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特許7578672グリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを製造する方法、及びグリセロールカーボネート(メタ)アクリレートに基づく硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】グリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを製造する方法、及びグリセロールカーボネート(メタ)アクリレートに基づく硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 317/38 20060101AFI20241029BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C07D317/38
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022506223
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 IB2020000652
(87)【国際公開番号】W WO2021019305
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】62/880,864
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・ヌニェス
(72)【発明者】
【氏名】カイル・スノー
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02979514(US,A)
【文献】特開2011-219394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 317/38
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを製造する方法であって、グリセロールモノ(メタ)アクリレートとジアルキルカーボネート及び環式アルキレンカーボネートからなる群から選択されるカーボネートとを触媒の存在下で反応させる工程を含む、方法。
【請求項2】
触媒がルイス酸又はルイス塩基から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒がブレンステッド塩基性触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
触媒がアルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
グリセロールモノ(メタ)アクリレートとカーボネートとを40~160℃の温度で反応させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
グリセロールモノ(メタ)アクリレートとカーボネートとを反応させる工程が液相中で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応させる工程の間に共生成物アルコールが形成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反応させる工程の間に液相から共生成物アルコールが除去される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
カーボネートとグリセロールモノ(メタ)アクリレートとを、1:1~3:1のカーボネート:グリセロールモノ(メタ)アクリレートのモル比で反応させる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応させる工程が重合阻害剤の存在下で行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを製造するための方法、及びグリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを含有する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセロールカーボネートメタクリレート(すなわち、グリセリンカーボネートメタクリレートとも称されるグリセロールカーボネートのメタクリル酸エステル)は、以下の構造:
【0003】
【化1】
【0004】
を有する有用な合成中間体及びモノマーとして特定されている。
【0005】
例えば、特開2011-219394は、グリセロールカーボネートメタクリレート等の2-オキソ-1,3-ジオキソラン(環式カーボネート)構造を有する(メタ)アクリル酸エステルが、塗料、機能性ポリマーの原材料、医薬、農薬及び他のファインケミカルの原材料として使用できることを教示している。
【0006】
グリセロールカーボネートメタクリレートに対する様々な合成経路が文献に記載されているが、最も興味深い方法は、好適な触媒の存在下でのグリシジルメタクリレートと二酸化炭素の反応を伴う。そのような化学反応は、例えば米国特許第4,835,289号及び特開2014-051456に記載される。そのような方法を使用してグリセロールカーボネートメタクリレートを高収率で得ることができるが、この合成経路の1つの欠点は、出発材料としてグリシジルメタクリレートが利用されなければならないことである。グリシジルメタクリレートは、一般的にエピクロロヒドリンをメタクリル酸と反応させることによって商業的に調製される。結果として生じる反応生成物には、典型的に腐食性であり顕著な健康及び安全性の懸念があると認識される、未反応のエピクロロヒドリンが混入する。除去されない場合、グリセロールカーボネートメタクリレート中の残存エピクロロヒドリンは、ヒトの皮膚又は他の生物生体組織と接触する可能性があるコーティング、インク、3D印刷品等の種々の組成物にグリセロールカーボネートメタクリレートを配合する能力を妨げる場合がある。更に、残存エピクロロヒドリンの存在により、そのような組成物及び製品の規制分類に影響が及ぶ可能性がある。したがって、エピクロロヒドリンを含有する出発材料の使用を伴わない、グリセロールカーボネートメタクリレートを合成するための実行可能な代替的方法の開発は非常に興味深いであろう。
【0007】
成分としてグリセロールカーボネートメタクリレートを含有する硬化性組成物は、現在まであまり注目されていない。Camaraら、European Polymer Journal 61 (2014) 133~144は、メチルメタクリレート並びに他のアクリル系、メタクリル系及びスチレン系モノマーとのコポリマーを含む環式カーボネート官能化ポリマーを合成するための、グリセロールカーボネートメタクリレートのフリーラジカル重合の最初の完全な研究とされるものを報告している。米国特許出願公開第2017/0260418A1号の実施例9には、3D印刷用2液インクのA部として使用され、グリセロールカーボネートメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート及び光開始剤を含有するインクが記載される。しかし、公開特許出願によると、そのようなインクは、3D印刷における使用に好適になるように、アミンモノマーを含有するインク(「B部」)であって、アミンモノマーが1種又は複数の第一級、第二級及び/又は第三級アミン基を含有するインクと組み合わされなければならない。
【0008】
EP0001088A1は、グリセロールカーボネートメタクリレート等の対応する不飽和化合物の重合によって得られる、側鎖に1,3-ジオキサラン-2-オン基を含有するポリマーを開示している。他のオレフィン系不飽和モノマーとの共重合も記載される。ポリマーは、成形体又は成形化合物、コーティング、接着剤並びに製紙及び織物助剤を生成するために使用することができる。そのような重合を光硬化によって達成することは言及されず、また、公開は、グリセロールカーボネートメタクリレート等のカーボネート含有モノマーとオレフィン系不飽和オリゴマーの共重合についても開示していない。
【0009】
米国特許第5,047,261号は、特定の式に対応する少なくとも1種のモノ(メタ)アクリルカーボネートを含有する反応性希釈剤系を有する放射性架橋性組成物を放射性架橋することによってコーティングを製造するための方法を開示している。グリセロールカーボネートアクリレートが比較例9及び21でモノマーとして使用されているが、特許は、グリセロールカーボネートメタクリレートを含有する放射性架橋性組成物を開示していない。
【0010】
一般的に、メタクリレート化合物(すなわち、1種又は複数のメタクリレート官能基、-OC(=O)C(CH3)=CH2を含有する化合物)は、化学線に曝露された場合、同様のアクリレート化合物(すなわち、1種又は複数のアクリレート官能基、-OC(=O)CH=CH2を含有する化合物)よりも反応及び硬化がはるかに遅いと認識されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-219394
【文献】米国特許第4,835,289号
【文献】特開2014-051456
【文献】米国特許出願公開第2017/0260418A1号
【文献】EP0001088A1
【文献】米国特許第5,047,261号
【文献】米国特許第7,342,054B2号
【文献】WO00/63149
【文献】WO00/63150
【文献】WO2017/125759
【文献】WO2014/126830
【文献】WO2014/126834
【文献】WO2014/126837
【非特許文献】
【0012】
【文献】Camaraら、European Polymer Journal 61 (2014) 133~144
【文献】「Continuous Liquid Interface Production of 3D Objects」、Science 347巻、6228号、1349~1352頁(2015年3月20日)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、グリセロールモノメタクリレートをジアルキルカーボネート及び環式アルキレンカーボネートからなる群から選択されるカーボネートと、触媒の存在下で反応させることにより、グリセロールカーボネートメタクリレートを高収率で容易に調製できることを今般発見した。驚くべきことに、メタクリレート官能基は、カーボネート反応物とグリセロールモノメタクリレートのヒドロキシル基の交換によって環式カーボネート基が形成される反応を実質的に耐え抜く。グリセロールカーボネートメタクリレートとともにアルコール共生成物が生成されるが、蒸留又は他のそのような手段によって容易に分離することができる。出発グリセロールモノメタクリレートの所望されるグリセロールカーボネートメタクリレートへの変換は、以下:
【0014】
【化2】
【0015】
の通り模式的に表されうる。
【0016】
