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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20241029BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241029BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20241029BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241029BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241029BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20241029BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20241029BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20241029BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20241029BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20241029BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20241029BHJP
   F16H 59/56 20060101ALI20241029BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20241029BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/10 900
B60W20/30
B60W20/15
B60W20/10
B60W10/00 148
B60W10/02
B60W10/06
B60W10/10
F16H59/74
F16H59/68
F16H59/56
F16H61/02
F16H63/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021103587
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023002379
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 智也
(72)【発明者】
【氏名】杉野 拓眞
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F16H 59/74
F16H 59/68
F16H 59/56
F16H 61/02
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、
前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、
前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、
前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、
を含むものであり、
前記重なり予測判定部は、前記トルク制限の実行中に、前記重なりが生じないことが予測されるか否かを判定するものであり、
前記トルク制限部は、前記重なりが生じないことが予測されると判定された場合には、前記トルク制限を解除することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記重なり予測判定部は、前記変速制御が完了した場合には、又は、前記同期制御が完了した場合には、前記重なりが生じないことが予測されると判定することを特徴とする請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、
前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、
前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、
前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、
を含むものであり、
前記トルク制限部は、前記変速制御の種類及び前記エンジンの始動方法のうちの少なくとも一方に基づいて、前記トルク制限を実行するときの制限値を設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、
前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、
前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、
前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、
を含むものであり、
前記イナーシャ相期間は、前記イナーシャ相の開始時点及び前記開始時点近傍と前記イナーシャ相の終了時点及び前記終了時点近傍とを少なくとも含んでいることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、
前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、
前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、
前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、
を含むものであり、
前記重なり予測判定部は、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との差回転速度の変化度合に基づく前記クラッチの同期予測時点と、前記変速制御の進行度合に基づく前記イナーシャ相期間と、に基づいて、前記重なりの発生が予測されるか否かを判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
