IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧

<>
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図1
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図2
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図3
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図4
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図5
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図6
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図7
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図8
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図9
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図10
  • 特許-液圧ブレーキシステム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20241029BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20241029BHJP
   B60T 7/22 20060101ALI20241029BHJP
   B60T 8/42 20060101ALI20241029BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
B60T7/12 B
B60T7/22
B60T8/42
B60T13/138 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021167134
(22)【出願日】2021-10-12
(65)【公開番号】P2023057588
(43)【公開日】2023-04-24
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】大竹 毅
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0143950(US,A1)
【文献】特開2003-154928(JP,A)
【文献】実開平6-065131(JP,U)
【文献】特開2019-151210(JP,A)
【文献】実開昭51-032386(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/172
B60T 7/12
B60T 7/22
B60T 8/42
B60T 13/138
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、シリンダボアに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンと、前記ピストンの後方に設けられた液圧室とを備えたホイールシリンダを含み、前記液圧室の液圧に起因する前記ピストンの前進により前記車輪と一体的に回転可能なブレーキ回転体に摩擦係合部材を押し付けることにより前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
複数の前記液圧ブレーキのうちの1つ以上の前記液圧室に接続され、前記1つ以上の前記液圧室の液圧を制御可能な液圧制御アクチュエータと、
複数の前記液圧制御アクチュエータを制御することにより、前記複数の液圧ブレーキの各々の液圧をそれぞれ制御するブレーキ液圧制御部と
を含む液圧ブレーキシステムであって、
前記複数の液圧制御アクチュエータが、それぞれ、電動モータの駆動力により移動可能なピストンである電動ピストンと、前記電動ピストンの前方に設けられ、前記1つ以上の液圧室に接続された容積変化室と、前記容積変化室に接続され、前記1つ以上の液圧室から流出させられた作動液を収容可能なリザーバと、前記リザーバに収容された作動液の液量である作動液量を検出する作動液量検出装置と、前記電動ピストンの変位を取得するピストン変位取得装置とを含み、
当該液圧ブレーキシステムが、前記ピストン変位取得装置によって取得された前記電動ピストンの変位と、前記作動液量検出装置によって検出された前記リザーバに収容された作動液の液量の変化との少なくとも一方に基づいて、前記液圧ブレーキが設けられた前記車輪に加えられた外力の大きさを推定し、前記外力の影響を受ける部材である外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す値である負荷値を推定する負荷値推定部と
を含む液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記負荷値推定部が、前記ピストン変位取得装置によって取得された前記電動ピストンの変位である位置の変化量が大きい場合は小さい場合より前記外力受け部材が受けた負荷の大きさを表す前記負荷値が大きいと推定し、前記作動液量検出装置によって検出された前記液量の変化量が大きい場合は小さい場合より前記負荷値が大きいと推定するものである請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
当該液圧ブレーキシステムが、前記負荷値推定部によって推定された前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの前記外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す前記負荷値の積算値が予め定められた設定積算値より大きくなった場合に、そのことを報知する報知装置を含む請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記ブレーキ液圧制御部が、前記負荷値推定部によって推定された前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの前記外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す前記負荷値の積算値が予め定められた設定積算値より大きくなった場合に、前記複数の液圧制御アクチュエータのうちの1つ以上の制御により、前記車両のヨーレートを抑制して、前記車両を停止させるものである請求項1ないし3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に液圧による制動力を加える液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車体診断装置において、車輪に作用する力を受けて変位する部分に、力検出センサが設けられる。具体的に、力検出センサ21は、車輪の前後左右の各車輪の各々について、それぞれ、車輪に作用する力を受けて変位する部分としての、アクスル軸11を回転可能に支持するアクセルハウジング13に設けられる(段落[0012]、図1)。また、これら力検出センサにより検出された車輪に作用する力に基づいて、車体の複数の部分である評価点(車体のフロントサスペンションの取付け部、リアサスペンションの取付け部)に加えられる応力や変位がそれぞれ推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-21681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキに液圧制御アクチュエータが接続された液圧ブレーキシステムにおいて、力検出センサによることなく、車輪に加えられた外力の大きさを推定し、外力受け部材に加えられる負荷値を推定することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係る液圧ブレーキシステムにおいて、複数の液圧ブレーキのうちの1つ以上ずつに、それぞれ、電動モータの駆動力により移動可能な電動ピストンと、電動ピストンの前方に設けられ、1つ以上の液圧ブレーキに接続された容積変化室と、容積変化室に接続され、1つ以上の液圧ブレーキから流出させられた作動液を収容可能なリザーバとを含む液圧制御アクチュエータが接続され、液圧制御アクチュエータの制御により、液圧ブレーキの液圧が制御される。一方、車輪に外力が加えられると、車輪と一体のブレーキ回転体が揺れること等に起因して、液圧ブレーキにおいて、ピストンであるホイール側ピストンとキャリパとが相対移動させられ、それにより、液圧ブレーキの作動液が容積変化室に向かって流れる。その作動液がリザーバに戻されたり、その作動液により電動ピストンが戻されたりする。そのため、リザーバに収容された作動液の量である作動液量を検出する作動液量検出装置の検出値の変化状態や電動ピストンの変位を取得するピストン変位取得装置の取得値等に基づけば、車輪に加えられた外力の大きさを推定することができ、外力の影響を受ける部材である外力受け部材が受ける負荷の大きさを表す値である負荷値を推定することができる。
【0006】
なお、車輪とは、タイヤとディスクホイールとを含むものとしたり、ディスクホイールおよびディスクホイールと一体的に回転可能なもの(例えば、ブレーキ回転体、アクスルハブ等を含む)としたりすること等ができる。
