(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】負極活物質、負極活物質層、及びリチウムイオン電池、並びに負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241029BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241029BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241029BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241029BHJP
C22C 24/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M10/052
H01M10/0562
C22C24/00
(21)【出願番号】P 2022114226
(22)【出願日】2022-07-15
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】中西 真二
(72)【発明者】
【氏名】山崎 久嗣
(72)【発明者】
【氏名】菊池 夏希
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】浦部 晃太
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-034998(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280609(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0380724(US,A1)
【文献】特開2016-066418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C22C24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo
、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含有している、クラスレート型Si粒子である、負極活物質。
【請求項2】
Mo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含有している、クラスレート型Si粒子であ
り、
前記クラスレート型Si粒子全体に対する前記金属の含有率は、0.02~1.60質量%である、
負極活物質。
【請求項3】
前記金属は、前記クラスレート型Si粒子に侵入型ドープしている、請求項1又は2記載の負極活物質。
【請求項4】
前記クラスレート型Si粒子は、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有している、請求項1又は2に記載の負極活物質。
【請求項5】
リチウムイオン電池用である、請求項1又は2に記載の負極活物質。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の負極活物質を含有している、負極活物質層。
【請求項7】
負極集電体層、請求項6に記載の負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有している、リチウムイオン電池。
【請求項8】
NaSi合金粉末、Naトラップ剤、並びにMo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属との混合物を提供すること、及び
前記混合物を加熱温度250~500℃かつ加熱時間30~200時間で加熱すること、
を有している、
負極活物質の製造方法。
【請求項9】
Si源、NaH源、及び前記金属をメカニカルミリングして、加熱することによって、前記NaSi合金粉末と前記金属との混合物を得ることを有している、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極活物質、負極活物質層、及びリチウムイオン電池、並びに負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車またはハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池に用いられる活物質として、Siが知られている。
【0003】
特許文献1は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaxSi136(1.98<x<2.54)の組成を有する、活物質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
活物質としてのSi粒子は、電池の高エネルギー密度化に有効である一方で、充放電時における体積変化が大きい。
【0006】
特許文献1に記載されるクラスレート型構造を有するSi粒子は、充放電時における体積変化の低減に有利である。
【0007】
しかしながら、依然として、充放電時におけるSi粒子の体積変化を低減させることが求められている。
【0008】
本開示は、充放電時の体積変化を低減した負極活物質を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
Mo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、Vからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含有している、クラスレート型Si粒子である、負極活物質。
《態様2》
前記クラスレート型Si粒子全体に対する前記金属の含有率は、0.01~1.60質量%である、態様1に記載の負極活物質。
《態様3》
前記金属は、前記クラスレート型Si粒子に侵入型ドープしている、態様1又は2に記載の負極活物質。
《態様4》
前記クラスレート型Si粒子は、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有している、態様1~3のいずれか一つに記載の負極活物質。
《態様5》