前記トルク制限部は、前記トルク制限の開始後に、加速応答性の低下を抑制する為の予め定められた所定時間が経過した場合には、前記トルク制限を解除することを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機との間に設けられたクラッチと、電動機と駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両がそれである。この特許文献1には、エンジンの始動条件が成立した場合、クラッチのスリップ制御を実行すると共に、クランキングトルクを出力するように電動機を制御することによってエンジンを始動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-54165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの始動と変速機の変速とが重なって実行される場合がある。この場合、変速機の変速過渡中における変速機の入力側の回転変動によってクラッチの出力側の回転速度が変動する。その為、エンジンの始動に際してクラッチを係合状態へ切り替えるクラッチの同期制御が適切に行えず、ショックが発生するおそれがある。又は、クラッチの係合状態への切替えに伴う変速機の入力トルクの変動によって変速機の変速が適切に行えず、ショックが発生するおそれがある。一方で、ショックを抑制する為に、エンジンの始動及び変速機の変速のうちの何れかを遅延させてそれらが重なることを回避することが考えられる。この場合、エンジンの始動と変速機の変速とが完了させられるまでに時間が掛かり、加速応答性が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの始動と変速機の変速とが重なって実行される際に、ショックの発生を抑制しつつ加速応答性の低下を抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、(d)前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、(e)前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、(f)前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、を含むものであり、(g)前記重なり予測判定部は、前記トルク制限の実行中に、前記重なりが生じないことが予測されるか否かを判定するものであり、(h)前記トルク制限部は、前記重なりが生じないことが予測されると判定された場合には、前記トルク制限を解除することにある。
【0008】
また、第の発明は、前記第の発明に記載の車両の制御装置において、前記重なり予測判定部は、前記変速制御が完了した場合には、又は、前記同期制御が完了した場合には、前記重なりが生じないことが予測されると判定することにある。
【0009】
また、第の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、(d)前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、(e)前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、(f)前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、を含むものであり、(g)前記トルク制限部は、前記変速制御の種類及び前記エンジンの始動方法のうちの少なくとも一方に基づいて、前記トルク制限を実行するときの制限値を設定することにある。
【0011】
また、第の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、(d)前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、(e)前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、(f)前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、を含むものであり、(g)前記イナーシャ相期間は、前記イナーシャ相の開始時点及び前記開始時点近傍と前記イナーシャ相の終了時点及び前記終了時点近傍とを少なくとも含んでいることにある。
【0012】
また、第の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、前記動力伝達経路における前記電動機と前記駆動輪との間に設けられた変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチのトルク容量を増大させて前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行うクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの出力トルクを増大させるエンジン制御部と、(d)前記変速機の変速制御を行う変速機制御部と、(e)前記同期制御の実行中に、前記クラッチの同期完了時点と、前記変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されるか否かを判定する重なり予測判定部と、(f)前記重なりの発生が予測されると判定された場合には、前記重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、前記クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及び前記エンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限を実行するトルク制限部と、を含むものであり、(g)前記重なり予測判定部は、前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との差回転速度の変化度合に基づく前記クラッチの同期予測時点と、前記変速制御の進行度合に基づく前記イナーシャ相期間と、に基づいて、前記重なりの発生が予測されるか否かを判定することにある。