他の種類の共反応物、特にジアルキルカーボネート又は環式アルキレンカーボネートの合成等価物として機能できる共反応物を、カーボネートの代わりに用いてもよい。そのような代替的な共反応物は、カルボニル基の炭素原子が、グリセロールモノメタクリレートのヒドロキシル基によって実質的に置き換え可能な2つの基で置換されているカルボニル基を含む化合物を含む。そのような置換基は、例えばアロキシ(例えば、フェノキシ)、アルコキシ(Cl3CO-等のハロゲン化アルコキシを含む)、ハロ(例えば、Cl、Br)、アルキルチオ又はアミノ基であってもよい。好適な代替的な共反応物は、例えば、一般式XC(=O)Y(式中、X及びYは互いと同じ又は異なってもよく、アロキシ、アルコキシ、ハロ、アルキルチオ(例えばRS-、ここでRはアルキル基である)及びアミノ(-NH2、-NHR及び-NR2、ここでRは有機基であり、窒素原子は、イミダゾール又はベンゾトリアゾール基におけるような環構造の一部であってもよい)からなる群から選択される)に対応する化合物を含む。X及びYは、一緒に連結して環式構造を形成してもよい。好適な非カーボネート共反応物の例として、これらに限定されないが、ホスゲン、トリホスゲン、尿素、カルボニルジイミダゾール、カルボニルジベンゾトリアゾール、ジメチルジチオカーボネート、クロロギ酸フェニル、塩化トリハロアセチル及びベンジルカルバミン酸ニトロフェニルが挙げられる。
【0017】
出発材料のグリセロールモノメタクリレート(2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレートとしても公知)は、グリセロールとメタクリル酸、メタクリル酸無水物、塩化メタクリロイル若しくはメタクリル酸の低級アルキルエステル等のメタクリレート源とのモノエステル化、又はグリシジルメタクリレートにおけるエポキシ基の加水分解等の任意の公知の方法によって調製されてもよい。他の方法は、例えば米国特許第7,342,054B2号、WO00/63149、及びWO00/63150に記載される。グリセロールカーボネートメタクリレートを調製するための本発明の方法の1つの利点は、出発材料のグリセロールモノメタクリレートが、エピクロロヒドリンを使用して調製されないことである。例えば、エピクロロヒドリンを含まないグレードのグリシジルメタクリレートは、グリセロールモノメタクリレートの前駆体として使用されてもよい。したがって、出発材料としてグリシジルメタクリレートを利用する公知の合成経路とは対照的に、エピクロロヒドリンを含まないグリセロールカーボネートメタクリレートの調製が実行可能である。
【0018】
更に、本発明者らは、1種又は複数の化学線硬化性オリゴマー(特に、1種又は複数の(メタ)アクリレート官能化オリゴマー)との組合せのグリセロールカーボネートメタクリレートを、グリセロールカーボネートメタクリレートに加え、場合により光開始剤及び/又は化学線硬化性モノマー(例えば、(メタ)アクリレート官能化モノマー)等の1種又は複数の他の成分とともに使用して、化学線への曝露によって容易に硬化し、有用なポリマー生成物を形成することができる組成物を配合できることを確立した。グリセロールカーボネートメタクリレートは、その特性のためにそのような用途における使用に特に良好に適合する。グリセロールカーボネートメタクリレートは、室温で低粘度を有し(25℃で55~65cps)、したがって反応性希釈剤として機能することができ、それにより高割合の化学線硬化性オリゴマーを含有する硬化性組成物の粘度を有効に低減させる。単独重合されると、グリセロールカーボネートメタクリレートは、高いガラス転移温度(>160℃)、高い引張強度(>18MPa)及び高い引張弾性率(80MPa)を有するホモポリマーをもたらす。したがって、グリセロールカーボネートメタクリレートの化学線硬化性オリゴマー含有硬化性組成物への組込みは、そこから得られる硬化ポリマーマトリックスの物理的及び機械的特性を顕著に改善するよう機能する。更に、グリセロールカーボネートメタクリレートは、同様に反応性希釈剤として使用できる他の(メタ)アクリレート官能化化合物とは対照的に、急性毒性を有さない。したがって、製品がヒト対象に接触される医療デバイス、及び医療用途における使用に好適な製品を本発明による硬化性組成物から調製することができる。
【0019】
更に、グリセロールカーボネートメタクリレートは、メタクリレート官能化化合物には非典型的な重合速度論を示す。アクリレート及びメタクリレートは、一般的に化学線を使用して重合されると異なる反応性を有し、メタクリレートは、対応するアクリレートよりも著しく遅く硬化する。後により詳細に説明されるように、本発明者らは、グリセロールカーボネートメタクリレートをメタクリレートベースの配合物に使用し、放射線硬化速度及び曲げ強度(生強度)を増加させることができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図2】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図3】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図4】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図5】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図6】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図7】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
図8】実施例で説明される種々の実験データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
グリセロールモノメタクリレート及びカーボネートからのグリセロールカーボネートメタクリレートの合成
グリセロールモノメタクリレートと反応するのに好適なカーボネートとして、ジアルキルカーボネート及び環式アルキレンカーボネートからなる群から選択されるカーボネートが挙げられる。そのようなカーボネートの混合物が使用されてもよいが、特定の実施形態では、単一のカーボネート共反応物のみが利用される。好適なジアルキルカーボネートは、特に、アルキル基が、直鎖又は分岐状でありうる低級アルキル基、例えばC1~C6アルキル基であるカーボネートを含む。例えば、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル(n-プロピル及びイソプロピルを含む)、並びにブチル(n-ブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルを含む)であってもよい。好適な環式アルキレンカーボネートは、例としてエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含む。本発明の特定の望ましい実施形態によると、カーボネートは、グリセロールモノメタクリレートとカーボネートの反応の間又は後のいずれかで形成される共生成物アルコールの分離を促進するために、生じるアルコール共生成物が大気圧で200℃以下、175℃以下、150℃以下、125℃以下又は100℃以下の沸点を有するように選択される。
【0022】
グリセロールカーボネートメタクリレートの形成に好都合な、カーボネートのグリセロールモノメタクリレートに対する任意の好適なモル比が反応に使用されてもよい。しかし、グリセロールモノメタクリレートに対して少なくとも化学量論レベルのカーボネートが典型的に使用され、適度なモル過剰量のカーボネートが一般的に好ましい。好ましくは、カーボネートのグリセロールモノメタクリレートに対するモル比は、1:1~3:1の範囲である。例えば、一実施形態では、カーボネート:グリセロールモノメタクリレートのモル比は、1.1:1~1.2:1である。
【0023】
好適な触媒は、一般的にルイス酸、ルイス塩基、ブレンステッド塩基、及び塩基性触媒(ルイス又はブレンステッド)を含む、グリセロールモノメタクリレートとカーボネートの間の反応速度を加速できる任意の物質を含む。触媒は、均一系(反応条件下で反応混合物に溶解される)又は不均一系(反応条件下で反応混合物に溶解されない)であってもよい。触媒は、反応条件下で部分的に溶解されることも可能である。2種以上の異なる触媒の混合物が使用されてもよい。
【0024】
好適な塩基性触媒として、限定することなく、有機(すなわち、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に加えて1種又は複数の有機部分を含有する)又は無機の性質のアルカリ金属(例えば、Li、Na、K)及びアルカリ土類金属(例えば、Ca、Mg)化合物が挙げられる。そのような化合物は、例えば水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、重炭酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、酸化物等であってもよい。塩基性イオン交換樹脂又は塩基性ゼオライトも利用することができる。本発明の特定の実施形態によると、触媒は強塩基、すなわち最大5のpKb値を有する塩基である。
【0025】
好適な触媒は、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属重炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルミン酸塩、アルカリ土類金属ケイ酸塩及びこれらの組合せから選択される塩基性触媒を含む。好ましい実施形態では、触媒は、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコキシドである。本明細書における「アルコキシド」への言及は、C1~C6直鎖又は分岐状アルコキシド、例えばC1~C2アルコキシドを含む。好適な触媒の具体例として、NaOH、KOH、NaOMe、NaOEt、KOMe、KOEt、Na2CO3、NaHCO3、K2CO3、KHCO3及びNa2SiO3が挙げられる。第三級アミンを含むアミン化合物も好適な触媒として利用できる。触媒として使用するのに同様に好適なものは、WO2017/125759(その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるもの等の「イオン性液体」として公知の物質である。この目的のための例示的なイオン性液体は、アンモニウム若しくはホスホニウムカチオン、又は芳香族複素環式カチオン種を含有するイオン性液体を含む。触媒は、乾燥又はニート(neat)形態で反応物と組み合わされてもよいが、特定の実施形態では、溶媒との組合せの溶液又はスラリー形態で提供されてもよい。
【0026】
触媒は、最初に形成された反応混合物に所望の触媒効果を達成するのに有効な量で供給される。特定の実施形態では、触媒は、最初に形成された反応混合物全体の質量に対して0.05~5質量%の量で反応混合物中に存在する。
【0027】
(メタ)アクリレート官能性の望ましくない反応の低減を促すために、1種又は複数の重合阻害剤(特に、フリーラジカル阻害剤)が反応混合物中に存在してもよい。好適な重合阻害剤として、例えばヒドロキノン重合阻害剤(例えば、ヒドロキノンそれ自体、及びヒドロキノンモノメチルエーテル等の置換ヒドロキノン);ヒンダードフェノール系重合阻害剤(例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン);並びにチアジン重合阻害剤(例えば、フェノチアジン)が挙げられる。反応混合物中の重合阻害剤のレベルは、使用される阻害剤の種類及び他の要因に応じて異なってもよいが、典型的に約5~約10,000ppmであってもよい。
【0028】
また、反応混合物の(メタ)アクリレート官能化成分の重合は、分子酸素の存在下でグリセロールモノ(メタ)アクリレートとカーボネートの反応を行うことによって抑制されてもよい。例えば、反応混合物は、分子酸素から構成されるガス(例えば、空気)で散布されてもよい。反応が行われている反応容器に供給されるガスは、例えば大気、富化空気、又は引火の可能性を低減させるために、分子酸素含有量が通常の(大気)レベルから低減された空気であってもよい。
