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特許7578678ユーティリティシステム資産の効率的なRUL解析を促進するための無関係フィルタの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ユーティリティシステム資産の効率的なRUL解析を促進するための無関係フィルタの使用
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20241029BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G06Q10/20
G05B23/02 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022514593
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 US2020039630
(87)【国際公開番号】W WO2021045835
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】16/560,629
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502303739
【氏名又は名称】オラクル・インターナショナル・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェザービー,エドワード・アール
(72)【発明者】
【氏名】グロス,ケニー・シィ
【審査官】前田 侑香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-150820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0140362(US,A1)
【文献】特開2011-232863(JP,A)
【文献】特開2014-032657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーティリティシステム資産の残存耐用年数(RUL)を推定するための方法であって、前記方法は、監視モード中に以下の動作を反復的に実行することを含み、前記以下の動作は、
前記ユーティリティシステム資産内のセンサから収集された現在の時系列信号のセットを受信することと、
推論モデルを使用して前記現在の時系列信号のセットの推定値を生成することと、
前記現在の時系列信号のセットの実際の値と前記推定値との間のペアワイズ差分演算を実行して残差を生成することと、
前記残差に対して逐次確率比検定(SPRT)を実行してSPRTアラームを生成することと、
無関係フィルタを前記SPRTアラームに適用してフィルタリングされたSPRTアラームを生成することとを含み、前記無関係フィルタは、類似のユーティリティシステム資産の以前の故障と相関しない信号に対するSPRTアラームを除去し、前記以下の動作は、
ロジスティック回帰モデルを使用して前記フィルタリングされたSPRTアラームに基づいて前記ユーティリティシステム資産のRULベースのリスク指標を計算することと、
前記リスク指標がリスク指標閾値を超えるとき、前記ユーティリティシステム資産を交換する必要があることを示す通知を生成することとを含む、方法。
【請求項2】
故障した追加のユーティリティシステム資産からの時系列信号に基づいて前記ロジスティック回帰モデルおよび前記無関係フィルタを定期的に更新することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
計算作業負荷を低減するために、前記RULベースの指標は、先行する時間間隔中に閾値の数を超えるフィルタリングされたSPRTアラームが生成されたときのみ、ユーティリティシステム資産について計算される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記監視モードに先行する推論トレーニングモード中に、
通常の故障なしの動作中に前記ユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号の推論トレーニングセットを受信することと、
前記推論トレーニングセットに基づいて前記時系列信号の値を予測するために前記推論モデルをトレーニングすることとをさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記監視モードに先行するRULトレーニングモード中に、
類似のユーティリティシステム資産が故障するまで稼働している間に、前記類似のユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号を含むRULトレーニングセットを受信することと、
前記類似のユーティリティシステム資産に関する関連する故障時間を受信することと、
前記推論モデルを使用して時系列信号のRULトレーニングセットの推定値を生成することと、
時系列信号の前記RULトレーニングセットの実際の値と前記推定値との間のペアワイズ差分演算を実行して残差を生成することと、
前記残差に対してSPRTを実行して関連するトリッピング周波数を有するSPRTアラームを生成することと、
前記SPRTアラームのトリッピング周波数と前記類似のユーティリティシステム資産の前記故障時間との間の相関関係に基づいて前記ユーティリティシステム資産のRULを予測するために前記ロジスティック回帰モデルをトレーニングすることとを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記RULトレーニングモード中に、以下の動作によって前記無関係フィルタを追加的に構成し、前記以下の動作は、
ユーティリティシステム資産が故障する前の時間間隔中に生成された関連するSPRTアラームを識別することと、
前記無関係フィルタを構成して関連しないSPRTアラームを除去することとを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ユーティリティシステム資産の前記RULを予測するために前記ロジスティック回帰モデルをトレーニング中に、前記方法は、
