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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20241029BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20241029BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241029BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L15/20 J
H02M7/48 M
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021181326
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069457
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保田 智史
(72)【発明者】
【氏名】下坂 太郎
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-99027(JP,A)
【文献】特開2017-70045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 15/20
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するためのモータを制御する第1制御部と、
前記第1制御部の異常を検出する異常検出部と、
前記異常検出部により前記第1制御部の異常が検出された場合に、前記モータのトルクと前記モータの回転数との関係を示すマップを用いて前記モータを制御する駆動制御を実行する第2制御部と、
を備えた電動車両の制御装置であって、
前記第2制御部は、
走行中に、前記異常検出部により前記第1制御部の異常が検出された場合には、前記モータの電力を昇圧する昇圧装置により昇圧後の電圧を監視し、前記昇圧後の電圧が閾値以上であると判断した場合に、前記昇圧装置の上アームのスイッチング素子のオンとオフとを繰り返し切り替えるスイッチング制御を実行し、
前記スイッチング制御を実行後に前記昇圧後の電圧が閾値未満まで低下したと判断した場合には、前記駆動制御によって電動車両を走行させる退避走行を行う
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1モータと第2モータとを搭載した電動車両の制御装置において、第1モータを制御する第1モータ用電子制御装置(第1MG-ECU)と、第2モータを制御する第2モータ用電子制御装置(第2MG-ECU)とを備え、一方の電子制御装置に異常が生じた場合、他方の電子制御装置を用いて退避走行制御を実行することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-109551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成は、二つのモータを搭載する電動車両において、各モータを制御する二つの電子制御装置(MG-ECU)を備えるため、一方の電子制御装置に異常が生じても、他方の電子制御装置は正常な状態で温存されている。しかしながら、走行用のモータを一つ搭載した車両では、他方の電子制御装置が存在しないため、モータを制御する電子制御装置に異常が生じた場合に、正常な状態で温存された他方の電子制御装置が存在せず、特許文献1に記載の構成を適用できない。そこで、モータを制御する電子制御装置が一つの場合にも適用可能な構成について、検討の余地がある。
【0005】
また、電池の電力を昇圧してインバータに供給する昇圧装置を備えた電動車両では、制御装置がモータとともに昇圧装置を制御することができる。しかしながら、この構成では、高速走行中に制御装置の一部の機能が失陥した際に昇圧装置を制御することができず、回生電力により溜まった異常な電荷を電池側に逃がすことができない虞がある。その結果、回生電力が平滑コンデンサに蓄積し、電圧が異常に上昇することにより過電圧保護が働き、電圧が安定するまで退避走行に移行できなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、走行中に制御装置の一部の機能が失陥した場合に、回生電力による電圧の異常な上昇を抑制することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車輪を駆動するためのモータを制御する第1制御部と、前記第1制御部の異常を検出する異常検出部と、前記異常検出部により前記第1制御部の異常が検出された場合に、前記モータのトルクと前記モータの回転数との関係を示すマップを用いて前記モータを制御する駆動制御を実行する第2制御部と、を備えた電動車両の制御装置であって、前記第2制御