リチウムイオン電池用である、態様1~4のいずれか一つに記載の負極活物質。
《態様6》
態様1~5のいずれか一つに記載の負極活物質を含有している、負極活物質層。
《態様7》
負極集電体層、態様6に記載の負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有している、リチウムイオン電池。
《態様8》
NaSi合金粉末、Naトラップ剤、並びにMo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属との混合物を提供すること、及び
前記混合物を加熱温度250~500℃かつ加熱時間30~200時間で加熱すること、
を有している、
負極活物質の製造方法。
《態様9》
Si源、NaH源、及び前記金属をメカニカルミリングして、加熱することによって、前記NaSi合金粉末と前記金属との混合物を得ることを有している、態様8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、主に、充放電時の体積変化を低減した負極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一つの実施形態に従うリチウムイオン電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
《負極活物質》
本開示の負極活物質は、Mo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含有している、クラスレート型Si粒子である。
【0014】
本開示の負極活物質は、リチウムイオン電池用であることが好ましく、以下、リチウムイオン電池用であることを前提に説明するが、キャリアイオンがリチウムイオンとは異なる他の種類の電池に適用することを妨げるものではない。
【0015】
原理によって限定するものではないが、本開示の負極活物質粒子の、電池の充放電時における体積変化が低減される原理は以下のとおりと考えられる。
【0016】
Si系の負極活物質、例えばリチウムイオン電池に用いられるSi系の負極活物質は、充放電時における膨張収縮が大きいことが知られている。そのようなSi系の負極活物質の充放電時の膨張収縮を低減した活物質として、クラスレート型Si粒子が挙げられる。
【0017】
本開示の負極活物質は、クラスレート型Si粒子の内部にMo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含有していることにより、クラスレート型Si粒子の内部における導電性が向上している。したがって、本開示の負極活物質は、電池の充放電時において粒子内部でのリチウムとの反応、すなわちリチウムの吸収及び放出の偏りが低減される。これにより、本開示の負極活物質は、電池の充放電時における体積変化が低減される。
【0018】
クラスレート型Si粒子全体に対する、Mo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属の含有率は、0.01~1.60質量%であることが好ましい。
【0019】
金属の含有量が0.01質量%以上であると、クラスレート型Si粒子の内部における導電性を向上させることができる。他方、金属の含有量が1.60質量%以下であると、クラスレート型Si粒子の結晶構造、特にクラスレート型構造が維持されやすいため、クラスレート型Si粒子内に金属が導入されることによるクラスレート型Si粒子がリチウムを吸蔵できる量への影響が少ない。
【0020】
クラスレート型Si粒子中における金属の含有量は、0.01質量%以上、0.10質量%以上、0.15質量%以上、又は0.17質量%以上であってよく、1.60質量%以下、1.00質量%以下、0.50質量%以下、又は0.20質量%以下であってよい。
【0021】
金属は、クラスレート型Si粒子に侵入型ドープしていること、すなわち金属がクラスレート型Si粒子の結晶格子を置換するのではなく、結晶格子内に侵入する態様でドープしていることが好ましい。このような態様によって金属がドープしている場合、クラスレート型Si粒子の結晶構造が維持されやすい。
【0022】
また、クラスレート型Si粒子は、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有していることが好ましい。クラスレートII型構造は、その内部のカゴ構造に多くのリチウムを吸蔵することができるため、充放電時における膨張収縮の程度が低い傾向にある。
【0023】
クラスレート型Si粒子は、例えばクラスレートI型構造を有する部分とクラスレートII型構造を有する部分の両方を有していてよい。
【0024】
クラスレート型Si粒子の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。クラスレート型Si粒子の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、クラスレート型Si粒子の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0025】
《負極活物質層》
本開示の負極活物質層は、本開示の負極活物質を含有している。本開示の負極活物質層は、随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダを更に含有していることができる。
【0026】
〈固体電解質〉
固体電解質の材料は、特に限定されず、リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、又はポリマー電解質等であってよいが、これらに限定されない。
【0027】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
具体的な硫化物固体電解質の例として、Li2S-P2S5系(Li7P3S11、Li3PS4、Li8P2S9等)、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2(Li13GeP3S16、Li10GeP2S12等)、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li7-xPS6-xClx等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0029】