関連するSPRTアラームに紐付くSPRTアラームのトリッピング周波数のみを考慮する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ユーティリティシステム資産内のセンサから収集された前記時系列信号は、温度、電流、電圧、抵抗、キャパシタンス、振動、溶存ガス測定基準、冷却システムパラメータおよび制御信号のうちの1つまたは複数を指定する信号を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記推論モデルは、多変量状態推定技術(MSET)モデルを含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ユーティリティシステム資産は、電力変圧器を備える、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載の方法をプログラムを格納したメモリと、
前記プログラムを実行するためのプロセッサとを備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
開示される実施形態は、概して、電気的なユーティリティシステムの信頼性を改善するための技術に関する。より具体的には、開示される実施形態は、無関係フィルタを使用して、効率的な残存耐用年数(RUL: Remaining Useful Life)分析を促進し、現場におけるユーティリティシステム資産の信頼性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
電力変圧器などのユーティリティシステム資産は、発電施設から配電網内の消費者への中断のない電力送達を確実にするために重要である。発電所が故障する場合はいつでも、通常、消費者の需要を満たすために、配電網を通して交換電力を引き出すことができるので、配電網は、一般的に、発電資産の損失に関して「耐障害性」である。対照的に、電力変圧器の故障は、一般的に「停電」につながり、これは、少数のブロックを含む小さいエリア内の消費者に影響を及ぼす可能性があり、また、場合によっては、複数の平方マイルを含む大きいサービス領域全体にわたる消費者に影響を及ぼす可能性がある。また、単一の変圧器の故障は、潜在的に、非常に大きな電圧スパイクを配電網全体に伝搬させる可能性があり、これは、他の変圧器を故障させる可能性があり、数百平方マイルに影響が及ぶ大規模な地域的停電につながる可能性がある。変圧器爆発はまた、火災を引き起こす可能性があり、これは、かなりの資産の損傷、および命の損失をもたらす可能性がある。したがって、電力変圧器が故障する前に劣化した変圧器を特定するために、可能な限り、電力変圧器の運用の健全性を監視することができることが望ましい。
【0003】
電力変圧器監視のための現在の技術水準は、溶存ガス分析(DGA: Dissolved Gas Analysis)である。DGAは、変圧器巻線を浸すことに使用されるオイル内の溶解炭化水素ガスの存在を検出することによって動作する。炭化水素ガスを発生させるほど変圧器内の部品が高温になると、変圧器内の熱関連問題を表す。DGAの問題は、変圧器からオイルのサンプルを定期的に抽出し、炭化水素ガスの存在を検出するための化学分析が必要であることである。このプロセスは、時間がかかり、かつ高価であり、これは、DGAがたとえば年に1回などの低頻度で実行されることを意味する。さらに、DGAは、炭化水素ガスを「ベークアウト」するのに十分なホットスポットを生じさせる問題が発生した後に、問題の下流の症状を検出するので、本質的に「反応性」であって「予測」ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いくつかの研究者は、電力変圧器によって生成される時系列のセンサ信号を分析する予測監視技術を使用して、電力変圧器の残存耐用年数(RUL)を決定する可能性を調査している。(たとえば、参照として本明細書に組み込まれる2019年3月7日に出願された発明者Kenny C. Grossらによる「Estimating THE Remaining Useful Life of a Power Transformer based on Real-Time Sensor Data and Periodic Dissolved GAS Analyses」という名称の米国特許出願第16/295,613号を参照されたい)。しかしながら、これらの予測監視技術のために対処される必要がある1つの課題は、ユーティリティシステム資産が低頻度でしか故障しない傾向があることである。これは、センサ信号の異常なパターンが、切迫した故障を示すもであるのか、または、単に、切迫した故障とは関連しないセンサ信号の新しいパターンであるのかを決定するために、十分な故障履歴データが存在しない可能性があることを意味する。この故障履歴データの欠如は、予測監視技術が、高い頻度の誤ったアラームを生成する可能性が高く、不必要な保守作業の原因となり、ユーティリティシステム資産が時期尚早に交換される原因となり得ることを意味する。
【0005】
したがって、必要とされるのは、既存の技術の上述の欠点なしに、ユーティリティシステム資産の運用の健全性および残存耐用年数を評価するための技術である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
開示された実施形態は、ユーティリティシステム資産の残存耐用年数(RUL)を推定するシステムを提供する。監視モード中、システムは、以下の動作を反復して実行する。
第1に、システムは、ユーティリティシステム資産内のセンサから収集された現在の時系列信号のセットを受信する。次に、システムは、推論モデルを使用して現在の時系列信号のセットの推定値を生成し、実際の値と現在の時系列信号のセットの推定値との間のペアワイズ差分演算を実行して、残差を生成する。次に、システムは、残差に対して逐次確率比検定(SPRT: Sequential Probability Ratio Test)を実行してSPRTアラームを生成する。次に、システムは、SPRTアラームに無関係フィルタを適用してフィルタリングされたSPRTアラームを生成し、無関係フィルタは、類似のユーティリティシステム資産の以前の故障と相関しない信号に対するSPRTアラームを除去する。システムは、ロジスティック回帰モデルを使用してフィルタリングされたSPRTアラームに基づいてユーティリティシステム資産のRULベースのリスク指標を計算する。最後に、リスク指標がリスク指標閾値を超えるとき、システムは、ユーティリティシステム資産を交換する必要があることを示す通知を生成する。
【0007】
いくつかの実施形態では、システムは、故障した追加のユーティリティシステム資産からの時系列信号に基づいてロジスティック回帰モデルおよび無関係フィルタを定期的に更新する。
【0008】
いくつかの実施形態では、計算作業負荷を低減するために、RULベースの指標は、先行する時間間隔中に閾値の数を超えるフィルタリングされたSPRTアラームが生成されたときのみ、ユーティリティシステム資産について計算される。
【0009】
