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  • 特許-セラミックス多孔体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】セラミックス多孔体
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/06 20060101AFI20241029BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C04B38/06 D
C04B35/117
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021076910
(22)【出願日】2021-04-29
(65)【公開番号】P2022170752
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】塩津 兼一
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012240(JP,A)
【文献】特開2014-227324(JP,A)
【文献】特開2007-204360(JP,A)
【文献】特開2018-150206(JP,A)
【文献】特開平11-314975(JP,A)
【文献】特開2010-248065(JP,A)
【文献】特表2013-512189(JP,A)
【文献】特開平04-275984(JP,A)
【文献】国際公開第2021/044875(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0189833(US,A1)
【文献】特開平07-206540(JP,A)
【文献】特開平01-286975(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111807852(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/
C04B 35/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下であるセラミックス多孔体であって、
前記セラミックス多孔体の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、前記セラミックス粒子が占める面積と前記セラミックス繊維が占める面積との合計に対して、前記セラミックス繊維が占める面積の割合が5.0%以上11.5%以下であり、
前記セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を算出し、
前記セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を算出すると、
前記セラミックス粒子を構成する主元素と前記セラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が55質量%以上90質量%以下である、セラミックス多孔体。
【請求項2】
前記セラミックス多孔体の断面を600μm×600μmの視野で観察した場合に、繊維長が50μm以上である前記セラミックス繊維が占める面積に対して、繊維長が50μm以上であり、かつアスペクト比が20以上の前記セラミックス繊維が占める面積の割合が60%以上である、請求項1に記載のセラミックス多孔体。
【請求項3】
前記セラミックス繊維が配向していない、請求項1又は請求項2に記載のセラミックス多孔体。
【請求項4】
表層として緻密層を有しており、
前記セラミックス多孔体の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、
前記セラミックス多孔体の表面から100μm以内の領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、
前記セラミックス多孔体の表面から200μm以上離れた領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、
割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセラミックス多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ繊維の集合体とアルミナ繊維が分散したスラリーとを所定の溶媒中で混合してアルミナ成形体を得て、アルミナ成形体を焼成したアルミナ焼成成形体が知られている(例えば、特許文献1)。高純度アルミナ繊維前駆体を熱処理したものにスラリーを含浸し再度熱処理する技術も知られている(例えば、特許文献2)。
また、セラミックスの繊維の集合体で気孔率が高いセラミックス焼結体(特許文献3)、繊維を圧縮成形し熱処理をおこなったセラミックス多孔体(特許文献4)、セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーにセラミックス長繊維を浸漬して作製したセラミックス材料(特許文献5)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-36034号公報
【文献】特開平5-319949号公報
【文献】特開2007-217235号公報
【文献】特開2011-219359号公報