【0029】
1種又は複数の溶媒が本発明の方法で使用されてもよいが、そのような溶媒は必須ではない。したがって、本発明の一実施形態では、グリセロールモノメタクリレートとカーボネートの間の反応は、溶媒の非存在下で行われる。例えば、反応混合物(最初に形成される)は、500ppm未満又は200ppm未満の溶媒を含有してもよい。
【0030】
反応混合物の成分(グリセロールモノメタクリレート、カーボネート、触媒、任意選択の溶媒及び場合により他の任意選択の成分)は、一度にすべて又は逐次的に好適な反応容器に投入されてもよい。例えば、カーボネートは、反応混合物の他の成分の混合物に2つ以上の部分で添加されてもよい。成分は、グリセロールモノメタクリレート及びカーボネートを伴う所望の反応を行う間、撹拌、機械的に混合、又は別様にかき混ぜられてもよい。
【0031】
グリセロールモノメタクリレート及びカーボネートは、所望のグリセロールカーボネートメタクリレートを標的の収率及び選択性で形成するのに有効な時間、温度及び圧力で触媒の存在下で反応される。一般的に、温度は、反応物の分解又は望ましくない副生成物及びポリマーの形成を回避する、最小化する又は低減しながら、反応が商業的に実用的な速度で行われる温度、又は温度の範囲になるよう選択される。好適な反応温度は、例えば40℃~160℃を含む。
【0032】
好適な反応時間は、数分(例えば、少なくとも10分)から数時間まで(例えば、12時間まで)の程度であってもよい。
【0033】
グリセロールカーボネートモノメタクリレートを形成するための所望の反応を完成に近づける、又はより早く完成させるのを促すために、反応の間に形成される共生成物のアルコールを反応混合物から分離することが有用でありうる。当業者に理解されるように、「分離する」という用語は、反応混合物からのアルコール共生成物の物理的抽出を指すことを意図する。結果として、アルコールを含有する共生成物ストリームが得られる場合がある。そのような分離は、連続的に又は段階的に行われてもよい。例えば、反応は、共生成物アルコールを除去することなく既定の期間行われ、その後反応混合物を分離手順(例えば、フラッシュ蒸留又はカラム蒸留)に供した後、続けてさらなる反応段階で反応混合物の成分を反応させてもよい。回収されるアルコール共生成物は、再利用される(すなわち、変換してカーボネートに戻され、グリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを調製するために再び使用される)、又は一部の他の機能で利用されてもよい。
【0034】
グリセロールモノメタクリレート又はカーボネートの1種又は複数の所望される程度の変換が達成されたら、反応を中止し、その後標的のグリセロールカーボネートメタクリレートを含む反応生成物を、所望の純粋な状態のグリセロールカーボネートメタクリレートを得るために好適な後処理又は精製手順に供してもよい。そのような精製工程は、例えば、触媒を除去する又は失活させるための洗浄及び/又は中和、乾燥、吸着剤による処理、脱色及び/又は分留を含む場合がある。
【0035】
グリセロールカーボネートメタクリレート及び化学線硬化性オリゴマーを含有する硬化性組成物
本発明の一態様は、グリセロールカーボネートメタクリレート及び少なくとも1種の化学線硬化性オリゴマー(例えば、少なくとも1種の(メタ)アクリレート官能化オリゴマー)から構成される硬化性組成物を提供する。そのような組成物は、光硬化性又は放射線硬化性、すなわちUV光、可視光又は電子線照射等の化学線への曝露によって硬化可能であってもよい。グリセロールカーボネートメタクリレートは、反応性希釈剤として機能し、少なくとも1種の化学線硬化性オリゴマーの粘度を低減させることができる。そのようなオリゴマーは、特に分子量が比較的高い場合に高い粘度を有する傾向にあるか、又は更には室温(例えば、25℃)でニート形態で固体である場合がある。グリセロールカーボネートメタクリレートは、硬化性組成物を、溶媒の非存在下であっても硬化性組成物が好適な適用温度で基板表面に容易に適用可能になり、比較的薄い均一な層を形成するのに十分に低粘度にすることができる。したがって、特定の実施形態によると、少なくとも1種の化学線硬化性オリゴマーは、25℃でニート形態で少なくとも10,000cPSの粘度を有してもよく、グリセロールカーボネートメタクリレートは、硬化性組成物に25℃で10,000cPs未満(好ましくは2500cPs未満)の粘度を与えるのに有効な量で硬化性組成物中に存在する。
【0036】
硬化性組成物中のグリセロールカーボネートメタクリレートの量は、硬化性組成物とそこから得られる硬化生成物の両方で所望される特性に応じて、所望されうる通り変化してもよい。例えば、限定することなく、硬化性組成物は、硬化性組成物の全質量に対して合計で少なくとも1質量%、少なくとも2質量%、少なくとも5質量%、少なくとも10質量%、少なくとも15質量%、少なくとも20質量%、又は少なくとも25質量%のグリセロールカーボネートメタクリレートを含んでもよい。グリセロールカーボネートメタクリレートの最大量は、本発明の硬化性組成物が、少なくともある程度の量の化学線硬化性オリゴマー、及び場合により他の成分(例えば、光開始剤並びに/又は化学線硬化性オリゴマー及びグリセロールカーボネートメタクリレート以外の反応性物質、例えば1種又は複数の化学線硬化性モノマー)も追加的に含有することを念頭に置き、必ずしも限定されない。例えば、硬化性組成物は、硬化性組成物の全質量に対して合計で最大95質量%、最大90質量%、最大85質量%、最大80質量%、又は最大75質量%のグリセロールカーボネートメタクリレートを含んでもよい。グリセロールカーボネートメタクリレートの含有量は、最終用途に応じて異なるが、典型的に硬化性組成物の全質量に対して10~65質量%である。特定の実施形態によると、硬化性組成物は、硬化性組成物の全質量に対して20~30質量%のグリセロールカーボネートメタクリレートから構成される。
【0037】
化学線硬化性オリゴマー
化学線硬化性オリゴマー(例えば、(メタ)アクリレート官能化オリゴマー)の量は、使用されるオリゴマーの1又は複数の種類、及び硬化性組成物とそこから得られる硬化生成物の両方で所望される特性に応じて、所望されうる通り変化してもよい。例えば、限定することなく、硬化性組成物は、硬化性組成物の全質量に対して合計で少なくとも1質量%、少なくとも2質量%、少なくとも5質量%、少なくとも10質量%、少なくとも15質量%、少なくとも20質量%、又は少なくとも25質量%の化学線硬化性オリゴマー(例えば、(メタ)アクリレート官能化オリゴマー)を含んでもよい。化学線硬化性オリゴマー(例えば、(メタ)アクリレート官能化オリゴマー)の最大量は、本発明の硬化性組成物が、少なくともある程度の量のグリセロールカーボネートメタクリレート及び場合により他の成分(例えば、光開始剤並びに/又は化学線硬化性オリゴマー及びグリセロールカーボネートメタクリレート以外の反応性物質、例えば1種又は複数の化学線硬化性モノマー)も追加的に含有することを念頭に置き、必ずしも限定されない。例えば、硬化性組成物は、硬化性組成物の全質量に対して合計で最大95質量%、最大90質量%、最大85質量%、最大80質量%、又は最大75質量%の化学線硬化性オリゴマー(例えば、(メタ)アクリレート官能化オリゴマー)を含んでもよい。オリゴマーの含有量は最終用途に応じて異なるが、典型的に硬化性組成物の全質量に対して10~65質量%である。特定の実施形態によると、硬化性組成物は、硬化性組成物の全質量に対して20~30質量%のオリゴマーから構成される。
【0038】
本発明による硬化性組成物を生成するために、グリセロールカーボネートメタクリレートとの組合せで利用されてもよい化学線硬化性オリゴマーの種類は特に限定されず、当技術分野で公知のオリゴマーのいずれかが利用されてもよい。化学線硬化性オリゴマーは、化学線に曝露された際に硬化(反応)できる官能基を分子あたり少なくとも1種含有する任意のオリゴマー物質を含む。そのような化学線硬化性官能基は、エチレン性不飽和の部位(すなわち、炭素間二重結合、C=C)を含有する官能基、例えばアクリレート(シアノアクリレートを含む)、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイル、アリル、プロペニル及びビニル官能基、並びにこれらの組合せを含む。(メタ)アクリレート官能化オリゴマーの使用が特に有利である場合がある。そのような目的に特に好適なものは、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー(「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」、「ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」又は「カルバメート(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)、(メタ)アクリレート官能化エポキシオリゴマー(「エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)、(メタ)アクリレート官能化ポリエーテルオリゴマー(「ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)、(メタ)アクリレート官能化ポリジエンオリゴマー(「ポリジエン(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)、(メタ)アクリレート官能化ポリカーボネートオリゴマー(「ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)、並びに(メタ)アクリレート官能化ポリエステルオリゴマー(「ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)からなる群から選択される(メタ)アクリレート官能化オリゴマーである。特定の実施形態によると、オリゴマーの少なくとも1種は、メタクリレート官能化オリゴマーである。他の実施形態では、硬化性組成物中に存在するオリゴマーのすべてがメタクリレート官能化オリゴマーである。
【0039】
本発明の特定の態様によると、ポリマーマトリックスを形成するために硬化に供される際に、硬化性組成物はアミノ含有化合物(オリゴマー性又はモノマー性)を含有せず、本明細書で使用される場合、「アミノ」は第一級、第二級又は第三級アミン基を指すが、任意の他の種類の窒素含有基、例えばアミド、カルバメート(ウレタン)、尿素又はスルホンアミド基を含まない。したがって、硬化性組成物は、アミノ基を有するアミノ含有化合物と組み合わされることなく化学線に曝露され、硬化される1液系の形態であって、硬化プロセスの一部としてグリセロールカーボネートメタクリレートと化学的に相互作用する1液系の形態で利用されてもよい。
【0040】
(メタ)アクリレート官能化オリゴマーは、概してオリゴマーの性質であり、分子あたり少なくとも1種のアクリレート又はメタクリレート官能基を含有する有機物質と定義されてもよい。
【0041】
当技術分野で公知の(メタ)アクリレート官能化オリゴマーのいずれかが本発明の硬化性組成物に使用されてもよい。特定の実施形態によると、そのようなオリゴマーは、分子あたり2種以上の(メタ)アクリレート官能基を含有してもよい。そのようなオリゴマーの数平均分子量は、例えば約500~約50,000ダルトンまで幅広く異なってもよい。そのようなオリゴマーは、本発明の硬化性組成物を使用して調製される硬化ポリマーの数ある特性の中でも、可撓性、強度及び/又は弾性率を増強するために選択され、グリセロールカーボネートメタクリレート及び必要に応じてグリセロールカーボネートメタクリレート以外の1種又は複数の(メタ)アクリレート官能化モノマーと組み合わせて使用されてもよい。
