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7578571硫化物固体電解質、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法
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  • -硫化物固体電解質、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20241029BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241029BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241029BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241029BHJP
   C04B 35/547 20060101ALI20241029BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01B13/00 Z
C04B35/547
H01B1/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021165304
(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公開番号】P2023056149
(43)【公開日】2023-04-19
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】堀 智
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-027780(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173939(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044517(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/10
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
H01B 13/00
C04B 35/547
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質であって、
前記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合が、55%以上、90%以下である、硫化物固体電解質。
【請求項2】
Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質であって、
前記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合が、94%以上である、硫化物固体電解質。
【請求項3】
前記Ge2+の割合が、100%である、請求項2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質を含有する、全固体電池。
【請求項5】
Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法であって、
前記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe 2+ の割合が20%以上であり、
前記製造方法は、
Li、Ge、P、Sを含有する前駆体を準備する準備工程と、
前記前駆体を、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有するガスの雰囲気下で焼成し、前記LGPS型の結晶相を形成する焼成工程と、
を有し、
前記ガスが、酸化性ガスを含有する、硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法であって、
前記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe 2+ の割合が20%以上であり、
前記製造方法は、
Li、Ge、P、Sを含有する前駆体を準備する準備工程と、
前記前駆体を、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有するガスの雰囲気下で焼成し、前記LGPS型の結晶相を形成する焼成工程と、
を有し、
前記ガスが、還元性ガスを含有する、硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法であって、
前記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe 2+ の割合が20%以上であり、
前記製造方法は、
Li、Ge、P、Sを含有する前駆体を準備する準備工程と、
前記前駆体を、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有するガスの雰囲気下で焼成し、前記LGPS型の結晶相を形成する焼成工程と、
を有し、
前記焼成工程が、
前記前駆体を、アルゴンガスを含有する第1ガスの雰囲気下で焼成する第1焼成処理と、
前記第1焼成処理後の前記前駆体を、窒素ガスを含有する第2ガスの雰囲気下で焼成する第2焼成処理と、