また、第6の発明は、前記第1の発明から第5の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記トルク制限部は、前記トルク制限の開始後に、加速応答性の低下を抑制する為の予め定められた所定時間が経過した場合には、前記トルク制限を解除することにある。
【発明の効果】
【0013】
前記第1の発明、前記第3の発明、前記第4の発明、及び前記第5の発明の各々の発明によれば、エンジンを始動する際の同期制御の実行中に、クラッチの同期完了時点と、変速機の変速過渡中におけるイナーシャ相期間と、の重なりの発生が予測されると判定された場合には、その重なりの発生が予測されないと判定された場合に比べて、クラッチのトルク容量を小さくするクラッチトルク制限及びエンジンの出力トルクを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限が実行されるので、イナーシャ相期間に対してクラッチの同期完了時点を遅らせることができたり、イナーシャ相期間においてクラッチの係合状態への切替えに伴う変速機の入力トルクの変動を抑制することができる。又、クラッチの同期完了時点に近づいてから上記重なりの発生が予測されるか否かを判定することができるので、エンジンの始動と変速機の変速とが重なった時点でエンジンの始動を遅延させることに比べて、エンジンの始動と変速機の変速とが完了させられるまでの時間が短くされる。又、ショックが発生し難い場面となる、上記重なりの発生が予測されないと判定された場合には、上記トルク制限が実行されることなく、エンジンの始動と変速機の変速とが重なって実行される。よって、エンジンの始動と変速機の変速とが重なって実行される際に、ショックの発生を抑制しつつ加速応答性の低下を抑制することができる。
【0014】
また、前記第の発明によれば、前記重なりが生じないことが予測されると判定された場合には、前記トルク制限が解除されるので、ショックが発生し難い場面となれば、クラッチのトルク容量やエンジンの出力トルクが速やかに通常の値に復帰させられ、加速応答性の低下を適切に抑制することができる。
【0015】
また、前記第の発明によれば、前記変速制御が完了した場合には、又は、前記同期制御が完了した場合には、前記重なりが生じないことが予測されると判定されるので、前記トルク制限が適切に解除される。
【0016】
また、前記第の発明によれば、前記変速制御の種類及びエンジンの始動方法のうちの少なくとも一方に基づいて、前記トルク制限を実行するときの制限値が設定されるので、イナーシャ相期間に対してクラッチの同期完了時点を適切に遅らせることができたり、イナーシャ相期間においてクラッチの係合状態への切替えに伴う変速機の入力トルクの変動を適切に抑制することができる。
【0017】
また、前記第の発明によれば、前記トルク制限の開始後に、加速応答性の低下を抑制する為の予め定められた所定時間が経過した場合には、前記トルク制限が解除されるので、加速応答性の低下を適切に抑制することができる。
【0018】
また、前記第の発明によれば、前記イナーシャ相期間は、イナーシャ相の開始時点及び前記開始時点近傍とイナーシャ相の終了時点及び前記終了時点近傍とを少なくとも含んでいるので、前記重なりの発生が予測されると判定された場合に、クラッチの同期完了時点と重なることによってショックが発生し易い期間に対してクラッチの同期完了時点を遅らせることができたり、クラッチの同期完了時点と重なることによってショックが発生し易い期間においてクラッチの係合状態への切替えに伴う変速機の入力トルクの変動を抑制することができる。
【0019】
また、前記第の発明によれば、クラッチの入力回転速度と出力回転速度との差回転速度の変化度合に基づくクラッチの同期予測時点と、前記変速制御の進行度合に基づくイナーシャ相期間と、に基づいて、前記重なりの発生が予測されるか否かが判定されるので、クラッチの同期完了時点に近づいてから前記重なりの発生が予測されるか否かを適切に判定することができる。これにより、前記トルク制限を実行する期間を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジンの始動と自動変速機の変速とが重なって実行される際にショックの発生を抑制しつつ加速応答性の低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
図3図2のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例
【0022】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源SPとして機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0023】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0024】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。具体的には、電動機MGは、バッテリ54から供給される電力により動力を発生する。又、電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。バッテリ54は、電動機MGの発電による電力を充電する。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0025】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。自動変速機24は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた変速機である。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0026】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0027】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、動力源SPからの動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0028】