外力受け部材は、車輪に加えられた外力を直接受けるものとしたり、車輪に加えられた外力が1つ以上の部材を介して伝達されるものとしたりすること等ができる。また、外力受け部材は、車輪の構成要素としたり、車輪に1つ以上の部材を介して接続されたものとしたりすること等ができる。外力受け部材としては、例えば、アクスルハブ、ベアリング、車輪を回転可能に保持する車輪保持部材、車輪保持部材に接続されたサスペンション機構の構成要素であるサスペンション部材やステアリング機構の構成要素であるステアリング部材、サスペンション部材やステアリング部材と車輪保持部材とを連結する連結部等が該当する。
【0007】
また、外力受け部材が受ける負荷の大きさを表す値である負荷値とは、車輪に加えられる外力に応じて決まる値であり、車輪に加えられる外力により、外力受け部材が受けると推定される損傷の程度を表す値とすることができる。車輪に加えられる外力が大きい場合は小さい場合より、外力受け部材に加えられる力が大きいと推定され、外力受け部材が受ける損傷が大きくなると推定することができる。負荷値は、例えば、車輪に加えられた外力により外力受け部材に加えられたと推定される力や歪で表すことができる。また、負荷値は、外力受け部材に加えられたと推定される外力によって外力受け部材が受けると推定される損傷の程度、耐久性の低下の程度を数値化した値とすること等ができる。
【0008】
ピストン変位取得装置は、電動シリンダ装置の電動ピストンの変位を取得するものであるが、電動ピストンの前方の容積変化室は液圧ブレーキに接続されているため、電動ピストンの変位である位置の変化量(移動量)に基づけば、液圧ブレーキの液圧が決まる。また、電動ピストンは電動モータの作動により移動させられるものである。そのため、電動モータを制御することにより、電動ピストンの変位が制御され、液圧ブレーキの液圧が制御される。このように、本電動シリンダ装置において、ピストン変位取得装置は、電動モータの制御に用いられるのであり、液圧ブレーキシステムに通常設けられるものである。
なお、例えば、ピストン変位取得装置は、電動モータの回転数を検出する回転数センサを含むものとすることができる。電動モータの回転数に基づけば、電動シリンダの変位を取得することができる。また、ピストン変位取得装置は、電動ピストンのハウジングに対する相対位置を検出して、変位を検出するリニアセンサとすること等もできる。
【0009】
また、例えば、液圧ブレーキシステムにおいて液漏れが生じたり、摩擦パッドの摩耗が進んだりすると、リザーバに収容された作動液の液量が少なくなる。それに対して、作動液量検出装置によって、リザーバに収容された作動液の液量が設定量より少なくなったことが検出された場合には、液漏れの可能性があることや摩擦パッドの摩耗が進んでいること等が分かるのであり、作動液量検出装置は、通常、液圧ブレーキシステムに設けられる。
【0010】
以上のように、本液圧ブレーキシステムにおいては、特許文献1に記載のように、車輪に加えられる外力を検出する力検出センサを、評価点の歪等を取得するために専用に設ける必要がなく、その分、コストアップを抑制しつつ、外力受け部材に作用する負荷値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る液圧ブレーキシステムの全体を概念的に表す図である。
図2】上記液圧ブレーキシステムが搭載された車両を示す図である。
図3】(a)上記液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキが設けられた車輪の周辺を示す斜視図である。(b)上記車輪の周辺の一部を表す断面図である。
図4】上記液圧ブレーキが設けられた車輪の斜視図である。
図5】(a)上記液圧ブレーキシステムにおいて車輪に外力が加えられた場合の状態を示す図である。(b)上記液圧ブレーキシステムの構成要素であるリザーバの液面高さの変化状態を示す図である。
図6】(a)上記液圧ブレーキシステムにおいて車輪に外力が加えられた場合の別の状態を示す図である。(b)上記液圧ブレーキシステムの構成要素である電動ピストン部材の位置の変化を概念的に示す図である。(c)上記リザーバの液面高さの変化状態を示す図である。
図7】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUに記憶された負荷値推定プログラムを表すフローチャートである。
図8】(a)上記ブレーキECUの記憶部に記憶された液面高さ変化対応衝撃負荷値決定マップを概念的に示す図である。(b)上記ブレーキECUの記憶部に記憶されたピストン位置変化対応衝撃負荷値決定マップを概念的に示す図である。
図9】上記液圧ブレーキシステムにおいて、液圧ブレーキの制御が行われた場合の状態を示す図である。
図10】上記液圧ブレーキシステムの構成要素である電動シリンダ装置が分解された状態を表す側面図(断面図)である。
図11】上記液圧ブレーキシステムが搭載された別の車両を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態である液圧ブレーキシステムを、図面に基づいて説明する。
【実施例
【0013】
本実施例に係る液圧ブレーキシステムは、運転者によるブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル液圧源(例えば、マスタシリンダ)を含まないものである。
【0014】
本液圧ブレーキシステムは、図2に示すように、車両の前後左右に位置する4つの車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々に1対1に対応して設けられた液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRと、液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRの各々に1対1に対応して接続された電動シリンダ装置12FL,12FR,12RL,12RRとを含む。以下、液圧ブレーキ10等について、車輪位置を表す添え字FL,FR,RL,RR,F,Rは、総称する場合、車輪位置に関係なく説明する場合等には、省略する場合がある。
【0015】
本実施例において、図1に示すように、液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRは、それぞれ、車輪Wと一体的に回転可能に設けられたブレーキ回転体20の両側に位置する一対の摩擦係合部材としての摩擦パッド21,22と、摩擦パッド21,22をブレーキ回転体20に押し付ける押付装置23とを含むディスクブレーキである。押付装置23は、非回転部材に車輪の回転軸線Nと平行な方向(以下、回転軸線方向と称する)に移動可能に保持されたキャリパ24と、キャリパ24に設けられたホイールシリンダ25とを含む。ホイールシリンダ25は、キャリパ24に形成されたシリンダボアに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン(以下、ホイール側ピストンと称する)27と、ホイール側ピストン27の後方に設けられた液圧室26とを含む。また、キャリパ24には、ピストンシール28が取り付けられる。
なお、図1において、*は、符号FL,FR,RL,RRのうちの1つを表し、***は、符号FL,FR,RL,RRから1つの*を除いたものを表す。
【0016】
ホイールシリンダ25の液圧室26に液圧が供給されることにより、ホイール側ピストン27が前進させられるとともにキャリパ24が回転軸線方向に移動させられる。一対の摩擦パッド21,22が液圧室26の液圧Pに応じた押付力Fpによりブレーキ回転体20に押し付けられ、摩擦係合させられる。それにより、車輪Wの回転が抑制される。また、液圧室26の液圧Pが増加・減少させられることにより、押付力Fpが増加・減少させられる。
【0017】
電動シリンダ装置12は、それに接続された液圧ブレーキ10に液圧を発生させるとともに、液圧を制御可能なものである。電動シリンダ装置12は、ハウジング40と、ハウジング40に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンとしてのピストン部材(以下、電動ピストン部材と称する)42と、駆動源としての電動モータ44と、電動モータ44の回転を電動ピストン部材42の直線移動に変換する運動変換装置48と、リザーバ50とを含む。電動ピストン部材42はハウジング40に電動ピストン部材42の軸線Mの周りに回転不能かつ軸線Mと平行な方向に移動可能に保持される。
【0018】
本実施例において、電動ピストン部材42は、ピストン部47と、ピストン部47と一体的に移動可能に嵌合されたピストンロッド(以下、単にロッドと称する)部46とから構成されたものである。なお、ピストン部47とロッド部46とは一体的に製造されたものであってもよい。本実施例において、特許請求の範囲に記載のピストンである電動モータは、ピストン部47に対応すると考えたり、電動ピストン部材42に対応すると考えたりすること等ができる。
【0019】
ハウジング40は、電動モータ44が収容された第1ハウジングとしての後側ハウジング40rと、有底筒状を成す第2ハウジングとしての前側ハウジング40fと、前側ハウジング40fと後側ハウジング40rとの間に位置する中間ハウジング40mとを含む。これら後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fは、互いに分解可能とされている。
【0020】
電動モータ44は、ロッド部46の外周側に、電動ピストン部材42と同軸上に設けられる。また、電動モータ44は、主として後側ハウジング40rに収容され、後側ハウジング40rと中間ハウジング40mとに保持されたステータとしての複数のコイル52と、コイル52の内周側に位置し、複数の磁石Zを備えた概して筒状を成したロータ54とを含む。ロータ54は、後側ハウジング40rと中間ハウジング40mとに、軸線Mと平行な方向に隔てて設けられた一対のベアリング56,57を介して回転可能に保持される。なお、ロータ54において、磁石Zは外周面に設けても、内部に埋め込んでもよい。