いくつかの実施形態では、監視モードに先行する推論トレーニングモード中に、システムは、通常の故障なしの動作中にユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号の推論トレーニングセットを受信する。次に、システムは、推論トレーニングセットに基づいて時系列信号の値を予測するために推論モデルをトレーニングする。
【0010】
いくつかの実施形態では、監視モードに先行するRULトレーニングモード中に、システムは、類似のユーティリティシステム資産が故障するまで稼働している間に、類似のユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号を含むRULトレーニングセットを受信する。システムは、また、類似のユーティリティシステム資産に関する関連する故障時間を受信する。次に、システムは、推論モデルを使用して時系列信号のRULトレーニングセットの推定値を生成する。次に、システムは、時系列信号のRULトレーニングセットの実際の値と推定値との間のペアワイズ差分演算を実行して残差を生成する。次に、システムは、残差に対してSPRTを実行して関連するトリッピング周波数を有するSPRTアラームを生成する。最後に、システムは、SPRTアラームのトリッピング周波数と類似のユーティリティシステム資産の故障時間との間の相関関係に基づいてユーティリティシステム資産のRULを予測するためにロジスティック回帰モデルをトレーニングする。
【0011】
いくつかの実施形態では、RULトレーニングモード中に、システムは、また、無関係フィルタを構成する。このプロセス中、システムは、ユーティリティシステム資産が故障する前の時間間隔中に生成された関連するSPRTアラームを識別し、かつ、無関係フィルタを構成して関連しないSPRTアラームを除去する。
【0012】
いくつかの実施形態では、ユーティリティシステム資産のRULを予測するためにロジスティック回帰モデルをトレーニング中に、システムは、関連するSPRTアラームに紐付くSPRTアラームのトリッピング周波数のみを考慮する。
【0013】
いくつかの実施形態では、ユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号は、温度、電流、電圧、抵抗、キャパシタンス、振動、溶存ガス測定基準、冷却システムパラメータ、および制御信号のうちの1つまたは複数を指定する信号を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、推論モデルは、多変量状態推定技術(MSET: Multivariate State Estimation Technique)モデルを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、ユーティリティシステム資産は電力変圧器を備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】開示される実施形態によるユーティリティシステム資産のための例示的な予測監視システムを示す図である。
図2】開示される実施形態によるユーティリティシステム資産のRULを推定するプロセスのフローチャートである。
図3】開示される実施形態によるユーティリティシステム資産のための推論モデルをトレーニングするためのプロセスを示すフローチャートである。
図4】開示される実施形態による、ロジスティック回帰モデルをトレーニングしてユーティリティシステム資産のRULを予測し、関連する無関係フィルタを構成するためのプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
以下の説明は、あらゆる当業者が本実施形態を作製および使用することを可能にするために提示され、特定の用途およびその要件との関連において提供される。開示された実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本実施形態の精神および範囲から逸脱することなく他の実施形態および用途に適用され得る。したがって、本実施形態は、示される実施形態に限定されず、本明細書で開示される原理および特徴と整合する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0018】
この詳細な説明で説明されるデータ構造およびコードは、典型的には、コンピュータシステムによって使用されるためのコードおよび/またはデータを記憶することができる任意のデバイスまたは媒体であり得る、コンピュータ可読記憶媒体上に記憶される。コンピュータ可読記憶媒体は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、磁気および光学記憶デバイス(ディスクドライブ、磁気テープ、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多用途ディスクまたはデジタルビデオディスク)など)、または現在知られているか、もしくは後に開発されるコンピュータ可読媒体を格納することが可能な他の媒体を含み得るが、これらに限定されない。
【0019】
詳細な説明の節で説明される方法およびプロセスは、コードおよび/またはデータとして具現化され得、これらは、上述のようにコンピュータ可読記憶媒体に記憶され得る。コンピュータシステムが、コンピュータ可読記憶媒体に記憶されたコードおよび/またはデータを読み取り、および実行するとき、コンピュータシステムは、データ構造およびコードとして具現化され、コンピュータ可読記憶媒体内に記憶された方法およびプロセスを実行する。さらに、以下で説明される方法およびプロセスは、ハードウェアモジュールに含まれ得る。たとえば、ハードウェアモジュールは、特定用途向け集積回路(ASIC)チップ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、および現在知られる、または後に開発される他のプログラマブルロジックデバイスを含み得るが、これらに限定されない。ハードウェアモジュールが起動されると、ハードウェアモジュールは、ハードウェアモジュール内に含まれる方法およびプロセスを実行する。
概要
開示される実施形態は、ヒト脳の基底核の機能性を模倣し、特に高電圧変圧器などの大きな集合のハイコストのユーティリティグリッド資産のためにRUL予測判定の改善を促進する、新規の「無関係フィルタ」を利用する。現在、多くの産業は、自然の最良のアイデアを分析し、かつそれらを工学的ユースケースに適合させる「生物模倣」と呼ばれる新しい科学から恩恵を受けている。本明細書に開示される発明は、生体模倣の例を提供する。
【0020】