【0042】
例示的なポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーとして、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの混合物若しくは合成等価物とヒドロキシル基末端ポリエステルポリオールとの反応生成物が挙げられる。反応プロセスは、特にポリエステルポリオールが二官能性の場合に、ポリエステルポリオールのヒドロキシル基のすべて又は本質的にすべてが(メタ)アクリレート化されるように行われてもよい。ポリエステルポリオールは、ポリヒドロキシル官能性成分(特に、ジオール)とポリカルボン酸官能性化合物(特に、ジカルボン酸及び無水物)の重縮合反応によって製造されてもよい。ポリヒドロキシル官能性及びポリカルボン酸官能性成分は、それぞれ直鎖状、分岐状、脂環式又は芳香族構造を有してもよく、個々に又は混合物として使用されてもよい。
【0043】
好適なエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーの例として、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの混合物とグリシジルエーテル又はエステル、例えばビスフェノール化合物及びそれらのオリゴマーのグリシジルエーテルとの反応生成物が挙げられる。
【0044】
好適なポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマーとして、これらに限定されないが、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はそれらの合成等価物若しくは混合物と、ポリエーテルポリオールであるポリエーテルオール(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコール)との縮合反応生成物が挙げられる。好適なポリエーテルオールは、エーテル結合及び末端ヒドロキシル基を含有する直鎖状又は分岐状物質であってもよい。ポリエーテルオールは、テトラヒドロフラン又はアルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド)等の環式エーテルと出発分子の開環重合によって調製されてもよい。好適な出発分子として、水、ポリヒドロキシル官能性材料、ポリエステルポリオール及びアミンが挙げられる。
【0045】
本発明の硬化性組成物に使用できるポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」と称されることもある)として、(メタ)アクリレート末端基でキャップされた脂肪族及び/又は芳香族ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオール、並びに脂肪族及び/又は芳香族ポリエステルジイソシアネート及びポリエーテルジイソシアネートに基づくウレタンが挙げられる。好適なポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとして、例えば脂肪族ポリエステルベースのウレタンジ及びテトラアクリレートオリゴマー、脂肪族ポリエーテルベースのウレタンジ及びテトラアクリレートオリゴマー、並びに脂肪族ポリエステル/ポリエーテルベースのウレタンジ及びテトラアクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0046】
種々の実施形態では、ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、脂肪族及び/又は芳香族ジイソシアネートを、OH基末端ポリエステルポリオール(芳香族、脂肪族及び脂肪族/芳香族混合ポリエステルポリオールを含む)、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリオルガノシロキサンポリオール(例えば、ポリジメチルシロキサンポリオール)若しくはポリジエンポリオール(例えば、ポリブタジエンポリオール)、又はそれらの組合せと反応させてイソシアネート官能化オリゴマーを形成し、次いでそれをヒドロキシル官能化(メタ)アクリレート、例えばヒドロキシエチルアクリレート又はヒドロキシエチルメタクリレートと反応させ、末端(メタ)アクリレート基を提供することによって調製されてもよい。例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、分子あたり2、3、4以上の(メタ)アクリレート官能基を含有してもよい。また、代替的な合成手法を使用して、例えば前述のポリオールのいずれかをイソシアネート官能化(メタ)アクリレート(例えば、ジイソシアネートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの1:1反応生成物)と反応させること等によって好適な(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマーを調製してもよい。
【0047】
好適なアクリル(メタ)アクリレートオリゴマー(当技術分野で「アクリルオリゴマー」と称されることもある)は、1又は複数の(メタ)アクリレート基(オリゴマーの末端にあってもよく、又はアクリル骨格に対するペンダントであってもよい)で官能化されているオリゴマーアクリル骨格を有する物質として記載されてもよいオリゴマーを含む。アクリル骨格は、アクリルモノマーの繰り返し単位から構成されるホモポリマー、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーであってもよい。アクリルモノマーは、C1~C6アルキル(メタ)アクリレート等の任意のモノマーの(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシル、カルボン酸及び/又はエポキシ基を有する(メタ)アクリレート等の官能化(メタ)アクリレートであってもよい。アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーは、当技術分野で公知の任意の手順を使用して、例えば、その少なくとも一部がヒドロキシル、カルボン酸及び/又はエポキシ基で官能化されているモノマー(例えばヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート)をオリゴマー化することによって官能化オリゴマー中間体を得、次いでそれを1又は複数の(メタ)アクリレート含有反応物と反応させ、所望の(メタ)アクリレート官能基を導入することによって調製されてもよい。
【0048】
化学線硬化性モノマー
硬化性組成物は、グリセロールカーボネートメタクリレート以外の少なくとも1種の化学線硬化性モノマー(例えば、(メタ)アクリレート官能化モノマー)を追加的に含んでもよい。化学線硬化性モノマーは、化学線に曝露された際に硬化(反応)できる官能基を分子あたり少なくとも1種含有する任意のモノマー性(非オリゴマー性)物質を含む。そのような化学線硬化性官能基は、エチレン性不飽和の部位(すなわち、炭素間二重結合、C=C)を含有する官能基、例えばアクリレート(シアノアクリレートを含む)、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイル、アリル、プロペニル及びビニル官能基、並びにこれらの組合せを含む。(メタ)アクリレート官能化モノマーの使用が特に有利である。
【0049】
例えば、特定の実施形態によると、硬化性組成物は、追加的にグリセロールカーボネートメタクリレート以外の少なくとも1種のメタクリレート官能化モノマーから構成される。しかし他の実施形態では、硬化性組成物は、1種又は複数のアクリレート官能化モノマー及び1種又は複数のメタクリレート官能化モノマーを含んでもよい。
【0050】
(メタ)アクリレート官能化モノマーは、概して非オリゴマーの性質であり、分子あたり少なくとも1種のアクリレート又はメタクリレート官能基を含有する有機物質と定義されてもよい。本発明の特定の態様によると、使用される(メタ)アクリレート官能化モノマーは、分子量が比較的低くてもよい(例えば、100~1000ダルトンの数平均分子量)。
【0051】
本発明の硬化性組成物は、例えば分子あたり2種以上の(メタ)アクリレート官能基を含有する(メタ)アクリレート官能化モノマーを少なくとも1種含んでもよい。分子あたり2種以上の(メタ)アクリレート官能基を含有する有用な(メタ)アクリレート官能化モノマーの例として、多価アルコール(分子あたり2個以上、例えば2~6個のヒドロキシル基を含有する有機化合物)のアクリレート及びメタクリレートエステルが挙げられる。好適な多価アルコールの特定の例として、C2~20アルキレングリコール(炭素鎖が分岐状であるC2~10アルキレン基を有するグリコールが好ましい場合がある;例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,12-ドデカンジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ビスフェノール及び水素化ビスフェノール、並びにそれらのアルコキシル化(例えば、エトキシル化及び/又はプロポキシル化)誘導体)、ジエチレングリコール、グリセリン、アルコキシル化グリセリン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、アルコキシル化トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、アルコキシル化ジトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、アルコキシル化ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、アルコキシル化ジペンタエリトリトール、シクロヘキサンジオール、アルコキシル化シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、アルコキシル化シクロヘキサンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、アルコキシル化ノルボルネンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、アルコキシル化ノルボルネンジメタノール、芳香環を含有するポリオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールエチレンオキシド付加物、ビスフェノールエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールエチレンオキシド付加物、ビスフェノールプロピレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールプロピレンオキシド付加物、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールプロピレ
ンオキシド付加物、糖アルコール及びアルコキシル化糖アルコールが挙げられる。そのような多価アルコールは、それらが分子あたり少なくとも2種の(メタ)アクリレート官能基を含有することを条件として、完全に又は部分的にエステル化されてもよい((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、塩化(メタ)アクリロイル等で)。本明細書で使用される場合、「アルコキシル化」という用語は、1種又は複数のオキシアルキレン部分(例えば、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン部分)を含有する化合物を指す。オキシアルキレン部分は、一般構造-R-O-(式中、Rは-CH2CH2-又は-CH2CH(CH3)-等の二価脂肪族部分である)に対応する。例えば、アルコキシル化化合物は、分子あたり1~25個のオキシアルキレン部分を含有してもよい。
【0052】
分子あたり2種以上の(メタ)アクリレート官能基を含有する例示的な(メタ)アクリレート官能化モノマーとして、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジメタクリレート(600は、ポリエチレングリコール部分のおおよその数平均分子量を指す)、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリブタジエンジアクリレート、メチルプロパンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、エトキシル化2ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化3ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化3ビスフェノールAジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、エトキシル化10ビスフェノールAジメタクリレート(「エトキシル化」に続く数字は、分子あたりのオキシアルキレン部分の数平均である)、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化4ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化6ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化8ビスフェノールAジメタクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシル化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ドデカンジアクリレート、エトキシル化4ビスフェノールAジアクリレート;エトキシル化10ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジメタクリレート、ポリプロピレングリコール(400)ジメタ
クリレート、金属ジアクリレート、変性金属ジアクリレート、金属ジメタクリレート、ポリエチレングリコール(1000)ジメタクリレート、メタクリル化ポリブチレン、プロポキシル化2ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシル化30ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化30ビスフェノールAジアクリレート、アルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、エトキシル化2ビスフェノールAジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化4ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(1000)ジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、例えばプロポキシル化2ネオペンチルグリコールジアクリレート、アルコキシル化脂肪族アルコールのジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エトキシル化20トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、エトキシル化3トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化3トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化6トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化6トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化9トリメチロールプロパントリアクリレート、アルコキシル化三官能性アクリレートエステル、三官能性メタクリレートエステル、三官能性アクリレートエステル、プロポキシル化3グリセリルトリアクリレート、プロポキシル化5.5グリセリルトリアクリレート、エトキシル化15トリメチロールプロパントリアクリレート、三官能性リン酸エステル、三官能性アクリル酸エステル、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシル化4ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールポリオキシエチレンテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート及びペンタアクリレートエステルを挙げることができる。
【0053】
本発明の硬化性組成物は、グリセロールカーボネートメタクリレートに加え、分子あたり1個のアクリレート又はメタクリレート官能基を含有する1種又は複数の(メタ)アクリレート官能化モノマー(本明細書で「モノ(メタ)アクリレート官能化化合物」と称される)を含んでもよい。当技術分野で公知の化合物のいずれかが使用されてもよい。
【0054】
好適なモノ(メタ)アクリレート官能化モノマーの例として、これらに限定されないが、脂肪族アルコールのモノ(メタ)アクリレートエステル(脂肪族アルコールは、直鎖、分岐状又は脂環式であってもよく、1個のヒドロキシル基のみが(メタ)アクリル酸でエステル化されることを条件として、モノアルコール、ジアルコール又はポリアルコールであってもよい);芳香族アルコールのモノ(メタ)アクリレートエステル(例えば、アルキル化フェノールを含むフェノール);アルキルアリールアルコールのモノ(メタ)アクリレートエステル(例えばベンジルアルコール);オリゴマー性及びポリマー性グリコール、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレートエステル;グリコール及びオリゴグリコールのモノアルキルエーテルのモノ(メタ)アクリレートエステル;アルコキシル化(例えば、エトキシル化及び/又はプロポキシル化)脂肪族アルコールのモノ(メタ)アクリレートエステル(脂肪族アルコールは、直鎖、分岐状又は脂環式であってもよく、アルコキシル化脂肪族アルコールの1個のヒドロキシル基のみが(メタ)アクリル酸でエステル化されることを条件として、モノアルコール、ジアルコール又はポリアルコールであってもよい);アルコキシル化(例えば、エトキシル化及び/又はプロポキシル化)芳香族アルコールのモノ(メタ)アクリレートエステル(例えば、アルコキシル化フェノール);カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0055】
以下の化合物は、本発明の硬化性組成物で使用するのに好適なモノ(メタ)アクリレート官能化モノマーの特定の例である:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-及び3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-及び3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アルコキシル化テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート:2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート:ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、アルコキシル化フェノール(メタ)アクリレート、アルコキシル化ノニルフェノール(メタ)アクリレート、環式トリメチロールプロパンホルマル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、エトキシル化ラウリル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシルエチル-ブチルウレタン(メタ)アクリレート、3-(2-ヒドロキシアルキル)オキサゾリジノン(メタ)アクリレート及びこれらの組合せ。
【0056】
本発明の硬化性組成物に使用されてもよい他の種類の化学線硬化性モノマーとして、これらに限定されないが、シアノアクリレート、ビニルエステル、メチレンマロネート及び/又はメチレンベータジケトンを含む1,1-ジエステル-1-アルケン、1,1-ジケト-1-アルケン、1-エステル-1-ケト-1-アルケン並びにイタコネートが挙げられる。
【0057】
安定剤
一般的に、十分な保存安定性及び貯蔵寿命を提供するために、本発明の硬化性組成物に1種又は複数の安定剤を含むことが望ましい。有利には、1種又は複数のそのような安定剤は、硬化性組成物の成分の(メタ)アクリレート官能基の処理中の望ましくない反応を防止するために、硬化性組成物の調製に使用される方法の各段階で存在する。本明細書で使用される場合、「安定剤」という用語は、化学線の非存在下で、組成物中に存在する化学線硬化性官能基の反応又は硬化を遅らせる又は予防する化合物又は物質を意味する。しかし、組成物が化学線に曝露された際に硬化可能であり続ける(すなわち、安定剤が組成物の放射線硬化を防げない)ような安定剤の量及び種類を選択することが有利である。典型的に、本発明の目的のために有効な安定剤は、フリーラジカル安定剤(すなわち、フリーラジカル反応を阻害することによって機能する安定剤)と分類される。
【0058】
(メタ)アクリレート官能化化合物に関連して当技術分野で公知の安定剤のいずれかが本発明で利用されてもよい。キノンは、本発明の文脈で利用できる特に好ましい種類の安定剤である。本明細書で使用される場合、「キノン」という用語は、キノンとハイドロキノンの両方、並びにヒドロキノンのモノアルキル、モノアリール、モノアラルキル及びビス(ヒドロキシアルキル)エーテル等のそれらのエーテルを含む。ヒドロキノンモノメチルエーテルは、利用されてもよい好適な安定剤の例である。
【0059】
硬化性組成物中の安定剤の濃度は、使用のために選択される特定の安定剤又は安定剤の組合せ、更に所望される安定化の程度、及び安定剤の非存在下での硬化性組成物中の成分の分解に対する敏感性に応じて変化する。しかし、典型的に、硬化性組成物は、5~5000ppmの安定剤を含むように配合される。本発明の特定の実施形態によると、硬化性組成物を製造するために利用される方法の各段階の間、反応混合物は、少なくともある程度の安定剤、例えば少なくとも10ppmの安定剤を含有する。
【0060】
光開始剤