部は、走行中に、前記異常検出部により前記第1制御部の異常が検出された場合には、前記モータの電力を昇圧する昇圧装置により昇圧後の電圧を監視し、前記昇圧後の電圧が閾値以上であると判断した場合に、前記昇圧装置の上アームのスイッチング素子のオンとオフとを繰り返し切り替えるスイッチング制御を実行し、前記スイッチング制御を実行後に前記昇圧後の電圧が閾値未満まで低下したと判断した場合には、前記駆動制御によって電動車両を走行させる退避走行を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、走行中、モータを駆動する第1制御部に異常が生じた場合に、第2制御部の制御によって昇圧装置の上アームのスイッチング素子がオンとオフとに繰り返し切り替えられる。これにより、回生電力により溜まった電荷を逃がすことができるため、回生電力による電圧の異常な上昇を抑制することができる。その結果、安全かつ速やかに退避走行に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態における電動車両を説明するための図である。
図2図2は、フェールセーフ制御フローを示すフローチャート図である。
図3図3は、第1変形例の電動車両を説明するための図である。
図4図4は、第2変形例の電動車両を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における電動車両の制御装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、実施形態における電動車両を説明するための図である。電動車両1は、第1モータ(MG1)2と、第2モータ(MG2)3と、第1インバータ4と、第2インバータ5と、昇圧コンバータ6と、電池7と、制御装置10と、を備えている。
【0012】
第1モータ2および第2モータ3は、走行用の動力源として機能するモータであり、電動機および発電機の機能を有するモータジェネレータである。電動車両1では、第1モータ2から出力された動力と第2モータ3から出力された動力とのうち少なくとも一方によって車輪を駆動することができる。例えば、第1モータ2と第2モータ3とは、遊星歯車装置の三つ回転要素のうちの異なる回転要素に連結され、第1モータ2が主に発電機として機能し、第2モータ3が主に電動機として機能する。つまり、電動車両1は、第1モータ2から出力された動力および第2モータ3から出力された動力を車輪に伝達する動力伝達装置を備えている。
【0013】
また、第1および第2モータ2,3は、永久磁石が埋め込まれたロータと、三相コイルが巻き回されたステータと、を有する同期発電電動機により構成されている。第1モータ2のステータに巻き回された三相のコイル(U相、V相、W相)は、第1インバータ4と電気的に接続されている。第2モータ3のステータに巻き回された三相のコイル(U相、V相、W相)は、第2インバータ5と電気的に接続されている。
【0014】
第1インバータ4および第2インバータ5は、電池7からの直流電力を交流電力に変換してモータに供給する電力変換装置である。この第1インバータ4および第2インバータ5は、高電圧側電力ラインに接続されている。第1インバータ4は、第1モータ2と昇圧コンバータ6との間に設けられている。第2インバータ5は、第2モータ3と昇圧コンバータ6との間に設けられている。
【0015】
第1インバータ4は、第1モータ2の三相コイルに三相の電流を通電できるように複数のスイッチング素子を備えた電気回路(インバータ回路)により構成されている。第1インバータ4は、6つのスイッチング素子T41~T46と、6つのダイオードD41~D46と、を有する。インバータ回路は、相ごと(U相、V相、W相)に各スイッチング素子T41~T46がスイッチング動作することによって直流電力を交流電力に変換する回路である。スイッチング素子T41~T46は、それぞれ高電圧側電力ラインの正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されている。すなわち、スイッチング素子T41~T46は、各相(U相,V相,W相)の上アームと下アームとを構成するように配置されている。ダイオードD41~D46は、それぞれに対応するスイッチング素子T41~T46に逆方向に並列接続されている。さらに、第1インバータ4では、対となるスイッチング素子同士の接続点の各々に第1モータ2の三相コイルの各々が接続されている。そして、第1インバータ4は昇圧コンバータ6を介して電池7と電気的に接続されているため、第1モータ2は電池7から供給される電力によって駆動することができる。例えば、第1インバータ4に電圧が作用しているときに、第1モータ用電子制御装置(第1MG-ECU)によって、対となるスイッチング素子T41~T46のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、第1モータ2が回転駆動される。
【0016】