を有する、硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体が、硫化物ガラスである、請求項5から請求項7までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。全固体電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。硫化物固体電解質の中でも、Liイオン伝導性が高い材料として、LGPS系の硫化物固体電解質が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、LiPS結晶と、LiMS結晶(M=Ge、Si、Sn)とを、結晶を有するまま混合して前駆体を合成する工程と、前駆体を300~700℃にて加熱処理する工程と、を有するLGPS系固体電解質の製造方法が開示されている。また、特許文献2~4にも、LGPS系の硫化物固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2018/173939号
【文献】特開2017-021965号公報
【文献】特開2019-501105号公報
【文献】国際公開2019/044517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LGPS系の硫化物固体電解質は、Liイオン伝導性が高い材料であるものの、雰囲気に含まれる水分によりLiイオン伝導性が低下する。そのため、耐水性の向上が望まれている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質であって、上記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合が20%以上である、硫化物固体電解質を提供する。
【0007】
本開示によれば、Ge全量に対するGe2+の割合が所定の割合であることから、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質とすることができる。
【0008】
上記開示においては、上記Ge2+の割合が、92%以下であってもよい。
【0009】
上記開示においては、上記Ge2+の割合が、49%以上であってもよい。
【0010】
上記開示においては、上記Ge2+の割合が、55%以上、90%以下であってもよい。
【0011】
上記開示においては、上記Ge2+の割合が、94%以上であってもよい。
【0012】
上記開示においては、上記Ge2+の割合が、100%であってもよい。
【0013】
また、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質を含有する、全固体電池を提供する。
【0014】
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質を用いることにより、例えば高湿度環境下であっても、出力特性を維持可能な全固体電池とすることができる。
【0015】
また、本開示においては、上述した硫化物固体電解質の製造方法であって、Li、Ge、P、Sを含有する前駆体を準備する準備工程と、上記前駆体を、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有するガスの雰囲気下で焼成し、上記LGPS型の結晶相を形成する焼成工程と、を有する、硫化物固体電解質の製造方法を提供する。
【0016】
本開示によれば、所定のガス雰囲気で焼成を行うことで、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質を得ることができる。
【0017】
上記開示においては、上記ガスが、上記窒素ガスを含有していてもよい。
【0018】
上記開示においては、上記ガスが、上記貴ガスとして、アルゴンガスを含有していてもよい。
【0019】
上記開示においては、上記ガスが、酸化性ガスを含有していてもよい。
【0020】
上記開示においては、上記ガスが、還元性ガスを含有していてもよい。
【0021】
上記開示においては、上記焼成工程が、上記前駆体を、アルゴンガスを含有する第1ガスの雰囲気下で焼成する第1焼成処理と、上記第1焼成処理後の上記前駆体を、窒素ガスを含有する第2ガスの雰囲気下で焼成する第2焼成処理と、を有していてもよい。
【0022】
上記開示においては、上記前駆体が、硫化物ガラスであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示においては、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図2】本開示における硫化物固体電解質の製造方法を例示するフローチャートである。
図3参考例2で作製した硫化物固体電解質に対するXPS測定の結果である。
図4】Ge2+存在割合と、曝露試験後のLiイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示における硫化物固体電解質、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
A.硫化物固体電解質
本開示における硫化物固体電解質は、Li、Ge、P、Sを含有し、LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質であって、上記硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合が20%以上である。
【0027】
本開示によれば、Ge全量に対するGe2+の割合が所定の割合であることから、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質とすることができる。LGPS型の結晶相を有する硫化物固体電解質は、Liイオン伝導性が高い材料であるものの、雰囲気に含まれる水分によりLiイオン伝導性が低下する。そのため、耐水性の向上が望まれている。本開示においては、Ge全量に対するGe2+の割合が所定の割合であることから、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質とすることができる。ここで、後述する実施例に記載するように、硫化物ガラスを真空で焼成した場合、粒子表面に存在するGeは全てGe4+となる。すなわち、Ge全量に対するGe2+の割合(Ge2+存在割合)は0%となる。これに対して、本開示においては、例えば焼成時に使用するガスの種類を調整することにより、Ge2+の割合を制御することができる。具体的には、焼成時に使用するガスにより、粒子表面に耐水性が高い還元層(Ge2+層)が形成されるが、そのガスの種類を調整することで、還元層(Ge2+層)の割合を制御できる。本開示においては、Ge2+の割合を所定の割合以上にすることで、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質が得られる。良好な耐水性が得られる理由は、Ge2+がGe4+よりも良好な耐水性を有するためであると推察され、この点は、水に対する溶解性に関して、GeSがGeSよりも低いことからも示唆されている。