【文献】特開2012-12240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミックス多孔体において、気孔率と強度は相反する性能であり、軽量性を確保しつつ、強度を向上することが難しかった。
本開示は、上記実情を鑑みてなされたものであり、セラミックス多孔体の軽量性を確保しつつ、強度を向上することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下であるセラミックス多孔体であって、
前記セラミックス多孔体の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、前記セラミックス粒子が占める面積と前記セラミックス繊維が占める面積との合計に対して、前記セラミックス繊維が占める面積の割合が5.0%以上11.5%以下であり、
前記セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を算出し、
前記セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を算出すると、
前記セラミックス粒子を構成する主元素と前記セラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が55質量%以上90質量%以下である、セラミックス多孔体。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、セラミックス多孔体の軽量性を確保しつつ、強度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】セラミックス多孔体の断面を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記セラミックス多孔体の断面を600μm×600μmの視野で観察した場合に、繊維長が50μm以上である前記セラミックス繊維が占める面積に対して、繊維長が50μm以上であり、かつアスペクト比が20以上の前記セラミックス繊維が占める面積の割合が60%以上である、セラミックス多孔体。
【0009】
〔3〕前記セラミックス繊維が配向していない、セラミックス多孔体。
【0010】
〔4〕表層として緻密層を有しており、
前記セラミックス多孔体の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、
前記セラミックス多孔体の表面から100μm以内の領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、
前記セラミックス多孔体の表面から200μm以上離れた領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、
割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい、セラミックス多孔体。
【0011】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
1.セラミックス多孔体1
セラミックス多孔体1は、1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下である。セラミックス多孔体1の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積との合計に対して、セラミックス繊維が占める面積の割合が5.0%以上11.5%以下である。セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して、セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を算出し、セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して、セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を算出すると、セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が55質量%以上90質量%以下である。
【0013】
(1)セラミックス粒子
セラミックス粒子としては、酸化物系セラミック粒子、炭化物系セラミックス粒子、窒化物系セラミックス粒子、炭窒化物系セラミックス粒子等が挙げられる。セラミックス粒子は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。セラミックス粒子は、酸化物系セラミック粒子又は炭化物系セラミックス粒子であることが好ましく、酸化物系セラミック粒子であることがより好ましい。
セラミックス粒子は、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Sr(ストロンチウム)、Cr(クロム)、及びBa(バリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むことが好ましい。これらの中でも、セラミックス粒子は、生産性の観点から、主成分としてアルミナ(Al)を含むことがより好ましい。セラミックス粒子は、耐食性向上の観点から、主成分として炭化ケイ素(SiC)を含むことも好ましい。
【0014】