第2インバータ5は、第1インバータ4と同様に、第2モータ3の三相コイルに三相の電流を通電できるように複数のスイッチング素子を備えた電気回路(インバータ回路)により構成されている。第2インバータ5は、6つのスイッチング素子T51~T56と、6つのダイオードD51~D56と、を有する。そして、第2インバータ5は昇圧コンバータ6を介して電池7と電気的に接続されているため、第2モータ3は電池7から供給される電力によって駆動することができる。例えば、第2インバータ5に電圧が作用しているときに、第2モータ用電子制御装置(第2MG-ECU)によって、対となるスイッチング素子T51~T56のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、第2モータ3が回転駆動される。
【0017】
昇圧コンバータ6は、電池7の電力を昇圧して第1および第2インバータ4,5に供給する昇圧装置である。この昇圧コンバータ6は、第1および第2インバータ4,5が接続された高電圧側電力ラインと、電池7が接続された低電圧側電力ラインとに接続されている。昇圧コンバータ6は、2つのスイッチング素子T61,T62と、そのスイッチング素子T61,T62に逆方向に並列接続された2つのダイオードD61,D62と、リアクトルLと、を有する。昇圧コンバータ6では、上アームとしての第1スイッチング素子T61と、下アームとしての第2スイッチング素子T62とが直列に接続されている。第1スイッチング素子T61は、高電圧側電力ラインの正極母線に接続されている。第2スイッチング素子T62は、第1スイッチング素子T61と、高電圧側電力ラインおよび低電圧側電力ラインの負極母線とに接続されている。リアクトルLは、スイッチング素子T61,T62同士の接続点と、低電圧側電力ラインの正極母線とに接続されている。
【0018】
また、昇圧コンバータ6は、制御装置10の制御により第1および第2スイッチング素子T61,T62のオンとオフとが切り替られる。つまり、制御装置10は、昇圧コンバータ6のスイッチング制御を実行する。このスイッチング制御が実行されることにより、電池7の電力(低電圧側電力ラインの電力)を昇圧して高電圧側電力ラインに供給し、あるいは高電圧側電力ラインの電力を降圧して低電圧側電力ライン(電池7)に供給することができる。さらに、高電圧側電力ラインの正極母線と負極母線とには、平滑コンデンサ8が取り付けられている。低電圧側電力ラインの正極母線と負極母線とには、平滑用のコンデンサ9が取り付けられている。
【0019】
電池7は、充放電が可能な直流電源であり、例えばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池により構成されている。この電池7は低電圧側電力ラインに接続されている。電池7は、昇圧コンバータ6を介して第1および第2インバータ4,5側に電力を放電し、あるいは第1および第2インバータ4,5側から供給される電力を充電する。力行時には、電池7に蓄えられた電力を第2モータ3に供給することができる。回生時には、第2モータ3が発電機として機能するため、第2モータ3で発電された電力を電池7に充電することができる。
【0020】
このように構成された電気回路を備える電動車両1では、電池7からの直流電力を昇圧コンバータ6で昇圧し、昇圧後の電力が第1インバータ4および第2インバータ5に供給される。第1インバータ4は、昇圧コンバータ6から供給された直流電力を交流電力に変換して第1モータ2に供給する。第1モータ2は第1インバータ4から供給された交流電力によって駆動する。同様に、第2インバータ5は、昇圧コンバータ6から供給された直流電力を交流電力に変換して第2モータ3に供給する。第2モータ3は第2インバータ5から供給された交流電力によって駆動する。この第1モータ2と第2モータ3と第1インバータ4と第2インバータ5と昇圧コンバータ6とは、いずれも制御装置10によって制御される。
【0021】
制御装置10は、電動車両1を制御する電子制御装置(ECU)である。この電子制御装置は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェースを備えたマイクロコンピュータを含んで構成されている。つまり、制御装置10は、CPUと、各種プログラム等のデータが格納された記憶部と、モータを駆動制御するための各種の演算を行う演算処理部と、を備える。制御装置10はROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。また、制御装置10には各種センサからの信号が入力される。制御装置10に入力される信号として、電動車両1の車速を検出する車速センサからの車速信号、第1モータ2の回転角を検出する第1モータ回転数センサからの第1レゾルバ信号、第2モータ3の回転角を検出する第2モータ回転数センサからの第2レゾルバ信号、昇圧コンバータ6による昇圧後の電圧を検出する電圧センサからの電圧値(昇圧値)V、高電圧側電力ラインのグランド(高圧GND)の電位を検出するセンサからのGND信号VGNDなどが挙げられる。そして、制御装置10は各種センサから入力された信号に基づいて各種の制御を実行する。