【0028】
本開示における硫化物固体電解質は、Li、Ge、PおよびSを含有する。硫化物固体電解質に含まれる全ての元素に対する、Li、Ge、PおよびSの合計の割合は、例えば70mol%以上であり、80mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。また、硫化物固体電解質は、ハロゲンを含有していてもよく、含有しなくてもよい。前者の場合、硫化物固体電解質は、ハロゲンを1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。ハロゲンとしては、例えば、Cl、Br、Iが挙げられる。
【0029】
本開示における硫化物固体電解質は、LGPS型の結晶相を有する。本開示において、LGPS型の結晶相は、Li、Ge、P、Sを含有する結晶相である。LGPS型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、29.58°±0.50°の位置に、典型的なピークを有する。また、LGPS型の結晶相は、2θ=17.38°±0.50°、23.56°±0.50°、23.96°±0.50°、24.93°±0.50°、29.07°±0.50°、31.71°±0.50°、32.66°±0.50°、33.39°±0.50°の位置にピークを有していてもよい。なお、これらのピーク位置は、例えば硫化物固体電解質の組成によって前後する場合があるため、±0.50°の範囲で規定している。各ピークの位置は、±0.30°の範囲であってもよく、±0.10°の範囲であってもよい。
【0030】
また、LGPS型の結晶相は、通常、Li元素およびS元素から構成される八面体O(例えばLiS八面体)と、M2a元素(M2aは、PおよびGeの少なくとも一種である)およびS元素から構成される四面体T(例えばGeSおよびPS)と、M2b元素(M2bは、PおよびGeの少なくとも一種である)およびS元素から構成される四面体T(例えばPS)と、を有し、四面体Tおよび八面体Oは稜を共有し、四面体Tおよび八面体Oは頂点を共有する結晶相である。
【0031】
本開示における硫化物固体電解質は、LGPS型の結晶相を主相として含有することが好ましい。「主相として含有する」とは、硫化物固体電解質に含まれる全ての結晶相に対して、LGPS型の結晶相の割合が最も大きいことをいう。LGPS型の結晶相の割合は、例えば50重量%以上であり、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。なお、上記結晶相の割合は、例えば、放射光XRDにより測定することができる。
【0032】
また、本開示においては、硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合が20%以上である。Ge全量に対するGe2+の割合は、49%以上であってもよく、50%以上であってもよく、55%以上であってもよく、60%以上であってもよい。Ge全量に対するGe2+の割合が少なすぎると、水分曝露後のLiイオン伝導度が低くなる可能性がある。また、Ge全量に対するGe2+の割合は、92%以下であってもよく、90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。Ge2+の割合を上記範囲にすることで、水分曝露後のLiイオン伝導度が高くなる。後述する実施例に記載するように、Ge全量に対するGe2+の割合が、49%以上92%以下である場合(好ましくは、55%以上90%以下である場合)、水分曝露後のLiイオン伝導度が特に高い。Ge全量に対するGe2+の割合の算出方法については、後述する実施例に記載する。
【0033】
また、本開示においては、硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合は、77%以上であってもよく、92%以上であってもよく、94%以上であってもよく、96%以上であってもよく、100%であってもよい。Ge2+の割合を多くすることで、水分曝露前後におけるLiイオン伝導度の維持率が高くなる。
【0034】
また、本開示においては、硫化物固体電解質の表面に対してX線光電子分光測定を行った場合に、Ge全量に対するGe2+の割合は、45%以下であってもよい。Ge2+の割合を上記範囲にすることで、水分曝露前におけるLiイオン伝導度が高くなる。
【0035】
本開示における硫化物固体電解質の組成は、特に限定されない。硫化物固体電解質は、例えば、αLiX・(1-α)(Li4-xGe1-x)(Xは1種または2種以上のハロゲンであり、αは0≦α<1を満たし、xは0<x<1を満たす)で表される組成を有していてもよい。Xとしては、例えば、Cl、Br、Iが挙げられる。αは0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、αは、0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよい。また、αは、0.5以下であってもよく、0.4以下であってもよい。xは、0.5以上であってもよく、0.6以上であってもよい。また、xは、0.8以下であってもよく、0.75以下であってもよい。
【0036】