ヒトの脳に対してMRI研究を行うスウェーデンの研究者らは、基底核が、ヒトの記憶および認知において重要な役割を果たす「無関係フィルタ」として作用することを発見した。もし人間の脳が感覚を通じて入ってくる全ての入力を処理して記憶しようと試みれば、脳は圧倒されるだろう。基底核は、不要な情報を除外し、それによって、たとえば、食物の獲得、危険の回避、種の繁殖、そして、基本的なニーズが満たされることの保証などの種の生存に寄与する記憶を形成するために不可欠な詳細のみを残す。最良の記憶を有するヒトは、高度に活性な基底核を有することが示されている。
【0021】
この基底核パラダイムは、特定のタイプのエンジニアリング関連タスクを促進するために有用であり得る。たとえば、研究者らは、保守作業のスケジューリングを容易にするために、ユーティリティシステム資産内のセンサから取得された時系列信号の監視に基づく機械学習(ML:Machine Learning)を使用する可能性を探索し始めている。MLパターン認識技術は、資産が障害なしで動作していると見なされるときに生成されるセンサ信号を使用して訓練することができ、さらに、その資産の異常信号パターンを検出するために使用することができ、これは、異常信号パターンの根底にある原因を修正する予測保守をスケジュールするために使用することができることが実証されている。
【0022】
潜在的な問題についての早期警告を含むアラームを資産オペレータが受信することは極めて有益であることに留意されたい。これは、異常信号の根本原因を迅速に診断するために、資産をできるだけ早くサービスから外すことを可能にする。しかしながら、大きな集合の類似の資産が存在するとき、より有益なものは、破壊的故障の確率が臨界閾値(たとえば、故障の確率が95%)に到達する前に、その資産が安全に動作することができるであろう時間の推定を提供する、RUL推定である。たとえば、ユーティリティグリッド内の2つの変圧器は、両方とも早期警告アラームを発することができる。しかしながら、もしサービス組織が、第1の変圧器が2ヶ月のRUL推定値を有するが、第2の変圧器が次の72時間で故障する可能性が高いことを知っている場合、第2の変圧器に対する緊急修復動作をスケジュールし、第1の変圧器を修復するために「便利な保守ウィンドウ」を待つことがより有益である。
【0023】
しかしながら、頻繁には故障しない高コストかつ高信頼性のユーティリティ資産については、既存のRUL推定技術は、少数の資産だけしか運転中に実際に故障しないため、うまく機能しない場合がある。これは、ML技術が資産の障害と相関する異常信号パターンを検出できるために十分なトレーニングデータが存在しない場合があることを意味する。たとえば、所与の資産は、資産上で以前には見られなかった異常な時系列信号パターンを生成する場合があり、これは、結果としてアラームを生成するであろう。しかしながら、そのような異常なパターンは、同一のパターンが、数年間、事故なしに動作した他の健全な資産において以前に見られていた場合、「無関係」と見なされ得る。これは、多くの予測監視アラームが誤ったアラームとなることを意味している。たとえば、時系列信号の異常な(しかし無害な)パターンは、比較的新しい資産、温度変動が大きい環境で動作する資産、または、(たとえば、人口の変化またはユーティリティグリッドの再構成からの)電気フローの大きな変動を有する環境で動作する資産と紐付けられる。そのようなアラームは、個々の資産の時系列データの新しいパターンによって引き起こされ得るが、健全予測上の重要性を有さない場合がある。
【0024】
したがって、必要とされるのは、故障まで実行されたユーティリティシステム資産のための時系列信号を処理し、関連するRUL方法論のための最適な重み付け係数を生成する「無関係フィルタ」である。これは、ヒトの脳のための基底核「フィルタ」の機能性に類似し、これは、5つの主要な感覚と紐付けられる神経「信号」の大きいストリームを受信し、危険、生存、または種の繁殖機会に直接的に関連するパターンをヒトに定期的に「アラート」することに留意されたい。
【0025】
我々の新しいMLベースの技術は、データヒストリアンファイルを処理することによって動作する。より具体的には、高電圧変圧器などのユーティリティシステム資産の集合が監視されるとき、時系列テレメトリ信号は、データヒストリアンファイルに連続的に記憶され、監視される資産ごとに1つの(論理的)データヒストリアンファイルが存在する。これらのデータヒストリアンファイルは、連続的に「収集」され(たとえば、1~15分単位で)、大規模データベースに追加され得、そこで、傾向、異常、環境の問題、および他の初期問題を発見するために処理される。
【0026】
我々の異常発見プロセスは、「逐次確率比検定」(SPRT: Sequential Probability Ratio Test)と呼ばれる系統的バイナリ仮説技術を、大量の時系列信号のための無関係フィルタとして使用し、異常検出を容易にするためにさらなるパターン認識分析を保証する時系列信号の小さなサブセットを識別する。したがって、我々の新しい技術は、RUL分析動作が、初期故障状態に紐付けられる可能性が高い「関連する」シグネチャパターンについてのみ実行されるように、個々のユーティリティシステム資産のために生成された異常アラームを系統的かつ安全にフィルタリングすることによって、RUL分析コストを実質的に低減する。
【0027】
我々の新しいRUL推定技術の動作をさらに説明する前に、我々はまず、新しい技術が動作する例示的な予測監視システムを説明する。
予測監視システム
図1は、開示される実施形態による例示的な予測監視システム100を示す。図1に示すように、予測監視システム100は、電力変圧器などのユーティリティシステム資産102内のセンサから取得された時系列センサ信号104のセットに対して動作する。時系列信号104は、ユーティリティシステム資産102内の構成要素に位置し得る任意のタイプのセンサ、たとえば、電圧センサ、電流センサ、圧力センサ、回転速度センサ、および振動センサに由来し得ることに留意されたい。これらの時系列センサ信号を
【0028】
【数1】
【0029】
と表し、ここで
【0030】
【数2】
【0031】
は時間tにおける時系列センサ信号の値である。
予測監視システム100の動作中、時系列信号104は、その後の分析のために時系列信号104を記憶する時系列データベース106に供給される。次に、時系列信号104は、ユーティリティシステム資産102から直接、または時系列データベース106から非線形ノンパラメトリック(NLNP:Non-Linear, Non-Parametric)回帰モデル108に供給される。時系列センサ信号104を受信すると、NLNP回帰モデル108は、(「現在のサンプル」を含む)サンプルに対して非線形ノンパラメトリック回帰分析を実行する。分析が完了すると、NLNP回帰モデル108は推定信号値110を出力する。