セラミックス粒子の平均粒径は特に限定されない。セラミックス粒子の平均粒径は、例えば、1μm以上8μm以下であってもよい。なお、セラミックス粒子の平均粒径は、セラミックス粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)画像から、円相当径として算出できる。
【0015】
(2)セラミックス繊維
セラミックス繊維としては、酸化物系セラミック繊維、炭化物系セラミックス繊維等が挙げられる。セラミックス繊維は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。セラミックス繊維は、酸化物系セラミック繊維又は炭化物系セラミックス繊維であることが好ましく、酸化物系セラミック繊維であることがより好ましい。
セラミックス繊維は、アルミナ(Al)/シリカ(SiO)ファイバー、アルミナ(Al)ファイバー、シリカ(SiO)ファイバー、及び炭化ケイ素(SiC)ファイバーからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、セラミックス繊維は、生産性や靭性の観点から、アルミナ(Al)/シリカ(SiO)ファイバーを含むことがより好ましい。セラミックス粒子は、耐食性向上の観点から、炭化ケイ素(SiC)ファイバーを含むことも好ましい。
セラミックス繊維は、セラミックス繊維以外の無機繊維と併用されてもよい。そのような無機繊維としては、カーボン(C)ファイバーが例示される。セラミックス繊維とセラミックス繊維以外の無機繊維が併用される場合には、セラミックス繊維以外の無機繊維の含有量よりもセラミックス繊維の含有量が多いことが好ましい。
【0016】
セラミックス繊維の平均繊維長は特に限定されない。セラミックス繊維の平均繊維長は、例えば、100μm以上500μm以下であってもよい。
セラミックス繊維の平均繊維幅は特に限定されない。セラミックス繊維の平均繊維幅は、例えば、10μm以上50μm以下であってもよい。
なお、セラミックス繊維の平均繊維長及び平均繊維幅は、セラミックス粒子のSEM画像から算出できる。具体的には、後述の(6)セラミックス繊維のアスペクト比に関する要件で説明するように、繊維長が50μm以上のセラミックス繊維の繊維長と繊維幅を測定して、その平均値として算出できる。
【0017】
(3)セラミックス多孔体1の平均気孔率
セラミックス多孔体1の平均気孔率は、40%以上75%以下である。セラミックス多孔体1の平均気孔率は、軽量性の観点から、40%以上であり、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、セラミックス多孔体1の平均気孔率が75%以下であれば、セラミックス多孔体1の強度を確保できる。
【0018】
セラミックス多孔体1の平均気孔率は、次のようにして算出できる。
セラミックス多孔体1の断面のSEM画像上で、600μm×600μmの正方形の領域を特定する。この領域の範囲内でEPMA(Electron Probe Micro Analyser)を用いた画像解析を行い、気孔が領域全体に占める面積を求める。求めた気孔の面積を、領域の面積で除して、気孔率を百分率で算出する。この気孔率を3カ所の異なる領域において求め、その平均値を算出する。算出された平均値を平均気孔率とする。
セラミックス多孔体1の平均気孔率は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、樹脂ビーズの大きさ及び配合量、セラミックス繊維の原料の繊維長、繊維幅及び配合量、セラミックス粒子の原料の粒径及び配合量、並びに焼成温度及び時間等を調整してコントロールできる。
【0019】
(4)セラミックス繊維が占める面積の割合の要件
セラミックス多孔体1の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積との合計に対して、セラミックス繊維が占める面積の割合が5.0%以上11.5%以下である。
セラミックス繊維が占める面積の割合は、強度を確保する観点から、好ましくは8.5%以上であり、より好ましくは10%以上である。セラミックス繊維が占める面積の割合が11.5%以下であれば強度を確保でき、また、強度のばらつきを抑制できる。
【0020】
セラミックス繊維が占める面積の割合は、次のようにして算出できる。セラミックス多孔体1の断面のSEM画像上で、600μm×600μmの正方形の領域を特定する。この領域の範囲内でEPMAを用いた画像解析を行い、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積とをそれぞれ求める。求めたセラミックス繊維が占める面積を、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積の合算値で除して、セラミックス繊維が占める面積の割合を百分率で算出する。
セラミックス繊維が占める面積の割合は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、セラミックス粒子及びセラミックス繊維の原料の大きさ並びに配合割合を調整してコントロールできる。
【0021】
(5)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件
セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)は、セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して算出する。