本発明の特定の実施形態では、本明細書に記載される硬化性組成物は、少なくとも1種の光開始剤を含み、放射エネルギーによって硬化可能である。光開始剤は、放射線(例えば、化学線)への曝露時に、硬化性組成物中に存在する重合性有機物質の反応及び硬化を開始する種を形成する任意の種類の物質とみなされてもよい。好適な光開始剤は、フリーラジカル光開始剤とカチオン性光開始剤の両方及びそれらの組合せを含む。
【0061】
フリーラジカル重合開始剤は、照射されるとフリーラジカルを形成する物質である。フリーラジカル光開始剤の使用が特に好ましい。本発明の硬化性組成物に使用するのに好適なフリーラジカル光開始剤の非限定的な種類として、例えばベンゾイン、ベンゾインエーテル、アセトフェノン、ベンジル、ベンジルケタール、アントラキノン、ホスフィンオキシド、α-ヒドロキシケトン、フェニルグリオキシレート、α-アミノケトン、ベンゾフェノン、チオキサントン、キサントン、アクリジン誘導体、フェナゼン(phenazene)誘導体、キノサリン誘導体及びトリアジン化合物が挙げられる。
【0062】
光開始剤の量は、数ある要因の中でも、選択される光開始剤、硬化性組成物中に存在する重合性種の量及び種類、使用される放射線源及び照射条件に応じて適切でありうるように異なってもよい。しかし、典型的に、光開始剤の量は、硬化性組成物の全質量に対して0.05質量%~5質量%、好ましくは0.1質量%~2質量%であってもよい。
【0063】
他の添加剤
本発明の硬化性組成物は、上述の原料の代わりに又はそれに加え、必要に応じて1種又は複数の添加剤を含有してもよい。そのような添加剤として、これらに限定されないが、酸化防止剤/光安定剤、光遮断剤/吸収剤、重合阻害剤、発泡阻害剤、流動又はレベリング剤、着色剤、顔料、分散剤(湿潤剤、界面活性剤)、スリップ添加剤、充填剤、連鎖移動剤、チキソトロピー剤、マット感付与剤、衝撃改質剤、ワックス又はコーティング、封止剤、接着剤、成型、付加製造(例えば、3D印刷)若しくはインク技術で従来的に利用される添加剤のいずれかを含む他の種々の添加剤が挙げられる。
【0064】
本発明の硬化性組成物は、特に、硬化性組成物が硬化性組成物の光硬化を含む三次元印刷方法における樹脂として使用される場合、1種又は複数の光遮断剤(当技術分野で吸収剤と称されることもある)を含んでもよい。光遮断剤は、例えば非反応性顔料及び色素を含む三次元印刷技術で公知の任意の物質であってもよい。光遮断剤は、例えば可視光遮断剤又はUV光遮断剤であってもよい。好適な光遮断剤の例として、これらに限定されないが、二酸化チタン、カーボンブラック及び有機紫外光吸収剤、例えばヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、オキサニリド、ベンゾフェノン、チオキサントン、ヒドロキシフェニルトリアジン、Sudan I、ブロモチモールブルー、2,2'-(2,5-チオフェンジイル)ビス(5-tert-ブチルベンゾオキサゾール)(商品名「Benetex OB Plus」で販売される)及びベンゾトリアゾール紫外光吸収剤が挙げられる。
【0065】
光遮断剤の量は、所望される又は特定の用途に適切でありうるように異なってもよい。一般的に、硬化性組成物が光遮断剤を含有する場合、光遮断剤は、硬化性組成物の質量に対して0.001~10質量%の濃度で存在する。
【0066】
有利には、本発明の硬化性組成物は、溶媒不含であるように、すなわち非反応性の揮発性物質(大気圧で150℃以下の沸点を有する物質)を含まないように配合されてもよい。例えば、本発明の硬化性組成物は、非反応性溶媒をあまり又は全く含有しない、例えば硬化性組成物の全質量に対して10%未満、又は5%未満、又は1%未満、又は更には0%の非反応性溶媒を含有してもよい。本明細書で使用される場合、非反応性溶媒という用語は、本明細書に記載される硬化性組成物を硬化するために使用される化学線への曝露時に反応しない溶媒を意味する。
【0067】
本発明の他の有利な実施形態によると、硬化性組成物は、1成分又は1液系として使用可能であるように配合される。すなわち、硬化性組成物は直接硬化され、硬化される前に別の成分又は第2の部分(例えば、米国特許出願公開第2017/0260418A1号に定義されるアミンモノマー)と組み合わされない。
【0068】
硬化性組成物の使用
前述のように、本発明による硬化性組成物は、1種又は複数の光開始剤を含有してもよく、光硬化性であってもよい。本発明の特定の他の実施形態では、本明細書に記載される硬化性組成物は開始剤を含まず、電子線エネルギーで(少なくとも部分的に)硬化可能である。他の実施形態では、本明細書に記載される硬化性組成物は、加熱時に又は加速剤の存在下で分解し、化学的に(すなわち、硬化性組成物を放射線に曝露する必要なく)硬化可能な少なくとも1種のフリーラジカル開始剤を含む。加熱時に又は加速剤の存在下で分解する少なくとも1種のフリーラジカル開始剤は、例えば過酸化物又はアゾ化合物を含んでもよい。この目的のために好適な過酸化物は、少なくとも1種のペルオキシ(-O-O-)部分、例えばジアルキル、ジアリール及びアリール/アルキルペルオキシド、ヒドロペルオキシド、過炭酸塩、ペルエステル、過酸、アシルペルオキシド等を含有する任意の化合物、特に任意の有機化合物を含んでもよい。少なくとも1種の加速剤は、例えば少なくとも1種の第三級アミン及び/又は金属含有塩(例えば鉄、コバルト、マンガン、バナジウム等及びこれらの組合せ等の遷移金属のカルボン酸塩)に基づく1種若しくは複数の他の還元剤を含んでもよい。加速剤は、硬化性組成物を加熱する又は焼成する必要なく硬化性組成物の硬化が達成されるように、フリーラジカル開始剤の分解を室温又は室温で促進し、活性フリーラジカル種を生じるように選択されてもよい。他の実施形態では、加速剤は存在せず、硬化性組成物は、フリーラジカル開始剤の分解を引き起こし、硬化性組成物中に存在する重合性化合物の硬化を開始するフリーラジカル種を生じるのに有効な温度に加熱される。
【0069】
有利には、本発明の硬化性組成物は、溶媒不含であるように、すなわち非反応性の揮発性物質(大気圧で150℃以下の沸点を有する物質)を含まないように配合されてもよい。例えば、本発明の硬化性組成物は、非反応性溶媒をあまり又は全く含有しない、例えば硬化性組成物の全質量に対して10%未満、又は5%未満、又は1%未満、又は更には0%の非反応性溶媒を含有してもよい。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、硬化性組成物は25℃で液体である。本発明の種々の実施形態では、本明細書に記載される硬化性組成物は、Brookfield粘度計、DV-II型を使用し、27スピンドル(スピンドル速度は、粘度に応じて典型的に20~200rpmで変化する)を使用し、25℃で測定して10,000mPa.s(cP)未満、又は5000mPa.s(cP)未満、又は4000mPa.s(cP)未満、又は3000mPa.s(cP)未満、又は2500mPa.s(cP)未満、又は2000mPa.s(cP)未満、又は1500mPa.s(cP)未満、又は1000mPa.s(cP)未満、又は更には500mPa.s(cP)未満の粘度を有するように配合される。本発明の有利な実施形態では、硬化性組成物の粘度は、25℃で200~5000mPa.s(cP)、又は200~2000mPa.s(cP)、又は200~1500mPa.s(cP)、又は200~1000mPa.s(cP)である。粘度が比較的高いと、硬化性組成物が25℃より高く加熱される用途で、例えば加熱樹脂バットを有する機械を利用する三次元印刷操作等で良好な性能がもたらされる場合がある。
【0071】
本明細書に記載される硬化性組成物は、フリーラジカル重合、カチオン性重合又は他の種類の重合による硬化に供される組成物であってもよい。特定の実施形態では、硬化性組成物は光硬化される(すなわち、光、特に可視光又はUV光等の化学線への曝露によって硬化される)。硬化性組成物の最終用途として、これらに限定されないが、インク、コーティング、接着剤、付加製造用樹脂(例えば、3D印刷用樹脂)、成型用樹脂、封止剤、複合材、帯電防止層、電子用途、再利用可能材料、刺激を検知する及び応答することができる知的材料、包装材料、パーソナルケア物品、農業、水若しくは食品処理、又は畜産で使用される物品、及びバイオメディカル材料が挙げられる。したがって、本発明の硬化性組成物は、生体適合性物品の生成に有用である。そのような物品は、例えば高い生体適合性、低い細胞毒性及び/又は低い抽出分を示す場合がある。
【0072】
本明細書に記載される硬化性組成物から調製される硬化組成物は、例えば三次元物品(三次元物品は、硬化組成物から本質的になってもよく、それからなってもよい)、コーティング品(基材が硬化組成物の1つ又は複数の層でコーティングされ、これは基材が硬化組成物で完全に覆われる封入品を含む)、積層若しくは接着品(物品の第1の成分が、硬化組成物によって第2の成分に積層又は接着される)、複合品若しくは印刷品(硬化組成物を使用し、図形等が紙、プラスチック又はM含有基材等の基材に刻印される)で使用されてもよい。
【0073】
本発明による硬化性組成物の硬化は、フリーラジカル及び/又はカチオン性重合等の任意の好適な方法によって行われてもよい。フリーラジカル開始剤(例えば、光開始剤、過酸化物開始剤)等の1種又は複数の開始剤が硬化性組成物中に存在してもよい。硬化前に、硬化性組成物は、任意の公知の従来的な方法、例えば噴霧、ナイフコーティング、ローラーコーティング、キャスティング、ドラムコーティング、浸漬等及びこれらの組合せによって基材表面に塗布されてもよい。転写プロセスを使用する間接的塗布も使用可能である。基材は、任意の商業的に関連のある基材、例えば高表面エネルギー基材又は低表面エネルギー基材、例えばそれぞれ金属基材又はプラスチック基材であってもよい。基材は、金属、紙、厚紙、ガラス、ポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等の熱可塑性樹脂及びこれらのブレンド、複合材、木材、革、及びこれらの組合せを含んでもよい。接着剤として使用される場合、硬化性組成物は2つの基材の間に配置されて硬化されてもよく、それにより硬化組成物によって基材が一緒に結合し、接着品がもたらされる。また、本発明による硬化性組成物は、バルク方式で形成又は硬化されてもよい(例えば、硬化性組成物が好適な金型に鋳造され、その後硬化されてもよい)。
【0074】
硬化は、硬化性組成物を加熱すること、並びに/又は硬化性組成物を可視光若しくはUV光、赤外線照射及び/若しくは電子線照射等の放射線源に曝露すること等により、硬化性組成物にエネルギーを供給することによって加速又は促進されてもよい。したがって、硬化組成物は、硬化によって形成された硬化性組成物の反応生成物とみなされてもよい。硬化性組成物は、化学線への曝露によって部分的に硬化されてもよく、さらなる硬化は、部分的に硬化された物品を加熱することによって達成される。例えば、硬化性組成物から形成された物品(例えば、3D印刷品)は、40℃~120℃の温度で5分~12時間の期間加熱されてもよい。
【0075】
本発明による硬化性組成物の複数の層が基材表面に塗布されてもよい。複数の層は、同時に硬化されてもよく(例えば、単回線量の放射線への曝露によって)、又は各層が硬化性組成物のさらなる層の塗布前に連続的に硬化されてもよい。
【0076】
本明細書に記載される硬化性組成物は、三次元印刷用途における樹脂として使用可能である。三次元(3D)印刷(付加製造とも称される)は、構築材料の堆積によって3Dデジタルモデルが製造される方法である。物体のコンピュータ支援設計(CAD)データを利用し、3D物体の断面に対応する2次元(2D)層又はスライスを逐次的に構築することにより、3D印刷された物体が創出される。光造形(SL)は、液体樹脂が放射線への選択的曝露によって固化され、各2D層を形成する付加製造の1種である。放射線は、電磁波又は電子線の形態であってもよい。最も一般的に適用されるエネルギー源は、紫外、可視又は赤外線照射である。