【0032】
本発明の一実施形態では、NLNP回帰モデル108は、多変量状態推定技術(MSET:Multivariate State Estimation Technique)を使用して回帰分析を実行する。本明細書で使用されるMSETという用語は、パターン認識技術のクラスを大まかに表す技術を指すことに留意されたい。(たとえば、[Gribok]"Use of Kernel Based Techniques For Sensor Validation in Nuclear Power Plants," by Andrei V. Gribok, J. Wesley Hines, and Robert E. Uhrig, THE Third American Nuclear Society International Topical Meeting on Nuclear PLANT Instrumentation and Control and Human-Machine Interface Technologies, Washington DC, November 13-17, 2000を参照されたい。)したがって、本明細書で使用される「MSET」という用語は、[Gribok]で言及される任意の概要技術を指すことができ、これには、通常最小二乗法(OLS: Ordinary Least Squares)、サポートベクターマシン(SVM: Support Vector Machines)、人工ニューラルネットワーク(ANNs: Artificial Neural Networks)、MSET、または標準化MSET(RMSET: Regularized MSET)が含まれる。パターン認識目的のためにMSETを使用することは有利であるが、開示される実施形態は、概して、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン(SVM)、自動関連付けカーネル回帰(AAKR: auto-associative kernel regression)、および単純線形回帰(LR: Linear Regression)さえも含む、非線形ノンパラメトリック(NLNP)回帰と呼ばれる、汎用クラスのパターン認識技術のうちのいずれか1つを使用することができる。
【0033】
システムを監視するためにMSETが使用される前に、モデルが構築され、モデルからシステムの正しい動作状態の推定が行われる。モデルは、予想される正常動作条件下での実際のシステム上でのトレーニング段階中に行われた観察から経験的に導出される。信号間の関係は、訓練段階中に学習され、これらの関係は、システム状態の推定値を計算するためにアルゴリズムの監視段階において使用される。
【0034】
システム状態の観察は、長さnのベクトル
【0035】
【数3】
【0036】
によって表され、ここでnはシステム内の信号の数である。状態ベクトル要素は線形独立である必要はないが、要素値間には、ある程度の相関(必ずしも線形ではない)が存在しなければならない。
【0037】
トレーニング段階中に収集された状態ベクトルは、m個の列ベクトルを有する状態行列に配置され、各列ベクトルは、トレーニング段階中の特定の時点におけるすべての信号の値を記憶する長さnの状態ベクトルである。MSET監視フェーズ中に生成される推定値の品質は、m個の状態ベクトルのサブセットがトレーニングフェーズ中に観察されるシステムの予想される挙動をどの程度良好に表すかに依存する。
【0038】
より形式的には、状態ベクトル
【0039】
【数4】
【0040】
は以下のように定義される。
【0041】
【数5】
【0042】
ここで、
【0043】
【数6】
【0044】
は時間
【0045】
【数7】
【0046】
における信号
【0047】
【数8】
【0048】
からの測定値である。次いで、状態行列
【0049】
【数9】
【0050】
は、
【0051】
【数10】
【0052】
として定義することができる。
MSETがその監視段階における劣化についてシステムを監視しているとき、状態行列
【0053】
【数11】
【0054】
は、信号値が推定されるシステムの固定モデルとして作用する。さしあたり、信号測定値が線形相関現象を表すと仮定する。そして、
【0055】
【数12】
【0056】
がシステムの動作空間に十分に及ぶと仮定して、状態行列
【0057】
【数13】
【0058】
に記憶された列ベクトルの線形結合として状態ベクトルを表すことができる。推定状態ベクトル
【0059】
【数14】
【0060】
と実際の状態ベクトル
【0061】
【数15】
【0062】
との間のユークリッドノルムを最小化すると、以下の
【0063】
【数16】
【0064】
の線形最適推定が得られる。
【0065】
【数17】
【0066】
しかしながら、現実のシステムは、ほとんど線形ではない。(最も重要なことは、推定状態ベクトルを、現在の状態ベクトルと学習状態ベクトルの履歴との両方の関数として表現する概念である)式1中の線形アプローチの形式を、非線形のシステムへと拡張することが望ましい。式1中の一般形式に固着することは、
【0067】
【数18】
【0068】
に新たな状態ベクトルを追加することでモデルを拡張できるという観点からも魅力的である。これらの利益を念頭に置いて、線形行列演算子のいくつかを非線形行列演算子
【0069】
【数19】
【0070】
で置き換えながら、線形推定方程式の形式を維持することができる。
【0071】
【数20】
【0072】
式2で与えられる
【0073】
【数21】
【0074】
の値は、観測
【0075】
【数22】
【0076】
のためのMSET推定と称される。非線形演算子
【0077】
【数23】
【0078】
は、以下の特性を保存しなければならない。
1.行列
【0079】
【数24】
【0080】
は、非特異的でなければならない。
2.推定ベクトル
【0081】
【数25】
【0082】
は、
【0083】
【数26】
【0084】
のいくつかの要素が
【0085】
【数27】
【0086】
(すなわち、観測された信号値がトレーニング段階中に観測された信号の最小値よりも小さいかまたは最大値よりも大きいときである)の同じ要素の範囲外にあっても最適な推定を表わさなければならない。
3.観測ベクトル
【0087】
【数28】
【0088】
【0089】
【数29】
【0090】
の列ベクトルの1つと同一である場合、推定ベクトル
【0091】
【数30】
【0092】
【0093】
【数31】
【0094】
と同一でなければならない。
4.