【0021】
また、運動変換装置48は、ロータ54の内周部とロッド部46の外周部との間に設けられる。運動変換装置48は、本実施例において、ボールねじ機構を備えたものであり、ロッド部46の外周部に設けられた雄ねじ部62と、ロータ54の内周部に設けられた雌ねじ部63と、これら雄ねじ部62と雌ねじ部63との間に介在させられた複数のボール64とを含む。なお、運動変換装置48は、台形ねじ機構を備えたものとすることができる。
【0022】
前側ハウジング40fにはシリンダボアが形成され、シリンダボアに電動ピストン部材42が、シール部材66を介して液密かつ摺動可能に保持され、前側ハウジング40fのシリンダボアの電動ピストン部材42の前方が容積変化室67とされる。また、電動ピストン部材42と前側ハウジング40fの底部との間にはリターンスプリング68が設けられる。リターンスプリング68により電動ピストン部材42には後退方向に弾性力が付与される。
【0023】
前側ハウジング40f(ハウジング40の容積変化室67を囲む部分である)の軸線Mと平行な方向に隔たった部分に前側ポート70と後側ポート72とが設けられる。前側ポート70には、液通路74を介してホイールシリンダ25の液圧室26が直接接続され、後側ポート72には、リザーバ50が接続される。後側ポート72はアイドルポートと称することができる。
【0024】
前側ポート70は常に開状態にあり、容積変化室67とホイールシリンダ25の液圧室26とは液通路74を介して常に連通状態にある。本実施例において、液通路74に、電磁弁等は設けられていない。
【0025】
後側ポート72は、電動ピストン部材42が後退端位置にある場合に、開状態にあるが、電動ピストン部材42の前進により閉状態に切り換えられ、容積変化室67に液圧が発生させられる。電動ピストン部材42の後退端位置は、電動ピストン部材42がハウジング40に設けられた図示しないストッパに当接する位置である。
リザーバ50は、摩擦パッドの摩耗や加圧による弾性変形での消費液量変化、作動液が漏れだした後でも、一定の制動を可能とするために、作動液を収容するものである。また、リザーバ50には、ホイールシリンダ25から戻された作動液が収容される。
【0026】
また、本実施例に係る電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42のピストン部47の直径D(図1参照)が小さく、電動ピストン部材42の最大ストロークLが大きい。電動ピストン部材42の最大ストロークLは、例えば、電動ピストン部材42が後退端位置にある場合のピストン部47の前端面と前側ハウジング40fの底面との間の長さLであると考えることができる。また、最大ストロークL,すなわち、フルストロークLには、ポートアイドルLp(後退端位置から後側ポート72が塞がれる位置までのストローク)が含まれる。
【0027】
例えば、マニュアル液圧源としてのマスタシリンダにおいて、加圧ピストンには運転者によって操作可能なブレーキペダルが連結され、加圧ピストンはブレーキペダルの踏込み操作に伴って前進させられる。一方、ブレーキペダルは、運転者によって踏み込まれるため、ブレーキペダルの最大ストロークは人間工学等に基づいて決まり、加圧ピストンの最大ストロークもブレーキペダルの最大ストロークで決まる。そのため、マスタシリンダの加圧ピストンの最大ストロークは、50mmより小さいのが普通である。
【0028】
それに対して、本実施例に係る電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42はブレーキ操作部材の操作によって移動させられるのではなく、電動モータ44によって移動させられる。そのため、人間工学等の制約がなく、最大ストロークを大きくすることができる。そして、電動ピストン部材42の最大ストロークを大きくできるため、電動ピストン部材42の直径D(受圧面積SA)が小さくても、ホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給することが可能となる。換言すれば、ホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給するために、電動ピストン部材42の最大ストロークを大きくすることにより、ピストン部47の受圧面積SA(直径D)を小さくすることができるのである。
【0029】
このように、電動ピストン部材42の受圧面積SAを小さくすることにより、液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25のホイール側ピストン27の受圧面積SWを電動ピストン部材42の受圧面積SAで割った値(以下、受圧面積の比率と略称する)SW/SAを大きくすることができる。そのため、ホイールシリンダ25において要求される押付力Fpが同じ場合に、直動変換装置48のロッド部46に加えられる軸力Fsを小さくすることができ、その分、電動モータ44における消費電力の低減を図ることができる。
【0030】
以下、詳細に説明する。
(a)受圧面積の比率SW/SAを大きくし、ロッド部46に加えられる軸力Fsを小さくすることにより、電動モータ44のギヤ比(例えば、「電動モータ44の回転数/ロッド部46の回転数」と表すことができる)を小さくしたり、電動モータ44の出力を小さくしたりすることができる。
【0031】
仮に、ロッド部46に加えられる軸力Fsが大きい場合には、電動モータ44と直動変換装置48との間に減速機を設け、減速比を大きくすることが考えられる。一方、減速機においては、インボリュート歯車が用いられるのが普通であるが、インボリュート歯車はかみ合い時に歯と歯が滑りながら力を伝達する。また、減速機のギヤのスラスト荷重や軸間の押し引きによる摩擦により回転抵抗が生じ、減速機におけるエネルギ消費量が大きくなる。このように、減速比を大きくして、減速機における効率が大きく低下した場合には、電動モータ44の伝達効率(例えば、「ピストン部47に伝達されるエネルギ/電動モータ44に供給されるエネルギ」で表すことができる)が大きく低下する。
【0032】
それに対して、本実施例においては、軸力Fsが小さくされるため、減速比を小さくしたり、減速機をなくしたり、電動モータ44の出力を小さくしたりすること等ができ、その分、電動モータ44の伝達効率を高くすることができるのである。なお、図1等には、電動シリンダ装置12に減速機が設けられていない場合を記載した。
【0033】
(b)ロッド部46に加えられる軸力Fsが小さくされるため、直動変換装置48のロッド部46の直径を小さくすることができる。そのため、直動変換装置48の減速比(例えば、「送り速度/リード×直動変換装置48の入力回転数」で表すことができる)の低下を抑制しつつリード角を大きくすることができ、電動モータ44の伝達効率を高くすることが可能となる。
【0034】
仮に、軸力Fsが大きい場合には、ボールねじ機構のボール64を大きくして、ロッド部46の直径を大きくする必要がある。リード角が同じである場合には、ロッド部46の直径を大きくすると、リードが増加するため、直動変換装置48の減速比が低下する。そのため、電動モータ44のギヤ比を大きくしたり、電動モータ44の出力を大きくしたりする必要がある。また、リード角を小さくすれば、直動変換装置48の減速比が大きくなるため、電動モータ44のギヤ比を小さくすることができるが、リード角を小さくしたことに起因して、電動モータ44の伝達効率が低下する。
【0035】
それに対して、本実施例に係る電動シリンダ装置12においては、軸力Fsを小さくすることができるため、ロッド部46の直径を小さくすることができ、直動変換装置48の減速比の低下を抑制しつつ、リード角を大きくすることができる。そのため、電動モータ44の伝達効率を高くすることができる。
換言すると、電動シリンダ装置12における直動変換装置48の位置が、直動変換装置48に加えられる軸力Fsができる限り小さくなるように設計される。例えば、電動シリンダ装置12において、電動モータ44、直動変換装置48、ピストン部47が直列に配置され、ピストン部47の前方の容積可変室67に液圧ブレーキ10が接続されるが、本液圧ブレーキシステムにおいては、受圧面積の比率が大きくされているため、容積変化室67の液圧に対して摩擦パッド21,22のブレーキ回転体20への押付力を大きくすることができる。そのため、ピストン部47の上流、電動モータ44または減速機の下流側に直動変換装置48を配置したのである。
【0036】
(c)電動ピストン部材42のストロークが大きく、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの長さが大きくされるが、電動シリンダ装置12のハウジング40におけるアイドルポート72の位置は、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの長さの大小によらず同じである。そのため、電動ピストン部材42の最大ストロークLに対するアイドルストロークLpの比率(Lp/L)は、最大ストロークLが長くなると小さくなる。その結果、電動モータ44の伝達効率が高くなる。
以上のことから、電動モータ44の伝達効率を高くして、電動モータ44の消費電力を低減することができるのである。
【0037】
また、電動モータ44のギヤ比を小さくすることが可能となるため、減速機が不要となったり、減速機の小形化を図ったりことができ、電動シリンダ装置12の小形化、軽量化を図ることができる。さらに、電動シリンダ装置12における部品点数を削減することができる。
【0038】
また、直動変換装置48において、リード角θを大きくできるため、正逆効率、すなわち、正効率(ホイールシリンダ圧/軸力)、逆効率(軸力/ホイールシリンダ圧)を大きくすることができる。
