(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241029BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20241029BHJP
G05D 1/242 20240101ALI20241029BHJP
G05D 1/248 20240101ALI20241029BHJP
G05D 1/617 20240101ALI20241029BHJP
【FI】
G05D1/43
A01B69/00 303F
G05D1/242
G05D1/248
G05D1/617
(21)【出願番号】P 2021091526
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【氏名又は名称】大久保 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暁大
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-002171(JP,A)
【文献】特開2020-109703(JP,A)
【文献】特開2019-096342(JP,A)
【文献】特開2018-032282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
G05D 1/242
G05D 1/248
G05D 1/617
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、
前記目標経路に対する前記作業車両の位置偏差が閾値を超えた場合に、前記作業車両の自動走行を制限する制限動作を実行することと、
前記走行領域における前記作業車両の進行方向に対する左右方向の傾斜角度に基づいて前記閾値を設定することと、
を実行する自動走行方法。
【請求項2】
前記目標経路と、前記作業車両の現在位置を表す基準点の前記傾斜角度に応じた位置との間の距離を前記位置偏差として算出する、
請求項1に記載の自動走行方法。
【請求項3】
前記基準点は、前記作業車両の下端から所定高さの位置に設定される、
請求項2に記載の自動走行方法。
【請求項4】
前記傾斜角度が第1角度の場合に第1閾値に設定し、前記傾斜角度が前記第1角度よりも大きい第2角度の場合に前記第1閾値よりも大きい第2閾値に設定する、
請求項1~3のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項5】
前記位置偏差が前記第1閾値を超えた場合に、前記作業車両を第1減速度で減速走行させ、
前記位置偏差が前記第2閾値を超えた場合に、前記作業車両を前記第1減速度よりも大きい第2減速度で減速走行させる、
請求項4に記載の自動走行方法。
【請求項6】
前記作業車両が自動走行中に、前記位置偏差が前記閾値を超えた場合又は前記作業車両が障害物を検出した場合に、前記作業車両を所定の減速度で減速走行させ、
前記障害物を検出した場合の前記作業車両の減速度を、前記位置偏差が前記閾値を超えた場合の前記作業車両の減速度よりも大きい値に設定する、
請求項1~5のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項7】
前記作業車両が自動走行中に前記位置偏差が前記閾値を超えた場合に、前記作業車両を第3減速度で走行させ、
前記作業車両が前記第3減速度で走行中に前記障害物を検出した場合に、前記作業車両の減速度を前記第3減速度から前記第3減速度よりも大きい第4減速度に切り替える、
請求項6に記載の自動走行方法。
【請求項8】
前記走行領域を特定する複数の地点の緯度、経度及び、高度に基づいて前記傾斜角度を算出する、
請求項1~7のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項9】
走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させる走行処理部と、
前記目標経路に対する前記作業車両の位置偏差が閾値を超えた場合に、前記作業車両の自動走行を制限する制限動作を実行する制限処理部と、
前記走行領域における前記作業車両の進行方向に対する左右方向の傾斜角度に基づいて前記閾値を設定する設定処理部と、
を備える自動走行システム。
【請求項10】
走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、
前記目標経路に対する前記作業車両の位置偏差が閾値を超えた場合に、前記作業車両の自動走行を制限する制限動作を実行することと、
前記走行領域における前記作業車両の進行方向に対する左右方向の傾斜角度に基づいて前記閾値を設定することと、
を一又は複数のプロセッサーに実行させるための自動走行プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させる自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場、農園などの作業地において、予め設定された目標経路に従って作業車両を自動走行させるシステムが知られている。また、前記システムにおいて、作業車両の目標経路に対する位置偏差(位置ずれ)が閾値を超えた場合に作業車両を減速させたり停止させたりする技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の前記システムでは、前記閾値が一律に固定値に設定されている。このため、例えば圃場が傾斜している場合に、作業車両の前記位置偏差が増大して頻繁に前記閾値を超えることにより減速、停止などの制限動作が繰り返し実行されてしまう。これにより、作業車両による作業の作業効率が低下する問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、傾斜した走行領域を自動走行する作業車両による作業の作業効率を向上させることが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自動走行方法は、走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、前記目標経路に対する前記作業車両の位置偏差が閾値を超えた場合に、前記作業車両の自動走行を制限する制限動作を実行することと、前記走行領域における前記作業車両の進行方向に対する左右方向の傾斜角度に基づいて前記閾値を設定することと、を実行する方法である。
【0007】
本発明に係る自動走行システムは、走行処理部と制限処理部と設定処理部とを備える。前記走行処理部は、走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させる。前記制限処理部は、前記目標経路に対する前記作業車両の位置偏差が閾値を超えた場合に、前記作業車両の自動走行を制限する制限動作を実行する。前記設定処理部は、前記走行領域における前記作業車両の進行方向に対する左右方向の傾斜角度に基づいて前記閾値を設定する。
【0008】
本発明に係る自動走行プログラムは、走行領域において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、前記目標経路に対する前記作業車両の位置偏差が閾値を超えた場合に、前記作業車両の自動走行を制限する制限動作を実行することと、前記走行領域における前記作業車両の進行方向に対する左右方向の傾斜角度に基づいて前記閾値を設定することと、を一又は複数のプロセッサーに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、傾斜した走行領域を自動走行する作業車両による作業の作業効率を向上させることが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動走行システムの全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る自動走行システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る作業車両を左前方側から見た外観図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施形態に係る作業車両を左側から見た左側面の外観図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施形態に係る作業車両を右側から見た右側面の外観図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の実施形態に係る作業車両を背面側から見た背面の外観図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る作物列の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