本開示における硫化物固体電解質は、Liイオン伝導度が高いことが好ましい。硫化物固体電解質のLiイオン伝導度(25℃)は、例えば、1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であってもよい。また、硫化物固体電解質は、所定の曝露試験後のLiイオン伝導度が高いことが好ましい。曝露試験後のLiイオン伝導度(25℃)は、例えば、1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であってもよい。
【0037】
曝露試験は、後述する実施例に記載するように、露点を-30℃に制御したグローブボックス内で、硫化物固体電解質を6時間静置し、雰囲気に含まれる水分を硫化物固体電解質に曝露させる試験である。曝露試験前のLiイオン伝導度をICとし、曝露試験後のLiイオン伝導度をICとした場合、IC/IC(曝露試験前後におけるLiイオン伝導度の維持率)は、例えば27%以上であり、56%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0038】
硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm以上であり、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。一方、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、30μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。
【0039】
本開示における硫化物固体電解質は、良好なLiイオン伝導性を有するため、Liイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本開示における硫化物固体電解質は、全固体電池に用いられることが好ましい。また、本開示における硫化物固体電解質の製造方法は、特に限定されないが、後述する「C.硫化物固体電解質の製造方法」が挙げられる。
【0040】
B.全固体電池
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図1に示される全固体電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に配置された固体電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本開示においては、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質を含有することを一つの特徴とする。
【0041】
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質を用いることにより、例えば高湿度環境下であっても、出力特性を維持可能な全固体電池とすることができる。
【0042】
1.正極活物質層
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。特に、本開示においては、正極活物質層が、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。正極活物質層に含まれる硫化物固体電解質の割合は、例えば0.1体積%以上であり、1体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよい。一方、正極活物質層に含まれる硫化物固体電解質の割合は、例えば80体積%以下であり、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよい。また、正極活物質としては、例えばLiCoO、LiMnO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiVO、LiCrO、LiNiMn、LiFePO、LiCoPO等の酸化物活物質が挙げられる。
【0043】
正極活物質層は、導電材を含有していてもよい。導電材の添加により、正極活物質層の電子伝導性を向上させることができる。導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系バインダーが挙げられる。また、正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0044】
2.負極活物質層
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。特に、本開示においては、負極活物質層が、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。負極活物質層に含まれる硫化物固体電解質の割合は、例えば0.1体積%以上であり、1体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよい。一方、負極活物質層に含まれる硫化物固体電解質の割合は、例えば80体積%以下であり、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよい。また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSnが挙げられる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。
【0045】
なお、負極活物質層に用いられる導電材およびバインダーについては、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0046】
3.固体電解質層