LUクラッチ40は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が完全に解放された状態である解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、及びLUクラッチ40が完全に係合された状態である係合状態がある。LUクラッチ40が解放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバーター状態とされる。又、LUクラッチ40が係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22a及びタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0029】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0030】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0031】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0032】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0033】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0034】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、LU油圧PRlu、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0035】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0036】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0037】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0038】
CB油圧制御指令信号Scbは、油圧制御回路56から調圧されたCB油圧PRcbを供給させる為の油圧指令値であるCB油圧指令値Spcbに相当する。K0油圧制御指令信号Sk0は、油圧制御回路56から調圧されたK0油圧PRk0を供給させる為の油圧指令値であるK0油圧指令値Spk0に相当する。LU油圧制御指令信号Sluは、油圧制御回路56から調圧されたLU油圧PRluを供給させる為の油圧指令値であるLU油圧指令値Spluに相当する。
【0039】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、及び変速機制御手段すなわち変速機制御部96を備えている。
【0040】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0041】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。
【0042】
動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、車両10を駆動する駆動モードをEV駆動モードとする。EV駆動モードは、K0クラッチ20の解放状態において、電動機MGのみを動力源SPに用いて走行するモータ走行(=EV走行)が可能なモータ駆動モードである。一方で、動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、駆動モードをエンジン駆動モードつまりHV駆動モードとする。HV駆動モードは、K0クラッチ20の係合状態において、少なくともエンジン12を動力源SPに用いて走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HV走行)が可能なハイブリッド駆動モードである。他方で、動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV駆動モードを成立させる。
【0043】
動力源制御部92は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン始動要求の有無を判定する。例えば、動力源制御部92は、EV駆動モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求が有るか否かを判定する。
【0044】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、動力源制御部92によりエンジン始動要求が有ると判定された場合には、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるエンジン12のクランキングに必要なトルクをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、エンジン12のクランキングに必要なトルクを必要クランキングトルクTcrnという。
【0045】
動力源制御部92は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGが必要クランキングトルクTcrnを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。又、動力源制御部92は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。エンジン制御部92aは、エンジン12の点火が開始された初爆後にエンジン12の爆発による自立回転が安定した状態すなわちエンジン12が完爆した状態となるようにエンジントルクTeを出力する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、エンジン制御部92aは、エンジン12の始動に際して、エンジントルクTeを増大させる。