る目標経路の一例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の実施形態に係る目標経路の生成方法を説明するための図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の実施形態に係る目標経路の生成方法を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る作業車両の走行経路を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る作業車両の位置偏差及び方位偏差の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る圃場の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る作業経路の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る自動走行システムで利用される位置偏差情報の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る自動走行システムで利用される位置補正情報の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係る自動走行システムで利用される閾値情報の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係る位置閾値及び減速度の関係を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態に係る自動走行システムで利用される減速度情報の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施形態に係る自動走行システムによって実行される自動走行処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
[自動走行システム1]
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る自動走行システム1は、作業車両10と、操作端末20と、基地局40と、衛星50とを含んでいる。作業車両10及び操作端末20は、通信網N1を介して通信可能である。例えば、作業車両10及び操作端末20は、携帯電話回線網、パケット回線網、又は無線LANを介して通信可能である。
【0013】
本実施形態では、作業車両10が、圃場Fに植えられた作物V(
図5参照)に薬液、水などを散布する散布作業を行う車両である場合を例に挙げて説明する。圃場Fは本発明の走行領域の一例であり、圃場Fは例えば葡萄園、林檎園などの果樹園である。作物Vは例えば葡萄の果樹である。前記散布作業は、例えば作物Vに薬液、水などの散布物を散布する作業である。他の実施形態として、作業車両10は、除草作業を行う車両、葉刈作業を行う車両、収穫作業を行う車両であってもよい。
【0014】
作物Vは、圃場Fにおいて所定の間隔で複数列に配置されている。具体的には、
図5に示すように、複数の作物Vは、所定の方向(D1方向)に直線状に植えられており、直線状に並ぶ複数の作物Vを含む作物列Vrを構成する。
図5には、3つの作物列Vrを例示している。各作物列Vrは列方向(D2方向)に所定の間隔W1で配置されている。隣り合う作物列Vrの間隔W2の領域(空間)は、作業車両10がD1方向(本発明の進行方向に相当)に走行しながら作物Vに対して散布作業を行う作業通路となる。
【0015】
また、作業車両10は、予め設定された目標経路Rに沿って自動走行(自律走行)することが可能である。例えば
図6に示すように、作業車両10は、作業開始位置Sから作業終了位置Gまで、作業経路R1(作業経路R1a~R1f)及び移動経路R2を含む目標経路Rに沿って自動走行する。作業経路R1は、作業車両10が作物Vに対して散布作業を行う直線状の経路であり、移動経路R2は、作業車両10が散布作業を行わないで作物列Vr間を移動する経路である。移動経路R2には、例えば旋回経路及び直進経路が含まれる。
図6に示す例では、圃場Fにおいて、作物列Vr1~Vr11から成る作物Vが配置されている。
図6では、作物Vが植えられている位置(作物位置)を「Vp」で表している。また、
図6の圃場Fを走行する作業車両10は、車体100が門型の形状を有しており(
図4C参照)、1つの作物列Vrを跨いで走行しながら、当該作物列Vrの作物V及び当該作物列Vrに隣接する作物列Vrに対して薬液を散布する。例えば
図6に示すように、作業車両10が作物列Vr5を跨いで走行する場合、作業車両10の左側車体(左側部100L)が作物列Vr4,Vr5の間の作業通路を走行し、作業車両10の右側車体(右側部100R)が作物列Vr5,Vr6の間の作業通路を走行し、かつ作物列Vr4,Vr5,Vr6の作物Vに対して薬液を散布する。
【0016】
また、作業車両10は、所定の列順序で自動走行を行う。例えば、作業車両10は、作物列Vr1を跨いで走行し、次に作物列Vr3を跨いで走行し、次に作物列Vr5を跨いで走行する。このように、作業車両10は、予め設定された作物列Vrの順番に応じて自動走行を行う。なお、作業車両10は、作物列Vrの配列順に1列ごとに走行してもよいし、複数列おきに走行してもよい。
【0017】
衛星50は、GNSS(Global Navigation Satellite System)等の衛星測位システムを構成する測位衛星であり、GNSS信号(衛星信号)を送信する。基地局40は、衛星測位システムを構成する基準点(基準局)である。基地局40は、作業車両10の現在位置を算出するための補正情報を作業車両10に送信する。
【0018】
作業車両10に搭載される測位装置16は、衛星50から送信されるGNSS信号を利用して作業車両10の現在位置(緯度、経度、高度)及び現在方位などを算出する測位処理を実行する。具体的には、測位装置16は、2台の受信機(アンテナ164及び基地局40)が受信する測位情報(GNSS信号など)と基地局40で生成される補正情報とに基づいて作業車両10を測位するRTK(Real Time Kinematic)方式などを利用して作業車両10を測位する。前記測位方式は周知の技術であるため詳細な説明は省略する。
【0019】
以下、自動走行システム1を構成する各構成要素の詳細について説明する。
【0020】
[作業車両10]
図3は、作業車両10を左前方側から見た外観図である。
図4Aは、作業車両10を左側から見た左側面の外観図であり、
図4Bは、作業車両10を右側から見た右側面の外観図であり、
図4Cは、作業車両10を背面側から見た背面の外観図である。
【0021】
図1~
図4に示すように、作業車両10は、車両制御装置11、記憶部12、走行装置13、散布装置14、通信部15、測位装置16、障害物検出装置17などを備える。車両制御装置11は、記憶部12、走行装置13、散布装置14、測位装置16、障害物検出装置17などに電気的に接続されている。なお、車両制御装置11及び測位装置16は、無線通信可能であってもよい。
【0022】
通信部15は、作業車両10を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して操作端末20などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0023】
記憶部12は、各種の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部である。記憶部12には、車両制御装置11に後述の自動走行処理(
図17参照)を実行させるための自動走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自動走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、所定の読取装置(不図示)で読み取られて記憶部12に記憶される。なお、前記自動走行プログラムは、サーバー(不図示)から通信網N1を介して作業車両10にダウンロードされて記憶部12に記憶されてもよい。また、記憶部12には、操作端末20において生成される目標経路Rの情報と、作業車両10の偏差(位置偏差及び方位偏差)に対する閾値情報F3(後述)とを含む経路データが記憶される。例えば、前記経路データは、操作端末20から作業車両10に転送されて記憶部12に記憶される。
【0024】
車両制御装置11は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、車両制御装置11は、前記ROM又は記憶部12に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより作業車両10を制御する。