【0039】
以上、直動変換装置48がボールねじ機構である場合について説明したが、直動変換装置48は台形ねじ機構を含むものとすることができ、台形ねじ機構を含む場合においても上述の場合と同様の効果、すなわち、電動モータ44の伝達効率を高くして、消費電力の低減を図ることができる。
特に、台形ねじ機構においては、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する摩擦力の低減を図るため、潤滑剤としてのグリスの役割が大きい。一般的に、摩擦力は、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する面圧が大きい場合は小さい場合より大きくなる。また、面圧が設定値より小さい場合には、グリスにより、雄ねじ部と雌ねじ部との間に良好な潤滑効果が得られるが、面圧が設定値以上になると、温度が高くなり、グリスの粘度が低くなり、潤滑効果が低下する。その結果、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する摩擦力が大きくなり、雄ねじ部や雌ねじ部が削れる等(この状態をグリス切れと称する場合がある)の問題がある。
一方、ロッド部46の直径を大きくすることにより、雄ねじ部と雌ねじ部との間の摺動面積を大きくし、これらの間に作用する面圧を小さくすることにより、摩擦力を小さくすることができるが、電動シリンダ装置12が大型化したり、直動変換装置48の減速比が変わったりする等の別の問題が生じる。
【0040】
それに対して、本実施例においては、ロッド部36に加えられる軸力Fsを小さくできるため、面圧を小さくすることができ、グリスの粘度の低下を抑制し、雄ねじ部と雌ねじ部との間の摩擦力の低減を良好に図ることができる。また、グリスの過熱を抑制することにより、グリスの劣化を抑制することもできる。さらに、一般的に、リード角が小さいと、グリス切れが生じ易いが、リード角を大きくできるため、グリス切れが生じ難くなり、より一層、摩擦力の低減を図ることができる。
【0041】
なお、直動変換装置48がボールねじ機構を含む場合において、ボールねじ機構において、ボール64と、雄ねじ部62および雌ねじ部63との間の摺動抵抗の低下を図るためにグリスが用いられるが、その場合においても、上述のように、軸力Fsの低下により同様の効果を奏することができる。
【0042】
一方、本電動シリンダ装置12は、図10に示すように、容易に分解可能とされている。具体的には、後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fは、結合装置によって結合される。結合装置は、例えば、軸線方向に延びた複数のねじ部材80とねじ部材80に螺合するナット部材82とを含むものとすることができる。
【0043】
また、後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fの内部には、ベアリング56,57、電動モータ44(コイル52、ロータ54)、ロッド部46、ピストン部47、シール部材66、ボール64等が、それぞれ、容易に分離可能に組み付けられる。そのため、ナット部材82を外すことにより、電動シリンダ装置12を前側ハウジング40f、中間ハウジング40m、後側ハウジング40rに分離することが可能となり、電動シリンダ装置12の各構成要素を取り外すことが可能となる。
【0044】
電動シリンダ装置12はキャリパ24に設けられるのではなく、キャリパ24から伸び出した液通路74に設けられる。一方、車輪Wの回転を抑制する電動ブレーキの電動アクチュエータをキャリパ24に設ける場合には、電動アクチュエータに泥や水が掛からないようにするために、電動アクチュエータを密閉したり、ユニット化したりする必要がある。それに対して、本電動シリンダ装置12については、電動ブレーキの電動アクチュエータに比較して、泥や水等が掛かり難いため、ユニット化したり、ハウジングを密閉したりする必要性が低くなる。
【0045】
また、本実施例において、電動シリンダ装置12の下流側に電磁弁が設けられていない。そのため、電動シリンダ装置12を分解する場合に、電磁弁のオリフィス部に異物等が侵入して、電磁弁に不具合が生じるおそれがない。
その結果、電動シリンダ装置12を容易に分解可能な構造とすることが可能となり、構成部品の各々について個別にメンテナンスを図ることが可能となる。例えば、複数の構成部品のうちの1つに不具合が生じた場合に電動シリンダ装置12全体を交換する必要がなくなり、その不具合が生じた1つの構成部品について交換等することができる。その結果、ユーザにとって車両の維持費の低減を図ることが可能となり、廃棄物の低減を図ることができる。また、電動シリンダ装置12は、車輪の近傍に設けられるため、メンテナンス作業が容易になる。
【0046】
図1,2に示すように、電動シリンダ装置12の各々には、1対1に対応してそれぞれコンピュータを主体とする制御部としてのブレーキECU86が設けられる。電動シリンダ装置12は、それぞれ、ブレーキECU86によって制御される。ブレーキECU86は、インバータ等の駆動回路88を含み、駆動回路88の制御により、電動モータ44への供給電流を制御して、電動モータ44の作動を制御する。
また、ブレーキECU86には、電動シリンダ装置12の構成要素である液面高さセンサ90、ストロークセンサ92、回転数センサ94、車輪速度検出装置としての車輪速度センサ100、液圧センサ102等が接続される。
【0047】
液面高さセンサ90は、リザーバ50に収容された作動液の液面の位置(液面高さ)を検出するものである。液面高さセンサ90は、例えば、液面高さを、光学的、磁気的、静電容量、超音波、圧力等を利用して検出するものとすることができる。また、接触式または非接触式に検出するものとしたり、フロートを利用して検出するものとしたりすること等ができる。具体的に、液面高さセンサ90は、磁力線式マグネット移動ストローク検出装置とすることができ、その場合には、リザーバ50の液面を連続的に検出することができる。
ストロークセンサ92は、電動ピストン部材42のストロークを検出するものであり、例えば、ロッド部46またはピストン部47のハウジング40に対する相対位置を検出することによりストロークを検出するものとすることができる。
回転数センサ94は、電動モータ44の回転数を検出するものである。また、電動モータ44の回転数に基づけば、電動ピストン部材42のストロークや位置を取得することができる。
【0048】
車輪速度センサ100は、前後左右に位置する各車輪Wの各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪Wの回転速度を検出するものである。4つの車輪速度センサ100の検出値に基づいて車両の走行速度が取得されたり、各車輪Wの各々のスリップ状態がそれぞれ取得されたりする。
【0049】
液圧センサ102は、前後左右に位置する各車輪Wの各々に設けられた液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25の液圧室26の液圧(以下、単に液圧ブレーキ10の液圧またはホイールシリンダ25の液圧と称する場合がある)を検出するものである。液圧センサ102は液通路74に設けられることが多い。
【0050】
また、図2に示すように、電動シリンダ装置12の各々には、それぞれ、1対1に対応して電源Vが設けられる。電源Vは、例えば、種々のバッテリ(例えば、鉛バッテリ、リチウムイオンバッテリ等)とすることができる。また、電源Vは、車両において、図示しない駆動用モータの回生制動により得られた電力を蓄えるメインバッテリの電圧が降圧されて充電される走行用バッテリ、補機バッテリ等とすること等ができる。電動シリンダ装置12、すなわち、ブレーキECU86、駆動回路88、液面高さセンサ90、ストロークセンサ92、回転数センサ94、車輪速度センサ100、液圧センサ102等は、個別の、換言すると、電動シリンダ装置専用の電源Vにより作動可能とされているのである。
【0051】
また、ブレーキECU86(前後左右の各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々に設けられたブレーキECU86FL,86FR,86RL,86RR)の各々は、それぞれ、CAN(Controller Area Network)95等の車体通信網に接続される。CAN95には、コンピュータを主体とする運転支援ECU96、メータECU110等が接続される。本実施例においては、4つのブレーキECU86の間で、互いに通信が行われる。また、4つのブレーキECU86と、運転支援ECU96、メータECU110との間においても通信が行われる。
【0052】
運転支援ECU96には、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等が接続される。運転支援ECU96は、車両の運転状態を制御するものであるが、本実施例においては、操作状態検出装置104によって検出されたブレーキ操作部材の操作状態、周辺情報取得装置106によって取得された周辺の物体と自車両との相対位置関係等に基づいて制動要求が有るか否かを判定し、制動要求がある場合には、それらブレーキ操作部材の操作状態、周辺の物体と自車両との相対位置関係等に基づいて要求制動力を取得して、それぞれ、電動シリンダ装置12(ブレーキECU86)に供給する。
【0053】
操作状態検出装置104は、運転者によって操作可能な図示しないブレーキ操作部材の操作状態(例えば、ストローク、操作力)を検出するものである。
周辺情報取得装置106は、カメラ、レーダ装置等を含み、車両である自車両の周辺に位置する物体、自車両の周辺の道路の区画線、道路の湾曲形状等を取得し、物体と自車両との相対位置関係を取得するものである。