固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に配置される層である。また、固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層であり、必要に応じて、バインダーを含有していてもよい。特に、本開示においては、固体電解質層が、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。固体電解質層に含まれる硫化物固体電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。なお、固体電解質層に用いられるバインダーについては、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0047】
4.その他の構成
本開示における全固体電池は、上述した正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層を少なくとも有する。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケル、カーボンが挙げられる。
【0048】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、通常、全固体リチウムイオン電池である。また、全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、後者が好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。
【0049】
C.硫化物固体電解質の製造方法
図2は、本開示における硫化物固体電解質の製造方法を例示するフローチャートである。図2においては、まず、Li、Ge、P、Sを含有する前駆体を準備する(準備工程)。次に、準備した前駆体を、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有するガスの雰囲気下で焼成し、LGPS型の結晶相を形成する(焼成工程)。これにより、上述した硫化物固体電解質を得る。
【0050】
本開示によれば、所定のガス雰囲気で焼成を行うことで、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質を得ることができる。
【0051】
1.準備工程
本開示における準備工程は、Li、Ge、P、Sを含有する前駆体を準備する工程である。前駆体は、原料混合物であってもよく、硫化物ガラスであってもよく、LGPS型の結晶相を有していてもよい。
【0052】
まず、前駆体が原料混合物である場合について説明する。前駆体は、通常、Li源、Ge源、P源、S源を含有する。Li源としては、例えば、Li単体および硫化リチウム(例えばLiS)が挙げられる。Ge源としては、例えば、Ge単体および硫化ゲルマニウム(例えばGeS)が挙げられる。P源としては、例えば、P単体および硫化リン(例えばP)が挙げられる。S源としては、例えば、S単体、硫化リチウム、硫化ゲルマニウム、硫化リンが挙げられる。また、原料混合物は、LiX(Xはハロゲンである)を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
【0053】
原料混合物の組成は、特に限定されない。原料混合物は、例えば、αLiX・(1-α)(Li4-xGe1-x)(Xは1種または2種以上のハロゲンであり、αは0≦α<1を満たし、xは0<x<1を満たす)で表される組成を有していてもよい。X、α、xについては、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した内容と同様である。また、原料混合物は、各原料を混合装置(例えばメノウ乳鉢)で混合することにより、得ることができる。
【0054】
次に、前駆体が硫化物ガラスである場合について説明する。硫化物ガラスは、例えば、原料混合物に対してメカニカルミリングを行うことにより、得ることができる。メカニカルミリングとしては、例えば、ボールミル、振動ミル、ターボミル、ディスクミルが挙げられる。また、硫化物ガラスは、例えば、原料混合物に対して溶融急冷を行うことにより、得ることができる。硫化物ガラスは、通常、非晶質性を有する。すなわち、硫化物ガラスは、X線回折測定において、ハロパターンが観察される。また、硫化物ガラスは、X線回折測定において、原料に由来するピークを有していてもよく、有していなくもよいが、後者が好ましい。より非晶質性が高いからである。
【0055】
次に、前駆体がLGPS型の結晶相を有する場合について説明する。このような前駆体は、例えば、原料混合物または硫化物ガラスを熱処理することにより、得ることができる。熱処理温度は、例えば300℃以上であり、400℃以上であってもよく、500℃以上であってもよい。また、熱処理温度は、例えば1000℃以下であり、700℃以下であってもよい。熱処理雰囲気としては、例えば、真空等の減圧雰囲気が挙げられる。熱処理時間は、例えば、1時間以上、20時間以下である。
【0056】
2.焼成工程
本開示における焼成工程は、上記前駆体を、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有するガスの雰囲気下で焼成し、上記LGPS型の結晶相を形成する工程である。本開示においては、所定のガスを用いることで、粒子表面のGe4+をGe2+に還元し、Ge2+の割合が多い硫化物固体電解質を得る。また、焼成時に使用するガスの組成を調整することで、Ge全量に対するGe2+の割合を調整することができる。
【0057】
焼成時に使用するガス(雰囲気ガス)は、窒素ガスおよび貴ガスの少なくとも一方を含有する。貴ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガスが挙げられる。窒素ガスは、貴ガスに比べてGe4+をGe2+に還元する還元力が弱い。なお、本開示においては、窒素ガスおよび貴ガスを、基準ガスと称する。雰囲気ガスにおける基準ガスの割合は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上であってもよく、99体積%以上であってもよい。
【0058】