【0025】
車両制御装置11は、作業車両10の走行を制御する。具体的には、
図2に示すように、車両制御装置11は、走行処理部111、検出処理部112、制限処理部113、補正処理部114、設定処理部115などの各種の処理部を含む。なお、車両制御装置11は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記制御プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0026】
走行処理部111は、測位装置16により測位される作業車両10の位置及び方位を含む測位情報に基づいて、目標経路Rに沿って作業車両10を自動走行させる。例えば、前記測位状態がRTK測位可能な状態になって、操作端末20の操作画面においてオペレータがスタートボタンを押下すると、操作端末20は作業開始指示を作業車両10に出力する。走行処理部111は、操作端末20から前記作業開始指示を取得すると、測位装置16により測位される作業車両10の測位情報に基づいて作業車両10の自動走行を開始させる。これにより、作業車両10は、目標経路Rに沿って自動走行を開始し、前記作業通路において散布装置14による散布作業を開始する。
【0027】
また、走行処理部111は、操作端末20から走行停止指示を取得すると作業車両10の自動走行を停止させる。例えば、操作端末20の操作画面においてオペレータがストップボタンを押下すると、操作端末20は前記走行停止指示を作業車両10に出力する。走行処理部111は、操作端末20から前記走行停止指示を取得すると、作業車両10の自動走行を停止させる。これにより、作業車両10は、自動走行を停止し、散布装置14による散布作業を停止する。走行処理部111は、本発明の走行処理部の一例である。
【0028】
ここで、作業車両10は、圃場Fにおいて複数列に並べて植えられた作物V(果樹)を跨いで走行する門型の車体100を備える。
図4Cに示すように、車体100は、左側部100Lと、右側部100Rと、左側部100L及び右側部100Rを接続する接続部100Cとにより門型に形成されており、左側部100L、右側部100R、及び接続部100Cの内側に作物Vの通過を許容する空間100Sが確保される。
【0029】
車体100の左側部100L及び右側部100Rそれぞれの下端部には、クローラ101が設けられている。左側部100Lには、エンジン(不図示)、バッテリー(不図示)などが設けられている。右側部100Rには、散布装置14の貯留タンク14A(
図4B参照)などが設けられている。このように、車体100の左側部100L及び右側部100Rに構成部品を振り分けて配置することにより、作業車両10は、左右のバランスの均衡化及び低重心化が図られている。その結果、作業車両10は、圃場Fの斜面などを安定して走行することができる。
【0030】
走行装置13は、作業車両10を走行させる駆動部である。走行装置13は、エンジン、クローラ101などを備える。
【0031】
左右のクローラ101は、静油圧式無段変速装置による独立変速が可能な状態でエンジンからの動力により駆動される。これにより、車体100は、左右のクローラ101が前進方向に等速駆動されることにより前進方向に直進する前進状態になり、左右のクローラ101が後進方向に等速駆動されることにより後進方向に直進する後進状態になる。また、車体100は、左右のクローラ101が前進方向に不等速駆動されることにより前進しながら旋回する前進旋回状態になり、左右のクローラ101が後進方向に不等速駆動されることで後進しながら旋回する後進旋回状態になる。また、車体100は、左右いずれか一方のクローラ101が駆動停止された状態で他方のクローラ101が駆動されることによりピボット旋回(信地旋回)状態になり、左右のクローラ101が前進方向と後進方向とに等速駆動されることでスピン旋回(超信地旋回)状態になる。また、車体100は、左右のクローラ101が駆動停止されることで走行停止状態になる。尚、左右のクローラ101は、電動モータにより駆動される電動式に構成されていてもよい。
【0032】
図4Cに示すように、散布装置14は、薬液などを貯留する貯留タンク14A、薬液などを圧送する散布用ポンプ(不図示)、散布用ポンプを駆動する電動式の散布モータ(不図示)、車体100の背部において縦向き姿勢で左右に2本ずつ並列に備えられた散布管14B、各散布管14Bに3個ずつ備えられた合計12個の散布ノズル14C、薬液などの散布量及び散布パターンを変更する電子制御式のバルブユニット(不図示)、及び、これらを接続する複数の散布用配管(図示せず)などを備えている。
【0033】
各散布ノズル14Cは、対応する散布管14Bに、上下方向に位置変更可能に取り付けられている。これにより、各散布ノズル14Cは、隣り合う散布ノズル14Cとの間隔及び散布管14Bに対する高さ位置を散布対象物(作物V)に応じて変更することができる。また、各散布ノズル14Cは、車体100に対する高さ位置及び左右位置を散布対象物に応じて変更可能に取り付けられている。
【0034】
なお、散布装置14において、各散布管14Bに設けられる散布ノズル14Cの数量は、作物Vの種類、各散布管14Bの長さなどに応じて種々の変更が可能である。
【0035】
図4Cに示すように、複数の散布ノズル14Cのうち、最左端の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100の左外方に位置する作物Vaに向けて薬液を左向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最左端の散布管14Bに隣接する左内側の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100における左右中央の空間100Sに位置する作物Vbに向けて薬液を右向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最右端の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100の右外方に位置する作物Vcに向けて薬液を右向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最右端の散布管14Bに隣接する右内側の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、空間100Sに位置する作物Vbに向けて薬液を左向きに散布する。
【0036】
上記の構成により、散布装置14においては、車体100の左側部100Lに設けられた2本の散布管14Bと6個の散布ノズル14Cとが左側の散布部14Lとして機能する。また、車体100の右側部100Rに設けられた2本の散布管14Bと6個の散布ノズル14Cとが右側の散布部14Rとして機能する。そして、左右の散布部14L,14Rは、車体100の背部において、左右方向への散布が可能な状態で、左右の散布部14L,14Rの間に作物Vbの通過(空間100S)を許容する左右間隔を置いて配置されている。
【0037】
散布装置14において、散布部14L,14Rによる散布パターンには、散布部14L,14Rのそれぞれが左右の両方向に薬液を散布する4方向散布パターンと、散布部14L,14Rによる散布方向が限定された方向限定散布パターンとが含まれる。前記方向限定散布パターンには、散布部14Lが左右の両方向に薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左方向のみに薬液を散布する左側3方向散布パターンと、散布部14Lが右方向のみに薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左右の両方向に薬液を散布する右側3方向散布パターンと、散布部14Lが右方向のみに薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左方向のみに薬液を散布する2方向散布パターンと、散布部14Lが左方向のみに散布し、かつ、散布部14Rが薬液を散布しない左側1方向散布パターンと、散布部14Rが右方向のみに散布し、かつ、散布部14Lが薬液を散布しない右側1方向散布パターンとが含まれる。
【0038】
車体100には、測位装置16から取得する測位情報などに基づいて車体100を圃場Fの目標経路Rに従って自動走行させる自動走行制御部、エンジンに関する制御を行うエンジン制御部、静油圧式無段変速装置に関する制御を行うHST(Hydro-Static Transmission)制御部、及び、散布装置14などの作業装置に関する制御を行う作業装置制御部などが搭載されている。各制御部は、マイクロコントローラなどが搭載された電子制御ユニット、マイクロコントローラの不揮発性メモリ(例えばフラッシュメモリなどのEEPROM)に記憶された各種の情報及び制御プログラムなどによって構築されている。不揮発性メモリに記憶された各種の情報には、事前に生成された目標経路Rなどが含まれてもよい。本実施形態では、各制御部を総称して「車両制御装置11」という(