酸化物固体電解質の例として、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12、Li7-3xLa3Zr2AlxO12、Li3xLa2/3-xTiO3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li3PO4、又はLi3+xPO4-xNx(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
硫化物固体電解質及び酸化物固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
【0031】
ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
〈導電助剤〉
導電助剤は、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)、ケッチェンブラック(KB)、アセチレンブラック(AB)、及びカーボンナノ繊維等の炭素材並びに金属材等であってよいが、これらに限定されない。
【0033】
〈バインダ〉
バインダとしては、特に限定されない。例えば、バインダは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0034】
《リチウムイオン電池》
本開示のリチウムイオン電池は、負極集電体層、本開示の負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有している。本開示のリチウムイオン電池は、二次電池であってよい。
【0035】
図1は、本開示の一つの実施形態に従うリチウムイオン電池1である。
【0036】
本開示のリチウムイオン電池1は、負極集電体層11、本開示の負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14、及び正極集電体層15をこの順に有している。
【0037】
〈負極集電体層〉
負極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の負極集電体として使用できるものを適宜採用することができ、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、カーボン、又は樹脂集電体等であってよいが、これらに限定されない。
【0038】
負極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0039】
〈固体電解質層〉
固体電解質層は、固体電解質及び随意にバインダ等を含有している層である。
【0040】
固体電解質及びバインダについては、それぞれ上記の「《負極活物質層》」の「〈固体電解質〉」及び「〈バインダ〉」の記載を参照することができる。
【0041】
〈正極活物質層〉
正極活物質層は、正極活物質、並びに随意の固体電解質、導電助剤、及びバインダ等を含有している層である。
【0042】
なお、正極活物質層が固体電解質を含有している場合、正極活物質層中における正極活物質と固体電解質との質量比(正極活物質の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、より好ましくは80:20~40:60である。
【0043】
正極活物質の材料は、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li1+xMn2-x-yMyO4(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0044】
正極活物質は、被覆層を有していることができる。被覆層は、リチウムイオン伝導性能を有し、正極活物質や固体電解質との反応性が低く、かつ活物質や固体電解質と接触しても流動しない被覆層の形態を維持し得る物質を含有している層である。被覆層を構成する材料の具体例としては、LiNbO3の他、Li4Ti5O12、Li3PO4等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0045】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0046】
固体電解質、導電助剤、及びバインダは、それぞれ上記の「《負極活物質層》」の「〈固体電解質〉」、「〈導電助剤〉」及び、「〈バインダ〉」の記載を参照することができる。
【0047】
〈正極集電体層〉
正極集電体層に用いられる材料及び形状は、特に限定されず、上記の「〈負極集電体層〉」において記載した材料及び形状のものを用いてよい。なかでも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましい。また、形状は、箔状が好ましい。
【0048】
《負極活物質の製造方法》
本開示の製造方法は、NaSi合金粉末、Naトラップ剤、及びMo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、Vからなる群から選択される少なくとも一つの金属との混合物を提供すること、及び混合物を加熱温度250~500℃かつ加熱時間30~200時間で加熱すること、を有している、負極活物質の製造方法である。
【0049】
NaSi合金粉末と、Naトラップ剤とを混合して所定の温度と時間で加熱することにより、NaSi合金からNaが脱離して、クラスレート型構造、特にクラスレートII型構造を有するクラスレート型Si粒子が生成する。
【0050】
本開示の製造方法は、クラスレート型Si粒子の製造過程において、原料にMo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属を添加することで、製造されるクラスレート型Si粒子の、粒子内部における導電性を向上させることができる。
【0051】
Naトラップ剤は、NaSi合金と反応してNaSi合金からNaを受け取るものに限定されず、NaSi合金から脱離したNa、具体的には蒸気になったNaと反応しても良い。
【0052】