また、雰囲気ガスは、酸化性ガスを含有していてもよい。酸化性ガスを添加することで、基準ガスによる還元力を抑制することができる。酸化性ガスとしては、例えば、酸素ガス、乾燥空気等の酸素含有ガス、および、炭酸ガスが挙げられる。また、雰囲気ガスにおける酸化性ガスの割合は、例えば、0.01体積%以上、1体積%以下である。
【0059】
また、雰囲気ガスは、還元性ガスを含有していてもよい。還元性ガスを添加することで、基準ガスによる還元力を増強することができる。還元性ガスとしては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、メタン、プロパン、ブタン等の炭化水素ガスが挙げられる。また、雰囲気ガスにおける還元性ガスの割合は、例えば、0.01体積%以上、1体積%以下である。
【0060】
また、本開示においては、焼成時に、ガスをフローさせることが好ましい。粒子表面のGe4+をGe2+に還元しやすくなるからである。焼成温度は、例えば300℃以上であり、400℃以上であってもよく、500℃以上であってもよい。また、焼成温度は、例えば1000℃以下であり、700℃以下であってもよい。焼成時間は、例えば、1時間以上、20時間以下である。
【0061】
また、本開示においては、焼成工程が、前駆体を、アルゴンガスを含有する第1ガスの雰囲気下で焼成する第1焼成処理と、第1焼成処理後の前駆体を、窒素ガスを含有する第2ガスの雰囲気下で焼成する第2焼成処理と、を有していてもよい。第1焼成処理および第2焼成処理を行うことで、曝露試験後のLiイオン伝導度が高く、かつ、曝露試験前後の維持率も高い硫化物固体電解質を得ることができる。第1焼成処理および第2焼成処理は、連続的に行ってもよく、第1焼成処理後に冷却を行い、その後、第2焼成処理を行ってもよい。後者の場合、第1焼成処理後に室温まで冷却してもよい。また、第1焼成処理および第2焼成処理における、焼成温度および焼成時間は、それぞれ、上述した内容と同様である。
【0062】
3.硫化物固体電解質
上述した各工程により得られる硫化物固体電解質については、「A.硫化物固体電解質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0063】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0064】
[比較例1]
原料としてLiS、PおよびGeSを準備し、これらをLi10GeP12の組成になるように秤量し、ジルコニアボールとともに、ジルコニアポットに投入した。その後、遊星型ボールミルを用い、380rpm、40時間の条件で、メカニカルミリング(メカニカルアロイング)を行い、硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスをペレット化し、石英管に真空封入し、550℃、8時間の条件で焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。
【0065】
[実施例1]
比較例1と同様にして硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスを、アルミナボードに載せ、管状炉を用いて、窒素ガスに0.2体積%の酸素ガスを添加したガスをフローさせながら、550℃、8時間の条件で焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。
【0066】
参考例2]
比較例1と同様にして硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスを、アルミナボードに載せ、管状炉を用いて、窒素ガスをフローさせながら、550℃、8時間の条件で焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。
【0067】
[実施例3]
比較例1と同様にして硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスを、アルミナボードに載せ、管状炉を用いて、アルゴンガスをフローさせながら、550℃、8時間の条件で焼成を行った。室温まで冷却した後、再び、管状炉を用いて、窒素ガスをフローさせながら、550℃、8時間の条件で焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。
【0068】
参考例4]
比較例1と同様にして硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスを、アルミナボードに載せ、管状炉を用いて、アルゴンガスをフローさせながら、550℃、8時間の条件で焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。
【0069】
[実施例5]
比較例1と同様にして硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラスを、アルミナボードに載せ、管状炉を用いて、アルゴンガスに0.2体積%の水素ガスを添加したガスをフローさせながら、550℃、8時間の条件で焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。
【0070】
[評価]
(XRD測定)
実施例1、3、5、参考例2、4および比較例1で得られた硫化物固体電解質に対して、X線回折(XRD)測定を行った。その結果、実施例1、3、5、参考例2、4および比較例1で得られた硫化物固体電解質は、いずれもLGPS型の結晶相を有することが確認された。
【0071】
(XPS測定)
実施例1、3、5、参考例2、4および比較例1で得られた硫化物固体電解質に対して、X線光電子分光(XPS)測定を行い、硫化物固体電解質の構造評価を行った。X線光電子分光の測定装置には、アルバックファイ製のXPS装置PHI-5800を用いた。試料をアルゴン雰囲気のグローブボックス内でXPS測定用のホルダーに入れ、ホルダーを予備排気室で30分間以上真空引きし、分析室へ導入した。測定には、単色化AlKα(1487eV)のX線源を用い、試料最表面の情報を取得した。測定面積は約100μmΦであり、帯電中和にはAr+電子線の中和銃を用いた。