図2参照)。
【0039】
測位装置16は、測位制御部161、記憶部162、通信部163、及びアンテナ164などを備える通信機器である。アンテナ164は、車体100の天井部(接続部100C)の前方及び後方に設けられている(
図3参照)。また車体100の天井部には、作業車両10の走行状態を表示する表示灯102などが設けられている(
図3参照)。なお、測位装置16には前記バッテリーが接続されており、測位装置16は、前記エンジンの停止中も稼働可能である。
【0040】
通信部163は、測位装置16を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して基地局40などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0041】
アンテナ164は、衛星から発信される電波(GNSS信号)を受信するアンテナである。アンテナ164が作業車両10の前方及び後方に設けられているため、作業車両10の現在位置及び現在方位を高精度に測位することができる。
【0042】
測位制御部161は、一又は複数のプロセッサーと、不揮発性メモリ及びRAMなどの記憶メモリとを備えるコンピュータシステムである。記憶部162は、測位制御部161に測位処理を実行させるための制御プログラム、及び、測位情報、移動情報などのデータを記憶する不揮発性メモリなどである。測位制御部161は、アンテナ164が衛星50から受信するGNSS信号に基づいて所定の測位方式(RTK方式など)により作業車両10の現在位置及び現在方位を測位する。
【0043】
障害物検出装置17は、車体100の前方左側に設けられたライダーセンサー171Lと、車体100の前方右側に設けられたライダーセンサー171Rとを備える(
図3参照)。各ライダーセンサーは、例えばライダーセンサーが照射したレーザー光が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式により、ライダーセンサーから測定範囲の各測距点(測定対象物)までの距離を測定する。
【0044】
ライダーセンサー171Lは、車体100の前方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、ライダーセンサー171Rは、車体100の前方右側の所定範囲が測定範囲に設定されている。各ライダーセンサーは、測定した各測距点までの距離、各測距点に対する走査角(座標)などの測定情報を車両制御装置11に送信する。
【0045】
また、障害物検出装置17は、車体100の前方側に設けられた左右の超音波センサー172F(
図3参照)と、車体100の後方側に設けられた左右の超音波センサー172R(
図4A~
図4C参照)とを備える。各超音波センサーは、超音波センサーが発信した超音波が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF方式により、超音波センサーから測定対象物までの距離を測定する。
【0046】
前方左側の超音波センサー172Fは、車体100の前方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、前方右側の超音波センサー172Fは、車体100の前方右側の所定範囲が測定範囲に設定されており、後方左側の超音波センサー172Rは、車体100の後方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、後方右側の超音波センサー172Rは、車体100の後方右側の所定範囲が測定範囲に設定されている。各超音波センサーは、測定した測定対象物までの距離と測定対象物の方向とを含む測定情報を車両制御装置11に送信する。
【0047】
また、障害物検出装置17は、車体100の前方側に設けられた左右の接触センサー173F(
図3参照)と、車体100の後方側に設けられた左右の接触センサー173R(
図4A及び
図4B参照)とを備える。車体100の前方側の接触センサー173Fは、接触センサー173Fに障害物が接触した場合に障害物を検出する。車体100の後方側の接触センサー173Rの前方(作業車両10の後方側)には散布装置14が設けられており、接触センサー173Rは、散布装置14に対して障害物が接触した場合に散布装置14が後方(作業車両10の前方側)に移動することにより障害物を検出する。各接触センサーは、障害物を検出した場合に検出信号を車両制御装置11に送信する。
【0048】
車両制御装置11は、障害物検出装置17から取得する障害物に関する測定情報に基づいて、作業車両10が障害物に衝突する可能性がある場合に障害物を回避する回避処理を実行する。
【0049】
また、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差及び方位偏差を検出して作物列Vrへの衝突を回避する動作(制限動作及び補正動作)を行う。
【0050】
例えば、走行処理部111は、作業車両10を
図8に示す目標経路Rに従って作物列Vraの作業経路R1から作物列Vrbの作業経路R1に移動させる。作業車両10は、作物列Vraの端点P0に到達すると散布を停止して直進経路r1を直進し、旋回開始位置P1において旋回を開始する。作業車両10は、旋回を開始すると、旋回経路r2と直進経路r3と旋回経路r4とを移動し、旋回終了位置P4から直進経路r5を直進し、次の作業経路R1である作物列Vrbの端点P0に移動して散布を再開する。
図8において、符号C1は旋回経路r2の旋回中心を示し、符号C2は旋回経路r4の旋回中心を示している。旋回経路r2,r4の旋回半径は同一である。
【0051】
車両制御装置11の検出処理部112は、自動走行する作業車両10の位置偏差及び方位偏差を検出する。具体的には、検出処理部112は、測位装置16による測位情報(現在位置、現在方位)に基づいて、目標経路Rに対する作業車両10の位置偏差及び方位偏差を検出する。
【0052】
車両制御装置11の制限処理部113は、検出処理部112が検出した位置偏差が予め設定された閾値(位置閾値)を超えるか否かを判定する。そして、制限処理部113は、前記位置偏差が位置閾値を超えた場合に、作業車両10の走行動作を制限する制限動作(減速走行、停止など)を実行する。また、制限処理部113は、検出処理部112が検出した方位偏差が予め設定された閾値(方位閾値)を超えるか否かを判定する。そして、制限処理部113は、前記方位偏差が方位閾値を超えた場合に、作業車両10の走行動作(減速走行、停止など)を制限する制限動作を実行する。前記位置閾値及び前記方位閾値は、例えば操作端末20において予め設定される。前記位置閾値は、本発明の閾値の一例である。制限処理部113は、本発明の制限処理部の一例である。前記制限動作の詳細については後述する。
【0053】
車両制御装置11の補正処理部114は、検出処理部112が検出した位置偏差が前記位置閾値を超えた場合に、前記位置偏差を補正する補正動作を実行する。また、補正処理部114は、検出処理部112が検出した方位偏差が前記方位閾値を超えた場合に、前記方位偏差を補正する補正動作を実行する。なお、補正処理部114は、制限処理部113による前記制限動作が実行された後に前記補正動作を実行する。
【0054】
ここで、
図9を用いて、前記補正動作の一例を説明する。
図9には、
図8に示す旋回経路r4及び直進経路r5を含む目標経路Rの一部を示している。例えば、作業車両10が目標経路Rの旋回経路r4を逸脱して位置偏差が前記位置閾値を超えると、作業車両10は減速走行して目標の旋回終了位置P4から距離m1(位置偏差)の位置P5で停止する。位置P5において、位置偏差m1が位置閾値を超え、かつ方位偏差θaが方位閾値を超えた場合、補正処理部114は、以下の補正動作を実行する。先ず、補正処理部114は、位置P5と直進経路r5の延長線上の位置P6とを結ぶ直線の方向に対する作業車両10の方位偏差θaが前記方位閾値以下になるまで、作業車両10を位置P5においてスピン旋回(超信地旋回)させる。
【0055】
次に、補正処理部114は、作業車両10を位置P6に到達するまで、又は、直進経路r5の延長線に対する作業車両10の位置偏差m1が前記位置閾値以下になるまで作業車両10を後進させる。なお、位置P6の目標位置は、旋回終了位置P4から距離m2(例えば2m)の位置である。
【0056】
次に、補正処理部114は、例えば位置P6において、直進経路r5の延長線の方向に対する作業車両10の方位偏差が前記方位閾値以下になるまで、作業車両10をスピン旋回(超信地旋回)させる。次に、補正処理部114は、作業車両10を、位置P6から直進経路r5の延長線に沿って旋回終了位置P4まで直進させる。その後、走行処理部111は、作業車両10を、直進経路r5を直進させて端点P0から作物列Vrbの作業経路R1に進入させる。