【0095】
【数32】
【0096】
【0097】
【数33】
【0098】
との差は最小限に抑えなければならない。
これらの条件を満たす非線形演算子が存在し、実際のシステムを監視することに成功していることが示されている。
【0099】
図1に戻り、NLNP回帰モデル108は、時系列信号104間の相関パターンを学習するために「訓練される」。この訓練プロセスは、異常を含まない蓄積データを用いてオフラインで実行される、1回の計算集中的な計算を含む。次いで、パターン認識システムは、「リアルタイム監視モード」に置かれ、訓練されたNLNP回帰モデル108は、他の相関変数に基づいて、各信号が何であるべきかを予測する。これが図1に示す「推定信号値」110である。次に、システムは、差分モジュール112を使用して、実際の信号値と推定された信号値との間のペアワイズ差分演算を実行して、SPRTモジュール116に渡される残差114を生成する。MSET回帰分析を使用する本発明の実施形態では、残差は、以下の式を使用して計算することができる。
【0100】
【数34】
【0101】
次いで、SPRTモジュール116は、異常を検出し、できる限りSPRTアラーム118を生成するため、残差114に対して「検出動作」を実行する。SPRTモジュールは、Waldによって提案された逐次確率比検定(SPRT)を使用して、可能な限り最も早い時に定常的なノイズの多い観測シーケンスにおける微妙な統計的変化を検出する。(Wald,Abraham,June 1945,"Sequential Tests of Statistical Hypotheses, "Annals of Mathematical Statistics,16(2):117-186を参照されたい。)SPRTの詳細を明らかにする目的で、監視されるプロセス信号
【0102】
【数35】
【0103】
は、通常、平均ゼロおよび標準偏差σ(非ゼロ平均μを有するプロセスは、各観察から
【0104】
【数36】
【0105】
を減算することによってゼロ平均プロセスに変換することができる)で分布すると仮定する。プロセス信号
【0106】
【数37】
【0107】
は、
【0108】
【数38】
【0109】
に対して行われた観察が、平均ゼロではなく正規(ガウス)分布を有する平均
【0110】
【数39】
【0111】
に関して分布しているように見える場合、劣化していると言われ、ここで、
【0112】
【数40】
【0113】
は所定のシステム外乱の大きさである。
SPRTは、信号劣化のこの概念に関連する2つの仮説の間で決定するための定量的フレームワークを提供する。
(1)
【0114】
【数41】
【0115】
【0116】
【数42】
【0117】
の観察は、平均ゼロおよび標準偏差σを有する正規分布から引き出される。および
(2)
【0118】
【数43】
【0119】
【0120】
【数44】
【0121】
の観察は、平均
【0122】
【数45】
【0123】
および標準偏差σを有する正規分布から引かれる。
【0124】
【数46】
【0125】
または
【0126】
【数47】
【0127】
が真である場合、それぞれ確率(1-α)または(1-β)で
【0128】
【数48】
【0129】
または
【0130】
【数49】
【0131】
を決定することを望み、ここでαおよびβは誤り識別確率(したがって、0≦α、β≦1である)を表すと仮定する。言い換えれば、αは、
【0132】
【数50】
【0133】
が真であるときに
【0134】
【数51】
【0135】
を受け入れる確率である誤りアラーム確率であり、βは、
【0136】
【数52】
【0137】
が真であるときに
【0138】
【数53】
【0139】
を受け入れる確率である欠落アラーム確率である。
【0140】
【数54】
【0141】
は、
【0142】
【数55】
【0143】
が真であると仮定してシーケンス
【0144】
【数56】
【0145】
を観測する確率であるとして、尤度比
【0146】
【数57】
【0147】
は、
【0148】
【数58】
【0149】
のn個の観測
【0150】
【数59】
【0151】
【0152】
【数60】
【0153】
とした後に計算することができる。尤度比の自然対数をとり、独立した観測が
【0154】
【数61】
【0155】
を生成すると仮定する。サンプリング
【0156】
【数62】
【0157】
【0158】
【数63】
【0159】
である限り継続するというWaldの理論は、ここで、AおよびBは誤り誤識別確率αおよびβに関連する許容閾値である。
【0160】
【数64】
【0161】
我々は
【0162】
【数65】
【0163】
になるとサンプリング
【0164】
【数66】
【0165】
をすぐに停止して
【0166】
【数67】
【0167】
を決定し、我々は
【0168】
【数68】
【0169】
になるとサンプリングをすぐに停止して
【0170】
【数69】
【0171】
を決定する。システムを連続的に監視するために、SPRTアルゴリズムは、決定がなされるとすぐにそれ自体をリセットすることに留意されたい。たとえば、もし尤度比が閾値Aを超え、プロセス信号がその時点で劣化していないことを示す場合、次のサンプルは、観察の新しいシーケンスにおいて第1のサンプル(式3によるn=1)として扱われる。