【0046】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクが生じる。この反力トルクは、EV走行時には、エンジン始動中のイナーシャによる駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12を始動する際に必要クランキングトルクTcrnに向けて増加させられるMGトルクTmは、この反力トルクを打ち消す為のMGトルクTmである。必要クランキングトルクTcrnは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。必要クランキングトルクTcrnは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方法等に基づいて予め定められた例えば一定のクランキングトルクTcrである。
【0047】
動力源制御部92は、エンジン12の制御状態を運転状態から停止状態へ切り替えるエンジン12の停止要求であるエンジン停止要求の有無を判定する。例えば、動力源制御部92は、HV駆動モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲内であって、エンジン12等の暖機が不要であり、バッテリ54の充電が不要であるか否かなどに基づいて、エンジン停止要求が有るか否かを判定する。
【0048】
動力源制御部92は、エンジン停止要求が有ると判定した場合には、エンジントルクTeを漸減する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。その後、動力源制御部92は、クラッチ制御部94によってK0クラッチ20が解放状態へ切り替えられた後に、エンジン12への燃料供給を停止するフューエルカットを実施する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0049】
K0クラッチ20によるクランキングが必要なクランキング始動を例示してエンジン12の始動制御を説明した。エンジン12の始動制御は、このクランキング始動に限らない。例えば、エンジン12の制御状態を運転状態から停止状態へ切り替える過渡中に、エンジン12の再始動が要求される場合がある。この場合、フューエルカットを解除し、エンジン12を点火することによってエンジン12の自律運転が可能であるならば、K0クラッチ20によるクランキングは必要ない。このようなエンジン12の始動制御を、自律復帰始動と称する。この自律復帰始動においても、クランキング始動と同様に、エンジン回転速度NeやエンジントルクTeが安定したエンジン12の完爆後に、K0クラッチ20が速やかに係合状態とされる。
【0050】
クラッチ制御部94は、例えばエンジン制御部92aからの完爆通知後に、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度とを速やかに同期させる。つまり、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるようにK0トルクTk0を増大させてK0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える同期制御を行う。本実施例では、このK0クラッチ20の同期制御を、K0同期制御と称する。K0同期制御は、クランキング始動時にも実行されるし、自律復帰始動時にも実行される。K0クラッチ20の入力回転速度は、エンジン連結軸34の回転速度であって、エンジン回転速度Neと同値である。K0クラッチ20の出力回転速度は、電動機連結軸36の回転速度であって、MG回転速度Nmと同値である。エンジン制御部92aは、例えばエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン12の完爆回転速度に到達した時点からの経過時間が予め定められた完爆通知待機時間を超えたときにエンジン12の完爆通知を出力する。この完爆通知待機時間は、例えばエンジン12の排ガス要件が考慮されて予め定められている。
【0051】
変速機制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0052】
ところで、動力源制御部92によるエンジン12の始動制御と、変速機制御部96による自動変速機24の変速制御と、が重なって実行される場合がある。この場合、状況によっては相互の制御が干渉してショックが発生する可能性がある。エンジン12の始動制御と自動変速機24の変速制御とが重なって実行される場合に、ショックが発生する要因は、例えば始動制御の際のK0同期制御におけるK0クラッチ20の同期完了時点と、変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始から終了までのイナーシャ相期間と、の重なりが発生する為である。本実施例では、K0クラッチ20の同期完了時点をK0同期時点と称し、K0同期時点とイナーシャ相期間との重なりをK0同期ラップと称する。K0同期ラップが発生する場合、AT入力回転速度Niの変動によってK0同期制御が適切に行えず、ショックが発生するおそれがある。又は、K0同期ラップが発生する場合、K0クラッチ20の係合状態への切替えに伴う自動変速機24の入力トルクTinの変動によって変速制御が適切に行えず、ショックが発生するおそれがある。これに対して、例えば予め実験的に得られた、K0クラッチ20によるクランキングの開始時点からK0同期時点までのK0同期時間の推定値であるK0同期推定時間に基づいて、K0同期ラップの発生を回避するように変速制御又は始動制御を遅延させることが考えられる。しかしながら、K0クラッチ20等の個体ばらつき、実験の試行ばらつきなどによって、K0同期推定時間は実際のK0同期時間と誤差が生じる可能性がある。その為、K0同期ラップの発生を回避することができずショックが発生してしまうおそれがある。或いは、自律復帰始動のようなK0クラッチ20によるクランキングを不要とするエンジン12の始動制御では、K0クラッチ20によるクランキングの開始時点からのK0同期推定時間が求められず、変速制御又は始動制御つまりK0クラッチ20によるクランキングを遅延させるという方法が使えない。その為、K0同期ラップの発生を回避することができずショックが発生してしまうおそれがある。或いは、変速制御又は始動制御を遅延させる場合、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが完了させられるまでに時間が掛かり、加速応答性などのドライバビリティーが低下してしまうおそれがある。或いは、始動制御を遅延させる場合にK0クラッチ20のスリップ状態の期間が長くなると、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へMGトルクTmを流す期間が長くなる。その為、エンジン12の動力により電動機MGの発電を行ってバッテリ54を充電する頻度が多くされ、燃費が悪化するおそれがある。