【0057】
作業車両10は、例えば前記位置偏差が前記位置閾値を超える度に前記制限動作(減速走行、停止)及び前記補正動作を実行する。このため、従来のように、前記位置閾値が一律に固定されている場合には、例えば圃場Fが傾斜している場合などに、前記位置偏差が頻繁に前記位置閾値を超えることにより前記制限動作及び前記補正動作が繰り返し実行されてしまう。これにより、作業車両10による散布作業の作業効率が低下する問題が生じる。
【0058】
図10には、傾斜した圃場Fの一例を示している。
図10に示す圃場Fは、圃場Fにおける作業車両10の進行方向(D1方向)に対する左右方向(D2方向)に角度θf(傾斜角度)だけ傾斜している。なお、傾斜角度θfは、
図10に示す作物列Vrの端点n0(x0,y0,z0),n1(x1,y1,z1)を利用して下記式により算出される。すなわち、車両制御装置11は、圃場Fにおける作業車両10の走行領域を特定する複数の地点の緯度、経度及び、高度に基づいて傾斜角度θfを算出する。
【数1】
【0059】
図11には、
図10に示す傾斜地の圃場Fの作業通路を走行する作業車両10の後方の様子を示している。
図11において、符号d0は、作業車両10の現在位置を表す基準点を示している。すなわち、基準点d0は、測位装置16により測位される作業車両10の緯度、経度、高度を示す位置(グローバル座標系(NED座標系)の位置)である。基準点d0は、圃場Fの地面から作業車両10の全高の半分の高さ(本発明の所定高さの一例)の位置に設定される。また、作業車両10を平面的に視たときの前後方向の基準点d0の位置は、作業車両10の全長の半分の位置である。すなわち、基準点d0は、作業車両10のXYZ方向の中心に設定される。
【0060】
また、
図11において、符号d1は、目標経路R上の位置(目標位置)、すなわち作物Vcの位置を示している。ここで、作業車両10は、目標経路Rに沿って自動走行するため、例えば圃場F又は作業経路R1が傾斜していない場合(θf=0度)には、基準点d0と目標位置d1とが略一致する。しかし、
図11に示すように、圃場F又は作業経路R1が傾斜している場合には、基準点d0の位置(緯度、経度)が目標位置d1からずれることになる。すなわち、目標位置d1から、基準点d0を鉛直方向に下した点d2までの距離dxが、傾斜角度θfに起因する位置偏差となる。
【0061】
このように、作業車両10が目標経路Rに沿って作業通路内を適切に自動走行している場合であっても、傾斜角度θfの影響により位置偏差dxが増大してしまう。位置偏差dxは、傾斜角度θfが大きい程、大きい値になる。このため、傾斜角度θfの影響により位置偏差dxが増大して前記位置閾値を超え易くなる。これにより、作業車両10において前記制限動作及び前記補正動作が実行され易くなり作業効率が低下する問題が生じる。なお、傾斜角度θfは、圃場F全体の傾斜角度(
図10参照)に限定されず、各作業経路R1(作業通路)の傾斜角度であってもよい。すなわち、本発明の傾斜角度は、圃場Fの傾斜角度であってもよいし、作業経路R1の傾斜角度であってもよい。圃場F及び作業経路R1のそれぞれは、本発明の走行領域の一例である。
【0062】
これに対して、本実施形態に係る作業車両10によれば、以下に示すように、傾斜した走行領域(圃場F又は作業経路R1)を自動走行する作業車両10による作業の作業効率を向上させることが可能である。
【0063】
具体的には、車両制御装置11の設定処理部115は、目標経路Rに対する作業車両10の位置偏差dxの位置閾値を傾斜角度θfに基づいて設定する。すなわち、設定処理部115は、圃場F、作業経路R1の傾斜状態を考慮して前記位置閾値を設定する。設定処理部115は、本発明の設定処理部の一例である。
【0064】
例えば、設定処理部115は、作業車両10の走行履歴情報に基づいて位置閾値を設定する。具体的には、先ず、設定処理部115は、作業経路R1に対する位置偏差の初期値(位置初期値)を設定する。次に、走行処理部111は、傾斜角度θfの圃場F(
図10参照)において、作業車両10を目標経路Rに従って自動走行させながら散布作業を実行させる。検出処理部112は、作業車両10が自動走行中に、目標経路Rに含まれる複数の作業経路R1a~R1f(
図6参照)のそれぞれについて、作業経路R1内における前記位置初期値に対する位置偏差の最大変化量Pmを算出して記録する。また、検出処理部112は、作業経路R1ごとに、最大変化量Pmに対応する位置偏差許容レベルLpを算出する。位置偏差許容レベルLpは、作業経路R1に対して前記減速動作及び前記補正動作を必要としない、位置偏差を許容し得るレベル(段階)を表す指標である。
【0065】
検出処理部112は、自動走行及び散布作業を実行して、作業経路R1ごとに最大変化量Pm及び位置偏差許容レベルLpを対応付けて記録した位置偏差情報F1を記憶部12に記憶する。
図12は、位置偏差情報F1の一例を示す図である。
【0066】
設定処理部115は、検出処理部112が記録した過去の位置偏差情報F1に基づいて、予め設定された前記位置閾値を変更する。具体的には、設定処理部115は、作業経路R1ごとに、前記位置閾値に対する位置オフセット量Opを決定する。位置オフセット量Opは、予め設定された前記位置閾値の補正情報である。記憶部12には、位置偏差許容レベルLpに対応する位置オフセット量Opを示す位置補正情報F2(
図13参照)が予め記憶されている。設定処理部115は、位置補正情報F2を参照して、作業経路R1ごとに前記位置閾値に対する位置オフセット量Opを決定する。
【0067】
そして、設定処理部115は、予め設定された前記位置閾値に位置オフセット量Opを加算又は減算した値を、次回の散布作業時の前記位置閾値に設定する。例えば、設定処理部115は、作業車両10が前回走行したときの走行履歴情報である位置偏差情報F1を参照して作業経路P1aの位置偏差許容レベルLp1を取得し、位置補正情報F2を参照して位置偏差許容レベルLp1に対応する位置オフセット量Op1を取得し、予め設定された前記位置閾値を位置オフセット量Op1により変更する。設定処理部115は、変更した位置閾値を示す閾値情報F3(
図14参照)を記憶部12に記憶する。閾値情報F3には、作業経路R1a~R1fのそれぞれに対応する位置閾値Pt1~Pt6が登録される。
【0068】
なお、ここでは、走行履歴情報を利用して位置閾値を算出する構成のため、圃場F又は作業経路R1の傾斜角度θfの要素に加えて、各作業経路R1の路面状態などの要素が含まれるため、作業経路R1ごとに異なる位置閾値が算出されてもよい。
【0069】
以上のように、設定処理部115は、傾斜角度θfの圃場F又は作業経路R1における走行履歴情報に含まれる、作業経路R1ごとの当該作業経路R1に対する位置偏差に基づいて、当該作業経路R1ごとに位置閾値を変更する。また、設定処理部115は、作業経路R1ごとに位置閾値を互いに異なる値に変更してもよい。
【0070】
なお、
図12及び
図13では、便宜上、位置偏差許容レベルLp及び位置オフセット量Opが、作業経路数に応じた6段階(Lp1~Lp6、Op1~Op6)で示されているが、実際には、予め設定された段階数(例えば3段階)で表されてもよい。
【0071】
操作端末20から転送される経路データには、目標経路Rの情報と、最大変化量Pmを格納する領域と、位置偏差許容レベルLpを格納する領域とが含まれる。また、操作端末20から転送される前記経路データにおいて、位置偏差許容レベルLpは、最低値(許容偏差が0相当のレベル)に設定されている。車両制御装置11は、作業車両10を前記経路データに基づいて自動走行させて、位置偏差許容レベルLpを算出して前記経路データを更新する。すなわち、前記経路データには、閾値情報F3(
図14参照)が関連付けられて記憶部12に記憶される。位置補正情報F2は、予め記憶部12に記憶されてもよいし、操作端末20から転送される経路データに含まれてもよい。走行処理部111は、目標経路R及び閾値情報F3を含む前記経路データに基づいて、次回の自動走行及び散布作業を実行する。
【0072】
他の実施形態として、設定処理部115は、圃場F単位で、予め設定された前記位置閾値を、作業車両10の走行履歴情報に基づいて変更してもよい。例えば、検出処理部112は、全ての作業経路R1a~R1fに対する1つの最大変化量Pmと1つの位置偏差許容レベルLpとを算出する。これにより、設定処理部115は、圃場Fに対して1つの位置オフセット量Opを決定して前記位置閾値を設定する。
【0073】
上述の例では前記位置偏差の最大変化量を用いているが、他の実施形態として、確率統計手法を用いて、位置偏差の分散値に基づいて位置偏差許容レベルLpを算出する方法を利用することも可能である。
【0074】