具体的には、セラミックス多孔体1の断面においてセラミックス粒子上の点を、SEMに付属されているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)にて点分析する。点分析は、異なるセラミックス粒子上にそれぞれ位置する5点において行う。点ごとにすべての元素を定量分析し、その分析結果に基づきAl、Mg、Si等のカチオン成分の酸化物換算での含有率(質量%)を求める。この際、例えば、AlはAlに、MgはMgOに、ZrはZrOに、SiはSiOに、TiはTiOに、SrはSrOに、CrはCrに、BaはBaOにそれぞれ酸化物換算する。各カチオン成分の酸化物換算での含有率は、カチオン成分全体を酸化物換算した合計の質量を100質量%として求める。
カチオン成分ごとに、5点の点分析で得られた酸化物換算での含有率の平均値を算出する。この平均値が最も大きいカチオン成分を、セラミックス粒子を構成する主元素として特定する。そして、特定した主元素の平均値を、セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)とする。
【0022】
セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)は、セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して算出する。
具体的には、セラミックス多孔体1の断面においてセラミックス繊維上の点を、SEMに付属されているEDSにて点分析する。点分析は、異なるセラミックス繊維上にそれぞれ位置する5点において行う。点ごとにすべての元素を定量分析し、その分析結果に基づきAl、Si等のカチオン成分の酸化物換算での含有率(質量%)を求める。この際、例えば、AlはAlに、SiはSiOにそれぞれ酸化物換算する。各カチオン成分の酸化物換算での含有率は、カチオン成分全体を酸化物換算した合計の質量を100質量%として求める。
カチオン成分ごとに、5点の点分析で得られた酸化物換算での含有率の平均値を算出する。この平均値が最も大きいカチオン成分を、セラミックス繊維を構成する主元素として特定する。そして、特定した主元素の平均値を、セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)とする。
【0023】
セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とは共通している。例えば、セラミックス粒子を構成する主元素がAlである場合には、セラミックス繊維を構成する主元素もAlである。セラミックス粒子を構成する主元素がSiである場合には、セラミックス繊維を構成する主元素もSiである。
含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率は55質量%以上90質量%以下である。含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率は、強度向上の観点から、55質量%以上であり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が90質量%以下であれば、セラミックス粒子とセラミックス繊維との界面の接合強度を向上させる点で好ましい。
セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とが共通し、含有率Aと含有率Bが上記の範囲内であると、焼結によってセラミックス粒子とセラミックス繊維の界面の接合強度が向上する。これは、セラミックス粒子とセラミックス繊維の界面に反応相が形成されるためであると推測される。したがって、上記の要件を充足することで、セラミックス多孔体1の気孔率が高い場合であっても、セラミックス多孔体1の強度を確保できる。
セラミックス粒子及びセラミックス繊維を構成する主元素の種類、及び主元素の酸化物換算での含有率A,B(質量%)は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、セラミックス粒子及びセラミックス繊維の原料の種類及び配合量等を調整してコントロールできる。
【0024】
(6)セラミックス繊維のアスペクト比に関する要件
セラミックス多孔体1は、強度向上の観点から、次のセラミックス繊維のアスペクト比に関する要件を満たしていることがより好ましい。
セラミックス多孔体1の断面を600μm×600μmの視野で観察した場合に、繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維が占める面積に対して、繊維長が50μm以上であり、かつアスペクト比が20以上のセラミックス繊維が占める面積の割合が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。上記のセラミックス繊維が占める面積の割合の上限は特に限定されないが、通常80%以下である。
この要件を満たすことにより強度を向上できる理由は、1本のセラミックス繊維におけるセラミックス粒子との反応部分が多くなり、かつセラミックス繊維同士の相互作用も得られるためであると推測される。
【0025】