【0172】
【数70】
【0173】
の観測値
【0174】
【数71】
【0175】
が正常に分布していると仮定すると、(式3)に関して特にコンパクトな式が得られる。
【0176】
【数72】
【0177】
Waldの逐次分析に続いて、SPRTに基づく決定試験が最適な特性を有することが示されている。すなわち、所与の確率αおよびβについて、少なくともSPRTと同じくらい低いエラー確率または予想されるリスクを有し、長さ平均サンプリング時間が短い他の手順は存在しない。SPRTが定常ガウスランダムプロセスを監視するために人気があるのは、この特性および式(2)の固有の単純さのためである。
【0178】
なお、上記のSPRTはパラメトリック試験であり、確率密度関数と関連するパラメータとは、SPRTを適用する前に知られていなければならないことを意味している。式4は、プロセス信号
【0179】
【数73】
【0180】
の正規分布観測について導出される。他の分布(たとえば、指数関数的、ポアソン、二項)の式を導出することもできる。しかしながら、実際のコンピューティングシステムでは、以下を仮定するのが困難であり得る。
1.プロセス信号の分布は予め分かっている。
2.プロセス信号の分布は経時的に変化しない。
3.分布のパラメータは経時的に変化しない。
【0181】
ノンパラメトリック逐次検出試験が存在するが、それらの背後にある数学は、パラメトリックSPRTについて上に提示されるものよりもかなり複雑である。アプリオリ分布が既知であっても、第3の仮定は、多くの場合、実際のコンピューティングシステムにおいて違反される。名目上定常的なガウスランダムプロセスは、刺激からの影響に応じて、新しい動作レジメ(異なる平均値または異なるより高い瞬間によって特徴付けられる)に入り得る。コンピューティングシステムを実行する際、たとえば、突然の作業負荷の変化は、監視される電圧または電流信号がその公称値において上向きまたは下向きのステップ変化を有することを引き起こし得る。観察結果はもはや元の
【0182】
【数74】
【0183】
仮説に適合する分布から引き出されているようには見えないので、SPRTはそのようなステップ変化を劣化信号として認識する。
【0184】
図1を参照すると、NLNP回帰モデル108および差分モジュール112は、システムが良好な状態にあるとき、残差
【0185】
【数75】
【0186】
が定常ランダムプロセスであるように、信号
【0187】
【数76】
【0188】
におけるダイナミクスを除去(フィルタリング)するように協働する。システムが故障メカニズムにより老化または劣化すると、残差の統計的特性が変化する。この変化は、対応するSPRTアラーム118を生成するSPRTモジュール116によって検出される。
【0189】
動作中、SPRTモジュール116は、逐次確率比検定を残差に適用し、1つまたはいくつかの残差がシステムの未劣化状態に対応する残差と統計的に異なったときにアラームを生成する。
【0190】
SPRTアラーム118は、次いで、フィルタリングされたSPRTアラーム124を生成するために、類似のユーティリティシステム資産の以前の故障と相関しない信号のためにSPRTアラームを除去する、無関係フィルタ120を通して送られる。フィルタリングされたSPRTアラーム124は、ロジスティック回帰モデル126に供給され、ロジスティック回帰モデルは、RUL推定128を生成し、RUL推定128は、以下でより詳細に説明するように、「定量的リスク指標」として表すことができる。
【0191】
RUL推定128を計算しながら、ロジスティック回帰モデル126は、フィルタリングされたSPRTアラーム124に各インスタンスのアラームを記録し、これらのインスタンスを使用して現在のアラームのトリッピング周波数を決定する。劣化が進行するにつれて、フィルタリングされたアラームのトリッピング周波数が増加する。我々は、これらのアラームのトリッピング周波数を
【0192】
【数77】
【0193】
と表し、ここで、
【0194】
【数78】
【0195】
は、時間tにおける予測パラメータの値である。したがって、時間tにおいて、
【0196】
【数79】
【0197】
である。
次いで、ロジスティック回帰モデル126は、以下のようにユーティリティシステム資産102のRULを計算する。我々は、現在のSPRTアラームのトリッピング周波数Fによって決定された現在の条件を仮定して、次のT時間以内にシステムSが故障する確率をp(T,F)と表す。pと現在の条件Fとの間の関係は、線形ロジスティック回帰モデルを使用してモデル化される。
【0198】
【数80】
【0199】
であり、
【0200】
【数81】
【0201】
および
【0202】
【数82】
【0203】
は、システムの履歴故障データまたは実験故障データから推定される。トリッピング周波数は、この計算を簡略化するために0と1との間の値を有するように正規化されることに留意されたい。
【0204】
RUL推定技術