以上のように、設定処理部115は、圃場F又は作業経路R1の傾斜角度θfに基づいて位置閾値を設定する。例えば、設定処理部115は、傾斜角度θfが第1角度の場合に第1位置閾値に設定し、傾斜角度θfが前記第1角度よりも大きい第2角度の場合に前記第1位置閾値よりも大きい第2位置閾値に設定する。また、設定処理部115は、傾斜角度θfが大きい程、位置閾値を大きい値に設定する。
【0075】
制限処理部113は、設定処理部115により設定された位置閾値に基づいて作業車両10の走行動作を制限する制限動作を実行する。例えば、制限処理部113は、検出処理部112が検出した位置偏差が閾値情報F3(
図14参照)の位置閾値を超えるか否かを判定し、前記位置偏差が当該位置閾値を超えた場合に、作業車両10の走行動作(減速走行、停止など)を制限する制限動作を実行する。例えば、制限処理部113は、作業車両10の走行車速を所定の減速度で減速させた後に停止させる。また作業車両10が停止すると、補正処理部114は、前記位置偏差を補正する補正動作(
図9参照)を実行する。
【0076】
上記の構成により、前記位置偏差の位置閾値を変更することができるため、圃場F又は作業経路R1の傾斜に起因する作業車両10の不必要な制限動作及び補正動作を回避することができる。よって、作業車両10の散布作業の作業効率を向上させることができる。また、圃場Fを実際に走行した履歴情報を用いることができるため、前記位置閾値を圃場Fに適した適切な値に設定することができる。よって、作業精度の向上を図ることもできる。
【0077】
ここで、設定処理部115が前記位置閾値を予め設定された値よりも大きい値に変更する場合、制限処理部113は、前記制限動作時の作業車両10の減速度を、初期設定の減速度よりも大きい値に変更してもよい。
図15には、位置閾値及び減速度の関係を模式的に示す図である。
【0078】
図15には、目標経路Rに対する3種類の位置閾値PtA,PtB,PtC(但し、PtA<PtB<PtCとする。)を示している。位置閾値PtAは初期設定の位置閾値を示し、位置閾値PtBは変更後の位置閾値を示し、位置閾値PtCは停止動作を実行させる位置閾値を示している。初期設定において、作業車両10は、位置偏差が位置閾値PtAを超えると第1減速度で減速走行する。さらに作業車両10は、方位偏差θtかつ第1減速度で減速走行した場合に位置偏差が位置閾値PtCを超えると停止する。この場合、作業車両10は、減速を開始してから停止するまで距離LtAだけ走行することになる。なお、角度θtは、方位偏差の閾値である。
【0079】
これに対して、例えば設定処理部115が前記位置閾値をPtAからPtBに変更した場合、作業車両10は、位置偏差が位置閾値PtBを超えると第2減速度で減速走行する。そして、作業車両10は、方位偏差θtかつ第2減速度で減速走行した場合に位置偏差が位置閾値PtCを超えると停止する。この場合、作業車両10は、減速を開始してから停止するまで距離LtB(許容直進距離)だけ走行することになる。すなわち、作業車両10は、位置偏差が位置閾値PtBを超えてから距離LtB(許容直進距離)で停止するように減速する。このため、制限処理部113は、第2減速度を第1減速度よりも大きい値に設定する。
【0080】
このように、制限処理部113は、位置偏差が第1位置閾値PtAを超えた場合に、作業車両10を第1減速度Vaで減速走行させ、位置偏差が第2位置閾値PtB(但し、PtA<PtB)を超えた場合に、作業車両10を第2減速度Vb(但し、Vb>Va)で減速走行させる。
図16には、減速度に関する減速度情報F4の一例を示している。例えば制限処理部113は、設定処理部115が位置閾値PtBを設定した場合に、減速度情報F4を参照して位置閾値PtBに対応する減速度Vbを取得して、減速走行させる作業車両10の減速度に設定する。減速度情報F4は、予めシミュレーション又は実機による試験等により算出することができる。
【0081】
上記構成では、例えば設定処理部115は、圃場Fの傾斜角度θfが第1角度の場合に位置閾値PtA(本発明の第1閾値に相当)に設定し、位置偏差が位置閾値PtAを超えた場合に、制限処理部113は、作業車両10を減速度Vaで減速走行させる。また設定処理部115は、圃場Fの傾斜角度θfが前記第1角度よりも大きい第2角度の場合に位置閾値PtB(PtA<PtB)(本発明の第2閾値に相当)に設定し、位置偏差が位置閾値PtBを超えた場合に、制限処理部113は、作業車両10を減速度Vb(Vb>Va)で減速走行させる。これにより、圃場Fの傾斜角度θfに関わらず、作業車両10の位置偏差が位置閾値を超えた場合に、作業車両10を安全に停止させることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、減速度情報F4に、閾値情報F3(
図14参照)に登録される位置閾値Pt1~Pt6のそれぞれに対応する減速度が登録される。
【0083】
ところで、作業車両10は、位置偏差が前記位置閾値を超えた場合だけでなく、障害物を検出した場合にも減速及び停止させる動作を実行する。すなわち、設定処理部115は、作業車両10が自動走行中に、前記位置偏差が前記位置閾値を超えた場合又は作業車両10が障害物を検出した場合に、作業車両10を所定の減速度で減速走行させる。ここで、作業車両10は、障害物を検出した場合には、障害物への衝突を回避する必要がある。そこで、設定処理部115は、障害物検出装置17が障害物を検出した場合の作業車両10の減速度を、前記位置偏差が前記位置閾値を超えた場合の作業車両10の減速度よりも大きい値に設定する。例えば、作業車両10が自動走行中に前記位置偏差が前記位置閾値を超えた場合に、設定処理部115は、作業車両10を減速度V1(本発明の第3減速度に相当)で走行させる。さらに、作業車両10が減速度V1で走行中に障害物を検出した場合に、設定処理部115は、作業車両10の減速度を減速度V1から減速度V2(V2>V1)(本発明の第4減速度に相当)に切り替える。このように、作業車両10は、障害物を検出した場合に減速度を切り替えることにより障害物への衝突回避を優先する。
【0084】
上述した作業車両10の構成は、本発明の作業車両の一構成例であって、本発明は上述の構成に限定されない。上述の作業車両10は、第1作物列Vrを跨いで走行しながら、前記第1作物列Vrと、前記第1作物列Vrの左右方向それぞれの第2作物列Vrとに散布物を散布する散布作業を行うことが可能な車両である。他の実施形態として、作業車両10は、車体100が門型の形状ではなく、車体100全体が作物列Vrの間(作業通路)を走行する通常の形状であってもよい。この場合、作業車両10は、作物列Vrを跨がずに各作業通路を順に自動走行する。また、散布装置14は、一つの散布部を備え、左右の両方向に薬液を散布する散布パターンと、左方向のみに薬液を散布する散布パターンと、右方向のみに薬液を散布する散布パターンとを切り替えて散布作業を行う。
【0085】
[操作端末20]
図2に示すように、操作端末20は、制御部21、記憶部22、操作表示部23、及び通信部24などを備える情報処理装置である。操作端末20は、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末で構成されてもよい。
【0086】
通信部24は、操作端末20を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して一又は複数の作業車両10などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0087】
操作表示部23は、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイのような表示部と、操作を受け付けるタッチパネル、マウス、又はキーボードのような操作部とを備えるユーザーインターフェースである。オペレータは、前記表示部に表示される操作画面において、前記操作部を操作して各種情報(後述の作業車両情報、圃場情報、作業情報など)を登録する操作を行うことが可能である。また、オペレータは、前記操作部を操作して作業車両10に対する作業開始指示、走行停止指示などを行うことが可能である。さらに、オペレータは、作業車両10から離れた場所において、操作端末20に表示される走行軌跡、車体100の周囲画像により、圃場F内を目標経路Rに従って自動走行する作業車両10の走行状態、作業状況、及び周囲の状況を把握することが可能である。
【0088】
記憶部22は、各種の情報を記憶するHDD又はSSDなどの不揮発性の記憶部である。記憶部22には、制御部21に後述の自動走行処理(
図17参照)を実行させるための自動走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自動走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、所定の読取装置(不図示)で読み取られて記憶部22に記憶される。なお、前記自動走行プログラムは、サーバー(不図示)から通信網N1を介して操作端末20にダウンロードされて記憶部22に記憶されてもよい。