【0022】
また、制御装置10は、各モータ2,3を制御する二つの電子制御装置(MG-ECU)を含んで構成されている。制御装置10は、第1モータ2を制御するための第1モータ用電子制御装置(第1MG-ECU)と、第2モータ3を制御するための第2モータ用電子制御装置(第2MG-ECU)と、を有する。
【0023】
第1MG-ECUは、第1モータ2を制御する制御部として機能するマイコン(MG1マイコン)を備える。
【0024】
例えば、第1モータ回転数センサからの第1レゾルバ信号が第1MG-ECU(制御装置10)に入力された場合、MG1マイコンは、その第1レゾルバ信号に基づいて第1モータ2の回転数を演算するなど、モータ制御のための演算処理を行う。そして、MG1マイコンにおける演算の結果、昇圧コンバータ6と第1インバータ4とを制御するための指令信号が第1MG-ECU(制御装置10)から昇圧コンバータ6と第1インバータ4とに出力される。この指令信号には、昇圧コンバータ6のスイッチング素子T61,T62へのスイッチング制御信号(ゲート指令)と、第1インバータ4のスイッチング素子T41~T46へのスイッチング制御信号(ゲート指令)とが含まれる。このように、第1MG-ECUは昇圧コンバータ6および第1インバータ4を制御することによって第1モータ2に印加する電圧および電流を制御する。
【0025】
第2MG-ECUは、第2モータ3を制御する制御部として機能するマイコン(MG2マイコン)と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)11と、を備える。
【0026】
例えば、第2モータ回転数センサからの第2レゾルバ信号が第2MG-ECU(制御装置10)に入力された場合、MG2マイコンは、その第2レゾルバ信号に基づいて第2モータ3の回転数を演算するなど、モータ制御のための演算処理を行う。そして、MG2マイコンにおける演算の結果、昇圧コンバータ6と第2インバータ5とを制御するための指令信号が第2MG-ECU(制御装置10)から昇圧コンバータ6と第2インバータ5とに出力される。この指令信号には、昇圧コンバータ6のスイッチング素子T61,T62へのスイッチング制御信号(ゲート指令)と、第2インバータ5のスイッチング素子T51~T56へのスイッチング制御信号(ゲート指令)とが含まれる。このように、第2MG-ECUは昇圧コンバータ6および第2インバータ5を制御することによって第2モータ3に印加する電圧および電流を制御する。
【0027】
ASIC11は、MG2マイコンに異常が生じた際に電動車両1を退避走行させる機能を備えている。このASIC11には、退避走行制御を実行するためのプログラム(フェールセーフロジック)が格納されている。つまり、ASIC11は退避走行制御部を有する。このASIC11は第2MG-ECUに搭載されているため、MG2マイコンの異常時に退避走行制御を実行することになる。
【0028】
そして、第2MG-ECUでは、MG2マイコンが演算機能を有し、ASIC11が周辺機能を有する。言い換えれば、第2MG-ECUでは、MG2マイコンが第1制御部となり、ASIC11が第2制御部となる。MG2マイコンとASIC11とは通信可能に接続されている。
【0029】
また、ASIC11には、MG2マイコンのモータ制御に特化したハード部分のうちの一部もしくは全部が格納されている。このハード部分には、モータ角度測定(RDC)と、モータ電流測定(専用ADC)と、モータ制御IP(EMU)とが含まれる。つまり、MG2マイコンとASIC11とは、いずれも第2モータ3を制御する制御部として機能するものである。なお、ASIC11が専用ADCを含む場合、ASIC11には、第2モータ3のモータ電流を検出するセンサからのモータ電流値が入力される。
【0030】
また、ASIC11は、昇圧コンバータ6により昇圧された後の電圧(昇圧値)をモニタする回路と、昇圧値の異常を検出するための閾値(異常閾値)と、を有する。つまり、ASIC11は、昇圧コンバータ6により昇圧された後の電圧値Vを監視する監視部を有する。そのため、ASIC11には、昇圧コンバータ6により昇圧された後の電圧を検出する電圧センサからの電圧値Vと、高圧GNDの電位を検出するセンサからのGND信号VGNDとが入力される。
【0031】
さらに、ASIC11は、昇圧値の異常を検出した際に昇圧コンバータ6を制御する制御機能を有する。このASIC11は、昇圧コンバータ6により昇圧後の電圧値Vと異常閾値とを比較することにより、昇圧後の電圧値Vが異常であるか否かを判定する判定部を有する。ASIC11は、昇圧後の電圧値Vの異常を検出した場合に、昇圧コンバータ6の上アームの第1スイッチング素子T61をオンとオフとに繰り返し切り替えるスイッチング制御を実行する。このスイッチング制御では、ASIC11から昇圧コンバータ6の第1スイッチング素子T61にゲート指令GS1が出力される。このゲート指令GS1に応じて第1スイッチング素子T61はオンからオフ(シャットダウン)へと繰り返し切り替わる。また、ASIC11は、電圧値Vが異常閾値よりも高い状態から異常閾値以下に復帰した場合には、通常制御すなわち退避走行モードに移行する制御機能を有する。