【0053】
そこで、電子制御装置90は、K0同期制御の開始後にK0同期ラップの発生が予測された時点から、K0トルクTk0及びエンジントルクTeのうちの少なくとも一方のトルクを制限するトルク制限を実行する。これにより、イナーシャ相期間に対してK0同期時点を遅らせることができる。又、イナーシャ相期間においてK0クラッチ20の係合状態への切替えに伴う自動変速機24の入力トルクTinの変動を抑制することができる。又、トルク制限が実行されるのは、エンジン12の始動制御と自動変速機24の変速制御との重なりが発生した時点からではなく、K0同期制御の開始後にK0同期ラップの発生が予測された時点からであるので、K0同期ラップの発生が予測されるまではトルク制限が実行されていない状態で始動制御と変速制御とが重なって進行させられる。
【0054】
具体的には、電子制御装置90は、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが重なって実行される際にショックの発生を抑制しつつ加速応答性の低下を抑制するという制御機能を実現する為に、更に、ラップ予測判定手段(=重なり予測判定手段)すなわちラップ予測判定部(=重なり予測判定部)98、及びトルク制限手段すなわちトルク制限部99を備えている。
【0055】
ラップ予測判定部98は、エンジン12の始動制御に際して、K0同期制御の実行中であるか否かを判定する。例えば、ラップ予測判定部98は、エンジン12の始動制御に際して、エンジン制御部92aから完爆通知が出力されたか否かに基づいて、K0同期制御の実行中であるか否かを判定する。
【0056】
ラップ予測判定部98は、K0同期制御の実行中であると判定した場合には、K0同期ラップの発生が予測されるか否かを判定する。具体的には、K0同期ラップは、前述したように、K0同期時点と自動変速機24の変速制御の過渡中におけるイナーシャ相期間との重なりである。K0同期時点とイナーシャ相期間とが分かれば、K0同期ラップの発生が予測され得る。K0同期ラップの発生予測に用いられるK0同期時点は、例えば現時点で何秒後にK0クラッチ20が同期完了するのかが予測されたときのK0同期時点つまりK0クラッチ20の同期予測時点である。本実施例では、K0クラッチ20の同期予測時点を、K0同期予測時点と称する。K0同期予測時点は、例えばエンジン回転速度Neの上昇勾配とMG回転速度Nmの変動とに基づいて算出され得る。エンジン回転速度Neの上昇勾配とMG回転速度Nmの変動とは、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度との差回転速度ΔNk0の変化度合に相当する。差回転速度ΔNk0の変化度合は、差回転速度ΔNk0の変化の度合を表す値である。ラップ予測判定部98は、K0同期制御の実行中において、K0クラッチ20の差回転速度ΔNk0の変化度合に基づいてK0同期予測時点を算出する。K0同期予測時点は、K0クラッチ20によるクランキングの開始時点からのK0同期推定時間とは異なり、K0同期制御の開始後に算出されるものである。従って、K0同期予測時点は、K0クラッチ20によるクランキングを不要とする自律復帰始動であっても、クランキング始動と同様に、算出され得る。又、イナーシャ相期間は、例えば自動変速機24の変速制御の進行度合に基づいて算出され得る。変速制御の進行度合は、例えば変速制御の進行の程度を変速制御の開始からの時間に対応させて表す値である。変速制御の進行度合は、例えば自動変速機24の変速制御の過渡中に解放される係合装置CBである解放側係合装置に対するCB油圧指令値Spcb、及び変速制御の過渡中に係合される係合装置CBである係合側係合装置に対するCB油圧指令値Spcbに基づいて算出され得る。ラップ予測判定部98は、K0同期制御の実行中において、K0クラッチ20の差回転速度ΔNk0の変化度合に基づくK0同期予測時点と、自動変速機24の変速制御の進行度合に基づくイナーシャ相期間と、に基づいて、K0同期ラップの発生が予測されるか否かを判定する。
【0057】
自動変速機24の変速制御の過渡中におけるイナーシャ相期間において、K0同期ラップの発生によるショックが大きくなるのは、例えばイナーシャ相の開始時点及びその開始時点近傍とイナーシャ相の終了時点及びその終了時点近傍とである。従って、K0同期ラップの発生予測に用いられるイナーシャ相期間は、イナーシャ相の開始時点及びその開始時点近傍とイナーシャ相の終了時点及びその終了時点近傍とに限定されても良い。つまり、K0同期ラップの発生予測に用いられるイナーシャ相期間は、イナーシャ相の開始時点及びその開始時点近傍とイナーシャ相の終了時点及びその終了時点近傍とを少なくとも含んでいる。イナーシャ相の開始時点近傍は、例えばK0同期ラップの発生時にイナーシャ相の開始時点と同程度のショックが発生する、イナーシャ相の開始時点が間に入る予め定められた期間である。イナーシャ相の終了時点近傍は、例えばK0同期ラップの発生時にイナーシャ相の終了時点と同程度のショックが発生する、イナーシャ相の終了時点が間に入る予め定められた期間である。
【0058】