上記のセラミックス繊維が占める面積の割合は、次のようにして算出できる。セラミックス多孔体1の断面のSEM画像上で、600μm×600μmの正方形の領域を特定する。この領域の範囲内でEPMAを用いた画像解析を行い、繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維を特定する。なお、セラミックス繊維のうち、視野からはみ出して輪郭の一部が見えないものについては観察対象から除外する。
繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維全体の面積を求める。繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維について、繊維長と繊維幅を測定し、アスペクト比(繊維長/繊維幅)を算出する。このうち、アスペクト比が20以上であるセラミックス繊維の面積を求める。アスペクト比が20以上であるセラミックス繊維の面積を、繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維全体の面積で除して、セラミックス繊維が占める面積の割合を百分率で算出する。この面積の割合を3カ所の異なる領域において求め、その平均値を算出する。算出された平均値を、繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維が占める面積に対して、繊維長が50μm以上であり、かつアスペクト比が20以上のセラミックス繊維が占める面積の割合とする。
上記のセラミックス繊維が占める面積の割合は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、セラミックス繊維の原料の繊維長及び繊維幅の変更、原料の混合粉砕条件の変更等によってコントロールできる。
【0026】
(7)セラミックス繊維の配向性
セラミックス繊維は配向していないことが好ましい。このような構成によれば、全方位からの衝撃に対して耐衝撃性を向上できる。したがって、セラミックス多孔体1の強度のばらつきを抑制できる。
【0027】
セラミックス繊維の配向性は、次のようにして評価できる。
互いに直交する3つの軸であるX軸、Y軸、Z軸について、XY平面に含まれるセラミックス多孔体1の断面と、YZ平面に含まれるセラミックス多孔体1の断面と、ZX平面に含まれるセラミックス多孔体1の断面のSEM画像を取得する。各断面のSEM画像において、EPMAを用いた画像解析を行い、繊維長が50μm以上のセラミックス繊維を全て特定する。特定したセラミックス繊維の両端を結ぶ直線を取得する。
XY平面内のSEM画像において、セラミックス繊維の両端を結ぶ直線とX軸とのなす角の角度θx(0°≦θx≦90°)を求める。角度θxが0°~90°であるセラミックス繊維の数を100%として、角度θxが25°~65°であるセラミックス繊維の数の割合Px%を求める。
YZ平面内のSEM画像において、セラミックス繊維の両端を結ぶ直線とY軸とのなす角の角度θy(0°≦θy≦90°)を求める。角度θyが0°~90°であるセラミックス繊維の数を100%として、角度θyが25°~65°であるセラミックス繊維の数の割合Py%を求める。
ZX平面内のSEM画像において、セラミックス繊維の両端を結ぶ直線とZ軸とのなす角の角度θz(0°≦θz≦90°)を求める。角度θzが0°~90°であるセラミックス繊維の数を100%として、角度θzが25°~65°であるセラミックス繊維の数の割合Pz%を求める。
Px≧30%、Py≧30%、Pz≧30%
の全てを充足する場合に、セラミックス繊維は配向していないと評価する。
セラミックス繊維の配向性は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、ス
ラリーの固形分量、用いる玉石量、ミルの回転速度、スラリーのpH等を調整してコントロールできる。
【0028】
(8)緻密層2
セラミックス多孔体1は、表層として緻密層2を有していることが好ましい。セラミックス多孔体1は、強度向上及び耐食性向上の観点から、外部に露出する表層全体が緻密層2であることがより好ましい。
緻密層2の厚みは、特に限定されない。緻密層2の厚みは、0μmより大きく、例えば
30μm以上であってもよい。また、緻密層2の厚みは、200μm以下であってもよく、例えば、100μm以下であってもよい。
【0029】
(9)気孔率差に関する要件
セラミックス多孔体1の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、セラミックス多孔体1の表面から100μm以内の領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、セラミックス多孔体1の表面から200μm以上離れた領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さいことが好ましい。セラミックス多孔体1の表面から200μm以上離れた領域としては、セラミックス多孔体1の大きさに応じて、セラミックス多孔体1の表面から300μm以下、500μm以下、10000μm以下離れた領域であってもよい。
割合P1(%)は、強度向上及び耐食性向上の観点から、割合P2(%)よりも22%以上小さいことがより好ましく、24%以上小さいことがさらに好ましい。割合P1(%)が割合P2(%)よりも小さい割合は、通常、55%以下であり、40%以下、35%以下であってもよい。