【0089】
制御部21は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、制御部21は、前記ROM又は記憶部22に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより操作端末20を制御する。
【0090】
図2に示すように、制御部21は、設定処理部211、経路生成処理部212、出力処理部213などの各種の処理部を含む。なお、制御部21は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記制御プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0091】
設定処理部211は、作業車両10に関する情報(以下、作業車両情報という。)と、圃場Fに関する情報(以下、圃場情報という。)と、作業(ここでは散布作業)に関する情報(以下、作業情報という。)とを設定して登録する。
【0092】
前記作業車両情報の設定処理において、設定処理部211は、作業車両10の機種、作業車両10においてアンテナ164が取り付けられている位置、作業機(ここでは散布装置14)の種類、作業機のサイズ及び形状、作業機の作業車両10に対する位置、作業車両10の作業中の車速及びエンジン回転数、作業車両10の旋回中の車速及びエンジン回転数等の情報について、オペレータが操作端末20において登録する操作を行うことにより当該情報を設定する。本実施形態では、作業機の情報として、散布装置14に関する情報が設定される。
【0093】
前記圃場情報の設定処理において、設定処理部211は、圃場Fの位置及び形状、作業を開始する作業開始位置S及び作業を終了する作業終了位置G(
図6参照)、作業方向等の情報について、オペレータが操作端末20において登録する操作を行うことにより当該情報を設定する。なお、作業方向とは、圃場Fから枕地等の非作業領域を除いた領域である作業領域において、散布装置14で散布作業を行いながら作業車両10を走行させる方向を意味する。
【0094】
圃場Fの位置及び形状の情報は、例えばオペレータが作業車両10を手動により圃場Fの外周に沿って一回り周回走行させ、そのときのアンテナ164の位置情報の推移を記録することで、自動的に取得することができる。また、圃場Fの位置及び形状は、操作端末20に地図を表示させた状態でオペレータが操作端末20を操作して当該地図上の複数の点を指定することで得られた多角形に基づいて取得することもできる。取得された圃場Fの位置及び形状により特定される領域は、作業車両10を走行させることが可能な領域(走行領域)である。
【0095】
前記作業情報の設定処理において、設定処理部211は、作業情報として、作業車両10が枕地において旋回する場合にスキップする作業経路の数であるスキップ数、枕地の幅等を設定可能に構成されている。
【0096】
経路生成処理部212は、前記各設定情報に基づいて、作業車両10を自動走行させる経路である目標経路Rを生成する。目標経路Rは、例えば作業開始位置Sから作業終了位置Gまでの経路である(
図6参照)。
図6に示す目標経路Rは、作物Vが植えられた領域において作物Vに対して薬液を散布する直線状の作業経路R1と、散布作業を行わないで作物列Vr間を移動する移動経路R2とを含む。
【0097】
目標経路Rの生成方法の一例について
図7A及び
図7Bを用いて説明する。
図7Aには、作物列Vrを模式的に示している。先ず、オペレータは作業車両10を手動により作物列Vrの外周に沿って走行させる(
図7A参照)。作業車両10は、走行中に各作物列Vrの一方側(
図7Aの下側)の端点E1と他方側(
図7Aの上側)の端点E2とを検出し、各端点E1,E2の位置情報(座標)を取得する。なお、端点E1,E2は、既に植えられた作物Vの位置であってもよいし、これから植える予定の作物Vの位置を示す目標物の位置であってもよい。経路生成処理部212は、作業車両10から各端点E1,E2の位置情報(座標)を取得すると、対応する端点E1,E2同士を結ぶ線L1(
図7B参照)を作物列Vrの作業経路に設定し、複数の作業経路と移動経路(旋回経路)とを含む目標経路Rを生成する。目標経路Rの生成方法は、上述の方法に限定されない。経路生成処理部212は、生成した目標経路Rを記憶部22に記憶してもよい。
【0098】
出力処理部213は、経路生成処理部212が生成した目標経路Rの情報を含む経路データを作業車両10に出力する。前記経路データには、作業経路R1ごとに最大変化量Pmを格納する領域と、位置偏差許容レベルLpを格納する領域とが含まれる。また、前記経路データの位置偏差許容レベルLpには、初期値(許容偏差が0相当の最低値)が登録される。なお、前記経路データに、方位偏差に関する情報(最大変化量、方位偏差許容レベル)を格納する領域が含まれてもよい。
【0099】
なお、出力処理部213は、前記経路データをサーバー(不図示)に出力してもよい。前記サーバーは、複数の操作端末20のそれぞれから取得する複数の前記経路データを操作端末20及び作業車両10に関連付けて記憶し管理する。
【0100】
制御部21は、上述の処理に加えて、各種情報を操作表示部23に表示させる処理を実行する。例えば、制御部21は、作業車両情報、圃場情報、作業情報などを登録する登録画面、目標経路Rを生成する操作画面、作業車両10に自動走行を開始させる操作画面、作業車両10の走行状態などを表示する表示画面などを操作表示部23に表示させる。
【0101】
また制御部21は、オペレータから各種操作を受け付ける。具体的には、制御部21は、オペレータから作業車両10に作業を開始させる作業開始指示、自動走行中の作業車両10の走行を停止させる走行停止指示などを受け付ける。制御部21は、前記各指示を受け付けると、前記各指示を作業車両10に出力する。
【0102】
作業車両10の車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得すると、作業車両10の自動走行及び散布作業を開始させる。また、車両制御装置11は、操作端末20から走行停止指示を取得すると、作業車両10の自動走行及び散布作業を停止させる。
【0103】
なお、操作端末20は、サーバーが提供する農業支援サービスのウェブサイト(農業支援サイト)に通信網N1を介してアクセス可能であってもよい。この場合、操作端末20は、制御部21によってブラウザプログラムが実行されることにより、サーバーの操作用端末として機能することが可能である。
【0104】
[自動走行処理]
以下、
図17を参照しつつ、作業車両10の車両制御装置11によって実行される前記自動走行処理の一例について説明する。
【0105】
なお、本発明は、前記自動走行処理に含まれる一又は複数のステップを実行する自動走行方法の発明として捉えることができる。また、ここで説明する前記自動走行処理に含まれる一又は複数のステップは適宜省略されてもよい。なお、前記自動走行処理における各ステップは同様の作用効果を生じる範囲で実行順序が異なってもよい。さらに、ここでは車両制御装置11が前記自動走行処理における各ステップを実行する場合を例に挙げて説明するが、一又は複数のプロセッサーが当該自動走行処理における各ステップを分散して実行する自動走行方法も他の実施形態として考えられる。
【0106】
初めに、車両制御装置11は、圃場F又は作業経路R1の傾斜角度θfに応じた位置閾値を設定する。例えば、車両制御装置11は、前回の走行履歴情報を利用して、位置閾値を予め設定された値よりも大きい値に変更する。車両制御装置11は、目標経路Rと変更した位置閾値(閾値情報F3(
図14参照))とを含む経路データを記憶する。作業車両10は、次回の作業において、前記経路データに基づいて以下に示す自動走行を実行する。
【0107】
ステップS1において、車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得したか否かを判定する。例えば、オペレータが操作端末20においてスタートボタンを押下すると、操作端末20は作業開始指示を作業車両10に出力する。車両制御装置11が操作端末20から作業開始指示を取得すると(S1:Yes)、処理はステップS2に移行する。車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得するまで待機する(S1:No)。
【0108】
ステップS2において、車両制御装置11は、自動走行を開始する。例えば、車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得すると、前記経路データに含まれる目標経路R及び閾値情報F3に従って自動走行を開始する。