図2は、開示される実施形態によるユーティリティシステム資産のRULを推定するプロセスのフローチャートを示す。監視モード中、システムは、以下の動作を反復して実行する。まず、システムは、ユーティリティシステム資産内のセンサから収集された現在の時系列信号のセットを受信する(ステップ202)。次に、システムは、推論モデルを使用して現在の時系列信号のセットの推定値を生成し(ステップ204)、また、実際の値と現在の時系列信号のセットのための推定値との間のペアワイズ差分演算を実行して残差を生成する(ステップ206)。次いで、システムは、残差に対して逐次確率比検定(SPRT)を実行してSPRTアラームを生成する(ステップ208)。次に、システムは、SPRTアラームに無関係フィルタを適用してフィルタリングされたSPRTアラームを生成し、無関係フィルタは、類似のユーティリティシステム資産の以前の故障と相関しない信号に対するSPRTアラームを除去する(ステップ210)。次いで、システムは、ロジスティック回帰モデルを使用してフィルタリングされたSPRTアラームのトリッピング周波数に基づいて、ユーティリティシステム資産のためのRULベースのリスク指標を計算する(ステップ212)。リスク指標がリスク指標閾値を超える場合、システムは、ユーティリティシステム資産を交換する必要があることを示す通知を生成する(ステップ214)。最後に、システムは、故障した追加のユーティリティシステム資産からの時系列信号に基づいてロジスティック回帰モデルおよび無関係フィルタを定期的に更新する(ステップ216)。
【0205】
図3は、開示される実施形態による推論モデルをトレーニングするためのプロセスを示すフローチャートである。監視モードに先行する推論トレーニングモード中に、システムは、通常の故障なしの動作中にユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号の推論トレーニングセットを受信する(ステップ302)。次いで、システムは、推論モデルをトレーニングして、推論トレーニングセットに基づいて時系列信号の値を予測する(ステップ304)。
【0206】
図4は、開示される実施形態による、ロジスティック回帰モデルをトレーニングして資産のためのRULを予測し、関連する無関係フィルタを構成するためのプロセスを示すフローチャートである。監視モードに先行するRULトレーニングモード中に、システムは、類似のユーティリティシステム資産が故障するまで走っている間に、類似のユーティリティシステム資産内のセンサから収集された時系列信号を含むRULトレーニングセットを受信する(ステップ402)。システムはまた、類似のユーティリティシステム資産に関する故障時間を受信する(ステップ404)。(どのユーティリティシステム資産が類似しているかを決定するためのプロセスは、資産を自動的にクラスタ化して、資産のメーカ/モデルのリストから、または内部センサの数およびタイプに基づいて経験的に、「同様のメーカ/モデル」を含むクラスタを形成することを含むことができることに留意されたい。同様のメーカ/モデルのクラスタは、トランスデューサの異なるバンクおよびセンサの異なる数を有し得るが、RUL推定の目的に関連するものは、これらの時系列信号における一般的なパターンであることに留意されたい。)
次に、システムは、推論モデルを使用して時系列信号のRULトレーニングセットの推定値を生成する(ステップ406)。次いで、システムは、実際の値と時系列信号のRULトレーニングセットの推定値との間のペアワイズ差分演算を実行して残差を生成する(ステップ408)。次に、システムは、残差に対してSPRTを実行して、関連するトリッピング周波数を有するSPRTアラームを生成する(ステップ410)。次いで、システムは、SPRTアラームのトリッピング周波数と類似のユーティリティシステム資産の故障時間との間の相関に基づいてユーティリティシステム資産のためのRULを予測するためにロジスティック回帰モデルをトレーニングする(ステップ412)。次に、無関係フィルタを構成するために、システムは、ユーティリティシステム資産が故障する前の時間間隔中に生成された関連するSPRTアラームを識別し(ステップ414)、次いで、無関係フィルタを構成して関連しないSPRTアラームを除去する(ステップ416)。
【0207】
開示された実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく他の実施形態および用途に適用され得る。したがって、本発明は、示される実施形態に限定されず、本明細書で開示される原理および特徴に合致する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0208】
実施形態の前述の説明は、例示および説明のみを目的として提示されている。これらは、網羅的であること、または本説明を開示された形態に限定することを意図するものではない。したがって、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。加えて、上記の開示は、本説明を限定することを意図するものではない。本説明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
図1
図2
図3
図4