【0032】
また、制御装置10は、MGマイコンの異常を検出する異常検出部を有する。異常検出部は、第1MG-ECUのMG1マイコンの異常を検出可能であるとともに、第2MG-ECUのMG2マイコンの異常を検出可能である。異常検出部とASIC11とは通信可能に接続されている。この場合、異常検出部はMGマイコンの異常を検出すると、その異常を示す信号をASIC11に出力する。なお、MG1マイコンとMG2マイコンとを特に区別する必要がない場合にMGマイコンと記載する。
【0033】
このように構成された制御装置10では、ASIC11に退避走行機能(冗長機能)が搭載されている。これにより、MG2マイコンの機能を失陥した際のフェールセーフ機能をASIC11に搭載することができる。そのため、電動車両1の走行中にMG2マイコンに異常が発生したことが検出された場合、ASIC11が退避走行制御を実行し、電動車両1を退避走行させることができる。その際、異常検出部によりMG2マイコンの異常が検出された場合、ASIC11は、昇圧コンバータ6により昇圧された後の電圧(昇圧後の電圧値V)が異常に上昇していないかを監視する。昇圧後の電圧値Vが異常に高い場合には、ASIC11が昇圧コンバータ6を制御することにより、異常な電荷を電池7に逃がすことができる。
【0034】
図2は、フェールセーフ制御フローを示すフローチャート図である。図2に示す制御は、制御装置10により実施される。
【0035】
制御装置10は、マイコン機能の失陥が発生したことを検出する(ステップS1)。ステップS1では、制御装置10に含まれるMGマイコンに異常が生じていることが、制御装置10の異常検出部によって検出される。ステップS1において、例えば第2MG-ECUのMG2マイコンで機能失陥を生じたことが異常検出部により検出される。その際、異常検出部は、MG2マイコンの機能が失陥したことを示す信号をASIC11に出力する。
【0036】
制御装置10は、マイコン機能の失陥が発生したことを検出すると、全てのゲート指令をOFFにする(ステップS2)。ステップS2では、第1インバータ4と第2インバータ5と昇圧コンバータ6とが有する全てのスイッチング素子がOFFに制御される。すなわち、第1インバータ4と第2インバータ5と昇圧コンバータ6とを含む駆動回路がシャットダウンされる。
【0037】
そして、制御装置10は、昇圧後の電圧が異常閾値以下であるか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3では、昇圧コンバータ6により昇圧された後の電圧、すなわち電圧センサから入力された高電圧側電力ラインの電圧値Vが異常閾値以下であるか否かが判定される。異常閾値は予め設定された閾値である。
【0038】
昇圧後の電圧が異常閾値以下ではないと判定された場合(ステップS3:No)、制御装置10は、昇圧後の電圧値Vが異常値であると判断し、昇圧コンバータ6の上アームの第1スイッチング素子T61をオンからオフへと繰り返し切り替えるスイッチング制御を実施する(ステップS4)。ステップS4では、昇圧コンバータ6の上アームの第1スイッチング素子T61を制御対象にして、オンからオフ(シャットダウン)への切り替えを繰り返すスイッチング制御が実施される。ステップS4において、ASIC11から昇圧コンバータ6の第1スイッチング素子T61にゲート指令GS1が出力される。ステップS4の処理を実施すると、この制御ルーチンはステップS3にリターンする。
【0039】
昇圧後の電圧が異常閾値以下であると判定された場合(ステップS3:Yes)、制御装置10は、昇圧後の電圧値Vが正常値であると判断し、制御モードを退避走行モードに移行させる(ステップS5)。ステップS5では、ASIC11により退避走行制御が実行される。この退避走行制御により、電動車両1は退避走行する。ステップS5の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0040】
以上説明した通り、実施形態によれば、制御装置10のASIC11が退避走行制御を実施することができる。これにより、制御装置10においてMG2マイコンの機能を失陥した場合、フェールセーフ性能を落とすことなく、一つのMGマイコンでシステムを構築することができる。そのため、より安価なシステムを構成することが可能になる。さらに、MG2マイコンのカスタム機能をASIC11に搭載することによって、より安価な汎用マイコンをMG2マイコンに採用することが可能になる。
【0041】