割合P1(%)と割合P2(%)との差は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、第2のセラミックス粒子の原料粉末の粒径、樹脂ビーズの配合割合等を調整してコントロールできる。
【0030】
2.セラミックス多孔体1の製造方法
セラミックス多孔体1の製造方法は特に限定されない。セラミックス多孔体1の製造方法の一例を以下に示す。
【0031】
(1)原料
原料として、セラミックス粒子(主に第1のセラミックス粒子、粒径が所定値(例えば3.5μm)より大きい粒子)の原料粉末と、セラミックス繊維の原料繊維を使用する。さらに、気孔を形成するために樹脂ビーズを使用する。
また、緻密層2を形成するために、第2のセラミックス粒子(粒径が所定値(例えば3.5μm)以下の粒子)の原料粉末を使用する。
【0032】
(2)顆粒作製
セラミックス粒子(主に第1のセラミックス粒子)の原料粉末、セラミックス繊維の原料繊維、樹脂ビーズを所定の配合割合になる様に秤量する。容器(例えば樹脂ポット等)の中に、秤量した原料、玉石(例えばAl球石)、及び溶媒(例えば水)を入れて混合粉砕する。得られたスラリーを乾燥し、顆粒を得る。
【0033】
(3)成形
顆粒をプレス成形して、成形体を得る。
【0034】
(4)コーティング
第2のセラミックス粒子の原料粉末を含むゾルを作製する。このゾルで成形体の表面をディッピングによりコーティングする。ディッピングにかえて、第2のセラミックス粒子の原料粉末を含むゾルを成形体にスプレーしてもよい。
【0035】
(5)焼結
第2のセラミックス粒子の原料粉末がコーティングされた成形体を焼成してセラミックス多孔体1を得る。
【0036】
3.セラミックス多孔体1の用途
セラミックス多孔体1の用途は特に限定されない。セラミックス多孔体1は、軽量で、高強度であるから、断熱材、防音材、緩衝材として好適である。また、セラミックス多孔体1は、気孔率が高く、断熱材の断熱性能の向上に寄与できる。セラミックス多孔体1は、気孔率が高く、防音材の防音性能の向上に寄与できる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0038】
1.セラミックス多孔体の作製
セラミックス粒子(原料粉末)には、表1の粒子種の欄に記載の各種粒子を用いた。表1に記載の粒子種のうち、最も左側に記載した粒子種の配合量が最も多い。
セラミックス繊維(原料繊維)には、表1の繊維種の欄に記載の各種繊維を用いた。表1に記載の繊維種のうち、最も左側に記載した繊維種の配合量が最も多い。
セラミックス粒子(原料粉末)85質量部~97質量部、セラミックス繊維(原料繊維)3質量部~15質量部を配合した。さらに、セラミックス粒子(原料粉末)とセラミックス繊維(原料繊維)の全量100質量部に対して、樹脂ビーズを30質量部~65質量部配合して、混合粉末とした。樹脂ビーズは、10~50μmの粒径のものを用いた。この混合粉末に、水とポリビニルアルコール(1wt%)を入れて混合粉砕した。混合粉砕の条件は、玉石:アルミナ球石、20rpm~70rpm、12時間とした。混合粉砕後、得られたスラリーを乾燥し、顆粒を作製した。得られた顆粒をプレス成形して、成形体を作製した。プレス成形の条件は、プレス圧:60MPa、保持時間:10秒とした。
第2のセラミックス粒子(原料粉末)には、表1に記載の粒子種うち最も左側に記載した粒子種と同種であり、平均粒径が3μm以下のものを用いた。第2のセラミックス粒子の原料粉末を含むゾルで、成形体の表面をディッピングによりコーティングした。その後、焼成を行って、セラミックス多孔体を作製した。焼成の条件は、焼成温度:1600℃、600℃までの昇温速度:3℃/min、600℃からの昇温速度:10℃/min、保持時間:2時間、大気雰囲気下とした。
【0039】
【表1】
【0040】
2.実施例及び比較例の特性
表2に各実施例及び比較例の特性をまとめて記載する。
平均気孔率(%)の欄は、「(3)セラミックス多孔体1の平均気孔率」で記載された方法で測定された平均気孔率を示している。
気孔率差(%)の欄は、「(9)気孔率差に関する要件」で記載された方法で測定された割合P2(%)から割合P1(%)を引いた差分値を示している。
セラミックス粒子の面積割合(%)の欄は、「(4)セラミックス繊維が占める面積の割合の要件」で記載された方法で測定されたセラミックス粒子が占める面積の割合を示している。
セラミックス粒子の含有率A(質量%)の欄は、「(5)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件」で記載された方法で測定されたセラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を示している。なお、実施例4以外の実施例及び比較例の主元素はAlであり、実施例4の主元素はSiである。
セラミックス繊維の面積割合(%)の欄は、「(4)セラミックス繊維が占める面積の割合の要件」で記載された方法で測定されたセラミックス繊維が占める面積の割合を示している。
セラミックス繊維の含有率B(質量%)の欄は、「(5)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件」で記載された方法で測定されたセラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を示している。なお、実施例4以外の実施例及び比較例の主元素はAlであり、実施例4の主元素はSiである。