【0077】
光造形及び他の光硬化性3D印刷方法は、典型的に低強度の光源を適用して光硬化性樹脂の各層を照射し、所望の物品を形成する。結果として、印刷品の光硬化性樹脂の重合速度論及び曲げ強度(生強度)は、特定の光硬化性樹脂が照射された際に十分に重合(硬化)し、3D印刷プロセス中にその完全性を保持するのに十分な設計材料曲げ強度を有するかどうかの重要な評価基準である。前述のように、アクリレート及びメタクリレートは典型的に、二重結合のアルファ位にあるメタクリレートのメチル基による立体障害、及び電荷誘導によって説明されうる異なる反応性を有し、これにより結果的に重合速度が妨げられる。しかし、グリセロールカーボネートメタクリレートは、同様の重合条件でメチルメタクリレートより1.7倍速く、グリシジルメタクリレートより7倍速い反応性速度を有すると報告されている(Camaraら、European Polymer Journal 61 (2014) 133~144)。
【0078】
特定の構造を有するアクリレートと、その対応するメタクリレートの共重合における放射線硬化の速度論は、一般的に、メタクリレートの速度論が典型的に優勢であるため、個々のアクリレート及びメタクリレートの速度論的速度の平均である速度論的速度を生じない。しかし、グリセロールカーボネートメタクリレートは、その反応性が非典型的であることが見出されており、本発明者らは、グリセロールカーボネートメタクリレート(GCMA)が、メタクリレート官能化化合物に基づく硬化性組成物に有効に使用され、硬化性組成物の放射線誘導硬化速度を上昇させ、硬化性組成物に由来する硬化生成物の曲げ強度を改善することができ、したがってそのようなGCMA変性配合物が、3D印刷用途で特に有用になることを発見した。すなわち、GCMAは、1種又は複数の他のメタクリレートを含有する3D印刷樹脂組成物に使用され、遅反応性のメタクリレートが存在するにもかかわらず、所定の期間内で達成される変換度を改善することができる。
【0079】
したがって、本明細書に記載される本発明の硬化性組成物は、3D印刷用樹脂配合物、すなわち3D印刷技術を使用する三次元物品の製造における使用が意図される組成物として特に有用である。そのような三次元物品は、自立性/自己支持性であってもよく、硬化された本発明による組成物から本質的になる又はそれからなってもよい。また、三次元物品は、前述の硬化組成物、及びそのような硬化組成物以外の1種又は複数の材料から構成される少なくとも1種のさらなる成分(例えば、金属成分又は熱可塑性樹脂成分)から本質的になる、又はそれからなる少なくとも1種の成分を含む複合材であってもよい。本発明の硬化性組成物は、デジタル光印刷(DLP)で特に有用であるが、他の種類の三次元(3D)印刷方法も本発明の硬化性組成物を使用して実施可能である(例えば、SLA、インクジェット、マルチジェット印刷、圧電印刷、化学線硬化型押出成形、及びゲル堆積印刷)。本発明の硬化性組成物は、本発明の硬化性組成物から形成される物品の足場又は支持材として機能する別の材料とともに三次元印刷操作で使用されてもよい。
【0080】
したがって、本発明の硬化性組成物は、三次元物体の構築が段階的に又は層ごとに行われる方法を含む種々の三次元製作又は印刷技術の実施において有用である。そのような方法では、層形成は、可視、UV又は他の化学線照射等の放射線への曝露の作用下での硬化性組成物の凝固(硬化)によって行われてもよい。例えば、新たな層は、成長する物体の上面又は成長する物体の下面に形成されてもよい。本発明の硬化性組成物はまた、有利には付加製造によって三次元物体を生成するための方法であって、連続的に行われる方法に利用されてもよい。例えば、物体は液体界面から生成されてもよい。この種類の好適な方法は、当技術分野で「連続液体界面(又は界面相)生成物(又は印刷)」(「CLIP」)方法と称されることもある。そのような方法は、例えばその全開示の全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるWO2014/126830、WO2014/126834、WO2014/126837及びTumblestonら、「Continuous Liquid Interface Production of 3D Objects」、Science 347巻、6228号、1349~1352頁(2015年3月20日)に記載される。
【0081】
光造形が酸素透過型窓上で行われる場合、本発明による硬化性組成物を使用した物品の生成は、CLIP手法において、硬化物品が生成される際に、窓と硬化物品の表面の間の硬化性組成物の薄い未硬化層である酸素を含有する「デッドゾーン」を作成することによって可能な場合がある。そのようなプロセスでは、硬化性組成物は、硬化(重合)が分子酸素の存在によって阻害される場合に使用される。そのような阻害は、典型的に、例えばフリーラジカル機構によって硬化可能な硬化性組成物において観察される。所望されるデッドゾーンの厚さは、光子束並びに硬化性組成物の光学及び硬化特性等の種々の制御パラメータを選択することによって維持されてもよい。CLIPプロセスは、化学線(例えば、UV)画像(例えば、デジタル光処理イメージング装置によって生じる場合がある)の連続的なシーケンスを、液体形態で維持される硬化性組成物浴の下に位置する酸素透過化学線(例えば、UV)透過性窓を通して投射することによって進む。進行する(成長する)物品の下の液体界面は、窓の上に作成されるデッドゾーンによって維持される。硬化する物品は、デッドゾーンの上の硬化性組成物浴から連続的に引き抜かれ、硬化性組成物浴は、硬化され、成長する物品に組み込まれる硬化性組成物の量を補うように、さらなる分量の硬化性組成物を浴にフィードすることによって補充されてもよい。
【0082】
グリセロールカーボネートメタクリレート成分の毒性が比較的低いことを考慮すると、本発明の硬化性組成物は、歯科、補綴学、植込式デバイス、外科器具、並びに組織及び臓器補填の分野における用途等のバイオメディカル又は皮膚接触用途向けの物品の製作に特に有用である。したがって、一部の実施形態では、硬化性組成物から調製される物品は、物品を、毒性効果のリスクにある生体(例えば、動物若しくはヒト)と、又はそのような生体によって消費される物質(例えば、食品、飲料水、医薬品、パーソナルケア製品)と直接接触させる又は密接させる状況で、例えば医療及び歯科物品、パーソナルケア物品、玩具、食品、飲料及びパーソナルケア製品用包装、並びに食品、飲料及び水処理、農業及び畜産の分野で使用される物品に使用するためのものである。そのような最終用途では、硬化性組成物の他の成分は、当然ながら同様に比較的低い毒性(ヒト等の生体においてアレルギー、炎症性又は感作応答を誘発する傾向があまり又は全くないことを含む)を有するように選択されるべきである。
【0083】
本発明の態様
本発明の例示的な、非限定的な実施形態は、以下の通り要約することができる:
【0084】
態様1:グリセロールカーボネート(メタ)アクリレートを製造する方法であって、グリセロールモノ(メタ)アクリレートとジアルキルカーボネート及び環式アルキレンカーボネートからなる群から選択されるカーボネートとを触媒の存在下で反応させる工程を含む、方法。
【0085】
態様2:触媒がルイス酸又はルイス塩基から選択される、態様1に記載の方法。
【0086】
態様3:触媒がブレンステッド塩基性触媒である、態様1に記載の方法。
【0087】
態様4:触媒がアルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選択される、態様1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
態様5:カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される、態様1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
態様6:グリセロールモノ(メタ)アクリレートとカーボネートとを40~160℃の温度で反応させる、態様1から5のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
態様7:グリセロールモノ(メタ)アクリレートとカーボネートとを反応させる工程が液相中で行われる、態様1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
態様8:反応させる工程の間に共生成物アルコールが形成される、態様7に記載の方法。
【0092】
態様9:反応させる工程の間に液相から共生成物アルコールが除去される、態様8に記載の方法。
【0093】
態様10:カーボネートとグリセロールモノ(メタ)アクリレートとを、1:1~3:1のカーボネート:グリセロールモノ(メタ)アクリレートのモル比で反応させる、態様1から9のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
態様11:反応させる工程が重合阻害剤の存在下で行われる、態様1から10のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
態様12:グリセロールカーボネートメタクリレート及び少なくとも1種の化学線硬化性オリゴマーを含む、硬化性組成物(一態様によると、硬化性組成物は、アミノ基を含有する化学線硬化性オリゴマーを含まない)。
【0096】
態様13:少なくとも1種の化学線硬化性オリゴマーが、(メタ)アクリレート官能化ウレタンオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化エポキシオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリエーテルオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリジエンオリゴマー、(メタ)アクリレート官能化ポリカーボネートオリゴマー、及び(メタ)アクリレート官能化ポリエステルオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1種の(メタ)アクリレート官能化オリゴマーを含む、態様12に記載の硬化性組成物。
【0097】
態様14:少なくとも1種の(メタ)アクリレート化オリゴマーが、25℃でニート形態で少なくとも10,000cPSの粘度を有し、グリセロールカーボネートメタクリレートが、硬化性組成物に25℃で10,000cPs未満の粘度を与えるのに有効な量で存在する、態様12又は13に記載の硬化性組成物。
【0098】
態様15:硬化時に、グリセロールカーボネートメタクリレートの代わりにエトキシル化2ビスフェノールAジアクリレートモノマーが用いられていることを除き同一の組成を有する同様の硬化性組成物を硬化することによって得られる硬化ポリマーマトリックスに比べて、ASTM D638-14(タイプIV)によって測定して高い引張弾性率、及びASTM D256-10(2018)によって測定して高いノッチ付きアイゾッド耐衝撃性を有する硬化ポリマーマトリックスが得られる、態様12から14のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0099】