【0054】
メータECU110には、報知装置112等が接続される。メータECU110は、ブレーキECU86からの指令に基づいて報知装置112を作動させる。報知装置112は、ディスプレイを含むものとしたり、音声合成装置を含むものとしたり、音または光を発するものとしたりすること等ができる。本実施例においては、外力受け部材に加えられる負荷の大きさを表す値である負荷値の積算値が設定値を越えたこと等が報知される。
【0055】
以上のように構成された液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキECU86の各々において、CAN95を介して受信した要求制動力に基づいて、液圧ブレーキ10の目標液圧がそれぞれ取得され、それぞれ、液圧センサ102の検出値である実液圧が目標液圧に近づくように、電動モータ44への供給電流が制御され、電動ピストン部材42が前進・後退させられる。
電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42が前進させられることにより、容積変化室67の容積が小さくなり、ホイールシリンダ25の液圧室26に作動液が供給され、液圧が高くなる。電動シリンダ装置12において電動ピストン部材42が後退させられることにより、容積変化室67の容積が大きくなり、ホイールシリンダ25の液圧室26から作動液が流出させられ、液圧が低くなる。ホイールシリンダ25の液圧が目標液圧に近づくように、電動ピストン部材42が前進・後退させられるのであり、電動モータ44への供給電流が制御される。
【0056】
制動要求がなくなった場合には、電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42が戻される。それにより、アイドルポート72が開き、液圧室26がリザーバ50に連通させられる。電動ピストン部材42は、ストッパに当接するまで戻される。ホイールシリンダ25において、ピストンシール28によりホイール側ピストン27が戻され、摩擦パッド21,22がブレーキ回転体20から離間させられる。液圧ブレーキ10が非作動状態となる。
【0057】
また、車輪Wのスリップが過大になると、スリップ抑制制御が行われる。スリップ抑制制御においては、電動モータ44への供給電流の制御により、電動ピストン部材42を後退、前進させることにより、ホイールシリンダ25の液圧室26の液圧を減少、増加させて、車輪Wのスリップ率を路面の摩擦係数で決まる適正な大きさとする。
【0058】
スリップ率は、車体速度と、車輪速度とに基づいて取得されるが、車体速度は、例えば、ブレーキECU86FL,86FR,86RL,86RRの間の通信により取得することができる。例えば、各ブレーキECU86は、それぞれ、自らに接続された車輪速度センサ100によって検出された車輪速度VwaとCAN95を介して受信した他のブレーキECU86によって検出された車輪速度Vwb,Vwc,Vwdとに基づいて車体速度Vhを取得する。そして、この車体速度Vhと、自らに接続された車輪速度センサ100によって検出された車輪速度Vwaとに基づいて車輪Wのスリップ状態を取得することができる。車体速度Vhは車輪速度Vwに比較して、変化が緩やかであるため、CAN95を介して受信した情報に基づいて取得した値を用いることができるのである。
【0059】
そして、スリップ率が過大になった場合等には、スリップ率を抑制し、路面の摩擦係数で決まる設定範囲内の大きさになるように、各ブレーキECU86の各々において、ホイールシリンダ25の液圧が制御される。
【0060】
それに対して、本実施例において、図3(a),(b)に示すように、タイヤ143およびタイヤ143を保持するディスクホイール144を含む車輪Wは、アクスルハブ140、ハブベアリング142を介して車輪保持部材としてのナックル150に回転可能に保持される。なお、符号160はハブボルトを示し、ハブボルト160によりブレーキ回転体20が車輪Wに取り付けられる。
ナックル150には、連結部としてのボールジョイント151を介してサスペンション部材としてのロアアーム152が連結されるとともに、連結部としてのボールジョイント153を介してステアリング部材としてのタイロッド154等が連結される。そのため、車輪Wに外力が加えられると、その外力がハブベアリング142、ボールジョイント151,153、ロアアーム152、タイロッド154等に伝達され、これら142,151,153,152,154等に負荷である衝撃負荷が加えられる。また、衝撃負荷により、ハブベアリング142、ボールジョイント151,153、ロアアーム152、タイロッド154は故障し易くなり、強度が低下し、劣化が進む。また、非常に大きい外力が加えられた場合には、ボールジョイント151,153が外れる場合等もある。本実施例において、ボールジョイント151,153、ロアアーム152、タイロッド154、ハブベアリング142等が、車輪Wに加えられた外力が1つ以上の部材を介して伝達され、その外力の影響を受ける外力受け部材に対応する。
【0061】
例えば、車両の走行中に、車輪Wに外力(例えば、回転軸線Nと平行な方向の成分を有する力)としての衝撃が加えられると、図4に示すように、ブレーキ回転体20が揺れる等する。そのため、液圧ブレーキ10において、ホイール側ピストン27とキャリパ24との相対位置が急激に変化させられ(ホイール側ピストン27がキャリパ24に対して相対的に後退し)、液圧室26の作動液が容積変化室67に向かって流れる。それにより、電動シリンダ装置12において電動ピストン部材42が後退させられたり、リザーバ50に作動液が供給されたりする。
【0062】
図5(a)に示すように、液圧ブレーキ10が非作用状態にある場合、換言すると、後側ポート72が開状態にあり、容積変化室67とリザーバ50とが連通状態にある場合に、ホイール側ピストン27とキャリパ24との相対位置が急激に変化させられると、液圧室26からリザーバ50に作動液が戻され、図5(b)に示すように、液面高さHpが急激に変化する。
【0063】
そして、液面高さHpが急激に変化した場合、例えば、液面高さHpの変化加速度αHpが設定液面高さ変化加速度より大きい場合等には、車輪Wに設定値以上の外力、すなわち、衝撃が加えられたと推定することができる。また、液面高さの変化量ΔHpが大きい場合は小さい場合より、車輪Wに加えられた衝撃が大きいと推定することができる。
【0064】
また、図6(a)に示すように、液圧ブレーキ10が作用状態にある場合、換言すると、電動ピストン部材42が前進した状態にあり、後側ポート72が閉状態にある場合に、ホイール側ピストン27とキャリパ24との相対位置が急激に変化させられると、図6(b)に示すように、電動ピストン部材42が急激に後退させられる。また、その後、電動ピストン部材42は、電動モータ44の駆動力と液圧室26の液圧に応じた液圧作用力とが釣り合う位置に戻される(前進させられる)。
【0065】
例えば、電動ピストン部材42の後退方向の変位加速度(位置変化加速度、移動加速度と称することができる)が設定変位加速度より大きい場合には、車輪Wに設定値以上の外力である衝撃が加えられたと推定することができる。また、電動ピストン部材42の変位量(移動量、後退量と称することができる)Δxが大きい場合は小さい場合より衝撃が大きいと推定することができる。
【0066】
なお、図6(c)に示すように、液圧ブレーキ10が作用状態にあっても、電動ピストン部材42が後退させられることにより、後側ポート72が一時的に開状態となり、容積変化室67とリザーバ50とが連通状態になった場合には、リザーバ50の液面高さは急激に変化すると推定される。
【0067】
このように、液圧ブレーキ10が非作用状態にある場合、または、液圧ブレーキ10が作用状態にあり、かつ、後側ポート72が閉状態にある場合には、リザーバ50の液面高さはほぼ一定に保たれるのが普通である。それに対して、これらの場合に、リザーバ50の液面高さが、設定液面高さ変化加速度より大きい加速度で変化した場合には、車輪Wに衝撃が加えられたと推定することができる。換言すると、リザーバ50の液面高さの変化状態、例えば、リザーバ50の液面高さの変化加速度が設定液面高さ変化加速度より大きい場合には、車輪Wに衝撃が加えられたと推定することができる。
【0068】
また、液圧ブレーキ10の作用状態においては、電動ピストン部材42は後退端位置より前進した位置にあり、電動モータ44は、電動ピストン部材42に実液圧Psが目標液圧Ptに近づくように制御された状態にある。それに対して、電動ピストン部材42が電動モータ44の制御に対応しないで後退させられた場合には、車輪Wに外力が加えられたことに起因する後退であると推定することができる。例えば、電動モータ44により、電動ピストン部材42に前進方向の駆動力が加えられている状態または電動ピストン部材42の位置を保持するための駆動力が加えられている状態において、電動ピストン部材42が後退させられた場合が該当する。また、設定位置変化加速度を、電動モータ44の制御によっては実現できない大きさとすることができ、その場合には、電動ピストン部材42の移動加速度が設定位置変化加速度より大きい場合には、車輪Wに衝撃が加えられたと推定することができる。
【0069】
いずれにしても、電動ピストン部材42の移動状態、具体的には、電動ピストン部材42の移動加速度が設定移動加速度より大きい場合には、車輪Wに衝撃が加えられたと推定することができる。
【0070】