また、電動車両1が高速走行時にMG2マイコンの機能を失陥した場合に、ASIC11が昇圧コンバータ6の上アームのスイッチング素子をスイッチング制御するフェールセーフ制御を実施するため、第2モータ3により生じる回生電力を電池7側に逃がすことができる。これにより、回生電力がインバータ内の平滑コンデンサ8に蓄積され、平滑コンデンサ8の過電圧が発生することを抑制することができる。その結果、マイコン機能の失陥時であっても、安全かつ速やかに退避走行モードに移行することが可能になる。
【0042】
なお、ASIC11が第2MG-ECUに搭載される例について説明したが、これに限定されない。例えば、第1MG-ECUに、第1モータ2を制御する制御部としての機能を有するASIC11が搭載されてもよい。要するに、第1MG-ECUと第2MG-ECUとのうちの少なくともいずれか一方にASIC11が搭載されていればよい。
【0043】
また、電動車両1が第1モータ2と第2モータ3との二つのモータを搭載する例について説明したが、これに限定されない。走行用のモータとして搭載されるモータの数は特に限定されない。走行用のモータを三つ搭載した構成を図3に例示し、走行用のモータを一つ搭載した構成を図4に例示する。
【0044】
図3に示すように、第1変形例の電動車両1は、第1モータ(MG1)2と、第2モータ(MG2)3と、第3モータ(MG3)21と、第1インバータ4と、第2インバータ5と、第3インバータ22と、昇圧コンバータ6と、電池7と、制御装置10と、を備えている。
【0045】
この電動車両1では、第1モータ2と第2モータ3と第3モータ21とにより車輪を駆動することができる。例えば、第1モータ2と第2モータ3とが前輪を駆動し、第3モータ21が後輪を駆動することができる。あるいは、第1モータ2と第2モータ3とが後輪を駆動し、第3モータ21が前輪を駆動することができる。
【0046】
第3インバータ22は、第1インバータ4と同様に、第3モータ21の三相コイルに三相の電流を通電できるように複数のスイッチング素子を備えた電気回路(インバータ回路)により構成されている。第3インバータ22は、6つのスイッチング素子T71~T76と、6つのダイオードD71~D76と、を有する。そして、第3インバータ22は昇圧コンバータ6を介して電池7と電気的に接続されているため、第3モータ21は電池7から供給される電力によって駆動することができる。例えば、第3インバータ22に電圧が作用しているときに、第3モータ用電子制御装置(第3MG-ECU)によって、対となるスイッチング素子T71~T76のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、第3モータ21が回転駆動される。
【0047】
制御装置10は、第1MG-ECUと、第2MG-ECUと、第3モータ21を制御するための第3モータ用電子制御装置(第3MG-ECU)と、を有する。ASIC11は、これらのMG-ECUのうちの少なくともいずれか一つに搭載されている。
【0048】
この第1変形例によれば、三つの走行用モータと三つのモータ用電子制御装置(MG-ECU)とを備えた電動車両1についても、走行中にMGマイコンの機能失陥が生じた際に、ASIC11による退避走行制御を実施することが可能である。
【0049】
図4に示すように、第2変形例の電動車両1は、モータ(MG)31と、インバータ32と、昇圧コンバータ6と、電池7と、制御装置10と、を備えている。
【0050】
この電動車両1では、モータ31により車輪を駆動することができる。例えば、モータ31により前輪を駆動することができる。あるいは、モータ31により後輪を駆動することができる。
【0051】
インバータ32は、第1インバータ4と同様に、モータ31の三相コイルに三相の電流を通電できるように複数のスイッチング素子を備えた電気回路(インバータ回路)により構成されている。インバータ32は、6つのスイッチング素子T81~T86と、6つのダイオードD81~D86と、を有する。そして、インバータ32は昇圧コンバータ6を介して電池7と電気的に接続されているため、モータ31は電池7から供給される電力によって駆動することができる。例えば、インバータ32に電圧が作用しているときに、モータ用電子制御装置(MG-ECU)によって、対となるスイッチング素子T81~T86のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ31が回転駆動される。
【0052】
制御装置10は、MG-ECUを有する。ASIC11は、MG-ECUに搭載されている。
【0053】
この第2変形例によれば、一つの走行用モータと一つのモータ用電子制御装置とを備えた電動車両1についても、走行中にMGマイコンの機能失陥が生じた際に、ASIC11による退避走行制御を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 電動車両
2 第1モータ
3 第2モータ
4 第1インバータ
5 第2インバータ
6 昇圧コンバータ
7 電池
10 制御装置
11 ASIC
図1
図2
図3
図4