アスペクト比20以上(%)の欄は、「(6)セラミックス繊維のアスペクト比に関する要件」で記載された方法で測定された、アスペクト比が20以上のセラミックス繊維が占める面積の割合を示している。
配向性の欄は、「(7)セラミックス繊維の配向性」で記載された方法で評価した場合に、「Px≧30%、Py≧30%、Pz≧30%」の全てを充足する場合を「充足する」、「Px≧30%、Py≧30%、Pz≧30%」を充足しない場合を「充足しない」とした。
AとBの少ない方の含有率(質量%)の欄は、「(5)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件」で記載された方法で測定された含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率(質量%)を示している。
【0041】
【表2】
【0042】
3.性能評価
(1)軽量性
セラミックス多孔体の見掛密度を、JIS R1634:1998に準拠して測定した。セラミックス多孔体の見掛密度について、以下の基準で評価した。
「◎」…1.4g/cm以下
「○」…1.4g/cmより大きく、1.8g/cm以下
「△」…1.8g/cmより大きい
【0043】
(2)強度
セラミックス多孔体の曲げ強さを、JIS R1664:2004に準拠して測定した。測定は、実施例及び比較例ごとに10個のサンプルについて行い、その平均値を算出した。セラミックス多孔体の曲げ強さの平均値について、以下の基準で評価した。
「☆」…60MPaより大きい
「◎」…40MPaより大きく、60MPa以下
「○」…20MPaより大きく、40MPa以下
「△」…20MPa以下
【0044】
(3)強度ばらつき
セラミックス多孔体の曲げ強さを、JIS R1664:2004に準拠して測定した。測定は、実施例及び比較例ごとに20個のサンプルについて行い、その平均値を算出した。測定した曲げ強さの上限値と下限値について、平均値を100%とした変化量(%)を算出した。上限値の変化量と下限値の変化量のうち大きい方の変化量について以下の基準で評価した。
「◎」…変化量が12%以下
「○」…変化量が12%より大きく、18%以下
「△」…変化量が18%より大きく、25%以下
【0045】
(4)耐食性
セラミックス多孔体の耐食性について次のように試験した。
まず、試験前のサンプルの質量を測定した。10%硝酸:10%硫酸:10%塩酸:10%酢酸=0.5:1:1:0.5(体積%)の比率で混合し、さらに2倍に希釈した温度50℃の混酸中に、実施例及び比較例のサンプルを120時間浸漬した。サンプルを取り出して十分に洗浄、乾燥し、試験後のサンプルの質量を測定した。試験前のサンプルの質量を100%として、試験後のサンプルの質量の変化量(%)を算出した。
試験後のサンプルの質量の変化量(%)について、以下の基準で評価した。
「◎」…2%以下
「○」…2%より大きく、5%以下
「△」…5%より大きい
【0046】
4.評価結果
評価結果を表3に示す。
【表3】
【0047】
実施例1~20は、下記要件(a)(b)(c)を満たしている。
・要件(a):平均気孔率が40%以上75%以下である。
・要件(b):セラミックス繊維が占める面積の割合が5.0%以上11.5%以下である。
・要件(c):セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が55質量%以上90質量%以下である。
【0048】
これに対して、比較例1~10は以下の要件を満たしていない。
比較例1は、要件(a)を満たしてない。
比較例2は、要件(a)を満たしてない。
比較例3は、要件(b)を満たしてない。
比較例4は、要件(b)を満たしてない。
比較例5は、要件(c)を満たしてない。
比較例6は、要件(c)を満たしてない。
比較例7は、要件(a)(b)を満たしてない。
比較例8は、要件(a)(c)を満たしてない。
比較例9は、要件(b)(c)を満たしてない。
比較例10は、要件(a)(b)(c)を満たしてない。
【0049】
実施例1~20は、比較例1~10と比較して、軽量性と、強度のバランスが良かった。
また、実施例1~20のうち、更に下記要件(d)を満たしている実施例6~20は、強度がより高かった。
また、実施例6~20のうち、更に下記要件(e)を満たしている実験例11~20は、強度ばらつきが小さかった。
また、実施例11~20のうち、更に下記要件(f)を満たしている実験例16~20は、強度及び耐食性がさらに高かった。
・要件(d):アスペクト比が20以上のセラミックス繊維が占める面積の割合が60%以上である。
・要件(e):セラミックス繊維が配向していない。
・要件(f):割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい。なお、表2において、P2(%)から割合P1(%)を引いた差分値が、気孔率差として記載されている。
【0050】
5.実施例の効果
本実施例のセラミックス多孔体は、軽量性を確保しつつ、強度を向上できた。さらに、本実施例のセラミックス多孔体は、強度ばらつきが少なく、耐食性に優れていた。
【0051】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 …セラミックス多孔体
2 …緻密層
図1