一方、車輪Wに外力が加えられると、その影響が外力受け部材142,151~154に及ぶ。また、車輪Wに加えられた外力が大きい場合は小さい場合より、外力受け部材142,151~154等に加えられるダメージが大きくなる。そこで、本実施例において、予め衝撃試験を行い、車輪Wに加えられた外力の大きさと外力受け部材142,151~154等が受けるダメージの程度(歪の大きさ、変形の大きさ、劣化の程度)としての衝撃負荷値Aとの関係が取得されて、記憶されている。また、衝撃試験により、外力受け部材142,151~154等が、メンテナンス等が必要である状態(例えば、故障する場合、故障する可能性が高い場合、交換することが望ましい場合、診断を行うことが望ましい場合等)に達した場合の、衝撃負荷値の積算値QAが取得される。そして、その外力受け部材142,151~154等についてメンテナンス等が必要である場合の衝撃負荷値Aの積算値QAに基づいて異常判定しきい値QAthが設定される。異常判定しきい値QAthはメンテナンス等が必要である場合の衝撃負荷値Aの積算値QAより小さい値に設定されることが多い。
【0071】
以上の事情に基づき、外力受け部材142,151~154のうちの最も脆弱な部分について、衝撃試験を行い、異常判定しきい値QAthが設定されることが望ましい。脆弱な部分としては、例えば、ボールジョイント151,153等が該当する。
【0072】
また、外力が小さい場合には、その外力により外力受け部材142,151~154が受ける負荷は小さいため、本実施例においては、外力が設定値以上の場合、すなわち、衝撃が車輪Wに加えられた場合に、衝撃負荷値Aが取得されて、積算されるようにした。
それに対して、車輪Wに加えられた外力が小さい場合であっても、それに応じた衝撃負荷値Aを取得して、積算することも可能である。
【0073】
本実施例においては、図8(a),(b)に示すように、液面高さ変化量ΔHp、移動量Δxの各々と衝撃負荷値Aとの関係が予め取得されて、記憶されている。
【0074】
また、衝撃負荷値Aの積算値QAは、車両の出荷時に0に設定される。その後、車輪Wに衝撃が加えられると、積算値QAが大きくなるが、外力受け部材142,151~154等についてメンテナンス等が実行されると、積算値QAが0にされる。メンテナンスが実行された場合には、作業者によって図示しない入力部材が操作されるのであり、それに応じて積算値QAが0にされる。
【0075】
本実施例においては、ブレーキECU86の各々において、図7のフローチャートで表される衝撃負荷値推定プログラムが予め定められたサイクルタイム毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、外力受け部材142,151~154等についてメンテナンスが行われたか否かが判定され、判定がYESである場合には、衝撃負荷値Aの積算値QAが0にされる。
【0076】
S3において、液圧ブレーキ10が作用状態にあるか否かが判定される。電動シリンダ装置12においてリザーバ50が容積変化室67から遮断された状態にあるか否かが判定されるのである。判定がNOである場合には、S4において、液面高さセンサ90によって液面高さHpが検出され、S5において、液面高さの変化が、車輪Wに加えられた衝撃に起因して生じたか否かが判定される。換言すると、急激に変化したか否かが判定される(変化加速度が設定液面高さ変化加速度より大きいか否かが判定される)のである。判定がNOである場合には、それ以降が実行されることはない。判定がYESである場合には、S6において、液面高さの変化量ΔHpが取得され、液面高さの変化量ΔHpと図8(a)のマップとに基づいて、衝撃負荷値Aが推定される。
【0077】
それに対して、S3の判定がYESである場合には、S7において、回転数センサ94の検出値に基づいてピストン位置xが取得され、S8において、液面高さセンサ90の検出値Hpが取得される。そして、S9において、ピストン位置xの変化が、車輪Wに加えられた衝撃に起因して生じたか否かが判定される。換言すれば、ピストン位置xが急激に変化したか否か(変化加速度が設定位置変化加速度より大きいか否か)または電動モータ44の制御に対応しないで電動ピストン部材42の位置xが変化したか否かが判定される。判定がYESである場合には、S10において、その移動量Δxと図8(b)のマップとに基づいてピストン位置変化対応衝撃負荷値A1が推定される。判定がNOである場合には、S11において、ピストン位置変化対応衝撃負荷値A1は0とされる。
【0078】
次に、S12において、S5における判定と同様に、液面高さHpが、車輪に加えられた衝撃に起因して生じたか否かが判定される。判定がYESである場合には、S13において、液面高さ変化対応衝撃負荷値A2が液面高さ変化量ΔHpと図8(a)のマップとに基づいて取得され、判定がNOである場合には、S14において、液面高さ変化対応衝撃負荷値A2は0とされる。
【0079】
そして、S15において、衝撃負荷値Aが液面高さ変化対応衝撃負荷値A2とピストン位置変化対応衝撃負荷値A1との和として取得される(A=A1+A2)。液面高さ変化対応衝撃負荷値A2は0の場合もある。
【0080】
そして、S16において、推定された衝撃負荷値Aの積算値QAが取得され、S17において、積算値QAが異常判定しきい値QAthを越えたか否かが判定される。判定がNOである場合には、さらに、S18において、積算値QAが異常判定しきい値QAthより小さい予備異常判定しきい値QAth-より大きいか否かが判定される。
積算値QAが、異常判定しきい値QAthより小さいが、予備異常判定しきい値QAth-より大きい場合には、S19において、そのことが報知される。ブレーキECU86はCAN95に報知指令を出力する。メータECU110は、その指令を受信し、報知装置112を作動させる。例えば、近い将来、メンテナンス等が必要な状態に達する可能性が高いことが報知されるようにすることができる。
【0081】
それに対して、積算値QAが、異常判定しきい値QAthより大きい場合には、S17の判定がYESとなり、S20において、警報が発生させられる。ブレーキECU86は警報指令をCAN95に出力するのである。例えば、外力受け部材142,151~154が大きなダメージを受けたこと、外力受け部材142,151~154に対して直ちにメンテナンス等の必要があること等が報知されるようにすることができる。また、S21において、4つのブレーキECU86の間の通信により、それに起因する車両のヨーレートが抑制されるように、前後左右の各車輪Wについての目標液圧が取得されて、液圧センサ102によって検出された液圧である実液圧が目標液圧に近づくように、それぞれ、電動モータ44を制御する。
【0082】
例えば、図9に示すように、左後輪WRLに設けられる外力受け部材142,151~154についての衝撃負荷値Aの積算値QAが異常判定しきい値QAthを越えた場合には、左後輪WRLの液圧ブレーキ10RLを非作用状態とした状態で、それに起因する車両のヨーメントを抑制しつつ、他の車輪WRR,WFL,WFRに加えられる制動力が制御される。他のブレーキECU86FL,86FR,86RRの間の通信により、左後輪WRLを非作用状態としたことに起因する車両のヨーレートが抑制されるように、他の車輪WRR,WFL,WFRの液圧ブレーキ10に加えられる目標液圧が取得され、それに応じて、それぞれ、電動モータ44が制御されるのである。なお、本制御中に、少なくとも1輪のスリップ率が大きくなった場合には、スリップ率が路面の摩擦係数で決まる適正範囲内になるように、目標液圧が取得される。
【0083】
このように、本実施例においては、外力受け部材142,151~154の衝撃負荷値が推定され、それの積算値が異常判定しきい値を越えた場合には、そのことが報知される。その結果、適切にメンテナンス等を促すことができる。
【0084】
また、電動シリンダ装置12に設けられた液面高さセンサ90、回転数センサ94等を利用して、車輪Wに加えられた外力の大きさを推定することができ、外力受け部材142,151~154に加えられる負荷を推定することができる。回転数センサ94は、ホイールシリンダ25の液圧を制御する場合に用いられる。液面高さセンサ90は、リザーバ50に収容された作動液の液量を取得する場合に用いられるセンサであり、例えば、液圧ブレーキシステムにおける液漏れの有無を検出したり、摩擦パッド21,22の摩耗の進行が進んだことを検出したりする。そのため、特許文献1に記載のように、車輪Wに加えられる外力を検出するための力検出センサを専用に設ける必要がなくなり、その分、コストアップを抑制しつつ、車輪Wに加えられる外力を推定し、外力受け部材142,151~154に加えられる負荷を推定することができる。
【0085】
さらに、外力受け部材142,151~154の衝撃負荷値の積算値が異常判定しきい値を越えた場合には、その外力受け部材142,151~154に対応する電動シリンダ装置12が停止させられ、他の電動シリンダ装置12が作動させられるが、その場合には、車両のヨーレイトが抑制される。その結果、車両の走行安定性の低下を抑制することができる。
【0086】
また、本実施例において、車両である第1車両に4つの電動シリンダ装置12が設けられているため、4つの電動シリンダ装置12のうちの一部に異常が生じても、残りの電動シリンダ装置12の作動によりホイールシリンダ25に液圧を発生させることが可能となり、本液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができる。また、4つの電動シリンダ装置12のうちの一部が失陥した場合に、ブレーキ操作部材が操作されなくても、液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができる。このように、本実施例に係る液圧ブレーキシステムは、フェールオペレータブルのシステムである。
【0087】
しかも、電動シリンダ装置12の各々に1対1に対応して電源Vが設けられるため、4つの電源Vのうちの1つが失陥した場合であっても、残りの電源Vに対応する電動シリンダ装置12を作動させることができるのである。
【0088】