Naトラップ剤としては、具体的にはCaCl2、CaBr2、CaI2、Fe3O4、FeO、MgCl2、ZnO、ZnCl2、MnCl2、又はAlF3等の粒子を挙げることができる。Naトラップ剤としては、AlF3粒子が特に好ましい。
【0053】
加熱温度は、250℃以上、300℃以上、又は350℃以上であってよく、500℃以下、450℃以下、400℃以下、又は350℃以下であってよい。
【0054】
加熱時間は、30時間以上、40時間以上、50時間以上、又は100時間以上であってよく、200時間以下、180時間以下、160時間以下、又は100時間以下であってよい。
【0055】
本開示の製造方法において、予めNaSi合金粉末の製造時に、Mo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、Vからなる群から選択される少なくとも一つの金属を添加してもよい。
【0056】
すなわち、Si源、NaH源、及び金属をメカニカルミリングして、加熱することによって、NaSi合金粉末と金属との混合物を得てもよい。
【0057】
Mo、Fe、Zn、Mg、Pd、Zr、Ag、Co、Cr、Nb、及びVからなる群から選択される少なくとも一つの金属は、金属粒子を別に準備して原料に混合してもよいし、クラスレート型Si粒子製造過程で行うメカニカルミリングに用いるカッターミルのカッターに由来するものであってもよい。金属をカッターミルのカッターに由来させる場合には、NaSi合金粉末の製造時、例えばNa源とSi源とを混合する際にカッターミルを用いることが好ましい。NaSi合金粉末製造時にカッターミルを用いた場合には、製造されるNaSi合金粉末に新生面が露出したり、NaSi合金粉末の比表面積が大きくなったりしやすい。そのため、NaSi合金粉末製造工程の後に行うクラスレート型Si粒子製造過程でカッターミルを用いる場合にも、カッターミル由来の金属が更にNaSi合金粉末に混入されやすくなる。
【実施例】
【0058】
《実施例1~4及び比較例1》
〈活物質の調製〉
(比較例1)
Si源としてSi粒子を用い、Na源としてNa粒子を用い、Si粒子およびNa粒子をモル比が1:1になるように混合し、るつぼに投入し、Ar雰囲気下で密閉し、700℃で加熱し、NaSi合金を得た。得られたNaSi合金を、真空下(約1Pa)、340℃の条件で加熱することでNaを除去し、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する中間体を得た。
【0059】
得られた中間体と、Li金属とを、Li/Si=1.7のモル比で秤量し、Ar雰囲気において乳鉢で混合し、合金化合物を得た。得られた合金化合物を、Ar雰囲気においてエタノールと反応させることで、一次粒子の内部に空隙を形成し、活物質を得た。
【0060】
(実施例1)
Si源として、Si粉末(一次粒子の内部に空隙を有しないSi粉末)を準備した。このSi源とLi金属とを、Li/Si=4.75のモル比で秤量し、Ar雰囲気において乳鉢で混合し、合金化合物を得た。得られた合金化合物を、Ar雰囲気においてエタノールと反応させることで、一次粒子の内部に空隙を形成したSiを得た。このSi源を用い、Na源としてNaHを用いて、NaSi合金を製造した。
【0061】
なお、NaHとしては、予めヘキサンで洗浄したものを用いた。Na源とSi源とをモル比で1.05:1となるように秤量し、ステンレススチール(SUS304)製のカッターミルを用いてこれらを混合した。この混合物を、加熱炉にてAr雰囲気下、400℃、40時間の条件で加熱することにより、粉末状のNaSi合金を得た。
【0062】
得られたNaSi合金を用い、さらに、Naトラップ剤としてAlF3を用いて、固相法によるシリコンクラスレート生成工程を行った。
【0063】
具体的には、NaSi合金とAlF3とをモル比で1:0.20となるように秤量し、ステンレススチール(SUS304)製のカッターミルを用いて混合し、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料を反応容器に入れ、加熱炉にてAr雰囲気下、加熱温度270℃、加熱時間120時間の条件で加熱し反応させた。
【0064】
得られた反応生成物は、目的とする活物質と、副生物としてのNaF及びAlを含むと考えられる。
【0065】
この反応生成物を、HNO3とH2Oとを体積比10:90で混合した混合溶媒を用いて洗浄した。これにより、反応生成物中の副生物を除去した。洗浄後、濾過し、濾別された固形分を120℃で3時間以上乾燥して、粉末状の活物質を得た。
【0066】
(実施例2)
固相法によるシリコンクラスレート生成工程における加熱の条件を、Ar雰囲気下、加熱温度290℃、加熱時間100時間としたことを除いて実施例1と同様の手法により、実施例2の活物質を得た。
【0067】
(実施例3)
固相法によるシリコンクラスレート生成工程における加熱の条件を、Ar雰囲気下、加熱温度310℃、加熱時間60時間としたことを除いて実施例1と同様の手法により、活物質を含む反応生成物を得た。
【0068】
得られた反応生成物をZnCl2と混合し、更にAr雰囲気下で310℃、加熱時間60時間で加熱した。なお、SiとZnCl2の比率は、質量比率で4:3であった。
【0069】
その後、HNO3とH2Oとを体積比90:10で混合した混合溶媒を用いて洗浄した。これにより、反応生成物中の副生物を除去した。洗浄後、濾過し、濾別された固形分を120℃で3時間以上乾燥して、実施例3の活物質を得た。
【0070】
(実施例4)
固相法によるシリコンクラスレート生成工程における加熱の条件を、Ar雰囲気下、加熱温度290℃、加熱時間160時間とし、かつSiとZnCl2の混合比率を4:4にしたことを除いて実施例3と同様にして、実施例4の活物質を得た。
【0071】
〈エネルギー分散型X線分光法〉
各例の活物質について、エネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)により結晶子を測定した。各例の活物質は、いずれもクラスレートII型の結晶構造を有していた。
【0072】
また、各例の活物質における、金属の含有量(質量%)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0073】
〈リチウムイオン電池の作成〉