トルク制限部99は、ラップ予測判定部98により、K0同期制御の実行中であると判定されたときに、K0同期ラップの発生が予測されると判定された場合には、K0同期ラップの発生が予測されないと判定された場合に比べて、K0トルクTk0を小さくするクラッチトルク制限及びエンジントルクTeを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限(=トルクリミテーション)を実行する。具体的には、自動変速機24の何れのギヤ段間でのアップシフトであるか、自動変速機24の何れのギヤ段間でのダウンシフトであるか、パワーオン時であるか、パワーオフ時であるか、などの変速制御の種類の違いによって、K0同期ラップが発生したときのショックの大きさが異なる。又、クランキング始動、自律復帰始動などのエンジン12の始動方法の違いによって、K0同期ラップが発生したときのショックの大きさが異なる。従って、トルク制限を実行するときの制限値であるトルク制限値、すなわちトルク制限中の上限値は、ショックの大きさ毎に予め定められた値に設定されることが好ましい。トルク制限部99は、自動変速機24の変速制御の種類に基づいて、クラッチトルク制限つまりK0トルク制限を実行するときの制限値であるK0トルク制限値を算出する。トルク制限部99は、エンジン12の始動方法に基づいてK0トルク制限値を算出する。トルク制限部99は、自動変速機24の変速制御の種類に基づいて、エンジントルク制限を実行するときの制限値であるエンジントルク制限値を算出する。トルク制限部99は、エンジン12の始動方法に基づいてエンジントルク制限値を算出する。トルク制限部99は、変速制御の種類及びエンジン12の始動方法のうちの少なくとも一方に基づいて、トルク制限値を設定する。トルク制限部99は、K0トルク制限値を用いてK0トルク制限を実行する指令をクラッチ制御部94へ出力する。及び/又は、トルク制限部99は、エンジントルク制限値を用いてエンジントルク制限を実行する指令をエンジン制御部92aへ出力する。
【0059】
ラップ予測判定部98は、トルク制限部99によるトルク制限の実行中に、K0同期ラップが生じないことが予測されるか否かを判定する。K0同期ラップが生じない場面は、ショックが発生し難い場面であり、自動変速機24の変速制御が既に終了している場面、K0クラッチ20の係合状態への切替えが既に終了している場面などが相当する。加速応答性の低下を抑制するという観点では、K0同期ラップが生じない場面となったときに速やかにトルク制限が解除されることが好ましい。ラップ予測判定部98は、自動変速機24の変速制御が完了した場合には、又は、K0同期制御が完了した場合には、K0同期ラップが生じないことが予測されると判定する。
【0060】
トルク制限部99は、トルク制限の実行中に、ラップ予測判定部98によりK0同期ラップが生じないことが予測されると判定された場合には、トルク制限を解除するつまりトルク制限を終了する。
【0061】
加速応答性の低下を抑制するという観点では、トルク制限を実行している時間は所定時間TMfまでとしても良い。具体的には、トルク制限部99は、トルク制限の実行時間が所定時間TMf内であるか否かを判定する。トルク制限部99は、トルク制限の実行時間が所定時間TMfを超えたと判定した場合には、トルク制限を解除する。所定時間TMfは、例えば加速応答性の低下を抑制する為の予め定められた閾値である。このように、トルク制限部99は、トルク制限の開始後に、所定時間TMfが経過した場合には、トルク制限を解除する。
【0062】
図2は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが重なって実行される際にショックの発生を抑制しつつ加速応答性の低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図3は、図2のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0063】
図2において、先ず、ラップ予測判定部98の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン12の始動制御に際して、K0同期制御の実行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はラップ予測判定部98の機能に対応するS20において、K0同期ラップの発生が予測されるか否かが判定される。図2でのK0同期ラップは、特には、K0同期時点と、変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の開始時点及びその開始時点近傍、及び/又は、終了時点及びその終了時点近傍と、の重なりである。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合はトルク制限部99の機能に対応するS30において、K0トルク制限値及びエンジントルク制限値が算出され、K0トルク制限及びエンジントルク制限が実行される。次いで、ラップ予測判定部98の機能に対応するS40において、K0同期ラップが生じないことが予測されるか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合はトルク制限部99の機能に対応するS50において、トルク制限の実行時間が所定時間TMf内であるか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合は上記S30に戻される。上記S40の判断が肯定される場合は、又は、上記S50の判断が否定される場合は、トルク制限部99の機能に対応するS60において、トルク制限が解除される。
【0064】
図3は、EV走行中に、自動変速機24の変速制御とエンジン12の始動制御とが重なって実行される場合の一例を示す図である。図3において、t1時点は、自動変速機24の変速制御が開始された時点を示している。変速制御の開始に伴って解放側係合装置及び係合側係合装置に対する各々のCB油圧指令値Spcbが出力される(t1時点以降参照)。t2時点は、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。始動制御の開始に伴ってクランキングやK0同期制御を行う為のK0油圧指令値Spk0が出力される(t2時点以降参照)。t2時点以降において変速制御と始動制御とが重なって実行されることになるが、本実施例では、t2時点で何れかの制御を遅延させるという制御は実行されない。変速制御と始動制御とが遅延させられることなく進行させられる過渡中において、K0同期ラップの発生が予測されると判定されたときに、ラップ予測判定フラグがオン(=ON)とされ、K0トルク制限及びエンジントルク制限が開始される(t3時点参照)。K0トルクTk0は、所定値としてのK0トルク制限値で制限され、エンジントルクTeは、所定値としてのエンジントルク制限値で制限される。