同様に、電動シリンダ装置12の各々に1対1に対応してブレーキECU86が設けられるため、4つのブレーキECU86のうちの1つが失陥した場合であっても、残りの電動シリンダ装置12を作動させることができる。なお、運転支援ECU96、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等についても、冗長に構成することができる。例えば、運転支援ECU96等を複数設けたり、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106を複数設けたり、運転支援ECU96と複数のブレーキECU86との間の通信手段を複数設けたりすること等ができる。
【0089】
以上のように、液圧ブレーキシステムの構成要素の一部に異常が生じても、他の構成要素により、継続して作動させ得る液圧ブレーキシステムをフェールオペレータブルな液圧ブレーキシステムと称するが、その場合に、故障が生じる確率等から、液圧ブレーキシステムは、3つ以上の互いに独立した液圧源(例えば、電動シリンダ装置12を含む)を備えていることが要求される。それに対して、本実施例においては、液圧ブレーキシステムには4つの液圧源としての電動シリンダ装置12が含まれるため、当該液圧ブレーキシステムはフェールオペレータブルであると言えるのである。
【0090】
また、本実施例に係る液圧ブレーキシステムにおいては、ホイールシリンダ25の各々に対応して電動シリンダ装置12が設けられ、電動シリンダ装置12の各々における消費電力が低減される。そのため、車両に搭載される電動モータ44の個数は増えるが、車両全体における消費電力の増加を抑制できるため、第1車両に4つの電動モータ44を搭載することが可能となるのである。
【0091】
さらに、例えば、第1車両が商用車である場合には、マスタシリンダ、電動ブースタ、1つ以上の電磁弁を含む電磁弁装置等の液圧ブレーキシステムの構成要素の失陥を未然に防ぐために、通常、構成要素を定期的に交換する等が行われていた。特に、電磁弁装置等は、電磁弁の各々を個別に交換して組付けることが困難であるため、電磁弁装置全体(ユニット単位)で交換される場合があった。そのため、メンテナンスに要する費用が高額になり、多量の廃棄物が出される等の問題があった。
【0092】
それに対して、本実施例においては、電動シリンダ装置12の各々の全体を定期交換するのではなく、分解して、異常が生じた部品を容易に交換することができる。例えば、シール部材66等のゴム製の部材は、他の金属製の部材より劣化し易いが、シール部材66だけを交換することができるのである。その結果、メンテナンスに要する費用を低減することができ、廃棄物を低減し、資源の有効利用を図ることができる。
【0093】
また、車両が大きく、液圧ブレーキ10の容量が大きい場合には、効き始めの液圧が高く、ホイール側ピストン27の直径が大きい為、効き始めまでに多量の作動液を供給する必要がある。一方、電動シリンダ12の電動ピストン部材42の直径を小さくすると、効き初めまでの電動ピストン部材42のストロークが長くなり、効き遅れが生じる。それに対して、電動モータ44には弱め界磁という手法が有り、弱め磁界という手法により、効き始めまでの弱い反力時に電動モータ44に規定回転数よりも多めの電流を供給するにより、電動モータ44の回転数を大きくし、電動ピストン部材42の前進速度を大きくすることにより、ストロークを直ちに大きくする事が可能となり作動遅れを抑制することが出来る。
また、電動シリンダ装置12が、作動開始時にホイールシリンダ25に大きな流量で供給可能な構造(フィルアップ構造と称する)を有する場合であっても、同様に、効き始めまでの電動ピストン部材42の前進速度を大きくすることができ、作動遅れを抑制することができる。
【0094】
以上のように、本実施例においては、ブレーキECU86の図7のフローチャートで表される衝撃負荷値推定プログラムのS1~20を記憶する部分、実行する部分等により負荷値推定部が構成される。また、ブレーキECU86のS21を記憶する部分、実行する部分、車輪速度センサ100、液圧センサ102、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等によりブレーキ液圧制御部が構成される。さらに、電動シリンダ装置12等により液圧制御アクチュエータが構成され、回転数センサ94等によりピストン変位取得装置が構成され、液面高さセンサ90等により作動液量検出装置が構成される。
【0095】
なお、上記実施例においては、回転数センサ94の検出値に基づいて電動ピストン部材42の位置の変化状態が取得されるようにされていたが、ストロークセンサ92の検出値に基づいて電動ピストン部材42の位置の変化状態が取得されるようにすることができる。その場合には、ストロークセンサ92等によってピストン変位取得装置が構成されると考えることができる。
また、回転数センサ94の検出値とストロークセンサの検出値との両方を用いることにより、電動ピストン部材42の位置および位置の変化状態が取得されるようにすることができる。
【0096】
さらに、上記衝撃負荷推定プログラムのS9において、電動ピストン部材42が急激に変化したか否かが電動ピストン部材42の変位加速度に基づいて判定され、S12において、液面高さの急激に変化したか否かが液面高さの変化加速度に基づいて判定されるようにされていたが、そのようにすることは不可欠ではない。例えば、電動ピストン部材42が後退するはずがない場合(例えば、電動ピストン部材42が後退端位置より前進した位置にあり、電動モータ44は、電動ピストン部材42に実液圧Psが保持または増加するように制御されている場合)に後退した場合、液面高さが変化するはずがない場合(例えば、液圧ブレーキ10が非作用状態にある場合、または、液圧ブレーキ10が作用状態にあり、かつ、後側ポート72が閉状態にある場合)に、変化した場合には、急激に変化したと判定されるようにすることができる。
【0097】
さらに、車輪速度センサ100の検出値を考慮して、衝撃負荷値Aを推定することもできる。例えば、リザーバ50の液面高さが急激に変化したり、電動ピストン部材42が急激に後退したりして、かつ、車輪速度センサ100の検出値に外乱があった場合に、衝撃負荷値Aが推定されるようにすることができる。
【0098】
また、複数の車輪Wの各々、または、複数の車輪Wのうちの一部に、電動パーキングブレーキが設けられている場合には、電動パーキングブレーキを作動させて、ヨーレートを抑制しつつ、車両を停止させることも可能である。さらに、本液圧ブレーキシステムが、駆動輪に回生制動力を加える回生制動装置を含む場合には、回生制動力の制御が行われるようにすることができる。
【0099】
さらに、車輪に外力が加えられたことが検出された場合に、外力が小さくても、負荷が取得されて、積載値が取得されるようにすることもできる。
また、設定時間内の液面高さの変化量ΔHpが設定値より大きい場合、電動ピストン部材42の後退量Δxが設定値より大きい場合に、車輪に衝撃が加えられたと推定し、外力受け部材142,151~154等に加えられる衝撃負荷値Aが推定されるようにすることもできる。
【0100】
さらに、積算値を取得する場合の衝撃負荷値Aの大きさ、異常判定しきい値AQthの大きさは、任意に設定することができる。例えば、外力受け部材の耐久性がメンテナンスをすることが望ましい程度まで低下したことを検出する場合には、変化加速度が小さい場合の液面変化やピストン位置の変化に基づいて衝撃負荷値Aを取得するとともに、異常判定しきい値をQAthを比較的小さい値に設定することができる。それに対して、外力受け部材の寿命に影響が及ぶ状態に達したことを検出する場合には、車輪に大きな外力が加えられ、変化加速度が大きい場合の液面変化やピストン位置の変化に基づいて衝撃負荷値Aを取得するとともに、異常判定しきい値を大きい値に設定することができる。車輪Wに大きな外力が加えられた場合としては、高速走行中に、車輪Wが縁石に乗り上げたり、落下物上を通過したりして、車輪Wが強い衝撃を受けた場合、車輪Wが大きな穴に入り込んで車輪Wが強い衝撃を受けた場合等が該当する。これらの場合には、ナックル150が弾性変形したり、アクスルハブ140が変形したりする場合等がある。
【0101】
さらに、ブレーキ液圧制御部、負荷値推定部の構造は問わない。ブレーキ液圧制御部は、1つのECUを含むものとしたり、負荷値推定部は、複数のECUを含むものとしたりすること等ができるのである。
【0102】
また、電動シリンダ装置12の構造は問わない。例えば、電動モータ44とロッド部46との間に減速機を設けることもできる。また、電動モータ44をロッド部46と同軸上に設けることは不可欠ではなく、平行となる状態で設けることができる。
【0103】
なお、上記実施例においては、電動シリンダ装置12が第1車両に搭載される場合について説明したが、第1車両より重量が小さい第2車両に搭載することができる。本液圧ブレーキシステムにおいて、図11に示すように、第2車両が備える前後左右の各車輪の液圧ブレーキ10のうち、左右前輪WFL,WFRの液圧ブレーキ10FL,10FRには、それぞれ、液通路74FL,74FRを介して1対1に対応して、電動シリンダ装置12FL,12FRが設けられ、左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRには、共通に1つの電動シリンダ装置12Rが設けられる。左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRのホイールシリンダ25同士が液通路74Rによって接続され、この液通路74Rに電動シリンダ装置12Rが設けられるのである。また、電動シリンダ装置12FL,12FR,12Rの各々に1対1に対応してそれぞれ電源VFL,VFR,VRが設けられるとともに、ブレーキECU86FL,86FR,86Rが設けられる。