【0072】
XPS測定によって得られたGe3dスペクトルをピーク分離し、高エネルギーに該当するGe4+のピーク面積Aと、低エネルギーに該当するGe2+のピーク面積Bとを算出した。算出したピーク面積を用いて、Ge2+存在割合(B/(A+B))を求め、「Ge全量に対するGe2+の割合」とした。ピーク分離は、X線光電子分光の測定装置に付属の解析ソフト(MULTI PACK(アルバックファイ社製))を用いて行った。バックグラウンド処理は、Shirley法で行い、ピークの分離には非線形最小二乗法によるカーブフィッティングを用いた。典型的な結果として、図3参考例2の結果を示す。具体的には、図3に示すように、XPS測定によって得られたGe3dスペクトルを、Ge4+のピークと、Ge2+のピークとに分離し、それぞれのピークの面積からGe2+存在割合を求めた。その結果を表1に示す。
【0073】
(Liイオン伝導度測定)
実施例1、3、5、参考例2、4および比較例1で得られた硫化物固体電解質に対して、Liイオン伝導度測定を行った。具体的には、露点-80℃のグローブボックス内で、硫化物固体電解質を100mg秤量し、マコール製のシリンダに入れ、4ton/cmの圧力でプレスした。得られたペレットの両端をSUS製ピンで挟み、ボルト締めによりペレットに拘束圧を印加し、評価用セルを得た。評価用セルに対して、交流インピーダンス法により、25℃におけるLiイオン伝導度を算出した。測定には、ソーラトロン1260を用い、印加電圧5mV、測定周波数域0.01MHz~1MHzとした。その結果(曝露試験前のLiイオン伝導度)を表1に示す。
【0074】
(曝露試験)
実施例1、3、5、参考例2、4および比較例1で得られた硫化物固体電解質に対して、曝露試験を行った。具体的には、露点を-30℃に制御したグローブボックス内で、硫化物固体電解質を6時間静置し、雰囲気に含まれる水分を硫化物固体電解質に曝露させた。曝露試験後のLiイオン伝導度を、上記と同様に測定した。その結果を表1および図4に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すように、比較例1のように、真空で焼成した場合、Ge2+存在割合は0%であった。すなわち、硫化物固体電解質の粒子表面に存在するGeは、全てGe4+であった。これに対して、実施例1、3、5、参考例2、4では、いずれもGe2+存在割合が20%以上であった。また、表1および図4に示すように、実施例1、3、5、参考例2、4では、比較例1よりも曝露試験後のLiイオン伝導度が高かった。中でも、実施例3および参考例2、4は、曝露試験後のLiイオン伝導度が高く、特に実施例3が最も高かった。すなわち、参考例2および参考例4の間に、極大値が存在することが示唆された。
【0077】
また、曝露試験前後におけるLiイオン伝導度の維持率の観点からは、参考例2は、実施例1より高くなり、その参考例2より実施例3、5および参考例4は顕著に高くなった。また、実施例3および参考例4と、実施例5とを比べると、曝露試験後におけるLiイオン伝導度は、実施例3および参考例4が実施例5より高く、曝露試験前後におけるLiイオン伝導度の維持率は実施例3、5および参考例4で同等であった。また、実施例1、3、5、参考例2、4および比較例1の結果から、Ge2+存在割合が、硫化物固体電解質の耐水性に影響を与えることは明らかである。そのため、経時的な耐水性の観点からは、実施例5が優れていることが示唆された。
【0078】
また、実施例1、3、5および参考例2、4の結果を詳細に考察する。まず、参考例2および参考例4を比べると、窒素ガスは、アルゴンガスに比べて、Ge4+をGe2+に還元する還元力が弱いことが確認された。窒素ガスおよびアルゴンガスは、一般的に反応性が低いガスであることが知られているが、窒素ガスを用いた場合とアルゴンガスを用いた場合とで、Ge2+存在割合に大きな差異が生じるという意外な結果が得られた。大きな差異が生じる理由は、完全には明らかではないが、窒素ガス自体が中性ガスに分類されることから、アルゴンガスよりも反応性が低かった可能性がある。また、前駆体に含まれる硫黄は、焼成時に揮発することが想定されることから、揮発する硫黄と、窒素ガスおよびアルゴンガスとの間で、何らかの相互作用が生じ、その相互作用の強弱により、大きな差異が生じた可能性も想定される。
【0079】
次に、参考例2および実施例1を比べると、窒素ガスに、酸化性ガスである酸素ガスを添加することで、Ge4+をGe2+に還元する還元力が抑制されることが確認された。同様に、参考例4および実施例5を比べると、アルゴンガスに、還元性ガスである水素ガスを添加することで、Ge4+をGe2+に還元する還元力が増強されることが確認された。このように、酸化性ガスおよび還元性ガスを用いることで、Ge2+存在割合を制御できることが確認された。また、特に実験は行っていないが、アルゴンガスに酸化性ガスを添加した場合、Ge2+存在割合が実施例3と同程度になることが期待される。同様に、窒素ガスに還元性ガスを添加した場合、Ge2+存在割合が実施例3と同程度になることが期待される。
【0080】
次に、実施例3では、アルゴンガスをフローさせた第1焼成処理と、窒素ガスをフローさせた第2焼成処理とを行った。第1焼成処理が終了した段階では、参考例4と同様にGe2+存在割合が92%であると推測されるが、その後に第2焼成処理を行うと、Ge2+存在割合が77%に低下した。その理由は明らかではないが、粒子内部から拡散されるGe4+の量が、窒素ガスによりGe4+からGe2+に還元される量よりも多かった可能性が想定される。
【符号の説明】
【0081】
1 …正極活物質層
2 …負極活物質層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
6 …電池ケース
10 …全固体電池
図1
図2
図3
図4