図3に示すように、K0トルクTk0やエンジントルクTeは、トルク制限が開始される際には、トルクの急変を抑制する為に、トルク制限開始前のトルク値からトルク制限値へ漸減させられても良い。図3におけるK0同期ラップは、K0同期時点と、変速制御の過渡中におけるイナーシャ相の終了時点及びその終了時点近傍と、の重なりである。トルク制限の実行中に自動変速機24の変速制御が完了し、K0同期ラップが生じないことが予測されると判定されたときに、ラップ予測判定フラグがオフ(=OFF)とされ、トルク制限が解除される(t4時点参照)。K0トルクTk0及びエンジントルクTeは、各々トルク制限から復帰させられる。K0トルクTk0やエンジントルクTeは、トルク制限から復帰させられる際には、トルクの急変を抑制する為に、トルク制限値からトルク制限解除後のトルク値へ漸増させられても良い。尚、図3中の「始動時要求エンジントルク」は、例えば初爆後にエンジン12が完爆した状態となるようにエンジントルクTeを出力する為のエンジン制御指令信号Seに相当する。
【0065】
上述のように、本実施例によれば、エンジン12を始動する際のK0同期制御の実行中に、K0同期ラップの発生が予測されると判定された場合には、K0同期ラップの発生が予測されないと判定された場合に比べて、K0トルクTk0を小さくするK0トルク制限及びエンジントルクTeを小さくするエンジントルク制限のうちの少なくとも一方のトルク制限が実行されるので、自動変速機24の変速制御におけるイナーシャ相期間に対してK0同期時点を遅らせることができたり、イナーシャ相期間においてK0クラッチ20の係合状態への切替えに伴う自動変速機24の入力トルクTinの変動を抑制することができる。又、K0同期時点に近づいてからK0同期ラップの発生が予測されるか否かを判定することができるので、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが重なった時点でエンジン12の始動を遅延させることに比べて、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが完了させられるまでの時間が短くされる。又、ショックが発生し難い場面となる、K0同期ラップの発生が予測されないと判定された場合には、トルク制限が実行されることなく、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが重なって実行される。よって、エンジン12の始動と自動変速機24の変速とが重なって実行される際に、ショックの発生を抑制しつつ加速応答性の低下を抑制することができる。又、燃費の悪化を抑制することができる。
【0066】
また、本実施例によれば、K0同期ラップが生じないことが予測されると判定された場合には、トルク制限が解除されるので、ショックが発生し難い場面となれば、K0トルクTk0やエンジントルクTeが速やかに通常の値に復帰させられ、加速応答性の低下を適切に抑制することができる。
【0067】
また、本実施例によれば、自動変速機24の変速制御が完了した場合には、又は、K0同期制御が完了した場合には、K0同期ラップが生じないことが予測されると判定されるので、トルク制限が適切に解除される。
【0068】
また、本実施例によれば、変速制御の種類及びエンジン12の始動方法のうちの少なくとも一方に基づいて、トルク制限値が設定されるので、イナーシャ相期間に対してK0同期時点を適切に遅らせることができたり、イナーシャ相期間においてK0クラッチ20の係合状態への切替えに伴う自動変速機24の入力トルクTinの変動を適切に抑制することができる。
【0069】
また、本実施例によれば、トルク制限の開始後に、所定時間TMfが経過した場合には、トルク制限が解除されるので、加速応答性の低下を適切に抑制することができる。
【0070】
また、本実施例によれば、K0同期ラップの発生予測に用いられるイナーシャ相期間は、イナーシャ相の開始時点及びその開始時点近傍とイナーシャ相の終了時点及びその終了時点近傍とを少なくとも含んでいるので、K0同期ラップの発生が予測されると判定された場合に、K0同期時点と重なることによってショックが発生し易い期間に対してK0同期時点を遅らせることができたり、K0同期時点と重なることによってショックが発生し易い期間においてK0クラッチ20の係合状態への切替えに伴う自動変速機24の入力トルクTinの変動を抑制することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、K0クラッチ20の差回転速度ΔNk0の変化度合に基づくK0同期予測時点と、自動変速機24の変速制御の進行度合に基づくイナーシャ相期間と、に基づいて、K0同期ラップの発生が予測されるか否かが判定されるので、K0同期時点に近づいてからK0同期ラップの発生が予測されるか否かを適切に判定することができる。これにより、トルク制限を実行する期間を抑制することができる。
【0072】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0073】
例えば、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機などであっても良い。要は、エンジンと電動機とを含む動力源と、エンジンと電動機との間に設けられたクラッチと、動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する変速機と、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
【0074】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0075】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0076】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
24:自動変速機(変速機)
90:電子制御装置(制御装置)
92a:エンジン制御部
94:クラッチ制御部
96:変速機制御部
98:ラップ予測判定部(重なり予測判定部)
99:トルク制限部
MG:電動機
図1
図2
図3