【0104】
また、スリップ抑制制御(例えば、アンチロック制御、後輪WRL,WRRが駆動輪である場合のトラクション制御等)において、電動シリンダ装置12Rは、左右後輪WRL,WRRのうちの車輪速度の小さい方、換言すれば、スリップ率の大きい方に基づいて、同様に、ホイールシリンダ25RL,25RRの液圧が増加、減少させられる。このようなスリップ抑制制御をローセレクト制御と称する。
このように、第2車両に搭載された液圧ブレーキシステムは、3つの電動シリンダ装置12を含むものであるため、フェールオペレータブルなものであると言える。
【0105】
さらに、第1車両、第2車両等のように重量が異なる車両に、搭載する個数を変えることにより、同じ電動シリンダ装置12を用いることができる。換言すれば、第1車両、第2車両等の各々に要求される制動力を、共通する1つ以上の電動シリンダ装置12によって加えることができる。電動シリンダ装置12を多種類の車両に共通に用いることが可能となり、全体として、コストダウンを図ることができる。特に、少量生産の車両に適用することにより、より一層、コストダウンを図ることができる。
【0106】
また、電動シリンダ装置12は、構造は同じで、コイルの巻き数、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの形状等の諸元を変更等することにより、多種類の車両に共通に適用することが可能となる。同じ構造、すなわち、新たな構造上の設計をすることなく、多種類の車両に共通に適用することができる。
【0107】
また、電動シリンダ装置12は、ホイールシリンダ25に直接接続したり、電磁弁等装置に接続したりすることができる等、その他、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0108】
10:液圧ブレーキ 12:電動シリンダ装置 25:ホイールシリンダ 26:液圧室 27:ホイール側ピストン 40:ハウジング 40f:前側ハウジング 40r:後側ハウジング 42:電動ピストン部材 44:電動モータ 48:運動変換装置 50:リザーバ 80:ねじ部材 82:ナット部材 86:モータECU 90:液面高さセンサ 92:ストロークセンサ 94:回転数センサ 96:ブレーキECU 142,151-154:外力受け部材
【特許請求可能な発明】
【0109】
(1)車両の複数の車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、シリンダボアに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンと、前記ピストンの後方に設けられた液圧室とを備えたホイールシリンダを含み、前記液圧室の液圧に起因する前記ピストンの前進により前記車輪と一体的に回転可能なブレーキ回転体に摩擦係合部材を押し付けることにより前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
複数の前記液圧ブレーキのうちの1つ以上の前記液圧室に接続され、前記1つ以上の前記液圧室の液圧を制御可能な液圧制御アクチュエータと、
複数の前記液圧制御アクチュエータを制御することにより、前記複数の液圧ブレーキの各々の液圧をそれぞれ制御するブレーキ液圧制御部と
を含む液圧ブレーキシステムであって、
前記複数の液圧制御アクチュエータが、それぞれ、電動モータの駆動力により移動可能なピストンである電動ピストンと、前記電動ピストンの前方に設けられ、前記1つ以上の液圧室に接続された容積変化室と、前記容積変化室に接続され、前記1つ以上の液圧室から流出させられた作動液を収容可能なリザーバと、前記リザーバに収容された作動液の液量を検出する作動液量検出装置と、前記電動ピストンの変位を取得するピストン変位取得装置とを含み、
当該液圧ブレーキシステムが、前記ピストン変位取得装置によって取得された前記電動ピストンの変位と、前記作動液量検出装置によって検出された前記リザーバに収容された作動液の液量の変化との少なくとも一方に基づいて、前記車輪に加えられた外力の大きさを推定し、前記外力の影響を受ける部材である外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す値である負荷値を推定する負荷値推定部を含む液圧ブレーキシステム。
【0110】
負荷値推定部は、例えば、車輪に加えられた外力の大きさを推定し、外力受け部材が受けた負荷の大きさを表す値である負荷値を推定するものである。
電動ピストンの変位は、電動ピストンの位置の変化量であり、ピストン変位取得装置は、電動ピストンの位置を検出可能なリニアセンサを含むものとしたり、電動モータの回転数を検出する回転数センサを含むものとしたりすること等ができる。
また、電動ピストンの変位である位置の変化量に基づけば、位置の変化速度や変化加速度等を取得することができる。例えば、外力が大きい場合は小さい場合より電動ピストンの移動加速度が大きくなり、移動量が大きくなると推定される。そのため、電動ピストンの位置の変化加速度と位置の変化量との少なくとも一方が大きい場合は小さい場合より外力受け部材が受けた負荷値が大きいと推定することができる。
作動液量の変化についても同様である。
【0111】
(2)前記負荷値推定部が、前記ピストン変位取得装置によって取得された前記電動ピストンの変位が大きい場合は小さい場合より前記外力受け部材が受けた負荷の大きさを表す前記負荷値が大きいと推定し、前記作動液量検出装置によって検出された前記液量の変化量が大きい場合は小さい場合より前記負荷値が大きいと推定するものである(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0112】
(3)前記負荷値推定部が、前記ピストン変位取得装置によって取得された前記電動ピストンの変位に基づいて取得された前記電動ピストンの位置の変化加速度が設定変化加速度より大きい場合と、前記作動液量検出装置によって検出された前記液量の変化加速度が設定液量変化加速度より大きい場合との少なくとも一方の場合に、前記車輪に設定値以上の外力が急激に加えられたと推定し、前記外力受け部材に加えられた負荷を表す前記負荷値を推定するものである(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0113】
例えば、リザーバの作動液量や電動ピストンの位置が急激に変化した場合には、設定値より大きい外力である衝撃が加えられ、外力受け部材に大きな負荷が加えられたと推定することができる。
また、ピストン変位取得装置によって検出された電動ピストンの位置の変化が、電動モータの制御に対応しない場合に、車輪に外力が加えられたと推定することができる。
【0114】
(4)当該液圧ブレーキシステムが、前記負荷値推定部によって推定された前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す前記負荷値の積算値が予め定められた設定積算値より大きくなった場合に、そのことを報知する報知装置を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0115】
上記実施例において、設定積算値は異常判定しきい値QAthや予備異常判定しきい値QAth-が該当する。負荷値の積算値が異常判定しきい値より大きい場合と、予備異常判定しきい値より大きい場合とで、異なる態様で報知されるようにすることができる。
【0116】
(5)前記ブレーキ液圧制御部が、前記負荷値推定部によって推定された前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す前記負荷値の積算値が予め定められた設定積算値より大きくなった場合に、前記複数の液圧制御アクチュエータのうちの1つ以上の制御により、前記車両のヨーレートを抑制して、前記車両を停止させるものである(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0117】
(6)当該液圧ブレーキシステムが、前記車輪の回転速度を検出する車輪速度センサを含み、
前記負荷値推定部が、前記車輪速度センサの検出値を考慮して、前記外力受け部材に加えられる負荷を推定するものである(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0118】
車輪に外力が加えられると車輪速度センサの検出値にも影響が及び、車輪速度センサの検出値が回転速度に基づくことなく変化する。この変化の状態を考慮して、車輪に加えられた外力の大きさを推定することも可能である。例えば、大きな外力が加えられたか否かの判定に、車輪速度センサの検出値を用いることができる。
【0119】
(7)前記負荷値推定部が、前記液圧ブレーキにおける前記ピストンであるホイール側ピストンの移動状態に基づいて前記液圧ブレーキが設けられた前記車輪に加えられた外力の大きさを推定し、前記外力の影響を受ける部材である外力受け部材に加えられた負荷の大きさを表す前記負荷値を推定するものである(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0120】
(8)車両の複数の車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、前記車輪の回転速度を検出する車輪速度センサと、
前記車輪速度センサの検出値の変化状態に基づいて、前記車輪に加えられた外力を推定し、前記車輪に設けられ、前記外力の影響を受ける部材である外力受け部材に加えられる負荷の大きさを表す値である負荷値を推定する負荷値推定部と
を含む液圧ブレーキシステム。
本項に記載の液圧ブレーキシステムには、(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11