態様16:グリセロールカーボネートメタクリレート以外の少なくとも1種の化学線硬化性モノマーを更に含む、態様12から15のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0100】
態様17:シアノアクリレート、ビニルエステル、1,1-ジエステル-1-アルケン、1,1-ジケト-1-アルケン、1-エステル-1-ケト-1-アルケン及びイタコネートからなる群から選択される、グリセロールカーボネートメタクリレート以外の少なくとも1種の化学線硬化性モノマーを更に含む、態様12から16のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0101】
態様18:グリセロールカーボネートメタクリレート以外の少なくとも1種のメタクリレート官能化モノマーを更に含む、態様12から17のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0102】
態様19:グリセロールカーボネートメタクリレート及び少なくとも1種の(メタ)アクリレート官能化オリゴマーから構成されるが、アミノ含有化合物から構成されない硬化性組成物を放射線硬化する工程を含む、付加製造の方法。
【0103】
態様20:グリセロールカーボネートメタクリレートから構成される1液硬化性組成物を放射線硬化する工程を含む付加製造の方法であって、1液硬化性組成物がアミノ含有化合物を含まず、放射線硬化前にアミノ含有化合物と組み合わされない、方法。
【0104】
本明細書の範囲内で、明確且つ簡潔な明細書が記述可能になるような様態で実施形態が記載されたが、実施形態は、本発明から逸脱することなく種々に組み合わされる又は分離されてもよいことが意図され、理解される。例えば、本明細書に記載されるすべての好ましい特性は、本明細書に記載される本発明のすべての態様に適用可能であることが理解される。
【0105】
一部の実施形態では、本明細書における本発明は、本発明の基本的な及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない任意の要素又はプロセスステップを除外すると解釈されてもよい。更に、一部の実施形態では、本発明は、本明細書で指定されない任意の要素又はプロセスステップを除外すると解釈されてもよい。
【0106】
本発明は、特定の実施形態を参照して本明細書で例示及び記載されるが、本発明は、示される詳細に限定されることを意図しない。むしろ、特許請求の範囲内及びその等価物の範囲内で、本発明から逸脱することなく種々の修正が詳細になされてもよい。
【実施例
【0107】
(実施例1)
この実施例は、グリセロールカーボネートメタクリレート(GCMA)が、他のメタクリレートと共重合された場合に硬化速度を上昇させ、生(曲げ)強度を改善させるのに有効であることを実証する。
【0108】
以下の試験(Table 1(表1)、図1)は、FTIRスペクトルにおける810cm-1ピークの%透過率変化が、(メタ)アクリレート系のC=Oの面内及び面外振動運動に起因することを示す。すべての試料は、0.5%Irgacure(登録商標)819光開始剤を用いて調製された。イソボルニルアクリレート(IBOA/Sartomer社によってSR506として販売される)についてこのピークの変化を観察すると、UV光で5.1秒にわたって照射された場合、22.7%の規格化された%透過率(%TN)がもたらされ、最も遅い変換は、5.1秒で1.0%TNを示すイソボルニルメタクリレート(IBOMA/Sartomer社によってSR423として販売される)で達成された。ニートGCMAは、IBOAより遅い9.7%TNの変換率を示したが、これは評価されたすべての他のニートメタクリレートより速かった。IBOAとIBOMAの組合せは、ニートIBOMAに比べ変換のわずかな改善(1.6%TN)しかもたらさなかった。しかし、GCMAとIBOMAを組み合わせると、4.5%TNの変換率がもたらされ、これは速度論的に速いイソボルニルアクリレート/イソボルニルメタクリレート系の添加のほぼ3倍の変換の改善である。これらの結果は、メタクリレートを含有する系における3D印刷用途でのGCMAの使用は、遅反応性のメタクリレートの存在下での変換度を改善させるのに非常に有用であることを示す。
【0109】
【表1】
【0110】
テトラヒドロフリルアクリレート(THFA)、テトラヒドロフリルメタクリレート(THFMA)及びGCMAを含む同様の試験を行った。得られた結果をTable 2(表2)及び図2に示す。ここで、THFAは、UV光で5.1秒にわたって照射された場合に34.3%TNで最大の変換を示した一方、THFMAは0.9%TNの低減された変換を示した。ここでも、GCMAは9.7の%TNを示し、これはTHFMAより1桁大きい変換である。THFAとTHFMAの1:1ブレンドの速度論的重合速度は、0.8%TNでTHFMAが優勢であった。THFMAとGCMAの組合せは、ニートTHFMA又はTHFMAのブレンドに比べ3倍の改善である2.4%TNをもたらした。この並行試験で証明されるように、GCMAは遅反応性のメタクリレートの速度論を促進する。
【0111】
【表2】
【0112】
材料及び方法:
Sartomer社のSR506、SR423、SR203及びSR285製品、並びにグリセロールカーボネートメタクリレート(GCMA)と0.5% Irgacure(登録商標)819(BASF社)を使用して配合物を調製し、均一になるまで室温で混合した。配合物を、Dymax BlueWave LED Prime UVA付き全反射測定法(ATR)アクセサリを備えたNicolet IS50 FTIR分光光度計で光硬化した(Amax = 385nm)。光重合は、810cm-1で0.85秒の一定間隔での速度論データ収集と同時に開始した。
モノマー(すべてSartomer社の製品):
SR506 - イソボルニルアクリレート(IBOA)
SR423 - イソボルニルメタクリレート(IBOMA)
SR203 - テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)
SR285 - テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)
【0113】
(実施例2)
樹脂成分及び光開始剤をガラス試料瓶中で混合し、瓶を60℃のオーブン内のローラーに一晩置き、十分な混合を保証することによってUV硬化性配合物を調製した。混合後、配合物をシリコーン金型に注ぎ、金型をUV光源下に通すことによって硬化させ(例えば、395nm LEDに1分間あたり50フィートのベルト速度で)、引張試験、動的機械分析(DMA)及びノッチ付きアイゾッド耐衝撃性のための固体試験体を形成した。
【0114】
引張データの取得にはASTM D638(タイプIV)を使用し、ノッチ付きアイゾッド耐衝撃性にはASTM D256を使用し、ガラス転移温度(tan-δピークと定義される)及びガラス転移開始温度(G''ピークと定義される)にはTA Q800 DMAを使用した。粘度データの取得には温度制御コーン・プレート型粘度計を使用した。
【0115】
図3は、2種の3D印刷可能組成物:50wt%のCN929(Sartomer社によって販売されるウレタンアクリレートオリゴマー)と50wt%のSR348(Sartomer社によって販売されるエトキシル化2ビスフェノールAジアクリレートモノマー、モルあたり約2モルのオキシエチレンを含有する)のブレンド、及びエトキシル化BPAジアクリレートモノマーが50%GCMAで置き換えられた同様の組成物の硬化試験体の引張及び衝撃特性を比較するものである。多くの(メタ)アクリレートベースの3D印刷用組成物において、弾性率の増加は通常、耐衝撃性の減少を伴う。この場合、GCMAに変更することによって両方の特性の増加が同時に実現される。
【0116】
図4は、50wt%のモノマー及び50wt%のCN929(Sartomer社によって販売されるウレタンアクリレートオリゴマー)を含有する3種の3D印刷可能組成物の熱特性を比較するものである。典型的に、上記の例におけるSR348のCD590(Sartomer社によって販売される単官能性芳香族アクリレートモノマー)との交換等の、二官能性(メタ)アクリレートモノマーから同様の単官能性(メタ)アクリレートモノマーへの変更は、ガラス転移温度の減少を伴う。しかし、二官能性SR348を単官能性GCMAと交換すると、ガラス転移温度の25℃の増加が達成され、GCMA含有3D印刷可能組成物に由来する3D印刷パーツが、広範な上昇温度にわたってそれらの機械的特性を保持することが可能になる。
【0117】
図5は、CN2881(Sartomer社によって販売される高度に分岐した多官能性ポリエステルアクリレートオリゴマー)の室温の粘度が、増加された量のGCMAとブレンドすることによってどのように低減しうるかを示す。図6は、種々の(メタ)アクリレート官能化オリゴマーとGCMAの50:50ブレンドについての粘度対温度曲線を示す。CN8881は、Sartomer社によって販売される二官能性ウレタンアクリレートであり、CN9001は、Sartomer社によって販売される脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーであり、CN9030は、Sartomer社によって販売される二官能性脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーである。Table 3(表3)及びTable 4(表4)並びに図7及び図8は、種々の(メタ)アクリレート官能化モノマー(GCMAを含む)と(メタ)アクリレート官能化オリゴマー(CN8881- Sartomer社によって販売される二官能性ウレタンアクリレート)のブレンドから調製された硬化試料の引張強度及び引張弾性率を比較するものであり、様々な量のモノマーを使用して得られた結果を示す。
モノマー(すべてSartomer社の製品):
SR506 - イソボルニルアクリレート
SR339 - 2-フェノキシエチルアクリレート
SR217 - 4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
(実施例3)
グリセロールカーボネートメタクリレートの合成
オーバーヘッドスターラー、添加漏斗、熱電対及び空気スパージ管を備えた4ツ口フラスコに、グリセロールモノメタクリレート(200g、1.0当量、1.25mol)、4-メトキシフェノール(0.3g、定量的な生成物に対して500ppm)及び水酸化ナトリウム(0.54g、1500ppm)を添加した。ジエチルカーボネート(162.3g、1.1当量)を添加漏斗に装填し、大気をスパージ管を通してフラスコ中に、反応にわたって継続的にバブリングした。添加漏斗からフラスコに、24.3gのジエチルカーボネートを室温で添加し、フラスコを75℃に加熱したところで発熱が観察され、ポット温度が90℃の還流温度まで上昇した。反応混合物を85℃に冷却した後、ジエチルカーボネートのさらなるアリコート(105g)を5分間かけて添加した。85℃で更に30分後、残りのジエチルカーボネートを添加し、反応混合物を更に30分間、又はGC判定によって変換が80%を超えるまで撹拌した。反応混合物を60℃に冷却し、減圧(300トール)下に置いてエタノール副生成物を除去し、生成物への変換を1時間にわたって促進した。次いで、粗生成物混合物を減圧(<30トール)下で90℃に加熱し、残存ジエチルカーボネートを除去し、グリセロールカーボネートメタクリレート(227g、98%GC)を無色油状物として得た。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8