同様である。
【0054】
検出器73では、散乱体100は、出射側端面102を含むように、センサ10の内部の一部に配置される。このようにすることで、センサ10のうち散乱体100以外の部分ではフォトンPを散乱させず散乱体100に入射できるので、出射側端面102に近い部分で散乱できる。これにより、散乱したフォトンPを出射側端面102から効率的に出射できる。
【0055】
図10は、第5実施形態の検出器74の構造を説明する図である。検出器74は、空隙200(図2)を備えないこと以外は、検出器70(図2)と同様である。
【0056】
検出器74では、センサ10の出射側端面102と、光ファイバ20の入射口201とは、接触する。これにより、センサ10と光ファイバ20とを接触させた状態で配置できるため、検出器74を小型化できる。図示の例では、出射側端面102に配置された散乱体100と入射口201とが接触する。
【0057】
図11は、第6実施形態の検出器75の構造を説明する図である。検出器75は、検出器73(図9)に対し、反射材103を備えること以外は検出器73と同様である。
【0058】
検出器75は、センサ10のうちの出射側端面102以外の部分を覆うように、フォトンPを反射させる反射材103を備える。光ファイバ20に面していない例えば側面及び上面に反射材103を設置することにより、従来散逸していたフォトンPを反射できる。これにより、出射側端面102に向かわないフォトンPを散乱体100の内部に留まらせ、光ファイバ20への入射確率を向上できる。反射材103は、放射線Rは透過するがフォトンPは透過せずに反射可能な材料であれば任意であり、例えば銀、アルミニウム等の例えば板、箔等である。
【0059】
また、内部に散乱体100を分布させることで、向かい合った面等でのフォトンPの反射に起因する減衰を抑制でき、光ファイバ20への入射確率を向上できる。
【符号の説明】
【0060】
1 放射線モニタ
10 センサ
100 散乱体
102 出射側端面
103 反射材
20 光ファイバ
200 空隙
201 入射口
30 光電変換器
40 計数装置
50 演算装置
60 表示装置
70 検出器
71 検出器
72 検出器
73 検出器
74 検出器
75 検出器
80 検出器
a1 矢印
1 矢印
L1 エネルギ準位
L2 エネルギ準位
L3 エネルギ準位
P フォトン
R 放射線
S 点
θ 角度
θ1 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11