【0109】
次にステップS3において、車両制御装置11は、閾値情報F3を参照して現在位置に対応する位置閾値を取得する。例えば、作業車両10が作業経路R1aに進入する場合に、車両制御装置11は、作業経路R1aに対応する位置閾値Pt1を取得する。また例えば、作業車両10が作業経路R1bに進入する場合に、車両制御装置11は、作業経路R1bに対応する位置閾値Pt2を取得する。
【0110】
次にステップS4において、車両制御装置11は、位置偏差が位置閾値を超えたか否かを判定する。具体的には、車両制御装置11は、測位装置16による測位情報に基づいて、目標経路Rに対する作業車両10の位置偏差dx(
図11参照)を検出する。そして、車両制御装置11は、検出した位置偏差dxがステップS3において取得した前記位置閾値を超えるか否かを判定する。位置偏差dxが前記位置閾値を超えた場合(S4:Yes)、処理はステップS41に移行する。位置偏差dxが前記位置閾値以下である場合は(S4:No)、処理はステップS5に移行する。
【0111】
ステップS41では、車両制御装置11は、作業車両10を減速走行させる。例えば車両制御装置11は、減速度情報F4(
図16参照)を参照して前記位置閾値に対応する減速度を取得して、減速走行させる作業車両10の減速度に設定する。また車両制御装置11は、作業車両10を、設定した減速度で減速走行させて停止させる。
【0112】
次にステップS42において、車両制御装置11は、作業車両10の位置偏差dxを補正する補正動作を実行する。例えば、車両制御装置11は、
図9に示す超信地旋回及び後進を行って作業車両10の姿勢を補正する。車両制御装置11は、補正動作を行った後、ステップS3に戻り、自動走行及び散布作業を再開して上述の判定処理を実行する。
【0113】
ステップS5において、車両制御装置11は、作業車両10が作業を終了したか否かを判定する。車両制御装置11は、作業車両10の位置が作業終了位置Gに一致する場合に作業を終了したと判定する。作業車両10が作業を終了した場合(S5:Yes)、前記自動走行処理は終了する。車両制御装置11は、作業車両10が作業を終了するまでステップS3の判定処理及び補正動作を繰り返して自動走行を継続する。
【0114】
以上説明したように、本実施形態に係る自動走行システム1は、走行領域(例えば圃場F、作業経路R1)において目標経路Rに従って作業車両10を自動走行させ、目標経路Rに対する作業車両10の位置偏差が位置閾値を超えた場合に、作業車両10の自動走行を制限する制限動作(減速、停止)を実行する。また自動走行システム1は、走行領域における作業車両10の進行方向に対する左右方向(横方向)の傾斜角度θfに基づいて前記位置閾値を設定する。また、本実施形態に係る自動走行方法は、一又は複数のプロセッサーが、走行領域において目標経路Rに従って作業車両10を自動走行させることと、目標経路Rに対する作業車両10の位置偏差が位置閾値を超えた場合に、作業車両10の自動走行を制限する制限動作を実行することと、前記走行領域における作業車両10の進行方向に対する左右方向の傾斜角度θfに基づいて前記位置閾値を設定することと、を実行する。また本実施形態に係る閾値設定方法は、走行領域における作業車両10の進行方向に対する左右方向の傾斜角度θfに基づいて位置偏差に対応する位置閾値を変更可能に設定する。
【0115】
上記の構成によれば、走行領域(圃場F、作業経路R1)の傾斜角度θfに応じて位置偏差の閾値(位置閾値)を設定することができる。このため、作業車両10は、傾斜角度θfが異なる圃場Fごとに、圃場Fに対応する位置閾値を利用して自動走行を行ったり、圃場F内で傾斜角度θfが異なる作業経路R1ごとに、作業経路R1に対応する位置閾値を利用して自動走行を行ったりすることができる。また、傾斜角度θfが0度より大きい場合の前記位置閾値は、傾斜角度θfが0度の場合の位置閾値よりも大きい値に設定することにより、前記位置偏差が前記位置閾値を超え難くすることができる。このため、減速、停止などの制限動作が繰り返し実行されることを防ぐことができる。よって、傾斜した走行領域を自動走行する作業車両10による作業の作業効率を向上させることが可能になる。なお、作業車両10は、障害物検出装置17により障害物(例えば作物V)を検出することが可能であるため、前記位置閾値を予め設定された値よりも大きい値に変更した場合であっても、傾斜の起因する前記位置偏差により障害物に衝突することを防ぐことができる。
【0116】
本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の他の実施形態について以下に説明する。
【0117】
他の実施形態として、車両制御装置11は、作業車両10が傾斜した走行領域を走行する場合に、検出した位置偏差dxを傾斜角度θfに基づいて補正してもよい。例えば
図11において、基準点d0の高さをHとしたときに、車両制御装置11は、検出した位置偏差dxからH×cos(θf)を減算した値を、前記位置閾値との判定対象の位置偏差として算出する。車両制御装置11は、算出した前記位置閾値が前記位置閾値を超えた場合に、制限動作及び補正動作を実行する。
【0118】
この構成によれば、走行領域の傾斜の影響を除外することができるため、上述した実施形態と同様に、傾斜した走行領域を自動走行する作業車両10において、減速、停止などの制限動作が繰り返し実行されることを防ぐことができ、作業の作業効率を向上させることが可能になる。
【0119】
また、上述の実施形態では、設定処理部115は、作業車両10の走行履歴情報(位置偏差情報F1)に基づいて位置閾値を変更している。これに対して、他の実施形態では、設定処理部115は、圃場Fの傾斜角度θfに基づいて前記位置閾値を設定してもよい。具体的には、
図10に示すように、圃場Fが横方向(作物列の配列方向)に角度θfだけ傾斜している場合に、設定処理部115は、傾斜角度θfに基づいて前記位置偏差許容レベルを算出する。
【0120】
例えば、設定処理部115は、予め実機による試験データ又はシミュレーションによる試験データからマップ関数を作成しておき、当該マップ関数を利用して傾斜角度θfに応じた前記位置偏差許容レベルを算出する。そして、設定処理部115は、算出した前記位置偏差許容レベルに対応する位置オフセット量Opに基づいて、前記位置閾値に設定する。
【0121】
このように、設定処理部115は、作業経路R1の端点P0の高度を示す高度情報(z座標情報)に基づいて圃場Fの傾斜角度を算出する。
【0122】
この構成によれば、圃場Fのマップ作成時に前記位置偏差許容レベルを算出するため、作業車両10の自動走行中に最大変化量Pm、位置偏差許容レベルLpを算出する必要がない。このため、作業車両10の自動走行中の処理負荷を低減することができる。
【0123】
なお、上記構成では、操作端末20の制御部21が、前記位置偏差許容レベルを算出し、算出した前記位置偏差許容レベルに対応する位置オフセット量Opを決定して前記位置閾値に設定してもよい。この場合、位置補正情報F2は、操作端末20の記憶部22に記録される。また、制御部21は、目標経路R及び前記位置閾値を含む経路データを作業車両10に転送する。
【0124】
また、本発明の他の実施形態として、設定処理部115は、圃場Fの表土状態に基づいて前記位置閾値を設定してもよい。具体的には、設定処理部115は、作業車両10に搭載されるカメラ(不図示)の撮影画像、他の外界センサー(不図示)の検出結果などに基づいて圃場Fの傾斜状態を判定し、判定結果に基づいて位置偏差許容レベルを動的に設定する。なお、設定処理部115は、カメラの撮影画像を用いる場合、深層学習手法(End to End学習)を利用して画像データから位置偏差許容レベルを算出してもよい。
【0125】
また、設定処理部115は、前記外界センサーとして3次元センサーを用いる場合、路面の傾斜角度、路面の凹凸などを計測し、事前に設定した変換関数を用いて位置偏差許容レベルを算出してもよい。なお、外界センサーを用いる方法では、圃場Fを一度も走行していない状態で、作物列Vrの進入前に動的に位置閾値を設定することが可能であり、また前回走行時からの急な路面状態の変化に対応することが可能になる。
【符号の説明】
【0126】
1 :自動走行システム
10 :作業車両
11 :車両制御装置
111 :走行処理部
112 :検出処理部
113 :制限処理部
114 :補正処理部
115 :設定処理部
14 :散布装置
16 :測位装置
17 :障害物検出装置
20 :操作端末
211 :設定処理部
212 :経路生成処理部
213 :出力処理部
40 :基地局
50 :衛星
F :圃場(走行領域)
d0 :基準点
dx :位置偏差
F1 :位置偏差情報
F2 :位置補正情報
F3 :閾値情報
F4 :減速度情報
P0 :端点
R :目標経路
R1 :作業経路(走行領域)
V :作物
Vr :作物列
θf :傾斜角度