各例の活物質を用いて、以下のようにして各例のリチウムイオン電池を作製した。
【0074】
(負極電極体の形成)
ポリプロピレン製容器に酪酸ブチル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーの5wt%酪酸ブチル溶液、導電助剤としての気相法炭素繊維(VGCF)、合成した活物質、及び硫化物固体電解質としてのLi2S-P2S5系ガラスセラミックを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせて、負極合材スラリーを得た。
【0075】
負極合材を、アプリケーターを使用してブレード法にてCu箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることで、負極電極体を得た。
【0076】
(固体電解質層の形成)
ポリプロピレン製容器にヘプタン、ブチレンゴム(BR)系バインダーの5wt%ヘプタン溶液、及び硫化物固体電解質としてのLi2SP2S5系ガラスセラミックを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせて、固体電解質スラリーを得た。
【0077】
固体電解質スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて剥離シートとしてのAl箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることによって固体電解質層を形成した。
【0078】
固体電解質層は、3つ作製した。
【0079】
(正極電極体の形成)
ポリプロピレン製容器に酪酸ブチル、PVDF系バインダーの5wt%酪酸ブチル溶液、正極活物質としての平均粒径6μmのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、硫化物固体電解質としてLi2S-P2S5系ガラスセラミック、導電助剤としてVGCFを容器に加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。
【0080】
次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振とうさせ、さらに超音波分散装置で30秒間攪拌し、振とう器で3分間振とうして、正極合材スラリーを得た。
【0081】
正極合材スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にてAl箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることによって、正極電極体を形成した。
【0082】
(電池の組立て)
上記の正極電極体、及び一つ目の固体電解質層をこの順で積層した。この積層物をロールプレス機にセットし、100kN/cmのプレス圧力及び165℃のプレス温度でプレスすることによって、正極積層体を得た。
【0083】
上記の負極電極体、及び二つ目の固体電解質層をこの順で積層した。この積層物をロールプレス機にセットし、60kN/cmのプレス圧力及び25℃のプレス温度でプレスすることによって、負極積層体を得た。
【0084】
更に、正極積層体及び負極積層体の固体電解質層表面から、剥離シートとしてのAl箔を剥離させた。次いで、3つ目の固体電解質層から剥離シートとしてのAl箔を剥離させた。
【0085】
正極積層体及び負極積層体の固体電解質層側それぞれと3つ目の固体電解質層とが対向するようにして、これらを互いに積層し、この積層体を平面一軸プレス機にセットし、100MPa及び25℃で、10秒にわたって仮プレスし、最後にこの積層体を平面一軸プレス機にセットし、200MPaのプレス圧力及び120℃のプレス温度で、1分間にわたってプレスした。これによって、全固体電池を得た。
【0086】
〈リチウムイオン電池の充放電〉
各例の全固体電池を、拘束治具を用いて所定の拘束圧にて拘束し、10時間率(1/10C)で4.55Vまで定電流-定電圧充電した際の、拘束圧変動量を測定した。なお、拘束圧変動量は、拘束圧の最高値と最低値の差である。
【0087】
各例の全固体電池の拘束圧の変動量に基づいて、体積膨張率を算出した。具体的には、拘束圧の変動量が活物質の膨張量に比例しているとみなし、比較例1における活物質の膨張率を100.00とした相対値で、実施例1~4の活物質の膨張率を算出した。
【0088】
各例の膨張率を表1に示す。
【0089】
〈結果〉
表1は、各例の活物質中の金属の量(質量%)及び粒子の膨張率を示す。
【0090】
【0091】
金属の含有量が0.19~1.58質量%であった実施例1~4の活物質は、金属の含有量が0.01質量%であった比較例1の活物質と比較して、リチウムイオン電池の充放電時における膨張率が有意に低かった。具体的には、実施例1~4の活物質は、膨張率がそれぞれ順に27.5%、25.0%、18.75%、及び30.0%であった。なお、実施例1~4において有意に混入している金属は、クラスレートSi製造工程で用いたステンレススチール(SUS304)製のカッターミルに由来すると考えられる。特に、NaSi合金製造時にカッターミルを用いたことが、実施例1~4における程度まで金属を混入させることができた要因と考えられる。
【0092】
《実施例5~14》
VASP ver.5.4.1を用いてII型クラスレート構造を有するクラスレート型Si粒子のモデル作製を実施し、モデル中のSi原子からランダムに選択された原子を対象に、異なる元素と置換した構造を作成した。
【0093】
その後、同ソフトウェアを用いて擬ポテンシャルPBEsolを用いて構造最適化を行い、最も安定化した構造を用いて、膨張収縮率を算出した。
【0094】
実施例5~14においてSi原子を置換した元素の種類及び膨張収縮率は、表2に示すとおりである。
【0095】
【0096】
表2に示すように、Zr、Ag、B、C、Co、Cr、Nb、Pd、Ti、及びVでSi原子の一部を置換したクラスレート型Si粒子においても、膨張収縮率が低減されることが予測される。
【符号の説明】
【0097】
1 リチウムイオン電池
11 負極集電体層
12 負極活物質層
13 固体電解質層
14 正極活物質層
15 正極集電体層